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2015年 11月 30日

本日取次搬入済:シュティーグラー『写真の映像』

ベルント・シュティーグラー『写真の映像――写真をめぐる隠喩のアルバム』を本日取次搬入いたしました。書店さんの店頭に並ぶのは速いお店で明日以降になるかと思われます。芸術論叢書、第三回配本です。

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写真の映像――写真をめぐる隠喩のアルバム
ベルント・シュティーグラー=著
竹峰義和+柳橋大輔=訳
月曜社 2015年12月 本体3,400円 46判上製288頁 ISBN978-4-86503-030-3

内容:世界言語としての写真という記号をめぐる事典――黎明期からデジタルメディア時代まで、アルファベット順に55項目のキーワードで写真作品(ニエプス~アーバス)を読み解く。数々の写真論(ベンヤミン~クレーリー)の引証を交えつつ、〈映像=表象〉をめぐる隠喩の星座がもつ写真史的布置を浮かび上がらせる、光と影のアルバム。【芸術論叢書】第3回配本。

目次:
日本語版序文
まえがき
A【等価/写真の文盲/アーカイヴ/復活/眼/瞬間/消去】
B【獲物/図書館/邪視/視線の罠/盲目】
D【ドキュメント/ドッペルゲンガー】
E【自動記述/エイドラ/防腐処置】
F【化石/写真眼/記憶】
G【歴史記述者/女神】
H【真性幻覚/皮膚、皮剥ぎ】
K【黒魔術】
L【光-文字/嘘】
M【死への警告/殺人/黎明】
O【客観的な対物レンズ/啓示/オプトグラム】
P【挿入装置/幻影/プラトンの洞窟/標本】
R【人工網膜】
S【影絵/天地創造/文字/銀鏡/シミュラークル/言語/痕跡/星の光】
T【犯行現場/死】
V【真なるイコン/眼の延長/賦活/窃視症】
W【武器】
Z【魔法のランプ/証人】
謝辞
訳者あとがき
人名索引

原書:Bilder der Photographie: Ein Album photographischer Metaphern, Suhrkamp Verlag, 2006.

著者:ベルント・シュティーグラー(Bernd Stiegler)1964年生。ドイツ文学者、メディア学者、写真理論家、写真史家。ドイツの名門出版社ズーアカンプの学術編集主任を経て、現在はコンスタンツ大学ドイツ文学科教授。『批判版ベンヤミン全集』の編集委員も務める。

訳者:竹峰義和(たけみね・よしかず)1974年生。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ドイツ思想史・映像文化論。著書に『アドルノ、複製技術へのまなざし―〈知覚〉のアクチュアリティ』(青弓社、2007年)がある。
訳者:柳橋大輔(やなぎばし・だいすけ)1975年生。早稲田大学文学学術院ほか非常勤講師。近現代ドイツ文学・映像文化論。
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by urag | 2015-11-30 14:18 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2015年 11月 28日

注目新刊:「Nyx叢書」創刊、ほか

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神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性
マルクス・ガブリエル+スラヴォイ・ジジェク著
大河内泰樹・斎藤幸平監訳 飯泉佑介・池松辰男・岡崎佑香・岡崎龍訳
堀之内出版 2015年11月 本体3,500円 四六判上製360頁 ISBN978-4-906708-54-3

★発売済。書店さんの店頭にはもうそろそろ並び始めるころかと思われます。「ニュクス叢書」の第一弾で、1980年生まれの俊英ガブリエル(ボン大学教授)の初訳本です。原書は、Mythology, Madness and Laughter: Subjectivity in German Idealism (Bloomsbury Publishing, 2009)で、原書にはないガブリエルによる「日本語版まえがき」と、付録として同じくガブリエルによる主著『なぜ世界は存在しないのか Warum es die Welt night gibt』(Ullstein, 2013)の要約論文が掲載されています。

★本書はガブリエルとジジェクによる緒論「ポスト・カント的観念論への回帰を求めて」に始まり、ガブリエルによる「反省という神話的存在――ヘーゲル、シェリング、必然性の偶然性について」が続き、ジジェクによる二論考「二つの自由をめぐる規律訓練〔ディシプリン〕――ドイツ観念論における狂気と習慣」「フィヒテの哄笑」で構成されています。版元さんによる紹介文が熱いです。「今ドイツでもっとも注目を浴びる若き天才が、ジジェクとともにドイツ観念論(シェリング・ヘーゲル・フィヒテ)の古典再解釈を通じて、現代思想の新潮流に真っ向から取り組む批判の書」。

★ここで言う「現代思想の新潮流」というのは、まもなく主著『有限性の後に』が某社から訳される予定のクァンタン・メイヤスーに代表される「思弁的実在論」で、これに対するガブリエルの立場は「新実在論」と呼ばれているようです。詳しくは訳者解説や監訳者あとがきをご覧いただくのが良いかと思いますが、例えば「日本語版へのまえがき」でガブリエルは次のように述べています。

★「本書において、ジジェクと私は、思弁的実在論に対する反論として、形而上学への回帰の要点は主体とあらゆる理性的秩序の偶然性について単に沈黙することとみなされるべきではないということを展開しました。主体性の理論は無視したところで乗り越えることはできません。どのような観点から見ても主体が存在することなしに生じる宇宙の秩序を記述しようとしているという点で、メイヤスーは批判されるべきなのです。メイヤスーのやり方では、どのようにしてそのような〔主体なき宇宙の〕秩序からそもそも主体が登場することができるのかは理解可能にはなりません」(11頁)。

★なお、来月(2015年12月)9日にはジュンク堂書店池袋本店にて来日トークイベント「ドイツ観念論の現在」が予定されていますがすでに満員御礼とのことです。


記号と機械――反資本主義新論
マウリツィオ・ラッツァラート著、杉村昌昭+松田正貴訳
共和国 2015年12月 本体3,400円 菊変型判並製368頁 ISBN978-4-907986-14-8

★まもなく発売(12月12日頃)。『出来事のポリティクス』(洛北出版、2008年)、『〈借金人間〉製造工場』(作品社、2012年)に続く、ラッツァラートの訳書第三弾です。原書は、Signs and Machines: Capitalism and the Production of Subjectivity (Translated by Joshua David Jordan, Semiotext(e), 2014)です。訳者あとがきによれば、同書のテクストはもともとフランス語で書かれていますが未刊であり、まず松田さんが英語版から訳した上で杉村さんが著者から提供されたフランス語の原稿を参照しつつ綿密に手を入れた、とのことです。目次詳細は訳書名のリンク先をご参照ください。

★資本主義批判を展開する本書の戦略について日本語版序文で著者はこう述べています。「私はガタリの諸概念を現状に即して活用し、つきつめて考えながら、「実在的」次元の再導入だけでは不十分であることに気がついた。ガタリ自身が言明しているように、重要なことは、主観性の断絶、戦略的諸関係、戦争機械、この三つの次元のあいだの関係を考察することである」(9頁)。

★宗利淳一さんによる「共和国」本の装丁はいつもエッジがきいていて素晴らしいですが、今回もかなり攻めています。版元さん曰く「初版のみ社会を転覆させるための装幀」。どうなっているかというと、帯が地側ではなく天側についているのです。と言ってもズリ落ちたりはしません。黒いカバーの内側にもう一枚カバーが掛っていて、それを天側で黒カバーの外に折り返して出している部分が帯になっているのです。説明だけでは分かりにくいかもしれませんが、かなり凝っています。ぜひ店頭で現物をご確認ください。


