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2016年 01月 31日

注目新刊:不可視委員会『われわれの友へ』夜光社、ほか

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われわれの友へ
不可視委員会著 HAPAX訳
夜光社 2016年1月 本体1,500円 新書判並製256頁 ISBN978-4-906944-07-1
裏表紙紹介文より:ひとつの文明の終わりが/世界の終わりではない者たちへ/なによりもまず蜂起のうちに/組織ぐるみの嘘と混迷と愚かさの支配にうちこまれた/ひとつの裂け目をみとめる者たちへ/たちこめる「危機」の霧の背後に/作戦と術策と戦略がくりひろげられる舞台の存在を/――それゆえ反撃の可能性をみいだす者たちへ/攻撃する者たちへ/好機をうかがう者たちへ/共謀の友をもとめる者たちへ/離脱する者たちへ/試練をたえぬく者たちへ/みずからを組織化する者たちへ/革命的な力をつくり だそうとする者たちへ/革命的、なぜならそれは感覚的なものであるから/われわれの時代を解明するための/ささやかな試論をここにささげる。

目次:
蜂起はついに到来した
メリー・クライシス・アンド・ハッピー・ニュー・フィヤー
 一、危機は統治の一様態である
 二、真のカタストロフは実存と形而上学のカタストロフである
 三、アポカリプスは失望させる
やつらは統治を背負わせようとする、われわれはその挑発にはのらない
 一、現代蜂起の相貌
 二、民主主義的な蜂起など存在しない
 三、民主主義は純粋状態の統治にほかならない
 四、脱構成のセオリー
権力とはロジスティクスである。すべてを遮断せよ!
 一、権力はいまやインフラのうちに存在する
 二、組織化と自己組織化の違いについて
 三、封鎖戦術〔ブロカージュ〕について
 四、調査について
ファック・オフ・グーグル
 一、「フェイスブック革命」などない。あるのは新たな統治学としてのサイバネティクスである。
 二、「スマート」を打倒せよ
 三、サイバネティクスの悲惨
 四、技術vs.テクノロジー
あとをくらませ
 一、奇妙な敗北
 二、平和主義者とラディカル――地獄のカップル
 三、対蜂起としての統治
 四、存在論的非対称性と幸福
われわれの唯一の故郷、幼年期
 一、「社会」は存在しない、したがってその防衛も破壊もありえない
 二、淘汰を離脱へと反転させなければならない
 三、「ローカルな戦争」などない。あるのは諸世界間の戦争である
オムニア・スント・コムニア
 一、コミューンの回帰について
 二、革命派として住まう
 三、経済を打倒する
 四、共有された力能に参入する
今日のリビア、明日のウォールストリート
 一、十五年の歴史
 二、ローカルなものの引力から身をひきはなす
 三、組織化ではない力をつくりあげる
 四、力能をはぐくむ
訳者あとがき


HAPAX vol.5 特集『われわれの友へ』
夜光社 2016年1月 本体900円 四六判変形並製124頁 ISBN978-4-906944-07-1

目次:
コミューン主義とは何か?/HAPAX
革命のシャーマンたちが呼び出したものたち/李珍景
日本からの手紙――terrestritude のために/友常勉
都市を終わらせる――資本主義、文化、ミトコンドリア/反-都市連盟びわ湖支部
「われわれの友へ」、世界反革命勢力後方からの注釈/チョッケツ東アジア by 東アジア拒日非武装戦線
壁を猛り狂わせる/堀千晶
隷属への否――不可視委員会とともに/中村隆之
コミューンのテオクリトスたちによせて/入江公康
永山則夫について/鼠研究会
真の戦争/『ランディ・マタン』誌論説

★『来たるべき蜂起』(L'Insurrection qui vient, La Fabrique, 2007;『来たるべき蜂起』翻訳委員会、彩流社、2010年)に続く、不可視委員会(Comité invisible)の訳書第二弾『われわれの友へ』と、同書を特集した「HAPAX」第5号がまもなく発売となります。関連書に不可視委員会の前身であるティクーンの論考を併載した『反-装置論――新しいラッダイト的直観の到来』(『来たるべき蜂起』翻訳委員会+ティクーン著、以文社、2012年、本体2,000円、四六判並製184頁、ISBN978-4-7531-0303-4)があります。

★『われわれの友へ』の原書は、À nos amis (La Fabrique, 2014)です。「本テクストは八カ国語、四大陸で同時的に刊行される。〔・・・〕いまこそわれわれは世界的に自己組織化すべきである」(15頁)と巻頭言にあります。「自己組織化とは、同じ組織に加入することではまったくない。そうではなく、どんな水準においても共通の知覚にもとづいて行動することである。〔・・・〕われわれに欠けているもの、それは状況をめぐって共有された知覚である」(13頁)。「状況をめぐって共有される知性が生み出されるのは、唯一のテクストからではなく国際的な議論からである。議論がなされるためには賭け金がなければならない。本書はそのひとつである。われわれは革命派の伝統と態度を歴史的局面という試金石にかけ、革命というガリヴァーを地面に縛りつけている無数の理念の糸を断ち切ろうとこころみた」(14頁)。

★『われわれの友へ』の巻頭には《社会の敵》ジャック・メスリーヌ(Jacques Mesrine, 1936-1979)の言葉「別の世界は存在しない。別の生き方があるだけだ」が引用され、巻末の詩的結語には「書くことは虚栄である、それが友にむけられていなければ。たとえいまだに見知らぬ友にむけてであっても。〔・・・〕このテクストはひとつのプランのはじまりである。ではさっそく、」(246, 248頁)というふうに、ピリオドではなくカンマが置かれており、握手する時に手を開いて差し出すようにテクストを読者へと開いています。友たちと一緒に別の生き方へと踏み出すこの共同性の内実を不可視委員会は次のように鮮烈に描いています。「蜂起というものはすべて、どれほど局地的であっても、それ自体をこえて合図をおくる。いかなる蜂起にも即座に世界的な何かがふくまれている。蜂起のさなかでわれわれはともに時代の高みに達するのである」(11頁)。「われわれは散発的な諸反乱と同時代なのではない。知覚されないものとなって交流しあう、唯一にして世界的な蜂起の波と同時代なのである」(10頁)。「2008年から世界中で生じているのは、ナショナルな密閉空間のそれぞれに突拍子もなく生起するなんの脈絡もない一連の噴出ではない。それはギリシャからチリまで、時間と空間の厳密な一貫性のなかでくりひろげられる、唯一の歴史的シークエンスである」(11頁)。

★「いわばわれわれは、われわれがすでにいる場所へとドアをこじ開けなければならない。構築すべき党とは唯一、すでにそこに存在する党のことである。われわれに共通の状況、グラムシがいうところの「共通の大地性〔テレストリチュード〕」の明晰な把握をさまたげている心理上のがらくたを処分してしまわなければならない」(12頁)。このcommune terrestritude/common terrestritudeの明晰な把握へと向けて、「HAPAX」第5号は編まれています。

★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

イスラーム神学』松山洋平著、作品社、2016年1月、本体2,700円、46判上製528頁、ISBN978-4-86182-570-5
アルメニア人の歴史――古代から現代まで』ジョージ・ブルヌティアン著、小牧昌平監訳、渡辺大作訳、藤原書店、2016年1月、本体8,800円、A5判上製528頁、ISBN978-4-86578-057-4

★『イスラーム神学』は発売済。帯文に曰く「日本で、唯一の「イスラーム神学」本格的入門書。最重要古典の一つ「ナサフィー信条」の全訳と詳解を収録。欧米・日本で少数派のムスリムが社会と共生するために必要となる「ムスリム・マイノリティのためのイスラーム法学と神学」を付す」とあります。「スンナ派概論」「スンナ派の信条――ナサフィー『信条』訳解」の二部構成で、附録として「ムスリム・マイノリティのためのイスラーム法学と神学」が加えられています。巻末には引用文献、略年表、イスラーム神学用語集、索引を完備。

