2015年 08月 12日
「雑談(14)」に関することなので末尾にくっつけたかったのですが、字数制限で新エントリーです。不便だなあ。アマゾンに関するお話しの続きです。 ◆8月12日17時現在。 拙記事に対してtwitthalさんからツイッター上で色々コメントをいただいたようです。twitthalさんありがとうございます。深く御礼申し上げます。私はツイッターのアカウントを持っていないので、他人行儀ながら拙ブログ上での応答になりますこと、お許しを請う次第です。 まず最初に、「Blog主のuragさんの疑問「なぜマスコミ報道に対してではなく、特定の団体や特定の会社に対して「反論」を試みたのか。」にお答えします。これらの記事がnet上でのこの誤解に関する大きな震源地だったからですよ」とのことですが、それは「アマゾンの日本での消費税の納税について」というご論考でもお書きになっていることなのでご意見として存じています(ただ、私にはこの二者が突出しているようには思えませんし、この二者以外にもtwitthalさんが「反論」しなければいけない相手は数多くいるように感じています)。 私がtwitthalさんの立場や立ち位置に興味がわく、と書いたのは、その「震源地」がtwitthalさんの利害にどう関係しているのかが見えてこなかったからです。twitthalさんはアマゾンとどういうご関係なのでしょう。出版社が答えを聞きたいのはアマゾンからであって、twitthalさんに答えを求めているわけではない。現状ではアマゾンの代わりにtwitthalさんが答えているかのようなかたちに見えてしまっています。それがtwitthalさんにとって本意でないならば、ご自身がお感じになっている利害や立場についてまず説明があった方が読み手には理解しやすいと思います。 「どうして税法上の取り扱いという専門性の強いことについて不勉強なまま参戦するのだろう?」とのことですが、「参戦」したいのではなくて、出版社は本件について関心を持っているということなのです。そのあたりはtwitthalさんとしても、アマゾンと出版社との間にどんな対立の歴史があったかについて、もしご関心がおありならば複数の出版人にお聞きになってみてはいかがでしょう。意外と根深いですし、長い話になりますよ。なんなら私にもお尋ねいただいて構わないです(ただし弊社は出版協には所属していません)。面倒臭いかもしれませんが。 「まあ私の記事も一定の消費税法の知識が無い方にとっては理解しづらいものであるということだな。役務の提供の内外判定の改正のことも含めて書き直した方がいいのかもしれない」とのこと、御賢察の通り私など本件について理解できているとは言い難くこんがらがっているので(ありのままをブログに書きました)、そうしていただける方が分かりやすいかもしれません。 今のところ、twitthalさんの「反論」はアマゾンの肩を持って特定の出版団体や会社に反撃を加えるためのある意味政治的な効果を狙った記事、であるかのように業界人にとっては見えてしまうリスクがあると思われます。また、業界人の立場から「twitthalさんの方が《出版界の問題圏》に参戦したがっているのだ」と穿った見方をする人もいるかもしれません。もしtwitthalさんの第一目的が税法に対する正しい理解の促進であって、アマゾンを庇ったり版元の知識不足を指弾することだけに特化しているのではないなら、アマゾンだの出版協だのという固有名詞抜きで語っていただく方が、読み手のバイアスがかからなくていいのでは、と感じています。少なくとも一方を《擁護》しているように見られなければならない義理も必要もないのではないかと拝察します。 +++ ◆8月12日18時現在。 さて、「雑談」カテゴリーのエントリーをここしばらく読んでくださった方々の中には「いったい某取次のことはどうなったんだ」と思っておられる方もいらっしゃるでしょう。債権者である版元たちは先週4日の時点で債権額の届け出を終えていますから、今のこの時期は目立った動きがありません。しかし細かい出来事は引き続きあれこれ起こっていまして、キーワードのみ挙げると「SKRに滞留している返品」「ブックサービスのアンケート」「特定版元一覧」などがあります。あとはお察しいただくしかありません。いよいよ個別対応の案件が多くなってきているからです。 今までの流れをもう一度おさらいし、整理し直す必要性も感じていますけれど、一方で今や本業を優先する時期ではあります。ある先輩はこう話していました。「俺たちの仕事は本を作ることなんだから、いちいち立ち止まっていられないよ、取次がひどいって言ったって潰れるってのはそんなもんだよ、これからはもっとひどいことがおこるぜ、俺はそんなことには左右されない」。ごもっともです。ただ、今回の件はいちいち胸に刻んでおく必要があることも確かです。できればこうした問題は繰り返したくないからです。 この先、再生計画の決を採る債権者集会が行われるわけなので、まだ本件は終わってはいないのです。更新ペースは落ちると思いますが、最後まで見届けるつもりです。そしていずれ、遠からず、以前のような(?)平穏でゆっくり、なブログ、本をめでるブログに戻りたいと思います。 +++ ◆2015年8月18日11時現在。 twitthalさんから再び丁寧なコメントを頂戴しました。こうしてやりとりの機会を作って下さったことに深く御礼申し上げます。とても嬉しいです。お盆休みの時間を割いてご投稿いただいたばかりか、お盆明けでご多忙なはずの今日にも追記を投稿して下さり、たいへんに恐縮です。少なくとも私にとってはtwitthalさんが意図されていることについての理解が以前よりずっと進んだように感じています。私からの応答(特に「なぜ出版人はかくもアマゾンを信じることができずにいるのか」について)は追ってこのエントリーで補足するつもりですが、まずはtwitthalさんに感謝の言葉を捧げ、心からの挨拶を送ります。 +++ ◆2015年8月19日14時現在。 某巨大ネットショップについてのtwitthalさんとのやりとりの続きです。twitthalさんの応答に改めて御礼申し上げます。 まず、twitthalさんの立場についておさらいします。twitthalさんはまず「【某ネットショップ】に対しては単なる一利用者」であり、「「税法に関する議論は正しい知識に基づいて行われるべきであり、憶測や間違った前提に基づいてそれが行われるのは納税者にとって不幸なことである」という考えから、何が正しいのかということを啓蒙したい」との意図のもと、「この問題に長らく関わって」いらっしゃる、と。そのうえで、「私の note の記事は、昨年の消費税率アップのタイミングで書かれたものであり、私としては、「消費税」という話題に上がっている税目への賛否をそれぞれの立場で考える時に、「【某ネットショップ】は消費税払ってない」「輸出戻し税という不公正」などのノイズを除去したいということを目的としていました」とのことですね。そしてそこには「政治的な意図も何もない」と。 twitthalさんのnote記事を拝読する限りでは必ずしも読み手には判然とはしていなかった部分をより詳しくご説明いただいたことによって、出版業界が抱きうるtwitthalさんの印象というのは変わってくるはずだと私は感じています。 twitthalさんの記事は某出版団体のブログに掲載された文章に対して、執筆した方の会社名と個人名を明記された上での反論でした。某団体と某ネットショップの長い関係性の歴史を多少なりとも見聞きしてきた業界人にしてみれば、二者の間に割って入ることに伴うリスクは承知しているわけなので、よほどのことがない限り火中の栗を拾いにいくことはしません。くだんの疑惑について某ネットショップが公式な弁明を出したことがないだけに、twitthalさんの介入は業界人にとって突出したものに見える可能性がありました。twitthalさんが誰なのか、どんな仕事をしているのか、某ネットショップとはどんな関係なのか、について少なからぬ関心を抱く業界人がいたかもしれません。