スペキュラティヴ・デザイン:問題解決から、問題提起へ。――未来を思索するためにデザインができること
アンソニー・ダン+フィオナ・レイビー著 久保田晃弘監修 千葉敏生訳
BNN新社 2015年11月 本体3,000円 A5判並製280頁 ISBN978-4-8025-1002-8

★発売済。原書は、Speculative Everything: Design, Fiction, and Social Dreaming (The MIT Press, 2013)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者はイギリスの「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のデザイン・インタラクティブ学科で10年にわたって教鞭を執り、「スペキュラティヴ・デザイン」の提唱者として世界的に注目を集めて」(版元紹介文)おり、来日も果たしています。下段の動画は京都工芸繊維大学での一年前の講義です。



★巻頭の「はじめに」で著者はこう述べています。「本書の内容は、コンセプチュアル・デザインとは何か、という一般論から始まり、科学技術の進歩の影響について批評的に考察するツールとしてデザインを用いる方法、そしてスペキュラティヴ・デザインの表現形態へと話を進めていく。最後にスペキュラティヴ・エブリシング〈思索的なすべて〉という概念、そしてソーシャル・ドリーミング〈社会的夢想〉を促すデザインの役割について俯瞰的に考察する」(8頁)。

★また、第一章ではこうも述べています。「デザインを、物事の可能性を“思索”[speculate]するための手段として用いるのだ。これがスペキュラティヴ・デザインである。スペキュラティヴ・デザインは、想像力を駆使して、「厄介な問題」に対する新しい見方を切り開く。従来とは違うあり方について話し合ったり討論したりする場を生みだし、人々が自由自在に想像を巡らせられるよう刺激する。スペキュラティヴ・デザインは、人間と現実との関係を全体的に定義しなおすための仲介役となるのだ」(27頁)。

★誤解を恐れずに言えば、本書は書店や図書館の未来を考える上でも有効です。様々な情報の編集と集積を担うそれらの空間は、いずれ美術館や博物館、遊園地や公民館などと接続しうる創造的な挑戦を必要とすることでしょう。想像力を解放するためのレッスンを本書は教えてくれている気がします。


大変を生きる
小山鉄郎著
作品社 2015年11月 本体2,600円 46判上製432頁 ISBN978-4-86182-425-8

★発売済(11月27日取次搬入済)。著者の小山さんは共同通信の記者を長年お勤めで、数々の著書を上梓されています。本書は「日本で起きた古代・中世から現代までの自然災害(大変)が描かれている文学作品と、その災害の姿を追ったものだ。地震や噴火のことばかりでなく、洪水や台風のことを描いた作品」(あとがきより)も取り上げておられます。あとがきではさらに次のようにも特記されています。

★「自然災害をテーマにした本はたくさんある。情報として必要なものは、知識として頭の中に入ってきて、それは大切なことだが、ともすると、心の中に深く残らない場合も多いのではないかと思う。だが文学作品で自然災害が描かれた場面を読んでいくと、その文章の見事な描写力によって、災害のことが深く心に残る。もし読者が災害に遭遇した時に、印象深い文章の記憶が、その人の生死を分けるかもしれない。それだけの喚起力を文学作品は持っている。私がここに紹介した作品は、災害と日本文学についてのほんの一部にすぎないが、もっともっと多くの人たちによって「災害と文学」について、まとまったものが記されてもいいのではないかと思う」(423-424頁)。

★帯文はこうです。「日本人は災害をどう生きたか。宝永大地震・富士山大爆発、安政東南海地震、関東大震災、阪神大水害……。日本人は各時代時代の天災とどのように向き合い、どのように受け止め、どのように生きてきたか。「日本人と災害」を文学作品から読み解く初めての試み」。災害と文学、というテーマは書店さんでのブックフェアにもってこいのテーマで、本書は大いに参考になると思います。
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by urag | 2015-11-28 19:30 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 11月 25日

備忘録(11)

◆2015年11月25日午前10時現在。

出版協が11月20日付の二つの声明「栗田出版販売株式会社の民事再生計画案に反対を表明する」「アマゾンに対して、高率ポイント付与からの除外要請の受け入れを求める声明」を同会ブログにて公開開始されています。前者に曰く「今後、現・栗田出版販売帳合の書店が大阪屋帳合の書店として取引が始まれば、再生債権内に含まれているはずのものが大阪屋の返品となって出版社に戻されてくるだろうことは想像に難くない」。

現在栗田は入帳を拒否もしくは保留している版元に対して返品を止めており、現時点でどの本が何冊あるのかすら明確には版元に示されていません。倉庫では整理もされないまま返品が溢れかえっているのでしょうか。合併後は問答無用で一気に版元へ旧栗田分が大阪屋分として返品されてくる可能性があり、版元への栗田の没交渉ぶりはそれを狙っているのではないかとすら感じるほどです。弁済済みの1000社強の取引先を、まるで取引先には含まないかのように無視する態度は栗田の評判をいっそう下げるだけです。

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◆11月27日14時現在。
弁済済の版元に対し、栗田出版販売より文書が届き始めているようです。栗田の山本高秀代表取締役による「お取引先出版社各位 弊社再生計画案の概要につきまして」(11月24日付、3頁)、大阪屋の大竹深夫代表取締役による「〈栗田出版販売株式会社〉お取引先出版社各位 栗田出版販売株式会社との「統合」に関しまして」(11月24日付、3頁)、そして栗田名義の「再生計画案における弁済要旨」(5頁)の合計3通です。

山本社長の挨拶文の特徴は、今までの文書に比して「日販との協力・連携」が連呼されていることです。いっぽう、大竹社長の挨拶文は「第三極の早期実現」が繰り返されています。赤残問題については直接的な言及はなし。山本社長の言う「大阪屋子会社(新栗田)への包括承継」は民事再生申立日以降の買掛債務に関するもので、旧栗田の赤残をどう考えるかは明示されていません。まずは12月24日の債権者集会での投票結果が1月下旬に出ますから(ほぼ結果は見えているようですが)、そこから交渉が加速するものと思われます。

それにしてもここまで日販の名前が連呼されると、必然的に出版社は日販からの「初」声明が出ることを期待せざるをえなくなります。「新文化」11月26日付記事「日販、中間決算は減収減益」や、日販とCCCの合弁会社MDPに関する同日付記事「MPD、2015年上半期決算は減収減益」などの記事が出ている中、確かに出版人としては日販がどのような未来を思い描いているのかを知りたいわけです。マスコミやジャーナリストの眼が日販にいっそう注がれていくことは不可避であるのかもしれません。

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by urag | 2015-11-25 10:40 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2015年 11月 25日

既刊データ保存:2014年5月~12月、新刊と重版

◎2014年12月12日発売:モーリス・ブランショ『謎の男トマ 1941年初版』本体2,800円
書評1⇒清都正明氏書評:「文学と死とことばと」(「図書新聞」2015年1月31日号)

◎2014年11月14日発売:森山大道写真集『ニュー新宿』本体8,800円

◎2014年10月8日発売:森山大道エッセイ集『通過者の視線』本体1,800円

◎2014年9月5日発売:『間章著作集III さらに冬へ旅立つために』本体6,400円

◎2014年7月25日発売:松本彩子編『戦争の教室』本体1,800円
紹介記事1⇒「この夏は「戦争の教室」で話し合おう」(毎日小学生新聞「15歳のニュース」2014年8月2日付)
紹介記事2⇒「戦争再考本――消える原体験 学びに道:重い記憶刻み、受け継ぐ」(共同通信配信、2014年8月15日)
紹介記事3⇒澤地久枝×永田浩三×䑓宏士×山﨑曜子座談会「語り継ぐ戦争、受け継ぐ記憶――『戦争の教室』(月曜社)刊行を機に」(「週刊読書人」2014年8月29日号)

