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2013年 04月 07日

注目新刊:『時間のデザイン』鹿島出版会、ほか

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◎鹿島出版会さんの4月新刊より

早稲田大学渡辺仁史研究室・時間-空間研究会『時間のデザイン――16のキーワードで読み解く時間と空間の可視化』(2013年4月、本体2,400円、A5判並製240頁、ISBN 978-4-306-04578-1)
空間のデザインはごく普通によくあるテーマですが、時間のデザインがテーマというのはとても面白いですね。16のキーワードが豊富な図版とともに論じられ、18人の識者へのインタビューを併載しています。キーワードとインタビュイーを列記すると、瞬間:ホンマタカシ/履歴:藤村龍至/同時性:長坂常/速度:廣村正彰/一時的:猪熊純・山本陽一/持続:秋田道夫/遷移:内藤廣・宮城俊作/深化:平田晃久/シークエンス:中原慎一郎・石川初/奇跡:中村拓志/転換:リッキー・バーデット/リズム:南後由和・白井宏昌/蓄積:柳本浩市/密度:石上純也/予測:金田充弘/歪める:杉浦康平。カバーソデの紹介文によれば、本書は「ロゼッタストーンや錦絵から、杉浦康平、コールハースのダイアグラムまで、可視化された「時間」のイメージを16のキーワードに沿って最終。また、第一線で活躍するデザイナーらの「時間」に向き合うデザインを紹介。「時間」を探究する、濃密な一冊」です。個人的には「リズム」と「蓄積」が興味深く拝読しました。この二つのキーワードでは、社会学者の南後さんの「都市の奏でるリズム」、建築家の白井さんの「都市のリズムを再編する」、コミュニケーション・ディレクターの柳本さんの「データベースか、もののアーカイブか」の三本のインタビューを読むことができます。可視化された時間というテーマは書籍や書棚の編集にも関係してくることなので、本書は文理の区別なく業界人にとって非常に示唆的だと感じました。


◎河出書房新社さんの4月新刊文庫より

中谷宇吉郎『科学以前の心』(福岡伸一編、河出文庫、2013年4月、344頁、ISBN978-4-309-41212-2)
「雪の結晶は、天から送られた手紙である〔…〕。そしてその中の文句は結晶の形および模様という暗号で書かれているのである」という名文句で有名な随筆『雪』(岩波文庫)で知られる科学者の、「ベスト&レア・エッセイ」を、生物学者の福岡伸一さんが集成したもの。「学生時代を過ごした金沢の旧家での思い出から科学する心の大切さを説いた表題作のほか、日食や気象、温泉や料理、映画に書道に古寺名刹、戦中戦後の疲労と希望、そして原子力やコンピュータまで」(カバー紹介文より)を語った、25編が収められています。列記しますと、雪の話/粉雪/雪今昔物語/鼠の湯治/映画を作る話/科学以前の心/実験室の記憶/簪を挿した蛇/未来の足音/室鰺/真夏の日本海/北海道の夏/十勝の朝/温泉/日食記/馴鹿(トナカイ)橇/八月三日の夢/イグアノドンの唄――大人のための童話/私の履歴書/墨色/古寺随想/吉右衛門と神鳴/露伴先生と神仙道/なにかをするまえに、ちょっと考えてみること/機械の恋。巻末には編者の福岡伸一さんによる解説「科学という詩」と、中谷芙二子さんの「父の言葉」が収録されています。

なお、来月の河出文庫の新刊では、トール・ヘイエルダール『コン・ティキ号探検記』(水口志計夫訳)や、ジャン=クレ・マルタン『ドゥルーズ――経験不可能の経験』(合田正人訳)が予告されています。版元紹介文によれば後者は「ドゥルーズの薫陶をうけた哲学者がその諸概念を横断しながら、ドゥルーズ哲学のエッセンスをとりだすあざやかな名著。文庫版で初訳。日本語版のみ「ドゥルーズとグァタリ」収録」とのことです。

