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2026年 12月 31日

月曜社最新情報まとめ(ブログの最新エントリーは当記事の次からです)

◆公式ウェブサイト・オリジナルコンテンツ
◎2011年6月28日~:ルソー「化学教程」翻訳プロジェクト。

◆近刊(準備中)

◆新刊(書籍の発売日は、取次への搬入日であり、書店店頭発売日ではありません)
2026年05月15日発売:表象文化論学会『表象20:表象文化論の二〇年』本体2,200円。
2026年04月21日発売:松村久美写真集『この先の島じまへ――1969-1980 沖縄』本体4,300円。
2026年04月08日発売:W・H・ハドスン『水晶の時代』本体3,800円。叢書エクリチュールの冒険、第27回配本。
2026年03月18日発売:杉田俊介『無能力批評 増補完全版』本体3,400円。
2026年02月16日発売:堀真悟『祈りのアナーキー ―ーシモーヌ・ヴェイユと解放の神学』本体3,200円。
2026年01月05日発売:『丹生谷貴志コレクションⅢ』本体4,300円。
2025年12月01日発売:『丹生谷貴志コレクションⅡ』本体4,300円。
2025年12月01日発売:『丹生谷貴志コレクションⅠ』本体4,500円。
2025年11月25日発売:東京藝術大学未来創造継承センター『Creative Archive vol.02』本体1,500円。
2025年11月21日発売:甲斐扶佐義写真集『新版 地図のない京都』本体3,000円。
2025年11月06日発売:大竹伸朗展公式図録『網膜』本体4,500円。
2025年10月29日発売:髙山花子『世界のかなしみ――『苦海浄土』全三部作試解』本体2,600円。
2025年10月08日発売:ヴェルナー・ハーマッハー『ベンヤミン読解』本体4,500円。シリーズ・古典転生、第32回配本(本巻31)。
2025年09月18日発売:阿部晴政編『ドゥルーズ革命』本体3,200円。
2025年08月12日発売:ジル・ドゥルーズ『尽くされた』本体2,400円。叢書・エクリチュールの冒険、第26回配本。
2025年07月09日発売:E・P・トムスン『ウィリアム・モリスーーロマン派から革命家へ』本体6,800円。
2025年07月03日発売:河野靖好『谷川雁の黙示録風革命論』本体3,600円。
2025年06月13日発売:東京芸術大学未来創造継承センター編『アート×リサーチ×アーカイヴ――調査するアートと創造的人文学』本体2,400円。

◆販売情報(重版・品切・サイン本、等々)
◎重版出来:

◆出版=書店業界情報:リンクまとめ
◎業界紙系:「新文化 ニュースフラッシュ」「文化通信
◎一般紙系:Yahoo!ニュース「出版業界」「電子書籍」「アマゾン
◎新刊書店系:日書連 全国書店新聞
◎雑談&裏話:5ちゃんねる 一般書籍

※このブログの最新記事は当エントリーより下段をご覧ください。 
※月曜社について一般的につぶやかれている様子はYahoo!リアルタイム検索からもご覧になれます。月曜社が公式に発信しているものではありませんので、未確定・未確認情報が含まれていることにご注意下さい。ちなみに月曜社はtwitterのアカウントを取得する予定はありませんが、当ブログ関連のアカウントはあります。


# by urag | 2026-12-31 23:59 | ご挨拶 | Comments(21)
2026年 06月 07日

注目新刊:ちくま学芸文庫6月新刊、ほか

注目新刊:ちくま学芸文庫6月新刊、ほか_a0018105_23031756.jpg


★まもなく発売となるちくま学芸文庫と紀伊國屋書店の新刊を列記します。

翻訳の常識――読解力から翻訳力へ』朱牟田夏雄(著)、ちくま学芸文庫、2026年6月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-51384-7
修辞的思考――論理でとらえきれぬもの』香西秀信(著)、ちくま学芸文庫、2026年6月、本体1,200円、文庫判256頁、ISBN978-4-480-51382-3
日本詩歌の特質』大岡信(著)、ちくま学芸文庫、2026年6月、本体1,400円、文庫判352頁、ISBN978-4-480-51379-3
科学的発見のパターン』N・R・ハンソン(著)、村上陽一郎(訳)、ちくま学芸文庫、2026年6月、本体1,500円、文庫判448頁、ISBN978-4-480-51357-1
ニコ・ティンバーゲン――動物行動学を築いたナチュラリスト』ハンス・クルーク(著)、垂水雄二(訳)、紀伊國屋書店、2026年6月、本体4,200円、46判上製616頁、ISBN978-4-314-01217-1

★『翻訳の常識』は、英文学者の朱牟田夏雄(しゅむた・なつお, 1906-1987)さんが八潮出版社より1979年に上梓された著書の文庫化です。帯文に曰く「翻訳の神様が説くその極意。豊富な文例で英文解釈から翻訳までの道筋を示す」。巻末特記によれば「文庫化に際しては明らかな誤植を正し、必要最低限の範囲で表記の統一等をはかった」とのことです。解説は、著者の孫弟子である山本史郎さんによるもの。

★『修辞的思考』は、修辞学と国語科教育学がご専門で宇都宮大学教育学部教授などを歴任された、香西秀信(こうざい・ひでのぶ, 1958-2013)さんが1988年に明治図書出版よりされた著書の文庫化。カバー表4紹介文に曰く「シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』、ドストエフスキー『罪と罰』、中島敦『山月記』など有名作品を例にとり、各々の中でいかなる「説得力を得る方法」が展開されているのか、著者一流の鮮やかな手つきで、レトリック上の技巧に焦点を合わせて論じきる」。巻末特記によれば「文庫化にあたって明らかな誤り等は適宜修正をほどこしている」とのことです。文庫版解説「機械の言葉、人間の言葉」は、作家の円城塔さんによるもの。ちくま学芸文庫での香西さんの著書の文庫化は2016年の『議論入門――負けないための5つの技術』に続く2点目。

★『日本詩歌の特質』は、詩人で評論家の大岡信(おおおか・まこと, 1931-2017)さんが2010年に大岡信フォーラム(花神社発売)より上梓した著書の文庫化。帯文に曰く「何が日本の詩や芸術を支えてきたのか。恰好の日本詩歌入門」。巻末特記によれば「文庫化にあたっては、明らかな誤りは適宜修正した。またルビを増やした」とのことです。解説「ことばは広場となり――大岡信の古典詩受容をめぐって」は詩人で複数の大学で教鞭を執っておられる中西恭子さんです。中西さんの解説は、2017年の初出論考に大幅な加筆修正を施したもの。ちくま学芸文庫での大岡さんの著書の文庫化は、1994年の『萩原朔太郎』(品切)、2018年の『紀貫之』に続く、3点目です。

★『科学的発見のパターン』は、米国の科学哲学者N・R・ハンソン(Norwood Russell Hanson, 1924–1967)の著書『Patterns of Discovery: An Inquiry into the Conceptual Foundations of Science』(Cambridge University Press, 1958)の訳書(『科学理論はいかに生まれるか』講談社、1971年;改題文庫版『科学的発見のパターン』講談社学術文庫、1986年)の再文庫化。訳者による前二版のあとがきを再録し、新たに「ちくま学芸文庫版あとがき」と、科学史家の岡本拓司さんによる解説「歴史の中の『科学的発見のパターン』」が加わっています。

★カバー表4紹介文に曰く「科学的な発見は、いかにしてなされるのだろうか? 本書でハンソンは「観察」に着目する。例えばケプラーは、他の人々と違う空を見ていたわけではない。しかし彼が空を見る際に背負っている「理論」が変わることで、惑星の楕円軌道という新発見がなされたのだ。このように観察という行為の「理論負荷性」を看破したうえで、単なる演繹や帰納によってではなく、観測データ群を説明できるような新たな概念パターン=理論の探究によってこそ、科学的発見は達成されるとハンソンは説く。科学の本質を新鮮な視点で捉え、クーンらとともに20世紀半ばの「新科学哲学」を牽引した古典的名著」。