またその関心はtwitthalさんが本件に関わり続ける限りは今後も持続するものと思われます。 日本の税法や税制に対する理解への自負をお持ちの方にしてみれば、「消費税不払い」などそもそも不可能だ、ということなのですね。出版人や作家、書店人、あるいは一般人の中にも広く、杜撰な解釈が蔓延している《惨状》を見かねてのtwitthalさんのアクションである、と私なりに想像しています。この《惨状》について一点だけ私から補足するとすれば、twitthalさんが憤慨しておられるほど、発言者全員が無知ではないかもしれない、ということです。一見無知に思える疑義は、対象者からの何かしらのレスポンスを期待しての一手法であると理解した方が良い場合があります。税法と税制の理解に立って対象者の納税状況を推測することよりも、対象者自身から聞くことを重視しているわけです。むろん、本当に知識不足であっても、分かったふりをするよりかは、分からないし疑問に思うと表明するほうを選ぶ人もいるでしょう。この場合も当事者からの説明が聞きたい、という思いが根底にはあるものと思われます。(一方、国会で議員が質問する際、彼らは一企業の納税状況を知ることができるとまでは考えていないでしょう。課税や徴収が適切に執行されているかどうかを国に対して問うのが第一目的であると推察します。) 出版人であれ一般人であれ、某ネットショップを代弁することは不可能だ、というのが私の考えです。そこはtwitthalさんも同様のお考えではないかと私は想像しています。twitthalさんが反論記事で、某ネットショップは支払って「いる」、と《断言》するのを避けておられることは賢明なご判断だと思えます。twitthalさんにせよ私にせよ彼らに代わって断言する立場にはないわけです。それでも、とtwitthalさんは仰りたいのではと拝察しますが、税法や税制の理解だけでは本件を構成する要因すべてまでは除去しきれなさそうだ、と私としては感じている次第です。 さてここからは「なぜ出版人(の一部)はかくも某ネットショップを信頼することができないのか」について僅かばかりですが説明しないわけにはいかないでしょう。これは「「法の規定はどうなっているのか?」ということが全て」であるとのお立場からは容認も理解もしがたい要素ではないかと思えるからです。twitthalさんはこう仰っておられます。「【某ネットショップ】の存在に立場を一番脅かされているのは書店なのだろうなと思いますが、日本の出版業界がこの三者のバランスの取れた関係の上に成り立っていたという事情からか、傍からみたら「別に【某ネットショップ】が売ってくれるなら出版社は困らないのではないか」と思える出版社の方が強く反発しています」。当然の疑問であると受け止めていますし、なかなか面白いところを突いていただきました。 まずリアル書店(小売りのための実店舗がある本屋)の中に某ネットショップを脅威に感じている方がおられることは事実だろうと思います。ここしばらく続いている書店業界の再編劇は、成長を続けてきた黒船に対抗するという名目を含んだ、国内チェーンの生き残りを賭けた熾烈な戦いであると見ることが可能ですし、実際に某ネットショップに対して書店人がどう思っているかは私が説明するまでもありません。再編劇は今後いっそう加速するものと思われます。ごく分かりやすく言えば、特定の勢力に従来の勢力が駆逐されるがままになるということは避けねばならない、と考えている利害関係者がそれなりにいるわけです。 では「「【某ネットショップ】が売ってくれるなら困らないのではないか」と思える出版社」がなぜ噛みついているのか。某出版団体というサンプルは特異な面があり、一概に出版社の方がより強く反発している、というわけではありません。それでもあくまでも一出版人の立場から端的に説明を試みると、某ネットショップは自分のやりたいようにやるだけで出版社とはしばしば没交渉な部分がこれまでに見受けられました。そうした《企業体質》に様々な疑義を誘発する因果の一端があるのではと感じています。日本の商習慣や商道徳を軽視しているのではないかと疑われざるをえない行動をとることがありましたし、さらに言えば、出版社にとってだけでなく読者にとっても不合理となる案件について先方に指摘してもいっこうに改善しない、という前例も実際にありました。こうしたことは日常的に出版人が経験してきたものです。顧客第一という割には疑問を覚えざるをえない難点が某ネットショップにはあった、と指摘せざるをえません(出版社の不安や不満は様々ですし、交渉のポイントも多様なので、現時点で私ができることは未解決案件を列記することではなく、示唆に留めるほかはありませんけれども)。そうした払拭し切れない様々な疑問が2000年11月の日本進出以来、長年にわたって澱のように溜まっていき、近年では某出版団体に所属する複数の版元のようについに実力行使(出荷停止)に至るケースも出てきている、といったところです。 某ネットショップの徹底した秘密主義や特異な社風、革新的で破壊的な発明の数々、諸外国での節税対策、あるいはそれらに関連したリーク記事や潜入レポートに接するにつけ、「あの会社ならやりかねない」という疑念や諦念が業界内外には根強くあるのだろうと感じています。例えば昨日、こんなニュースありましたね。「Bloomberg」2015年8月18日付、Alex Barinka氏記名記事「【某ネットショップ】CEO:社内幹部の「冷淡さ」否定-米紙報道を批判」。さらに「TechCrunch」2015年8月18日付、Jon Russell氏記名記事「【某ネットショップ】の労働環境を非難するニューヨークタイムズの記事に【CEO】が「全くの誤り」と猛反論」。CEOが反論したところで「信じられるかよ」と思っている人々が業界内外にいるであろうことは押しとどめようがありません。過去にも多数の関連記事を参照することができます。それらは出版界のみが提示している疑義ではない、ということは御承知の通りです。 私にとっては、某出版団体の記事を重要視していないというよりは、twitthalさんの介入の仕方にいっそうの興味がありました。しかし今回のやりとりによって、twitthalさんへのありうべき誤解は緩和されたはずだと信じます。一方で、某ネットショップに対する不信感というものは今後も様々なかたちで噴出し続けるものと思われます。私としては先方がそれを過小評価せずに、様々な疑問に対してたとえ馬鹿馬鹿しいと思うことがあってもフラットかつオープンに応答し、日本の出版業界(の小さくないかもしれない一部)に対して《敵対的》に見えなくもなかったこれまでのいささか不幸な歴史を少しでも塗り替えてくれるよう期待するばかりです。 ともあれ最後に、twitthalさんがかくも貴重なやりとりの機会を作って下さったことにもう一度深謝申し上げます。 +++ #
by urag
| 2015-08-12 17:37
| 雑談
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2015年 08月 11日
