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2015年 05月 31日

注目新刊:工作舎版『ライプニッツ著作集』第II期が刊行開始、など

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◎工作舎版『ライプニッツ著作集』第II期が刊行開始

ライプニッツ著作集 第II期[1]哲学書簡
G・W・ライプニッツ著 酒井潔・佐々木能章監修 山内志朗ほか訳
工作舎 2015年5月 本体8,000円 A5判上製448頁+別丁8頁 ISBN978-4-87502-463-7

帯文より:待望のライプニッツ著作集第II期全3巻スタート! 学者の共和国&サロン文化圏を形成した手紙を精選。

目次:
【第1部】学者の共和国[レスプブリカ・リテラリア]
1 ヤコプ・トマジウスとの往復書簡[1663-1668]
 1-1 ライプニッツからヤコプ・トマジウスへ 増山浩人訳
 1-2 ライプニッツからヤコプ・トマジウスへ 増山浩人訳
 1-3 ヤコプ・トマジウスからライプニッツへ 増山浩人訳
 1-4 ライプニッツからヤコプ・トマジウスへ  山内志朗訳
 解説「若きライプニッツの思想的萌芽」 山内志朗
2 ホッブズ宛書簡[全][1670-1674]
 2-1 ライプニッツからトマス・ホッブズへ 伊豆藏好美訳
 2-2 ライプニッツからトマス・ホッブズへ 伊豆藏好美訳
 解説「デカルト主義克服への〈梯子〉」 伊豆藏好美
3 スピノザとの往復書簡とスピノザ注解
 3-1 ライプニッツからスピノザへ 町田一訳
 3-2 スピノザからライプニッツへ 町田一訳
 3-3 シュラー氏の書簡からの情報:ライプニッツ注解 上野修訳 
 3-4 スピノザからオルデンバーグへの三通の手紙:ライプニッツ注解 町田一訳
 3-5 ベネディクトゥス・デ・スピノザの『エチカ』について 朝倉友海訳
 解説「スピノザとの長い対決の始まり」 上野修
[別丁]ライプニッツ[&スピノザ]手稿
  1&2 スピノザからライプニッツ宛書簡 1671年11月9日、ハーグ
  3 スピノザ『エチカ』への書き込み 1678年
  4&5 マルブランシュ宛書簡(草稿) 1712年1月
  6 ベール宛書簡(草稿) 1702年8月19日、ベルリン
4 初期アルノー宛書簡[全][1671]
 4-1 ライプニッツからアルノーへ 根無一信訳
 解説「アルノーへの初コンタクト」 根無一信
5 マルブランシュとの往復書簡[全][1676-1712]
 5-1 ライプニッツからマルブランシュへ 梅野宏樹訳
 5-2 マルブランシュからライプニッツへ 梅野宏樹訳
 5-3 ライプニッツからマルブランシュへ 梅野宏樹訳
 5-4 ライプニッツからマルブランシュへ 梅野宏樹訳
 5-5 マルブランシュからライプニッツへ 梅野宏樹訳
 5-6 ライプニッツからマルブランシュへ 清水高志訳
 5-7 マルブランシュからライプニッツへ 清水高志訳
 5-8 ライプニッツからマルブランシュへ 清水高志訳
 5-9 マルブランシュからライプニッツへ 清水高志訳
  〔ライプニッツによる〕付録/考察
 5-10 ライプニッツからマルブランシュへ 清水高志訳
 5-11 ライプニッツからマルブランシュへ 清水高志訳
 5-12 ライプニッツからマルブランシュへ 清水高志訳
 5-13 マルブランシュからライプニッツへ 清水高志訳
 5-14 ライプニッツからマルブランシュへ 梅野宏樹訳
 5-15 ライプニッツからマルブランシュへ 梅野宏樹訳
 5-16 マルブランシュからライプニッツへ 梅野宏樹訳
 5-17 ライプニッツからマルブランシュへ 梅野宏樹訳
 解説「「真理への愛」の交歓」 清水高志
6 ベールとの往復書簡[全][1687-1702]
 6-1 ライプニッツからベールへ 池田真治訳
  付録 前の反論に含まれていた偽推理をG.G.L.〔ライプニッツ〕氏に示したC.〔カトラン〕神父様の短い批判
 6-2 ライプニッツからベールへ 池田真治訳
 6-3 デカルト氏の自然法則を支持する『学芸共和国通信』1687年6月号第1論文中のC〔カトラン〕神父様の批判に対するL〔ライプニッツ〕氏の回答 池田真治訳
 6-4 ライプニッツからベールへ 池田真治訳
 6-5 ライプニッツからベールへ 池田真治訳
 6-6 ベールからライプニッツへ 谷川雅子訳
 6-7 ライプニッツからベールへ 谷川多佳子訳
 6-8 ライプニッツからベールへ 谷川多佳子訳
 6-9 ベールからライプニッツへ 谷川雅子訳
 6-10 ライプニッツからベールへ 谷川多佳子・谷川雅子訳
 解説「学者の共和国における議論と交流」 谷川多佳子
