人気ブログランキング | 話題のタグを見る

URGT-B(ウラゲツブログ)

urag.exblog.jp
ブログトップ
2024年 03月 11日

月曜社4月新刊:江川隆男『内在性の問題』

2024年4月11日取次搬入予定
分野:人文・思想

内在性の問題
江川隆男(著)
月曜社 本体4,300円 46判(縦194mm×横133mm×束幅40mm、重量648g)上製560頁 ISBN:978-4-86503-186-7 C0010

〈自己〉という最小回路を形成すること――スピノザとドゥルーズの先にある新たな〈エチカ〉の誕生。あらゆる道徳的な超越主義(同一性の優越=差異の排除、精神の特権化=身体の無視、人間中心主義的な位階序列化……)を根底から批判する内在性の哲学へ。カントを一義性の哲学として論究し、フーコーの「言表」を身体の作用として論じ、内在性の核心に〈非‐規定性〉を見出す、最新書き下ろし作。

アマゾン・ジャパンHMV&BOOKSonlineにて予約受付中。

【目次】
序論 内在性への配慮
 内在性の問題
 どのように〈自己〉を理解するか
 〈自己〉認識について
 主観性から被観性へ――自然に内在し直すこと
 注(序論)
第Ⅰ部 超越論と内在性
第一章 カントと一義性の思考
 一つの錯綜体について―― 一義性とアナロジー
 内在性という外部―肖像画の下のキャンバス
 超越論的概念の一義性について
 〈構成〉以前の存立面(Ⅰ)――超越論的対象について
 物自体について(α)――それ自体において多様なもの
 〈構成〉以前の存立面(Ⅱ)――超越論的統覚について
 〈感性‐受容能力〉の真の意義
 非対称性の遠近法的空間
 裁断と縫合への努力
 物自体について(β)――それ自体において多義的なもの
 〈構成〉 以前の存立面(Ⅲ)―― 一つの可能的経験について
 物自体について(γ)――〈前‐哲学的なもの〉 から 〈偽なるもの=X〉 へ
 注(第一章)
第二章 一義性とアナロジー
 非‐様相としての内在性
 存在の一義性の系譜学的要素(Ⅰ)
 カテゴリーの様式化
 存在の一義性の系譜学的要素(Ⅱ)
 先端と前提
 現象と稀薄化
 アナロジーの非‐類推的力能について
 移行による多重化(1)――認識の一義性について
 移行による多重化(2)――経験の一義性について
 批判機能
 禁令の意義――批判的形而上学におけるアナロジーの問題について
 反復としてのアナロジーの特異性
 主観化の過程――『純粋理性批判』における〈折れ目〉(Pli)の構造
 近代哲学における一つの結論――錯綜体としての主観性
 注(第二章)
第Ⅱ部 内在性と被観性
第三章 自己と言表
 問題構成(Ⅰ)
 人間身体の性的差異について
 〈有限‐無際限〉性の分析批判
 超越論的観念論と内在論的観念論について
 一義性への配慮
 配慮の差異――〈発生的〉と〈名目的〉
 時間性の問題――カントにおける〈自己〉とは何か
 自己認識から自己配慮へ
 〈認識〉と〈配慮〉の不可識別性について
 〈自己の差異〉について
 〈観念‐言表〉論序説
 言表の批判的分析論
 言表の機能論的分析論
 言表の分裂的総合論(Ⅰ)――〈AZERT〉の規則性
 言表の分裂的総合論(Ⅱ)
 観念と言表
 言表と判断
 〈可能的であれ、実在的であれ〉———経験の内在性について
 注(第三章)
第四章 非‐規定的総合
 哲学の発狂
 問題構成(Ⅱ)
 規定性図式論の限界について
 非‐規定性の忘却――相関主義批判に抗して
 〈非—規定性〉について
 〈報告〉と〈投射〉――前‐哲学的なものに対する配慮の差異
 内在性の哲学の諸特徴
 直観知の対象性
 言表の脱アナロジー化
 脱カテゴリー化の言説
 言表論(Ⅰ)
 言表論(Ⅱ)
 横断性並行論の事例
 焼尽する〈身体なき地図〉
 抽象機械論
 地図作成法の可能性の中心
 被観性は産出されうるか
 発語内行為と自由意志
 非身体的変形と強度的宇宙について
 被観性の産出――非身体的変形の位相について
 地球倫理学――分子的内在性論と非‐ニヒリズム化
 注(第四章)
結論 エチカの諸要請
 内在性の哲学――存在論から並行論へ
 唯物性観念論――言表作用について(Ⅰ)
 機械状観念論――言表作用について(Ⅱ)
 非‐戦闘的行為――倫理学の極限形相
 内在様相と連続変化について
 注(結論)
あとがき

