2012年 07月 06日
弊社ウェブサイトで連載中のルソー『化学教程』翻訳プロジェクトの第四回をまもなくアップいたします。 『化学教程』第一部 第二編 自然的な器具instrumentについて 第一章 自然の仕掛けmécanismeについて(続) 5 叡智的な存在Être intelligentは、あらゆる事物の能動的な原理principe actifである。このことを疑うためには、良識bon sensを放棄しなければならない。そして、これほど明白な真理の証拠を挙げるなどということは、明らかに時間の無駄である。疑いなくこの永遠の存在は、[C:100]その力と意志とを直結させ、両者の協同concoursによって宇宙を創り出し、維持することもできたであろう。だが、このことにも増して、一般的な法則を自然〔という機械〕のうちに設定したことが、むしろ永遠の存在の叡智の名に値するのだ。そしてこうした諸々の法則は、決して互いに矛盾せず、〔法則の〕効力はただそれだけで世界とその内にあるものとを維持してゆくのに十分なのである。立法者〔叡智的な存在〕などいない、と歪んだ知性をもったひとびとに言わせているのは〔当の叡智的な存在が設定した〕法則それ自体であり、またこの法則をきちんと管理しているこの存在の誠実さである、などということが果たして信じられるものであろうか。〔これらのひとびとが言うには〕物質は〔法則に〕従っている、[A:47]ゆえに誰も命令していない。この奇妙な推論を絶えずなすならば、ひとは無神論に陥ってしまうことになるだろう。 6 これらの法則のうち、どれが第一のそして最も一般的な法則であるかを決定するためには、宇宙の構造structureをいままで以上に知らなければならない。これらの法則は、もしかしたらすべて唯一の法則に還元されることもあるのかもしれない。このように考えたひとは、決して少なくない。事実、ニュートンは、引力という原理だけで、自然の現象のすべてをほとんど説明してしまった。〔このニュートンの事例が示している通り〕私たちは、宇宙の動因agentが運動mouvementであるということをよく理解している。運動が、あらゆる物事に共通して働いているということを、またそれなしでは何も生じず、それが物質に実に多くの様態を与えることができるということをよく理解している。ところでデカルトは、この唯一の原理〔運動〕から、全宇宙の生成を引き出すことができると主張した。〔こうして〕彼は、愚かにも特異な体系を構築してしまったのだ。そして彼は、期せずして、唯物論者たちに武器を提供してしまった。この唯物論者たちはといえば、〔彼らの体系にとって〕必要不可欠な運動を物質の属性にしてしまうことによって、物質を〔彼らの〕神に祭り上げたのである。この神が世界を創造し維持しているというわけだ。 7 諸々の天体は、みずから運動する。だがそれが、いったい何のうちで、またどの原理によって運動しているのかを私たちは知らない。太陽は、毎日私たちに恵み深い日光を送る。それは地上で、生命と運動とを維持するためである。そして太陽がないならば、自然のなかのあらゆるものが消滅してしまうのである。しかしながら、宇宙に存在する太陽も、その他の天体も、あらゆる火も、あらゆる運動も、全植物の内のたった一握りをも、また全昆虫の内で最も卑しいものをも創り出すことはできないのである。生成に関するこの深淵のなかで、哲学者たちは、あまりにも長く道を見失っていた。そしてこの深淵は、今日でもなお、不信の徒の悩みの種なのである。運動の法則によってのみ組織されたorganisé物体を構築することconstructionなど、幻想である。このような幻想については、言葉〔を弄ぶこと〕によって満足するひとびとにお任せするしかない。そして不変の真理として通用すべき仮説なるものがあるのならば、それは疑いもなく無限の胚germes infinisという仮説である。この無限の胚によって、[F:61]自然は〔様々な存在を〕一つひとつ派生させることなく発展させてゆき、そして少しずつ〔それらの数を〕増やしていったのである――この発展させ増やす仕組みmécanismeについては、私たちの知性でもそれなりに把握することができる。[C:101]この発展と増大という仕方で、自然は諸々の存在が住む大地を賑わうようにしたのである。創造主は、これらの存在を大地とともにすべて創造したのである。 8 [A:48]これらの観察は、私の探求がまず立つべき出発点を、十分に示してくれる。私は、天体が自らの軌道上を進む原因を見つけようと苦心することは決してしないであろう。また私は、植物や動物の形成を機械論や静水力学の原理に結びつけようともしないであろう。さらに、みずからの技術を色々と操作することによって、ひとりの人間を作ろうとした狂気の化学者(1)を真似ることもないであろう。 (1)「ひとりの人間」とは、いわゆる化学よって作ることができると思われていた人工生命体である小人〔ホムンクルス〕Homunculeを指す。このような考えに対して、ルソーは否定的であった。『エミール』の以下の記述を参照せよ。「組み合わせとか偶然とかということは、いつも組み合わされる元素と同じ性質のものをつくりだすだけだろうということ、有機体や生命が原子の結びつきから生じることはあるまいということ、合成物をつくっている化学者は、ルツボのなかでその合成物になにか感じさせたり考えさせたりすることはあるまいということを考えてみるがいい」(Émile, O. C., t. IV, p. 579. 『エミール』、中巻、141頁)。さらにこの部分にはルソーによる原注が付されている。「証拠がなければ、人間の不条理がそんなところまで推し進められると信じられようか。アマトゥス・ルシタヌス〔アマート・ルシターノAmatus Lusitanus〕は、ジュリウス・カミルス〔ジュリオ・カミッロJulius Camillus〕が、新しいプロメテウスみたいに、錬金術の知識によってつくりだした一インチくらいの背の高さの小人をたしかに試験官のなかに見たと言っていた。パラケルススは、『物の本性について』のなかで、そういう小人をつくりだす方法を教え、小人族、牧神、半獣神そしてニンフなどは、化学によって生みだされたのだと主張している。じっさい、そういう事実の可能性を確定するには、有機物質は火の熱に耐え、その分子は反射炉のなかでも生きていられる、と主張することのほかに、まだしなければならないことが残っているというのは、私〔ルソー〕にはあまりよくわからないのだ」(Émile, O.C., t. IV, pp. 579-80. 『エミール』、中巻、316-7頁)。 ……続きは近日公開いたします。【7月9日追記:第四回、全文公開開始しました。】
by urag
| 2012-07-06 21:23
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