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2016年 02月 28日

注目新刊:佐々木中さんの安吾論『戦争と一人の作家』、ほか

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戦争と一人の作家――坂口安吾論
佐々木中著
河出書房新社 2016年2月 本体2,200円 46判上製288頁 ISBN978-4-309-24750-2

帯文より:君はもう堕落している。「戯作〔ファルス〕」を求めた作家・坂口安吾はなぜ特攻を賛美したのか――? あらゆる安吾論を無に帰しながら〈現在〉を撃つ、かつてない思考の雷撃。「爆心地の無神論者――『はだしのゲン』が肯うもの」収録。

目次:
戦争と一人の作家――坂口安吾論
 一 ファルスの定義
 二 初期ファルスの実際とその蹉跌
 三 「吹雪物語」へ
 四 「吹雪物語」の挫折
 五 「文学のふるさと」と芋虫の孤独
 六 「イノチガケ」――合理主義と死
 七 「紫大納言」から「桜の森の満開の下」へ、そしてその彼方へ――消滅のカタルシス
 八 安吾の文体論――「文章のカタダマ」の「必要」
 九 イノチガケの特攻――「日本文化私観」と「特攻隊に捧ぐ」
 十 堕落・政治・独創――「堕落論」「続堕落論」再考
 十一 戦争と美と一人の女と
 十二 ファルスの帰結――明日は天気になれ、もう軍備はいらない
 註釈
ゲン、爆心地の無神論者――『はだしのゲン』が肯うもの


★発売済。季刊誌「文藝」2016年春号に掲載された論考の、続きを含む全体が単行本として早くも刊行されました。分量的に言えば「文藝」掲載分(第八章終わり近く、正確には単行本版107頁の引用まで)は本作の半分でした。安吾の特攻賛美の詳細を小説「真珠」(1942年)に見る第九章にはこんなくだりがあります。「この奇妙な死を前にした「呑気」と「遠足」に、何が瞠目すべき、注意を払うべきものを見出す必要は全くない。ありふれている。世界中でいま現在も繰り返されている光景に過ぎない」(125頁)。このあとの段落にはGHQの検閲によって雑誌から全文削除となった安吾の「特攻隊に捧ぐ」(1947年)からの引用が続くのですが、そのなかには「いのちを人にささげる者を詩人という。唄う必要はないのである」という言葉があります。

★佐々木さんの安吾論は、私たちが生きる現代世界に頻発している自爆テロや現代日本の安全保障問題を論じているわけではないにもかかわらず、「今」を生きる読み手の肺腑に冷ややかにそして熱く刺さってくる刃のようなものを有しています。個人的には注375にある次の示唆が、佐々木さんの今後の新作へと続いていくような期待感を持たせてくれます。「ガーンディーの非暴力抵抗はキング牧師のそれとともに実は「暴力」を定義自体を変容させるものであるが、他の機会に譲る」(246頁)。本書に『はだしのゲン』を扱った論考(初出は『「はだしのゲン」を読む』河出書房新社、2014年)が併載されているのもまた非常に印象的です。

★「描き、書き、歌い、踊り、語り、創り、癒し、生き延びていく……藝術のすべてが爆心地で肯定されている。これをナイーヴだと言うのならば、よろしい。愚直で凡庸であると言うなら、よろしい。もう何も言うことはありません。そういう人は、筆を折るといい。言い訳は必要ありません。筆を折るべきです」(278頁)。帯文に「思考の雷撃」とありますが、確かに佐々木さんの文章にはそれを感じます。読んでいる最中には静電気のようなエネルギーがいつの間にか体内に入り込み、読後に世界と再び触れ合う際にバチンと衝撃が走り抜けます。この驚くべき強度こそ佐々木中さんの魅力です。


スーザン・ソンタグの『ローリング・ストーン』インタヴュー
ジョナサン・コット著 木幡和枝訳
河出書房新社 2016年2月 本体2,200円 46変形判並製228頁 ISBN978-4-309-20702-5

帯文より:素の私、沈黙している私に出会ってほしい――世界文学、サブカルチャー、エロティシズム、そしてふつうの生活……絶頂期のスーザン・ソンタグと『ローリング・ストーン』誌との、オープンで、重層的で、複雑な会話。

目次:
まえがき(ジョナサン・コット)
スーザン・ソンタグの『ローリング・ストーン』インタヴュー
訳者あとがき(木幡和枝)

★発売済。1978年11月にソンタグの自宅で行われたロング・インタヴューを収録しています。このインタヴューは1979年10月に『ローリング・ストーン』誌に三分の一だけ収録され、35年後に全体が単行本 Susan Sontag: The Complete Rolling Stone Interview (Yale University Press, 2013)として出版されました。その日本語訳が本書です。このインタヴューはソンタグの『隠喩としての病』(1978年)や『写真論』(1977年)を上梓した時期と重なります。インタヴューのテーマは多岐にわたりますが、その分「ソンタグらしさ」の幅が示されているように感じます。印象的だったもののひとつを以下に引用しておきます。

★「もっとも早い時期から私が使命感をもってやってきたことのひとつは、思考と感情の区別に反対することだったわ。実際、これがすべての反知性的なものの見方の基盤になっていると思う。心と頭脳、考えることと感じること、空想と良識……私はこんな分断があるとは信じていない。私たちはだいたいにおいて同じ身体をもっているけれど、考えとなると非常に異なるものがあるわ。体で考えるというより、文化が与えてくるさまざまな手立てを通して考える、その度合いのほうが強いと信じている。だからこそ、世の中にはこれだけ多様な考え方があるんだわ。考えることは感じることのひとつのかたちだし、感じることは考えることのひとつのかたち、そんな感じがする。/たとえば、私が行うことの結果が本や映画になる、私ではない事物になるわけで、それらは言葉であれ視線であれ、なんであれ、何かの転写物なのよ。これは、純粋に知性に委ねた工程だと想定する人もいるでしょう。だけど、私がやることのほとんどは直観に動かされているのであって、理性の出番にも負けないほど多い。愛は包括的な了解を前提にしているとは言わないけれども、誰かを愛しているとなれば、ありとあらゆる考えや判断に与することになる。それが実態なのね」(116-117頁)。

★ちなみにインタヴュイーであるコットによるまえがきは、ソンタグの「ボルヘスへの手紙」(1996年)からの引用で締めくくられています。その部分はそのまま出典である『書くこと、ロラン・バルトについて』(富山太佳夫訳、みすず書房、2009年)の版元紹介文の冒頭に引用されている箇所と一緒です。たいへん感動的な一節で、特に出版人・書店人の胸に響く内容となっていますので、ぜひリンク先でお読みください。


これからのエリック・ホッファーのために――在野研究者の生と心得
荒木優太著
東京書籍 2016年2月 本体1,500円 四六判並製256頁 ISBN978-4-487-80975-2

帯文より:勉強なんか勝手にやれ。やって、やって、やりまくれ! 16人の在野研究者たちの「生」を、彼らの残した文献から読み解き、アウトサイドで学問するための方法を探し出す。大学や会社や組織の外でも、しぶとく「生き延びる」ための、〈あがき〉方の心得、40選。

目次:
はじめに――これからのエリック・ホッファーのために
在野研究の心得
第一章 働きながら学問する
 どれくらい働いたらいいのか?――三浦つとむ(哲学・言語学)
 終わりなき学びを生きる――谷川健一(民俗学)
 学歴は必要か?――相沢忠洋(考古学)
第二章 寄生しながら学問する
 絶対に働きたくない――野村隈畔(哲学)
 勝手にやって何が悪い?――原田大六(考古学)
第三章 女性と研究
 女性研究者という生き方――高群逸枝(女性史学)
 大器晩成ス――吉野裕子(民俗学)
第四章 自前メディアを立ち上げる
 自前のメディアで言論を――大槻憲二(精神分析)
 評伝の天才――森銑三(書誌学・人物研究)
 言葉を造る――平岩米吉(動物学)
第五章 政治と学問と
 政治と研究――赤松啓介(民俗学)
 市民社会のなかで考える――小阪修平(哲学)
第六章 教育を広げる
 「野」の教育法――三沢勝衛(地理学)
 領域を飛びわたれ――小室直樹(社会科学)
第七章 何処であっても、何があっても
 好奇心が闊歩する――南方熊楠(民俗学・博物学・粘菌研究)
 旅立つことを恐れない――橋本梧郎(植物学)
あとがき――私のことについて、あるいは、〈存在へのあがき〉について

★発売済。著者の荒木優太(あらき・ゆうた:1987-)さんは東京都生まれの在野研究者で、明治大学文学部で博士前期課程を修了されています。ご専門は有島武郎。論文「反偶然の共生空間――愛と正義のジョン・ロールズ」(「群像」2015年11月号)は第59回群像新人評論賞優秀作で、2013年にブイツーソリューションから自費出版され力作『小林多喜二と埴谷雄高』が単著第一弾です。この第一弾はアマゾン・ジャパンのみで販売されていたようですが、現在は品切。古書店やオークションの検索でも引っかかりません。もったいないことです。第二作となる今回の新刊のテーマは副題にある通り「在野研究者の生と心得」をめぐるもの。ここまでのコンボで荒木さんの苦労人ぶりが偲ばれるわけですが、今回の新刊は「かわいそう」などと思いながら読む本ではありません。軽い気持ちで読み始めるとガツンとやられます。言い返されるというわけではなく、本気度が違うのです。時間のない読者はまず本屋さんで本書冒頭にある「在野研究の心得」に目を通してみてください。全部で40項目ある箇条書きで、これにピンときたら本書は絶対に「買い」です。凡百の自己啓発書よりよっぽど面白く読めると思います。この40項目に感銘を覚えない出版人がいるでしょうか。出版人もまた「在野」の人間なのです。

★二年間大学院に通っておられた頃の苛立ちを直截に綴った「あとがき」にはこう書かれています。「研究者が教師であらねばならない、などという意見が間違っていることは直感的には理解できた。学校のなかでしか生きられないほど天下の学問様がヤワなはずないだろ、このスットコドッコイ!」(251頁)。だからこそのこの書名、だからこそホッファーなのです。ホッファーを知らないという不運な、いえそれどころか幸運な方は、説明しませんからまずネットで調べるか、『エリック・ホッファー自伝』(中本義彦訳、作品社、2002年)をお読みになってください。ちなみに荒木さんの本ではホッファーその人を扱っている章はないので、あるいは今後、荒木さんに選者になっていただいて『ホッファー語録』が編まれたら、とも想像します。

★ちなみに荒木さんは、インディペンデントな同人ウェブサイト「エン-ソフ」で2013年に、フランスの哲学者エミール・ブートルー(1845-1921)の著書『自然法則の偶然性について De la contingence des lois de la nature』(1898年)をお訳しになっておられます。この本には古い訳(『自然法則の偶然性』野田又夫訳、創元社、1945年)がありますが、約70年ぶりの新訳です。「元々、訳者がブートルーに興味をもったのは、ブートルーの偶然論を批判的に継承した主著『偶然性の問題』を書いた九鬼周造が、具体的に如何に本書を読んだのか(彼は昭和五年に演習のテキストとしてブートルーの偶然論を選んでいる)、それを知りたかったためだ」とのこと。荒木さんへの注目は今後ますます高まる予感がします。


