2017年 03月 05日

メモ(14)

「山陽新聞」2017年3月5日付記事「高梁市教委への寄贈本10年放置 1.6万冊、遺族要請を受け返還」に曰く「高梁市教委に2006年に贈られた「万葉集」や備中松山藩の儒学者山田方谷に関する郷土資料などの書籍約1万6千冊が10年間にわたり放置され、寄贈者の要請を受けて市教委が昨年3月に返還していたことが、山陽新聞社による市への情報公開請求で分かった。寄贈したのは高野山大(和歌山県)名誉教授だった故藤森賢一さん=同市出身=の遺族で「利用されず残念」としている」。

「藤森さんの書籍は当時、〔・・・〕高梁中央図書館の蔵書として登録したが、スペース不足で西に約8キロ離れた旧成羽高体育館に保管。貸出時に取りに行く人員が割けないことなどから蔵書検索の対象から除外していたという。/新図書館開館(2月)に伴う蔵書整理で、夏目漱石や内田百けんの全集、所蔵していない備中松山藩、山田方谷の関連資料などを除き大半の廃棄を決定。〔・・・〕高梁市教委社会教育課は「職員数や書庫の制約で活用できず、遺族、利用者に申し訳ない。今後は寄贈本の取り扱い基準を明確化するなどして、きちんと対応したい」としている」。

新図書館(高梁市図書館)については以下を参照。

「T-SITE Lifestyle」2016年11月9日付記事「「高梁市図書館」が2017年2月オープン。コーヒーを飲みながら読書できる空間に」曰く「岡山県高梁市が、JR備中高梁駅隣接の複合施設内に建設中の「高梁市図書館」を、2017年2月4日(土)に開館する。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下「CCC」)が指定管理者として運営する。/同図書館には、「地域コミュニティ・憩いの空間・地域物産が知れる・高梁の良さを知れる」という市民価値を実現するため、図書館内への観光案内所を移設、CCCがスターバックス コーヒー ジャパン 株式会社とのライセンス契約に基づき展開するBook & Caféスタイルの店舗を出店する。/市民も観光客もコーヒーを飲みながら図書館の本にふれ合える“Library & Café” のスタイルのもと、くつろぎの時間を利用者に提案する」。

「産経新聞」2017年2月4日付記事「「TSUTAYA図書館」全国4館目 岡山・高梁市に開館 カフェや書店併設、地元は期待」に曰く「カフェや書店も併設。社交場的な雰囲気で、初日から大勢の来館者でにぎわった。/新図書館は4階建ての複合施設(延べ床面積約3900平方メートル)内の2~4階(同2250平方メートル)に開設し、旧図書館より2万冊増の12万冊をそろえた。テラス部分を含めて356席あり、カフェで購入した飲み物とともに読書が楽しめる。/館内は吹き抜け空間で開放感にあふれ、子供専用の紙芝居コーナーや遊具、郷土史コーナーも設置。年間の来館者数は20万人を見込んでいる」。

「山陽新聞」2017年2月4日付記事「高梁市新図書館、待望のオープン 民間指定管理、カフェや書店併設」に曰く「指定管理者は、レンタル大手TSUTAYAの運営会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC、本店大阪)。2階のカフェ・スターバックス、蔦屋書店、観光案内所も運営する。市は2022年3月末まで、年間約1億6千万円の指定管理料を支払う。/CCCは13年4月以降、佐賀県武雄市、神奈川県海老名市、宮城県多賀城市の計3公共図書館を運営。当初、資料価値の低い中古本購入や、ジャンルの違う本を一緒に並べるといったことが問題となった。高梁市は市教委の選書点検や、月1回程度のCCCとの意見交換の場を通し運営をチェックする方針」。

「山陽新聞」2017年2月16日付記事「高梁市図書館 もう旧館1年分来館 3万人超え、年間目標上回る勢い」に曰く「岡山県内の公共図書館として初めて民間企業が運営を担う高梁市図書館(同市旭町)の来館者数が、開館8日目で2万3399人となり、旧高梁中央図書館の年間来館者数(2015年度2万3182人)を超えた。開館11日目となる14日には3万人も突破し、目標の年間20万人を大きく上回る勢いを見せている。/藤井勇館長(66)は「従来午後5時だった閉館時間が午後9時まで延び、気軽に利用できる児童書フロアや学習室も人気。駅に直結しているため、市外からの来館も多いようだ」と話している」。

寄贈本の処分決定について高梁市教育委員会からのコメントは新聞に出ているものの、CCCのコメントはまだ出ていないようです。寄贈本の処分決定に至る過程で、図書館や市教委がどのような協議が行ったのか、だれがどのように、どういった理由で決定したのかを、山陽新聞さんにはさらに詳しく報じていただきたいところです。この一件の教訓として今後「蔵書家が図書館に寄贈するのはまったくの無駄骨だ」とならないことを祈るばかりです(すでにそれがずいぶん昔から「現実」だったとしても)。

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世の移り変わりに合わせて図書館の機能を拡張しようという議論には一種、根深い難問が含まれているように感じます。

図書館を地域の文化拠点とすることに大義はあっても、その場合「文化」をどう定義するか、図書館の「役割」をどう定義し直すかが問題となります。その議論が単なる「箱物行政」に収斂するものではないことは明らかですし、「文化の諸地層」を保存することと「何となく文化的な空気感」を醸成することは混同すべきではありません。上っ面の装いに終始することは堕落であり、反知性主義の特徴のひとつです。その装いを裏打ちするのは「心地よさ」を求める情念であって、知でも真実でもありません。情念を揺さぶるならばフェイクでも構わないわけです。それが「ポスト・トゥルース」の時代の内実です。文明崩落の光景。そうした危機感を本に携わるあらゆる職種の人々が持てないならば、出版界にもはや未来はないでしょう。