★著者の松山洋平(まつやま・ようへい:1984-)さんは名古屋外国語大学の非常勤講師をおつとめのほか、日本ムスリム協会の理事でいらっしゃいます。著書に『イスラーム私法・公法概説 公法編』(日本サウディアラビア協会、2007年)があります。日本ムスリム協会前会長の樋口美作さんの推薦文にはこうあります。「本書はイスラームの90%を占めるスンナ派(スンニ派)の信条を解説するものである。〔・・・〕内容的にも、スンナ派を自称する過激集団ISの実態を知る端緒ともなりうるもので、各章の興味ある項目を拾い読みしただけでも、〔・・・〕イスラーム理解のヒントを与えてくれる」。

★ちなみにより特定的にイスラーム原理主義の思想的源流に興味がある方には、サイイド・クトゥブ(1906-1966)の二冊の既訳書『イスラーム原理主義の「道しるべ」――発禁“アルカイダの教本”全訳+解説』(第三書館、2008年)、『イスラーム原理主義のイデオロギー――サイイッド・クトゥブ三部作:アルカイダからイスラム国まで オバマ大統領が憎む思想』(ブイツーソリューション、2015年)が参考になります。

★『アルメニア人の歴史』は発売済。原書は、A Concise History of the Armemian People: From Ancient Times to the Present (6th Edition, Mazda, 2012)です。帯文に曰く「作曲家ハチャトリアン、作家サローヤン、歌手アズナヴールら優れた芸術家を輩出してきたアルメニア人。ゾロアスター、キリスト教、イスラームなどの宗教が交錯するコーカサスの地における、アラブ・スラヴ・ペルシア・トルコ・モンゴルなど諸民族・諸帝国による支配からの独立に向けた苦闘と、世界に離散した「ディアスポラ」の三千年史を一冊にまとめた、アルメニア史研究の世界的第一人者による決定版の完訳」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。カラー口絵16頁ではいずれも美しい教会や文化遺産が紹介されています。アララト山の神々しさには見とれてしまいます。

★著者のジョージ・ブルヌティアン(George A. Bournoutian, 1943-)はイラン・イスファハン生まれ、アメリカ在住のアルメニア人歴史家で、ニューヨークのアイオナ大学教授をおつとめです。著書の日本語訳は今回が初めてになります。教授は93~94年に『アルメニア人の歴史(A History of the Armenian People)』を刊行し、その後、合本のうえ大幅増補した『アルメニア人の略史』を2002年に上梓しました。今回の訳書はこの『略史』の第6版を底本としています。

★藤原書店の月刊PR冊子「機」2016年1月号に掲載された藤原良雄社長による「出版随想」には本年度の主要企画が明かされています。5月:金時鐘コレクション、秋:中村桂子コレクション、多田富雄全集、といった大型企画のほか、今春以降からアラン・コルバン編『男らしさの歴史』全3巻、エマニュエル・トッド『家族システムの起源』、アラン・バディウ『存在と出来事』、ジュール・ミシュレ『日記』など、素晴らしいラインナップです。
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by urag | 2016-01-31 23:05 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 01月 29日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる本屋さん

ここ最近更新していませんでしたが、弊社本をご発注いただいた新規書店さんをご紹介します。

2015年11月9日【日販】TSUTAYA BOOK STORE ららぽーとEXPOCITY【芸術書】(約800坪:図書・文具・DVD-CDセル)大阪府 吹田市千里万博公園2-1 ららぽーとEXPOCITY 2F
2015年11月25日【日販】浦和蔦屋書店【芸術書】(??坪:図書・文具)埼玉県さいたま市浦和区高砂1-16-12 アトレ浦和1700
2015年12月1日【トーハン】こみかるはうす藤が丘店【人文書】(260坪:うち図書200坪)愛知県名古屋市名東区明が丘51 シャトー藤が丘1F
2015年12月6日【トーハン】三省堂書店池袋本店【人文書】(1000坪:図書・雑貨)東京都豊島区南池袋1-28-1 西武池袋本店書籍館・別館
2015年12月10日【日販】オリオン書房ららぽーと立川竜飛店【芸術書】(??坪:図書・文具雑貨・本棚珈琲)東京都立川市泉町935-1 ららぽーと立川竜飛1F
2016年1月10日【日販】京都岡崎蔦屋書店【芸術書】(150坪:図書およびカフェ)京都市左京区岡崎最勝寺町13 ロームシアター京都 パークプラザ1F
2016年1月22日【日販】ジュンク堂書店名古屋栄店【人文・文芸・芸術書】(610坪:図書)愛知県名古屋市中区新栄町1-1
2016年2月26日【日販】ジュンク堂書店立川高島屋店【人文・芸術・文芸書】(1,032坪:図書およびカフェ)東京都立川市曙町2-29-3 立川高島屋6F

ジュンク堂書店さんが日販帳合のお店を出店し始めたのが興味深いですね。京都岡崎蔦屋書店は、前川國男さん設計の「京都会館」をリノベーションした建物がたいへん美しいです。外国人客の来店も見込んでいるのだとか。なるほど。

このほかにもイオン系SC内で展開されている大人向けの趣味の本棚で間章著作集』全3巻のご発注を頂戴することがしばしばありました。

未来屋書店モンテメール芦屋(2015年9月17日【日販】兵庫県芦屋市船戸町1-31 モンテメール芦屋本館1F)
未来屋書店葛西(11月改装【日販】東京都江戸川区西葛西3-9-19 イオン葛西店4F)
未来屋書店イオンモール常滑(2015年12月4日【日販】愛知県常滑市りんくう町2-20-3 イオンモール常滑2F)
ニュースタイルイオンモール筑紫野(2015年12月4日改装【トーハン】福岡県筑紫野市立明寺434番地1 イオンモール筑紫野3F)※『間章~』ではなく、その他の芸術書
未来屋書店イオンモール岡山(2015年12月5日【日販】岡山市北区下石井1-2-1 イオンモール岡山5F)※『間章~』ではなく、森山大道写真集など。
イオンスタイル御嶽山駅前(2015年12月11日改装【日販】東京都大田区北嶺町37-13)の2~3Fの書籍コーナー

以上です。
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by urag | 2016-01-29 17:11 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2016年 01月 27日

備忘録(17)

◆2016年1月27日13時現在。
1週間前から配信されている某店の「緊急事態」宣言が意味不明と話題に。引当率の低下は、取次や版元が年末年始営業してないから、という以上の特別な理由があるとは思えないのですが、なぜこんなボンヤリしたことを言い始めたのか。常に数字の理由を分析しているはずの某店にしてはやや雑なアクションです。帳合取次への当てつけなのか、直取キャンペーンへの新たな誘導なのか、色々と憶測を呼んでいます。ますます某店への版元の視線は冷やかになってきました。どんなにプレッシャーを掛けたって、取次も版元も365日24時間営業にはなりっこない。ブラックな要求なのかと思われても良いことはないはずです。

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◆1月28日17時現在。
「新文化」1月28日付記事「東京地裁、栗田出版販売の再生計画を認可」によれば「1月23日、東京地裁が認可して同25日付で確定証明書を発行」と。続けて「これにより2月1日に大阪屋の100%出資会社である㈱栗田に栗田出版販売の事業を譲渡、それと同時に社名を栗田出版販売に変更する。また、4月に栗田と大阪屋が統合することが正式に決まった」とも。返品問題の決着はいかに。

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◆1月28日18時現在。
さて、2015年のおさらい。「サイゾーpremium」12月30日~31日の記事「2015年出版流通業界10大ニュース」。「【前編】『火花』のヒットでも太刀打ちできない本屋の苦しい実態」「【後編】2016年もアマゾンからの容赦無い圧力は続くのか」。個人的な感想を言うと、3位の「新潮社が図書館の貸出猶予を検討=無料貸本屋問題」と9位の「TSUTAYA図書館問題」は逆な方が良い感じです。