江川隆男(えがわ・たかお)1958年生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科特別専任教授。著書:『存在と差異――ドゥルーズの超越論的経験論』知泉書館、2003年;『死の哲学』河出書房新社、2005年;『超人の倫理――〈哲学すること〉入門』河出書房新社、2013年;『アンチ・モラリア――〈器官なき身体〉の哲学』河出書房新社、2014年、『スピノザ『エチカ』講義――批判と創造の哲学のために』法政大学出版局、2019年;『すべてのつねに別のものである――〈身体-戦争機械〉論』河出書房新社、2019年;『残酷と無能力』月曜社、2021年。訳書:ジル・ドゥルーズ『ニーチェと哲学』河出文庫、2008年;ジル・ドゥルーズ+クレール・パルネ『対話』共訳、河出書房新社、2008年(文庫版『ディアローグ――ドゥルーズの思想』河出文庫、2011年)。

月曜社4月新刊:江川隆男『内在性の問題』_a0018105_14435698.jpg


# by urag | 2024-03-11 14:45 | 近刊情報 | Comments(0)
2024年 03月 10日

注目新刊:R・D・レインの詩集2点がついに文庫化、ほか

注目新刊:R・D・レインの詩集2点がついに文庫化、ほか_a0018105_00553177.jpg


★まず、注目の文庫新刊と既刊を列記します。都合により一部のみコメントします。

結ぼれ』R・D・レイン(著)、村上光彦(訳)、河出文庫、2024年3月、本体810円、文庫判176頁、ISBN978-4-309-46797-9
好き? 好き? 大好き?』R・D・レイン(著)、村上光彦(訳)、河出文庫、2023年10月、本体810円、文庫判184頁、ISBN978-4-309-46790-0
日本霊異記・発心集』伊藤比呂美(訳)、河出文庫、2024年3月、本体800円、文庫判232頁、ISBN978-4-309-42086-8
堤中納言物語』中島京子(訳)、河出文庫、2024年3月、本体700円、文庫判176頁、ISBN978-4-309-42087-5
中世哲学の射程――ラテン教父からフィチーノまで』クラウス・リーゼンフーバー(著)、村井則夫(編訳)、平凡社ライブラリー、2024年3月、本体2,500円、B6変型判704頁、ISBN978-4-582-76962-3
精選 神学大全2 法論』トマス・アクィナス(著)、稲垣良典/山本芳久(編)、稲垣良典(訳)、岩波文庫、2024年2月、本体1,560円、文庫判608頁、ISBN978-4-00-336214-3
道徳的人間と非道徳的社会』ラインホールド・ニーバー(著)、千葉眞(訳)、岩波文庫、2024年2月、本体1,300円、文庫判480頁、ISBN978-4-00-386037-3
独裁者の学校』エーリヒ・ケストナー(著)、酒寄進一(訳)、岩波文庫、2024年2月、本体650円、文庫判198頁、ISBN978-4-00-324713-6
若きウェルテルの悩み』ゲーテ(著)、酒寄進一(訳)、光文社古典新訳文庫、2024年2月、本体780円、文庫判280頁、ISBN978-4-334-10219-7
三体』劉慈欣(著)、立原透耶(監修)、大森望/光吉さくら/ワンチャイ(訳)、ハヤカワ文庫、2024年2月、本体1,100円、文庫判640頁、ISBN978-4-15-012434-2
読む哲学事典』田島正樹(著)、講談社学術文庫、2024年2月、本体1,000円、A6判232頁、ISBN978-4-06-534805-5

★河出文庫の2月3月新刊より4点。驚くべきことに、英国の精神科医レイン(Ronald David Laing, 1927-1989)の「詩集」2点が2カ月連続で文庫化。親本はいずれもみすず書房より刊行されたロングセラー。先月発売されすぐさま重版されたのが『好き? 好き? 大好き?』(原著『Do you Love Me?』1976年;みすず書房、1978年)で、今月発売されたのが『結ぼれ』(原著『Knots』1970年;みすず書房、1973年、新装版1997年)。それぞれの文庫版解説を寄せているのは、前者がシナリオライターのにゃるらさんで、後者が歌人の上篠翔さん。

★ネタバレなしで言えば、この2点は結構強力な薬です。精神的に辛い状態の人は読まない方がいいかもしれないし、ましてや、その柔らかなタイトルと装丁に釣られて未読のまま知人友人や家族にプレゼントするようなことはとてもお薦めできない作品です。この2作をけなしてそう言うのではありません。最大限の賞賛を寄せるがゆえに要注意でもあることを記しておいた方がいいと思います。この2冊をまさにこの2020年代において正しく再評価し、こともあろうに文庫化して広い読者層に供した編集者氏には、敬意をこめて「やりやがったな」と言わせてください。

★この2冊を読みながらもっと気分を味わいたい方は、例えばジョナサン・グレイザー(Jonathan Glazer, 1965-)監督の映画『Under the Skin』(2013年:日本語題『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』)ないし『The Zone of Interest』(2024年5月24日日本公開:日本語題『関心領域』)の、ミカ・レヴィ(Micaela Rachel Levi, 1987-)による素晴らしく悩ましいサントラを聴くこと(をお薦めしません鼓膜から浸食され魂を揺さぶられ感情を細切れにされる危険性あり)。