情念は素早いですが、知は遅いのです。この「知の遅効性」にこそ、図書館の存在意義を支えるひとつの鍵があるはずです。近年の図書館は即効性を求められているのでしょうか。確かに出版社にも書店にも「短期回収」が必要ですが、それはビジネスだからです。図書館や教育にビジネスを持ち込むと、必然的に長期的な視野や普遍的な価値観なるものは等閑視されます。すべてが相対化されてしまう。それは悲劇です。絶対性へと至りつくことが不可能だとしても、目指さなければならない。不可能性から目をそらした時に私たちは「落ちぶれた現実主義者」になるのでしょう。それは成熟ではなく、果てしない転落への道です。

果たして「知の遅効性」を出版界はいかにして収益事業化しうるでしょうか。世界のすべてが猛スピードで過去へと追いやられてしまうこんにち、文化的遺産はいかにして保管され、維持されうるでしょうか。激流の中で領土を削られていく中州は水没するしかないのでしょうか。それとも彼岸と地続きになりうるのでしょうか。

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# by urag | 2017-03-05 12:56 | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 27日

注目新刊:山田俊弘『ジオコスモスの変容』(記念イベントあり)

弊社出版物でお世話になっている著者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

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★ヒロ・ヒライさん(編著書:『ミクロコスモス 第1集』)
★山田俊弘さん(論考:「ニコラウス・ステノ、その生涯の素描――新哲学、バロック宮廷、宗教的危機」、『ミクロコスモス 第1集』所収)
ヒロ・ヒライさんが編纂しておられるシリーズ「bibliotheca hermetica叢書」の最新刊『ジオコスモスの変容』が発売となりました。同書は山田俊弘(やまだ・としひろ:1955-)さんが2004年に東京大学大学院に提出した博士論文「17世紀西欧地球論の発生と展開――ニコラウス・ステノの業績を中心として」を大幅に改稿したものとのことです。詳しい書誌情報や目次については書名のリンク先をご覧ください。山田さんの訳書である、ニコラウス・ステノ『プロドロムス――固体論』(東海大学出版会〔現:東海大学出版部〕、2004年)とともにひもときたい一書です。また、『ジオコスモスの変容』の刊行を記念し、トークイベントが開催される予定とのことです。こちらのリンク先からご予約いただけます。

ジオコスモスの変容――デカルトからライプニッツまでの地球論
山田俊弘著 ヒロ・ヒライ編集
勁草書房 2017年2月 本体4,800円 A5判上製304頁 ISBN978-4-326-14829-5

帯文より:デカルト、キルヒャー、スピノザ、ライプニッツ。17世紀ヨーロッパの科学革命を生きた知識人たち、彼らによって世界をその歴史の理解が大変革をとげる。デンマーク人ステノを案内人に、この壮大な旅路を「ジオ・コスモス」観の変容として読みとき、地球惑星科学の起源に肉迫する。

◎トークイベント「デカルトからライプニッツまでの地球像――17世紀ヨーロッパの科学革命におけるジオコスモス」ヒロ・ヒライ(BH叢書・監修)×山田俊弘(東京大学研究員)

日時:2017年3月8日(水)19時~21時(開場18時30分)
場所:本屋 EDIT TOKYO  東京都中央区銀座5-3-1 ソニービル6F
料金:2,000円(ドリンク付)

内容:哲学と歴史を架橋し、テクスト成立の背景にあった「知のコスモス」に迫るインテレクチュアル・ヒストリー。その魅力を紹介する「bibliotheca hermetica(ヘルメスの図書館)」叢書の第4回配本は、『ジオコスモスの変容:デカルトからライプニッツまでの地球論』です。近代科学の創始者であるガリレオやニュートンといった学者たちが活躍した17世紀は、科学革命の時代と呼ばれています。天動説と地動説をめぐって論争が繰り広げられた時代です。地動説によって地球が世界の中心ではなく、惑星のひとつになってしまうことは、世界観そのものの大きな変容でした。この大変革期に、デカルト、キルヒャー、スピノザ、ライプニッツといった知識人たちは、化石、鉱物、火山活動、気象といったものから、地球がどのようなものだと考えていたのでしょうか。デンマーク人ステノを案内人に、「ジオ・コスモス」(大地の世界)観の変容というこの壮大な旅路へご案内します。

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# by urag | 2017-02-27 12:43 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 26日

注目文庫新刊(2017年1月~2月)、ほか

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★ここ2ヶ月(2017年1月~2月)の文庫新刊から、今まで取り上げていなかった書目で注目しているものをまとめておきます。

『アレフ』J・L・ボルヘス著、鼓直訳、岩波文庫、2017年2月
『統辞理論の諸相――方法論序説』チョムスキー著、福井直樹/辻子美保子訳、岩波文庫、2017年2月
『漫画 坊ちゃん』近藤浩一路著、岩波文庫、2017年1月
『ティラン・ロ・ブラン4』マルトゥレイ/ダ・ガルバ著、田澤耕訳、岩波文庫、2017年1月
『シェイクスピア・カーニヴァル』ヤン・コット著、高山宏訳、ちくま学芸文庫、2017年2月
『社会学的想像力』C・ライト・ミルズ著、伊奈正人/中村好孝訳、ちくま学芸文庫、2017年2月
『ヘーゲル・セレクション』廣松渉/加藤尚武編訳、平凡社ライブラリー、2017年2月
『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス著、木村榮一訳、河出文庫、2017年2月
『考えるということ』大澤真幸著、河出文庫、2017年1月
『時間の非実在性』ジョン・エリス・マクタガート著、永井均訳・注解と論評、講談社学術文庫、2017年2月
『朝日の中の黒い鳥』ポール・クローデル著、内藤高訳、講談社学術文庫、2016年11月
『無意識の幻想』D・H・ロレンス著、照屋佳男著、中公文庫、2017年2月
『吉本隆明 江藤淳 全対話』中公文庫、2017年2月
『英語襲来と日本人――今なお続く苦悶と狂乱』斎藤兆史著、中公文庫、2017年1月
『忍者の兵法――三大秘伝書を読む』中島篤巳著、角川ソフィア文庫、2017年2月
『古代研究Ⅲ 民俗学篇3』折口信夫著、角川ソフィア文庫、2017年2月
『古代研究Ⅱ 民俗学篇2』折口信夫著、角川ソフィア文庫、2017年1月
『貞観政要』湯浅邦弘著、角川ソフィア文庫、2017年1月
『仏教の大意』鈴木大拙著、角川ソフィア文庫、2017年1月

