2010年 10月 31日
![]() ★サンデル教授の『これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学』(早川書房)はついに発行部数が60万部を突破したそうです。近年の哲学書としてはモンスター級の売行きです。そしていよいよ今月(2010年10月)、NHK「白熱教室」の翻訳台本が書籍化されました。テレビを見た方にも見ていない方にもぜったいお薦め。学生とのやり取りを含めた会話調の講義録ですから、『これからの』よりもさらに読みやすいです。 ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業(上・下) マイケル・サンデル(1953-)著 NHK「ハーバード白熱教室」制作チーム+小林正弥+杉田晶子訳 早川書房 2010年10月 本体各1,400円 ISBN978-4-15-209168-0/ISBN:978-4-15-209169-7 ◆版元紹介文より 殺人に正義はあるか? 命に値段はつけられるか? 空前の「正義の哲学」ブームを呼んだサンデル教授の対話型人気講義。NHKで放送された全24コマのスクリプトに加え、安田講堂での講義も収録。 ◆カバーソデ紹介文より 【上巻】私たちの暮らしにひそむ哲学の根源的なテーマを鮮やかに取り出し、古今の哲学者の思想を織り交ぜながら、刺激に満ちた議論が繰り広げられる。ハーバード大学史上屈指の人気を誇る名講義の書籍化。上巻は、NHK教育テレビで放送された「ハーバード白熱教室」の第1回~6回まで、および2010年8月に行なわれた東京大学特別授業の前篇「イチローの年俸は高すぎる?」を収録。 【下巻】現代社会のアクチュアルな問いに切りこむ斬新な哲学対話が、世界の見方を大きく変える。知的興奮に満ちた議論は、感動のフィナーレへ。下巻は、NHK教育テレビで放送された「ハーバード白熱教室」の第7回~12回まで、および2010年8月に行なわれた東京大学特別授業の後篇「戦争責任を議論する」を収録。 ◆目次 【上巻】 本書を読むにあたって 第1回 殺人に正義はあるか レクチャー1 犠牲になる命を選べるか レクチャー2 サバイバルのための「殺人」 第2回 命に値段をつけられるのか レクチャー1 ある企業のあやまち レクチャー2 高級な「喜び」 低級な「喜び」 第3回 「富」は誰のもの? レクチャー1 「課税」に正義はあるか レクチャー2 「私」を所有しているのは誰? 第4回 この土地は誰のもの? レクチャー1 土地略奪に正義はあるか レクチャー2 社会に入る「同意」 第5回 お金で買えるもの 買えないもの レクチャー1 兵士はお金で雇えるか レクチャー2 母性 売り出し中 第6回 なぜ人を使ってはならないのか レクチャー1 自分の動機に注意 レクチャー2 道徳性の最高原理 東京大学特別授業[前篇]――イチローの年棒は高すぎる? 【下巻】 本書を読むにあたって 第7回 嘘をつかない教訓 レクチャー1 「嘘」と言い逃れ レクチャー2 契約は契約か? 第8回 能力主義に正義はない? レクチャー1 勝者に課せられるもの レクチャー2 私の報酬を決めるのは…… 第9回 入学資格を議論する レクチャー1 私がなぜ不合格? レクチャー2 最高のフルートは誰の手に 第10回 アリストテレスは死んでいない レクチャー1 ゴルフの目的は歩くこと? レクチャー2 奴隷制に正義あり? 第11回 愛国心と正義 どちらが大切? レクチャー1 善と全が衝突する時 レクチャー2 愛国心のジレンマ 第12回 善き生を追求する レクチャー1 同性結婚を議論する レクチャー2 正義へのアプローチ 東京大学特別授業[後篇]――戦争責任を議論する ★「白熱教室」は近くDVD全6巻も発売されます。NHK教育テレビの全12回の放送を2回ずつ収録しているとのことです。 『NHKDVD ハーバード白熱教室』12月8日発売 発行:NHKエンタープライズ 販売元:ポリドール映像販売会社 字幕:1=日本語、2=英語(講義部分のみ) 音声:1=日本語&英語、2=英語(講義部分のみ) 仕様:片面2層、16:9LB、ステレオ、ドルビーデジタル DVDBOX(全6巻+ボーナスディスク)税込17,640円、品番POBD-25901・・・本編696分。全講義解説ブックレット付(千葉大学教授・小林正哉氏)。ボーナスディスク――内容〈1〉「ハーバード白熱教室@東京大学」(2010年10月3日・10日にNHK教育テレビにて放送)。