第1部「学者の共和国」解説 酒井潔
 1 収載書簡の選定と編成
 2 書簡にみる最初期から中期へのライプニッツの思想形成
 3 「学者の共和国」とは何か
 4 ライプニッツ哲学書簡の特徴
 5 収載書簡一覧[文通開始年、アカデミー版とゲルハルト版]
 6 収載のポリシー
【第2部】サロン文化圏
1 ハノーファー選帝侯妃ゾフィーとの交流
  コラム「ハノーファー選帝侯妃ゾフィーについて」 大西光弘
 1-1 ライプニッツからゾフィーへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
  コラム1-1「1696年11月4日付ゾフィー宛書簡の経緯」 大西光弘
 1-2 ライプニッツからゾフィーへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
 1-3 ライプニッツからゾフィーへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
  コラム1-3「1700年6月12日付ゾフィー宛書簡の経緯」 大西光弘
   ゾフィーからの書簡(1)1700年6月2日
 1-4 ライプニッツからゾフィーへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
  コラム1-4「1701年11月30日付ゾフィー宛書簡の経緯」 大西光弘
   ゾフィーからの書簡(2)1700年6月16日
   ゾフィーからの書簡(3)1701年11月21日
 1-5 ライプニッツからゾフィーへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
  コラム1-5「1705年10月31日付ゾフィー宛書簡の経緯」 大西光弘
2 ゾフィー・シャルロッテ宛書簡
  コラム「プロイセン王妃ゾフィー・シャルロッテについて」 大西光弘
 2-1 ライプニッツからゾフィー・シャルロッテへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
 2-2 ライプニッツからゾフィー・シャルロッテへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
  コラム2-2「ゾフィー・シャルロッテ宛書簡の経緯」 大西光弘
   ゾフィー宛書簡要約/ゾフィー・シャルロッテ宛書簡要約
 2-3 ライプニッツからゾフィー・シャルロッテへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
3 マサム夫人との往復書簡
  コラム「マサム夫人について」 大西光弘
 3-1 マサム夫人からライプニッツへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
  コラム3-1「1704年3月29日付マサム夫人からの書簡の経緯」 大西光弘
 3-2 ライプニッツからマサム夫人へ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
 3-3 ライプニッツからマサム夫人へ
  コラム3-3「1704年6月30日付 マサム夫人宛書簡の経緯」 大西光弘
 3-4 マサム夫人からライプニッツへ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
  コラム3-4「1704年11月24日付マサム夫人からの書簡の経緯」 大西光弘
 3-5 ライプニッツからマサム夫人へ 大西光弘・橋本由美子・山田弘明訳
  コラム3-5「1705年7月10日付マサム夫人宛書簡のその後」 大西光弘
第2部「サロン文化圏」解説 佐々木能章
 ・貴婦人たちとの華やかさに包まれた誠実な知的空間
 ・サロン文化の興隆
 ・ゾフィーとゾフィー・シャルロッテ母娘との深い興隆
 ・父カドワースと寄宿人ロックを背景にしたマサム夫人との往復書簡
 ・思想の表現法を鍛錬する
 ・編集方針
 17・18世紀ヨーロッパ王朝・諸侯系図[第1期第6巻・巻末図改訂版]
総解説「ライプニッツ哲学書簡の醍醐味」 酒井潔
 ・群を抜く書簡数
 ・書簡が著作に先行! ライプニッツ全集(アカデミー版)の構成
 ・対話的思考のプロトコル
 ・当時の郵便事情
 ・学術交流にはたす役割
 ・ライプニッツ書簡の偉大な遺産
 ・ライプニッツの文通プラクシス
 ・ディスクルス、ストラテジー、インフォメーション
 ・マルチ・リンガル ライプニッツと17世紀ドイツ
 ・「世界への門」 象徴的資産・資源としての情報
事項索引
人名[著者名]索引
監修者・訳者紹介

