2004年 12月 23日
さる12月21日(火)は、詩人・竹内てるよさんの生誕百周年でした。この佳節を迎え、いつも小社のブログをご覧になっている皆様に、ご協力を仰ぎたいことがあります。それは、竹内てるよさんの第一詩集『叛く(そむく)』についてのことです。本書は、昭和4年(1929年)に銅鑼社から草野心平さんの謄写版で出版され、翌年には渓文社という私書肆から改訂増補版が刊行されたことになっています。この謄写版や改訂増補版をお持ちの方をご存知ありませんでしょうか。恥を承知で告白しますが、現物を見たことがないのです。 竹内てるよさんの第一詩集は昭和15年(1940年)に第一書房より刊行された『静かなる愛』であるとされる場合がありますが、これはいわゆる「詩壇デビュー作」と見なされるもので、本当の最初の一冊目ではありません。昭和初期の日本出版史に燦然と名を残す第一書房の社主、長谷川巳之吉さんは、昭和16年に刊行した竹内てるよさんのベスト詩集『生命の歌』戦時体制版に寄せる序で、こう書いています。 「心の清い、いい詩人をさがし出すことに関心をもつこと二十年、つひに此の詩人を発見することの出来たことは私の望外のよろこびである」。 長谷川さんは『静かなる愛』に対する当時の作家たちのこんな感想文を普及版の巻末に掲載しています。 「竹内てるよといふ詩人の名前は十年も前から僕は知ってゐたやうに思ふ。しかし極く少しの詩を、時折り見るぐらゐであつた。どういふ人なのか、知らなかつた。ところがこの頃『静かなる愛』といふ詩集を読み、大変感動して、忙しい最中に一晩ぼんやりしてしまつた。どんなに急がしいことがあつても、この一冊の詩集の読後の味を拭ひ去る気になれなかつたのである。この一冊の詩集を、私は、近来読んだもつとも立派な本だと思つていゐる。この本によつて、日本の女性への信頼といふやうなものを深めた、と言つた方がいいかも知れない」。――伊藤整 「この詩集は、その詩情の清らかさの故に尊い。ここに見出されるこの清らかさは、汚濁と焦燥の今の世にあつて最も缺けてゐる大切な美しさの一つである」。――堀口大学 「ドストエフスキー的な人類愛の精神を流麗平明な辞句で歌ひ来り歌ひ去るうちに、やさしい美を滾々(こんこん)と湧き立たせ、読む者のこころを清め向上させる力があります。この詩人に敬意を表して一言を呈する所以です」。――佐藤春夫 「立派な詩集で非常にうれしく存じました。神谷、竹内両君とも十二、三年来の友人であり、特に竹内君の処女詩集は私が謄写版で刷った関係などもあり、此度の美しい本を拝見して感無量であります。てるよさんの喜びも想像されます」。――草野心平 草野心平さんが言及されている「神谷」さんというのは、病弱な竹内てるよさんの生活を親身に支えた親友の詩人、神谷暢さんのことかと思います。てるよさんと神谷さんが設立した私書肆である渓文社をめぐるエピソードはアナキズム運動史研究家の亀田博さんの主宰されているサイト(であると私は拝見しているのですが)のこちらのページで詳しい説明を読むことが出来ます。 ちなみに小社が刊行しているてるよさんのベスト詩文集のタイトルは『静かなる夜明け』です。このタイトルは、『静かなる愛』の序詩から採っています。小社の本は他社さんの既刊本である自伝やその新装版の数々とは別に、読者にとってもてるよさんにとってもたいへん久しぶりなベスト版でしたので、僭越ではありますが、「再デビュー」の思いを込めて題名を選びました。 カバーに描いてある花は、てるよさんの大好きだった「ミヤコワスレ」です。そして帯にある「生きたるは一つの愛」という言葉は、てるよさんが知人に色紙を贈る際によく書かれていたという銘です。こうした舞台裏は今まで読者の皆様に一度もご説明したことはありませんでしたが、このたびの佳節にあたり、公にいたします。(H)
by urag
| 2004-12-23 01:10
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Comments(9)
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ご無沙汰しております。お変わりございませんでしょうか。『燈火節』の反響はいかがなものでしょうか? 昨年は私の方で本業が多忙になり、あまりお手伝いできず本当に申し訳ありませんでした。春の二巻目はネジを巻きなおしていきたいものと思っております。
