ナチスのキッチン――「食べること」の環境史
藤原辰史=著
水声社 2012年5月 本体4,000円 四六判上製456頁 ISBN978-4-89176-900-0
帯文より:ヒトラーから《食》を奪還せよ! ナチスによる空前の支配体制下で、人間と食をめぐる関係には何が生じたのか? システムキッチン、家事労働から、食材、そしてエネルギーにいたるまで、台所という《戦場》の超克を試みた、来るべき時代への《希望の原理》。新発見の事実や貴重なレシピをはじめ、未刊行資料・図版などを多数収録。
目次:
序章 台所の環境思想史
第1章 台所空間の「工場」化――建築課題としての台所
第2章 調理道具のテクノロジー化――市場としての台所
第3章 家政学の挑戦
第4章 レシピの思想史
第5章 台所のナチ化――テイラー主義の果てに
終章 来たるべき台所のために
「食べること」の救出に向けて――あとがきにかえて
★発売済。ナチスと食文化をテーマにした異色の研究書です。「いま、もっとも重要な《食》と《エネルギー》の問題をファシズムの視座から考える出色の1冊!」と版元サイトで紹介されています。担当編集者のSさんによれば、「ナチ時代に「ハイバウディ」という主婦向けの家事相談所を開設したヒルデガルト・マルギス、家事アドヴァイザーの元祖ともいうべきエルナ・マイヤー、フランクフルト・キッチンと呼ばれる機能主義的な小型台所を設計した女性建築家マルガレーテ・リホツキー」らが論じられているとのこと。巻末には付録として、1791年から1982年に至るドイツでの「ベストセラーの料理本」年表や、ベストセラーであった二つの本(ヘンリエッテ・ダヴィディス『実用的料理本』や、マリー・ハーン著『実用的料理本』)の版別レシピ構成表が掲載されています。なお、詳細目次は書名に張ったリンク先でご確認ください。著者の藤原辰史(ふじはら・たつし:1976-)さんは現在、東京大学大学院農学生命科学研究科講師。ご専攻は農業思想史、農業技術史で、著書に『ナチス・ドイツの有機農業』(柏書房、2005年)、『カブラの冬――第一次世界大戦期ドイツの飢饉と民衆』(人文書院、2011年)があります。今回の新刊『ナチスのキッチン』は、2008年5月にナカニシヤ出版より刊行されたアンソロジー『食の共同体――動員から連帯へ』に掲載された藤原さんの論文「台所のナチズム――「場」に埋め込まれる主婦たち」が出発点になっているようです。この論文は加筆改訂されて、本書の第5章になっています。私もそうですが、「こういう本を読みたかった」と思う読者は少なからずいると思います。各紙誌に書評が出そうですね。
アジア映画の森――新世紀の映画地図
石坂健治・市山尚三・野崎歓・松岡環・門間貴志=監修 夏目深雪・佐野亨=編集
作品社 2012年5月 本体2,800円 A5判並製363頁 ISBN978-4-86182-377-0
帯文より:グローバル化とクロスメディアの波のなかで、進化しつづけるアジア映画。東は韓国から西はトルコまで――鬱蒼たる「映画の森」に分け入るための決定版ガイドブック。アートからエンタテインメントまで国別の概論・作家論とコラムで重要トピックを網羅!
★発売済。アジア映画の監督たちを各国別に紹介する、読む事典です。巻頭に四方田犬彦さんの特別寄稿「アジア映画を観るということ――はじめに」、続いて監修者による座談会「アジア映画の現在形」が本書全体の総論となります。あとは各国別に注目の映画監督を紹介、各国別の総論を配するほか、総論で扱いきれないテーマを各所にコラムとして掲載しています。詳細目次は書名に張ったリンク先をご覧ください。紹介される国は、中国、台湾、香港、韓国、中央アジア/モンゴル、フィリピン、タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム&カンボジア、インド/スリランカ、パキスタン、イラン、イスラエル、アラブ&パレスチナ、トルコというように広域です。日本が入っていませんが、それにはまた別の一書が必要となるでしょう。巻末には「アジア映画・映画祭ガイド」「アジア史年表(二〇〇〇~二〇一一)」「作品名・人名索引」などがあります。
★なお作品社さんでは今月、マウリツィオ・ラッツァラート『
〈借金人間〉製造工場――“負債”の政治経済学』(杉村昌昭訳)を刊行されるそうです。楽しみですね!