★発売済。第I期全10巻(1988~1999年)に続く第II期全3巻の刊行開始です。版元紹介文に曰く「スピノザ、ホッブズら1300人もの哲学者・数学者・神学者、さらには政治家や貴婦人たちと手紙を交わしていたライプニッツ(1646-1716)。その書簡を精選し、バロックの哲人の思想形成プロセスや喜怒哀楽を甦らせる」とあります。上記目次は版元さんが公開している情報に書籍現物の詳細を加えたものです。

★第I期は函入、グレーの本文用紙を使用されていましたが、第II期はカヴァー装で、本文用紙は白です。自筆草稿などの図版頁は第I期『弁神論』(第6~7巻)で使用されていた黄色の用紙が今回の第1巻で使用されています。造本は第I期を杉浦康平さんが手掛けられ、第II期では工作舎アートディレクターの宮城安総さんと小倉佐知子さんが担当されています。第II期は第I期のいくつかの特徴を引き継ぎつつ、新世紀に相応しいクールなデザインに仕上がっています。なお、第I期に付されていた月報「発見術の栞」は第II期では作成されていないものの、第1巻にはライプニッツの肖像をあしらったノベルティのカードが挟み込まれています。

★第II期第1巻「哲学書簡」は、哲学者や王族、貴族と交わした書簡を収めています。多言語を操り、積極的に交流を試みたライプニッツの話術ならぬ手紙術や手紙作戦とでも言うべきものの意義についてはそれぞれの解説で明らかにされており、たいへん興味深いです。なお、「ホッブズ宛書簡」「初期アルノー宛書簡」「マルブランシュとの往復書簡」「ベールとの往復書簡」は、原典であるアカデミー版やゲルハルト版で印刷されたすべての手紙が訳出されています。手紙だけでなく、例えばスピノザ『エチカ』の定義・公理・定義への評価や留保の論評が読めるのも読者の関心を惹くところではないかと思います。

★書簡は第I期でも、第2巻「数学論・数学」にはガロア、ホイヘンス、オルデンバーグ、ニュートンへの手紙が収録され、第3巻「数学・自然学」ではヨハン・ベルヌイやスローンへの手紙、第8巻「前期哲学」ではアルノーとの往復書簡やゾフィー・シャルロッテへの手紙、第9巻「後期哲学」ではデ・フォルダーやデ・ボス宛書簡の抄訳、クラークとの往復書簡、第10巻「中国学・地質学・普遍学」ではド・レモン宛書簡が訳出されてきました。単なる筆まめなのではなく、知的活動として書簡というメディアを最大限に利用していたわけで、書簡集を読むことなしにライプニッツを理解することはできないと言えそうです。

★「『モナドロジー』300周年の新展開」と銘打たれた第II期は今後、来年に第2巻「法学・神学・歴史学――人間の幸福・公共の善・神の名誉のために」、再来年に第3巻「技術・医学・社会システム――豊饒な社会の実現に向けて」が刊行予定とのことです。第II期の紹介リーフレットはこちらからPDFで閲覧できます。

★工作舎版『ライプニッツ著作集』第I期全10巻の構成は以下の通り。▲は美函なし、◆は版元品切です。幸いなことに、品切巻は新装版(函なしカヴァー装)で再刊する計画があるようです。

[1] 論理学 澤口昭聿訳 1988年11月 本体10,000円
[2] 数学論・数学 原亨吉ほか訳 1997年4月 本体12,000円 
[3] 数学・自然学 原亨吉ほか訳 1999年3月 本体17,000円▲
[4] 認識論[人間知性新論…上] 谷川多佳子ほか訳 1993年8月 本体8,500円◆
[5] 認識論[人間知性新論…下] 谷川多佳子ほか訳 1995年7月 本体9,500円▲
[6] 宗教哲学[弁神論…上] 佐々木能章訳 1990年1月 本体8,253円
[7] 宗教哲学[弁神論…下] 佐々木能章訳 1991年5月 本体8,200円▲
[8] 前期哲学 西谷裕作ほか訳 1990年12月 本体9,000円◆
[9] 後期哲学 西谷裕作ほか訳 1989年6月 本体9,500円
[10] 中国学・地質学・普遍学 山下正男ほか訳 1991年12月 本体8,500円

★なお第II期の刊行を記念して、現在、ジュンク堂書店池袋本店4F人文書売場哲学思想新刊コーナーの一番上の棚でコーナーが展開されています。また、神保町の書泉グランデ4F思想書売場では、棚の中の1段を2本分でフェアを開催中。お買い上げ特典として特製のしおりとカードがついてきます。工作舎さんよりいただいた店頭の写真を以下に掲載します。

・ジュンク堂池袋本店
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・書泉グランデ
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◎藤原書店さんの季刊誌『環』が第I期終刊

環 vol.61:第Ⅰ期終刊』藤原書店、2015年5月、本体3,600円、菊大並製440頁、ISBN978-4-86578-028-4
〈増補新版〉資本主義の世界史――1500-2010』ミシェル・ボー著、筆宝康之・勝俣誠訳、藤原書店、2015年5月、本体5,800円、A5上製568頁、ISBN978-4-89434-796-0
石牟礼道子全句集 泣きなが原』石牟礼道子著、黒田杏子解説、藤原書店、2015年5月、本体2,500円、B6変上製256頁、ISBN978-4-86578-026-0

★3点とも発売済。「歴史・環境・文明」をめぐる学芸総合誌「環」は2000年1月に第0号が刊行され、以来15年にわたり季刊雑誌として継続されてきました。今回の第61号の刊行をもって第I期終刊とのことです。同業者には想像しやすいのですが、書籍出版をメインにしている版元にとって雑誌運営というものは季刊と言えどもかなりの手間がかかるもので、それを15年間も継続されてきた藤原書店さんにはただただ畏敬の念を覚えます。第61号では2本のシンポジウム「なぜ今、移民問題か」「今、なぜ石牟礼道子か」での鼎談録や各種インタビュー、座談会、エッセイなどのほか、藤原書店さんの創業25周年記念の祝賀会で行われた記念講演や対談、識者から寄せられたのメッセージが掲載されています。また巻末には「環」のバックナンバー装目次と人名索引が160頁ものヴォリュームで併載されています。この総目次は1200円の単独小冊子としても分けてもらえるそうなので、ご希望の方は藤原書店さんの営業部までお問い合わせください。