★昨年10月より刊行開始となった河出文庫の「古典新訳コレクション」の3月最新刊は、伊藤比呂美訳『日本霊異記・発心集』(抄訳)と、中島京子訳『堤中納言物語』。来月発売は、町田康訳『宇治拾遺物語』と、角田光代訳『源氏物語5』。同コレクションは、池澤夏樹個人編集『日本文学全集』から「古典の新訳・新釈を文庫化」するもの。加筆修正が施され、新たな解題が付されています。

★なお他社本ですが、日本の古典文学では今月はまもなく上村悦子『新版 蜻蛉日記 全訳注』(講談社学術文庫、2024年3月)が発売予定です。1978年に全3巻で刊行された文庫本の合本再刊。

★平凡社ライブラリーの3月新刊より『中世哲学の射程』。リーゼンフーバー(Kraus Riesenhuber, 1938-2022)さんの『中世哲学の源流』(創文社、1995年)と『中世における理性と霊性』(知泉書館、2008年)に収録された論考を中心に編纂し、単行本未収録論文「中世における自己認識の展開――近代思想の歴史的源泉をめぐって」(2009年)を加えた精選集。編訳者の村井さんによる解題「理性の歴史――超越論哲学と否定神学」が付されています。同ライブラリーでの同著者の既刊書には『西洋古代・中世哲学史』(矢玉俊彦/佐藤直子訳、2000年8月)と『中世思想史』(村井則夫訳、2003年12月)があります。

★他社本ですが、今月はもう一冊、リーゼンフーバーさんの論文集が文庫でまもなく発売となります。『存在と思惟――中世哲学論集』(山本芳久編、村井則夫/矢玉俊彦訳、講談社学術文庫、2024年3月)です。版元の書誌情報によれば「1995年に創文社より刊行された『中世哲学の源流』(上智大学中世思想研究所中世研究叢書)所収の論文から精選し、新たな配列で編み直したもの」とのこと。目次を照合する限り、『中世哲学の射程』とは重複していないようです。

★酒寄進一(さかより・しんいち, 1958-)さんによる新訳がそれぞれ岩波文庫と光文社古典新訳文庫より。ケストナーとゲーテ。『ウェルテル』は初版本からの新訳。

★『三体』三部作の文庫化が先月スタート。第一部は全1巻。第二部『黒暗森林』は上下巻で4月刊、第三部『死神永生』も上下巻で6月刊の予定。

★このほか、最近では以下の新刊、既刊書との出会いがありました。

失敗のクィアアート――反乱するアニメーション』ジャック・ハルバースタム(著)、藤本一勇(訳)、岩波書店、2024年2月、本体3,600円、四六判並製 344頁、ISBN978-4-00-061631-7
ブルターニュの歌』ル・クレジオ(著)、中地義和(訳)、作品社、2024年3月、本体2,700円、46判上製228頁、ISBN978-4-86793-020-5
夏のレクィエム』小川征也(著)、作品社、2023年11月、本体2,000円、46判上製208頁、ISBN978-4-86793-007-6
朝鮮半島の食――韓国・北朝鮮の食卓が映し出すもの』守屋亜記子(編)、公益財団法人味の素食の文化センター(企画)、平凡社、2024年2月、本体3,000円、4-6判並製296頁、ISBN978-4-582-83951-7
堀部安嗣作品集Ⅱ 2012–2019 全建築と設計図集』堀部安嗣(著)、平凡社、2024年2月、本体7,800円、B4変型判上製函入256頁、ISBN978-4-582-54477-0

★『失敗のクィアアート』は、『The Queer Art of Failure』(Duke University Press, 2011)の全訳。「バトラー以降のクイア理論を代表する批評家ハルバースタム、待望の初邦訳」(帯文より)。ジャック・ハルバースタム(Jack Halberstam, 1961-;原著刊行当時の名はJudith Halberstam)は米国コロンビア大学教授。訳者の藤本さんがこれまでポール・B・プレシアド(Paul B. Preciado, 1970-)の著書を積極的に翻訳されてきたのは周知の通りです。『失敗のクィアアート』の目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。さらにリンク先では、訳書には収録されていない、藤本さん作成による本書で取り上げられる人物を紹介した47頁にもわたるPDFが無料公開されています。たいへんな労力です。

★ハルバースタムはこう書きます。「オルタナティヴな文化的・学問的な現場は、学界のなかにあるのではなく、むしろその傍らにある。それは、敗者、失敗者、落ちこぼれ、拒否された者たちが作り出す知の世界であり、まさに大学が無力なときにオルタナティヴのための発射台として役立つことが多いのである。/現代は、知の新しい形を生み出すプロジェクトのために学問の転換を試みるには悪い時期ではない。〔…〕大きな学問分野が、不良証券に投資した銀行のように崩壊し始めたとき、私たちはもっと広い視座から、自分たちが共有する関心や知的関与のぼろぼろの境界を本当に補強したいのか、それともむしろこの機会に学習や思考のプロジェクトを完全に考え直したほうがよいのか、問うべきだろう。〔…〕この本は、従来の知の枠組みの外に出て、失敗、迷走、不品行という統制なき領野をうろつき回るものであり、学問や通常の思考方法を大きく迂回しなければならない。いかに大学が(そして暗に高校も)風変わりで独創的な思考を促進するのではなく、むしろ潰してしまうかを説明しよう」(10頁)。

