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2015年 09月 29日

備忘録(2)

◆9月29日16時現在。

「読売新聞」2015年9月29日付記事「「春樹本」で好評、直接仕入れ拡大へ…紀伊国屋」に注目。無料で読める部分の記事では、「村上春樹氏の新刊本の9割を出版社から直接仕入れる異例の取り組みが好評」なので、「出版社からの本の直接仕入れの拡大に乗り出す方針」であるというのがポイントです。この「好評」というのがどこからの評価なのかが気になります。

より興味深いのは記事の続きです。この記事は、読売記者の山内竜介さんが紀伊國屋書店の高井昌史社長に直接取材したものです。続きを読むには有料会員登録するか、紙媒体を買うなどするしかないのでそのままそっくり引用するわけにはいきませんが、社長の発言でいくつか目に留まったポイントがあるので列記します。

まず「返品はできないが、リスクを取らないと新しいことはできない。(他の書店からも)非常に好評だ」と。リスクを取らないと新しいことができないというご発言に共感を覚えます。ただし、他書店からも好評かどうかという点については、どの書店の誰から好評を得たのかというのが曖昧なままなのが少し残念です。少なくとも私自身は痛烈な批判なら直接聞いたことがあります。

次に「(返品ができる)委託販売制度は、金属疲労を起こしている」と。この部分は重要で、出版業界はこの問題を今後ますます掘り下げざるをえないでしょう。高い返品率というムダをなくすためにも「流通ルートはいくつかの選択肢があるべき」というのが社長のご意見のようです。その選択肢であり解決策のひとつが版元との直取引であると。

最後に「ほかの出版社から、うちも考えたいという話が来ている」と。複数の出版社から低正味買切の直取引の打診があるということでしょう。これは春樹本発売前に日経新聞でも示唆されていたことなので驚きませんが、DNP傘下書店との連携による買取もいよいよ「実証実験」に入っていくと予告されています。

アマゾン・ジャパンもまた出版社との直取引数を拡大しようとこのところ積極姿勢を強めていることは先日書きました。しかしアマゾンと紀伊國屋書店では直取引のポイントがかなり異なります。アマゾンはその巨大な物流網を武器に、他品種を少量ずつ切れ目なく在庫する「ロングテール」戦略に特徴があります。アマゾンのこれまでのロジックから言えば、いくら現金を持っていても一商品を大量に買い取るというのはネット書店として合理的ではありません。アマゾンが紀伊國屋書店に対抗して春樹本の次回作を買い占めるなどということは業界人にとっては想像しにくいです。

一方、紀伊國屋書店はリアル書店であって、「ロングテール」を選ぼうにも限界があります。そのため、アマゾンとは逆を張って「ベストセラー」戦略を選んだのでしょう。つまり、品揃えでは対抗しがたい部分がどうしてもあるけれど、特定の品目についてはアマゾンを出し抜くことができるというわけです。さらに言えばこの戦略は、高井社長が外商ご出身であるからこそ決断しえたのではないかとも思えます。店売経験が長い方では、初版の9割を買い取るという発想はしにくいのではないでしょうか。初版部数から算定してウチの店ではこれくらいの冊数が売れるだろう、という計算から、個人客を相手に着実に販売冊数を刻んでいく仕事の積み重ねが店売の領分です。他方、外商は店売より遥かに金額が大きい取引案件を扱うことがあり、上得意の個人客や法人が商売相手ですから、勝負の勘所が店売のそれとは違うわけです。

紀伊國屋書店とアマゾンはこのように戦略が異なるので、今後注目すべきなのは、出版社がどちらをより魅力的な取引先と考えるのか、という点です。大半の出版社はベストセラーとは無縁なので、紀伊國屋書店が買い取りたくなるような商品は持ち合わせていません。しかし、ベストセラーとは無縁の出版社がアマゾンを選ぶかと言えば必ずしもそうとは言い切れないでしょう。アマゾンの現状の直取引条件に乗れるのは刊行点数や稼働点数が多くて、大量の送品が日常的になるであろう版元に限られます。点数が少なく、販売量もさほど多いとはいえない出版社は、取次経由での取引で充分であり、取次外しのメリットはさほど享受できないでしょう。

ただし、取次外しには乗りようがないとしても、返品可能な委託制度自体の是非を問うことは避けられないと思われます。避けられはしないものの、かと言って全体としては買切制(責任販売制)にも移行はしにくい。買切制にするなら価格決定権を書店さんに譲るべき、というのが私の個人的意見ですが、自由価格になれば必然的に価格破壊(あるいは逆に価格高騰)も起こりえるわけで(アマゾン・マーケットプレイスのような値動き)、再販制(再販売価格維持制度)は瓦解しかねないのかもしれません。そうしたリスクがあるとはいえ、再販制を維持しつつ、非再販(自由価格)の対象商品を広げるというのは当面の試みとしてありうるのでは、と予感しています。

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by urag | 2015-09-29 17:24 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2015年 09月 28日

備忘録(1)

情報交換と情況共有がますます重要性を増して個人間のやりとりとして潜行していく過程にある昨今、そろそろ頃合かと思うので、「雑談」から「備忘録」へとタイトルを変更します。

◆2015年9月28日午前10時現在。

「神奈川新聞」9月25日付記事「不適切図書混入の疑い 海老名市立中央図書館 指定管理目前 選書でつまずき 市教委 確認に追われ」に注目。コメント欄のあるヤフーニュース版はこちら

海老名市立中央図書館は「老朽化による大規模改修のため、昨年11月に閉館して今年10月1日に指定管理制度を導入してリニューアルオープンする。総事業費は10億7900万円で、利用者目標は年間100万人。壁面などを有効活用して開架図書を約12万冊から約25万冊に増やす。目的外使用エリアを新設して指定管理者がカフェや書店も運営する」。武雄市図書館に続くいわゆるツタヤ図書館(図書館+書店+カフェ)です。

