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ウラゲツ☆ブログ

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2011年 08月 15日

ウェブ連載:ルソー『化学教程』翻訳プロジェクト 第二回

ウェブ連載第二回をまもなく弊社ウェブサイトにて公開する予定です。その一部を先駆けて掲載いたします。

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『化学教程』第一部 物体の諸要素とそれらの構成について
第一章 物質の原質(1)について

1 [A:1, F:9, C:57]自然学physique(2)、とりわけ博物誌に利点があるということは、もはや無学な人たちの間でさえ自明である。私たち自身についての知識、すなわち私たちの身体〔物体〕corpsについての知識、そして私たちを取り巻いている物体についての知識は、私たちの自己保存、安楽、楽しみにとって非常に有益である(3)、ということをすべての人々が認めている。それゆえ、自然学と博物誌の一般な利点を明らかにすることはもはや問題にはならず、誰もその利点について議論することはない。

(1) 原質principesとは、物質を構成するものを意味する。
(2) physiqueは、現在では「物理学」と訳されるが、当時はより包括的な学問分野であったため、本書では「自然学」と訳す。
(3) 安楽commodité、楽しみplaisirsの二語がシャンピオン版では抜け落ちている。

2 [C:58]〔だが〕化学と呼ばれる自然学のこの一分野については、事情が全く違う。多数の偉大な哲学者たちを生んだこの偉大な時代にもかかわらず、その時代に人々がなした進歩、そしてその進歩から得られた利益――その利益が健康に関するものであったにせよ、教育〔教化〕instructionに関するものであったにせよ――にもかかわらず、そして化学が人々の財産である技術を富ませるような素晴らしき多くの発見を有しているにもかかわらず、啓蒙されたはずの人々でさえ、今日でも化学を無用で空想的な研究であるとみなしている。彼らはさらに、化学の主要な探求はありもしない〔錬金術の〕変成transmutation(4)か有害な治療(5)のみを目的としている、とみなしているのだ(6)。[A:2]しかし、物質とよばれるあらゆるものから獲得できる最も確実な知識へと私たちが到達しうると見込めるのは、唯一化学によってであると思われる。というのも、化学の目的とは物質の本質esssenceを知ること、物質の内的構造を詳述すること [F:10]、それによって化学が私たちに示す様々な様態modesや偶有性accidentsの原因を発見することだけなのである。自然学は物体をその運動、形象、その他の似たような変化〔様態〕によってのみ考察する限りにおいて、諸物体が相互に産出し合う効果〔結果〕effetsのいくつかについて判断することを私たちに教えてくれる。しかし、自然学はいわば見かけécorceと表面surfaceしか検討しないので、自然学は物質を内的にかつその固有の基体substance(7)によって認識することは少しもできないのである。そうした探求に向けられる化学は自然学のあらゆる部分の中で一番重要である。そして自然の――すなわち自然を構成する物体の――真の認識に到達するための何らかの道筋が存在するとすれば、それは物体の分析analyse(8)と物体自体を形成する要素éléments(9)に関する知識によって到達可能となるのである。それゆえ、これら二つの研究〔自然学と化学〕を分離してはならない。両者にはそれぞれ固有の探求があるのだが、この二つの研究は相互に補完しあわねばならない。かつ、それらの研究を成功させるための最良の方法は以下のとおりである。すなわち、同じ速度で両者の研究を共に押し進め、私たちの時代で最も偉大な哲学者たちにならって自然学者の諸発見を化学の操作を完成させるために使用し、そして化学の知識によって実験自然学la physique expérimentaleの謎のなかに入り込むことである。

(4) 錬金術alchimieのひとつの目的は、卑金属を貴金属(とりわけ金や銀)に変えることであった。
(5) 青年ルソーの母親の代わりでもあり、恋人でもあったヴァラン夫人は民間療法や錬金術を学んでいた。だが、ルソーは彼女が学んでいたそのような学問を悪く思っていたようである。「彼女〔ヴァラン夫人〕のうけた教育は雑然としていた。〔中略〕彼女は哲学や自然学の原理を多少は知っていたが、彼女の父が持っていた民間療法や錬金術への趣味嗜好も持っており、不老薬やチンキ剤や練香や妙薬を作ったりしていた。秘法を持っていると彼女は言っていた。こういう夫人の弱みにつけこんで、ペテン師どもは彼女をとっつかまえ、食いさがり、破産させた」(Confessions, OC, t. I, p. 50.『告白』(上)、桑原武夫訳、岩波文庫、1965年、73頁)。
(6) ルソー原注: 技術が化学から引き出した利点の詳細について私たちは以下で詳述するだろう。
(7) 本訳では、matièreとsubstanceのレベルの違いを考慮して、前者を「物質」と、後者を「基体」と訳した。Vocabulaire technique et critique de la philosophie(s. v. « substance », Lalande, André, Vocabulaire technique et critique de la philosophie (9e éd), Paris : Presses universitaires de France, 1962)では、化学の分野で使われるsubstanceをmatièreで言い換えている(むろん、アリストテレス以来の「基体」の三種類の区別を背景としている。『形而上学』1029a2-4を参照)。また、ルソーのテキストにおいても、両者はほとんど置換可能な場合が多いので、同じ訳語を当てることにした。
(8) 分析analyseとは、物体を構成物質に分解することを意味する。この「分析」概念は、『化学教程』における最重要概念であると言ってもよい。本書におけるルソーの課題を端的にまとめれば「どのようにして物体を分析することが可能であるか」である。『化学教程』の中でルソーは先人の化学者たちの分析方法の不十分さを指摘し、化学的分析の彫琢を目指している。また、「分析」概念は彼の政治思想における方法論にとっても重要である。詳しくは、以下の拙著論文をご覧頂きたい。淵田仁「なぜルソーは「分析」を批判したのか?――ルソーの『化学教程』についての試論」、『フランス哲学・思想研究』第16号所収、日仏哲学会、2011年刊行予定。
(9) 要素élémentsとは、物体を構成する素材を指す。『化学教程』では、アリストテレスの四元素説が要素élémentsとして採用されている。すなわち、火、水、空気、土である。

3 [C:59]しかしながら、私たちが知っているあらゆる物体は――それらの間にいかなる差異があろうとも――、共通の特性propriétésを持っているので、それらの物体が同様の要素で構成され、これら要素の組み合わせだけが各々の類genreと種espèceを構成していると考えることは当然である。一般に物体および物質と言う場合、……【続きは月曜社公式ウェブサイトで公開中です】

by urag | 2011-08-15 12:06 | ウェブ限定コンテンツ | Comments(0)


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