★藤原書店さんでは今月、ミシェル・ボー『〈増補新版〉資本主義の世界史――1500-2010』や、『石牟礼道子全句集 泣きなが原』なども刊行されています。前者の原書はフランスのスイユ社から1981年に刊行され、その後改訂と増補を重ねてきたHistoire du capitalisme : de 1500 à nos joursで、日本語版の初訳は1996年6月刊行でした。2010年に第8章が追加された原書新版(第6版)が出たため、日本語訳でも増補改訂版として今回の出版に至った次第かと思います。帯文はこうです。「「資本主義500年史」を描いた名著、待望の増補決定版刊行! 9・11事件、リーマンショックなど、2000年代の世界史的“大反転”をどう位置づけるのか? ブローデルの全体史、ウォーラーステインの世界システム論、レギュラシオン・アプローチを架橋して資本主義の500年史を統一的視野のもとに収め、初版刊行以来大好評を博した書に、世紀の転換期を挟む約20年の展開を論じた一章を加筆した決定版」。増補改訂版にあたり、第III部「資本主義の世界的「勝利」と大転換」の第7章「二十世紀末――世界史の大転換期か」が「二十世紀末――世界の大反転の始まりか?」として全面修正され、第8章が「2000-2010――地球規模の大動乱の始まり」として新たに訳出されています。また、巻頭には「日本語増補新版への序文――資本主義の歴史について」という新しい序文が著者から寄せられています。著者のミシェル・ボー(Michel Beaud, 1935-)さんは近年日本でもよく読まれだしたトマ・ピケティ(1971-)に比べると親子ほどの歳の差があるヴェテラン経済学者で、既訳書『大反転する世界――地球・人類・資本主義』(筆宝康之・吉武立雄訳、藤原書店、2002年)も藤原書店さんから刊行されています。

★『石牟礼道子全句集 泣きなが原』は作家の半世紀にわたる全句を収録した一冊で、幻の句集と言われた『天』(天籟俳句会、1986年)も収められています。書名になっている「泣きなが原」は大分県と熊本県にまたがる涌蓋山(わいたさん)の山麓にある地名だそうで、こんな一句があります、「おもかげや泣きなが原の夕茜」(189頁)。あとがきには「九重高原、特に「泣きなが原」という薄〔すすき〕原の幽邃ばうつくしあに魅入られたのが、俳句を作るきっかけになった」(228頁)とあります。巻末には黒田杏子さんによる味わい深い解説「一行の力」が付されています。そこで引かれている高銀さんや上野千鶴子さんとの対談での石牟礼さんの言葉にたとえようのない重みを感じつつ、一句一句に込められた思いを想像します。「われひとり闇を抱きて悶絶す」「色の足りぬ虹かかる渡るべきか否か」「向きあえば仏もわれもひとりかな」。それぞれ2013年夏、2015年冬、2015年春に詠まれた句です。

+++

★このほか、ここ最近では以下の書籍との出会いがありました。

戦時ストライキ』マーティン・グラバーマン著、北川知子訳、こぶし書房、2015年5月、本体2,400円、4-6判上製226頁、ISBN978-4-87559-302-7
日本哲学原論序説――拡散する京都学派』檜垣立哉著、人文書院、2015年5月、本体3,500円、4-6判上製284頁、ISBN978-4-409-04107-9
賢く決めるリスク思考――ビジネス・投資から、恋愛・健康・買い物まで』ゲルト・ギーゲレンツァー著、田沢恭子訳、インターシフト発行、合同出版発売、2015年6月、本体2,200円、46判並製416頁、ISBN978-4-7726-9545-9
死者との邂逅――西欧文学は〈死〉をどうとらえたか』道家英穂著、作品社、2015年5月、本体2,400円、46判上製330頁、ISBN978-4-86182-533-0
サリーのすべて』アルノ・ガイガー著、渡辺一男訳、作品社、2015年5月、本体2,600円、46判上製344頁、ISBN978-4-86182-532-3

★特記したいのは『戦時ストライキ』です。原書は、Wartime Strikes: The Struggle against the No-Strike Pledge in the UAW during World War II (Bewick Edition, 1980)。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。帯文に曰く「WWII戦時総動員体制下、労働組合の国策協力「ストライキ凍結宣言」を打ち破ったアメリカ労働者の闘い」。「はじめに」によれば本書は「ストライキ凍結宣言をめぐって全米自動車労働組合(UAW)と一般組合員コーカスで繰り広げられた闘争の顛末」を記し、それを踏まえて「労働者階級の意識を分析」したもの。コーカスとは派閥や会派のこと。戦時下におけるいわゆる「山猫スト」(一部の組合員が指導部の承認を得ないまま決行するストライキのこと)を分析した古典です。著者のマーティン・グラバーマン(Martin Glaberman, 1918-2001)はアメリカの運動家・歴史家で、自身もデトロイトの自動車工場で働いた経験があるそうです。かの活動家・社会理論家C・L・R・ジェームズのアメリカ時代における弟子にして盟友でした。原書の版元はほかならぬグラバーマンが1970年代に創立した出版社で、ジェームズの著作をはじめアメリカの労働運動関連の書籍を刊行したと言います。
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by urag | 2015-05-31 21:10 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 05月 24日