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◎ナカニシヤ出版さんの4月新刊より

水溜真由美『『サークル村』と森崎和江――交流と連帯のヴィジョン』(2013年4月、本体3,800円、四六判上製424頁、ISBN978-4-7795-0755-7)
2005年に東京大学大学院総合文化研究科に受理された博士論文「『サークル村』と森崎和江――戦後日本における「連帯の思想」の一系譜」を大幅に加筆修正したもの。主査は瀬地山角教授。著者の水溜真由美(みずたまり・まゆみ:1972-)さんは現在北海道大学大学院文学研究科准教授。本書の「おわりに」にはこうあります。「今日の日本社会では、労働組合は時代遅れなものとみなされ、労働者の分断や孤立が常態化している。本書は、ある人々にとっては、労働運動がさかんだった時代についての懐古的な研究としかみえないだろう。たしかに、本書で熱かった1950年代と比べて、日本の労働運動が著しく衰退してしまっていることは事実である。だが、資本主義システムが存続する限り、団結することは労働者が競争や搾取から身を守る主要な手段であり続ける。その意味で、1950年代のサークル運動家が直面した課題は今日の課題であるし、ネオリベラルな価値観が圧倒的に優勢となっている今日、いっそう切実な課題である。1950年代のサークル運動をそのままの形で復活させることは可能でも優位未でもないだろうが、21世紀を生きる私たちにとって労働者をつなぐ回路がどのようなものでありうるか考えるためにも、1950年代の運動から学ぶものがあると信じている」(396頁)。


清水耕介『寛容と暴力――国際関係における自由主義』(2013年4月、本体3,500円、四六判上製296頁、ISBN978-4-7795-0750-2)
2007年から2011年にかけて雑誌や紀要、アンソロジーなどに発表された11の論考をまとめたものです。著者の清水耕介(しみず・こうすけ:1965-)さんは龍谷大学国際文化学部教授。ご専門は、国際関係、国際政治経済学、政治思想で、著書に『市民派のための国際政治経済学――多様性と緑の社会の可能性』(社会評論社、2002年)、『テキスト国際政治経済学――多様な視点から「世界」を読む』(ミネルヴァ書房、2003年)、『グローバル権力とホモ・ソーシャリティ――暴力と文化の政治経済学』(御茶の水書房、2006年)があります。最新著『寛容と暴力』は、巻頭の「はじめに」によれば「「危機の二十年」の状況を念頭におきながら現代を読み直す試みの一環」で、以下の三点を論じておられます。「一つは、主として自由主義と暴力性との問題である。そこでは自由主義に埋め込まれた暴力性の問題をできるだけ具体的に説明する。次に、自由主義が隆盛を極めるようになった背景ともいえる、国際関係における覇権の問題である。覇権の衰退がいかに自由主義の隆盛を導くのかという点を中心に議論を進める。最後に、自由主義言説のなかでも、特に最近注目されている人間の安全保障に注目し、批判的な解釈の可能性に言及する。そこではフーコーの統治性の概念などを使いながら、人間の安全保障が「個人」を生み出すさまを描く」(iv-v頁)。清水さんはこうも書きます。「自由主義政治経済学の一つの、しかしながら非常に重要な機能は、この責任主体としての「個人」を作り出すことにあるともいえる。その結果、個人は疎外され、孤立化され、連帯感を失うこととなる。[…]個人の孤立化と公共性の喪失は、アレントのいう私的領域に埋め込まれた暴力性の社会への噴出を意味する。今日、社会はすでに公的領域から私的領域の単なる集合体へと変化している」(iv頁)。「劣者に対する爆発的な暴力」の肯定(192頁)など、本書の鋭い社会分析は読む者の胸に突き刺さります。

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◎洛北出版さんの4月新刊

澁谷知美『立身出世と下半身――男子学生の性的身体の管理の歴史』(2013年3月、本体2,600円、四六判上製605頁、ISBN978-4-903127-18-7)
2009年に東京大学大学院教育学研究科に受理された博士論文「青少年男子の性的身体の管理をめぐる社会史――一八九〇~一九四〇年代の就学者を中心に」を加筆訂正し、資料を付したもの。主査は苅谷剛彦教授。本書は副題からも分かる通り、少年の性や身体を大人がどう管理しようとしたか、その歴史を解明したもので、帯文には「過去の、教師や医師による発言、学校や軍隊、同窓会関連の書類、受験雑誌、性雑誌を渉猟し、当事者へのインタビューを敢行」した10年に及ぶ探究の成果、とあります。その奥ゆきたるや、実に興味深い大作です。また、このヴォリュームにも関わらずこの値段というのは驚きです。本文の組版設計もカバーデザインもともに編集担当のTさんによるものですが、その美しさはオリジナルの域に達しています。著者の澁谷知美(しぶや・ともみ:1972-)さんは東京経済大学准教授。ご専門は教育社会学で、著書の『日本の童貞』(文藝春秋、2003年)、『平成オトコ塾――悩める男子のための全6章』(筑摩書房、2009年)は大きな話題を呼びました。