なぜこうも出版業界では次から次へと無視できない事案が発生するのでしょう。今回は「アマゾンが消費税を日本に納税しているのかどうか」についての話題です。備忘録のようなもので、私自身勉強中といったところです。お見苦しい点もあるかと思いますので、あらかじめお詫びします。 ◆8月11日18時現在。 Amazonマーケットプレイスへの出品者に対してAmazonテクニカルサポートから先週Eメールで届き始めたお知らせ「2015年の税制改正による、販売手数料などサービス料の消費税の扱いについて」が大きな反響を呼びつつあるようです。アマゾンのセラーフォーラムのスレッド「2015年の税法改正による、販売手数料などサービス料の消費税の扱いについて」や、ソーシャルブックマークサイト「reddit」の「Amazon 日本への納税を開始」などをご参照ください。 ある方がブログで明かしておられるメール詳細からポイントを抜き出してみます。「2015年の税制改正により、国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直しが行われました。従来は、消費税法施行令第6条第2項第7号により、サービス提供者の本店所在地が米国であることから、国外取引として不課税取引としていました。/今回の税制改正に伴い、2015年10月1日以降のご利用分よりamazon.co.jpの出品サービスにおける販売手数料等について出品者様へ消費税をご請求させていただきます。/課税対象となる販売手数料は、月間登録料、販売手数料、カテゴリー成約料、基本成約料、その他返金手数料、大量販売手数料などの、Amazon出品サービスに関してAmazonが請求するサービス料が該当します。〔中略〕出品サービスを提供している米国法人Amazon Services International, Inc.では現在、国税庁へ登録国外事業者の登録申請手続きを行っています。これにより、本年10月以降の手数料明細書には、Amazon Services International, Inc.の登録国外事業者番号が記載されます。/上記は、日本の居住者である出品者様へのご案内です。日本国外の居住者である出品者様には適用されません」。 ブログ主さんはこう理解されています。「ということで要約すると、日本で消費税を払わなきゃいけなくなったから君たち負担してね!m9(^Д^) ということですね(笑)」。この理解はこの方に限ったものではなく、別の方々もこう書いておられます。ある方曰く「要約すると、Amazonさん今まで消費税を日本に払っていなかったけど、法律が変わったので、消費税の支払いしなくちゃならないので、セーラーの皆さんからも消費税分お金頂くからね(・∀・)つ って事らしいデス・・・手数料金が今までより8%上がるって事ですね・・・〔中略〕てか本当にAmazonさん日本で消費税を支払っていなかったのか。法人税は支払っていないのは知っていたけど、消費税は日本で支払っていると思ってました。びっくりだね(; ̄Д ̄)」。また別の方曰く「簡単に言うと10/1から私たちの提供するサービスに消費税が掛かっちゃうから払ってね。よろしく!ってことですね」。 アマゾンは出品者に対してQ&A方式でも本件を説明しており、その中にはこんなくだりがあることを別のブログ主さんが明かしてくださっています。曰く「Q: 2015年の税制改正で何が変わりますか? 〔A: 〕Amazonより日本の居住者である出品者様へ請求する販売手数料等のサービス料が課税になります。それ以外については、現時点では課税対象ではありません。また、フルフィルメントby Amazonは、従来より日本法人アマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社が提供しており、国内取引として手数料に対して消費税をすでに請求しています。そのため、2015年税制改正による変更はありません」。「Q: Amazonはなぜ販売手数料を課税扱いに変更したのですか? 〔A: 〕Amazon出品サービスは、米国法人Amazon Services International, Inc.が提供するものです。従来は、消費税法施行令第6条第2項第7号により、サービス提供者の本店所在地が米国であることから、国外取引として不課税取引としていました。2015年の税制改正により、サービスの提供を受ける者が日本国内の居住者であれば課税取引となることから、2015年10月1日以降は消費税が請求されます」。 アマゾンはさらっと書いていますが、再度引用しますと「従来は、〔中略〕サービス提供者の本店所在地が米国であることから、国外取引として不課税取引としていました」と。ここで出版人にとってどうしても気になってくるのが、紙媒体の和書の消費税が消費者から徴収された後にアマゾンがそれをどう処理していたのか、ということです。アマゾンが消費税を日本に納めていないのではないか、という話はつとにささやかれ続けていたことですし、それに対する第三者の反論もネットで読むことができます。 まずAmazon.co.jpの「特定商取引法に基づく表示」を確認すると、販売業者は「アマゾン・ドット・コム インターナショナル セールス インク(Amazon.com Int'l Sales, Inc. 410 Terry Avenue North, Seattle, WA 98109-5210 USA)」となっています。米国に拠点を置く法人だということです。この会社の名前はamazon.co.jpより購入した場合の領収書に「販売: Amazon.com Int'l Sales, Inc. 」として記載されているものですし、納品書にも同名が記載されています。「J-CASTニュース」2013年9月23日付記事「消費税を支払っていないアマゾン 出版業界など「不公平だ」と怒る」での記述を借りると、「国内には、販売を手掛ける「アマゾンジャパン」と物流業務を行う「アマゾンジャパン・ロジスティクス」がある。この2社に米本社の関連会社「アマゾン・ドットコム・インターナショナル・セールス」が委託して手数料を払い、販売代金を受け取って米国で納税している仕組みだ」と。 Amazon.co.jpの「特定商取引法に基づく表示」に記載されている「日本でのお問い合わせ先」は「アマゾン ジャパン株式会社(〒153-0064東京都目黒区下目黒1-8-1 電話: 0120-999-373 電話番号のかけ間違いにご注意ください)」で、「販売価格」欄は「国内再販制度対象商品については定価販売です」と始まり、消費税についての説明――「消費税は、お届け先が日本国内の場合のみ課税されます。Amazon.co.jp ではお客様にご注文いただいた各商品、サービスに対し、8%の消費税を課税しております。ただし、Amazon.co.jp が販売するAmazonギフト券、Kindle(電子書籍)、デジタルミュージック商品、アプリストア商品(アプリ、アプリ内課金およびAmazonコイン)ならびに一部のゲーム&PCソフトダウンロード商品の購入には、消費税は課税されません。詳細については、当サイト上の消費税についてをお読みください」――で終わります。 サイトでの価格表示は税込ですし、納品書にも税込価格として記載されています。アマゾン・ジャパン(Amazon.com Int'l Sales, Inc.)から買おうと、マーケットプレイス(Amazon Services International, Inc.)の「フルフィルメントby Amazon」(FBA)扱いから買おうと、いずれも「税込」と表示されています。ちなみに今ここで書いているのはマーケットプレイスのFBA扱いの「出荷明細書」の話で、個人の出品者が発行しているものではありません。アマゾンが出品者の発送の手間を省いて商品管理や発送を代行するのがFBAであり、この扱いの商品を購入した際に添付される書類です。個人出品者が発送した商品に付いたり付いてなかったりする「注文番号」等を記した書類ではだいたい「価格」となっているだけで消費税は記載されていません。 なお、最初に引用したある方のブログ記事の続きにはこんなことが書かれています。「詳しく書くと長く書くのでアレですが、実は今までは消費税を徴収されていなかった関係で、Amazonの利用料って、税申告のときに利益から相殺できなかったんですよ。/でも、今回消費税がしっかりと反映されることになりましたのでこれからの利用料はちゃんと利益から相殺できるはずなんですよね」。他方、出品者へのアマゾンのお知らせメールには「また、フルフィルメントby Amazonの手数料はすでに課税対象になっていますので、2015年の税制改正による変更はありません」とあります(ただし問題なのはこの「すでに」が正確にはいつからなのか、ということです。先に引用したブログ主さんも「少し、謎が残りますし、Amazonの職員さんもよくわかっていないようなので、追跡調査が必要ですね」とお書きになっています)。 