2014年 03月 02日
政治哲学とは何であるか?とその他の諸研究 レオ・シュトラウス(Leo Strauss, 1899–1973)著 飯島昇藏・石崎嘉彦・近藤和貴・中金聡・西永亮・高田宏史訳 早稲田大学出版部 2014年2月 本体4,800円 A5判並製392頁 ISBN978-4-657-14001-2 帯文より:古典的名著の完訳ついに成る。What is Political Philosophy?という問いに、中世のイスラームとユダヤ教の政治哲学の最高峰にも肉薄して、近代ヨーロッパのキリスト教中心的政治哲学史に挑戦する異色の哲学書。徹底したliteral translationで、著者シュトラウス自身の意図の忠実な再現をめざす最新・完全訳。 ★発売済。原書はWhat is Political Philosophy? And Other Studies(The Free Press, 1959)です。底本はシカゴ大学出版の1988年再刊版。かつてシュトラウスの訳書には『政治哲学とは何か――レオ・シュトラウスの政治哲学論集』(石崎嘉彦訳、昭和堂、1992年)があり、この訳書はWhat is Political Philosophy?から5つの論考(「政治哲学とは何か」「政治哲学と歴史」「古典的政治哲学」「再びクセノフォンの『ヒエロ』について――A・コジェーヴに答えて」「忘れられた著述について」)と、ハーバート・J・ストーリング編『政治学研究論文集(Essays on the Scientific Study of Politics)』(Holt, Rinehart and Winston, 1962)所収の「エピローグ(An Epilogue)」を併せて訳出したものです。ちなみにこの『政治学研究論文集』は、ウォルター・バーンズ、ストーリング、レオ・ワインスタイン、ロバート・ホーウィッツらの論文を載せ、最後にシュトラウスが締めくくりを担っています。 ★今回の完訳版は冒頭にノーステキサス大学の政治学者ラファエル・メイジャーさんによる「日本語版への序文」に置き、巻末には訳者を代表して飯島昇藏さんによる解説「『政治哲学とは何であるか?とその他の諸研究』の完全邦訳の意義」を配しています。翻訳の分担は以下の通りです。 日本語版への序文(近藤和貴・高田宏史訳) 序文(飯島昇藏訳) Ⅰ 政治哲学とは何であるか?(石崎嘉彦・近藤和貴訳) Ⅱ 政治哲学と歴史(石崎嘉彦訳) Ⅲ 古典的政治哲学について(中金聡訳) Ⅳ クセノフォンの『ヒエロン』についての再陳述(西永亮訳) Ⅴ いかにしてファーラビーはプラトンの『法律』を読んだか(飯島昇藏訳) Ⅵ 政治科学についてのマイモニデスの陳述(飯島昇藏訳) Ⅶ ホッブズの政治哲学の基礎について(飯島昇藏訳) Ⅷ ロックの自然法の教説(飯島昇藏訳) Ⅸ 忘れられた種類の著述について(石崎嘉彦・高田宏史訳) Ⅹ クルト・リーツラー(西永亮訳) 批評:16の評価(飯島昇藏訳) ★今回の完訳にあたり、飯島さんは厳密で忠実な訳文を目指されただけでなく、訳書の造本を原書の体裁に忠実なものにするよう版元に要請したことを解説で明かしておられます。また、飯島さんは本書の姉妹篇である『迫害と著述の技法』が若手の活躍で翻訳出版されることへの強い期待を記しておられます。今回の新訳の前にも、昨年末『自然権と歴史』が文庫で再刊されたばかりですが、こうした積み重ねの中で、いずれ「レオ・シュトラウス著作集」が日本で実現できたらどんなにか素晴らしいでしょうか。 ベンヤミンとパサージュ論――見ることの弁証法 スーザン・バック=モース著 高井宏子訳 勁草書房 2014年2月 本体7,500円 A5判上製592頁 ISBN978-4-326-10230-3 帯文より:『パサージュ論』の認識論的・政治的力が今ここによみがえる。ベンヤミン解釈のモダン・クラシックス、待望の刊行! ベンヤミンの救済に向けて。 ★発売済。原書はThe Dialectics of Seeing: Walter Benjamin and the Arcades Project(The MIT Press, 1989)で、底本は1991年のペーパーバック版です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。