2015年 07月 14日
◆7月14日17時現在。 「新文化」7月14日付記事「栗田、返品相当額の控除などで新提案」曰く、「各出版社別に過去3年間(2012~14年)の4~6月期の平均仕入額と各年7月期の返品額から返品率を割り出し、今年4~6月期の平均仕入額にその返品率を掛けて、7月期に想定される返品相当額を算出する。栗田はその返品相当額を再生債権から控除し、8月精算時に還元する」。 →は? また曰く「なお、同社は7月10日午後3時半、東京地裁から民事再生手続き開始決定を受けた」。 →ん? +++ ◆7月14日18時現在。 「新文化」7月14日付記事「文化産業信用組合、栗田について出版社に緊急支援へ」に曰く、「文化産業信用組合はこのほど、栗田出版販売の民事再生を受けて、国の「セーフティネット保証」や独自の資金調達により、出版社への支援提案を始めた。セーフティネット保証は、取引先の倒産や災害などによる突発的な事由によって経営に支障が出た場合、2億8000万円を限度額として中小企業に融資する制度。栗田の案件については、同制度の1号認定となり、連鎖倒産を防ぐための措置が通常の限度額とは別枠で実施される」。 →別枠で限度額以上の融資を中小企業庁から栗田に実施ね。なるほど。 →【22時追記】Sさんご教示ありがとうございます。栗田自身がまず適用される第1号として融資を受けるという意味ではなく、栗田案件が「セーフティネット保証制度 中小企業信用保険法第2条第5項」の1号すなわち「連鎖倒産防止」に該当するので、限度額以上の融資(一般保証限度額+別枠保証限度額ということなんでしょうかね)を出版社が受けられる、と読む、と。 →【23時追記】7月6日の債権者説明会の配布文書(10~11頁)に記載のあった、「連鎖倒産防止のためのセーフティネット保証制度」を使えるようになったということなのですね。「再生手続開始申立等事業者指定」を受けたことにより、制度が利用できるようになった、と。文書によれば、対象となるのは50万円以上の売掛債権があるか、栗田との取引依存度が20%以上になる債権者である、と。融資を受けるためには版元のそれぞれの本店所在地の市町村の商工担当課への申請が必要で、審査を経て1か月程度で融資されるという説明だったかと記憶します。さらに申請期限は、申立等事業者の指定期間である1年間であると。――とすると、栗田案件については債権額が10万円以上50万円未満の版元で、栗田との取引が全取次の20%以上でもない場合は、弁済にも制度にも頼ることができない、ということになるのでしょう。 +++ ◆7月15日午前1時現在。 『文化通信』7月13日付記事「出版協、栗田再生案スキームに反対声明」を受けてのざっくばらんなやりとり。 上記エントリーとは別件ですがあらためて「会社の民事再生-そのメリットとデメリット」の確認をしておきます。 さらにこれは重要、「簡易再生や同意再生について」。 簡易再生・・・「債権額で5分の3以上の届出再生債権者が、書面により、再生計画案と再生債権の届出・調査手続の省略について同意している場合には、再生債務者は、裁判所に対して簡易再生の申立てをすることができます。この申立てができるのは、債権届出期間経過後再生債権の一般調査期間の開始前に限られます」。「再生計画案の決議に関しては、書面決議の制度の適用が無く、集会で決議が行われますが、簡易再生に同意した債権者が集会に欠席した場合には、集会に出席して賛成したものと見なされます」。 同意再生・・・「同意再生は、届出債権者全員の同意により、再生債権の調査・確定手続と再生計画案の決議とを省略する手続です。同意再生決定が確定すれば再生計画の認可決定が確定したものとみなされます」。 ご参考までに「民事再生Q&A」「報酬規定」。 +++ ◆7月15日午前9時現在。 岐路に立つ日本。「朝日新聞」7月15日7時27分付記事「安保法案、採決突き進む与党 「やるほど支持率落ちる」」。 +++ ◆7月15日午前10時現在。 「新文化」の報道を受けての先達の声。「栗田の新しい提案はスキームそのものに対する説明責任を何ら果たすものではなく、少し譲って通してしまおうとする、相変わらずの出版業界の上意下達の構造のままです。/しかしこのまま通ったとしても、出版流通システムはまったく変わらないわけですから、大阪屋が利益を出し、何とかやっていけるのかも疑問です。/実質的に総合取次としての大阪屋、栗田も破産したのだから、新しい取次のビジョンを提出できなければ、同じことの繰り返しに過ぎないでしょう。/本来であれば、小売店、小出版社を多く参入、育成できる取次としての新たな正味体系、及び低正味買切、時限再販を導入するといったイメージを提出すべきだと思います。でもそれはとても無理ですから、更なる行き止まりが控えている気がします」。 +++ ◆7月15日13時現在。 「読売新聞」7月15日12時33分付記事「安保関連法案、衆院特別委で可決…自・公が賛成」。現内閣、自民党、公明党の議員たちの名前を忘れない。「強行採決」の無惨さ。代議制への不信感の否応ない高まりと広がり。 +++ ◆7月15日17時現在。 「図書新聞」7月15日付「【続報】栗田出版販売、民事再生:返品スキームなどで3つの提案――1カ月分の返品相当額を債権から控除――新刊の支払いサイト、2カ月後の末日に」曰く、「栗田出版販売は、債権者説明会で問題となった返品スキームに対する新たな提案として、7月13日付で「返品スキーム等に対する弊社からのご提案につきまして」と題する文書を出版社に送付している。/提案の内容は(1)1カ月分の返品相当額の還元と再生債権からの控除、(2)平成27年7月~12月の新刊の支払いサイトを2カ月後の末日とする、(3)6月26日以降の栗田分の取引で赤残が出る場合は翌月以降の支払いに繰り越して返品を相殺する――の3点」と。 ある版元さんが、栗田出版販売と東京地方裁判所からそれぞれ書類が届いた、とツイートされている通り、各版元に届き始めていて、上記の報道は栗田からの新提案文書「返品スキーム等に対する弊社からのご提案につきまして」(5枚)の内容に関するものです。東京地方裁判所から債権者に届いたのは、再生手続開始通知書」と「再生債権届出書」(説明書、記入例、裁判所用、債務者用)です。それにしてもあの「紛糾」(引用です)した集会のあとに、監督委員の弁護士先生の判断にせよ、地裁の決定にせよ、再生手続開始に移行できるとは。債権者の不服の度合いにはまったく関係ないのですねえ。以下、再び「図書新聞」が栗田の再提案書の内容を紹介する記事に戻ります。 「(1)は、2012年~14年の直近3年の4~6月の平均仕入れ額に対する7月の返品率に、15年6月25日までの3カ月分の平均仕入れ額を乗じたものを返品相当額として算出。返品相当額は再生債権から控除する。同時に、7月の栗田分の返品入帳の精算と合わせて、8月の支払伝票において返品入帳分の相殺として精算する。/期間を1カ月としているのは民事再生法の制約で、法律上の相殺権があるのは申し立て日(6月26日)から債権届出期間の終了日(8月4日)と規定されているため。返品相当額の内容は、7月17日を目途に各社に送付する」。 再提案を受け取った感想としては「人の話を聞いていないし、答えてもいない。とにかくひどい。これが本当に《お願い》の姿勢などと言えるものなの?」の一言に付きます。以下、より詳しく列記します。 (一)版元の途方もない徒労感と失望 小難しい算出方法をしていますが、そこがポイントではありません。「6月25日までに出版社が栗田に納品した旧商品(旧債権)からの返品を大阪屋経由で買い取れ」といういわゆる二重負担の「お願い」を栗田が7月6日の債権者集会で版元に「提案」(相談、ではない)した件について、あれほど版元から激越に拒絶され、繰り返し撤回と再考を求められたにも関わらず、返品を含む二次卸スキーム自体は結局撤回されていない、というのがまず第一のポイントです。4時間を超える債権者集会とは何だったのか、途方もない徒労感と失望が版元を襲っています。