アートの入り口――美しいもの、世界の歩き方[アメリカ編]
河内タカ著
太田出版 2016年2月 本体1,800円 四六判並製368頁 ISBN978-4-7783-1494-1

帯文より:毎朝流れてくるラジオのような、気持ちのいいエッセイ集。絵画も写真も映画も音楽も、数多くの著名なアーティストたちと交流してきた著者と散歩するアートの世界。アンディ・ウォーホル、パティ・スミス、ウィリアム・クライン、ジャクソン・ポロック、ヴィヴィアン・マイヤー……「私のお気に入り」。

★発売済。著者の河内タカ(かわち・たか:1960-)さんは、1980年から30年間にわたってニューヨークで現代アートや写真を扱う展覧会のキュレーションや写真集の編集などを多数手がけられ、2011ねに帰国後は「amana photo collection」のチーフディレクターをおつとめになっておられます。単独著としては本書が第一作となるようです。目次は書名のリンク先でご覧ください。冒頭部分の立ち読みもできます。本書で取り上げられるアーティストや写真家は多数に上るのですが、その中から個人的に興味がある人物、ゴードン・マッタ=クラーク(1943-1978)による「フード」(1971-1974)に関する紹介を以下に引いておきます。

★「ここは、長く見捨てられていた商業スペースを再利用した簡易食堂で、お腹をすかしたアーティストたちに食事を提供し支援することに加え、この場所を拠点とした新しいコミュニティを作るという試みで、彼流のパフォーマンスとしてのアートプロジェクトであったのです。/この『FOOD』は三年間運営され、マッタ=クラークと彼を支える大勢のアーティストの友人たちが自ら料理をサーブしたりと、この店を盛り立てることに積極的に参加していたといいます。つまり、マッタ=クラークのアートとは、人々が生活する空間やそこに集まるコミュニティをテーマにし、アーティストと観衆の出会いの新たな場を作り上げることだったはずです。また、捨てられた家や空間をアート作品として提示したのも、そこに新たなまなざしを向けさせ価値を見出すといった、それまでのアートになかった画期的な行為だったと思います」(263-264頁)。

★途中を省略して言ってしまうと、マッタ=クラークのパフォーマンスは、リアルな空間の潜在力をいかに最大限引き出し活用するか、という書店業界の課題にとって重要な示唆を含んでいると思われます。さらに言えば、書店による書き手の支援(インキュベーターとしての書店)という点でも、議論の参考になるでしょう。今回の紹介では取り上げた本の書き手が偶然にも全員「在野」であったわけですが、「野に住む者の力」を出版人や書店人が信じることは今後のこの業界にとってたいへん重要であると感じます。鳥のように自由に。

3月2日追記:佐々木中さんはデビュー作『夜戦と永遠』刊行当時は立教大学兼任講師で、小説家デビュー作『九夏前夜』刊行当時は立教大学・東京医科歯科大学教養部非常勤講師と肩書の記載がありますし、現在京都精華大学で教鞭を執っておられるので、「在野であった」という表現は正しくないですね。失礼いたしました。私の胸中の佐々木さん像がアウトサイダー的なイメージであったことは否定できません。お詫びして訂正いたします。

誤)今回の紹介では取り上げた本の書き手が偶然にも全員「在野」であったわけですが、
正)今回の紹介では取り上げた本の書き手は偶然にもほとんどの方が「在野」であったわけですが、
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by urag | 2016-02-28 23:59 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 02月 26日

備忘録(23)

◆2016年2月26日22時現在。
死神はこのところたいてい金曜日にやってきます。15時過ぎから業界内外に衝撃を与えている例の件、だいたい一通り本日分の記事は配信され終わったでしょうか。少しずつまとめたいと思います。

「帝国データバンク」2月26日付の大型倒産速報「書籍・雑誌小売/「芳林堂書店」「コミックプラザ」を展開/株式会社芳林堂書店/破産手続き開始決定受ける/負債20億7500万円」に曰く「(株)芳林堂書店(資本金2000万円、豊島区西池袋3-23-10、代表齋藤聡一氏)は、2月26日に東京地裁へ自己破産を申請し、同日付で破産手続き開始決定を受けた」と。

今週月曜日に版元・書店各社にFAXされた太洋社の中間決算報告書を読んだ人々にとっては、ことさら驚くべき展開ではないものの、記事末尾の展開には眉をひそめた向きも少なくないようです。

また曰く「戦後、古本販売業を目的に個人創業され、1948年(昭和23年)3月に法人改組した書籍小売業者。71年にはJR池袋西口に芳林堂ビルを建設し、旗艦店となる池袋本店をオープン。その後も都内を中心に出店を進めて業容を拡大し、99年8月期には年売上高約70億5000万円をあげていた」。

池袋本店はリブロ池袋店の活躍以前ではまさに池袋の一番店で、新刊書店・古書店(古書高野)・喫茶店(栞)がひとつのビルに入居している、実に便利な本屋さんでした。90年代半ばまで人文書売場で黒色戦線社の刊行物をずらりと棚に並べていたのは都内では珍しかったですし、90年代後半には硬派路線から方向転換し1Fでサブカル棚にいち早く力を入れていました。

また曰く「しかしその後は、長引く出版不況と相次ぐ競合大型店の出店から売り上げの減少が続き、2003年12月に池袋本店を閉店、2004年1月には芳林堂ビルを売却した。以後も店舗のスクラップアンドビルドを進め、近年はエミオ狭山市店をオープン(2014年8月)させた一方、津田沼店(2014年5月)、センター北店(2015年4月)、汐留店、鷺ノ宮店(ともに2015年9月)を閉店。近時は、高田馬場店、コミック本専門店の「コミックプラザ」(豊島区西池袋)など都内4店舗、埼玉県5店舗、神奈川県1店舗の計10店舗の直営店展開となっていたが、2015年8月期の年売上高は約35億8700万円にダウン、厳しい資金繰りを強いられていた」。

池袋本店の閉店後は高田馬場店が基幹店でした。人文書版元にとっては、十数年前に退職された名物書店員の生天目美代子さんのことをどれほど懐かしく思い出すことでしょうか。「人文書に日々接していると、うつりゆく社会の様々な出来事の深層に目を凝らすようになる。地理的視野が広がり、歴史的認識が深まって色んなことが見えてくる、やりがいのある分野なのです」。生天目さんはどの営業マンにもそう教えて下さいました。新しい文化動向が出てくると訪問する営業マンに必ず矢継ぎ早に質問し、常に情報収集のアンテナを張っておられたのでした。

また曰く「負債は債権者約187名に対し約20億7500万円」。そのほとんどは太洋社という理解で良いと思います。ハードランディングを版元ももはや覚悟せざるをえません。

そして肝心の記事末尾。「なお、当社は商号を2月25日付で(株)芳林堂書店から(株)S企画に変更して自己破産を申し立てている(2月26日時点で商業登記簿上では商号変更されていない)ほか、(株)書泉(東京都千代田区)に事業譲渡することで合意。店舗の営業は継続している」。

なお、とまるでついでのように書かれていますが「商号変更して自己破産」&「事業譲渡」と。このあたりは「S企画」の2月26日付関係者各位宛文書「事業承継先のご連絡」を読まないと何が何やら分からないことになっています。この文書は取引先を中心に配布されていると見え、中身を見ていない版元も多いだろうと思われます。文書の概要については「新文化」2月26日付記事「芳林堂書店、負債20億円で破産」や「図書新聞」トップページに本日掲載された記事「芳林堂書店、書泉に書店9店と外商部門を事業譲渡――2月26日付で自己破産を申請。同日付で破産手続き開始決定受ける」をご覧ください。両記事とも同文書を参考にしているものと推測できます。

「新文化」に曰く「同社は高田馬場駅店やコミックプラザ店、みずほ台店など9店舗を運営しているが、書泉(東京・千代田区)へ書店事業を譲渡(譲渡日は2016年8月26日予定)することで合意している。外商部事業は新設の分割会社「株式会社芳林堂書店外商部」が事業継承する(新設分割、分割効力発生日は同年2月25日)。ただし、事業譲渡実行日までは、引き続き同社が店舗運営する」。

少しまだ分かりにくいでしょうか。「図書新聞」の説明を見てみます。曰く「芳林堂書店は、3月26日に9店舗の書店事業をアニメイトグループの書泉に譲渡する。外商部については、芳林堂書店が2月25日に会社分割で新設した「株式会社芳林堂書店外商部」の株式を2月26日に書泉に譲渡する。/これに伴い、同書店は2月26日に東京地裁に自己破産を申請し、同日で破産手続き開始決定を受けた。同書店は商号を「株式会社S企画」に変更して、清算手続きを進めていく。/〔・・・〕債権者集会は6月7日午後2時半から東京家庭・簡易裁判所合同庁舎5階で開く予定」。さらに曰く「同書店は2月5日の太洋社の自主廃業の表明を受けた後、第三者の支援を求めて、書店・外商部事業の維持・存続に向けて協議を進めてきた。その結果、書泉との間で従業員や店舗賃貸人等の関係者の同意が得られることを条件に事業承継することで合意に至った。/今後は、破産管財人の下、書店事業の譲渡と新設分割会社の株式譲渡が実行される予定だが、書店事業の譲渡日までは同書店が店舗運営にあたる。〔・・・〕」。

事業譲渡と破産手続きの一般的説明はたとえばこちらをご覧ください。「事業譲渡は,個別的な財産処分行為ですから,事業譲渡により譲渡する事業に関する債務であっても譲受会社に承継するには,当該債権者の承諾が必要です」。「破産手続は,事業の清算を目的とするわけですから,破産手続前後に事業譲渡をすることで当該事業は破産財団を構成し得なくなるため,債権者に与える影響は極めて大きいと言えます。当該事業を存続させることに社会的意義を見いだすことができて,事業の全部又は一部を換価する事が可能であり,事業譲渡の結果として譲渡会社の破産財団を増殖させるような場合に許容される方法だと考えられます。その意味で債権者らの理解が得られる様な形で慎重に進めていく必要があります」。

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◆2月26日23時現在。

「東京商工リサーチ」2月26日付速報「[東京] 書店経営/(株)芳林堂書店/~太洋社自主廃業の影響で初の倒産~」に曰く「取次の変更を模索していたが太洋社への未払い債務などの問題もあり難航し、2月初旬から新刊などが書店に入荷しない事態が発生して話題となっていた。/なお、当社は数日前に商号を(株)S企画に変更(登記は未登記)、書店運営については(株)書泉(千代田区)へ事業譲渡することで合意しているが、詳細日程については未定。/2月26日現在、太洋社の自主廃業に向けた動きに関連した書店の休業や閉鎖は10店舗、倒産は1社となっている」。

同速報には「太洋社の自主廃業に向けた動きに関連して店舗閉鎖や休業した書店」が一覧化されています。「愛書堂」のあとには「富山市・精文館書店」「長崎市・Books読書人」「北九州市・アミ書店」などがリストに挙がっています。今後もおそらくこのリストは長く伸びていかざるをえないのでしょう。

