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2012年 09月 02日

注目新刊:42年ぶりの新訳、フーコー『知の考古学』河出文庫、ほか

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知の考古学
ミシェル・フーコー著 慎改康之訳
河出文庫 2012年9月 本体1,300円 文庫判並製440頁 ISBN978-4-309-46377-3

カバー裏紹介文より:あらゆる領域に巨大な影響を与えたフーコーの最も重要な著作を気鋭が42年ぶりに新訳。フーコーが『狂気の歴史』『臨床医学の誕生』『言葉と物』を生み出した自らの方法論を、伝統的な「思想史」と訣別し、歴史の連続性と人間学的思考から解き放たれた「考古学」を開示する。それまでの思考のありかたに根底から転換をせまる名著が新たなすがたで甦る。

原書:L'Archéologie du savoir, Gallimard, 1969.

目次:
緒言
I 序論
II 言説の規則性
 I 言説の統一性
 II 言語形成
 III 対象の形成
 IV 言表様態の形成
 V 概念の形成
 VI 戦略の形成
 VII 注記と帰結
III 言表とアルシーヴ
 I 言表を定義すること
 II 言表機能
 III 言表の記述
 IV 稀少性、外在性、累積
 V 歴史的アプリオリとアルシーヴ
IV 考古学的記述
 I 考古学と思想史
 II 独創的なものと規則的なもの
 III 矛盾
 IV 比較にもとづく事実
 V 変化と変換
 VI 科学と知
V 結論

訳注
訳者解説
人名索引
事項索引

★9月6日発売予定。河出文庫でのフーコーの訳書は2年前の『ピエール・リヴィエール』に続いて2冊目です。42年ぶりの新訳。初訳であった中村雄二郎訳はまず1970年に単行本で刊行、その後、1981年にシリーズ「現代思想選」第10巻として「改訳新版」、1995年にシリーズ「河出・現代の名著」で「改訳版新装」、さらに再度単行本で2006年に「新装新版」が刊行されました。この最新の新装新版でも再度訳文に手が入っていますから、中村さんとしても長年に渡って本書と向き合ってきたわけです。この単行本版は今なお入手可能です。

★今回の新訳は、これまで幾度となくフーコーのコレージュ・ド・フランス講義『ミシェル・フーコー講義集成』(筑摩書房)の翻訳に携わり、『ピーエル・リヴィエール』の新訳にも関わられた慎改康之さんです。新訳では、旧訳「集蔵体」が「アルシーヴ」、旧訳「実定性」が「ポジティヴィテ」となっています。それぞれフーコー特有の言葉使いを理解せねばならず、日本語に置き換えにくい術語ですね。本書は書物や作品について書いているのではないものの、それは本書が作家や出版人に無縁な議論であることを意味しているのではありません。

★「言表は、その物質性において出現すると同時に、一つの地位を持って現れ、ネットワークのなかに入り、使用領野のなかに置かれ、可能な移転や変容に身を晒し、自らの同一性がそこにおいて維持されたり消し去られたりするような諸々の操作や戦略に統合される。こうして言表は、流通し、役立ち、逃れ去り、一つの欲望の実現を可能にしたり妨げたり、諸々の利害関心に従順であったり反抗的であったりして、異議申し立てや闘争に参入し、我有化もしくは競合のテーマとなるのである」(199頁)。

★「一つの社会、一つの文化、あるいは一つの文明のアルシーヴを、網羅的に記述することができないのは明らかである。〔…〕我々には、我々自身のアルシーヴを記述することができない。なぜなら、我々はまさしく我々自身のアルシーヴの諸規則の内部において語っているからであり〔…〕。アルシーヴとは、その全体性を記述することの不可能なものであり、その現在性を回避することの不可能なものなのである」(248-249頁)。

★「書物」や「作品」といった一見明白な存在に準拠するのではなく、視野をもっと広く取ること。「考古学的な比較は、統一化をもたらすものではなく、多数多様化をもたらすものなのである」(301-302頁)。フーコーの方法論を明らかにした本書は、その知的挑戦が彼の死後も依然として開かれた問題系として、人文科学の課題として残されていることを自ら証明するものであるように見えます。

◎文庫で読めるミシェル・フーコーの訳書
1997年12月『精神疾患とパーソナリティ』中山元訳、ちくま学芸文庫
2006年05月『フーコー・コレクション(1)狂気・理性』小林康夫・石田英敬・松浦寿輝編、ちくま学芸文庫
2006年06月『フーコー・コレクション(2)文学・侵犯』〃編、ちくま学芸文庫
2006年07月『フーコー・コレクション(3)言説・表象』〃編、ちくま学芸文庫
2006年08月『フーコー・コレクション(4)権力・監禁』〃編、ちくま学芸文庫
2006年09月『フーコー・コレクション(5)性・真理』〃編、ちくま学芸文庫
2006年10月『フーコー・コレクション(6)生政治・統治』〃編、ちくま学芸文庫
2006年11月『フーコー・コレクション(別巻)フーコー・ガイドブック』ちくま学芸文庫
2008年09月『わたしは花火師です――フーコーは語る』中山元訳、ちくま学芸文庫
2010年08月『ピエール・リヴィエール――殺人・狂気・エクリチュール』慎改康之ほか訳、河出文庫
2012年09月『知の考古学』慎改康之訳、河出文庫

