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2012年 03月 29日

本日発売:イェイツ『ジョン・フローリオ』、中央公論新社より

ジョン・フローリオ――シェイクスピア時代のイングランドにおける一イタリア人の生涯
フランシス・イェイツ(1899-1981)著 正岡和恵+二宮隆洋訳
中央公論新社 2012年3月 本体4,200円 A5判上製424頁 ISBN978-4-12-004360-4
帯文より:イェイツ史学の出発点を画す傑作評伝。宗教難民の子弟にしてブルーノの友人、初の『エセー』英訳者にして伊英辞典編纂者、シェイクスピア作品の霊感源とも目される異能の人――大陸の人文主義的教養をイングランドに伝え、イギリス・ルネサンスの開花に貢献した特異なイタリア人の生涯と業績を、汎欧的視点から活写する無類の伝記。イェイツ年譜、著作目録などを併載する。

原書:John Florio: the Life of an Italian in Shakespeare's England, Cambridge University Press, 1934.

目次:
はしがき
第I章 ジョン・フローリオの父親
第II章 『第一の果実』
第III章 初期の友人や知人たち
第IV章 フランス大使館にて
第V章 フローリオとブルーノ
第VI章 『第二の果実』
第VII章 ジョン・エリオットの『果実』
第VIII章 エリオットとハーヴィ
第IX章 伊英辞典と「H・S」
第X章 モンテーニュの翻訳
第XI章 宮廷にて
第XII章 宮廷時代の文芸活動
第XIII章 引退と晩年
第XIV章 トッリアーノとフローリオの手稿
結論 フローリオとシェイクスピア
補遺I 読者への辞
補遺II ソープによるフローリオへの献辞

訳者あとがき
読書案内
フランシス・イェイツ年譜
フランシス・イェイツ主要著作
ジョン・フローリオの著作
原註
主要人名索引

★本日発売(版元公式では明日発売)です。昨日28日取次搬入済。シリーズ「メディアシオン」の第三弾です。正岡さんによる「訳者あとがき」によれば、本書はイェイツの第一作で、未訳の著書は本書に続く第二作『「恋の骨折り損」研究』(1936年)を残すのみとのこと(ただし死後刊行の論文集全三巻を除く)。多くの訳書は品切になっているとはいえ、主著である『記憶術』(水声社、1993年)や『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統』(工作舎、2010年)はまだ入手可能です。ここまで訳書が揃っているのですから、品切になった本を文庫化して「イェイツ著作集」を作れそうなものですが、はかない願望でしょうか。

★補遺I「読者への辞」はフローリオの著書『言葉の世界』(1598年)から採られたものです。補遺II「ソープによるフローリオへの献辞」はジョン・ヒーリー『エピクテトスの提要』(1610年)が出典。巻末の「読書案内」は二宮隆洋さんによるもの。書物のさんざめく星座は読者だけでなく書店員さんを必ずや益するでしょう。

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# by urag | 2012-03-29 22:20 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)
2012年 03月 29日

「図書新聞」に『パリ南西東北』の書評

「図書新聞」2012年3月31日付の8面に、弊社10月刊、サンドラール『パリ南西東北』の書評「あらゆる時代・都市における「郊外」という大テーマ――60年以上前のフランスの出版文化のドラマも見えてきた」が掲載されました。評者はフリー編集者の影山裕樹さんです。「郊外という普遍的なテーマを、60年以上前の出版物の、それも遠く離れた都市のディテールであぶりだす。これは出版という表現手法の冒険のひとつでもある。〔…〕訳者・昼間賢の目線の先にあるのは、〔…〕あらゆる時代、あらゆる都市における「郊外」という大テーマであるように思えた」と評していただきました。影山さん、ありがとうございました!