★「私のアーカイヴは、労働史やサバルタン運動史ではない。かわりにポピュラーカルチャーの領野のなかに、クィアな生、ジェンダー、セクシュアリティとのかかわりで、低俗理論とカウンターな知を探し求めたい。これまではオルタナティヴな世界の大きな説明のほとんどから、ジェンダーとセクシュアリティの問題が頻繁に抜け落ちてきたのである」(28頁)。「全体として、この本は、過度な楽観主義でもなくニヒリズム的な批判の袋小路に陥るのでもなく、〈知ること〉と〈存在すること〉のオルタナティヴな方法について書かれた本である。この本は、上手く失敗し、おおいに失敗し、〔…〕よりよく失敗する方法を学ぶための本である」(35頁)。「アカデミックな読者と一般読者をつなぐ幸せな媒介はない。私が挙げるたくさんの失敗の例が、私たちがこれから探検しようとしている失敗の、濁った、暗く、危険な土地の地図を提供することを願っている。/探検やマッピングとは、寄り道することや迷子になることでもあると、そう私は言いたい」(36頁)。

★『ブルターニュの歌』は、『Chanson bretonne, suivi de L'Enfant et la Guerre, deux contes』(Gallimard, 2020)の訳書。帯文に曰く「ノーベル文学賞作家が初めて語る幼少年時代」。「ブルターニュの歌」と「子供と戦争」の2篇を収録。

★『堀部安嗣作品集Ⅱ 2012–2019 全建築と設計図集』は、建築家で堀部安嗣(ほりべ・やすし, 1967-)さんの作品集『堀部安嗣作品集 1994–2014 全建築と設計図集』に続く第2弾。版元紹介文に曰く「住宅から寺社、公共建築、クルーズ船まで、領域を広げてきた、2010年代の作品を総覧」と。同書の刊行を記念して2つのイベントが予定されています。

日時:2024年3月30日(土)14:00〜16:30(開場13:30)
会場:京都芸術大学 東京外苑キャンパス 101・102教室
定員:200名(申込み不要、当日先着順)
参加費:無料

日時:2024年4月9日(火) 18:40開場 19:00開演
場所:紀伊國屋書店新宿本店9階 イベントスペース
参加費:チケット制1,000円

注目新刊:R・D・レインの詩集2点がついに文庫化、ほか_a0018105_00583693.jpg


# by urag | 2024-03-10 23:52 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2024年 03月 03日

注目新刊:ちくま学芸文庫3月新刊、ほか

注目新刊:ちくま学芸文庫3月新刊、ほか_a0018105_23265090.jpg


★まずは、まもなく発売となるちくま学芸文庫の3月新刊5点。

『資本論 第一巻 上』カール・マルクス(著)、今村仁司/三島憲一/鈴木直(訳)、ちくま学芸文庫、2024年3月、本体1,700円、文庫判688頁、ISBN 978-4-480-51190-4
『資本論 第一巻 下』カール・マルクス(著)、今村仁司/三島憲一/鈴木直(訳)、ちくま学芸文庫、2024年3月、本体1,900円、文庫判816頁、ISBN 978-4-480-51191-1
『江戸の戯作絵本 3』小池正胤/宇田敏彦/中山右尚/棚橋正博(編)、ちくま学芸文庫、2024年3月、本体1,800円、文庫判576頁、ISBN978-4-480-51226-0
『ナチズムの記憶――日常生活からみた第三帝国』山本秀行(著)、ちくま学芸文庫、本体1,500円、文庫判416頁、ISBN978-4-480-51235-2
『概説 人工知能――ディープラーニングから生成AIへ』丸岡章(著)、ちくま学芸文庫、2024年3月、本体1,200円、文庫判288頁、ISBN978-4-480-51234-5


★『資本論 第一巻』上下巻は、『マルクス・コレクション(V)』(筑摩書房、2005年)の全面改訳文庫化。文庫化の経緯や訳語の選択については文庫版訳者あとがきで説明されています。今村仁司さんが亡くなっているため、改訳は三島憲一さんと鈴木直さんのお二人が行なっています。「本訳書では、ドイツ語の文法構造を写しとることなどを翻訳上の原則とはせず、目を戻して読み直さなければ意味のつかめない訳文は極力さけるように努めた。最終的にめざしたのは、マルクスの文章に惹かれながら、最後まで一気に読み通すことができるような訳文を提供することだった」(文庫版訳者あとがきより)。

★『江戸の戯作絵本 3』は、社会思想社の現代教養文庫版『江戸の戯作絵本 続巻一』(1984年)と『江戸の戯作絵本 続巻二』(1985年)の合本文庫化。今回も棚橋正博さんの協力のもと、誤記誤植が改められ、図版は状態のより良いものに差し換えられています。底本とは異なる図版を掲載したものも一部あるとのことです。

