
平凡社ライブラリーからスピヴァクの『デリダ論』が刊行されました。スピヴァク女史はデリダの『グラマトロジーについて』を英訳しているのですが、そこに原文で80ページ以上の長大な序文を寄せています。その序文を日本語訳したのがこの『デリダ論』です。
序文とはいっても本格的なデリダ読解の論文で、読み応えがあります。訳者である東大の田尻芳樹助教授は巻末の「訳者解説」で、「スピヴァクによるこの序文は、わが国で遅くとも1985年ころまでには翻訳されているべきものだった」と述べておられます。
というのも、スピヴァクによる英訳は1976年に刊行されたもので、はや四半世紀以上前の仕事なのです。そもそもデリダの原著『グラマトロジーについて』がフランスで刊行されたのが1967年で、足立和浩さんによる日本語訳(『根源の彼方に』上下巻)が現代思潮社から刊行されたのが1972年でした。ちなみにスピヴァクの初の日本語訳単行本『文化としての他者』は紀伊國屋書店から1990年に刊行されています。
写真に写っているのは、スピヴァクによる英訳の修正版(1997年、ジョンズ・ホプキンズ大学出版)です。修正版なのに、序文だけでも二十箇所以上の誤植がある、と田尻さんは指摘されています。いやはや。
ところで
平凡社さんは今月、スピヴァクの師にしてデリダの友であるポール・ド・マン(1919-1983)の『美学イデオロギー』も刊行されるそうです。訳者は上野成利さんです。第二期『批評空間』誌での連載終了からはや四年半が経過し、誰もが待望していました。ド・マンの翻訳書としても約七年ぶり!です。発売が楽しみですね。