まもなく発売:熊野訳『判断力批判』作品社、など

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判断力批判
イマヌエル・カント著、熊野純彦訳
作品社、2015年5月、本体7,600円、A5判上製函入590頁、ISBN978-4-86182-530-9

帯文より:美と崇高なもの、道徳的実践を人間理性に基礎づける西欧近代哲学の金字塔。カント批判哲学を概説する第一序論も収録。三批判書個人完訳。

★まもなく発売。『純粋理性批判』(2012年1月)、『実践理性批判』(2013年5月)と続いてきた熊野さんの新訳版三批判書が今回ついに完結します。入念に彫琢された訳文によってあらためてカントの到達点に接近できる喜びがあるうえに、菊地信義さんによる美麗な造本により、書架に揃える楽しみもあります。訳者あとがきによれば底本はフォルレンダー版で、凡例には「訳出にさいし、底本のほか、アカデミー版、カッシーラー版、ならびにレクラム文庫版を参照し、カントの原文ならびに底本との重要な相違についてはこれを訳註でしるし、訳文に採用した本分の形態を示した」とのことです。序論のあとにはその草稿である「第一序論」がレーマン版に基づいて訳出されています。巻末には事項と人名の索引が付されています。

★カントは序文の末尾でこう述べています。「これをもって、私はこうしてじぶんの批判的な作業の全体を了えることにする。私はただちに躊躇するところなく、理説的な作業へ向かおうと思うけれども、それも、わが身に折りかさなってくる年齢から、その作業に好適な時間を、いくらかでもなお可能なかぎり掠めとるためである」(6頁)。カントにとって『判断力批判』がひとつの大きな区切りであったことが窺えます。熊野さんは訳者あとがきでこう書いておられます。「『判断力批判』は、私見によれば、カントの最高傑作である。そればかりではない。おそらく、西欧近代哲学における最高傑作のひとつである。『実践理性批判』の息苦しいまでの理論構成と、それを反映した晦渋な文体からカントその人が解放されて、ある意味では若き日々からあたためられて、老年にいたって成熟した思考のモチーフのさまざまが、緊密な文体とともに開花している」(556頁)。訳者あとがきには訳語の選択についても書かれており、たとえばaesthetischを「直感的」と訳されたことなどが特記されていますが、これは現物をご確認いただくのがよいと思います。

★本書は難解ではあるものの、熊野さんが指摘されている「カントの人間通の側面」が随所に垣間見られ、そうした箇所はさほど難しくはなく、カントの人間観察の鋭さを感じることができます。たとえば第一部「直感的判断力の批判」の第一篇「直感的判断力の分析論」の第二章「崇高なものの分析論」の§54では、「笑い」が分析されています。「笑いとは、緊張した期待がとつぜん無に転化することから生じる激情である」(320頁)。このあとどういうシチュエーションが笑いを生むか、具体例が出てきます。現代風の「お笑い」とは表現形が少し異なるかもしれませんが、それでも現代人の笑いを考える上で今なお示唆的な議論が数頁にわたってしるされています。『判断力批判』の楽しみ方のひとつのきっかけとして、カントでお笑いを考える、というのも一興かもしれません。

★ちなみに現時点で新刊が入手可能な『判断力批判』の既訳書は、篠田英雄訳岩波文庫上下巻しかありません。宇都宮芳明訳以文社版上下巻は上巻が品切、牧野英二訳岩波新全集版上下巻は両方とも品切です。それぞれいずれ重版されるでしょうし、光文社古典新訳文庫から中山元さんによる新訳もいずれ刊行されることになると思われますが、これらのほかにもたとえば原佑さんの既訳や高峯一愚さんの注釈書などは文庫化されてもよかったように思います。

★三批判書新訳の編集を担当されたTさんは今月、松田悠八さんの小説『長良川――修羅としずくと女たち』も手掛けられています。同書は小島信夫文学賞受賞作『長良川――スタンドバイミー一九五〇』(作品社、2004年)の続編で、『岐阜新聞』に連載されていた作品です。帯文に曰く「故郷の川と過ごした輝ける少年時代。60年安保闘争の浪に揉まれた混迷の学生時代。早大劇研・伝説の美女と新島の飛騨んじい伝説。幾多の「水」と女たちに導かれた懐かしき半生」。〈3.11〉の描写に始まり、長良川の水面に月光が映える光景で終わる物語は、自伝的要素を含むようです。著者は出版社勤務の経験をお持ちで、本書にはテレビ業界ではなく出版界に進むことの望む主人公のこんな言葉があります。

