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2017年 09月 10日

注目新刊:千葉雅也『動きすぎてはいけない』が文庫化、ほか

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世界最古の物語――バビロニア・ハッティ・カナアン』Th・H・ガスター著、矢島文夫訳、東洋文庫884、2017年9月、B6変型判上製函入322頁、ISBN978-4-582-80884-1
絵ときSF もしもの世界 復刻版』日下実男著、復刊ドットコム、2017年9月、本体3,700円、B6判上製218頁、ISBN978-4-8354-5526-6
1990年代論』大澤聡編著、河出ブックス、2017年9月、本体1,800円、B6判並製336頁、ISBN978-4-309-62506-5
動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』千葉雅也著、河出文庫、2017年9月、本体1,000円、480頁、ISBN978-4-309-41562-8
吉本隆明全集13[1972-1976]』吉本隆明著、晶文社、2017年9月、本体6,800円、A5判変型上製706頁、ISBN978-4-7949-7113-5

★ガスター『世界最古の物語』は東洋文庫第884弾。現代教養文庫版(1973年、社会思想社)の再刊です。訳者は2006年に死去されており、巻末の著者紹介「セオドア・ヘルツル・ガスター」は池田裕さんが執筆されています。本書はエリアーデの序文(仏訳版より)のほか、副題にある三地域の古い神話や説話を収録しています。ハッティというのはヒッタイトのこと。こうした基本書の復刊は見逃せません。東洋文庫の次回配本は11月、『漢京識略』とのことです。

★『絵ときSF もしもの世界 復刻版』は学研「ジュニアチャンピオンコース」の復刊第2弾。親本は1973年刊行。税別3700円とお高いですが、ど真ん中世代である40代後半から50代前半の大人にとっては思い出を買う値段として考えれば安いものです。巻頭カラー劇画「生きていた石像」(画=田中善之助)のインパクトといい、数々の「もしも」の恐ろしさやワクワク感といい、人知を超えたものへの感性をくすぐられた70年代サブカルチャーの「昭和遺産」とも言うべきものを感じます。続刊が楽しみです。

★『1990年代論』は大澤さんの説明によれば「1990年代の日本社会を多角的に検討したアンソロジー」で「社会問題編」と「文化状況編」の二部構成。10本ずつの論考とエッセイで「政治や社会、運動、宗教から、マンガやアニメ、ゲーム、音楽にいたるまで、実に多岐にわたる合計20のジャンルの考察」を読むことができます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「巻頭にはノンジャンルの総合的な共同討議を、各パートの締めくくりにはインタビューを掲載」し、巻末には年表とブックガイドが配されています。

★『動きすぎてはいけない』は2013年に刊行された千葉さんのデビュー作の待望の文庫化です。文庫化にあたり巻末に、大阪大学特任助教の小倉拓也さんによる「文庫版解説 読解の手引」(456~475頁)が付されています。帯文はこうです「接続過剰〔つながりすぎ〕の世界に風穴を開ける「切断の哲学」」と。「世界の本当の姿は〔・・・〕渾然一体のめちゃくちゃではない。切断された、区別された、分離された、複数のめちゃくちゃによるコラージュである。世界には、いたるところに、非意味的切断が走っている」(68頁)。

★『吉本隆明全集13[1972-1976]』はまもなく発売。第Ⅱ期の第2回配本で通算では第14回配本。帯文に曰く「はじめて海外の文学者たちを論じた『書物の解体学』、長くその資質にひかれて論じてきた「島尾敏雄」のほか、1972年から1976年の間に発表された詩や散文を収録」と。単行本未収録は二篇とのことで、巻末解題に「本全集にはじめて収録された」とある、「高村光太郎の存在」(筑摩書房版『高村光太郎全集』第二刷内容見本;『吉本隆明資料集93』にも収録)と、第12巻の補遺「掛率増加のお知らせ」(『試行』取扱書店向け文書、1972年)のことかと思われます。付属の「月報14」は、宇佐美斉「並みの下の思想を」、橋爪大三郎「気配りのひとの気骨」、ハルノ宵子「党派ぎらい」を掲載。「父に刷り込まれたのは、「群れるな。ひとりが一番強い」なのだ」というハルノさんの証言が印象的です。次回配本は12月、第14巻とのことです。

★先月刊行の単行本の中からいくつか振り返ります。

全体主義の起原(1)反ユダヤ主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、みすず書房、本体4,500円、四六判上製360頁、ISBN978-4-622-08625-3
全体主義の起原(2)帝国主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大島通義/大島かおり訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六版上製424頁、ISBN978-4-622-08626-0
全体主義の起原(3)全体主義【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎/大島かおり/矢野久美子訳、みすず書房、2017年8月、本体4,800円、四六判上製512頁、ISBN978-4-622-08627-7
エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】』ハンナ・アーレント著、大久保和郎訳、山田正行解説、みすず書房、2017年8月、本体4,400円、四六判上製488頁、ISBN978-4-622-08628-4
アイヒマン調書――ホロコーストを可能にした男』ヨッヘン・フォン・ラング編、小俣和一郎訳、岩波現代文庫、2017年8月、本体1,460円、448頁、ISBN978-4-00-600367-8
日本の科学 近代への道しるべ』山田慶兒著、藤原書店、2017年8月、本体4,600円、A5判上製312頁、ISBN978-4-86578-136-6

★アーレントの代表作でありロングセラーである二著四冊が、判型をA5判並製から四六判上製に変更し、訳文を見直した新版として刊行されました。まず『全体主義の起原』は、最新の研究成果を踏まえて全文の見直し作業に取り組まれたのは山田正行さんで、新たに訳出された「初版まえがき」(1951年)と「新版への解説」を矢野久美子さんが担当されています。『エルサレムのアイヒマン』も全文見直しを山田さんが担当され、さらに「新版への解説」や年譜作成も手掛けておられるとのことです。この二作については版元さんのウェブサイトで「新版刊行にあたって」という挨拶文が公開されています。二作とも旧版はフランクル『夜と霧』の場合のように販売を今後も継続するわけではないようなので、対照用に旧版を買っておくなら今のうちに店頭をチェックされた方が良いです。また、岩波現代文庫では同月に、アイヒマンへの長編インタヴューである『アイヒマン調書』が文庫化されており、この機会にあらためて併読しておきたいところです。

★『日本の科学』は、科学史家の山田慶兒(やまだ・けいじ:1932-:京都大学名誉教授)さんによる論文や講演をまとめたもの。「受容史だけではない日本の科学史へのまなざし」(帯文より)のもと、日本独自の近代科学の特殊性をたどった論文集です。一九九四年から二〇〇六年までに執筆され、あるいは発表されたもののほか、未発表や書き下ろしも含まれています。目次を以下に列記しておきます。▼が英文のみ発表済だったもの、▲が未発表、◆が書き下ろしです。

はじめに ◆
Ⅰ 二つの展望
 十八、九世紀の日本と近代科学・技術 ▼
 日本と中国、知的位相の逆転のもたらしたもの ▲
Ⅱ 科学の出発 
 飛鳥の天文学的時空――キトラ『天文図』
 日本医学事始――『医心方』
Ⅲ 科学の日本化
 医学において古学とはなんであったか――山脇東洋
 反科学としての古方派医学――香川修庵・吉益東洞
 現代日本において学問はいかにして可能か――富永仲基
Ⅳ 科学の変容
 中国の「洋学」と日本――『天経或問』
 幕府天文方と十七、八世紀フランス天文学――『ラランデ暦書管見』
 見ることと見えたもの――『欧米回覧実記』他
〈補論〉浅井周伯養志堂の医学講義――松岡玄達の受講ノート ◆
あとがき ◆

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# by urag | 2017-09-10 10:16 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 06日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる本屋さん

2017年10月27日(金)オープン
丸善横浜みなとみらい店:300坪(書籍270坪)
神奈川県横浜市西区みなとみらい2-3-2 みなとみらい東急スクエア 3F
トーハン帳合。弊社へのご発注は芸術書と人文書の主要商品。取次さんの出品依頼書によれば、横浜高速鉄道みなとみらい線の「みなとみらい駅」直結の複合施設であるクイーンスクエア横浜内の「クイーンズスクエア横浜アット!」と「クイーンズイースト」の両ショッピングセンターが統合され、「楽しさ」や「くつろぎ」など非日常感の提供をコンセプトにした「みなとみらい東急スクエア」にリニューアルされ、丸善がその中に入る、ということだそうです。営業時間は10時~21時。弊社商品の場合、近隣では桜木町駅の紀伊國屋書店みなとみらい店さんで新刊を扱っていただくことがありましたが、既刊を含めると弊社の商品の扱い点数がより多いのは丸善さんということになりそうです。

