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2015年 10月 28日

古書店「風光書房」さんが閉店セール開始、ほか

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★ヴェルナー・ハーマッハーさん(著書:『他自律』)
★上野俊哉さん(著書:『アーバン・トライバル・スタディーズ』)
★鵜飼哲さん(共訳:ジュネ『公然たる敵』)
★西山雄二さん(訳書:デリダ『条件なき大学』、共訳:『ブランショ政治論集』)
★宮﨑裕助さん(共訳:ド・マン『盲目と洞察』)
青土社さんの月刊誌「現代思想」2015年11月号「特集=大学の終焉――人文学の消滅」が発売され、各氏の論考や討議が掲載されています。鵜飼哲さんと島薗進さんの討議「大学への支配と抵抗」(62-79頁)をはじめ、上野俊哉さんによる「人文系BF私大を再活性化するためのいくつかのアイディア」西山雄二さんによる「人文学の後退戦――文科省通知のショック効果に抗って」、宮﨑裕助さんによる「文献学への新たな回帰?」、ヴェルナー・ハーマッハーさんによる「文献学についての95のテーゼ」(大塚良貴訳)といった力作論考が収録されています。詳しい目次内容は特集名のリンク先をご覧ください。

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毎日新聞のIさんからいただいた情報ですが、地下鉄「小川町」下車数分の高名な古書店「風光書房」さんが、来月末の閉店を前に20%オフのセールを始められたとのことです。Iさん曰く「独仏文学や哲学の古い翻訳書を中心にカトリック関係、京都学派等あれほど多くの人文書を「店頭に」そろえた古書店は全国でも数少ないでしょう」とのこと。私も幾度かお世話になってきました。

風光書房
101-0062千代田区神田駿河台3-7 新興ビル4F (三井海上火災向かい)
営業時間:11時~18時半(土曜13時から。日祝休み)
電話/fax:03-3295-1116
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by urag | 2015-10-28 14:50 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
2015年 10月 24日

オブリスト『ミュージック――「現代音楽」をつくった作曲家たち』、ほか

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ミュージック――「現代音楽」をつくった作曲家たち』ハンス・ウルリッヒ・オブリスト著、篠儀直子+内山史子+西原尚訳、フィルムアート社、2015年10月、本体2,600円、四六判並製416頁、ISBN 978-4-8459-1438-8
知の不確実性――「史的社会科学」への誘い』イマニュエル・ウォーラーステイン著、山下範久監訳、滝口良+山下範久訳、藤原書店、2015年10月、本体2,800円、四六判上製288頁、ISBN978-4-86578-046-8

★オブリスト『ミュージック』は発売済。原書は、A Brief History of New Music (JRP Ringier, 2013)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。キュレーターであり、インタヴューの名手オブリストが、現代音楽の巨匠たちから興味深い証言の数々を引き出しています。4章構成で「前衛音楽の作曲家たち」ではシュトックハウゼンやブーレーズらが、「電子音響音楽の誕生」ではクセナキス夫妻やポーリーン・オリヴェロスらが、「ミニマリズム&フルクサス」ではスティーヴ・ライヒやオノ・ヨーコらが、「現代の巨匠〔マスター〕たち」ではブライアン・イーノやクラフトワークらが登場します。フィルムアートさんが出版されたオブリストによるインタヴュー本は2013年の『キュレーション――「現代アート」をつくったキュレーターたち』に続いて2冊目になります。

★いずれも興味深いインタヴューですが、たとえば日本では『ソニック・メディテーション』や『ソフトウェア・フォー・ピープル』などの著書が翻訳されているオリヴェロスにオブリストは「いつ《ディープ・リスニング》という概念を考案したのか」と直截的に尋ねていて、彼女はこう答えています。「それは、最初に入手したテープレコーダーに結びついていると言えます。それは1953年で、テープレコーダーが初めて一般消費者向けに発売された年でした。私が最初にしたことは、窓にマイクを取り付けて、そこで起こることを全て録音することでした。そのテープを聴いたときに、録音している時には気づいていなかった音がそこにあったことに気づきました。だから、その瞬間から、いつも全てに耳を傾け、いつでもどこでも自分が取り巻く音に意識を拡張し続けようと自分に言い聞かせました。これが言うなれば私のメディテーション(瞑想)で、そこから発展しました」(191頁)。インタヴューの最後には、まだ実現していないプロジェクトについての言及があります。じつに壮大なもので強い感銘を受けます。ぜひ本書現物でご確認ください。

★オブリストのインタヴュー本にはこのほか『コールハースは語る』(2008年)や『ザハ・ハディドは語る』(2010年)、『アイ・ウェイウェイは語る』(2011年)などがありますが、ドイツの版元ヴァルター・ケーニッヒから2010年に刊行された『ハンス・ウルリッヒ・オブリスト インタビュー Volume 1 [上]』があります。J・G・バラード、スチュアート・ホール、サラ・マハラジとフランシスコ・ヴァレラ、ガブリエル・オロスコ、ジャック・ランシエール、エットーレ・ソットサス、ほか多数のインタヴューが収録されています。ドイツの版元の出版物であるために日本での流通がごく限られていたためと、アーティストブックという特殊性によって、日本語訳されている彼の本の中でももっとも入手しにくいものとなっています。

★ウォーラーステイン『知の不確実性』は発売済。原書は、The Uncertainties of Knowledge (Temple University Press, 2004)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文には「国立大学の「文系学部再編」が激震を呼ぶ今、必読の一冊!」とあります。まもなく発売となる青土社さんの月刊誌『現代思想』11月号も「大学の終焉――人文学の消滅」と題した特集を組んでおり、アクチュアルなテーマです。カバー帯文にも引かれていますが、ウォーラーステインはイリヤ・プリゴジンに捧げた本書で社会科学の近未来について次のように展望しています(読みやすくなるように改行とナンバリングを加えました)。

★「私たちの眼前には三つのシナリオがある。

1)第一のシナリオは、社会科学が自らの重さに耐えかねて崩壊するその日までその組織を繕いつづけるというものである。思うに、これが現在の私たちが歩んでいる道だ。今後もつづく可能性はある。だがただ手をこまねいているだけというのはありそうでもないし、また説得力もない。

2)次に、社会科学者自身にかわって社会科学を再組織する「機械じかけの神」(おそらく「複数の神々」だろう)の介入があるのではないか。実際、この役割を果たす複数の候補者が存在しており、なかにはすすんでその役割を担おうとする者もいる。そうした者は教育官庁や大学行政のなかに見出される。学問的な空言を弄してその意図を隠してはいるが、こうした官僚たちの主要な関心は経費削減のための合理化にほかならない。彼らの介入によって起こりそうなことは、それぞれの組織のあいだで共通性のない別々の成果が出ることでしかなく、混乱にさらに拍車がかかることだろう。

3)実現の見込みは決して高くないが、ずっと望ましい第三のシナリオは、社会科学者自身が先頭に立って社会科学の再統一と再分割を行い、二十一世紀において知が意義ある進歩を遂げられるような、もっと知的な分業体制をつくりだすというものである。この再統一は、私たち全員が一つの任務に取り組んでいるという意識を持つことで達成されるのであり、この任務こそ私が史的社会科学と呼ぶものなのだ。この任務は、社会的現実に関する有用な説明は必然的に、「史的」(ある状況の固有性だけでなく研究対象の構造にたえず生じつづける変化を考慮にいれるという意味で)かつ「社会科学的」(長期持続の構造的説明を追求するという意味で。ただしその説明は永久不変に妥当するものではないし、またそうはありえない)となるという認識論的前提に基づいていなければならない。要するに、方法論の中心になるのは過程〔プロセス〕なのだ」(217-218頁)。

★このくだりが胸に迫るのは、人文科学も人文書業界も状況や問題としては同様であるからでしょう。この三つのシナリオは出版界の分析と課題設定にも応用できるものですし、日本社会が対象でも応用できるでしょう。その意味では本書は広く読まれるべき本です。見通しの悪い不確実性のただ中で生きる現代人が恐怖心や臆病のためにその場で立ちすくむままにならないために、私たちがウォーラーステインの「史的社会科学」から学べることは色々ありそうです。

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★このほかここ最近では以下の新刊との出会いがありました。

「フランスかぶれ」の誕生――「明星」の時代 1900-1927』山田登世子著、藤原書店、2015年10月、本体2,400円、A5変判上製280頁、ISBN978-4-86578-047-5
川村湊自撰集 4巻 アジア・植民地文学編』川村湊著、作品社、2015年10月、本体2,800円、46判上製420頁、ISBN978-4-86182-517-0
自省録』李退渓著、難波征男校注、東洋文庫、2015年10月、本体3,200円、B6変判上製函入460頁、ISBN978-4-582-80864-3
オペラの20世紀――夢のまた夢へ』長木誠司著、2015年10月、本体9,200円、A5判上製816頁、ISBN978-4-582-21972-2
鴎外「奈良五十首」を読む』平山城児著、中公文庫、2015年10月、本体1,000円、文庫判304頁、ISBN978-4-12-206185-9
沖縄現代史――米国統治、本土復帰から「オール沖縄」まで』櫻澤誠著、中公新書、2015年10月、本体920円、新書判384頁、ISBN978-4-12-102342-1

★『川村湊自撰集 4巻 アジア・植民地文学編』は全5巻中の第4回配本。最終巻となる第5巻「民俗・信仰・紀行編」は来年1月刊行予定とのことです。
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by urag | 2015-10-24 20:16 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 10月 23日