★「文字を意識するときに、おれの頭にいつも浮かんでくる詩があるんだよ。宮沢賢治の『春と修羅』って詩で、「はぎしり燃えてゆききする おれはひとりの修羅なのだ」っていう二行。大好きなフレーズでね、文字のすごさがこれほど生きて迫ってくる例はないと思うんだ。おれは修羅なんだ、何かの化身なんだって思いが文字からずしんと伝わってくる。〔・・・〕文字がおれの頭のなかに修羅の像を作ってくれる。すると賢治がおれのなかで生き返り、立ち上がってくるんだ。こうやって、千人が読めば千の修羅像ができる。文字ってそういうちからがあると思うね」(125-126頁)。出版人であり作家でもある著者の思いが凝縮された一節ではないかと思います。


◎平凡社さんの新シリーズ「本の文化史」が刊行開始

読書と読者
横田冬彦編
平凡社、2015年5月、本体2,800円、4-6判上製336頁、ISBN978-4-582-40291-9

帯文より:生きるために本を読む人と時代。より多くの実りを求め、信心のよすがに、新しい交流のため、また家の維持や地域の安寧のため、命を救うため、暮らしを支える知や経験のために、この国で、男や女やさまざまな業を営む人々が書籍に向かい読者となった時代、そのありようを多角的に描く。

目次:
シリーズ〈本の文化史〉刊行にあたって
総論 読書と読者 (横田冬彦)
1 江戸時代の公家と蔵書 (佐竹朋子)
2 武家役人と狂歌サークル (高橋章則)
3 村役人と編纂物――『河嶋堤桜記』編纂と郡中一和 (工藤航平)
4 在村医の形成と蔵書 (山中浩之)
5 農書と農民 (横田冬彦)
6 仏書と僧侶・信徒 (引野享輔)
7 近世後期女性の読書と蔵書について (青木美智男)
8 地域イメージの定着と日用教養書 (鍛冶宏介)
9 明治期家相見の活動と家相書――松浦琴生を事例にして (宮内貴久)

★まもなく発売。新しいシリーズ「本の文化史」の第1回配本で、2冊同時刊行です。鈴木俊幸、横田冬彦、若尾政希の編者三氏による巻頭挨拶「シリーズ〈本の文化史〉刊行にあたって」によれば、「本シリーズでは、書籍・出版研究を六分野にわけて、その全貌を示し、研究の現状を総点検できるようにした」とあるので、全6巻構成なのかもしれませんが、詳細はまだ明らかになっていません。挨拶文の末尾にはこう書いてあります。「さらに考えてみたいのは、書籍文化のゆくすえである。インターネットや電子出版の急速な普及により、紙媒体の所移籍がなくなるのではないか、書籍の時代は終わりつつあるという危機感を多くの人たちがもつに至っている。こうした時代を生きている私たちは、書籍が時代のなかで担ってきた歴史的役割を明らかにして、人々にとって紙の本を読むことが大きな意義を持った書籍の時代とはなんだったのか、あらためてふりかえってみる必要があろう。本シリーズがそのような検討に寄与できることを期待している」(3頁)。


書籍の宇宙――広がりと体系
鈴木俊幸編
平凡社、2015年5月、本体3,000円、4-6判上製344頁、ISBN978-4-582-40292-6

帯文より:かくも多様な本と印刷物の世界。海の向こうから輸入され、木の活字を使い、京の書籍のまねをして町の読み物として、お上の教諭のために、字の書き方を習い、字を読むために学び、さまざまな目的をもったさまざまな出来方の書物や印刷物が、近世から近代へとその存在を主張した。その百花繚乱。

目次:
総論 書籍の宇宙 (鈴木俊幸)
1 歴史と漢籍――輸入、書写、和刻 (細川貴司)
2 古活字版の世界――近世初期の書籍 (高木浩明)
3 「書」の手本の本――法帖研究の意識と方法 (岩坪充雄)
4 辞書からの近世をみるために――節用集を中心に (佐藤貴裕)
5 江戸版からみる一七世紀日本 (柏崎順子)
6 領内出版物――治世と書籍 (山本英二)
7 何を藩版として認めるのか――蔵版の意味するもの (高橋明彦)
8 草双紙論 (鈴木俊幸)
9 書籍の近代――東京稗史出版社の明治一五年 (磯部敦)

★まもなく発売。版元紹介文によれば同時刊行の第1弾『読書と読者』は「近世初頭の出版業の開始以降を中心に、書籍を読む歴史を多角的に明らかにする論集」で「生きるために本を読む多様なあり方」を探るもの。第2弾『書籍の宇宙』は「版本を中軸に据えて、書籍メディアのさまざまなあり方を紹介、社会・歴史のなかでそれらが持っていた力を鮮明に描き出す」のを目的としており、巻頭には8頁にわたるカラー図版があります。一見すると活字には見えない、筆で書いたように流麗なくずし字のいわゆる「連綿体」で組まれた古活字版の『平家物語』や、現代人の目にも今なお美しい彩色絵図を配した草双紙などが掲載されています。書籍の歴史を学ぶ時、今ある本の形態もいずれは変容していく一過程のものなのだということに気づかされます。過去を知ることによって未来もまた見えてくるわけです。
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by urag | 2015-05-24 23:01 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 05月 17日

