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2004年 12月 22日

「本とコンピュータ」14号は読書習慣を問う特集号ですね


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終刊まであと三号と迫った季刊誌「本とコンピュータ」の総まとめ特集第二弾は、日本人の読書習慣は消えたのか、それとも変わったのか、という問いに取り組んでいます。特に印象深かった記事は、『ゲド戦記』シリーズの約30年にわた訳業によって日本翻訳文化賞を受賞した清水真砂子さんと作家の堀江敏幸さんの対談「本が「ほんとうの名」を明かすとき」でした。

「ほんとうの名」というのは、『ゲド戦記』を読んだ方ならよくわかると思うのですが、万物に命名されている太古の名前のことで、魔法使いはその言葉の知識によって魔法を使うことができるという設定になっています。魔法使いはまた、人間一人ひとりに「ほんとうの名」を命名することもできます。「ほんとうの名」は人前では秘されるべきもので、人に知られることは自分を支配されるに等しいことです。

別の物語でもこうした設定はありますね。漫画家のあしべゆうほさんの『クリスタル★ドラゴン』に出てくるケルト人たちの風習がそれです。

こうしたことは単なるフィクションではなく、実際に存在したことです。『ゲド戦記』を書いたアーシュラ・ル=グウィンの実母であるシオドーラ・クローバーが紹介したネイティブ・アメリカンの話『イシ』で、都会に出てきた主人公は自分の名前を明かさず、「イシ」と名乗ります。イシとは彼らの言葉で言う「人間」のことです。

『イシ』は、岩波現代文庫で読めるほか、児童用の読み物として著者自らが再編集したヴァージョンも、単行本で岩波書店から刊行されています。どちらも素晴らしい本で、私のごく親しい友人はこの本の題名を口にするだけで涙ぐむほどです。

清水さんと堀江さんの対談の最後のほうで、堀江さんはこう述べておられます。

「もしかしたら、自分がどういう本を読んできたのかを人に話すというのは、「ほんとうの名前」を言うようなものなんじゃないか。あるいは本のほうでも「ほんとうの名前」をかくしもっていて、背に書かれているのはただの通り名にすぎないのではないか」。

この発言をファンタジーでも神秘主義でもなく、リアルに感じることのできる感性を私は信頼したいと思っています。

来年3月刊行の「本とコンピュータ」15号は、「出版再定義――このままでいいのか、わるいのか、それが問題だ」という仮題が付けられている特集号です。曰く、「マイナス成長がつづく日本の出版ビジネスを徹底的に検証します。はたして、かつての繁栄を取り戻せるのか、それとも、この縮小をあたりまえの環境として引き受けるのか。そうであるとすれば、ライターから編集者、書店人まで、出版にかかわる人びとは、今後どのように生きのびることになるのか。「本」の未来のために「出版」の再定義を試みる特集です」とのこと。たいへん楽しみです。

そして6月に出る16号は最終号で、「書物の運命」をテーマに、国際的な視野で議論を行うとのこと。業界人も読者もどしどし「介入」していきたい、介入すべき議題が、15、16号と続きます。(H)

by urag | 2004-12-22 23:50 | 雑談 | Comments(0)


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