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2013年 11月 04日

注目新刊:『コデックス・セラフィニアヌス』新版、ほか

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Codex Seraphinianus
Luigi Serafini
Rizzoli October-29-2013 $125.00 Hardcover 9x13-3/8 ISBN:978-0-8478-4213-1

★現代の奇書として有名な『コデックス・セラフィニアヌス』の新版(New and updated edition)がついに発売されました。イタリアの芸術家で、建築家・デザイナーでもあるルイジ・セラフィニ(Luigi Serafini, 1949-)が著した本で、1981年に2巻本がフランコ・マリア・リッチ社から刊行されました。本書についてはwikipedia日本語版でも立項されているのでなるべく簡潔に説明すると、1983年に合本版がアメリカなどで出版され、その十年後の1993年にイタロ・カルヴィーノによる序文を付した増補版がフランスとスペインで刊行、さらに2006年にイタリアで改訂版がリッツォーリから発売されます。この改訂版には著者による序文が付されていたそうですが、同じくリッツォーリから発売された今回の新版でも日付が新しくなった序文(2013年7月3日付、ローマにて)が別刷冊子「Decodex」に伊・英・仏・独・西・葡・露の各国語で収められています。初版から数えて32年目のこの新版では、表紙にテントウムシがあしらわれています。

★カフカやエンデの本の挿絵を担当したこともあるセラフィニですが、本書は人工文字に超現実主義風の挿絵で飾られた百科事典の体裁を取っています。B4サイズより一回り小さいとはいえ、めったにない大判です。文字もノンブルも、フルカラーの鮮やかな挿絵も、全頁すべてが手描きです。動植物や鉱物、機械や乗り物、学問と歴史、文化風俗など、異世界に遊ぶ奔放で自由な想像力と、それらを分類し秩序づけて描き続けた驚くべき労力の結晶です。地上に存在しない文字ですし、挿絵もおそらく人によって好き嫌いがあると思うので万民向けではありませんが、たとえばシュトゥンプケの『鼻行類』(平凡社ライブラリー、1999年)やレオーニの『平行植物』(工作舎、新装版2011年)、あるいは「ヴォイニッチ写本」などがお好きな方は、話のネタとして蔵書しておいても良いのではないかと思います。サイン入り特装版も600部限定(英語版300部、伊語版300部)で刊行されたそうです。


鑑定士と顔のない依頼人
ジュゼッペ・トルナトーレ著 柱本元彦訳
人文書院 2013年11月 本体1,500円 4-6判上製96頁 ISBN978-4-409-13035-3

帯文より:厳格さで知られる初老の美術鑑定士と決して姿を見せない謎の女。美術と骨董とオークションの世界に彩られた鮮やかなミステリー。『ニュー・シネマ・パラダイス』の監督による初めての原作小説。

★11月11日取次搬入予定の新刊です。ジュゼッペ・トルナトーレ(Giuseppe Tornatore, 1956-)監督にとって初めての小説作品で、自ら監督した映画『鑑定士と顔のない依頼人』(日本では2013年12月13日より全国順次公開)に先立って書き下ろされたものです。映画の台本でもノベライズでもなく、監督自身の序文での言葉を借りるならば「きちんとしたシナリオの完成を待つあいだに、主要な登場人物を演じる俳優たちの関心を高め、最初の協賛金を募り、プロデューサーとの合意事項を決定し、配給会社に支払う前金を確保するため」に書かれたものです。「普通、一本の映画はこんな風な過程を経て制作されるのである」(2頁)。それが出版社の気に入るところとなり、本来であれば私たちの眼には触れるはずではなかったものが読めるようになったわけです。美術と骨董の世界に暮らす初老の鑑定士でありオークショニアの男性ヴァージルと、心に傷を負って外を歩くこともままならない極度に内向的な広場恐怖症の若い女性クレアの物語である本書は、クレアがヴァージルに家財売却のための鑑定を依頼したことから始まります。鑑定はしてほしいがどうしても面と向かっては会おうとしないクレアにヴァージルは腹を立てるのですが、ついに対面することになり、そして・・・。映画を先に見るべきか、この本を先に読むべきか。出来上がった順番から言えば本書が先ですから、本書を先に読んでみて、映画でどう映像化されているかを見る、というのが順当かもしれません。


フランス人民戦線――反ファシズム・反恐慌・文化革命
渡辺和行著
人文書院 2013年11月 本体6,800円 A5判上製432頁 ISBN978-4-409-51067-4

