2021年 12月 31日
◎2021年3月3日発売予定:ロザリンド・E・クラウス『アヴァンギャルドのオリジナリティ』本体4,500円。 ◎2020年12月9日発売:桑原甲子雄『物語昭和写真史』本体2,400円。 ◎2020年11月6日発売:アルフォンス・ド・ヴァーレンス『マルティン・ハイデガーの哲学』本体4,500円、シリーズ・古典転生第23回配本(本巻22)。 ◎2020年10月29日発売:ジェイソン・ワイス編『スティーヴ・レイシーとの対話』本体3,500円。 塚原立志氏書評(「ミュージック・マガジン」2021年1月号「BOOK」欄)松尾史朗氏書評「自発的な求道者がゆむぐ驚異的に破綻のない言葉たち」(「レコード・コレクターズ」2021年2月号「INFO.STATION BOOKS」欄) ◎2020年10月2日発売:『多様体2 総特集:ジャン=リュック・ナンシー』本体3,200円。 ◎2020年8月12日発売:ジャック・デリダ『スクリッブル 付:パトリック・トール「形象変化」』本体2,200円、叢書エクリチュールの冒険、第17回配本。 松田智裕氏書評「グラマトロジーの広がりを考えるための必読書――エクリチュールの何が問題だったのか」(「週刊読書人」2020年11月6日号) ◎2020年6月23日発売:中井亜佐子『〈わたしたち〉の到来』本体2,000円、シリーズ〈哲学への扉〉、第7回配本。 巽孝之氏短評(「図書新聞」2020年7月25日号、「2020年上半期読書アンケート」) 山田雄三氏書評「だれも排除しない理想の「わたしたち」ーー沈黙を余儀なくされてきた女性たちが慎重に、しかし凛として語りはじめる」(「図書新聞」2020年10月31日号) ◎2020年4月30日発売:クレア・ビショップ『ラディカル・ミュゼオロジー』本体2,000円。 ◎2020年4月24日発売:『表象14:アポカリプスの表象/表象のアポカリプス』本体2,000円。 ◎2020年3月20日発売:井岡詩子『ジョルジュ・バタイユにおける芸術と「幼年期」』本体3,500円、シリーズ・古典転生、第22回配本(本巻21)。 古永真一氏書評「バタイユ流芸術擁護論をさらに推し進める――ヘーゲル的な価値観に抗するバタイユの野心的な世界観をあらためて浮き彫りに」(「図書新聞」2020年7月11日号、特集「ポストコロナ時代を透視する思想」欄) 安原伸一朗氏書評「長きにわたる思索を俯瞰する試み――初期の『ドキュマン』から最晩年の『エロスの涙』まで」(「週刊読書人」2020年8月14日号) ◎2020年3月17日発売:エルンスト・ユンガー『エウメスヴィル』本体3,500円、叢書エクリチュールの冒険、第16回配本。 前田良三氏書評「文明社会の生態系を知り尽くした老いた「マタギ」の手になる「SF小説」――語りのなかに夥しい数の歴史上の人名や出来事への言及を織り込む」(「図書新聞」2020年06月20日号) ◎2020年3月2日発売:土橋茂樹編『存在論の再検討』本体4,500円、シリーズ・古典転生、第21回配本(本巻20)。 ◆販売情報(重版・品切・サイン本、等々) ◎重版出来: 2021年2月15日:ビショップ『ラディカル・ミュゼオロジー』2刷 2021年2月17日:久保明教『ブルーノ・ラトゥールの取説』4刷
◎品切重版検討中:『ミクロコスモス第1集』2刷、ユンガー『パリ日記』2刷、ギルロイ『ブラック・アトランティック』4刷、ブルワー=リットン『来るべき種族』。 ◎品切重版未定:『舞台芸術05』『舞台芸術08』『表象01』『表象02』『表象03』『表象04』『表象05』『表象08』『表象09』『表象12』、毛利嘉孝『文化=政治』、クリフォード『ルーツ』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』、ハーマッハー『他自律』、ブレイエ『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』、バトラー『自分自身を説明すること』、クラウス+ボワ『アンフォルム』、ブランショ『書物の不在 初版朱色本』『書物の不在 第二版鉄色本』『謎の男トマ 初版本』、片山廣子『燈火節:随筆小説集成』『新編燈火節』、竹内てるよ『静かなる夜明け』、高柳昌行『汎音楽論集』、大里俊晴『マイナー音楽のために』『ガセネタの荒野』、大竹伸朗『ネオンと絵具箱』、森山大道写真集『新宿』『新宿+』『大阪+』『オン・ザ・ロード』『にっぽん劇場』『何かへの旅』『モノクローム』、森山大道フォトボックス『NOVEMBRE』、中平卓馬『都市 風景 図鑑』、やなぎみわ作品集『WHITE CASKET』、川田喜久治写真集『地図』、遠藤水城編『曽根裕|Perfect Moment』、『猪瀬光全作品』、佐野方美写真集『SLASH』、熊木裕高写真集『吠えない犬』、瀬戸正人写真集『picnic』、菱田雄介写真集『ある日、』。※書店からの返品で在庫がまれに生じる場合があります。直接、弊社までお電話かメールなどでお尋ね下さい。 ◎一般紙系:Yahoo!ニュース「出版業界」「電子書籍」「アマゾン」 ◎話題系:フレッシュアイニュース「出版不況」「電子書籍」「書店経営」 ◎新刊書店系:日書連 全国書店新聞 ◎雑談&裏話:5ちゃんねる 一般書籍 ※このブログの最新記事は当エントリーより下段をご覧ください。 ※このブログについてネット上でつぶやかれていることをご覧になりたい方はYahoo!のリアルタイム検索をご覧ください。 ※このブログがWWWにおいてどのような地位にあるのかについてはこちらをご覧ください。 ※月曜社について一般的につぶやかれている様子はYahoo!リアルタイム検索からもご覧になれます。弊社が発信しているものではありませんので、未確定・未確認情報が含まれていることにご注意下さい。ちなみに弊社にはtwitterのアカウントを取得する予定はありませんが、当ブログ関連のアカウントはあります。 #
by urag
| 2021-12-31 23:59
| ご挨拶
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2021年 03月 03日
ロザリンド・E・クラウス『アヴァンギャルドのオリジナリティ』は本日3月3日、取次搬入(日販、トーハン、楽天BN)を開始いたしました。店頭販売分を事前にご発注いただいた書店様には5日以降、順次着店するものと思われます。なおクラウスの既刊書『視覚的無意識』は版元品切、重版3刷準備中です。 #
by urag
| 2021-03-03 15:41
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2021年 02月 28日
『聊斎志異』蒲松齢著、黒田真美子訳、光文社古典新訳文庫、2021年2月、本体1,560円、文庫判656頁、ISBN:978-4-334-75439-6
『自然界に隠された美しい数学』イアン・スチュアート著、梶山あゆみ訳、河出文庫、2021年2月、本体1,100円、文庫判368頁、ISBN978-4-309-46729-0 ★まずは注目の文庫新刊。『聊斎志異』は「中国怪異小説の金字塔」(帯文)の抄訳。訳者による巻末解説によれば、底本は「張友鶴輯校、会校会注会評本(上海古籍出版社)、いわゆる「三会本」12巻494篇(附録篇除く)である。〔…〕拙訳は、そこ中から43篇を選び、便宜上、6部のテーマに分けて収録した」とのこと。6部のテーマとは、怪、妖、恋、夢、仙、幽、の6つ。収録作品は書名のリンク先でご覧いただけます。柔らかく親しみやすい、流れるような心地よさの現代語訳です。 ★『自然界に隠された美しい数学』は『What Shapes is a Snowfrake?』(The Ivy Press, 2001)の翻訳で、訳者あとがきによれば「紙幅の都合で一部セクションをカットした」とのこと。『自然界の秘められたデザイン』として2009年に河出書房新社より単行本が刊行され、2015年には新装版が刊行。今般改題のうえ、文庫化されました。「貝殻の渦巻き、シマウマの模様、雪の結晶の回転対称、月や季節の周期性など」(カバー表4紹介文)、自然界に見出される諸パターンを紹介し、時間、フラクタル、カオス、等々を解説しています。図版多数。 