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2012年 04月 22日

注目新刊:『共通番号制なんていらない!』『ソウルダスト』

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共通番号制(マイナンバー)なんていらない!――監視社会への対抗と個人情報保護のために
小笠原みどり+白石孝=著
航思社 2012年4月 本体1,400円 四六判並製176頁 ISBN978-4-906738-01-4
帯文より:個人識別システムは社会保障も民主主義も切り崩す! 制度の内容と意味をわかりやすく解説しながら、過去40年の歴史をひもとき、政府・企業の真のねらいを白日のもとにさらして検証、徹底的に批判する。

本文より:個人情報はいまや、国だけでなく、あらゆるビジネスが求める利益の源になった。官庁や大企業は、ますます私たちの収入、住所、家族構成、学歴、職歴、病歴などを知りたがり、そうした情報を私たちの背後で政治や商売に利用する。もちろん、この過程で情報の目的外使用、大量流出、詐欺、なりすまし事件が発生する。いずれにしても、国と資本は個人情報という力を一方的に蓄える。そのことが私たちの生き方に、この国の民主主義に、どんな影響を与えるかを、この本は追っていく。(「はじめに」8頁より)

目次:
はじめに
序章 二〇二一年――共通番号が「空気」になった日【フィクション】
第I章 政府がふりまく三つのうそ――社会保障の充実、公平な税制、被災者の救済
 1 社会保障の充実にはならない
 2 公平な税制にはならない
 3 被災者の救済にはならない
 4 結論
第II章 四十年の挫折――変わり続ける目的、膨大な浪費、住基ネットの末路
 1 「ムダなIT予算の典型」となった社会保障カード
 2 「国民総背番号」の出発点
 3 ICカード実験は失敗続き
 4 国が自治体を乗っ取る
 5 住基ネットは「国のシステムではありません」
 6 反対世論と民主党
 7 「国民の利便性」にも「行政の効率化」にもならず
 8 自治体に過大なコスト
 9 必要とされなかった住基カード
10 電子申請も大赤字
11 共通番号導入に弱者を利用
12 それでも残るデータマッチングの違憲性
第III章 国民IDカード――全人口を識別する
 1 強制された任意
 2 時間と空間をつなぐ
 3 データベースとつながる
 4 身体をとらえる
 5 植民地支配というルーツ
 6 「内なる敵」を見張る外国人登録証
 7 「国民」を序列化した戸籍と住民登録
 8 国民IDカードを廃止した英国
 9 データで振り分けられる個人
10 透明な主権者
第IV章 番号をとりまく現実――頻発する情報流出と、操作される世論
 1 個人情報大量流出が日常化する韓国
 2 厳罰化はなりすまし対策にならない
 3 住基ネットには反対したメディア
 4 広告に取りこまれる言論
 5 産官学で民意を装う
 6 押しつけられる絆
付記 法案のポイント解説
あとがき

★4月18日取次搬入予定、20日ごろ店頭販売とのことです。『デジタル社会のプライバシー――共通番号制・ライフログ・電子マネー』に続く、新しい版元「航思社」さんの第二作です。プレスリリースによれば、序章を含む全五章の内容は以下の通り。

「序章はフィクションとして、共通番号制が導入された後の社会を描きます。しかし、ここで描かれる技術はすでに実用化され、2012年の日本社会のあちこちで導入されている「現実」です。第I章では、共通番号制が導入されると、政府のいう目的とは真逆に、(1)社会保障の抑制(大幅削減)、(2)不公平税制(貧困・格差・差別の拡大)、(3)被災者切り捨て、となることを明らかにします。第II章では、1970年代の「国民総背番号制」から住基ネットまでの番号制の歴史を振り返ります。ここでも導入の名目とは裏腹に、巨額のムダ金が費やされ、「行政の非効率化」「国民の利便性の縮減」を結果した現実を明らかにします。第III章では、共通番号カード=国民IDカードが、いかに差別拡大・人権抑圧を引き起こし、民主主義の根幹をおびやかしているかを論じます。第IV章では、番号制度が定着している韓国で起きている大量の個人情報流出問題を取り上げるとともに、住基ネットに反対した日本のマスコミがなぜ今回の共通番号制で賛同しているのかを批判的に検討します。」