「やっぱりね」「またかよ」「ふざけるな」「まやかしだ」「金の問題じゃない」「もう疲れた」「栗田も大阪屋も信じられない、あとは自分の身を守るだけだ」等々、様々な感想が業界を駆け巡っています。 (二)前回以上のややこしい提案と、公平性という欺瞞 なかには「前回よりマシ」と考える版元もいるようですけれど、1か月分の返品の実冊数を債権額確定のために旧債権から引くのではなくて、返品率に準拠するというのは、前回にも増してややこしい話になっています。勝手な計算式を押しつけて金を握らせておいて、さらに債権額の届け出の際にはその金額を差し引いてね、というずうずうしさ。債権「額」から引いたならば、それは実態的には栗田の資産を版元に「還元」するというよりは、もともと版元の財産であるものをさも自分の懐から返したかのように言っているというだけの話に終わりませんか。1か月分の返品額に相当する金額を、大阪屋からの支払いに上乗せするから二次卸スキームを認めてくれ(還元はスキームの承認が前提)、と。すでに返品買上を受け入れている版元もいるから、公平性を期すためにも「ご協力」を、と。債権者集会でも栗田役員および弁護団は「皆さんすべてに今まで通りの出荷と、返品買上をお願いしたい。不平等はなくさねばならない」ということを仰っていました。「公平性」だの「不平等」だのという日本語の使い方がまったく間違っています。 (三)同意なき押しつけによる既成事実化 大阪屋が「買い上げた」という栗田の返品はそもそも、大阪屋と版元との関係においては新規取引に当たるわけなので、版元の同意なしに大阪屋の売上から相殺できません。そのことは集会で栗田代理人弁護士団も認めています。つまり、大阪屋が「買い上げた」(金銭のやりとりの実態があるようには見えませんが)返品を、版元は受ける必要がない。出版共同流通が強引に版元に返品してくること事態が間違っていますし、実際今も「同意がないまま」返品され続けています。同意がないまま返品し続けていることを悪びれる様子すらなく、「返品をもうしちゃってるし、受け入れている版元もいるんだから、ほかの版元も受け入れて買い上げてくれないと公平じゃないだろ」と言っているわけです。繰り返しますが「公平性」ってこういう無理を強制する時に使う言葉じゃない。 (四)債権者集会に対する実質的なゼロ回答 つまりこんなの、もうムチャクチャな話ですよ。すべてが規定路線。債権者集会でのはっきりとした問いかけにまったく答えていないのですから。「6月26日から7月25日までの1か月の推定返品相当額を計算式に基づいて算出して支払いに上乗せするって言ってるじゃないですか、だから7月26日以降はさらに旧債権から返品が出ようがそっちはとにかく買えって」と言っているに等しいです。こんな交渉を「前進だ」と評価する人が果たしているのでしょうか? 利害関係の深い方々の中にはいるのかもしれませんが、その他大勢にとっては金額の問題ではないのです。栗田や大阪屋との取引の根幹を支える「信用」に怖ろしいまでの亀裂が入ってしまったことを心から憂慮しているのです。 (五)新刊委託制度の崩壊序曲 「図書新聞」の続きに曰く、「(2)は、支払いサイトが2カ月を超える出版社に限定して実施。例えば、7月中の締日分の新刊仕入れの支払いを9月末日と支払いサイトを短縮する」と。債権者集会で栗田および弁護士団が言ったのは、「新刊委託は商品を預かっているのではない。請求や精算がまだだろうが、それは個別の取引条件にすぎず、版元が納品した時点で売買契約は成立している(だから商品をどうしようとこちらの勝手だ)」という論理です。そんなことは取次人の口から一度も聞いたことがないです。ないけれど、この考え方で行くと、版元は「そうか、じゃあ、委託でも買上と同じならば、今後は全部注文扱いでもいいね」となります。だから新刊委託の支払いサイトというのは、先方が前回そう版元に説明した時点ですでに重要問題ではなくなっていたのではないでしょうか。 (六)ばれちゃった債権者間「格差」 「支払いサイトが2カ月を超える出版社に限定して」というのは、いわゆる内払いや特払いがある好条件版元は除いて、という意味になりますが、はからずも「刷って本屋に撒いた分だけ、本が売れようが売れまいが版元に入金がある」という現実を暴露してしてしまっているわけです。本の実売数とは無関係にとりあえずカネが入るこの仕組みこそが、一部版元の経営を支えている当の屋台骨である、とわざわざ説明して下さるようなものです。「ばら撒かない、押しつけない」版元はたいていそんな優遇は受けていませんから、「ばら撒き」版元との格差がここにくっきりと表れるわけです。こうした中で言われる「公平性」っていったい何なのでしょう。実に白々しいです。 (七)悪循環への突入は避けられないのか 栗田が新刊委託について上記のように考えているとなると、版元にとっては合併相手の大阪屋も同様に考えているのかどうか確かめる必要が出てきます。栗田の見解と相違ない、というのならば、出版社はもう新刊を委託で出す理由はないし、義理もありません。大阪屋がもし版元と新刊委託取引をしたいならば、一部の版元さんがすでに示唆しているように、きっちりと約定書を交わして、さらに取次さんから版元へ連帯保証書を提出してもらいましょう――そんな要求が出てきても不思議ではありません。商慣行というある種の柔軟性を栗田さんは自ら進んで《法のもとに》ぶち壊してしまったのですから、栗田も、大阪屋も、もう昔の曖昧さには戻れないし、戻るべきではありません。明確な回答がないまま進めば、栗田のみならず大阪屋への委託出荷を版元は制限せざるをえなくなるでしょう。書店への大量の送品がどうしても必要な出版社たちを除いては、です。発注しなければもともと入荷がないような版元の商品を委託で仕入れることが、取次にとっても書店にとっても今よりさらに難しくなる時代が到来するかもしれません。もしそうなったら、専門書を扱う大型書店にはどんな影響が出るのでしょうか。たとえばジュンク堂や丸善や文教堂を傘下に置く一方で、紀伊國屋書店と流通改革の同盟を組み、なおかつ大阪屋の株主であるようなDNPは、どう本件に対応するのでしょうか。 前回は「7つの逆効果」について書きました。今回も「7つ」挙げましたが、もはや深刻すぎて名付けようがありません。強いて言えば「再提案の7つの帰結」でしょうか。栗田がソフトランディングするためには、弱体化しつつある出版社たちに犠牲を押しつけないことが信用的に絶対必要なはずでした。「セーフティネット保証制度」が使えるようになればいい、などという問題ではないのです。あちらは金額的に譲歩の姿勢を見せたんだし精一杯やった、と思っているのかもしれませんが、この期に及んで信用回復に中途半端なスタンスしか示せないまま今日まできてしまったというのは致命的です。深刻かつ重大な懸念を表明せざるをえません。失われつつあるのはカネという以上に、取引継続のための信頼なのです。信頼を失った会社でも取引先から商品を仕入れ続けることができると関係者は断言できますか。それは無理です。栗田は版元に対し、上記3条件を具体的な金額とともに今週中にも提示するので、来週いっぱいで受け入れるかどうか返事をくれ、と通告してきています。短期決戦で版元の横の連帯が形成されない内にケリをつけたいのでしょう。もしそうだとしたらその目論見はやや甘いです、栗田とも大阪屋とも適切な距離を保とうとする版元はすでに出てきているのですから。受け入れるという版元もいるでしょうが、そうすれば代理人は「簡易再生」に持ち込める可能性が高まります。簡易再生については先刻ご紹介していますので、そちらをご参照ください。 「それにしても栗田さん、これがファイナル・アンサーということでよろしいですね? 合併相手の大阪屋さんも同じ考えですね?」――これが出版社の最後の質問になるでしょう。栗田さんは本当に書店と版元と一緒に再起したいのでしょうか(少なくともすべての相手と一緒に、ではない)。もしそのつもりならば、真摯かつ本音の対話にもっと時間を割くべきでした。もうそんな時間もない、余裕もないのかもしれず、ただただ無念です。 +++ ◆7月16日16時現在。 中小出版社90社で組織される日本出版者協議会(旧名:出版流通対策協議会)が7月16日付で「栗田出版販売民事再生案スキームを撤回するよう求める」というエントリーを公開しています。曰く「債権者説明会でも出版社各社の怒りが爆発したように、売掛金を失うばかりか、自社の返品を大阪屋経由で買わされるなどという事態は、およそ商道徳・商慣習に反するものであり、債権者の利益を不当に害するものであって、絶対に許されるものではない。この再生計画案スキームは栗田出版販売の膨大な債務を、すべて出版社に押しつけた上で、同社を身軽にして帳合書店ごと来春、大阪屋に統合しようという乱暴で身勝手な計画といわざるをえない。/このようなことが許されるならば、すでに始まっている連鎖倒産が示すように、多くの出版社が経営危機に追い込まれ、日本の出版文化は危殆に瀕することとなる」と。 +++ #