『数理と哲学――カヴァイエスとエピステモロジーの系譜』中村大介著、青土社、2021年2月、本体3,600円、四六判上製430頁、ISBN978-4-7917-7348-0 『現代思想2021年3月号 特集=東日本大震災10年』青土社、2021年2月、本体1,500円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1411-7 『シモンドン哲学研究――関係の実在論の射程』宇佐美達朗著、法政大学出版局、2021年2月、本体4,500円、A5判上製294頁、ISBN978-4-588-15113-2 『身体忘却のゆくえ――ハイデガー『存在と時間』における〈対話的な場〉』高屋敷直広著、法政大学出版局、2021年2月、本体3,800円、A5判上製266頁、ISBN978-4-588-15112-5 ★青土社さんの2月新刊では、中村大介(なかむら・だいすけ, 1976-)さんの単独著第一作『数理と哲学』に注目。巻頭に置かれた総論「〈重ね合わせ〉の探究に向けて」に曰く「本書はカヴァイエスの数理哲学を軸とした、フランス・エピステモロジーの系譜に関する論文集である」。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。中村さんはもともと理論物理学者を目指しておられたそうですが、大学院から哲学に転じたとのこと。現在は豊橋技術科学大学総合教育院准教授。岩波書店から発売されたばかりの論文集『スピノザと十九世紀フランス』では「第二次スピノザ・ルネッサンスの胎動――ジュール・ラニョーの哲学における必然性と無私性」と題された論考を寄せておられます。 ★法政大学出版局さんの2月新刊では、宇佐美達朗(うさみ・たつろう, 1988-)さんの博士論文が加筆修正された『シモンドン哲学研究』に注目。記念すべき日本初のシモンドン研究書になります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。序論に曰く「ここで取り組まれるのは大雑把に言って1958年時点のシモンドン、つまり学位論文を提出し、みずからの哲学を初めて提示した時期のシモンドンである。〔…〕いくつかの論文を別にして、シモンドンがみずからの手で世に出したテクストは学位論文の主論文〔『形態と情報の概念に照らした個体化』〕と副論文〔『技術的対象の存在様態について』〕のみである」。宇佐美さんを法政さんに紹介したのは中村大介さんだそうです。中村さんがシモンドンの『個体化の哲学』(法政大学出版局、2018年)の共訳者であることは周知の通り。 『フラッシュ――ある犬の伝記』ヴァージニア・ウルフ著、岩崎雅之訳、幻戯書房、2021年2月、本体2,600円、四六変形判上製264頁、ISBN978-4-86488-215-6 『仮面の陰に――あるいは女の力』ルイザ・メイ・オルコット著、大串尚代訳、幻戯書房、2021年2月、本体2,700円、四六変形判上製272頁、ISBN978-4-86488-216-3 『アンジェラ・デイヴィスの教え――自由とはたゆみなき闘い』アンジェラ・デイヴィス著、浅沼優子訳、河出書房新社、2021年3月、本体3,300円、46判上製256頁、ISBN978-4-309-24997-1 『時代の異端者たち』青木理著、河出書房新社、2021年3月、本体1,700円、46判並製292頁、ISBN978-4-309-24996-4 ★幻戯書房さんの「ルリユール叢書」最新弾は2点。ヴァージニア・ウルフ『フラッシュ』は1933年の作品。帯文に曰く「19世紀の英国詩人エリザベス・バレット・ブラウニングの日常模様が、愛犬フラッシュの目を通して語られる、ユーモア溢れる伝記小説。ヴァージニア・ウルフが飼い犬に寄せたエッセイ「忠実なる友について」、エリザベス・バレットの詩「わが忠犬、フラッシュに寄す」も収録」。底本はホガース版(1952年)とのこと。近年の既訳書には、出淵敬子訳『フラッシュ――或る伝記』(みすず書房、1993年)があります。 ★オルコット『仮面の陰に』は「フラッグ・オブ・アワ・ユニオン」誌に1866年10月から11月にかけ全4回、A・ M・ バーナードという男性作家名義で掲載された「Behind a Mask, or A Woman's Power」を訳したもの。帯文に曰く「英国の名家で女家庭教師〔ガヴァネス〕が惹き起こす、19世紀米国大衆〈スリラー〉小説」。「19世紀の女性に求められた真の女性らしさ、すなわち「柔順、経験、清廉、家庭性」という規範を踏み越えているにもかかわらず、その内部に留まることを演じ続ける反逆する女性を描いている」(訳者解題)。「ルリユール叢書」次回配本は3月下旬、ジェイムズ・M・ケイン『ミルドレッド・ピアース――未必の故意』(吉田恭子訳)とのこと。 ★河出書房新社さんの2月末発売新刊のうち『アンジェラ・デイヴィスの教え』に注目。米国の活動家で作家のアンジェラ・デイヴィス(Angela Davis, 1944-)の最新著『Freedom is a Constant Struggle: Ferguson, Palestine, and the Foundations of a Movement』(Haymarket Books, 2016)の訳書。「2013年から2015年の3年間に行われたインタビューやスピーチ、寄稿された記事で構成されている」(訳者まえがき)とのこと。コーネル・ウエストは「刊行に寄せて」という一文を寄せ、デイヴィスを「世界でも稀有で偉大な、長年にわたる知的自由戦士の一人である」と称えています。「1960年代の革命的な大衆運動から今日の反政府社会運動にいたるまで〔…〕地球上の抑圧された人々から焦点を外すことなく、不動の姿勢を貫いてきた」(29頁)と。目次を下記に転記しておきます。 訳者まえがき――今、アンジェラ・デイヴィスを知るべき理由|浅沼優子 刊行に寄せて|コーネル・ウエスト 編者まえがき|フランク・バラット 第1章 資本主義的個人主義に対抗する集団的闘争 第2章 ファーガソン事件が示したグローバルな文脈 第3章 構造的変革の必要性 第4章 パレスチナ、G4Sと産獄複合体 第5章 終幕と継続 第6章 マイケル・ブラウンからアサータ・シャクールまで――根強いレイシズム国家アメリカ 第7章 「真実を伝えるプロジェクト」――アメリカにおける暴力 第8章 フェミニズムとアボリション――21世紀のための理論と実践 第9章 政治的アクティヴィズムと抗議運動――1960年代からオバマ政権時代まで 第10章 国境を越える連帯 『パンデミックは資本主義をどう変えるか――健康・経済・自由』ロベール・ボワイエ著、山田鋭夫/平野泰朗訳、藤原書店、2021年2月、本体3,000円、A5判並製320頁、ISBN978-4-86578-302-5 『ワクチン いかに決断するか――1976年米国リスク管理の教訓』R・E・ニュースタット/H・V・ファインバーグ著、西村秀一訳、藤原書店、2021年2月、本体3,600円、A5判並製472頁、ISBN978-4-86578-300-1 『中国の何が問題か?――ハーバードの眼でみると』ジェニファー・ルドルフ/マイケル・ソーニ編、朝倉和子訳、藤原書店、2021年2月、本体3,000円、A5判並製336頁、ISBN978-4-86578-296-7 『新渡戸稲造 1862-1933〈新版〉――我、太平洋の橋とならん』草原克豪著、藤原書店、2021年2月、本体4,200円、四六判上製544頁+口絵8頁、ISBN978-4-86578-301-8 ★藤原書店さん2月新刊は4点。ボワイエ『パンデミックは資本主義をどう変えるか』は『Les Capitalismes à l'épreuve de la pandémie』(La Découverte, 2020)の全訳。原題は「パンデミックの試練に立つ資本主義」。原書に紐づけられた著者のウェブサイトに掲載された78頁におよぶ図・表・コラムのうち、日本語版では図表類を訳書中に取り入れたとのことです。また日本語版では2篇の新しい文章として、書き下ろしの「日本の読者へ」と、補章「歴史的出来事をリアルタイムで分析することは可能か」が加わっています。 ★『ワクチン いかに決断するか』は、「米国の1976年の豚インフルエンザ事件を語るとき、必ずといってよいほど引用される基本図書」(訳者あとがき)だという『The Epidemic That Never Was: Policy-Making and the Swine Flu Affair』(Vintage Books, 1983)の訳書で、2009年に時事通信出版局より刊行された訳書『豚インフルエンザ事件と政策決断――1976起きなかった大流行』の改訂版です。訳者による巻頭の「日本語版の出版にあたって」によれば「藤原書店版では、時事通信版のときから現在までにいたる12年間にあった出来事をふまえ、種々の訳注」などを変え、「適宜、訳文をあたらしいものに替え」て、さらに「付録A~E」を巻末に移設し各項目の順序を変更したとのことです。 ★『中国の何が問題か?』は『The China Questions: Critical Insights into a Rising power』(Harvard University Press, 2018)を全訳し、マイケル・ソーニによる「日本語版への序」を加えたもの。「中国共産党体制に正統性はあるか?」から「過去六十年で中国研究はどう変わったか?」まで、中国をめぐる36問の問いにハーバード大学の研究者たちが答えるものとなっています。ソーニは「日本語版への序」でこう書いています。「日本語版の翻訳中にエズラ・ヴォーゲル氏が亡くなった。氏のエッセイは「日中は果たしてうまくやれるのか?と問う(Q.13)。国際緊張が高まり、国際協力が喫緊の課題である今、この問いはかつてなく重い」(4頁)。ヴォーゲルは簡潔な論考のなかで日中関係の古い歴史と改善の契機について忌憚なく語っています。 #
