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2016年 09月 29日

注目新刊:デリダ×豊崎光一『翻訳そして/あるいはパフォーマティヴ』

弊社出版物の著者の、最近の訳書をご紹介します。

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★ジャック・デリダさん(著書『条件なき大学』)
豊崎光一さんとの二回の対談を収録した日本オリジナル版の新刊『翻訳そして/あるいはパフォーマティヴ』が今週発売されました。「誘惑としてのエクリチュール──絵葉書、翻訳、哲学」(初出:『海』1981年3月号、中央公論社)、「哲学とパフォーマティヴ」(初出:『海』1984年2月号、中央公論社)の2篇の対談に加え、監修者の守中高明さんが解説「哲学・翻訳・パフォーマティヴ──Living on borderlines」と「監修者あとがき」をお書きになっておられます。後者では本書が『デリダとの対話』という書名で、未発表の第3回対談を加えた1冊としてかつて哲学書房から刊行される計画だったことが明かされています(カプート編『デリダとの対話』〔法政大学出版局、2004年〕とは別物です)。埋もれていた企画がこうして刊行されたことに深い敬意を表する次第です。

翻訳そして/あるいはパフォーマティヴ――脱構築をめぐる対話
ジャック・デリダ+豊崎光一著 豊崎光一訳 守中高明監修
法政大学出版局 2016年9月 本体2,000円 四六判上製182頁 ISBN978-4-588-01048-4

帯文より:対話が開く知の核心。デリダが最も信頼する相手と語り合い、難解で知られるその哲学について、講義や講演でも見せることがない率直な語り口でデリダ自身が明らかにし、豊崎光一が《翻訳》で応答する。アルジェリア生まれのユダヤ人としての来歴、言語との関係、自身の哲学のさまざまな概念、ハイデガー、ブランショ、レヴィナス、セール、フーコー、ドゥルーズらとの関係までを語る。世界初の書籍化。

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なお、デリダさんの訳書がこの先、未來社さんより3点発売予定であることがPR誌「季刊未来」2016年秋号で予告されています。

10月4日発売予定:『最後のユダヤ人』渡名喜庸哲訳、本体1,800円、四六判上製150頁、ISBN978-4-624-93269-5
版元紹介文より:現代哲学の最先端を疾走していた晩年のデリダがユダヤ人、ユダヤ性などをめぐって1998年と2000年になされた二つの講演を、盟友ジャン=リュック・ナンシーの緒言とともに収めた講演録。「ポイエーシス叢書」第69弾。

10月20日発行予定:『信と知――たんなる理性の限界における「宗教」の二源泉』湯浅博雄+大西雅一郎訳、本体予価1,800円、四六判上製192頁、ISBN978-4-624-93268-8
版元紹介文より:デリダの提案にもとづいておこなわれた〈宗教〉をめぐる一大コロック(1994年)での講演をもとに、その後に大幅加筆された追記(ポスト・スクリプトゥム)とあわせてまとめられた後期デリダの代表的宗教論。「ポイエーシス叢書」第68弾。

11月刊行予定:『嘘の歴史 序説(仮)』西山雄二訳、本体予価1,800円、四六判上製160頁、ISBN978-4-624-93270-1
版元紹介文より:パリ・国際哲学コレージュでの講演(1997年)。嘘をめぐるさまざまな哲学的主題が網羅され、現代の政治的な嘘の考察がアクチュアルな仕方で展開される。「ポイエーシス叢書」第70弾。

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by urag | 2016-09-29 18:02 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 09月 26日

メモ(3)

大阪屋栗田営業第二本部営業第一部より一斉送信メールで「戸田書店様直営店書店コード再変更のご案内」が届きました。添付されていたのは次の3点(文書2点、エクセル1点)。

1)丸善ジュンク堂書店と戸田書店の業務提携に関するお知らせ
2)株式会社戸田書店様 書店コード変更のご案内
3)戸田書店 直営店 書店コード変更一覧

まず1)は、丸善ジュンク堂書店代表取締役社長・工藤恭孝さんと、戸田書店代表取締役社長・鍋倉修六さんの連名の挨拶状。いまだ両社のサイトでは公式な情報が出ないなか、ようやくの発表です。記載された日付はH28年9月吉日(ファイルのプロパティでは9月24日付)。挨拶状はごくごく簡単な文面。二社は「仕入・物流・売上データ管理の一体化を目的とした業務提携を行い、商品管理・店舗開発の強化を行うことに合意いたしました。両社は丸善CHIグループ会社として、より読者にご満足いただける地域に根ざした書店作りを目指したいと思います」云々。

あっけないほどの簡潔さです。「新文化」9月1日付記事「丸善ジュンク堂書店と戸田書店、9月1日付で業務提携」において「9月1日付で戸田書店の仕入先を大阪屋栗田から丸善ジュンク堂書店に変更した」と報じられたことに対する何かしらの説明や補足、場合によっては訂正があってほしいところなのですが、明確な文言は見当たりません。挨拶状に「一体化を目的とした業務提携〔・・・〕両社は丸善CHIグループ会社として」という一節から事態を察するのみです。

つぎに2)は大阪屋栗田の挨拶状。記載された日付はH28年9月吉日(ファイルのプロパティでは9月21日付)。「提携に際しまして、株式会社戸田書店様直営店舗の書店コードを変更する必要が発生いたしました。〔・・・〕旧栗田コードから変更したばかりで、短期間での再変更となり出版社様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、事情をご賢察の上、何卒ご対応の程お願い申し上げます。新書店コード運用開始日:2016年10月1日(土)」云々と。

戸田書店チェーンの34店舗が旧栗田コードから大阪屋栗田の新コードに移行したのはつい先月、8月1日(第5次移管)のことでしたから、確かに短期間での再変更ではあります。そもそも業界紙報道に「いったい何ごとか」と驚いていた版元は、今度は何だろうと身構えたものの、ようやく出た挨拶状が上述の通りなので、大半の版元はいまだにモヤっとした理解しか得ていないものと思われます。取次から「事情をご賢察」せよと言われても、困ってしまうわけです。

最後に3)は戸田直営13店舗の新旧コード一覧で、プロパティ上では9月14日付となっています。取次の挨拶状では「帳合台帳の変更、配本ランクの変更をお願い申し上げます」とも書いてありましたが、戸田の経営状態がどうなっているか確認できないのに配本ランクの適正な改定などできるものでしょうか。パターン配本を組んでいる版元にとっては「今まで通りの送品でいいのかどうか」判断が難しくなるのかもしれません。

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by urag | 2016-09-26 23:39 | 雑談 | Trackback | Comments(2)
2016年 09月 25日