◎2014年6月16日発売:ニコラス・ロイル『デリダと文学』本体2,800円、叢書エクリチュールの冒険第7回配本
書評1⇒新城郁夫氏短評(「図書新聞」2014年7月19日号(3167号)「2014年上半期読書アンケート」欄)
書評2⇒郷原佳以氏書評「巣穴の底で夢見るデリダ――刺激的な読みの実戦」(「週刊読書人」2014年8月8日号)
書評3⇒守中高明氏書評「「デリダと文学」の出会いを描出――日本語によるオリジナル論集」(「図書新聞」2014年10月11日号)


◆販売情報(重版・品切・サイン本、等々)
◎重版出来:バトラー『自分自身を説明すること』4刷(2014年11月)
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by urag | 2015-11-25 10:19 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2015年 11月 21日

注目新刊:『ティマイオス/クリティアス』新訳、ほか

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ジャック・ラカン 転移(上)』ジャック=アラン・ミレール編、小出浩之・鈴木國文・菅原誠一訳、岩波書店、2015年10月、本体5,200円、A5判上製312頁、ISBN978-4-00-024051-2
新版 アリストテレス全集(12)小論考集』岩波書店、2015年10月、本体5,600円、A5判上製函入448頁、ISBN978-4-00-092782-6
ティマイオス/クリティアス』プラトン著、岸見一郎訳、白澤社発行、現代書館発売、2015年10月、本体2,200円、四六判上製224頁、ISBN978-4-7684-7959-9
グノーシスと古代末期の精神 第二部 神話論から神秘主義哲学へ』ハンス・ヨナス著、大貫隆訳、ぷねうま舎、2015年10月、本体6,400円、A5判上製490頁、ISBN978-4-906791-50-7
『証聖者マクシモス『難問集』――東方教父の伝統の精華』谷隆一郎訳、知泉書館、2015年10月、本体8,500円、A5判上製xviii/535/11頁、ISBN978-4-86285-219-9

★『転移(上)』は発売済。ラカンのセミネール第8巻、Le transfert 1960-1961 (Seuil, 1991)の翻訳で、まもなく下巻も26日(木)発売。ラカンの一連のセミネールにおいてとりわけ重要なのがこの『転移』で、プラトン『饗宴』の独特な読解としても出色の講義です。ソデの紹介文を引いておきます。「1960年に始まったこのセミネールでラカンは、精神分析の根幹的現象である「転移」に本格的に足を踏み入れる。分析者と被分析者の二項関係に基づく「転移」理解を乗り越えんとするラカンの眼前に浮かび上がったのは、プラトン『饗宴』で描かれる「愛」であった。上巻では、古典作品の斬新な解釈を通じて、愛する者と愛される者の関係を欲望の乱反射として描き出す。ソクラテスは愛〔エロース〕の何を知っていたのか? 欲望と「知」をめぐるスリルに満ちたセミネール第VIII巻」。

★『新版 アリストテレス全集(12)小論考集』は発売済。第10回配本です。収録論考は「色彩について」「聴音について」「観相学」「植物について」「異聞集」「機械学」「分割不可能な線について」「風の方位と名称について」「メリッソス、クセノパネス、ゴルギアスについて」。翻訳の分担が明記されていないような気がしますが、解説者が訳者だとすれば「色彩」から「植物」が土橋茂樹さん、「異聞」が瀬口昌久さん、「機械」「分割」が和泉ちえさん、「風」「メリッソス~」が村上正治さんです。版元紹介文に「人間とその環境世界に生起する諸現象に挑むペリパトス派の論考集」とあるのは収録論考の著者がアリストテレス自身かどうかが不詳のため。付属の「月報10」は、小川洋子さんによる「『植物について』とギリシアの植物学」、斎藤憲さんによる「数学文献とアリストテレス」を掲載。今月27日には次回配本である第8巻『動物誌(上)』が発売予定です。

★『ティマイオス/クリティアス』は発売済。訳者はベストセラー『嫌われる勇気』やアドラー心理学の紹介で高名な岸見一郎さん。帯文に曰く「宇宙の創造とアトランティス伝説。古代ギリシアの叡智が語る壮大な自然哲学」と。発行元の白澤社さんのブログ記事「岸見一郎訳『ティマイオス/クリティアス』刊行の経緯」によれば、もともと岸見さんはギリシア哲学を研究されていて、藤澤令夫さんや種山恭子さんに学ばれており、「重要な古典が気軽に読めないのは惜しい」ために企画されたとのことです。仰る通りで「ティマイオス」や「クリティアス」は既訳が少なく、まさに新訳が求められていました。しかも2000円台前半という手頃なお値段。岸見さんが今後もプラトンの新訳を続けて下さることを期待せずにはいられません。ちなみに京大の「西洋古典叢書」でも新訳と、その注釈書であるカルキディウス『プラトン「ティマイオス」注解』が予定されているはずと記憶しています。

★『グノーシスと古代末期の精神 第二部』は発売済。当二部作は外国語では日本語訳が初めてとなるそうで、そのご苦労は測り知れません。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。巻末の訳者解説によれば、第一部の底本は1964年の改訂増補第三版、第二部は1993年の最終版とのことです。ただし、第二部の第七章「グノーシスを扱った関連論考」は、編纂者のクルト・ルドルフによって追加された三つの論文で「いずれももともと本書の一部として構想されたものではな」く、内容的にも重複するため、訳書には収録されていません。第三論考「グノーシス主義、実存主義、ニヒリズム」は『グノーシスの宗教』(人文書院、1986年)や『生命の哲学』(法政大学出版局、2008年;新装版2014年)で読むことができます。

★『証聖者マクシモス『難問集』』は発売済。カバー紹介文に曰く、本書は「証聖者マクシモス(580頃-662)が主にナジアンゾスのグレゴリオス(329/30-389/90)と、ディオニュシオス・アレオパギテース(6世紀)の諸著作から難解と思われる箇所を選び、それらを解釈し敷衍した『難問集』の全訳である。マクシモスは2世紀以来の東方・ギリシア教父の全伝統を継承し、豊かに展開させたことにより、東方教父の伝統の集大成者、ビザンティン神学のチャンピオンと目されてきた」と。マクシモスの論考の翻訳は、昨年に同じく知泉書館さんから刊行された谷さんによる編訳書『キリスト者の生のかたち――東方教父の古典に学ぶ』でも「愛についての四百の断章」「神学と受肉の摂理とについて」「主の祈りについての講解――キリストを愛する人に向けての簡潔な解釈」を読むことができます。

★出版不況の最果てへと滑り落ちていくように感じる昨今にもかかわらず、こんなふうに現代の名著を含む重要な古典が続々と刊行されており、瞠目を禁じえません。さらに今月は、文庫新刊でも以下の通り大きな収穫がありました。

ヤコブソン・セレクション』ロマン・ヤコブソン著、桑野隆・朝妻恵里子編訳、平凡社ライブラリー、2015年11月、B6変判並製384頁、ISBN978-4-582-76834-3
シュメール神話集成』杉勇・尾崎亨訳、ちくま学芸文庫、2015年11月、本体1,200円、文庫判336頁、ISBN978-4-480-09700-2
パリ論/ボードレール論集成』ヴァルター・ベンヤミン著、浅井健二郎編訳、土合文夫・久保哲司訳、ちくま学芸文庫、2015年11月、本体1,600円、文庫判608頁、ISBN978-4-480-09689-0
生活世界の構造』アルフレッド・シュッツ/トーマス・ルックマン著、那須壽監訳、ちくま学芸文庫、2015年11月、本体1,700円、文庫判640頁、ISBN978-4-480-09705-7
思考と論理』大森荘蔵著、ちくま学芸文庫、2015年11月、本体950円、文庫判208頁、ISBN978-4-480-09708-8

