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2013年 02月 17日

注目新刊と近刊:難波功士『社会学ウシジマくん』人文書院、ほか

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社会学ウシジマくん
難波功士(なんば・こうじ:1961-)著
人文書院 2013年2月 本体2,200円 4-6判並製300頁 ISBN978-4-409-24095-3

帯文より:社会学から逃げられると思ってんの? あの人気コミックに学ぶ、現代社会学の最前線! 読書案内付で社会学入門にも最適。

目次:
はじめに
プロローグ――リスク社会論ウシジマくん
第1章 都市社会学ウシジマくん
第2章 家族社会学ウシジマくん
第3章 教育社会学ウシジマくん
第4章 メディア論ウシジマくん
第5章 ジェンダー論ウシジマくん
第6章 感情社会学ウシジマくん
第7章 労働社会学ウシジマくん
第8章 社会病理学ウシジマくん
第9章 福祉社会学ウシジマくん
エピローグ――社会階層論ウシジマくん
おわりに

読書案内
人名索引

★20日(水)取次搬入予定。これまで数々のユニークな研究を上梓されてきた著者による初めての社会学入門です。非常に軽妙な語り口で、「闇金ウシジマくん」を枕に社会学の諸領域が解説されます。このかつてない親しみやすさはひょっとすると難波さんがかつて広告代理店にお勤めだったというユニークな経歴に由来するのかもしれません。内向きな学者先生にはけっして期待できない読みやすさで、楽しみながら社会学の最前線がじんわり見えてきます。これは決して大げさでも、著者や読者を馬鹿にしているわけでもなく、才能だと思うのです。本書以上にキャッチーな社会学入門を書くというのはハードルが高い作業になると思いますが、はたしてまねできるかどうかは別として「こんなふうに書いてもいいんだ」という意味で解放される書き手が現れてもいいのではないかと思います。

◎難波功士さん単独著既刊書
1998年12月『「撃ちてし止まむ」――太平洋戦争と広告の技術者たち』講談社選書メチエ
2000年04月『「広告」への社会学』世界思想社(SEKAISHISO SEMINAR)
2007年06月『族の系譜学――ユース・サブカルチャーズの戦後史』青弓社
2009年01月『創刊の社会史』ちくま新書
2009年04月『ヤンキー進化論――不良文化はなぜ強い』光文社新書
2010年01月『広告のクロノロジー――マスメディアの世紀を超えて』世界思想社
2011年08月『メディア論』人文書院(ブックガイドシリーズ基本の30冊)
2012年01月『人はなぜ〈上京〉するのか』日経プレミアシリーズ
2013年02月『社会学ウシジマくん』人文書院


「坂本龍馬」の誕生――船中八策と坂崎紫瀾
知野文哉(ちの・ふみや:1967-)著
人文書院 2013年2月 本体2,600円 4-6判上製354頁 ISBN978-4-409-52058-1

帯文より:船中八策は後世に作られたフィクションである! 龍馬研究に画期をなす精緻を極めた実証的研究にして、一級の歴史エンタテイメント。

帯文(表4)より:本書のポイント:3つの「初めて」。1、「船中八策」は龍馬の手によるものではないことを実証。2、龍馬像の形成に最大の貢献をした人物・坂崎紫瀾の業績を詳細に解明。3、幻の未公刊史料、瑞山会編「坂本龍馬傳艸稿」を発掘紹介。

目次:
はじめに
第一章 「船中八策」の物語
第二章 土佐勤王党の物語――坂崎紫瀾「汗血千里の駒」
第三章 瑞山会の物語――瑞山会編「坂本龍馬傳艸稿」
おわりに

参考文献一覧
巻末表
人名索引

★発売済。著者はTBSテレビに勤務するかたわら、社会人大学院生として研究を続けておられる異色の方で、本書がデビュー作になります。「はじめに」と第1章冒頭のPDFが、人文書院さんの書籍単品ページ(書名のリンク先)で無料にて閲覧可能です。昨年来「大阪維新の会」の政策をめぐる報道から再びよく目にするようになった「船中八策」ですが、龍馬の「船中八策」はそのものずばりの原本や写本が見つかっていないため、創作説が以前からありました。本書は様々な歴史資料を丹念に調べ上げ、その謎に肉薄しています。また、「船中八策」にあって、龍馬自筆の「新政府綱領八策」にはない重大な項目「大政奉還の建言」をめぐる疑問、すなわち龍馬が本当に大政奉還派なのかどうかについても考察されています。さらに明治期のジャーナリスト、坂崎紫瀾(さかざき・しらん:1853-1913)の龍馬伝『汗血千里の駒』における英雄化の分析や、瑞山会編「坂本龍馬傳艸稿」の発掘紹介によって、龍馬伝説の形成を跡づけています。本書の「おわりに」は著者の龍馬への愛情を感じさせ、感動的ですらあります。