注目新刊:幸徳秋水『二十世紀の怪物 帝国主義』光文社古典新訳文庫、など

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二十世紀の怪物 帝国主義』幸徳秋水著、山田博雄訳、光文社古典新訳文庫、2015年5月、本体860円、256頁、ISBN978-4-334-75311-5
文語訳 旧約聖書I 律法』岩波文庫、2015年5月、本体1,080円、480頁、ISBN978-4-00-338034-5

★『二十世紀の怪物 帝国主義』は発売済。秋水の師匠である中江兆民の『三酔人経綸問答』(鶴ヶ谷真一訳、光文社古典新訳文庫、2014年3月)で解説を書かれていた山田さんによる現代語訳です。カバー裏紹介文は以下の通り。「ホブソン、レーニンに先駆けて書かれた「帝国主義論」の嚆矢。仏訳もされ、基本文献として高く評価されている。師・中江兆民の思想を踏まえ、徹底した「平和主義」を主張する「反戦の書」。大逆事件による刑死直前に書かれた遺稿「死刑の前」を収録」。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。本篇に先立って収録されている「『帝国主義論』へのはしがき」(原文では「『帝國主義』に序す」)の著者である内村鑑三の著書についてはほかならぬ光文社古典新訳文庫で3月に河野純治訳『ぼくはいかにしてキリスト教徒になったか』が刊行されたばかりですし、上記紹介文で言及されているレーニン『帝国主義論』も光文社古典新訳文庫で刊行されています(角田安正訳、2006年)。こうした文脈ある出版というのはとても有意義ですし、好感が持てますね。

★「帝国主義は「愛国心」を経〔たていと〕とし、「軍国主義」を緯〔よこいと〕として、織りなされた政策ではないだろうか」(第二章「愛国心を論ずる」、27頁;原文は「帝国主義は所謂愛国主義を経となし、所謂軍国主義〔ミリタリズム〕を緯となして、以て織り成せるの政策に非ずや」)と幸徳秋水は書きます。また第三章「軍国主義を論ずる」ではこうも書いています。「戦争はただ悪知恵を比べる技術である。戦争の技術が発展するということは、悪知恵が発達するということだ」(125頁;原文「戦争は唯た猾智を較するの術也、其発達は猾智の発達也」)。本書の帯文に「これ、本当に100年前に書かれたんですか?」とありますが、本書には今なお私たちの胸に刺さる警句がいくつもあります。『帝国主義』の現代語訳は数年前にも刊行されており(『現代語訳 帝国主義』遠藤利國訳、未知谷、2010年)、今回の新訳とあわせ、仮名遣いを現代風に改めた原文(『帝国主義』山泉進校注、岩波文庫、2004年)と対照させながら読むと味わいが深くなると思います。

★幸徳秋水の著書については近年では『帝国主義』の新訳のほかにも、『現代語訳 幸徳秋水の基督抹殺論』佐藤雅彦訳、鹿砦社、2012年)や、『日本の名著』からのスイッチ『平民主義』(神崎清訳、中公クラシックス、2014年11月)が出版されていて、再読再評価の機運が高まりつつあると言えそうです。大きな枠組で言えばアナーキズムの再ブームですが、グローバリゼーションに伴う経済的帝国主義や軍事的領土拡大主義、世界資本主義やいわゆるショック・ドクトリンが多方面で圧倒的な猛威をふるうこんにちにおいて、人々の危機感が募ればつのるほどアナーキズムはより鮮烈に回帰します。アナーキズムは、「エコ」「リサイクル」「オーガニック」「スロー」「DIY」「フェアトレード」「エシカル」等々の様々な潮流や社会運動と隣接しており、一部の書店さんではこれらのいわば「オルタナティヴ」を雑貨の販売と併せてうまくまとめ上げる書棚が近年生成されつつあるように見えます。例えばリブロさんがららぽーと富士見店で初めて導入された「andante 大人の人生ゆっくりと」などにもそうしたテイストを感じます。「andante(アンダンテ)」は年配向けだそうですが、実際は20代から楽しめるものです。同店の時同書売場「わむぱむ」を訪問する若いママ・パパにもアピールできれば、相乗効果はいっそう大きくなるでしょうね。

★光文社古典新訳文庫では今月、モラヴィア『薔薇とハナムグリ――シュルレアリスム・風刺短篇集』(関口英子訳)も刊行。さらに続刊予定には、メルヴィル『書記バートルビー/ベニート・セレーノ』(牧野有通訳)や、マルクス『資本論第一巻草稿――直接的生産過程の諸結果』(森田成也訳)などが予告されており、楽しみです。他社本になりますが、文庫新刊で今月まだ当ブログで取り上げていない書目の中には、講談社文芸文庫で蓮實重彦『凡庸な芸術家の肖像――マクシム・デュ・カン論(上)』(下巻は6月発売)、講談社学術文庫で酒井直樹『死産される日本語・日本人――「日本」の歴史-地政的配置』、松岡心平『中世芸能講義――「勧進」「天皇」「連歌」「禅」』、山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』などがあり、とても充実しています。学術文庫では来月、ゾンバルト『ユダヤ人と経済生活』(金森誠也訳)を発売予定とのことです。

