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2011年 04月 17日

大迫力!クーデルカ写真集『プラハ侵攻1968』平凡社より明日発売

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★ジョセフ・クーデルカ(ヨゼフ・コウデルカ:Josef Koudelka, 1938-)の2008年の写真集『侵攻 68』〔Invaze 68〕の日本語版がついに明日4月18日(月)に刊行されます。1968年8月、当時共産主義圏にあったチェコスロヴァキアは「プラハの春」と呼ばれる自主改革(自由化)路線のさなか、それを「反革命」とみなしたソ連率いるワルシャワ条約機構軍に首都プラハを侵攻されます。侵攻開始から七日間のドキュメントとなるのが、クーデルカのこの写真集です。戦車が大挙して街路を埋め、銃を持った兵士たちが党中央委員会やラジオ局を占拠するさなか、プラハの市民たちは勇敢にも、老若男女を問わず街頭に出て、戦車や兵士の前に立ちふさがり、「言葉」を武器にして軍に抵抗を試みます。「自分の国の進む道は自分たちで決める」という強い意志。市民は国歌を声高らかに歌いながら、兵士たちが撤退するようすべての路上で説得を試みます。町を焼かれ、銃で撃たれ、戦車に轢かれても、プラハ市民はなおも兵士たちに声をかけ続けます。ある時は広場を席捲するように座り込み、またある時は一人残らず街路から消えて進駐軍をうろたえさせ、版画や落書きやポスターで町じゅうを埋め尽くして自分たちの正義をアピールし、住所や道の名前を表示するプレートをすべて外して「無名」の大きな塊となって自己防衛します。歴史が大きく動こうとするその瞬間を、クーデルカは次々に切り取りました。その写真群はただただ圧倒的です。一枚一枚の写真が宿す臨場感は、現代の3D動画が陳腐に思えてくるほどの迫力を有しています。写真を「視る」という行為が、動画を見る行為とは決定的に異なることをまざまざと教えられます。収録作品は約250点。B4判の大画面にシンプルかつ力強いレイアウトと造本で、これでたったの3800円(税別)とは恐れ入ります。やがて後年、1989年のビロード革命につながっていく民衆のうねりを体感できる傑作です。

ジョセフ・クーデルカ プラハ侵攻 1968
ジョセフ・クーデルカ写真 阿部賢一訳
平凡社 2011年4月 本体3,800円 B4判並製296頁 ISBN978-4-582-27782-1

帯文より:プラハ市民はいかに戦車と向き合ったのか? 20世紀の歴史的実験であった〈プラハの春〉の圧殺と、言葉を武器とした抵抗のすべてをとらえた画期的ドキュメント。ロバート・キャパ賞受賞のクーデルカの傑作が、初めて明らかになる! 東京都写真美術館「ジョセフ・クーデルカ プラハ 1968」展公式カタログ(2011年5月14日~7月18日開催)。

カバー(表4)紹介文より:1968年、30歳のジョセフ・クーデルカは、それまで6年間、ロマの写真と舞台写真を撮っていたが、事件を報道する写真を撮ったことはなかった。〈プラハの春〉の最中の8月21日の夜、ワルシャワ条約機構軍の戦車がプラハに侵攻した。クーデルカはルーマニアでロマを追っていたが、ちょうどその日はプラハに戻っていた。彼はこの事件の一連の写真を撮影し、秘密裏に国外に持ち出すことに成功した。その写真はニューヨークに届き、1年後、マグナムから配信された。報復を避けるために、それらの写真は“チェコの匿名の写真家”とクレジットされた――だが、匿名でありながら、クーデルカはこの写真でロバート・キャパ賞を受賞した。そして16年後、彼の家族への脅威が一段落し、また父が亡くなっていたことから、ようやく自らの写真の著作権を明らかにした。撮影からおよそ40年を経て、クーデルカによって自分のアーカイヴから選ばれた約250枚に及ぶ紙焼写真の大部分は、この写真集によって初めて公開されるものである。

★平凡社さんが最近刊行された写真集と言えば、先月発売された本橋成一写真集『屠場〔とば〕』もたいへん素晴らしいものでした。私たち一般消費者が国内の食肉市場の現場を見ることはほとんどありませんが、その現場の空気をこまやかに写し撮った本書は、牛と人とのかかわり合いや「食と命」について静かな省察へと誘う貴重な本です。

屠場
本橋成一写真 鎌田慧解説
平凡社 2011年3月 本体2,800円 B5変型判上製128頁 ISBN978-4-582-27783-8

版元案内文より:筑豊やチェルノブイリの記録を発信してきた本橋成一が、故なき職業差別と身分差別に抗いながら、大阪・松原の屠場でいのちと向き合う人びとを追った、渾身のドキュメント。

推薦文より:「写真を見て音や声が聞きたいと切望したことがあっただろうか」(田中泯)。「農家から運ばれてきたいのちが磨き立てられ、食肉に宿って町へ出ていく。屠場はそのいのちの輪廻がみえる工場である」(鎌田慧)。「ここに映りし人々は、世のため、人のために、部落差別と闘いながら、屠場の労働に生命を賭け、情熱を持ち、部落産業を守り通した先人達の誇りを受け継ぐ、誇り高き人間達である」(吉田明)。

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★一方、東洋書林さんでは間もなく以下の新刊を発売します。ジョナサン・サフラン・フォア『イーティング・アニマル――アメリカ工場式畜産の難題〔ジレンマ〕』(黒川由美訳、本体1800円、ISBN978-4-88721-789-8)。副題が示す通り、アメリカの畜産業界の現状についてのルポです。著者はユダヤ系アメリカ人三世で、ヴェジタリアン。ただし、「最善の畜産をめざす人々を支持するヴェジタリアン」(278頁)で、本書ではアメリカでの大規模なFactory Farmingにおける様々なリスクの実態について調査しています。食の安全性と人間の欲望を真摯に問う本です。

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by urag | 2011-04-17 19:25 | 本のコンシェルジュ | Comments(2)
Commented by kappaup at 2011-05-24 17:49 x
イーティング・アニマルとても良い本でした。内容も、文章も。でも残念なことに原書にある詳細な「注」が全部失われていました。日本の出版界ではよくあることなのですが、個人的にはたいへん残念な慣行です。なぜなら「注」によって著者の見解を自ら確かめ、自ら批判的に書物を読む読者の存在を考慮に入れていない、あるいはそもそも想定していないからです。書物は真理ではなくて、批判の対象だと思う私からすれば、こうした慣行ははやく無くなればよいと思います。月曜社さんはこうした出版慣行についてどのようにお考えですか?
Commented by urag at 2011-05-24 19:00
kappaupさんこんにちは。注を削除するのは慣行というよりは、削除を選ぶそれぞれ個別の事情やら理由やらがあるからで、一概には否定できないのですが、注に重要な情報や捕捉、留保が含まれている本の場合は、削除してしまうのはやっぱり避けたいですね。kappaupさんが失望されるのも無理からぬことです。そういう場合ははっきりと版元に意見した方がいいかもしれません。訳者や編集者が本当は削除したくなかったということもありえるので。


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