by urag
| 2015-07-14 17:59
| 雑談
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Comments(2)
2015年 07月 13日
★江川隆男さん(訳書:ブレイエ『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』) 夜光社さんの思想誌『HAPAX vol.4 戦争と革命』(2015年夏号、本体900円、128頁、ISBN978-4-906944-06-4)に「〈脱-様相〉のアナーキズムについて」(69-77頁)と題した論考を寄せておられます。同号では、江川さんの『アンチ・モラリア――〈器官なき身体〉の哲学』(河出書房新社、2014年6月)について論究した、マーク・ダガン協会「アナーキーのための『アンチ・モラリア』の要約」(63-67頁)も併載されています。江川さんのご論考は青土社さんの月刊誌『現代思想』2015年6月号「特集=新しい唯物論」に掲載された「脱-様相と無-様相――様相中心主義批判」とともにお読みいただくのがよろしいかと思います。 このほか第4号では、HAPAX「無条件革命論――われわれには守るべき約束などない」、小泉義之「来たるべき領土、来たるべき民衆――観念的世界革命論を越えて」、友常勉「性の軍事化と戦争機械」、TIQQUN「『ヤングガール・セオリーのための基本資料』序文」、鼠研究会「どぶねずみたちのコミュニズム」、マニュエル・ヤン「トーキョー日記」、そして日本では『来たるべき蜂起』(彩流社、2010年)が訳されている不可視委員会へのインタビューが掲載されています。このインタヴューは『われわれの友へ』(仏語原書、2014年;日本語訳、夜光社、近刊)のドイツ語版刊行に際して『ツァイト』紙に今春掲載されたものの翻訳とのことです。 ★ジャック・デリダさん(著書:『条件なき大学』) 1997年にポーランド、ギリシャ、南アフリカ共和国、イスラエルで行った講演に由来し、フランスの社会科学高等研究院(EHESS)で行われたセミネール「偽証と証し」(1997~1999年)の第1回におおよそ相当するというテクスト「赦すこと Pardonner」(「『カイエ・ドゥ・レルヌ』誌、2004年「デリダ特集号」所収)が、守中高明さんの翻訳により刊行されました。『赦すこと――赦し得ぬものと時効にかかり得ぬもの』(守中高明訳、未來社、2015年7月、本体1,800円、四六判上製140頁、ISBN978-4-624-93263-3)という訳書で、守中さんによる長文解説「不-可能なることの切迫――来たるべき赦しの倫理学のために」が付されています。非常に興味深い、アクチュアルな主題をめぐり、デリダはジャンケレヴィッチの未訳書を参照しつつ、問いを深めていきます。いずれ講義録の全体も将来的に日本語で読めるようになるのかもしれません。 ★昼間賢さん(訳書:サンドラール『パリ南西東北』) ご高訳書がまもなく発売となります。ピエール・マッコルラン(Pierre Mac Orlan, 1882-1970)による写真論集、『写真幻想』(平凡社、2015年7月、本体3,200円、A5判上製248頁、ISBN978-4-582-23124-3)です。帯文に曰く「澁澤龍彦らが愛した伝説的な文人の手になる、もう一つの「写真小史」。「社会的幻想」を鍵語に、アジェ、クリュル、ケルテス、カーアン、カルティエ=ブレッソン、シュタイナート、ロニスなどに通底する戦間期ヨーロッパの根源的な不安の影を、また、かれらの作品に透けて見えるパリの街を、味わい深い独特の文体で自在に描く。写真批評黎明期ならではの豊かな果実。「写真は文学にもっとも近い芸術なのです」(ドアノー宛書簡)。掲載写真多数。原書は、Écrits sur la photographie (Textuel, 2011)です。美しい装丁は間村俊一さんによるもの。 ★門林岳史さん(訳書:リピット水田堯『原子の光(影の光学)』) 誠文堂新光社さんの季刊誌『アイデア』370号(2015年6月)は「思想とデザイン」という特集号で、杉浦康平さんをはじめとする有名デザイナーさんの思想書への関わり合いや人文系雑誌をめぐる国内外の現代史を通覧できる素晴らしい内容となっています。哲学思想ご担当の書店員さんや若手編集者の皆さんにとって便利なカタログではないでしょうか。企画とデザインは加藤賢策さんのラボラトリーズによるもの。門林さんはマクルーハン+フィオーレ『メディアはマッサージである』(門林岳史訳、河出文庫、2015年3月)などを論じた「マクルーハンのメディアデザイン」という文章を寄せておられます。戸田ツトムさんや荻原富雄さん、東浩紀さんへのインタビューも掲載されています。特に『GS』『都市』『インターコミュニケーション』『10+1』など数々の雑誌を手掛けられてきた荻原さんのインタビューは必読です(もっと長いものを読みたかったくらい)。数々の雑誌紹介の中には弊社発売の『表象』や『舞台芸術』(第一期)もありました。 #
by urag
| 2015-07-13 18:31
| 本のコンシェルジュ
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2015年 07月 12日
ラフカディオ・ハーンの『日本の面影』(田代三千稔訳、角川文庫、1958年;リバイバル・コレクション、1989年)を何気なく手に取って開いた箇所が「生神」でした。戦慄。英語原文はこちら。何かしらの危機に直面している時の読書というのものは、いつも以上に自分の生との繋がりをサインとして受け取る傾向があるようです。それらは偶然でバラバラなきっかけのはずなのですが、言葉が自分に入ってくるその仕方がいつもと違います。書斎にある愛読書であろうと、手にしたばかりの新刊であろうと、語りかける者の存在をいっそう間近に感じる瞬間が待ち受けています。パウロ・フレイレ『希望の教育学』(里見実訳、太郎次郎社、2001年)、ジャック・デリダ『赦すこと――赦し得ぬものと時効にかかり得ぬもの』(守中高明訳、未來社、2015年7月)、宇田智子『本屋になりたい』(ちくまプリマー新書、2015年6月)、そしてハーンの「生神」。 +++ 本屋になりたい――この島の本を売る 宇田智子著 高野文子絵 ちくまプリマー新書 2015年6月 本体820円 新書判208頁 ISBN978-4-480-68939-9 帯文より:ここで働く理由がある。沖縄の市場のとなり、小さな古書店で本と人のあいだに立って考えた。 カバー裏紹介文より:「本屋になりたい」という気持ちのままに東京の巨大新刊書店から沖縄の小さな古書店へ。この島の本を買取り、並べて、売る日々の中で本と人のあいだに立って、考えたことは。 目次: 序章 古本屋、始めました 1章 本を仕入れる 2章 本を売る 3章 古本屋のバックヤード 4章 店番中のひとりごと 5章 町の本を町で売る あとがき ★『那覇の市場で古本屋――ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』(ボーダーインク、2013年)に続く第2作。宇田さんのことは、人文書版元の営業マンなら知らない人はいないでしょう。池袋から那覇に転勤され、その後「日本一狭い古本屋」を継がれた時には、普段の控えめな印象からは想像できない、ここぞの決断をされたのだと営業マンたちは目をみはったものです。