by urag
| 2021-02-28 23:30
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2021年 02月 22日
2021年3月22日取次搬入予定 *人文・哲学思想 地理哲学――ドゥルーズ&ガタリ『哲学とは何か』について ロドルフ・ガシェ[著] 大久保歩[訳] 月曜社 本体3,000円 46判並製296頁 ISBN978-4-86503-105-8 C0010 伝統と断絶の系譜ジオフィロソフィ――ドゥルーズ&ガタリの最後の著作を精緻に読解し、哲学とは何か、またその条件とは何かを探究する試み。哲学は、科学や芸術や宗教とは異なる独特な思考の営みとして、どのような性格をもつのか。なぜ哲学は古代ギリシアで誕生したのか。本書は、ドゥルーズとガタリにとっての哲学が、普遍性を希求しながらも、特定の時代と地域に成立する一種の「出来事」であるかぎり、大地に属した思考にほかならないことを明らかにする。哲学そのものは本質的に地理哲学なのだ。叢書エクリチュールの冒険、第18回配本。 目次: 謝辞 序論 第1章 「ギリシアの奇跡」 第2章 どの大地か? 第3章 もはや大地に縛られることのない土着的なもの 第4章 たとえば、友 第5章 飛翔すること 第6章 オピニオンを解放すること 第7章 ギリシアのフラクタル化 第8章 思考-大地 第9章 大地、自然、コスモス 訳者あとがき 文献表 人名索引 原書:Geophilosophy: On Gilles Deleuze and Félix Guattari’s What Is Philosophy?, Northwestern University Press, 2014. 著者:ロドルフ・ガシェ(Rodolphe Gasché, 1938-)ニューヨーク州立大学バッファロー校比較文学科卓越教授。専門は哲学、比較文学、批評理論。翻訳では、ジャック・デリダ『エクリチュールと差異』のドイツ語訳などを手掛けている。著書に『いまだない世界を求めて』(吉国浩哉訳、月曜社、2012年)、『脱構築の力』(宮﨑裕助編訳、入江哲朗/串田純一/島田貴史/清水一浩訳、月曜社、2020年)。 大久保歩(おおくぼ・あゆむ, 1972-)大阪大学文学研究科博士後期課程在籍。専攻は哲学・政治理論。主な論文に「ニーチェ『悲劇の誕生』における美的公共圏」(『実存思想論集』三五号所収、実存思想協会編、知泉書館、2020年)、「友愛の政治と来るべき民衆――ドゥルーズとデモクラシー」(松本卓也/山本圭編著『〈つながり〉の現代思想』所収、明石書店、2018年)、共訳書にリチャード・J.バーンスタイン『暴力――手すりなき思考』(法政大学出版局、2020年)。 #
by urag
| 2021-02-22 14:47
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2021年 02月 21日
『私たちはどこにいるのか?――政治としてのエピデミック』ジョルジョ・アガンベン著、高桑和巳訳、青土社、2021年2月、本体2,000円、46判並製244頁、ISBN978-4-7917-7361-9 『パンデミック以後――米中激突と日本の最終選択』エマニュエル・トッド著、大野博人/笠井哲也/高久潤聞き手、朝日新書、2021年2月、本体750円、新書判200頁、ISBN978-4-02-295115-1 『エピクテトス 人生談義(上)』國方栄二訳、岩波文庫、2020年12月、本体1,130円、文庫判442頁、ISBN978-4-00-336083-5 『エピクテトス 人生談義(下)』國方栄二訳、岩波文庫、2021年2月、本体1,260円、文庫 判504頁、ISBN978-4-00-336084-2 『パサージュ論(一)』ヴァルター・ベンヤミン著、今村仁司ほか訳、岩波文庫、2020年12月、本体1,200円、文庫判558頁、ISBN978-4-00-324633-7 『パサージュ論(二)』ヴァルター・ベンヤミン著、今村仁司ほか訳、岩波文庫、2021年2月、本体1,200円、文庫判536頁、ISBN978-4-00-324634-4 『美味礼讃(上)』ブリア=サヴァラン著、玉村豊男編訳・解説、中公文庫、2021年1月、本体900円、文庫判384頁、ISBN978-4-12-207018-9 『美味礼讃(下)』ブリア=サヴァラン著、玉村豊男編訳・解説、中公文庫、2021年1月、本体900円、文庫判384頁、ISBN978-4-12-207019-6 ★『私たちはどこにいるのか?』は昨年7月に刊行された『A che punto siamo? L'epidemia come politica』(Quodlibet, 2020)の全訳に、著者自身の要請により「汚らわしい二つの用語」「緊急状態と例外状態」「恐怖とは何か」の3つの論考を追加して全19篇を収めたコンパクトな一書。翻訳者あとがきでの説明によれば、本書はCOVID-19の流行を契機としてアガンベンが2020年末以降、新聞や、本書の版元クォドリベットのウェブサイトなどに発表されてきた諸論考をおおむね発表順に収録したもの。時事的発言の集積でありながら、著者の政治哲学に深く根ざした示唆的な考察が並んでいます。「収録にあたって修正が加わっている細部もあるが、大幅な変更は施されていない」とのことです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。翻訳者あとがきの末尾には著者の「愛が廃止された」(11月6日付、クォドリベット)という詩が紹介されているのが印象的です。 ★昨年4月30日付で発表された「一つの問い」から引きます。「一見したところ善意から、アイヒマンは倦まず繰り返していた。自分はカント的な道徳律だと自分の考えるものに従うべく、良心からあれをやったのだというのである。善を救うために善を放棄しなければならないと断言する規範など、自由を保護するために自由を放棄することを課す規範と同程度に偽のもの、同程度に矛盾したものである」(85~86頁)。続いて4月28日付の「真と偽について」から。「じつのところ、私たちがいま経験しているのは、前代未聞のしかたで施される各人の自由への小細工であるよりも前に、真理が偽造されるという巨大な操作なのである」(109~110頁)。 ★『パンデミック以後』は2018年7月から2021年1月までに「朝日新聞」「web論座」「AERA」などに発表された6本のインタヴューに大幅な加筆修正をおこなって書籍化したもの。前半はコロナ以後、後半はコロナ以前のものです。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。 ★2020年5月23日付の「朝日新聞」が初出の「新型コロナは「戦争」ではなく「失敗」」より引きます。「私は人口学者ですから、まず数字で考えます。戦争やテロと今回の感染症を比較してみましょう。テロは、死者の数自体が問題なのではありません。社会の根底的な価値を揺さぶることで衝撃を与えます。一方、戦争は死者数の多さ以上に、多くの若者が犠牲になることで社会の人口構成を変える。中長期的には大きな社会変動を引き起こします。今回のコロナはどちらでもありません。〔…〕そこまで深刻にとらえるべきではないと考えています。シニカルに言っているのではありません。データで考えてそうなのです」(111頁)。「新型コロナウイルスのパンデミックは歴史の流れを変えるのではない。