以上を総合すると、FBAを利用する出品者の手数料は(いつからだったかはともかくとして)「課税」されており、FBAを利用しない出品者の手数料は9月30日までは「非課税」であるということなのかと思われます。だからFBA扱いの出品明細書は税込表示で、出品者発行の注文番号書類ではただ「価格」と記載されていた、と。【ここまでのFBAへの言及部分は当初、グルグルと無駄に堂々巡りをしている感じを残していたのですが、かえって混乱するばかりなので書き直しました。】 閑話休題。マーケットプレイス(Amazon Services International, Inc.)が「国外取引として不課税取引」としていたなら、やはりこの解釈はアマゾンとしては同様に海外法人であるAmazon.com Int'l Sales, Inc.での取引にも適用させているのだろうと考えるのが妥当です。そうなるとアマゾン・ジャパン(に業務委託しているAmazon.com Int'l Sales, Inc.)での新本の販売も「国外取引として不課税取引」であったはずなのですが、実際には購入者から消費税分を徴収している。ではその消費税はその後、日本に収められたのかどうか。 アマゾンが消費税を収めていないのでは、という疑義は先述した通り、巷で数多く聞かれる声です。先に引用した「J-CASTニュース」2013年9月23日付記事「消費税を支払っていないアマゾン 出版業界など「不公平だ」と怒る」だけでなく、複数のマスメディアにも取り上げられてきました。なお、電子書籍は今回の議論の前景ではないので、あくまでも国内の紙媒体の書籍販売に関することを書いているつもりです。周知の通り「アマゾン 消費税」とグーグルなどで検索すると上位に「アマゾンの日本での消費税の納税について」というtwitthalさんによる2014年5月4日付記事がヒットします。「アマゾン社の日本での消費税の納税について、多くの誤解がネット上で散見されます。誤解に基づいた議論は生産性が無いと思うので、実際はどうなのかをまとめてみました」と書き出され、長文の考察を展開されているのですけれども、結論としては「現行の法令で、アマゾンは日本の消費税の納税義務者ですし、国内通販分についての申告納税を適切に行っているものと思われます」と書くのみに留めておられます。 この方はこの投稿のあとに、2014年9月15日付で「「アマゾンで買った書籍の消費税は払い損?!」ではありません。」という記事も公開されており、そこでは出版協ブログの2014年5月2日付エントリー「アマゾンで買った書籍の消費税は払い損?!」や、奥村税務会計事務所代表者ブログの2013年12月29日付エントリー「消費税回避の達人、アマゾンのしたたかさ」への「反論」が書かれているのですが、ここでも長文を費やしているにもかかわらず、一番大事な部分では、「主に「アマゾンは書籍の国内通販で消費税を払っていない」という意見の根拠として引用されることが多いのですが、これは全くの誤解であり、アマゾンは国内での書籍販売を含む通常の通販事業については消費税の納税義務者であるので、法令に従った消費税の納税義務を果たしているはずです」とお書きになるのみでした。 納税している「はず」だ、というだけでなぜ「全くの誤解だ」と強弁できるのか不思議です。ところどころ鋭いツッコミを展開しえているのに、これでは「反論」としては充分機能しません。なぜアマゾンにそもそも裏取りをしないのか。それは裏取りが不可能だからでしょう。アマゾン自体が「ちゃんと納税しています」とは一度も明言したことがなかったと記憶しています。これは国会で自民党の三原じゅん子さんや民主党の有田芳生さんによって追求されていますが、実態は明かされないままでした。三原さんの質問は「「Amazon税金払え!」自民の三原じゅん子議員が国会質問 [政治]」(2014年3月22日)でまとめられています。有田さんの質問は出版協の前出のブログ記事で言及されています。 twitthalさんはこう書いています、「私の竹内氏に対する反論は以上ですが、こんな匿名の記事で反論を受けても、竹内氏は納得しないかもしれません。/竹内氏及び関係者の方々にお勧めしたいのはそれぞれ出版社だったり書店だったりの経営者さんなのでしょうから、自社の顧問税理士、あるいは自社の経理担当者に「自分の記事は間違っていないか」ということを確認してもらうことです」と。なぜこの方がここまで前のめりになって匿名で長文考察を投稿したのか、なぜマスコミ報道に対してではなく、特定の団体や特定の会社に対して「反論」を試みたのか。出版協がアマゾンと鋭い対立を繰り返してきたことをよく知っている上でのこの行為なのか。この方の立場、立ち位置にとても興味が沸きます。 さて結局のところアマゾン(アマゾンのどの組織か、という問いが重要ではあります)はいったい消費税を払っているのでしょうか。払っていなかったのでしょうか。「共同通信」2009年7月5日付記事「国税がアマゾンに140億円追徴 日本事業は課税対象」というニュースをご記憶の方も多いかと推察します。曰く「日米租税条約では、国内に支店などの「恒久的施設」を持たない米国企業は、日本に申告や納税をする必要がない。/関係者によると、関連会社は日本国内に支店を置かず、顧客との契約や代金授受などを直接行っていたが、国税局は、流通などを委託された日本法人が実質的に支店機能を果たしていたと認定し、日本で発生した所得の相当額を日本に申告すべきと指摘したもようだ。〔中略〕関連会社は「アマゾン・コム・インターナショナル・セールス」で、北米以外の各国の事業を統括。日本では物流などを日本法人2社に委託した上、契約や売上金計上などは同社で行い、納税先も米国側に集中させていた」。 そしてこれがどう決着したのかもご存知でしょう。今なお閲覧可能なサイトから選ぶと、たむごんさんのブログ「粉飾決算 脱税と倒産」の2013年1月11日付記事「アマゾン税金脱税と節税」では「国税庁がアマゾンに敗北」とあり、ニュースサイト「Business Journal」2013年2月11日付の柳谷智宣さん記名記事「アマゾン、課税&送料有料化開始とライバル・ヨドバシ浮上で迎える転換点」では「アマゾン側は本社のあるアメリカに税金を納めているということで抗弁、結局国税局は10年に引き下がっている。要は、アマゾンジャパンは販売や物流の委託を請け負っている形なのだ」。阿智胡地亭さんのブログ「阿智胡地亭の非日乗」2013年3月19日付記事「アマゾンは非合法スレスレで140億の税金を日本国に払っていない。」でも同様に「国税庁がアマゾンに敗北」と。「カイケイ・ネット」2014年12月19日付会計業界トピックス「【コラム】法人税を納めるべき?アマゾンの法人税問題」では「これを不服としてアマゾンは日米両国の当局による相互協議を申請しましたが、2010年9月、日米相互協議の結果は国税庁の大負けでした」と書かれています。 これは法人税のことで消費税のことではない、と読むべきでしょうか。この辺の整理で個人的にたいへん参考になったのは、「dunubの窓」ブログの2013年9月30日付記事「国税局と追徴課税でもめているアマゾン(Amazon.co.jp)は消費税の申告・納付をしているのか?」です。曰く「アマゾン追徴課税問題は、現代における課税と徴税のあるべき姿を問うものでもある」。「最初にお断りしておくが、ここで取り上げるのは、米国にある北米地域以外の営業を担っているアマゾン・ドット・コム(Amazon.com Int'l Sales, Inc)に対する疑義であり、その委託を受けて日本向けの業務(販売そのものではない)を行っている日本法人のアマゾンジャパン株式会社やアマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社に対する疑義ではない。/日本法人の両社は、日本の税法規定に従い法人税及び消費税その他の税関連について申告と納付を行っていると思っている」。 