注目新刊:新海均『満州 集団自決』、ほか

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満州 集団自決
新海均著
河出書房新社 2016年9月 本体1,900円 46判上製264頁 ISBN978-4-309-22683-5

帯文より:終戦から一ヶ月、戦後最大の惨劇はなぜ起きたのか? 満州開拓史上、最も経済的に繁栄した村・瑞穂村――関東軍の逃亡と、ソ連軍の対日参戦によって追い詰められてゆく集団の軌跡を通じて、〈戦争〉の闇を峻烈に描く。

帯文(裏)より:終戦から1ヶ月が経過した、昭和20年9月17日午前2時。満州開拓史上最も経済的に繁栄した瑞穂開拓団の村民、1,150人のうち495人がいっせいに青酸カリで集団自決した。ソ連の対日参戦と関東軍の逃亡によって“棄民”となった人々は何故、集団自決を選んだのか……奇跡的に生還した者の証言を丹念に辿りながら、瑞穂村の始まりと繁栄、そして壮絶なる挫折を峻烈に描き出し、満州とは、戦争とは何であったのかをあぶり出す。

目次:
はじめに
第一章 桜の満開の下の“拓魂祭”
第二章 新天地・満州国への開拓民送出
第三章 王道楽土と敗戦
第四章 ソ連参戦で相次ぐ虐殺と集団自決
第五章 集団自決までの苦悩
第六章 絶望の彷徨と逃避行
第七章 第二の瑞穂村と“大地の子”
あとがきにかえて

★発売済。著者の新海均(しんかい・ひとし:1952-)さんは早大一文卒業後、光文社編集部を経て現在フリーライターとしてご活躍。今回の著書は、『深沢七郎外伝――淋しいって痛快なんだ』(潮出版社、2011年)、『カッパ・ブックスの時代』(河出ブックス、2013年)、『司馬遼太郎と詩歌句を歩く』(潮出版社、2015年)に続く、第4作。ズッシリと重いテーマの本で、特に第四章以降で列記されていく満州開拓団の凄惨な横死の数々にはただただ言葉を失うばかりです。開拓という名の土地収奪、反満抗日ゲリラとの心休まらぬ戦い、いっときの繁栄、ソ連軍の侵攻、終戦、関東軍の撤退、「匪賊」による容赦ない襲撃、離散する家族。引用することすら憚られる、地獄としか言いようのない現実に、教科書的な満州史の理解を解体させられる心地がします。死を選ぶよりほかないような最悪の状況のさなかに時折またたく、民族を超えた良心が垣間見えるのが、せめてもの読者の慰めでしょうか。「地球が狭くなった今、戦争とは何か、平和とは何かを根源的に問うことが一人一人に求められている」(15頁)と著者は書きます。満州のことを日本人が忘れてしまうとしたら、本当の意味で戦争も平和も語れないのだと自問するほかありません。辛い内容ですが、読みだしたら止まらない本です。


「文藝」戦後文学史
佐久間文子著
河出書房新社 2016年9月 本体2,400円 46判上製312頁 ISBN978-4-309-02497-4

帯文より:その時、文学の〈現場〉では何が起きていたのか!? 戦中から戦後、そして現代まで――奔流にのまれ数奇な運命を辿った出版社と、時代と格闘する作家・編集者たちの姿から、いま新たな「文学史」が誕生する!

目次:
はじめに
第一章 「文藝」の創刊と激化する戦争
第二章 戦後の再出発と雑誌の隆盛
第三章 文藝賞創設と「戦後派」の再検証
第四章 「内向の世代」と広がる〈戦後〉との距離
第五章 新時代の文学と「クリスタル」の衝撃
第六章 J文学の誕生と文芸誌の未来
おわりに
「文藝」略年譜

★発売済。「文藝」誌に掲載された「編集長で読むサバイバル史」前篇・中篇・後篇(2013年秋号・冬号・2014年春号)、「1933→2013『文藝』80年史」(2013年秋号)に加筆修正し、一冊にまとめたもの。昭和8年(1933年)に改造社で創刊され、太平洋戦争末期の改造社解散後に河出書房へと発行元を移し、約5年間の休刊(1957年4月~1962年2月)を挟んで現在まで刊行され続けた雑誌「文藝」のドラマな変遷をたどるユニークな書。今年5月に創業130周年を迎えた河出書房新社さんはかつて1957年3月に倒産し、5月に新社設立。さらに1968年3月には会社更生法の適用を申請。「80年以上続いてきたこの雑誌がたどった道のりは決して平坦ではなかった」(9頁)。「あるときはゴリゴリの純文学雑誌になったり、あるときはエンターテインメントの方向に大きく振れたりと、一つの雑誌が時代時代で大きく様相を変え」(8~9頁)たその過程は非常に興味深いです。文学の土壌が、国家の庇護によって保護されるような一部の伝統芸能とは異なる存在であることを改めて感じます。


オランダのモダン・デザイン――リートフェルト/ブルーナ/ADO
ライヤー・クラス/新見隆監修・著
平凡社 2016年9月 本体2,315円 B5変判並製168頁 ISBN978-4-582-20687-6

帯文より:純粋な色彩とシンプルな形――家具、建築、絵本、ポスター、玩具、ドールハウス。DUTCH MODERN DESIGN, Rietveld / Bruna / ADO.

目次:
オランダ・モダニズムの連続性 (ライヤー・クラス)
人間主義的ものづくり、オランダ讃歌 (新見隆)
ヘリット・トーマス・リートフェルト
ディック・ブルーナ
ADO&コー・フェルズー
ディック・ブルーナのデザイン (今井美樹)
ADO――オランダ・デザインの玩具 (カリン・レインダース)
略年表 リートフェルト/ブルーナ/ADO
作品リスト

★発売済。現在開催中の展覧会「オランダのモダン・デザイン――リートフェルト/ブルーナ/ADO」(2016年9月17日~11月23日@東京オペラシティ・アートギャラリー;2016年12月2日~2017年1月22日@大分県立美術館)の公式図録。ヘリット・トーマス・リートフェルト(Gerrit Thomas Rietveld, 1888-1964)はオランダの前衛芸術運動「デ・ステイル」(1917-1932)に参加していた家具デザイナーであり建築家。名作「レッド・ブルー・チェア」(1918-1923頃)をはじめとする肘掛け椅子の数々や、「シュローダー邸」の関連資料などを見ることができます。ディック・ブルーナ(Dick Bruna, 1927-)はおなじみ「ミッフィー」シリーズで知られる絵本作家であり、デザイナーであり、出版人。彼が関わった多数の出版物が紹介されています。ADO(アド:Arbeid door Onvolwaardigen:障がい者による仕事)は、1920年代から2006年までサナトリウムの患者たちによって制作された木製玩具。コー・フェルズー(Ko Verzuu, 1901-1971)は、サナトリウムの作業療法部門の責任者で、ADOの産みの親です。シンプルで温かみのある玩具の数々が公開されています。オランダ・モダニズムの色あせない新しさを満喫できる展示であり図録ではないでしょうか。


吉本隆明全集2[1948‐1950]
吉本隆明著
晶文社 2016年9月 本体7,000円 A5判変型上製842頁 ISBN978-4-7949-7102-9
帯文より:1948年から1950年までの間に書かれた詩篇、評論、ノートのすべてを収録する。「詩稿Ⅹ」「残照篇」の抹消詩47篇をはじめて収録!!「覚書Ⅰ」、「箴言Ⅰ」「箴言Ⅱ」ノートを完全復元!!! 著者の原型はすべてここにある!