「新規購入予定の図書に発行の古い本など不適正なものが含まれているのではないかとの指摘があり、市教育委員会が確認に追われている。〔・・・〕指定管理者として管理権限を委任されているのは、CCCと図書館流通センター(TRC)の共同事業体」。「海老名市教委は8月下旬に週刊誌の報道などで〔武雄市図書館問題を〕知り、同市でもこうした問題が起きないよう、9月に入って指定管理者側から約8300冊の購入リストの提出を求め、確認作業を行っているという。伊藤文康教育長は「不適正と思われる図書はざっと見て100冊以上はあった」と話している」。ざっと見て100冊以上となると、しっかり見ればそれ以上の数字になることは間違いないでしょう。

「内野優市長は「市民に疑惑、疑念を持たれないように対処したい」、伊藤教育長は「図書購入リストは凍結、選書はやり直す」などとそれぞれ答弁。選書・除籍の業務は教育長決裁に見直す考えを示した」。まあそうならざるをえないでしょうね。

「市と指定管理者が締結した協定などによると、選書は市教委側が図書館法などに基づいて作成した基準を示し、指定管理者がリストアップして購入。基準には対象外としてコミックやタレント本などを列挙しているが、中古本などは明記されていない。市教委側が購入前に確認する手順にもなっていなかったという」。報道や指摘がなければそのまま自治体側の確認なしに「選書」が通っていたかもしれないという怖ろしさ。

「TRC会長の谷一文子・同図書館統括館長は「リストはCCCが予備的に作成したもの。不適正な本も見られるが、選書経験の長いTRC側がチェックする前のものだった」と説明」。CCCの影響でTRCの印象も悪くなりかねないことは避けられそうにありません。

谷一文子さんについては「SankeiBiz」2014年9月29日付記事「【ウーマンシップ】図書館流通センター・谷一文子会長」に曰く「大学卒業後、岡山県内の病院で臨床心理士として勤務したのち、岡山市の中学校、公共図書館の司書として7年ほど務める。その後、夫の東京転勤に伴ってTRCに入社する。データ部、図書館の運営をサポートする部署の責任者を経て2006年、社長に就任。昨年会長に、今年4月からは会長職のまま、神奈川県の海老名市立中央図書館長に就任した」とのこと。

さらに「朝日新聞」2015年9月28日付、松下和彦氏記名記事「「ツタヤ図書館」賛否問う 愛知・小牧で住民投票告示」にも注目。

「愛知県小牧市の図書館建設計画を巡る住民投票が27日、告示された。レンタル大手「ツタヤ」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と連携した計画の賛否を問う。同日告示の市議選と同じ有権者が10月4日に投票し、即日開票される。/小牧市は、CCCの助言を反映した基本設計案を策定。「ツタヤ図書館」として話題を呼んだ佐賀県の武雄市図書館と同様、書店やカフェを併設し、名鉄小牧駅前のにぎわい創出を期待する。建設費は42億円で3年後の開館を目指す」。小牧市立図書館も建設アドバイザリー業務受託者としてCCC・TRC共同事業体が選定されています。

市の9月17日付公示「新図書館の建設」によれば「新図書館は、現図書館の老朽化や狭隘化などの問題に対応するために建設するものです。/さらに、小牧駅前の市有地に建設することで、利用者の利便性向上を図るとともに、中心市街地のにぎわい創出にもつながることを期待するものです」と。書物が関わるビジネスの中で、図書館建設というのは街づくりに直結する事業であり、もっともカネがかかる規模のものです。小牧市の住民投票の行方が気になります。

※武雄市図書館蔵書用にCCCがネットオフから100円本を買い付けたとされる件に関しては、「週プレニュース」2015年9月7日付記事「大批判の渦中、ツタヤ図書館が身内の中古書店から“無用の100円本”を大量購入」が参考になります。

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by urag | 2015-09-28 10:14 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2015年 09月 27日

ドゥルーズの大長編インタヴュー『アベセデール』日本語字幕版ついに発売

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ジル・ドゥルーズの「アベセデール」
國分功一郎監修
KADOKAWA(角川学芸出版) 2015年9月 本体8,700円 ISBN978-4-04-653344-9

函紹介文より:「身近なことから考える」――ドゥルーズ哲学の面白さがつまった最上級の知的エンターメインメント! 453分の大ボリューム! 「アベセデール」は、フランスの哲学者、ジル・ドゥルーズの貴重なインタビュー映像です。ドゥルーズが語るのは、AからZのアルファベットに寄せた26の多彩なテーマ。豪華メンバーによるわかりやすい字幕付きで待望の日本上陸です。

商品内容:
1)日本語字幕付きDVD3枚セット『ジル・ドゥルーズの「アベセデール」』
 出演:ジル・ドゥルーズ/クレール・パルネ
 監督:ピエール=アンドレ・ブータン
 字幕翻訳チーム:國分功一郎、千葉雅也、三浦哲哉、角井誠、須藤健太郎、岡嶋隆佑)
 DISC1:動物/飲酒/教養/欲望/子ども時代/忠実さ
 DISC2:左派/哲学史/アイデア/喜び/カント/文学/病気
 DISC3:神経科学/オペラ/教師/問い/抵抗/文体/テニス/一者/旅行/ウィトゲンシュタイン/(未知数、言葉にできないもの)/ジグザグ