同速報を受けた内容の記事には「ねとらぼ」2月26日付記事「芳林堂書店が破産 「コミックプラザ」など運営――書店運営については書泉に事業譲渡することで合意。」(同記事のコメント欄付ヤフー版)や「毎日新聞」2月26日記事「芳林堂書店――破産手続き開始決定 負債20億」があります。記事に無関係のコメントが投稿されがちなのはヤフコメの宿命ではあります。先に紹介した「帝国データバンク」の速報はヤフーニュースにも掲載されており、多数のコメントが寄せられています。この速報を受けた記事には「ITmediaビジネスオンライン」2月26日付記事「芳林堂書店が破産申し立て――首都圏で書店を展開する芳林堂書店が破産。」(同記事のコメント欄付ヤフー版)や、「Excite Bit コネタ」2月26日付記事「芳林堂書店の破産にショック受ける人続々「学生時代お世話になった」」などがあります。

業界の内部情報のチェックには今なお、2chの一般書籍板のスレッド「太洋社がピンチ」が有効です。また、配信のタイミングを見計らっていたようにも思えるほど分厚い記事、「CNET Japan」での林智彦さんによる連載「電子書籍ビジネスの真相」の2月26日付最新記事「芳林堂も破産、書店閉店が止まらない日本――書店復活の米国との違いとは?」では、「書店数と総坪数の推移(2003~2014年)」「書店空白自治体(2014年:都道府県別空白自治体数/空白自治体率)」「書店が減っている(1日1店弱/書店がない自治体数の数/書店がない市)」「書店売上ランキング(2013年度)」「丸善CHIホールディングス業績推移(売上高/経常利益率)」「文教堂ホールディングス業績推移(売上高/経常利益率)」「TSUTAYA書籍・雑誌販売額と加盟店舗数の推移」などのデータ分析を積み上げ、書店業界の概要を説得的に説明されています。立地(駅前―郊外)を縦軸にし、業態(専業―兼業)を横軸にした書店分布図も興味深いです。同記事の後半では米国の書店事情も様々なデータとともに概説され、さらには日本と米国の書店利益率の違いについても切り込んでおられます。「日本における書籍販売のマージン分配」「米国における書籍販売のマージン分配」「日本の出版社の収益構造」「中小書店には売れる本が回ってこない」などのデータは必見です。同連載で3年前に3回にわたって解説された「書籍にまつわる都市伝説の真相――委託販売、再販制度は日本だけなのか」も今後を模索するうえで必読かと思います。

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◆2月27日午前0時現在。
「東京商工リサーチ」の「データを読む」欄の2月26日付記事「太洋社の自主廃業に連鎖した書店の倒産・休廃業調査」の結論部分に曰く「太洋社の自主廃業により休廃業を決めた書店の多くは地方に所在する。ネット通販や電子ブックの登場で書籍を購入する方法は以前より増えたものの、高年齢層を中心に従来通り「町の書店」で書籍を購入している人も少なくない。こうした状況において、地域に根差した書店の減少は文字・活字文化への接触機会を読者から奪うことに繋がりかねず、情報格差が進行する危険性も孕んでいる」と。

情報格差はネットや図書館で補える、と仰る方もおられるかもしれません。ネットと書籍の情報量は違うので、補える分野とそうでない分野が出てくるでしょう。また図書館とて新刊すべてを購入できるわけではありませんから、「読者が出会わない本」は書店の減少とともに必然的に増えることになるでしょう。ネット書店で出会える、とも言えますが、ネット書店ではモノとしての本が人に与える様々な感覚やアウラは味わえませんし、書架のあいだを逍遥することと、関連書をネットサーフィンすることは端的に別の経験だと言えるでしょう。

さらに曰く「休廃業を決めた書店は、その理由として「帳合変更に伴い書籍1冊あたりの利益率の低下」、「取次業者への保証金の差し入れによる資金負担」などをあげている。太洋社の後を引き継ぎ、地域の書店との取引を新たに開始しようとする取次業者が、地域書店に対して与信コストを踏まえた上での取引条件の提示や、保証金差し入れを要求することはやむを得ない面もある。しかし、これにより地域書店の淘汰が進み書店空白エリアが広がることは、再販制度が掲げた文字・活字文化の振興の理念を瓦解させてしまう。市場原理に伴い企業の新陳代謝が図られるのは避けられないが、急激な変動は利益を享受すべき読者に大きな不利益を与えかねず、業界全体で激変緩和に向けた取引方法の構築を模索すべき時期に来ている」。

この前段でも再販制が言及されており、議論の直接的対象になっているわけではないとしても、「激変緩和に向けた取引方法の構築」というテーマには当然、再販制の弾力的運用も含まれることでしょう。商取引の細部を見れば再販制のみを論じればいいのではないことは明らかなので、「再販制は悪」などという議論の単純化は賢明に避けねばなりません。

「ハフィントンポスト」2月26日付、安藤健二氏記名記事「芳林堂書店が倒産。太洋社廃業の影響で「町の本屋さん」が続々と閉店」は「帝国データバンク」や「東京商工リサーチ」の速報内容を受けての記事です。曰く「主力仕入先である書籍取次の太洋社が2月5日、自主廃業も想定して会社の全資産の精査などを進める方針を突如として発表した。芳林堂書店は、取次の変更を模索していたが太洋社への未払い債務などの問題もあり難航し、2月初旬から新刊などが書店に入荷しない事態になっていた。〔・・・〕東京商工リサーチによると、太洋社の今回の動きに関連して、芳林堂書店以外にも全国的に10の書店が閉鎖や休業に追い込まれることになった」。事実と相違する部分があるわけでないものの、この記事タイトルと内容では、芳林堂の未払いの累積が太洋社廃業の最大要因のひとつになっていることがあまり伝わらないかもしれません。事態はさらに悪くなり、今や芳林堂の自己破産によって太洋社は自主廃業すらかなわなくなる可能性が出てきているのです。太洋社の後ろには帳合書店さんもいれば版元もいます。芳林堂に対する出版業界の目は実際のところここしばらく厳しさを増していかざるをえないでしょう。そしてそのありうべき帰結として、書泉さんやその帳合取次さん(もちろん太洋社さんではありません)を囲む空気感にも変化は出てくるでしょう。同情と苛立ちは両立しうるものですから、それぞれの立場を理解しつつも内心は冷ややかでしょう。

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by urag | 2016-02-26 22:06 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2016年 02月 25日

ブックフェア「哲学書房を《ひらく》」@ジュンク堂書店・丸善

先月末で廃業された哲学書房さんの出版物を取り揃えた回顧フェアが以下の通り都内3店舗で行われます。一番手は明日2月26日オープンのジュンク堂書店立川高島屋店さんです。

◎哲学書房を《ひらく》――編集者・中野幹隆が遺したもの

◆ジュンク堂書店立川高島屋店(2月26日オープン)
場所:6Fフェア棚
期間:2月26日(金)~3月下旬
住所:立川市曙町2-39-3 立川高島屋6F
営業時間:10:00~21:00
電話:042-512-9910

◆ジュンク堂書店池袋本店
場所:4F人文書売場
期間:3月1日(火)~4月上旬
住所:豊島区南池袋2-15-5
営業時間:月~土10:00~23:00/日祝10:00~22:00
電話:03-5956-6111

◆丸善丸の内本店
場所:3F人文書売場(Gゾーン)
期間:3月1日(火)~4月17日(日)
住所:千代田区丸の内1-6-4 丸の内オアゾショップ&レストラン1~4F
営業時間:9:00~21:00
電話:03-5288-8881

なお、哲学書房さんの廃業については「東京新聞/中日新聞」2016年2月22日(月)夕刊の「大波小波」欄に「哲学書房がなくなった」という記事が載っており、オンラインでは有料で読むことができます。

2月26日追記:ジュンク堂書店高島屋店さんを訪問された作品社さんがフェアについて写真付きでツイートされています。
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by urag | 2016-02-25 18:32 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2016年 02月 23日

本日搬入:『脱原発の哲学』人文書院さんより

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弊社出版物でお世話になっている訳者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

★佐藤嘉幸さん(共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
宇都宮大学国際学部准教授の田口卓臣(たぐち・たくみ:1973-)さんとの共著書『脱原発の哲学』が人文書院さんからまもなく発売となります。本日2月23日が取次搬入日です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文にある小出裕章さんと大島堅一さんの推薦文もリンク先で読むことができます。

脱原発の哲学
佐藤嘉幸・田口卓臣著
人文書院 2016年2月 本体3,900円 4-6判上製466頁 ISBN978-4-409-04108-6

帯文より:福島第一原発事故から五年、ついに脱原発への決定的理論が誕生した。科学、技術、政治、経済、歴史、環境などあらゆる角度から、かつてない深度と射程で論じる巨編。

序論より:私たちは、脱原発と核廃絶という理念を、決して「ユートピア」的理念とは見なさない。それらは私たちの未来において常に開かれた実現可能な理念であり、しかも可能な限り早く実現されるべき「切迫した」理念(ジャック・デリダ)である。脱原発と核廃絶という理念は、私たちの生きる世界の中に、権力の諸効果を内部から無化した「別の場所」、すなわち「ヘテロトピア」を構築するという試みに他ならない。(20頁)


★中井亜佐子さん(共訳:ロイル『デリダと文学』)
一橋大学言語社会研究科の大学院生と教員が中心となって共通のテーマのもと寄稿する(教員による査読付)という、英文の年刊ジャーナル「Correspondence: Hitotsubashi Journal of Arts and Literature」(ISSN2423-9100)が創刊されました。2016年2月刊行の「issue #01」は、「Reconsidering the Nation」特集。編集長・執筆者代表の橋本智弘さんによる「Introduction」に始まり、橋本さんご自身を含む6名の論考が掲載されています。その中のひとつが中井さんによる「The Future of the National University, or the Doglife of Literature」(99-112頁)です。クッツェーの『恥辱』からの引用に始まる本論考は、デリダの『条件なき大学』や「新自由主義時代における〈国立〉大学」を論じつつ、いま文学研究ができることについて問いかけておられます。

また、同号にはChristian Høgsbjergさんの論考「Beyond the Boundary of the Black Atlantic?: C.L.R. James in Imperial Britain」(113-140頁)も掲載されています。HøgsbjergさんはUCL(ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン)のInstitute of the Americasでカリブ史のティーチング・フェローをおつとめで、『大英帝国におけるC・L・R・ジェームズ』(デューク大学出版、2014年、未訳)などの著書があります。
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by urag | 2016-02-23 13:17 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 02月 21日

注目新刊:ドゥルーズのベーコン論新訳、ほか

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フランシス・ベーコン 感覚の論理学
ジル・ドゥルーズ著 宇野邦一訳
河出書房新社 2016年2月 本体3,000円 46判上製256頁  ISBN978-4-309-24749-6

帯文より:「ベーコンはいつも器官なき身体を、身体の強度的現実を描いてきた」。ドゥルーズ唯一の絵画論にして最も重要な芸術論、新訳。「器官なき身体」の画家ベーコンの図像に迫りながら「ダイアグラム」と「力」においてドゥルーズの核心を開示する名著。

目次:
刊行者の序
はじめに
1 円、舞台
2 古典絵画と具象との関係についての注釈
3 闘技
4 身体、肉そして精神、動物になること
5 要約的注釈:ベーコンのそれぞれの時間と様相
6 絵画と感覚
7 ヒステリー
8 力を描くこと
9 カップルと三枚組みの絵
10 注釈:三枚組みの絵とは何か
11 絵画、描く前……
12 図表〔ダイアグラム〕
13 アナロジー
14 それぞれの画家が自分なりの方法で絵画史を要約する
15 ベーコンの横断
16 色彩についての注釈
17 目と手