★まもなく発売(10月1日発売予定)。第11回配本です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。投込の月報11は、蓮實重彦さんによる「吉本さんと「母性的」なるもの」、ハルノ宵子さんによる「蓮と骨」を掲載。吉本宅を訪ねた蓮實さんのエピソードは他愛ないようでいて強い印象を残します。この全集では帯が2枚まかれていることは周知の通りですが、1枚目の帯の下にある2枚目にはこんな紹介文が添えられています。「大学卒業、姉の死、いくつかの町工場での転職を経て、特別研究生として大学へ戻った時期に書かれた三つの詩稿群と三つのノートを中心に、重要な長篇詩「(海の風に)」、「エリアンの手記と詩」を含む発表詩と発表評論を収録」。詩篇はむろん印象的ですが、個人的には覚書や箴言に見る断片的ながら直観的な閃きが興味深いです。「奇怪な夢を見たあとは牛乳を飲めばいい」(覚書Ⅰ、367頁;箴言Ⅰ、少年と少女へのノート、417頁)。「猫のように身をこごめて、一日を暮した」(箴言Ⅰ、風の章、396頁)。「僕は倫理から下降する。そしてゆきつくところはない」(箴言Ⅱ、断想Ⅳ、467頁)。「結局はそこへゆくに決っている。だから僕はそこへゆこうとする必要はないはずだ。ここをいつも掘り下げたり切開したりすることの外に。僕に何のすることがあるというのか」(箴言Ⅰ、エリアンの感想の断片、387頁)。「僕は常に孤立した少数者を信ずる」(箴言Ⅰ、エリアンの感想の断片、385頁)。次回配本は2016年12月、第3巻の予定。
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by urag | 2016-09-25 18:47 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 09月 18日

注目新刊:松本哉『世界マヌケ反乱の手引書』、など

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世界マヌケ反乱の手引書――ふざけた場所の作り方
松本哉著
筑摩書房 2016年9月 本体1,300円 四六判並製224頁 ISBN978-4-480-81533-0

帯文より:働きまくって金を使い果たす消費社会にはもう飽きた! マヌケな奴らが集まり、楽勝で生きのびるスペースを作り、結託して、世の中をひっくり返せ!

推薦文:「こいつらのデタラメは信頼できる!」(いとうせいこう)。
推薦文:「万国に散在するバカ共よ、地球大使館を作れ!」(中川敬)。

★発売済。『貧乏人の逆襲!――タダで生きる方法』(筑摩書房、2008年6月;ちくま文庫、2011年12月)、『貧乏人大反乱――生きにくい世の中と楽しく闘う方法』(アスペクト、2008年11月)に続く、松本哉(まつもと・はじめ:1974-)さんによる待望の単独著第三弾。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。第3章「世界にはびこるバカセンター研究」と、第4章「謎の場所を渡り歩き、世界の大バカが繋がり始める!!」の一部はPR誌「ちくま」2015年7月~2016年6月に掲載されたものとのことですが、そのほかは全篇書き下ろし。巻末には「世界のとんでもないスペース一覧表」があります。

★本書をどの売場に置くかは書店さんの智慧の見せ所かと思います。分類コードは0095で、一般向けの単行本、「日本文学、評論、随筆、その他」なので、ごく普通にはノンフィクションあたりかと思われますが、コアな読者層を考えるなら社会か人文、興味本位で間違って買われるべく挑戦するなら実用書に紛れ込ませると良いかと(「手引書」ですから)。もっと確信犯的には学参やコミック、ラノベのそばに置いて、学生さんたちの将来設計に役立ててもらう、というのもあるかもしれません。

★特に本書の第2章「超簡単!大してもうからない店を開業してみよう」では、リサイクルショップ(素人の乱5号店)、イベントスペース(素人の乱12号店)、飲食店(なんとかBAR)、ゲストハウス(マヌケ宿泊所)などの開業の経緯や過程が描かれていますので、実用書やビジネス書としても読めます。松本さんの言う「マヌケ」とはただの阿呆ではなくて、金儲けを追求したギラギラした価値観から解放されている自由な状態を指していることが読んでいるうちにわかってきます。オルタナティブでしなやかなカウンターカルチャー、などと表現するといかにも恰好つけた感じになりますから、松本さんなりの反抗心と愛情といささかの自虐を込めて「マヌケ」というユルい表現を選んでおられるのだと思います。実際、松本さんは高円寺北中通り商栄会の副会長もおつとめですから、この「マヌケ」ぶりにはマジメさもちゃんと隠れています。地域振興や町おこしの本をまとめる売場がある本屋さんには特に本書をおすすめします。

★マジメなところもある、と書きましたが、それでも本書を第1章「予想外のことが始まる!――マヌケな場所作りの予行演習」から読み始めると、山手線の社内での酒宴話がいきなり出てくるので、社会常識を持っていると自認している読者はまずこの「予行演習」の章をすっとばして第2章の開業話を読み、続く章で色々な類似例やちょっとしたアクションに触れて感覚を慣らした上で第1章に戻る、ということでもいいと思います。第1章は思考回路や行動範囲を柔軟に広げるための「予行演習」なので、冗談(本気との境界が自己責任であるような)が分からない人には向いていません。

★松本さんは本書で、「金持ち中心社会の奴隷のようなライフスタイルに三行半を突きつけるような「バカセンター」」(204頁)の実践例を紹介し、「各所のバカセンターが勝手なことをやりつつも緩く繋がって人も行き来できるような」(同頁)方途を紹介しています。その中心にあるのは、SNSとは違うリアルな出会い方、つながり方の薦めです。「むしろ超ローカルな動かない奴らの方が面白い奴が多いと言っても過言じゃない。動きまくってる人なんて実はまだまだ少数なのだ」(143頁)と松本さんは書きます。つながりすぎでも引きこもりでもない生き方へと自分自身を開くこと。「開き直った瞬間にマヌケな社会はやってくる」(205頁)と書く松本さんに内心「ホントかよ」と突っ込みつつも楽しく読める本です。

