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2012年 10月 06日

注目新刊:航思社新刊第3弾『田村孟全小説集』など

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田村孟全小説集
田村孟著 航思社 2012年9月 本体7,800円 A5判上製函入布クロス装2段組702頁 ISBN978-4-906738-02-1

帯文より:戦後日本の虚妄を鋭くえぐる奇想、詩情あふれる描写、卓越した語り――大島渚・篠田正浩・長谷川和彦らの映画の脚本家にして、数々の名うての作家・評論家をうならせた幻の小説家、田村孟=青木八束。70年代の文壇を疾風のごとく駆けぬけ、今なお賛辞の声がやまない全8作を、 没後15年にして初の単行本化。蓮實重彦氏、青山真治氏が絶賛!

目次:
細民小伝
 会計係加代子
 理容師リエ
 三人の運動会
 居残りイネ子
 七年目のシゲ子
 忍ヒ難キヲ忍ヒ
 個室は月子
 見送り仙子
蛇いちごの周囲
世を忍ぶかりの姿
目螢の一個より
津和子淹留
狼の眉毛をかざし
いま桃源に
鳶の別れ
年譜
映画脚本一覧
TVドラマ脚本一覧

★航思社さんの新刊第三弾です。取次搬入が9月27日(木)と同社ブログに書かれているので、すでに店頭での発売が始まっているはずですが、紀伊國屋書店や丸善&ジュンク堂では10月6日現在まだデータベースにヒットがありません。主な取り扱い書店一覧は、書名のリンク先でご覧いただけます。なお、アマゾンやhontoなどのオンライン書店では取り寄せ扱いになっているようですが、版元ドットコムでは「在庫あり」表示です。『ムネモシュネ・アトラス』の時もそうでしたが、さすが、安心の版元ドットコム。

★版元ウェブサイトでの紹介文をお借りすると、著者の田村孟(たむら・つとむ:1933-1997)さんは、脚本家、小説家で、東京大学文学部国文科卒業後に松竹大船撮影所に入社されました。大島渚・篠田正浩・吉田喜重らとともに「松竹ヌーベルバーグ」と称され、脚本家として大島、篠田のほか長谷川和彦、藤田敏八などの監督と組んで戦後の名画を支えました。一方、70年代に、本名および「青木八束」の筆名で小説を発表。73年には「蛇いちごの周囲」(青木八束)で文学界新人賞受賞、丸谷才一に絶賛されました。同作は第69回芥川賞候補となり、瀧井孝作、舟橋聖一、吉行淳之介の強い支持を受けるも落選。主な脚本作品には、『白昼の通り魔』『日本春歌考』『無理心中 日本の夏』『絞死刑』『帰って来たヨッパライ』『新宿泥棒日記』『儀式』『少年』(以上、大島渚監督)、『青春の殺人者』(長谷川和彦監督)、『十八歳、海へ』『波光きらめく果て』(以上、藤田敏八監督)、『瀬戸内少年野球団』『舞姫』(以上、篠田正浩監督)などがあります。

★ほれぼれとする美しい装幀は前田晃伸さんによるもの。前田さんは航思社さんのあの「燈台」マークをデザインされてもいます。投げ込みの栞は12頁構成で、青山真治「紙面を覆う不気味な無表情」、荒井晴彦「脚本家の「純文学」」、上野昂志「解読すべきテキスト群」、松田政男「田村孟の表現世界」の四篇が掲載されています。

★航思社さんの次の新刊は2013年春出版予定の、松田政男『私闘する革命——戦後思想の10人』(聞き手=平沢剛・矢部史郎)となるようです。


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喜ばしき知恵
フリードリヒ・ニーチェ著 村井則夫訳
河出文庫 2012年10月 本体1,200円 文庫判並製496頁 ISBN978-4-309-46379-7

カバー裏紹介文より:ニーチェの最も美しく、最も重要な著書が、冷徹にして流麗な日本語によってよみがえる。「この書物の言葉は、氷晶を融かす春風にも似ている[…]。いまだ冬の圏内にありながら、冬を打倒する勝利が予感されるのだ。」「神は死んだ」と宣言しつつ永遠回帰の思想をはじめてあきらかにしたニーチェ哲学の中核をなす大いなる肯定の書。

★発売済。文庫で読める既訳には、信太正三訳『悦ばしき知識〔ニーチェ全集 8〕』(ちくま学芸文庫、1993年)があります。新潮文庫でもかつて、1958年に氷上英廣訳『華やかな知慧』が出ていましたが、氷上訳はその後1980年、白水社版『ニーチェ全集』第1期第10巻に「華やぐ知慧」として収録されました(現在は品切)。

★『ツァラトゥストラ』に比べれば『喜ばしき知恵』は翻訳が少ない方ですが、ニーチェの言葉で一番有名であろう「神は死んだ」は、ほかならぬ本書(第三書、125節)で読むことができます。該当箇所のニーチェの名調子を村井訳で読んでみましょう。