みなとみらい東急スクエアについての東急の4月26日付プレスリリースをおさらいしておくと、「ベイエリアの景観や開放感を求めて、観光やショッピングなど、みなとみらい地区を訪れるお客さまに、“楽しさ”や“くつろぎ”など非日常感を提供するというコンセプトのもと、より多くの世代のお客さまにお越 しいただけるよう、東急スクエアブランドの新たなショッピングセンターへと生まれ変わります。なお、営業面積は約25,000㎡となる予定で、東急スクエアブランドとしては青葉台東急スクエアに次ぐ規模となります」とのこと。ちなみに青葉台東急スクエアのSouth-1別館3~4Fにはブックファースト青葉台店が入っているのは周知の通り。こちらは青葉台地区最大級(530坪・40万冊)の品揃え。

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言うまでもありませんが、弊社の本を扱って下さる新規店さんはごく一部のお店で、世間では各地に新しい本屋さんが生まれています。日本全国書店・古本屋チェーンマップさんの「新規開店店舗一覧」や、開店閉店.comさんの「書店・文具」部門をご覧ください。閉店情報にいささか驚いているのは、9月24日閉店予定の書原仙川店さん(トーハン帳合)です。弊社の本を扱って下さる本屋さんがまたひとつ・・・という。なお、八重洲ブックセンターさんは8月31日に日比谷シャンテ店、9月30日に恵比寿三越店を閉店とのこと。両店ともトーハン帳合です。チェーン店の経営スリム化は避けられない時代なのかもしれません。

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# by urag | 2017-09-06 00:45 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 05日

注目新刊:ミリアム・ブラトゥ・ハンセン『映画と経験』法政大学出版局

弊社出版物でお世話になっている訳者先生の最近のご活躍をご紹介します。

★竹峰義和さん(共訳:シュティーグラー『写真の映像』)
法政大学出版局さんから先月、下記の共訳書を上梓されました。シカゴ大学英文科教授だったMiriam Bratu Hansen (1949-2011)の主著にして遺作である『Cinema and Experience: Siegfried Kracauer, Walter Benjamin, and Theodor W. Adorno』(University of California Press, 2011)の完訳です。目次詳細は訳書名のリンク先をご覧ください。

映画と経験――クラカウアー、ベンヤミン、アドルノ
ミリアム・ブラトゥ・ハンセン著 竹峰義和/滝浪佑紀訳
法政大学出版局 2017年8月 本体6,800円 四六判上製698頁 ISBN978-4-588-01065-1

帯文より:思考の星座は、映画とともに煌めく。クラカウアー、ベンヤミン、アドルノは、映画とは何かよりはむしろ、映画は「何をするのか」という問いを立てる。いまだに予感しえない未来を生じさせる試みのなかで、映画という媒体、映画館という場がもつ可能性を追究する。映画を観る公衆の生きた経験についての思考を、批判理論と映画の交点で炸裂させる。

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# by urag | 2017-09-05 23:59 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 04日

「ふらんす」に、金澤忠信『ソシュールの政治的言説』の書評

白水社さんの月刊誌「ふらんす」2017年9月号で、弊社6月刊の金澤忠信『ソシュールの政治的言説』について、加賀野井秀一さんが書評「〈一般言語学〉から遠く離れて」を寄せて下さっています。「金澤氏は10世紀の小新聞・雑誌にいたるまで実に丹念に追跡して」いると評して下さいました。また同書評では同月刊の金澤さん訳によるソシュール『伝説・神話研究』と、7月刊のロゴザンスキー『我と肉』(松葉祥一ほか訳)にも言及して下さり、弊社について「敢闘賞もの」とのお言葉を頂戴しました。『我と肉』は同誌の情報コーナー「さえら」でも書誌情報をご掲載いただいています。加賀野井先生、白水社さん、ありがとうございます。




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# by urag | 2017-09-04 18:12 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2017年 09月 03日

注目新刊:『魅了されたニューロン』『禁書』、ほか

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魅了されたニューロン――脳と音楽をめぐる対話』P・ブーレーズ/J-P・シャンジュー/P・マヌリ著、笠羽映子訳、法政大学出版局、2017年8月、本体3,600円、四六判上製358頁、ISBN978-4-588-41032-1
禁書――グーテンベルクから百科全書まで』マリオ・インフェリーゼ著、湯上良訳、法政大学出版局、2018年8月、本体2,500円、四六判上製204頁、ISBN978-4-588-35233-1

★『魅了されたニューロン』は『Les Neurones enchantés: Le cerveau et la musique』(Odile Jacob, 2014)の全訳。作曲家ブーレーズ(Pierre Boulez, 1925-2016)と、神経生物学者シャンジュー(Jean-Pierre Changeux, 1936-)、作曲家マヌリ(Philippe Manoury, 1952-)による鼎談本。第一章「音楽とは何か?」、第二章「「美」のパラドックスと芸術の規則」、第三章「耳から脳へ──音楽の生理学」、第四章「作曲家の頭の中のダーウィン」、第五章「音楽創造における意識と無・意識」、第六章「音楽的創造と科学的創造」、第七章「音楽を学ぶ」、の全七章構成です。

★シャンジューは一時期、作曲家アンドレ・ジョリヴェ(André Jolivet, 1905-1974)に作曲を習っていた(24頁)と明かしており、ブーレーズに次々と興味深い質問をぶつけています。マヌリはしばしば緊張感あふれるブーレーズとシャンジューの間(あいだ)をところどころで巧みに取り持っていて、二人の時折沈思する間(ま)をうまく引き受けているように思えます。二人の距離感が一気に縮まるように見える瞬間が最初に到来するのはようやく第二章の途中になってからです。次のようなやりとりがあります(75~77頁)。

シャンジュー:革新はあなたの作品の根本的な要素であるように思われますが、作曲家としてのあなたの広範なキャリアを通じて、あなたがつねにとりわけ革新に腐心してこられたのは、どのような理由のためなのですか?

ブーレーズ:それは生物学的必要だと言いましょうか。〔・・・〕まったく単純にいつも同じ動作を繰り返すことはできないのです。それは自分自身に対する不快感の問題です。「もうそれはすでにやった」とそこで考えるわけです。

シャンジュー:問題になるのは、不快感、あるいは退屈、疲労ですか?

ブーレーズ:不快感ですね。それがしまいには耐えがたくなるのです。〔・・・〕偶発事を予期し、それを活用すべきです。予想外の何かが眠りを妨げにきて、反応を促すのです。「おや、その通りだ、私はそんなことを考えたことがなかった」と思うわけです。〔・・・〕新しいものを捕まえ、それを飼いならす必要があります。作曲家は言ってみれば捕食者です。〔・・・〕それらのものと自分との間に突如現実性が生じるのですが、後になるともはやその現実性は理解できないので、それをまさにその時に捉えなければならないのです。自分が何をしたかを意識しているとはいえ、後戻りすることはできません。〔・・・〕。

シャンジュー:そうした革新は科学的進歩と比べられるでしょうか?

ブーレーズ:問題になっているのは革新であって、進歩ではありません。モーツァルトより私たちが進歩するということはありません。けれども、革新という意味で、新しさの重要性を強調するということであなたにまったく同意します。言い換えれば、いくつかの恒常性とともに行動範囲が変わるのです。

★こうしたやりとりのあとブーレーズはこう答えます。「芸術的な創作活動においては、進歩はなく、あるのは、とくに西洋においてですが、絶えず変形している文法的規則に応じた視点の変化です。それらの発展的変遷は人為的ではなく、育まれるのだとでも言えるでしょう。それらは、個々人の行為であり、個々人は個人として自己を表現することを望み、むろん、それらを取り巻く世界と繋がってはいますが、自分を取り巻く世界を、個人として表現します」(78頁)。