内容〈2〉サンデル教授スペシャルインタビュー(未放送映像含)。 DVD単巻(1~6巻)税込各2,940円、品番POBD-25008~25013・・・本編各118分。収録講義解説リーフレット付。 ★さらに早川書房では、8月27日に六本木で行われた来日講義「第15回ハヤカワ国際フォーラム with アカデミーヒルズ――マイケル・サンデル教授特別講義・日本版」(「ニコニコ生放送」でも中継)を、DVDブックとして12月末に発売するとのことです。本は日英対訳、DVDは音声2カ国語と聞いています。 日本で「正義」の話をしよう――サンデル教授の特別授業 DVDブック(仮題) 小林正弥監修・解説 鬼澤忍訳 早川書房 2010年12月 定価未定 46版上製 ★これらに続いて、勁草書房では『民主政の不満――公共哲学を求めるアメリカ』下巻が来春刊行予定。『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』やNHKDVDの解説を担当されている小林正弥さんがサンデルの主要著書5点を平明に紹介した『サンデル教授の政治哲学』(平凡社新書)もまもなく発売される予定で、bk1では現在予約受付中です。 ★DVD、DVDブック、そして新刊と、サンデル・ブームは留まるところを知りません。業界の早耳によれば、サンデルの既刊原書の日本語訳版権はすべて売れてしまっているそうですから、まだまだ本が出続けることでしょう。ロールズ『正義論〔改訂版〕』もまもなく発売されますし(後述)、日本の研究者による正義論もすでに出始めています(仲正昌樹『ポストモダンの正義論――「右翼/左翼」の衰退とこれから』双書Zero:筑摩書房)から、本屋さんの人文書売場では「正義論」棚が生成されていくことになるのではないでしょうか。 ★なお、『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業(上・下)』に先立ち、京都の人文系版元・ナカニシヤ出版からは以下の新刊が発売済みです。こちらは生命倫理学をテーマにした一冊。ブームに先んじて翻訳作業が始まっていたもので、サンデル需要が急激に高まっている現今のタイミングで出版されたことは読者にとって幸運でした。 完全な人間を目指さなくてもよい理由――遺伝子操作とエンハンスメントの倫理 マイケル・J・サンデル著 林芳紀(1974-)+伊吹友秀(1981-)訳 ナカニシヤ出版 2010年10月 本体1,800円 四六判上製194頁 ISBN978-4-7795-0476-1 ◆版元紹介文より いま話題の政治哲学者が、遺伝子操作やドーピングなど医学的手段による能力向上がはらむ倫理的問題について「贈られものとしての生」という洞察から熱く真摯に語った、人間とテクノロジーについて考える上で必読の一冊。 ◆原書 The Case against Perfection: Ethics in the Age of Genetic Engineering, Belknap Press, 2007. ◆目次 序言 第一章 エンハンスメントの倫理 不安の明確化 遺伝子操作 筋肉 記憶 身長 性選択 第二章 サイボーグ選手 スポーツの理想――努力 対 天賦の才 パフォーマンスの向上――ハイテクとローテク ゲームの本質 第三章 設計される子ども、設計する親 形取りと見守り 子どものパフォーマンスへの圧力 第四章 新旧の優生学 旧来の優生学 自由市場優生学 リベラル優生学 第五章 支配と贈与 謙虚、責任、連帯 反論 支配のプロジェクト エピローグ 胚の倫理――幹細胞論争 幹細胞の諸問題 クローン胚と予備胚 胚の道徳的地位 論証の分析 含意の追求 尊重の担保 原注 訳注 訳者解題 訳者あとがき 事項索引 人名索引 ★サンデル・ブームに先立ち、人文書業界で長い間再刊が待ち望まれていたもうひとつの正義論があります。その本はサンデルもしばしば参照している名著で、1971年に原著が刊行されて以来、30カ国語以上で翻訳されています。その本はジョン・ロールズの主著『正義論』です。11月18日、ついに紀伊國屋書店より改訂版が発売になります。旧版は、矢島鈞次監訳で1979年に発売され、1994年11月に8刷が出たことまで確認済。その後、講談社の「現代思想の冒険者たち」シリーズ第23巻として、1997年4月に川本隆史『ロールズ――正義の原理』が刊行され、巻末の「主要著作ダイジェスト」において川本先生はこう書かれたのでした。「実はこの本を書きあげたら『正義論』の新訳にとりかかる相談を、出版社と内々に進めている。