2013年 06月 13日
このところチェーン店さんの閉店が続いています。書原六本木店(栗田帳合、5月17日)、ブックストア談新大阪店(文教堂傘下、日販帳合、5月31日)、ジュンク堂書店高崎店(トーハン帳合、6月3日)。BS談はJR新大阪駅の改良工事に伴う閉店で、いずれ再開するかもしれませんが詳細未定。J高崎は、2008年10月に開店したコミック専門店「COMICS JUNKUDO高崎店」を2010年5月28日にワンフロア増床して、総合書店に改装した店舗でした。専門書を手広く扱う書店さんがなくなるのは残念です。 2013年6月21日(金)再開店予定 宮脇書店水戸南店:図書300坪 茨城県東茨城郡茨城町長岡3480 イオンタウン水戸南内 大阪屋帳合。弊社へのご発注は芸術系既刊書数点。同ショッピング内での移転のため、5月26日でいったん閉店し、来週リニューアルオープンとのことです。 +++ 写真:大阪屋の旧「東京本社」、2013年5月28日 移転と言えば、影響が大きかったのが、取次の大阪屋東京支店の移転です。これまでトーハンや太洋社のごく近くの、文京区水道で1972年から40年以上営業されてきましたが(最寄駅は地下鉄有楽町線の江戸川橋駅)、先月5月27日より同区の小石川2-22-2、和順ビル6~7Fに移転されました。1Fに日販帳合のあゆみBOOKS小石川店があるビルです。最寄駅は都営三田線の春日駅か地下鉄南北線の後楽園駅で、あるいは丸ノ内線の後楽園駅や大江戸線の春日駅も利用できます。 影響が大きいというのは、移転によって新刊見本のための取次訪問(上位五社)に新しいルートを加えなければならなくなったということです。これまではたとえば、江戸川橋駅から徒歩で大阪屋、太洋社、トーハンと廻り、タクシーを利用して日販へ移動、そこから坂を歩いて下って神保町の栗田へ行く、というルートが取れました。朝一番から廻れば、なんとか一人で午前中に五社を廻れる算段です。しかし、大阪屋の移転によってこのルート取りは崩れ、午前中に五社を廻りきるのが困難になりました。25日の〆日が近くなれば仕入窓口が混雑しますから、余計に午前中にコンプしにくくなります。私は先日、電車の人身事故に遭遇しただけで、大きなルート変更により午前中に廻りきることができませんでした。 通常は中二日(〆日近くは中三日、トーハンと日販についてはここ十年以上は通常でも中三日)で搬入できるはずの大阪屋ですが、中二日で取ってもらうためには午前11時半までに仕入窓口で手続きを済ませなければなりません。移転後に少しはこの要件が緩和されるのではと期待していたものの、結局緩和されませんでした。さらに面倒なことに、大阪屋と栗田が協働で設立した流通センターOKC(埼玉県戸田市)の2010年秋からの稼働により、栗田と搬入日を合わせなければなりません。その場合、大阪屋の搬入日に栗田が合わせることはできても大阪屋が栗田に合わせてくれることは序列上期待できないため、順番としてはどうしても大阪屋へ先に廻らなければならないのです。 車で廻るにせよ、電車で廻るにせよ、一人で取次を廻っている出版社にとっては小さくない問題です。扱い部数(搬入部数)の多寡から考えると、もう一度スタート地点を江戸川橋駅に設定した場合、まず太洋社を廻り、トーハンへ徒歩移動し、トーハンから日販はタクシー、日販から地下鉄丸ノ内線の御茶ノ水駅に行き、後楽園駅で降りて大阪屋、大阪屋から都営三田線の春日駅、そこから神保町駅まで乗って徒歩で栗田、という風になります。やはり午前中に一人で五社訪問というのは仕入窓口が混んでもアウトですし、人身事故などによるルート変更でもたぶんアウトです。万一、午後見本になると、トーハンや日販はあらかじめ仕入に一報入れておかないと長時間待たされますから、やはりトーハンと日販を優先することは不可避です。 困ったことがもうひとつあります。大阪屋より先に移転報道が出ていた太洋社はこの秋に本社移転予定のはずです。千代田区外神田(末広町)という、地下鉄銀座線の末広町駅がおそらく最寄でJR秋葉原駅からはやや歩く立地のためか、版元各社から苦言を呈されているようです。それも当然で、もし本当に末広町に移転になれば、太洋社へ廻る順番はいよいよ五番目にならざるをえず、今度こそ本当に午前中に五社を廻りきることは不可能に近くなります。午前中に廻りきらないということは、午後に廻る取次の搬入日がほかとは一日遅れるという意味ですから、太洋社への新刊納品のみ一日後にズレるということになります。太洋社が業界五番手である以上、今のままトーハンの近くに所在している方が有利なのです。他に選択肢があるとすれば、板橋時代の栗田さんのように、郵送による見本出しを全面解禁し、なるべく他社と同日搬入になるよう版元に手を講じてもらうか、見本出しが遅れても搬入日を遅らせないように太洋社が配本体制を整えるほかありません。 