★『ナチズムの記憶』は、ドイツ史家の山本秀行(やまもと・ひでゆき, 1945-)さんが初の単独著として山川出版社から1995年に上梓した単行本の文庫化。文庫版あとがきによれば単行本で見逃されていた「ミスや誤植」を訂正したとのことです。

★『概説 人工知能』は、Math&Scienceシリーズの1冊で、東北大学名誉教授の丸岡章(まるおか・あきら, 1942-)さんによる文庫オリジナルの書き下ろし。帯文に曰く「」超絶進化の鍵となる基本概念を解き明かす」と。主要目次を転記しておきます。

第1講 AIが人間を超えた?!
第2講 人工知能研究の歴史
第3講 脳が働き、人が振る舞う
第4講 ディープラーニングのエッセンス
第5講 学習のポテンシャル
第6講 畳み込みニューラルネットワークとバックプロパゲーション
第7講 アルファ碁
第8講 トランスフォーマー、生成AIの心臓部
第9講 大規模言語モデル
第10講 生成AI
巻末注
あとがき
索引

★続いて、最近出会いのあった新刊を列記します。

音と脳――あなたの身体・思考・感情を動かす聴覚』ニーナ・クラウス(著)、伊藤陽子(訳)、紀伊國屋書店、2024年3月、本体2,700円、46判並製376頁、ISBN978-4-314-01203-4
現代思想2024年3月号 特集=人生の意味の哲学』青土社、2024年2月、本体1,600円、A5判並製頁238頁、ISBN978-4-7917-1461-2
記憶と芸術――ラビリントスの谺』中村高朗/虎岩直子(編著)、法政大学出版局、2024年3月、本体3,200円、四六判並製416頁、ISBN978-4-588-41039-0
誘惑する他者――メルヴィル文学の倫理』古井義昭(著)、法政大学出版局、2024年3月、本体3,200円、A5判上製300頁、ISBN978-4-588-49522-9
神論――現代一神教神学序説』中田考(著)、作品社、2024年2月、本体3,600円、46判並製384頁、ISBN978-4-86793-001-4
ニッポンのムスリムが自爆する時――日本・イスラーム・宗教』松山洋平(著)、作品社、2024年2月、本体2,400円、46判並製240頁、ISBN978-4-86793-021-2
イスラーム・デジタル人文学』須永恵美子/熊倉和歌子(編著)、人文書院、2024年2月、本体3,200円、4-6判並製274頁、ISBN978-4-409-42025-6
近代日本の身体統制――宝塚歌劇・東宝レヴュー・ヌード』垣沼絢子(著)、人文書院、2024年2月、本体4,500円、4-6判上製378頁、ISBN978-4-409-52093-2
読書装置と知のメディア史――近代の書物をめぐる実践』新藤雄介(著)、人文書院、2024年2月、本体4,500円、4-6判上製402頁、ISBN978-4-409-24162-2
金時鐘コレクション(5)日本から光州事件を見つめる――詩集『光州詩片』『季期陰象』ほか エッセイ』金時鐘(著)、細見和之(解説)、細見和之/浅見洋子(解題)、藤原書店、2024年2月、本体4,200円、四六変型判上製400頁+口絵4頁、ISBN978-4-86578-415-2
フランス大使の眼でみたパリ万華鏡』小倉和夫(著)、藤原書店、2024年2月、本体2,700円、四六判上製416頁、ISBN978-4-86578-414-5
鶴見和子と水俣――共生(ともいき)の思想としての内発的発展論』杉本星子/西川祐子(編)、藤原書店、2024年3月、本体4,400円、A5判上製344頁、ISBN978-4-86578-413-8

★紀伊國屋書店の新刊『音と脳』は、ノースウェスタン大学コミュニケーション科学・障害学部教授で神経科学者のニーナ・クラウス(Nina Kraus)さんの著書『Of Sound Mind: How Our Brain Constructs a Meaningful Sonic World』(MIT Press, 2021)の訳書。帯文に曰く「音は私たちを変える。言葉、音楽、都市の騒音、大自然の静寂、愛する人の声――聞くことは、感じ、考え、動くことにどう影響するのだろうか? 音の持つ力と可能性を説く、聴覚神経科学のトップサイエンティストの集大成」。書名のリンク先で、目次や本文の試し読みが可能です。

★青土社の月刊誌『現代思想』の3月号は特集「人生の意味の哲学」。版元紹介文に曰く「21世紀的な「人生の意味の哲学」の諸相を展望し、その現代的意義について考察」と。古田徹也さんと森岡正博さんの討議「生きる意味を問うとき、私たちは何を考えているのか」のほか、13篇の論考を収録。詳細は誌名のリンク先でご確認いただけます。次号4月号の特集は「〈子ども〉を考える」と予告されています。