★本書にはこのほかにも興味深いやりとりがあちこちに見いだされ、シャンジューの人間観や文明観、そしてブーレーズの音楽観を読み取ることができます。ブーレーズの音楽観の一端は例えば次のような発言にも表れているかもしれません。「音楽は非物質的であり、あるいはもっと正確には、売ったり買ったりでき、自宅の壁に掛けたり、ナイトテーブルに置いておける物のかたちで提供されません〔・・・〕。音楽の市場は存在せず、したがって金銭的な投機もありません。〔・・・〕それは音楽の唯一の利点なのです。音楽はたしかに投機から守られています。投機はずっと後になって、まず自筆譜に、第二に入場者数、興行成績に関わることに介入してくるだけです。ヴァーグナーの作品を上演すれば、ホールは満杯になりますし、新作初演をやろうとすると、ホールの三分の二は空席です。したがって、作品はあるがままの存在、つまり新しさへの侵入なのですから、作品が損をするだろうという意味でも競争はありません。けれども〔・・・〕目下話題の出来事なら、人々は押し寄せます。重要なのは当節の流行であり、流行に賛成であるか反対であるかなのです。流行に適った何かを提供すれば、公衆は好奇心からやって来ます。もしそれが流行に逆らう何かだったり、一層難しく、取っつきにくい何がだったりすれば、公衆は、新しさを怖れるので、やって来ません。そして新しさに対する恐れは新しさに対する欲求よりもはるかに大きいのです」(70頁)。

★シャンジューとの対比から見て、ブーレーズの言葉は折々に厳しく、安易な協調や楽観を退けます。時に冷徹なリアリズムに響くブーレーズの最晩年の言葉は、どれも印象的です。

★『禁書』は、『I libri proibiti da Gutenberg all'Encyclopédie』(Laterza, 1999)の全訳。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者あとがきの文言を借りると本書は「主にトレント公会議前後から本格的に始まった禁書目録の作成や対応を通して、統治する側の論理と統制の組織化、そして管理に対する人々の対策や統制の網の目を逃れていく方法について、イタリア半島のみならず広くヨーロッパ社会の地域ごとの事情を解き明かした歴史書である。第一章の「出版規制」では、出版物の管理・監督について主に検閲という観点から明らかにし、第二章の「文化追放」では、各地域に対して個別に作成され、適用された禁書目録の内容について扱い、第三章の「検閲の限界」では、検閲制度では、検閲制度の限界と十六世紀末以降の時代の変化を指摘し、第四章の「絶対主義と検閲」では、教会主導から国家による統制への変化、そして出版の自由へといたる時代の流れを扱う。全章を通じてイタリア半島の諸国家の事情だけでなく、ヨーロッパ各国の状況について比較・検討を行っている」ものです。

★情報統制や検閲や規制(自己規制を含む)が活きている現代社会の淵源を考える上で重要であるだけでなく、表現の自由や知る自由を獲得してきた歴史を振り返る上でも参照すべき基本書であると思われます。巻頭の「著者から日本の読者へ」で著者はこう書いています。「社会の全階層における書籍の伝播、購読と著述の増加、そしてラテン語に替わる各国の言語の確立は、社会と権力の間のこれまでとは異なる関係性の基盤を作り出します。十七世紀から十八世紀の間、読書を行う大衆は引き続き増加していきますが、彼らは統御に関する規定に従う姿勢をつねには見せていなかったのです。こうした状況は、活発な非合法市場のおかげでもあり、この市場はヨーロッパ中で組織され、枝分かれし、当局の課す購読に有効な形で代替となるものを提供できたのです。/著述と購読が自由でなければならないという考え方は、こうした背景から生まれ、発展しました。意見表明や表現の自由の権利が現代文明の主要原則の一つとなり始めたのは、まさにその瞬間であったのです」(vi頁)。著者のインフェリーゼ(Mario Infelise, 1952-)さんはイタリアの出版史家。ミラノ大学やヴェネツィア大学で教鞭を執られています。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。

松本圭二セレクション(1)ロング・リリイフ』航思社、2017年9月、本体2,500円、四六判上製112頁、ISBN978-4-906738-25-0
松本圭二セレクション(3)詩篇アマータイム』航思社、2017年9月、本体2,600円、四六判上製106頁、ISBN978-4-906738-27-4
松本圭二セレクション(8)さらばボヘミヤン』航思社、2017年9月、本体2,400円、四六判上製236頁、ISBN978-4-906738-32-8
心は燃える』ル・クレジオ著、中地義和/鈴木雅生訳、作品社、2017年8月、本体2,000円、四六判上製198頁、ISBN978-4-86182-642-9
ヤングスキンズ』コリン・バレット著、田栗美奈子/下林悠治訳、作品社、2017年8月、本体2,400円、四六判上製292頁、ISBN978-4-86182-647-4
誰が何を論じているのか――現代日本の思想と状況』小熊英二著、新曜社、2017年8月、本体3,200円、四六判並製554頁、ISBN978-4-7885-1531-4
ワードマップ 現代現象学――経験から始める哲学入門』植村玄輝/八重樫徹/吉川孝編著、富山豊/森功次著、新曜社、2017年8月、本体2,800円、四六判並製318頁、ISBN 978-4-7885-1532-1
現代思想2017年9月号 特集=いまなぜ地政学か――新しい世界地図の描き方』青土社、2017年8月、本体1400円、A5判並製246頁、ISBN978-4-7917-1352-3
現代思想2017年9月臨時増刊号 総特集=かこさとし――『だるまちゃん』『からすのパンやさん』から科学絵本、そしてあそびの大研究まで…広がり続ける表現の世界』青土社、2017年8月、本体1,800円、B5変型判並製284頁、ISBN978-4-7917-1351-6
現代思想2017年8月臨時増刊号 総特集=恐竜――古生物研究最前線』青土社、2017年7月、本体1,800円、A5判並製254頁、ISBN978-4-7917-1350-9
現代思想2017年8月号 特集=「コミュ障」の時代』青土社、2017年7月、本体1,400円、A5判並製230頁、ISBN978-4-7917-1349-3

★まず航思社さんの新刊。『ロング・リリイフ』『詩篇アマータイム』『さらばボヘミヤン』は「松本圭二セレクション」の第1回配本(3冊同時発売)。同セレクションは月報付きで全9巻、隔月刊予定で、詩人でありフィルム・アーキヴィストの松本圭二(まつもと・けいじ:1965-)さんの詩集、小説、評論およびエッセイを集めた選集です。前田晃伸さんさんによる瀟洒な造本が際立っています。『ロング・リリイフ』(七月堂、1992年)、『詩篇アマータイム』(思潮社、2000年)の2点は詩集の再刊で、『さらばボヘミヤン』は表題作(『新潮』2009年7月号)、「タランチュラ」(『すばる』2011年12月号)、「ハリーの災難」(『すばる』2012年6月号)の3本をまとめた小説集です。出色なのは『詩篇アマータイム』で、著者解題の言葉を借りると「テクストを重層的に配置」した「交響楽のスコア」のような紙面は必見です。

★次に作品社さんの新刊。『心は燃える』はル・クレジオの中短篇小説集『Cœur brûle et autres romances』(Gallimard, 2000)の全訳。「心は燃える」「冒険を探す」「孤独という名のホテル」「三つの冒険」「カリマ」「南の風」「宝物殿」の7本を収め、巻末に訳者による解題が付されています。『ヤングスキンズ』はアイルランド文学界の期待の新星だというバレット(Colin Barrett, 1982-)のデビュー作『Young Skins』(Stinging Fly Press, 2013)の翻訳。ガーディアン・ファーストブック賞、ルーニー賞、フランク・オコナー国際短編賞などを受賞している話題作で、帯文によれば「経済が崩壊し、人心が鬱屈したアイルランドの地方都市に暮らす無軌道な若者たちを、繊細かつ暴力的な筆致で描きだす、ニューウェイブ文学の傑作」と。カヴァーの個性的な装画は葉山禎治さんによるもの。

★続いて新曜社さんの新刊。『誰が何を論じているのか』は巻頭におかれた著者による「読者の方々へ」によれば、「私が本書に収録された論評を書いたのは、2013年4月から2016年3月である。私はこの時期、朝日新聞の論壇委員という仕事をしていた。この仕事のため、私のもとには、毎月毎週、朝日新聞社からさまざまな雑誌が送られてくる。それを読み、これはと思った論文をとりあげながら論評するのが論壇委員の仕事だ。〔・・・送られてくる様々な雑誌の〕ほぼ全てに目を通し、傍線を引き、付箋を貼り、切り抜き、メモをとる作業を、この六年ほど続けている。論評にとりあげたのは、そのなかのごく一部だ」。目次は書名のリンク先をご覧ください。