先日ある中堅老舗版元さんとお話しをした時、「取次の仕入窓口機能を一カ所に集約できればいいのにねえ」という至極ごもっともな意見を聞きました。私もまったく同感ですが、各社の空気を窺う限りでは、残念ながら夢のまた夢、のような気がします。取次にとっては仕入業務の全体的な合理化が、中小版元にとっては見本出し業務の合理化が問われているわけです。 +++ 【6月14日追記】太洋社や大阪屋をも巻き込んだ日販とトーハンとの間の帳合変更戦争についてはこれまでも幾度か言及してきましたが、その本質はDNPグループとトーハンの対立でした。日販、トーハン、大阪屋の三社と取引していたブックファーストが先ごろトーハン傘下になり、大阪屋への痛打となって取次業界のパワーバランスに揺らぎが見え始めていることも先日書きましたが、ブックファーストを子会社化したことによって、弊社のような零細レベルでもトーハンの売上が上昇傾向にあることが見受けられます。 かつて、ジュンク堂書店が全国展開を開始し、ブックファーストとともに好調に店舗数を伸ばし、さらにはアマゾンと取引開始をした頃は、これも弊社の話ですが、単月で大阪屋への注文出荷額がトーハンのそれを上回ることも時折ありました。人文書をはじめとする専門書業界ではおそらく似たような状況があったと思います。 大阪屋の躍進を感じていた日々は長くは続かず、注文よりKBCやiBCなど流通センターへの延勘出荷の比率が増え出しました。そこへブックファーストのトーハンへの帳合変更です。そのあとに、大阪屋に対して楽天やDNPグループ、さらに音羽や一ツ橋からも出資がある、と。楽天ブックス自体は日販帳合ですが、これが大阪屋帳合のリアル書店との連携でどう変わるのか、注目です。 また、大阪屋は栗田と新刊配本および注文出荷の物流合理化で提携していますし(OKC)、続く第五位の太洋社は日販、大阪屋、栗田、日教販とともに「出版共同流通」への参加で返品や雑誌送品業務を合理化しています。こうした図式から考えると、トーハン以外の取次は結束を年々強める傾向にあり、トーハンおよびセブン&アイはあたかも包囲網を敷かれているようにも見えます。しかし大阪屋にDNPや音羽、一ツ橋がマネーを投じているのは、トーハンへの包囲網という以上に、独走や抜け駆けを許さない三すくみの状況があるような印象もあります。これはあくまでも傍目の外見に過ぎず、真実はもっと「奇なり」なのだろうと思います。 それにしても、インターネット通販大手(楽天)が取次(大阪屋)を飲み込む、というのは、2008年にあった二つの出来事、すなわち新古書店(ブックオフ)が新刊書店チェーン(青山BC)を取り込み、自費出版最大手(文芸社)が中堅版元(草思社)を傘下に収めたのと同様に、非常に象徴的な転換点だと思います。業界再編劇はまだまだ続くのでしょう。 ◎大阪屋さん関連の最近の報道 「大阪屋、楽天と資本・業務提携の協議始まる」新文化、2013年6月4日 大阪屋は、6月4日付「日経新聞」朝刊1面の記事「出版取次3位 楽天傘下に」について、「まだ、何も決まっていないこと。6月27日の株主総会の議案にもない」〔・・・〕「話合いに入ったことは事実だが、決まったことではない」と話している。 「楽天、出版取次3位傘下に 2000書店で受け取り」日本経済新聞、2013年6月4日 楽天は出版取次3位の大阪屋(大阪市)を傘下に収める。7月にも大阪屋が実施する第三者割当増資を10億円前後で引き受け、3割超を出資する筆頭株主になる。大阪屋と取引のある全国約2000の書店で、仮想商店街「楽天市場」で購入した商品を消費者が受け取れるようにする。インターネット通販が実店舗に販売網を持つ企業をのみ込んで事業拡大を目指す象徴的な事例になる。〔以下略〕 「大阪屋の南雲社長、「資本・業務提携の協議は事実」」新文化、2013年6月5日 〔冒頭略〕南雲隆男社長が一連の一般紙の報道について言及。楽天、講談社、小学館、集英社、大日本印刷と現在、「資本・業務提携の協議に入っていることは事実」〔・・・〕「楽天の基盤を活用して、書店向けに新サービスを提供し、新たな風を吹き込む役割を果たしていく。みなさんの期待を裏切らぬよう努めたい」と語った。〔以下略〕 「大阪屋、大幅な減益決算に」新文化、2013年6月13日 〔冒頭略〕アマゾンジャパン、既存店の売上げ不振、ジュンク堂書店新宿店の閉店などにより、売上高が250億円以上減少した。1000億円を切ったのは46期以来20年ぶり。期中、帳合変更したブックファーストの毀損分は1カ月分であるが、今期67期から通期にわたり影響する。〔以下略〕
by urag
| 2013-06-13 18:54
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