★『ヤコブソン・セレクション』は発売済。ライブラリー・オリジナル版のアンソロジーです。「詩人たちを浪費した世代」「プーシキンの象徴体系における彫像※」「言語の二つの面と失語症の二つのタイプ」「言語学と詩学」「翻訳の言語学的側面について」「言語学的意味論の問題※」「言語の本質の探究」「人間言語の基本的特徴※」「ゼロ記号」「なぜ「ママ」と「パパ」なのか※」「アインシュタインの言語科学※」の計11篇を収録しています。※印の5篇が初訳。「言語学的意味論~」「言語の本質~」「人間言語~」は朝妻さんが翻訳を担当されています。「アインシュタイン~」はドイツ語版からの翻訳が、ホーレンシュタイン『認知と言語』(産業図書、1984年)の附録で読めるそうですが、今回の新訳は英語版論文からのもので、比べると異同や省略があるとのことです。

★『シュメール神話集成』は発売済。『筑摩世界文学大系』第1巻「古代オリエント集」(1978年)から「シュメール」の章を文庫化したもの。帯文に曰く「世界最古の神話――「洪水伝説」「イナンナの冥界下り」など他では読めない原典16篇を収録!」と。収録作品については書名のリンク先をご覧ください。尾崎さんによる「文庫版訳者あとがき」によれば、文庫化にあたり「最小限語の訂正に留めた」とのことです。昨今の日本では往年と比べ、古代オリエント学は研究者が減少しているそうで、「今回の再刊が少しでも状況の好転に寄与できるならば幸甚」とのことです。シュメールについてはいわゆる「超古代史」界隈では様々な本が出ているのですが、原典を読むとなると本書や矢島文夫訳『ギルガメシュ叙事詩――付:イシュタルの冥界下り』(ちくま学芸文庫、1998年)などが欠かせません。

★『パリ論/ボードレール論集成』は発売済。カヴァー裏紹介文に曰く「『パサージュ論』を準備するなかで遺された膨大な草稿群からベンヤミンの哲学的・芸術的思索の核を秘めた論考を集成し、パサージュをはじめ当時の貴重な図版を収録」と。「ベンヤミン・コレクション」既刊から関連論考を集め、さらに新訳論考や図版を付して編まれたものです。新訳は「パリ――十九世紀の首都 梗概(フランス語稿)」「土星の環、あるいは、鉄骨建築についていくつかのことを」、ボードレール論構想および初期の草稿類(ボードレール論全体の構想、ブランキについて、「ボードレールにおける第二帝政期のパリ」初期草稿断片、「ボードレールにおける第二帝政期のパリ」のための予備研究)、「ボードレールにおける第二帝政期のパリ」異稿より(方法論的序説断片、方法論的序説草稿、「趣味」)、です。肝心の岩波現代文庫版『パサージュ論』が現在ほど版元品切もしくは在庫僅少となっているようですが、いずれ重版されることでしょう。

★『生活世界の構造』は発売済。文庫オリジナルで、原書はStrukturen der Lebenswelt (UVK, 2003)です。著者の死去によって完成を阻まれた書物を高弟であるルックマンが原稿整理を行って完成させたものです。帯文に曰く「現象学的社会学」の世界的名著、待望の本邦初訳」とあります。巻頭にはルックマンによる「日本語版への序文」が付されており、本書の成立事情や来日の思い出などが語られています。ちなみにシュッツ自身が日本の地を踏むことはありませんでした。本書に既訳に似た書名の本がありますが、1932年に刊行された著者生前の唯一の著書である『社会的世界の意味構成』(佐藤嘉一訳、木鐸社、1982年;改訳版、2006年)の原題はDer sinnhafte Aufbau der sozialen Weltで、『生活世界の構成――レリヴァンスの現象学』(リチャード・M・ゼイナー編、那須壽ほか訳、マルジュ社、1996年)の原書はReflections on the problem of relevance (Yale University Press, 1970) です。シュッツの著書が文庫化されるのは今回の新刊が初めてになります。

★『思考と論理』は発売済。親本は放送大学教育振興会より1986年に刊行(日本放送出版協会〔現:NHK出版〕発売)された放送大学教材で、同じくちくま学芸文庫で文庫化されている『知の構築とその呪縛』などとともに岩波書店版著作集の第7巻にも収録されています。巻末には野家啓一さんによる解説「一粒で二度おいしい論理学書」を併載。野家さんはこう書かれています、「本書は記号論理学の入門書ではなく、大森荘蔵流の「論理学の哲学」、あるいは論理学に題材をとった大森哲学への入門書にほかならない」(187頁)。読者の便宜のため、当文庫での記号法は標準的なものに変更されており、旧版(親本)で用いられていたクワイン式の記号法との対照表が解説に掲げられています。
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by urag | 2015-11-21 18:40 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 11月 20日

まもなく発売:デリダ『哲学への権利2』みすず書房、ほか

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★ジャック・デリダさん(著書:『条件なき大学』)
★西山雄二さん(訳書:デリダ『条件なき大学』、共訳:『ブランショ政治論集』)
★馬場智一さん(共訳:サラ-モランス『ソドム』)
★宮﨑裕助さん(共訳:ド・マン『盲目と洞察』)
「デリダの哲学教育論の集大成」(カバー紹介文より)である『哲学への権利 Du droit à la philosophie』の第2巻がまもなく発売となります(25日取次搬入予定)。全2巻完結。書誌情報は以下の通りです。書名のリンク先で目次詳細をご確認いただけます。巻末の訳者解題は西山雄二さんが執筆されています。

哲学への権利 2
ジャック・デリダ著 西山雄二・立花史・馬場智一・宮﨑裕助・藤田尚志・津崎良典訳
みすず書房 2015年11月 本体7,200円 A5判上製480頁 ISBN978-4-622-07875-3

帯文より:哲学教育を破壊しようとする力の所在はどこにあるのか。おそるべき先見性で改革の真の意図を見抜き、哲学が自らの権威に幽閉されることなく、現代の諸問題に接続していく道を拓く。全2巻完結。


★立木康介さん(共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
共同研究「生表象の動態構造――自伝、オートフィクション、ライフ・ヒストリー」とその総括シンポジウム「〈生表象〉の近代――自伝・フィクション・学知」(2014年2月1~2日@一橋大学大学院言語社会研究科)の成果報告書である、森本淳生編『〈生表象〉の近代――自伝・フィクション・学知』が水声社さんから刊行されました(発売済)。詳細目次は書名のリンク先をご覧ください。立木さんは第二部「教育・学知・帰属性」の第II節「〈生表象〉と近代的学知の生成」に「オートフィクションとしての理論――フロイトのケース」(229-247頁)を寄稿されています。〈生表象〉というのは、人間の生の記録全般を指し、本書は「近代において文学を初めとする種々の制度とどう関わるのかを多面的に考える共同研究」(編者あとがきより)とのことです。


★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
今月の筑摩選書の新刊で、新著『フロイト入門』を上梓されておられます(発売済)。