★『現代現象学』はシリーズ「ワードマップ」の最新刊で、まえがきによれば「第1部・基本編……現象学的哲学の基本的な発想や概念の解説」「第2部・応用編……哲学の諸問題に対する現象学からのアプローチの試み」という二部構成。同書の刊行を記念し、紀伊國屋書店新宿本店3階哲学思想書エンド台にてブックフェア「いまこそ事象そのものへ!――現象学からはじめる書棚散策」が先月より今月末まで開催中です。同書は新宿本店総合ランキング9位に入る売行で、フェア全体の売上も絶好調と仄聞しています。フェア用に作成された36頁もの力作ブックガイド(第一部「現象学:源流から現代へ」、第二部「哲学の古典的主題」、第三部「現代の哲学・諸学との接点」)が配布されています。ぜひ店頭にてご確認下さい。

★最後に青土社さんの月刊誌「現代思想」でのここ2ヶ月の間に発売された通常号2点と臨時増刊号2点。先日も言及した8月通常号「「コミュ障」の時代」は、國分功一郎さんと千葉雅也による討議「コミュニケーションにおける闇と超越」や、新連載として磯崎新さんによる「瓦礫(デブリ)の未来」などを掲載。8月臨時増刊号「恐竜」では、吉川浩満さんの「私の恐竜」、大橋完太郎さんの「怪物・化石・恐竜――フランスにおける近代自然史の展開から」などを掲載。9月臨時増刊号「かこさとし」では、國分功一郎さんによる、かこさとしさんへのインタビュー「学ぶこと、生きることの意味を求めて――子どもと社会のあいだから」をはじめ、中村桂子さんによる「生活の中での子どもをよく見て、子どもの声を聞く――加古里子さんと生命誌の出会い」、篠原雅武さんの「かこさとしにおける不信と怒り――「怒りの時代」を生き抜くために」などを掲載。9月通常号「いまなぜ地政学か」では、伊勢崎賢治さんと西谷修さんいよる討議「「非戦」のための地政学」や、中野剛志さんへのインタビュー「地政経済学の射程――グローバリゼーションの終焉以後を読み解く」などを掲載。10月通常号の特集は「ロシア革命」と予告されています。

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# by urag | 2017-09-03 14:25 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 08月 27日

注目新刊:ラング『夢と幽霊の書』作品社、ほか

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夢と幽霊の書
アンドルー・ラング著、ないとうふみこ訳
作品社、2017年8月、本体2,400円、四六判上製304頁、ISBN978-4-86182-650-4

帯文より:ルイス・キャロル、コナン・ドイルらが所属した心霊現象研究協会の会長による幽霊譚の古典、ロンドン留学中の夏目漱石が愛読し短篇「琴のそら音」の着想を得た名著、120年の時を越えて、待望の本邦初訳!

目次:
はじめに
第一章 夢
第二章 夢と幻視
第三章 水晶玉による幻視
第四章 幻覚
第五章 生き霊
第六章 死者の幽霊
第七章 目的を持って現れた霊
第八章 幽霊
第九章 幽霊と幽霊屋敷
第一〇章 近世の幽霊屋敷
第一一章 さらなる幽霊屋敷
第一二章 大昔の幽霊
第一三章 アイスランドの幽霊
第一四章 さまざまなおばけ
原註
訳註
訳者あとがき
一二〇年の時を経てあらわれた幻の本(吉田篤弘)

★原書は1897年に刊行された『The Book og Dreams and Ghosts』で、1899年の第2版の前書きも訳出されています。「〔民話・説話・童話の〕蒐集家と語り部としてのラングの力がフルに発揮された、怪異にまつわる古今東西の実話集」(訳者あとがき)です。全14章に75篇を収めています。晩夏の暑気払いに味読したい一冊です。

★アンドルー・ラング(Andrew Lang, 1844-1912)はスコットランドの詩人・小説家・文芸批評家。先に引いた訳者あとがきでないとうさんはラングについて「日本では、『あおいろの童話集』をはじめとする色名のついた童話集の編纂者として最もよく知られている。また童話以外でも、『書斎』(生田耕作訳、白水社)、『書物と愛書家』(不破有理訳、図書出版社)といった、書物へのマニアックな愛を語るすぐれた随筆が紹介されている。だが、ラングの業績は、これだけではとうてい網羅できないほど多岐にわたっている」と記し、さらに詳しい経歴を紹介しています。特に本作との関係では心霊現象研究協会に1882年の設立当初から会員として所属し、逝去する前年には会長も務めたとのことです。

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★また、最近では以下の新刊との出会いがありました。

戦う姫、働く少女』河野真太郎著、堀之内出版;POSSE叢書003、2017年7月、本体1,800円、四六判並製240頁頁、ISBN978-4-906708-98-7
明治・大正期の科学思想史』金森修編、勁草書房、2017年8月、本体7,000円、A5判上製472頁、ISBN978-4-326-10261-7
エドワード・ヤン――再考/再見』フィルムアート社編集部編、蓮實重彦ほか著、フィルムアート、2017年8月、本体3,000円、A5判並製472頁、ISBN 978-4-8459-1641-2
パリに終わりはこない』エンリーケ・ビラ=マタス著、木村榮一訳、河出書房新社、2017年8月、本体2,400円、46変形判304頁、ISBN978-4-309-20731-5
定版 見るなの禁止――日本語臨床の深層』北山修著、岩崎学術出版社、2017年8月、本体3,700円、A5判上製304頁、ISBN978-4-7533-1121-7
臨床心理学 増刊第9号 みんなの当事者研究』熊谷晋一郎編、金剛出版、2017年8月、本体2,400円、B5判並製200頁、ISBN978-4-7724-1571-2
はじめてまなぶ行動療法』三田村仰著、金剛出版、2017年8月、本体3,200円、A5判並製336頁、ISBNISBN978-4-7724-1571-2
古都の占領――生活史からみる京都 1945‐1952』西川祐子著、平凡社、2017年8月、本体3,800円、4-6判上製516頁、ISBN978-4-582-45451-2
故郷』李箕永著、大村益夫訳、平凡社;朝鮮近代文学選集8、2017年8月、本体3,500円、4-6判上製552頁、ISBN978-4-582-30240-0
国民再統合の政治――福祉国家とリベラル・ナショナリズムの間』新川敏光編、ナカニシヤ出版、2017年8月、本体3,600円、A5判上製310頁、ISBN978-4-7795-1190-5
功利主義の逆襲』若松良樹編、ナカニシヤ出版、2017年8月、本体3,500円、A5判上製272頁、ISBN978-4-7795-1189-9
講義 政治思想と文学』堀田新五郎/森川輝一編、ナカニシヤ出版、2017年8月、本体4,000円、4-6版並製400頁、ISBN978-4-7795-1191-2

★『戦う姫、働く少女』は『〈田舎と都会〉の系譜学――二〇世紀イギリスと「文化」の地図』(ミネルヴァ書房、2013年)に続く、河野真太郎(こうの・しんたろう:1974-;一橋大学大学院商学研究科准教授)さんの単独著第二作。『POSSE』誌で2014年から2015年にかけて連載された「文化と労働」を加筆修正したものです。発売後目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ジブリやディズニーなど映画作品から現代の女性像を読み解く話題作で、発売1ヶ月で早くも重版とのことです。著者が最終的に取りつかれたアイデアだという「連帯とは他者の欲望や願望を受け取ることであり、その願望はそれが他者のものであるがゆえにより強いものになる」(236頁)という言葉が印象的です。刊行記念トークイベント「戦闘美少女はなぜ働くのか」が来月9月7日19時から、Readin'Writin'(銀座線・田原町徒歩3分)にて行われます。参加費500円当日現金精算、定員20名要予約です。

★『明治・大正期の科学思想史』は科学思想史研究の第一人者、金森修(かなもり・おさむ:1954-2016)さんの編書三部作である『昭和前期の科学思想史』2011年、『昭和後期の科学思想史』2016年、に続く完結編論文集です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。奥村大介さんによる巻末附記によれば、三部作にさらに遡る編著書『科学思想史』2010年、と合わせて四冊で「勁草・科学思想史」シリーズと括っておられます。今回刊行された遺作には金森さんの序論やあとがき、さらに「疾病の統治――明治の〈生政治〉」と仮題を付された論攷が掲載予定だったものの、逝去によって叶わなかったことが説明され、さらに論攷の内容構想についても言及されています。

