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2013年 05月 19日

注目新刊:只今来日中のラトゥーシュ『〈脱成長〉は、世界を変えられるか?』作品社、ほか

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〈脱成長〉は、世界を変えられるか?――贈与・幸福・自律の新たな社会へ
セルジュ・ラトゥーシュ(1940-)著 中野佳裕訳
作品社 2013年5月 本体2,400円 46判上製332頁 ISBN978-4-86182-438-8

帯文より:グローバル経済に抗し、“真の豊かさ”を求める社会が今、世界に広がっている。〈脱成長〉の提唱者ラトゥーシュによる“経済成長なき社会発展”の方法と実践。

★まもなく発売。現在11刷に達するというロングセラーの『経済成長なき社会発展は可能か?――〈脱成長〉と〈ポスト開発〉の経済学』(中野佳裕訳、作品社、2010年7月)に続く、単独著の翻訳第二弾。原著は、Pour Sortir de la société de consommation (Les Liens qui libèrent, 2010) 。日本語版では新たに序文「日本の経済成長なき繁栄の道とは?――失われた「知恵」の再発見」や、付録「〈脱成長〉の美学」が加えられているほか、訳者により長篇解説「〈脱成長の倫理学〉への道案内」を併録しています。付録「〈脱成長〉の美学」では、フランスの学術誌「エントロピア Entropia」で発表された二つの論文「出版の危機および/もしくは文明の危機」(2010年春季第8号)と「ウィリアム・モリス、あるいは具現化されたユートピア」(2011年春季第10号)が訳出されています。

★著者は現在来日中です。すでに同志社大での講演「脱成長の挑戦――なぜ消費社会は北側諸国だけでなく、南側諸国でも持続不可能なのか?」(5月17日、同志社大学今出川キャンパス寒梅館211教室)と、アスクネイチャー・ジャパン主催の滋賀でのシンポジウム「足るを知る日本の成長」(ラトゥーシュ講演は「脱成長とは何か?」、5月18日、滋賀県大津市・コラボしが21大会議室)を終え、今週は以下の通り火曜、金曜、土曜と東京で講演会があります。実に精力的ですね! 訳者の中野さんのブログにまとめ情報があります。

◎講演「なぜ日本でもアフリカでも消費社会の未来はないか?」2013年5月21日(火)16:45-18:15、明治学院大学戸塚校舎 9号館3F 930教室。
◎講演「消費社会からの脱出」2013年5月24日(金)18:30-20:30、日仏会館1階ホール
◎講演「〈脱成長〉は世界を変えられるか?」2013年5月25日(土)15:00-18:00、麗澤大学東京研究センター

★なお、訳書第一弾『経済成長なき社会発展は可能か?』が刊行された2010年の折にもラトゥーシュさんは来日しています。東京と京都の大学での講演論文「フクシマ原発災害で日本が変わる!?」と「〈脱成長〉の道」は、中野さんの論文「〈脱成長〉の正義論」や、アラン・カイエの2論文などと併せてアンソロジー『脱成長の道――分かち合いの社会を創る』(勝俣誠+マルク・アンベール編著、コモンズ、2011年5月)に収録されています。必読ですね。


ゲリラと森を行く
アルンダティ・ロイ(1961-)著 粟飯原文子訳
以文社 2013年5月 本体2,800円 四六判上製244頁 ISBN978-4-7531-0313-3

帯文より:グローバル資本の最大の犠牲者=抵抗者。経済発展を謳歌するインドで、掃討すべき「脅威」と名指される「毛派」とはどんな人々なのか。インドの世界的女性作家が、生きのびるために銃をとった子どもたち、女性たちと寝食、行軍をともにし、かれらが守り守られる森のなかに、グローバル資本から逃れ出る未来を構想する。

★まもなく発売。原書は、Walking with the Comrades (Penguin, 2011)です。インド共産党毛沢東主義派を取材したもので、「敬礼を受ける大統領」という序文に始まり、「チダンバラム氏の戦争」「同志たちと歩く」「トリクルダウンの革命」という3つのエッセイと多数の写真を収録しています。「訳者あとがき」によれば本書は、国家とテロリスト集団(と見なされた毛派)との間の戦争を「多国籍企業と結託した国家権力」対「持たざる者たちの戦争」、「ひいては対民主主義の戦争」として捉えたもので、「毛派を特異な「暴力主義」の理解に押しこんで一蹴することを拒絶し、非常に慎重に、留保をつけながらではあるものの、過去現在の抵抗運動のスペクトルの一部としてとらえ」(229頁)たものだと解説されています。

★訳者の粟飯原文子(あいはら・あやこ)さんは現在、神奈川大学外国語学部非常勤講師で、アフリカ文学・文化研究がご専門です。先月、ヴィジャイ・プラシャドの訳書『褐色の世界史――第三世界とはなにか』(水声社、2013年)を上梓されたばかり。ロイとプラシャドの本の刊行を記念して、以下のイベントが来月行われます。

◎21世紀に第3世界を考える――新しい世界史と日本のためのパースペクティヴ

日時:2013年6月16日(日)午前10時30分~
場所:ジュンク堂書店池袋本店 4F 喫茶コーナー
講師:池上善彦(元『現代思想』編集長)×粟飯原文子(アフリカ文学・文化史)
料金:1000円、ワンドリンク付

★なお参考までに、ロイさんが2011年11月17日にワシントンスクエア公園の人民大学(People's University)で発表した「私たちはみな占拠者だ(We are all Occupiers)」というスピーチの動画(日本語字幕付)を貼っておきます。