★担当編集者のOさんは「個人情報に安全神話は通じない」と強調しておられます。合理化の美名のもとに個人情報が集中管理されたとして、もし「事故」が起こった場合、責任を負わされるのはほかならぬ国民一人ひとりでしょう。それがいかに危ういことか、本書が教えるものは大きいと思われます。第一作『デジタル社会のプライバシー』とともに、いまそこにある危機を学ばねばなりません。

★この第二作から、オビには航思社さんのシンボルマークが印刷されています。海上に建って四方に光を放っている燈台が同社のマーク。ウェブサイトに記載されている同社の出版方針は「思想の海にたしかな航跡を描く」というものです。私は当初、航跡を描くのは航思社さんなのだと思っていましたが、シンボルマークを拝見する限り、航跡を描く主体はあくまでも読者であることが分かりました。闇夜の荒波に光を送るのが出版社の社会的使命である、という意味なのでしょう。波に洗われつつ一人立つ燈台というのは、航思社さんの決意を表しているのでしょう。版元のシンボルマークに感動するのは久しぶりのことでした。


ソウルダスト――〈意識〉という魅惑の幻想
ニコラス・ハンフリー=著 柴田裕之=訳
紀伊國屋書店 2012年4月 本体2,500円 46判上製304頁 ISBN978-4-314-01095-5
版元紹介文(その1)より:〈意識〉は脳内のマジックショーにすぎない――それはいったいなぜ発生し、生物学的にはどのような役割を果たしているのか? 意識研究の最先端を切り拓く大胆な仮説を提唱する、理論心理学者ハンフリーの集大成! 

原書:Soul Dust: The Magic of Consciousness, Princeton University Press, 2011.

目次:
招待の口上
プレリュード
 第1章 目が覚めるとはどういうことか
第1部
 第2章 「何かのよう」であるということ
 第3章 私秘化した反応
 第4章 ループをたどる
第2部
 第5章 意識の重要性
 第6章 そこに存在すること
 第7章 魔法をかけられた世界
 第8章 そうか、それが私というものだったのか!
 第9章  自分自身であること
第3部
 第10章 魂の生態的地位に入る
 第11章 危険な領域
 第12章 死を欺く
 最終章 結び
訳者あとがき
原注
索引

版元紹介文(その2)より:本書『ソウルダスト』でハンフリーは驚くべき新理論を提示する。意識は私たちが頭の中で自ら上演するミステリアスなマジックショーにほかならないというのだ。この自作自演のショーが世界を輝かせ、自分は特別で超越的な存在だと私たちに思わせてくれる。こうして意識はスピリチュアリティへの道をつけ、そのおかげで私たち人間は、ハンフリーが「魂のニッチ〔生態的地位〕」と呼ぶ場所に暮らす恩恵を受けることができると同時に、死への不安も抱くことになる。隙のない主張を展開し、知的好奇心と読書の喜びをかき立てながら、深遠な難問に次々と答えを出していく。そして、誰もが頭を悩ます疑問、すなわち、いかに生きるべきか、いかに死の恐怖に立ち向かうかという課題に、意識の問題が直結していることを明らかにする。神経科学や進化理論を基盤に、哲学や文学の豊富な知見を織り交ぜて書かれた本書は、意識の正体についての独創的な理論を提唱すると同時に、人間の生と魂を讃える――。リチャード・ドーキンスやダニエル・デネット、マット・リドレーら著名な科学者たちからも支持を得る、〈知の軽業師〉ハンフリーの刺激的論考。

版元紹介文(その3)より:未だ解決を見ない難問として人類の前に立ちはだかる〈意識〉の謎。その解明をライフワークとする著者は、本書で神経科学や進化理論を基盤に独自の手法で探究を進め、「人間の〈意識〉は頭のなかの劇場で行われる、ミステリアスなマジックショーにすぎない。この自作自演のショーが、我々の住む世界を輝かせ、人間を特別な存在にした」。「たとえ科学的にその仕組みが解明されても、意識が直接経験するさまざまな感覚や魂の不滅という信念は揺るがない」と主張し、さらには生物の避けえぬ運命たる〈死〉についての考察を深めていきます。