★法政大学出版局の3月新刊より2点。『記憶と芸術』は発売済。書名となっている主題をめぐる、13篇の論考と1本の対談からなるアンソロジーです。詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。『誘惑する他者』はまもなく発売。立教大学文学部教授の古井義昭(ふるい・よしあき, 1982-)さんが2010年から2022年にかけて英文で発表してきたメルヴィルをめぐる査読論文10本を自ら翻訳し改稿し、書き下ろしの序章を付して1冊にまとめたものです。帯文に曰く「書くこと/読むことの根源に関わるテーマを徹底的に掘り下げる」と。

★作品社の2月新刊より2点。『神論』はイスラーム法学者の中田考(なかた・こう, 1960-)さんによる「イスラームを超えたイスラームの真義を開示する、一神教の入門書」(帯文より)。「しんろん」と読みます。書名のリンク先で試し読みが可能。『ニッポンのムスリムが自爆する時』は、イスラーム学者の松山洋平(まつやま・ようへい, 1984-)さんが「ゲンロン」誌や「ゲンロンβ」誌に2019年から2022年にかけて発表してきた、イスラームの諸相をめぐるエッセイ11篇に、2014年の他誌への既出論考を合わせ、加筆訂正のうえまとめたもの。

★人文書院の2月新刊より3点。『イスラーム・デジタル人文学』は「イスラーム研究をデジタル人文学で捉え直す、気鋭研究者らによる最新の成果」。9本の論考と9本コラムを収録。詳細は書名のリンク先でご覧いただけます。『近代日本の身体統制』は、演劇学がご専門の垣沼絢子(かきぬま・あやこ, 1987-)さんの初の単独著。「戦前から戦後にかけての宝塚・東宝のレヴュー史を、「身体統制」と「近代化」という軸をもとに見通すもの」(はじめにより)。『読書装置と知のメディア史』は、メディア史がご専門の新藤雄介(しんどう・ゆうすけ, 1983-)さんが、博士学位論文に大幅な加筆修正を施したもの。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

★藤原書店の2月新刊は全3点。『金時鐘コレクション(5)』は全12巻中の第9回配本。詩集『光州詩片』『季期陰象』のほか、エッセイ7本、講演3本、詩集をめぐる語り下ろしのインタヴューを収録。詳細は書名のリンク先をご確認ください。『フランス大使の眼でみたパリ万華鏡』は、ベトナム大使、韓国大使、フランス大使などを歴任した小倉和夫(おぐら・かずお, 1938-)さんによる手記と、パリを訪問した日本人作家たちをめぐるエッセイを1冊にしたもの。『鶴見和子と水俣』は、「不知火海総合学術調査団と内発的発展論」「萃点としての水俣」の二部構成のアンソロジー。9本の論考、6本のシンポジウム発表、3本のコラムから成ります。詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。

注目新刊:ちくま学芸文庫3月新刊、ほか_a0018105_23273291.jpg


# by urag | 2024-03-03 23:06 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)
2024年 02月 26日

「週刊読書人」に渡辺由利子『ふたりの世界の重なるところ』の書評が掲載

月曜社11月刊、渡辺由利子『ふたりの世界の重なるところ――ジネヴラとジョルジョと友人たち』の書評記事「南欧の現代文化への案内――二十世紀後半イタリアの知的空間を立体的に浮かび上がらせる」が「週刊読書人」2023年2月2月23日号に掲載されました。評者は慶應義塾大学助教の長島皓平さんです。「ボンピアーニとアガンベンの交錯に著者自身の生もまた溶け込んでいく著述に、一つの私的な生を見て取ることができるだろう。〔…〕ボンピアーニとアガンベンを通じて二十世紀イタリアを辿る最中にアガンベンの核心へと肉薄する点に著者の慧眼が光る」と評していただきました。

# by urag | 2024-02-26 16:07 | 書評・催事・広告 | Comments(0)
2024年 02月 25日

注目新刊:リチャード・ライト『地下で生きた男』作品社、ほか

注目新刊:リチャード・ライト『地下で生きた男』作品社、ほか_a0018105_20164206.jpg


★最近出会いのあった新刊を列記します。

ジャック・デリダ──その哲学と人生、出来事、ひょっとすると』ピーター・サモン(著)、伊藤潤一郎/松田智裕/桐谷慧/横田祐美子/吉松覚(訳)、ele-king books;Pヴァイン、2024年2月、本体3,400円、四六判並製464頁、ISBN978-4-910511-68-9
大西巨人論――マルクス主義と芸術至上主義』山口直孝(著)、幻戯書房、2024年2月、本体4,500円、A5上製402頁、ISBN978-4-86488-293-4
鳥たちのフランス文学』岡部杏子/福田桃子(共編)、幻戯書房、2024年2月、本体3,400円、四六上製352頁、ISBN978-4-86488-294-1
地下で生きた男』リチャード・ライト(著)、上岡伸雄(編訳)、作品社、2024年2月、本体3,600円、46判上製384頁、ISBN978-4-86793-019-9
町の本屋という物語――定有堂書店の43年』奈良敏行(著)、三砂慶明(編)、作品社、2024年2月、本体2,200円、46判上製240頁、ISBN978-4-86793-013-7
かくして、死刑は執行停止される』菊田幸一(著)、作品社、2024年2月、本体2,400円、四六判並製224頁、ISBN978-4-86793-011-3
レヴィナスの論理』ジャン=フランソワ・リオタール(著)、松葉類(訳)、法政大学出版局、2024年2月、本体3,300円、四六判上製274頁、ISBN978-4-588-01167-2
サルトル「特異的普遍」の哲学――個人の実践と全体化の論理』竹本研史(著)、法政大学出版局、2024年2月、本体4,700円、A5判上製478頁、ISBN978-4-588-15134-7
暴力の表象空間――ヨーロッパ近現代の危機を読み解く』岡本和子(編)、法政大学出版局、2024年2月、本体4,000円、四六判並製396頁、ISBN978-4-588-13040-3

