2011年 11月 06日
大森荘蔵セレクション 大森荘蔵著 飯田隆・丹治信春・野家啓一・野矢茂樹編 平凡社ライブラリー 2011年11月 本体1700円 HL判並製496頁 ISBN978-4-582-76748-3 帯文より:哲学するとはこういうことだ! 物も過去も、じかに立ち現れる――戦後日本の最もオリジナルな哲学=大森哲学の、最強の編者による、最良の入門アンソロジー。巻末に4人の解説座談会! カバー紹介文より:私たちが見ているのは、物からの刺激が脳に作用して出来上がった「像」ではない。物はじかに立ち現われているのだ。――この国の戦後が持つことのできた最もオリジナルな哲学、対面する者に考えることを挑発してやまない強靭な思考、哲学とは歌うものではなく語るものだとした平明かつ鮮やかな文章――そのもとで学んだ四人の哲学者が、大森哲学のエッセンスを、その思考の軌跡を鮮明に示す論考を編む。最良のアンソロジー! 目次:【 】内は初出ないし初収単行本 はじめに(野家啓一) I 夢まぼろし 【流れとよどみ】 記憶について 【流れとよどみ】 真実の百面相 【流れとよどみ】 心の中 【流れとよどみ】 ロボットの申し分 【流れとよどみ】 夢みる脳、夢られる脳 【流れとよどみ】 II 哲学的知見の性格 【講座哲学大系(1)哲学そのもの】 他我の問題と言語 【哲学雑誌第83巻755号】 言語と集合 【言語・知覚・世界】 決定論の論理と、自由 【言語・知覚・世界】 知覚の因果説検討 【言語・知覚・世界】 知覚風景と科学的世界 【言語・知覚・世界】 III ことだま論――言葉と「もの‐ごと」 【物と心】 科学の罠 【物と心】 虚想の公認を求めて 【物と心】 IV 過去の制作 【時間と自我】 ホーリズムと他我問題 【時間と自我】 脳と意識の無関係 【時間と存在】 時は流れず――時間と運動の無縁 【時は流れず】 「後の祭り」を祈る――過去は物語り 【時は流れず】 自分と出会う――意識こそ人と世界を隔てる元凶 【朝日新聞96年11月12日】 初出・所収単著・底本 解説座談会――大森哲学の魅力を語る(飯田隆・丹治信春・野家啓一・野矢茂樹) 大森荘蔵主要著作 ★今週木曜日10日取次搬入と聞いています。戦後の日本哲学界を代表する巨人、大森荘蔵(1921-1997)さんの著書の、初めてのハンディなアンソロジー集です。これまでに刊行されている文庫では、単独著では『知の構築とその呪縛』(ちくま学芸文庫、1994年)、対談では『対談 日本語を考える』(大野晋ほか、中公文庫、2002年)や『音を視る、時を聴く』(坂本龍一、ちくま学芸文庫、2007年)、翻訳では『青色本』(ウィトゲンシュタイン、ちくま学芸文庫、2010年)があります。今回のアンソロジーは岩波版『大森荘蔵著作集』全10巻を底本とし、この哲学者の主要著作からエッセンスとなるテクスト群を一冊に集めています。編者を務めるのは大森さんの弟子にあたる四名の先生方。野家さんは「はじめに」と第IV部の前口上、丹治さんは第I部の前口上、飯田さんは第II部の前口上、野矢さんは第III部の前口上を、それぞれ書かれています。解説座談会は話が師をめぐるものだからでしょうか、皆さんの言及を拝読していると、青年のような生き生きした感じと、弟子同士の考え方の違いと、師の享年に少し近づいていく実感のような印象が混ざった空気が感じられて、まさにその様子が大森さんの存在の「大きさ」を想像させて興味深いです。 ★私は収録論文中では「ことだま論」に強く惹かれます。「すべての立ち現われはひとしく「存在」する。夢も幻も思い違いも空想も、その立ち現われは現実と同等の資格で「存在」する」。〔…〕そしてこの〔立ち現われの〕組織は固定したものではなく、絶えず再編成され絶えず揺動するものである。