◎文庫で読めるフーコー論
2007年08月『フーコー』ジル・ドゥルーズ著、宇野邦一訳、河出文庫
2011年05月『フーコー』リディア・アリックス・フィリンガム文、モシュ・シュッサー絵、栗原仁・慎改康之編訳、ちくま学芸文庫

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無機的なもののセックス・アピール 
マリオ・ペルニオーラ(Mario Perniola, 1941-)著 岡田温司・鯖江秀樹・蘆田裕史訳
平凡社:イタリア現代思想 2012年8月 本体2,900円 四六判上製242頁 ISBN978-4-582-70343-6

帯文より:オルガスムなきセクシュアリティ。人間がどこまでもモノに近づいていく「ポスト・ヒューマン」状態。そこでは、中性的-無機的-人工的な文化現象が支配的になるが、ベンヤミンの顰にならい、この「モノ性」の感覚論を打ち立てたのが本書。同時にそれは、哲学をセクシュアル化するとともに、快楽を脱セクシュアル化する危険な試みでもある。シリーズ第二弾。

原書:Il Sex appeal dell'inorganico, Einaudi, 1994/2004.

目次:
日本語版への序
1 感覚とモノ
2 性のプラトー
3 神、動物、モノ
4 デカルトと感覚するモノ
5 属するものなき衣服となる
6 模範的中毒
7 カントとモノとしての配偶者
8 サディズムと無機的なもののセックス・アピール
9 哲学的サイバーセックス
10 カントとモノ自体が感覚すること
11 マゾヒズムと無機的なもののセックス・アピール
12 衣服としての身体
13 ヘーゲルと「これではないもの」としてのモノ
14 フェティシズムと無機的なもののセックス・アピール
15 ハードコアの響き
16 ヘーゲルと「さらに」としてのモノ
17 ヴァンピリズムと無機的なもののセックス・アピール
18 造形的風景
19 ヘーゲルと「一挙に全体」としてのモノ
20 欲望と無機的なもののセックス・アピール
21 氾濫するインスタレーション
22 ハイデガーと信頼性としてのモノ
23 分割と無機的なもののセックス・アピール
24 包含的メタエクリチュール
25 ヴィトゲンシュタインと「これ」の感覚
26 快と無機的なもののセックス・アピール
27 倒錯的パフォーマンス
原注
訳者あとがき――イタリア美学思想の最前線

★発売済。9月1日以降、順次店頭発売となっているようです。5月に刊行されたアガンベン『裸性』に続く、シリーズ「イタリア現代思想」の第二弾です。ペルニオーラはアガンベンやカッチャーリと同世代の哲学者で、今回の訳書は『エニグマ――エジプト・バロック・千年終末』(岡田温司・金井直訳、ありな書房、1999年)に続く、ようやくの日本語訳第二弾です。「訳者あとがき」で岡田さんは「本書が、美学や哲学や芸術のみならず、文化研究やサブカルチャー、ポスト・ヒューマン論やジェンダー論やクィア理論など、さまざまな領域に関心のある多くの読者の手に届けられることを願っている」(238頁)と書かれています。ここに書かれた諸分野は何も大風呂敷を広げているのではなく、本書の射程の広さと思考のしなやかさを表すものです。

★ペルニオーラの異才ぶりが存分に発揮されている本書はどこから読んでもたいへん刺激的ですが、たとえば吸血鬼を扱う第17章や、サイボーグを扱う第9章、音楽(とくにロック)を扱う第15章、建築を扱う第18章など、入口はいくつもあります。衣服、皮膚、フェティッシュ、中毒など、多様なテーマが次々に合流し、思考を豊かにします。エーコやネグリ、アガンベンとはまた違ったペルニオーラの魅力は、ひょっとすると今までのどのイタリアの哲学者よりも広範な読者を獲得するのではないかと期待させるものです。

★シリーズの続刊予定には、ヴァッティモ『透明な社会』や、カッチャーリ『アドルフ・ロースと彼の天使』がエントリーしていると聞いています。ますます楽しみですね。

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混乱の本質――叛逆するリアル 民主主義・移民・宗教・債務危機
ジョージ・ソロスほか著 徳川家広(とくがわ・いえひろ:1965-)訳
土曜社:プロジェクト・シンジケート叢書 2012年8月 本体952円 ペーパーバック判(172×112mm)並製160頁 ISBN978-4-9905587-4-1