フロイト入門
中山元著
筑摩選書 2015年11月 本体1,800円 四六判並製352頁 ISBN978-4-480-01629-4

版元紹介文より:無意識という概念と精神分析という方法を発見して「わたし」を新たな問いに変えたフロイトは、巨大な思想的革命をもたらした。その生成と展開を解き明かす。
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by urag | 2015-11-20 11:42 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 11月 17日

備忘録(10)

◆2015年11月17日17時現在。
人文会さんが編集・発行する書店員向け人文書販売マニュアル『人文書販売の手引き 第2版』のPDFが無料配布開始となっています。2011年に初版を刊行し、先月(2015年10月)に「データを大幅に更新した」という第2版が完成。「店頭活性化にぜひご活用ください」とのことです。80頁を超える労作です。目次は以下の通り。

「人文書販売の手引き」第 2 版刊行に際して
1)専門書の仕入と棚管理
 1:新刊仕入
 2:棚管理
2)棚チャートとキーワードで理解する人文書の基礎知識
哲学・思想/心理/宗教/歴史/社会/教育学/現代の批評・評論
3)人文書棚づくりのためのQ & A
受賞と人文書/人文系雑誌/定番のフェア・セット/参考図書・情報源(図書編)/参考図書・情報源(Web編)

基本図書
哲学・思想/心理/宗教/歴史─日本史/歴史─世界史/社会/教育学

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◆11月18日午前9時現在。
「紀伊國屋じんぶん大賞」第6回の開催に先立ち、今回初の試みとして同賞のプレイベントが紀伊國屋書店新宿本店にて今週末に開催されます。斎藤哲也さん、山本貴光さん、吉川浩満さんの鼎談です。なんと入場料無料、定員50名とのことです。

紀伊國屋じんぶん大賞2016プレイベント
《「じんぶん」のモンダイを語る――2015年の人文書を振り返って》
斎藤哲也×山本貴光×吉川浩満

内容:2015年はどんな年だったのか。いま、ほんとうに求められる教養とはなにか。――『哲学用語図鑑』(プレジデント社)や『世界史の極意』(NHK出版新書)など、数々のヒット作を手がけられてきた斎藤哲也さんを中心に、『文体の科学』(新潮社)でその博覧強記ぶりをあらためて世に知らしめた山本貴光さん、『理不尽な進化──遺伝子と運のあいだ』(朝日出版社)の領域横断的な思考で話題をさらった吉川浩満さんをお迎えし、2015年の人文書シーンをめぐって存分に語っていただきます。 

日時:2015年11月22日(日)14:00~16:00(開場13:30)
場所:紀伊國屋書店新宿本店8階イベントスペース
入場料:無料
   ※参加資格として、イベント中「じんぶん大賞2016」読者アンケートにご協力いただきます。
予約:店頭およびお電話にて受付。新宿本店3Fカウンター(3F直通電話番号:03-3354-5703)
定員:50名
   ※定員数に達しましたら受付を終了させていただきます。

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◆11月20日午前10時現在。
「朝日新聞」11月19日(木)17時41分配信記事「1時間以内に配送サービス アマゾン、都内の一部で開始」はヤフーニュースで全文を閲覧可能。曰く「アマゾンジャパンは19日、注文から1時間以内に商品を届けるサービス「プライムナウ」を始めた。有料会員限定で、対象地域は東京都心の世田谷、目黒、大田、品川、渋谷、港、杉並、新宿の8区内(一部をのぞく)。注文は1回あたり2500円以上で、配送料が税込み890円かかる」と。思ったより敷居が低い感じです。アマゾン自身のプレスリリース「1時間で届く、毎日のお買い物――Amazonプライム会員向けに新サービス「Prime Now」を開始~生活必需品から趣味・嗜好品、ギフト用品など約18,000点を午前6時から深夜1時までお届け~」によれば、「「Prime Now」は、午前6時から深夜1時の配送時間をお選びいただける「1時間以内配送(配送料金:税込890円)」と午前6時から深夜0時の間、2時間単位の配達時間をお選びいただける「2時間便 (配送料金:無料)」があります」とのこと。「2時間便 (配送料金:無料)」に衝撃を受けます。

プレスリリースにまた曰く、「商品数は約18,000点でスマートフォンからご注文いただけます。食品類、水、ジュース、お酒、洗剤やシャンプー、ベビー用品、おむつなどの日用品を単品または少量単位で注文できる他、ペット用品、本、おもちゃ、ゲーム関連用品、スポーツ用品などの趣味・嗜好品、プリンターやPC周辺機器、コピー用紙や文房具用品、家電、これからの季節に必要となるクリスマス用品やギフト商品などの幅広い商品を1時間以内にお届けします」とのことで、本も対象であると。朝日新聞記事では「スマホの専用アプリで注文すると、東京・等々力に新設した拠点から提携業者がバイクなどで商品を運ぶ」とのことで、世田谷区に流通拠点があることが報じられています。さらに「1時間以内に届かない場合は、配送料を返金する」とも報じられていてびっくりします。ネット上ではすでにこの新拠点の場所がおおよそ特定されていて、転職サイト「DODA」の求人情報「ヤマト・スタッフ・サプライ株式会社――【配車】アマゾン世田谷センターで配送スタッフさんの稼働を管理するお仕事」によれば、「【世田谷センター(仮)】東京都世田谷区等々力5丁目<アクセス>東急大井町線「尾山台駅」より徒歩5分」と記載されています。「世田谷センターでは、速達便やチャーター便のような、アマゾンの個別配送を担当しています」。「右肩上がりの成長を続けるインターネット通販業界。私たちは迅速・確実な物流で、その成長を支えています」と紹介されています。

また、朝日記事では「プライムナウの導入は、米、英、イタリアに続いて4カ国目。アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長は「なるべく早く日本全国に広げたい」と語った」とも。全国に、という構想にも衝撃を受けます。

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◆11月20日14時現在。
「新文化」11月20日付記事「太洋社、3支店閉鎖へ」によれば、「経営合理化のため、九州、北陸、四国の3支店を閉鎖する。九州支店は12月末日、北陸支店は来年2月末、四国支店は同3月末まで営業し、それ以降は東京本社で対応していく。来年には大阪出張所を開設する予定」とのこと。栗田の大阪屋への統合予定が4月1日なので、来春は大阪屋(栗田)、太洋社と中堅取次組が新体制に移行するということになるのですね。一方、某業界団体が本日、2件の声明発表を出したようです。ほどなく業界紙から紹介記事が出ることでしょう。

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by urag | 2015-11-17 17:21 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2015年 11月 14日

水声社さんより「[叢書]人類学の転回」が刊行開始、ほか

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◎水声社さんより「[叢書]人類学の転回」が刊行開始

部分的つながり
マリリン・ストラザーン著 大杉高司・浜田明範・田口陽子・丹羽充・里見龍樹訳
水声社 2015年11月 本体3,000円 四六判上製349頁 ISBN978−4−8010−0135−0
帯文より:今日もっとも大きな影響力をもつ人類学者の理論的主著。メラネシアのイニシエーション儀礼、カヌー、笛、小屋、仮面、編み袋、樹木、ヤム畑などの事例をもとに、私たちが自明視する人・事物・自然の対立に揺さぶりをかける。メラネシアの「社会性」とサイボーグに満ちた世界が部分的につながりあう地平を鮮やかにえがきだす。現代人類学の最高の精華。