この組織は「真理」や「実在」の観点から組織された組織ではなく、生きるために賭けられた実践的組織であり、この生きんがための組織が「真理」とか「実在」とか呼ばれるのである。真理や実在によって生きるのではなく、生き方の中で真理や実在が選別的に定義されるのである。その定義はそれゆえ気まぐれや知的興味からなされる定義ではなく、命を賭け、生活がかかった定義なのである。だから、生き方が変れば真理や実在も変りうる」(293-294頁)。おそらく出版という営みは、そうした賭け(様々な賭け)がぶつかり合う文化戦争なのではないかと私は思うのです。 ★平凡社ライブラリーでは、本書と同時にクロポトキン『ある革命家の思い出(下)』(高杉一郎訳)が発売されます。周知のように本書は岩波文庫から上下巻で刊行されていましたが、現在は品切重版未定。ライブラリー版では下巻にロシア文化研究の重鎮である中村喜和さんによる解説が付されています。 今後のライブラリーの哲学系続刊予定の中にはさらに目を瞠るような書目があります。内輪話で耳にしただけなので公開できませんが、古典ものであるとだけ書いておきます。すごく楽しみ。 ★また、まもなく発売となる同社の東洋文庫の最新刊は坂井弘紀訳『ウラル・バトゥル――バシュコルト英雄叙事詩』になります。「ウラル・バトゥル(勇士ウラル)」はロシア連邦・ウラル地方のテュルク系民族バシュコルト(バシキール)に伝わる英雄叙事詩です。訳者解説によれば、この叙事詩の「主要なテーマは「死との戦い」である。ウラルは、死を倒し、永久の命をもたらす「命の泉」を手にするための旅に出る。死と戦うことは可能か、死から逃れ、永遠に生きることはできるか、生きることの意味とは何かを問う」とのことです。本書では「ウラル・バトゥル」の異本や、「イゼルとヤユク」「アクブザト」などの作品も収録されています。なお東洋文庫ではこれまで、テュルクの口承文芸作品は『ナスレッディン・ホジャ物語』『マナス』『デデ・コルクトの書』が刊行されています。東洋文庫の次回配本は来月12月、『インドの驚異譚(2)』です。 世界の探検大百科 英国王立地理学協会編 荒俣宏訳・日本語版監修 東洋書林 2011年11月 本体15000円 B4変型判360頁 ISBN978-4-88721-795-9 帯文より:そう、幾人もの越境者が人類史を塗り替えてきたのだ! カバーソデ紹介文より:古代のヴァイキングやギリシア・ローマ時代のアレクサンドロス大王による大遠征、あるいはシルクロードを経由しての交易や大航海時代における東方・西方ルートの開拓、そして現代のエヴェレスト登山、海洋探査や宇宙ステーション構想といったテクノロジーの枠を極めた挑戦などの、人類が行ってきたありとあらゆる「探検旅行」をここに集大成!100組に迫る古今東西の探検隊の詳細を、180本超のコラム、およそ80点の経路図、約900点もの写真図版をもって、明解に紹介する。 推薦:「探検の真髄と現在性に迫る美麗な大著」(須藤健一・国立民族学博物館長)、「連綿と続く、人類の勇気と希望の歴史」(椎名誠・作家)。 ★まもなく店頭発売開始。全頁カラーで非常に美しいです。原著は"Explorers: Great Tales of Adventure and Endurance"(Dorling Kindersley, 2010)。古今の「探検家たち」の足跡を紹介しています。北極や南極に挑んだ者も紹介されています。日本人は登場しませんがいずれの人物も興味深い人々です。ほとんどは男性で、女性はごく少数。冒険家というのはそれぞれに野望を持っています。未踏の地へとやむにやまれぬ情熱を傾けた人物もいれば、海賊もいましたし、残虐な征服者もいました。盛者必衰の移ろいの中で、世界がどんなふうに踏査されていったのかを見渡せる、感慨深い本です。 営業と経営から見た筑摩書房 菊池明郎著 論創社 2011年11月 本体1600円 四六判並製204頁 ISBN978-4-8460-1077-5 帯文より:在籍40余年の著者が筑摩書房の軌跡を辿る。