★『ニコ・ティンバーゲン』は、オランダに生まれ英国でアバディーン大学で教鞭を執った動物学者のハンス・クルーク(Hans Kruuk, 1937-)の著書『Niko’s Nature: The Life of Niko Tinbergen and His Science of Animal Behaviour』(Oxford University Press, 2003)の全訳。「コンラート・ローレンツらとともに動物行動学を築き、1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞したニコ・ティンバーゲンの伝記」(訳者あとがきより)。

★帯文に曰く「自然への愛を育んだ幼少期、グリーンランドで触れた真の野生、ナチ占領下の収容所生活、4つのなぜ、1950~60年代オックスフォード大学のハードコア・グループ、デズモンド・モリスやリチャード・ドーキンスらとの師弟関係、コンラート・ローレンツとの奇妙な友情、ノーベル賞受賞、晩年の躓き――鳥と自然を愛した生物学者の学問と生涯」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★注目の文庫既刊書を列記します。

ホラーの扉――八つの恐怖の物語』株式会社闇(編)、澤村伊智/芦花公園/平山夢明/雨穴/五味弘文/瀬名秀明/田中俊行/梨(著)、河出文庫、2026年5月、本体880円、文庫判288頁、ISBN978-4-309-42267-1
黄金仮面の王』マルセル・シュオッブ(著)、大濱甫/多田智満子/垂野創一郎/西崎憲(訳)、河出文庫、2026年3月、本体1,300円、文庫判256頁、ISBN978-4-309-46830-3
H・P・ラヴクラフト――世界と人生に抗って』ミシェル・ウエルベック(著)、スティーヴン・キング(序文)、星埜守之(訳)、河出文庫、2025年8月、本体1,000円、文庫判176頁、ISBN978-4-309-46819-8
呪いの☒☒』三津田信三/澤村伊智/芦花公園/背筋/北沢陶/上條一輝(著)、幻冬舎文庫、2026年4月、本体780円、文庫判320頁、ISBN978-4-344-43548-3
無病法――極少食の威力』ルイジ・コルナロ(著)、中倉玄喜(編訳)、PHP文庫、2025年12月、本体810円、文庫判200頁、ISBN978-4-569-90537-2

★河出文庫の既刊から。『ホラーの扉』は、2023年10月に児童書シリーズ「14歳の世渡り術」の1冊として刊行された『ジャンル特化型 ホラーの扉――八つの恐怖の物語』の改題文庫化。新たに書評家の朝宮運河さんによる解説「新時代にふさわしいホラーアンソロジー」が加わっています。収録作は8篇、澤村伊智「みてるよ」、芦花公園「終わった町」、平山夢明「さよならブンブン」、雨穴「告発者」、五味弘文「とざし念仏」、瀬名秀明「一一分間」、田中俊行「学校の怖い話」、梨「民法第961条」。各作品には編者による解説が付されています。

★『黄金仮面の王』は、フランスのユダヤ人作家マルセル・シュオッブ(Marcel Schwob, 1867-1905)の短篇22編を集めた文庫オリジナル傑作選。訳し下ろしは「地上の大火」「列車〇八一」の2篇。17篇は『マルセル・シュオッブ全集』(国書刊行会、2015年)から取られ、残る3篇「眠れる都」「贋顔団」「平底船の少女」は他書などからの採録です。解説「絢爛たる死物」は西崎憲さんによるもの。西崎さん曰く、本書はシュオッブの「50作ほどある短篇のうちのうちの選りすぐりの22作を収録している。〔…〕ついにこの日がやってきた、シュオップが文庫化されるときが」(238頁)。「シュオッブの世界にたいする態度は死物にたいするそれであると考えると腑に落ちるような気がしないでもない。世界は生きている死物にあふれている。死物は生きていて人に大きな影響力をふるっている」(243~244頁)。同書は発売後に即重版、翌月には3刷となったと聞きます。

★『H・P・ラヴクラフト』は、フランスの作家ミシェル・ウエルベック(Michel Houellebecq, 1956-)の著書『H. P. Lovecraft : Contre le monde, contre la vie』(Éditions du Rocher, 1991; J'ai lu, 2015)の全訳(国書刊行会、2017年)を文庫化したもの。帯文に曰く「世界的作家が偏愛を込めた衝撃デビュー作。小説・漫画・映像・ゲームへ大いなる影響を与え続ける「クトゥルフ神話」創造者の生涯」。「もうひとつの世界」「攻撃の技術」「ホロコースト」の三部構成で、巻頭に「はじめに」、巻末に「読書案内」が配されています。「振り返ってみると、わたしはこの本をある種の処女小説として書いたように思える」(「はじめに」31頁)とウエルベックは述懐しています。

★巻末特記によれば「文庫化にあたり、若干の改訂を施し、新たに解説を収録」したとのことです。訳者あとがきが改訂され、柳下毅一郎さんによる解説「人間嫌いの文学史」が加わっています。訳者あとがきによれば、スティーブン・キングによる序文「ラヴクラフトの枕」は英語原文から訳出されているとのことです。

★ウェルベックはこう述べます。「世界全般への絶対的な憎悪、さらにそれを募らせる、現代社会への個別的な嫌悪。これが、ラヴクラフトの態度を端的に述べている。〔…ラヴクラフト〕にあっては、人生への憎悪はいかなる文学にも先立つものだ。彼はそんなことをいちいち蒸し返したりはしないだろう。いかなる形のリアリズムをも拒絶することは、彼の世界に入ってゆくための前提条件のひとつである」(「臆することなく人生に大いなる否〔ノン〕を宣告せよ」79頁)。

★「二十世紀という時代は、軟弱な前衛諸派がもたらした不健全な霧が晴れた暁には、おそらく叙事詩的な怪奇幻想文学の黄金時代として記憶されるだろう。そもそも、ハワード、ラヴクラフト、トールキンの出現を許した時代である。三つの根源的に異なった世界。夢の文学の三つの柱であるが、この文学と言えば、一般読者に圧倒的に支持されている分だけ、批評によって軽視されてきた」(第三部「ホロコースト」冒頭、119頁)。

★幻冬舎文庫とPHP文庫の既刊から。『呪いの☒☒』は、呪いをテーマにした、6人の作家による書下ろしのアンソロジー。書名にある「☒☒」のヨミは奥付には表記されていませんが、記号自体の和名は「投票箱X付き」(U+2612)というようです。収録作品は、上條一輝「呪いは明るく輝いて」、北沢陶「呪いの交換日記」、澤村伊智「ほらあな」、背筋「劣化コピー」、三津田信三「壱本樹様」、芦花公園「「しばらくゆっくり休んでください」」の6作品。それぞれゾッとする作品ですが、先ほど挙げた河出文庫『ホラーの扉』との関係で言うと、芦花公園「終わった町」に惹かれた方は、『呪いの☒☒』では上條一輝「呪いは明るく輝いて」がお好きかもしれません。

★『無病法』は、16世紀ヴェネツィアの貴族ルイジ・コルナロ(Luigi Cornaro, 1464-1566)の手記『講話』(初版1558年)から、英訳版をもとに編訳したものと見えます(著者の生年と著書の刊行年は文庫版の記述に準じました)。英題はカバーには『Longevity without illness』と記載されています。帯文に曰く「健康法の古典的名著」。三つの講話「食を節することの重要性について(83歳の時」「虚弱体質を改善する最良の方法について(86歳の時)」「幸福な老後を獲得する方法について(総大司教ダニエル・バルバロ宛の書簡、91歳の時)」に、訳者による長めの解説が付されています。