帯文より:危機の時代の救世主「人民の政府」はなぜ崩壊したのか。21世紀のフランス人民戦線研究へ。経済恐慌、右翼の台頭、ナチスの誕生――不安と危機、衰退(デカダンス)の1930年代、「反ファシズム」を掲げる諸政党・労働組合・市民団体による連合政権の誕生に人々の期待は高まった。本書は、フランス人民戦線 (Front populaire)前夜から、は「反ファシズム」を掲げたフランス社会党、急進党、共産党など諸政党・組合・市民団体による連合政権。当時、フランスがかかえていたさまざまな(など)がその契機となった。人民戦線前夜から、スペイン内戦への対応や経済政策をめぐる対立による解体までの詳細を、連合の鍵を握った中道政党を中心に追っていく。さらに、現在のフランスの社会を特徴づける「人民戦線の遺産」ともいうべき政治的・経済的・文化的成果を記述する。ソビエト解体後に公開された史料をもちいた新たな研究成果をもとにまとめた本格的、かつ総合的な人民戦線研究の成果。

★11月5日取次搬入予定の新刊です。著者の渡辺和行(わたなべ・かずゆき:1952-)さんは奈良女子大学教授。ご専門はフランス近現代史で、『ナチ占領下のフランス――沈黙・抵抗・協力』(講談社選書メチエ、1994年)をはじめ、数々の著書をお持ちで、ピエール・ノラ『記憶の場――フランス国民意識の文化=社会史』(全3巻、岩波書店、2002-2003年)の共訳者でもあります。著者にとってフランス人民戦線は学生時代より関心を持ってきた対象です。「はじめに」によると、「日本人の手になるバランスのとれた人民戦線史は、1974年に出版された平田好成『フランス人民戦線』(近藤出版社)以来、40年近く出ていない。それゆえ、この間の研究をフォローした本書は、40年の空白を埋めて後学に託すという研究史上の意義がまずあるだろう」と著者は述べます(15頁)。そして続けて、「ソ連圏の自壊による冷戦構造の買いたいという歴史と左翼運動史研究の盛衰をふまえたうえで、人民戦線運動の現代的な意味をも考察しようと思う。つまり、過労死や過労自殺をよぎなくされる働きすぎの社会から、「ワークライフバランス社会へ」の移行や「ワークライフシナジー」(大沢真知子)が求められている現在、本書は「労働と余暇」の問題を初めて実践的に提起し、よりよく生きるための政策を実行したフランス人民戦線の意義を再考しようという試みでもある」(同頁)。

★本書の内容についてもう少し「まえがき」での著者自身の紹介を引きます。「本書では、フランス人民戦線の誕生から解体までの歴史を、急進党に比重を置きつつ、政党の枠を超えた社会運動の側面や社会史的手法にも目配りして描こう。反ファシズム(政治史)・反恐慌(経済史)・文化革命(文化史)の三幅対としての人民戦線を呈示しよう。その過程で、反ファシズムの論理(民主主義の防衛)と反恐慌の論理(反デフレーション、リフレーション政策)とが必ずしも整合的でなく、前者の論理が後者の論理を制約したこと、さらに、反ファシズムの論理(戦闘ないし戦争の論理)と平和の論理とが二律背反関係にあったことも明らかになるだろう」(同頁)。1930年代のフランスにおける左派連合政権の成功と失敗を丹念に追った本書は、現代人がなおも抱える理想と矛盾の相克を見つめる上でたくさんのヒントを与えてくれそうです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


〈法と自由〉講義――憲法の基本を理解するために
仲正昌樹著
作品社 2013年11月 本体1,800円 46判並製368頁 ISBN978-4-86182-455-5

帯文より:改憲の前に、必読! そもそも《法》とは何か? 法学という学問の枠を超えて、私たちの法意識と日本国憲法に多大な影響を与え続けているルソー、ベッカーリア、カントらの古典を熟読する、著者が専門とする「法思想」待望の“初”講義! 「憲法」という装置を生み出した思想・哲学をしっかり掘り下げて、しっかり学ぶ! 高校の政経や大学の法学概論で習う「近代法」の理念的骨格を作った、ルソーの「一般意志論」、ベッカリーアの「人民の合意に基づく罪刑法定主義論」、カントの「公民的秩序論」という原点に遡りながら学ぶ、私たちの社会の根底から規定する《法》の原点。

