2014年 06月 19日
![]() ★江川隆男さん(訳書:ブレイエ『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』) とてつもない密度の新刊が出ました。『存在と差異――ドゥルーズの超越論的経験論』(知泉書館、2003年)、『死の哲学』(河出書房新社、2005年)、『超人の倫理――〈哲学すること〉入門』(河出書房新社、2013年)に続く第四作にしておそらくいずれ江川さんの主著と目されることになるだろう一冊です。版元ウェブサイトに掲載されている発売日は2014年6月23日ですが、同社営業部さんに確認したところ、本日取次搬入とのことです。最速で明日以降、書店さんの店頭に順次並び始めることになるかと思います。 アンチ・モラリア――〈器官なき身体〉の哲学 江川隆男著 河出書房新社 2014年6月 本体3,500円 46判上製368頁 ISBN978-4-309-24662-8 帯文より:ドゥルーズ=ガタリを哲学的に再構成し、スピノザ的実体にかわって器官なき身体を基底にした〈分裂的〉総合の思考を創出する新たなるエチカ。 推薦文(宇野邦一氏):スピノザからアルトー、D-Gにわたる「器官なき身体」という概念の深海を精緻に探索する大いなる冒険の書。 推薦文(合田正人氏):人間をやめよ、愛はそこにしかない。新エチカの衝撃。 推薦分(佐々木中氏):見よ、スピノザとD-Gが闘争する。江川隆男というこの妥協なき哲学の戦場! 目次: 第一平面 唯一の器官なき身体 Ⅰ〈分裂的-逆行的〉総合 第一章 器官なき身体の哲学 第二章 出来事の諸総合――〈離接的-分裂的〉総合の実現 Ⅱ 実在的区別の組成 第三章〈実体=属性〉の位相――スピノザ的思考の超越的行使 第四章 存在を分裂症化すること――欲望の第二の課題 Ⅲ 脱地層化の原理――新たな〈エチカ〉の思考へ 第五章 器官なき身体=脱地層化する〈自然〉 第六章 器官なき身体の地層化 第七章 大気層――器官なき身体の気息 第二平面〈情動-強度〉論――多数多様な器官なき身体 Ⅳ-1 変様――脱領土性並行論 第八章 身体の変様について 第九章 脱記号過程――身体の非記号的変様について Ⅳ-2 情動――〈強度=0〉における強度 第一〇章 プラグマティック-実践哲学 結論 器官なき身体の諸相 あとがき かつてドゥルーズは宇野邦一さんへの私信の中でこう語ったことがあります。「フェリックスからの衝撃によって、私は奇妙な概念たちが住む未知の領土にやってきたという印象をもった」(宇野邦一訳「いかに複数で書いたか」、『現代思想』1984年9月臨時増刊号「総特集:ドゥルーズ=ガタリ」所収、青土社、11頁)。私たちもまさに、ドゥルーズ=ガタリ=スピノザ」のポテンシャルを継ぐ江川さんの本書からの衝撃によって、哲学的思惟の新たな領野へと拉致されます。たとえば、「道徳の気象学」や「気象哲学」(第七章「大気層」)。これらはいわゆる「エコ」や従来の「気候変動」をめぐる思想と運動と異なるものであり、図書館や書店の書架に衝撃と亀裂を与えるものとなるでしょう。 巻頭におかれた次の言葉は本書の性格を良く表しているように思います。「本書は、読者が一般的に期待するような存在や出来事についての装飾的な考察は一切ない。あるのは身体の骨と血だけである。つまり、本書は慰めの書ではない。本書は、21世紀の〈エチカ〉を目標とする書物である。本書は、哲学をめぐる思考に久しく欠けていた無仮説の原理についての書物である。したがって、本書は、まったくの総合の書物である。というのも、哲学は、人間の総合の力能のうちにしか成立しえないからである。それゆえ、総合の書物は、つねに読み難いものになる。本書は、現実のさまざまな事例的問題に応用可能な、したがって経験的な哲学的議論や経験主義的適用の方法などについては、まったく無関心である。本書の目標は、もっとも批判的で創造的な原理を探求し、その原理からの多様なものの産出を概念化し、その総合的原理を構成することにある。本書は、哲学に蔓延する経験論的発想、言語と記号への形而上学的な経験的欲求、個々の人間や社会の日常過程のすべてを支配する経験主義、実践という名のすべての意見や見解、こういった事柄に対する配慮を欠いている。欠いていないのは、無仮説の原理と、人間の思考と身体であり、また哲学活動そのものをなす総合的思考である。