推薦の言葉(その1):「理論心理学者のハンフリーは絶好調だ。シェリーやキーツなどのロマンティックな詩情と、シャーロック・ホームズばりの鋭利な知性を持ち合わせた彼は、その明敏な頭脳をもって、科学の一大難問「意識の進化的な起源」に切り込んでいく。そしてこの解決不可能とされる問題に、これまでで最も優れた答えを出したのだ」――V.S.ラマチャンドラン(『脳のなかの幽霊』著者)。

推薦の言葉(その2):「科学者が自然現象の解明を試みると、マジックのようなミステリアスな面を見落としていると非難されることもある。だが、この詩的な驚異の一冊で、ニコラス・ハンフリーは正反対のことをやってのけた。彼は脳を探究するうちに、マジックこそが意識の要であることを発見したのだ」――マット・リドレー(『やわらかな遺伝子』著者)。

★26日発売予定。ハンフリーの訳書はこれで4冊目になります。かつてダニエル・デネットはこう述べたと言います。「ニコラス・ハンフリーは、大胆さと慎重さを兼ね備えた、類稀な知の軽業師だ」と。実際のところ、意識を自作自演の虚構だとする本書には多くの読者がまずは唖然とするでしょう。しかしそれは決して人間存在の価値を貶めるものではなく、豊かな生への肯定につながるものなのだと教えられるとき、読者は感銘を覚えるに違いありません。著者は本書冒頭にこう書きます。「私が行き着く答えは、これまで科学が示してきたものとは似ても似つかない。これ自体は、けっしてほめられたものではないことは認めざるをえない。どう考えても、科学は革命的ではなく累積的なものであってしかるべきだから。とはいえ、人間が自分の経験にまつわる謎について抱く大きな疑問に関しては、意識についての従来の研究がほとんど何の答えも出せていない事実を考えれば、私たちにおなじみの科学には、もう頼ってはいられないのかもしれない」(「招待の口上」11頁より)。

★「訳者あとがき」では本書を端的にこう解説しています。「意識はその持ち主の一生を、いっそう生き甲斐のあるものにする〔…〕。人間は現象的意識を持つことを満喫する(第一のレベル)。自分が現象的意識を持って生きている世界を愛する(第二のレベル)。現象的意識を持っている自己を尊ぶ(第三のレベル)。〔著者は、第二のレベルにおいて人間が〕感覚を外界に投影していることを明らかにする。ちなみに、本書のタイトルもそこから来ている。この感覚の投影が〔…〕「ソウル・ダスト」、すなわち魂の無数のまばゆいかけら、現象的感覚のマジックが周りじゅうのものに振りまかれ、世界を輝かせている〔…〕。/そして、その輝きをもたらしているのが自分自身であることに気づいたとき、人間は「最初どれほどがっかりしようと、天啓のように悟るだろう。自然の退屈さではなく、あなた自身の心の素晴らしさを」(172頁)」(270-271頁)。

★本書は著者の前作『赤を見る』の「最後の数ページを出発点とする」(9頁)ものであることが明かされています。ハンフリーの訳書には本書を含め以下のものがあります。

◎ニコラス・ハンフリー(Nicholas Humphrey: 1943-)既訳書
『内なる目――意識の進化論』垂水雄二訳、紀伊國屋書店、1993年8月
『喪失と獲得――進化心理学から見た心と体』垂水雄二訳、紀伊國屋書店、2004年11月
『赤を見る――感覚の進化と意識の存在理由』柴田裕之訳、紀伊國屋書店、2006年11月
『ソウルダスト――〈意識〉という魅惑の幻想』柴田裕之訳、紀伊國屋書店、2012年4月

★「意識とは何か」を問う新刊は本書のほかにも今月発売されています。デイヴィッド・イーグルマン『意識は傍観者である――脳の知られざる営み』(大田直子=訳、早川書房、2012年4月)は、最新脳科学の研究成果をもとに、「あなたは自分の脳が企むイリュージョンに誰よりも無知な傍観者だ」(版元紹介文より)と暴いた英米ベストセラーです。先月、岩波文庫で西田幾多郎の『善の研究』が新組で発売されましたが、最新の理論心理学や脳科学の見地を踏まえながら西田を再読するとなかなか面白い経験になりそうです。西田の議論は圧倒的に古びて見えますが、かえって最先端の科学が西田を裏打ちするところもあるような気がしています。