まもなく発売:アンソロジー『ドゥルーズ』、ほか

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★鵜飼哲さん(共訳:ジュネ『公然たる敵』)
★江川隆男さん(訳書:ブレイエ『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』)
★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』、訳書:カヴァイエス『論理学と学知の理論について』)
★廣瀬純さん(著書:『絶望論』、共著:『闘争のアサンブレア』、訳書:ヴィルノ『マルチチュードの文法』、共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
★西山雄二さん(訳書:デリダ『条件なき大学』、共訳:『ブランショ政治論集』)
第一線のドゥルーズ研究者の対談や、国内外の刺激的な論考、ドゥルーズの主要著作ガイドをなどをまとめた魅力的なアンソロジー『ドゥルーズ――没後20年 新たなる転回』(河出書房新社編集部編、河出書房新社、2015年10月、本体2,100円、A5判並製272頁、ISBN978-4-309-24735-9)がまもなく発売されます。鵜飼さんは宇野邦一さんとの対談「概念の力と「地理哲学」」を寄稿され、江川さんは堀千晶さんとの対談「絶対的脱領土化の思考」を寄せておられます。近藤さんは論文「ドゥルーズに影響をあたえた哲学者たち――「プラトニズムの転倒」をめぐる」を、廣瀬さんは論文「悲劇的なこの世界では哲学が直ちに政治になる。――1969年、スピノザからストア派へ」を寄稿。このほか、小泉義之さんと千葉雅也さんとの対談「ドゥルーズを忘れることは可能か――20年目の問い」、檜垣立哉さん、アンヌ・ソヴァニャルグさん、フランソワ・ズーラビシヴィリさん、ジャン=クリストフ・ゴダールさん、ペテル=パル・ペルバルトさん、ローラ=U・マークスさん、ブライアン・マッスミさん、パトリック・ロレッドさん、李珍景さんらの論考のほか、作家の庄野頼子さんや荻世いをらさんも寄稿されていて、注目です。西山さんはロレッドの論考「動物は人間のように愚かであることができるか――デリダとドゥルーズをめぐる「超越論的愚かさ」について」を小川歩人さんと共訳されています。デビュー作から遺稿までの著作ガイドのほか、村澤真保呂さんによる「ガタリの著作を読む」、国内外のドゥルーズ論を紹介する堀千晶さんによる「文献案内」が収録されています。堀さんのご紹介によれば来月ミニュイからドゥルーズの『書簡集その他のテクスト Lettres et autres textes』が刊行予定とのことです。書名のリンク先(ミニュイのウェブサイト)で目次をご確認いただけます。


★今福龍太さん(著書:『ブラジルのホモ・ルーデンス』)
これまで各誌やアンソロジーなどで発表されてきたテクストを改稿のうえ一冊におまとめになった『わたしたちは難破者である』(河出書房新社、2015年8月、本体2,900円、46判上製288頁、ISBN978-4-309-24725-0)に続き、姉妹編とも言うべき『わたしたちは砂粒に還る』(河出書房新社、2015年10月、本体2,800円、46判上製288頁、ISBN978-4-309-24734-2)が発売になりました。帯文に曰く「思考と想像力が再生する源を求めて、砂漠へ、この砂粒の群島へと還ろう――来たるべき「第二の自然」を生きるためのエチカ」と。「幻を見る人」「生の贈与」「ル・クレジオの王国」「ひとの奥処」の4部構成で15本のテクストが収められ、前後をプロローグとエピローグが挟んでいます。巻末の後記に曰く「堅固な構造物を造って、そのなかに自己完結的な合理システムを構築したつもりでいた人類は、彼らをめぐる第二の自然が、すでに風穴だらけの、すばらしく多孔的な媒質となって運動をはじめたことにようやく気づきはじめたのだ。そしてここにいちはやく、新たに想像された碧い海底、砂漠、雲、そして冷厳たる氷の海へと還ろうとした者たちがいる。第二の自然へと、憧れとともに未知の帰還を果たそうとした者たちがいる。/私もまた、そのような者たちの動きにささやかに連なるために、この本を編んだ」(285頁)。


★木内久美子さん(共訳:ポール・ド・マン『盲目と洞察』)
★ドリーン・マッシーさん(著書:『空間のために』)
今月半ばに御茶ノ水のアテネフランセ文化センターで行われたパトリック・キーラー監督作品『ロビンソン』三部作の上映に合わせて、『時間のランドスケープス』と題した冊子を木内さんが作成されておられます。「ロンドン」(1994年)、「空間のロビンソン」(1997年)、「廃墟のロビンソン」(2010年)の紹介に始まり、キーラーさんのフィルモグラフィ、キーラーさんへの木内さんによるメール・インタヴュー「風景の未来に向けて――パトリック・キーラーに聞く」(巻末には英語原文も掲載)、佐藤元状さんによる論考「パトリック・キーラーとシュールレアリスム的な想像力」、萩野亮さんによる論考「ロンドンの憂鬱」、東志保さんによる論考「変わりつつある風景のなかで――パトリック・キーラーの『ロンドン』とクリス・マルケルの映画作品」、そしてドリーン・マッシーさんの長篇論文「風景/空間/政治――試論」が木内さんによる翻訳で掲載されています(53-65頁)。頒価税込1000円。お買い求めはキーラー上映会の案内のために開設されたツイッターのアカウントか、上映会会場までお尋ね下さい。上映会は来月以下の通り行われます。

神戸
日程:11月6日 (金)、11月7日(土)
会場:神戸映画資料館(新長田)
スケジュール:
6日(金)
13:00『ロンドン』+ティーチイン(木内久美子)
15:00『空間のロビンソン』
16:40『廃墟のロビンソン』
7日(土)
13:50『ロンドン』+ティーチイン(木内久美子)
15:50『空間のロビンソン』
17:30『廃墟のロビンソン』
19:20 トーク(木内久美子)[無料]

名古屋
日程:11月29日 (日)~12月6日(日)のいずれかの日(第20回 アートフィルムフェスティバル)
会場:愛知芸術文化センター12階・アートスペースA


★阿部将伸さん(著書:『存在とロゴス』)
昨年刊行されて話題を呼んだハイデガーのいわゆる『黒ノート』をめぐる最新の研究成果を収めた論集『ハイデガー哲学は反ユダヤ主義か――「黒ノート」をめぐる討議』(ペーター・トラヴニー+中田光雄+齋藤元紀編、水声社、2015年9月、本体3,000円、A5判並製304頁、ISBN978-4-8010-0124-4)が先月刊行されました。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。阿部さんは中川萌子さんとともに、トラヴニーさんの来日講演「普遍的なものと殲滅――ハイデガーの存在史的な反ユダヤ主義」(234-268頁)をお訳しになっておられます。

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by urag | 2015-10-23 18:32 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 10月 23日

備忘録(7)

◆10月23日正午現在。
50万円以下の皆様にお知らせきましたね。27日までに入金と。入金後に集会のお知らせが届くという段取りでしょうか。

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◆10月24日正午現在。
批判に対する聞く耳を持っているのは悪い事ではありません。けれどもブックフェアの選書が偏向している、などと言い募る人々もまた別の視点から言えば立派に偏向しているという現実を看過すべきではありません。MJはバランス感覚をアピールするだけじゃなくて、様々な客と対峙する気概を示しても良かったはずだと思います。書店には選書と取捨選択の自由があります。

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◆10月26日13時現在。
MJの「謝罪」事案は某全国紙で取り上げられたせいか、様々な反響を呼んでいるようです。他書店の書店員さんの中には「(謝罪は)がっかりだし迷惑」だと仰っている方がいますし、元書店員さんの中にも「現場のモチベーションが下がるよ」と強い危惧を示される声を聞きます。MJもしくはグループの誰の判断でこうした事態に至ったのか、注目している出版人も多いです。業界人に色々と噂されているのはMJにとって何の得にもならないでしょう。副作用を考えた方がよさそうです。

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◆10月27日午前11時現在。
「神奈川新聞」2015年10月27日付記事「海老名「ツタヤ」図書館、共同運営会社が撤退を検討」によれば、「海老名市立中央図書館について、共同運営会社の図書館流通センター(TRC)が、CCCとの協力関係を解消する方向で検討を進めている〔・・・〕館運営の方向性の違いが大きな理由」とのことです。

記事はさらにこう伝えています。「2社による共同事業体ながら、中央館の改装や運営はほぼ全てCCCが担当。13年に同社が佐賀県の武雄市図書館で単独の指定管理者として手掛けたのと同様、書店の「蔦屋書店」やカフェのスターバックスを併設する空間が話題になった。一方で、郷土資料や雑誌バックナンバーの軽視や、分かりにくい本の分類などが指摘された。TRCはこうした点を問題視し、解消の検討に入った。/TRCは、神奈川新聞社の取材に対し「最近、CCCに内々に打診した。理念の違いを乗り越えようと思ったが、かなわなかった」と話した。その上で、TRCが手掛ける有馬館や学校図書室の支援などについては「市やCCCと今後のあり方を協議していきたい」と述べた。図書館を管轄する市教育部は「まだ聞いていない」としている。〔・・・〕2社は愛知県小牧市の新図書館計画でも共同運営を計画していたが、今月の住民投票でCCCによる館運営が反対多数となり、関係を解消した経緯がある」。

MJ渋谷店での例の対応といい、TRCの今回の件といい、これは本当に彼ら自身が決めたことなのでしょうか。あるいはDNPグループとしての判断なのでしょうか。TRCとしては今のうちにCCCと一線を画すということなのかもしれませんが、翻って彼らにツタヤ図書館とは別の新しい何かを開発できるのかどうか(そもそもそういう挑戦をしたいのかどうか)。今回の件はTRC、CCC双方から意見や経緯をじっくり聞いておく必要があります。業界紙や全国紙にそれが期待できない分、「神奈川新聞」さんの更なる取材に期待したいです。

