2013年 03月 24日
![]() オープンサイエンス革命 マイケル・ニールセン(Michael Nielsen, 1974-)著 高橋洋訳 紀伊國屋書店 2013年3月 本体2,200円 46判上製400頁 ISBN978-4-314-01104-4 帯文より:チェスの王者vsオンライン集合知、ギャラクシー・ズー、ポリマス・プロジェクト、フォールド・イット、リナックス、ウィキペディア、学術論文のオープンアクセス、ヒトゲノムプロジェクト……全世界の知が結集・共有され、発展に向かう――インターネットの出現で科学の営みは劇的に変わりつつある。オンラインネットワークを基盤とした新時代の科学へのマニフェスト。Open science now! 帯文(裏)より: ◎チェスの王者がネット上に集まったアマチュアたちと戦った「カスパロフ vs ワールド」 ◎アマチュア天文家たちが未知の銀河系調査に携わることができる「ギャラクシー・ズー」 ◎数学者たちがオンラインで協力して問題解決に挑む「ポリマス・プロジェクト」 ◎パズルゲーム愛好家たちがたんぱく質の折りたたみ構造を解析する「フォールド・イット」 ◎リナックス、ウィキペディア、グーグル・インフルトレンド、学術論文のオープンアクセス化、ヒトゲノムプロジェクトなど、豊富な具体例を挙げながら、現状の科学の問題点や、オンライン上で協力して科学の問題を解決する「オープンサイエンス」実現への課題を解説し、その将来を展望する。 本書への評価: 「科学の進展に注目し続けてきた著者は、インターネットを活用した新たなタイプの科学を概観するとともに、今後の変化についての洞察に満ちたアイデアを提示した。読み物としておもしろく、かつ示唆に富んだ一冊だ」(カール・ジンマー:『進化――生命のたどる道』著者)。 「本書はネットワークがいかに科学の発見方法を革新するかについて解説したものだ。手放しで推薦できる」(タイラー・コーエン:『大停滞』著者)。 原書:Reinventing Discovery: The New Era of Networked Science, Princeton University Press, 2011. 目次: 第1章 発見を再び発明する 【第1部】集合知の有効活用 第2章 オンラインツールは私たちを賢くする 第3章 専門家の注意を効率良く誘導する 第4章 オンラインコラボレーションの成功条件 第5章 集合知の可能性と限界 【第2部】ネットワーク化された科学 第6章 世界中の知を掘り起こす 第7章 科学の民主化 第8章 オープンサイエンスの課題 第9章 オープンサイエンスの必要性 補足説明――ポリマス・プロジェクトによって解決された課題 推薦図書と関連情報――さらにオープンサイエンスを考えるために 謝辞/訳者あとがき/参考文献/原注/索引 ★今週水曜日、2013年3月27日取次搬入の新刊です。著者のマイケル・ニールセン(Michael Nielsen, 1974-)は、アメリカの理論物理学者であり、プログラマー。量子コンピュータ研究のパイオニアであり、量子テレポーテーションの実験を最初に行なった研究者の一人。かのロスアラモス研究所に在籍したこともあるそうです。既訳書にアンザック・チュアン(チャンとも)との共著『量子コンピュータと量子通信』(全三巻、木村達也訳、オーム社、2004-2005年)があります。そんな著者の現在の研究テーマである「オープンサイエンス」について、これまでの数々の成功例や失敗例の歴史をまとめ、未来を展望したのが本書です。 ★訳者あとがきの言葉を借りると本書は、「1990年代以来急激な成長を遂げているインターネットを基盤とするオンライン科学プロジェクトの発展によって、技術的、制度的な面で、科学がどのように変わりつつあるかが解説」されています。各章で扱われるその発展の鍵とは、まず第2章と第3章では「オンラインプロジェクトに参加する不特定のメンバーの注意と専門知識を、集合知として活用できるよう効率よく誘導する「注意のアーキテクチャー」の構築」です。第4章は「モジュール化、再利用など、成功したオンラインコラボレーションに共通してみられるパターン」。第5章では「コラボレーションが成功する条件としての共有プラクシス」。第6章では「データのオープン化(「データウェブ」の実現)、およびそれにともなって発生する厖大なオンラインデータから意味を掘り起こす「データドリブン・インテリジェンス」の構築」。