# by urag | 2012-04-22 21:06 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)
2012年 04月 19日

先行販売『表象06』@東京堂書店「月曜社全点フェア」

4月24日発売の『表象06:ペルソナの詩学』が、東京堂書店神田神保町店で好評開催中の「月曜社全点フェア」で本日より先行販売しています。まもなく発売となる森山大道『カラー』も先行販売中ですので、どうぞご利用ください。2点の店頭写真はこちら。

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もう少し引いて見ると、版元品切の森山大道写真集『新宿+』と『大阪+』が!
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下段を見ると、ここにも版元品切本が。上野俊哉『アーバン・トライバル・スタディーズ』とジェイムズ・クリフォード『ルーツ』。
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目線を右に移すと、瀬戸正人写真集『picnic』。これも版元品切です。左隣は書店さんの店頭ではめったに出回らない『曽根裕|Perfect Moment』。手作業で一冊ずつ、裏表紙を「破る」加工をしています。
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明日以降にはさらなるレアアイテムやサイン本の入荷があるはずです。森山大道『カラー』サイン本、森山大道『新宿』(『新宿+』ではなく親本のほう)、片山廣子『燈火節――随筆小説集成』など。

なお、来週土曜日、4月28日に開催予定のトークイベント、森山大道×瀬戸正人「モノクロからカラーへ」はだんだん席が埋まってきていますので、お早めにご予約をどうぞ。

【写真追加:『新宿』!『燈火節』!どちらもこれが本屋さんでの最後の機会です】
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# by urag | 2012-04-19 14:34 | 販売情報 | Comments(0)
2012年 04月 18日

書評情報:『カヴァイエス研究』『いまだない世界を求めて』

書評紙「週刊読書人」2012年4月13日号に弊社昨年12月刊、近藤和敬『構造と生成(Ⅰ)カヴァイエス研究』の書評「日本初の研究書――「概念の哲学」を導入した思想家」が掲載されました。評者は原田雅樹さん(仙台白百合女子大学准教授)です。「20世紀は、ナチスによる大量虐殺など、人間による多くの悲劇が引き起こされ、それと共に、哲学界では合理主義に対する大きな懐疑がおき、そして批判がなされた。また、現在、日本でも原子力発電所の事故とそれによる放射能汚染が引き起こされ、科学、そして技術のあり方に対する様々な批判が起きている。そのような現在、カヴァイエスの思想を紐解くことは、もう一度、われわれが学知とは何かを反省する機会を与え、知に対する誠実が行為に対する誠実さにつながらなければならないことをおもいおこさせてくれるのではあるまいか」と評していただきました。原田先生、ありがとうございました。

いっぽう、ニュースサイト「本が好き!BOOKニュース」では、弊社1月刊、ガシェ『いまだない世界を求めて』の紹介記事が掲載されました。2012年2月16日付記事「芸術作品の根源とは何なのか」で、記者はかの「終りの会」の同人誌「クロニック・ラヴ」「モダン・ラヴ」を手掛けられている永田希(1979-)さんです。本書に収録された三本の論考について端的に要約して下さっています。特にハイデガー論「作品、現実性、形態」について、「写真などの複製技術や電信などの通信技術が普及し、芸術作品とそうでないものの違いがいよいよ不明瞭になってきている現代に、この論考を読むことの意義は大きい」と評していただきました。永田さん、ありがとうございました。

# by urag | 2012-04-18 21:20 | 広告・書評 | Comments(0)
2012年 04月 17日

発売日決定:『表象06』4月24日より

『表象06:ペルソナの詩学』の取次搬入日が決定しました。トーハン、大阪屋、栗田、太洋社が4月20日(金)、日販が23日(月)です。書店さんの店頭に並び始めるのは最短で4月21日(土)で、大方は23日ないし24日以降から順次ということになります。書影も以下に公開します。

【4月18日追記】いち早く入手されたい方は、現在「月曜社全点フェア」を開催中の東京堂書店神保町本店さんの店頭を19日(木)午後あたりにチェックなさってください。わずかな冊数ですが、先行販売があります。

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# by urag | 2012-04-17 21:01 | 近刊情報 | Comments(0)
2012年 04月 15日