また曰く「アマゾンの課税逃れはネット上でも話題になり、アマゾンはもう利用しないといった怒りの声も上がっていたが、消費税については、「アマゾンは消費税を受け取っているのだから納めているはず」という声が多い。/アマゾンに関する追徴課税問題を読んだとき、税目が明示されないことに疑念を覚えた。追徴課税の税目は法人税であるとの説明が目に付くが、消費税についてどうなっているのかまったく見えてこない。/法人税の課税ベースを把握するためには、消費税の課税ベースを把握する以上の税務調査が必要だ。東京国税局は、米国シアトルにあるAmazon.com Int'l Sales, Incの税務調査を行ったのだろうか。/むろん、アマゾンジャパンやアマゾンジャパン・ロジスティクスを調べれば、Amazon.com Int'l Sales, Incの日本での仕入金額・経費・売上金額はなんとかつかめるから、それらから算定した税額を、異義の申し立てがあることを承知で追徴課税したのかもしれない。/ともかく、追徴課税の税目は法人税のようになっているが、法人税は負担しないけれど、消費税は負担するといった企業行動は、私の理解を超えている。/勝手で失礼な推測に基づくが、米国の州税である「売上税」さえ納付していないアマゾンが、より抗弁しやすい日本の消費税を納付しているとは考えにくいのである」。 さらに曰く「仮に、アマゾンが、法人税(や消費税?)を負担しないで済むことを奇貨として、消費税抜きの書籍安売りを仕掛けると、書籍の仕入・再販売契約違反となり、書籍の仕入ができなくなるだろう。(さすがに、アマゾンへの販売が大きいと言っても、取り次ぎや出版社がそれを見逃すことはできないだろう。見逃せば、「書籍再販制度」が有名無実なものになってしまうからだ)/実を言うと、アマゾンの消費税申告納付問題については、国税庁に電話を入れて確認を取ろうとしたが、「守秘義務」を盾に回答をもらえなかった」。そしてこのあと、ブログ主さんはアマゾンが消費税を申告しているか、していないか、両方の可能性について鋭利に分析されています。ここがとても重要な部分ですので、ぜひ皆さんもリンク先を訪問されお読みになられてみて下さい。 +++ ◆8月12日午前2時現在。 以下もご参照いただけたらと思います。 「産経ニュース」2014年6月26日付記事「海外からのコンテンツ配信、来年度にも消費税課税へ 非課税アマゾンなど標的」に曰く「新たな制度は、消費税の課税基準を現在の「配信企業の所在地」から「配信を受ける消費地」に変更」。 「J-CASTニュース」2014年6月27日付記事「アマゾンなどに消費税 来年度税制改正」に曰く「税制改正は来年度を目指し、日本での年間売り上げが1000万円を超える海外の企業に対し税務署への申告納税を義務づけるといった内容になっている」。 「税理士ドットコム」の「トピックス税金・お金」2014年7月13日付記事「アマゾンの電子書籍にも「消費税」課税へ・・・「海外企業」からどう徴収するの?」に曰く「サービスの提供先が消費者か事業者かによって、納税方法が変わってくる」。 「アマゾンウェブサービス(AWS)」の「消費税率変更についてのよくある質問(2015年税制改正により2015年8月1日改定)」に曰く「Q1: 2015 年税制改正により何が変わりますか? A1: 改正前は日本の居住者であるお客様が東京リージョンをご利用の場合、日本国内取引として消費税をご請求させて頂いておりました。2015年10月1日以降のご利用分より、日本の居住者であるお客様については、日本国外のリージョンをご利用の場合も消費税をご請求させて頂きます」。 +++ #
by urag
| 2015-08-11 19:04
| 雑談
|
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2015年 08月 10日
「雑談(12)」の末尾にくっつけておきたかったのですが、毎度の字数制限につき新エントリーとなります。例の取次問題とは別件の、根深い図書館問題についてです。ごく簡単に本件を把握されたい方はまずこちらのツイートをご覧ください。出版人ももはや「詳しくは知らなかった」では済まされないはずです。 ◆8月10日18時現在。 「雑談(12)」で先述した「#たけお問題」に関連して、ヤフー株式会社のCISO Boardをおつとめの楠正憲さんのブログ「雑種路線でいこう」の2015年8月9日付エントリー「武雄図書館リニューアル時の資料選定にみる指定管理者制度のagency problem」での言及をいくつかご紹介します。 曰く「『火花』の貸し出しが2年待ちだなんて話を聞くと、本当にバカバカしいと呆れてしまう。税金をつかってまで売れている本の発行部数を多少減らすことに、どれほどの意味があるのだろうか?自腹で本を買っている同じ納税者として、ベストセラーを無料で読むことを住民サービスとして期待する向きは如何なものかと感じている。図書館は貸し出し待ちが多いからといって同じ本を何冊も買うべきではない」。 まったくその通りです。同様の意見はそれこそ昔から色んな方々から聞くことで、一出版人としても同感です。中にはどえらいクレームをつけてくる利用者もいるようで、「マガジン航」に7月9日付で公開された、シンポジウム「公共図書館はほんとうに本の敵?」(2015年2月2日@紀伊國屋サザンシアター)の記録には、司会進行を務められた植村八潮さん(専修大学文学部教授)がこんな事例を紹介されています。 「植村――山梨県立図書館で、阿刀田館長は「本をすぐ読みたいのなら、やはり買ってもらうように言いなさい」と指導していると聞きました。自らが言うのはいいけれど、たぶんフロントの人が利用者に言うのはむずかしい。なぜかというと、私の学生が、図書館でアルバイトをしていて、予約が200番だと「私、税金を払っているんだから、200冊買いなさいよ」と罵声を浴びせられたという。猪谷さんが紹介された「いい図書館」は、結局、市民性の反映かなと感じました。ちょっと言い過ぎかもしれませんが」。 ここで言われている本は200人待ちということから推測するに、おそらくベストセラーの類でしょう。1冊5000円以上するような本ではないと思われます。これを納税者が200冊買えと要求するのはあまりにも極端ですが、たとえこれが20人待ちだったとしても、副本が20冊あっていいとは思えません。多くの方が言っておられるようにせめてベストセラーは本屋さんで買ってもらった方がいいのです。 楠さんのエントリーに戻ります。曰く「とはいえリニューアル時に武雄図書館が購入した蔵書リストをみて、これはさすがにまずいんじゃないかと感じた。POS情報と取次のいいなりでつくられた薄っぺらな本屋の棚づくりよりもずっとひどい、明らかに売れ残った本の掃き溜めにされてしまっている。どんなに間抜けな資料選定をやったら、こんな下品なリストができるのだろうか?どこぞの新古書店の不良在庫を押し付けられているにしては図書の単価が高い点も気にかかる。/指定管理者が不良在庫の受け皿として委託を請け負った図書館を使うのは典型的なagency problemで、忠実義務違反に当たるのではないかと地方自治法244条を引っ張り出してみると、指定管理者制度は委託ではなく行政処分で、そもそも忠実義務なんか存在していない。地公体は指定管理者に対して当該管理の業務又は経理の状況に関し報告を求め、実地について調査し、又は必要な指示をすることができ、指示に従わないとき等はその指定を取り消し、又は期間を定めて管理の業務の全部又は一部の停止を命ずることができることになっているので、結果として忠実義務違反を追求できるのであれば、制度の不備とまではいえないのかも知れないが、指定管理者を決める際に入札を行う例も多い中で、他で元を取る商法を野放図に認めてしまうと行政の質を担保できないことが懸念されるので、何かしら忠実義務のようなものを規定しておいた方がいい気がする」。 何かしら忠実義務のようなものを規定しておいた方がいい、というご意見に同感です。