インディオの気まぐれな魂
エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ著 近藤宏・里見龍樹訳
水声社 2015年11月 本体2,500円 四六判上製212頁 ISBN978−4−8010−0136−7
帯文より:「人類学の存在論的転回」を主導する著者の初期の代表作。16世紀、ブラジル沿岸部に住んでいたインディオ・トゥピナンバは、当時のイエズス会宣教師たちには御しがたく、耐えがたい民であった。彼らが見せる「気まぐれさ(インコンスタンシア)」ゆえに……。宣教師たちによって残されたテクストを丹念に読みながら、彼らとはまったく異なる方法で、インディオ・トゥピナンバの社会哲学や〈存在論〉を鋭く読み解く。

★水声社さんの新シリーズ「[叢書]人類学の転回」の第一回配本がまもなく発売になります。海外の新しい人類学の潮流をまとめて紹介するもので、個人的には今年一番の収穫としたい、ワクワクしてくるシリーズです。内容見本が完成しており、書名のリンク先でPDFにてご覧いただけます。推薦者のひとり、中沢新一さんは次のような言葉を寄せておられます。「人類学はふたたび現代思想の最前線に踊り出そうとしている。この叢書はいま人類学に生まれつつある新しい胎動を、世界に先駆けて紹介しようとしている」。

★内容見本にある「刊行にあたって」と題された紹介文にはこんな言葉があります。「かつて、世界各地のエキゾチックな事物を記録し、比較・分析する学としてあった文化・社会人類学は、一九八〇年代以降、ポストモダニズム/ポストコロニアリズムの流れにもまれるなかで著しい変貌を遂げてきた。しかし、そこから立ち現れてきた人類学の現代的相貌は、これまで一部の専門家以外にはほとんど知られてこなかった。本叢書は、そうした変化を主導してきた人類学者たち――その多くは、今回が実質的な本邦初訳となる――を紹介することで、これまでの知的空白。を埋め、新たな展望を指し示そうとするものである。[・・・]これらの多様な場所とテクストから立ち現れる、新しい〈人類=人間〉の姿とはいかなるものか。またそこにおいて、人類学と哲学、文学や美術のあいだには、どのような布置=星座〔コンステレーション〕が新たに描き出されるのか。この叢書は、そのような問いへと読者を誘っている」。

★第一回配本の二冊はいずれも翻訳が待たれていたものです。イギリス・ケンブリッジ大学名誉教授の社会人類学者ストラザーン(Marilyn Strathern, 1941-)による『部分的つながり』の原書は、Partial Connections (Up-dated edition, Altamira Press, 2004)で、ストラザーンの著書の本邦初訳になります。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。一方、ブラジル国立博物館教授を務める文化人類学者ヴィヴェイロス・デ・カストロ(Eduardo Viveiros de Castro, 1951-)による『インディオの気まぐれな魂』は、A inconstância da alma selvagem (Cosac Naify, 2002)所収の論考「O mármore e a murta: sobre a inconstância da alma selvagem」を訳出したものです。ヴィヴェイロス・デ・カストロについては先月、洛北出版さんから『食人の形而上学』が刊行されているのは御承知の通りです。それぞれの本の目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

★第二回配本は12月下旬予定で、アルフォンソ・リンギス『変形する身体』小林徹訳、が予告されています。続刊予定にはタウシグ、モル、ジェル、デスコラなど非常に楽しみな名前が並んでいます。人類学の棚が賑やかになりそうですね。

★水声社さんのここ数カ月の新刊には、以下の書目が含まれていました。

ジョルジュ・バタイユの反建築――コンコルド広場占拠』ドゥニ・オリエ著、岩野卓司・神田浩一・福島勲・丸山真幸・長井文・石川学・大西雅一郎訳、水声社、2015年9月、本体4,800円、A5判上製378頁、ISBN978−4−8010−0126−8
1914』ジャン・エシュノーズ著、内藤伸夫訳、水声社、2015年10月、本体2,000円、4/6判上製144頁、ISBN978-4-8010-0127-5
『フランケンシュタイン』とヘルメス思想――自然魔術・崇高・ゴシック』田中千惠子著、水声社、2015年11月、本体4,000円 A5判上製360頁 ISBN978−4−8010−0128-2

★オリエの有名なLa prise de la Concorde (Gallimard, 1974)がついに翻訳されました。底本は、アメリカ版 Against architecture (October Books/MIT Press, 1989)への序文「人生の日曜日」を巻末に収録した1993年版です。帯文に曰く「バタイユの第一作「ランスのノートルダム大聖堂」〔ちくま学芸文庫〕。建築をめぐるこのテクストを永遠に抹殺し続けること、それこそがバタイユにとっての「書く」ということだった……。ベルナール・チュミなど「脱構築主義」の建築家たちにも絶大な影響を与えた、反建築論。バタイユ研究の必携書」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。オリエ編『聖社会学』(工作舎、1987年)が翻訳されてから約30年、単独著がようやく初訳されたことになります。

★エシュノーズ『1914』は第一次世界大戦下のフランスの片田舎を舞台にした小説です。原書は、14 (Minuit, 2012)。巻末には訳者による著者インタヴューを含むあとがき「小説と映画――ジャン・エシュノーズにきく」が添えられています。「もし映画化されるとしたらどんなキャスティングを想像しますか」という訳者の問いかけに著者が何と答えているか、現物をご確認いただけたらと思います。

★田中千惠子『『フランケンシュタイン』とヘルメス思想』は首都大学東京に昨春受理された博士論文が元になっている労作です。帯文に曰く「メアリー・シェリーはなぜ19世紀に〈自然魔術〉を再登場させたのか? 錬金術・魔術、科学、自然の崇高、二重の生、ゴシックなどの主題をめぐり、ヘルメス思想を淵源とするさまざま学や思想の観点から、現代エソテリシズム研究文献、文学批評を渉猟しつつ、『フランケンシュタイン』を読み解き、ロマン主義的な科学と思想の未踏の領野を照らしだす分野横断的研究」と。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。第2章でアグリッパ『隠秘哲学について』への論及があることに惹かれます。


◎ディディ=ユベルマンの連作『歴史の眼』の日本語訳が刊行開始

魔法使いの弟子』ジョルジュ・バタイユ著、酒井健訳、景文館書店、2015年11月、本体520円、四六判並製72頁、ISBN978-4-907-10505-1
歴史の眼3 アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』ジョルジュ・ディディ=ユベルマン著、伊藤博明訳・解説、ありな書房、2015年11月、本体6,000円、A5判上製416頁、ISBN978-4-7566-1541-1
人間という仕事――フッサール、ブロック、オーウェルの抵抗のモラル』ホルヘ・センプルン著、小林康夫・大池惣太郎訳、未来社、2015年11月、本体1,800円、46判上製140頁、ISBN978-4-624-93264-0

★バタイユ『魔法使いの弟子』は発売済。『ヒロシマの人々の物語』に続く、バタイユ論文の酒井健さんによる新訳の第二弾です。表紙に使われている写真はキリンジのPVから採ったもの。古典と現在を交差させる柔軟な発想による造本が心地よいです。「魔法使いの弟子」は1938年7月に雑誌「新フランス評論」に発表されたもの。帯文には「バタイユの〈恋愛論〉」とあります。なお、訳者の酒井さんによるトークセッション「文学者と恋愛――漱石・カフカ・バタイユ」が、12月9日(水)19時~20時30分、神楽坂の「本のにほひのしない本屋・神楽坂モノガタリ」(新宿区神楽坂6-43 K's Place 2F)で開催されるそうです。料金は1,500円(1ドリンク付)。お申し込みは書店店頭もしくは電話03-3266-0517まで。

