2010年 06月 22日
本日発売の注目新刊3点をご紹介します。 死にゆく都市、回帰する巷――ニューヨークとその彼方 高祖岩三郎:著 以文社 2010年6月 本体1,900円 四六判並製カバー装208頁 ISBN978-4-7531-0279-2 ◆帯文より:00年代末、激動のアメリカで「世界民衆」の鼓動を聴いた。都市のモデルたる役目を終えたニューヨークから、来るべき「巷としての都市」への夢想を開始し、世界民衆たちの希望を未来へと解き放つ、著者初のエッセイ集。 ◆帯裏より:今まさに世界は大変動期に入った。だが制度の設立の前にその土台として必要なのは、人々の心の中の「諸価値の価値転換」である。それはすでに始まっている。一部の「英雄的な」若者は、ニーチェが哲学的になしたことを巷で実践しはじめた。(本書より) ★2006年2月から2009年7月にかけてニューヨークで執筆された42編のエッセイ(朝日新聞出版PR誌「一冊の本」連載)に、書き下ろしの小論2編(巻頭に「はじめに――ニューヨークとその彼方」、巻末に「おわりに――批判的範疇としての都市」)を追加したもの。随所にアゲマツ・ユウジの写真作品「ポートレート・シリーズ:街の低いところから」の抜粋が使用されています。著者にとっては、『ニューヨーク列伝――闘う民衆の都市空間』(2006年、青土社)、『流体都市を構築せよ!――世界民衆都市ニューヨークの形成』(2007年、青土社)に続く3冊目のニューヨーク論であり、単著としては前述2著に『新しいアナキズムの系譜学』(2009年、河出書房新社)を足した3作に続く、4冊目になります。 ![]() *** ニーチェ入門――悦ばしき哲学 (KAWADE道の手帖) 河出書房新社 10年6月 本体1,500円 A5判並製カバー装208頁 ISBN 978-4-309-74034-8 ◆目次より LECTURE 1「ニーチェをとおして生を見つめる」西研 LECTURE 2「ハイデガーとアーレントの間――ニーチェ私観」森一郎 LECTURE 3「世界はニーチェをどう読んできたのか」三島憲一 LECTURE 4「偏屈者たちのニーチェ」田島正樹 LECTURE 5「ニーチェをいかに自分に取り込むか」貫成人 LECTURE 6「ニーチェと生活法」江川隆男 LECTURE 7「ニーチェと正義」合田正人 LECTURE 8「ニーチェと格闘した近代日本の知性たち」杉田弘子 LECTURE 9「ニーチェと日本人」安藤礼二 インタビュー「小説『いたこニーチェ』を書くまでに」適菜収 論考「憑依としての哲学――ニーチェの場合」須藤訓任 論考「ニーチェのスタイル――表層の哲学をめぐって」村井則夫 論考「風に向かって唾を吐くな!」長原豊 論考「ニーチェと遠隔妊娠――のちに生まれる者へ」松本潤一郎 アフォリズム「真理もまた欺く」榎並重行 ★「道の手帖」シリーズでここ数年刊行されたドイツ思想系のものには、『ベンヤミン――救済とアクチュアリティ』(06年6月)、『ハイデガー――生誕120年、危機の時代の思索者』(09年3月)、『マルクス『資本論』入門――危機の資本主義を超えるために』(09年4月)、『ヘーゲル入門――最も偉大な哲学に学ぶ』(10年1月)などがあります。ニーチェは周知の通り、『超訳 ニーチェの言葉』(白取春彦著、ディスカヴァー21、2010年1月)が売れに売れたおかげで、再読の機運が高まっています。入手しやすい訳書はちくま学芸文庫の『ニーチェ全集』(本巻15冊、別巻4冊)だろうと思います。もとは理想社で刊行されていたものの文庫化で、今や定番商品となっています。学術的にもっと突っ込んで読みたい方には、白水社版『ニーチェ全集』(第1期全12巻、第2期全12巻)をお薦めします。特に遺稿集である『遺された断想』をひもとくには、白水社版全集に頼るほかはありません。しかし全巻を揃えると相当な出費になります。このところ白水社さんでは既刊の古典的思想書からuブックスにスイッチする例が増えてきたように見えますし、ぜひとも『ニーチェ全集』は遺稿も含めて新書化に着手していただきたいですね。ちなみに全集から352編の言葉をピックアップしたuブックスの『ニーチェからの贈りもの――ストレスに悩むあなたに』は在庫僅少とのこと。 ![]() また、先週の新刊ですが、河出さんからは次の新刊も出ており、注目です。 路上の全共闘1968 三橋俊明:著 河出ブックス 10年6月 本体1,300円 B6判並製カバー装248頁 ISBN978-4-309-62418-1 ◆カバー紹介文より:バリケードは新しい世界への入口でありアジールだった。日大全共闘の当事者がその体験をあえて私的に想起しつつ「直接自治運動」としての全共闘を検証する、かつてない1968論。 ◆帯文より:全共闘は学生運動ではなかった。もうひとつの1968論。 ★ここ五年以上、1968年を論じた本がコンスタントに刊行されてきました。たとえばここ約一年間に限っても、以下の書目が目につきます。 毎日新聞社編『1968年グラフィティ〔新装版〕』(毎日新聞社、10年1月) 加藤登紀子『登紀子1968を語る』(情況新書、09年12月) アラン・バディウほか『1968年の世界史』(藤原書店、09年10月) 小熊英二『1968』(上下巻、新曜社、09年7月) 毎日新聞社編『1968年に日本と世界で起こったこと』(09年6月) 鹿島茂『吉本隆明1968』(平凡社新書、09年5月) 芹沢一也監修『革命待望! 1968年がくれる未来』(ポプラ社、09年4月) これ以外にも実際さまざまな本が出ていますが、今後もまだまだ語りつくせそうにありませんね。今回の新刊の著者三橋さんは本の末尾でこう書かれています。「私たちにとって現在とは、いまだ達成されざる1968なのだ」(244頁)。1968年に青年期を過ごした世代にとって、実感のこもった名言だと思います。政治が混迷を極める現代日本において、若い世代にとっても1968年について学ぶのは有益であることでしょう。 *** 思想と実在 マイケル・ダメット:著 金子洋之:訳 春秋社 2010年6月 本体2,700円 四六判上製カバー装218頁 ISBN978-4-393-32320-5 ◆帯文より:1990年代後半、それまで旗印としていた反実在論を捨てたダメットに、いったい何があったのか。事実と世界、意味論と形而上学、真理理論といった話題で20世紀分析哲学を総括しつつ、反実在論から正当化主義へと転回する思索を解説、さらに唯一の世界を捉える心の要請から、神の存在に話が及ぶなど、つねに議論を巻き起こす重鎮ダメットの哲学講義。 ◆原書:Thought and Reality, Oxford University Press, 2006. ◆目次: 序文 第1章 事実と命題 第2章 意味論と形而上学 第3章 真理と意味 第4章 真理条件的意味論 第5章 正当化主義的な意味の理論 第6章 時制と時間 第7章 それ自体で在るものとしての実在 第8章 神と世界 原註 訳註 訳者解説 索引 ★ダメットはオックスフォード大学論理学名誉教授。本書は1996年にセント・アンドリューズ大学で行われたギフォード記念講義に加筆したもので、原書は2006年に公刊されています。その間、ダメットは2002年にコロンビア大学でデューイ記念講義を行っており、それは2004年公刊され、同年に日本語訳(『真理と過去』)が刊行されています。『思想と実在』の「序文」によれば、ダメットは本書の刊行にいささかためらいがあったことが読み取れます。オックスフォードを1992年に退官して以来、彼は実に多忙で、自分の思索の深化に従って書き直す時間がなかなかなかったようです。しかし、公刊が遅れたのはそれだけではなくて、本書が彼自身にとっては確定できない、時間をめぐる未完の問いを含んでいるからのようです。本書は『真理と過去』と併読するのが良いでしょう。 ★ダメットは処女作『フレーゲ』(1973年)に代表されるような哲学的著書のほかに、『タロット・ゲーム』(1980年)、『選挙制度改革の諸原理』(1997年)、『移民と難民について』(2001年)といった数々の著書がありますが、残念ながらすべて未訳です。日本では研究者を除くと、彼がタロット研究者であったり、選挙制度改革や移民難民問題に一石を投じた多才な人物であることは、一般読者にはほとんど知られていないかもしれません。じつにもったいないですね。 ★以下に掲げた写真は右が今回の新刊『思想と実在』で、左が『移民と難民について』の原書です。『移民と難民について』はラウトレッジ社の名シリーズ"Thinking in Action"から刊行された一冊です。同シリーズからはドレイファス『インターネットについて』(産業図書、02年3月)とジジェク『信じるということ』(産業図書、03年3月)が刊行されましたが、その後が続きませんでした。社長のEさんがお亡くなりになったからかもしれません。 ![]() ★マイケル・ダメット(Michael Dummet:1925-)既訳書 『真理という謎』藤田晋吾訳、勁草書房、1986年12月 『分析哲学の起源――言語への転回』野本和幸ほか訳、勁草書房、1998年12月 『真理と過去』藤田晋吾・中村正利訳、勁草書房、2004年12月
by urag
| 2010-06-22 00:55
| 本のコンシェルジュ
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