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# by urag | 2012-03-29 15:42 | 広告・書評 | Comments(0)
2012年 03月 25日

土曜社の新刊第三弾『獄中記』まもなく発売

★今回は4月10日発売予定の『獄中記』のほか、今月刊行の注目新刊数点をご紹介します。

土曜社の新刊第三弾『獄中記』まもなく発売_a0018105_0215265.jpg

獄中記
大杉栄著 大杉豊解説
土曜社 2012年4月 ペーパーバック判(172×112mm)並製224頁 ISBN978-4-9905587-2-7
カバー紹介文より:1906(明治39)年、東京外語大を出て8カ月で入獄するや、監修の目をかすめて、エスペラント語にのめりこむ。英・仏・エス語から独・伊・露・西語へ進み、「一犯一語」とうそぶく。生物学と人類学の大体に通じて、一個の大杉社会学を志す。出歯亀君、野口男三郎ら獄友と交際する好奇心満足主義。牢格子を女郎屋に見立て、看守の袖をひく堺利彦は売文社以前。「おい、秋水!」という大杉に気づかず、歩み去る逆徒・幸徳。21歳の初陣から、大逆事件の26歳まで――、自分の頭の最初からの改造を企てる人間製作の手記!

★4月10日発売予定。土曜社の新刊第3弾は、『日本脱出記』『自叙伝』に続く『獄中記』。「大杉栄ペーパーバック版」全3巻完結です。巻末の「大杉栄獄中読書録」に並ぶ和洋の書籍は実に壮観です。その数約150冊。飽くなき探究心は、相手が本であろうが人であろうが関係なく、大杉にとって監獄はまるで社交場であり勉強部屋のようです。版元プレスリリースによれば、本書の見どころのひとつは「語学ができ、人情に通じ、腕っぷしも強い。大杉の人気の秘訣」とのこと。カバーを飾る大杉の肖像画は、その昔、洋画家の林倭衛が書いた「出獄の日のO氏」。警視庁の介入で二科展から撤去された油絵です。

◎関連イベント
4月17日:中森明夫×坂口恭平「大杉栄を語る」@DOMMUNE
4月30日:大杉豊「大杉栄スライドトーク」@不忍ブックストリート


終わりなきパッション――デリダ、ブランショ、ドゥルーズ
守中高明(1960-)著
未來社 2012年3月 本体2,600円 四六判上製304頁 ISBN978-4-624-01185-7
帯文より:エクリチュールの経験はパッション以外のものではない――デリダやドゥルーズ、ブランショを援用しながら思考し続けた著者渾身の論文集。精神分析をめぐる二論文、パウル・ツェランや吉増剛造、宮澤賢治、アンドレ・ブルトン、ロートレアモンを取り扱った論考や書評、書き下ろしとなる人種主義についての批判的考察を所収。

★発売済。16篇のうち、掉尾を飾る「ネイションと内的「差異」――天皇制イデオロギーのもとでの在日朝鮮人」が書き下ろしです。2007年8月に書かれたもので、30頁近い長篇。そのほかは1994年から2007年にかけて執筆され発表されたもの。「あとがき」から察するに、当初は全18篇の予定だったようです。守中さんは詩人でもあり、詩集を含めた著書には以下のものがあります。

95年06月『反=詩的文法――インター・ポエティックス』思潮社
97年04月『二人、あるいは国境の歌』思潮社
99年05月『守中高明詩集』思潮社(現代詩文庫)
99年12月『脱構築』岩波書店(思考のフロンティア)
01年11月『シスター・アンティゴネーの暦のない墓』思潮社
04年06月『存在と灰――ツェラン、そしてデリダ以後』人文書院
05年06月『法』岩波書店(思考のフロンティア)
09年07月『系族』思潮社


出版状況クロニクル(III)2010年3月~2011年12月
小田光雄(1951-)著
論創社 2012年3月 本体2,000円 46判並製268頁 ISBN978-4-8460-1131-4 
帯文より:大震災前後の出版界。出版物売上高のピークは、1996年の2兆6500億→それが直近の数字では→1兆8700億。書店数のピークは、1986年の1万3000軒→それが直近の数字では→4850軒。その数字が示す“落差”の意味を2年間にわたって探る!