◎平凡社さんの4月新刊より

石鍋真澄『フィレンツェの世紀――ルネサンス美術とパトロンの物語』(2013年4月、本体5,400円、A5判上製528頁、ISBN978-4-582-65208-6)
著者の石鍋真澄(いしなべ・ますみ:1949-)さんは成城大学教授。イタリア美術研究の重鎮で、近年の著書に『ピエロ・デッラ・フランチェスカ』(平凡社、2005年)があります。今回の新著は石鍋さんの代表作『聖母の年シエナ――中世イタリアの都市国家と美術』(吉川弘文館、1988年)の続篇に位置づけられており、美術を社会のコンテクストの中で理解しようとしたもので、2010年4月から翌年2月までのフィレンツェ滞在中に執筆され、帰国後に加筆推敲されたとのことです。コジモやロレンツォなどメディチ家の時代(1434-1500)だけでなく、メディチ以前(1400-1434)も扱っており、15世紀のフィレンツェ・ルネサンスを描いています。帯文に曰く「職人が美術家に変わりつつあった時代、芸術作品は美術家とパトロンとの協働によって創造された。数々の傑作を生み出した15世紀フィレンツェ社会、ギルドや家系・結婚など、政治体制から市民意識までその姿を丹念に描くとともに、建築・絵画・彫刻のみならず工芸作品にまで丁寧に目配りすることでまったく新しいルネサンス・イメージが浮彫になる」。

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◎水声社さんの3月、4月の新刊より

ニコラ・コンタ『一八世紀印刷職人物語』(宮下志朗訳、2013年3月、本体2,500円、四六版上製205頁、ISBN978-4-89176-948-2)
「水声通信」誌での宮下さんの連載「出版史の余白に」で八割方訳されていた、ニコラ・コンタ『印刷職人たちの独特の風俗・習慣を記述した、印刷業の逸話集』の完訳。ニコラ・コンタ(Nicolas Contat, 1717-1768)は、18世紀パリの印刷職人、木版画の彫り師、ワイン商。かの歴史家ロバート・ダーントンの名著『猫の大虐殺』所収の論文「労働者の叛乱――サン・セヴラン街の猫の大虐殺」に出てくる、あの人物です。帯文に曰く「工房への入会儀礼、印刷工の組合やその規定、地下印刷の裏側など、コンタ自身の体験をもとに、産業革命前夜の18世紀の印刷工房の様子をいきいきと詳細につたえる、貴重なドキュメント」。本邦初訳となるレチフ・ド・ラ・ブルトンヌ「レチフ、職工長となる」も併録しています。業界人必読ですね。宮下先生は「訳者解説」で次の訳書も推薦されています。いずれも職人の自伝やそれに準じるフィクションです。
|トマス・プラッター『放浪学生プラッターの手記』平凡社、1985年
|ジャン=ジル・モンフロワ『消えた印刷職人』晶文社、1995年
|レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ「ムッシュー・ニコラ」、『筑摩世界文学大系23』所収、1977年
|ジャック=ルイ・メネトラ『わが人生の記』白水社、2006年
|マルタン・ナド『ある出稼ぎ石工の回想』岩波文庫、1997年
|バルザック『幻滅』東京創元社、1974年;藤原書店、2000年


ヴィジャイ・プラシャド『褐色の世界史――第三世界とはなにか』(粟飯原文子訳、2013年4月、本体4,000円、四六判並製2段組447頁、ISBN978-4-89176-927-7)
著者のプラシャドは米国のトリニティ・カレッジの国際学教授。原書はThe Darker Nations: A People's History of the Third World (New York: New Press, 2007)で、帯文の言葉を借りると「激動の20世紀を〈第三世界〉の視座から描き出し、その未発のままの歴史/運動/現在をトータルに総括する待望の一冊」です。識者による評価は以下の通り。「今日実行可能な政治プログラムを策定するうえで不可欠な知識」(I・ウォーラーステイン)、「正史や主流メディアの陰に潜む輝かしい世界を発見する手がかり」(E・ガレアーノ)、「ヴィジャイ・プラシャドは貴重な歴史資源を掘り起こした」(P・ギルロイ)。