2)『アベセデール』解説ブック
 解説(國分功一郎)
 各項目解説(國分功一郎)
 対談「アベセデールの地図を作成する」(國分功一郎×千葉雅也)
 ドゥルーズの著作邦訳一覧
 字幕翻訳者および担当項目〔國分:動物/左派/旅行/ウィトゲンシュタイン/ジグザグ、千葉:欲望/子ども時代/忠実さ、三浦:飲酒/教養/神経科学、角井:オペラ/教師/問い/抵抗、須藤:哲学史/アイデア/病気、岡嶋:喜び/カント/文学/文体/テニス/一者〕

★発売済。1988~1989年に撮影され1995年にフランスでテレビ放映、1999年にVHS版、2004年にDVD版が発売された、ドゥルーズ(1925-1995)の約7時間半もの長編インタヴュー「アベセデール」の日本語字幕版がついに発売されました。早くも一時的に版元品切になっているようで、書店店頭かネット書店でお買い求めいただくのがよさそうです。同作は日本では幾度となく活字化が望まれれきましたが、権利関係の問題により果たされませんでした。逐語的な活字化やその翻訳が許されていなかった以上、残る可能性は今回のような字幕版DVDの制作だったわけで、とうとう今回字幕化にたどり着いたことを喜ばずにはいられません。

★解説ブックには國分さんと千葉さんによる対談が掲載されており、たいへん興味深いです。千葉さんは冒頭で「このインタビューはドゥルーズがざっくばらんに喋っていて、本当にわかりやすいんです。ドゥルーズの人となりもよくわかる。ドゥルーズの本は複雑ですけれど、このインタビューを見てから読むと、取っつきやすい。ドゥルーズ入門として最適だと思います」(51-52頁)と紹介されておられます。未公刊のものを除いてドゥルーズの著作はすべて翻訳されています。最後に登場したのが本作ではあるものの、ドゥルーズとの新しい出会いの扉を開けるものとなるのではないでしょうか。



ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動
デビッド・ラプジャード著 堀千晶訳
河出書房新社 2015年9月 本体4,000円 46変形判上製382頁 ISBN978-4-309-24730-4

帯文より:最後の愛弟子による絶後のドゥルーズ論。絶対的脱領土化としての「新たな大地」をつくりだすために。すべての根拠を無化する無底=砂漠の哲学としてのドゥルーズの核心からその全軌跡を凝縮させて非人間的な〈外〉を開く思考の戦争機械。

目次:
序章 常軌を逸脱する運動
第一章 大地の問い
第二章 根拠の循環
第三章 三つの綜合(あるいは「なにが起こったのか」)
第四章 帰結――超越論的経験論
第五章 倒錯者と分裂症者
第六章 分裂即自然
第七章 大地のトリアーデ
第八章 民衆と人祓い
第九章 モナドを引き裂くこと
第十章 妄想論
結論 限界=哲学
訳者あとがき

★発売済。原書は、Deleuze, les mouvements aberrants (Minuit, 2014)です。ラプジャード(David Lapoujade, 1964-)はドゥルーズの死後に諸論考を年代別にまとめた『無人島』『狂人の二つの体制』の編纂で日本でも知られています。海外の研究者によるドゥルーズ論は数多く刊行され、日本語訳も以下の通り色々あります。

マイケル・ハート『ドゥルーズの哲学』田代真ほか訳、法政大学出版局、1996年
フランソワ・ズーラビクヴィリ『ドゥルーズ ひとつの出来事の哲学』小沢秋広訳、河出書房新社、1997年
ジャン=クレ・マルタン『ドゥルーズ/変奏』毬藻充ほか訳、松籟社、1997年
アラン・バディウ『ドゥルーズ――存在の喧騒』鈴木創士訳、河出書房新社、1998年
ミレイユ・ビュイダン『サハラ――ジル・ドゥルーズの美学』阿部宏慈訳、法政大学出版局、2001年
ルネ・シェレール『ドゥルーズへのまなざし』篠原洋治訳、筑摩書房、2003年
クレア・コールブルック『ジル・ドゥルーズ』國分功一郎訳、青土社、2006年
フランソワ・ドス『ドゥルーズとガタリ――交差的評伝』杉村昌昭訳、河出書房新社、2009年
ライダー・デュー『ドゥルーズ哲学のエッセンス――思考の逃走線を求めて』中山元訳、新曜社、2009年
ピーター・ホルワード『ドゥルーズと創造の哲学――この世界を抜け出て』松本潤一郎訳、青土社、2010年
ジャン=クレ・マルタン『ドゥルーズ――経験不可能の経験』合田正人訳、河出文庫、2013年
モニク・ダヴィド=メナール『ドゥルーズと精神分析』財津理訳、河出書房新社、2014年

★こうした流れの中にあって、ラプジャードによる本書は冒頭から積極的に仕掛けてきます。「ドゥルーズの思想は、出来事の哲学でもなければ、内在の哲学でもなく、ましてや、流れや潜在的なものの存在論でもない。あまりにも学者的なこれらの定義の大半は、問われている事柄にかんする、憶測や先入観にとらわれてしまっているのだ。むしろ必要なのは、たとえあとから修正するにせよ、総体としての印象から出発することだろう。ドゥルーズ哲学を弁別する特徴とはなにか。ドゥルーズがなにより興味を抱くのは、常軌を逸脱する運動である」(9頁)。