★「飽食はいかなるものでも病気の原因となり、死期を早める。節度のない飲食が原因で人生の盛りにこの世を去らざるを得なくなった友人たちを、私自身、多数目にしている」(講話一、37頁)。「私はこの短い『講話』をもって、飽食の害を指摘し、昔の素朴な食生活へともどる必要性についてお話ししたいと思っている」(同、38頁)。

★単行本の新刊既刊および重版から。

エゴサ厳禁』知念実希人(著)、双葉社、2026年5月、本体700円、新書変型判並製144頁、ISBN978-4-575-24891-3
最恐ホラー 忌まわしい土地』福澤徹三/矢樹純(著)、講談社、2026年4月、本体900円、B6判並製64頁、ISBN978-4-06-542985-3
最恐ホラー 嫌な記憶』貴志祐介/荻堂顕(著)、講談社、2026年4月、本体1,000円、B6判並製112頁、ISBN978-4-06-542986-0
エイボンの書――クトゥルフ神話カルトブック』ロバート・M・プライス(編)、C・A・スミス/リン・カーター/ほか(著)、新紀元社、2008年6月(2026年3月2刷)、本体2,200円、A5判並製392頁、ISBN978-4-7753-0632-1

★『エゴサ厳禁』は、作家の知念実希人(ちねん・みきと, 1978-)さんによる「厳禁」シリーズの第3弾。第1弾は『スワイプ厳禁――変死した大学生のスマホ』(2025年8月)でした。第1弾と第3弾はスマホ型の判型で、見開き右頁が本文、左頁がスマホの画面となっています。前作を読み、興味深い造本に関心があったので、今作も購読しました。恐怖の復讐劇。

★『忌まわしい土地』と『嫌な記憶』は、「小説現代」誌2025年8・9月号掲載のホラー特集を再編して単行本化したもの。1テーマに2名の作家が書き下ろし、全12作を全6巻で再刊する「最恐ホラー」シリーズの第2回配本2点です。第1弾は昨年2月に刊行された『呪われた図書館』で、背筋「笑う女が立っている」と、平山夢明「そして家族全員、焼きそばス」を収録。今回の第2弾のテーマのひとつめは「忌まわしい土地」で、福澤徹三「K氏の日記(抄)」と、矢樹純「P霊園そばの縦に長い土地」を収録。もう一冊のテーマは「嫌な記憶」。 貴志祐介「薔薇の小枝」と、荻堂顕「火中の栗」を収録。『呪われた図書館』を購読した続きで求めました。46判並製、カバーのみの軽装で、価格もかなり低く抑えられています。時代の要請として、こうしたシンプルな出版形態は今後もひとつの手法として増えていくのではないかと思います。

★『エイボンの書』は、2008年6月の初刷の売切後に古書価が高騰し、しばらくは2万円台で売られていたものが、思いがけず3月に重版(2刷)されたもの。版元紹介文に曰く「本書はハイパーボリアの大魔道士エイボンが遺したといわれる魔道書『エイボンの書』の再現を試みたものである。C・A・スミス、リン・カーターが遺した『エイボンの書』の一部に、リチャード・ティアニー、ローレンス・J・コーンフォード、ジョン・R・フルツといった作家陣が新たな作品を提供し、クトゥルフ神話大系の研究者ロバート・M・プライス氏が編纂した、新しい切り口でのクトゥルフ神話アンソロジーだ。 『エイボンの書』はハイパーボリアに生きた魔術師たちの記録、エイボンの逸話、永劫の過去から現代までのクトゥルフ神話的歴史、魔術・儀式的素材などを収録した禁断の書である」。

★翻訳者あとがきに曰く「本書はクラーク・アシュトン・スミスが想像した『エイボンの書』の再現を試みたもので、〔…〕クトゥルフ神話体系の研究者ロバート・M・プライス氏リン・カーターの遺志を継いで完成させた。〔…〕いままであまり語られていなかった、クトゥルフ神話的な歴史の流れを描いた作品が多く、新たにクトゥルフ神話作品を書く(あるいはゲームのシナリオを書く)上での共有認識を形成するうえで有意義な作品集なのではないかと思う」(391頁)。詳細目次がないようなので、目次と本文を照合しつつ転記しておきます。「『エイボンの書』の歴史と年表」以下の各篇には冒頭に解説が付されています(例えば「「『エイボンの書』の歴史と年表」について」というように)が、それは以下の目次には転記していません。

[地図]ウルティマ・トゥーレとムー・トゥーラン|ローレンス・J・コーンフォード
日本語版への序|ロバート・M・プライス
黒檀の書〔エボニー・ブック〕――『エイボンの書』序論|ロバート・M・プライス
『エイボンの書』の歴史と年表|リン・カーター
ヴァラードのサイロンによるエイボンの生涯|リン・カーター
エイボンは語る――もしくはエイボンの箴言|ロバート・M・プライス
第一の書 古〔いにしえ〕の魔術師たちの物語
 二相の塔――黒魔術師ズロイグムの物語|リン・カーター
 スリシック・ハイの物語――薬剤師クシルの物語|ジョン・R・フルツ
 モーロックの巻物――祈祷師イエーモグの物語|リン・カーター
 深淵への降下――魔術師ハオン=ドルの物語|リン・カーター
 羊皮紙の中の秘密――魔術師プトメロンの物語|リン・カーター
 下から見た顔――悪魔祓い師プノムの物語|ローレンス・J・コーンフォード
 アボルミスのスフィンクス――魔術師ホルマゴールの物語|ローレンス・J・コーンフォード
 万物溶解液――錬金術師エノイクラの物語|ローレンス・J・コーンフォード
 白蛆〔びゃくしゅ〕の襲来――魔術師エヴァグの物語:エイボンの書 第Ⅸ章(ガスパール・ド・ノールのフランス語の原稿からの翻訳)|クラーク・アシュトン・スミス
 極地からの光――呪術師ファラジンの物語|クラーク・アシュトン・スミス/リン・カーター
 窖〔あな〕に通じる階段――黒魔術師アヴァルザウントの物語|クラーク・アシュトン・スミス/リン・カーター
 星から来て饗宴に列するもの――隠遁者イズドゥゴールの物語|リン・カーター
 緑の崩壊――奇跡をおこなう人ナーブルスの物語|ロバート・M・プライス 
第二の書 ムー・トゥーランのエイボンの逸話
 最も忌まわしきもの|クラーク・アシュトン・スミス/リン・カーター
 ウトレッソル|クラーク・アシュトン・スミス/ローレンス・J・コーンフォード/リチャード・L・ティアニー
 『夜の書』への注釈|ロバート・M・プライス
 地を穿つもの|ロバート・M・プライス
 ナスの谷にて|リン・カーター
 シャッガイ|リン・カーター
 ウスノールの亡霊|ローレンス・J・コーンフォード
 霊廟の落とし子|ローレンス・J・コーンフォード
 指輪の魔物|ローレンス・J・コーンフォード
 土星への扉|クラーク・アシュトン・スミス
第三の書 暗黒の知識のパピルス
 暗黒の知識のパピルス|リン・カーター
第四の書 沈黙の詩篇
 ツァトゥグァへの祈願文|リチャード・L・ティアニー
 アトラック=ナチャへの祈願文|リチャード・L・ティアニー
 背教者イズダゴルの祈り|リチャード・L・ティアニー
 大神ヨク=ゾトースへの祈り|リチャード・L・ティアニー
 ギズグスの慰撫|リチャード・L・ティアニー
 ファロールの召喚|リチャード・L・ティアニー
 応えざる神々(魔術師エイボンにより保たれた断片的な『プノムの系図』より)|リチャード・L・ティアニー
 ハオン=ドルの館|リチャード・L・ティアニー
 暗黒の妖術師|リチャード・L・ティアニー
 黙想せる神|リチャード・L・ティアニー
 サイクラノーシュへの扉――あるいはエイボンの挽歌|リチャード・L・ティアニー
 ハイパーボリア――あるいはエイボンの予言|リチャード・L・ティアニー
 ズスティルゼムグニの手先|リチャード・L・ティアニー
 イクナグンニスススズ|リチャード・L・ティアニー
 ウボ=サスラ|マイケル・ファンティナ
 アザトース|マイケル・ファンティナ
 ツァトゥグァ|マイケル・ファンティナ
 ルリム・シャイコース|マイケル・ファンティナ
 灰色の織り手の物語(断章)|アン・K・シュウェーダー
 ムー・トゥーランでのアブホースへの祈願文|アン・K・シュウェーダー
 ヴーアミによる救済の讃歌|アン・K・シュウェーダー
 サクサクルースの懇請|ロバート・M・プライス
第五の書 エイボンの儀式
 緑の崩壊|スティーブン・セニット
 穴から吐き出されしもの|スティーブン・セニット
 イググルルの呪文|スティーブン・セニット
 グローニュの憎悪の呪い|スティーブン・セニット
 プノムの厳命|スティーブン・セニット
 ザスターの連祷|スティーブン・セニット
 フアナ式文|スティーブン・セニット
 リヴァシイの加護|スティーブン・セニット
 イアグサトの悪魔祓い|ジョゼフ・S・パルヴァー
 ヤディスの黒い儀式|ジョゼフ・S・パルヴァー
 ムナールの忘れられた儀式|ジョゼフ・S・パルヴァー
 キノスラブの葬送歌|ジョゼフ・S・パルヴァー
 外なる虚空の儀式|ジョゼフ・S・パルヴァー
 アザトースの灰色の儀式|ジョゼフ・S・パルヴァー
 黒い炎の崇拝|ジョゼフ・S・パルヴァー
 ナグとイェブの黒き連祷|ジョゼフ・S・パルヴァー
 汝の敵を打つためにツァトゥグァを招来せし法|ジョゼフ・S・パルヴァー
 「ヨスの放射」ゾグトゥクを召喚し命を与える法|ジョゼフ・S・パルヴァー
 ズィンの害悪の中を自由に歩く法|ジョゼフ・S・パルヴァー
 夕べの夜|マイケル・シスコ
 [図]イステの消滅の印形|トーマス・ブラウン
 [図]ズガンドロムの九つの五芒星形|トーマス・ブラウン
 [図]緋色の印|トーマス・ブラウン
 [図]三重に描かれた「力の円環」|トーマス・ブラウン
補遺
 炎の侍祭(『ナコト写本』断章千十一の翻訳)|リン・カーター
 月の文書庫より|リン・カーター
 アトランティスの夢魔(クラカシュ=トン、秘儀の祭司の物語)|ロバート・M・プライス
 エイボン書簡|ロバート・M・プライス/ローレンス・J・コーンフォード
  Ⅰ. 弟子ファンティコールへのエイボンの書簡
  Ⅱ. 賢者エイボンから同胞マリノレスとヴァジマルドンへの書簡
  Ⅲ. 弟子たちへの組合へのエイボンの書簡
  Ⅳ. 弟子へのエイボンの第二の書簡、もしくはエイボンの黙示録
  Ⅴ. クソウファムの民へのエイボンの書簡
  Ⅵ. カルヌーラのタボアム王へのエイボンの書簡
翻訳者あとがき