★発売済。一業界人として断言しなければなりませんが、もし出版界のここ5年間の推移を概観したいならば、小田さんの「出版状況クロニクル」既刊3冊を読み、そして同氏のブログで現在も継続して書かれている月次クロニクルを参照するのが一番の近道です。かの松岡正剛さんは「千夜千冊遊蕩篇」で、2009年のクロニクル第一巻を評して「ただひたすらに赤裸々なレポート」と書きました。出版社に就職したいと考えている学生さんにもお薦めします。この業界は全体としては衰退していますが、ニッチは非常にたくさんあります。一見すると新規参入する余地がないほどぎっしりと既成業者が市場を埋め尽くしていますが、見方を変えると笑ってしまうくらい穴ぼこだらけの世界で、アイデア次第ではまだまだ面白いことができるかもしれない場所です。しかし「面白いことができる」のと「商売になる」のとが必ずしも一致しない世界でもあるので、成功するのは容易ではありません。この5年間を見るだけでも、出版界の状況はさらに厳しくなっています。この国の長期的な不景気の縮図の一つが出版界です。本書は絶望のためにあるのではなくて、業界の厳しさを前にどう自分なりに戦いを挑むか、読む者の覚悟が試されるのでしょう。

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雇用、利子、お金の一般理論
ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)著 山形浩生(1964-)訳
講談社学術文庫 2012年3月 本体1,500円 A6判並製572頁 ISBN978-4-06-292100-8
帯文より:この本が、経済学を変え、世界を変えた。正確で明快な新訳で読む社会科学史上の偉業。ジョン・R・ヒックス『ケインズ氏と「古典派」たち』採録。序文:ポール・クルーグマン。
版元紹介文より:物が売れない、職がない――なぜ市場は自由放任では機能しなくなることがあるのか。世界的不況のなか、ケインズは自らも通暁する古典派経済学の誤謬と限界を徹底的に見据え、ついに現代経済学の基礎となる本書に至った。現実世界と向き合い理論をラディカルに更新する、社会科学という営みの理想形。本書の概略を定式化したヒックスの重要論文も採録。

★発売済。山形さんがネット上で公開している全訳の書籍化です。オンラインやPDFで無料で読めても、文庫だとコンパクトなので「買い」ですね。『一般理論』は数年前にも岩波文庫で新訳が二巻本で出ましたが、山形さん曰く「〔三種類も既訳が存在する〕にもかかわらず訳者が本書の全訳を行ったのは、既存の翻訳がきわめて不満な出来だったからだ。〔…〕翻訳上の誤りも散見されるし、それ以上に三つとも自他共に認める「逐語訳」だ。〔…〕いずれも日本語としてまともに読むのはつらい。〔…〕一般の場面で普通に使われる英語は、なるべく業界のジャーゴンではない、一般の場面で普通に使われる日本語にするのがこの訳書の基本的な翻訳方針だ」(「訳者解説」551-552頁)。難解かつ大冊である本書を通読するのが苦痛な方は、山形さんによるめちゃくちゃスマートで便利な「要約版」をまず読んでおくといいかもしれません。

★学術文庫の5月新刊で注目したいのは、慈円『愚管抄 全現代語訳・注』(大隅和雄訳)。11日発売です。同日刊行の文芸文庫では『折口信夫芸能論集』(安藤礼二編)と、柄谷行人『反文学論』に注目。

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同時代史
タキトゥス(c56-c120)著 國原吉之助(1926-)訳
ちくま学芸文庫 2012年3月 本体1,600円 文庫判528頁 ISBN978-4-480-09435-3
帯文より:殺戮、陰謀、裏切り。暴帝ネロ自殺後の凄まじい政争を迫真の筆致で活写したローマ史の大古典。
カバー紹介文より:暴帝ネロの自殺後、ローマ帝国に泥沼の内乱が勃発した。各地の総督がその配下の軍隊に担がれて、次々に皇帝となったのである。紀元69年1月1日、ゲルマニア軍のウィテッリウスは、ヒスパニア総督である元首ガルバに叛旗を翻す。アレクサンドリア軍からは、ウェスパシアヌスが皇帝として奉戴されていた。その結果、多くの市民の血が流れ、三人の皇帝が斃れた。そこには、人間の欲望が絡みあい、殺戮、陰謀、裏切りなど、凄まじい政争が繰り広げられた。本書は、希代の歴史家タキトゥスが、この同時代の壮大な歴史ドラマを、臨場感溢れる雄渾な筆致で記録したローマ史の大古典。解説:本村凌二。