★訳者によれば本書は「ラプジャードの四冊目の単著であり、彼がドゥルーズを真正面から論じたはじめての著作」(366頁)です。「ドゥルーズ自身が「常軌逸脱」という語を、術語として意識的かつ集中的に使用するのは、『シネマ2』の時期にほぼ限られる」(367頁)ものの、この言葉は「そのままでは眠ったままになっているドゥルーズの思考の一側面を、アクチュアルなものとして覚醒させるための発見的概念である」(367-368頁)と訳者は評価しています。ラプジャードは本書の結論でこう書いています。常軌を逸脱する運動は「たえず、限界〔=極限〕の問題を提起する」(353頁)。「限界とは、ひとが考えるようななにかではなく、ひとが突き当たってしまうなにかである。そして、限界に突き当たらなければ、ひとが思考することなどない。この問いが、ドゥルーズ哲学全体を貫いている。〔・・・本書は〕『ドゥルーズ 限界=哲学』と名付けることができただろう」(同)。

★このほかにも本書には印象的な言葉がいくつも出てきますが、最後に一つだけ引用しておきたいと思います。「なにか寛容しえないもの、耐えがたいもの、不正なもの、スキャンダラスなものを「見ること」から、そのつどすべてがはじまるのだ。こうした出来事は、個人を触発するだけではない。社会野全体が、寛容しえないものを「見て」、立ち上がるのだ。わたしたちは、あらゆる政治行動が不可能な世界に生きているわけではない。私たちは、不可能性こそがあらゆる行動の条件であるような世界、不可能性が可能性の新たな創造一切の条件であるような世界に生きている。これこそ、行動の逆説である。ただ不可能性のみが行動させるのだ」(308頁)。

★河出書房新社さんでは来月下旬に(2015年10月22日発売予定)『ドゥルーズ』(河出書房新社編集部編、本体予価1,300円、A5判224頁、ISBN978-4-309-24735-9)というアンソロジーを刊行される予定です。紹介文に曰く「没後20年を迎える20世紀最大の哲学者の新たな姿。宇野邦一×鵜飼哲、小泉義之×千葉雅也、江川隆男×堀千晶、檜垣立哉、廣瀬純、マスミ、ソヴァニャルグ、ペルバルト、全著作ガイド他」。

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★このほか最近では以下の新刊との出会いがありました。「ファッション批評誌」を標榜する年刊誌「vanitas」は4号目からアダチプレスさんが発行元になり、特集形式を取るとのことです。4号の刊行を記念して、10月17日(土)にスタンダードブックストア心斎橋にてトークイベントが行われるとのことです。

vanitas』No. 004「特集=アーカイブの創造性」蘆田裕史・水野大二郎責任編集、アダチプレス、2015年9月、本体1,800円、四六判変型並製256頁、ISBN978-4-908251-01-6
ナチスの戦争1918-1949――民族と人種の戦い』リチャード・ベッセル著、大山晶訳、中公新書、2015年9月、本体960円、352頁、ISBN978-4-12-102329-2
ロラン・バルト――言語を愛し恐れつづけた批評家』石川美子著、中公新書、2015年9月、本体800円、232頁、ISBN978-4-12-102339-1
米軍医が見た占領下京都の600日』二至村菁著、藤原書店、2015年9月、本体3,600円、四六上製440頁、ISBN978-4-86578-033-8
心の平安』アフメト・ハムディ・タンプナル著、和久井路子訳、藤原書店、2015年9月、本体3,600円、四六上製576頁、ISBN978-4-86578-042-0
人類を変えた素晴らしき10の材料――その内なる宇宙を探険する』マーク・ミーオドブニク著、松井信彦訳、インターシフト発行、合同出版発売、2015年10月、本体2,100円、46判上製272頁、ISBN978-4-7726-9547-3
〈日本哲学〉入門講義――西田幾多郎と和辻哲郎』仲正昌樹著、作品社、2015年9月、本体2,000円、46判並製432頁、ISBN978-4-86182-545-3
標準問題精講国語特別講義 読んでおきたいとっておきの名作25』渡辺憲司・加藤十握・小林実・児玉朝子編著、旺文社、2015年7月、本体1,300円、四六判並製312頁、ISBN978-4-01-033969-5

★『読んでおきたいとっておきの名作25』は高校生向けの文章読本で「本格的な受験勉強を始める前の準備段階に読み、あらゆる学習の基礎となる「読解力」を身につけることを主眼」(版元紹介文より)とし、「高校生に「文章を読む楽しさ」にふれ、それを通して「多様な考え方、表現」があることを知ってもらうことを重視し厳選した25作品を収録したアンソロジー」で、「海外文学を含め、小説・エッセイ・詩・古文など、あらゆるジャンル・文体の文章を読むことで、「読解力」を高め、入試問題への「対応力」を」養成するとのこと。選ばれた25作のうちには、勉強をほっぽらかしてドはまりしてしまうであろう吉村昭さんの『羆嵐(くまあらし)』(新潮文庫)のような実話に基づく怖すぎる名作や、2000年前の言葉がなぜこうもグサリと胸に突き刺さるのか、読むごとにその人間観察の鋭さに驚きを新たにするセネカ『人生の短さについて』(茂手木元蔵訳、岩波文庫、1980年)のような古典が紹介されていて、興味深いです。なおセネカの同作は引用されているのは先述の茂手木訳ですが、現在は絶版で、岩波文庫の最新版は大西英文訳『生の短さについて』(2010年)が流通しています。
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by urag | 2015-09-27 19:27 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 09月 25日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2015年10月5日(月)プレオープン、6日(火)グランドオープン
H.I.S.旅と本と珈琲と(50坪:うち、図書20坪)
東京都渋谷区神宮前4-3-3 バルビゾン7番館
トーハン帳合。弊社へのご発注は写真集。取次さんの出品依頼書によれば、同店は旅行代理店「H.I.S.」が実験店舗として書籍とカフェを併設する新業態。「表参道というスタイリッシュかつハイセンスなエリアにマッチした選書および店舗を展開していきます」とのことです。選書はBACHの幅允孝(はば・よしたか:1976-)さん。代表者名には東北の書店界に新風を巻き起こしているカネイリの若き社長、金入健雄(かねいり・たけお:1980-)さんのお名前が出ています。なるほど。