第7章では「科学の民主化」。第8章と第9章では「オープン化を妨げている現行制度(発表した論文の数を基準に研究者の業績を評価するあり方など)をどう変えていくべきかという実践的な問題」が書かれています。なお、著者による2011年3月のTEDx講演「Open science now!」も目下の彼の研究テーマである「オープンサイエンス」について語ったものです。 ★特に第8章と第9章で扱われている「オープン化を妨げる現行制度の障壁」は、出版人にとっても大きな問題で、一業界の問題という以上の政治的転換が必要だと思われてなりません。オンラインネットワークの恩恵を日々感じてきた出版人に何ができるのか、可能性が大きいだけに、本書への興味は尽きません。 ★編集担当者はIさん。紀伊國屋書店新宿本店で人文書を長く扱われた後に出版部に移られ、主に科学系の読みもので注目すべき新刊を連発してきた方です。先月ちょうど、西垣通さんの『集合知とは何か――ネット時代の「知」のゆくえ』(中公新書、2013年2月)が発売されたばかりなので、本書は科学書売場だけでなく、人文書売場でも話題を呼びそうです。Iさんからご推薦のあった本書の関連書のリストを下段に掲げます。 ◎『オープンサイエンス革命』関連書 『集合知とは何か――ネット時代の「知」のゆくえ』西垣通著 『みんな集まれ!――ネットワークが世界を動かす』クレイ・シャーキー著、岩下慶一訳 『「みんなの意見」は案外正しい』ジェームズ・スロウィッキー著、小高尚子訳 『CODE version 2.0』ローレンス・レッシグ著、山形浩生訳 『Free culture――いかに巨大メディアが法をつかって創造性や文化をコントロールするか』ローレンス・レッシグ著、山形浩生訳 『フリーソフトウェアと自由な社会――Richard M. Stallmanエッセイ集』リチャード・ストールマン著、長尾高弘訳 『ウィキペディア・レボリューション――史上最大の百科事典はいかにして生まれたか』アンドリュー・リー著、千葉敏生訳 『ウェブ進化論――本当の大変化はこれから始まる』梅田望夫著 『ウェブで学ぶ――オープンエデュケーションと知の革命』梅田望夫著 ★ところで3月28日(木)午前10時に、紀伊國屋書店のインターネットサービス「BookWeb」、「BookWebPlus」が統合されて、新サービス「紀伊國屋書店ウェブストア」が開始されますね。個人的にはかつて同チェーンのリアル店舗全店の在庫状況が商品の単品ページで一望できるようなかつての仕様がぜひ復活してほしいです。M&J同様に、それによってリアル店舗の在庫を無駄なく活用できるはずですから。店舗ごとにしか在庫を調べられないのは、まったくのナンセンスなんだと私は何度でも言いたいです。 人間理解からの教育 ルドルフ・シュタイナー著 西川隆範訳 ちくま学芸文庫 2013年3月 本体1,200円 文庫判並製288頁 ISBN978-4-480-09531-2 帯文より:みずみずしい心を育む、シュタイナー教育の知恵と実践。 カバー裏紹介文より:子どもの丈夫な身体と、みずみずしい心と、明晰な頭脳を育てよう――シュタイナーの教育では、人間の一生全体を視野に入れ、子どもの自然な成長に沿って、それにふさわしい能力を伸ばそうとする。そして、自分たちの目標が実現できるように手助けする。本書はシュタイナーが独自の教育について語った最期の教育講座の講義録。子どもたちの教育で、最も重要なことが、短くわかりやすくまとめられており、シュタイナー・カレッジの教育養成コースで最初に読むべき一冊として推薦されている。子どもたちの未来への歩みの可能性を提示する、シュタイナー教育論のすばらしい入門書。解説=子安美智子 ★発売済。親本は1996年、筑摩書房刊。シュタイナーの邦訳書はたくさんありますが、文庫で読めるのはちくま学芸文庫とちくま文庫だけ。『人間理解からの教育』は11冊目の文庫です。本書は1924年の夏の講義録で、イギリスにシュタイナー学校を設立する人々のために行われたものです。ごく簡単にですが、シュタイナーならではのオイリュトミーについても位置付けがなされています。訳者あとがきによれば、本書は「シュタイナーがおこなった最期の教育講座であり、シュタイナー教育の全体像が具体的かつ平明に述べられているので、シュタイナー・カレッジ(アメリカ)の教育養成コースでは本書を最初に読むべき一冊として推薦している」とのことです。