★発売済。親本は96年、筑摩書房刊。文庫化にあたって「大幅に手を入れた」とのことです。訳者の國原先生はこれまで、タキトゥスの訳書では『年代記――ティベリウス帝からネロ帝へ』(全二巻、岩波文庫、1981年)、『ゲルマニア/アグリコラ』(ちくま学芸文庫、1996年)を手掛けられています。タキトゥス自身にとっては『同時代史』は『年代記』の前に書かれたものですが、扱っている年代は『年代記』が先、『同時代史』が後です。『年代記』は在庫僅少とのこと(写真のは97年6月の一括重版のもの)。ちくま学芸文庫版『ゲルマニア』は品切。岩波文庫の泉井久之助訳『ゲルマーニア』も在庫僅少だそうです。岩波が何を重版するかはウェブサイトの「復刊」で毎月チェックできますが、筑摩書房の場合は重版情報は書店向けのコンテンツなのですね。一般読者にも公開してくださったらいいのに。ついでに「在庫僅少本」も随時更新で一覧になっていると買い逃し防止になるので、あったらすごくうれしいですね。

# by urag | 2012-03-25 23:57 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)
2012年 03月 21日

『アドルフ・ロース著作集(1)虚空へ向けて』、アセテートより

版元に予約していた例の本が今日ついに届きました。

アドルフ・ロース著作集(1)虚空へ向けて
アドルフ・ロース著 加藤淳訳 鈴木了二+中谷礼仁監修
編集出版組織体アセテート 2012年4月 本体2,800円 A5判並製314頁 ISBN978-4-902539-21-9
帯文より:ラディカルな近代建築宣言「装飾と犯罪」で知られる建築家アドルフ・ロース(1870-1933)による、めくるめく19世紀末ウィーン文化批評の全貌。全31編中27編本邦初訳。ドイツ語初版より訳出。解題2篇、200以上の詳細な訳注を付す。アドルフ・ロース全集発刊開始第1弾。

原書:Ins Leere gesprochen, 1879-1900. Georges Crès et Cie, Paris / Zürich, 1921.

★「アセテート友の会通信」第23号(2011年9月10日)の挨拶文に本書刊行の意義の端的な説明がありますので、引用します。「ロースの著作は現在、ドイツ語圏において3巻本の全集として刊行されています。『虚空へ向けて(INS LEERE GESPROCHEN)』はその第1巻目にあたり、主に1897年から1900年までのわずか4年の間に執筆された論文を集めたものです。これは、ロースの批評家としてのキャリアの最初期に書かれたものでありますが、実際に発行されたのは晩年を迎えた1921年でした。執筆にとどまらず、出版に関してもロース自身が関わったとされています。今回のアセテート版刊では、同書におさめられた全31稿中、なんと27稿が本邦初訳となっています。/日本ではロース関する既往研究は数多く存在します。しかしそのほとんどが「建築家ロース」の見解に視点がおかれ、装飾の排除を確言したモダニズム建築の先駆者と理解されがちでした。伊藤哲夫氏(元国士舘大学教授)による、日本で唯一のロース著作集の翻訳本『装飾と罪悪』(中央公論美術出版、1987)でも、建築に関係する論稿がその大部分を占めています。しかし、今回の『虚空へ向けて』では、その概念を覆すかのような新しいロースの見解がご覧頂けるかと思います。専攻研究者〔ママ。あるいは先行研究者?〕である伊藤哲夫先生も私たちの意向に大いに賛同され、資料面で大きなご協力をいただいております。/アセテート版に収録されるロースの論考は「建築」論だけではありません。「メンズモード」「女たちのモード」「工芸の展望I」(本邦初訳)で端的に判明するように、進歩、伝統、倫理三つどもえの葛藤、ファッションや工芸への深い洞察といった、生活全体を構成するディティールへの意識の高さは、建築論の領域を越えた「非建築」論、はたまた新しい「生活」「文化」誌としてたち現れてきます」。