2年前にデビュー作が出版された時、私はとても中身が気になったのですけれど、なぜか手に取りにくかったのでした。知人が書いている本というのは往々にしてそういうものかもしれません。宇田さんは『フリースタイル』に寄稿されたり、講談社の月刊PR誌『本』にも連載をお持ちですから、その爽やかで魅力豊かな筆運びに出会いがしらにぶつかることもありました。とても素敵な文章で、同業者に宇田さんの才能を力説せずにはいられなかったことを思い出します。 ★そして今般、かつて勤務されていた書店の文芸書売場に第2作がガツンと多面積みされていて、田口久美子さんの本といい、こういう展開ができるジュンク堂さんって素敵な本屋だなあとつくづく感心して、購入した次第です。緊張しました。1Fの集中レジの配置が変わったからというよりは、店員さんが無言のうちに購入の動機を尋ねているような気がして、ふわふわと舞い上がってしまったために、支払いの際に迷惑を掛けるという失態を犯したほどでした。帰り道に電車の中でページをめくると、出だしからもうすでにいい感じです。うまいなあ。彼女の朝から開店までの光景が目前にたちまち広がります。沖縄で様々な経験を積まれた、等身大の宇田さんがそこにいました。アマゾンに載っているレビューの、「作家顔負けの流れを作っていて、ドラマにしても面白そうだと思いました」という言葉は、けっして大げさではないと思います。 ★と、ここまで書いたところで、身内びいきに聴こえるかもしれないなと我に返ります。ひと回り下の才気溢れる親類の成長を見守る気持ち悪いオッサンのようではないか。これではプリマーの読者層は釣れない。でもいいや、最低限のことは言おう、同業の営業マンの皆さんに。これはとても心が温かくなる本です。たおやかで色彩豊かな表現の流れを追っていると、かつて宇田さんと交わした言葉や、彼女の振る舞いを思い出すでしょう。高野文子さんがイラストを手掛けられているのは彼女でなくとも泣けます。この本のイメージにとてもぴったりですし、高野さんのイラストに宇田さんの文章がぴったりだとも感じます。やっぱりどう書いても暑苦しくなってしまいますが、本好きのお子さんがいらっしゃる親御さんはぜひお子さんにプレゼントされてみてはいかがでしょう。きっと「市場の古本屋ウララ」を訪ねたくなります。 +++ ★このほか、最近では以下の本との出会いがありました。『巨大化する現代アートビジネス』『色彩の饗宴』『三国志 英雄たちと文学』の3点はまもなく発売で、そのほかは発売済です。 『マリリン・モンローと原節子』田村千穂著、筑摩選書、2015年6月、本体1,600円、四六判並製288頁、ISBN978-4-480-01622-5 『カトリックの信仰』岩下壮一著、ちくま学芸文庫、2015年7月、本体2,100円、文庫判960頁、ISBN978-4-480-09681-4 『巨大化する現代アートビジネス』ダニエル・グラネ&カトリーヌ・ラムール著、鳥取絹子訳、紀伊國屋書店、2015年7月、本体2,100円、46判並製324頁、ISBN978-4-314-01130-3 『色彩の饗宴――二〇世紀フランスの画家たち』小川栄二著、平凡社、2015年7月、本体5,200円、A5判上製344頁、ISBN978-4-582-83685-1 『三国志 英雄たちと文学』渡邉義浩著、人文書院、2015年7月、本体2,200円、4-6判並製214頁、ISBN978-4-409-51071-1 『ホロコーストと外交官――ユダヤ人を救った命のパスポート』モルデカイ・パルディール著、松宮克昌訳、人文書院、2015年6月、本体3,500円、4-6判上製328頁、ISBN978-4-409-51072-8 『ゴーストタウンから死者は出ない――東北復興の経路依存』小熊英二・赤坂憲雄編著、人文書院、2015年7月、本体2,200円、4-6判並製312頁、ISBN978-4-409-24102-8 『「聖戦」の残像――知とメディアの歴史社会学』福間良明著、人文書院、2015年6月、本体3,600円、4-6判並製430頁、ISBN978-4-409-24101-1 ★『マリリン・モンローと原節子』は田村千穂(たむら・ちほ:1970-)さんのデビュー作。現在東大大学院で北田暁大さんのもと博士課程に在籍されています。ご専門は映画史、特に映画女優にご関心をお持ちだとのことで、本書ではモンローと原節子の二人の魅力を数々の出演作に丁寧に寄り添って論じておられます。『カトリックの信仰』はカトリック思想家で神父の岩下壮一(いわした・そういち:1889-1940)による浩瀚な公教要理(カテキズム)講義録の再文庫化です。最初の分冊(上巻)が岩下の設立した「カトリック研究社」より刊行されたのは1930年で、死後も続刊と再刊を重ねて1994年に講談社学術文庫に。稲垣良典さんが解説を寄せられていますが、今回の再文庫化にあたって稲垣さんの解説は全面的に書き直されて分量も倍増しています。 ★『巨大化する現代アートビジネス』は、Grands et petits secrets du monde de l'Art (Fayard, 2010)の翻訳。目次は書名のリンク先をご覧ください。現代アート界をつくっている仕組みと作品が高値で売買される巨大市場(米国と中国で80%近くを占めるとのこと)の内実に迫るスリリングなノンフィクションです。キュレーターのニコラ・ブリオーやMetの元館長フィリップ・ド・モンテベロなどキーパーソンへのインタビューも併載。巻末には自らもコレクターで京都造形大客員教授の宮津大輔さんが「本書以降のアート界を俯瞰する」と題した解説を寄せておられます。ものすごい額のお金が動くこの分野(たった4日間の見本市で数百億円を売り上げるとか)の様々な事例について、私たちの業界も学んでおいた方がいいです。『色彩の饗宴』は美術評論家の小川栄二(おがわ・えいじ:1935-2015)さんのエッセイをまとめたもの。バルテュス、デュビュッフェ、スタール、ピカソ、マティス、ブラック、ミロ、シャガール、ボナール、デュフィ、レジェ、エステーヴ、ビシエールら20世紀フランス絵画を代表する画家たちの生涯と作品を論じています。 ★『三国志 英雄たちと文学』は「はじめに」にある言葉を借りると「「建安文学」を花開かせた曹操の文学宣揚に注目しながら、三国時代における文学の展開を描き出すものである。英雄が戦いに明け暮れた三国時代は、文学が初めて文化としてえの価値を謳歌した時代なのであった」と。著者は早大教授でご専門は中国古代史でいらっしゃいます。『ホロコーストと外交官』は、Diplomat Heroes of the Holocaust (KTAV, 2007)の翻訳です。先の大戦における大虐殺からユダヤ人の脱出を助けた各国の外交官たちの人道的活躍を紹介しています。日本の杉原千畝もその一人として頁を割かれています。『ゴーストタウンから死者は出ない』は小熊さんの「まえがき」に曰く「東日本大震災と福島第一原発事故の被災地・被災者の状況を、震災から四年を経た現在において概観しようとした論文集」であり「財政学、経済学、地域研究、環境学、宗教学などの研究者からの寄稿と、被災者自身による体験記が収録されている」と。巻末には赤坂さんと小熊さんによる対談「住民主体のグランドデザインのために」が収められています。『「聖戦」の残像』は立命館大学教授をおつとめの著者が2005年以降各所に発表してきた、戦争の語りをめぐる歴史社会学的アプローチとなる諸論考をまとめたもの。帯文に曰く「近代日本における戦争・知・メディアの編成と力学を多用なテーマで描き出す」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。 #
by urag
| 2015-07-12 15:58
| 本のコンシェルジュ
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2015年 07月 10日