さておき、竹内てる代『叛く』ですが、早稲田大学図書館 衣笠詩文庫に所蔵されているようです。 同文庫の目録は『早稲田大学図書館文庫目録 第五輯 衣笠詩文庫目録』 に公開されておりますが (Web 上の蔵書検索には入っていないようです) 、昭和 5年 1月 神谷暢刊行版が 2版、昭和 7年 4月 渓文社版が 1冊所蔵とあります。上の説明では初版は昭和 4年だそうですが、よく分かりませんねぇ。 しかるべき手続きを踏めば閲覧・撮影等は可能かと思います。 以上、もうとっくに情報を得ているとは存じておりますが、なにかの参考になればと書かせていただきました。 金光 拝
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金光様、こんにちは。『燈火節』の件ではお世話になり、まことにありがとうございました。書き込んでいただいたメッセージは担当者に伝えました。竹内てるよさん関連の情報をご提供いただき、あわせて感謝申し上げます。昭和5年1月の神谷暢刊行版というのは渓文社版と同様のものと思われます。昭和7年4月の渓文社版というのは、恐らく重版されたものかもしれないと拝察します。いずれにしても、貴重な蔵書で、ぜひとも閲覧したいところです。今後ともご指導のほど、よろしくお願いします。(H)
たまたま検索していて先ほどたどりつきました。当方の判りにくい
サイトを紹介して頂いて恐縮です。渓文社に関しては多少整理 したテキストを昨年末にアップしました。 http://www.ocv.ne.jp/%7Ekameda/keibunsha-shijin.html トップページにしか表示しなかったので、竹内関連のサイトからはたどり つけないかと思います。折りをみて竹内や詩のサイトは整理をします。 http://www.ocv.ne.jp/~kameda/ Kameda
Kameda様、ご訪問ありがとうございます。私の勝手な紹介に対して寛容なお言葉をいただき、恐縮です。今後も勉強させてください。よろしくお願いします。
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初めまして。
私は竹内てるよと共同生活をしていた神谷暢の息子です、 先日Kameda様ともお会いすることが出来まして、 渓文社のあった場所や色々なお話を伺うことが出来ました。 残念ながら父は自分の創った作品や本を取っておくことをしませんでしたので、渓文社発行のものは何もありません。 竹内さんのもの 昭和24年に甲府市の甲陽書房から発行された「生命の歌」と 昭和58年に田崎さんという方が渓文社の名前で新刷して下さった 「生命の歌」があるのみです、 あねの家にもう少しあるかもしれませんが・・。 私自身、国会図書館や、日本近代文学館に探しに行ったりしました。 竹内さんは父(暢)の子である私たち兄弟を我が子のようにかわいがってくれました。
神谷様、はじめまして。ご訪問いただき、たいへん光栄です。ご尊父様が、ご自身の創った作品や本を取っておかれなかったというのは、非常に興味深いエピソードです。なぜかと申しますと、竹内てるよさんその人もまさにそうだったからです。神谷様にはあらためてご挨拶を申し上げる機会があれば幸いです。どうか今後ともよろしくご指導のほどお願いいたします。 月曜社小林浩
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ごぶさたしたままですがリンクを頂いていたURLが私のミスで数字一つ分変えざるを得ず、従来のではアクセスできなくなっています。
最近、少し改定してブログにもアップ http://danpen2.exblog.jp/ URLが変更になった従来のサイトの新しいURL http://members3.jcom.home.ne.jp/anarchism/keibunsha-shijin.html
亀田さんお知らせをありがとうございます。
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