★訳注は早稲田大学中谷研究室によるもので、解題2篇というのは、ヴァルター・ループレヒター「アドルフ・ロースとウィーン文化」(安川晴基訳)と、細井淳「『虚空へ向けて』と皇帝即位50周年記念展示会」です。目次詳細は版元サイトに掲載されています。書容設計は羽良多平吉(EDiX)さん。たいへん美しく繊細です。版元直販の場合、消費税を取らないばかりか、「2000円以上のご購入で日本国内送料無料」とのことですので、本書は国内住所に限り送料無料。なおかつクレジットカード決済可能です。カラー口絵といい、詳細な訳注といい、これで2,800円というのは実にお得です。中谷さんのブログ記事によれば初版1000部とのことですからご注文はお早めに。「アセテート編集者日記」によれば、初回出荷で在庫を使い切ったご様子で、印刷所からの追加待ちとのこと。出だし好調なのですね。

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★なお、中谷礼仁さんはまもなく平凡社より発売になる以下の新刊にも執筆者として深くかかわっておられます。貴重な記録です。

今和次郎「日本の民家」再訪 
瀝青会(れきせいかい)著
平凡社 2012年3月 本体3,200円 A5判上製394頁 ISBN978-4-582-54440-4
帯文より:90年前のあの民家たちはいま、どうしているだろう――。瀝青会は『日本の民家』に収められた45件を探して全国津々浦々、今日もアスファルトの上を行く。2000日の旅が教えてくれたのは、うつろい、うつろわぬ、歴史の狭間にある民家・農山漁村・都市・人々の姿でした。
版元紹介文より:今和次郎が訪ねた民家・集落を、90年後にあらためて実地調査。その結果は? 驚きと発見の「21世紀版・日本の民家」。汐留ミュージアムで初の今和次郎回顧展開催中(2012年3月25日まで)。

★今和次郎『日本の民家』(1922年)は、岩波文庫(1989年)で読むことができましたが、2005年に一括重版されたのち、現在は品切。そろそろ再刊されてもおかしくないだろうと思います。

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# by urag | 2012-03-21 14:30 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)
2012年 03月 18日

まもなく発売:平凡社さんの3月新刊2点

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★まもなく発売となる平凡社さんの新刊2点をご紹介します。なお平凡社さんは文京区白山より社屋の引っ越しをされ、明日(2012年3月19日)から、神保町で業務を開始されるとのことです。新しい所在地は、〒101-0051 東京都千代田区神田神保町3-29 電話03-3230-6570(代表)。栗田出版販売さんの新社屋の近くですね。新刊の奥付ではすでに新しい所在地が記載されています。平凡社さんのtwitter情報によれば「弊社98年の歴史で初めての神保町ではあります」とのこと。

完訳 日本奥地紀行(1)横浜―日光―会津―越後
イサベラ・バード(Isabella Bird, 1831-1904)著 金坂清則(1947-)訳注
東洋文庫(平凡社) 2012年3月 本体3,000円 全書判上製394頁 ISBN978-4-582-80819-3
帯文より:イザベラ・バードの明治日本への旅の真実に鋭く迫る初版からの完訳決定版。正確を期した翻訳と丹念な調査に基づく巨細を究めた徹底的な注で、初めてわかる諸発見多数。全4巻刊行開始。