★まずは創刊90年を迎えるという岩波文庫。ボルヘス『アレフ』(鼓直訳)は内田兆史さんが解説を執筆。既訳には、土岐恒二訳『不死の人』(白水社、1968年;白水uブックス、1996年)、篠田一士訳「エル・アレフ」(『世界の文学(9)』所収、集英社、1978年)、木村榮一訳『エル・アレフ』(平凡社ライブラリー、2005年)があります。『統辞理論の諸相』は『統辞構造論――付『言語理論の論理構造』序論』(福井直樹/辻子美保子訳、2014年1月)に続く、岩波文庫のチョムスキー本第二弾。福井/辻子共訳では岩波現代文庫でも『生成文法の企て』(2011年8月)に刊行されており、文庫で読めるチョムスキー言語学はこれで三冊目になります。近藤浩一路『漫画 坊ちゃん』はいわゆるコミックではなく、簡略な筋書にイラストが付されたもの。底本は1925年6月刊の新潮社版改版第三版。文庫化にあたり清水勲さんが解説を書かれています。『ティラン・ロ・ブラン4』はこれで全4巻完結。巻末に「文庫版へのあとがき」が付されています。なお、同文庫では2月21日発売で「2017年〈春〉のリクエスト復刊」38点43冊が発売。今回はシラー『ヴィルヘルム・テル』(桜井政隆/桜井国隆訳、1929年第1刷;1957年第14刷改版、2017年第27刷)を購入。ヴィルヘルム・テルの息子ヴァルターが言います、「父ちゃん、早く射ておくれ。僕こわいことなんかないよ」、その言葉に父は決心し矢をつがえます、「ぜひもない」(129頁)。この喩えようもない緊迫感。来月の同文庫新刊にはヴェイユの『重力と恩寵』が冨原眞弓訳で16日発売と予告されています。同日発売の岩波現代文庫では折口信夫『口訳万葉集(上)』(全三巻予定)が出るそうです。

★次にちくま学芸文庫。ヤン・コット『シェイクスピア・カーニヴァル』の親本は1989年より平凡社より刊行。文庫化にあたり「文庫版訳者あとがき」が追加されています。原書は『The Bottom Translation: Marlowe and Shakespeare and the Carnival Tradition』(Northwestern University Press, 1987)で、これは英訳版オリジナル論集という体裁なのかと思います。C・ライト・ミルズ『社会学的想像力』は新訳。既訳には鈴木広訳『社会学的想像力』(紀伊國屋書店、1965年;新装版、1995年)があり、目下「書物復権2017」で15票を得票しています(2月26日現在)。今回の新訳の底本は1959年のOUP初版本。凡例および訳者あとがきによれば同書は2000年に出版40周年記念版を謳う改訂版が出ているものの本文に変更はないとのことで、改訂版に付されたトッド・ギトリンの解説は訳出していないとのことです。なお3月のちくま学芸文庫では、山室静『北欧の神話』、アロー『組織の限界』村上泰亮訳など、4月にはカンディンスキー『点と線から面へ』宮島久雄訳などが予告されています。

★続いて平凡社ライブラリー。廣松渉/加藤尚武編訳『ヘーゲル・セレクション』廣松渉/加藤尚武編訳の親本は平凡社より1976年に刊行された『世界の思想家12 ヘーゲル』。
帯文の佐藤優さんによる推薦コメントに曰く「学生時代、この本によってヘーゲルと出会った。ヘーゲル哲学最良の入門書」。ライブラリー化にあたり、加藤さんが「平凡社ライブラリー版あとがき」をお書きになっています。再版にあたり「新全集版のページ数と照合できるようにする作業は滝口清栄氏が行ってくれた。〔・・・〕また文献案内の改訂も、滝口氏が行ってくれた」とあります。なお、ヘーゲル関連のアンソロジー近刊には、村岡晋一/吉田達訳『ヘーゲル初期論文集成 全新訳』が作品社より4月下旬刊行予定と予告されています。

★続いて河出文庫。リャマサーレス『黄色い雨』は奥付前の特記によれば、2005年にソニー・マガジンズ(現ヴィレッジブックス)から刊行された単行本『黄色い雨』に、訳し下ろし二篇「遮断機のない踏切」と「不滅の小説」を加えて文庫化したもの。大澤真幸『考えるということ』は2013年刊『思考術』の改題文庫化。書名は親本の方がより端的で良いような気もしますが気のせいでしょうか。文庫化にあたり「文庫版あとがき」のほか、木村草太さんによる解説「凡庸な警察と名探偵」が付されています。なお河出文庫では3月6日発売予定で、ボッカッチョ『デカメロン 上』(平川祐弘訳)が予告されています。これは見逃せません。