言わずと知れたバック=モースさんの主著で、真っ先に訳されていてもおかしくなかった本です。翻訳企画の話しはこれまで幾度か耳にしてきましたが実現しなかったようで、訳者の高井さんが新たに名乗りを上げて下さったことでこうして出版が実現したのは本当にありがたいことです。本書はすぐれたベンヤミン論であると同時に、近代性(モダニティ)をめぐる卓抜な視覚文化研究でもあります。映像研究(ヴィジュアル・スタディーズ)はどちらかというと美術書売場で扱われると思うのですが、文化研究(カルチュラル・スタディーズ)の一支流でもあるので、人文書にしっかりと居場所を作っておくと良いと思います。ディディ=ユベルマンやダミッシュ、ド・デューヴ、グリーンバーグ、ロザリンド・クラウス、ジョナサン・クレーリー、岡崎乾二郎さんや、弊社本で言えば、リピット水田堯さんなど、人文と芸術を繋ぐ豊かな鉱脈を提示しやすくなると思います。 ★バック=モースさんの既訳書には以下の書目があります。『テロルを考える――イスラム主義と批判理論』(村山敏勝訳、みすず書房、2005年;原書刊行2003年)、『夢の世界とカタストロフィ――東西における大衆ユートピアの消滅』(堀江則雄訳、岩波書店、2008年;原書刊行2000年)。今回の新刊刊行を記念して、ブックフェアがジュンク堂書店池袋本店4階人文書売場フェア棚(3月下旬まで)や、ジュンク堂書店難波店人文書売場(5月下旬まで予定)で好評開催中です。訳者の高井さんによる選書コメント付きリスト小冊子が無料で配布されています。 民主主義の問題――帝国主義との闘いに勝つこと コーネル・ウェスト(Cornel West, 1953-)著 越智博美/松井優子/三浦玲一訳 法政大学出版局 2014年2月 本体3,500円 四六判上製298頁 ISBN978-4-588-62209-0 帯文より:〈声を大にして〉問いかける! 自由市場原理主義、攻撃的軍事攻勢、権威主義が跋扈し、危機に陥っているアメリカ民主主義の是正に何が必要なのか。 ★発売済。原書はDemocracy Matters: Winning the Fight against Imperialism(The Penguin Press, 2004)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書は2008年の著者来日をきっかけに生まれたものだそうで、著者はこの訳書のために「日本語版によせて」という序文を書いています。曰く、本書は「アメリカ帝国の経済の衰退、文化的退廃、および政治的麻痺に対する知的・政治的な応答」であり、「アメリカや世界における自由市場原理主義やエスカレートする軍事志向、そして膨張する権威主義を前にして、深い民主主義的な目覚めを要求」するものだ、と。本書は確かにアメリカ社会について書いているのですが、少なからず日本社会にも当てはまる問題が多いです。例えば著者はこう分析しています。 ★「アメリカの政治文化がつまらないせいで、楽しければいいとか気分転換の娯楽があればよいという誘惑が強くなるばかりだ。外に目を向けるのをやめて、他人とは没交渉の狭い範囲に限定された家族と社交の生活に向いてしまっている人があまりにも多い。郊外に住む白人や中流階級の黒人(およびそれ以外にも)は、もっぱら日々の物質的な生活を快適にすることばかりを考えるようになっている。そうした場合、えてして居心地のよいコミュニティに文字どおり物理的にも社会的にも引きこもることになる。そこにいれば、たくさんの人びとを苦しめている醜い現実から目をそらしていても大丈夫だからだ。自分たちは車も買えるし行きたいところに旅行にも行けるから、そのかぎりでは、この国を苛んでいる政治と社会の機能不全に目をつぶっていないし、うすっぺらな説明をされただけでよしとしてしまおうとするのだ」(71-72頁)。 ★本書の前作にあたるRace Matters(Vintage Books, 1993;Reprint with a New Preface, Beacon Press, 2001)はかのロス暴動の翌年に刊行され、日本でも『人種の問題――アメリカ民主主義の危機と再生』(山下慶親訳、新教出版社、2008年)として翻訳出版されています。今回の新刊はこの『人種の問題』に続く、ウェストの訳書第二弾になります。 ★皆さんご存知かと思いますが、法政大学出版局さんの「叢書・ウニベルシタス」はデリダ『エクリチュールと差異』の新訳で通算1000番に達しました。現在、「1000番突破」フェアが、岩波ブックセンター信山社(3月7日まで)、丸善丸の内本店3F(3月15日まで)、ジュンク堂書店池袋本店(3月30日まで)などで好評開催中です。「叢書・ウニベルシタス 1000番到達記念ブックレット」が店頭で無料配布されています。これまでもウニベルシタスでは目録が作成されたことがありましたが、今回の記念ブックレット(A5判112頁)は高山宏、松岡正剛、保坂和志、牧野英二の各氏が寄稿したエッセイも収録されており、入手して損はない保存版になっています。また、以下の通り記念のイベントが開催されます。 ◎トークイベント「〈叢書・ウニベルシタス〉1000番とともに考える、〈いま哲学をすること〉」 日時:2014年03月11日(火)19:30~ 場所:ジュンク堂書店池袋本店 4階 料金:1000円(ドリンク付き) 予約・お問い合わせ:ジュンク堂書店池袋本店(TEL 03-5956-6111) ※イベントの詳細はこちら 講師:中島隆博(東京大学准教授)×池田喬(明治大学専任講師) 内容:真に思索する人びとのための“書物による「大学」”をめざす《叢書・ウニベルシタス》の1000番突破を機に、人文学の今後や3.11の後の〈悪〉という問題など、人が生きることと哲学することについて、中島隆博氏と池田喬氏が思索し語り合います。 カント『判断力批判』研究――超感性的なもの、認識一般、根拠 浜野喬士(はまの・たかし:1977-)著 作品社 2014年2月 本体2,400円 46判上製224頁 ISBN978-4-86182-470-8 帯文より:ゲーテから、アーレント、デリダまで……、1790年に刊行されて以降、思想・芸術そのものに重大な“霊感”を与え続けているまさに一つの哲学史的転換点、カント『判断力批判』。その成立過程に新たな光を当て、日本のカント研究を世界レベルに上げる最新研精華!『判断力批判』成立の謎を解き明かす、カントの覚書や当時の講義録も多数収録。 目次: 序論 第一章 「超感性的なもの」 第二章 完全性と合目的性 第三章 「趣味の批判」と「認識一般」 第四章 「理性の仮説的使用」と「反省的判断力」 第五章 「趣味のアンチノミー」と「超感性的なもの」 第六章 目的論的判断力の弁証論と「超感性的なもの」 結論 資料 参考文献 あとがき 索引 ★発売済。昨年早稲田大学に受理された博士論文に「若干の修正」を加えて刊行されたものです。近年、カントの『判断力批判』はますます再評価の機運が高まっており、国内外ともに研究書は増えています。浜野さんは2009年に洋泉社さんの新書yの1冊として刊行された秀逸かつ周到な解説書『エコ・テロリズム――過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ』ですでにデビューされており、本書が単独著第二弾になります。「本書は、『判断力批判』(1790年)を中心に、カントの刊行著作、レフレクシオーン(覚書)、講義録、書簡等を体系的・発展史的問題意識に基づき精査し、この作業を通じて、『判断力批判』の中心的課題を、「完全性 Vollkommenheit」「認識一般 Erkenntnis Ueberhaupt」「反省的判断力 reflektierende Urteilskraft」「超感性的なもの das Uebersinnliche」といった、これまでの研究史上、充分に評価されてきたとは言いがたい概念群の側から明確化することである」と著者は本書冒頭で説明しています。美学的諸問題を扱う『判断力批判』の前半部の評価に偏りがちだった研究動向を超えるべく、『判断力批判』の体系的一貫性の再構築と、目的論を扱う後半部の再評価を試みており、カント自身のテクストや先行研究を丹念にひともきつつ、第三批判のポテンシャルをあぶり出します。 ★なお、作品社さんの近刊案内によれば、浜野さんはロンメル将軍の『突撃』をお訳しになるようです。また、熊野純彦さん訳の『判断力批判』は、恐らく2014年の年内刊行を目指しておられると思われます。
by urag
| 2014-03-02 22:58
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