すでに起きていたことを加速させ、その亀裂を露呈させると考えるべきです」(114~115頁)。 ★アガンベンにせよ、トッドにせよ、目の前に現れている様々な政治的施策を自明視することによって見えにくくなっているものに注意力を向けようとする努力を誰もが怠ってはならない、と警告しているように思えます。 ★『エピクテトス 人生談義』上下巻は、岩波文庫では鹿野治助訳『エピクテートス 人生談義』上下巻(1958年)以来の新訳。凡例に曰く「本書は、歴史家アリアノスが哲学の師エピクテトスの言葉を書き記した『語録』『要録』および関連の断片、アリアノスの書簡一通を、『人生談義』の書名のもと収録したものである」。奴隷出身の哲学者エピクテトスが語る人生哲学は、悩み深き現代人の心にも響くものがあります。たとえば次のような一節。 ★「他人が自然本性に反する状態にあるからといって、それが君の悪にならないようにしなければならない。なぜなら、君は他人とともに卑屈であったり不運であったりするのではなく、ともに幸福であるように生まれるついているからだ。だが、もし不運であるような人がいれば、自分自身の責任において不運なのだということを覚えておくことだ。というのは、神はすべての人が幸福であり、平安であるように作ったのであるから。この目的のために、神はそれに至る手がかりとして、あるものを各人に固有のものとして、あるものを他人に属するものとしてあたえられたのだ」(148頁、『語録』第3巻第24章「われわれの力が及ばないものに執着してはならないことについて」より)。この章題は鹿野訳では「われわれの権内にないものに執着してはならぬということについて」です。 ★岩波文庫版『パサージュ論』全5巻は、岩波現代文庫版全5巻(2003年)の再刊。とはいえ凡例末尾の特記によれば「訳者が各巻2名ずつでドイツ語およびフランス語原文にあたり、訳文の全体を見直し、若干の修正を行なった。また各巻にそれぞれ新たに解説を付した他、ベンヤミンおよび各巻の主要人物の顔写真を掲載した」。なお、編纂者ロルフ・ティーデマンの長篇解説である付論「『パサージュ論』を読むために」が岩波現代文庫版第5巻の247~299頁に収められていましたが、今般の岩波文庫版では省略するそうです。なお、本文中にあるティーデマンの補足は残されています。なお、岩波現代文庫版第1巻の巻末にあった今村仁司さんの解説は、岩波文庫版では三島憲一さんの解説に代わっています。 ★『美味礼讃』上下巻は2017年に新潮社より刊行された単行本の分冊文庫化。下巻の巻末の「編訳者あとがき」によれば、文庫化にあたり大幅に相補したもので、「単行本が原著全体の約3分の2を収録したものであるのに対し、今回の文庫判は全体の9割近くをカバーして」いるとのこと。さらに「謝辞」によれば、原著初版本を参照し、初版にしか掲載されていないという「読者に告ぐ」を訳出し、さらに初版を参照しながら全編の訳文を確認」した、とあります。玉村訳本では跋文(序)やアフォリズムは下巻の末尾に置かれ、友人との対話や伝記が省略され、その他本文でも削除された部分がありますが、本文中に折々に訳者の解説が挟み込まれています。「国民の盛衰はその食べかたのいかんによる」や「君が何を食べているか言ってみたまえ、君が何者か言い当ててみせよう」という有名な言葉はアフォリズムに登場します。 ★本書はただのグルメ本ではなく、感覚、睡眠、夢、死、さらには「この世の終わり」についても語っています。原題は『味覚の生理学』(1826年)で、『美味礼讃』というのは実に巧みな訳題でしたが、改訳に改訳を重ねたロングセラーである既訳書、関根秀雄/戸部松実訳『美味礼讃』上下巻(岩波文庫、1967年)の下巻カバー紹介文では「人間哲学の書」と謳われています。岩波文庫版は原書の構成通りに訳出されているので、ともに購入すると良いかと思います。岩波文庫版は上巻が昨年11月に52刷、下巻が昨年2月に46刷に達しています。 ★なお、玉村訳では跋(序)の末尾が4段落ほど省略されているのですが、関根戸部訳では次のような興味深い一節を読むことができます。「わたしは最後に重大な意見を書きつけます。重大なことだから最後に残しておいたのです。わたしが、わたしと単数に話したり書いたりするときは、読者とうちとけて話をしているのだと思ってください。そのときは試験なさろうと議論なさろうとお疑いになろうと、いやお笑いになってもかまいません。けれども私が厳然とわれわれと言いだすときは、教授しているのです。その時はぜひ承服なさらねばなりません。「わしは大予言者でござる/わしが口を開く時分には犬どもはほえるな!」(シェークスピア『ヴェニスの証人』)」(上巻、46~47頁)。西洋近代における主語の秘密の一側面を知る思いがします。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『アレ Vol.9 特集:「わかる、わかる?」――「伝」にまつわるエトセトラ』アレ★Club、2021年2月、本体1,500円、A5判並製360頁、ISDN278-4-572741-09-4 『ディズニーと動物――王国の魔法をとく』清水知子著、筑摩書房、2021年2月、本体1,700円、四六判並製336頁、ISBN978-4-480-01722-2 『現代民主主義――指導者論から熟議、ポピュリズムまで』山本圭著、中公新書、2021年2月、本体860円、新書判272頁、ISBN978-4-12-102631-6 『増補新版 イスラーム法とは何か?』中田考著、作品社、2021年2月、本体2,700円、46判上製320頁、ISBN978-4-86182-842-3 ★『アレ Vol.9』では、特別インタビュー企画「災害とメディア」と題して、キットラー(Friedrich A. Kittler, 1943-2011)亡き後のドイツのメディア研究者3氏へのメールインタビューが実現しています。マンフレート・シュナイダー(Manfred Schneider, 1944-;『時空のゲヴァルト』三元社、2001年)の「新型コロナウィルスの教え」、ヨッヘン・ヘーリッシュ(Jchen Hoerisch, 1951-;『メディアの歴史』法政大学出版局、2017年)の「メディアの未来――偽の議論から事実の生産へ」、ジョシュア・メイロウィッツ(Joshua Meyrowitz, 1949-;『場所感の喪失』上巻、新曜社、2003年)の「我らZoomす、故に我ら在り」。いずれも必読です。誌名のリンク先に目次の画像が掲出されています。 ★『ディズニーと動物』はあとがきに曰く「筑波大学での講義をもとに執筆したもの」で「ウォルト・ディズニーの時代を中心に文学、政治、科学、芸術がどのように遭遇し、映像化させてきたのか、その制作のプロセス、映像、イメージの(不)可能性についてメディア文化論」の一端を示したもの。「なぜディズニーはアニメーションという形式にこだわったのだろうか。アニメーションというメディアは現実に対して、また環境に対して、わたしたちの知覚や認識とどのような関係を結び、またその感性的変化はテクノロジーの進展とともに、ポストメディウム論的な世界のなかでどこに向かうことになったのだろうか。そして、ディズニーがスクリーンに描き出した物語は、人間と動物、人間と自然の関係性、つまりはその「あいだ」のエコロジーをめぐる認識の変容について、どのようなダイアローグの場として機能してきたのだろうか」(17~18頁)と問いかけています。目次は紀伊國屋書店などに掲出されています。 ★『現代民主主義』はまえがきに曰く「民主主義はどのように語られ、理論化されてきたのだろうか。20世紀以降の政治思想史を手がかりに、この茫漠とした概念のしっぽを捕まえようというのが本書の目的である。〔…〕多彩な反射のプリズムのなかで民主主義を捉えなおし、21世紀の民主主義を描き出す試み」と。目次詳細が見当たらないため、以下に主要部分を転記しておきます。 まえがき 序章 民主主義の世紀 第1章 指導者と民主主義 1 指導者不在の民主主義論 2 マックス・ウェーバー 3 カール・シュミット 4 ハンス・ケルゼン 第2章 競争と多元主義 1 ヨーゼフ・シュンペーター 2 ロバート・ダール 第3章 参加民主主義 1 傘下の時代 2 キャロル・ペイトマン 3 C・B・マクファーソン 4 公共性の思想 第4章 熟議と闘技 1 福祉国家の危機 2 熟議民主主義 3 闘技民主主義 第5章 現代思想のなかの民主主義 1 ジャック・デリダ 2 ジャック・ランシエール 3 エルネスト・ラクラウ 終章 未来に手渡す遺産として 1 熟議/闘技パラダイムのあとで 2 民主主義の過去から未来 あとがき 主要参考文献 ★『増補新版 イスラーム法とは何か?』は、2015年10月に作品社より刊行された単行本の増補新版。凡例によれば「旧版の本文については誤字脱字などを適宜訂正し、新たな論考「イスラーム法の未来」を増補したもの」と。「イスラーム法の基礎」「イスラーム神学と方角の交差」「イスラーム法学の要諦」の三部構成。「本書は、いわゆる「イスラーム法」についての表面的な情報を与えるのではなく、〔…〕イスラームの本質を示し、同時に日本文化についての反省的自己認識をもたらすことを目標としています」(5頁)。