1971年に筑摩書房に入社した著者は、80年に更正会社として再スタートする際の営業幹部となり、99年には社長に就任する。営業も経営も、出版の大事な仕事なのだ。新しい出版理念として時限再販を提言する!! ★まもなく店頭発売開始。小田光雄さんによるインタビュー・シリーズ「出版人に聞く」の第7弾です。筑摩書房の会長である菊池明郎(きくち・あきお:1947-)さんの貴重な体験談が満載です。意外だったのは入社のエピソード。ICUの学生だった菊池さんは平凡出版(マガジンハウス)、文藝春秋、平凡社、筑摩書房の入社試験にすべて落ちて就職が決まらなかったところへ、筑摩に受かっていた別の人間が内定を蹴って欠員になったために採用されたのだとか。出版界に強い憧れがあったわけでもないそうで、そんな自分がいずれ社長になるとは思いもしなかった、と。70年代の営業部の様子も非常に興味深く、以後こんにちへと続く道のりは苦難と波乱に満ちています。私が生まれて間もない頃から業界に生きてこられたわけで、私のような下っ端にも丁寧に接して下さる菊池さんがどんな風に仕事をされてきたのか、本書で初めて知ることばかりなのでした。シリーズの中でもっとも親近感を覚えながら読むことができる本、という印象です。 ★今春(2011年3月)、筑摩選書の新刊として二点同時発売された、和田芳恵『筑摩書房の三十年 1940-1970』(ISBN978-4-480-01515-0)と、永江朗『筑摩書房それからの四十年 1970-2010』(ISBN978-4-480-01517-4)はいわば「正史」ですが、本書はそこに盛り切れなかった話を掲載しています。この三冊は今年一緒に読まれるべきではないかと思います。さらに参考文献を挙げるとすれば、菊池さんと同様に社長を務められた編集者の柏原成光(1939-)さんの『本とわたしと筑摩書房』(パロル舎、2009年)、名物編集者の松田哲夫(1947-)さんの『編集狂時代』(本の雑誌社、1994年;新潮文庫、2004年)、名物営業マンの田中達治(1950-2007)さんの『どすこい出版流通――筑摩書房「蔵前新刊どすこい」営業部通信1999-2007』(ポット出版、2008年)などでしょうか。 ★『営業と経営から見た筑摩書房』と一緒に写真に収めたのは、先月刊行された『本 TAKEO PAPER SHOW 2011』(株式会社竹尾編、平凡社刊)です。カバーに記載されている紹介文によれば「紙に定着された「物体としての本」の魅力を伝えるビジュアル・コンセプト・ブック。本と人との関わりをビジュアルで綴る「人間と本」。識者78名が選んだ本と、エッセイ78本。紙の本の未来と、本のデザインの可能性を展望する」と。毎年開催されているTAKEO PAPER SHOWですが、今年は震災の影響で10月20日から11月4日までの間にひらかれました。書店店頭でもブックフェアが展開されており、現在も続行中。こちらで最新情報を確認できます。昨年は「電子書籍元年」などと騒がれましたが、来年はいよいよアマゾンがキンドル・ファイアをひっさげて日本で電子書籍販売を本格展開しそうな勢いです。そんな中で「物体としての本」「紙の本」について問いを掘り下げてみることは、出版人にとって非常に身近で重要なことです。このコンセプト・ブックは背を見ると三冊の本に見えますが、実際に開いてみると一冊の本としてくっついています。弊社発売の『表象』のデザインを手掛けられている東京ピストルの加藤賢策さんや、弊社刊『ブラジルのホモ・ルーデンス』の著者である今福龍太さんも寄稿されています。
by urag
| 2011-11-06 23:02
| 本のコンシェルジュ
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