訳者解説〈図像〉の哲学とは何か
ベーコン作品リスト

★まもなく発売(2月22日取次搬入)。原書は、Francis Bacon - Logique de la sensation (Seuil, 2002)です。訳者解説での説明をお借りすると、「同書は初めにÉditions de la Différenceより1981年10月に、ドゥルーズのテクストとベーコンの画集の二冊を合わせたかたちで刊行され、日本では法政大学出版局から、これを一冊におさめた訳書『感覚の論理――画家フランシス・ベーコン論』(山縣煕訳)が2004年9月に刊行された。本書『フランシス・ベーコン 感覚の論理学』は、のちに図版を簡略にし、判型も縮小して一冊にまとめたSeuil社の新版を翻訳したものだが、テクスト自体は、初版では段落ごとに入っていた空白がなくなっていること以外に移動は見あたらない」。

★さらに宇野さんは本作をこうも解説しておられます。「ベーコンの表現の中心を、ドゥルーズは〈図像〉(Figure)と命名した。そして〈図像〉は、〈表象〉ではなく〈感覚〉に統合されるという。〈感覚〉は〈神経〉でありそこを行き交う〈波動〉である。『アンチ・オイディプス』から『千のプラトー』を通じて発見し、鍛錬し、多様化してきた「器官なき身体」の概念を、ドゥルーズは、この本の6-7章で、またたくまに彼の絵画論の中核に導入している。「図像」とは、絵画における「器官なき身体」だというのである。しかし単に「器官なき身体」が絵画論に適用されたのではない。ここで「器官なき身体」はさらに多様化され、新しい次元に踏み込んでいる」(234頁)。

★ドゥルーズ自身の言葉によればこうです。「器官なき身体は、器官に対立するというより、有機体と呼ばれる諸器官のあの組織作用に対立するのだ。それは強度の内包的身体である。それはひとつの波動に貫かれ、この波動は身体の中にその振幅の変化にしたがって、もろもろの水準や閾を刻みこむのである。だから身体は器官をもたないが、閾や水準をもっている。したがって感覚は質的であったり、質を備えたりするのではなく、強度的現実をもつだけで、この現実は感覚の中の表象的与件を貴兄するのではなく、むしろ同質異形的な変化を規定するのである。感覚は波動である」。「身体はまるごと生きているが、非有機的である。だから感覚は、有機体を貫いて身体に達するときには過剰で痙攣的な様相を呈し、有機的な活動の限度を逸脱するのである。全肉体において、感覚はじかに神経の波動や生命的感動に向けられる。多くの点でベーコンにはアルトーと共通点があると思われる。〈図像〉とは、まさに器官なき身体である、器官なき身体とは肉体であり神経である。波動がそれを横断し、その中に諸水準を刻み込む。感覚とは、波動と、身体に働きかける〈諸力〉との出会いのようなものである。「情動的体操」であり、叫び-息なのだ。感覚がこのように身体と結ばれると、感覚はもはや表象的であることをやめ、現実的になる」。「ベーコンはいつも器官なき身体を、身体の強度的現実を描いてきた」(「7 ヒステリー」より、64-66頁)。

★本の中ほどにはベーコンの三枚組み作品6点と絵画1点がカラーで収録されています。やはりベーコンの絵はモノクロよりかはカラーの方が断然印象が違います。

★なお、ベーコンの全画集全5巻が今年(2016年)の4月28日にThe Estate of Francis Baconより刊行される模様です。未公開だった100枚以上の絵画を含む、ファン垂涎の決定版です。『FRANCIS BACON: CATALOGUE RAISONNÉ』(5 vols, Ed. by Mark Harrison, Contrib. by Rebecca Daniels & Krzysztof Cieszkowski, London: The Estate of Francis Bacon, 2016. 24,5 x 31 cm, a total of 1584 pages with 900 coloured illustrations, cloth cover in cloth slipcase)。財団のニュースでは値段が書かれていませんが、ケルンの名門版元Walther Königの書店部門からもらった案内では1400ユーロでした。昨今のレートでは約17万5千円でしょうか。買えそうにないです。関連ニュースはこちら。ご参考までに5巻本の概要をケーニヒ書店から以下に転記しておきます。

Volume I-III, 400 pages each - Catalogue Raisonné:
- more than 500 paintings are included indicating the title, year, technique, size, provenance, single and group exhibitions, completed by a comprehensive commentary
- each painting is reproduced in colour, often supplemented by close-ups
- the Catalogue Raisonné covers more than 100 paintings which are reproduced here for the first time
- the new work will cover 60 % more paintings than the Catalogue Raisonné by Rothenstein/Alley published in 1964
- Editor Martin Harrison, the pre-eminent expert on Francis Bacon's work alongside research assistant Rebecca Daniels will meet every requirement the reader demands of a scientific reference work

Volume IV and V with 192 pages each will cover:
- a comprehensive introduction to the edition
- an illustrated chronology, indices and a "user's guide"
- a catalogue of Bacon's sketches
- an illustrated bibliography, compiled by Krzysztof Cieszkowski

Due to the extenisve and knowledgeable commentaries to the works which are completely reproduced here for the first time and the extremely interesting material published in Volume IV and V mostly for the first time this comprehensive edition is a reference source for the reception of the work of Francis Bacon.

★また、河出書房新社さんでは3月末に『アルトー後期集成(II)』(宇野邦一・鈴木創士監修、管啓次郎・大原宣久訳、河出書房新社、2016年3月、本体4,000円、46判上製400頁、ISBN978-4-309-70532-3)がついに刊行されるようです。版元紹介文に曰く「世界にも類のない後期アルト-の集成、ついに完結。最後の著書として構想された『手先と責苦』をはじめて全訳。極限の思考と身体がうみだした至高にして残酷なる言葉」。同集成は第I巻が2007年3月刊、第III巻が同年6月刊でした。実に9年ぶりの続巻にして完結編となります。

★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

1493――世界を変えた大陸間の「交換」』チャールズ・C・マン著、布施由紀子訳、紀伊國屋書店、2016年2月、本体3,600円、46判上製816頁、ISBN978-4-314-01135-8
日本の海岸線をゆく――日本人と海の文化』日本写真家協会編、平凡社、2016年2月、本体3,200円、B5変判並製204頁、ISBN978-4-582-27822-4
ライプニッツの情報物理学――実体と現象をコードでつなぐ』内井惣七著、中公叢書、2016年2月、本体2,000円、四六判並製272頁、ISBN978-4-12-004766-4
エドゥアール・グリッサン――〈全-世界〉のヴィジョン』中村隆之著、岩波書店、2016年2月、本体2,200円、四六判並製248頁、ISBN978-4-00-029183-5
映画の胎動――1910年代の比較映画史』小川佐和子著、人文書院、2016年2月、本体6,800円、A5判上製366頁、ISBN978-4-409-10035-6

★『1493』はまもなく発売(25日頃)。原書は、1493: Uncovering the New World Columbus Created (Knopf, 2011)です。同著者による『1491――先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』(原著2005年;布施由紀子訳、NHK出版、2007年)の姉妹編であり、「タイム」誌の2011年度ベスト・ノンフィクション部門第1位を獲得したほか、米国主要各紙で高い評価を得たベストセラーです。帯文はこうです。「この世界のありようは欲望の帰結だ。グローバル化はここから本格的にはじまった。銀、病原菌、タバコ、じゃがいも、ミミズ、ゴムノキ、そして人間――コロンブスのアメリカ大陸到着後、これらが世界を行き交いはじめた。敏腕ジャーナリストが、膨大な文献と綿密な取材をもとに、激動の世界をいきいきと描き出した圧巻のノンフィクション」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。同じくリンク先では巻頭の「まえがき」を立ち読みできます。著者はサイエンスライターでもあり、共著書に『素粒子物理学をつくった人々』(上下巻、ハヤカワ文庫、2009年)などがあります。

★『日本の海岸線をゆく』はまもなく発売(26日頃)。公益社団法人「日本写真家協会」さんの創立65周年記念出版とのことです。帯文に曰く「海岸線からみえる日本人の文化。祭、漁、市場、舟屋、工場・・・そして震災からの復興を目指す被災地の光景。123人による197点の写真を収録した珠玉の海岸線写真集」。巻頭には椎名誠さんによるエッセイ「凍結の海、炎熱の海――いくつもの波をこえて」(2-5頁)が掲載されています。この国が東西南北を海に囲まれた島国であることを改めて自覚させてくれる作品集です。同名の記念写真展が池袋・東京芸術劇場(5階、ギャラリー1・ギャラリー2)で3月1日~13日、京都市美術館(本館2階)で6月14日~19日まで開催されます。来春(2017年4~6月)には横浜・日本新聞博物館でも予定されているとのことです。

★『ライプニッツの情報物理学』は発売済。『モナドロジー』をはじめとするライプニッツ哲学をこんにちの情報理論の記念碑的先駆けとして読み解き再評価する、非常に興味深い本です。3部19章78節構成で、まえがきでの著者自身の説明によれば、第1部「力学の基礎は情報の形而上学」ではライプニッツにおける力学と形而上学の関係を掘り下げ、著者による情報論的解釈が披露されます。第2部「空間と時間の起源」と第3部「慣性と重力、ライプニッツ的構想の一つの形」はライプニッツの時空論を再構成する試みで、第2部では著者の前著『空間の謎・時間の謎――宇宙の始まりに迫る物理学と哲学』(中公新書、2006年)で論じられた時空の問題がライプニッツの形而上学と動力学ではどうなるかを分析し、第3部ではライプニッツ力学の可能性と射程が論じられています。現代に甦るライプニッツの鮮やかな思索の数々は知的刺激に満ちたもので、本書は人文書売場だけでなく理工書売場に並べられても動きがあるのではないかと予想できます。

★『エドゥアール・グリッサン』は発売済。『フランス語圏カリブ海文学小史――ネグリチュードからクレオール性まで』(風響社、2012年)、『カリブ-世界論――植民地主義に抗う複数の場所と歴史』(人文書院、2013年)に続く、中村隆之(なかむら・たかゆき:1975-)さんの第三作です。帯文に曰く「〈魂〉の脱植民地化を目指して。収奪されたカリブ海の島・民の視点から歴史を編み直した作家の壮大な思想に迫る」と。「開かれた船の旅」「〈一〉に抗する複数の土地」「歴史物語の森へ」「消滅したアコマ、潜勢するリゾーム」「カオスの海原へ」の5章立てで、フランス領マルティニック出身の作家グリッサン(1928-2011)の作品と生きざまを年代順に跡付け、彼の世界観を読み解いています。これまでにグリッサンの訳書には『〈関係〉の詩学』『全-世界論』『レザルド川』『多様なるものの詩学序説』『フォークナー、ミシシッピ』などがあり、今後も続々と刊行されるようですが、グリッサン論の出版は日本では本書が初めてで、画期的な成果です。書名のリンク先で第一章の冒頭部分を立ち読みできます。