★『エドワード・ヤン――再考/再見』は台湾の映画監督で、今年生誕70年を迎えるエドワード・ヤン(楊徳昌:1947-2007)をめぐる論文集。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。現在、1991年の作品『牯嶺街〔クーリンチェ〕少年殺人事件』の4Kレストア・デジタルリマスター3時間56分版が都下では下高井戸シネマで9月1日(金)まで上映されています(2K変換上映)。その他劇場情報はこちらでこちらをご覧ください。また同作品と『台北ストーリー』(1985年)のブルーレイとDVDが11月2日に発売となるとのことです。今回の論集では同作品をめぐる論考を丹生谷貴志さんがお書きになっているほか、監督のインタビュー2本「映画はまだ若い」(聞き手=坂本安美)と「人生のもう半分を映す窓」(聞き手=野崎歓)のほか、監督と四方田犬彦さんの対談「JAMMING WITH EDWARD」が収められています。巻末にはフィルモグラフィ、バイオグラフィ、関連図書が配されています。

★『パリに終わりはこない』は『París no se acaba nunca』(Barcelona: Anagrama, 2003)の翻訳。帯文に曰く「現代文学の再前衛『バートルビーと仲間たち』以後の代表作。暴走するアイロニー、パリのスペイン人。〈ヘミングウェイそっくりさんコンテスト〉最下位の「私」がデュラスの屋根裏部屋での青春を回想? 講演? 小説?する」と。訳者あとがきではこう説明されています。「彼の小説は自伝的要素が織り込まれたフィクションで、自らも自身の作品を《自伝的フィクション》autoficciónと呼んでいる〔・・・〕。〔・・・『パリに~』は〕1974年からパリで2年間文学修行した時のことがさまざまなエピソードや引用をまじえながら語られている」と。バルセロナの作家ビラ=マタス(Enrique Vila-Matas, 1948-)の既訳小説2点はいずれも今回と同じく木村榮一さんによって訳されています。『バートルビーと仲間たち』(新潮社、2008年)、『ポータブル文学小史』(平凡社、2011年)。『パリに~』はこれらに続く3点目となります。

★『定版 見るなの禁止』はまもなく発売。1993年に刊行された『北山修著作集:日本語臨床の深層』第1巻をもとに再編集された決定版。それぞれの目次を比べてみても旧版とは異なっていることが分かりますが、より詳しくは、旧版の各章が今回の定版でどのように変更されているのかを記してある、291頁の旧版目次をご確認ください。「見るなの禁止」というのは、見てはいけないという禁止であり、「動物が人間の姿で嫁に来るけれども、正体を見られて去る」という形式を持つ「異類婚姻説話」に見られるものです。定版で新たに加えられた工藤晋平さんによる解説にはこうあります。見るなの禁止とは「対象の二面性に急激に直面し、幻滅することを防ぐ設定である」(282頁)。「対象の二面性に直面した時の、嫌悪感、罪悪感、環境の失敗を噛みしめる、抑うつポジションでのワークスルーが、見るなの禁止を巡る課題である。それがはかなく消えゆく媒介的対象をはさんで間を置く移行の作業に他ならないことを、北山は説いている」(285頁)。工藤さんはこのテーマをめぐる北山さんの歩みを「長い旅をみているよう」だ(281頁)と評しておられます。

★『臨床心理学 増刊第9号 みんなの当事者研究』と『はじめてまなぶ行動療法』は金剛出版さんの今月新刊です。前者は『臨床心理学』誌の増刊号で、國分功一郎さんと編者の熊谷晋一郎による対談「来たるべき当事者研究」をはじめ、河野哲也さん、村上靖彦さん、上野千鶴子さん、坂口恭平さんほか、多数の論考を収録した必読号です。『はじめてまなぶ行動療法』は版元紹介文に曰く「「パブロフの犬」の実験から認知行動療法、臨床行動分析、DBT、ACT、マインドフルネスまで、行動療法の基礎と最新のムーブメントをていねいに解説する研究者・実践家必読の行動療法入門ガイド」であり、「はじめて読んでもよくわかる,行動療法の歴史・原理・応用・哲学を学べる教科書」と。巻末に充実した「用語解説・定義」と300冊強の引用文献一覧あり。

★『古都の占領』と『故郷』は平凡社さんの今月新刊。『古都の占領』は帯文に曰く「1952年の講和条約発効までは休戦期であり、戦争状態はつづいていた――国は忘却に躍起となり、人々は故意に忘れたいと願った占領の事実から戦争そのものの構造を問う」という、非常に興味深い力作です。『故郷』はシリーズ「朝鮮近代文学選集」の第8巻で、版元紹介文の文言を借りると「朝鮮プロレタリア文学を代表する作家」である李箕永(イ・ギヨン:1895~1984)の最高傑作。日本統治下の荒廃する農村に生きる小作人の群像を描いたものとのことです。

★『国民再統合の政治』『功利主義の逆襲』『講義 政治思想と文学』はナカニシヤ出版さんが今月刊行されたアンソロジー。収録作品詳細は書名のリンク先をご覧ください。『国民再統合の政治』は帯文によれば「各国で移民問題が深刻化し排外主義が台頭するなか、新たな統合の枠組みとして、リベラル・ナショナリズムが提唱されている。国民統合戦略の以降のなかで、福祉国家の弱体化、極右政党の台頭、多文化主義の実態を、各国の事例をもとに分析する」論集。『功利主義の逆襲』は「反直観論法は成功しているか」「功利主義の動学」「功利主義的な統治とは何か」の三部構成による論文集で、『法哲学年報2011』(日本法哲学会による2011年の「功利主義ルネッサンス」と題した学術大会の成果をまとめたもの)の続編とのことです。『講義 政治思想と文学』は、カミュ、シェストフ、ディドロ、バーク、ヴェイユ、フロベール、メルヴィルらの作品を「政治と文学」という視点から読み解く7本の論考に加え、作家の平野啓一郎さんによる特別講義「『仮面の告白』論」(『新潮』2015年2月号に掲載された同題の三島由紀夫論に加筆修正したもの)と、京都大学名誉教授の小野紀明さんによる最終講義「戦後日本の精神史――三島由紀夫と平野啓一郎」を併載しています。

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# by urag | 2017-08-27 17:58 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 08月 24日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる本屋さん

2017年9月15日(金)オープン
ブックスMOA大曲店:図書422坪、文具122坪、カフェ50坪
秋田県大仙市飯田字堰東219番地
日販帳合。弊社へのご発注は写真集数点。取次の発注依頼書および挨拶状によれば、大曲店は秋田県下にて「ブックスMOA」屋号で4店舗を運営している秋田トヨタが展開する5店舗目。国道105号線(大曲西道路)の飯田インターチェンジ出入口から100メートルほどの郊外に位置し、県内陸部の横手、大仙、湯沢エリアで一番店を目指すとのことです。また秋田トヨタと丸善ジュンク堂書店の連名による挨拶状には、什器レイアウト・選書・ジャンル構成・棚詰・研修に至るまで、業務提携先である丸善ジュンク堂書店の全面協力を得ているとのことです。ブックスMOAの特徴はトヨタのディーラーが併設されている点。

弊社のようなパターン配本を実施していない版元が気になるのは、今後の新刊の取り扱いについてです。同チェーンでは支店さんから新刊の事前発注が入ったことがないため、初期在庫のみのお付き合いに終わってしまいがちなのです。せっかく新規開店用に出品したものの、その先が続かないという。その辺を日販さんや書店さんには分かっていただけたら、と願っている次第です。

2017年10月28日(土)オープン
ジュンク堂書店秋田店:図書507坪
秋田県秋田市千秋久保田町4-2 秋田オーパ 6F
トーハン帳合。弊社へのご発注は芸術書および人文書の主要商品。今年2月26日に閉店した旧秋田店でしたが、秋田フォーラスが耐震工事によって秋田オーパへと生まれ変わるのに伴い、6Fに出店。丸善ジュンク堂書店の挨拶状によれば、「再オープンに際しまして売場が2フロアから1フロアになり売場面積が643坪から507坪に変更となりますが基本コンセプトは変更することなく専門書をはじめとした商品の充実を計り、地域一番の品揃えを目指」すとのことです。営業時間は10時から21時。

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このほか、短冊のみのご発注では福岡市の六本松蔦屋書店さんや、中央区日本橋のHAMA HOUSEさんから芸術書のご発注を頂戴しました。

前者の六本松蔦屋書店は、「西日本新聞」2017年2月2日付記事「六本松九大跡地に「蔦屋書店」と「ボンラパス」 今秋開業、JR九州が発表」によれば、JR九州は福岡市中央区六本松の九州大キャンパス跡地に複合ビルと分譲マンションを建設中で、複合施設の低層棟である「六本松421」(10月オープン予定)の1Fにスーパー「ボンラパス」、2Fに蔦屋書店や学童保育施設やクリニック、3Fに九州大学法科大学院、5Fに福岡市科学館が入るそうです。