このあと楠さんは「指定管理者の選定と監督は発注者である自治体の責任だし、【社名は伏せます】が受託した他の図書館において、これほど下品な資料選定は行われていないと信じたいところではあるが」と続けておられます。実際のところこの件を業界側から見て非常に怪しいと受け止めている方々がいます。以下ではとりあえず今回の件でまとめサイトなどに名前が出ている企業について、次の時系列を押さえておこうと思います。 まずは武雄市図書館のリニューアルについてWikipediaの説明を借りると「2012年5月4日に市議会の承認を得ないまま【社名は伏せます】を指定管理者にすると発表、11月1日から2013年3月31日まで改装工事のため閉館。2013年4月1日、全面改装し、【社名は伏せます】を指定管理者とした運営が始まった。【社名は伏せます】は目的外使用の許可を得てスターバックスを含む【書店名は伏せます】を設置」。さらにこれを踏まえて、経済ジャーナリストの財部誠一さんによる「経営者の輪」(2008年9月9日)を参照するとともに、長らく武雄市図書館について調査されてきた前田勝之さんの「サーバ管理者日誌」2014年4月29日付エントリー「シリーズ武雄市【書店名は伏せます】図書館(27) - 【佐賀新聞】書籍・DVDなど大量廃棄 武雄市図書館新装時に」を読み(このシリーズは必読です)、その上で指定管理者と新古書店の間の前後関係をおさらいします。 「日本経済新聞」2013年11月22日記事「【社名は伏せます】、ブックオフ株すべて売却 業務協力は継続」に曰く、「両社の資本関係はなくなるが、ブックオフは「【書店名は伏せます】」のフランチャイズチェーンとして約30店舗の運営を手掛けており、業務面での協力は今後も続くとしている」。 「MONEYzine」2014年7月24日付、(株)ストライク記名記事「ブックオフコーポレーション<3313>、「【社名は伏せます】」31店舗を譲渡」に曰く、「ブックオフコーポレーション(神奈川県)の子会社で「【書店名は伏せます】」のFC加盟店として33店舗を運営するブラスメディアコーポレーション(神奈川県)は、新設分割により「【書店名は伏せます】」31店舗(売上約89億円)及び本部機能を新設会社(東京都)に承継させた上で、その新設会社の株式80%を、大手出版取次会社であり、「【書店名は伏せます】」のFC加盟店44店舗を運営する日本出版販売(東京都)に譲渡する「基本合意」を締結した(その他小売業界のM&A)」。 「流通ニュース」2014年9月19日付記事「ブックオフ/【書店名は伏せます】運営子会社を20億円で譲渡」に曰く「ブックオフコーポレーションは9月19日、子会社のブラスメディアコーポレーションがフランチャイズ加盟店として運営する「【書店名は伏せます】」31店を、会社分割により新設会社に承継し、新設会社の株式のうち80%を日本出版販売に譲渡すると発表した」。同ニュースの2015年3月18日付記事「ブックオフ/【書店名は伏せます】運営子会社を日販に譲渡」に曰く、「ブックオフは3月17日、連結子会社のB&Hがブックオフの持分法適用関連会社のブラスメディアコーポレーションの全株式を日本出版販売に譲渡すると発表した。株式の譲渡価格は4億8500万円」。 そして、ブックオフの2015年3月現在の主要株主についても押さえておきます。Wikipediaによれば以下の通りです。ヤフー:議決権比率15.02%、ハードオフ:6.78%、大日本印刷(DNP):6.21%、丸善:5.73%、自社従業員持株会:5.59%、講談社:4.03%、小学館:4.03%、集英社:4.03%、図書館流通センター(TRC):3.63%。丸善とTRCがDNPグループの一員であることは言うまでもありません。拮抗していますが、筆頭はヤフーではなくDNPグループです。ちなみにハードオフの大株主はこちらをご覧ください。 日販の上位株主についても覚えておきましょう。同じくWikipediaからの情報です。2015年3月31日現在、講談社:6.08%、小学館:6.02%、日販従業員持株会:5.31%、光文社:2.83%、文藝春秋:2.31%、秋田書店:2.25%、三井住友銀行:2.14%、KADOKAWA:2.04%、旺文社:1.83%。光文社は講談社と同じ音羽グループなので、筆頭は音羽グループということになります。 話を戻すと、楠さんはエントリーを以下のように締めくくっておられます。曰く「武雄図書館のリニューアルに際して資料選定が杜撰だったことは残念だし、こういった悲劇が他の図書館で起こらないことを祈るばかりだが、そもそも武雄の問題に限らず、図書館の位置づけや役割そのものを今後どうしていくか闊達な議論の必要を感じる。文化を支える、知る権利を保障するといった公共性、住民ニーズと公平性、行政効率化の観点について、Google Booksや近代デジタルライブラリーといった新たなサービスの普及、住民のコラボレーションに対して適切に公共空間を確保できているかといった図書館に限らない街づくりの視点も踏まえつつ、落としどころを探っていく必要があるのだろう」。 まず、他の図書館でもこうした杜撰な運営がないかどうかについては、指定管理者次第で懸念が現実となるリスクが昔も今も高いと思われます。その上で言えば、楠さんが仰る通り、図書館の社会的な位置付けは街づくりの視点も踏まえて今後ますます議論されるべきです。その際には、業界や行政側は面倒くさがるでしょうけれども、一般市民に開かれた議論の場を設けるべきだろうと思われます。文化をめぐる大問題ではあるはずなのですが、大きいからと言って間違っても新国立競技場やら東京オリンピックやらのような、市民感覚からズレたトラブルを連発するようなことがあって欲しくないと強く思います。 選書やアーカイヴといった棚の中身に関わることがこれだけ赤裸々に問題になると、こちらのまとめサイトで武雄市図書館のことを褒めていた方々の声を読み返してみて、今さらながらに溜息が出ます。図書館も書店も、外観や内装や併設されている施設以上に棚の中身が問題になるのだ、ということ、そして、中身までじっくり見ている人は必ずしも多いわけではないのだ、ということを、痛烈に想起させます。当たり前すぎる結論かもしれませんが、中身ではなく雰囲気をもてはやされているだけの図書館や書店があるとしたら、それらはいずれ必ずすたれるだろうと言わざるをえません。 最後に、「J-CASTニュース」2015年7月29日付記事「樋渡啓祐・前武雄市長、【社名は伏せます】子会社の社長に就任」も御覧ください。曰く「【社名は伏せます】は2015年7月28日、地方創生や地方高齢者の健康促進など自治体向け事業を進める新会社「ふるさとスマホ」(東京都渋谷区)を設立、社長に樋渡啓祐・前武雄市長(45)が就任すると発表した。〔・・・〕 スマートフォンを持ち歩いた距離に応じてグループ共通ポイント「Tポイント」を与えるサービス、高齢者にスマホを提供して安否確認ができるサービスなどを通じ、格安スマホの拡販やTポイントの利用者拡大につなげたい考え」とのことです。7月28日付ニュースリリース「ふるさとスマホ株式会社 設立のお知らせ」もご参照ください。新会社のウェブサイトでは樋渡社長の満面の笑みの写真とともに代表あいさつが掲げられています。 +++ #
by urag
| 2015-08-10 19:05
| 雑談
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2015年 08月 10日