★続いて講談社学術文庫。『時間の非実在性』は巻頭の「はじめに」によれば、1908年に『Mind』誌第17号(456~474頁)に載ったイギリスの哲学者ジョン・マクタガート(John McTaggart, 1866年-1925)の論文「The Unreality of Time」の翻訳に永井均さんによる「要約」「注解と論評」「付論」を付したものとのことです。「ほとんどの読者にとって、本書はやっと出現したあの有名なマクタガート論文の本邦初訳ということになるだろう。しかし私自身にとっては、それはいわば本文理解のために付けられた付録のようなものであって、本文はあくまでも「注解の論評」のうちのいくつかと「付論」である」(7頁)と永井さんはお書きになっておられます。クローデル『朝日の中の黒い鳥』は昨年11月に同文庫の創刊40周年記念「リクエスト限定復刊」として再版された20点のうちの一冊です。カバーは特別仕様。遅まきながら先月になってようやく購入しました。同書はクローデルによる高名な日本論。今回4刷で、久しぶりの再版のような気がします。20点のラインナップについては書名のリンク先をご覧ください。なお同文庫では3月にプラトン『アルキビアデス クレイトポン』三嶋輝夫訳や、青木正次訳注『新版 雨月物語 全訳注』、4月にはキェルケゴール『死に至る病』鈴木祐丞訳や、杉本圭三郎訳注『新版 平家物語(一) 全訳注』などの発売が予定されています。また、講談社文芸文庫では3月にワイド版『小林秀雄対話集』、4月には吉本隆明『写生の物語』、大澤聡編『三木清大学論集』などが予定されています。

★続いて中公文庫です。ロレンス『無意識の幻想』は新訳。原書は1922年に刊行された『Fantasia of the Unconscious』で、2004年にケンブリッジ大学出版より刊行された版を底本に使用。主要目次を列記すると、まえがき、第1章「序文」、第2章「聖家族」、第3章「神経節、横隔膜の上下のレベル等」、第4章「樹木・幼児・パパ・ママ」、第5章「五感」、第6章「知性の最初の微光」、第7章「教育の最初の諸段階」、第8章「教育・男女の性・子供の性」、第9章「性の誕生」、第10章「親の愛」、第11章「悪循環」、第12章「連禱風に――強く勧めたいこと」、第13章「宇宙論」、第14章「眠りと夢」、第15章「下半身」、エピローグ。なお、同書には既訳として小川和夫訳(青木書店、1940年;南雲堂、1957年;改訂版、1966年;『D・H・ロレンス紀行・評論選集5』所収、南雲堂、1987年)があります。『吉本隆明 江藤淳 全対話』は、2011年11月に中央公論新社より刊行された『文学と非文学の倫理』が親本。文庫化にあたり、吉本隆明さんへのインタヴュー「江藤さんについて」(聞き手=大日方公男、中央公論特別編集『江藤淳1960』所収、2011年)を増補し、さらに内田樹さんと高橋源一郎さんによる解説対談「吉本隆明と江藤淳――最後の「批評家」」が加えられています。斎藤兆史『英語襲来と日本人』の親本は講談社より2001年に刊行。文庫化にあたって副題を「えげれす語事始」から「今なお続く苦悶と狂乱」に変更し、新版あとがきが加えられました。新版あとがきでは「イギリスがEUを離脱すれば、EU加盟国の中から英語を国語とする国が消え〔・・・〕公用語でなくなる可能性がある」と指摘し「世界における英語の位置」が変化しつつあることに注意を喚起されています。

★最後に角川ソフィア文庫。中島篤巳『忍者の兵法』は『忍術秘伝の書』(角川選書、1994年)の改題改稿版。三つの秘伝書『正忍記』『万川集海』『忍秘伝』を読み解き解説したもので、忍術を総合生活術だとする観点が面白いです。付録として初公開資料 『武田流忍之書(全)』が収められています。折口信夫『古代研究Ⅱ 民俗学篇2』『古代研究Ⅲ 民俗学篇3』は全六巻中の第二巻と第三巻。湯浅邦弘『貞観政要』は「ビギナーズ・クラシックス 中国の古典」シリーズの一冊。「源頼朝や徳川家康、明治天皇も治世の参考にしたと言われる帝王学の最高傑作」(カバー紹介文より)の抄訳で、各条は現代語訳・書き下し文・原文(返り点付き)・解説で構成されています。社会人必読かと。鈴木大拙『仏教の大意』は昭和天皇への「御進講」原稿を増補して公刊したもの。第一講「大智」、第二講「大悲」から成ります。巻末には若松英輔さんによる解説「霊性の体現者・鈴木大拙」(145~158頁)が付されています。なお同書は同じく先月に中公クラシックスでも刊行されています。こちらでは山折哲雄さんの解説「近代思想とは一線を画した人」(5~22頁)を読むことができます。没後50年とあって鈴木大拙の本が各社より文庫本や単行本で再刊されており、単行本では今月は筑摩書房よりワイド版『禅』工藤澄子訳が刊行され、来月は河出書房新社より『禅のつれづれ』が発売予定です。

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★このほか、最近では亜紀書房さんの新刊2点との出会いがありました。サイとロクサーヌ、二人の素敵な女性との出会いでした。

愛しのオクトパス――海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界』サイ・モンゴメリー著、小林由香利訳、亜紀書房、2017年2月、本体2,200円、四六判上製352頁、ISBN978-4-7505-1503-8
バッド・フェミニスト』ロクサーヌ・ゲイ著、野中モモ訳、亜紀書房、2017年1月、本体1,900円、四六判並製394頁、ISBN978-4-7505-1494-9

