2014年 01月 19日
![]() 平凡社さんは今年(2014年)に創業100周年を迎え、三冊の本が重なった新しいシンボルマークを発表されるとともにウェブサイトをリニューアルされました。「分厚い1冊の本の上に2冊の本が載っている」かたちのシンボルマークの由来は、製作されたグラフィックデザイナーの佐藤卓さんによれば「知識の上にさらに知識が積み重なることを意味」しているとのことです。私はてっきりHEIBONSHAのアルファベットの組み合わせかと思っていました。 さらに今年から新刊の投げ込みチラシの体裁をA5判より一回り大きいタテ232mm×ヨコ175mmの四つ折から、タテ131mm×ヨコ360mmの冊子状四つ折に変更されています。リニューアルされた冊子状のものの方が、他社もよく採用している形状なのでかなり見やすくなった気がします。平凡社さんでは「100周年特設サイト」をオープンされ、書店さんでの100周年記念フェアの様子が逐次紹介されています。以下では、平凡社さんの今月(1月)新刊より注目書をご紹介します。 ここのなかの何処かへ――移住・難民・境界的出来事 トリン・T.ミンハ(Trinh T. Minh-Ha, 1952-)著 小林富久子訳 平凡社 2014年1月 本体3,600円 A5判上製272頁 ISBN978-4-582-47233-2 帯文より:内なる異郷への旅。9.11以後の恐怖と危機の時代――。ポストコロニアリズムとフェミニズムの代表的映像作家・思想家がヴェトナム系アメリカ人女性としての自らの異質性を足場とし、越境者たちの声に耳を澄ませ、内なる他者との対話に創造の源泉を探る。前作よりおよそ20年の時を経て放つ評論集、待望の邦訳。 目次: 3.11「もしもあの時に・・・」――日本語版への序文 異国性と恐怖の新たなる色 I 家――旅する源 故国〔ホーム〕から、遠く離れて(あいだにつけられたコンマ) 私の外なる他者、内なる他者 II 境界的出来事――屑と避難所のあいだ 響きの旅 Natureのr――音楽的無我の境地 ヴォイス・オーヴァーI 音楽で描かれた絵――複数の文化を越えるパフォーマンス III 終わりの見えない光景 母のお話 白い春 デトロイト――自由の国で収監され、行方不明者になるということ 訳者あとがき 初出一覧 原註 索引 ★発売済。原書は、elsewhere, within here: immigration, refugeeism and the boundary event(Routledge, 2011)で、訳者あとがきの紹介によれば、トリン・T・ミンハの約20年ぶりの評論集第三弾の訳書になります。これまで日本語訳の既刊書としては、Woman, Native, Other: Writing Postcoloniality and Feminism (Indiana University Press, 1989)の抄訳である『女性・ネイティヴ・他者――ポストコロニアリズムとフェミニズム』(竹村和子訳、岩波書店、1995年8月;新装版、2011年11月)や、When the Moon Waxes Red: Representation, Gender and Cultural Politics (Routledge, 1991)の全訳である『月が赤く満ちる時』(小林富久子訳、みすず書房、1996年9月)があります。訳書としても実に約18年ぶりとなる久しぶりである本書には、前二作にはなかった「日本語版への序文」が付されています。トリンさんはちょうど3月11日の震災時、成田発の飛行機で米国へと戻る途中だったそうです。本書ではこの序文のほかにも日本に触れている箇所が複数あって、たとえば「Natureのr」では藤原定家や千利休、世阿弥、黒川紀章が言及され、「音楽で描かれた絵」では松尾芭蕉、加賀千代女、鈴木大拙、西田幾多郎が言及されています。「音楽で描かれた絵」の末尾においてトリンさんは次のように書きます。「複数の芸術/文化間の相互作用を可能にする場とは、すでに名付けられた諸々のもの、能力、領域が積み重なり、溶け合う場というより、単なる文化を横断するさまざまな情況が生み出す新しい多元的能力によって導かれる発見の場を指すということだ。「絵」と「書き物」、東と西の制度的/専門的区分を無効にする見方が生まれつつある」(183頁)。 「帰郷」の物語/「移動」の語り――戦後日本におけるポストコロニアルの想像力 伊豫谷登士翁/平田由美編 平凡社 2014年1月 本体3,600円 4-6判上製336頁 ISBN978-4-582-45236-5 帯文より:「移動」から「近代」を再考する。帝国の解体と再編における〈人の移動〉を、社会科学と文学の越境の彼方へ探る。 