2014年 06月 08日
![]() 猫の音楽――半音階的幻想曲 ジャン=クロード・レーベンシュテイン著 森元庸介訳 勁草書房 2014年6月 本体2,400円 A5判上製132頁 ISBN978-4-326-10235-8 帯文より:猫オルガン、猫オペラ、猫シンフォニー・・・。ナニソレ? カワイイ! でも、ヤッパリちょっとコワいかも。西洋の想像力は猫を貶め、けれど猫に惹かれた。その声をノイズと嗤い、けれど野生の響きに仄かに憧れた。人と獣の音楽、西洋と東洋の音楽、音楽と音楽ならざるもの。協和と不協和のあわいに音楽=世界の核心を照らし出す、比類なき博覧強記が舞い奏でたミラクル文化史。 目次: 藁屑栄誦 おどけた優雅 シャリヴァリ 猫のコンサート 不協和な協和 訳註 訳者あとがき 書誌 図版一覧 ディスコグラフィー ★発売済。『セザンヌのエチュード』(浅野春男訳、三元社、2009年)に続く、美術史家レーベンシュテイン(Jean-Claude Lebensztejn, 1942-)の訳書第2弾です。原書は、Miaulique: Fantaisie chromatique(Le Passage, 2002)。訳者あとがきでのご説明をお借りすると「本書は、西洋音楽の伝統が猫の鳴き声をどのように受け止め、取り入れ、締め出してきたのかを論じた書物である。といって純然たる音楽史というわけでもなく、書き手の広汎な関心を映して絵画や版画、あるいはLPジャケットなどの多彩なイメージがちりばめられ、詩や小説や芸術論も忘れられていない」(109頁)。著者はこう書きます、「たしかに猫の叫びは人間の耳を苛み、騒音の典型のようにして響くのだが、しかしまた、音楽を奏でる猫を描いたイメージは膨大な数にのぼり、考えられるかぎりのどんな調べものによっての汲みつくせない」(67-68頁)。「猫の音楽に魅惑されることの核心にある奇妙な結びつき、すなわち協和と不協和、同一性と他性の結びつき〔・・・〕。この結びつきは相互的だ。猫が人間の音楽に向ける興味は、人間が猫の音楽に向ける興味を反映したものであるようなのだ」(68頁)。 ★「シャリヴァリ」の章で東西文明の音楽観のあからさまな差異を歴史的に振り返ったのち、著者は西洋文明の内なる他者としての猫を、音楽における人間との奇妙で親密な関係性の内に捉え、猫の音楽を協和する不協和、異種間における連続性のしるしとして分析します。そして「ハーモニーという言葉が古典古代からたどった歴史について、まるまる一冊の本を書くこともできるだろう(この単語の原義は「接合すること」、「集合させること」である)」(81頁)と告白し、次々に古典を引用しつつ、本書を未完の、開かれた調和への問いとして終えています。「ハーモニーとは、それ自体としては異なるもの、不協和なもの、反対のものから生まれるのであって、すっかり心地よいものから生まれるのではない」(ツァルリーノ)。「ハーモニーはすべて対立するものたちに由来する。ハーモニーは混淆されたものの統一化であり、相違するものの一致である」(ピロラオス)。 ★本書の著者略歴での情報ですが、レーベンシュテインの訳書続刊には『アネックス』(三浦篤・木俣元一監訳、三元社)が予定されているそうです。 ★さらに、勁草書房さんの今月新刊としてはピーター・シンガー『あなたが救える命――世界の貧困を終わらせるために今すぐできること』(児玉聡+石川涼子訳、四六判上製312頁、本体2,500円、ISBN978-4-326-15430-2)や、ジョン・フォン・ノイマン+オスカー・モルゲンシュテルン『ゲーム理論と経済行動 刊行60周年記念版』(武藤滋夫訳、A5判上製1032頁、本体13,000円、ISBN978-4-326-50398-8)などが予定されています。版元紹介文によれば前者は「極度の貧困から抜け出せない人々に対する私たちの責務をわかりやすく論じ、国際的に反響を呼んだ名著の待望の邦訳。