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◆10月27日16時現在。
「新文化」20月27日付記事「TRC、指定管理者のパートナーCCCと提携解消」によれば、TRCがCCCに「提携解消を申し入れた」と。「神奈川新聞」では「内々の打診」と報じられていた件です。

記事に続けて曰く「海老名市立中央図書館のリニューアル段階で、選書や分類などに関するTRC側の意見が通らず、TRCの石井昭社長は「こちらの考えを受け入れようとしない。装備工場に突然発注書を送り、翌日の納品を要求するなどあまりにも勝手なふるまい。今後、共同事業体ではやらない」と断言した。CCCの広報は「これまでと変わりなく、両社で運営していくと認識している」とコメント」と。石井社長、CCC広報の双方のコメントがあるのは評価すべきことです。2社の温度差が著しいことが分かります。

NHKのテレビ番組「プロフェッショナル」は増田社長のキャラクターを掘り下げることによってその人間的魅力を描きえたものでした。失敗を恐れず挑戦するその姿勢は、不況によって慎重になっている既成勢力とは異なるブレイクスルーの新次元を生みだしうるものとして、視聴者の目に映ったのではないかと思われます。一方で、試行錯誤の連続ゆえに提携企業や取引企業にとっては身勝手だと思われるだろうことも想像できるわけで、石井社長の直言はそれを裏打ちするものです。コンセプトの錬成に時間をかけるのはいいですが、それ以外のことが犠牲になっては、協力者との関係性を損ねるのではないでしょうか。番組で「失敗を許容しうる成長戦略」と増田社長は仰っていたと思います。素晴らしいことです。しかし失敗の中で取引先の信用まで失ってしまうなら、それはただの「損」ではないかと疑問に思います。

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◆10月28日13時現在。
26日(月)に入金あり。一説によるとこれで債権者数はぐっと減るのだとか。これによって再生・統合への道筋を確固たるものにする、と。一部版元は蚊帳の外に出されたことになります。そしてこの推移によってかえって版元の視線は5位に向かうことに。

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◆10月29日17時現在。
「東洋経済」2015年10月28日付、杉本りうこ氏記名記事「TSUTAYA、誤解と憶測に満ちた会社の正体――メディアに出ないCCC増田社長が口を開く」は増田宗昭社長へのインタビュー。同誌の10月29日付記事「TSUTAYA図書館に協業企業が呆れた理由――CCCとの公立図書館運営の協業見直しへ」も杉本記者によるもので、TRCの谷一文子会長へのインタビュー。率直な意見の数々が非常に興味深いです。TRCはうすうす問題点に気づいていたはずで、なぜそこの充分なすり合わせを事前にCCCと時間をかけてしなかったのか。まったくしなかったとも思えません。徐々に違和感が蓄積し、市民から訴えられる段になってようやく「やっぱりダメか」となったということなのか。そうだとしてもやはりそれは判断が遅かったわけです。イノベーションにかけるCCCの思いというのも分からないではありません。しかし、図書館については不勉強すぎたのでしょうか。

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by urag | 2015-10-23 12:36 | 雑談 | Trackback | Comments(2)
2015年 10月 18日

注目新刊:エーコ編著『異世界の書』、ほか

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異世界の書――幻想領国地誌集成』ウンベルト・エーコ編著、三谷武司訳、東洋書林、2015年10月、本体9,500円、B5変型判上製480頁、ISBN978-4-88721-821-5
『セルバンテス』パウル・シェーアバルト著、垂野創一郎訳、沖積舎、2015年9月、本体2,500円、A5判並製104頁、ISBN978-4-8060-3072-0
ヘーゲルと国家』フランツ・ローゼンツヴァイク著、村岡晋一・橋本由美子訳、作品社、2015年10月、本体6,000円、A5判上製564頁、ISBN978-4-86182-542-2
シュレーバー回想録』D・P・シュレーバー著、尾川浩・金関猛訳、中公クラシックス、2015年10月、本体3,200円、新書判並製616頁、ISBN978-4-12-160160-5
ある神経病者の回想録』ダニエル・パウル・シュレーバー著、渡辺哲夫訳、講談社学術文庫、2015年10月、本体1,500円、A6判並製632頁、ISBN978-4-06-292326-2
からだ・こころ・生命』木村敏著、講談社学術文庫、2015年10月、本体600円、A6判並製128頁、ISBN978-4-06-292324-8
事件!――哲学とは何か』スラヴォイ・ジジェク著、鈴木晶訳、河出書房新社、2015年10月、本体1,500円、B6判並製224頁、ISBN978-4-309-62487-7
書籍文化とその基底』若尾政希編、平凡社、2015年10月、本体3,200円、4-6判上製360頁、ISBN978-4-582-40293-3

★エーコ編著『異世界の書』はまもなく発売(10月19日取次搬入予定)。原書は、Storia delle terre e dei luoghi leggendari (Bompiani, 2013)です。目次詳細は書名のリンク先で「詳細はこちら」をクリックしてご覧ください。西洋文明の想像力が生み出した様々な実在しない土地をめぐって、ギリシア・ラテンの古典から近現代の作品まで実に豊富な典籍を渉猟した、エーコの案内と作品の膨大な引用が織りなす一大アンソロジーです。エーコの芸術史三部作『美の歴史』『醜の歴史』『芸術の蒐集』に続く、オールカラー図版に溢れた大判の大冊。アトランティスもエルドラドもシャンバラももちろん取り上げられます。トマス・モアのユートピアも、カンパネッラの太陽の都も、ガリヴァー旅行記のフウイヌムも当然扱われています。この星の隠れた架空の場所を愛してやまない読者にとってはまたとない土地台帳であり、旅行の記録であり、〈一冊に折りたたまれた図書館〉であり、魅惑の源泉となるコーパスです。クリエイターさん必携の書、といったところでしょうか。2015年に刊行された人文書の中でも岩波書店の『ケルズの書』と並んで出色の一冊と言えます。

★シェーアバルト『セルバンテス』は発売済。原書は訳者あとがきによれば、「評伝叢書「ディー・ディヒトゥング」の第八巻として、ドイツのシュスター&レフラー社から1904年に刊行」されたとのことです。シェーアバルト自身による「まえがき」には、本作を『ドン・キホーテ』全4巻に倣い4部構成(正確に言うと4つの四半分)にしたこと、各部では章番号の代わりにCERVANTESの各アルファベットの飾り文字を用いたことが特記されています。飾り文字を手掛けたのがハインリヒ・フォーゲラーで、各部の合間に置かれた全3点の挿画はギュスターヴ・ドレによるものです。夢の世界に入り込んだと言うべきか、主人公の希望によって冥土から呼び寄せられたドン・キホーテとサンチョとセルバンテス(!)は巨大化したロシナンテに乗って登場し、主人公は彼らとともに冒険に出掛けます。36時間の旅の果て、主人公は地上に留まり冥土の三人はロシナンテとともにあの世に帰ります。訳者あとがきには「多彩繚乱たるシェーアバルト作品という玩具箱には、まだまだ珍品が埋もれています」とあります。原書では作品が11巻もの全集にまとめられ、批評をまとめた3巻本も現在ではあるそうですから、シェーアバルトの復権が日本でもますます進むといいなと思います。

★ローゼンツヴァイク『ヘーゲルと国家』は10月16日取次搬入済。書店での店頭発売は順次始まるものと思われます。原書は、Hegel und der Staat (Oldenbourg Verlag, 1920)です。2010年のズーアカンプ社ポケット版に付されたアクセル・ホネットによる「あとがき」と、フランク・ラッハマンによる「編集後記」も巻末に訳出されています。ローゼンツヴァイク(Franz Rosenzweig, 1886-1929)の訳書にはこれまでに、『救済の星』(村岡晋一・細見和之・小須田健訳、みすず書房、2009年)と『健康な悟性と病的な悟性』(村岡晋一訳、作品社、2011年)があります。今回の新刊も含め、すべてに村岡さんが関わっておられます。『救済の星』(原著1921年刊)の前年に刊行された本書『ヘーゲルと国家』は2部13章構成で、第一部「人生の諸段階(1700~1806)」は「序論」「シュトゥットガルト」「テュービンゲン」「ベルン」「二つの政治的著作」「フランクフルト」「イエナ(1803年まで)」「イエナ(1804年以後)」の8章から成り、第二部「世界的転換期(1801~1831)」は「ナポレオン」「王政復古」「プロイセン」「七月革命」「結語」の5章で構成されています。それらに先立つ「序文」でローゼンツヴァイクは、先行する3つのヘーゲル伝(ローゼンクランツ『ヘーゲル伝』みすず書房、ハイム『ヘーゲルとその時代』未訳、ディルタイ『ヘーゲルの青年時代』以文社/法政大学出版局など)に論究しつつ、自著の執筆動機にマイネッケ『世界市民主義と国民国家』(岩波オンデマンドブックス)からの刺激があったことを明かし、自著の目的を次のように書いています。ヘーゲルの「国家思想の生成過程をその思想家の生涯をつうじて追跡することで、その思想をいわば読者の目の前で解体し、それによって内的にも外的にももっと広々としたドイツの未来への展望を開くつもりでいた」(9~10頁)。「つもりでいた」という影が差した表現になっているのは第一次世界大戦によるもの。顧みられることが不当に少なかった幻の書の完訳は感動ものです。