まず前編から気になる部分を抜き出してみます。

書店B・・・書籍の新規出店在庫の支払いが2~3年後に始まる。その支払いを補うために、別の店を出すことがこの業界ではまかり通っている。もし、ジュンク堂書店がそうであるならば、もはや自転車操業といえるのではないだろうか。それはジュンク堂書店のような大型店のビジネスモデルが破たんしたことを意味するともいえる。だとするならば、この出店ラッシュの行きつく先は、出版界の大カタストロフィなのではないだろうか。
出版社A・・・ジュンク堂書店のような大型店が潰れてしまうと、連鎖倒産する中小出版社はかなり出るだろう。事実、新宿店が閉店したときに、かなりの在庫が返ってきて、取次からの入金が減った。大日本印刷が潰さないとは思うが、万が一にも潰れたら、相当大きなダメージを業界に与えるのは確かだ。

老舗版元営業幹部だというAさんの話は大げさなものではありません。ジュンク堂が万が一にも破綻すれば、その巨大なてのひらがなぎ払う中小版元の数は相当数にのぼるはずです。なぜなら、ジュンク堂こそが中小版元の小ロット本の受け皿になっているからです。ジュンク堂が仕入れない本は他チェーンではなおさら扱われませんから、まさに中小版元は「ジュンク堂と共に生き、ジュンク堂と共に死ぬ」運命です。ジュンク堂は一店舗ごとの規模が大きいので、閉店するだけでもAさんが言う通り入金に影響を及ぼし、場合によっては単月で赤字が出ることすらあります。

つづいて後編から。

書店B・・・アマゾンとの関係が深くなればなるほど、アマゾンに搾取されることを出版社は考えないのだろうか? 年間契約しかり、直取引しかり。いま売れるからといって、これから先もずっと売れ続けるわけはない。いずれ頭打ちが来る。それはそんなに遠くはないだろう。年間契約を止めた版元に聞いたら、アマゾンは相当な仕打ちを出版社にしたらしい。検索結果などでのお薦め商品にあえて表示しない、カート落ちもほったらかし、あげくはアマゾンの倉庫から商品を一斉に返品してくる、などなど。そうした前例をつくりながらアマゾンは、「いまうちとの年間契約を止めたら売上が10%は落ちる」と出版社に圧力をかけているとも聞いた。さすがに売上が10%も落ちると出版社も厳しい。年間契約のアマゾンへの支払い報奨が上がったとしても、10%ダウンよりはまし、と契約を更新してしまうようだ。
出版社A・・・うちは、直取引はしていないし、これからもする気はない。66%とか、他にも70%近い正味を持ちかけられている版元もあると聞く。ただ、その条件が未来永劫続くはずもない。おそらく単年度更新で、新たに低い条件を提示してくるのだろう。うちが契約しないのは、そのためだ。だが、直取引している出版社は確実に増えているのも一方で事実だろう。出版社のアマゾン依存はますます深まっていくおそれがある。出版社にとっても、売上を上げる選択肢がなくなっているのが原因だ。むしろ、アマゾンがそういうプレシャーを出版社にかけてくる会社だと割り切って、今から有利な条件でアマゾンと契約しようと考える出版社もある。実際、取次だって成績が悪ければ、歩戻し交渉してくるのだから、交渉相手が取次から手ごわいアマゾンに変わったともいえるだろう。

今日開催されたという説明会では、予想にたがわず直取引の慫慂だったそうで、今後も積極的に取次外しを進めようということでしょうけれど、相当数の版元が強い警戒心やアレルギーを持っているのも事実なので、先方の目論見は完遂しえないように思われます。いずれにせよ、2016年はいっそう激しい変動がありうるのでしょう。

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◆1月29日14時現在。
2月8日(月)?

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◆1月29日15時現在。
おさらい。「新文化」1月26日付記事「大洋図書、日販に帳合変更へ」に曰く「大洋図書は同社FC店舗188店について、日販と取引きすることを決めた。これまでは太洋社と取引きしていたが、2月1日付で帳合変更することになった」と。

おさらい。「出版状況クロニクル92(2015年12月1日~12月31日)」に曰く「ちょうど1年前の本クロニクル80で、「正念場の1年もまた出版物売上の下げ止まりはまったく見られず、出版業界全体がさらに奈落の底へと沈み始めている。15年はその解体の年として記録されることになろう」と書いた。それはこの異常な高返品率、栗田出版販売の破産に表出したことになる」と。

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by urag | 2016-01-27 13:02 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2016年 01月 26日

注目新刊:アガンベン「ホモ・サケル」シリーズIV-2

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★ジョルジョ・アガンベンさん(著書:『アウシュヴィッツの残りのもの』『バートルビー』『思考の潜勢力』『涜神』『到来する共同体』)
★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳書:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
アガンベンさんのライフワークである「ホモ・サケル」シリーズ第4部第2巻が上村忠男さんによって翻訳されました。原著はL'uso dei corpi (Neri Pozza, 2014)です。「身体の使用」「存在論の考古学」「〈生の形式〉」の三部構成。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者あとがきに「ホモ・サケル」シリーズの一覧がありますので、書店さんはこの一覧でシリーズの売場の欠本をチェックされてみてください。

身体の使用――脱構成的可能態の理論のために
ジョルジョ・アガンベン著、上村忠男訳
みすず書房 2016年1月 本体5,800円 四六判上製512頁 ISBN978-4-622-07964-4
帯文:《ホモ・サケル》、極点の思考――政治呂倫理の新しい次元を可能態の観想が開く。「芸術・哲学・宗教・政治はその時代を終えてしまったが、私たちはそこに新しい生を汲むことができる」(本文より)。


★廣瀬純さん(著書:『絶望論』、共著:『闘争のアサンブレア』、訳書:ヴィルノ『マルチチュードの文法』、共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
★トニ・ネグリさん(著書:『芸術とマルチチュード』)
イタリア、スペイン、ギリシャの政治理論家8人に廣瀬さんが昨夏行ったインタヴューをまとめ、同時期に彼らが発表した論考を併載した魅力的な一冊が刊行されました。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。第Ⅰ部「ヨーロッパ」では、サンドロ・メッザードラ、マウリツィオ・ラッザラート、フランコ・ベラルディ(ビフォ)へのインタヴューを収録し、バリバールらの関連論考が訳出されています。第Ⅱ部「スペイン/ギリシャ」では、フアン=ドミンゴ・サンチェス=エストップ、ラウル・サンチェス=セディージョ、アマドール・フェルナンデス=サバテル、パンチョ・ラマス、スタヴロス・スタヴリデスへのインタヴューを収録し、ネグリらの関連論考が訳出されています。廣瀬さんによる巻末解説「現代南欧政治思想への招待」にはこんな一文があります。フランス知性のそうした嘆かわしい現況とは反対に、スペインやイタリアといった「南欧」では(ラテンアメリカにおけるとの同様に)今日もなお、情勢の下で思考する営みが精力的に続けられている」(370頁)。この前段にあるフランス哲学への鋭い言及を人文書担当の書店員さんは必ずチェックされてみてください。現代思想棚にはたいてい「米英」「ドイツ」「フランス」の分類はあると思いますが、大書店さんではさらに「イタリア」をまとめていらっしゃると思います。この「イタリア」に本書を接続し、さらに、あまり点数がありませんがスペインやギリシャの類書を繋げていくとよいと思います。