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by urag
| 2021-02-21 23:30
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2021年 02月 19日
「週刊読書人」2021年2月19日号に、弊社11月刊行のアルフォンス·ド·ヴァーレンス著『マルティン・ハイデガーの哲学』(峰尾公也訳)に対する書評「フランスにおけるハイデガー受容史上の道標」が掲載されました。評者は東北大学教授の森一郎さんです。「本書は、フランス語で書かれた最初の本格的なハイデガー研究書であり、一九四二年の刊行以来、版を重ねてきた。その大著が、フランスにおけるハイデガー受容史に詳しい俊秀によって日本語に完訳されたことを、まずは喜びたい」。「本書は依然どっしりした道標であり続けている」と評していただきました。森先生、まことにありがとうございました。 #
by urag
| 2021-02-19 11:59
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2021年 02月 17日
2021年 02月 14日
『マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」』丸山俊一/NHK「欲望の時代の哲学」制作班著、NHK出版新書、2021年2月、本体800円、新書判208頁、ISBN978-4-14-088645-8 『たぐい vol.3』奥野克巳/近藤祉秋編、亜紀書房、2021年2月、本体1,500円、A5判並製160頁、ISBN978-4-7505-1681-3 『闇の自己啓発』江永泉/木澤佐登志/ひでシス/役所暁著、早川書房、2021年1月、本体1,900円、四六判並製416頁、ISBN978-4-15-209999-0 『貞観政要 全訳注』呉兢編、石見清裕訳、講談社学術文庫、2021年1月、本体2,310円、文庫判776頁、ISBN978-4-06-521912-6 『不埒な人たち――ハシェク短編集』ヤロスラフ・ハシェク著、飯島周編訳、平凡社ライブラリー、2020年12月、本体1,500円、B6変型判382頁、ISBN978-4-582-76903-6 ★『マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」』は、NHK-BS1スペシャルのシリーズ「コロナ危機」で2020年10月3日に放送された番組「マルクス・ガブリエル コロナ時代の精神のワクチン」を書籍化したもの。「気候危機は未来のことだと考えるのは間違いです。私たちは、1972年のローマクラブが予想した良くないシナリオをたどっているのです。悪夢のようなシナリオです。世界が滅亡する映画とまったく同じに見えなくても、現実ではこんな感じで滅んでいってしまうのかもしれません。〔…〕地球規模で見れば、世界の終わりは、人間の経験とは異なる時間軸の中にあるのです。ウイルスのようにね」(78頁)。ローマクラブが1972年に発表した第1回報告書「成長の限界」の内容は、今でも読み継がれている『成長の限界――ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』(ドネラ・メドウズほか著、ダイヤモンド社、1972年)で読むことができます。 ★『たぐい vol.3』は特集1「異種との遭遇」と特集2「ティム・インゴルドの世界」の2本立て。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。奥野克巳×上妻世海×能作文徳「ティム・インゴルド『人類学とは何か』を読む」は、一年前に訳書が刊行された『人類学とは何か』(奥野克巳/宮崎幸子訳、亜紀書房、2020年3月)をめぐる、人類学者、キュレーター、建築家による興味深い対談。巻末には「人類学マンガ」として、シンジルト+MOSA「蓄糞はウンチになった」が収められています。 ★『闇の自己啓発』は、配信サイト「note」上で連載された、90年代前半生まれの若手が中心となった読書会「闇の自己啓発会」の書籍化。千葉雅也さんが推薦文を寄せておられます。早川書房デザイン室による攻めた造本設計が美しいです。役所さんによる「まえがき――播種」によれば、「note版ではカバーしきれなかった語彙の説明や補足を、本書では注として4万字以上追加している。さらに「闇の自己啓発会」発起人の江永氏による書き下ろし論考〔補論「闇の自己啓発のために」〕を加え、本文も大幅に加筆修正している」とのこと。 ★役所さんはこうも書いています。「ビッグブラザーの支配する世の中で、自己を奪われないためには何をすればよいのか。私は読書会こそがその答えであると思う。ひとりで思考し、学び続けることが難しくても、ともに語り、学び、思考する共犯者がいることで、自己を失わずに、思考することを続けやすくなる。そしてそれを発信することで、思考の種を播き、共犯者を増やしていくことが可能になる。〔…〕私たちは、いわゆる普通の自己啓発に対する防衛術として「闇の自己啓発」を生み出した。〔…〕必要なのは、オルタナティヴな「変革」のヴィジョンだ」(3~4頁)。共感を覚えます。出版人や書店人にとっても重要な認識です。世界像を反転させていくヒントが満載の鼎談集に学びたいと思います。 ★『貞観政要 全訳注』は文庫オリジナルの訳し下ろしです。「唐王朝の最盛と謳われる7世紀「貞観の治」をなした皇帝・太宗。その「名君」が臣下と議論を交わし、ときに痛烈な諫言を受け入れた様を、後世の皇帝の手本として編纂した」(カバー表4紹介文より)のが、『貞観政要』全十巻四十篇。帯文に曰く「人の上に立つ者すべての必読書」。その通り! ★『不埒な人たち』は平凡社さん自身が2002年に刊行した単行本の増補版。ライブラリー化にあたり、2篇「古い薬種店」「ブグリマ市の司令官」が追加され、全27篇となったユーモア短編を、ヨゼフ・ラダによる挿絵入りで読むことができます。巻末には「平凡社ライブラリー版編訳者あとがき」が加えられています。今こそハシェクの皮肉に学ぶとき。そろそろ代表作『兵士シュヴェイクの冒険』(全4巻、岩波文庫)が再刊されてもいい頃です。 ★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。 『はたらかないで、たらふく食べたい――「生の負債」からの解放宣言 増補版』栗原康著、ちくま文庫、2021年2月、本体820円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-43720-4 『大杉栄伝――永遠のアナキズム』栗原康著、角川ソフィア文庫、2021年2月、本体1,200円、文庫判416頁、ISBN978-4-04-400335-7 『生の力を別の仕方で思考すること――ジャック・デリダにおける生死の問題』吉松覚著、法政大学出版局、2021年2月、本体4,000円、A5判上製286頁、ISBN978-4-588-15114-9 『平成美術――うたかたと瓦礫(デブリ) 1989–2019』椹木野衣/京都市京セラ美術館編、世界思想社、2021年2月、本体3,182円、B5変型判232頁、ISBN978-4-7907-1751-5 『新版 日本のハゼ』瀬能宏監修、矢野維幾写真、鈴木寿之/渋川浩一解説、平凡社、2021年2月、本体4,000円、A5変型判並製588頁、ISBN978-4-582-54261-5 『ねむらない樹 vol.6』書肆侃侃房、2021年2月、本体1,500円、A5判並製208頁、ISBN978-4-86385-442-0 ★栗原康さんの著書2点が文庫化されました。『はたらかないで、たらふく食べたい 増補版』は、タバブックスより2015年に刊行された単行本に、タバブックスの「仕事文脈」誌に掲載したエッセイ4篇と、書き下ろしの文庫あとがき「アリがおどれば、世界はとまる」、さらに早助よう子さんによう解説「あの頃の栗原さん」など、計50頁分を加えて文庫化したもの。