2012年 03月 09日
本日3月9日(金)取次搬入になる以文社さんの新刊2点をご紹介します。 3・12の思想 矢部史郎(やぶ・しろう:1971-)著 以文社 2012年3月 本体1,600円 四六判上製カバー装160頁 ISBN978-4-7531-0300-3 版元紹介文より:「3・11ではない、3・12の話をしよう」。前著『原子力都市』(2010年)で、福島原発爆発後の世界を予見した著者が放つ、待望の語り下ろし。放射能拡散状況下で、社会はどう組み変わり、人々は何を信じるのか。混沌とした世界のはじまり、そして「百家争鳴」の時代を生き抜くための指南書。——2011年3月12日、私は娘を連れて、東京をあとにした—— 本文より:「あの日以来、私たちの認識は大きく転換しました。人々は、「原子力発電がどのように管理されているか」ではなく、「原子力発電をもつ国家は、社会をどのように管理するか」ということに関心を向けるようになった。原子力をめぐる「管理」の概念は、分裂し、反転したのです」(26頁)。 目次: はじめに Ⅰ はじまりとしての3・12 「三・一二」公害事件 原子力国家とはなにか 東京の未来 子どもと労働者への「無関心」 国内難民と母親たち 「外国人」としての避難民 Ⅱ 放射能測定という運動 放射能測定運動の基礎 検出限界の問題 セシウム134を検出することの意義 セシウムの作物移行を低減させることの問題 国が発表する空間線量の問題 「サンプル」調査の限界 誰が危険にさらされているか オートポイエーシス的運動 Ⅲ 3・12の思想 原子力資本主義、そして〈帝国〉 原子力のある社会 エコロジーとはなにか 放射能被害と新たなる集団性 世界の原子力体制 科学と魔術 今後、世界といかに接していくか あとがき 著者紹介:矢部史郎(やぶ・しろう) 1970年生まれ。90年代からさまざまな名義で文章を発表し、社会運動の新たな思潮を形成した一人。高校を退学後、とび職、工員、書店員、バー テンなど職を転々としながら、独自の視点から鋭利な社会批評を展開。人文・社会科学の分野でも異彩を放つ在野の思想家。 既刊書: 『無産大衆神髄』山の手緑との共著、河出書房新社、2001年 『愛と暴力の現代思想』山の手緑との共著、青土社、2006年 『原子力都市』以文社、2010年 ★矢部さんの単著第二弾は、「2011年の暮れと12年の初め、二日間にわたって」、杉村昌明氏を聞き手にして行われたロング・インタビューです。「今回私が話したいと思っているのは「3・11」の自然災害ではありません。その翌日「3・12」から始まる放射能公害事件です。大地震、大津波、原発爆発、放射能拡散という一連の出来事を、人々は「3・11」という日付で呼んでいるわけですが、私は問題をよりはっきりと腑分けするために、「3・11」ではなく「3・12」について話したいと思います。「3・12」事件はいまも終わっていないし、われわれが死んだ後もずっと継続し続ける問題だからです」(14-15頁)と矢部さんは語ります。「放射能拡散という問題を、それ自体として正面から見据えなくてはならない。この問題を「3・11」の副産物のように扱って、「未曾有の自然災害」という構図のなかに丸めてしまうと、問題は見えなくなってしまう。/「3・12」はいまも現在進行形で拡大している公害事件です。いま福島第一原発が奇跡的に終息したとしても、拡散した放射性物質は地面に残り続ける。たとえ日本の原発すべてを停止させても、国のエネルギー政策が転換しても、放射能の拡散は終わらない。東北・関東の住民は毎日少しずつ被曝し続ける」(21頁)。 ★本書の担当編集者Mさんのプレスリリースによれば、矢部さんは「は3・12」以後、名古屋に拠点を移し、東日本各地から送られてくる土壌や野菜などの放射線量を計測する運動に参加」しているとのこと。本書では、前著『原子力都市』から一貫して問い続けてきた「原子力化した社会とはいかなる社会か」という問題の現在と未来を率直に語られています。おそらく前著よりも広範な読者に読まれ、様々な反響を呼ぶだろうと思います。 