読者が自ら考えて行動を起こし、寄付などを通じて有効な貢献をなすための具体的な方法を提案する」ものだそうです。一方後者は「1944年に刊行した『ゲーム理論と経済行動』の刊行60周年記念版として、2004年に刊行されたものの翻訳」とのことです。既訳には、『ゲームの理論と経済行動』(全5巻、銀林浩ほか訳、東京図書、1972-1973年;全3巻、ちくま学芸文庫、2009年)があります。新訳の刊行を記念して、以下のイベントが開催されます。リンク先ではいち早く書影が掲載されています。高額ですがこれは「買い」ですね。 ◎武藤滋夫×岡田章×渡辺隆裕講演会「ゲーム理論からのメッセージ――その魅力と可能性」 日時:2014年6月27日 (金) 19時00分~(開場:18時30分) 会場:八重洲ブックセンター本店 8F ギャラリー 料金:無料 定員:60名(申し込み先着順) 申込方法:申込書に必要事項をご記入の上、1階サービスカウンターにてお申込み下さい。申込書は同カウンターにご用意してございます。また、お電話によるお申込みも承ります。(電話番号:03-3281-8201) 主催:八重洲ブックセンター 協賛:勁草書房 内容:数学者フォン・ノイマンと経済学者オスカー・モルゲンシュテルンによってはじまったゲーム理論。現在では、ノーベル経済学賞を幾度も受賞し学界をリードする分野でありながら、単なる理論にとどまらず行動分析やビジネスの現場でも活用されています。そのゲーム理論の端緒となった記念碑的著作『ゲーム理論と経済行動』の刊行60周年記念版がついに翻訳。刊行を記念し、訳者である武藤滋夫さんをはじめ、日本を代表するゲーム理論家たちがゲーム理論の魅力を語ります! ※講演会終了後、会場にて書籍をご購入いただいたお客様を対象にサイン会を実施いたします(お持ち込みの本・色紙・グッズ等へのサインはできません)。 ピープスの日記と新科学 M・H・ニコルソン著 浜口稔訳 白水社 2014年5月 本体4,200円 四六判上製316頁 ISBN978-4-560-08304-8 帯文より:ピープス氏、王立協会へ行く。顕微鏡に望遠鏡、初めての輸血、空気の重量測定、双底船・・・新発明や科学実験は人々を魅了し、風刺の標的にもなった。アマチュア科学者ピープスが見た17世紀英国〈新科学〉時代。 推薦文(帯文裏)より:「まさしく事実は小説より奇なり。スウィフトが冷笑したラガード学院のモデル、十七世紀英国王立協会による奇妙奇天烈なプロフェクトの数々、ヴァーチュオーソ(物数寄科学者)と称された趣味人達の頭の中から出てくるものに爆笑しながら、その後喪われたもの、あけられてしまった穴の大きさに、「3・11」後の我々は思い当たって粛然としないわけにはいかない。エピソード語りの名手による語りの面白さは、この本に観念史派史学の名著という以上の輝く魅惑を与えている」(高山宏)。 目次: 序 Ⅰ アマチュア科学者、サミュエル・ピープス Ⅱ はじめての輸血 Ⅲ 「狂女マッジ」と「才人たち」 付論 ピープス、サー・ウィリアム・ペティ、双底船 原注 訳者あとがき 索引 ★発売済。シリーズ「高山宏セレクション〈異貌の人文学〉」第4弾です。原著は、Pepy's Diary and the New Science(The University Press of Virginia, 1965)です。17世紀イギリスの海軍官僚サミュエル・ピープスが1660年から1669年にかけて暗号で綴った長大な日記(『サミュエル・ピープスの日記』全10巻、国文社、臼田昭訳:第1-7巻1987-1991年、臼田昭・岡照雄・海保眞夫訳:第8巻1995年、海保眞夫訳:第9-10巻2003/2012年)をもとに、新科学時代の熱狂に迫った名著です。とりわけ「ヴァーチュオーソ」(音楽界におけるいわゆるヴィルトゥオーゾ=演奏の達人とは別物)と呼ばれた科学愛好家や特異な科学者たちの活躍やそれを風刺した当時の演劇作品を陰翳豊かに分析しています。 ★アメリカの英文学者であり、観念史学派の中心的存在の一人だったマージョリー・ホープ・ニコルソン(Marjorie Hope Nicolson, 1894-1981)の訳書には、『月世界への旅』(原著1948年;高山宏訳、「世界幻想文学大系」第44巻、国書刊行会、1986年)や、『円環の破壊――17世紀英詩と〈新科学〉』(原著1950年;小黒和子訳、みすず書房、1999年)、『暗い山と栄光の山』(原著1959年;小黒和子訳、国書刊行会、1989年)のほか、論考を収めた訳書に『想像の翼――スウィフトの科学と詩』(渡邊孔二編訳、山口書店、1981年;ノーラ・M・モーラとの共著2篇「スウィフト「ラピュタ渡航記」の科学的背景」「スウィフト「ラピュタ渡航記」の「飛島」」を収録)や『美と科学のインターフェイス』(高山宏訳、「叢書ヒストリー・オヴ・アイディアズ」第1巻、平凡社、1986年;4項のテクスト「宇宙旅行」「山に対する文学的態度」「崇高美学」「ニュートンの『光学』と18世紀の想像力」「ヴァーチュオーソ」を収録)などがあります。分けても『月世界への旅』(現在品切)は、杉浦康平さんと鈴木一誌さんによる美麗なシリーズ造本も相まって際立った一冊です。 ★「高山宏セレクション〈異貌の人文学〉」の続刊には、高山さんご自身による翻訳、エリザベス・シューエル『オルフェウスの声』が予定されています。 ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義 仲正昌樹著 作品社 2014年5月 本体2,000円 四六判並製480頁 ISBN978-4-86182-479-1 帯文より:今、もっとも必読の思想書を、より深く理解するためのコツとツボ! 本邦初!〈Vita Activa〉『活動的生活』とそもそもタイトルが違う「ドイツ語版」を紹介しつつ、主要概念を、文脈に即して解説。その思想の核心を浮かび上がらせる。 目次: [講義]第一回 宇宙世紀の「人間の条件」?!――「プロローグ」と「第一章 人間の条件」を読む [講義]第二回 いかにして「活動」が可能なのか? ポリスという「公的領域」――「第二章 公的領域と私的領域」を読む [講義]第三回 人間から“労働する”動物へ――「第三章 労働」を読む [講義]第四回 世界を作る仕事〈work〉/〈Herstellen〉とは?――「第四章 仕事」を読む [講義]第五回 脱目的論的な「始まり」の輝き――「第五章 活動」を読む [講義]第六回 世界疎外――「第六章〈活動的生活〉と近代」を読む [後書きに代えて]アーレント・ブームは、はたして“アーレント的”か? もっと『人間の条件』を究めたい人のための読書入門 ★発売済。昨年2月から7月にかけて、市谷の連合設計社で行われた全6回の講義に大幅な加筆を施したものです。回ごとの質疑応答を収録したほか、巻末に読書案内も載っています。アーレントの代表作『人間の条件』英語版(1958年)を、その訳書(志水速雄訳、ちくま学芸文庫、1994年)や、同書の豊饒なドイツ語版『活動的生活』(1960年)を併用しつつ章ごとにじっくり読み解く講義です。周知の通り仲正さんはアーレントのカント政治哲学講義(明月堂書店、2009年)や、名講演「暗い時代の人間性について」(情況出版、2002年)などの新訳を手掛けられており、2009年には『今こそアーレントを読み直す』(講談社現代新書)を上梓されています。アーレントの再評価と再読解の機運が継続的に高まっているこんにち、いずれ仲正さんによるドイツ語版の完訳が誕生するのではないかと予感させます。 ★なお、作品社さんでは今月、『リッツォス詩集』(中井久夫訳、本体予価3,800円)や、『訳解クルアーン』(イスラーム黎明学術協会訳、本体予価4,800円)などの新刊が予定されています。
by urag
| 2014-06-08 23:16
| 本のコンシェルジュ
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