★上記2書『社会学ウシジマくん』『「坂本龍馬」の誕生』の編集担当者はいずれもMさん。当ブログではMさんの新刊はほぼ毎回取り上げています。ブックガイドシリーズ「基本の30冊」を手掛けているのもMさん。追っかけて損はありません。

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赤き死の假面
エドガー・アラン・ポー著 江戸川亂步譯 オディロン・ルドン口繪
蘭峯舎 2012年12月 350部限定(記番入り) 定価税込10,000円 A5判変型122頁函入 

版元紹介文より:「夜の宝石のやうに怪しくもきらびやかなりし」とポーの天才を称えた亂步が、自ら筆を執った唯一の翻訳、初の書籍化! 白眉の評論「探偵作家としてのE・A・ポー」をはじめ、亂步がポーを論じた全12編の「ポー論集成」を合わせて収録した豪華愛蔵版。

目次:
赤き死の假面
ポー論集成
 探偵作家としてのE・A・ポー
 ディケンズの先鞭
 ポーとディケンズ
 エドガー・ポーの生と死
 文学史上のラジウム
 ポオと通俗的興味
 病める貝
 ポーとオリジナリティー
 ポーの百年忌に
 ポーとドイル
 アモン酒の樽
 わたしの古典
解説「ポーと乱歩 奇譚の水脈」(中相作)

★昨年12月に発売されましたが既に完売。2012年6月20日に創業された「猟奇耽異の文藝専門出版社」、蘭峯舎(らんぽうしゃ)さんの新刊第一弾です。2013年1月28日付「読売新聞」の夕刊記事「乱歩訳ポー作品、初の書籍化…「赤き死の假面」」で紹介され、すぐに注文しましたが、ほどなく完売した様子です。記事によれば「この本を出したのは、豪華本の文化を守ろうと昨年、一人で限定版専門の出版社、藍峯舎を設立した新潮社OBの深江英賢(ひでたか)さん(64)」。藍峯舎さんのウェブサイトにはこう書かれています。

「電子書籍へと向かう時代の流れにあえて抗して、藍峯舎の出版物は用紙の選定から印刷、装幀、造本まで、時間と手間をかけて磨き上げた「紙の本」ならではの美しさを追い求めて参ります。少部数の限定本となるため、一般の書店を通じての販売が難しく、お求めは小社のホームページ及び一部のネット古書店からとなります。ご面倒をおかけしてまことに申し訳ございませんが、量産本の氾濫のなかで忘れられつつある「美しい本」の手触りをお楽しみいただければ幸いです」。

★こうした方針に一出版人として非常に共感します。というのも、出版社を設立したあとの一番の難関は何と言っても「取次口座の開設」だからです。むろん、取次口座を持っていなくても新刊書店との直取引は可能ですが、出荷から返品、精算までの労力は存外に大きなもので、取次なしに数百部、数千部単位を流通させるのはしっかりした営業体制がない限り難しいです。藍峯舎さんのやり方は「限りある資金をどこに投入するか」という点で徹底しています。ISBNは書店流通上では必須ですが、読者への直販のみならば、ISBN取得にお金をかける必要もでてきません。つまり読者とダイレクトに繋がるという方式によって、いくつもの既存の「中間フィルター」を省き、造本に資金を投入できるわけです。こうした生き残り策は既成の図体の大きな出版社は選択しづらいですが、少人数の出版社を立ち上げる上では有効だと思います。

★第二弾は2013年春刊行予定、『屋根裏の散歩者』(江戸川亂步著、池田満寿夫挿畫、300部限定、A5判変型、予価12,000円)で、近日予約開始だそうです。「巨人亂步と池田満寿夫のただ一度のコラボレーション!「幻の豆本」が新編集で甦る!」とのこと。

★読者との直接的な繋がりを第一に考える版元というのはこれまでも数々存在しています。たとえば当ブログで何度かご紹介したことのある文芸書版元の森開社さん。あるいはロバート・フランクの写真集で有名な邑元舎(ゆうげんしゃ)さん。どちらもいまなお営業を続けておられます。また、田原桂一さんの大作写真集『OPERA de PARIS』で有名な文献社さん。こちらは株式会社マップルさんのウェブサイト内にある「オフィシャル・ホームページ」内に掲示されている連絡先から推察して、すいしょう社さんが窓口になられたこともあったご様子ですが、現在は活動されているのかどうか、存じ上げません。日本におけるプライヴェート・プレスの歴史というのは非常に興味深いものがあります。たとえば日本推理作家協会さんの「会報」2005年12月号の記事「七十年代のプライヴェート・プレス」で紹介されている渡邊一考さんのご活躍をご覧ください。この記事にある「人生が輝くのはむきになるときだけ」だ、という言葉、素敵です。

by urag | 2013-02-17 18:17 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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