セルヒオ・ラミレス『ただ影だけ』(寺尾隆吉訳、2013年4月刊、本体2,800円、四六判上製328頁、ISBN978-4-89176-950-5)
新たなラテンアメリカ文学シリーズである「フィクションのエル・ドラード」の第一回配本です。ニカラグアのソモサ独裁政権を打倒したサンディニスタ革命で処刑された、実在の人物をモデルにした小説です。作家のセルヒオ・ラミレス(Sergio Ramírez, 1942-)は知識人の一人としてサンディニスタ解放戦線を支持していました。カルロス・フエンテスによる評価が帯に刷られています。「アイロニーと距離感、内面性とユーモア。セルヒオ・ラミレスは銅のような三面記事から言葉と想像力で黄金を生み出す錬金術師だ」。第二回配本は来月5月、アルゼンチンの作家フアン・ホセ・サエールの『継子(仮)』が予定されているとのことです。


伊藤亜紗『ヴァレリーの芸術哲学、あるいは身体の解剖』(2013年4月刊、本体3,000円、四六判上製280頁、ISBN978-4-89176-926-0)
2010年に東京大学大学院人文社会系研究科に受理された博士論文「身体的諸機能を開発する装置としての詩――ヴァレリーにおける詩の位置づけと身体観」を元に書かれたもの。当時の主査は西村清和先生(現在は東京大学名誉教授)。著者の伊藤亜紗(いとう・あさ:1979-)さんは東京工業大学リベラルアーツセンター准教授。帯文に曰く本書は「ヴァレリーが夢見た「純粋性」とは何だったのか。『カイエ』等の膨大な断片から、作品論、時間論、身体論を再構成する作業を通じて、その謎に迫る」。美麗な装丁は前田晃伸さんによるもの。


川上陽子『三島由紀夫――〈表面〉の思想』(2013年4月、本体4,000円、A5判上製275頁、ISBN978-4-89176-949-9)
2011年に京都大学大学院人間・環境学研究科に受理された博士論文「三島由紀夫 『表面の思想』」に大幅な加筆修正を加えたもの。当時の主査は田邊玲子教授。著者の川上陽子(かわかみ・ようこ)さんのご専門は現代文学論。帯文に曰く本書は「三島にとって〈私〉とは誰だったのか?『仮面の告白』『金閣寺』から『豊穣の海』にいたる代表作の精緻な分析を通して、現実/虚構/言語/肉体に捕らわれた作家の〈表面〉をあぶり出す試み」。


昭和女子大学図書館編『小島信夫の書き込み本を読む――小島信夫文庫関係資料目録』(2013年3月、本体5,000円、A4判上製112頁、ISBN978-4-89176-965-9)
昭和女子大学図書館「小島信夫文庫」に収蔵された草稿、創作ノート、メモ、日記など、1500点以上の資料の目録です。カバー裏の紹介文に曰く「さらに晩年まで手許に置かれた蔵書への「書き込み」を読解し、小島信夫の実像に肉薄するエッセイを併載」。


湯沢英彦『魂のたそがれ――世紀末フランス文学試論』(2013年4月、本体3,200円、四六判上製306頁、ISBN978-4-89176-966-6)
「水声通信」誌での連載論考の加筆修正に、書き下ろしを加えた評論集。ユイスマンス、ジャン・ロラン、メーテルランク、ラシルドなど、19世紀末のフランス文学、とりわけデカダンス系の作家に焦点をあてた文学論です。著者の湯沢英彦(ゆざわ・ひでひこ:1956-)さんは明治学院大学文学部フランス文学科教授で、著書は水声社さんから『プルースト的冒険――偶然・反復・倒錯』(2001年)、『クリスチャン・ボルタンスキー――死者のモニュメント』(2004年)を上梓されています。


岡室美奈子・川島健編『ベケットを見る八つの方法――批評のボーダレス』(2013年3月、本体4,500円、A5判上製385頁、ISBN978-4-89176-898-0)
生誕100年を記念して2006年秋に早稲田大学で行われたベケット国際シンポジウム「ボーダーレス・ベケット」の日本語版論文集です。海外からは、J・M・クッツェー、スティーヴン・コナー、エヴリン・グロスマン、ブリュノ・クレマン、アントニー・ウルマン、イノック・ブレイターをはじめ、多数が参加しています。シンポジムで発表されたもののうち、21編が選ばれて掲載されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

by urag | 2013-04-07 22:59 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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