読みやすい日本語に直して、できるだけ早めに読者に提供したい」(283-284頁)。それが今回実現したことになります。なお、「主要著作ダイジェスト」では、ロールズが1993年に上梓した『政治的リベラリズム』が岩倉正博訳で紀伊國屋書店で準備中、と特記されていましたが、現時点では未刊です。 正義論〔改訂版〕 ジョン・ロールズ(John Rawls:1921-2002)著 川本隆史(1951-)+福間聡(1973-)+神島裕子(1971-)訳 紀伊國屋書店 2010年11月 本体7,500円 A5判上製844頁 ISBN978-4-314-01074-0 ◆版元紹介文より 現代リベラリズムの代表的論者が、正義とは何かを徹底的に追求するなかで、社会契約の伝統的理論を一般化し、功利主義に取って代わりうる正義の構想を明らかにする古典的名著。1999年の原著改訂版を新訳。 ◆同書刊行予告パンフレットより 正義とはなにか。個人のかけがえのなさと自由が認められること、社会が誰にとっても暮らしやすいものであること。「最大幸福原理」のみを追求する功利主義の克服をめざしたロールズは、社会契約説を現代の視点から再構成した「正義の似原理」を提唱する。第一に、社会生活の基本をなす「自由」を、平等に分配すべきこと(平等な自由の原理)。第二に、地位や所得の不平等は、二つの条件――〈1〉最も不遇な人びとの暮らし向きを最大限改善する、〈2〉機会均等のもと、地位や職務を求めて全員が公正に競いあう――を充たすように、編成されるべきこと(格差〔是正〕原理と公正な機会均等の原理)。「生まれつき恵まれた立場におかれた人びとは誰であれ、運悪く力負けした人びとの状況を改善するという条件に基づいてのみ、自分たちの幸運から利益を得ることが許される」。この画期的な分配原理こそ、〈自由で平等な人びとが友愛の絆で結ばれた社会〉を実現する出発点になるだろう。時代の困難を見据えて、《公正としての正義》の意味を21世紀に問い直す。 ◆「訳者あとがき」より 共同性(コミュニティ)という概念を基礎にすれば、信仰と愛を再定位できる。こう見通していた出征前のロールズは、戦争の悲惨さと生存の偶然性を突きつけられるうちに、宗教的な倫理からの離脱を余儀なくされ、神の正義(裁き)ではなく《社会》の正義(まともさ)へと関心を向け変える。その模索のひとつの到達点を『正義論』が示している。ロールズもまた、アウシュヴィッツ(そしてヒロシマ・ナガサキ)以降を生きて考え抜こうとしていた。そのことを忘れずにいよう。 ◆「担当編集者コメント」より 本書は、1971年に刊行された『正義論』(旧邦訳は同書のドイツ語訳にあたって作成された修正リストをもとに1979年、紀伊國屋書店から刊行、現在品切中)の改訂版(1999年刊)を新たに訳出したものです。3部9章87節の構成は初版と変わりませんが、初版刊行後ロールズに寄せられた批判、指摘をもとに「自由(の優先権)」「基本財」の説明などに訂正が施されました。改訂版翻訳にあたっては、多くの〔訳注〕をつけ読者の「読みやすさ」を考慮するとともに、原注の引用文献の翻訳版刊行情報を充実させ、また事項索引、人名索引を付し、ロールズ研究の便を図っています。 ★本書の刊行を記念し、以下のトークイベントが行われます。 社会と心の《正義》を求めて――『正義論〔改訂版〕』新訳刊行記念セミナー 講師:香山リカ、竹田青嗣、川本隆史 日時:2010年11月22日(月)19:00開演(18:30開場) 会場:紀伊國屋サザンシアター(紀伊國屋書店新宿南店7F) 内容:いま注目のキーワード《正義》。しかし、そもそも《正義》とは何かについて、誰も語りつくせてはいない。「個人のかけがえのなさと自由が認められること、社会が誰にとっても暮らしやすいものであること」―― 新訳となったロールズの『正義論』を読み解き、《正義》の原点に迫るトークライブ。ロールズの構想〈公正としての正義〉は私たちの暮らしを変えることができるのか? 料金:1,000円(税込・全席指定) 前売取扱:キノチケットカウンター(新宿本店5階/受付時間10:00~18:30)、紀伊國屋サザンシアター(新宿南店7階/受付時間10:00~18:30) 電話予約・お問合せ:紀伊國屋サザンシアター(TEL 03-5361-3321、10:00~18:30) ![]()
by urag
| 2010-10-31 23:57
| 本のコンシェルジュ
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