◆7月10日15時現在。 さて皆様お気づきかと思いますが、例の名簿が削除されました。なるほどね。また、色んなところでアクションが起こっています。私も様々な立場の方から連絡をいただいていますし、たとえ直接はご連絡いただかなくても業界内外の気配に胸襟を開いておきたいと思っています。皆様ありがとうございます。エントリーのタイトルは今回から変更しております。誓って申し上げますが、「制限」は受けておりませんよ。なおこのカギカッコは引用として使用していることを付言しておきます。また、心配して下さる方がいらっしゃるといけないので申し上げておきますが、直前のエントリーでのコメント欄でのやりとりは今回のタイトル変更とはまったく無関係です。 昨日開催された首都圏栗田会についての簡潔なレポート「首都圏栗田会、「意見交換会」と「交流会」」が「新文化」7月9日付で公開されています。曰く「7月9日、首都圏栗田会が東京・目白の椿山荘で第7回総会を開催。当日は予定していたプログラムを変更し、総会の後に栗田と書店の意見交換会、出版社との交流会を行った。/意見交換会では、地方の書店も参加。山本高秀社長ほか下村賢一、森孝弘、高梨秀一郎の3取締役がこれまでの経緯を説明。中央経済社から報奨企画、三笠書房とフランス書院からは注文勘定のすべてを再生計画がスタートするまで延勘にする支援表明があったと伝えられた」。 債権者集会とは別のこうした機会で「これまでの経緯」の説明があったと。その中で、支援を表明される版元さんやどのような支援かについても紹介があったと。報奨だの延勘だのすごいですねえ。その他大勢の版元にはどう聞こえるでしょうか。逆撫での続きにならないといいですけれども(無理な気が)。私自身はぞっとしました。心底。栗田の延命によってなぎ倒される版元がたとえ出ても、心など痛まない人たちは残念ながら当然いるでしょう。分かってはいましたが、これは美しい助け合いなどではなく、形を変えた《戦争》なのです。 「出版社を交えた交流会では、双葉社の戸塚源久社長が祝辞を述べた後、大阪屋の大竹深夫社長、田村書店の田村定良社長、講談社の森武文専務、祥伝社の石原実取締役、河出書房新社の小野寺優社長、ベレ出版の内田真介社長、新星出版社の富永靖弘社長がエールを贈り、今野書店の今野英治社長や高島書房の高島瑞雄社長が出版社に協力を求めた」。 版元からの祝辞とエール、そして書店から版元に協力要請ですか。弊社のような版元とは立場が違いすぎて溜息が出ます。同様にお感じの版元さんもおられるかもしれません。出版社とて規模が違えばポジショニングが異なるわけで、栗田役員および栗田支援の立場の方々が、債権者集会での「紛糾」(引用です!)とは別の空気を作ろうとされていることにとても感心します。栗田さんにおかれましては、版元に対する例の申し入れの枠組みに修正と進展があるならば、ホームで励ましをもらいながらおしゃべりするのではなくて、ちゃんとした対外的発表をして欲しいですね。 首都圏栗田会については「文化通信」も「栗田、新たな返品スキーム提案へ 出版社へ理解求める」という記事を配信しています。興味深い、銘記すべき内容なのですが、有料記事なので引用できません。もったいないなあ。「新文化」記事のフラットさとは好対照です。講談社の森専務が何を語ったかが分かります。講談社さんってすごいですね、大阪屋を助け、栗田を助け、SKRの株主でもいらっしゃる。「文化通信」ではさらに同日付で、「栗田の返品問題で出版社が質問書、連名への参加呼びかけ」という記事も配信しています。無料公開されている冒頭は「出版社の有志で構成する「栗田出版販売民事再生債権者有志出版社」はこのほど、栗田が提示した2次卸方式の返品問題について、栗田側代理人に対する質問書を作成、出版社に連名に参加するよう呼びかけている。出版…」(以下有料)。この「栗田出版販売民事再生債権者有志出版社」は特にウェブサイトなどは設置していないようです。簡単なものでもいいので、お作りになった方がいいと思うのですけれども。 【7月13日追記:「図書新聞」ウェブサイトのトップページに掲載された記事「栗田出版販売、民事再生:中小版元(債権者)有志が連盟で質問状提出へ――賛同する出版社に参加を呼び掛け」で、上記の有志出版社による質問書の件が報じられています。】 +++ ◆7月11日午前0時現在。 無意味じゃないし、諦める必要もない。目を覚ましてじっくりやるしかない。まずはもう一度、債権者集会後の版元さんたちの声に共鳴しつつ耳を傾けます。そのあとに続く私のコメントは応答というより自問です。 版元Aさん曰く「出版社の資金繰りはかなり特殊、だから弁護士の回答がまと外れになるのです。途中で栗田出版の人に回答を求める声が続出したのは、業界の資金繰りを良く知っている人に今回のスキームの正当性を納得いく説明をしてほしかったのだと思います」(7月6日)。「出版社で資金繰りをしている人間で売掛金の入金を100パーセントみているバカはいない、ところが今回の件はそれが0パーセントになるのに加えて、他社からの入金も入帳の方式次第で数10パーセント引かれる構図。つまり資金繰りで出版社に与える影響が大きいということ」(7月6日)。 取次にせよ大版元にせよ、中小の資金繰りの実情を大して知らない場合、おそらく「この債権額で潰れるのか」などという他人事を言いかねないだろう。ふだんから経営が安定していない相手の場合、その肩に手をぽんと置いただけで崖下に突き落としてしまうだろう。最後の一撃となるものが痛烈とは限らない。つまり恐れるべきは《低強度の連鎖》だ。《低強度の連鎖》による事故は、誰が悪いとか誰のせいだとは言われにくい。それは一見、ゆるやかな流れに見えるけれど、実は死の直前であって、終点がそれ自身を掴む時はむしろ素早い。《低強度連鎖》を孕んだ脆弱な圏域である出版界においては危機は過ぎ去らず、先延べされただけのことで、その間にも廃業者はひっそりと去っていく。自主廃業なのか、連鎖倒産なのか、その線引が問題なのではなく、その間にある《低強度連鎖》による危機の広がりを正しく構造的に恐れなければならない。 版元Bさん曰く「備忘と疑問。「誰が栗田を殺したか?(敬称略)」①返品入帳を版元が許可しなかった場合、書店さんの入帳はどこまでされるのか?そのシュミレーションは?宙に浮いた返品は誰のもの? ②大阪屋さんへの栗田さんの返品は、委託期間のものでも、それを待たずに一括入帳ということか? ③返品は買手が決めるということであれば、逆送というのは、出版業界だけの慣習であって、一般商流通では違法であるということか? ④今後、出版社への支払いが再開されたときにも、倒産の原因のひとつであると思われる、内払い特払いを継続するのか?よもやしないだろうと思いたい! ⑤約定書はどうするのか?再契約?連帯保証が必要?むしろ逆ですな。連帯保証が無ければ取引できないと出版社が言うべきでしょう。⑥今回の相殺のスキームが有効であれば、とてもじゃないけど怖くてお茶の水と五軒町以外には納品出来ないよという、前例と恐怖を植え付けましたね。25日締め直後の金曜日の15時が怖いよ毎月と。末広町とか」(7月6日)。 一部版元が有する強力な既得条件として知られる「新刊委託に対する内払いや特払い」という特権は、いわゆる自転車操業(本を刷った分だけお金になる)を可能にする悪弊の一つと言うべきだろう――そう語るすべてが都市伝説に属しているというわけではない。内払いや特払いは幽霊ではない。正体を暴くために名前を呼ぶ必要は必ずしもないのだ。出版界の大多数を占める小零細版元にはそれらの特権はない。取次が新生し、再出発しうるとしても、特権を有する版元は自らの条件を放棄しないだろうし、取次もそれを容易には崩せないだろう。強者には生き残ってもらわねばならないというわけだ。 取次口座を版元が開設してもらおうとする際に一番の難関となるのが、連帯保証人探し。一般人ではなく、業界人を探さねばならない。しかし今回の一件についてはもはや版元が先方に連帯保証書を提出せよ、と言ってもおかしくない展開ではある。・・・返品相殺スキームすなわち「預かった本の代金は払わないけど返品するから買い取ってくれ」の衝撃は、版元の恐怖心となってじわじわ広がり、取次(特に3位以下)を襲いつつある。「もう委託出荷なんて怖くてやれないよ」という声があちこちから聞こえる。