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ジャック・デリダ(1930-2004)の初期代表作『声と現象』の新訳がついに、ちくま学芸文庫の一冊として刊行されました。駿河台大学教授の林好雄さんによる翻訳です。理想社から1970年に刊行された高橋允昭訳が原著初版本(1967年)に準拠しているのに対し、新訳ではデリダ自身によって訂正された第二版(1998年)を底本としています。
理想社版には、付論として、ジュリア・クリステヴァ(1941-)の5つの質問に対するデリダの回答論文「記号学と書記学」が併録されています。クリステヴァは、1967年にデリダが立て続けに上梓した『エクリチュールと差異』(法政大学出版局)、『グラマトロジーについて』(現代思潮新社)、『声と現象』の三冊が、記号学に対して「深刻な」重要性を有しており、学問全般に関する新しい考察空間を開きつつある、と高く評価したのでした。
この、クリステヴァとデリダの誌上対談は、のちに『ポジシオン』(高橋允昭訳、青土社)に収められます。もっとも、理想社版『声と現象』に併録された日本語訳は、「社会科学情報」誌の1968年第3号に掲載された初出論文をもとにしていますので、クリステヴァによる貴重な「前口上」が付されているのですが、『ポジシオン』ではこの「前口上」はカットされています。
なお、クリステヴァが『セメイオチケ』(せりか書房)で華々しくデビューするのは、この誌上対談の翌年である、1969年です。彼女はまだ20代でした。クリステヴァの妹である音楽記号学者のイヴァンカ・ストイアノヴァ(1945-)がデビュー作『身振り・テクスト・音楽』(部分訳あり)を刊行するのは、それよりもっとあとで、1978年。
懐に余裕のある方は、ぜひ、PUFから刊行されている『声と現象』の原書も購入してみてください。ちなみに、上の写真に映っているのは訂正される前の1993年版です。(H)