また、取次さんの挨拶状にはこう書かれています。「近年の読者ニーズ多様化の傾向に対応するために、旅行代理店およびカフェとのコラボレーションによる新しいビジネスモデルで新規顧客の開拓を促してまいります」と。H.I.S.ウェブサイトによれば「H.I.S. 表参道営業所」は「表参道・原宿エリア唯一の旅行代理店」で、東京メトロ表参道駅A2出口すぐ。青山通り(国道246号線)表参道交差点から徒歩5分。なお、旅行代理店と書店との接合という試みには、代官山蔦屋書店3号館1Fの「代官山T-TRAVEL」など、CCC系列では前例があります。

他業種+ブックカフェの新形態は今後もどんどん開発されるだろうと予想できます。こうした業態で好まれるような新刊を出版しようと意識する編集者も出てくるかもしれませんね。BACHの幅允孝さん、NUMABOOKSの内沼晋太郎さん、リーディングスタイルの北田博充さん、編集工学研究所のBOOKWAREプロジェクト(代表者は松岡正剛さん)、ニューカマーでは久禮書店の久禮亮太さん、こうしたコーディネーターの皆さんの共通項や相違点を学んでいくのは非常に興味深いことです。
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by urag | 2015-09-25 12:05 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2015年 09月 18日

「週刊読書人」に『ヤスパース入門』の書評

「週刊読書人」2015年9月18日号に弊社7月刊、ヴェルナー・シュスラー『ヤスパース入門』(岡田聡訳)の書評「改めてヤスパースから学ぼう――基本思想を心地よいテンポで解説」が掲載されました。評者は明治大学専任講師の池田喬さんです。「実存のキーワードに新たな息を吹き込むことができるのは、きっと、長らく忘却されてきたヤスパースだ」と評していただきました。池田さんありがとうございます。
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by urag | 2015-09-18 15:32 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2015年 09月 17日

「民主主義というのはあきらめないものだ」

国会前デモに大阪から参加した女性の声をTBSの9月17日16時55分付ニュース動画「安保関連法案が特別委で可決、国会前デモから怒りの声」が伝えています。「可決の瞬間には、とにかく怒りしかなかった。しかし、いくら可決されたとはいえ、民主主義というのはあきらめないものだ」、「自分は大阪に今夜戻るけれども、その帰る直前の時間まで、ここでひたすら声を上げ続けたい」。民主主義とは諦めないこと。今日胸に刻んだ言葉です。

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9月18日追記:犬塚康博さん、いつもご高覧ありがとうございます。ツイート拝読しました。ご理解いただいているとは思うのですが、念のため申し上げておきますと、私は民主主義の《定義》をするために書いたのではありません。仰せの通り、同じ論法で「軍国主義とは諦めないこと」とも言いうるでしょう。その通りです。ただ、国民の政治参加に終わりはないというごくごく当たり前のことが、政治家による議論のシャットダウンによって挫かれそうになる時、それでも「諦めない」と言いうるかどうか、そこはなかなか重要なポイントだと私は思うのです。おそらく犬塚さんが懸念されているポイントは、それとは別にあるのでは、と拝察します。それが国会前デモに対するものなのか、それとも民主主義や立憲主義や決断主義に関するものなのか、あるいは安保法制への評価についてなのか、はたまたそれらとは別のことをめぐってのものなのかは存じ上げませんけれども、またご見解をお聞かせいただく機会があれば幸いです。
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by urag | 2015-09-17 18:50 | 雑談 | Trackback | Comments(2)
2015年 09月 17日

映像作家パトリック・キーラーの「ロビンソン三部作」上映会

弊社出版物でお世話になった著訳者の方々の最近のご活躍をご紹介します。

★木内久美子さん(共訳:ポール・ド・マン『盲目と洞察』)
★ドリーン・マッシーさん(著書:『空間のために』)
比較文化研究者であり東京工業大学准教授の木内さんがイギリスの映像作家キーラーの「ロビンソン三部作」の上映会を以下の通り企画されています。「上映に合わせて、映画関連資料、キーラー監督との編者とのインタヴュー記事(日・英)、マッシー先生のエッセイ「風景/空間/政治」の日本語訳を含む、小冊子を発行いたします。劇場でお手にとってごらんください。今後の上映情報、キーラー監督や作品についての情報はTwitterにてご覧ください」とのことです。

◎企画趣旨

来る10月から12月にかけて、東京・神戸・名古屋で、イギリスの映像作家パトリック・キーラー(Patrick Keiller, 1950‐)のロビンソン三部作を上映いたします。イギリスでは「風景映画」の先駆的な作家として知られる映像作家です。「ロビンソン三部作」では、 風景の見方を主体的に選び取ることによって、世界を変換する可能性が模索されています。

「風景」とはつねに見えている世界から「切り取られ」ているものです。この「切り取り」は、概してあまり意識されずに行われがちですが、実際には既存の慣習やステレオタイプに規定されており、私たちの気づかぬうちに世界をある方向へと動かしてしまっているかもしれないものです。裏を返せば、切り取られた風景は私たちの世界や物事へのまなざしをうつす鏡であり、それを意識的に見つめなおしてみることは、私たちの世界に対するまなざしについて考える第一歩にもなりえます。

「ロビンソン三部作」は、イギリスを中心とするヨーロッパ文化圏の歴史・政治・社会・文化(建築・文学など)についての膨大な知識を参照しながら、私たちの身近にありながら、私たちには見過ごされている複数の世界のありかたを、風景の積み重ねとユニークな語りとの組み合わせによって提示しています。この機に多くの方にロビンソン三部作をご高覧いただければ幸甚に存じます。