★モンゴメリー『愛しのオクトパス』は『The Soul of an Octopus: A Surprising Exploration into the Wonder of Consciousness』(Atria Books, 2015)の翻訳です。著者のサイ・モンゴメリー(Sy Montgomery, 1958-)はアメリカ在住のナチュラリストで作家。既訳書に『彼女たちの類人猿――グドール、フォッシー、ガルディカス』(羽田節子訳、平凡社、1993年)、『幸福の豚――クリストファー・ホグウッドの贈り物』(古草秀子訳、バジリコ、2007年)、『テンプル・グランディン――自閉症と生きる』(杉本詠美訳、汐文社、2015年)があります。今回の新刊では、モンゴメリーはとある水族館で雌のミズダコ「アテナ」に出会い、たちまち虜になります。冷たい水槽に腕を突っ込んだ著者にタコの触手が絡みつきます。「アテナの吸いつきかたは、しっかりとではあるけれど、優しかった。エイリアンにキスされている感じがした」(12頁)。そしてアテナの死後には今度は年若いオクタヴィアと知り合います。さらにその後、カーリーやカルマと。もちろん皆、タコの話。彼女たちと著者との交流が愛情に満ちているためか、何とも不思議な世界に読者は引きずり込まれ、魅了されることになります。読む前は食べ物としてしかタコを見ていなかった自分が読後には恥ずかしく思えるくらいの、とても素敵な本です。

★ゲイ『バッド・フェミニスト』は『Bad Feminist』(Harper Perennial, 2014)の翻訳。著者のロクサーヌ・ゲイ(Roxane Gay, 1974-)はアメリカの作家。イースタン・イリノイ大学で教鞭も取っています。今回が彼女の初めての日本語訳書となる本書は、彼女のエッセイ集第一作であり、全米ベストセラーの一書です。「これは私たちの文化と、そてを私たちがどう消費するのかについての考察です。本書に収録されたエッセイでは、現代の映画における人種問題、「多様性」の限界、革新がいかに不十分かについても論じています」(14頁)と彼女は巻頭の「はじめに――フェミニズム(名詞):複数」で書いています。「私たち全員が同じフェミニズムを信じる必要はないのです。フェミニズムは多元的なものとして存在することができます。私たちが各々の内にあるさまざまなフェミニズムにお互いに敬意を払う限り。〔・・・〕たくさんの若い女性が、自分を重ね合わせることができる有名なフェミニストを見つけられないと言うのを私は耳にしてきました。これは残念なことかもしれませんが、しかし、この世界を歩む姿を見たいと思うようなフェミニストに、私たち自身がなりましょう(なろうとしましょう)」(同)。どうかぜひ店頭で、この短い「はじめに」だけでも良いので立ち読みしてください。上に引いた箇所以外にも胸に響く率直な言葉があり、きっと惹かれると思います。また、彼女のTEDトーク「バッド・フェミニストの告白」もご参照ください。あらかじめ言っておくと、この短いプレゼンテーションでは伝わり切らないかもしれない奥行き――彼女が壇上で「バッド・フェミニズム、つまりより懐の広いフェミニズム」と端的に述べたものの内実――が本書にはあります。

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# by urag | 2017-02-26 23:42 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 22日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる本屋さん

2017年4月17日(月)開店
三省堂書店名古屋本店:1,000坪
愛知県名古屋市中村区名駅1-1-3 タカシマヤゲートタワーモール 8F
トーハン帳合。弊社へのご発注は、芸術書の主要書と人文書の主要書。出品依頼書の「書店概況」欄や、トーハンの挨拶状によれば、2017年4月7日に開業する、JR名古屋駅の新駅ビル「JRゲートタワー」の2階~8階を占める「タカシマヤゲートタワーモール」の8階にオープン。「店名を「名古屋本店」とし、現〔三省堂書店〕名古屋高島屋店様を上回るワンフロア1,000坪の東海地区最大級の出店となります」とのこと。また、三省堂の挨拶状に曰く「2027年にはリニア中央新幹線の開業も控え、より幅広い顧客の多様な知的欲求に応え、かつ出会いと発見のある「次世代型アメージング・ブックストア」を目指します」と。書籍や雑誌のほか、文具と雑貨、さらにカフェも併設するそうです。

それにしても「次世代型アメージング・ブックストア」というのはすごいキャッチフレーズですね。隣接するジェイアール名古屋タカシマヤの11Fにある既存店、三省堂書店名古屋高島屋店もトーハン帳合で、同じチェーンで競合している気がしないでもないですが、他チェーンに踏み込まれるよりかはいい、ということなのでしょうか。駅前にはジュンク堂書店名古屋店(大阪屋栗田帳合)がありますし、電車で5分の栄地区にはジュンク堂書店名古屋栄店(日販帳合)、ジュンク堂書店ロフト名古屋店(大阪屋栗田帳合)、丸善名古屋本店(大阪屋栗田帳合)、等々、大型店がひしめいています。

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このほか、短冊のみのご発注で詳細を自力で調べるしかなかったのは、

・未来屋書店りんくう泉南店
エディオン蔦屋家電

の2店舗です。前者は2016年11月6日(日)に閉店したと聞く、旭屋書店イオンモールりんくう泉南店の後継店のようです。南海本線「樽井」駅徒歩10分のイオンモールりんくう泉南(大阪府泉南市りんくう南浜3-12)の2Fで、12月5日(月)~2017年3月12日まで、Right-on隣のイオンホールにて仮店舗営業中臨時版フロアガイドを確認する限り、イオンシネマの隣でユニクロとともに3月16日(木)に正式オープンするようです。弊社への発注はトーハン経由で、音楽書主要書と昨年の新刊数点でした。なお同モールにはヴィレッジヴァンガードも入店しており、イオンシネマとユニクロを挟んでほぼ隣り合わせで営業しています。