なお、解説者の子安美智子さんはかつて『ミュンヘンの小学生』(中公新書、1975年)で、シュタイナー学校を紹介されています。 ◎文庫で読むシュタイナー 1998年01月『神秘学概論』高橋巖訳、ちくま学芸文庫 2000年07月『神智学』高橋巖訳、ちくま学芸文庫 2001年10月『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』高橋巖訳、ちくま学芸文庫 2002年07月『自由の哲学』高橋巖訳、ちくま学芸文庫 2004年07月『オカルト生理学』高橋巖訳、ちくま学芸文庫 2004年12月『魂のこよみ』高橋巖訳、ちくま文庫 2005年05月『治療教育講義』高橋巖訳、ちくま学芸文庫 2006年08月『シュタイナーの死者の書』高橋巖訳、ちくま学芸文庫 2007年10月『人智学・心智学・霊智学』高橋巖訳、ちくま学芸文庫 2010年10月『シュタイナー経済学講座――国民経済から世界経済へ』西川隆範訳、ちくま学芸文庫 2013年03月『人間理解からの教育』西川隆範訳、ちくま学芸文庫 ![]() 完訳 日本奥地紀行4 東京―関西―伊勢 日本の国政 イザベラ・バード著 金坂清則訳注 東洋文庫 2013年3月 本体3,200円 全書判上製448頁 ISBN978-4-582-80833-9 帯文より:北海道から東京に戻り、バードは今度は関西・伊勢へ。簡略本で省かれた重要な部分。東京、伊勢神宮、神道に関する覚え書3篇を含む。総索引を付す。従来の読みをあらためる訳注書、全4巻完結。 ★まもなく発売。完訳にして訳注の充実により、決定版と呼ぶにふさわしい新訳の完結です。訳者あとがきでは、先行する時岡訳について「省いてはならない省略を行っているため、原著二巻本の全容を知ることができないし、少なくともこの旅行記の翻訳にあっては不可欠な「記述の綿密な裏付け作業」を欠くために、バードが正確を旨として記していることが読者に伝わってこないどころか不正確になっている」と惜しんでおられます。また、自らの新訳については「旅行記を読むとは、その基になった旅を読み、旅する人を読み、旅した場所・地域を読み、旅した時代を読むことである、という自説に立脚し、読者が明確に理解できる訳文にしようとし、そのためにしかるべき訳注を付した意義だけは認められると考える」(427頁)と述懐されています。その徹底した「読む」姿勢に学ぶならば、本書は訳注の隅々にまで目を通し、読む者もまたあらためてバードの旅程の全体像と細部に想いを馳せることが必要かと思います。 共同研究 転向6 戦後篇 下 思想の科学研究会編 東洋文庫 本体3,200円 全書判上製490頁 ISBN978-4-582-80832-2 帯文より:ポスト「戦後」の時代は「転向」を超える自由と変革の思想を生み出せるのか。転向論をめぐる共同討議、人物略伝、年表、文献解題などを完備し、全6巻完結。 ★まもなく発売。全6巻の完結です。第1巻が刊行されたのは2012年2月でした。「3.11」を境にして、日本の思想状況は政治の変遷の中でいよいよ明瞭化を余儀なくされており、知識人は淘汰されつつあるように見えます。今後はますます保守も革新も自らの透明化=公共化を目指すことになり、目下進行しつつある太平洋極東地域をめぐるすさまじい冷戦(軍事活動、資源戦争、領土紛争)のプレッシャーから、その「現実」に対して何かしらの諜報論や防衛論を有することなしに平和を語ることはいっそう困難になるでしょう。ネットに氾濫する様々な情報も含めたオープン・ソース・インテリジェンスの資質は、知識人のみならず国民一般にすら必要とされる時代が来ています。ラディカルな理想から撤退し「転向」を余儀なくされる事態は、いままさに現代社会でも進行していることです。〔理想から〕撤退するか、〔理想に〕引き籠るか、の二択ではない反戦論が可能なのかどうか、私たちは歴史から、「転向」論全6巻から、学び直さねばならないと思います。 ★東洋文庫の次回配本は2013年4月刊、『新訳 ラーマーヤナ』第5巻です。
by urag
| 2013-03-24 23:37
| 本のコンシェルジュ
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