「新刊委託は本の受託でも寄託でもなく売買契約です、支払時期は先ですがこちらが買い取ったわけですから、ここから誰にどう売ろうが勝手でしょ」という解釈が成り立つ場合、定価販売に拘るつもりのないアマゾンのような勢力を喜ばせるだろう。委託制度と再販制度が同時に崩壊しうる地平ではある。 版元Cさん曰く、「本件を機に獲得したいことが3つある。・送返品明細の版元への開示。・片務的な取引慣行、とくに個人保証事項の撤廃。・老舗版元の正味と支払い条件の見直し。これが為されれば業界の地力は改善する。すこしは、だけど。「多様性」を題目にするなら是非実現してほしい」(7月6日)。「栗田の件、それでも理がある方法で返品ふくむ流通を維持したいので、申入書をつくりました。本日提出してきました。-「返品入帳条件通知 参考書式」」(7月7日)。 中堅取次が新生したり合併したりしたとしても、既得権を有する版元の条件は見なおされないだろう。そこに平等は生まれないだろう。取引は個別のものだからというもっともらしい理由のもとで、株主たちは自分たちに不利なことは拒むだろう。革命は起こらない。ある読者は言いました。「上位まで含めて業界全体が壊れて更地にならないと、本当の意味では生まれ変われないのでは」。ある書き手は答えます。「更地にする必要はないさ。新しい大地がすでに生まれているから。アマゾンのKDPは、商業出版社であろうが一個人であろうが条件や扱いで差別していない。古き人々はその土地とともに滅び去るまで押しあいへしあいしていればいいよ」。これらの会話を引き継ぎうる出版人の答えは様々あるものの――。 Cさんが作成した申入書の返品入帳条件は次の3つ。「一、今回の債権確定にあたっては、2015年6月26日から債権届出期間満了日までの株式会社大阪屋からの返品のうち、6月25日以前の貴社向け搬入分であることが明らかな品目を小社で特定し、民事再生申請前の残債より相殺処理をおこないます。/二、最大限の再生債権削減のため、債権届出期間は法定最大限の期間をご設定ください。/三、上記作業を可能とするため、2015年6月1日以降に出版共同流通株式会社に到着した貴社および株式会社大阪屋あての返品について、書店名・書店コード・品名・ISBNコード・返品到着日の5項目の明細データを貴社の責任においてご開示ください」。債権者集会から導かれうる妥当な帰結。返品明細の重要性にもかかわらず、取次は透明性を嫌っているようだ。こうした議論は20年以上前から、いや、もっと前からある。先輩から私達へ。私たちから若い人々へ。だからといってこれが陳腐な議論であるわけでもないし、不毛であるわけでもないない。問題の根は危機によって露わになるまで問いの矢が刺さりにくいもの。今は矢を放つ時だ。SKRに版元の厳しい目が注がれているのはなぜか、分かる人には分かっていること。 【7月11日18時現在追記:Cさんより補足がツイートされています。「債権者届出期間の法定最大は軸丸弁護士が言っていたとおり4か月なようです。武富士など実例も多数あるので、実務上も無茶な要求ではありません」(7月10日)。「ただ、理屈から言えば債権者の人数金額ともに半数以上が合意すれば、残債の返品相殺をさらに延長するスキームだって可能なはず。リース会社などの一般債権者は優先弁済して。まあ、図書カードは列の後ろに並んでほしいけど」(7月10日)。】 +++ ◆7月11日午前1時現在。 莫大なお金を突っ込んだって、将来的に負の遺産になるだけじゃないの? だから多くの人がNOと言ってるんじゃないの? え?・・・新国立競技場の話ですよ、もちろん。 +++ ◆7月11日13時現在。 重要。「☆拡散希望☆もうすでに知っている方も多いと思われますが、例の往復ビンタの件は、成立しないと大阪屋さんから正式に回答あり。要は、大阪屋さんの支払分から栗田さんの返品を引くことは無く通常通り支払いが実行される、と。26日以降の栗田さん分は(大阪屋さんの)別口座にて管理される、と。他にも重要なとこがあるのですが、近々発表がありそうですので、ボクからは言いません」。 +++ ◆7月11日19時現在。 曰く「贔屓にしていた本屋が七月末で閉店する。出版取次の栗田の民事再生法申請のあおりを食らった形だ。新刊が配本されなければ書店はどうにもならない。余所に乗り換えようにも大手の取次は中小の小売店は相手にしない。こうして町の本屋は消えて行く。寂しいものだ。さて、来月から何処で本を買おう?」(7月10日)。 他帳合でも今月で閉店という書店さんがあります。7月20日にリブロ池袋本店(日販帳合)、7月31日に明正堂NTT上野店(日販帳合)など。前者の「寄せ書き」の動画。後者の「張り紙」の写真。 +++ ◆7月12日正午現在。 適宜、リンクは張りません。 版元さん曰く「栗田出版販売の新しい提案案を聞く。これまた(以下略)。これが通るのであれば、出版業界は緩慢な自殺に向かっていると言わざるを得ない印象」(7月10日)。また曰く「栗田出版に金曜日訪問したところ、債権者説明会の反応を受けて新たなスキームの提案をするべく、裁判所に申請中とのこと。通れば、早々に連絡するそうです。詳しくは書けませんが、前よりマシなレベルに感じました」(7月10日)。また曰く「出版カーストの闇は深い」(7月12日)。 そこに格差がある、と明言することはタブー視するべきではないと思うだけに、版元さんの「闇が深い」という発言には頷かざるをえません。また「緩慢な自殺」というのは恐らくそれなりの数の出版人がジレンマとして感じているのではと思います。 Kさんによる鋭い分析。「EBook2.0 Magazine Weekly」7月1日付記事「日本的出版システムの命数(1):取次の空洞化」曰く、「上述した“出版社会主義”は、紙と活字とインクと輸送手段が限られていた時代のサプライチェーンの最適化として、元々は上から(つまり機能的に)構築されたものだが、出版は一つ一つが、とても人間的行為なので、システムもそこに生きる人間と環境に合わせて社会(世間)化してきた」。「取次の危機は最終段階に入った。取次も書店もそれぞれ淘汰が進み、現在は、取次による書店の吸収、書店による流通機能の拡張という段階に入っている。これに大手印刷会社による書店の吸収も加わる。とうにメディアが大好きな「仁義なき…」の段階に入っているのだが、身近なことには使えないようだ。それに、出版社から書店まで、最近のトレンドは「脱出版」が目立っている。システムの再構築を避けるために、出版社は貸しビルに、取次は一般物流に、書店は雑貨屋に転じている。出版に強い動機を持っているのは、皮肉なことにアマゾンだ。アマゾンがいなければ、出版の衰退は放置され、知識は飾りに、本は小物になるのに任されていたろう」。出版社会主義っていう表現はなかなか含蓄がありますね。なお、書店員さんから記事に寄せられているコメントの通り、再販制と取次の仕入条件(出版社の出荷条件)についてはまず判然と区別しなければならないでしょう(セットとして考える側面も有効とは言え)。 以下は第4位とは別件。書店員Aさん曰く「取次の子会社になると売れる本の配本や注文が、少し幸せになるのでしょうか?」(7月11日)。書店員Bさんの答え「ぶっちゃけるとなれないですね(笑) 仕掛販売とかの指示がガンガン下りてきて、報奨施策、特約縛りまみれになります」。Aさん「それはキツイですね。現場が萎えます」。Bさん「それでも頑張ってやってるんですけど、限界近いですね…」。Aさん「上手く付き合っていくしかないですよね」。Bさん「そうですね…最新POSデータはかなりわかりやすく下りてくるのでそこが強みかもしれません…」。 以下も第4位とは別件。「日本経済新聞」7月2日付気時「書店激戦の池袋、リブロ再出店は賃料と面積が鍵」曰く、「7月20日、書店激戦区・池袋から1つの大型書店がなくなる。西武池袋本店に店を構えてきた「リブロ池袋本店」だ。1975年の開店以降、個性ある店作りで一時代を築いたリブロ池袋本店の閉店は書店業界で大きな話題となっている。■立地によって陳列方法が違う/池袋は「書店の街」と呼ばれることもあり、多くの本屋が存在する。リブロ池袋本店は池袋駅に直結した西武池袋本店の書籍館、別館に店を構え、同じく西武池袋本店の…」(以下は有料)。これに対する読者の反応はCeronで。 +++ #