# by urag | 2026-06-07 22:39 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2026年 06月 01日

注目新刊:元田永孚『還暦之記・古稀之記〈現代語訳〉』藤原書店、ほか

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★最近出会いのあった新刊を列記します。

現代思想2026年6月号 特集=アラビア哲学――もうひとつの哲学史へ』青土社、2026年5月、本体1,800円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1497-1
荻生徂徠全詩(3)』荒井健/田口一郎(訳注)、東洋文庫:平凡社、2026年5月、本体5,000円、B6変型判上製函入356頁、ISBN978-4-582-80934-3
還暦之記・古稀之記〈現代語訳〉』元田永孚(著)、野口宗親(編訳)、藤原書店、2026年5月、本体16,000円、A5判上製728頁、ISBN978-4-86578-499-2
子宝と子返し〈増補新版〉――近世農村の家族生活と子育て』太田素子(著)、藤原書店、2026年5月、本体4,400円、四六判並製496頁、ISBN978-4-86578-497-8
伊都子の食卓〈増補新版〉』岡部伊都子(著)、藤原書店、2026年5月、本体2,700円、四六判並製360頁、ISBN978-4-86578-498-5

★『現代思想2026年6月号』の特集は「アラビア哲学」。版元紹介文に曰く「アラビア哲学の地位は、この百年の間に劇的に変化した。「中世」の概念が一変したことを背景に、アラビア哲学の重要な哲学者の紹介が相次ぎ、彼らが生みだした独特の用語や概念も疎遠ではなくなりつつある。本特集では、ますます注目を集めるこの巨大な伝統に光をあて、その全体像に迫る」と。小村優太さん、アダム・タカハシさん、山内志朗さんの三氏による討議「ギリシャから遠く離れて」に始まり、15本の論考を収録。目次詳細は指名のリンク先でご確認いただけます。

★新連載として山口尚さんによる「東京学派と革命」の第一回「「駒場カルテット」という事件——イントロダクション」が掲載されています。「駒場カルテット」というのは、廣松渉、大森荘蔵、坂部恵、井上忠、の4氏のことで、小林康夫さんが英文で発表した論考「The Komaba Quartet: A Landscape of Japanese Philosophy in the 1970s」に拠っているとのことです。この連載は「廣松・大森・坂部・井上の順で駒場カルテットの面々を論じ、その後の終結部〔コーダ〕においてこれらの男たちのしごとをはみ出す1970年代の革命性に触れる」(198頁)とのことです。

★『荻生徂徠全詩(3)』は、全4巻の第3巻。巻5「七言絶句百十六首」、巻6「七言絶句八十七首」を収録。『荻生徂徠全詩』全4巻は「古文辞の学を唱道した荻生徂徠。典拠を多用した難解なその漢詩全作品を、読み下し、詳細な注、現代語訳により明瞭に読み解く、かつてない試み」。東洋文庫次回配本は6月、『尹致昊日記(10上)1932-1934年』『尹致昊日記(10下)1935年』。全11巻中の第10巻2分冊。

★藤原書店さんの5月新刊は3点。『還暦之記・古稀之記〈現代語訳〉』は、帯文に曰く「明治天皇の“思想的支柱”(ドナルド・キーン評)は、いかなる男であったのか? 明治天皇の侍読・侍講を20年にわたって務め、「教育勅語」の作成に関わるなど、明治の政治・教育に大きな影響を及ぼした元田永孚(もとだ・ながざね, 1818-1891)。自らの生涯に重ねて、歴史の動きや、横井小楠ら関係者の人物像などを、驚異的な記憶力で詳述、権力の中枢にあった人物の自伝という稀有な歴史史料でありながら、難解ゆえに活用されてこなかった書物を完訳。明快に現代語訳し、詳細な注と解題・解説を付した決定版」。

★巻末解説には二書の概要が端的に次のように書かれています(626~627頁)。

『還暦之記』文政元年(1818)~明治11年(1878)
(1)江戸末期の上級武士の家庭とその教育。
(2)藩校時習館の教育およびその改革。
(3)実学党誕生の経緯、展開、離脱、分裂。
(4)家督を継ぎ騎馬使番、京都留守居役、中小姓頭、用人兼奉行等を経験しながら見聞したペリーの浦賀来航依頼、激動する幕末・明治初年における熊本藩や世の中の様子。
(5)侍読・侍講としての元田と明治天皇とのかかわり。
(6)明治初年から西南戦争までの世の中や宮中の動向。
(7)天皇補佐のための侍補の設置および彼ら宮中保守派の天皇親政運動。
などが描かれている。特に実学党の誕生や侍補の設置については、その当事者であったため、貴重な資料となっている。