★ele-king booksさんの新刊より1点。『ジャック・デリダ』は、オーストラリア出身で英国の在住の作家ピーター・サモン(Peter Salmon, 1955-)さんの著書『An Event, Perhaps: A Biography of Jacques Derrida』(Verso, 2020)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。共訳者の伊藤さんは本書を次のように評価されています。「本書の最大の美点は、おそらく作家という姿勢〔ポジション〕ゆえの大胆な情報の取捨選択と文体の力にある。〔…〕脱構築は主体を抹消する思想ではなく、それぞれのポジションからの語りが、既存の秩序の外部へと通じていくのを肯定する思想なのだ。それゆえ、明確に自分自身のポジションからデリダを語り、問いを立てていくサモンの書きぶりは、脱構築の精神に忠実だといえるだろう」(訳者あとがきより)。國分功一郎さんは次のような推薦文を寄せておられます。「デリダの戦いは全く終わっていない。我々はもう一度デリダのように緊張しなければならない。この本を読みながら、緊張することを学ぶのだ」。

★幻戯書房さんの新刊より2点。『大西巨人論』は、二松学舎大学文学部教授で日本近代小説がご専門の山口直孝(やまぐち・ただよし, 1962-)さんが2000年以降に各媒体で発表してきた論考を集成したもの。あとがきによれば「文学芸術運動、革命運動の並走者である武井照夫、湯地朝雄にかんする文章も収載した」と。一冊にまとめるにあたり「若干の修正を行い、いくつかの用語を揃えるなどした以外は、初出の通りとした。初稿の間違いで気づいたことは、「追記」で触れている」とのこと。

★『鳥たちのフランス文学』は、9名の仏文学研究者(中村英俊/岡部杏子/博多かおる/石橋正孝/福田桃子/新島進/前之園望/三枝大修/笠間直穂子)の論考を収めた論文集。帯文に曰く「18世紀の自然誌から、デボルド゠ヴァルモール、ジョルジュ・サンド、バルザック、ヴェルヌ、ビュトール、プルースト、ルーセル、ブルトン、ボヌフォワ、マリー・ンディアイまで――18世紀から21世紀にいたるフランス文学の世界を飛び翔る鳥たちの姿を渉猟、精読する」と。目次詳細はこちらをご覧ください。

★作品社さんの新刊より3点。『地下で生きた男』は米国の黒人作家リチャード・ライト(Richard Wright, 1908-1960)の著書『The Man Who Lived Underground』(Library of America, 2021)のうち、表題の長編作を訳出し、 併せて中短篇5作(「川のほとりで」「長く暗い歌」「でかくて親切な黒人さん」「何でもできる男」「影を殺した男」)を収録。編訳者あとがきによれば、『地下で生きた男』はその内容の重さゆえに出版社に拒絶され、削除したり書き直したりしたヴァージョンを1944年に雑誌に発表。その後、1961年に刊行された短篇集『八人の男』(赤松光雄/田島恒雄訳、晶文社、1969年)に収録され、原稿をもとにオリジナルに近い形で出版されたのが2021年だったとのこと。

★表題作「地下で生きた男」から、帯表4にも掲出されている印象的なくだりを、その前段も含めて引用します。「彼は叫びたかった。“この人は無実だ! 俺も無実だ! みんな無実だ!”この考えがあまりにも激しく彼の心に現われたので、彼は自分が実際に叫んでしまったのかと思った。しかし、声には出していなかった――歯を食いしばったままだ。言葉は彼の内部で発せられたものであり、熱い言葉が堅固な壁を突き破ろうとしていたのだ。そして、彼は再びあの回避できない感情に圧倒された。この地下の生活の基盤に切り込んでくる感情、彼にこう語りかけてくる感情である――おまえは無実だが有罪であり、咎はないが告発され、生きているが死ななければならない。そして、威厳ある人生を送る能力を持ちながら、屈辱の一生を生きなければならず、見たところは合理的な世界に生きているようでいながら、完全に不合理な死を遂げなければならないのである」(121~122頁)。