後者のHAMA HOUSEは、株式会社good morningsがプロデュースする「街のリビング」を目指すと謳う複合施設の名称で、一階は書店兼カフェ、二階はキッチンスタジオ兼オフィス、三階はスモールオフィスからなる、 三階建ての拠点とのことです。安田不動産のプレスリリースによれば9月9日オープン。

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一方、閉店情報も入ってきています。8月31日で閉店するのは大阪屋栗田帳合のブックカフェ「BOWL」の富士見店(125坪、2015年4月10日開店)と海老名店(172.52坪、2015年10月29日開店)の2店舗。素敵なお店だっただけに2年での撤退は残念です。日本紙パルプ商事の子会社でBOWLの経営主体である「リーディングポートJP」はどうなるのでしょうか。また、BOWLの運営主体である大阪屋栗田の子会社「リーディングスタイル」が手がけるブックカフェでは、すでにソリッド・アンド・リキッドテンジンが今年1月15日に閉店しており、同町田店は昨年8月5日にコミコミ・スタジオとしてリニューアルしています(参照:「町田経済新聞」2016年8月6日付記事「町田の書店「ソリッド・アンド・リキッド」改装 ボーイズラブ作品に特化」)。そして今月末BOWLの2店舗が閉店と。なんとなく嫌な流れではあります。あれだけきれいに作り込んでも継続困難なら、そもそも巨大SC内のブックカフェに未来はあるのか、と思わなくもないです。

ちなみに今日の「朝日新聞」ではこんな記事が出ました。2017年8月24日付、赤田康和・塩原賢氏記名記事「書店ゼロの自治体、2割強に 人口減・ネット書店成長…」です。曰く「書店が地域に1店舗もない「書店ゼロ自治体」が増えている。出版取次大手によると、香川を除く全国46都道府県で420の自治体・行政区にのぼり、全国の自治体・行政区(1896)の2割強を占める。「文化拠点の衰退」と危惧する声も強い」と。
 
「トーハン(東京)の7月現在のまとめによると、ゼロ自治体が多いのは北海道(58)、長野(41)、福島(28)、沖縄(20)、奈良(19)、熊本(18)の順。〔・・・〕全国の書店数は1万2526店で、2000年の2万1654店から4割強も減った(書店調査会社アルメディア調べ、5月現在)。人口減や活字離れがあるほか、書店の売り上げの6~7割を占める雑誌の市場規模は10年前の6割に縮小。紙の本の市場の1割を握るアマゾンなど、ネット書店にも押される。経営者の高齢化やコンビニの雑誌販売なども影響する。日本出版インフラセンターの調査では、過去10年で299坪以下の中小書店は減少したものの、300坪以上の大型店は868店から1166店に増加。書店の大型化が進む」。

実際のところ砂漠化が進んでいるのは地方だけではなく、東京都下でもどんどん街ナカ書店が閉店しています。また、大型書店が増えているとはいえ、本の売上は増えていませんから、大ざっぱに言えば、売上が回復していないのに無理やり大型書店を作っている、という状況が続いているわけです。

記事では続けて、「街の書店は、子どもが絵本や児童文学を通じて活字文化の魅力に接する場であり、ネットが苦手な人の情報格差を埋める機能もある。地方都市では地域の人が集い交流する場でもあった。手にとって未知の本を読み、関心の領域を広げる機会も得られる」という風に、書店の社会的役割を指摘し、文字・活字文化推進機構副会長の作家、阿刀田高さんの「書店は紙の本との心ときめく出会いの場で、知識や教養を養う文化拠点。IT時代ゆえに減少は避けられないが、何とか残していく必要がある」というご発言で記事を締めくくっています。

本屋を何とかなくしたくない、という思いは多くの出版人が共有するものかと思いますが、文化拠点としての書店は図書館のように行政が支えるものではなく、市民が直接支えるものなので、商売にならない場合はたちまち消え去っていくのだということを覚悟する必要があると思います。

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# by urag | 2017-08-24 17:39 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2017年 08月 23日

ブックツリー「哲学読書室」に杉田俊介さんの選書リストが追加されました

オンライン書店「honto」のブックツリー「哲学読書室」に、『ジョジョ論』(作品社、2017年6月)の著者・杉田俊介さんによる選書リスト「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む」が追加されました。下記リンク先一覧よりご覧ください。


◎哲学読書室

星野太(ほしの・ふとし:1983-)さん選書「崇高が分かれば西洋が分かる
國分功一郎(こくぶん・こういちろう:1974-)さん選書「意志について考える。そこから中動態の哲学へ!
近藤和敬(こんどう・かずのり:1979-)さん選書「20世紀フランスの哲学地図を書き換える
上尾真道(うえお・まさみち:1979-)さん選書「心のケアを問う哲学。精神医療とフランス現代思想
篠原雅武(しのはら・まさたけ:1975-)さん選書「じつは私たちは、様々な人と会話しながら考えている
渡辺洋平(わたなべ・ようへい:1985-)さん選書「今、哲学を(再)開始するために
西兼志(にし・けんじ:1972-)さん選書「〈アイドル〉を通してメディア文化を考える
岡本健(おかもと・たけし:1983-)さん選書「ゾンビを/で哲学してみる!?
金澤忠信(かなざわ・ただのぶ:1970-)さん選書「19世紀末の歴史的文脈のなかでソシュールを読み直す
藤井俊之(ふじい・としゆき:1979-)さん選書「ナルシシズムの時代に自らを省みることの困難について
吉松覚(よしまつ・さとる:1987-)さん選書「ラディカル無神論をめぐる思想的布置
高桑和巳(たかくわ・かずみ:1972-)さん選書「死刑を考えなおす、何度でも
杉田俊介(すぎた・しゅんすけ:1975-)さん選書「運命論から『ジョジョの奇妙な冒険』を読む

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# by urag | 2017-08-23 11:25 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2017年 08月 22日

「週刊読書人」にソシュール関連書2点の書評

「週刊読書人」2017年8月18日号に、弊社6月刊2点、金澤忠信『ソシュールの政治的言説』と、ソシュール『伝説・神話研究』金澤忠信訳、の書評「ソシュールとは何者だったのか?:私たち自身に突きつけられた問題――「歴史と伝説」」が掲載されました。評者は『フェルディナン・ド・ソシュールーー〈言語学〉の孤独、「一般言語学」の夢』(作品社、2009年)で、渋沢・クローデル賞(第27回)と和辻哲郎文化賞(第22回)をダブル受賞され、その後も『エスの系譜─―沈黙の西洋思想史』(講談社、2010年)でサントリー学芸賞(2014年)を受賞するなど、著述家・編集者として多面的にご活躍されている、互盛央(たがい・もりお:1972-)さんです。「金澤氏は「第一のソシュール」から「第五のソシュール」まで五人のソシュールを区別している。その分類に従って言えば、スタロバンスキーの訳書と今回の二冊によって、日本の読者は「第三のソシュール」から「第五のソシュール」をようやく本格的に知ることができるようになった。この功績は幾度も強調したい」と評していただきました。互さん、まことにありがとうございました!

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# by urag | 2017-08-22 14:26 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2017年 08月 20日

注目新刊:ボイル『無銭経済宣言』紀伊國屋書店、ほか

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★まもなく発売となる注目新刊を列記します。

nyx 第4号』山本芳久/乙部延剛ほか著、堀之内出版、2017年8月、本体2,000円、A5判並製275頁、ISBN978-4-906708-71-0
五つの証言』トーマス・マン/渡辺一夫著、中公文庫プレミアム、2017年8月、本体800円、文庫判224頁、ISBN978-4-12-206445-4
無銭経済宣言――お金を使わずに生きる方法』マーク・ボイル著、吉田奈緒子訳、紀伊國屋書店、2017年8月、本体2,000円、46判並製496頁、ISBN978-4-314-01150-1
動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』フランス・ドゥ・ヴァール著、柴田裕之訳、紀伊國屋書店、2017年8月、本体2,200円、46判上製416頁、ISBN978-4-314-01149-5

