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2011年 02月 13日

注目新刊:『生権力論の現在』『ゼロ年代の論点』

発売になったばかりの新刊とまもなく発売の新刊、合計2点をご紹介します。1点目は先週後半に発売された、檜垣立哉編著『生権力論の現在――フーコーから現代を読む』(勁草書房)です。帯文にはこうあります:「生命の世紀である21世紀を解読する軸として、今新たな視角から求められている「生権力」概念。人類学、社会学、哲学を専門とする気鋭の論者の論考によって、フーコーの議論の原理的な潜勢力を明らかにする」。同書では檜垣さんを含め7名の方々の論考を読むことができます。中でも、第五章「生命と認識――エピステモロジーからみる「生権力」の可能性」を執筆された近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さんは、同書の執筆者略歴に明記されている通り、弊社から『カヴァイエス研究』を上梓される気鋭の若手研究者です。ほどなく発売予定と聞く某誌のエピステモロジー特集号にも尽力されていると伺っています。『カヴァイエス研究』は20世紀フランスのエピステモロジーの系譜を語る上で欠かせない重要な数理哲学者ジャン・カヴァイエス(Jean Cavaillès, 1903-1944)にかんする本邦初の本格的な研究書になります。

2点目は今週水曜日16日発売となる円堂都司昭(えんどう・としあき:1963-)さんの『ゼロ年代の論点――ウェブ・郊外・カルチャー』(ソフトバンク新書)です。カバーに記載された紹介文によれば、本書の内容はこうです。「ゼロ年代に批評は何を論じてきたのか? 注目すべき多くの書籍を通して、ゼロ年代の論点を文芸・音楽評論家が浮き彫りにする。そこから見えてくる従来とは異なる表現のかたちやネットの影響力、そして街並みの変容などは、まさに現在考えるべきテーマだ。本書はブックガイドとしてはもちろんのこと、ゼロ年代に論じられた幾つものポイントをナビゲーションする役割も果たすだろう」。同書の「まえがき」では端的にこう宣言されています:「本書は、二〇〇〇~二〇一〇年の批評に関するガイドブックである」(3頁)。なお、本書で言う「批評」とは、「世界と「私」について考えること」(同頁)だと定義されています。本書の概要は目次詳細が如実に示していると思うので、以下に特記します。

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『ゼロ年代の論点――ウェブ・郊外・カルチャー』目次

まえがき
第1章 ゼロ年代批評のインパクト
 ゼロ年代の批評をリードする――東浩紀『動物かするポストモダン』
 コミュニケーションを鍵として――宇野常寛『ゼロ年代の想像力』
 ニコニコ動画は政治をも動かす――濱野智史『アーキテクチャの生態系』
 この国の批評のかたち――佐々木敦『ニッポンの思想』
 「世界視線」とアーキテクチャ
  パフォーマティヴとコンスタティヴ
  「私」からの逃亡と自分探し
  投瓶通信の否定
  不況下の批評
第2章 ネットの力は社会を揺さぶる
 アイロニーと反省からみた状況のねじれ――北田暁夫『嗤う日本の「ナショナリズム」』
 理想と現実、ウェブ2.0と2ちゃんねるのあいだ――梅田望夫『ウェブ進化論』
 宿命とセカイの外へむかって――鈴木謙介『ウェブ社会の思想』
 「祭り」のあとでクールに思考する――荻上チキ『ウェブ炎上』
 情報環境とコミュニケーション
  セキュリティと環境管理型権力
  事件の物語化の変容
  秋葉原通り魔事件と「ゲーム的」現実感覚
  「呼びかけのメディア」の可能性
第3章 言葉の居場所は紙か、電子か
 「つぶやき」が情報流通インフラになるとき――津田大介『Twitter社会論』
 小説と文藝批評の擁護者として――前田塁『紙の本が亡びるとき?』
 オープン化は「本」をも変えるか――佐々木俊尚『電子書籍の衝撃』
 「教養」の終焉と著者2.0
  「本」と「青春」の終わり
  「文学」の終焉と成熟の不可能性
  文学フリマと批評の居場所
  レヴュアーの時代
  言葉の変化と風景の変化
  ニコニコ動画からツイッターへ
第4章 データベースで踊る表現の世界
 「ぼくら語り」にレッドカード――伊藤剛『テヅカ・イズ・デッド』
 オタクの自意識と思春期をめぐって――前島賢『セカイ系とは何か』
 情報処理の方程式は何を読み解くか――福島亮大『神話が考える』
 キャラ/テクノ/スーパーフラット
  セカイ系と萌え
  新本格ミステリーと「キャラ」
  『アトムの命題』と大量死理論
  八〇年代との連続性
  「日本ゼロ年」というリセット
第5章 変容するニッポンの風景
 すべては個室になるか――森川嘉一郎『趣都の誕生』
 「過去」失い流動化する地方――三浦展『ファスト風土化する日本』
 郊外のデフレカルチャー――速水健朗『ケータイ小説的。』
 建築とアーキテクチャ
  二種類のテーマパーク
  「ホームレス」と「ストリート」
  都市デザインとしての2ちゃんねる
  物理空間と情報空間】
終章 二〇一〇年代にむけて
  アーキテクチャ批判という伝統芸
  「現実」の時代
主要参考文献
あとがき

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終章では佐々木中『切りとれ、あの祈る手を』や『思想地図β』創刊号に触れています。ご覧の通り、人文書売場の日本思想棚、とりわけ「ゼロ年代」の棚をつくるためにはもってこいの便利な参考書になっています。各章を構成する各節はそれぞれ短くて読みやすいですし、独立性もあるので順番にこわだらず拾い読みすることも可能です。参考文献に書店さん独自の肉付けをすれば、フェアにも棚にも応用できるでしょう。読書の時間がなかなか取れない方はまず本書を読んで、そこから、取り上げられているそれぞれの本の中で興味を感じた書目へと進むのが近道の一方法ではないかと思います。
注目新刊:『生権力論の現在』『ゼロ年代の論点』_a0018105_20393694.jpg


by urag | 2011-02-13 20:38 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)


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