★『映画の胎動』は発売済。小川佐和子(おがわ・さわこ:1985-)さんは京都大学人文科学研究所の助教で、単独著の出版は本書が初めてで、博士学位論文「1910年代の比較映画史研究――初期映画から古典的映画への移行期における映画形式の形成と展開」を再構成し、大幅に加筆修正を施したもの、とのことです。目次詳細は書名のリンク先からご覧ください。帯文に曰く「映画史のベル・エポック。フランス、イタリア、ロシア、ドイツ、アメリカ、日本の膨大な数のフィルムをたどり、映画揺籃期を映し出す」と。「あとがき」には研究の苦労がこう綴られています。「10年間に時代を絞ったものの、この時代の映画史全体の様相をとらえるためには特定の国や地域にとどまらず主要な映画産業国を対象とした越境的な視点を持つ必要があった。〔・・・〕そもそもこの時期の映画作品自体の現存が少なく(日本映画に関してはほとんど残っていない)、もしくは復元が終わっておらず、DVD等で容易に観ることは困難であった。そのためヨーロッパ各国の映画アーカイヴ調査を重ね、〔・・・〕海外の映画祭へも毎年欠かさず参加するようにした」(328頁)。
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by urag | 2016-02-21 21:44 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 02月 19日

「紀伊国屋じんぶん大賞2016」発表

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◎「紀伊國屋じんぶん大賞2016――読者と選ぶ人文書ベスト30」連動フェア

期間:開催中~3月上旬 
場所:紀伊國屋書店新宿本店3階

毎年恒例の「紀伊國屋じんぶん大賞―─読者と選ぶ人文書ベスト30」の2016年版が発表されました。大賞は、岸政彦さんの『断片的なものの社会学』(朝日出版社)です。受賞コメントは上記リンクでお読みいただけるほか、現在同チェーンの主要店で展開中の連動ブックフェアの店頭にて無料配布中の記念小冊子でもご覧になれます。同冊子には読者推薦コメントのほか、斎藤哲也さん、山本貴光さん、吉川浩満さんの三氏による特別鼎談も収録されています。

連動フェアの概要は以下の通りです。

①「紀伊國屋じんぶん大賞2016」ベスト30フェア
「読者と選んだ人文書ベスト30作品」を展示中。記念小冊子も無料配布中です。

②「「じんぶん」のモンダイを語る――2015年の人文書を振り返って」フェア
小冊子特別鼎談を記念し、斎藤哲也さん、山本貴光さん、吉川浩満さんによる選書フェアを開催中。

③文化系トークラジオLife「文化系大新年会――2015年のオススメ本はこれだ!」フェア
TBSラジオLifeパーソナリティ陣による、「2015年のオススメ本」選書フェアを開催中。

また、同大賞2位に選出された森田真生さんの『数学する身体』(新潮社)関連のフェア「森田真生をめぐる宇宙――【じんぶんや】特別企画『みんなのミシマガジン×森田真生 0号』刊行記念」が、紀伊國屋書店新宿本店4階で3月上旬まで開催されているとのこと。このフェアでは、森田さん選書「私をつくった○冊の本」に加え、『みんなのミシマガジン×森田真生 0号』の執筆・制作に携わられた小田嶋隆さん、榎本俊二さん、池上高志さん、立川吉笑さん、山縣良和さん、矢萩多聞さん、そして、「みんなのミシマガジン」編集長・三島邦弘さんの著書と関連書も展開中だそうです。

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さらに、紀伊國屋書店新宿本店3階、グランフロント大阪店では同じく3月上旬まで、『現代思想 2016年1月号:ポスト現代思想』ならびに『現代思想 2016年3月臨時増刊号:人類学のゆくえ』の刊行を記念したブックフェア「ポスト現代思想――新しい思想のダイアグラム」が開催中です。フェア企画趣旨に曰く「「思弁的実在論(Speculative Realism)」や「新しい唯物論(New Materialism)」、「オブジェクト指向存在論(Object-Oriented Ontology)」、そして、「人類学」のあたらしい潮流――当フェアでは、現代思想の最先端の議論を紹介しながら、「新しい思想のダイアグラム」を探っていきます」とのこと。リンク先では出品書目一覧とともに、青土社営業部さんが作成されたという「ポスト現代思想相関図」が掲出されています。フェアでは和書だけでなく未訳の注目洋書も店頭販売されていて、非常に意欲的な催事となっています。

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by urag | 2016-02-19 13:50 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2016年 02月 19日

「新書大賞2016」発表

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2月10日発売済月刊誌『中央公論』2016年3月号で「新書大賞2016」が発表されました。今回の大賞(第1位)は井上章一さんの『京都ぎらい』(朝日新書)でした。井上さんのインタビュー記事が掲載されています。とあるプロレス会場でとあるレスラーに対して飛ばされたヤジを耳にしたことが本書誕生のきっかけだったそうです。スレスレのところを突いてくるユーモラスなコメントの数々はぜひ3月号でご確認ください。

第2位は小熊英二さんの『生きて帰ってきた男』(岩波新書)、第3位は池内恵さんの『イスラーム国の衝撃』(文春新書)でした。順位は20位まで発表されています。「目利き28人が選ぶ2015年私のオススメ新書」には例年通り私も参加させていただいたのですが、20位以内に入る書目を一つも挙げ(ることができ)なかったというのは初めてのような気がします。2015年は出版界の激動期だった印象が強かったので、私が挙げた5冊のうち3冊は業界関係の本でした。そのせいもあるのかもしれません。ほかの選者の皆さんとも推薦書がほとんど重複しておらず、唯一同じ書目を挙げられていたのはほかならぬ井上章一さんでした。佐々木敦さんの『ニッポンの音楽』(講談社現代新書)です。これは一昨年12月に刊行された本なので、昨年の新書大賞では水牛健太郎さんが挙げておられました。新書大賞は2015年版から、前年の1月~11月に刊行された新書を対象としており、12月刊は翌年の対象として持ち越されるものの、選者の裁量もあって早めに取り上げる方もいらっしゃるということなのでしょう。

恒例の総括対談は永江朗さんと荻上チキさんのお二人。昨年はこのお二人に宮崎哲弥さんを合わせて三人。その前までは宮崎さんと永江さんのお二人でした。
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by urag | 2016-02-19 12:20 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 02月 18日

備忘録(22)

◆2016年2月18日19時現在。
「Jタウンネット」2月18日付記事「つくばの名物本屋が突如閉店...「友朋堂ロス」に襲われる人続出! 地方書店はこれからどうなるのか」が友朋堂さんの閉店を惜しむ皆さんの声をまとめておられます。斎藤環先生曰く「友朋堂復活ボタンが1人1万円で押せるとしたら今なら50連打くらいしてしまう自信がある」。50回! 斎藤先生はこのほかにもこんなことをつぶやいておられました。その1「なんと友朋堂吾妻店が閉店とな。最近ご無沙汰ではあったけど、つくばでは数少ない大型書店だったのに。思えばこの店で『バオー来訪者』を購入したのが荒木信者の入り口だったなあ…」。その2「これ〔「つくばの名書店『友朋堂』の閉店に、つくば民の愛とロマンティックが止まらない。 」〕読んでたら泣けてきた。期末試験が終わってまず向かったのはアンブッシュ(レンタルレコード)、そして友朋堂。自分の本を置いてもらって誇らしかったのは大学内の丸善よりも友朋堂だった」。

また、周知の通り、ひょうたん書店さんの閉店を惜しむ声も「鹿児島のコミック専門店ひょうたん書店さんの閉店の案内とお客さんたちのつぶやき」としてまとめられています。店頭の写真の数々が圧巻です。

ここまでのところ太洋社さんの自主廃業関連での帳合書店の閉店は東京商工リサーチさんによる判明分だけでも:
つくば・友朋堂書店さん・・・店売終了(3店舗)、外商を継続。
鹿児島・ひょうたん書店さん・・・店売終了(1店舗)、通販を継続。
豊橋・ブックランドあいむさん・・・店売終了(1店舗)。
熊本・ブックス書泉さん・・・店売終了(1店舗)、外商を継続。
となっています。むろん、帳合変更を済ませたと伺っている書店さんもいらっしゃって、愛知・岐阜に展開されている某チェーン店さんや、新潟の某チェーンさんについてはすでに他帳合の番線でご発注されているようです。

その一方で、こんな情報を耳にします。
小山助学館鳴門店さん、2月29日閉店予定。
祖師ヶ谷大蔵・文芸書林さん、3月31日で閉店予定
さいたま市・愛書堂書店さん、休業準備に。

栗田のように民事再生にした方が帳合書店さんを救えたのでは、という声もあるかもしれませんが、そもそも民事再生の場合は債権者の大多数の同意が必要なので、栗田民事ですでにダメージを食らった出版界としては、太洋社さんがもし民事再生申請となったとしても支えるのは厳しかったかもしれません。だからこそ自主廃業を目指すと聞いて版元はいったんは安堵したわけですが、こうして街ナカ書店さんが消えていくのを目の当たりにして、絶句せざるをえない状況に陥っています。これが現実だとしても。これが競争原理の結末だとしても。版元とて明日は我が身なのだと気づいています。

+++

◆2月19日23時現在。
出版社様向け太洋社説明会議事録」(注:議事録自体へのリンクではありません)。説明会を欠席した遠方の版元や記録を要求した版元に送っていると思しき資料、でしょうか。初耳です。

+++

◆2月22日午前10時現在。
太洋社國弘社長記名の2月22日付文書「中間決算書送付および弊社の状況ご報告」がFAXで届きました。宛名は「お取引出版社様/お取引書店様」で報告書がA4用紙3枚、「貸借対照表(H27年12月31日現在)」1枚、「損益計算書(H27年7月1日から12月31日まで)」1枚。

+++

◆2月22日午前11時現在。
鹿児島・ひょうたん書店さんの一連のツイートです。

「「☆お客様へご案内☆」
2月20日夜8時より、西田店内にて
最後のご挨拶の場を設けることとなりました
(夜7時頃より入店可)
当店代表・スタッフ一同によるご挨拶
ささやかなお礼と寄せ書きノート等の設置。
イベント・サークル紹介の場と時間
(飛び入り可)を設ける予定です。」

「今回の突然の閉店にあたり
お客様に対してのお詫びと
今までの感謝の気持ちを込めての
ご挨拶の場となります。
また、今後もこの鹿児島での
お客様同士の交流が続くようにとの
願いを込めて
イベント・サークル紹介の場と
お時間も用意いたします。」

「この場を借りて新たな仲間を募りたいという
サークル・イベント等の主催者様がいましたら、
配布物等をご用意のうえお越しください
(自己紹介の時間も作ります)。
なお、当日お車でお越しのお客様は、
恐れ入りますが周辺のコインパーク等をご利用下さい。」

「また、時間については、
2月20日の夜7時頃より入店可、
夜8時頃より開始。以降、
夜10時前後の終了を予定しております。
20日の開催というタイミングでの急ぎの告知となり、
お客様には最後までご迷惑をおかけしますが、
なにとぞよろしくお願い致します。」

そして、関係者と思しき方のツイートと写真。
「これでほんとうに。おわり。」
「「昨日(20日)はお客さんとのお別れ会で、お店には100人近くの人が集まってくれまして。家に帰れたのは夜の2時とかそんなで。ちゃんとみんなにありがとうと言えてよかった。」
「うちの上司も言っとったけど、今回の閉店は、結果としては太洋社に巻き込まれた形ではあるんだけど、太洋社で無かったらここまでこんなに長く続けられなかっただろうというのも本当で。細かい所まで良くしてくれたのよ。」

お別れ会に参加したと思われる方のツイート
「ひょうたん書店お別れ会の冒頭のあいさつで、ネットでは閉店は取次の太洋社せいだという意見もあったが、自由な店づくりをさせてもらったのは太洋社のおかげと感謝の言葉があったし、他の取次に変えて続ける選択肢は、今と同じようにはできないと判断して敢えて閉店を選択したとお話があった。」

