2012年 03月 18日
![]() ★まもなく発売となる平凡社さんの新刊2点をご紹介します。なお平凡社さんは文京区白山より社屋の引っ越しをされ、明日(2012年3月19日)から、神保町で業務を開始されるとのことです。新しい所在地は、〒101-0051 東京都千代田区神田神保町3-29 電話03-3230-6570(代表)。栗田出版販売さんの新社屋の近くですね。新刊の奥付ではすでに新しい所在地が記載されています。平凡社さんのtwitter情報によれば「弊社98年の歴史で初めての神保町ではあります」とのこと。 完訳 日本奥地紀行(1)横浜―日光―会津―越後 イサベラ・バード(Isabella Bird, 1831-1904)著 金坂清則(1947-)訳注 東洋文庫(平凡社) 2012年3月 本体3,000円 全書判上製394頁 ISBN978-4-582-80819-3 帯文より:イザベラ・バードの明治日本への旅の真実に鋭く迫る初版からの完訳決定版。正確を期した翻訳と丹念な調査に基づく巨細を究めた徹底的な注で、初めてわかる諸発見多数。全4巻刊行開始。 ★1880年刊初版本からの完訳は、時岡敬子訳『イザベラ・バードの日本紀行』(上下巻、講談社学術文庫、2008年)以来です。平凡社さんではこれまで1885年刊簡略本の訳書、高梨健吉訳『日本奥地紀行』(東洋文庫、1973年;平凡社ライブラリー、2000年)を刊行されています。原書名はUnbeaten Tracks in Japan: An Account of Travels in the Interior, Including Visits to Aborigines of Yezo and the Shrines of Nikko and Iseで、直訳すると『日本の未踏の地――蝦夷の先住民および日光東照宮・伊勢神宮訪問を含む内地旅行の報告』(凡例より)。1878年(明治11年)5月に横浜に上陸し、同年12月に横浜から離日するまでの、七ヶ月間の旅行記です。「開港場の日本人は外国人と交わることによって人が悪くなり、品を失っているが、内陸部に住む日本人は「未開人」であるどころか、とても親切で、心優しく、礼儀正しい。それで、[外国人でも]日本人の従者一人以外には誰も伴わずとも、外国人がほとんど訪れない地域を、無礼な目にも強奪にも一度もあわないで旅することができる。私がこうして1200マイル[1930キロ]にもわたって旅ができたように」(36頁)。今回刊行された第一巻の解題には、原著の新解釈についてや、簡略本、既訳書の問題点を特記されており、新訳にかける強い思いを感じることができます。 ボヘミアの〈儀式殺人〉――フロイト・クラウス・カフカ 平野嘉彦(1944-)著 平凡社 2012年3月 本体3,200円 四六判上製292頁 ISBN978-4-582-70291-0 帯文より:「ユダヤ人はキリスト教徒を殺害し、その生血を過越の祭に用いる」――中世から連綿と続く〈儀式殺人〉への誹謗は、啓蒙主義の潜伏期を経て、近代に復活する。事件に対するユダヤ系知識人の多様な反応から、Judeであることの困難を描く異色の思想史。 帯文(裏)より:Judeを現在、一語の日本語に翻訳することはできない。人種・民族を根拠とする近代国民国家の成立以後にあってこの語は、宗教的概念「ユダヤ教徒」と人種的概念「ユダヤ人」の異なる二義をともに含むものになってしまったからだ。反ユダヤ主義やシオニズムにまつわる諸々のイデオロギーの錯綜もそのことを反映している。本書は、十三世紀に遡るユダヤ人による〈儀式殺人〉伝説が、長い忘却の淵から、近代に至って復活したことを焦点化し、文学的読解と歴史学的実証の双方から〈儀式殺人〉とされた事件に対するユダヤ系知識人たちの多様な反応を検証する。「Judeとして生きる」とはどういうことなのか、その複雑な輪郭を描く意欲作。 目次: 序論 第一章 〈儀式殺人〉の歴史 第二章 『タルムード・ユダヤ人』をめぐって 第I部 第一章 ボヘミアの〈儀式殺人〉 第二章 マサリックの異議申立 第三章 「暗示」をめぐって 第II部 第一章 フロイトの『日常生活の精神病理学』 第二章 クラウスの『炬火』 第三章 カフカの『審判』 第III部 第一章 それぞれの歩み 第二章 ウィーンのヒルスナー、あるいはヒルスナーのウィーン 第三章 ウィーンからの出立 注 あとがき 関係年表/文献一覧/索引 ★ユダヤ人がユダヤ教の祭である「過越(すぎこし)」に際してキリスト教徒の子供を殺してその血を抜き取り、儀式に使用する――古くから存在したデマがふたたび活性化していく歴史的過程を辿り、反ユダヤ主義に煽られたデマの横行を目の当たりにしたフロイト、カール・クラウス、カフカらの作品に影を落とした〈儀式殺人〉を考察しつつ、ドイツ語圏におけるユダヤ人の困難な地位を分析した本です。カフカの『審判』の主人公が喉をかき切られて死ぬ場面と、『審判』の執筆中断後に書かれた日記における記述との交差が、ツヴァイクの戯曲「ハンガリーの儀式殺人」を読んで泣いたカフカとつながっていくことを説明されるくだりには戦慄すら覚えました。今まで知らなかった『審判』の奥の部屋を覗かせてもらった心地です。なお、平野先生はちくま文庫で『カフカ・セレクション』全3巻を編訳されていますが、『審判』は訳されていません。
by urag
| 2012-03-18 21:24
| 本のコンシェルジュ
|
Comments(0)
|
アバウト
カレンダー
ブログジャンル
検索
リンク
カテゴリ
最新の記事
画像一覧
記事ランキング
以前の記事
2024年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 02月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 10月 2009年 09月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 06月 2009年 05月 2009年 04月 2009年 03月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 12月 2008年 11月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月 2004年 09月 2004年 08月 2004年 07月 2004年 06月 2004年 05月 最新のコメント
最新のトラックバック
|
ファン申請 |
||