弊社出版物を扱っていただいている本屋さんでの新しい試みをご紹介します。フタバ図書福岡パルコ新館店(〒810-0001福岡市天神2-11-1福岡PARCO6F;TEL092-235-7488;FAX092-718-1771)さんは地下鉄空港線「天神」駅から徒歩1分の福岡パルコ新館6Fに2014年11月にオープンしたお店です。広さは約150坪、営業時間は10時から23時までで、階下のフロアより営業時間が長いです。同じフロアにはカフェが2つとイベントスペース「タマリバ6」があり、フロアごとにトータルコーディネートされた木肌の空間にしつらえられたソファでの書籍の閲覧も可能です。 店長さん曰く「夜20:30PM以降はパルコの階下がクローズし、アクセスの手段は新刊入り口脇の一本のエレベータのみとなります(B2地下鉄空港線改札口前、1Fから直通)。そのため空中庭園ならぬ“空中書店”の趣があります。2015年9月末以降、月2回程度の定例イベントを実施予定です。異色な書店空間をお楽しみいただけたら」とのことです。 こちらのお店で現在高評を博しているのがアジサカコウジさんのアートグッズ。弊社が製作しているものではありませんが、たいへん興味深い試みなのでご紹介いたします。同店長さんによれば「既に地元九州ではアジサカさんの知名度は高く、ギャラリーにおいても書店においても彼の個展はたびたび開催されてきました。当店では氏の作品、とくに氏の描く少女のアナーキーなエネルギーの放射を今後全国に伝えていけたらと思っています」と。 さらにアジサカさんのプロフィールについて店長さんよりご紹介がありました。「長崎県佐世保市出身。熊本大学文学部社会学科卒業後、渡仏。4年の滞在の後帰国、福岡に居をかまえイラストレーターとしての活動を始める。10年後2002年、ベルギーへ活動拠点を移すとともに、アクリル画の個展をはじめるようになる。以後、ブリュッセル、パリ、日本の各地で毎日個展を開催。2006年に帰国。現在は九州を拠点にイラストと絵画の制作に励む。2015年夏、オリジナルのグッズを「AZIZAKKA」という名でちょこっとずつ始める。福岡市南区在住」。 アジサカさんの既刊書にはコミック作品『ププの生活』(プランニング秀功社、2001年、絶版)があります。「ププの生活」の新作はアジサカさんの公式ウェブサイト上のブログ「ある日ノオト」で見ることができます。絵画作品は画集があったらいいのにと思う次第です。「ある日」ノオト」2015年7月21日付エントリー「AZIZAKKA」では、フタバ図書福岡パルコ新館店の店長さんとの出会いがアーティスト自身の言葉で語られていますので、ぜひお読みになって下さい。 +++ 以下では店長さんからいただいた写真をご紹介します。まず店頭の写真。 そして弊社本の写真。7月新刊『ヤスパース入門』とともに、集英社さんのカント『永遠平和のために』が並んでいます。個人的な感想を申し上げると、池内紀さんの訳によるカントは今までの既訳書の中でダントツに読みやすくて素晴らしいです。できればもっとカントをお訳しいただけるといいのですが・・・。 さらに弊社の森山大道写真集を揃えていただいています。一緒に並んでいるPARCO出版さんの寺山修司×森山大道『あゝ荒野』や、河出さんのサルガド自伝もいい本ですよね。 そして、奥の方に見えるのが、アジサカさんの「アジザッカ」が置いてあるコーナー。 絵画作品の巨大なパネルと、販売されているTシャツやトートバッグ、手ぬぐい、缶バッジ、ポストカードなど。 +++ 当ブログでは書店さんや図書館さんの様々な挑戦や工夫を随時ご紹介いたします。皆様からのお知らせをお待ちしております。 #
by urag
| 2015-08-10 12:28
| 販売情報
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2015年 08月 09日
◎共和国さん、航思社さん、洛北出版さんの新刊より 『誰も知らない 香港現代思想史』羅永生著、丸川哲史・鈴木将久・羽根次郎編訳、共和国、2015年8月、本体2,700円、四六判並製360頁、ISBN978-4-907986-09-4 『ヤサグレたちの街頭――—瑕疵存在の政治経済学批判 序説』長原豊著、航思社、2015年8月、本体4,200円、四六判上製512頁、ISBN978-4-906738-12-0 『レズビアン・アイデンティティーズ』堀江有里著、洛北出版、2015年8月、本体2,400円、四六判並製364頁、ISBN978-4-903127-22-4 ★『誰も知らない 香港現代思想史』はまもなく発売(8月15日頃)。日本語オリジナル論集です。著者の羅永生(Law Wing-sang, 1958-)さんは香港の嶺南大学文化研究系准教授。単独著としては本書が初めての訳書になります。『殖民家国外』(Oxford University Press, 2014)所収の論考を中心に編まれており、巻頭に著者の書き下ろしの「まえがき」、それに続いて9編の論考(うち『殖民家国外』からは4篇)、付録として「香港現代史略年表」、巻末に編訳者のお一人である丸川哲史さんによる解説「方法としての香港――あとがきにかえて」が付されています。本書の構成について「最初に香港現代思想の全体の枠組みを示す論文を配し、その次に「返還」前後の文脈と社会運動を個別に論じたものを置き、最後にそれらをトータルに理論的に総括する文章でまとめている」と丸川さんはお書きになっておられます。刊行のきっかけとなったのは、学術文化交流ネットワーク「MAT」(アジア現代思想プロジェクト)が企画した講演会だったそうです。MATのシンポジウム開催やウェブでの活動を担当しているのが「亜際学院」で、本書の共訳者でもある池上善彦さん(「現代思想」元編集長)の肩書が「MAT/亜際学院」となっています。 ★『ヤサグレたちの街頭』は発売済(8月7日)。取扱書店や目次詳細は書名のリンク先をご確認ください。前著『われら瑕疵ある者たち――反「資本」論のために』(青土社)から7年、最初の単独著『天皇制国家と農民――合意形成の組織論』(日本経済評論社、1989年)から数えて3冊目になります。1998年から2014年までに『現代思想』等で発表されてきたテクスト19篇が加筆修正のうえ収録され、巻末にはあとがきがわりに「風景の遷ろい――謝辞のためのセンチメンタルな「まえがき」」が付されています。「あとがき」ではなくなぜ「まえがき」なのかについてはこんな説明があります。「本書に「政治経済学批判 序説」というよくある副題を添えたのは、現在準備中の新著『資本主義機械の層序学――政治経済学批判』(仮題)への経路として本書を位置づけているからにほかならない。〔・・・〕この新たな第一歩を促してくれた人びとへの謝辞こそ、本書の「あとがき」であり、自作には組み込まれない「まえがき」でなければならない」(504頁)。なお本書の刊行を記念して、8月29日(土)15時~17時に、御茶ノ水のブックカフェ「Espace Biblio」にて長原豊さんと絓秀実さんによるトークショー「街頭のゆくえ――反資本主義のために」が行われます。予約制で参加費は当日精算1,500円です。詳しくはイベント名のリンク先をご覧ください。 ★『レズビアン・アイデンティティーズ』は発売済(7月31日)。リンク先で目次閲覧や立ち読みができます。帯文にも引かれている言葉ですが「本書では、使い古され、有効期限切れだと指摘される〈アイデンティティ〉という概念を、あえて考察の俎上にのせ、その限界をふまえながらも、しかし、いまだ有効でありうる可能性をみつけだしてみたい。〔・・・〕ひとつの試みとして、わたし自身がしばらくこだわってきた、「レズビアン」をめぐる〈アイデンティティ〉の可能性について、考えてみたい」(25-26頁)と。ただし本書は何かしらの限定的な特質を持った《変わらないもの》について論じているのではありません。セクシャリティの如何に関わらず、「他者との相互作用のプロセスのただなかを生きている」(21頁)、「複数のアイデンティティの束としての自己」(同)と向きあう上で、本書はいくつもの示唆を提示してくれます。その見かけ上の特定的印象とは異なり、たくさんの人々との予想外の出会いへと開かれている本なのです。「一人ひとりが、自己のなかにいくつもの〈アイデンティティ〉を抱えて生きている。異なった背景や経験ゆえ、モノの感じ方や行動の仕方も、そしてそれらを表出する方法も、一人ひとり異なり、時には衝突が生じることもある。その衝突もまた、〈コミュニティ〉をとおして、他者との共通点やちがいをみいだすような、境界を越境するきっかけになることもあるだろう。