後者は二子玉川店に続く、蔦屋家電の2店舗目になるかと思います。弊社へのご発注は日販経由で、写真集主要アイテムと人文書少々。公式サイトやその他の情報源によれば4月14日(金)に広島駅南口の複合施設「EKICITY HIROSHIMA」内にグランドオープン。店舗コンセプトは、「居心地の良い時間(とき)を楽しむ 新しい発見に出会える家電店」で、お店のテーマは「くらしを遊ぼう」だそうです。曰く「旅行したり、家でゲームしたり、遊園地に出かけたりするだけが、遊びでしょうか。大人にとって「遊び」ってなんでしょう? それはきっと、新しい刺激を受けたり、何かを発見したり、自分がワクワクできる場所ですごす、心地のよい時間のこと。読書したり、お茶したり、好きな小物を探したり、部屋の模様替えを想像したり・・・そんな、ふだんの生活を上手に遊べたら、人生はもっと楽しく、もっと充実するはず。エディオン蔦屋家電には、家電はもちろん、独自にセレクトした本や文具、それにカフェもあって、行くたびに、今を感じるライフスタイルや、新しい出会いのひとときでいっぱい。さあ、いっしょに新しい「遊び」、はじめませんか」と。店長の渡辺伸一さんのインタヴュー記事も公開されています。

同店については、エディオンの2016年12月9日付プレスリリース「「エディオン蔦屋家電」のオープンについて」や同日に出た日経新聞記事「エディオン+蔦屋の新業態、広島駅前に来年4月開業」もご覧ください。後者に曰く「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とフランチャイズ契約を結び、美容や料理など関心の高い分野の本を多くそろえる。ソファを多く設け、くつろげる空間づくりを重視する。/広島駅南口Cブロックの商業棟1~3階に展開する。各階にカフェを設け、カップ片手に売り場全体を周遊できるようにする。〔・・・〕久保氏〔エディオンの久保允誉会長兼社長〕は「消費者に満足のいく空間づくりをすることで中国地方のエディオンのブランド価値を高められる」と話した。/1階にはレストランやスーパー、電動自転車販売店などが入居する。美容家電や美容に関する書籍を書棚に置き、自由に読んだり購入したりできる。2階はテレビやパソコンなどの主力家電を品ぞろえする。3階の生活家電を中心とする売り場には、子どもの遊び場も用意する。調理家電ではすでに料理の専門家を採用し、併せて料理本を豊富に品ぞろえする」。

【2017年2月24日追記:さらにまたしても挨拶状なしの短冊のみのご発注(各種写真集)が日販からあったので調べてみると、広島駅南口の「エディオン蔦屋家電」のほかに、「広島蔦屋書店」という店舗が2017年4月開業予定の複合施設「LECT」(広島県広島市西区扇2-1-45)内に出店することが分かりました。この新店は「youme 食品館」「カインズ」と並んでLECTのキーテナントとなり、ほかには約150もの専門店がオープンする様子です。LECTについては公式サイトのほか、「広島ニュース・食べタインジャー」2016年1月30日付記事「カインズ・イズミ・蔦屋書店など130の複合施設(レクト)、商工センターに2017年春 開業」もご参照ください。 】

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いっぽう閉店情報が出ているのは、ジュンク堂書店秋田店(トーハン帳合)と、ジュンク堂書店大分店(大阪屋栗田帳合)。どちらも2月26日に閉店で、常備ではなく必備扱いの版元にとっては悶絶の返品量になりがちです。弊社の場合、それでも版元品切本などの扱いでずいぶんと工夫していただきました。ジュンク堂さんの挨拶状によれば、秋田店さんは入居するビルの耐震工事に伴い閉店となり、今年冬(というのは年末ないし来年初めということでしょう)に耐震工事が完了次第、再入居の予定だそうです【本件では新しい選択肢が生まれたようです。当エントリーコメント欄をご覧ください】。いっぽう、大分店は挨拶状によれば、デベロッパーの都合によるビルの取り壊し・建て替えでの退店で、「また新たな場所が見つかり次第再開したい思いはございます」とやや弱いトーンです。

このほか、ブックファースト銀座店(トーハン帳合)が3月10日(金)に閉店(ブックファースト1月31日付お知らせ)、あゆみBOOKS小石川店(日販帳合)が3月19日(日)に閉店(「新文化」2017年2月7日付記事)、ヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川(トーハン帳合)が3月26日(日)に閉店(開店閉店ドットコム2月10日付)とのこと。「開店閉店ドットコム」の「書店・文具」部門を見ると、やはり開店より閉店の方が目立ちます。日販傘下のあゆみBOOKSでは仙台青葉通り店が1月15日閉店、綱島店が2月14日閉店と続いており、小石川店の閉店で3か月連続の店じまいということになります。

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# by urag | 2017-02-22 18:57 | 販売情報 | Trackback | Comments(2)
2017年 02月 20日

松江泰治インタビュー「Hashimaのころ」公開

2月16日取次搬入済新刊、松江泰治写真集『Hashima』をめぐり、弊社編集部が松江泰治さんにインタビューした「Hashimaのころ」をPDFで公開します。写真集には収録していない貴重な一問一答です。

 Q――なぜHashimaに行こうと思った?

松江――写真は旅なんだよ。10歳の頃から日本中を旅していた。14歳の夏には46都道府県を制覇し、九州や北海道は毎年のように行っていた。東京から夜行列車を乗り継いで、最果ての地が九州や北海道。当時惹かれたのは、古く寂れた街、工業地帯、運河、そして炭坑や廃鉱など。印象深かったのは、古い小樽の街だな。1980年代初めの小樽は、廃倉庫や工場と運河の寂れた街、それに夕張の炭住(炭坑住宅)や空知炭砿などを撮っていた。

1983年の夏に九州を旅して、筑豊の廃坑などを撮りながら、佐世保、長崎に辿り着いた。軍艦島を見てみよう、と近くまで行ったら、渡ることが出来た。軍艦島を目指していないのに、行けてしまった。目指していないのに撮ることが出来た。情報の少ない時代には、夢のような事がよく起こるんだ。調べる手段がない分を、体当たりで補っていたのだろう。