身近な薬用植物――あの薬はこの植物から採れる
指田豊・木原浩著
平凡社 2013年5月 本体2,400円 A5判並製304頁 ISBN978-4-582-51330-1

帯文より:あなたの近くにもある、体をいやす美しい植物。ビジュアルとエッセイで、楽しみながら知る重要な薬用植物60種。「その他の薬用植物60種」のデータも収録。

★まもなく発売。季節ごとに薬用植物60種を、それぞれ2頁に渡る美しいカラー写真と1頁2段組の簡潔な解説、そして由来する生薬の概要情報を付して1冊にまとめたものです。一部は雑誌「メディカル朝日」の連載に加筆したものとのことです。巻末には追加分として60種のデータ(写真はなし)と、「薬用植物の歴史と今」という丁寧な論考が併録されています。植物好きの読者にお薦めできるだけでなく、民俗学や歴史研究、文学研究上の必要知識を提供してくれる実用的データブックとしても役立つと思います。

注目新刊:只今来日中のラトゥーシュ『〈脱成長〉は、世界を変えられるか?』作品社、ほか_a0018105_22544832.jpg

ミラーさんとピンチョンさん
レオポルト・マウラー(1969-)著 波戸岡景太訳
水声社 2013年4月 本体1,500円 A5判並製184頁 ISBN978-4-89176-964-2

帯文より:「ピンチョン、おれたちは道に迷ったのか?」 世界の崖っぷちをあざやかに描くオフビートなグラフィック・ノベル、ついに初来日!

版元紹介文より:軽妙な描線に導かれる 乾いた笑い そして憂鬱……。野暮ったい測量器具を片手に荒野をゆく2人の中年男、その名もミラーとピンチョン。くしくも現代アメリカを代表する作家と同じ姓をもつ、彼らのゆく手に待ち受けるのは、女、ワニ、奇蹟、金星、そしてオオカミ少年……? ウィーン発、新世紀型エンターテインメント!

★発売済。原書は、Miller & Pynchon (Luftschacht Verlag, 2009)です。土木技師ミラーと天文学者ピンチョンの測量旅行と、最後の旅である金星の太陽面通過の観測を描いたコミックです。訳者は水声社さんから『ピンチョンの動物園』(2011年)、『コンテンツ批評に未来はあるか』(2011年)、『動物とは「誰」か?』(2012年などを上梓されている米文学研究者の波戸岡景太(はとおか・けいた:1977-)さん。内容を一言で言うと「(男にとっては)切ない」、です。ネタバレはやめておきますが、ミラーと息子の関係や、ピンチョンと亡き母親および亡き妻との関係が、何とも言えない哀愁を帯びています。

★私の周囲では女性読者の関心が高いです。水声社さんのブログでも、女優の小橋めぐみさんがブログで取り上げていらっしゃることを伝えています。小橋さん曰く「朝から、くすくす笑いながら、読み終えました。かなり、シュールです」。確かに笑いの要素があるのですが、心が疲れている男性にはどれもこれも沁みるもので、しまいには泣けてくるかもしれません。本書は「男心」を描いたなかなか卓抜な本だと思います。

★本書の担当編集者Sさんはシリーズ「ロックの名盤!」も手掛けられており、今月はスティーヴ・マッテオ『レット・イット・ビー――ザ・ビートルズ』(石崎一樹訳)が出ています。アルバムの来歴を紙上再現するこのシリーズの面白さはすでに既刊書でも実証済みですが、「訳者あとがき」によれば今回の本は「原書自体は二〇〇四年に刊行されたものだが、本書で初めて明らかになった事実も多いせいか、本国ではすでに四版を重ねている」とのことです。シリーズの次回配本は6月末、ビル・ヤノヴィッツ『メインストリートのならず者――ローリング・ストーンズ』とのことです。また、水声社さんのプレスリリース29号によれば、6月上旬に、A・カリオラート+J-L・ナンシー『神の身振り』を発売予定とのことです。

★さて水声社さんの今月新刊に戻りますと、ちょうど一年前に中村真一郎の会編『中村真一郎手帖7』と、『中村真一郎 青春日記』が同時発売されたのに続いて、今月『手帖8』が刊行されています。前号『手帖7』の目次詳細は書目のリンク先をご覧下さい。版元紹介文によれば前号は、「人間中村真一郎をめぐる唯一の個人研究誌、第7号。今号は同時刊行される『中村真一郎 青春日記』を特集。若き日の中村真一郎が綴り続けた「日記」を、気鋭の研究者たちが読解する。中村真一郎に親炙した友人・知人による寄稿も併録」とのことでした。一年後に刊行された同8号では、巻頭に清水徹さんによる追悼文「丸谷才一さんを偲んで」がおかれ、続けて「『中村真一郎 青春日記』と旧制高校」と題したパネル・ディスカッションが収録されています。パネラーは依岡隆治さん、竹内洋さん、鈴木貞美さんで、司会は石川肇さんです。中村真一郎さんの旧制高校時代の膨大な日記の完全翻刻版である『中村真一郎 青春日記』の刊行記念として行われた鼎談で、非常に興味深いです。

★さらに水声社さんでは、今年初めに第12回配本(『リモンの子供たち』)をもってめでたく完結となった『レーモン・クノー・コレクション』の全巻予約特典である非売品『100兆の詩篇』(塩塚秀一郎・久保昭博訳、限定300部、2013年3月)がゴールデン・ウィーク前から配布開始となっています。無料とは思えない瀟洒な作りで(写真右端が現物です)、本好きにはたまらないお宝かと思います。100兆通りを楽しむためには行ごとにハサミを入れてバラバラにしなければならないのですが、私自身は怖くてまだ切っていません。
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by urag | 2013-05-19 22:55 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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