★印象的な言葉にはこのほかこんなものもあります。「人間は時が刻まれるごとにゆっくりと死んでいる。戦争で死んでいくのと同じように。この荒涼として広大な光景に対し、人間の嘆きや悲しみはまったく不充分なのである。/彼は自分が見たもの、感じたものを正当に扱うことのできる感情を掻き立てられなかった。この生々しい悲劇に直面して空虚感しか抱けない。その思いが高まって、ついには圧倒的な罪悪感となった。こうした究極の難問に直面したときの無力さが、無限の悔恨の念をもって彼を責め、消耗させたのだ。そうだ、こんな絶望的な光景を見下ろして、この無意味さを受け止めることのできる存在は、神しかいないだろう。それだ! おそらく人間は自分たちが感じられないものを感じるために神を発明し、神が自分たちに向けてくれる哀れみに慰めを見出したのだ……! 自分たちの人生のどうしようもない弱さを見下ろしているとき、人間は恥ずかしさと罪の意識を抱き、それに圧倒されてしまうのだから」(108~109頁)。

★「世界は見たところ美しい。しかし、この魅惑的な覆いの下に、恐ろしいものが隠れているように感じた。物事の様相が優しければ優しいほど、しりごみせずにはいられない」(112~113頁)。訳者の上岡伸雄(かみおか・のぶお, 1958-)さんはライトの代表作の新訳も一昨年に上梓されています。『ネイティヴ・サン――アメリカの息子』(新潮文庫、2022年)。

★『町の本屋という物語』は、昨年4月に43年の営業を終えた鳥取の定有堂書店の店主、奈良敏行(なら・としゆき, 1948-)さんが各種媒体に寄稿してきた文章をまとめたもの。著者による書き下ろしの「あとがき」と、編者でTSUTAYA BOOKSTORE梅田MeRISEにお勤めの三砂慶明(みさご・よしあき, 1982-)さんによる「編者後記」のほか、定有堂書店の書棚をテーマ別に再現した「定有堂書店の本棚 往来のベーシックセオリー」、そして「奈良敏行・定有堂書店略年譜」が加えられています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。なお、奈良さんは三砂さんが編者を務めたアンソロジー『本屋という仕事』(世界思想社、2022年)にも、「本屋から遠く離れて――定有堂教室「読む会」のこと」という一文を寄せておられます。併読をお薦めします。

★『かくして、死刑は執行停止される』は、明治大学名誉教授で弁護士の菊田幸一(きくた・こういち, 1934-)さんによる死刑廃止論をまとめたもの。「著者は、国家が殺人者を法の名のもとに殺すことは絶対にあってはならないと半世紀もの長期にわたり著書や論文で、あるいは講演で訴えてきた」(3頁)。「本書の出版目的は「死刑執行モラトリアムをどう実現すべきか」に全力を費やすことにある」(6頁)。作品社さんより刊行された関連書には、菊田さんによる『死刑と日本人』(2022年)や、ロベール・バダンテール『そして、死刑は廃止された』(2002年)があります。

★法政大学出版局さんの新刊より3点。『レヴィナスの論理』は、フランスの哲学者ジャン=フランソワ・リオタール(Jean-François Lyotard, 1924-1998)によるレヴィナス論集『Logique de Levinas』(Verdier, 2015)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻頭に編者のポール・オーディ(Paul Audi, 1963-)による序文「本書の紹介」が置かれ、巻末にはリオタール論やレオ・シュトラウス論などの著書があるジェラール・スフェズ(Gérald Sfez)による長篇解題「〈他者〉の厚み」が添えられています。スフェズはこう述べています。「本書に集められたテクストは多様な視点から、他性の厚みの認識についてのリオタールによる省察を示している」(185頁)。「本書でのリオタールのレヴィナスにかんする省察は、諸問題を明示するにあたって一貫しており、決定的である」(186頁)。

★『サルトル「特異的普遍」の哲学』は、法政大学人間環境学部人間環境学科 教授の竹本研史(たけもと・けんじ, 1977-)さんの初めての単独著。博士論文「個人の実践と全体化の論理――ジャン=ポール・サルトルにおける特異性の位相」(東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻、2020年2月公開審査)に数章を加えたうえで全体を再構成し、大幅な加筆修正を行ったもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本書は「サルトルの思想において、個人の実践と対他関係、個人の実践と集団統合、「特異的普遍」という三つの位相で、《個人の実践と全体化》がどのようになされているか、またその際に諸個人の「特異性」はどのように捉えられているか、その理路を分析することで、サルトルの社会哲学に関して総合的な研究を行うことを目的とするものである」(序章、13頁)。

★『暴力の表象空間』は、明治大学人文科学研究所の総合研究「暴力の表象空間」(2018~2020年度)に関わった研究者9氏による論文集。「暴力の根源を探る」「暴力との対峙」「暴力の記述を読み解く」の三部構成。帯文に曰く「精神分析論、翻訳論、パンデミック危機に伴う暴力を剔出し、社会的承認論、ケアと贈与、サッカーと市民社会をめぐる考察から共同体と暴力との関係を問い直すとともに、大テロル期ソ連、戦間期ベルリン、北アイルランド紛争時代の文学を通じて暴力の根源に迫る」と。



# by urag | 2024-02-25 19:38 | ENCOUNTER(本のコンシェルジュ) | Comments(0)