『Hashima』の最初の3枚は、島に渡る前日の夕方の光景だ。4、5枚目の写真は、当日の早朝の船から。つまりこの写真集は旅のドキュメントなんだ。

『Hashima』の構成は、ほぼ時系列になっている。まず学校の脇に上陸して、学校を巡り、島全体を探検して、最後の写真は夕方の帰りの船から、島を離れるところ。24時間の記録。

・・・続きはPDFでお読みいただけます。

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# by urag | 2017-02-20 11:57 | ウェブ限定コンテンツ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 19日

注目新刊:坂口恭平『けものになること』河出書房新社、ほか

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けものになること
坂口恭平著、河出書房新社、2017年2月、本体1,700円、46判上製226頁、ISBN978-4-309-02547-6

★まもなく発売(2月23日予定)。いとうせいこうさんをして「ベケット!」と驚嘆せしめた前作『現実宿り』(2016年10月刊)に続き、最新作ではドゥルーズが降臨します。版元紹介文に曰く「ドゥルーズになった「おれ」は『千のプラトー』第10章を書き始めた。狂気と錯乱が渦巻きながら23世紀の哲学をうみだす空前の実験。『現実宿り』を更新する異才の大傑作」と。

★書き出しはこうです。「おれはドゥルーズだ。どう考えてもそうだ。見た目も知らなければ、彼がいつ死んだかも知らない。死んでいないかもしれない。しかし、明白なことがある。それはおれがドゥルーズであるということで、つまり死んだ男が、今、ここにいるのだ。わたしは、いつまでもそれが続くとは思えない。もう足の指先は幾分冷たくなっていて、小指の爪は跡形もない。それなのに、わたしは、おれがドゥルーズだと分かっていた。明確にそう認識していた」(3頁)。

★「おれは、わたしの体の反乱軍である。わたしはまだそこにはいない。わたしはまだおれに会っていない。おれは向っている。おれは一人で出て行った」(3~4頁)。「書くこと、それもまた加速である。書くことは己の体に針を刺している」(4頁)。「書くことは言語に麻薬を飲ませることだ。言語に呪術をかける魔術師よろしく、己の存在を消し、税務署から、戸籍から、家族から、共同体から、国家から完全に脱獄することだ。つまり、捕まったとしても、わたしにはわからない。完全に麻薬体となったわたしはその意味がわからない。わたしは一本のサボテンである。無数のサボテンである。言語を攪乱する体である」(5頁)。

★「わたしは二十八冊の文献をもとにこの本を書いた。しかし、その本は読んですらいない。つまり、本は読むものではなく、言語を錯乱にいたらせるための魔術師の薬草の一つである。それは干からびた薬草。薬草に見えないただの草。しかし、そこに死はない。われわれもまた死なないのだが、それは肉体が滅びないのではなく、草のように死なない。本は、一本の草、無数の草、見たことのない草である。名前をつけることもできない草」(6~7頁)。『千のプラトー』の第十章『けものになること』を突然書く羽目になった(8頁)という著者の筆致は、保坂和志さんを次のように触発しています。

★「この言葉の激流はなんだ?音楽?ダンス?それも空き缶の中で。あらゆる文献?部屋の中には虎までいた!稲妻?切り落とした自分の中指?焼きもせずそれを食べた。白と黒の中の極彩色?ガタリの持っていた小さな杖?病原菌そのもの。/いや、これは小説だ。信じがたいことにここには言葉しか使われていない!言葉がすべてをやっている。これは小説の奇跡だ」(帯文より)。「あらゆる生命の予感のままでいること」(213頁)を目論んだ本書は、すでに発売前から奇書です。廃位された、とてつもなく(分裂が)速いために止まって見える、幻の王。河出さんのすごいところはドゥルーズの訳書や研究書を多数刊行している守護者であると同時に、それらを訓詁学の閉鎖空間に封じ込めてほとんど誰も入り込めないようにするのではなく、むしろ本作のような思いもよらない通気口を設置して、内と外を爆音で共鳴させる共謀者であることを厭わないというスタンスです。

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★ここ最近ではさらに以下の新刊との出会いがありました。

新装版 生命と現実――木村敏との対話』木村敏/檜垣立哉著、河出書房新社、2017年2月、本体2,400円、46判上製226頁、ISBN978-4-309-24794-6
高橋和巳――世界とたたかった文学』河出書房新社編集部編、河出書房新社、2017年2月、本体1,900円、A5判並製240頁、ISBN978-4-309-02549-0
理性の起源――賢すぎる、愚かすぎる、それが人間だ』網谷祐一著、河出ブックス、2017年2月、本体1,700円、B6判並製240頁、ISBN978-4-309-62501-0
貧困と地域――あいりん地区から見る高齢化と孤立死』白波瀬達也著、中公新書、2017年2月、本体800円、新書判並製240頁、ISBN978-4-12-102422-0
欧州周辺資本主義の多様性――東欧革命後の軌跡』ドロテー・ボーレ/ベーラ・グレシュコヴィッチ著、ナカニシヤ出版、2017年2月、本体4,800円、A5判上製420頁、ISBN978-4-7795-1127-1
【増補新版】ポスト・モダンの左旋回』仲正昌樹著、作品社、2017年1月、本体2,200円、46判上製352頁、ISBN978-4-86182-617-7

★『けものになること』のほかの河出さんの今月新刊には、同じく23日発売予定で、木村敏さんと檜垣立哉さんとの対談本『生命と現実』の新装版や、アンソロジー『高橋和巳』があります。『生命と現実』の初版は2006年。新装版刊行にあたり、檜垣さんによる「『生命と現実』の10年後」という一文が新たに巻末に加えられています。『高橋和巳』では、三島由紀夫と高橋和巳との対談「大きなる過渡期の論理」(初出:「潮」1969年11月号)が再録され、今なお不気味なアクチュアリティを放っています。作品ガイドや年譜も充実。河出文庫では『わが解体』『日本の悪霊』『我が心は石にあらず』が近刊予定だそうです。また、今月第101弾に突入した河出ブックスでは、科学哲学と生物学哲学がご専門の網谷祐一さんによる『理性の起源』が発売済です。戸田山和久さんが「痛快作」と絶賛されている本書では、進化生物学とそれをめぐる科学哲学の観点から理性の起源と進化について分析されています。