★シュレーバー『ある神経病者の回想録』と『シュレーバー回想録』とはともに発売済。それぞれ親本は前者が筑摩書房の単行本(1990年11月刊)、後者は平凡社の単行本(1991年1月刊)およびライブラリー(2002年刊)でした。これほどの奇書にして古典的な作品が親本ではごく短期間に2種類も刊行されたということが当時は衝撃的なことでした。文庫化もほぼ同時(前者が10月9日、後者が10日発売)というのは何か運命的なものを感じます(異なる大版元が刊行を示し合わせるというのは存外に難しいことで、不可能に近いはずです)。『ある神経病者の回想録』は巻末の「学術文庫版あとがき」によれば「可能なかぎり訳文を磨き上げた」とのことです。『シュレーバー回想録』は平凡社ライブラリー版を加筆改訳したもので、ライブラリー版にあった訳者あとがき、石澤誠一さんによる解題、同じく石澤さんによる平凡社ライブラリー版あとがきの三篇は含まれず、その代わり巻頭に金関さんによる導入文「理性は狂気の一形態なのか?」が収められています。それぞれの親本の担当編集者(筑摩書房版は熊沢敏之さん、平凡社版は故・二宮隆洋さん)と、文庫化の担当編集者(講談社版は互盛央さん、中公版は不詳)に敬意を表し、単行本の時のように今回も2冊同時に購読したいものです。

★木村敏『からだ・こころ・生命』は発売済。親本は1997年刊の河合ブックレットです。「心身相関と間主観性」「人間学的医学における生と死」という二つの講演原稿で構成され、巻末にはブックレット版同様に、野家啓一さんによる解説「生と死のアクチュアリティ」が収められています。「学者の業績を評価する尺度の一つに「被引用度」と呼ばれる指標がある。〔・・・〕わが国で書かれる哲学論文をもとに他分野の学者の被引用度を調査すれば、精神医学者の木村敏さんがトップクラスに位置するであろうことは間違いない」という野家さんの評価は当時私の心に深く刻まれた言葉でした。本書は木村さんの文庫本の中でも一番コンパクトなものなので親しみやすいのではないかと思われます。巻頭の「学術文庫版まえがき」では、「これを書いているいま現在も、京都と名古屋の二箇所で定期的にヴァイツゼカーの著書の読書会をもっていて、元気さえ続けば翻訳出版も考えている」(6頁)と書かれておられます。木村さんが『ゲシュタルトクライス』『パトゾフィー』『生命と主体』『病いと人』、そしてほかならぬ講談社学術文庫では『病院論研究』を上梓されていることは周知の通りです。

★このほか今月の講談社学術文庫の新刊には講談社さんのシリーズからのスイッチで、熊野純彦さんの『再発見 日本の哲学 埴谷雄高――夢みるカント』や、現代新書からのスイッチで小泉義之さんの『ドゥルーズの哲学――生命・自然・未来のために』などがあります。来月の新刊では菅野覚明さんの『再発見 日本の哲学 吉本隆明――詩人の叡智』が出る予定で、「再発見 日本の哲学」シリーズは大森荘蔵、廣松渉、和辻哲郎、そして今月の埴谷雄高、と次々に文庫化されています。

★ジジェク『事件!』は発売済。原書は、Event (Penguin Books, 2014)です。巻頭には日本語版序文「日本的事件とは」が収められています。この序文の後半では「もっと日本独特の特性」として三つの出来事が取り上げられており、ガジェット(本書の言い回しでは「珍道具」)、鎖国、Fukushimaを掲げています。Fukushimaへの言及はさほど驚かないにしても、江戸時代の鎖国に論及したことには強い関心を覚えます(ジジェクが曽利文彦監督の2007年映画作品『ベクシル』を見たら何と言うでしょうか)。それはジジェクが本書の最後の方で書いている次のような文章に出会う時、一種異様な予感を催させるものです。「深刻に危機的な状況において何よりも必要なのは真の分裂、つまり古い枠組みの中に留まりたい人びとと、変革の必要性に気付いている人びととの分裂である。楽観的な妥協などではなく、そうした分裂こそが、真の統一への唯一の道なのである」(194頁)。これに続く文章はさらに戦慄を覚えさせるものですが、ジジェクはおそらく読者をからかうために書いているのではありません。社会状況がそう思わせるのか、『事件!』には日本の「今」に突き刺さる言葉があります。ひょっとしたら今日ほど日本人にとってジジェクに近づきやすくなっている時はなかったかもしれません。

★若尾政希編『書籍文化とその基底』はまもなく発売(10月23日発売予定)。「シリーズ〈本の文化史〉」第3弾。編者の若尾さんによる総論「書籍文化とその基底」を巻頭に置き、以下の9本の論考を収録しています。岩坪充雄「本の文化と文字環境」、若尾政希「近世日本の読書環境・流通環境」、梅村佳代「近世における民衆の手習いと読書――子どもの「器量」形成を中心として」、八鍬友広「往来物と書式文例集――「文書社会」のためのツール」、佐藤宏之「実録のながれ――「越後騒動」と歴史・記憶・メディア」、岩橋清美「歴史叙述と読書」、小池淳一「読書と民俗」、鈴木理恵「近世後期の教育環境としての漢学塾――咸宜園とその系譜塾」、和田敦彦「近代における書物の流通環境・読書環境の変容」。それぞれ非常に興味深い内容ですが、若尾さんと和田さんが取り上げている近世・近代における書籍の「流通史」は業界人必読かと思われます。
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by urag | 2015-10-18 23:36 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 10月 16日

ドアノー・フェア、『舞台芸術』19号、デュピュイをめぐる論集

★ロベール・ドアノーさん(著書:『不完全なレンズで』)
★堀江敏幸さん(訳書:ドアノー『不完全なレンズで』)
10月12日(月)から10月27日(火)にかけて開催中の「早稲田文化週間」の企画として一昨日10月14日(水)に早稲田大学・小野梓記念講堂にて行われた催事「ロベール・ドアノー:写真と朗読でつづる自伝的試み」に、堀江敏幸さんが御出演されました。その催事と連動して、早稲田大学生協戸山店(早稲田大学文学部キャンパス内)ではドアノーの写真集や訳書を集めたミニ・コーナーが来週23日(金)まで展開されています。同店では先日お知らせした無料冊子『まだまだ知らない 夢の書店ガイド』も配布中だそうです。皆様のお越しをお待ちしております。

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★やなぎみわさん(作品集:『White Casket』)
★京都造形芸術大学舞台芸術研究センターさん(発行:『舞台芸術』第一期全十巻)
『舞台芸術』第三期第19号「特集=〈京都〉からの発信/アートマネジメントの現在地から」が発行され、やなぎみわさん、四方田犬彦さん、渡部直己さん、浅田彰さんによる鼎談「『日輪の翼』上演に向けて」が掲載されています(88~107頁)。この鼎談は2014年11月14日(金)に京都造形芸術大学瓜生山キャンパス人間館ギャルリ・オーブにて行われた同大学大学院学術研究センター公開講座「中上健次シンポジウム 再び漂泊する路地のために~やなぎみわの『日輪の翼』トレーラー公演計画」の記録です。「移動舞台車」については以下に掲出した動画をご覧ください。すごい迫力です。なお、同誌第19号には『舞台芸術』誌の第一期(弊社発売)から第三期に至る道のりの回顧を含む座談会「「大学の劇場」その役割と課題をめぐって」(天野文雄×渡邊守章×八角聡仁×森山直人)が掲載されており(45~67頁)、非常に興味深いです。






★渡名喜庸哲さん(共訳:サラ-モランス『ソドム』)
以文社さんよりまもなく発売される(10月22日取次搬入予定)論文集『カタストロフからの哲学――ジャン=ピエール・デュピュイをめぐって』に編著者として関わられ、長文論考「J=P・デュピュイとカタストロフ論的転回」(41~100頁)を寄稿されています。同書には、西谷修さんによる序論「〈破局〉に向き合う思想――J=P・デュピュイ『聖なるものの刻印』から」と、中村大介さんの論考「デュピュイの科学哲学と破局論――システム論から出発して」、森元庸介さんの論考「救済の反エコノミー」が収録されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。書誌情報は以下の通りです。

カタストロフからの哲学――ジャン=ピエール・デュピュイをめぐって
渡名喜庸哲・森元庸介編著
以文社 2015年10月 本体2,200円 四六判上製200頁 ISBN 978-4-7531-0327-0

帯文より:3・11以後あらためて注目される現代フランスの思想家ジャン=ピエール・デュピュイの人類史的な全体像のエッセンスを描く。現代文明の破綻の認識を前に、知と行為のループをいかに作り直すか。われわれの未来をどう確保するのか? 科学と哲学を生存に埋め戻す。

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by urag | 2015-10-16 15:35 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 10月 11日

注目新刊:佐々木孝次さんによるラカン「レトゥルディ」の訳解、ほか

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ラカン「レトゥルディ」読解――《大意》と《評釈》
佐々木孝次著
せりか書房、2015年10月 本体5,000円 A5判上製378頁 ISBN978-4-7967-0346-8

帯文より:「レトゥルディ」は、ラカンが『エクリ』以降に執筆したもっとも長い、まとまりのある、唯一の論文である。難解をもってなるテキストの原文を掲げ、平易な日本語に翻訳し、詳しく解説した本書は、ラカンの精神分析の理論と実践の現場におもむき、その生きた息吹に接する必読の案内書である。