同書店ウェブサイトに掲出された「ひょうたん書店スタッフ、感謝のメッセージ」より。

栗之丸さん「遠くにいても繋がってるしこのコミニュティは不滅だ! 」
山之内さん「人生で大切なのはお金もだけど人だと最終日に思い知らされました。キングダムの40巻のとおり人は光です。次につなぐです。」
筒口さん「ただの客の立場から、ひょうたんに関わることになり、なんだかんだで20年。色々とありましたが、思い出されるのは楽しかった記憶ばかりです。いち個人としても、そんじょそこらでは経験できないことばかりで、アニメ・マンガ・ゲーム等の現場の最先端に立つ、一人の当事者として接することができたのは本当にありがたいことでした。」
勝田さん「ひょうたん書店は皆様をはじめ出版社様、弊社取次会社様のご協力のお蔭で30年間営業することができました。皆様のご来店・熱意、出版社様、弊社取次会社様の多大なるご支援がなければこんなにも長く営業することはできなかったと確信しております。弊社取次会社は微力な私共をいつも支え、応援していただきました。小さいながらも皆様に親しまれるお店を作れてたのも弊社取次会社のお蔭だと言っても過言ではございません。お客様・出版社様・取次会社様が一つになってひょうたん書店が作り上げれた事を忘れないで下さい。」

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◆2月22日16時現在。
「東京商工リサーチ」2月22日付速報「[埼玉] 書店経営/愛書堂書店/~太洋社の自主廃業影響で休業へ、影響は7店舗目~」に曰く「愛書堂書店(さいたま市桜区白鍬686-8、事業主:宇山七海子氏)は、2月末で運営する書店「愛書堂書店」を休業する。/創業から約40年の老舗書店で、首都高速埼玉大宮線の与野インターチェンジに近い住宅街で「愛書堂書店」を経営。文庫や雑誌のほか文房具なども取り扱い、周辺地元に固定客層を持っていた。しかし、少子高齢化の影響で次第に来店客が減少したため、店頭小売の営業日を減らし、さいたま市内向けの配達に注力していた。〔・・・〕他の取次業者と帳合変更の交渉を進めたが、条件面で折り合いがつかなかったことや、太洋社に対する保証金の返還を早期に受け、現在検討している新規事業へ投入する方が得策であると判断し、2月末で「愛書堂書店」の全事業(店売小売・配達)を休業することを決断した。/今後について愛書堂書店では、「他の取次業者と再交渉し書店を再開するか、あるいは、書店を閉店した上で貸しスペースなどの書店以外の利用を検討している」としている」。

版元・書店各社に今朝FAXで届いた太洋社の文書については「新文化」2月22日付記事「太洋社、厳しい進捗状況を報告」をご参照ください。

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◆2月22日17時現在。
某書店の現況。写真その1その2その3

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◆2月23日15時現在。

おさらい。「東京商工リサーチ」2月22日付速報「[東京] 書籍取次/(株)太洋社/~取引先へ平成28年6月期中間決算を通知~」に曰く「自主廃業への進捗状況は、取引のある約50社(約350店舗)については帳合変更のめどがついたものの、それ以外の書店は「いっこうに帳合変更が進んでいない状況」(会社側)。これに伴い、28年2月末時点の帳合変更による売掛金の回収実績は約9億400万円にとどまる見通し。帳合の変更が進まない書店に対しては、「帳合変更を諦め、個別取立の強化を検討せざるをえない事態」(会社側)となっている。/太洋社の現状は、2月8日に取引先向けに開催した説明会の報告に比べて財務状況が傷んでいる実態が浮き彫りとなり、「帳合変更に伴って返品された在庫にかかる販売正味金額合計から仕入正味金額合計を差し引いた差額を、取引書店に支払いすることができなくなるおそれがある」(会社側)という。今後については、引き続き帳合変更を進めるほか、出版社にも商品供給の継続を改めて求めている。なお、太洋社は「通知した内容に関してはコメントできない」としている」と。

おさらい。「おたぽる」2月23日付、昼間たかしさん記名記事「大手書店にも経営危機のウワサが……太洋社の自主廃業をめぐり、日本の書店と出版社の苦難は終わらない」に曰く「新たに閉店するのではないかというウワサが飛び交っているのが、首都圏のターミナル駅周辺に多くの店舗を構える大手書店だ。/「この書店では、太洋社の自主廃業を受けて、トーハンに太洋社が担っていた部分の帳合変更を交渉したのですが、不採算店舗で未払いが発生していることを理由に断られたというのです」(出版社社員)/この書店ではすでに、各店舗で新刊がほぼ入荷しないという状態。一時は支援先が見つかったとの話もあったが、不採算店舗の状況を見た支援先が、突如支援を拒否したという話も。いずれにしても、2月中の状況を見て、事業継続か閉店かを迫られる状況になっているという」。コメント欄付のYahoo!ニュース版はこちら

おさらい。「ビジネス・ジャーナル」2月20日付、佐伯雄大さん記名記事「アマゾンと出版社、容赦ない取次「外し」加速…問われる取次の存在意義、存亡の危機か」の末尾に曰く「ある出版社社員は言う。「〔・・・〕ただ、これだけ本が売れない時代に、売れる本だけは、その売り上げを最大化したいという切羽詰まった考えもあります。書店と取次の力が落ちていけばいくほど、出版社はアマゾンに寄りかかっていかざるを得ないという状況になっているのです。それが出版業界を破壊するとしても、業界が新しく生まれ変わるきっかけだと信じて、その道を行くしか選択肢はありません」」。コメント欄付のYahoo!ニュース版はこちら

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◆2月23日16時現在。
今週金曜日26日で営業終了予定の太洋社神田店売の店頭の様子を書店さんがツイッターで写真とともに伝えておられます。その1「さてさて本日は閉店が2/26に迫る太洋社神田店売に行ってきました。結果的には特大のトートバッグパンパンになるほど仕入れました。それぞれのフロアの商品はもう半減しています。がコミック新刊はまだ入荷しています。」その2「(太洋社店売続き)1Fの売れ行き良好書コーナーもまだ残っています。あっ撮影の許可はいただいております。最終日まで雑誌・コミックの新刊は入荷するとのこと。既刊本については徐々に撤去がすすんでおり、あまり期待しないでくださいね。 」コミック専門の書店さんにとって太洋社神田店売の存在が価値あるものであったことが伝わってきます。

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◆2月24日17時現在。
フリーライター・岩本太郎さんが今日ご自身のブログに「”街の本屋さん”が死滅する日(太洋社問題:出版流通はもはや重度の糖尿病患者状態なのか?)」というエントリーを投稿されています。末尾近くに曰く「古くからこの国の出版業界を支えてきた流通システムは、今や動脈のような中央部分を何とか守りつつも、その先の全国津々浦々にある町や村まで「割と」あまねく広く雑誌や書籍を毛細血管のように届けてきたのが、今や重度の糖尿病患者みたいに手足の部分が壊死して切り落としたり、目が見えなくなったりといったのとあたかも似たような状況になっているとは感じていたけど」と。

とても的確な譬えです。あえて露悪的に補足すれば、この毛細血管は一方で好条件版元が書店から血を吸い上げるための管でもあったわけです。版元と書店のあいだにいる取次は重要かつ優秀な中継地点にして調整弁、ハブであり、第三位や第四位はハブであるがゆえに倒れることが許されず、両脇を抱えられて強制的に立たされているのだとも言えます。ある勢力にとっては、ハブが生きているか死んでいるかはどうでもいいのかもしれません、ハブとしてもうしばらく機能し続けてくれさえすれば。ちなみに好条件版元にとっては書店だけでなく、零細版元もまた、調整弁の接続先となります。

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◆2月25日午前11時現在。岩本太郎さんの昨日のインスタグラムに芳林堂書店高田馬場店の入居するビルの外観や看板、店頭の張紙の写真あり。張紙には従来の告知文のほかに「2/3~ 週刊誌入荷ございません」と赤いペンの手書きのメモ紙が無造作に付け足されています。岩本さんのコメント末尾に曰く「ちなみに同店には文具売り場もあるが、店内に貼られた文具安売りセールの案内によると、セール期間は「2月29日まで」となっていた」と。今月末が同書店にとってひとつの区切りになっていることが窺えるかもしれません。

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by urag | 2016-02-18 19:41 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2016年 02月 15日

備忘録(21)

◆2016年2月15日正午現在。
「Business Journal」2月15日付、佐伯雄大氏記名記事「また大手取次が破綻!日販・トーハンの冷酷すぎる「首絞め」、雪崩的に取引奪われる」が配信され、太洋社が帳合戦争によって弱体化していく様が出版人の証言とともに解説されています。とてもよくまとまっていて、同業者の認識とほぼ同じ内容であると感じます。ただ、末尾のとある一文のみ、ひょっとしたら語順を変えて読んだ方がいいかもしれません。曰く「芳林堂によると、太洋社からの支払いが滞っており送品を止められたというのだ」。これはより適切な語順では「芳林堂によると、支払いが滞っており太洋社からの送品を止められたというのだ」という風に読む方が事実に妥当するだろうと思われます。つまり、太洋社から芳林堂への支払いが滞っていたのではなく、芳林堂から太洋社への支払いが滞っているわけなので、真逆な話として読めてしまうのです。むろん、芳林堂さんには芳林堂さんの言い分というものがあるでしょうけれども。

太洋社や芳林堂の真相については巨大掲示板の某スレッドでおおよそを窺うことができます。今日現在、芳林堂書店さんのウェブサイトのトップには「お客様へ」と題した次のような告知がまだ掲出されたままになっており、当初の見込みよりも交渉に時間がかかっている様が窺えます。「毎度芳林堂書店をご利用いただきありがとうございます。/現在、問屋変更にともなうトラブルの為、各店とも雑誌、書籍とも新刊・既刊の入荷が止まっており、店舗、ホームページでのご注文がお受けできない状態になっております。/手続きを急いでおりますが、復旧には今しばらく時間がかかる見込みです。受注可能になりしだいお知らせいたします。/ご不便。ご迷惑をおかけしますが宜しくお願い申し上げます」。この影響により、トークイベントが中止になったり、サイン会の会場が他店に変更になったりしているようです。こちらのツイートにある写真は投稿主さんの所在地から推察すると、同書店の所沢駅ビル店の平台でしょうか。商品はなく、張り紙だけがあります。

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◆2月15日17時現在。
前述記事(「また大手取次が破綻!日販・トーハンの冷酷すぎる「首絞め」、雪崩的に取引奪われる」)末尾の「芳林堂によると、太洋社からの支払いが滞っており送品を止められたというのだ」は無事「芳林堂によると、太洋社への支払いが滞っため、送品を止められたというのだ」に訂正されたご様子です。同記事の全文を三分割ではなくいっぺんに読むにはライブドアニュース版が便利です。

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◆2月16日17時現在。
おさらい。「日本経済新聞」2月8日付記事「出版取次の太洋社が自主廃業へ 負債額84億円 」に曰く「書店に対して他の取次会社に変更するよう働きかけている。出版社にはこれまで通りに書籍や雑誌などを供給してもらえるよう依頼したもようだ。2月末の支払いに関する資金繰りのめどはついているという」と。版元への支払日は月2回の場合、15日と末日。月1回の場合、末日か5日かだと思われます。2月末の支払いのめどがついているなら、3月5日のめどもついていなければならないはずです。