★本書の刊行を記念した対談イベントが以下の通り近日行われます。本の代金よりたけえじゃねえか、と思われる方もおられるかもしれませんが、マヌケ界の巨匠であるお二人が揃う機会なので、自分の方がマヌケだ、と思う方はぜひ。

◎松本哉×栗原康「マヌケ反乱のススメ
日時:2016年9月21日(水)20:00~22:00 
会場:B&B(下北沢)
料金:1500円+ワンドリンクオーダー

★続いて、新しい出版社さんの最初の新刊をご紹介します。

生きるために大切なこと
アルフレッド・アドラー著 桜田直美訳
方丈社 2016年9月 本体1,400円 四六判並製256頁 ISBN978-4-908925-00-9

帯文より:原典で読む、アドラー! 人は誰でも劣等感を持っている。そして、そこから向上心が生まれるのだ。アドラー自身による、アドラー心理学入門。

★発売済。The Science of Living (George Allen & Unwin, 1929)の新訳です(ちなみに訳書奥付では1928年発行となっていますが、原書の著作権マークでは米国版1929年、英国版1930年と記載)。目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。巻末の解説「アドラーとその仕事について」は作家のフィリップ・メレによるもので、原書では巻頭に置かれています。同書の既訳には、『子どものおいたちと心のなりたち』(岡田幸夫・郭麗月訳、ミネルヴァ書房、1982年)や、『個人心理学講義――生きることの科学』(岸見一郎訳、一光社、1996年;アルテ、2012年)があります。前者は絶版。後者はベストセラー『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社、2013年)の著者としてお馴染みの心理学者、岸見一郎さんによる翻訳で、アルテの「アドラー・セレクション」の一冊。一光社版では「Adlerian books」の一冊で、野田俊作監訳と記載されていました。

★アドラーが家族とともに米国に移住したのは1935年ですが、初の米国講演旅行は1926年で、以後米国での活動が増えていますから、そうしたさなかでの英語版の著書刊行ということになるかと思います。ヴィリ・ケーラーの翻訳によるドイツ語版『Lebenskenntnis』がFischerから出版されるのは1978年になってからです。アドラーの主著とも言うべき本書の、3度目の邦訳が成ったのは、日本における近年の著しいアドラー再評価が背景にあるにせよ、非常に印象深い出来事です。

★方丈社さんは今年年頭(2016年1月)に創業されたご様子で(国税庁法人番号公表サイトを参照)、アドラー本のISBNの書名記号が00ですから、登録上はアドラー本が最初の発行物となるのかと思われます。版元サイトでは、同時発売として安福謙二『なぜ、無実の医師が逮捕されたのか――医療事故裁判の歴史を変えた大野病院裁判』(ISBNの書名記号は01)が紹介されています。さらにオンライン書店で公開されている近刊情報では、10月下旬発売で次の2点が挙げられています。横森理香『人生を踊るように生きていこう――更年期を快適に過ごすライフスタイル読本』(ISBNの書名記号は02)と、門倉貴史『お父さんのための裏ハローワーク』(ISBNの書名記号は04)です。03はどこだ、という話ですが、すでに番号は当ててあるものの、現状ではさらにそれらの後の刊行になるということなのでしょう。

★「小さくて、深くて、豊かで、明るくて。そんな出版社を、つくりました。」と版元さんのウェブサイトに自己紹介が掲出されています。困難すぎるこの時代に新しい出版社が神保町に誕生し、精力的に活動を始められたことに敬意を表する次第です。

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★このほか、ここ最近では以下の注目新刊がありました。

海東高僧伝』覚訓著、小峯和明・金英順編訳、東洋文庫、2016年9月、本体3,100円、B6変判上製函入394頁、ISBN978-4-582-80875-9
哲学史講義Ⅰ』G・W・F・ヘーゲル著、長谷川宏訳、河出文庫、2016年9月、本体1,500円、文庫判480頁、ISBN978-4-309-46601-9
人間の由来(上)』チャールズ・ダーウィン著、長谷川眞理子訳、講談社学術文庫、2016年9月、本体1,500円、A6判536頁、ISBN978-4-06-292370-5
杜甫全詩訳注(三)』下定雅弘・松原朗編、講談社学術文庫、2016年9月、本体1,900円、A6判672頁、ISBN978-4-06-292335-4
今昔物語集 本朝世俗篇(下)全現代語訳』武石彰夫著、講談社学術文庫、2016年8月、本体1,950円、A6判760頁、ISBN978-4-06-292373-6
人間と実存』九鬼周造著、岩波文庫、2016年8月、本体1,070円、文庫判並製400頁、ISBN978-4-00-331465-4

★覚訓『海東高僧伝』は東洋文庫第875巻。帯文に曰く「海東とは朝鮮半島の意。13世紀高麗時代に編纂され19世紀末に発見された名僧たちの伝記集成を詳しい訳注で読む。東アジアの広がりのなかで、朝鮮への仏法伝来と流布の道のりをたどる。同書は大正新修大蔵経や国訳一切経、大日本仏教全書などに収録されていましたが、現代語訳というのは初めてではないでしょうか。訳者の小峯さんによるあとがきによれば、本書は『新羅殊異伝――散逸した朝鮮説話集』(東洋文庫809、2011年)に続く「朝鮮漢文を読む会」による第二の成果だそうです。「高僧伝は中国や日本ではジャンル化しているが、韓国では『海東高僧伝』が現存する唯一といえる述作であり、その史的意義はきわめて高い」とのことです。東洋文庫次回配本は2016年10月、『陳独秀文集2』と予告されています。

★ヘーゲル『哲学史講義Ⅰ』は92~93年刊行の全3巻本を改訳の上、全4巻で文庫化するものの第一回配本。主要目次を列記すると、単行本版訳者まえがき、文庫版訳者まえがき、はじめに、序論、ときて、第一部「ギリシャの哲学」第一篇「タレスからアリストテレスまで」第一章「タレスからアナクサゴラスまで」の最後まで収録。同じく第二章「ソフィストからソクラテスまで」から第三章「プラトンとアリストテレス」までを収録する第Ⅱ巻は10月6日発売予定。高名な長谷川宏訳ヘーゲルの嚆矢となった『哲学史講義』(底本はグロックナー版ヘーゲル全集17~19巻)の決定訳が廉価版で購読できるのはうれしいことです。