★『nyx 第4号』は第一特集が「開かれたスコラ哲学」(主幹=山本芳久)、第二特集は「分析系政治哲学とその対抗者たち」(主幹=乙部延剛)。目次詳細は誌名のリンク先をご覧ください。大学の紀要や「中世哲学研究」のような学会誌ではない、一般発売されている思想誌でスコラ哲学が主題になるのは哲学書房の『季刊哲学』以来ではないでしょうか。第一特集では、アラスデア・マッキンタイア(Alasdair MacIntyre, 1929-)の論文集『The Tasks of Philosophy』(Cambridge University Press, 2006)の第九章「自らの課題に呼び戻される哲学――『信仰と理性』のトマス的読解」(野邊晴陽訳;Philosophy recalled to its tasks: Thomistic reading of Fides et Ratio)が訳出されています。

★『五つの証言』は、巻末の編集付記によれば、トーマス・マンの『五つの証言』(渡辺一夫訳、高志書房、1946年)と第一部とし、渡辺一夫のエッセイおよび「中野重治・渡辺一夫往復書簡」(『展望』誌1949年3月号)を第二部として独自に編集したもの、とのことです。帯文に曰く「古典名訳再発見。不寛容な時代に抗い、戦闘的ユマニスムのほうへ。ナチスと対峙した精神のリレー」と。目次を以下に掲出しておきます。

目次:
トーマス・マン『五つの証言』に寄せて(渡辺一夫)
五つの証言(トーマス・マン著、渡辺一夫訳)
 一 トーマス・マンの最近の文章を読んで(アンドレ・ジード)
 二 ボン大学への公開状
 三 ヨーロッパに告ぐ
 四 イスパニヤ
 五 キリスト教と社会主義
寛容について(渡辺一夫)
 文法学者も戦争を呪詛し得ることについて
 人間が機械になることは避けられないものであろうか?
 中野重治・渡辺一夫往復書簡
 寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか
解説 第六の証言(山城むつみ)

★中公文庫プレミアムの既刊書については同レーベルのブログ「編集部だより」をご覧ください。続刊は10月予定で、ヴェーバー/シュミット『政治の本質』清水幾太郎訳、とのことです。

★マーク・ボイル『無銭経済宣言』は『The Moneyless Manifesto: Live Well. Live Rich. Live Free』(Permanent Publications, 2012)の翻訳で、『ぼくはお金を使わずに生きることにした』(吉田奈緒子訳、紀伊國屋書店、2011年;The Moneyless Man: A Year of Freeconomic Living)に続く、ボイル(Mark Boyle, 1979-)による待望の第二作です。「「お金がないと生きられない」というのは、ぼくらの文化が創りだした物語にすぎない。自然界や地域社会とのつながり、生の実感、持続可能な地球を取りもどすための新しい経済モデルを提起した、フリーエコノミー運動創始者による「カネなしマニフェスト」。貨幣経済によらない生活のノウハウも多数紹介」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。序文は、『聖なる経済学』(Sacred Economics: Money, Gift, and Society in the Age of Transition, North Atlantic Books, 2011;非営利の日本語訳)の著者であるチャールズ・アイゼンスタイン(Charles Eisenstein, 1967-;アイゼンシュタインとも)が寄せています。曰く「実際に会って話してみたら、〔ボイルは〕聖人ぶったところがまったくなく、傲慢さとも無縁の人物だった。だからこそ、マークのメッセージは多くの人の共感を呼ぶのだろう。〔・・・〕彼いわく、金銭の放棄は、つながり、親密なつきあい、冒険、真の人生経験にいたる道である。善人と認められんがために身を犠牲にする道どころか、喜びの道であり、豊かさの道とすらいってもいい。/本書のひとつの意義は、その道をほかの人にも開いた点にある」(13頁)。「マークの著作は、つながりと喜びにあふれた生き方の単なる解説にとどまらない重要性を持つ。新しい体制の精神的いしずえを築いた点でも意義がある。来るべき革命も、マークの論じた深みに到達するものでなければ加わるに値しない。生命の流れに身をまかせ、寛大さこそが人間性の本質であると認識し、与える者は与えられると信じる次元まで踏みこんだ変革でなければ」(16頁)。

★ボイルはアイゼンスタインの序文に続く「はじめに」でこう書き綴っています。「本書の存在意義はもちろん、人間とカネの関係の再検討が必要だと信じる論拠を説明するのみにとどまらない。究極の目的は、読者が金銭ぬきで生活のニーズを満たせる(または少なくとも金銭への依存を小さくできる)方法を幅広く紹介することにある。自分自身の生きかたをもっと自分で決められるような、豊かな創造性を発揮できるような方法。自然界と地域社会に与えるマイナスの影響をおさえて、プラスの影響をふやす方法。喜びを感じなくなった仕事から自分を解放してやる方法。あるいはただ、自分のなかに存在することすら気づいていなかった未知の領域への道すじを」(27頁)。

★ボイルはこうも書いています。「いずれにしろ100%ローカルな生きかたを、ぼく自身は強く望んでいる。〔・・・〕全面的なローカル化が極端な経済モデルだと感じられるのは、極端にグローバル化した今日の経済と比較するからであり、ローカル化できない最新の電子機器に身も心も奪われた人の視点で見るからである。/ブラジルのアマゾンに住むアワ族のように、人どうしのきずなも大地との結びつきも強い民族から見たら、極端なのは、今日の工業化社会における暮らしぶりのほうだ。極端なのは、地球上の栄えある生命を、採鉱、皆伐、トロール漁にとって効率的に現金化できる資源の一覧表としか見ない世界観のほうだ。極端なのは、気がねなく隣人に助けを求めるどころか、近所にどんな人が住んでいるかすら知らない現実だ。極端なのは、空き部屋のある家があふれている地域で、路上に寝起きする人がいることだ。極端なのは、銀行にカネを返済するために、やりたくもない仕事をして人生をすごすことだ。そもそも銀行が無から作りだしたカネなのに。極端なのは、タダで与えられたものの代金を、同じ自然界に属する他者に請求することだ。自分の受けた贈り物を分けてやるのは引きかえに何かをくれる相手にかぎると言って。極端なのは、善人気どりで食品の紙パックをリサイクルしながら、がけっぷちにむかって歩いていくことだ。極端なのは、自分の力では止めようがないとばかりに、事態の進展に手をこまねいていることだ」(92頁;原書では42~43頁)。

★「子どもに価値ある未来を残してやるやめには、ただちに、皆の力で新しい物語を創造しはじめなくてはいけない。持続可能で、いまの時代にふさわしい物語を。〔・・・〕ユダヤの賢者ヒレルはこう言った。「きみがやらねば、誰がやる。いまやらねば、いつやる」。次世代に必要なのは、自己認識を拡張し、立ちあがっていまの文化を変えていく勇者だ。/そのひとりになろうではないか」(150頁)。本書は理論編と実践編の二部構成で、フリーエコノミーの思想と方法を読者に教えます。これはおそらく人類にとって、本気のサバイバルのためのバイブルです。

★ドゥ・ヴァール『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』は『Are We Smart Enough to Know How Smart Animals Are?』(Norton, 2016)の翻訳。帯文に曰く「ラットが自分の決断を悔やむ。カラスが道具を作る。タコが人間の顔を見分ける。霊長類の社会的知能研究における第一人者が提唱する《進化認知学》とはなにか。驚くべき動物の認知の世界を鮮やかに描き出す待望の最新作」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください(リンク先では試し読みもできます)。「私の主要な目的は、進化認知学への熱意の高まりを伝え、この分野が厳密な観察と実験に基づく立派な科学へと成長する過程を描き出すことだ」(362頁)と著者は書きます。訳者解説によればドゥ・ヴァールの提唱する進化認知学とは「人間とそれ以外の動物の心の働きを科学によって解明するきわめて新しい研究分野」であり、本書は「その格好の入門書」だと評されています。

★ドゥ・ヴァールはこう書きます。「それぞれに神経が通っていて独立した動きをする八本の腕の一本一本に行き渡ったタコの認知機能や、自分の発する甲高い鳴き声の反響を感じ取り、動き回る獲物を捕まえることを可能にするコウモリの認知能力と比べると、私たち人間の認知だけが特別だなどとははたして言えるだろうか」(12頁)。「私たちは自らの研究に生態学的な妥当性を求め、他の種を理解する手段として人間の共感能力を奨励したユクスキュル、ローレンツ、今西の助言に従っている。真の共感は、自己の焦点を合わせたものではなく他者志向だ。私たちは人間をあらゆるものの尺度とするのではなく、他の種をありのままのかたちで評価しなければならない」(359~360頁)。人間中心主義を乗り越える新たな地平が読者に提示されます。