目次:
第Ⅰ部
第Ⅱ部
第Ⅲ部
補足的評註――「あとがき」にかえて

★発売済。もともとアンリ・ルーセル病院の創立50周年を記念して依頼されて、1972年7月14日にベルイユにて執筆されたもので、冒頭部分(本書では第I部)が病院の記念行事の際に発表され、後日残りの本論を含めた全文がパリ・フロイト派の機関誌である「シリセット」第4号(1973年)に掲載されました。さらにラカンの死後、『エクリ』以後のテクストをまとめた『他のエクリ』(本書では『オートル・ゼクリ』と表記;スイユ社、2001年4月)に収録されています。本書は「シリセット」版を用い『オートル・ゼクリ』版も参照して、原文を掲げ大意を翻訳で示し、それに評釈を加えたものです。「1966年の『エクリ』出版以後に書かれたものとしては、もっとも長文で、30年以上にわたる精神分析の経験と理論の到達点をコンパクトに伝えている」(373頁)と佐々木さんは紹介されています。

★「本論は、精神分析のディスクールを他のディスクールと区別して、それを強調するためのラカンの「ディスクール論」であると言ってもよい」(9頁)と佐々木さんは書きます。「ディスクールには、適当な訳語が見つからないが、それはひとが語ることによって、他のひとと社会的な絆を生みだしていく言語活動の実践面を指している。言いかえると、ひとがそれによってお互いのあいだに多少とも持続的な社会関係を作りあげていく話し方である。ラカンは、それを四つのタイプに分けて、「主人のディスクール」「ヒステリー者のディスクール」「大学人のディスクール」「分析者のディスクール」と呼んだ。ひとは、お互いにどういう言葉のやりとりをしようと、必ず四つのタイプのどれかのディスクールを実践しているのである」(同)。

★ラカンはこう言います、「ディスクールでは、それを構成する四つの要素が次つぎに交代して、四つのタイプを生みだすような輪舞が行われて」いる(64頁)、と。そしてこう続けます。「性関係は存在しない」(同)。この有名な言葉は後段でこう補足されています。「これは両性のあいだに性関係はないという意味であって、一方の側の他方の性に対する関係がないという意味ではない。〔・・・〕一方の他方の性に対する関係は、それぞれに半分の側において、それぞれのなかで明瞭でないのであり、関係は、それぞれのなかだけで割りふられているのである」(139頁)。「ディスクールにおいて性関係は存在しない、意味-不在〔ab-sence〕の関係として、性現象そのものを隠喩的に描くが、さらに口唇や肛門のような性器外的と言うべき、いわゆる前性器期的な、もっとも広く見られるお誂えむきの接近方法をとおして換喩的に描く。それによって、認識力のねじれを具体的に提示してみせるのである」(242頁)。

★ラカン理論の枢要を成す重要論考とはいえ初心者向きではなく、佐々木さんの長文の解説が示す読解のヒントがなければしんどい本ではあります。十全に理解するのは難しいとしても、ラカンの格闘ぶりは伝わってくるような気がします。本書に先だってディスクールの四つのタイプについて言及したラジオ番組「ラジオフォニー」は市村卓彦さんによる翻訳を『ディスクール』(弘文堂、1985年、品切)で読むことができ、本書のあとに続く講義については、佐々木さんらによる『ラカン『アンコール』解説』(せりか書房、2913年)に詳しいです。また、本書で言及されているシュレーバーの回想録については、今月、渡辺哲夫訳『ある神経病者の回想録』が講談社学術文庫(親本は筑摩書房より1990年刊)より、尾川浩・金関猛訳『シュレーバー回想録』が中公クラシックス(親本は平凡社より1991年刊、平凡社ライブラリー版が2002年)より、ちょうど発売されたばかりです。


物質と記憶』ベルクソン著、熊野純彦訳、岩波文庫、2015年9月、本体1,200円、528頁、ISBN978-4-00-389013-4
相対論の意味』アインシュタイン著、矢野健太郎訳、岩波文庫、2015年9月、本体800円、288頁、ISBN978-4-00-339342-0
カンディード』ヴォルテール著、斉藤悦則訳、光文社古典新訳文庫、2015年10月、本体980円、296頁、ISBN978-4-334-75319-1
間主観性の現象学(III)その行方』エトムント・フッサール著、浜渦辰二・山口一郎監訳、ちくま学芸文庫、2015年10月、本体1,700円、608頁、ISBN978-4-480-09692-0
コンヴィヴィアリティのための道具』イヴァン・イリイチ著、渡辺京二・渡辺梨佐訳、ちくま学芸文庫、2015年10月、本体1,100円、256頁、ISBN978-4-480-09688-3

★ここ最近の文庫新刊より注目書をいくつか挙げます。岩波文庫の『物質と記憶』は岩波文庫では1936年の高橋里美訳(親本は1914年)以来の待望の新訳です。底本はPUF(1939年)を使用し、ベルクソン生誕百周年記念版全集やPUFの新版も参照したとのことです。アインシュタインの講義録『相対論の意味』は岩波書店が1958年に単行本として刊行していたものを「若干の修訂をほどこして」(編集付記)文庫化したもの。一般相対性理論100年記念。解説は江沢洋さんです。

★『カンディード』には「「最善説」についてヴォルテール自身が疑念を抱くきっかけとなり、つづくいくつもの議論の土台になった」(版元紹介文より)という「リスボン震災に寄せる詩」を本邦初の完全訳で収録。解説「リスボン大震災に寄せる詩」から『カンディード』へ」は、渡名喜庸哲さんがお書きになっておられます。文庫で現在も入手可能な既訳には岩波文庫版『カンディード 他五篇』(植田祐次訳、2005年)があります。

★『間主観性の現象学(III)その行方』は『間主観性の現象学』抄訳全3巻の完結編。第一部「自我論(エゴロジー)」、第二部「モナド論(モナドロジー)」、第三部「時間と他者」、第四部「他者と目的論(テレオロジー)」の四部構成で34篇のテクストを収め、巻末には解題のほか、監訳者の浜渦さんと山口さんがそれぞれお寄せになった訳者解説が併載されています。『コンヴィヴィアリティのための道具』は『シャドウ・ワーク――生活のあり方を問う』(玉野井芳郎・栗原彬訳、岩波現代文庫、2006年)に続く、イリイチの著書の久しぶりの文庫化です。イリイチというと『脱学校の社会』『脱病院化社会』『ジェンダー』といった著作の方が有名なのかもしれませんが、『コンヴィヴィアリティのための道具』は隠れた名著であり、帯文にある通り、「脱成長論の思想的源泉」にして「新たな世界の具体像を示す、不朽のマニフェスト」で、彼の社会変革論がもっとも端的に示された著書です。イリイチ再発見のための導入部として最適の本であり、広くお薦めします。

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★今夏から秋にかけて当ブログでまだ取り上げることのできていない重要書はたくさんあります。すべてを購読するのは金銭的にも置き場所的にも無理です。いずれいくつかはあらためてご紹介したいと思います。