★中公新書の新刊『貧困と地域』は大阪の釜ヶ崎をめぐるエリアスタディーズ。著者の白波瀬達也(しらはせ・たつや:1979-)さんは関西学院大学准教授で、著書に『宗教の社会貢献を問い直す』(ナカニシヤ出版、2015年)があるほか、共編著に『釜ヶ崎のススメ』(洛北出版、2011年)があります。今回の新著は「地区指定から半世紀以上が経過し、地域の様相は大きく変化している」ものの「貧困が集中している現実は変わっていない」というあいりん地区(釜ヶ崎)の検証を通じて「「貧困の地域集中」とそれによって生じた問題を論じるものだ」とまえがきにあります。「対策を講じても、また新たな問題が生じることも頻繁にある。絶対的な正解やわかりやすい正義と悪は存在せず、現実は複雑かつ混沌としたものだ。その現実にできる限り目を凝らして考えた成果が本書である」(v頁)。

★ボーレ/グレシュコヴィッチ『欧州周辺資本主義の多様性』は『Capitalist Diversity on Europe's Periphery』(Cornell University Press, 2012)の全訳。巻頭の「日本語版への序文」によれば、ホール/ソスキス『資本主義の多様性――比較優位の制度的基礎』(原著『Varieties of Capitalism』2001年; 遠山弘徳ほか訳、ナカニシヤ出版、2007年)が提示した問題圏に中東欧を適用したもので、「いかに資本主義がポスト社会主義諸国の中で構築され安定してきたか」が明らかにされています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★『【増補新版】ポスト・モダンの左旋回』の親本は情況出版より2002年に刊行。増補新版にあたり、旧版全九章に加えて、「情況」誌に2003年から2004年にかけて発表された五篇の論考と、「増補新版への前書き」「増補新版へのあとがき」が収められています。旧版の目次はこちらをご覧いただくとして、以下には追加された五章の章題を列記しておきます。第十章「『言葉と物』の唯物論」、第十一章「ドゥルーズのヒューム論の思想史的意味」、第十二章「戦後左翼にとっての「アメリカ」」、第十三章「加藤典洋における「公共性」と「共同性」」、第十四章「『ミル・プラトー』から『〈帝国〉』へ――ネグリの権力論をめぐる思想史的背景」。なお、「2015年以降の政治情勢を受けての補遺」と銘打たれ、第十二章には「トランプという逆説」、第十三章には「21世紀の加藤典洋」と、それぞれ新たな節が書き加えられています。

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# by urag | 2017-02-19 17:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 02月 16日

書評、注目新刊、新書大賞

弊社11月刊行の、森山大道・鈴木一誌『絶対平面都市』の書評が二本掲載されています。「週刊読書人」2017年2月10日号に、IZU PHOTOMUSEUM研究員の小原真史さんによる「奇妙なダイアローグ――優れた森山大道論であり写真論」が掲載されました。「本書では鈴木の言葉に誘われるようにして制作時における衝動や焦燥感が惜しげもなく語られ、そこに過去の森山の言葉がジグソーパズルのようにバラバラと組み上げられていく。そして、そのピースの中には東松照明、中平卓馬、荒木といった森山と長い付き合いのある写真家の名前も含まれており、彼らとの差異によってこの写真家の体質が浮かび上がってもくる」と評していただきました。

また「北海道新聞」2月12日付書評欄には、札幌の出版社「有限会社寿郎社(じゅろうしゃ)」の代表取締役編集長、土肥寿郎さんが「写真の本質 対話重ね迫る」という書評を寄せて下さっています。「反復される本質的問いに訥々と答える森山の言葉にはブレもボケもないことに驚く。言語化できない〈撮影の衝動〉とプリンティング・メディアとしての〈写真の本質〉に1ミリでも近づくための言葉を求めて〔・・・〕対話を重ねた写真家と想定かによる労作である」と評していただきました。

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★上村忠男さん(訳書:カッチャーリ『抑止する力』、アガンベン『到来する共同体』、パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
講談社学術文庫より新訳で、グラムシのオリジナル論集を今月上梓されています。帯文に曰く「ムッソリーニに挑んだ男の壮絶な軌跡。社会党参加直後の1914年10月から逮捕・収監される直前の1926年10月まで――本邦初訳を数多く含む待望の論集! グラムシ没後80年」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


革命論集
アントニオ・グラムシ著 上村忠男編訳
講談社学術文庫 2017年2月 本体1,680円 A6判並製624頁 ISBN978-4-06-292407-8

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2月10日発売の月刊誌「中央公論」2017年3月号の「祝10周年! 新書大賞2017」に今年も参加いたしました。私が選んだベスト5は以下の通りです。

〔1〕小熊英二ほか編『在日二世の記憶』集英社新書
〔2〕セキュリティ集団スプラウト『闇〔ダーク〕ウェブ』文春新書
〔3〕今野晴貴『ブラックバイト――学生が危ない』岩波新書
〔4〕吉見俊哉『「文系学部廃止」の衝撃』集英社新書
〔5〕エドワード・ルトワック『中国4.0』文春新書

今年も(?)見事に他の皆さんが選んだベスト20位にはかぶりませんでした。拙評は本誌をご高覧いただけたら幸いです。また、「新書大賞10周年記念 10年間の新書ベスト3」にも投票しました。10年分のブックガイドを中公さんがお作りになられても良いような気がします。

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# by urag | 2017-02-16 14:45 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)