★講談社学術文庫では先月分より1点と今月分より2点を選択。先月刊の『今昔物語集 本朝世俗篇(下)全現代語訳』は全2巻完結。巻第二十七「本朝 付霊鬼」、巻第二十八「本朝 付世俗」、巻第二十九「本朝 付悪行」、巻第三十「本朝 付雑事」、巻第三十一「本朝 付雑事」を収録。帯文に曰く「ほとばしる「生」への讃歌!「今は昔」知恵と胆力で現実を生きる貴賤聖俗老若男女の物語。900年語り継がれる日本最大の説話集」と。

★今月刊のダーウィン『人間の由来(上)』の親本は、『ダーウィン著作集』第1巻・第2巻「人間の進化と性淘汰」1・2(文一総合出版、1999~2000年)。文庫版第1巻では第I部「人間の由来または起源」第一章~第七章、第Ⅱ部「性淘汰」第八章~第一一章を収録。原書は1871年刊行のThe Descent of Man, and Selection in Relation to Sexです。帯文に曰く「『種の起源』の先に踏み出した進化論の金字塔」と。もう1冊、『杜甫全詩訳注(三)』は全4巻の第3弾で、774番から1027番までの作品を収録。カヴァー紹介文によれば「蜀中の後期から三峡の入口・夔州で病身を養う時期にかけて詠んだ」名品の数々を収録、とのことです。

★九鬼周造『人間と実存』は編集部の凡例によれば、1939年に岩波書店で刊行された親本を文庫化したもので、底本は岩波書店版『九鬼周造全集』第三巻(2011年、第3刷)とのことです。旧字旧仮名は新字新仮名に改められていますが、原文が文語文である場合には旧仮名遣いのままとした、とのことです。収録テクストは巻頭の短い「序」のほか、「人間学とは何か」「実存哲学」「人生観」「哲学私見」「偶然の諸相」「驚きの情と偶然性」「形而上学的時間」「ハイデッガーの哲学」「日本的性格」の9篇。巻末の注解と解説は藤田正勝さんによるものです。「人間とか実存とかということは、それに関連する諸問題と合わせて、哲学の最も重要な問題であると私は考えている」と九鬼は序に記しています。九鬼は1888年生まれ(1941年没)で同年生まれの実存哲学者にはジャン・ヴァールがいます。九鬼は2月、ヴァールは5月生まれ。翌1889年には、4月にチャップリンとヒトラーが、9月にハイデガーが生まれます。
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by urag | 2016-09-18 05:16 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 09月 16日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる本屋さん

2016年10月27日(木)オープン
ジュンク堂書店柏モディ店:図書500坪
千葉県柏市柏1-2-26 柏モディ 2F
トーハン帳合。弊社へのご発注は、人文書主要14点、芸術書主要9点。JR柏駅に隣接するショッピングビル「柏モディ」のリニューアルに伴い5Fに新規出店。営業時間は10:30~20:00です。柏モディは柏マルイの旧「マルイ館」。すぐ下の4Fはユニクロで、上の6Fは山野楽器になるとのことです。来たる10月27日のリニューアル後の柏マルイは、マルイ(旧「VAT館」)とモディの2つのストアブランド体制で新生する、と。

周知の通り、旧マルイ館よりも駅に近いVAT館の7Fにはかつて八重洲ブックセンター丸井柏店が出店していました(2012年4月27日~2016年3月27日、図書270坪、日販帳合)。美しい内装や外景の眺めの良い書見コーナーなどが話題を呼んでいました。天狼院書店ウェブサイト「書店をゆく」欄の2015年5月5日付記事「魅惑のS字棚 八重洲ブックセンター丸井柏店」や、リビングかしわwebの地域特派員レポート「あの「八重洲ブックセンター」が柏駅前/丸井VAT館にやってきた」などをご覧ください。流麗なS字棚や、眺望の良い書見コーナーなど、ありし日の様子が偲ばれます。ちなみにグーグル・ストリートビューでは八重洲BCの名前があるビルの映像が今なお残っています。

駅前の好立地ですし、写真を見る限りではとても良い雰囲気の本屋さんに見えるものの、数年で撤退を余儀なくされたのは昨今の出版業界の厳しさを物語っているのかもしれません。VAT館はその後リニューアルし、2016年4月28日に2~6Fが先行オープン。現在はヴィレッジヴァンガードなどが出店している7Fや、英会話のイーオンなどがある8Fは5月20日にオープンしました(参考記事:「流通ニュース」2016年5月20日付記事「柏マルイ/全館をリニューアル、マルイ館は秋にモディに転換」)。

柏駅前ではスカイプラザ専門店街B1Fの古参である浅野書店や、カルチェ5の新星堂などがあるものの、後者は昨春売場縮小となり、それなりの点数の専門書を見たいというお客様にとっては八重洲BCの撤退は痛手だったようです(参考記事:「坂口勇人日記」2016年3月19日付エントリー「柏駅の周りから本屋が無くなっていく・・・ 」;「流山の住人から」2016年1月29日付エントリー「柏丸井にある八重洲ブックセンターが閉店」)。さっぱり思い出せないのですが、その昔、柏マルイには紀伊國屋書店が入っていたこともあったのですね。

そうした経緯を考えると、ジュンク堂の新店は八重洲BCの倍近い売場なので、大型店の再来を待ち望んでいたかもしれない地元の方々にとっては朗報なのかもしれません。ただ、版元サイドとしては、いくらビル全体がリニューアルして来客数が見込めるからといっても、他チェーンが苦戦した地域でジュンク堂が踏ん張れるのか、本当に専門書の需要があるのか、心配がないとは言いにくい状況です。既存店との共存が可能なのかどうかも、よく分かりません。今後の推移を注視したいです。
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by urag | 2016-09-16 17:04 | 販売情報 | Trackback | Comments(4)
2016年 09月 13日

メモ(2)

メモ(2)

「文化通信」2016年9月13日付記事「DNP、文教堂GHD株式の一部を日販に譲渡へ」によれば、大日本印刷が持つ株式の一部と丸善ジュンク堂書店が持つ全株式を日販に10月31日付で譲渡する契約を昨日結んだ、と。これにより日販が文教堂の筆頭株主となる、とのことです。DNPは本件に対し、以下のようにコメントしたと報じられています。「文教堂と日販の関係を強化することが、これまで進めてきた出版流通市場における一層の協業関係の推進と市場の活性化のために効果的であると判断」し、「株式譲渡後もDNPグループ及び文教堂は、honto事業をともに推進することで認識が一致しており、引き続き良好な協業関係のもと、新たな商品サービスの開発に取り組む」。