おさらい。「図書新聞」ウェブサイト「インフォメーション」欄「太洋社、営業損失改善せず自主廃業へ/「帳合変更終了まで商品供給を」國弘社長/戸田センター、神田商品センターなど売却へ」に曰く、「登壇したのは國弘晴睦社長と矢島雅史取締役。〔・・・〕今後は、同社が保有する不動産と有価証券の現金化や取引先書店の帳合変更を推進するとともに、書店に対する売掛金の回収見通しを算出し、取引先に改めて資産と負債を明らかにしていくという。/帳合変更を進めていく上で、出版社に対しては、「帳合変更は今後1カ月くらいかかる。終了するまでは商品の供給を継続してほしい」と訴えた。/保有する不動産は、埼玉・北戸田の戸田センター(11億3000万円見込み)、東京・神保町の神田商品センター(2億1800万円見込み)、四国支店や長崎市の更地など(合計6000万円)。有価証券は現金化すると、1億数千万円相当としている。〔・・・〕取引先書店に対する売掛金は平成27年12月末時点で47億円。國弘社長によると「売掛金の一部を棚上げ支援したのは一部の書店。不動産の担保や連帯保証人を求めるなどの保全処置を講じている。他の大多数の書店には一日も早く帳合変更してほしいと伝えている。それも今進んでいる。帳合変更してもらえれば、約定よりも早く返済してもらえるので、出版社への返済原資は急速に積み上がる」と説明した」と。ポイントは「帳合変更してもらえれば、約定よりも早く返済してもらえる」はず、ということ。

おさらい。「イエロージャーナル」社会欄、出版業界ライター・佐藤幸さん記名記事「【出版関係者必読!!】不況にあえぐ出版社の本音続出──出版取次・太洋社の自主廃業説明会「テープ起こし」を全公開」に曰く「自主廃業は民事再生や自己破産といった法的整理とは異なり、当該企業に負債を支払える能力がある場合に可能な私的整理の方法。國弘社長は、不動産売却などをして資産の精査を実施している段階だが、「自主廃業は可能」と説明した。/しかし、太洋社に対して売掛金をもつ出版社は、「本当に自主廃業できるのか?」、「書店からはきちんと回収できるのか?」など20以上の質問が寄せられ、会場使用時間の1時間半ギリギリまで、質疑応答が続いた。/果たして、太洋社の自主廃業は可能なのか? ここに出版社の説明会における國弘社長の説明と質疑応答をすべて公開し、読者の判断に委ねたい」。たしか表向きは「録音録画はご遠慮ください」ということだった気が。栗田の時にこうした記事があれば、と思わなくもないですが。

おさらい。太洋社帳合の児童書書店「ハックルベリーブックス」のイベント情報や商品情報を伝えるブログ「店長からのお知らせ」の2月10日付エントリー「ハックルベリーブックスのピンチ?! あるいはチャンス?!」に曰く、「〔・・・〕本屋が本を仕入れられなくなる!?というピンチに直面することになりました。/ハックルベリーブックスが,こちらの取次さんと契約できた経緯については,1月に取材していただいた「起業のリアルストーリー」〔〕でも語らせていただいています。〔・・・〕もちろん,「太洋社」さんからは,ほとんどの出版社の本が仕入れられましたので,たいへん便利ではありましたが,そもそも,取次さんとの契約に,何百万もの保証金が必要だったり,個性的な棚を作ろうと思えば,うちのように,ほとんどの本を買い取りにしているにもかかわらず,利率は委託と同じだったり,これまでも,本の流通の在り方には,ずっと疑問を感じてきました。〔・・・〕「本屋の利益は2割」という暗黙の常識に対しても,それでしかたがないとあきらめることなく,本屋が成り立つ方向を模索していくことは,やはり必要です。/そう考えると,ハックルベリーブックスも,今は,大きな考えどころ,逆に,新しいチャレンジの機会なのかもしれないとも思っています。〔・・・〕柏では,この春,高島屋にあった「ウイング」と,丸井にあった「八重洲ブックセンター」と,2つの本屋が閉店となるそうです。町の小さな本屋も,すでにほとんどありません。でも,それでいいのか……。〔・・・〕ハックルベリーブックスでは,なんとか,今回のピンチを,チャンスに変えていかれるようによくよく考えていきたいと思っています。〔・・・〕」。

おさらい。「ねとらぼ」2月15日付記事「「友朋堂書店」「ひょうたん書店」店舗を閉店 取次・太洋社の自主廃業で」に曰く、「ひょうたんは鹿児島駅近くにコミック専門店「ひょうたん書店」を運営する他、通販も手掛けていた。2月14日にひょうたん書店を閉店して店頭小売事業から撤退。通販事業を主力に事業を続ける。友朋堂書店と同様に、太洋社の廃業で今後の店舗営業が困難と判断した」と。「ひょうたん書店さんについては「東京商工リサーチ」による速報「[鹿児島] 書店運営ほか/(有)ひょうたん/~太洋社の自主廃業に向けた動きに連鎖し、店頭小売から撤退~」や、同店のツイッターのまとめをご参照ください。13日のツイートに曰く「この度、弊社取引取次会社の自主廃業に伴い、今後の店舗営業が困難と判断し急遽2月14日日曜日をもちまして閉店とさせていただくこととなりました」。

おさらい。ツイッター上での様々な推理分析の声。Aさん曰く「友朋堂に特別な事情があったのかもしれないけど、事実としては帳合変更できなかったわけで、なので他の書店も簡単には変更できなさそうと考えるべきだろうし、そうなると説明会で言ってたという売掛金の回収計画なんてぜんぜん達成できないんじゃないの?太洋社はうまく着地できるのかしら」。Bさん曰く「月末とかではなくてまったく突然の閉店になるということは、要するに太洋社帳合の書店はとにかく今すぐにでも精算をしなければいけない事態に追い込まれている可能性が高く、うち名前が挙がった2社はそこですぐ閉める判断をするに至ったということなんだろうな」。さらに曰く「太洋社としても自主廃業を円滑に進めるには未入金分の回収をスケジュール通りにやるしかないわけだが、これは小さな書店からすると「剥がし」に遭う感覚なのだろう。特にサイトが長い取引の場合はこういうのは期限の利益を喪失するに等しく、従前の支払いに問題がなくても、キャッシュが一発で詰まる」。Cさん曰く「有朋堂〔ママ〕もひょうたん書店も太洋社廃業が原因で閉店するわけだが、帳合変更がうまくいかなかったのは、未払金(買掛金)と新規取引に際して払う保証金や担保のせいだろう。未払を精算して上さらに保証金を払うのが難しかったんだろうな…」。Dさん曰く「出版取次業の太洋社が自主廃業へ (東京商工リサーチ) - Yahoo!ニュース BUSINESS #yjnewsbiz にしても帳合変更が失敗に終わったのが1店だけとは考えにくく。こりゃ連鎖廃業する本屋、他にも出そうだな……」。

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◆2月16日18時現在。
栗田帳合の某書店さん曰く「太洋社より店売業務終了のお知らせが来ました。神田店売(神田商品センター)は2/26(金)で営業を終了するそうです。とりあえず今週も一度は様子見がてら仕入れに行こうと思います」。他帳合の小書店さんにとっても太洋社神田店売は便利な存在だったということなのかもしれません。

おさらい。「おたぽる」2月5日付記名記事「エロ本への影響は首の皮一枚で回避……出版取次大手・太洋社が自主廃業決定」をお書きになっておられる昼間たかしさんは約一年前、同じく「おたぽる」にて2015年3月31日記事「ついにエロマンガ壊滅へ!? トーハンの取引条件変更で、エロ系出版社が続々と破綻秒読みか...」を寄稿されていました。曰く「今、エロ系を主力とする出版社が壊滅的な打撃を受けることとなる異常事態が発生している。〔・・・〕発端となったのは、今年2月にトーハンが中小取次である協和出版販売の株式を買収し子会社化したこと。協和出版販売はエロ系を主力とする取次で、特に地方のDVDなどを扱う郊外型書店に対しては強い営業力を持っている。〔・・・〕2月の子会社化を受けて、3月に出版社各社には協和出版販売とトーハンの双方から通達が行われた。これによれば、4月11日の搬入分よりすべてトーハンの取り扱いとすることが記されている。ところが、問題は通達に記されていない部分にあった。トーハン側は、これまでの協和出版販売と出版社との取引条件をすべて反故にし、すべてトーハンの条件にすることを一方的に通告していたのだ。〔・・・〕さらに、精算の方法や支払時期もすべてトーハンの条件にするという通告もなされている。〔・・・〕出版社にとっては、卸値が下がって利益が減るだけでなく、収益の入ってくるサイクルががらりと変わってしまう。余裕資金を保持している出版社など、ほとんどない現在、支払いのサイクルが変われば、外注のマンガ家やライター、カメラマンなどに払う原稿料から社員の給料まで、一気に支払い困難になってしまう可能性もあるのだ。〔・・・〕このままトーハンが自社に有利な条件を強行すれば、出版社の首が絞まっていくことは確実。今、エロ本、エロマンガに危機が迫っている!」と。「問題は通達に記されていない部分にあった」というくだりが実に怖いです。

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◆2月17日16時現在。
東京商工リサーチより2つの速報。

ひとつめ。2月16日付「[愛知県] 書店経営/ブックランドあいむ/~太洋社の自主廃業の影響で書店閉店~」に曰く、「ブックランドあいむ(愛知県豊橋市東脇1-7-1、創業昭和60年11月、事業主:森田典久氏)は2月14日、運営する書店「ブックランドあいむ」を閉店した。/愛知県内に一時期3店舗を出店していたが、近年はネット通販や電子書籍などに押されて2店舗を閉店し、1店舗に集約していた。〔・・・〕ブックランドあいむの担当者によると、これ〔太洋社の自主廃業発表〕に伴い書籍の入荷がストップし今後の店舗営業が困難となったことから、店舗閉鎖に踏み切った」。

ふたつめ。2月17日付「[熊本] 書店経営ほか/(有)ブツクス書泉/~太洋社の廃業影響による書店閉店4例目~」に曰く、「(有)ブツクス書泉(熊本市中央区帯山3-20-14、設立昭和57年1月、資本金750万円、松本寿憲社長)は2月20日、運営する書店「ブックス書泉」を閉店することが明らかになった。今後は外販や配達を主体に事業を継続する方針。/国道57号線に近い住宅街に書店「ブックス書泉店」を展開。周辺住民を固定客とし、過去には2店舗を運営、その後に現在の1店舗へ集約した。〔・・・〕これ〔太洋社の自主廃業発表〕により、数日間で帳合(仕入)の変更せざるを得ない状況となり、帳合先変更に伴う保証金の捻出が困難であることや、変更後は総利益率の低下が避けられない見通しであることから、店頭小売事業の継続を断念。2月20日の20時に、店舗を閉鎖する方針を固めた。/今後は、従来から取引していた専門書の取次業者の協力を得て、外販や配達業務にて事業を継続する」。