by urag
| 2015-07-10 16:55
| 雑談
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2015年 07月 09日
◆7月9日午前0時現在。 栗田の事業再建を支援するスポンサー候補であり、栗田の取引先への信用補完を(栗田自身によって)期待されている出版共同流通株式会社(SKR)について、その会社概要や事業内容をあたらめて確認しておきます。SKRは栗田自身も株主である会社で、他の株主には他取次のほか、大阪屋の大株主である音羽と一ツ橋も名を連ねています。大会社が株を持ちあい、信用を補完し合うといういわばホークラックスもといセーフティネット。取締役には先頃、栗田の社長を退任すると発表された山本さんのお名前があります。 ◎会社概要 会社名:出版共同流通株式会社 本社所在地:東京都千代田区神田駿河台4丁目3番地 設立:2002年4月15日 代表取締役社長:中山剛 事業内容:書籍・雑誌等出版物等の物流業務の請負。出版物等の返品データの収集と計算事務処理の代行 資本金:1億円 株主:日本出版販売株式会社、株式会社大阪屋、栗田出版販売株式会社、株式会社日教販、株式会社太洋社、株式会社講談社、株式会社小学館、株式会社集英社 事業所:蓮田センター、所沢センター、新座書籍センター ◎役員一覧 代表取締役会長・古屋文明 代表取締役社長・中山剛 常務取締役・吉川浩 取締役・長田浩 取締役・小倉淳 取締役・大竹深夫 取締役・山本高秀 取締役・國弘晴睦 取締役・安西浩和 取締役・髙田誠 監査役・河野隆史 監査役・兼子信之 ◎挨拶 出版共同流通は出版取次5社の提携により誕生した情報物流プロデュース企業です。従来、「返品」という言葉はマイナスのイメージを伴って語られてきました。読者に巡り合えなかった本が、書店から出版社へ戻っていく。しかし、雑誌や書籍が求める読者の元に届けられるためには、誤差としての返品が必ず発生します。出版流通全体を活性化するためには、返品まで含めた物流が潤滑に流れていく必要があります。私たちはそこに注目しました。/2002年4月、出版共同流通は、日販、大阪屋、栗田出版販売、日教販、太洋社の取次5社が取扱商品の返品に関する物流業務で業務提携し誕生しました。書店・出版社・取次間における返品業務の効率化を図るべく「無伝票返品システム」を確立し、返品流通に画期的なイノベーションをもたらしました。現在は、独自の物流・配送ノウハウと出版流通のインフラ、そして会社設立以来積み重ねてきた協業経験を最大の武器に、新たな事業展開にも積極的に取り組んでいます。私たちは、流通ネットワークとコラボレーションで物流イノベーションを実現します。 ◎沿革 2002年04月 会社設立 2002年10月 出版物無伝票返品システムを開発・書店導入開始 2002年12月 蓮田センター操業開始 2002年12月 雑誌返品処理開始(蓮田センター) 2003年11月 コミック返品処理開始(蓮田センター) 2003年12月 所沢センター操業開始 2003年12月 文庫返品処理開始(所沢センター) 2005年04月 書籍返品処理開始(所沢センター) 2006年04月 事業開発室を設立し新規事業(8コード誌の流通事業、フリーペーパーラック事業等)に着手 2006年11月 セルCD・DVD返品処理開始(蓮田センター) 2009年04月 出版物販売代行・販売促進事業開始 2010年12月 フリーペーパーラック事業から撤退 ◎企業理念 出版共同流通株式会社は2002年4月、「共に手を携えて業界改革を実現する」という志のもと、出版取次5社により設立されました。/雑誌を皮切りに導入した「透明性のある高精度な無伝票返品システム」は、 その対象ジャンルをコミック・文庫・書籍全般へと拡大させてまいりました。/すべてのジャンルへの無伝票返品システムの導入は、書店様の業務の効率化・ 返品入帳の迅速化に寄与するのみならず、単店・単品レベルの返品データの 収集により、業界SCMの構築にも大きな貢献をしてまいります。/また、事業開発室では出版流通のネットワークのインフラを活用したあらたな 事業に取り組んでおります。/弊社の構築するネットワークの特徴は(1)全国をカバーできる広範さ、 (2)あらゆるチャネルへの対応、(3)早く、確実で、安価ということにあります。/この利点を十二分に活かし、多様な顧客のニーズに柔軟に対応した事業展開を めざしております。現在ではこのネットワークを活用し、フリーペーパー共同 ラック事業、地方出版物・直販出版物の流通事業、出版ダイレクト便事業を 全国規模で展開しております。 ◎出版共同流通ビジョン (1)出版共同流通は、本業を返品物流とし、お取引先に対して、正確、迅速、安全、低コストなディストリビューションを提供し、返品物流のリーディングカンパニーとしての信頼に応える。 (2)出版共同流通は、コラボレーションの可能性を追求し、協業事業の領域を広げ、当社のValueを高める。 (3)出版共同流通は、ロジスティクスと流通ネットワークで、新たな事業基盤確立に向けて邁進する。 ◎事業案内 物流請負事業・・・出版物の物流業務請負を基軸に、弊社のFA仕分システム、データ処理システム等の物流ノウハウを生かした事業の拡大を目指すと共に、物流倉庫拠点の拡大、輸配送網のネットワーク構築へのプロデュース等により総合物流商社としての機能を高め、物流全般を視野に入れた事業展開を目指します。出版物無伝票返品システム。セルCD・DVD返品処理、在庫管理事業。【事業案内ムービー】 メディア関連事業・・・出版共同流通株式会社 事業開発室では出版流通のインフラを最大限に活用し、新たなネットワークの構築を目指し、新規事業に取り組んでおります。出版取次が不扱いの紙メディア(8コード誌・販促物等)の流通事業をベースに既存の出版取次、配送業者にはまねのできないきめ細かいサービスをご提供いたします。出版物販売代行事業(直販誌販売代行事業、テストマーケティング事業、書店営業サポート事業)。地方出版物流通事業(首都圏・東海・関西 約4,000軒をカバーする販売網)。出版ダイレクト便事業(出版ダイレクト便、出版メール便)。 ◎環境について エコロジーへの取り組み・・・“限りある資源”の有効活用が強く訴えられている現在、出版共同流通では古紙化という紙のリサイクルの推進を中心に、輸送における物流の効率化、さらにはCO2の抑制など、環境への配慮にも積極的に取り組んでおります。 再資源化へのアプローチ・・・(1)雑誌、書籍の古紙化推進。(2)CD、DVDの破砕による再資源化推進。 CO2抑制取組み・・・(1)流通工程の効率化によるムダな輸配送コスト、流通コストの削減。(2)折りたたみコンテナの使用による廃棄物の削減。 蓮田センター・・・ベーリングマシンによる古紙化。製紙会社へ送られ再資源化(書店→蓮田センター→古紙会社→製紙会社) 所沢センター・・・段ボールを使わず、再利用可能な折りたたみバケットを利用。 +++ ◆7月9日17時現在。 星雲社を発売元とする出版社で上場企業の「アルファポリス」(コード番号:9467 東証マザーズ)が、代表取締役社長である梶本雄介さんのお名前で、「準大手出版取次会社の民事再生手続開始申立に伴う当社債権に与える影響についてのお知らせ」という7月9日付の文書を適時開示情報閲覧サービス「Tdネット」を通じて公開されています。「適時開示情報閲覧サービスに記載されている内容は、著作物として著作権法により保護されており、株式会社東京証券取引所に無断で転用、複製又は販売等を行うことは固く禁じます」とあるので、引用いたしませんが、概要としては、栗田に対する債権はないこと、アルファポリスさんの有する債権への影響はないこと、業務予想の変更がないこと、等が書かれています。また、星雲社に何かがあった時には担保権を行使して栗田から債権を回収する、とも記載されてます。