いっぽう「新文化」でも9月13日付記事「日販、文教堂の筆頭株主に」や、同日付続報「日販と文教堂が業務提携へ」が掲出されています。後者の記事によれば、「アニメ関連のオリジナル・PB商品など書籍・雑誌を効率的に販売するための複合商品の研究・開発、経営効率に優れた店舗モデル開発、販売データの活用・共有化およびシステム整備を進める」とあります。

また、「日本経済新聞」9月13日付記事「大日本印刷、文教堂株を日販に売却 28% 売却益16億円」では、全国に約200店舗ある文教堂の三期連続営業赤字についてや、メイン帳合がトーハンから日販へと変更される可能性について言及しています(普通に考えれば帳合変更となることでしょう)。

このほか関連記事には以下のものがあります。
「ITビジネスオンライン」9月12日付記事「書店チェーンの文教堂、日販が筆頭株主に DNPグループが株式売却――書店チェーンの文教堂の筆頭株主が日販に
「M&Aタイムス」9月13日付記事「大日本印刷、子会社の株式譲渡 日販及び文教堂との関係強化
「Market Newsline」9月13日付記事「文教堂、日本出版販売と業務提携・アニメ関連商品の共同開発へ

「ITビジネスオンライン」が記事末尾でさらりとトーハン(八重洲BC)の件に触れている通り、今回の件は二大取次の熾烈なシェア争いが依然として続いていることを示しています。DNPは丸善ジュンク堂書店を通じてトーハンとも付き合いがあるわけで、こうした駆け引きには驚かされます。トーハンは傘下の中堅取次である中央社が「アニメイト」と取引しており、その「アニメイト」と競合せざるをえない文教堂のホビー部門である「文教堂Hobby」や、サブカル部門の「アニメガ」をDNPグループとしてはもう少し成長させたかったので、日販を選んだ、ということなのでしょうか。

・・・それにしても丸善ジュンク堂の戸田書店との提携については続報がまるで出ません。なぜだ・・・。
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by urag | 2016-09-13 19:36 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2016年 09月 13日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる本屋さん

2016年10月1日(土)オープン
THE CALENDAR(ザ・カレンダー):書籍売場5坪
滋賀県大津市春日町1-3 大津駅ビル 2F
トーハン帳合。弊社へのご発注は芸術書ロングセラー1点。「THE CALENDAR」はJR大津駅舎がリニューアルし、380坪の複合施設になるというもの。フロア構成は、60床のカプセルホテル「CALENDAR HOTEL」、ロビー・ラウンジ(レストラン・カフェ・バー)、食堂・バー・多目的ルーム、野外テラス(ビアガーデン・BBQテラス)。公式ウェブサイトによればホテル部分に「ブックコーディネーターによる無料で読める(購入もできる)ブックストアも」との説明あり。経営主体は東京と大阪に本部を置く「株式会社バルニバービ」。東京、千葉、神奈川、大阪、京都、兵庫、滋賀、福岡、鹿児島などに多数飲食店を展開しています。

「無料で読める」というニュアンスは、完成予想図だけ見るとショップ内で座り読みできるだけの話ではないかとも思えます。最近他店で良く見るような、未購入の本を隣接するカフェなどに持ち込んで読むことができるのかどうかは不明。近年のブックカフェなどの複合施設では「カフェ持ち込み可能」というスタイルが増えてきているのは周知の通りです。版元としては無料で本を貸し出しているわけではないので、実際のところ、なし崩し的にこうしたやり方が議論もなしにスタンダードになるのは疑問なしとしません。カフェ持ち込み可、とするなら返品は勘弁して欲しいというのが版元の本音です。
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by urag | 2016-09-13 13:46 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2016年 09月 12日

バタイユ『マネ』書評と注目新刊

「週刊読書人」2016年9月9日号4面に弊社7月の新刊、バタイユ『マネ』江澤健一郎訳、の書評「期待を裏切る至高のタブロー――バタイユによるマネ論」が掲載されました。評者は青山学院大学教授・濱野耕一郎さんです。「本書はバタイユ作品への恰好の入口になると同時に、画家をめぐる様々な思索に触れるきっかけとなるのではないか」と評していただきました。なお、下記の画像は某書店さんで開催されたバタイユ・フェア「『マネ』から探るバタイユの横断的現在性」の店頭の様子です。

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つづいて、弊社本でお世話になっている著訳者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
今月、ギンズブルグの最新論考7篇をまとめた編訳書を上梓されます。まもなく発売(版元サイトによれば9月21日発行予定)。上村さんによるギンズブルグの編訳書は『歴史を逆なでに読む』(みすず書房、2003年)に続き2冊目となります。収録論文の原題や発表年、目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。

ミクロストリアと世界史――歴史家の仕事について
カルロ・ギンズブルグ著 上村忠男編訳
みすず書房 2016年9月 本体4,200円 四六判上製304頁 ISBN978-4-622-08545-4

帯文より:〈ほとんど無名に近い個人でも、はるかに大規模な現象にかんする省察への道を拓くことがありうる〉。ミクロストリア研究の真髄をしるす、歴史家の仕事7編。


★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
全8巻予定の新訳『存在と時間』の第2巻が先週発売開始となりました。第2巻に収録されているのは、第一部第一篇第一章第九節から第三章第一六節まで。本書の半分以上は中山さんによる詳細な解説です。第1巻は2015年9月刊。約1年ぶりの刊行ということになります。なお今月創刊10周年を迎えた光文社古典新訳文庫の近刊予定には丘沢静也さんによるニーチェ『この人を見よ』が見えます。

存在と時間2
ハイデガー著 中山元訳
光文社古典新訳文庫 2016年9月 本体1,200円 文庫判371頁 ISBN978-4-334-75338-2

カヴァー紹介文より:現存在とは「みずからおのれの存在へとかかわっている」存在者であること、つまり現存在は実存する。この第二分冊では、その実存の概念として「そのつどわたし」である各私性、平均的な日常性の概念が提起され、現存在の基本的な構造が「世界内存在」であることが詳細に考察される。


★柿並良佑さん(共訳:サラ-モランス『ソドム』)
岩波書店の月刊誌「思想」2016年9月号(1109号)にラクー=ラバルトとナンシーの共著論考「政治的なものの「退引」」のご高訳が掲載されました(7-33頁)。これはパリの高等師範学校にある「政治的なものに関する哲学的研究センター」の成果をまとめた論集『政治的なものの退引』(Le retrait du politique, Galilee, 1983)に収録された同名論考(厳密に言えば論考の題名ではretraitがギュメで括られています)を討議の要約も含めて訳出したもので、論集の緒言と補遺も併せて訳されています。80年代の二人の共著は翻訳の空白部分となっていましたが、柿並さんをはじめ若手研究者によって再評価が進んでいます。