★1880年刊初版本からの完訳は、時岡敬子訳『イザベラ・バードの日本紀行』(上下巻、講談社学術文庫、2008年)以来です。平凡社さんではこれまで1885年刊簡略本の訳書、高梨健吉訳『日本奥地紀行』(東洋文庫、1973年;平凡社ライブラリー、2000年)を刊行されています。原書名はUnbeaten Tracks in Japan: An Account of Travels in the Interior, Including Visits to Aborigines of Yezo and the Shrines of Nikko and Iseで、直訳すると『日本の未踏の地――蝦夷の先住民および日光東照宮・伊勢神宮訪問を含む内地旅行の報告』(凡例より)。1878年(明治11年)5月に横浜に上陸し、同年12月に横浜から離日するまでの、七ヶ月間の旅行記です。「開港場の日本人は外国人と交わることによって人が悪くなり、品を失っているが、内陸部に住む日本人は「未開人」であるどころか、とても親切で、心優しく、礼儀正しい。それで、[外国人でも]日本人の従者一人以外には誰も伴わずとも、外国人がほとんど訪れない地域を、無礼な目にも強奪にも一度もあわないで旅することができる。私がこうして1200マイル[1930キロ]にもわたって旅ができたように」(36頁)。今回刊行された第一巻の解題には、原著の新解釈についてや、簡略本、既訳書の問題点を特記されており、新訳にかける強い思いを感じることができます。


ボヘミアの〈儀式殺人〉――フロイト・クラウス・カフカ
平野嘉彦(1944-)著
平凡社 2012年3月 本体3,200円 四六判上製292頁 ISBN978-4-582-70291-0
帯文より:「ユダヤ人はキリスト教徒を殺害し、その生血を過越の祭に用いる」――中世から連綿と続く〈儀式殺人〉への誹謗は、啓蒙主義の潜伏期を経て、近代に復活する。事件に対するユダヤ系知識人の多様な反応から、Judeであることの困難を描く異色の思想史。
帯文(裏)より:Judeを現在、一語の日本語に翻訳することはできない。人種・民族を根拠とする近代国民国家の成立以後にあってこの語は、宗教的概念「ユダヤ教徒」と人種的概念「ユダヤ人」の異なる二義をともに含むものになってしまったからだ。反ユダヤ主義やシオニズムにまつわる諸々のイデオロギーの錯綜もそのことを反映している。本書は、十三世紀に遡るユダヤ人による〈儀式殺人〉伝説が、長い忘却の淵から、近代に至って復活したことを焦点化し、文学的読解と歴史学的実証の双方から〈儀式殺人〉とされた事件に対するユダヤ系知識人たちの多様な反応を検証する。「Judeとして生きる」とはどういうことなのか、その複雑な輪郭を描く意欲作。

目次:
序論
 第一章 〈儀式殺人〉の歴史
 第二章 『タルムード・ユダヤ人』をめぐって
第I部
 第一章 ボヘミアの〈儀式殺人〉
 第二章 マサリックの異議申立
 第三章 「暗示」をめぐって
第II部
 第一章 フロイトの『日常生活の精神病理学』
 第二章 クラウスの『炬火』
 第三章 カフカの『審判』
第III部
 第一章 それぞれの歩み
 第二章 ウィーンのヒルスナー、あるいはヒルスナーのウィーン
 第三章 ウィーンからの出立

あとがき
関係年表/文献一覧/索引

★ユダヤ人がユダヤ教の祭である「過越(すぎこし)」に際してキリスト教徒の子供を殺してその血を抜き取り、儀式に使用する――古くから存在したデマがふたたび活性化していく歴史的過程を辿り、反ユダヤ主義に煽られたデマの横行を目の当たりにしたフロイト、カール・クラウス、カフカらの作品に影を落とした〈儀式殺人〉を考察しつつ、ドイツ語圏におけるユダヤ人の困難な地位を分析した本です。カフカの『審判』の主人公が喉をかき切られて死ぬ場面と、『審判』の執筆中断後に書かれた日記における記述との交差が、ツヴァイクの戯曲「ハンガリーの儀式殺人」を読んで泣いたカフカとつながっていくことを説明されるくだりには戦慄すら覚えました。今まで知らなかった『審判』の奥の部屋を覗かせてもらった心地です。なお、平野先生はちくま文庫で『カフカ・セレクション』全3巻を編訳されていますが、『審判』は訳されていません。

# by urag | 2012-03-18 21:24 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)