『大杉栄伝』は夜光社より2013年に刊行された単行本に加筆修正を施し文庫化したもの。文庫版あとがき「生は永久の闘いである」と、白井聡さんによる解説「奴隷根性は道徳的腐敗と経済的破綻を生んだ」が加わっています。 ★『はたらかないで~』は、今を遡ること8年前にかの「現代思想」誌に掲載されて読者を騒然とさせた問題作「豚小屋に火を放て」(自らの失恋話を織り交ぜた伊藤野枝論)をはじめとする「爆笑解放社会エッセイ」(帯文より)。「いまコロナでいろいろとまっているかのようにみえるけれども、じっさいには逆である。仕事もオンラインになってムダがはぶかれ、スピードアップ。会社にいく時間すらはぶかれる。もっとはやく、もっとはやく。地獄にむかって加速せよ。〔…〕本書で問いかけたかったのは、そんな世界にちょっとブレーキをかけませんかということだ」(文庫版あとがきより)。 ★『大杉栄伝』に寄せられた白井さんの解説にはこう書かれています。「生命とは「永遠のアナキズム」なのだとしか言いようがあるまい。〔…〕生命の力は人間を爆弾にするのだし、その事実を克明に描き出した本書自体も爆弾の一種だ。それは、この時代に向けて、今日の日本社会という肥溜めめがけて放り込まれた。〔…〕栗原の爆弾はいつの日か、肥溜めを、そこに住む生ける屍ともども吹き飛ばすだろう。その時私たちは、糞まみれになりながらも、歩き始められるはずだ。生命の喜びを噛みしめながら」。グレーバーの『ブルシット・ジョブ』が売れている売場なら、栗原さんの本も確実に売れていいはずです。 ★『生の力を別の仕方で思考すること』は、立命館大学客員協力研究員で、共訳書にマーティン・ヘグルンド『ラディカル無神論──デリダと生の時間』(法政大学出版局、2017年)や、カトリーヌ・マラブー『真ん中の部屋――ヘーゲルから脳科学まで』(月曜社、近刊)などがある、吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さんの博士論文を改稿して刊行したもの。「講義〔1975~1976年度講義『生死』〕が行なわれた1970年代から最晩年にいたるまで、デリダが発表した思想には、この「生死」という問題が一貫している」と吉松さんは指摘します。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書の書名はデリダの『ならず者たち』(原著2003年;みすず書房、2009年)から採られたもの。 ★『平成美術』はまもなく発売(2月20日頃)。椹木野衣さんによる企画および監修の展覧会「平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ) 1989–2019」(2021年1月23日~4月11日、京都市京セラ美術館新館東山キューブ)の公式図録。版元紹介文に曰く「美術は、個人の作品ではなく、離合集散するアーティストたちの集合的活動になった! 平成を代表する14のグループや集合体の主要作約70点を200枚余の写真でフルカラー掲載」。椹木さんの表題論考、平成美術史カラー年表(731項目、図版77点)、赤坂真理・立岩真也・片山杜秀の3氏による平成論で構成されています。ブックカバーはミシン目で切り取るとポストカード15枚になります。ブックデザインは松本弦人さんによるもの。 ★『新版 日本のハゼ』は、2004年刊行の初版以来16年ぶりとなる新訂増補版。収録総数は64種を増補して534種。日本のハゼ661種のうち約8割だそうです。淡水、汽水、海水と多様な生態環境を有するハゼが美麗なカラー写真と詳細な解説で紹介されています。ついつい見入ってしまいます。 ★『ねむらない樹 vol.6』では特集1で第三回「笹井宏之賞」が発表され、今回初参加となる哲学者・千葉雅也さんの選評を座談会で読むことができます。また、飯田有子さんの歌集『リンゴ貫通式』を読む特集5では批評家の杉田俊介さんの論評が掲載されています。 #
by urag
| 2021-02-14 23:30
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2021年 02月 10日
本日発売の月刊誌「中央公論」2021年3月号で「新書大賞2021」が発表されました。私も例年通り、参加いたしました。私が選んだベスト5は以下の通りです。 1:斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書 2:大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに』星海社新書 3:S・グリーンブラット『暴君』岩波新書 4:大野和基編『コロナ後の世界』文春新書 5:吉本隆明『ひきこもれ』SB新書 それぞれへのコメントはここでは記しませんが、斎藤さんの本は今回の新書大賞第1位を受賞されており、毎年ズレたランキングを寄稿している私としてもこれは納得の結果です。全体としても2位に約60点差をつけての1位。7万部突破も頷けます。今回はこのほかに個人的には時点がたくさんありました。背表紙を並べて撮影してみると、とにかく昨年はマルクス・ガブリエルの本が多く、ランキングに入りにくかったかもしれません。また、新書大賞は12月~11月の本が対象となるため、昨年12月に発売となった東浩紀さんの話題作『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)は来年に持ち越しとなったのがタイミングとしてはやや不利でした。初期の頃のように、1月~12月を対象とした方がすっきりする気がします。 ![]() #
by urag
| 2021-02-10 16:21
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2021年 02月 07日
『ニュー・アソシエーショニスト宣言』柄谷行人著、作品社、2021年2月、本体2,400円、46判上製295頁、ISBN978-4-86182-835-5 『NAM総括――運動の未来のために』吉永剛志著、航思社、2021年2月、本体3,600円、四六判並製400頁、ISBN978-4-906738-44-1 『100分de名著 カール・マルクス『資本論』――甦る、実践の書』斎藤幸平著、NHKテキスト:NHK出版、2021年1月、本体524円、A5判並製144頁、ISBN978-4-14-223121-8 『ラグジュアリーコミュニズム』アーロン・バスターニ著、橋本智弘訳、堀之内出版、2021年1月、本体2,700円、四六判並製360頁、ISBN978-4-909237-43-9 『法の哲学――自然法と国家学の要綱(上)』ヘーゲル著、上妻精/佐藤康邦/山田忠彰訳、岩波文庫、2021年1月、本体1,200円、文庫判480頁、ISBN978-4-00-336302-7 ★『ニュー・アソシエーショニスト宣言』は、2008年から2018年にかけて各所で行われたスピーチや講演、さらに2012年から2016年に各媒体に掲載されたテクストに、書き下ろしとなるいくつかの序文を加えて表題のもとにまとめたもの。「NAM〔ニュー・アソシエーショニスト・ムーブメント〕再考」と「さまざまなアソシエーション」の二部構成で、付録として『NAMの原理』(太田出版、2001年)から「NAMの原理」「NAMの結成のために」が転載され、2002年にウェブで発表された「FA宣言」も付録に加えられています。 ★巻頭の書き下ろし「序文」の書き出しはこうです。「本書は、アソシエーショニスト運動〔ムーブメント〕を検証し、その可能性をあらためて示すものである。アソシエーショニスト運動というのは、私が提起したものではない。むしろ、一般名詞である。簡単にいうとこれは、自由かつ平等な社会を実現するための運動である。アソシエーショニスト運動の歴史は長く、内容は多様である。そして、もちろん現在も存続している。私は、これは誰にでも実践できるものであり、現実のもろもろの危機への最後の砦となるものだと考えている。/私が、友人たちとともにNAMという一つのアソシエーショニスト運動の組織を発足させたのは2000年のことである。これは、私が当時雑誌に連載した『トランスクリティーク――カントとマルクス』で提示した、カントとマルクスの総合、アナーキズムとマルクス主義の総合を、実践的レベルで追及するための試みであった」(7頁)。 ★「本書の第Ⅰ部は、このとき〔『社会運動』誌〕のインタビューを加筆・修正したものである。