★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』)
青土社の月刊誌「現代思想」2016年10月臨時増刊号「未解決問題集――リーマン予想、ABC予想、P≠NP予想…」にご高論「「内在の哲学」序説:知性の問題論的転回」が掲載されました(193-213頁)。同特集号は「シリーズ現代思想の数学者たち」の1冊。同シリーズではすでに2016年3月臨時増刊号「リーマン――リーマン予想のすべて」が刊行されています。また、近藤さんのご論考に付された注によれば、近刊として『コギトなきスピノザ主義――20世紀フランス「概念の哲学」(仮)』(上野修・米虫正巳・近藤和敬編著)が言及されています。

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また、現在弊社ウェブサイトではジャン=ジャック・ルソー「化学教程」の翻訳が好評連載中ですが、ルソーの『言語起源論〔Essai sur l'origine des langues〕』の新訳が先月、岩波文庫で発売されています(同文庫では今月16日には今野一雄訳『演劇について』〔1979年10月刊〕の重版も再開されるようです)。巻末の解説で訳者の増田さんは『言語起源論』を「ルソーが自分の作品の中で音楽論と政治思想の融合をめざしていたことを示す象徴的な作品」と評価しておられます。なお、同論考の既訳には、竹内成明訳「言語起源論 : あわせて旋律と音楽的写生について論ず」(白水社『ルソー選集』第6巻所収、1986年;白水社「ルソー・コレクション」、『起源』所収、2012年)や、小林善彦訳『言語起源論 : 旋律および音楽的模倣を論ず』(現代思潮社「古典文庫」、1970年;新装版1976年;現代思潮新社、オンデマンド版2007年)などがあります。

言語起源論――旋律と音楽的模倣について
ルソー著 増田真訳
岩波文庫 2016年8月 本体580円 文庫判160頁 ISBN978-4-00-336237-2

カヴァー紹介文より:ルソーが言語の起源と本質を論じた著作。言語の本質とは情念の表現にあり、もとは言語と音楽の起源は同一であったという。言語の起源と変遷、諸言語の地理的差異、音楽の起源、旋律、和声の原理と歴史が分析され、南方と北方の言語の抑揚の相違、言語の現状が言語の変遷といかに関係しているかなどが論じられる。

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★ロドルフ・ガシェさん(著書『いまだない世界を求めて』)
今週再来日を果たされ、東大駒場で講演されます。入場無料、予約不要です。

◎ロドルフ・ガシェ セミナー
The Destruction of the Inalienable, or Storytelling in the Age of Disaster: Wilhelm Schapp’s Philosophy of Stories

日時:2016年9月17日(土)16:00~19:00
場所:東京大学駒場キャンパス 18号館4階コラボレーション・ルーム3

内容:災厄以後の生き残りたちの証言の問い、記憶の伝承、物語論の問題設定から、ヴィルヘルム・シャップ(Wilhelm Schapp, 1884-1965:フッサールの弟子でハイデガーと同世代の現象学者)の歴史哲学を考察する。

使用言語:英語(通訳なし)、英語原稿配布あり。

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by urag | 2016-09-12 00:30 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2016年 09月 10日

注目新刊:ベルクソン、ユング、ホッブズなど

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笑い』アンリ・ベルクソン著、合田正人・平賀裕貴訳、ちくま学芸文庫、2016年9月、本体950円、文庫判240頁、ISBN978-4-480-09747-7
イメージが位置をとるとき――歴史の眼1』ジョルジュ・ディディ=ユベルマン著、宮下志朗・伊藤博明訳、ありな書房、2016年9月、本体6,000円、A5判上製304頁、ISBN978-4-7566-1647-0
『法の原理――自然法と政治的な法の原理』トマス・ホッブズ著、高野清弘訳、行路社、2016年8月、本体3,600円、A5判上製349頁、ISBN978-4-87534-384-4
ユング 夢分析論』カール・グスタフ・ユング著、横山博監訳、大塚紳一郎訳、みすず書房、2016年8月、本体3,400円、四六判上製296頁、ISBN978-4-622-08517-1
物質と意識――脳科学・人工知能と心の哲学(原書第3版)』ポール・チャーチランド著、信原幸弘・西堤優訳、森北出版、2016年8月、本体2,800円、四六判上製336頁、ISBN978-4-627-81753-1

★ベルクソン『笑い』は発売済。ちくま学芸文庫でのベルクソンの翻訳はこれで5点目。『笑い』は6月に光文社古典新訳文庫から増田靖彦さんによる新訳が出たばかりですし、さらに遡れば、1月に平凡社ライブラリーで原章二訳が出ています(『笑い/不気味なもの: 付:ジリボン「不気味な笑い」』)。ついこのあいだまでは文庫では岩波文庫の林達夫訳(1938年;改版1976年)しかなかったのですから、今年3点もの新訳が出ている状況というのは驚異的です。

★今月のちくま学芸文庫では、ジャック・アタリ『アタリ文明論講義――未来は予測できるか』(林昌宏訳、ちくま学芸文庫、2016年9月)や、『エジプト神話集成』(杉勇・屋形禎亮訳、ちくま学芸文庫、2016年9月)なども発売されています。アタリの本は文庫オリジナルで、Peut-on prévoir l'avenir ? (Fayard, 2015)の翻訳です。訳者の林さんは本書を「これまでの彼の仕事を集大成したもの」と評価されています。『エジプト神話集成』は「筑摩世界文学大系(1)古代オリエント衆」(1978年)からエジプトの章を文庫化したもの。


★なお、来月のちくま学芸文庫は、ダニエル・C・デネット『心はどこにあるのか』土屋俊訳、ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』大浦康介訳、ダンカン・ワッツ『スモールワールド・ネットワーク――世界をつなぐ「6次」の科学〔増補改訂版〕』辻竜平・友知政樹訳、竹内信夫『空海入門――弘仁のモダニスト』が10月6日発売予定とのことです。デネットは数多くの訳書がありますが、文庫化は初めてですね。

★ディディ=ユベルマン『イメージが位置をとるとき』は発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ブレヒトの『作業日誌』や『戦争案内』の分析を通じたイメージ/モンタージュ論です。著者の連作「歴史の眼〔L'Œil de l'histoire〕」の第1巻で、第3巻『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』は昨年11月に 伊藤博明さんの訳で同じくありな書房から刊行されています。「歴史の眼」は原書ではすべてミニュイ〔Minuit〕から今までに第6巻まで出版されています。今回の新刊の訳者あとがきによれば、訳書の続刊は第2巻『受苦の時間の再構築』となるようです。