アルファポリスは星雲社との間に「は債権譲渡担保契約」を締結しているので、と。同文書はアルファポリスさんのサイトのIR情報でも公開されています。同社IR情報では6月30日付で「支配株主等に関する事項」という文書もアップされています。 栗田に関するリリースを出した上場版元は今のところ、インプレスホールディングスさんとアルファポリスさんの2社のみかと思われます。栗田の支払手形と買掛金を足すと出版界では最大の債権者となるKADOKAWAはまだ何も発表していませんが、別件では本日付で「KADOKAWA・DWANGO 教育事業開始――デジタルネイティブ時代の「ネットの高校」設立準備~ネットの双方向学習や、著名人による課外授業を展開~」というプレスリリースを公開して、話題となっています。 +++ ◆7月9日22時現在。 読売新聞7月9日19時02分更新の記事「主婦と生活社、ライターらに消費増税分不払い」で、「女性週刊誌「週刊女性」や男性誌「LEON」などを出版する主婦と生活社(東京)が、原稿料などの消費増税分をライターらに支払っていなかったとして、公正取引委員会は9日、消費税転嫁対策特別措置法に基づき、同社に再発防止を勧告した」と報道されています。 公正取引委員会による勧告「(平成27年7月9日)株式会社主婦と生活社に対する勧告について」によれば、「公正取引委員会は,株式会社主婦と生活社(以下「主婦と生活社」という。)に対し調査を行ってきたところ,消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(以下「消費税転嫁対策特別措置法」という。)第3条第1号後段(買いたたき)の規定に違反する行為が認められたので,本日,消費税転嫁対策特別措置法第6条第1項の規定に基づき,同社に対し勧告を行った」とのことです。違反事実の概要や勧告の概要を見ることができるほか、印刷用のPDFをダウンロードできます。 読売新聞の記事の続きはこうです、「発表によると、同社は、委託契約しているライターやカメラマンら約140事業者に支払う原稿料や撮影料などについて、消費税率が5%から8%に上がった昨年4月以降も、引き上げ分計約1300万円を上乗せせずに支払っていた。同社は不払い分をすべて支払ったといい、「勧告を真摯に受け止め、法令順守を社内で周知する」などとコメントした」。 すでに不払い分は支払ったのことですが、このタイミングでの勧告というのはなんとも。栗田の例の名簿では同社の債権は手形と売掛を足すと結構な額です。 +++ ◆7月9日23時現在。 「栗田出版販売 読書クラブ(@kuritadokusyo)」は、「栗田出版販売㈱の社員を中心とする「本」好きが集まる読書クラブ」。あの日以降のツイートは深読みしても仕方ないものの、何かを訴えている気がしないでもなく、まあそいつは気のせいだしそんな風に見るべきじゃないとは思っていても、それとなく見守っている次第。本好きSEさんの連投と、無署名の別のかた。 6月28日(日) 『地球の長い午後』(ブライアン・W・オールディス 早川書房) 太陽が膨張し、地球を含む太陽系の寿命が迫っている遥か遠い未来の地球を舞台とする本書の設定は、私たち人間の営みがいかにちっぽけなものにすぎないかをつくづく思い知らせてくれる。(本好きSE) 6月30日(火) お金がすべてだとは思いたくない。でも、お金を使って何をするのか、という姿勢はとても大切なもの。『銀二貫』(高田郁 幻冬舎)を読むと、ふとそんなことを思う。(本好きSE) 6月30日(火) ――国を出てゆく。それは強迫観念、昼も夜もアゼルの頭を離れない狂気のようなものだった。――タハール・ベン・ジェルーン『出てゆく』(早川書房) とにかく国を出たいという願望。だが、そこまで重大な決意をしてまでやりたかったことが何なのかが見えてこないという悲劇。(本好きSE) 6月30日(火) そんなに本が読みたいか。なら、けっして終わらない、無限に増殖し続ける『砂の本』(ホルヘ・ルイス・ボルヘス)を心ゆくまで味わうといい。(本好きSE) 7月1日(水) 『エコー・メイカー』(リチャード・パワーズ 新潮社) 姉を姉として認識できない弟と、弟のために尽くしているのに姉だと認めてもらえない姉――理不尽といえば、これほど理不尽なこともあるまい。戻らない日常への回帰願望が、本書のタイトルと響きあって感慨深い。(本好きSE) 7月1日(水) 『ボトムズ』(ジョー・R・ランズデール 早川書房) 「ボトムズ」とは「最底辺」であり「どん底」の意。光の指さないどん底の闇に蠢くのは、人間を受け入れない自然の陰湿な闇であり、また人の心に巣食う残酷さ、非道さという名の闇でもある。(本好きSE) 7月1日(水) 『逃亡くそたわけ』(絲山秋子 中央公論新社) いろんな問題をとりあえず棚上げして、とにかく今は逃げる――後先考えない男女二人の患者の、精神病院からの逃亡劇のある種の暢気さは、自分も含めた人間のいい加減さの賛歌でもある。(本好きSE) 7月3日(金) 『叫び声』(大江健三郎 講談社文芸文庫) 計画していたヨット旅行が頓挫する――ただそれだけの話だが、語り手たちをヨット旅行へと駆り立てていたのが、漠としてとらえどころのない「恐怖」であることが興味深い。まさにわけもわからず叫びだしたくなる作品。(本好きSE) 7月3日(金) 『血と骨』(梁石日 幻冬舎) 他人は全て敵か獲物。叩きのめし、奪い、犯すという関係しか築けず、極道ですら怖れる金俊平の心に渦巻くのは、クソのような世のなかの理不尽さや不条理に対する、けっして言葉にできないほの暗い憤怒の感情である。(本好きSE) 7月4日(土) @kuritadokusyo (本好きSE)さん、怒涛のコメントすごいです。ちょっと一息、こんな本はいかが? 「ぶたのたね」(佐々木マキ著・絵本館)。ブタより足が遅いオオカミくんのお話しです。マラソンしているゾウさんの足音が聞こえたら、一緒に走るのも良いかも・・・ 7月6日(月) ――体重が問題なら落とせばいい。体力が問題なら蓄えればいい。自分の弱さが問題ならねじふせればいい。だが、目が見えないということは、解決すべき問題じゃない。(中略)受けいれ、馴染んでいく以外に手がない事実だ。――『梟の拳』(香納諒一)より(本好きSE) 7月7日(火) 『神は死んだ』(ロン・カリー・ジュニア 白水社) 「何千という死の一つ」として死んでしまう神。だが、人智の及ばない大きな苦難を前に、神を求め、祈りを捧げる人々は尽きない。人はいつだって弱く、自分以外の誰かに自分の言動の責任をとってもらいたがっている。(本好きSE) 7月7日(火) 『吉野弘詩集』(吉野弘 角川春樹事務所) とりあえず、結婚することになった知人にはこの本を贈ることにしている。もちろん、「祝婚歌」のあるページに栞を挟んでおくのは必須。(本好きSE) 7月7日(火) 『君たちに明日はない』(垣根涼介 新潮社) とりあえず、「一身上の都合」で会社を辞めることなった知人にはこの本を贈ることにしている。ちゃんと読んでくれたかどうかで今後の付き合いが大きく変化するのが難点。(本好きSE) 7月9日(木) 『とせい』(今野敏 中央公論新社) ヤクザが出版社を経営するという話だが、いわゆる中間管理職が苦労するのは会社員もヤクザも同じという点と、その出版社が倒産間近な不良債権である点がミソ。どうせ潰れる会社なら、むしろヤクザにやらせてみたほうがまだマシかもしれない。(本好きSE) 7月9日(木) 『桐島、部活やめるってよ』(朝井リョウ 集英社) 桐島がバレー部をやめた理由を知ろうといろいろ考えを巡らせるが、どの説明もしっくりこない。さんざん悩んで行き着く先が、じつはタイトルのもつ投げやりな雰囲気だったりする。そういう意味で、この本のタイトルは秀逸だ。(本好きSE) 7月9日(木) 本を売る人である前に本好きだなぁと改めて思う。難しいこと考えずにこんな時支えてくれる物の一つも本だと思う。これからも楽しくやりましょ〜maru +++ #
by urag
| 2015-07-09 13:54
| 雑談
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