「諸君はあの狂乱の男の話を聴いたことがないか。日も高い昼日中に提灯を掲げて広場に駆け入り、息もつかずに「神はいないか! 神はどこだ!」と叫んでいたあの男のことを。〔…〕彼が叫んだ――「はっきり言ってやろう、われわれが神を殺したのだ、――諸君と私が! われわれ全員が神の殺害者なのだ!〔…〕神の遺体の腐臭はまだ漂ってこないだろうか?――神もまた腐敗するのだ! 神は死んだ! 二度と甦ることはない! われわれが神を殺めたのだ! あらゆる殺害者のなかでも最たる殺害者たるわれわれに、心休まる時があろうか? これまで世界に君臨していた至聖者と至権者――それがわれわれの刃にかかって、血の海に浸かっている。――誰がこの血の汚れをわれわれの手から拭ってくれるだろうか? いかなる水でわれわれはわが身を浄めることができるだろうか? いかなる贖罪の儀式、いかなる聖務典礼をわれわれは作り出さねばならないのだろうか? われわれがやり遂げたことの偉大さは、われわれにとって立派すぎるのではないか? それに見合った分際になるためには、われわれがみずから神々になるほかはないのではないか? かつてこれほど偉大な行いがなさめたためしはない。――そして、われわれのあとから生まれてくる者どもはことごとく、この行いゆえに、これまで存在したすべての歴史に優る高次の歴史の一員となるのだ!」(216-218頁)。

★このあとに続く文章も、本来的には省略することなく、是非とも読まれなければなりませんが、引用が長くなるのでやめておきます。ぜひお買い求めになって、続きをお楽しみください。ニーチェの新訳はここ数年でまた増えていますが、かつて1966年1月に刊行が開始された中央公論社の「世界の名著」シリーズの記念すべき第一回配本は、ニーチェの巻(46巻)でした。手塚富雄訳『ツァラトゥストラ』(現在は中公文庫全一巻や、中公クラシックス全二巻で読むことができます)と、西尾幹二訳『悲劇の誕生』(中公文庫版は現在品切、中公クラシックス版が現在も入手可能)が収録されていました。その帯にはこう書かれていました。「歴史の曲がり角には常にニーチェが現われる。今またニーチェ・ルネサンスが叫ばれている。組織の重圧にうちひしがれた現代人に鋭く呼びかける予言者ツァラトゥストラ。処女作『悲劇の誕生』以来、失われた人間性の回復を終生の主題とした詩人哲学者の思想は、最適の訳者を得てここに躍動する」。こうした「前史」の蓄積なしには昨今の超訳ブームもないでしょう。

★ほかならぬla gaya scienzaから誌名を採った、浅田彰さん、伊藤俊治さん、四方田犬彦さんらが80年代にやっていらっしゃった雑誌「GS たのしい知識」についても言及しておいた方がいいかもしれませんが、一言二言で終わるものではありません。懐古趣味と罵られるかもしれませんが、あの頃はとても美しい、勢いのある時代でした。今よりずっと。

★人文系文庫の話題として、筑摩書房の月刊PR誌「ちくま」2012年10月号に掲載された特集「ちくま学芸文庫創刊20周年」についてご紹介しておきたいと思います。鷲田清一さんの寄稿「閉じが外れるほど繰り返し開いた本」ではオルテガ『大衆の反逆』が挙げられています。講談社学術文庫や岩波文庫、角川文庫にもそれぞれの一冊があることが書かれています。また、取材記事「図書館でのちくま学芸文庫」では、さいたま市立東浦和図書館の主事、青山遼さんが企画されたちくま文庫、同学芸文庫、ちくま新書の特設展示について、青山さんにインタビューされています。青山さんは当時ブックガイドの冊子までお作りになっていらっしゃいました(伝聞によると、展示名は「筑摩書房創立70周年記念特集――部屋とちくまと私」で、2011年9月6日~18日に開催されたとのことです)。

★「ちくま」2012年10月号では、これらの記事・寄稿のほか、「ちくま学芸文庫 思想の星座」と題した見開きのダイアグラムが興味深いです。二十世紀西洋編と日本編があって、代表的な書目が分類され整理されています。読者にとっても、書店さんにとっても、保存しておきたい資料になっていると思います。写真を添えますが、あくまでもサムネイルということで御勘弁ください。
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新訳 ラーマーヤナ 3
ヴァールミーキ著 中村了昭訳
東洋文庫(平凡社) 2012年10月 本体2,800円 全書判上製308頁 ISBN978-4-582-80827-8

帯文より:魔王ラーヴァナに妻シーターを拉致されたラーマは、弟ラクシュマナと共にシーター奪還の闘いに旅立つ。魔女・怪物が現れる幻想の世界へ、物語はいよいよ佳境へ入る。第3巻『森林の巻』原文からの初の邦訳。

★まもなく発売です。全7巻のうち、今年4月に第1巻、6月に第2巻、そして10月に第3巻と順調な刊行が続いています。現在ワイド版で刊行されている岩本裕訳は第2巻までの刊行で途絶しましたから、中村訳は今回で前例を越えたことになります。このままのペースで刊行が続くことを念願してやみません。