資本の専制、奴隷の叛逆――「南欧」先鋭思想家8人に訊くヨーロッパ情勢徹底分析
廣瀬純編著
航思社 2016年1月 本体2,700円 四六判並製384頁 ISBN978-4-906738-15-1
帯文より:ディストピアに身を沈め、ユートピアへ突き抜けよ。スペイン、ギリシャ、イタリアの最先端政治理論家たちがポスト産業資本時代の「絶望するヨーロッパ」をラディカルに分析する。

なお、以下の通り出版記念イベントが今週行われます。

◎廣瀬純×マニュエル・ヤン「民衆はいかに攻勢に転じるか――「シアトル」から「国会前」まで
日時:2016年01月28日(木)19:30~
場所:ジュンク堂書店池袋本店4F喫茶コーナー
料金:税込1,000円(飲物代込)
内容:反グローバライゼイションから反戦を経てオキュパイへ。反貧困から反原発を経て反安保法制へ。90年代以後この20年のあいだ、民衆運動はどのような戦略・戦術にもとづいて展開され、何を獲得したか。日本ではどうだったか。資本がその破壊的本性を全面展開させるなか、「労働者」はどこへいったのか。アンダークラスは到来するのか。スペイン、ギリシャ、イタリアの政治理論家たちが呈示するヨーロッパ情勢分析とともに考える。

◎廣瀬純×北川眞也×上尾真道×箱田徹「「階級構成」とは何か
日時:2016年01月29日(金)19:00~20:30
場所:地下2階 MARUZEN CAFÉにて
料金:税込1,000円(飲物代込)定員40名
内容:理論においても実践においても「階級」が語られなくなって久しい。「我々は99%である」と言われるときそこで語られているのは「階級」か。そうではあるまい。「階級」とはまさにその「99%」を二つに割るときにこそ初めて語られ得るものだからだ。安保法制反対運動がなぜあれほど多くの人々を運動へと招き得たのか。参加者にいっさいの「階級」的自覚を求めなかったからだろう。新たな人民は「空虚なシニフィアン」(ラクラウ/ムフ)の下で団結する「誰でもよい者」(ランシエール)として到来する? サンドロ・メッザードラをはじめとした「南欧」の理論家たちの議論を読み、「階級構成」分析のその今日的可能性を検討する。廣瀬純『資本の専制、奴隷の叛逆』、サンドロ・メッザードラ『逃走の権利』(人文書院)刊行記念イベント。


★佐藤嘉幸さん(共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
★立木康介さん(共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
さて、さきほど引用した廣瀬さんの文章の中に「情勢の下で思考する」という言葉がありましたが、これは下記のアンソロジー集『現代思想と政治』に廣瀬さんが寄稿された論考のタイトルでもあります。「情勢の下で思考する――アントニオ・ネグリと「六八年の哲学」」がそれです。『現代思想と政治』は京都大学人文科学研究所による共同研究成果報告書で、「政治/哲学」「資本/闘争」「主体/精神分析」の三部構成に17の論考を配置し、巻頭の序文を市田良彦さんが執筆されています。このアンソロジー集には佐藤嘉幸さんの論考「分裂分析と新たな主体性の生産――ガタリ『アンチ・オイディプス草稿』」や、立木康介さんの論考「ラカンの六八年五月――精神分析の「政治の季節」」も収録されています。

現代思想と政治――資本主義・精神分析・哲学
市田良彦・王寺賢太編
平凡社 2016年1月 A5判上製624頁 ISBN978-4-582-70340-5
帯文より:フーコー、ドゥルーズ、アルチュセール、ラカン……現代思想たちは、政治をどう指向したか? そこで政治は、どのようなものとしてとらえられたか? そのとき思想はどんな意味で現代であるか? 政治/哲学/資本主義/闘争/主体/精神分析……拡散しつつ円環を形作る、18人による根底的な論究。


★上野俊哉さん(著書:『アーバン・トライバル・スタディーズ』、共訳:ギルロイ『ブラック・アトランティック』)
★鵜飼哲さん(共訳:ジュネ『公然たる敵』)
★清水知子さん(共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
★本橋哲也さん(共訳:スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
月刊誌『現代思想』2016年1月号「ポスト現代思想」に上野俊哉さんの論考「フルッサー、知られざる群島としての」が、そして同誌の1月臨時増刊号「パリ襲撃事件――新しい<戦争>の行方」に鵜飼哲さんの論考「「みずから播いた種」――二一世紀のフランスの変貌」が掲載されています。後者に併載されているジジェクのエッセイ「キューポラの騒乱」の翻訳を清水知子さんが、そしてゼムデナ・アベベのエッセイ「なぜ世界は、パリをこれほど悼む、のか?」の翻訳を本橋哲也さんが担当されています。
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by urag | 2016-01-26 15:19 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 01月 23日

注目新刊:キケロの失われた著書『ホルテンシウス』を再構成

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キケロ『ホルテンシウス』――断片訳と構成案』廣川洋一著、岩波書店、2016年1月、本体3,000円、四六判上製240頁、ISBN978-4-00-061104-6
道化と笏杖』ウィリアム・ウィルフォード著、高山宏訳、白水社、2016年1月、本体6,400円、4-6判上製568頁、ISBN978-4-560-08306-2
ぼくたちの倫理学教室』E・トゥーゲントハット/A・M・ビクーニャ/C・ロペス著、鈴木崇夫訳、平凡社新書、2016年1月、本体800円、新書判272頁、ISBN978-4-582-85801-3
シャルリとは誰か?――人種差別と没落する西欧』エマニュエル・トッド著、堀茂樹訳、文春新書、2016年1月、本体920円、新書判320頁、ISBN978-4-16-661054-9
三十歳』インゲボルク・バッハマン著、松永美穂訳、岩波書店、2016年1月、本体860円、文庫判320頁、ISBN978-4-00-324721-1

★『キケロ『ホルテンシウス』』は、キケロが晩年に「哲学へのすすめ=プロトレプティコス」のために書き、6世紀には失われたという著作『ホルテンシウス』の残存断片をもとにその全体を廣川先生が再構成した研究書です。セネカ、タキトゥス、ラクタンティウス、アウグスティヌスなどに影響を与えたという幻の名著に迫る本書は「キケロと『ホルテンシウス』」「『ホルテンシウス』断片訳」「『ホルテンシウス』構成案」の三部構成。断片訳の底本はミュラー版キケロ全集第4巻第3分冊(1890年)とのことです。103個ある断片のうち、もっとも多いのは、後4世紀の辞典編集者ノニウス・マルケルスによる『学識要覧(De compendiosa doctrina)』における引用で、65個に上ります。言うまでもなく廣川先生には『ソクラテス以前の哲学者』(講談社、1987年;講談社学術文庫、1997年)や『アリストテレス「哲学のすすめ』」(講談社学術文庫、2011年)、ヘシオドス『神統記』(岩波文庫、1984年)をはじめとする数々の古典の翻訳研究があり、いずれもロングセラーとなっています。

★『道化と笏杖』は高山宏セレクション〈異貌の人文学〉の第2シリーズの第1回配本です。原書は1969年刊、親本は晶文社より1983年に刊行されています。新版で新たに追加されたのは山口昌男さんによる「道化と幻想絵画――イコンの遊戯」(瀧口修造『幻想画家論』改訂版のために書かれたが収録されなかった論考)および「ウィリアム・ウィルフォード『道化と笏杖』書評」(『海』1983年6月号)の二篇と、高山さんによる新版へのあとがき「あらためてマサオ・ヤマグチ!」です。この末尾にはこうあります、「この『道化と笏杖』にしても同氏〔藤原義也さん〕の、細部にいたるチェックや提案なしに原書の輝きをとり戻すことはできなかったように思う」と。〈異貌の人文学〉第2シリーズの続刊予定には、ロザリー・L・コリー『シェイクスピアの生ける芸術』、エルネスト・グラッシ『形象の力』、アンガス・フレッチャー『アレゴリー』、ウィリアム・マガイアー『ボーリンゲン』が挙がっています。