『古稀之記』明治11年(1878)~明治23年(1890)
(1)還暦の祝いから明治23年新年講書進講までの世の中の動きや宮中の動向。
(2)天皇側近(侍読・侍補・宮中顧問官・枢密顧問官)として、また天皇の寵愛を背景にその政治「顧問(相談役)」として、元田の政治・経済・教育・外交等へのかかわり。
が描かれている。明治の重臣たち(伊藤・岩倉ら)ですら彼の意向を気にした。特に教育面で、明治12年「教学聖旨」以降、従来の知育中心の欧米流教育政策に反対、天皇尊崇や「忠孝」中心の徳育教育に変えるよう教育行政に干渉、結果として「教育勅語」の作成に関わり、その後の国民教育の方針を決定づけた人物であるだけに、その動機や考え、敬意を知るための貴重な資料である。

★『子宝と子返し〈増補新版〉』は、2007年に刊行された教育学者で和光大学名誉教授の太田素子(おおた・もとこ, 1948-)さんの著書の増補版。「近世農村の家族にあった、子どもへの情愛と、丁寧な子育て。嬰児殺し(子返し)、捨子などの事態とそれらをめぐる意識のありようを直視しつつ、日記などの生活記録を丹念に分析し、共感的な理解に満ちた子ども観、仕事を介した大人―子どものコミュニケーションなど、江戸の豊かな人間形成力を描き好評を博した初版に、江戸期の出生抑制・避妊と性愛に焦点をあてた2編を増補」(帯文より)したもの。

★2篇というのは、「「求子」と避妊の社会史――近世前期東北農民の性愛と家族関係」(初出1996年を改稿)と「近世中・後期会津農村にみるセクシュアリティ――産科医と性愛文学についての覚書」(初出1997年を改稿)。「増補新版に際して避妊の研究を少し加えさせていただいた。後嗣確保に関心の深かった近世社会では14世紀中国医学から情報を得て、受胎のメカニズムを考察している。当初は「求子」のためだった考察が、近世後期には避妊への手がかりとして損人に語られる地域もあった。埋もれそうになった避妊の研究が著書の中に残ることになり、とても感謝している」(「増補新版にあたって」vii頁)。

★『伊都子の食卓〈増補新版〉』は、2006年に刊行された随筆家の岡部伊都子(おかべ・いつこ, 1923-2008)さんの著書の増補版。藤原良雄さんによる「編集後記」によると、「食」をテーマにした甘辛社の『あまカラ』誌での連載(1957年~)から“手料理”“手仕事”が書かれた11編を新たに収録したとのこと。巻頭には三砂ちづるさんによる「一ページの宇宙――新版に寄せて」が加わっています。「この本の多くの随筆は200字足らずである。俳句のような随筆。きらめくような才能である。すべての食べ物に岡部伊都子の人生のどこからかが、きりとられ、ひきだされている。随筆とは、人生のひきだされるもの。一ページだけの宇宙を提示するために。それらのきっかけとしての、食べもののひとつひとつは、ただ、愛おしい」(iv頁)。


# by urag | 2026-06-01 01:36 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2026年 05月 25日

注目新刊:中公文庫新刊既刊、ちくま文庫新刊既刊、ほか

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★まず注目の中公文庫新刊既刊を列記します。

ドストエフスキー全短篇Ⅰ』ドストエフスキー(著)、米川正夫(訳)、中公文庫、2026年5月、本体1,200円、文庫判488頁、ISBN978-4-12-207797-3
ドストエフスキー全短篇Ⅱ』ドストエフスキー(著)、米川正夫(訳)、中公文庫、2026年5月、本体1,200円、文庫判488頁、ISBN978-4-12-207798-0
フーコーの振り子(上)』ウンベルト・エーコ(著)、藤村昌昭(訳)、中公文庫、2026年3月、本体1,500円、文庫判432頁、ISBN978-4-12-207774-4
フーコーの振り子(中)』ウンベルト・エーコ(著)、藤村昌昭(訳)、中公文庫、2026年4月、本体1,600円、文庫判464頁、ISBN978-4-12-207786-7
フーコーの振り子(下)』ウンベルト・エーコ(著)、藤村昌昭(訳)、中公文庫、2026年5月、本体1,700円、文庫判456頁、ISBN978-4-12-207796-6
夜の酒場』萩原朔太郎(著)、中公文庫、2026年4月、本体900円、文庫判256頁、ISBN978-4-12-207784-3
ねむれなくなる本』岩本敏男(著)、中公文庫、2026年4月、本体980円、文庫判304頁、ISBN978-4-12-207780-5
不思議の国のアリス/鏡の国のアリス』ルイス・キャロル(著)、高山宏(訳)、佐々木マキ(絵)、中公文庫、2026年3月、本体1,450円、文庫判408頁、ISBN978-4-12-207775-1
アメリカとアメリカ人――未来のためのエッセイ』ジョン・スタインベック(著)、大前正臣(訳)、中公文庫、2025年12月、本体920円、文庫判224頁、ISBN978-4-12-207738-6

★中公文庫の新刊既刊から。『ドストエフスキー全短篇』全二巻は、巻末特記によれば『ドストエフスキイ前期短編集/後期短編集』(福武文庫、1987年)を元に、同署未収録の作品を『ドストエーフスキイ全集』(河出書房新社、1969~1971年)より増補して再編集したもの。カバー表4紹介文と目次を転記しておきます。

第Ⅰ巻
版元紹介文:
貧乏官吏が遺したもの(「プロハルチン氏」)。孤独な青年の恋(「白夜」)――数々の長篇で有名なドストエフスキーは、短編の名手でもあった。その全短篇を文庫で初めて集成する。第Ⅰ巻には、華々しいデビュー以降、シベリア流刑により文筆活動を中断させられるまでの「前期」に書き継いだ八篇を収める。

目次:
プロハルチン氏
九通の手紙に盛られた小説
ポルズンコフ
弱い心
人妻と寝台の下の夫
正直な泥棒
クリスマスと結婚式
白夜
訳者解説――河出書房新社版『ドストーエフスキイ全集』より|米川正夫
解説――福武文庫版『ドストエフスキイ前期短編集』より|江川卓

第Ⅱ巻
版元紹介文:墓地でさざめく死者たち(「ボボーク」)。自殺を決意した男が夢に見たユートピアの悲劇(「おかしな人間の夢」)――突然の逮捕とシベリア流刑による活動中断を経て、作家はその才能をますます深化させていった。第Ⅱ巻には、大長篇執筆のかたわら個人雑誌『作家の日記』に発表した短篇を中心に、後期作品十一篇を収める。

目次:
初恋
いやな話
ボボーク
キリストのヨルカに召されし少年
百姓マレイ
百歳の老婆
宣告
おとなしい女
おかしな人間の夢
現代生活から取った暴露小説のプラン
訳者解説――河出書房新社版『ドストーエフスキイ全集』より|米川正夫
解説――福武文庫版『ドストエフスキイ前期短編集』『同 後期短編集』より|江川卓

★『フーコーの振り子』全三巻は、没後10年記念出版。文春文庫上下巻(1999年6月)を三分冊にして再刊するもの。上巻は「ケテル」「ホフマー」「ビナー」「ヘセド」を収録。巻末付録は、訳者の藤村昌昭さんによる「「語り」と「騙り」の見分け方――「フーコーの振り子」のメッセージ」(初出は「朝日新聞」1993年4月30日付夕刊)。中巻は「ゲブラー」と「ティフェレト」の途中までを収め、巻末付録は和田忠彦さんによる「文体〔スタイル〕は世界の造形から――『フーコーの振り子』を読むために」(書き下ろし)。下巻は「ティフェレト(承前)」「ネツァー」「ホド」「イェソド」「マルクート」を収録し、巻末には訳者あとがき「残された三枚のファイル」と、池澤夏樹さんによる解説(書き下ろし)を併載。