つまりは、衝突もまた、「自己の輪郭」をえがきだす手立てとなっていくのだ。そして、境界線に気づくとともに、それを越境する試みもまた、始動するのだ」(298頁)。 ◎人文書院さんの新刊と重版 『戦争と平和 ある観察』中井久夫著、人文書院、2015年8月、本体2,300円、4-6判上製208頁、ISBN978-4-409-34049-3 『高等魔術の教理と祭儀 教理篇』エリファス・レヴィ著、生田耕作訳、人文書院、2015年7月(2版第4刷);1994年、本体4,000円、A5判上製282頁、ISBN978-4-409-03022-6 『高等魔術の教理と祭儀 祭儀篇』エリファス・レヴィ著、生田耕作訳、人文書院、2015年8月(初版第4刷);1992年、本体4,000円、A5判上製332頁、ISBN978-4-409-03023-3 ★『戦争と平和 ある観察』は発売済。帯文に曰く「戦後70年、神戸の震災から20年。戦争を二度と起こさないために、自身の戦争体験を語る。加藤陽子(歴史学者)、島田誠(元海文堂書店社長)との対談も収録」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「私の戦争体験」「災害を語る」が本書のための語り下ろし。加藤陽子さんとの対談「中井家に流れる遺伝子」も本書のために新たに行われたものです。「前の戦争を忘れたころにつぎの戦争がおこります。日本は転向するとなったら雪崩を打つように速い。貧困や将来への不安から再びそうならないとも限らない」(「私の戦争体験」119頁)。「あれ〔東日本大震災〕は、私にとってそれまであった信頼の基盤のようなものが大きくゆらいだ出来事でした。東北の大震災が突然生活を壊滅させたということで、私のなかでは戦争と結びつきます」(「災害を語る」180頁)。このほかにも印象的な言葉がたくさんありますが、全体を通読した上でその含意を噛みしめるべきだと感じます。一番長編の表題作は森茂起編『埋葬と亡霊――トラウマ概念の再吟味』(人文書院、2005年)が初出で、翌年にみすず書房から刊行された『樹をみつめて』に再録されています。 ★『高等魔術の教理と祭儀〔Dogme et rituel de la haute magie〕』教理篇と祭儀篇は重版です。教理篇はもともと1982年に生田耕作さんの翻訳で刊行されましたが、祭儀篇の刊行より2年後の1994年に「2版」が出版されました。この「2版」は帯文では「新訳改訂版」と銘打たれています。両篇の目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。人文書院さんでは本書に続く『魔術の歴史』(鈴木啓司訳)を1998年に、さらに同じく鈴木さんの翻訳による『大いなる神秘の鍵』を2011年に発売され、「魔術三部作」を完結させておられます。ホール『象徴哲学大系』全4巻も昨秋から今冬にかけて新版が刊行されており、既刊書を大切にされている御様子が窺えます。簡単そうで今時はなかなかできないことです。『ユング・コレクション』も続々と重版されておられますが、『心理学的類型』全2巻がなかなか再刊されません。さらに言えば、同コレクションでは未刊のものに第10~12巻『ツァラトゥストラ I~III』や第15巻『分析心理学』がありました。予告が最後に出たのは2001年刊の第13巻『夢分析 I』の帯でした。 ◎水声社さん7月新刊より 『ジョン・ケージ伝――新たな挑戦の軌跡』ケネス・シルヴァーマン著、柿沼敏江訳、論創社/水声社、2015年7月、本体5,800円、A5判上製506頁、ISBN978-4-8010-0094-0 『小林秀雄 骨と死骸の歌――ボードレールの詩を巡って』福田拓也著、水声社、2015年7月、本体4,000円、A5判上製296頁、ISBN978-4-8010-0109-1 『ロリア侯爵夫人の失踪』ホセ・ドノソ著、寺尾隆吉訳、水声社、2015年7月、本体2,000円、四六判上製176頁、ISBN978-4-89176-957-4 『黒いロシア 白いロシア――アヴァンギャルドの記憶』武隈喜一著、水声社、2015年7月、本体3,500円、四六判上製354頁、ISBN978−4−8010−0121−3 『アルジェリアの闘うフェミニスト』ハーリダ・メサウーディ著、エリザベート・シェムラ聞き手、中島和子訳、水声社、2015年7月、本体3,000円、四六版上製280頁、ISBN978-4-8010-0123-7 『小島信夫長篇集成5 別れる理由 II』小島信夫著、水声社、2015年8月、本体9,000円、A5判上製686頁、ISBN978-4-8010-0114-2 ★『ジョン・ケージ伝』は発売済。カヴァーにも奥付にも版元名がふたつ「論創社」「水声社」と併記されています。発行と発売で分かれているということでもなく、発行者がダブルネームになっているのです。ISBNは水声社さんのものですし、ご担当の編集者さんも水声社さんの方です。論創社さんはもちろん出版活動を続けておられます。人文書業界ではこうした前例を聞いたこともなく、これはいったい、と驚いていたところ、水声社さんのブログによれば本書は、論創社さんと水声社さんの共同出版とのことです。詳しい事情はこれ以上は知らないのですけれども、興味深い試みではないかと感じます。帯文には坂本龍一さんの推薦文が載っています。曰く「ケージはやはりとても巨大で、でも、ぼくにとっては、ナム・ジュン・パイクに連れられて行ったケージのペントハウスで、こっそりキッチンに忍び込み、例の茸が収納されている薬棚を目撃した日のことが、とても大事です」。原書は、Begin Again: A Biography of John Cage (Knopf, 2010)です。訳者の柿沼さんはケージの『サイレンス』(水声社、1996年)をお訳しになった方で京都市立芸術大学で教鞭を執られておいでです。今回の伝記はもともとはケージの生誕100周年(2012年、没後20年)にお出しになられたかったのだとか。日本語で読めるケージ伝は本書が初めてになります。細かい字の2段組でびっしり組まれていて非常に読み応えがあります。索引も多項目でたいへん充実しています。70歳の折、ケージは『キーボード』誌にこう語ったそうです。「さまざまな国家があるという事実によって、あらゆる国家が核兵器を持ち、他のすべての国家を破壊することを望むようになります。そしてそれが私たちみなを破壊することになります。だから国家は必要ないのです」(313頁)。 ★このほか『小林秀雄 骨と死骸の歌』『ロリア侯爵夫人の失踪』『アルジェリアの闘うフェミニスト』『黒いロシア 白いロシア』『小島信夫長篇集成5 別れる理由 II』はすべて発売済。『アルジェリアの闘うフェミニスト』の原書はアルジェリアの政治家でフェミニズムの活動家メサウーディ(Khalida Messaoudi, 1958-)さんの自伝的インタヴュー本、Une Algérienne debout (Flammarion, 1995)の翻訳です。献辞に「FIS〔イスラーム救済戦線〕の武装集団に凌辱され、殺戮されたすべての女性に。〔・・・〕原理主義者による蛮行の犠牲になったすべての人びとに。〔・・・〕」とあります。ほかならぬメサウーディさんもFISから命を狙われていたそうです。『小島信夫長篇集成5 別れる理由 II』の巻末解説は佐々木敦さんによる「「自然成長性」にかんするメモ」(671-681頁)です。「江藤淳批判の一環もしくは代理戦」としての小島信夫批判について興味深い分析を展開されています。「月報2」は、坂内正「ある編集者からの葉書」、青木健「コジマの前にコジマなく・・・」、千石英世「連載 小説『別れる理由』のために(2)」が掲載されています。次回配本は第3回、9月上旬刊行の第6巻『別れる理由 III』(解説=千野帽子)とのことです。 #
by urag
| 2015-08-09 19:11
| 本のコンシェルジュ
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