欠いていないのは、多様な宗教や民族を超えた統一ではなく、自然が本性上もつ無神論的総合である」(12頁)。 あとがきにはこう書かれています。「本書は、「結論」部分から読むことができる。というのも、それは、真の結論だからである。つまり、それは、「本論」の真の結論となっているからである。「本論」のすべてを書き上げたうえで、はじめて明確に得られたパースペクティヴがそこにあるからだ。この一冊の哲学書が〈書かれることしかできないもの〉からなるような、そんな書物であることを願って、私は、この著作を読者の皆さんのもとに届けたい」(363頁)。本書の結論部分はわずか7頁です。たったの7頁ですが、江川さんがそこに達するまでに8年間の歳月がかかっており、「寝起きを共にして」格闘していた諸問題の果てに見出した結論ですから、読む方も簡単に伴走できたり到達できたりするものではありません。書かれえないものへ到達することではなく、〈書かれることしかできないもの〉に留まること。なんという困難、なんという苦痛と喜びでしょうか。 あとがきにはこうも書かれています。「〈反道徳的に〉という副詞は、私にとって〈思考すること〉という動詞につねにともなう「超越論的副詞性」のようなものである」(363頁)。アンチ・モラリア=反道徳というのは犯罪の称揚ではありませんし、悪への憧憬でもありません。それは心と体、人間と自然をもういちど根本的に捉えなおす思考の態度、エチカなのです。第八章「身体の変様について」から引用します。「〈革命〉は、人間的変革ではなく、人間本性の変形である。この変形は、人間の形相が変化すること(人間が馬に、鳥に、神に、等々になること)ではなく、人間の非物体的なもの(価値、意味、意識、無意識、構造、幻想、諸能力、欲望、等々)の変形のことである。道徳は、とりわけ精神の問題であった。また、道徳ほど、身体について敏感であり、それについて意識してきた思考はないであろう。それは、つねに精神の卓越性を保持するために、身体をいかに無視するのかという思考である。道徳的思考は、身体を恐れているのだ。というのも、身体は、思考に劣らず計算をするからであり、道徳的計算よりもはるかに最小の時間のうちで決定をくだすからである。道徳的思考は、身体と精神との間の差異を喜ぶような思想を形成することなどけっしてできない」(290-291頁)。 「人間の頭上に第一に存在するのは、青く輝く晴天や規則正しく運行する星座ではないし、また人間のうちで第一に考えられるのは、感情を抑制する理性やあらゆる人間活動を一つの目的のもとにおくような最高善ではない。そうではなく、人間の頭部の上には、むしろ生命力を増大も減少もさせるような気象的諸現象、あるいはむしろ〈大気-乱流〉が存在し、人間の皮膚の下には、内部の自然――現働的本質〔コナトゥス〕の状態、強度的部分――を直接的に表示するような感情あるいは触発が存在するのだ。したがって、われわれにとって一方の問題は、星が輝く天空よりも、むしろわれわれ人間を含めたあらゆる表面を包含する大気の平面、すなわち気象現象と気候変動である。〔・・・〕また、われわれにとって他方の問題は、道徳法則よりも、むしろ情動、パトスであ〔る。・・・〕。気象とパトス」(253頁)。 +++ なお、河出書房新社さんのドゥルーズ関連続刊では、来月14日発売予定で、次の二点が予告されています。たいへん楽しみですね。 ドゥルーズと狂気 小泉義之著 河出ブックス 2014年7月 本体1,800円 B6判並製370頁 ISBN978-4-309-62473-0 版元紹介文より:ドゥルーズの最重要主題でありながら正面から論じられてこなかった「狂気」を読みとりながら、まったく新たなドゥルーズ像を描き出すとともに、新たな生と狂気のありかたを開く衝撃の書。 別のしかたで――ツイッター哲学 千葉雅也著 河出書房新社 2014年7月 本体1,600円 46変形判208頁 ISBN978-4-309-24664-2 版元紹介文より:話題騒然のデビュー作『動きすぎてはいけない』に続いて贈る、すべてツイッター上で思考された哲学的アフォリズム集。入門的かつ実践的、「140字以内」の類例なき哲学書が誕生する!
by urag
| 2014-06-19 10:50
| 本のコンシェルジュ
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