★トゥーゲントハットほか『ぼくたちの倫理学教室』と、トッド『シャルリとは誰か?』は今月の新書新刊です。前者の原書はWie sollen wir handeln? (Reclam, 2000)、後者のはQui est Charlie? (Seuil, 2015)です。前者はトーゲントハットの既訳書『論理哲学入門』(ウルズラ・ヴォルフとの共著、晢書房、1993年)の印象からは良い意味でかけ離れたたいへん親しみやすい道徳入門です。少年少女たちが日常生活で出会ったニュースや事件をめぐってクラスメートたち会話を交わすという体裁を取り、容易に解きえぬ難問(殺人や窃盗など)へと読者を誘ってくれます。共著者のビクーニャとロペスは当時チリで中高生の倫理教育に携わっていたそうです。確かに中高生でも充分に読みやすい本です。

★『シャルリとは誰か?』は帯文に曰く「イスラム恐怖症が「自由」「平等」「友愛」を破壊する――仏独英で緊急出版!〈附〉パリISテロへの特別寄稿」と。カバーソデの内容紹介文は実に端的です。「2015年1月にの『シャルリ・エブド』襲撃事件を受けてフランス各地で行なわれた「私はシャルリ」デモ。「表現の自由」を掲げたこのデモは、実は自己欺瞞的で無自覚に排外主義的であった。宗教の衰退と格差拡大によって高まる排外主義がヨーロッパを内側から破壊しつつあることに警鐘を鳴らす」と。あのデモに違和感を覚えざるをえなかった読者にとって注目すべき分析が展開されています。巻頭の「日本の読者へ」においてトッドは「本書はたしかにフランスについての本ですが、私の確信するところでは、先進国のあらゆる読者に語りかけ、話を通じさせることができるはずの本です」(6頁)と書いています。この巻頭言は書名のリンク先で全文を読むことができます。

★オーストリアの作家バッハマン(Ingeborg Bachmann,1926-1973)の短篇集『三十歳』は、Das dreißigste Jahr (Piper, 1961)の翻訳で、底本は78年に同社から出た全集第三版とのことです。旧訳には白水社の「新しい世界の文学」シリーズで1965年に出版された生野幸吉訳『三十歳』があります。今回の新訳は約半世紀ぶりということになります。収録作は「オーストリアの町での子供時代」「三十歳」「すべて」「人殺しと狂人たちのなかで」「ゴモラへの一歩」「一人のヴィルダームート」「ウンディーネが行く」の7篇。「新しい言葉がなければ、新しい世界もない」という「三十歳」の主人公の日記の言葉(85頁)は、バッハマン自身の言葉でもあっただろうかと想像します。「人間らしさとは、距離を保つことができるということなのだ。/ぼくから距離をとってくれ、そうでなければぼくは死ぬ。それとも殺す、それとも自分を殺す。距離なんだ、頼むよ!/ぼくは怒っている、始めから終わりもない怒りだ」(「三十歳」42頁)。

★さらに最近では以下の新刊との出会いがありました。

曝された生――チェルノブイリ後の生物学的市民』アドリアナ・ペトリーナ著、粥川準二監修、森本麻衣子・若松文貴訳、人文書院、2016年1月、本体5,000円、A5判上製380頁、ISBN978-4-409-53050-4
なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる』ジョナサン・シルバータウン著、寺町朋子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2016年1月、本体2,100円、46判上製264頁、ISBN978-4-7726-9549-7

★ペトリーナ『曝された生』は、Life Exposed: Biological Citizens after Chernobyl (Princeton University Press, 2002)の翻訳です。底本は、福島での原発事故についての言及がある新たな序文を加えた2013年版です。著者はペンシルベニア大学人類学教授。本書は著者のデビュー作で、医療人類学の分野において高い評価を得ています。リスク社会論で高名なウルリヒ・ベックは本書を「比類なきもの」として絶賛しています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末解説「チェルノブイリとフクシマの生物学的市民権」をお書きになっておられる監修者の粥川さんは本書を「今後も起きるであろう大災害やバイオ医療技術の展開を見据え、広く深くそれらを考えるために、間違いなく必読書である」と評価されています。ここ最近盛り上がっている人類学でまた注目の新刊が出たかたちです。

★シルバータウン『なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる』は、The Long and the Short of It: the Science of Life Span and aging (University of Chicago Press, 2013)の翻訳です。著者は原著刊行時はイギリスの国立通信教育大学「オープン・ユニヴァーシティ」の生態学教授でしたが、2014年10月からはエディンバラ大学の進化生物学研究所に移っています。著者にとって本邦初訳となる本書は、老化と寿命という人間にとって避けがたい仕組みとそれらが意味するものについて、進化生態学(Evolutionary Ecology)の見地から興味深く解説してくれます。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ヒトが進化の過程で不老不死を手に入れられなかった理由についても説明がありますが(223頁)、科学の素人でもなるほど、と納得できるものではないかと感じました。

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by urag | 2016-01-23 22:28 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 01月 21日

本日取次搬入:メイヤスー『有限性の後で』人文書院

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有限性の後で――偶然性の必然性についての試論
カンタン・メイヤスー著 千葉雅也・大橋完太郎・星野太訳
人文書院 2016年1月 本体2,200円 4-6判上製236頁 ISBN978-4-409-03090-5

帯文より:人文学を揺るがす思弁的実在論、その最重要作、待望の邦訳。この世界は、まったくの偶然で、別様の世界に変化しうる。

★本日取次搬入です。原書は、Après la finitude: Essai sur la nécessité de la contingence (Seuil, 2006)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。訳者解説をお書きになっているのは千葉雅也さんです。人文書院さんのサイトでは第一章冒頭がPDFで公開されています。フランスの哲学者カンタン・メイヤスー(Quentin Meillassoux, 1967-)の単独著が訳されるのは今回が初めてです。思弁的実在論(Speculative realism; メイヤスー自身の言葉では思弁的唯物論)についてはwikipediaに情報がまとまっていますので、他にどういったキーパーソンがいるのかについてチェックしやすくなっています。月刊誌『現代思想』にこのところ継続的に関連論考が訳されているのは周知の通りです。また、思弁的実在論への批判を展開している新実在論(ガブリエル・マルクスなど)の訳書も刊行されていますので、このあたりは哲学・思想棚でまとめていただくと効果的かもしれません。
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by urag | 2016-01-21 11:54 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 01月 16日

ジャガーバックス復刊第2弾:『宇宙戦争大図鑑 復刻版』

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宇宙戦争大図鑑 復刻版』小隅黎監修、復刊ドットコム、2016年1月、本体3,900円、B6判上製150頁、ISBN978-4-8354-5294-4
宇宙怪物(ベム)図鑑 復刻版』小隅黎監修、復刊ドットコム、2015年8月、本体3,700円、B6判上製150 頁、ISBN978-4-8354-5233-3

★『宇宙戦争大図鑑 復刻版』は『宇宙怪物(ベム)図鑑 復刻版』に続く「ジャガーバックス」シリーズ復刊第2弾。親本は立風書房より1979年刊。いかんせん古書価が高いこのシリーズは子供向けだっただけに、愛読していた読者も大人になる前に廃棄してしまうことが多かっただろうことが推測され、また扱っている古書店の少なさもあって、再収集のしんどいシリーズではありました。復刻版の値段は2点とも4000円近くやや高額ですが、大人があの頃を思い出して買うには我慢できる価格でしょうか。

★復刊ドットコムの「最近の復刊活動」2015年8月26日付投稿によれば、同シリーズの『日本妖怪図鑑』と『世界妖怪図鑑』が《調査開始》となったようで、「本書に関する調査を開始しております。本書に関する情報(編者、執筆者、イラストレーターの連絡先など)をご存知の方は、ぜひお寄せください」と告知されています。この2点は同シリーズでももっともポピュラーな書目で古書価が1万円以下になることが少ないだけに、ぜひ復刊してもらえたらと願うばかりです。