★発売済。土曜社さんの新しいシリーズ「プロジェクト・シンジケート叢書」の第一弾です。版元情報によれば、プロジェクト・シンジケートというのは、「世界的に尊敬をあつめる指導者・思想家が書きおろす知的刺激にあふれた論考を、152か国・488を数える新聞・雑誌(日本は、朝日・読売・日経などの各紙)をつないで、世界じゅうの読者に届ける非営利の国際言論プロジェクト」だそうです。「政治・経済・科学・文化をになう当事者みずからが、激変する現代をするどく洞察し、確かな学識にもとづく論争が公共の場でおこなわれる比類のない言論空間を、世界ではじめて叢書として刊行します」とのことです。

★「《世界政府》を動かすグローバル・エリートの思考を知る」と銘打たれた本シリーズの第一弾である『混乱の本質』では、投資家のソロスやノーベル賞経済学者のスティグリッツ、IMF専務理事のラガルド女史、元英国首相ブレアをはじめとする16名のエリートたちの論考を収録しています。訳者は徳川将軍家16代当主。目次詳細や販売書店一覧は書名のリンク先をご覧ください。これまでの出版傾向からアナーキズム系の版元と目されていたはずの土曜社さんがこうしたシリーズを出すのは意外なのかもしれませんが、この器の大きさと自由さが読者層を広げる重要な要素であることは間違いありません。


ハクティビズムとは何か――ハッカーと社会運動
塚越健司(つかごし・けんじ:1984-)著
ソフトバンク新書 2012年8月 本体730円 新書判並製224頁 ISBN978-4-7973-6962-5

カバー裏紹介文より:アノニマスの活動により政府や企業にさまざまな被害が出たり、ウィキリークスによって各国の機密情報などが次々に暴露され、外交にも影響を及ぼしていることは知られている。これらの動きにはどのような潮流や歴史的背景があるのだろうか? 気鋭の論者が「ハクティビズム」というキーワードを軸として、ネット社会を論じる。

目次:
序章
第一章 コンピュータとハッカーの登場
第二章 ハッカーと権力の衝突
第三章 創造性とウィキリークス
第四章 仮面の集団アノニマス
第五章 ハクティビズムはどこに向かうのか
終章
あとがき
主要参考文献

★発売済。1984年生まれの著者は一橋大学の院生の方で、専門は情報社会学。フーコーに学んできた若手研究者であり、すでに共著書や共編著書がある期待の書き手です。ハッカーとは何者か、ハックとは何か、ハッカー倫理とは、ハクティビズムとは。歴史的に順を追って簡潔に解説してくれる本なので、予備知識がなくても読みやすいです。当然ですが、本書は「読めばハッカーになれる」類の本ではなく、副題から想像できる通り、社会運動としてのハクティビズムを現代社会に位置づけるものです。長い時間をかけて成熟しゆく途上にあるこの運動は、ニュースで知られるよりもっと「歴史的」なものなのだということが、本書でよく分かると思います。


被災した時間――3・11が問いかけているもの
斎藤環著
中公新書 2012年8月 本体800円 新書判並製232頁 SBN978-4-12-102180-9

カバーソデ紹介文より:2011年3月11日、三陸沖を震源とする巨大地震が発生した。東北太平洋岸には大津波が襲来し、福島第一原発では水素爆発が起きた――。この未曽有の大災害に、精神科医で被災地の出身者である著者はどう向き合い、何を伝えようとしてきたのか。本書は、日々深刻化する事態の中で手探りで続けられた全発言のドキュメントである。被災者のこころのケアから原発問題まで、日本社会が直面している課題を浮き彫りにする。

目次:
はじめに
I 3・11とどう向き合ったのか 2011年3月~7月
II 原発事故の渦中で 2011年8月~2012年3月
III 3・11が問いかけているもの

★発売済。「毎日新聞」連載のコラム「時代の風」を中心に、3・11以後の著者の発言をまとめたものです。発言の変節や立場のブレも含め、「内容にはほとんど手を加えずに本書に収録した」とのことです。2本の対談、「「日常」の回復のために精神科医は何ができるか」(井原裕との対談)、「私たちにとって「東北」とは何か」(開沼博・山内明美との鼎談)が収録されています。高名な一人の医者による、私たちの想像しえない心情吐露というよりは、私たちの一隣人のごく日常的な怒りや戸惑いを感じることができる一冊になっていると思います。震災のリアルさは時間の経過とともに失われざるをえない運命にありますが、本書のような偽らざる証言もまた、他の多くの記録のように、後世の人々にとってひとつの重要な参照点になるはずです。

by urag | 2012-09-02 23:02 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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