★本書のほかに、平凡社さんの今月の新刊には、シリーズ「イタリア現代思想」第3弾となるジャンニ・ヴァッティモ『透明なる社会』(多賀健太郎訳)や、A4変型判からA5判に版型を変えてリニューアルされるシリーズ「新版イメージの博物誌」が2点同時発売でスタートします。フィリップ・ローソンの二冊『聖なるチベット――秘境の宗教文化』と『タントラ――インドのエクスタシー礼賛』です。また、中高生向けに書かれた白川静さんの入門字典『常用字解』(2003年刊)の増補版となる。『常用字解[第二版]』が刊行されます。版元の紹介によれば「一昨年11月に「常用漢字表」に追加された196字を含む常用漢字全2136字を平易に解説する」とのことです。なお、東洋文庫の来月新刊はイザベラ・バードの『完訳 日本奥地紀行』の第3巻と予告されています。

★なお、上記の書影で『新訳 ラーマーヤナ 3』の隣に映っているのは、同じく平凡社さんの先月の新刊写真集、有野永霧『日本人景 温泉川』です。その名の通り、温泉に寄り添うように流れる川を映したモノクロ写真集です。有野さんの「あとがき」には「温泉川」について次のように解説されています。「自然の悠久の時間の中で流れていた川辺に温泉が見つかると、人の手が入り、河の姿が大きく変えられていく。小屋が建ち、湯治場ができ、民宿、旅館、ホテルが建ち、さらには大ホテル群が林立してくる。それらと歩調をあわせるように、脇を流れる川にも、治水の名目、営業や経営上の事情などさまざまな理由で河岸工事がなされる。自然の川が、人の手が入ることで、「温泉川」という人工の川に変わるのだ。その間に、意識的に、時に無意識的に、国民の自然観や美意識や感性が塗りこめられていくのである。〔…〕人が温泉を利用するためにどのように維持管理をしているか、人が自然とどのように関わっているかを“川の目線”から見ようと、川の中に入ったり、渓谷の岩場に立ったりして撮影するよう心がけた。その行為によって確認できたのは、日本人の多種多様な思いとアイデアの集積によって日本独特の「温泉川」という風景が出来上がっていることであった」(116頁)。本書には2002年から2008年までのあいだに撮影された106箇所の温泉川の光景が収録されています。また、巻末には、池内紀さんによる解説「天地の恵み」が置かれています。早くも版元品切になっているようですが、店頭にまだ在庫がある書店さんもあるようです。


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ビジュアル版 イギリスの歴史
R・G・グラント+アン・ケイ+マイケル・ケリガン+フィリップ・パーカー著 田口孝夫+田中英史+丸川桂子訳
東洋書林 2012年10月 本体15,000円 B4変判上製400頁 ISBN978-4-88721-800-0

帯文より:世界史を先導する、誇り高き連合王国の栄光と蹉跌。各項が一見開きで進行する簡潔な紙面構成、地図を含む写真・図版900点、時代の前後や象徴的人物などを扱うコラムが350本、複雑な変遷を総括した歴王・首相一覧付。原始から欧州再編以降までの空前の歳月を凝縮した図説英国史の決定版。

原書:History of Britain & Ireland: the Definitive Visual Guide, Dorling Kindersley, 2011.

目次:
1.ブリトン人と侵略者[1066年まで]
2.中世のイギリス[1066-1485]
3.テューダー朝とステュアート朝[1485-1688]
4.勢力の増大[1688-1815]
5.現代[1914年以降]
歴代国王・首相など
訳者あとがき
索引
図版出典

★まもなく発売。取次12日搬入と聞きますので、来週明けあたりから書店店頭発売でしょうか。訳書名は『イギリスの歴史』ですが、原書では「ブリテンとアイルランドの歴史」となっていることに注意。イギリスの正式な国名はUnited Kingdom of Great Britain and Northern Irelandで、日本では「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」と訳されています。単純にイギリスや英国と表記しているせいなのか、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの四者からなる連合王国であり、長い間、様々な政治的問題を抱えてきたことはあまり知られていないかもしれません。本書では見開きごとに項目(主題)が立てられカラー図版とともに簡潔な文章で歴史が解説されています。いずれも美麗な写真が揃っていて、眺めるだけでも楽く、さながら博物館めぐりをしているような気分になります。歴史的文物や古い意匠がお好みの方にもうてつけの資料になると思います。どの頁も本当に美しいですから、ぜひ手にとってご覧ください。

by urag | 2012-10-06 21:31 | 本のコンシェルジュ | Comments(2)
Commented by フランクリンプランナーに挑戦中 at 2012-12-06 23:39 x
田村孟全小説集は、まだ最初の一篇を読んだだけですが、ワクワクするほどおもしろい。と個人的に感じています。「物語」「キャラクター」「文体」の三幅対が肉体化し、間接的に開示される物語までうねってゆくときの魅惑が素晴らしいですよね★
Commented by urag at 2012-12-09 13:51
フランクリンさんこんにちは。熱いメッセージをありがとうございます。きっと航思社さんが喜ばれると思います。


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