『風立ちぬ――宮崎駿の妄想カムバック』宮崎駿著、大日本絵画、2015年10月、本体2,200円、ISBN978-4-499-23167-1
『ほんとうの法華経』橋爪大三郎・植木雅俊著、ちくま新書、2015年10月、本体1,100円、ISBN978-4-480-06854-5
『タイム・イン・パワーズ・オブ・テン――一瞬から永遠まで、時間の流れの図鑑』ヘーラルト・トホーフト+ステファン・ヴァンドーレン著、東辻千枝子訳、講談社、2015年10月、本体5,500円、ISBN978-4-06-153155-0
『歴史を射つ――言語論的転回・文化史・パブリックヒストリー・ナショナルヒストリー』岡本充弘ほか編、御茶の水書房、2015年9月、本体5,500円、ISBN978-4-275-02022-2
『経済は、人類を幸せにできるのか?――〈ホモ・エコノミクス〉と21世紀世界』ダニエル・コーエン著、林昌宏訳、作品社、2015年9月、本体2,200円、46判上製256頁、ISBN978-4-86182-539-2
『ジョルジュ・バタイユの反建築――コンコルド広場占拠』ドゥニ・オリエ著、岩野卓司ほか訳、水声社、2015年9月、本体4,800円、ISBN978-4-8010-0126-8
『ハイデガー哲学は反ユダヤ主義か――「黒ノート」をめぐる討議』ペーター・トラヴニー+中田光雄+齋藤元紀編、水声社、2015年9月、本体3,000円、ISBN978-4-8010-0124-4
『図説ユダヤ・シンボル事典』エレン・フランケル著、ベツィ・P・トイチ画、木村光二訳、悠書館、2015年9月、本体6,000円、ISBN978-4-903487-91-5
『セルバンテス』パウル・シェーアバルト著、垂野創一郎訳、沖積舎、本体2,500円、ISBN978-4-8060-3072-0
『七つ星の宝石』ブラム・ストーカー著、森沢くみ子訳、アトリエサード、2015年9月、本体2,500円、ISBN978-4-88375-212-6
『仏の真理のことば註 ダンマパダ・アッタカター(一)』ブッダ・ゴーサ著、及川真介訳註、春秋社、2015年9月、本体16,000円、ISBN978-4-393-11331-8
『徳倫理学(ケンブリッジ・コンパニオン)』ダニエル・C・ラッセル編、立花幸司監訳、春秋社、2015年9月、本体5,200円、ISBN978-4-393-32353-3
『我々はどのような生き物なのか――ソフィア・レクチャーズ』ノーム・チョムスキー著、福井直樹・辻子美保子編訳、岩波書店、2015年9月、本体1,800円、ISBN978-4-00-006227-5
『西洋写本学』ベルンハルト・ビショッフ著、佐藤彰一・瀬戸直彦訳、岩波書店、2015年9月、本体12,500円、ISBN978-4-00-061065-0
『エラスムス『格言選集』』エラスムス著、金子晴勇編訳、知泉書館、2015年9月、本体2,200円、ISBN978-4-86285-216-8
『シュタイナー 天地の未来――地震・火山・戦争〔新装版〕』ルドルフ・シュタイナー著、西川隆範編訳、風濤社、本体2,500円、ISBN978-4-89219-404-7
『絶望から希望を導くために――ロゴセラピーの思想と実践』ヴィクトール・E・フランクル著、広岡義之訳、青土社、2015年9月、本体2,400円、ISBN978-4-7917-6883-7
『キャッツ――ポッサムおじさんの実用猫百科』T・S・エリオット著、E・ゴーリー挿画、小山太一訳、河出書房新社、2015年9月、本体1,300円、ISBN978-4-309-27633-5
『幸福と仁愛――生の自己実現と他者の地平』ローベルト・シュペーマン著、宮本久雄・山脇直司監訳、東京大学出版会、2015年9月、本体5,500円、ISBN978-4-13-010115-8
『デジタル・スタディーズ(2)メディア表象』石田英敬ほか編、東京大学出版会、2015年9月、本体4,800円、ISBN978-4-13-014142-0
『デジタル・スタディーズ(1)メディア哲学』石田英敬ほか編、東京大学出版会、2015年7月、本体3,800円、ISBN978-4-13-014141-3
『エウクレイデス全集(2)原論VII-X』斎藤憲訳解説、東京大学出版会、2015年8月、本体7,800円、ISBN978-4-13-065302-2
『サミュエル・ベケット短編小説集』片山昇・安堂信也訳、白水社、2015年9月、本体3,800円、ISBN978-4-560-08425-0
『知識の政治学――〈真理の生産〉はいかにして行われるか』金森修著、せりか書房、2015年9月、本体3,700円、ISBN978-4-7967-0345-1
『叢書ヒドラ 批評と運動1 特集:世界』菅孝行編、御茶の水書房、2015年8月、本体2,400円、ISBN978-4-275-02019-2
『印刷という革命――ルネサンスの本と日常生活』アンドルー・ペティグリー著、桑木野幸司訳、白水社、2015年8月、本体4,800円、ISBN978-4-560-08443-4
『分析美学基本論文集』西村清和編監訳、勁草書房、2015年8月、本体4,800円、ISBN978-4-326-80056-8
『エニグマ――アラン・チューリング伝(下)』アンドルー・ホッジス著、土屋俊ほか訳、勁草書房、2015年8月、本体2,700円、ISBN978-4-326-75054-2
『フランシス・クリック――遺伝暗号を発見した男』マット・リドレー著、田村浩二訳、勁草書房、2015年8月、本体2,400円、ISBN978-4-326-75055-9
『ルソー透明と障害〔新装版〕』ジャン・スタロバンスキー著、みすず書房、2015年7月、本体4,500円、ISBN978-4-622-07928-6
『生まれながらのサイボーグ――心・テクノロジー・知能の未来』アンディ・クラーク著、呉羽真ほか訳、春秋社、2015年7月、本体3,500円、ISBN978-4-393-32352-6
『第三の魔弾』レオ・ペルッツ著、前川道介訳、白水uブックス、2015年7月、本体1,600円、ISBN978-4-560-07201-1
『知識の社会史(2)百科全書からウィキペディアまで』ピーター・バーク著、井山弘幸訳、新曜社、2015年7月、本体4,800円、ISBN978-4-7885-1433-1
『ツンドラ・サバイバル』服部文祥著、みすず書房、2015年6月、本体2,400円、ISBN978-4-622-07918-7
『剣の刃』シャルル・ド・ゴール著、小野繁訳、文春学藝ライブラリー、2015年6月、本体1,000円、ISBN:978-4-16-813037-3
『目に見えるものの署名――ジェイムソン映画論』フレドリック・ジェイムソン著、椎名美智ほか訳、法政大学出版局、2015年6月、本体5,500円、ISBN978-4-588-01027-9
『マルセル・シュオッブ全集』大濱甫ほか訳、国書刊行会、2015年6月、本体15,000円、ISBN978-4-336-05909-3

★今回はこの中から『経済は、人類を幸せにできるのか?――〈ホモ・エコノミクス〉と21世紀世界』についてご紹介します。ダニエル・コーエン(Daniel Cohen, 1953-)はフランスの経済学者。教え子にはかのトマ・ピケティがいます。訳書には『迷走する資本主義――ポスト産業社会についての3つのレッスン』(林昌宏訳、新泉社、2009年)や『経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える』(林昌宏訳、作品社、2013年)があります。今回の新刊は、Homo Economicus: Prophète (égaré) des temps nouveaux (Albin Michel, 2012)の翻訳。「経済によって人間の幸せとは?」「失われる“労働”の魅力」「アメリカン・ウェイ・オブ・ライフの崩壊――「平等モデル」の瓦解と帝国の衰退」「台頭する新興国は幸福になったのか?」「グローバリゼーションは幸福をもたらしたか?」「技術革新は人間を進化させるか?――デジタル社会とダーウィニズム」「21世紀世界の幸福とは?」の7章立て。現代における幸福や富、豊かさを考え直す上で押さえておくべき世界情勢の明快な鳥瞰図を提示してくれます。ビジネスマン必読かと思われます。

★最後にラッセル編『徳倫理学』の関連書が今月続々と出版される予定なので言及しておきます。フィリッパ・フット『徳倫理学基本論文集』、ジョン・マクダウェル『徳と理性――マクダウェル倫理学論文集』はいずれも勁草書房さんの近刊。奈良雅俊『徳倫理学入門』は慶應義塾大学出版会さんの近刊です。昨年は春にフィリッパ・フット『人間にとって善とは何か――徳倫理学入門』(筑摩書房)、秋にロザリンド・ハーストハウス『徳倫理学について』(知泉書館)が刊行されていますし、徳倫理学(Virtue Ethics)のミニ・コーナーが作れるくらいの点数にはなってきそうです。
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by urag | 2015-10-11 22:44 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 10月 07日

お知らせなど:ガンディー、鶴見俊輔、ホホホ座

弊社出版物でお世話になっている著者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

★ショラル・ショルカルさん(著書:『エコ資本主義批判』)
マハトマ・ガンディーの生誕日(10月2日)を記念してブログに「The Environment of India's Silicon Valley Capital Bangalore - a few pictures」と題したエントリーを投稿されています。ショルカルさんは「賛成できない点がいくつかあるとはいえ、私はガンディーのことを現代世界における最初にしてもっとも必然的な環境保護主義者としてたいへん尊敬している」とメールで教えてくれました。

エントリーでは1928年のガンディーの言葉を紹介するとともに、「ガーディアン」紙で報じられたインドの「シリコンバレー」と呼ばれるバンガロールにおける湖の汚染の写真を紹介しています。ガンディーの言葉はこうです。「たった一つの小さな島国(イギリス)の経済的帝国主義が世界を鎖で縛りつけ続けている。もし〔インドの当時の〕全国民3億人がイギリスと似たような経済的搾取を始めるならば、イナゴのように世界を丸裸にしてしまうだろう」。

バンガロールの湖が化学汚染によって大量の白い泡で満たされ、その泡が沿岸の街まで吹き飛ばされている写真に言及しながら、ショルカルさんはこう述べています。「これは第三世界がより豊かになり同時により人口が増えていくことに対して払う代償のほんの一部に過ぎない。インドの現在の人口はざっと13億人なのだ」。


★上野俊哉さん(著書:『アーバン・トライバル・スタディーズ』)
『現代思想』2015年10月臨時増刊号「総特集=鶴見俊輔」に、「The Wrong Goodbye、あるいは「かくれホワイトヘッド」について」(180-189頁)と題した論文を寄稿されています。末尾近くで上野さんはこう論じられています。

「二つの矛盾し、対立する観念や論理がある場合、これを総合、統一した原理をすぐには思い描かない思考、いったん止まって考えている営みの「持続可能性」を鶴見はつねに目指そうとした。これは単に弁証法や二項対立の思考様式の拒否ではない。むしろ、対立を極限までおしすすめてみることであり、ときにこの対立のなかに、総合の手前で、そして来るべき総合のあとにもあるかもしれない「どちらもいい」を意志的に選びとる身ぶりである。そしてこの立場はときに「どちら(で)もいい」という微調整も受けいれる。強制されない、管理されずに、(権)力と向きあうために、また自らのうちに作動する権力やシステムを直視しながら、その「空気を読まず、空気を抜く」ためにそうする。/言いかえれば、それぞれの契機や要素が、自らのなわばり(作動領域)をはみだしながら、しかしなお自らの特異性をはらみながら――保つ(留保する)のではない!――お互いの意味を互いに逸れながら同時に内包する/含意する「どちら(で)もいい」inclusive or、そんな相互的内包mutual inclusionを鶴見の思考は一貫して追いつづけていた」(188頁)。

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私事で恐縮ですが、今月25日、AZ KYOTOさん主催のイベント「京都で出版社をつくる(には)」第1回のゲストとして出演させていただくことになりました。ホストはホホホ座さんの山下賢二さんと松本伸哉さんです。すでに参加申込が定員に達してしまったようです。ご報告が遅くなりすみません。皆様にお目に掛かるのを楽しみにしております。

◎【イベント】「第1回 京都で出版社をつくる(には)」ホホホ座 × 月曜社取締役 小林浩

【日時】2015年10月25日(日)14:00~17:00
【会場】Impact Hub Kyoto
〒602-0898 京都府京都市上京区相国寺門前町682
京都駅から地下鉄烏丸線「鞍馬口駅」で下車。1番出口から南(今出川通、同志社大学方面)へ歩き、Daily Yamazakiを超えてすぐ。徒歩3分程度。
【参加費】1,500円
【スケジュール】
13:30~ 開場
14:00~ トークイベント開始
15:00~ 休憩
15:10~ 再開
15:30~ 質疑応答
16:00  終了
~17:00 ゲスト・参加者による交流会