★ちなみに個人的なことを言うと、私自身はジャガーバックスよりも学研の「ジュニアチャンピオンコース」に熱中していました。こちらも書目によっては古書価が高く、たとえばその一つ『なぞ怪奇 超科学ミステリー』は値段がなかなか下がりません。復刊ドットコムでは当然このシリーズにも票が集まっています。「ジャガーバックス」シリーズの復刊には学研プラスが協力していますが(立風書房は2004年に解散し、学研に吸収されています)、学研さんにはぜひ「ジュニアチャンピオンコース」の復刊にも力を入れていただきたいです。

★なお、復刊ドットコムでは現在「書物復権2016」を展開中。案内文によれば「専門書出版社10社で実施する共同復刊企画≪書物復権≫。各社選りすぐりの全148タイトルが、復刊候補としてエントリーされています。2月29日(月)までの応募受付期間中に寄せられたリクエストを参考に、4月中旬には復刊作品が決まります。復刊書籍は、5月下旬より復刊ドットコムで販売の予定です」と。さらに「また今回も、通常では復刊が難しい少数の要望にも応えるべく、個別の注文に対応するオン・デマンド版での復刊も実施いたします」とも。率直に言うと、復刊候補一覧は紀伊國屋書店の方が見やすいです。紀伊國屋書店の一覧では同一ページ内に詳しい書誌情報と内容紹介がある一方、復刊ドットコムの一覧は15頁に分載され、書名と版元名しかないのがほとんどで、個別商品ページに飛ばないと書誌情報詳細が見れないのが難点です。現時点では著者名に誤記が多いですが(タグないしインデクスがそのまま著者名に転用されてしまった感じ)、これはきっと改善して下さることでしょう。

★最近では上記新刊のほかに、下記の古典ものが目を惹きました。

アリストテレス全集(9)動物誌(下)』金子善彦ほか訳、岩波書店、2015年12月、本体5,600円、A5判上製函入299/96頁、ISBN978-4-00-092779-6
ニコマコス倫理学(下)』アリストテレス著、渡辺邦夫・立花幸司訳、光文社古典新訳文庫、2016年1月、本体1,280円、文庫判556頁、ISBN978-4-334-75324-5
笑い/不気味なもの――付:ジリボン「不気味な笑い」』アンリ・ベルクソン/ジークムント・フロイト著、原章二訳、平凡社ライブラリー、2016年1月、本体1,500円、B6変判並製400頁、ISBN978-4-582-76836-7
美学』アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン著、松尾大訳、講談社学術文庫、2016年1月、本体1,900円、文庫判864頁、ISBN978-4-06-292339-2

★『アリストテレス全集(9)動物誌(下)』は発売済。第12回配本です。版元紹介文に曰く「2002年に刊行された新校訂本による翻訳。下巻は、第7~8巻(動物の生き方と活動)、第9巻(ヒトの生殖・出産)、第10巻(ヒトの不妊)を収める」と。「月報12」は、鷲谷いづみ「研究誌としての『動物誌』とミツバチ」、高橋睦郎「アリストテレスまで」を掲載。次回配本は2月26日発売予定、第16巻「大道徳学/エウデモス倫理学」とのことです。

★古典新訳文庫の『ニコマコス倫理学(下)』も発売済。下巻では第6巻「知的な徳〔アレテー〕」から第10巻「幸福論の結論」までを収録。巻頭と巻末には訳者によるまえがきとあとがきを置き、解説は共訳者の渡辺邦夫さんが書かれています。カバー表4の紹介文に曰く「下巻では、行為と思慮深さの関係、意志の弱さにかんする哲学的難問、人生における愛と友人の意義、そして快楽の幸福への貢献について考察する。人間の感情と知性のはたらきを深く考え、完全な幸福とは何かを追究した、倫理学史上もっとも重要で、現代的な意味をもつ古典」と。

★『笑い/不気味なもの』は発売済。ベルクソンとフロイトの名著の初めてのカップリングです。比較的に入手が容易な文庫版ではベルクソンの論考は林達夫訳のロングセラー『笑い』を岩波文庫(1938年;改版1976年)で読むことができ、フロイトの論考は『ドストエフスキーと父親殺し/不気味なもの』(中山元訳、光文社古典新訳文庫、2011年)や『砂男/無気味なもの』(ホフマン/フロイト著、種村季弘訳、河出文庫、1995年)でも読めます。『笑い』の近年の新訳には、竹内信夫さんによる個人新訳全集版『新訳ベルクソン全集(3)』(白水社、2011年)所収の「笑い――喜劇的なものが指し示すものについての試論」があるものの、今回のようにハンディな廉価本で新訳が出るのは実に40年ぶりのことです。本書に併載されたジャン=リュック・ジリボン(1951-)の著書『不気味な笑い』は2010に平凡社より刊行された親本に手直ししたもの。このジリボンの訳書こそが、今回のベルクソンとフロイトの新訳カップリング本を生むきっかけとなっています。親本巻末にあった訳者解説「あそび・言語・生」は若干の修正されたうえ、新訳本の訳者あとがきの中に組み込まれています。

★バウムガルテン『美学』は1987年に玉川大学出版部から刊行された単行本の文庫化。原書はラテン語の著書でAesthetica(第1巻1750年、第2巻1758年)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文に曰く「「美学(aesthetica)」という概念を創始し、後世に決定的な影響を与えた画期の書」。カバー表4の紹介文にはこうあります、「厳密な定義に基づくバウムガルテン(1714-1762)の考察があったからこそ、カントやヘーゲルは「美学」という学問を確立することができた」と。学術文庫版訳者あとがきによれば「翻訳の改訂にあたっては、30年近くの訳者の研究の進展によって得られた洞察があるので、それに基づいて「解説」を大幅に書き直し、訳文にも細かく手を入れた。〔・・・〕あらたにいくつかの註を追加し〔・・・〕「人名・作品名索引」を加え、読者の便宜を図った」とのことです。
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by urag | 2016-01-16 18:26 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 01月 13日

備忘録(16)

◆2016年1月13日11時現在。
書籍新刊の大阪屋への搬入口が、2月より、OKC戸田センターから王子日販に変更になるとの通知が先週金曜日から出版社に届き始めています。太洋社に続き、大阪屋への(したがって栗田も)新刊配本分の納品が王子に集約されることになります。大竹社長による「第三極」宣言の一方で、大胆な合理化が進むかたちです。これで実際は二極化がますます進むだろうと見る出版人は多いです。

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◆2016年1月13日正午現在。
大阪屋と同様の趣旨の文書が栗田からも届きました。「この度、〔大阪屋文書のみ「流通改革における」と挿入〕「物流業務」の整備と効率化に向け、〔大阪屋文書のみ「昨年の返品協業化に続き」と挿入〕書籍新刊及び常備品・セット商品の発送業務を出版協働流通株式会社に委託〔大阪屋文書では「と協業」〕することになりました。そのため、搬入口がOKC戸田センターから下記〔王子日販のこと〕に変更になります〔大阪屋文書では「移転することになりました」〕のでご案内いたします」と。

さらに、2016年2月1日以降に日本出版販売王子流通センターへ搬入する書籍の新刊・重版商品について、「日本出版販売・大阪屋・栗田出版販売〔大阪屋文書では「大阪屋・日本出版販売・栗田出版販売」の順番〕の3社分をまとめたうえ、納品をお願いいたします。なお、納品書は日本出版販売・大阪屋・栗田出版販売〔大阪屋文書では「大阪屋・日本出版販売・栗田出版販売」の順番〕の3社を別々で発行いただき、搬入時にご持参ください」と。また、「なお、雑誌新刊の協業については2016年初夏に予定しております」とも。