西洋をエンジン・テストする――キリスト教的制度空間とその分裂 ピエール・ルジャンドル(Pierre Legendre:1930-)著 森元庸介(もりもと・ようすけ:1976-)訳 以文社 2012年3月 本体2,500円 四六判上製カバー装194頁 ISBN978-4-7531-0299-0 版元紹介文より:西洋社会を対象に「ドグマ人類学」を創設した著者が全成果を三つの講演に凝縮。「話す動物」としての人類の組織化原理を抽出し、キリスト教の抱えた「分裂」が、効率性によるグローバル支配の淵源にあることを明快に論証する。 原書:Le Point fixe. Nouvelles conférences, Mille et une nuits, 2010. 目次: 序 ドグマ学という領野の統一性 A エンジン・テスト B 新たなオルガノンを求めて 人類学的な問いかけの進展と西洋 C メランコリックな時間の物語 D 要塞的精神 文明の構成要素としての攻撃性 講演テクスト 第一講演 法律家よ、おまえは誰なのか 法の系譜についてのインフォーマル・トーク 第二講演 解釈という命法 第三講演 「世界の総体を鋳直す」 西方キリスト教の普遍主義についての考察――メランコリックな時間の物語 著者紹介:ピエール・ルジャンドル(Pierre Legendre) 1930年、ノルマンディー生まれ。法制史家・精神分析家。1957年パリ大学法学部で博士号を取得。民間企業、ついで国連の派遣職員としてアフリカ諸国で活動したのち、リール大学、パリ第10大学を経て、パリ第一大学教授と高等研究実習院研究主任を96年まで兼任。分析家としてはラカン派に属し、同派の解散以降はフリーランスとなる。中世法ならびにフランス近代行政史についての多数の研究を発表したのち、とくに70年代以降、主体形成と規範性の関係を問いながら、西洋的制度世界の特異性と産業社会におけるその帰結を考察する作業をつづけている。 既訳書 『第Ⅷ講 ロルティ伍長の犯罪――〈父〉を論じる』西谷修訳、人文書院、1998年 『ドグマ人類学総説――西洋のドグマ的諸問題』西谷修監訳、平凡社、2003年 『日本講演集 西洋が西洋について見ないでいること――法・言語・イメージ』森元庸介訳、以文社、2000年 『第Ⅱ講 真理の帝国――産業的ドグマ空間入門』西谷修・橋本一径訳、人文書院、2006年 『ルジャンドルとの対話』フィリップ・プティ聞き手、森元庸介訳、みすず書房、2010年 ★収録された三つの講演はいずれも2009年のもの。第一講演は5月にパリ大学にてジョルジュ・デュピュイ・サークル主催で行われた講演会「法律家であること」での発表。第二講演は11月にルクセンブルク大学で行われた討論会「解釈者の文明 ピエール・ルジャンドルの仕事をめぐって」での発表。第三講演は12月にミュンヘン大学先端研究センターで行われた講演「世俗的近代の宗教的な秩序モデル」。「訳者あとがき」によれば、『講義』シリーズ第9巻となる『西洋のもうひとつの聖書』の「エッセンスを抽出した」のがこの三つの講演録で、「まずは歴史を遡ってキリスト教的な制度性の特異な組成を明るみに出し(第一講演)、また歴史を降ってこの補正が、いまなお終わらぬ西洋の惑星的支配に裨益した所以を浮き彫りにする(第三講演)。このふたつの作業が歴史の軸線上で結ばれるとすれば、そこに縦からの陰翳を与えるのが、そもそもこうした制度性が機能として何を担っているのかについて、人類学の観点から概括する作業である(第二講演)」。 ★訳者の森元庸介さんは、本書でルジャンドルの翻訳が3冊目。現在、東京大学大学院教務補佐員をつとめられ、まもなく著書La Légalité de l’art. La question du théâtre au miroir de la casuistique がフランスのFayard社から刊行予定。さらに近刊訳書として、ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『ニンファ・モデルナ』(平凡社)、ジャン=クロード・レーベンシュテイン『猫の音楽』(勁草書房)があるとのこと。楽しみですね。
by urag
| 2012-03-09 15:42
| 本のコンシェルジュ
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