上記速報では次のようにまとめておられます。「太洋社の自主廃業の影響で書店が閉店となるケースは、(株)友朋堂書店(茨城県つくば市)、(有)ひょうたん(鹿児島県鹿児島市)、ブックランドあいむ(愛知県豊橋市)に次いで4例目(判明分)。閉鎖店舗数は、合計6店舗(友朋堂書店3店舗、ひょうたん1店舗、ブックランドあいむ1店舗、ブックス書泉1店舗)となった」。

こうした状況が続いているためか、太洋社廃業とは無関係ながら直近に閉店する予定の他帳合書店さんにまで大手新聞記者が不躾な取材攻勢をかけてくる事態となっている様子です。まったく感心できません。いずれ品のない記事が出ることでしょう。

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◆2月18日午前11時現在。
太洋社廃業返品に加え、ようやく倉庫の整頓が終わったらしい新栗田からまとまった規模の返品、さらに大阪屋帳合の大型店からの閉店返品、のトリプル状態。重なるときは重なるもので弊社だけではなくそれなりの数の版元さんが同じ状況のはず。民事再生もキツかったのですが、自主廃業も別種のダメージがあることが露呈してきて、穏便に済む終わり方はどこにもさそうです。営業マン同士の会話に出てくる頻度が最近もっとも高い言葉は「この先どうなっちゃうんだろうね」。誰も知らないし、誰も答えようがありません。ただひとつだけはっきりしているのは、自分たちで「この先」を作るしかないということ。焼野原になるまで座して待つ(サトリ)のでなければ、利害ごとに小さくまとまっていくか(ブロック化)、それすらもできずにバラバラのまま大きな組織におもねるか(事大主義)、業界自体から進んで降りるか(ドロップアウト)、まったく別の流通・販売網を構築するか(新世界)。ほかにも道は色々あるでしょうけれど、巨大資本にとって今ほど付け入りやすい状況はないと思います。

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by urag | 2016-02-15 12:38 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2016年 02月 14日

ジャン・ウリの単著初訳『精神医学と制度精神療法』春秋社、ほか

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精神医学と制度精神療法』ジャン・ウリ著、三脇康生監訳、廣瀬浩司・原和之訳、春秋社、2016年1月、本体3,800円、四六判上製416頁、ISBN978-4-393-33341-9
『夜と霧』ビクトール・フランクルの言葉』諸富祥彦著、ワニ文庫、2016年1月、本体670円、文庫判216頁、ISBN978-4-584-39386-4

★『精神医学と制度精神療法』は発売済。版元紹介文に曰く「革新的な精神科病院、ラ・ボルド病院を創立し、ガタリらも参加した「制度精神療法」の理論と実践を深めた著者による論文・講演録を、本邦初訳。日常の実践と理論を往還し、精神医療環境の新たな地平をきりひらいた軌跡」。1955年から1975年までの主要論文を集めたウリの代表作であり、原書は、Psychiatrie et psychothérapie institutionnelle: traces et configurations précairesで、1976年にPayotから刊行された初版ではなく、Champ socialから2001年に出版された新版です。

★全24章のうち、15章が訳出されています。巻頭には新版についての短い「著者メッセージ」、ピエール・ドゥリオンによる「新版のためのまえがき」、著者の盟友で今まではトスケルと表記されることが多かったフランソワ・トスケィエスによる序文が付され、巻末には共訳者の廣瀬浩司さんによる「訳者あとがき」と、三脇康生さんによる監訳者解説「ジャン・ウリへ――粗品としてのラ・ボルド病院」が収められています。人名と事項をまとめた索引もあります。原書新版の目次(リンク先でご確認いただけます)と比べていただくために今回の抄訳書に収録された上記以外の本論部分を列記します。

序論 つかのまの痕跡と布置、精神医学と制度精神療法の領野における道標
第1章 精神科クリニックにおける脱疎外
第2章 病人を直接的に取り巻くものの制度精神療法の環境における分析
第3章 看護師の精神療法への参加
第4章 精神医学における専門的訓練への寄与
第5章 個人開業の精神分析家と病院の精神科医の合同会議のためのプロジェクト
第6章 学校環境における疲労の問題
第7章 転移と了解
第8章 エマーブル・Jの現前
第9章 制度精神療法についての覚書と変奏
第10章 ミーティングの概念について語ることは可能か?
第11章 制度精神療法のいつくかの理論的問題
第12章 制度精神療法における幻想〔ファンタスム〕・転移、そして〈行為への移行〉の弁証法
第13章 制度精神療法
第14章 制度精神療法の実践における主体の概念
第15章 制度精神療法のエクササイズ

★著者であるフランスの精神科医ジャン・ウリ(Jean Oury, 1924-2014)は今回の訳書が単著初訳となるものの、ジャック・ラカンの弟子であり、フェリックス・ガタリの友であり、ユニークな医療活動で知られるラ・ボルド病院の創立者にして医院長として、日本でも知られてきました。2005年の来日時の講演等は『Rencontre avec le japon』(Edition Marice, 2007)という本にまとめられています。ちなみにウリによるガタリへの追悼文「精神の基地としてのラボルド――フェリックスのために」を、ガタリ『精神病院と社会のはざまで――分析的実践と社会的実践の交差路』(杉村昌昭訳、水声社、2012年)で読むことができます。

★訳者あとがきでウリの仕事はこう評されています。「精神病に苦しむすべての患者たちを取り巻く「制度化された諸環境」のベクトルが、少しでも「脱疎外」の方向に向かうようにコントロールすること」(373頁)。ウリはこう書いています、「「病人」のひとりひとりは、その人格、疾病学的空間、世界との繋がり、その可能性、ローカルな治療様態などを考慮に入れながら、この機械〔私たちがその器官であり、燃料であり、労働者となっているような機械=機関=機構〕によって考慮されなければならない。時系列的な探究にあたふたするよりは、〈集合態〉における混乱した地帯に「働きかけ」、葛藤の結び目のひとつに立ち止まったほうが、効率的なこともある」(252頁)。「問題になっているゲームをよりよく検討するために、ゲームで使われているカードを検討すること」(253頁)。健常者も含めた社会全体がますます精神的に深く傷つき疲弊しきっているように見える昨今、ウリやガタリが再評価されるべき時が近づいている気がします。

★『『夜と霧』ビクトール・フランクルの言葉』は発売済。コスモス・ライブラリーから2012年に刊行された同書親本を改訂し、文庫化したものです。テーマ別にフランクルの言葉152編を集め新訳した「フランクル語録」であり「フランクル名言集」です。カバー紹介文に曰く「ナチスの強制収容所における体験を綴った名著『夜と霧』の著者であり、「生きる意味」を見出していく心理療法、実存分析(ロゴセラピー)の創始者であるビクトール・フランクルが読者に熱く語りかける「魂」を鼓舞するメッセージ」。全11章に配されたテーマは以下の通りです。「強制収容所での体験」「愛することについて」「生きることの「むなしさ」について」「人生の「苦しみ」について」「生きる意味について」「仕事について」「幸福について」「時間と老いについて」「人間について」「神について」「生きるのがつらい人へ」。

★フランクルの言葉はいずれも胸に沁みるものばかりなのですが、いくつかを抜き出してみます。丸括弧内は出典文献です。「「仕事の大きさ」は問題ではない。その人が「自分なりの使命をどれだけ果たせたか」が重要なのだ」(『医師による魂のケア』より)。「人生の意味は、他社と取って代われえないもの、一回的なもの、独自的なものである。そこで重要なのはそれをその人がいかに行うかという点にあるのであり、何を行うかという点ではないのである」(同)。「心理療法の中に倫理学を取り入れること、すなわち、責任存在であり使命を有しているという人間存在の本質を心理療法の中核に据えること、それによって患者にその特殊な責任と課題とを指し示すことが必要なのだ」(『哲学と心理療法』)。「逆説的ではあるけれども、人は誰かのため、すなわち大義のため、友人のため、神のために、自分を失う地点に達してはじめて、真の自分を発見するのである」(『心理療法と実存主義』)。

★本書の姉妹編として、諸富さんはワニ文庫で一昨年に『ビクトール・フランクル 絶望の果てに光がある』という既刊書を上梓しておられます。また、フランクル自身の著作の文庫には『生きがい喪失の悩み』(中村友太郎訳、講談社学術文庫、2014年)があります。広い層の読者を獲得している書き手であることからすれば、文庫版著作集が刊行されてもおかしくないフランクルですが、意外に少ない(少なすぎる)のが驚きです。

★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

情念・感情・顔――「コミュニケーション」のメタヒストリー』遠藤知巳著、以文社、2016年2月、本体7,800円、A5判上製768頁、ISBN978-4-7531-0330-0
ミュージカル映画事典』重木昭信著、平凡社、2016年2月、本体17,000円、A5判上製函入1028頁、ISBN978-4-582-12649-5

★『情念・感情・顔』は発売済。帯文はこうです。「思考の外部に触れる――近代社会の全体を外から俯瞰する視線がリアリティを喪失しつつある現在、主体の内部作用という薄明の言説領域に足を踏み入れながら、異世界に触れようとする思考の冒険」と。全16章立て、注を含め700頁を超える大著です。しかも書き下ろし。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者の遠藤知巳(えんどう・ともみ:1965-)さんは日本女子大学人間社会学部教授をおつとめで、ご専門は社会学、特に近代社会論、言説分析、メディア論、社会理論でいらっしゃいます。単独著としては本書が初めて。既訳書にジョナサン・クレーリー『観察者の系譜』(十月社、1997年;以文社、2005年)があるほか、編著書として『フラット・カルチャー――現代日本の社会学』(せりか書房、2010年)があります。

★『ミュージカル映画事典』はまもなく発売。著者は大学人ではなく在野の研究者で、本書は『ブロードウェイ・ミュージカル事典』(芝邦夫名義、劇書房、1984年;増補版1991年)に続く労作です。帯文に曰く「アメリカを中心に、世界のミュージカル映画の全貌を知ることができる、本邦初の事典。世界初のミュージカル映画「ジャズ・シンガー」(1927)から「イントゥ・ザ・ウッズ」(2014)まで、90年間に制作された、約3400作品を紹介」。全13章を列記すると「ミュージカル映画の誕生」「1930年代:不況の時代」「1940年代:戦争の時代」「1950年代:画面の大型化」「1960年代:スタジオ・システムの崩壊」「1970年代:ロックの時代」「1980年代以降のミュージカル映画」「テレビのミュージカル」「踊りと歌の流れ」「英国の作品」「ドイツの作品」「スペインの作品」「その他の国(フランス/イタリア/ソ連)」です。さらに年度別作品一覧、[付録]主な伝記映画、参考文献、索引(邦題、原題、人名)が付されています。

★ちなみに平凡社さんでは今月19日発売で、細江英公さん写真、笠井叡さん舞踏・文で『透明迷宮』という写真集が刊行されます。笠井叡さんが被写体の写真集には『Androgyny dance』(瀧口修造序文「舞踏よ、笠井叡のために」、赤瀬川原平装幀、蘭架社、1967年)、『ダンス・ドゥーブル』(笠井爾示写真、フォトプラネット〔オシリス〕/河出書房新社、1997年)、『銀河革命』(現代思潮新社、2004年)がありますが、『銀河革命』は60~70年代の写真なので、新作写真集としては20年ぶりとなるものと思われますし、当然のことながら細江さんの新刊としても大注目です。品切にならないうちに急いで買っておくべきかと思われます。
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by urag | 2016-02-14 23:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)