序章 移動のなかに住まう(伊豫谷登士翁) 第1章 “他者”の場所――「半チョッパリ」という移動経験(平田由美) 第2章 おきざりにされた植民地・帝国後体験――「引揚げ文学」論序論(朴裕河) 第3章 「八木秋子日記」に幻の引揚げ小説をさがして――追放と再追放の物語(西川祐子) 第4章 パラレル・ワールドとしての復員小説――八木義徳「母子鎮魂」ほか(坪井秀人) 第5章 断たれた帰鮮の望み――ある安楽死を読む(美馬達哉) 第6章 ジェンダー・空間的実践・惑星思考――森崎和江の筑豊(ブレット・ド・バリー) 第7章 越境する記憶――映画・植民地主義・冷戦(テッサ・モーリス=スズキ) 第8章 移動経験の創りだす場――東京島とトウキョウ島から「移民研究」を読み解く(伊豫谷登士翁) あとがき(平田由美) ★まもなく発売。「移動」をめぐるいくつもの共同研究のここ十年間の成果が結実した本です。平田さんの「あとがき」によれば、本書の原型は「日本の植民地主義とその忘却がもたらしているポストコロニアル情況への批判的介入を主軸」とするもので、「人の移動をテーマに末、研究分野を越えた対話の場を創りあげることから始まった」プロジェクトだったとのことです。伊豫谷さんは第8章「移動経験の創りだす場」でこう書いておられます。日本にとって、第二次世界大戦は、女性やマイノリティをも含めた国民化と植民地の人びとの大量動員をもたらし、さらにアジア的な規模での人の移動を引き起こした。しかしながら戦後には、こうした膨大な人の移動は、正常への回帰として、「帰国事業」や「引揚げ」といった言葉で表現され、そのことが人の移動にかかわる研究、すなわち移民研究や難民研究として論じられることはなかった。日本の移民研究、あるいは多文化共生の議論において、いわゆる「在日」と呼ばれる人たちが看過されてきたのは、このことによる」(320頁)。「本来の意味での人の移動にかかわる研究が目指すのは、ナショナルな物語、ナショナルな空間を所与としてきた分析枠組みから解放された研究領域であろう」(322頁)。 絵入簡訳源氏物語(二) 小林千草/千草子著 平凡社 2014年1月 本体2,800円 4-6判上製446頁 ISBN978-4-582-35722-6 帯文より:国語学者が満を持して放つ、新解釈も多々織り交ぜたリズミカルな現代語訳。第二巻は光源氏、栄華の極みから〈雲隠〉するまでの物語。『源氏物語』ゆかりの京都を中心に“街歩き案内”を特別付録として収録。いまなお残る源氏ゆかりの名所を、本書を携えて散策してみてはいかがでしょう。 ★まもなく発売。全三巻予定の第二巻です。第一巻は昨年10月に刊行されました。第三巻は今春刊行予定だそうです。今回刊行された第二巻は、第22帖「玉鬘」から第41帖「雲隠」までを収録。34歳から50歳代の最晩年までが描かれています。「雲隠」までとは言っても、周知の通り巻名のみしか残っていません。光源氏の出家と死が書かれるはずだったのか、書かれたけれども封印されたのか、昔から諸説があり、その謎ゆえに偽書とされる「雲隠六帖」を後世に生んだほどです。小林さんは簡潔に「〈雲隠〉という象徴的な巻名のみをおいて、全てを読む人に託した物語構成である」と説明されています。 世説新語2 劉義慶著 井波律子訳注 東洋文庫 2014年1月 本体3,100円 全書判上製448頁 ISBN978-4-582-80845-2 帯文より:歴史の中で読み継がれた魏晋の古典の新訳注書。条ごとに原文、読み下し(総ルビ)、語句の注釈、明快な現代語訳、詳しく懇切な解説からなり、かつてなく『世説新語』がよくわかる決定版。(全5巻) 目次: (上巻続き) 文学第四――学問・文学に関する言動 中巻 方正第五――剛直で一本気な言動 雅量第六――方正と対照的な余裕ある言動 識鑒第七――人物の識別評論 関連略年表 ★発売済。東洋文庫の第845巻です。全5巻予定の第2巻です。第1巻は昨年11月に刊行されています。今回刊行された第2巻では、上巻の残りと中巻の途中までが収められています。現代語訳を一読してただちに理解できるようなものではなく、井波先生の解説によって登場人物や歴史的背景などが明らかにされて、はじめて内容の一端に触れた心地になります。雅量第六にある一節に、竹林の七賢の一人、嵆康(けいこう)の公開処刑直前のエピソードが紹介されています。彼が演奏した「広陵散」が後世の私たちの耳に届くことはありませんが、言い知れない迫力を感じます。別の書物ではこの曲は死霊から教わったものと伝えられているようです。東洋文庫の次回配本は2月、『朝鮮開化派思想選集』です。
by urag
| 2014-01-19 22:28
| 本のコンシェルジュ
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