★発売済。2012年4月から10月にかけて、連合設計社市谷建築事務所で行われた全6回の連続講義に大幅加筆した講義録です。近年、仲正さんは作品社から2012年2月『現代ドイツ思想講義』、2012年8月『《日本の思想》講義』、2013年2月『カール・シュミット入門講義』と立て続けに講義録を上梓されています。本職の大学での教鞭のほかにも一般人向けの講義を続ける一方で多数の著書や訳書を毎年書きあげている仲正さんの生産力には目を瞠るばかりです。本書では岩波文庫のルソー『社会契約論』、ベッカリーア『犯罪と刑罰』、カント『啓蒙とは何か 他四篇』を原書とともに読み解きつつ、憲法とは何なのかを根本的に捉えなおそうとこころみています。憲法改正の政治的機運が高まりつつある現在こそ、雰囲気に流されずにじっくりと古典をひもときたいものです。


茶の精神(こころ)をたずねて――時を追い、地を駆けて
小川後楽著
平凡社 2013年11月 本体2,800円 四六判上製436頁 ISBN978-4-582-62306-2

帯文より:茶の文化の源へと膨大な時間の隔たりをこえて、中国各地、インド、ビルマ・・・広大な空間をへめぐり、茶祖・陸羽(りくう)、茶聖・盧仝(ろどう)の足跡を、また名茶をもとめて、漢詩をたずさえながら。煎茶40年、小川流家元の旅の記録。

★11月8日取次搬入予定の新刊です。小川後楽(おがわ・こうらく:1940-)さんは小川流煎茶6代目家元で、中国喫茶史に造詣が深い煎茶家です。また、京都造形芸術大学の教授をお勤めです。煎茶に関する数多くの著書があり、楢林忠男名義でも書かれています。本書はこれまで各紙誌に80年代から近年に至るまで発表されてきた随筆に加筆したもので、中国への語学留学での苦労や、茶の文化の源流をもとめて中国各地を旅した話が折々の写真とともに綴られており、非常に興味深いです。たまに怖い写真やエピソード(歓待のしるしとして皿に飾られたジャコウジカの生首や、搭乗していた飛行機の片方のプロペラが飛行中に完全に止まった様子や、渋滞というより停車状態に陥っている苦難続きのバス旅行など)があって、なぜここまでして茶の史跡を辿ろうとするのか、著者の旺盛な探求心に驚きまじりの半笑いを抑えきれないのですが、必ず行く手には絶景やら感動が待っていて、清々しい気分になります。紙上とはいえ、読者は苦労なしに追体験できるのですから、ありがたいことです。

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ご存知の方も多いかもしれませんが、晶文社版『吉本隆明全集』全36巻・別巻1の内容見本の冊子(B5判16頁)が配布開始になりました。紙媒体のほか、晶文社ウェブサイトより電子ブックで閲覧可能です。第1回配本は2014年3月発売予定の第6巻『[1959-1961]戦後世代の政治思想 擬制の終焉』で予価は6500円。A5変型判上製カバー装、各巻平均590頁とのことで、全巻を揃えると相当な物量になりますね。初年度は3カ月に1巻ずつ刊行、次年度以降は隔月で刊行予定とのことです。完結まで7年、2020年いっぱいまでの大事業です。

内容見本は最初に版元の「刊行にあたって」と、ハルノ宵子さんによる「ご挨拶」が印刷されています。真面目さの中にもユーモアがあるハルノさんの挨拶文が素敵です。続くのは著名人各氏の推薦文。鶴見俊輔「才覚と機転」、上野千鶴子「空前節語の思想家」、福島泰樹「「よせやい」 東京ッ子の矜持」、糸井重里「こころうれしく待つ」、鷲田清一「二十五時間目のひと」、中沢新一「嘘とほんとうを見分ける確かな方法」、見城徹「人間的な、あまりに人間的な」、よしもとばなな「父と全集」。そして、38巻の内容紹介が年譜とともに記載され、本文組見本もお披露目されています。

ところで同社の元編集長の中川六平(なかがわ・ろっぺい:1950-2013)さんが9月に食道がんでお亡くなりになったことは皆さんご存知かと思います。中川さんの蔵書の一部は、今日まで開催されていた神保町ブックフェスティバルの晶文社ワゴンで出品されていたそうです。形見分けですね。63歳、まだ「若い」と言うべきでしょうか。編集者の日常は平坦ではなく、しばしば、刺し違えるまで闘うか、罵声を浴びようとも撤退するか、両方の覚悟が求められます。出版は命を賭けるに値する事業だと信じますが、それは苛酷な人生です。その苛酷さの中にしか自由は存在しないように思います。
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by urag | 2013-11-04 23:58 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)


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