◎上映スケジュール

東京
日程:10月16日 (金)、17日(土)
会場:アテネフランセ文化センター(御茶ノ水)
スケジュール:
16日(金)
14:10ロンドン(82分)
16:10空間のロビンソン(78分)
18:00廃墟のロビンソン(101分)/トーク:萩野亮(映画批評家)+木内久美子
17日(土)
14:1013:10ロンドン(82分)
16:1015:10空間のロビンソン(78分)
18:0017:00廃墟のロビンソン(101分)/トーク:佐藤元状(英文学者・映画研究者)×木内久美子

神戸
日程:11月6日 (金)、11月7日(土)
会場:神戸映画資料館(新長田)
スケジュール:
6日(金)
13:00『ロンドン』+ティーチイン(木内久美子)
15:00『空間のロビンソン』
16:40『廃墟のロビンソン』
7日(土)
13:50『ロンドン』+ティーチイン(木内久美子)
15:50『空間のロビンソン』
17:30『廃墟のロビンソン』
19:20 トーク(木内久美子)[無料]

名古屋
日程:11月29日 (日)~12月6日(日)のいずれかの日(第20回 アートフィルムフェスティバル)
会場:愛知芸術文化センター10階12階・アートスペースA

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by urag | 2015-09-17 18:15 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2015年 09月 16日

河出書房新社さんの緊急出版2点:SEALDs本とギリシア本

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民主主義ってなんだ?』高橋源一郎×SEALDs著、河出書房新社、2015年9月、本体1,200円、46判上製200頁、ISBN978-4-309-24732-8
ギリシア デフォルト宣言――ユーロ圏の危機と緊縮財政』ハイナー・フラスベック&コスタス・ラパヴィツァス著、村澤真保呂&森元斎訳、河出書房新社、2015年9月、本体1,400円、46判並製208頁、ISBN978-4-309-24729-8

★2点とも明日9月17日に取次搬入です。今夜にも安保法案の採決が行われようかというタイミングですが、SEALDs本は採決前に読まなければ意味がないという本ではまったくありません。遅すぎるということはないのです。本書は作家の高橋源一郎さんとSEALDsの3人――牛田悦正さん(明治学院大学4年)、奥田愛基さん(同4年)、芝田万奈さん(上智大学4年)が先月行った鼎談の記録で、「SEALDsってなんだ?」と「民主主義ってなんだ?」の二部構成。笑いと活気にあふれていて、面白くて(コンパ行ってもいい?のくだりはさすがに吹きます)、高橋さんとの絡みも絶妙です。政治は政治家が作るものなのではなく、国民が創るものです。「だから終わってないんですよ。民主主義が終わったってことでもない」(174頁)とは奥田さんの発言。反対デモのために国会前に集まる人々に対して、新聞記者から一般市民まで「不勉強だ」とか「稚拙だ」とかいう人たちがいますけれども、「戦争法案」というのはレッテル張りだ、と反論している人々もまた、SEALDsに対しては適当なレッテル張りに終始しているのが現実ではないでしょうか。賛否をどうこう言い募る前に、本書を通じて3人の若者に出会ってみることを強くお薦めしたいです。

★『ギリシア デフォルト宣言』は、Against the Troika: Crisis and Austerity in the Eurozone(Verso, 2015)の翻訳。UNCTADのブレーンを務める経済学者のフラスベックと、ギリシア現与党(急進左派連合)の議員で、ロンドン大学の経済学部の教授を務めるラパヴィツァスの共著で、ギリシアにおける経済破綻の構造と国民投票の背景である、ユーロ圏の危機(欧州通貨同盟の問題点)を知る上で、たいへん勉強になります。全12章構成で、オスカー・ラフォンテーヌの緒言、ポール・メーソンの序文、アルベルト・ガルソン・エスピノサのあとがきが併録されています。「ギリシアの現在は世界の明日の姿だ」という帯文が胸に刺さります。ちなみに河出書房新社さんからは、星野智幸さんの注目作『呪文』が9月10日取次搬入で発売済になっています。手触りに特徴があるカヴァーに金箔で書名が刷られていて美しいです。内容については先日も言及しましたが実に重くて、美麗な装丁とのギャップが怖いくらいです。「いや、これは小説の世界であって現実には・・・」と言いかけてそのあとの言葉が出てこない怖さ。
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by urag | 2015-09-16 18:23 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 09月 13日

注目新刊:グリーンウッド『魔術の人類史』東洋書林、ほか

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絢爛たる悲惨』徳永恂著、作品社、2015年9月、本体2,800円、46判上製300頁、ISBN978-4-86182-550-7
魔術の人類史』スーザン・グリーンウッド著、田内志文訳、東洋書林、2015年9月、本体5,500円、A5判上製400頁、ISBN978-4-88721-822-2
吉本隆明全集10 1965-1971』晶文社、2015年9月、本体6,300円、A5判上製592頁、ISBN978-4-7949-7110-4
書記バートルビー/漂流船』メルヴィル著、牧野有通訳、光文社古典新訳文庫、2015年9月、本体1,000円、352頁、ISBN978-4-334-75316-0
虫めづる姫君――堤中納言物語』作者未詳著、蜂飼耳訳、光文社古典新訳文庫、2015年9月、本体860円、270頁、ISBN978-4-334-75318-4