注目新刊:『戦後部落解放運動史』『都市が壊れるとき』

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戦後部落解放運動史――永続革命の行方
友常勉(1964-)著
河出ブックス 2012年4月 本体1,300円 B6判並製232頁 ISBN978-4-309-62441-9
帯文より:「水平社宣言」90年――反差別の苦闘が問うもの。輝かしくきびしい戦いの希望と絶望、その可能性から近代をこえる思想をさぐる。
カバー(表1)紹介文より:かつて社会をゆるがした被差別部落民の闘いは何を問いかけたのか。戦後から現在にいたる様々な経験を思想的に検証するかつてない果敢な試み。
カバー(ソデ)紹介文より:「人の世に熱あれ、人間に光あれ。」――水平社宣言にはじまり差別糾弾闘争、そしてその限界を突破した七〇年代の狭山闘争をへて、反差別を全社会に波及させたあと、新たな模索の時代にはいった被差別部落民の闘いは何を問いかけているのか。その戦後から現代まで、運動、行政、文化などの各領域の経験を思想的に検証しながら、〈デモス〉=排除された民の宣言の可能性に迫る、俊英による、いまだ誰もなしえなかった果敢な試み。

目次:
はじめに
第一章 戦後部落解放運動の検証のために
第二章 狭山闘争の思想史
第三章 芦原病院小史――同和行政の総括のための試論
第四章 〈黒い翁〉の発見
第五章 地域社会の未来
終章 『ふつうの家』と『地の群れ』
引用・参考文献一覧
あとがき

★発売済。友常さんの単独著の三冊目になります。巻頭に「戦前の日本の社会主義革命(および民族民主革命)の枠組みに規定されてきた戦後部落解放運動史を、もう一度資本主義社会における前近代的な身分制度の存在というアポリアと、そのアポリアに直面した主体の形成を中心に読み直すこと。これが本書の目的である」(7頁)と書かれています。さらに各章については「第一章で「オール・ロマンス事件」から同和行政の開始時期まで、第二章で狭山闘争、第三章で大阪の芦原病院問題を中心にした同和行政論、第四章で中上健次、村崎修二らの被差別の文化論、芸能論と、その復活の試み、そして第五章で一九七四年に集中した浪速闘争、八鹿闘争が提起している論点、また東日本の部落問題と残されている課題について論じている」(15頁)。

★東日本大震災と原発事故の経験を経て、著者は「政治権力の奪取を自己目的化せず、不断に国家と交渉し、国家を相対化し、それと対峙する社会運動の在り方について考えざるをえなくなった」(223頁)と「あとがき」で述懐しています。本書の議論は濃密であり、急がずゆっくり読むべきものです。同和問題について予備知識がない場合は、著者が「はじめに」の注で薦めている黒川みどり『近代部落史――明治から現代まで』(平凡社新書、2011年)を併読するといいかもしれません。「差別という収奪は不断に静かに起きている」(211頁)と著者は書きます。職業や出自によって社会の片隅に追いやられていた人々の慟哭と労苦は、当事者でないかぎり想像すら難しいのかもしれませんが、人々が紆余曲折を経て社会に取り込まれてもなお(取り込まれるからこそより)執拗に残る差別は、人が人とどう向き合い、どう共に生きるかという問題を根源的に問い返してやみません。

★東京外国語大学出版会(および大学付属図書館)の機関誌「pieria」の2012年春号「新しい世界との邂逅――外大生にすすめる本/世界の詩とめぐりあう」において、同大学の国際日本研究センター専任講師をつとめる友常さんは「運命にあらがう人々の〈身体の内乱〉」をテーマに次の三冊を学生の皆さんに薦めています。高橋和巳『邪宗門』(上下、朝日文芸文庫、1993年)、金薫『孤将』(蓮池薫訳、新潮文庫、2008年)、和合亮一『詩の礫』(徳間書店、2011年)。詳しい選書コメントは本誌をぜひご覧ください。

◎友常勉 (ともつね・つとむ:1964-)単独著既刊
『始原と反復――本居宣長における言葉という問題』三元社、2007年7月
『脱構成的叛乱――吉本隆明、中上健次、ジャ・ジャンクー』以文社、2010年10月
『戦後部落解放運動史――永続革命の行方』河出ブックス、2012年4月