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by urag | 2016-01-13 11:34 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2016年 01月 11日

注目新刊:注目の人類学書『森は考える』、ほか

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森は考える――人間的なるものを超えた人類学』エドゥアルド・コーン著、奥野克巳・近藤宏監訳、近藤祉秋・ニ文字屋脩訳、亜紀書房、2016年1月、本体2,700円、四六判上製480頁、ISBN978-4-7505-1462-8
変形する身体』アルフォンソ・リンギス著、小林徹訳、水声社、2015年12月、本体2,800円、四六判上製287頁、ISBN978-4-8010-0137-4

★「新実在論(ガブリエルなど)vs思弁的実在論(メイヤスーなど)」の流行と並んで昨今の人文書(特に現代思想)売場活性化の起爆剤となりつつあるのが、「人類学」の新潮流です。先月末、そして今月とまた注目新刊が発刊されました。コーン『森は考える』と、リンギス『変形する身体』です。前者は、How Forests Think: Toward an Anthropology Beyond the Human (University of California Press, 2013)の翻訳。 エドゥアルド・コーン(Eduardo Kohn, 1968-)はカナダのマギル大学人類学部准教授。本書にまとめられた研究成果によって2014年にグレゴリー・ベイトソン賞を受賞しています。監訳者による巻末解説によれば、本書はコーンが「南米エクアドル東部地域、アマゾン河上流域の森に住むルナのもとでの調査(主な調査は、1996~2000年の4年間)を、長年にわたり捉えなおし続けてきた成果として書かれた民族誌」です。目次を列記すると、序「ルナ・プーマ」、第一章「開かれた全体」、第二章「生ある思考」、第三章「魂=盲」、第四章「種=横断的ピジン」、第五章「形式の労なき効力」、第六章「生ある未来(と軽くなった死者のはかり知れない重さ)」、エピローグ「超える」で、巻末には日本語版特別付録として「動物図鑑」が付されています。

★コーンはこう書きます。「あれこれの未来を可能にする多数の死との関係において、生ある未来を思考すること。このことを、この人間的なるものを超えた人類学が習得できるようになる唯一の道は、この思考する森に息づく多くの実在する他者――動物、死者、精霊――と注意深く関わりあうことなのである」(378頁)。帯文に中沢新一さんが寄せられた推薦文は次の通り。「自分の属する民族や共同体の外から人間を理解しようとしてきた人類学は、いまや人間性の外から人間について思考する学問へと、大きな転回をとげようとしている。森は考える。植物が考え、動物が考えている。それらの異なる思考に包まれながら、人間も自分のやり方で考えている。人類学と哲学はいま限りなく近い場所に立っている」。現代の日本社会で様々な議論を呼んでいるテーマ――環境保護、動物の権利、死者への哀悼、スピリチュアリズム――のほとんどすべてが人類学と交差しうるのは、人類学がまさに人間の関わる領域すべてと関係を持っているからでしょう。ジャンルを横断する鍵としての人類学からますます目が離せません。

★リンギス『変形する身体』は、Body Transformations: Evolutions and Atavisms in Culture (Routledge, 2005)の翻訳。叢書「人類学の転回」第2回配本です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。アルフォンソ・リンギス(Alphonso Lingis, 1933-)の既訳書には周知の通り、『汝の敵を愛せ』(洛北出版、2004年)、『異邦の身体』(河出書房新社、2005年)、『何も共有していない者たちの共同体』(洛北出版、2006年)、『信頼』(青土社、2006年)などがあり、これまでは著者の経歴通りに哲学に分類されていました。しかしリンギスは実際のところ、同叢書にエントリーされるのがしっくりくるほど、境界的な思想家ではありました。本書の訳者あとがき「メキシコのヴァルハラで」でもこう評されています。「私たちは、リンギスが描き出す多様な場面に圧倒され、眩暈を覚え、笑い、そして再び思考する――概念としての「人間」を超えて、新しい「人類学」、新しい「人間学」に向かって」(285頁)。

★リンギスは本書の冒頭でこう書いています。「本書で私たちが研究するのは、現代社会において、ときに噴出する古代的な欲求や振る舞いと、それが獲得している諸形式である。規則と義務によって確立された社会――経済的・倫理的社会――において、なおもポトラッチ的な行動や、好運、宿命、幸運といった前倫理的な領域への回帰が見出される。〔後略〕」(11頁)。「私たちは、他者が生まれつつあるのを経験するだけでなく、すでに長いこと存在していた他者が、今は私たちの人生のうちに生まれつつあるのを経験する」(12頁)。帯文にあるようにリンギスは「旅する哲学者」として知られているだけに、その他者論には旅程で得たフィールドワーク的経験が反映されています。人類学と哲学の近さを知る上でリンギスの著書ほど好適なものはないかもしれません。「人類学の転回」の次回配本はマイケル・タウシグ『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』となるようです。

★なお、青土社さんの『現代思想』では2月下旬発売の3月増刊号で「人類学の未来」という総特集を組むそうです。この機会に合わせて人類学フェアを開催するのもいいかもしれませんね。開催される書店さんがいらっしゃいましたらぜひ、フェアの概要(開催期間や場所)と店頭の写真を弊社メール宛にお送り下さい。当ブログで宣伝いたします。

★このほか、最近では以下の新刊・近刊との出会いがありました。

メッカ巡礼記――旅の出会いに関する情報の備忘録(1)』イブン・ジュバイル著、家島彦一訳註、東洋文庫、2016年1月、本体3,100円、B6変判上製函入380頁、ISBN978-4-582-80868-1
燃えるキリン――黒田喜夫詩文撰』黒田喜夫著、共和国、2016年1月、本体3,200円、菊変型判並製404頁、ISBN978-4-907986-25-4
暴力の哲学』酒井隆史著、河出文庫、2016年1月、本体960円、文庫判272頁、ISBN978-4-309-41431-7
文藝 2016年春季号』河出書房新社、2016年1月、本体1,300円、A5判並製516頁、ISBN978-4-309-97878-9
唯物論』オリヴィエ・ブロック著、谷川多佳子・津崎良典訳、文庫クセジュ、2015年12月、本体1,200円、新書判222頁、ISBN978-4-560-51003-2

★イブン・ジュバイル『メッカ巡礼記(1)』は18日発売予定。全3巻予定の第1巻で、「579年、第二ジュマーダー月までを収録。帯文に曰く「イブン・バットゥータ『大旅行記』に多大な影響を与えた旅の記録。十字軍時代の社会を克明に活写。第1巻はグラナダを出発し、地中海を経て、エジプトを南下、メッカに至る」。訳者の家島先生は同じく東洋文庫でイブン・バットゥータ『大旅行記』(全8巻、1996-2002年)などを上梓されておられます。なお『巡礼記』の既訳には、藤本勝次・池田修監訳『イブン・ジュバイルの旅行記』(関西大学出版部、1992年;改訂版、講談社学術文庫、2009年)があります。東洋文庫の次回配本は3月、『メッカ巡礼記(2)』の予定とのことです。

★黒田喜夫『燃えるキリン』は15日発売予定(昨年末から一部書店にて先行発売中)。共和国さんによる「黒田喜夫生誕90周年プロジェクト《一人の彼方へ》」として今春より刊行開始される『不安と遊撃 黒田喜夫全集』全4巻に先立つ特別編集版の詩文集です。独自編集によるベスト版で、単行本未収録作品を多くふくむ「詩撰」「散文撰」の二部構成になっています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。鵜飼哲さんによる解説「黒田喜夫の動物誌――「辺境のエロス」をめぐって」を併載するほか、編集担当であり発行者である下平尾直さんによる「編集後記」が巻末におかれています。カバーを飾る田中千智さんの絵画作品「この世の終わりに何が残るのか」が非常に印象的です。初版分のみ、投げ込み詩集『除名』(16頁)付。版元さんのプレスリリースの文言を借りると、黒田喜夫(くろだ・きお:1926-1984)は「谷川雁、森崎和江、石牟礼道子、吉本隆明らとともに1960年代の現代詩/思想をリードしながら、このかんまったく忘れられてきた詩人」であり、本書は「没後30年で初の作品集」とのこと。編集者の強い意気込みと情熱を感じさせる入魂の一冊です。