2009 【1】 Quand les images prennent position〔『イメージが位置をとるとき』2016年〕
2010 【2】 Remontages du temps subi〔『受苦の時間の再構築』〕
2011 【3】 Atlas ou le gai savoir inquiet〔『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』2015年〕
2012 【4】 Peuples exposés, peuples figurants〔『さらされる民衆、端役としての民衆』〕
2015 【5】 Passés cités par JLG〔『ジャン=リュック・ゴダールによって引用された過去』〕
2016 【6】 Peuples en larmes, peuples en armes〔『涙にくれる民衆、武器をとる民衆』〕

★高野清弘訳『法の原理』は発売済。岩波文庫から4月に田中浩・重森臣広・新井明訳でホッブズの同書が刊行されていたため(『法の原理――人間の本性と政治体』)、同じ年に2つの訳書が出るのは古典としては異例です(とはいえ、先述した通り、ベルクソン『笑い』の新訳が今年は3種出もているわけですが、これは「現代の」古典なので、ホッブズと一緒にするわけにはいきません)。出版の経緯について高野訳の「訳者あとがき」を確認してみると、岩波文庫版との意外な関係が。岩波文庫版のあとがきには「作業としては田中が全訳し、新井・重森が検討するという形式で進めた」とあるのですが、行路社版では高野さんが、田中さんの依頼のもと、最初の下訳を高野さんと故・藤原保信さんとの共訳で行ったと証言されています。詳しい説明は行路社版をご覧下さい。9月8日現在、アマゾンでもホントでも行路社版が購入できないままになっているのは単純に書店サイドが仕入れていないだけなのだろうと思われますが、残念なことです。リアル書店の店頭では大型店を中心にもちろん販売されています。

★『ユング 夢分析論』は発売済。夢に関するユングの主要な論文6篇を1冊にまとめたもので、「夢分析の臨床使用の可能性」Die praktische Verwendbarkeit der Traumanalyse (1931)、「夢心理学概論」Allgemeine Gesichtspunkte zur Psychologie des Traumes (1916/28/48)、 「夢の本質について」Vom Wesen der Traume (1945/48)、「夢の分析」L'analyse des reves (1909)、「数の夢に関する考察」Ein Beitrag zur Kenntnis des Zahlentraumes (1910/11)、「象徴と夢解釈」Symbols and the interpretation of dreams (1961/77)を収録。本書と同時に、『心理療法論』林道義編訳、『個性化とマンダラ』林道義訳、『転移の心理学』林道義・磯上恵子訳、の3点の新装版も発売されています。

★チャーチランド『物質と意識』は発売済。原書は、Matter and Consciousness, Third edition (MIT Press, 2013)です。目次の確認や立ち読みは書名のリンク先をご利用ください。同書は1984年に初版が刊行され、1988年に改訂版が刊行されましたが、日本語に訳されるのは第3版が初めてです。先月は本書のほか、カプラン『人間さまお断り――人工知能時代の経済と労働の手引き』三省堂、櫻井豊『人工知能が金融を支配する日』東洋経済新報社、三宅陽一郎『人工知能のための哲学塾』BNN出版、と人工知能を書名に冠した新刊が目白押しでしたし、スタンバーグ『〈わたし〉は脳に操られているのか』インターシフト、のように脳科学や神経科学の先端を倫理学的観点から批判的に考察する本も出ています。ブックフェアを開催するには良いタイミングかもしれません。
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by urag | 2016-09-10 17:48 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 09月 08日

メモ(1)

「東洋経済オンライン」2016年9月8日付、中村淳彦氏記名記事「月収13万円、37歳女性を苦しめる「官製貧困」――公営図書館の嘱託職員は5年で"雇い止め"に」に曰く「行政機関で通常の常勤職員として働き、非正規雇用の平均給与を稼ぐひとり暮らしの女性が「相対的貧困」に足を突っ込みかねない時代に突入している」と。「図書館などの公共サービスは、自治体が民間の指定管理会社に運営を委託する流れがある。将来的に賃金上昇や雇用改善が期待できない業種だ」とも。

また「公共機関で働く彼女は、残酷なほどの正規非正規格差の渦中にいる。全産業での正規職員の平均賃金は321万1000円(平成27年賃金構造基本調査統計)と比べると約6割の収入しかない。さらに職場の同僚にいる正規の地方公務員と比べると、正規は平均年収669万6464円(平成26年地方公務員給与実態調査)と好待遇で、非正規の賃金は正規の3分の1にも満たない。/努力や自身の成長、仕事の成果ではどうにもならない絵に描いたような官製貧困、官製格差だ。貧困から抜けて、普通の生活をするためには学芸員の資格取得ではなく、ダブルワークをして長時間労働によって差額を埋めていくしかない」。

現在の中にすでに未来の萌芽があるのだとしたら、図書館運営の未来も見えてくる気がします。

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「NHKニュースウェブ」9月8日付記事「News Up ピンチ 公立図書館の運営」によれば、石川県穴水町の町立図書館では、9年前の能登半島地震により「図書館の建物が大きな被害を受けたため、新しい建物に移設するまでの間、図書を一時的に保管するスペースが足りなくなり」、地元の研究者から寄贈された図書のうち、歴史や民俗学に関する図書「1800冊余りを、利用頻度が低いなどの理由から廃棄した」とのこと。1800冊の中には、今では入手が困難なものも含まれていた、とも。図書館の担当者は「人やスペースが十分ではなく、管理、運営に難儀している。こうした問題は、小さな自治体の図書館では、どこでも抱えているのではないか」と話しているそうで、「個人から本の寄贈の申し出があっても、本の内容の確認などが十分に行えないため断らざるをえない」とのことです。

貴重な古書が廃棄されるというのはまったくやりきれないことです。廃棄というとさしずめ古紙業者に紙くずとして渡したのかもしれない、と推測できます。除籍本を自治体の市民に譲渡する機会というのも図書館では存在するはずですが、それだけでなく、除籍本をリスト化してネットなどで公開し、古書店や研究者、もしくは個人の蔵書家に再利用してもらえるような仕組みや法整備が進んでほしいとも思います。

記事では、図書館の全国組織「日本図書館協会」の山本宏義副理事長の発言も紹介しています。「専門知識を持った人を長期的に育てるというのは難しい。ましてや、職員の数が限られる小さな自治体で、さまざまな分野の専門家を育てるのは無理がある。穴水町のようなケースをなくすためには、自分のところの図書館でわからなくても、どこか別の図書館の専門家に聞けるような体制を作っていく必要があると思う」と。

人材教育が困難になっているのは図書館だけでなく新刊書店でも同様です。図書館のみの問題とするのではなく、地域を越えて、新刊書店や古書店、大学、出版社などと連携しても良いような気がします。

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by urag | 2016-09-08 14:48 | 雑談 | Trackback | Comments(0)