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★続いて、既刊と新刊の中から注目書を列記してみます。

月刊ドライブイン vol.04』橋本倫史取材/撮影/文、2017年7月、本体463円、A5判並製40頁、ISBNなし
魔法をかける編集』藤本智士著、インプレス、2017年7月、本体1,600円、四六判並製240頁、ISBN978-4-295-00198-0
フリーメイソン――秘密結社の社会学』橋爪大三郎著、小学館新書、2017年8月、本体840円、新書判304頁、ISBN978-4-09-825315-9
映画とキリスト』岡田温司著、みすず書房、2017年8月、本体4,000円、四六判上製376頁、ISBN978-4-622-08624-6
HUMAN LAND 人間の土地』奈良原一高写真、復刊ドットコム、2017年8月、本体8,000円、A4変判上製176頁、ISBN978-4-8354-5504-4

★『月刊ドライブイン vol.04』はリトルマガジン『HB』の編集発行人である橋本倫史(はしもと・ともふみ:1982-)さんが取材、写真、文章、構成をすべてお一人でやられている、その名の通りドライブイン専門のユニークな月刊誌の第4号です。この号では沖縄の「A&W」と「ドライブインレストランハワイ」を取り上げています。取扱書店は約30店で、私は松本市の「本・中川」さんで購入しました。表紙も本文紙も共に灰色で文字はスミで刷られていますが明るく落ち着いた印象があります。味わい深い文章と写真で、旅の気分が味わえます。「いくら沖縄を訪れたところで、何かが分かるわけではない。それは沖縄という土地に限らず、誰のことだって「わかる」と言える日が来るとはとうてい思えない。わかりきることなんてできないのに、それでも足を運んだり、視線を注いだりしてしまう。この時間はいったい何なのだろう」(編集後記より)。このしなやかな感性に好感を持ちます。いずれ一冊の書籍にまとまりそうな予感がします。

★『魔法をかける編集』は、ミシマ社さんが編集し、インプレスさんが発行するレーベル「しごとのわ」の最新刊。著者の藤本智士 (ふじもと・さとし:1974-)さんはは編集者で、有限会社りす代表。帯文はこうです。「一過性で終わるイベント、伝わらない商品、ビジョンのないまちづくり・・・足りないのは、編集です。マイナスをプラスに、忘れられていたものを人気商品に、ローカルから全国へ発信する・・・etc. 誰もが使えるその技術を、「Re:S」「のんびり」編集長がすべて公開!」。松本市のブックカフェ「栞日」で見つけて購入しました。藤本さんは「はじめに」でこう書いています。「僕は、編集とは魔法であり、編集者は魔法使いだと本気で思っているのですが、それが魔法であるがゆえに、これまでは一部の人だけが持つ特権的能力として扱われてきたように思います。/しかし編集力というのは、何もホグワーツに通わなくても、すべての人がすでに備えている能力であり、意識することで鍛えられるのです。〔・・・〕僕が思う編集力とはズバリ、「メディアを活用して状況を変化させるチカラ」です」(3頁)。こうした職能は業界人なら経験的に理解しているものであり、松岡正剛さんや後藤繁雄さんをはじめとする先人によっても言及されてきたものですが、その力を意識的に統御し活用できているかどうかは人によるかもしれません。藤本さんは「ローカルメディア」にこだわり、その戦略と戦術を本書で惜しみなく明かしています。同時代人のエールとして、業界人の必読書だと言っていいのではないかと思います。

★『フリーメイソン』はメイソンをめぐる23の疑問をそのまま章立てにして、橋爪大三郎さんが簡潔に答える体裁の入門書。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「テンプル騎士団は、フリーメイソンなのですか」「イルミナティは、フリーメイソンなのですか」「マッカーサーは、フリーメイソンなのですか」「フリーメイソンは、陰謀集団なのですか」などの問いがあります。橋爪さんの考えがもっとも表れているのは「日本人はなぜ、フリーメイソンをよく理解できないのですか」という最初の問いと、「フリーメイソンを理解すると、なぜ世界がよく見えてくるのですか」という最後の問いではないかと思います。「フリーメイソンは、日本人が西欧キリスト教文明をみる場合の、盲点である」(まえがき、5頁)、また「フリーメイソンについて理解を深めること。それは、日本人が、21世紀の国際社会を生きていくための基礎教養だと思う」(294~295頁)と橋爪さんは指摘されています。日本グランドロッジも見学し、取材されたことがあとがきで明かされています。特にメイソンの幹部である片桐三郎さんの『入門フリーメイスン全史――偏見と真実』(アムアソシエイツ、2007年)には「とても助けられた」とお書きになっていますが、この本は残念ながら絶版の様子。本書が参考にしている新書には、吉村正和さんの『フリーメイソン』(講談社現代新書、1989年)や、荒俣宏さんの『フリーメイソン――「秘密」を抱えた謎の結社』(角川oneテーマ21、2010年)があります。

★『映画とキリスト』は「欧米における映画の発展は、キリスト教のテーマ系と切り離すことができないし、二千年にわたる美術の伝統も多かれ少なかれそこに影を落としている。その意味でこの本は、前著『映画は絵画のように――静止・運動・時間』〔岩波書店、2015年〕の延長線上にくるものでもある」(おわりに)とのこと。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「まず第Ⅰ章では、両者〔映画とキリスト〕の関係性を理論的な観点から概観しておきたい。つづく第Ⅱ章から第Ⅳ章は、サイレントの時代より現代にいたるまで、いわゆるイエスのビオピック(伝記映画)の代表的な作品を取り上げ、それぞれ異なる視点から分析と記述を試みる。具体的には章の順に、サイレント映画、パゾリーニの『奇跡の丘』、1970年代以降の多様化するイエス像、マリアの出産シーン、そして名脇役としての「裏切り者」ユダと「娼婦」マグダラのマリア、である。映画におけるイエスの表象が、たんなる歴史(物語)の挿絵ではなくて、いろんな意味で、いかにアクチュアルにしてかつ解決困難な問題系を引きずってきたかが明らかになるだろう。/さらに第Ⅶ章から第Ⅸ章までの三つの章では、固有名詞としてのイエスその人というよりも、「油を塗られた人」すなわち「メシア」としてのキリストのイメージが投影されている作品が対象となる。〔・・・〕数ある作品に篩をかけながら、「キリスト」との同一化――その可能性と限界」がいかに映像化され、そこにいかなる意味が託されているかが問われるだろう。最後の章は、神学上のみならず、社会的で政治的でもあるキリスト教内部の問題をパロディやアイロニーも交えつつ鋭くえぐりだす作品に捧げられている」(はじめに)。

★また岡田さんはこう書いてもいらっしゃいます。「現代は、近代における宗教の「世俗化」にたいして、「ポスト世俗化」の時代と呼ばれることもある。もちろん映画もこの状況と無関係ではありえない。/さらにこうした現況下、哲学者たちも近年、開かれたキリスト教の可能性(とその限界)を新たに模索しはじめている。代表的な名前だけを挙げるなら、ジャン=リュック・ナンシー、ジョルジョ・アガンベン、ジャンニ・ヴァッティモ、ジョン・カプートらがいるが、本論でわたしは、必要とあれば彼らの議論にも応答しようと試みた」(おわりに)。

★『HUMAN LAND 人間の土地』はリブロポートより1987年に刊行された、奈良原一高さんのデビュー作となる写真集の復刊。被写体はまだ人が住んでいる時代の「緑なき島」軍艦島と、鹿児島県の桜島東部に位置する「火の山の麓」黒神村(現在は黒神町)。いずれも1950年代に写されたものです。復刊ドットコムのウェブサイトより購入すると、非売品のポストカード1枚が付いてきます。作家性の強い写真集は絶版になると古書価が高くなりなかなか手が届きにくいので、ぜひ今後も復刊ドットコムさんには写真集復刊の分野でぜひ頑張っていただきたいです。ちなみに本書は「復刊ドットコム×代官山蔦屋書店 コラボ企画」の第2弾であり、第1弾は永井博さんのイラスト作品集『Time goes by…』、第3弾は『犬神家の人々 寺山修司・幻想写真館』が刊行済み。第4弾には、和田唱/和田誠の親子コラボ作品集『親馬鹿子馬鹿』 が10月中旬刊予定だそうです。充実しています。復刊ドットコムを傘下におくCCCの増田宗昭社長は「SPA(製造小売業)をやらなければアマゾンには勝てない」と今春の年次会合で話したそうですが、復刊事業の活用は実に正しいと思います。名作はまだまだ数多く埋もれているからです。
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# by urag | 2017-08-20 23:56 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)