【内容】リトルプレスやZINEをつくるのもいいですが、いっそ出版社をつくってみてはいかがでしょうか。つくる人がいて、読む人がいます。でも私たちは本をつくっている人のことをほとんど知りません。出版社の「中の人」のことを知ることで本がもっと身近なものになります。そしてじぶんも本をつくりたくなってきます。そんな人がたくさん現れて新しい出版社ができれば、京都の出版文化がもっとにぎやかになるはずです。読む人も、つくりたい人も、つくっている人も、「本」を愛するすべての人のための連続イベントが開幕します。第1回目のゲストは月曜社の取締役小林浩さん。ホストはご存知ホホホ座のメンバー、山下さんと松本さん。本のつくりかた、売りかた、出版社のつくりかたを知る、絶好の機会です。京都の本好きはふるってご参加ください!!!「そもそも出版社って ? (リトルプレスをつくってるだけじゃ出版社といえないの ? )」」「本をつくるのにどんな人がかかわっているの?」「本をつくるのにどのくらい(お金・時間)がかかるの?」「自分がつくった本を本屋さんで置いてもらえるの?」「出版社って儲かるの?」「ひとりで出版社ってつくれるの?」などなど、知らないことをなんでも聞いてください。つくるプロと売るプロが全部お答えいたします!!

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by urag | 2015-10-07 17:44 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2015年 10月 06日

備忘録(6)

◆10月6日14時現在。

2018年のオープンを目指し42億円の建設費をかけて新設される予定だった小牧市のいわゆる「ツタヤ図書館」への賛否を巡る住民投票が4日に行われ(当日有権者数11万6624人、投票率50.38%)、反対3万2352票、賛成は2万4981票、無効1427票という結果が出ました。

「読売新聞」10月5日付記事「「ツタヤ図書館」反対…愛知・小牧市の住民投票」に曰く「市議選が同じ日に行われたこともあり、住民投票の投票率は50.38%」。「住民投票に法的拘束力はないが、小牧市は「結果を尊重する」としている。市の中心部に約42億円の建設費を投じて地上3階、地下1階の建物を造る計画は、見直しを迫られることになった」と。市議選と同日だったことは幸いだったと思います。

「毎日新聞」10月5日付記事「小牧市住民投票:新図書館に反対多数…計画見直しへ」に曰く「市は当初、図書館を既存の商業施設内に建設する計画だったが、昨年、ツタヤによる運営方式に変更。市民団体「小牧の図書館を考える会」(渡辺育代共同代表)は「市民無視の計画」と反発し、住民投票条例の制定を求めて今年8月、5713人の署名を添え、直接請求した。市議会は先月10日、この条例案は否決したが、議員提出の住民投票条例を可決した」と。市議会は何がやりたいのでしょう。

「ハフィントン・ポスト」10月5日付、安藤健二氏記名記事「TSUTAYA図書館に「NO!」 愛知県小牧市の住民投票で反対多数」に曰く「市長提出の条例案は市議会で否決されたが、これとは別に議員提出の条例が可決され成立した。条例は市長や市議会が投票結果を尊重するよう規定している」。「「TSUTAYA図書館」は、CCCが指定管理者となる公立図書館の通称。2013年4月にリニューアルした「武雄市図書館・歴史資料館」を皮切りに、2015年4月からは神奈川県の海老名市立中央図書館も、CCCが指定管理者になった。宮城県の多賀城市立図書館でも、2016年3月のJR多賀城駅前の移転を機にCCCが管理を担うようになる」と。今後も小牧市では市民の監視が強まるでしょうし、他県でも同様でしょう。

「朝日新聞」10月5日付記事「ツタヤ図書館計画、反対多数 愛知・小牧市住民投票」に曰く「CCCの広報担当者は5日朝、朝日新聞の電話取材に対し、「建築費用の問題が問われたと認識している。CCCとしても高いと思っていたので、再検討の機会が得られた意味で今回の結果は良かった」。一方で図書館建設については「撤退する考えはなく、仕切り直しになった場合は建築費を抑えたプランなどを提案したい」と話した」と。高いと思っていた、という言い分は却って小牧市民の反感を買うだけでは。

「ITmedia ビジネスオンライン」10月5日付記事「小牧市“TSUTAYA図書館”賛否問う住民投票、反対多数に」に曰く「新図書館計画は、名鉄小牧駅前に書店やカフェなどを併設した図書館を2018年オープンを目指し整備するもので、建設費は42億円。CCCと図書館流通センター(TRC)の共同事業体を指定管理者候補としている」と。CCCとTRCの組み合わせは今月オープンした海老名市立中央図書館と同じです。

「佐賀新聞」10月6日付記事「小牧市住民投票、ツタヤ図書館反対が56%」に曰く「結果判明後、計画に反対する市民団体の代表渡辺育代さん(65)は記者団に「市民の意見を聞かず民間企業に運営を丸投げしようとした結果だ。今後、全国でツタヤ方式に反対する住民運動が活発になるだろう」と強調」。武雄市図書館の裁判のゆくえも気になります。

2015年10月19日(月) 午後10時~10時48分放送予定のNHKテレビ番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」第279回は「常識の外に、未来はある」と題して、CCCの増田宗昭社長が登場。内容紹介文に曰く「出版不況の中、右肩上がりに売り上げを伸ばす書店や、量販店の閉店ラッシュの中にあって、1日3万人の集客をあげる家電店など、ネットの隆盛でジリ貧の小売業界で革命を起こしている起業家がいる。日本最大のレンタルチェーンの創業者・増田宗昭(64)だ。裸一貫から立ち上げたビデオCDレンタル店で一大チェーンを築き上げたにもかかわらず、増田はみずからの仕事をレンタル業ではなく、企画業だという。業界に先駆けて始め、会員数5,500万人を誇るポイントカード事業や、「居心地がいい」「発見がある」などの生身の体験を重視した新業態の店舗を次々と企画してきたからだ」。《企画屋》としてのポジショニングについては、例えば『TSUTAYAの謎――増田宗昭に川島蓉子が聞く』(日経BP社、2015年4月)の第1章「なぜ、TSUTAYAが家電店?」をご参照ください。

NHKの番組紹介の続きに曰く「この夏、増田は前例のないプロジェクトを打ち上げた。大阪の郊外に地上8階建て、5,000坪の百貨店を建設するという計画だ。しかし、増田が店舗を建設する駅前では、これまで相次いで百貨店が閉鎖してきた。目を引くような仕掛けを作らなければ、集客にはつながらない。来春のオープンが近づく中、増田がとった戦略とは。プロジェクトに密着し、失敗のリスクが高いからこそあえて挑むという増田の哲学に迫る」と。現在、良くも悪くも民放で「ツタヤ図書館」が取り上げられる頻度があがっているさなかに、なおかつ同じタイミングでNHKでの特集番組となると、称賛にせよ炎上にせよ、ツタヤ図書館と百貨店計画の宣伝効果は先月の紀伊國屋書店による春樹本買取のニュースより確実に大きくなりそうです。そういう《嵐の星》の運命を増田さんが摑んでいる、ということかもしれず、そのダイナミズムには賛否を超えて瞠目すべきものがあります。

以下は「都市とライフスタイルの未来を描く」」ことを目標とした国際会議Inovation City Forum第1回会議のうち、2013年10月17日のセッションのひとつとして行われた増田宗昭さんによる講演「美と生活をデザインする街」の動画です。必聴。



また、ご参考までに、「2013年度グッドデザイン・ベスト100」のひとつとして武雄市図書館・歴史資料館が選ばれ、武雄市およびカルチュア・コンビニエンス・クラブが受賞した際の、デザイナーズ・プレゼンテーションとして行われた、樋渡啓祐さん(当時・武雄市長)によるスピーチ「図書館が街をデザインする」も御覧ください。



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by urag | 2015-10-06 14:44 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2015年 10月 04日

注目新刊:フィンク『「エクリ」を読む』、ほか

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「エクリ」を読む――文字に添って』ブルース・フィンク著、上尾真道・小倉拓也・渋谷亮訳、人文書院、2015年9月、本体4,500円、A5判上製286頁、ISBN978-4-409-33052-4
日本史学』保立道久著、人文書院、2015年9月、本体1,900円、4-6判並製200頁、ISBN978-4-409-00112-7

★『「エクリ」を読む』は発売済。原書は、Lacan to the Letter: Reading Écrits Closely (University of Minnesota)です。帯文に曰く「ラカン『エクリ』(1966年)の初めての完全版英訳者ブルース・フィンクによる、忠実な読解。シニフィアン連鎖を扱った「無意識における文字の審級」、欲望論「主体の転覆」など、ラカンの代表的論文、概念が明晰な読解で甦る」。版元サイトでは目次が公開されているほか、序をPDFで読むことができます。フィンクは読解の二つの方針をこう述べています。一つ目は「ラカンを文字どおりに受け取る。つまり、多くの場合ラカンは自分が言いたいことをはっきり述べている(つまり、彼が語っていることを把握するために別のところをいつも探し回らなくてもよい)、そのように信じる、あるいは賭ける」。二つ目は「私は、彼が用いる特殊な言葉や表現が、彼が言わんとしていることの理解と無関係ではないと思っている。このような考えから私は、彼のテクストの「文字性 literality」と呼びうるもの、すなわちテクストの文字的性質と文学的性質を強調している」。