★『夜の酒場』は、文庫オリジナルの詩文集。「酒をめぐる詩歌、時代風俗を活写した随筆を収める」(帯文より)。目次は紀伊國屋書店さんの単品ページに転記されていますが、巻末附録の情報が不完全なので補うと、江戸川乱歩「「猫町」」(「小説の泉」誌第4集、矢貴書店、1948年)、荻原葉子「晩酌」(『父・萩原朔太郎』筑摩書房、1959年)、伊藤信吉「「さけば」の詩人」(『酒』誌、1991年5月)の三篇が併録されています。

★『ねむれなくなる本』は、「離婚、免罪、心中、誘拐、地球滅亡――日常に潜む不安や悲しみを子供の眼でとらえた、読むと背筋が寒くなる伝説の短編集」(帯文より)。巻末の編集付記を補いつつ引くと「本書は、単行本『ねむれなくなる本』〔偕成社、1984年〕に、短編集『赤い風船』〔理論社、1971年〕より二篇〔「ゆうれいのオマル」「あいうえお」、さらに『赤い風船』あとがきも併載〕、および書籍未収録のエッセイを加えたものです」と。エッセイというのは「私は留守です」(初出「日本児童文学」1983年4月)、「ひとり暮らし」(初出「京都新聞」1984年5月19日付夕刊)、「(教職についてすぐにも私は……」(初出「京都教育大学同窓会だより」第50号、2001年5月10日)の三篇。巻末には、上野瞭さんによる「友よ、さらば――追悼・岩本敏男」(初出「日本児童文学」2002年1・2月号)、能町みね子さんによる書き落とし解説「一すじの道」を収めています。

★『不思議の国のアリス/鏡の国のアリス』は、亜紀書房より刊行された『不思議の国のアリス』(2015年)、『鏡の国のアリス』(2017年)の合本文庫化。文庫版訳者あとがき「ルイス・キャロル、理系バロック」が加わっています。巻末の編集付記によれば「底本中、明らかな誤植は訂正し、新たにルビを付した。また、一部の訳文を改訂した」とのこと。

★『アメリカとアメリカ人』は、1969年にサイマル出版会より単行本が刊行され、2002年に平凡社ライブラリーで再刊されたものの再文庫化。編集部注と年譜が加えられています。ライブラリーに付されていた亀井俊介さんによる解説は省かれています。カバー表4紹介文に曰く「人種間の差別の構図、大統領への矛盾する感情――『怒りの葡萄』から『チャーリーとの旅』を経てスタインベックが見出したのは、祖国への愛着と痛烈な洞察。〈アメリカとは何か〉を探求した最晩年のエッセイ」。原著は『America and American』(1966)で、生前最後に刊行された作品です。スタインベックは1968年12月20日に心臓麻痺で死去しています。中公文庫でのスタインベック作品は本書が初めてです。

★続いて、注目のちくま文庫新刊既刊より。

諸星大二郎自選短篇集 幻』諸星大二郎(著)、ちくま文庫、2026年5月、本体1,000円、文庫判384頁、ISBN978-4-480-44100-3
山尾悠子偏愛アンソロジー 構造と美文』山尾悠子(編)、ちくま文庫、2026年3月、本体1,000円、文庫判320頁、ISBN978-4-480-44095-2
だめ連の働かないでレボリューション!』神長恒一/ペペ長谷川(著)、ちくま文庫、2026年3月、本体900円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-44090-7

★『諸星大二郎自選短篇集 幻』は、あとがきを参照すると画業40年超の記念出版であった『諸星大二郎自選短篇集 幻妖館へようこそ』(MANGATRIX、2019年)を底本に、収録策のいくつかを差し替え、構成を変更して文庫化したもの。カバー表4紹介文によれば「土の中から現れた人びと、いにしえの中国の伝奇譚、謎の屋敷に囚われた少女、魔術で怪物を召喚する高校生たち、河童伝説を調査する妖怪ハンター、古書店に出現した奇態な本、エリック・サティへの幻想譜……古今東西の怪異譚を渉猟し、妖しくたゆたう異界への扉をひらく異能のマンガ家が、自ら選んだ傑作15篇。蠱惑的な「幻視の国々」へと読者を誘う招待状。カバーイラスト描きおろし」。収録作品15篇の作品名は書名のリンク先の目次欄でご確認いただけます。諸星大二郎(もろぼし・だいじろう, 1949-)さんの作品は、ちくま文庫では1991年に『完全版 マッドメン』が刊行されており、昨年末(2025年12月)の「ちくま文庫創刊40周年記念」として復刊されています。なお他社本ですが、小学館では著者の画業55周年記念出版として『諸星大二郎短編集成』全12巻の刊行が2026年1月から開始されています。

★ご参考までに、MANGATRIX版とちくま文庫版の収録作品を比較してみます。

MANGATRIX版(14篇、星野之宣寄稿漫画2頁を併録)
鳥人の森(描き下ろし新作34頁)
涸れ川 →ちくま文庫再録
異界録 →ちくま文庫再録
Gの日記 →ちくま文庫再録
ことろの森 →ちくま文庫再録
赤い唇
石の中の女
奇妙なレストラン →ちくま文庫再録
奇妙なおよばれ →ちくま文庫再録
本の魚(栞と紙魚子) →ちくま文庫再録
黒石島殺人事件
加奈の失踪
夏の庭と冬の庭
小ねずみと小鳥と焼きソーセージ

ちくま文庫版(15篇、巻末にあとがきあり)
涸れ川  
異界録 (「諸怪志異」シリーズより)  
Gの日記 (「グリムのような物語」シリーズより)  
鏡島 (「妖怪ハンター」シリーズより)  
影の街
ことろの森 (「あもくん」シリーズより)  
魔術 (「栞と紙魚子」シリーズより)  
淵の女 (「妖怪ハンター」シリーズより)  
それは時には少女となりて  
鳥居の先 (「あもくん」シリーズより)
奇妙なおよばれ (「グリムのような物語」シリーズより)  
奇妙なレストラン  
遠い国から 第一信  
本の魚 (「栞と紙魚子」シリーズより)
(眼鏡なしで)右と左に見えるもの~エリック・サティ氏への親愛なる手紙~

★『構造と美文』は、書名にある通り「山尾悠子偏愛アンソロジー」。ボルヘス、バラード、ラヴクラフト、ブッツァーティ、マンディアルグ、モラヴィア、ユルスナール、シュオップなどの17作品に、山尾さんの最近作掌編「室内」(初出「文藝」2021年秋季号、再録にあたり加筆修正を加えたとのこと)と、編者あとがき「頭蓋骨に咲く花々の記」を収録。17作品の明細は書名のリンク先でご確認いただけます。「昔から厳然と好みの定まっている意中の作品をリストアップしたところ、今さらながら一定の方向性があることに気がついた。ざっくりした言いかただが、どうやら〈構造のある小説〉および〈極度に人工的な文章、スタイル〉の二方向が我が好みらしいのだ。ここのところは、あるいは読書人生の最初期に出会った澁澤龍彦の影響が大きいのかもしれない」(編者あとがき、295頁)。「塔や迷宮や架空の街や崩壊する世界など、多くは極度に人工的な作風のものを好み、好きなように読んできた。譚の世界の不滅を信じ、豊かに栄えることを記念しつつ」(同、309頁)。