★ディディ=ユベルマン『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』は発売済。バタイユの小説『眼球譚 Histoire de l'oeil』をひっくり返した『歴史の眼 L'Œil de l'histoire』は美術史、イメージ人類学、哲学などのジャンルで活躍するディディ=ユベルマンによる連作で今回訳された『アトラス』は2011年にMinuitから刊行されたその第三作です(原著は2015年現在第五作まで刊行)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。2009年の第一作『イメージが位置を取るとき』、2010年の第二作『受苦の時間の再構築』はいずれもありな書房さんより続刊予定です。さらに訳者の伊藤博明さんはいよいよ同版元から『バロック期の寓意と表象(仮)――チェーザレ・リーパ『イコノロジーア』研究』を上梓されるようです。予価32,000円という、『ムネモシュネ・アトラス』を上回るお値段から推察するに、リーパの『イコノロジーア』のファクシミリ版を含む大冊になるのかも、と想像が膨らみます。

★センプルン『人間という仕事』は発売済。「ポイエーシス叢書」の第64弾です。底本は、Métier d'homme. Husserl, Bloch, Orwell: Morales de résistance (Frammarion, 2013)です。センプルンが2002年3月に行った講演録で、フランス国立図書館のウェブサイトで動画が公開されており、2002年に同図書館から刊行されてもいます。訳書では活字版では削除されているものの講演では読みあげられていた言葉を補足している個所もあって、好感が持てます。小林康夫さんがフランスから日本への帰路に機内で読んだ折、「おもしろくてやめられない」ほどだったそうです。センプルンは連続講演の最後の方でこう述べます、「多くの点で対照的な三人の人物の間に、何か共通する一筋の糸が走っているとするなら、それは全体主義的野蛮に抵抗するという同じ精神、同じ信念であります」(105頁)。PR誌「季刊 未来」2015年秋号に掲載された予告に依れば、同叢書の次回配本はミシェル・ドゥギー『ピエタ ボードレール』です。さらには年末年始にかけてはダニエル・ベンサイド『時ならぬマルクス』や、シュライアマハー『ベルリン大学論』などの続刊が予告されています。

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★このほか、最近では以下の新刊との出会いがありました。

具体性の哲学――ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考』森元斎著、以文社、2015年11月、本体2,600円、四六判上製320頁、ISBN978-4-7531-0328-7
眠っているとき、脳では凄いことが起きている――眠りと夢と記憶の秘密』ペネロペ・ルイス著、西田美緒子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2015年12月、本体2,100円、46判上製208頁、ISBN978-4-7726-9548-0
偽書『本佐録』の生成――江戸の政道論書』山本眞功著、平凡社選書、2015年11月、本体2,800円、4-6判上製280頁、ISBN978-4-582-84233-3
蝦夷志 南島志』新井白石著、原田信男校注、東洋文庫、2015年11月、本体3,300円、B6変判上製448頁、ISBN978-4-582-80865-0
江戸詩人評伝集2――詩誌『雅友』抄』今関天彭著、揖斐高編、東洋文庫、2015年11月、本体3,200円、B6変判上製448頁、ISBN978-4-582-80866-7

★森元斎(もり・もとなお:1983-)さんの第一作『具体性の哲学』はまもなく発売(11月17日頃予定)。大阪大学へ今春提出された博士論文「A・N・ホワイトヘッド形而上学における具体的なものへ」をもとに加筆修正したのが本書です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「具体的なもののほうへ」「形而上学のほうへ」「生成のほうへ」「アナキズムのほうへ」の四部構成で、特筆すべきは第IV部「アナキズムのほうへ」かと思われます。ホワイトヘッドと大杉栄が交差する風景というのは非常に鮮烈で、2015年に人文書担当者が必ず押さえておかねばならない瞠目すべき若手のデビュー作です。「私たちは人間であるとともに、自然である、生である。曖昧で何が悪い。この世界は曖昧にしかできていない。複雑にしかできていない。明晰判明であればあるほど信用ならない。抽象的なものは信用ならない」(268頁)。躍動感溢れる文体が同時代人の胸に刺さります。

★マンチェスター大学「睡眠と記憶の研究所」所長を務める脳神経科学者ペネロペ・ルイスさんによる第一作『眠っているとき、脳では凄いことが起きている』はまもなく発売(11月20日頃予定)。原書はThe Secret World of Sleep: The Surprising Science of the Mind at Rest (St.Martin's Press, 2013)です。目次詳細と第1章「なぜ眠るのか」と解説の立ち読みは書名のリンク先へどうぞ。個人的には第7章「なぜ夢を見るのか」や第11章「眠りのパターン、IQ、睡眠障害」などに惹かれますが、そのほかにも各章の節の中には「悪いことが記憶に残りやすいわけ」「目覚めていても、脳の一部は居眠りしている」「年齢による変化」「ぐっすり眠れても疲れているわけ」「脳が働いて寝付けないとき」等々、なるほどなと思わせる明快な解説が魅力です。

★日本思想史・倫理学がご専門で現在学習院大学などで教鞭を執られている山本眞功(やまもと・しんこう:1949-)さんによる『偽書『本佐録』の生成』はまもなく発売(11月20日頃予定)。版元紹介文に曰く「「慶安御触書」と並んで幕府成立期の農民収奪政策を証すものとされてきた『本佐録』が、書かれた時期も意図もまるで別のものであることを実証。偽書として生成するこの政道論書の意義を細部まで明らかにした画期的論考」と。作者も、家康の側近である本多佐渡守正信ではないそうで、「下敷きとなった諸書をつきとめ、諸本を調査し、書誌学・文献学的検討と、テキストの厳密な読解によって」(カバー紹介文より)偽書の真実に迫る力作です。

★東洋文庫865『蝦夷志 南島志』、同866『江戸詩人評伝集2』はまもなく発売(11月20日頃予定)。前者は江戸時代の北海道と沖縄の歴史・地理・文化をまとめた「白石晩年の二つの古典的地理書」(帯文より)であり、後者は江戸漢詩の詩人列伝で全2巻完結となります。次回配本は12月、ガザーリー『哲学者の自己矛盾――イスラームの哲学批判』中村廣治郎訳注、とのことで大いに注目すべき古典の新訳の登場となりそうです。
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by urag | 2015-11-14 23:06 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 11月 12日

集英社文庫ヘリテージシリーズ・ポケットマスターピース創刊

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★竹峰義和さん(共訳:シュティーグラー『写真の映像』)
集英社文庫ヘリテージシリーズの新しい「シリーズ内シリーズ」として先月末に創刊された「ポケットマスターピース」の第1回配本として、第1巻「カフカ」(多和田葉子編)と、第2巻「ゲーテ」(大宮勘一郎編)が同時発売になりました。竹峰さんは「カフカ」の巻で、「流刑地にて」「雑種」「こま」の新訳を担当されています。「カフカ」の巻に収録されているテクストはネット書店「honto」さんの商品個別頁で確認することができます(ただし収録順序がバラバラ)。「変身(かわりみ)」多和田葉子訳、「火夫」「訴訟」いずれも川島隆訳、といった代表作のほか、カフカの本職である労災保険局で作成した公文書や、婚約者などと交わした書簡も収めているのが面白いです。「ポケットマスターピース」は全13巻で、このあとバルザック、トルストイ、ディケンズ、マーク・トウェイン、フローベール、スティーブンソン、ポー、ドストエフスキー、ルイス・キャロル、ブロンテ姉妹、セルバンテスという風に2016年10月まで毎月1冊ずつ刊行されていくようです。