★ラカンについての入門書や研究書は色々あって、当然のことながらそこで取り上げられるのは『エクリ』であり『セミネール』であるわけなのですけれども、上記のフィンクの方針は彼自身の反省(理論装置を注釈することばかりに気をとられるのではなく、テクストを詳細に説明しようという努力)の明確さゆえに、彼の既訳書(『ラカン派精神分析入門』『精神分析の基礎』『後期ラカン入門』)の中でも特に注目が集まるのではないかと思われます。本書の第6章「テクストの外で――知と享楽:セミネール第20巻の注釈」は、未訳のセミネール『アンコール』を扱ったもの。『アンコール』はいずれ岩波書店から刊行されることと思われますが、日本語で読める解説書としては、一昨年、佐々木孝次・荒谷大輔・小長野航太・林行秀著『ラカン『アンコール』解説』(せりか書房、2013年8月)が刊行されています。

★また『エクリ』をめぐっては、その中核をなす論考の新訳が以下の通り今冬に刊行されています。ジャック・ラカン『精神分析における話と言語活動の機能と領野――ローマ大学心理学研究所において行われたローマ会議での報告 1953年9月26日・27日』(新宮一成訳、弘文堂、2015年2月、本体4,000円、A5判上製192頁、ISBN978-4-335-15048-7)。この論考は『エクリ』第1巻に竹内迪也訳で「精神分析における言葉〔パロール〕と言語活動〔ランガージュ〕の機能と領野」(弘文堂、1972年、321~445頁)として収められています。

★さらに今月は、次の2冊の新刊が出ます。佐々木孝次訳注『ラカン「レトゥルディ」読解――《大意》と《評釈》』(せりか書房、2015年10月、本体5,400円、A5判375頁、ISBN978-4-7967-0346-8)は10月8日取次搬入、ラカンのセミネール第8巻『転移(上)』(ジャック=アラン・ミレール編、小出浩之・鈴木國文・菅原誠一訳、岩波書店、2015年10月、本体5,200円、A5判上製312頁、ISBN978-4-00-024051-2)は10月27日発売予定です。前者は雑誌広告によれば「『エクリ』以降に執筆した最も長い、唯一の論考である『レトゥルディ』――テキストの原文を掲げ、平易に翻訳し、詳しく解説した本書は、ラカンの精神分析の理論と実践の現場での生きた息吹を伝える必読書」とのこと。後者は版元サイトに曰く「セミネール第8巻の本書において、いよいよ精神分析の根幹的現象「転移」にラカンは足を踏み入れる。プラトン『饗宴』の斬新な新解釈を通じて、愛を、自他の織りなす欲望の乱反射として捉え返すラカンの言葉は、中期ラカンに到る重要なターニングポイントをなすとともに、現代を覆う生の困難に鋭く風穴を穿つ。全2冊」と。フィンクの本を含め新刊が3冊続き、さながら《ラカン祭》といったところです。

★人文書院さんではまもなく、「ブックガイドシリーズ 基本の30冊」の最新刊として、保立道久さんによる『日本史学』が発売されます。10月8日取次搬入予定。帯文に曰く「考古学から現代史まで、時代と分野を越えた画期的ガイド」と。取り上げられる書目を記した目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。このシリーズはそれぞれの分野を学びたい一般読者にとって有益であるだけでなく、書店員さんにとっても棚を作る上で参考になると思います。


グノーシスと古代末期の精神 第一部 神話論的グノーシス』ハンス・ヨナス著、大貫隆訳、ぷねうま舎、2015年9月、本体6,800円、A5判上製566頁、ISBN978-4-906791-49-1
にもかかわらず 1900-1930』アドルフ・ロース著、鈴木了二・中谷礼仁監修、加藤淳訳、みすず書房、2015年9月、本体4,800円、A5判上製336頁、ISBN978-4-622-07887-6
未来テクノロジーの設計図 ニコラ・テスラの[完全技術]解説書――高電圧高周波交流電源と無線電力輸送のすべて』ニコラ・テスラ著、井口和基訳・解説、ヒカルランド、2015年9月、本体2,500円、四六判上製334頁、ISBN978-4-86471-310-8
迷子たちの街』パトリック・モディアノ著、平中悠一訳、作品社、2015年9月、本体1,900円、46判上製216頁、ISBN978-4-86182-551-4

★『グノーシスと古代末期の精神 第一部 神話論的グノーシス』は発売済。原書は、Gnosis und spätantiker Geistです。訳者あとがきが今月中旬刊行予定である第二部末尾に付されるため底本情報が確認できませんが、1934年の初版本へのルドルフ・ブルトマンによるまえがきや、第二版(1954年)と第三版(1964年)への著者自身によるまえがきが訳出されています。なお第三版の原書に付されている索引は本訳書では省略されています。細かい字の二段組で500頁以上ある大冊なので、やむをえないでしょう。本書の姉妹編とも子孫とも言うべき1958年のThe Gnostic Religion: The Message of the Alien God & the Beginnings of Christianityは、1964年の第二版(改訂版)が『グノーシスの宗教――異邦の神の福音とキリスト教の端緒』(秋山さと子・入江良平訳、人文書院、1986年、現在品切)として訳されており、こちらには巻末に固有名詞索引が付されています。

★『にもかかわらず 1900-1930』は発売済。原書は、Trotzdem: 1900-1930 (Brenner, 1939)です。「本書は30歳から60歳にかけてこれらメディア〔日刊紙や雑誌〕で書き綴られた論考31篇(うち本邦初訳は14篇)を収録しており、建築家として日の目を見はじめた時期から、社会で一挙手一投足が注目され、後進の育成にも力を入れた黄金期、ともに熱い時代を駆け抜けた有名無名の同志たちを看取った晩年までのロースの全体像があますところなく伝わる著作である」と訳者あとがきで紹介されています。造本は羽良多平吉さん。訳者あとがきや監修者の中谷さんによる解題では明記されていませんが、訳者、監修者、デザイナーのこの組み合わせから察するに、本書は昨夏に出版活動を停止した編集出版組織体アセテートによる『アドルフ・ロース著作集』の後継企画であると見ていいと思います。贅沢を言えば、書斎で並べて満足するにはアセテート版『アドルフ・ロース著作集(1)虚空へ向けて』(アドルフ・ロース著、加藤淳訳、鈴木了二・中谷礼仁監修、編集出版組織体アセテート、2012年4月、本体2,800円、A5変型判並製314頁、ISBN978-4-902539-21-9)の装丁をほとんどそのまま踏襲してもらうのが一番良かったのですけれども・・・まあこれは嗜好の問題で私はアセテート版のような軽装が好きだったのです(むろん、みすず版も素敵で、カヴァーを脱がせても素晴らしいです)。なお、『にもかかわらず』と内容的に重なる部分が多い既訳書にロングセラーの『装飾と犯罪――建築・文化論集』(伊藤哲夫訳、中央公論美術出版、2005年;新装普及版2011年;改題増補改訂前の初版は『装飾と罪悪――建築・文化論集』1987年)があるのは周知の通りです。

★『ニコラ・テスラの[完全技術]解説書』は発売済。電気自動車メーカーの社名にも採用されて近年ますます人口に膾炙した感のある「テスラ」ですけれども、その天才ぶりの割には訳書は多くありません。私の知る限りで言えば、1891年の論文の翻訳「単極発電機に関するノート」(多湖敬彦訳編『未知のエネルギーフィールド』所収、世論時報社、1992年、29~38頁)、『わが発明(My Invention)』(1919年)の訳書『テスラ自伝――わが発明と生涯』(新戸雅章監訳、テスラ研究所、2003年;改訂第二版2009年)、『わが発明』新訳と『増大する人類エネルギーの問題』(1900年)の初訳をカップリングした『ニコラ・テスラ 秘密の告白』(宮本寿代訳、成甲書房、2013年)があるだけだったかと思います(新戸さんによる翻訳と研究を含む『ニコラ・テスラ研究』創刊号は未刊のようです)。今回の新刊で訳されたのは、ロンドンでの1892年の実演講義「高電圧高周波の交流を用いた実験」の講義録と、1904年の論文「電線を用いない電気エネルギー伝達」です。いずれの訳書も理工書版元が刊行したものではないため、色眼鏡で見る向きもあるのかもしれませんが、特定分野の翻訳出版は時として専門書版元ではなしえない場合がままあることを読書人なら知っているものです。好みはしばらく措いて接するのが肝要で、そこに読書という自由の醍醐味があるわけです。

★『迷子たちの街』は発売済。原書は、Quartier perdu (Gallimard, 1984)です。2014年にノーベル文学賞を受賞してから、パトリック・モディアノの訳書は例年に増してさかんに出版されています。2015年には1月に『廃墟に咲く花』(根岸純訳、キノブックス;パロル舎、1999年)と『嫌なことは後まわし』(根岸純訳、キノブックス)が刊行され、2月には『地平線』(小谷奈津子訳、水声社)、5月には『あなたがこの辺りで迷わないように』(余田安広訳、水声社)、そして9月には本書という風に続いています。帯文に曰く「ミステリ作家の「僕」が訪れた20年ぶりの故郷・パリに、封印された過去。息詰まる暑さの街に《亡霊たち》とのデッドヒートが今はじまる――」。作家でもある訳者の平中さんは「初読後には、まずチャンドラーの『長いお別れ』のような翻訳をじつは思い描いたのだが、結局訳していくなかで、意外にサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』にも一脈通じるイノセンスの問題が前面に出ているようにも感じた」と巻末のノートで感想を述べておられます。
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by urag | 2015-10-04 23:16 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)