★『絢爛たる悲惨』はまもなく発売(15日取次搬入)。退官以後書かれた、20世紀のユダヤ系ドイツ思想家たちの星座を描いたエッセイ、報告、講演、論考などをまとめた一冊です。「私のユダヤ学事始め」「ヨーロッパのアイデンティティ」「ジンメルの肖像」「アドルノにおけるミメーシス」「ベンヤミンの方法と方法としてのベンヤミン」「ベンヤミンとクレーの交錯」「イディッシュ文学の内・外」「フランクフルト学派と反ユダヤ主義研究」「ライヒvs.フロイト」「モーゼと一神教」「アーレント「悪の陳腐さ」をめぐって」「「根源悪」の問題性」のほか、木田元さんとの長編対談「ハイデガーとアドルノ」(初出は木田元編『知の攻略・思想読本 ハイデガー』作品社、2001年)を収録しています。あとがきによれば、『現代思想の断層――神なき時代の模索』(岩波新書、2009年)の姉妹編ともいえる、と。書名についてはこう書かれています。「「絢爛たる悲惨(das glänzende Elend)」という言葉は、もともとはカントに由来する。〔・・・〕人間の生は、人類の歴史は、平和を求めつつ、永遠に戦いを繰り返す「絢爛たる悲惨」に充ちている」。

★『魔術の人類史』はまもなく発売(18日頃)。原書は、The Encyclopedia of Magic & Witchcraft (Anness Publishing, 2007/2012)です。著者のグリーンウッドは作家であり人類学者。出身校のゴールドスミス・カレッジを始め、サセックス大学などで宗教人類学の講義を行っているとのことです。全7章構成で、「I 神話、宗教、科学の中の魔術」「II 魔女と超自然的存在」「III 近世のウィッチクラフト」「IV 魔女狩り」「V 近代魔術」「VI 現代のウィッチクラフト」「VII 現代の西洋魔術」。巻末の「跋」に曰く「非西洋および西洋社会におけるウィッチクラフトの概念を精査し過去を念頭に入れながら、「西洋の秘儀」、ドルイドの教え、そしてニューエイジから最も現代的な混沌魔術へと至る現代西洋の魔術の実践にも目を向け」たとのことです。「歴史研究や諸々の指南書、名画・秘画・民俗的記録からなる視覚資料510点を伴走させつつ、事典形式・全50項で簡潔に説き明かす」と帯文に謳われています。近世以降は必然的に比重としては西洋文化に重点が置かれますが、通史としてたいへん興味深い本ではないかと思います。

★なお本書「V 近代魔術」に登場するブラヴァツキーについては、驚くべきことに最近『ベールをとったイシス 第1巻 科学 下』(H・P・ブラヴァツキー著、ボリス・デ・ジルコフ編、老松克博訳、竜王文庫、2015年7月、本体4,600円、A5判並製522頁、ISBN978-4-89741-605-2)が刊行されました。奥付では7月刊行ですが、ネット書店での登録はごく最近のようです。リアル書店の店頭では今なおあまり見かけません。上巻の刊行は2010年。大冊の難物であるだけに訳者の老松先生のご苦労が偲ばれます。続刊予定は第2巻「神学」の上巻および下巻。ますます楽しみです。ちなみにブラヴァツキーのもうひとつの大著『シークレット・ドクトリン――宇宙発生論(上)』(田中恵美子/ジェフ・クラーク訳、1989年、竜王文庫〔神智学協会ニッポン・ロッジ〕)が、2013年4月に宇宙パブリッシングより改訂版が刊行されていることも特記しておきたいと思います。竜王文庫版に含まれていた解説「ブラヴァツキー・ロッジの議事録」や、ボリス・ド・ジルコフによる「『シークレット・ドクトリン』の沿革」は改訂版には含まれず(ただし2篇とも同版元より電子書籍化されています)、クラークさんによる新しい「あとがき」には「今回は〔・・・『シークレット・ドクトリン』〕本文に絞り」、「また、時間が許す限り誤りを訂正し、より分かりやすく訳し直してみた」とあります。神智学協会ニッポン・ロッジのウェブサイトでは、同書の第2巻「人類発生論」第1部の抄訳が公開されています。いずれ第1巻「宇宙発生論」の後半も下巻として出版されるのでしょうか。

★『吉本隆明全集10 1965-1971』はまもなく発売(19日頃)。第7回配本となる本書では、「『言語にとって美とはなにか』から分岐派生した二つの原理的な考察『心的現象論序説』『共同幻想論』と、同時期に書かれた高村光太郎論を収録」(帯文より)しています。高村光太郎論は春秋社版『高村光太郎選集』の解題として書き継がれたものです。間宮幹彦さんによる巻末解題によれば『心的現象論序説』は角川ソフィア文庫版を底本とし、初出、単行本、全著作集版、角川文庫版を校合し、新たに本文を確定したとのことです。『共同幻想論』は角川ソフィア文庫版が底本で、初出、単行本、全著作集版を校合し本文確定、と。「春秋社版『高村光太郎選集』解題」は、講談社文芸文庫版を底本とし、初出、単行本、全著作集版を交合し本文確定。月報7は、芹沢俊介さんによる「永久に消えない疑問」と、ハルノ宵子さんによる「めら星の地より」を収録。次回配本は12月予定で第2巻(1969-1972:情況/天皇および天皇制について/南島論/ほか)とのことです。なお周知の通り『心的現象論』の『本論』は文化科学高等研究院より2008年に愛蔵版とオンデマンドの普及版が出版されています(全集版では第30巻に収録予定)。