★『だめ連の働かないでレボリューション!』は、巻末特記によれば「『だめ連の「働かないで生きるには?!」(筑摩書房、2000年)を元に大幅に再編集し加筆して、改題したもの」とのこと。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。巻末解説は高祖岩三郎さんによる「羊の皮をかぶった狼を讃えて」と、雨宮処凛さんによる「だめ連の奇跡」の二篇で、帯には栗原康さんによる推薦文が載っています。

★神長さんは「文庫版まえがき」でこう説明しています。「単行本刊行から25年後の文庫化ということで、状況の変化なども大きく、今回内容を大幅に変更させていただきました。/各章のぼく(神長)とぺぺ長谷川のトークは、なるべく元の会話を残すようにしましたが、ぼくの発言部分はかなりの部分変更してあります。それはせっかく本を出し多くの読者の方に本書を読んでいただくにあたって、やっぱり今の自分の思いを伝えたいという気持ちからです。2023年2月に多くの仲間たちにおしまれつつ胆管肝がんで亡くなったぺぺ長谷川の発言にかんしては、もちろんほとんど手を加えずそのままです(一部二人の会話そのものを削ったところなどもあります)。つまりぺぺとぼくの二人の会話は、2000年のぺぺと2025年のぼくとの会話ということになります。ぺぺが亡くなったという事情もあり、ちょっと変わった作りになっています。/それ以外の部分では単行本での対談や座談会、写真、イラストなどを一部をのぞいて割愛させていただき、より今に即した形であらたに一つの座談会と、多くの方々にテーマごとの文章を書いていただき、加えました。今回参加していただいた方々は、ほとんどがわれわれだめ連二人との友人、仲間だったり、交流してきた人たちです」(19~20頁)。

★このほか最近では以下の新刊既刊との出会いがありました。

野生の教養Ⅲ――旅する教養/芸術の旅』丸川哲史/倉石信乃(編)、法政大学出版局、2026年5月、本体2,800円、四六判並製254頁、ISBN978-4-588-13048-9
難しい地名もスラスラ読める! ふりがな日本地図帳』平凡社地図出版(編)、今尾恵介(コラム監修)、平凡社、2026年5月、本体2,500円、A4判並製128頁、ISBN978-4-582-41822-4
まいあ Maia―SWAN actⅡ― 完全版 第4巻』有吉京子(著)、平凡社、2026年4月、本体1,400円、4-6判並製264頁、ISBN978-4-582-28888-9
昭和の母と娘たち』小石房子(著)、作品社、2026年6月、本体1,800円、四六判上製98頁、
ISBN978-4-86793-156-1
獄に暮らせば――「21年7カ月の獄中日記から」』重信房子(著)、作品社、2026年6月、本体3,200円、四六判並製352頁、ISBN978-4-86793-148-6
言葉と出来事』阿部大樹(著)、作品社、2026年5月、本体2,600円、四六判並製192頁、ISBN 978-4-86793-146-2
バッファロー・ドリーマー』ヴァイオレット・ダンカン(著)、小澤なつみ(訳)、作品社、2026年5月、本体2,200円、四六判並製232頁、ISBN978-4-86793-152-3

★法政大学出版局さんの新刊より。『野生の教養Ⅲ』は、明治大学大学院理工学研究科建築・都市学専攻総合芸術系と教養デザイン研究科が共同で編んでいる論文集『野生の教養』の第三弾。第一弾は『野生の教養――飼いならされず、学び続ける』岩野卓司/丸川哲史編、2022年11月)、第二弾は『野生の教養Ⅱ―― 一人に一つカオスがある』岩野 卓司/丸川哲史編、2024年10月)でした。第三弾の主題は「教養×旅×芸術」(帯文より)。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。編者の丸川さんは巻頭の序文「月日は百代の過客にして」で、本書について倉石さんの『孤島論』(インスクリプト、2025年4月)の「合わせ鏡となるべきもの」と綴っておられます。本書には丸川さんによる写真が複数挿入されており、キャプションはあえて付されていないようですが、第Ⅲ部の扉に掲げられた写真に写っているのは、若い時分のぺぺ長谷川さんではないかと思います。

★平凡社さんの新刊既刊より。『ふりがな日本地図帳』は、「すべての地名にふりがなが付いた、はじめての日本地図帳」(帯文より)。しばしばどう読むのか分からない地名が多いですから、たいへん助かります。労作ではないでしょうか。随所にちりばめられたコラムも楽しいです。たとえば53頁の「長野にある読書ダム」など。『まいあ 完全版 第4巻』は完結巻。完全版特典は、描きおろし番外編8ページ、巻頭カラー&扉絵コレクション。初回出荷分限定でポストカードが付いています。なお、今秋(2026年9月)に『SWAN』の初の舞台化が新国立劇場で決定しているとのことです。

★作品社さんの新刊より。いずれもまもなく発売。『昭和の母と娘たち』は、あとがきの文言を借りると「昭和という時代に生きた母と五人姉妹のエッセイで、前作『男にあらずんば子供にあらず。――女性史と私』〔作品社、2023年〕の続編」とのこと。『獄に暮らせば』は、帯文に曰く「元日本赤軍リーダーが綴った、満期出所時までの心情とその葛藤」。第一部「逮捕から確定判決まで(2000年11月~2010年8月)」、第二部「癌闘病と執筆の受刑生活」の二部構成。『言葉と出来事』は、「精神科医の哲学的断想集」(帯文より)。著者と哲学者の古田徹也さんとの特別対談冊子が附録に付いています。著者の「あとがき――日記という形式について」の全文が作品社さんのnoteで公開されています。『バッファロー・ドリーマー』は、「金原瑞人選モダン・クラシックYA」シリーズの最新作。カナダ先住民の作家でネイティヴ・ダンサー、教育者のViolet Duncanの小説『Buffalo Dreamer』(Nancy Paulsen Books, 2024)の訳書。「この作品は、主人公のサマーが、クリー族をはじめとする北アメリカ先住民の経験したつらい過去を学んでいくお話です」(訳者あとがきより)。全米図書賞最終候補作とのことです。

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# by urag | 2026-05-25 02:22 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2026年 05月 17日

注目新刊および既刊:コンヴィツキ『現代の夢解きの本』ルリユール叢書、ほか

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★最近出会いのあった新刊を記します。

現代の夢解きの本』タデウシュ・コンヴィツキ(著)、菅原祥(訳)、ルリユール叢書:幻戯書房、2026年5月、本体4,900円、四六変型判上製504頁、ISBN978-4-86488-346-7

★『現代の夢解きの本』は、ルリユール叢書第60回配本、79冊目。ポーランドの作家タデウシュ・コンヴィツキ(Tadeusz Konwicki, 1926–2015)がワルシャワの出版社Iskryから1963年に公刊したポーランド語の小説『Sennik współczesny』の全訳。帯文に曰く「20世紀ポーランド文学・映画界の巨星コンヴィツキの代表作にして、不条理な状況下での実存の不安を深く抉り出す東欧文学の幻の傑作長編小説がついに本邦初訳で登場」。ルリユール叢書次回配本は6月発売予定、エティエンヌ・ド・グレーフ『夜はわが光』梅澤礼訳。

