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2014年 10月 25日
注目の新刊・既刊・近刊書をここしばらく毎週末、複数冊取り上げて参りましたが、どんどん1回の記事が長くなるばかりで、ご覧になる方も時間がかかるということで、しばらくはより手短なエントリーを心がけることにいたします。取り上げる本がたくさんあるというのは喜ばしいことなのですけれども、簡潔に済ませるというのは存外に難しいものでございますね。 +++ ![]() 『アイデア(367)日本オルタナ文学誌 1945-1969 戦後・活字・韻律』(誠文堂新光社、2014年11月号)は、オルタナ編集者・郡淳一郎さん(1966-)の構成による、戦後日本出版史における「社内装丁・編集装丁」の系譜を辿るノスタルジックな特集号。書肆ユリイカ、日本孔版研究所、桃源社を始めとする個性的な版元の、珠玉の造本がカラー写真とともに紹介され、本好きにはたまらないうっとりさせる一冊です。すごい編集者たちがいたものです、本当に。ノスタルジーとは懐古趣味ではなくて、未来の不確定な闇へと貫通していく光を見出す視線です。その光となることこそ出版人の本懐ではないでしょうか。同じく郡さんの構成による『アイデア(354)日本オルタナ出版史 1923-1945 ほんとうに美しい本』(2012年9月号)と併せてご覧になればいっそうの感動が味わえます。 エリザベス・シューエル『オルフェウスの声――詩とナチュラル・ヒストリー』(高山宏訳、白水社、2014年10月;原著1960年)は、シリーズ「高山宏セレクション〈異貌の人文学〉」の第5弾。シューエルの訳書としては同シリーズでの『ノンセンスの領域』の再刊(白水社、2012年;河出書房新社、初版1980年;原著1952年)に次ぐ第2作です。ばらばらになった世界の断片を再結合させるオルフェウスの詩(ことば)の力の源泉へと迫る本書は、古びていないどころかますますこんにち熟読されるべき価値を芳香のように放っています。ジョージ・スタイナーが本書を「これは霊感が書かせた書〔・・・〕信じがたく独創的で重要な一書」と絶賛しています。高山さんは近くスタフォード『エコー・オブジェクツ』(産業図書)を上梓される予定だそうです。 ジャン=リュック・ナンシー『アドラシオン――キリスト教的西洋の脱構築』(メランベルジェ眞紀訳、新評論、2014年10月;原著2010年)は、『脱閉域――キリスト教の脱構築(1)』(大西雅一郎訳、現代企画室、2009年;原著2005年)の続編で、ナンシーのいわばライフワークとなる1冊です。副題がキリスト教「的西洋」の脱構築、と変更になっているのは著者自身の要請であることが「日本語版への序文」で明かされています。アドラシオンは「外に向かってことばを送ること」(訳者あとがき)であり、崇拝・差し向け・語りかけとも訳されています。無限へと開かれた関係、諸関係の創造としての世界をめぐるナンシーの「共に avec」の哲学は、いよいよ深まっていきます。なお原著ではまだ第3巻は刊行されていません。 細見和之『フランクフルト学派――ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ』(中公新書、2014年10月)は、なんと新書で初めての入門書です。ホルクハイマー、アドルノ、フロム、ベンヤミン、第二世代のハーバーマスが紹介され、最終章では第三世代のホネット、アルフレート・シュミット、ヴェルマー、オッフェ、デミロヴィッチ、ゼールらが言及されています。このほかにも様々な知識人が登場しますから、20世紀ドイツ思想を勉強したい書店さんにはもってこいの本です。巻末には関連年表と参考文献を収載。今月は古松丈周『フランクフルト学派と反ユダヤ主義』(ナカニシヤ出版)という研究書も発売になったばかりですし、ハーバーマスの新刊『自然主義と宗教の間――哲学論集』(庄司信ほか訳、法政大学出版局)も出ていますね。 吉川浩満『理不尽な進化――遺伝子と運のあいだ』(朝日出版社、2014年10月)は、吉川さんの初の単独著。朝日出版社第二編集部ブログでの同名連載(2011~2013年)に大幅な加筆修正が施されたものです。吉川さんはこれまでに、山本貴光さんとの共著『心脳問題』(朝日出版社、2004年)、『問題がモンダイなのだ』(ちくまプリマー新書、2006年)を通じてポピュラー・サイエンスと哲学のあわいを縫う非常に堅実な啓発書を世に問われてきましたが、今回のテーマ「進化(論)」も科学と哲学を横断する領域であり、知の冒険者としての吉川さんの面目躍如たる一冊となっています。読書家ならではの見事な参考文献は書店人必見です。本書の着想の源はドーキンス『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)と真木悠介『自我の起原』(岩波現代文庫)の2冊だそうです。折しも朝日出版社さんの新刊では、真木さんの著書と大澤真幸さんによるその読解を1冊にした『現代社会の存立構造/『現代社会の存立構造』を読む』が話題を呼んでいます。 真島一郎・川村伸秀編『山口昌男 人類学的思考の沃野』(東京外国語大学出版会、2014年10月)は、昨春逝去された文化人類学の巨人に捧げられた追悼論集です。昨夏開催された追悼シンポジウム「人類学的思考の沃野」の記録に始まり、多彩な書き下ろしの山口論の数々と、奥様のふさ子さんや中沢新一さんへのインタヴュー、山口さん自身の単行本未収録論考三篇「西アフリカにおける王権のパターン」「ネグリチュード前後」「瓢箪と学生」の再録、さらには著書のブックガイドや、資料編として詳細な学術研究の記録、年譜・著作目録、貴重なスケッチと写真を多数収載しており、盛りだくさんの内容となっています。追悼論集ではありますが、この書物自体がひとつの祝祭であるような、賑やかで晴れやかな一冊です。目次詳細は同出版会ウェブサイトをご覧ください。 的場昭弘『マルクスとともに資本主義の終わりを考える』(亜紀書房、2014年9月)は、『マルクスだったらこう考える』(光文社新書、2004年)以後に起きた様々な出来事――リーマンショックやアラブの春、東日本大震災などの洗礼を経たこんにち、資本主義とグローバリゼーションのゆくえをマルクスをヒントに再考した本です。注目は「小さな社会」を論じた終章です。小さな政府は個人の自由の最大化を志向するリバタリアニズムの理想ですが、小さな社会というのは脱成長と脱覇権主義を志向するアソシエーショニズムの構想です。格差をまき散らさずには成長しえない資本主義の罠について、的場さんは来月も新刊『まんが図解 まるかじり! 資本論』(青春出版社、2014年11月)を上梓される予定です。なお、亜紀書房さんでは今月、仲村清司さんと宮台真司さんの対談集『これが沖縄の生きる道』を刊行されています。沖縄知事選が来月16日に迫ったこの時節、沖縄問題はますます大きな局面を迎えており、店頭でもフェアを組まれる書店さんがおられるのではないかと拝察します。
by urag
| 2014-10-25 23:57
| 本のコンシェルジュ
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