★光文社古典新訳文庫の9月新刊『書記バートルビー/漂流船』『虫めづる姫君』はいずれも発売済。ハイデガー『存在と時間(1)』(中山元訳、全8巻予定)は過日ご紹介しました。『書記バートルビー/漂流船』は、「書記バートルビー――ウォール街の物語」(1853年、34歳作)と「漂流船――ベニート・セレーノ」(1855年、36歳作)の2篇を収録。バートルビーの有名なセリフ「I prefer not to」は「~しない方がいいと思います」と訳されています。160年以上前の作品にもかかわらず現代人の胸に生々しく刺さるメルヴィルの筆さばきに圧倒されます。『虫めづる姫君』は「堤中納言物語」の現代語全訳です。「花を手折る人(花桜折る中将)」「ついでに語る物語(このつゐで)」「あたしは虫が好き(虫めづる姫君)」「それぞれの恋(ほどほどの懸想)」「越えられない坂(逢坂越えぬ権中納言)」「貝あわせ(貝あはせ)」「思いがけない一夜(思わぬ方にとまりする少将)」「花のごとき女たち(はなだの女御)」「黒い眉墨(はいずみ)」「とるにたらぬ物語(よしなしごと)」「断章」を収録し、各篇には訳者による短いエッセイが付されています。蜂飼さんの現代語訳は柔らかくしなやかで、帯文に「平安人の息遣いが蘇る」と謳われている通り実に見事で、すんなりと物語世界に入っていけます。

★なお、光文社古典新訳文庫の続刊予定は、ヴォルテール『カンディード』斉藤悦則訳、マルクス『資本論第一巻草稿──直接的生産過程の諸結果』森田成也訳、ドストエフスキー『白痴1』(亀山郁夫訳、全4巻)とのことです。
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by urag | 2015-09-13 22:41 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 09月 11日

注目新刊:中山元訳『存在と時間』全8巻刊行開始

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★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
カント、ニーチェ、フロイト、マルクス、ウェーバーなど数多くの古典の新訳を手掛けられてきた中山さんがハイデガーの主著『存在と時間』の完訳に着手されました。光文社古典新訳文庫より、なんと全8巻。底本はニーマイヤー社より1953年に刊行された第7版でクロスターマン社全集版も参照されているとのことです。今週発売された第1巻には「1953年、第7版への前書き」から序論「存在の意味への問いの提示」第二章「存在への問いを推敲するための二重の課題。探究の方法とその構図」第八節「考察の概要」までが前半に収められ、後半には訳文の倍近い分量の解説が収められています。『存在と時間』は周知の通り、一昨年に二種類の新訳が登場しています。熊野純彦訳(岩波文庫、全4巻、2013年4月~12月)と、高田珠樹訳(作品社、全1巻、2013年11月)です。既訳ですが、松尾啓吉訳の新装版も今春復刊されました(勁草書房、全2巻、新装版、2015年5月)。このほかにも現在新本で入手可能な訳書には細谷貞雄訳(ちくま学芸文庫、上下巻、1994年)や、原佑・渡邊二郎訳(中公クラシックス、全3巻、2003年)があります。今回の中山さん訳の特徴は何と言ってもその解説の長さです。ここまで長編の解説が翻訳と一緒になっているというのは前例がありません。


★清水一浩さん(共訳:デュットマン『友愛と敵対』)
★大竹弘二さん(共訳:デュットマン『友愛と敵対』、訳書:デュットマン『思惟の記憶』)
★大友良英さん(著書:『ENSEMBLES』)
「現代思想」2015年9月号「特集=絶滅――人間不在の世界」に清水さんの翻訳で、トム・コーエン(Tom Cohen, 1958-)の論文「映画、気候変動、ユートピア主義の袋小路」(92-111頁)が掲載されています。同号では、大澤真幸さん、千葉雅也さん、吉川浩満さんによる討議「絶滅とともに哲学は可能か」を始め、池田清彦さん、長沼毅さん、三中信宏さん、小泉義之さん、山内朋樹さん、桑田学さん、大村敬一さんら国内の研究者による論考やエッセイのほか、レイ・ブラシエ、ユージーン・サッカー、ティモシー・モートン、マイク・デイヴィスらの論文の翻訳が掲載されており、個人的な印象ではここ最近でもっとも先鋭的な特集号であると感じました。また、「現代思想」2015年10月臨時増刊号「総特集=安保法案を問う」では大竹弘二さんが論考「リアリズムを超える民主主義のために」(200-205頁)、大友良英さんがエッセイ「自信を取り戻すということ」(14-15頁)を寄稿されています。こちらの特集号も多数の寄稿者を得て読み応えのある特集号となっています。


★中平卓馬さん(写真集:『都市 風景 図鑑』)
各紙で報道されている通り、今月1日、肺炎のため逝去されました。77歳でした。ご冥福をお祈りいたします。
朝日新聞9月4日17時21分「写真家の中平卓馬さん死去 先鋭的な作品・映像評論
朝日新聞9月5日5時「中平卓馬氏死去 先鋭的な写真家
産経新聞9月4日18時24分「写真家、中平卓馬さん死去 77歳
毎日新聞9月4日19時2分「写真家:中平卓馬さん死去77歳…先鋭的表現、評論活動も
毎日新聞9月5日「訃報:中平卓馬さん 77歳=写真家
時事通信9月4日19時12分「中平卓馬氏死去(写真家)
読売新聞9月5日3時「【訃報】中平卓馬さん=写真家

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なお、例のイベントが今夜行われます。皆様とお目に掛るのを楽しみにしております。懇親会もあり。

◎読書人セミナー「独立系出版社の挑戦――編集・販売・経営

【日時】9月11日(金)19時〜21時(セミナー終了後に懇親会あり)
【場所】読書人スタジオ(地下鉄東西線神楽坂駅より徒歩1分)
【参加費】1000円(ワンドリンク付き)
【講師】小林浩(月曜社取締役)・下平尾直(共和国代表)・小林えみ(堀之内出版/『nyx』担当)
【事前予約】読書人まで(☎03ー3260ー5791)
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by urag | 2015-09-11 13:24 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)