これは、組織としてのNAMの推移を振り返りながら、アソシエーション運動の歴史を検証する形になっている。第Ⅱ部は、アソシエーション運動の様々な形態に関わる、インタビューや講演を集めたものである。巻末には「NAMの原理」を、「NAM結成のために」、「FA宣言」とともに付した。これらは改訂するつもりでいたのだが、読み返してみたところ、そのままでよいと感じた。よって、ほぼ当初のまま収録することにした」(10頁)。 ★「この間、アソシエーショニスト運動は、見直されてきたのではあるまいか。生産、流通、金融などの現在の諸システムの問題点が浮き彫りになったためだろう。多くの人が自給自足や地域のネットワークなどの重要性に気づき始めたようだ。〔…〕コロナをきっかけに、困難とともに、新たなアソシエーションの可能性が向こうからきた、といえるのではないだろうか」(11頁)。確かにいま、アソシエーションの重要性は再び問われています。じっさいは一度もその問いが廃れたことはなかったのだとも言えます。最後に柄谷さんが考えるアソシエーションの一端について引きますが、この発言は初出時の6~7年の時をやすやすと超えて、再読のチャンスを気づかせてくれる一節ではないかと感じました。 ★「私はあらためて、超出的な対抗運動の意義を強調したいと思います。非資本主義経済を自ら創り出すことは、対抗運動として必要であるという以前に、むしろ多くの人たちにとって、生存のために必要です。つまり、リスクを避けるために。しかし、私はやはり、それを資本と国家を揚棄するような対抗運動として考えたい。/新自由主義の下で、貧富の差が広がっているといわれます。それは事実ですが、この格差が「階級闘争」をもたらすことはないでしょう。なぜなら一般的にいって、富んだほうは、支配階級というよりも「勝ち組」であり、貧しいほうはプロレタリアートというよりも、たんに「負け組」だからです。つまり、勝ち組になりたかったがなれなかった者です。彼らは子供のころからたたき込まれた中産階級の規範的意識を出られない。彼らは互いに連帯することができないし、闘うこともできない。また、そのような人たちが戦闘的になると、大概、排外主義的な運動になりがちです。それがポピュリズムです。/それに対して、非資本主義的な経済空間は、勝ち組になるための競争を放棄した人たちによって形成される。とはいえ、それは負け組ではありません。私がいうアソシエーションは、むしろそのような者たちが形成するものです。「素人の乱」の松本哉がいう「マヌケ」のような人たちが」(73頁)。 ★『NAM総括』は、帯文に曰く「「資本と国家への対抗運動」はなぜ、わずか2年半の短期間で解散したのか。解散から20年、運動の最初期に加入して末期には組織中枢で実務を担当した著者が、運動の「現場」の視角から総括、問題提起する。新たな社会運動の礎となるために――」。巻末には「NAM関連年表」もあり。著者の吉永剛志(よしなが・たけし、1969-)さんの経歴には「元NAM関心系LETS連絡責任者、センター評議会事務案件議事進行」とあります。現在の肩書は、「使い捨て時代を考える会/安全農産供給センター」事務局とのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。柄谷さんの『ニュー・アソシエーショニスト宣言』とほぼ刊行時期が重なったのは偶然かもしれませんが、実に良いタイミングです。 ★巻頭の「はじめに」から引きます。「理論が困難に突き当たった実践の場を再構成したい。そしてその困難を実践的に克服することを目指したい。本書はそういう意識のもとで書かれている。/2000年代初頭、NAM(New Associationist Movement)という運動体がああった。小難しい理屈はいろいろついている。が、根っこにあるのは、人や自然を自分たちに都合よく食い物にすることをしない世の中を目指すということだ。そこから具体的運動を形づくろうとするシンプルなものだった。/NAMはたいしたものだった。私はそう思っている。「歴史」を意識した運動だった。また一般に思われているより広がりのある大きな運動だった。もっとも二年半で解散した。私自身は、関心系LETSの連絡責任者を経て末期のNAMセンター評議会で実務案件の議事進行をつとめた。/いろいろ困難も毀誉褒貶もあった。が、俯瞰的に見れば、ありえない奇跡的な動きだった」(7頁)。 ★「言いたいことは、「政治と文学」とか「文芸への関心から政治活動家へ転身」などという既成の概念を脱し、新しい表現と活動を創設しようとするところにNAMの特色はあったということだ。さらには冷戦体制とグローバリゼーションの進展。この二つを思考し、よりましな世界をどうつくるか。それがNAMだった。だから私は柄谷行人が呼びかけたNAMに共感し参加した。/そして、このNAMの特色は決して恣意的なものではなく、歴史的な必然性に迫られてのものだったと私は思っている」(10~11頁)。 ★NAMの存在理由は「平たく言えば社会的にガチガチに固定化された立場性を超えた出会いと出会いが生み出す行動を増幅させていくことにあった。/私自身はそのことの恩恵を充分に受けた。/人生もそういうものだと思うが、運動の行方は大体シビアな予測の通りになるものだ。しかし、予測を遠く飛び越えた結果が到来することがある。それは予測通りの結果になることを予測しながら、運動し続けていないと、到来しない」(11頁)。とここまで引用すると、何やら礼讃本のように思えるかもしれませんが、これらはほんの序文であって、本論ではNAMの起承転結とそれに対する解説注釈が丁寧に書かれていて実に興味深い歴史書となっています。労作です。 ★『100分de名著 カール・マルクス『資本論』』は1月にNHK-Eテレで放送された、斎藤幸平さん講師による全4回講義のテキスト。『人新世〔ひとしんせい〕の資本論』(集英社新書、2020年9月)がすでに7万部を突破とのことで、注目度が高かった番組です。目次内容は以下の通り。 はじめに 人新世の危機に甦るマルクス 第1回 「商品」に振り回される私たち 第2回 なぜ過労死はなくならないのか 第3回 イノベーションが「クソどうでもいい仕事」を生む!? 第4回 〈コモン〉の再生――晩期マルクスのエコロジーとコミュニズム ★斎藤さんは「はじめに」でこう書いています。「今回は、これまでの研究では必ずしも重視されてこなかった「資本主義の暴力性」に注目してマルクスの問題意識を浮かび上がらせることを主目的とします。できるだけ身近な事例を挙げながら、現代社会の問題と、ポスト資本主義の社会像を考えていきたいと思います」(11頁)。「マルクスというと、ソ連や中国のような共産党による一党独裁社会を連想する人も多いと思いますが、マルクス自身は「共産主義」とか「社会主義」という言葉をほとんど使っていません。代わりにマルクスが用いたのが「アソシエーション」という用語です」(12頁)。 ★また第4回ではこう解説しておられます。「マルクスは、『資本論』第三巻の草稿に、こう綴っています。資本主義に代わる新たな社会において大切なのは、「アソシエート」した労働者が、人間と自然との物質代謝を合理的に、持続可能な形で制御することだ、と。アソシエートするとは、共通の目的のために自発的に結びつき、共同するという意味です」(108頁)。「来たるべき社会のあり方を語るときに、彼が繰り返し使っていたのは、「アソシエーション」(自発的な結社)という言葉なのです。〔…〕マルクスが目指していたのは、人々の自発的な相互扶助や連帯を基礎とした社会です」(109頁)。 ★この「自発的な相互扶助」を、かの政治家が言う「自助、共助」と混同しないことが重要でしょう。斎藤さんはこうも述べています。「彼〔マルクス〕が思い描いていた将来社会は、コモン〔共有財産〕の再生に他なりません。いわば、コモンに基づいた社会、つまり、コミュニズムです。わかりやすくいえば、社会の「富」が「商品」として現れないように、みんなでシェアして、自治管理していく、平等で持続可能な定常型社会を晩年のマルクスは構想していたのです」(117頁)。「コミュニズムは贈与の世界といってもいいでしょう。対価を求めない「贈与」、つまり、分かち合いや助け合いの相互扶助によって、富の持つ豊かさをシェアしていこうということです」(118頁)。贈与の世界は愛の世界でもあるでしょう。奪い合うのではなく、分かち合い、与え合う世界。 ★『ラグジュアリーコミュニズム』は、英国のジャーナリスト、アーロン・バスターニ(Aaron Bastani, 1984-)の第一作『Fully Automated Luxury Communism』(Verso, 2019)の全訳。