都市が壊れるとき――郊外の危機に対応できるのはどのような政治か
ジャック・ドンズロ著 宇城輝人訳
人文書院 2012年4月 本体2,600円 4-6判上製236頁 ISBN978-4-409-23048-0
帯文より:街を揺るがした、「くず」どもの怒りの理由は何か――2005年におけるパリの暴動後に書かれた、フランス社会学の泰斗による迫真の分析。
帯文(裏表紙)より:貧困、人種、民族によってフランスの都市は、もはや共和主義の理念とは程遠いまでに分断されている。郊外に貧困と暴力とともに取り残される若者、田園地帯の新興住宅地に逃げ込む中産階級、官と民により再開発される都心…。この分断を乗り越え、もう一度都市を作り直すことはいかにして可能か。本書は、フランス都市政策の挫折の歴史をふまえ、その困難な道を指し示す、フランス社会学の泰斗による迫真の分析である。それは、経済格差の拡大と貧困、都市および地域コミュニティの荒廃、そして移民労働者の受け入れに揺れる日本社会にとっても、有益なものとなるだろう。

原書:Quand la ville se défait: Quelle politique face à la crise des banlieues ?, Seuil, 2006.

目次:
まえがき――あぶれからくずへ
序章
第一章 都市問題――都市を分離する論理の出現
第二章 都市に対処する政策――社会的混合の名における遠隔作用による住居対策
第三章 都市を擁護する政策――移動性を促し、居住者の実現能力を高め、都市を結集するために
結論――都市の精神
訳者解説 有機的連帯から都市の精神へ
翻訳対応表/年表(フランスにおける郊外暴動と都市政策略史)/人名索引

★19日(木)取次搬入です。ドンズロの訳書が出るのは実に20年ぶり。本書の「まえがき」を人文書院のウェブサイトで読むことができます(書名のリンク先をご覧ください)。その書き出しはとても印象的です。「くず〔ラカイユ〕。郊外の若者たちを目がけて血気にはやる内務大臣〔当時、内務大臣だった現大統領ニコラ・サルコジのこと。郊外暴動での強硬姿勢が翌々年の大統領選での勝利に結びついたといわれる〕が放ったこの否定的な言葉は、若者たちが棄て置かれていると感じていたあらゆる団地で、三週間にわたる夜間暴動の嵐をひきおこすのに充分であるだろう。たしかに、若者たち自身この語を使っていた。だがそれは自嘲心のなせるわざだったのだから、かれらを指すのに本気で使ってはならない言葉だった。たとえそんな言葉であったにしても、たった一言で暴動を増長させてしまったのは、まさに現況確認のしかたが暴動を準備していたからである。だがそれはいつからなのか。どのくらい前から自嘲と公的軽蔑が希望と理解に勝るようになったのだろうか」(5頁)。

★「絶望の台頭」(12頁)とドンズロが端的に評した状況に若者たちが浸されているのはフランスに限った話ではなく、先進諸国や日本においても見られることです。ドンズロはまた、「中流階級の不満が同じく「許容限度」の閾を越えた外郊外では、かれら中流階級は、泥舟と化した社会的上昇モデルにますますしがみついて暮らしており、下からのグローバリゼーションの脅威と、上からのグローバリゼーションの受益者から浴びせられる軽蔑とのあいだに捕らわれて右往左往している。この不満は、棄て置かれた街区の暴動ほど目立たないように見えるが、基本的にいって、人口のこの部分〔中産階級〕が極左か極右に投票する傾向を強めていることから判断すれば、おそらく重要でないとはいえない」(58頁)とも書きますが、日本の状況も大して変わりません。社会問題のあらわれとしての都市の荒廃を分析し、都市再生を模索する本書は、民主主義の内実とまちづくりのありようをめぐる問いとして読者に熟慮を促すでしょう。

◎ジャック・ドンズロ(Jacques Donzelot: 1943-)既訳書
『家族に介入する社会――近代家族と国家の管理装置』ジル・ドゥルーズあとがき、宇波彰訳、新曜社、1991年11月
『都市が壊れるとき――郊外の危機に対応できるのはどのような政治か』宇城輝人訳、人文書院、2012年4月

# by urag | 2012-04-15 18:48 | 本のコンシェルジュ | Comments(0)