★過去に購入していた書目で、紹介するタイミングを逸していた注目既刊書(2025年11月~2026年3月)を列記します。

完全版 ダークウェブ・アンダーグラウンド――社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』木澤佐登志(著)、イースト・プレス、2026年3月、本体1,900円、四六判並製312頁、ISBN978-4-7816-2542-3
懐疑 知識 照明――ラテン語対訳 ヘンリクス『定期討論のスンマ』a.1,q.1&q.2』加藤雅人(訳著)、関西大学出版部、2026年3月、本体2,500円、A5判上製232頁、ISBN978-4-87354-810-4
人間論――付)ラ・フォルジュ『注解』』ルネ・デカルト(著)、山田弘明/竹田扇(訳)、知泉学術叢書:知泉書館、2026年2月、本体6,500円、新書判上製616頁、ISBN978-4-86285-455-1
ペンと剣 増補新版』エドワード・W・サイード/デーヴィッド・バーサミアン(著)、中野真紀子(訳)、里山社、2025年12月、本体2,300円、B6変型判並製320頁、ISBN978-4-907497-24-8
2030 来たるべき世界』エマニュエル・トッド/オードリー・タン/モニカ・トフト/三牧聖子/大野博人/越智光夫/佐橋亮/錦田愛子(著)、朝日新書、本体900円、新書判並製280頁、ISBN978-4-02-295360-5
時間と自由』ベルクソン(著)、平井啓之(訳)、白水Uブックス「思想の地平線」、2026年3月、本体1,600円、新書判並製270頁、ISBN978-4-560-48011-3
虹の解体――世界はなぜ美しいのか』リチャード・ドーキンス(著)、福岡伸一(訳)、ハヤカワ文庫NF、2025年11月、本体1,760円、文庫判608頁、ISBN978-4-15-050620-9

★『完全版 ダークウェブ・アンダーグラウンド』は、文筆家の木澤佐登志(きざわ・さとし, 1988-)さんが2019年1月に上梓したデビュー作論考集を増補して再刊するもの。帯文に曰く「ネットの向こう側」の不道徳な領域を描き出すポスト・トゥルース時代のノンフィクション」。合計で25000字を超えるという3篇の補論「思想をもたない日本のインターネット」「現実を侵食するフィクション」「1984年の亡霊」が加えられ、さらに新たなあとがきも付されています。帯には『チ。』の作者、魚豊さんの推薦文も記載されており、書名のリンク先でご確認いただけます。

★完全版あとがきより引きます。「読書は既存のネットワークから私たちを半ば強制的に切断する。しかし書物は、私たちを孤独にするだけではない。書物は互いに参照し合い、書物同士のネットワークを形成している。〔…〕書物を開き、読むという行為は、インターネットとは異なる別様のネットワークに接続し、参与することを意味するのではないか。〔…〕本を読むたびに、読み直すたびに、異なるネットワークに接続され、そうすることで読者の内的なネットワークも更新されていく」(296頁)。「ある種の書物は、私の脳に対して少量の幻覚剤のように機能=作動する。〔…〕私は書物を開きながら、こことは異なるもうひとつのネット=ウェブを幻視する」(299頁)。

★『懐疑 知識 照明』は、副題にある通り、13世紀のスコラ哲学者「ガンのヘンリクス」の著書『定期討論のスンマ』の第1項第1問「人間は何かを知りうるか」および第2問「神の照明なしに人間は何かを知りうるか」の羅和対訳と注釈と解説を一冊にまとめたもの。「ヘンリクスの『定期討論のスンマ』冒頭の知識論は、アリストテレス、アウグスティヌス、キケロなどを通じて伝えられたさまざまな懐疑的議論を取り上げつつ、デカルトに先立って、中世スコラ哲学においてはじめて、知識の可能性や確実性のぎんみを考察の出発点とした『スンマ』(大全)として、記念されるべきなのである」(解説、7頁)。訳者の加藤雅人(かとう・まさと, 1955-)さんは関西大学名誉教授。著書に『ガンのヘンリクスの哲学』(創文社、1999年;現在は講談社の「創文社オンデマンド叢書」で入手可能)などがあります。

★『人間論』は、知泉学術叢書の第42弾。カバー表4紹介文に曰く「デカルト哲学における「人間」は、精神と身体の両側面から把握されてはじめて捉えられる存在であり、その思想における身体論の核心を示すのが、『人間論』(1664年)である。加えて本書には、『人間論』とは別の時期に執筆された未完草稿『人体の記述』、医師ラ・フォルジュによる『注解』(本邦初訳)を収録」と。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。同叢書の次回配本は、今月末発売予定の、ピーコ・デッラ・ミランドラ『人間の尊厳について』伊藤博明訳、と予告されています。

★『ペンと剣 増補新版』は、エドワード・W・サイードにデーヴィッド・バーサミアンがラジオ番組で連続インタヴューしたものをまとめた『The Pen and the Sword』(2010年)の訳書(1998年、クレイン;ちくま学芸文庫、2005年)に加筆訂正して、再刊したもの。文庫本からの再単行本化です。カバー表4紹介文に曰く「分断が進む世界への絶望に抗うために、広い視野で希望を見出すサイードの思想。西洋中心の価値観に異議を唱え、アカデミズムの枠を越えて政治に声を上げた人物像を浮かび上がらせる、サイードをこれから読む人にも最適な一冊。〔…〕自著をわかりやすい言葉で語り、パレスチナ問題に通ずる世界の構造を広い視野で捉え「和解と共生」への道を示すインタヴュー集」。

★『2030 来たるべき世界』は、「ウクライナやガザでの戦争や分断、気候危機、生成AIの広がり、技術革新といった変化が同時に進むなかで、私たちが2030年ごろまでにどのような選択を迫られているのかを見つめ直そうという問題意識のもと、「朝日地球会議2025」に集った国内外の知性を一冊に編み上げたもの」(はじめに、4頁)。目次を転記しておきます。

目次:
はじめに|永島学
1 エマニュエル・トッドが見通す世界の近未来
 巻頭メッセージ「日本は米国の戦争に巻き込まれてはいけない」|エマニュエル・トッド
 道徳なき西洋と「NO」と言えない日本|エマニュエル・トッド×三牧聖子×高久潤
 ロングインタビュー「ヒロシマから見えた「西洋の敗北」以後」|エマニュエル・トッド
 広島大学長が問う、核の非対称と”宗教ゼロ”時代の「日本の選択」|エマニュエル・トッド×越智光夫
 「空想のナショナリズム」が世界を覆う。希望は?|エマニュエル・トッド×大野博人
2 “中堅国”としての日本は世界でどう輝くのか?
 AI時代に「民主主義」をどう守るか?|オードリー・タン
 「勢力圏」再来の時代を、日本はどう生きるか?|モニカ・トフト
 「力が正義」の時代をどう生きるか?|佐橋亮×錦田愛子×望月洋嗣
おわりに

★『時間と自由』は、白水Uブックスのレーベル内シリーズ「思想の地平線」の一冊。白水社での平井啓之訳の同書の刊行履歴をたどると、1965年刊:旧版『ベルグソン全集(1)時間と自由/アリストテレスの場所論』、1975年刊「《哲学思想》名著10選」『時間と自由』、1990年刊「イデー選書」『時間と自由』、1993年復刊『ベルグソン全集(1)時間と自由/アリストテレスの場所論』、2001年新装復刊『ベルグソン全集(1)時間と自由/アリストテレスの場所論』、2009年刊「白水Uブックス」『時間と自由』、そして今回の再刊、となります。訳文改訂の履歴は定かではありませんが、イデー叢書版の刊行の折の訳者あとがきが今回の新版でも収録されています。また巻末には三浦信孝さんによる「平井啓之先生の想い出」という一文が加わっています。

★『虹の解体』は英国の進化生物学者リチャード・ドーキンス(Clinton Richard Dawkins, 1941-)の著書『Unweaving the Rainbow: Science, Delusion and the Appetite for Wonder』(1998年)の訳書(2001年、早川書房)の文庫化。帯文に曰く「進化論や物理学がもたらす「センス・オブ・ワンダー」を明快に説く。この宇宙を織りなす究極的な秩序とは? イデオロギーを排し事実を突きつめることはなぜ重要か? 科学論の金字塔」。文庫化にあたり、副題は「いかにして科学は脅威への扉を開いたか」から「世界はなぜ美しいのか」に改められ、新たに「文庫版訳者まえがき」が加わり、訳者あとがき「ドーキンスVSグールド」は単行本版から一部修正されて再録されています。


# by urag | 2026-05-17 19:26 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)