「本書で提示するのは、〈第三の断絶〉が展開しはじめた世界の概略である。予想されるさまざまな危機――環境的、経済的、社会的な危機――とともに、潤沢さが可能にする新たな代案を提示したい。それを起点にして、われわれが直面している困難と潜在的には手元にある手段の両方から、ひとつの政治地図を構成することが可能になるだろう。その地図こそ「完全自動のラグジュアリーコミュニズム〔FALC〕」に他ならない」(25頁)。 ★バスターニはこう続けます。「続く数章ではまず思弁的な議論を行い、そのうえで、現在の世界、あるいは現在出現しつつある世界を論じる。そこでわれわれは、自動化〔オートメーション〕、エネルギー、資源、医療、食料といった各分野における一見たがいに異質な諸テクノロジーを精査し、欠乏や労働から解放された新たな社会を作る素地が形成されつつあると結論づける。こうしたテクノロジーがどこに帰着し誰の利得に資するのかについては、一切が不確実である。しかしながらたしかなのは、こうしたテクノロジーが集団の連帯や個人の幸福へ向けた政治的企図と結びつけられたならば、そこからある素因を導き出すことができるということだ。/「完全自動のラグジュアリーコミュニズム〔FALC〕」が避けがたい未来などではなく、ひとつの政治である理由はここにある」(25~26頁)。 ★斎藤幸平さんは本書の帯に推薦文を寄せておられます。「ほんとに技術革新で贅沢なコミュニズムができるの? 「脱成長コミュニズム」への挑戦!」と。訳者あとがきで橋本さんはこう解説されています。「バスターニはこの左派加速主義の見方を(部分的な留保や修正を加えつつ)継承し、素朴政治とは一線を画す、現行の資本主義を変革し未来を切り拓く新たな政治として「完全自動のラグジュアリーコミュニズム」を提唱している。/バスターニのビジョンの新しさと魅力は、資本主義への場当たり的な反発に終始してきた近年の左派運動を刷新し、すべての人々に贅沢〔ラグジュアリー〕をもたらすことを目指すという大胆さにあるだろう」(333頁)。 ★『法の哲学』は全二巻(下巻は続刊予定)。帯文にある「刊行200年、初の文庫化」というのは、原著が公刊された1821年から数えたものでしょう。岩波文庫では確かに初めてです(過去の文庫には高峯一愚訳がありました、『法の哲学』上下巻、創元文庫、1953年)。親本は岩波書店版『ヘーゲル全集』第9a巻および第9b巻に収められた新訳本(2000~2001年刊)ということで良いかと思われます。上巻は、第一部「抽象法」と第二部「道徳」、共訳者の佐藤さんと山田さんによる「解説(上巻)」を収録。これまた帯文にある「ミネルヴァの梟は、夕暮れの訪れとともに、ようやく飛びはじめる」という有名な言葉は、序言の末尾付近で出てきます。直前の文章も読んでおいた方がいいでしょう。以下の通りです。 ★「この移ろいゆく現世においては、何でもおそらく悪くゆくか、あるいはせいぜいほどほどにゆく程度であり、よりましなことなどないゆえに、この現実と和解するほかない、ということを容認するような冷めた絶望にも理性は満足しない。認識があたえるものは、現実とのより熱い平和である。/なお、世界がいかにあるべきであるかの教訓を語ることについていえば、そもそも哲学はつねに到来が遅すぎるのである。現実がその形成過程をおえ、みずからを完成させてしまったあとになって、はじめて、哲学が世界についての思想として時間のなかに現れるのである。このことは概念が教えるところであるが、また必ず歴史が示すところでもあって、現実が成熟するなかで、はじめて理念的なものが実在的なものに対峙するかたちで現れ、そして、この理念的なものがこの世界を実体において把握し、これを知性の王国の形態へと形成するのである。哲学がみずからの灰色を灰色で描くとき、灰色に灰色を重ねてみてもその形態は若返らず、単に認識されるにすぎない。ミネルヴァの梟は、夕暮れの訪れとともに、ようやく飛び始めるのである」(39~40頁)。 ★この時期に『法の哲学』が入手しやすくなったのは、これまた偶然ですが、柄谷さんがマルクスとカントを結びつけることの必然的根拠である、マルクスのヘーゲル批判(「ヘーゲルの観念論を唯物論的に転倒すること」)を理解する上で、喜ぶべきことではないかと思われます。おそらく、カントとヘーゲルの戦いは終わってはいないのです。 ★続いて、まもなく発売となる、ちくま学芸文庫の2月新刊4点5冊をご紹介します。 『比較歴史制度分析(上・下)』アブナー・グライフ著、岡崎哲二/神取道宏監訳、ちくま学芸文庫、2021年2月、本体1,600円/1,500円、文庫判512頁/432頁、ISBN978-4-480-51011-2/978-4-480-51012-9 『重力と力学的世界――古典としての古典力学(上)』山本義隆著、ちくま学芸文庫、2021年2月、本体1,300円、文庫判400頁、ISBN978-4-480-51033-4 『ナチュラリストの系譜――近代生物学の成立史』木村陽二郎著、ちくま学芸文庫、2021年2月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-51035-8 『考古学はどんな学問か』鈴木公雄著、ちくま学芸文庫、2021年2月、本体1,200円、文庫判 304頁、ISBN978-4-480-51037-2 ★『比較歴史制度分析(上・下)』は、2009年にNTT出版から刊行された単行本の分冊文庫化。『Institutions and the Path to the Modern Economy: Lessons from Medical Trade』(Cambridge University Press, 2006)の訳書。文庫版監訳書あとがきによれば、訳者4氏が改めて訳文をチェックされたとのことです。「経済紙のゲーム理論的分析という新しい研究者アプローチを開拓しただけでなく、契約の自律的執行のメカニズムやそこでの文化に根差した予想役割など、経済社会のしくみに関する一般性のある洞察を数多く提示しており、社会科学の古典としての地位を確立している」と監訳者2氏は本書を評価しておられます。 ★『重力と力学的世界』は、淡いブルーの背表紙のMath&Science枠。1981年に現代数学社から刊行された単行本の分冊文庫化で、上巻では第1章「重力とケプラーの法則」から第9章「オイラーの重力理論」までを収録。ケプラー、ガリレイ、デカルト、ニュートン、オイラーの成果が論じられます。まえがきに曰く「本書は、古典力学の形成とその外延の拡大の途上での紆余曲折、とりわけ〈重力〉をめぐる諸問題の設定と却下の諸相を再現することにより、力学的世界が何であり何をもたらしたのかを明らかにしようとしたもの」(5頁)。下巻は来月、3月発売。 ★『ナチュラリストの系譜』は、1983年に刊行された中公新書の文庫化。カバー表4紹介文に曰く「本書は、ルネサンスに始まり、フランス植物学の父ツルヌフォール、ビュフォン、リンネ、ルソー、ラマルクを経て、ド・カンドルにいたるまで、偉大なナチュラリストたちの情熱に満ちた生涯と業績」を追う一冊。文庫版解説は植物学者の塚谷裕一さん。「本書タイトルにあるナチュラリストとは、自然史(ナチュラル・ヒストリー)を追う人、という意味の言葉だ。〔…〕本書の舞台となったフランスの国立自然史博物館を訪れれば〔…〕この国で培われてきた自然史の歴史をありありと感じる。その歴史の内容を克明に知ることができる点、本書はパリ訪問に携えるのにふさわしい」と塚谷さんは評価されています。 ★『考古学はどんな学問か』は、2005年に東京大学出版会から刊行された単行本の文庫化。文庫化にあたり、著者のお弟子さんにあたる櫻井準也さんによる解説「時空を超えて考古学のおもしろさを究める」が掲載されています。櫻井さんは次のように紹介されています。「本書は、「Ⅰ 考古学はどんな学問か」、「Ⅱ 縄文文化を復元する」、「Ⅲ f歴史考古学の広がり」の三部で構成されている。このうち、Ⅰ部では考古学がどのような学問であるのか、主に一般読者に向けてわかりやすく開設され、Ⅱ部では著者が長年にわたる縄文時代研究で実践してきた研究の成果が示され、Ⅲ部では歴史考古学という著者が1980年代以降に取り組んだ研究分野に関する論考が掲載されている」。 +++
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by urag
| 2021-02-07 23:30
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