★水野浩二さん(訳書:ヴァール『具体的なものへ』)
澤田直さんとの共訳書『主体性とは何か?』が白水社さんより先月末に発売となりました。この本はサルトルが1961年12月12日にローマのグラムシ研究所で行なった講演「マルクス主義と主体性」および12日~14日に行われたイタリア知識人との討論(マリオ・アリカータ、ビアンキ・バンディネッリ、ガルヴァノ・デラ・ヴォルペ、レナート・グットゥーゾ、チェーザレ・ルポリーニ、グィド・ピオヴェーネ、ロンバルド・ラーディチェ、ジュゼッペ・セメラーリ、フランチェスコ・ヴァレンティーニ)の記録を中心に、編者のミシェル・カイルとラウル・キルヒハイマーによるまえがき「意識と主体性」と、フレドリック・ジェイムソンによるあとがき「サルトルの現代性」が収められています。原書は、Qu'est-ce que la subjectivité ? (Les Prairies ordinaires, 2013)です。

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先月(2015年10月25日)行われたamu Kyoto主催の連続イベント「京都に出版社をつくる(には)」の第1回目(ホホホ座・山下賢二さん+松本伸哉さん/月曜社小林浩)のイベントレポートが公開開始となりました。楽しかったひと時の記憶が蘇る心地がします。
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by urag | 2015-11-12 17:12 | Trackback | Comments(0)
2015年 11月 09日

備忘録(9)

◆2015年11月9日17時現在。

「新文化」2015年11月9日付記事「栗田、「再生計画案」まとまる 債権者集会は12月24日に」に曰く「民事再生法の適用を申請していた栗田出版販売(栗田)の再生計画案がこのほどまとまり、11月5日、東京地裁から債権者に対してその詳細が文書で送付された。弁済率は50万円以下が100%、それ以上は21.3%。ただし、OKCに対する連帯保証債務の免除を受けた場合は最大25.5%に上がる可能性もある」と。

まず、この記事にある「再生計画案」はあくまでも債権者に送付されたものであり、10万円以下の債権額を有しており初期に全額弁済された取引先や、50万円以下の債権額を有しており先月末に全額弁済された取引先に対しては送付されていません。弁済した以上、債権者ではもはやないからでしょう。ただし、弁済されたとはいえ取引先であることには変わりがないわけで、そうした出版社に対して何の連絡もない/連絡すべきことがないらしいというのは(予想しうることとはいえ)なんとも切ないです。

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◆11月11日16時現在。

「TOCANA」2015年11月11日付、平田宏利氏記名記事「被差別部落の古地図、名誉毀損書籍… 図書館めぐる問題はトンデモ本『亞書』だけではなかった!」に曰く、「国立国会図書館では著者の没後、50年が経過し、著作権が失効した資料を電子化し「近代デジタルライブラリー」として公開している。ところが、2007年に公開された『大正新脩大蔵経』に対し、仏教書の専門出版社である大蔵出版が抗議を行った。/「大蔵出版は、『大正新脩大蔵経』をはじめ、仏教の専門書を販売することで収益のほとんどを得ています。著作権が失効しているからといって広く公開されては、商売にならないということでしょう。最終的に、話し合いは『大正新脩大蔵経』の電子データ閲覧は館内に限るという結論に落ち着きました」(図書館に詳しいフリーライター)」と。

周知の通り『大正新脩大藏經』は、東京大学大学院人文社会系研究科・次世代人文学開発センター・大藏經テキストデータベース研究会(SAT)によって「テキストデータベース」化されています。近代デジタルライブラリーのような、版面のスキャン画像ではない、というところが違いますね。大蔵出版では現在も、『[普及版]大正新脩大蔵経』(全88巻、本体1,500,000円)を販売しています。本件については、「J-CASTニュース」2014年1月8日付記事「著作権切れ書籍データのネット公開停止 出版社側からの抗議に国会図書館が折れる」や、「INTERNET Watch」2014年1月9日付記事「国会図書館、出版者からの抗議を受け、著作権切れ書籍のネット公開を一部停止――出版者への影響に配慮、書籍により「公開再開」「館内限定」に判断分かれる」をご参照ください。2014年1月当時は、『大正新脩大蔵経』についてはインターネット提供を再開する判断が下されているものの、「現在、出版協および大蔵出版と協議を行っており、再開の時期については未定」(後者記事より)とのことでした。2014年1月(7日)付の国会図書館のプレスリリース「インターネット提供に対する出版社の申出への対応について」(PDF)もご参照ください。また、2013年7月時点での詳しい経緯については、永崎研宣さんによる「国会図書館近代デジタルライブラリー 一部書籍一部公開停止の件で」をご覧ください。このような一連の経緯のあと、「TOCANA」記事にある通り、「電子データ閲覧は館内に限るという結論に落ち着」いたのでしょう。確かに「国会図書館サーチ」で「大正新脩大蔵経」のデジタル資料を検索すると、「館内限定閲覧」と表示された「国立国会図書館デジタルコレクション」に行きあたります。

ちなみに上記の「TOCANA」記事で言及されている『亞書』については、これまた周知の通りとなっていますが、実際に儲けが出たのかどうかについて、また国会図書館がどう対応するのかについては、岩間ケイさんによるブログ「気になる事件――日本で起きた個人的に気になる事件の考察」の11月1日付エントリー「亞書の謎12 一応の終止符」が参考になります。また、ウェブマガジン「ZOOT」11月6日付のhideo3284さんによる記事にはかなり突っ込んだ情報があります。こうした事例が他社でもないか、国会図書館としても過去に遡って究明せざるをえないのではないでしょうか。そうしない限り、ザルだと思われても仕方ないわけですし、第二、第三の矢は飛んでくるでしょう。詳細な究明レポートが出たら、それ自体かなり興味深い内容になるでしょうね。

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◆11月13日23時現在。

「時事通信」11月13日付記事「「ワンピース」、発売前に公開=著作権法違反容疑で4人逮捕-京都府警」に曰く、「逮捕容疑は10月29日、今月2日発売の「週刊少年ジャンプ」(集英社)に掲載された同作品の最新話を、海賊版サイト「mangapanda(マンガパンダ)」に無断で公開した疑い。/同課によると、日本の漫画を無断で掲載し、海外向けに発信している海賊版サイトの摘発は全国初。日高容疑者は配送会社の社員で、印刷工場から送られてきた雑誌を別の配送会社に発送する際に抜き取り、仲間の中国人に渡していたという。作品は英語に翻訳され、同サイトで公開されていた」と。

ついに、というか、ようやくという感じですね。「今年2月、コンピュータソフトウェア著作権協会から府警に相談があり、捜査していた」そうですが、「ジャンプ」の発売前に英訳版がアップロードされていた状況から推理して、関与している人物が、雑誌が書店に届くまでのどの「過程」に絡んでいる可能性があるかについては比較的早期に特定しやすかったはずと思われるものの、そうは言っても個人の特定には入念な捜査が必要だったろうと想像できます。逮捕された埼玉県の69歳の男性会社員は「本を渡しただけ」と話しているそうです。年齢から推察すると、自分がやっていることが何に利用されているのかについて自覚的ではなかった可能性もないわけではないでしょう。しかし抜き取りは窃盗です。これを配送会社にやられてしまうと、版元としてはやるせない気持ちでいっぱいになるでしょう。

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◆11月17日13時現在。
耳を疑いたくなるような情報が飛び交いはじめています。これは来年も波乱な一年になりそうです。

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by urag | 2015-11-09 17:23 | 雑談 | Trackback | Comments(12)