★酒井隆史『暴力の哲学』は発売済。親本は同版元のシリーズ「道徳の系譜」で2004年に刊行されたもので、文庫化にあたり大幅改訂の上、増補したと特記されています。新たに補論「ヘンリー・デイヴィッド・ソローと「市民的不服従」について」(初出:『STUDIO VOICE』2005年2月号)のほか、「二〇一六年版あとがき」、さらにマニュエル・ヤンさんによる解説が加えられています。新しいあとがきにはこうあります、「再刊にあたって見直したが、大筋において変更を加えるべき点はみあたらなかった。〔・・・〕ただし、説明不足であったり転回不足であったりするように感じられるところには、かなり手を入れている。とくに、「反暴力」については、本書公刊後、よく質問をいただいた箇所でもあり、みずからも堂々めぐりにおちいっていた感もあったため、大幅に加筆している」とのことです。

★先週発売されたばかりの『文藝 2016年春季号』には、佐々木中さんの長篇論考「戦争と一人の作家――坂口安吾論」が掲載されています(222-261頁)。「ファルスの定義」「初期ファルスの実際とその蹉跌」「「吹雪物語」へ」「「吹雪物語」の挫折」「「文学のふるさと」と芋虫の孤独」「「イノチガケ」――合理主義と死」「「紫大納言」から「桜の森の満開の下」へ、そしてその彼方へ――消滅のカタルシス」「安吾の文体論――「文章のカラダマ」の「必要」」の全8節ですが、後記によれば「本稿は執筆の途上にあって今年河出書房新社から単行本として出版される『戦争と一人の作家――坂口安吾論』の前半にあたる」とのことです。「特攻隊賛美」へと至る安吾の言説に鋭く切り込んだ論考です。

★なお、同号には、ヴィヴェイロス・デ・カストロの新刊2点『食人の形而上学』と『インディオの気まぐれな魂』に加えてラプジャード『ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動』を取り上げた村澤真保呂さんによる書評「「常軌」を逸脱する思考のために」が収録されています(510-511頁)。「ドゥルーズの没後二十年にあたる今日、新自由主義政策により世界中で人文学が政治的に解体されている背後で、ここに挙げた三つの著作に示されるように、ドゥルーズらの蒔いた種がようやく新たな人文学の芽となって姿を現してきたことを素直に喜びたい」と村澤さんは結んでおられます。

★オリヴィエ・ブロック『唯物論』は文庫クセジュの12月新刊。原書 Le matérialisme は1985年に初版、1995年に第2版が刊行されています。カバー表4の紹介文から引いておくと、「三部構成の本書は、第一部で唯物論という概念を論じ、そのためにどのような方法をとるべきかという問題を考察。第二部では古代ギリシアから十九世紀までの唯物論をめぐる学説史を記述。第三部はに十世紀における唯物論をめぐる諸問題についてである」と。オリヴィエ・ブロック(Olivier Bloch, 1930-)はパリ第一大学名誉教授。ご専門は近世哲学です。エコール・ノルマル時代にはアルチュセールの薫陶を受けたそうで、親しい同級生には『自死の日本史』(講談社学術文庫)で著名なモーリス・パンゲがいるとのことです。
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by urag | 2016-01-11 17:47 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2016年 01月 08日

2月新刊:申鉉準ほか『韓国ポップのアルケオロジー』

2016年2月5日取次搬入予定
*音楽/カルチュラル・スタディーズ/社会

韓国ポップのアルケオロジー
1960-70年代
申鉉準(シン・ヒョンジュン)ほか著 平田由紀江 訳
月曜社 2016年2月 本体5,500円 46判(タテ190ミリ×ヨコ130ミリ)上製760頁 ISBN:978-4-86503-029-7

アマゾン・ジャパンで予約受付中

内容:「韓国+ポップ」の葛藤と内面化――韓国ポピュラー・ミュージックの西洋化とその内面化の過程を、そこに立ち合った音楽家たちとの対話を重ね、詳細に描きだす。アメリカ、イギリス、日本からの大衆音楽の受容と文化政治的影響をアジア的視座で論じるための出発点となる画期的研究。第一部「1960年代 韓国ポップの誕生と革命」、第二部「1970年代 韓国フォークとロック、その絶頂と分化」。

申鉉準(Shin Hyunjoon):1962年ソウル生まれ。ソウル大経済学科で韓国の音楽産業についての研究で博士学位を取得。2003年より聖公会大学校で講義と研究を行っている。学術活動のほか、大衆音楽/大衆文化分野のジャーナリストとしても長らく活動してきた。2000年代半ばに国際交流活動に尽力し、国際ジャーナルであるInter-Asia Cultural Studiesの編集委員、Popular Musicの国際顧問委員を歴任しており、このふたつのジャーナルで、アジアの大衆音楽の特集号の編集者としての役割も果たしてきた。現在、韓国の1980-1990年代大衆文化の地理歴史学(geohistory)についての本を執筆中。

平田由紀江(ひらた・ゆきえ):1973年生まれ。獨協大学国際教養学部准教授。文化研究・社会学専攻。共編著に『韓国家族-グローバル化と「伝統文化」のせめぎあいの中で』(亜紀書房、2014年)、共著書に『アジアのメディア文化と社会変容』(ナカニシヤ出版、2008年)、『ポスト韓流のメディア社会学』(ミネルヴァ書房、2007年)などがある。

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目次:
日本語版の読者へ
第一部 韓国ポップの誕生と革命
 一九六三年まで
  第一章 米八軍舞台と「洋楽」の流入
  第二章 一般舞台と歌謡の西洋化
  第三章 ツウィストの時代とコンボ・バンド
 一九六四年-一九六七年
  第四章 ヴォーカル・グループとヴォーカル・コンボ
  第五章「四人の男たち」の時代と生音楽サロン
  第六章 ポップ革命のきざし
 一九六八年-一九七〇年
  第七章 ソウル歌謡、そして一九六〇年代末のポップ革命
  第八章 グループ・サウンズのサイケデリック狂乱
  第九章 明洞サロン街の全盛時代
  第一〇章 フォーク・ソング、イージー・リスニングからシンガー・ソングライターまで
第二部 韓国フォークとロック、その絶頂と分化
 一九七一年-一九七三年
  第一一章 フォーク、自作自演の自意識と社会批判のメッセージ
  第一二章 ソウル・サイケがフォークと融合し韓国的ポップに
  第一三章 ゴーゴー・クラブ、ある夜の革命あるいは一夜の夢
 一九七三年-一九七五年
  第一四章 フォーク・ソングとグループ・サウンズが出会い、そして別れる
  第一五章 フォーク・ロックの絶頂、オリエント・サウンド
  第一六章 大麻騒動と土着化したポップのゆくえ
 一九七六年-一九七八年
  第一七章 大麻騒動以降の「トロット・ゴーゴー」
  第一八章 第一回大学歌謡祭とサヌリム
  第一九章 ソウルからファンク、ファンクからディスコ、そしてサラングァ・ピョンファ
  第二〇章 キャンパス・グループ・サウンズの集団の声 
 一九七八年-一九八〇年
  第二一章 最後の明洞派、そして新村派
  第二二章 アンダーグラウンド、「別々にまた共に」暗中模索、あるいは離合集散する
原註
解説にかえて 対談=申鉉準/毛利嘉孝
訳者あとがき
レコード一覧参考文献
索引

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by urag | 2016-01-08 11:51 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)