2013年 05月 23日
「京都新聞」5月10日夕刊の「灯」欄に内田孝さんの署名で掲載された「ある編集者の死」で、二宮隆洋さん追悼フェア@ジュンク堂書店京都店が取り上げられました。「70年代後半から30年余りに刊行された重厚なハードカバーの数々が、書店の入り口で存在感を示す。〔・・・〕売行きは好調だという。通常はあまりない哲学書の発注に驚き、フェア会場を見学に訪れた出版社もあったとか。〔・・・〕かつて京都書院や丸善、駸々堂が個性を競い合った京都。おそらくは数々の書店が育てた異能の編集者の種が、次世代に引き継がれ再び芽を出すかもしれない」。 二宮さん追悼フェアはいよいよ今月いっぱい、5月31日(金)まで。税込6,000円以上をお買い上げのお客様に差し上げているノヴェルティのカラー冊子「親密なる秘義」は残りわずかとのことですので、どうぞお早めに。遠方のお客様も、税込6,000円以上のお買い上げで、本と一緒に冊子を着払い代金引き換えで宅配することができる(送料サービス、代引手数料300円)とのことで、すでに利用されているお客様もいらっしゃるようです。 ◎二宮隆洋さん追悼フェア――彼の手掛けた本と蔵書たち 会期:2013年4月9日~5月31日 会場:ジュンク堂書店京都店 1F入口左手フェアコーナー ※カラー冊子「親密なる秘義」は税込6,000円以上お買い上げの方に差し上げます。備え付けの配布券をレジまでお持ち下さい。無くなり次第終了とさせていただきます。 内容:去年2012年4月15日に、享年60歳でお亡くなりになったフリー編集者二宮隆洋さんの追悼フェアです。二宮さんがこれまでに手掛けられた書籍(で現在まだ在庫があるもの)や、ご本人の蔵書にあった本などを集めて展開しています。二宮さんは平凡社で『西洋思想大事典』(叢書「ヒストリー・オヴ・アイデアズ」)や、「エラノス叢書」、「ヴァールブルク・コレクション」、『中世思想原典集成』などを手掛けた編集者であり、人文書業界で知らぬ者はいません。近年では中央公論新社の『哲学の歴史』の編集にも協力されました。最近、慶應義塾大学出版会より発売されたエヴァンズ『バロックの帝国』も、二宮さんの置き土産の一つで、今後も版元各社から「二宮本」が当分の間刊行され続けることでしょう。カラー冊子を作成された、二宮さんのご友人で編集者・詩人の中村鐡太郎さんから続刊予定の一端を伺ったことがありますが、ゾクゾクするようなラインナップでした。 ![]() +++ 余談ですが、私が今まで関わったことのある「編集者追悼フェア」は二つありました。ひとつは、哲学書房の社主である中野幹隆(1943‐2007)さんの追悼フェア(「中野幹隆という未来――編集者が拓いた時代の切鋒」@ジュンク堂書店新宿店、池袋本店、京都BAL店、2007年)。もうひとつは今回の二宮隆洋(1951‐2012)さんの追悼フェア(「親密なる秘義――編集者二宮隆洋の仕事 1977-2012」@ブックファースト青葉台店、2012年;「二宮隆洋さん追悼フェア――彼の手掛けた本と蔵書たち」@ジュンク堂書店京都店、2013年)です。 中野さんと二宮さんは私がもっとも尊敬し、目標としている編集者です。その中野さんと二宮さんにも、尊敬する編集者はいらっしゃいました。かつて中野さんご本人から伺った時、中野さんは村上一郎(1920‐1975)さんのお名前を挙げられました。村上さんは周知の通り評論家であり作家でいらっしゃいましたが、「日本評論」誌や個人誌「無名鬼」の編集を手掛けられたほか、吉本隆明さんや谷川雁さんと雑誌「試行」の同人を10号までおつとめになりました。評論家としての代表作に『日本のロゴス』(南北社、1963年)、『北一輝論』(三一書房、1970年)などがあり、国文社から『村上一郎著作集』(全12巻、1977-1982年)が刊行されています。三島由紀夫さんが自害された5年後に自宅で自刃されました。 一方、二宮さんが目指しておられたのは、平凡社の先輩編集者でもある林達夫(1896‐1984)さんでした。より正確に言うと、林達夫さんが構想された「精神史」が扱う領域の未訳書をすべて出版するというのが、二宮さんの平凡社入社当時の目標だったと聞きます。これは先輩編集者で現在は東アジア出版人会議理事でいらっしゃる龍澤武(1946‐)さんが二宮さんの「偲ぶ会」で明かしておられたエピソードです。林達夫さんは『世界大百科事典』の編集責任者でいらっしゃいました。『哲学事典』にも執筆と編集に携わっておられます。その該博な知識と秀でた語学力で、学者をも凌ぐ知的活動を貫かれた方です。著書は『林達夫著作集』(全6巻、平凡社、1971-1972年;別巻「書簡集」1987年)や、『林達夫セレクション』 (全3巻、平凡社ライブラリー、2000年)などにまとめられています。 こうした偉大な先達の事績を思う時、あとを走る自分自身の小ささにあらためてただただ唖然とします。
by urag
| 2013-05-23 18:34
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