★『文語訳 旧約聖書I 律法』は発売済。好評既刊書『文語訳 新約聖書 詩篇付』(岩波文庫、2014年1月)に続く「文語訳聖書」第2弾。カバーソデ紹介文によれば「旧約聖書全39書の文語訳版(明治訳)を、「律法」「歴史」「諸書」「預言」の4冊に収める。第1冊「律法」には、「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数紀略」「申命記」を収録。明治期に完成し、昭和30年に口語訳が出るまで多くのひとに親しまれてきた、近代日本の生んだ一大古典。(解説=鈴木範久)(全4冊)」。文語訳は現代人にとってみれば理解しにくいところがありますが、日本語としてのリズムに優れており美しいです。総ルビなので、音読に適しています。旧約の現代語訳や口語訳は各種あるので、一緒にお買い求めになれば内容が理解しやすくなると思います。

★「【二二】ヱホバ神曰たまひけるは視よ夫人我らの一の如くなりて善悪を知る然れば恐くは彼其手を舒べ生命の樹の果実をも取りて食ひ限なく生きんと 【二三】ヱホバ神彼をエデンの園よりいだし其取て造られたるところの土を耕さしめたまへり 【二四】斯神其人を逐出しエデンの園の東にケルビムと自から旋転する焰の剣を置て生命の樹の途を保守りたまふ」(創世記第三章、14頁)。ブログでは無理ですが実際はすべての漢字に仮名が振ってありますから(=総ルビ)、読めないところはありません。暗唱できるようになれば、いっそう趣きが増しますね。

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★このほか、ここ最近では以下のような新刊との出会いがありました。

エイゼンシテイン・メソッド――イメージの工学』大石雅彦著、平凡社、2015年5月、本体5,800円、A5判上製516頁、ISBN978-4-582-28261-0
球技の誕生――人はなぜスポーツをするのか』松井良明著、平凡社、2015年5月、本体2,800円、4-6判上製336頁、ISBN978-4-582-62703-9
[新装版]遊廓のストライキ』山家悠平著、共和国、2015年5月、本体2,400円、菊変判並製276頁、ISBN978-4-907986-16-2
理性の権利』トマス・ネーゲル著、大辻正晴訳、春秋社、2015年4月、本体3,200円、四六判上製264頁、ISBN978-4-393-32346-5
アリストテレス的現代形而上学』トゥオマス・E・タフコ編著、加地大介・鈴木生郎・秋葉剛史・谷川卓・植村玄輝・北村直彰訳、春秋社、2015年1月、本体4,800円、四六判上製482頁、ISBN978-4-393-32349-6

★特記しておきたいのは、ネーゲル『理性の権利』です。年頭に刊行された啓発的なアンソロジー『アリストテレス的現代形而上学 Contemporary Aristotelian Metaphysics』に続く、シリーズ「現代哲学への招待」の最新刊。原書は、The Last Word (Oxford University Press, 1997)で、「序論」「なぜ外側からの思考は理解できないのか」「言語」「論理学」「科学」「倫理学」「進化論型自然主義と宗教恐怖症」の全7章立て。巻末にはソーカル+ブリクモン『「知」の欺瞞』(訳書は岩波現代文庫)への書評「理性の眠り」(1998年;Concealament and Exposure [OUP, 2002]所収)が付論として日本語版のみに特別収録されています。訳者後記のこんな言葉が目を惹きました。「訳出にあたり想定していた読者は、大学生を含めた一般読書人である。〔・・・〕そんな理由もあって、訳文では「的」を排した。翻訳者をこの上なく楽にしてくれ読者にこの上なく負担を強いる文字、翻訳の哲学書をときには意味不明にしてしまうこの文字を、可能なかぎり避けている」(241頁)。一編集者の経験則から言えばこれは非常に重要なポイントで、「的」をより正確で具体的なにどんな日本語に直せるかどうかというのは大きな問題です。日本語表現をうまく簡略化してしまえる「的」(さらに言えば「の」も同様です)は時として誤読を誘発しますから、それを避けるというのは賢明かつ健全な判断なのです。

★その時々の懐具合だったり親本を持っている再刊本だったりでまだ未購読なここ半年ほどの新刊の一部には以下のものがありました。こう列記してみると、目に留まるものすべてどころかその一部にすら追随していくのは不可能だとも感じますが、いかんともしがたいです。

アラン『芸術論20講』長谷川宏訳、光文社古典新訳文庫、2015年1月
トマ・ピケティ『トマ・ピケティの新・資本論』村井章子訳、日経BP社、2015年1月
ポール・クルーグマン『さっさと不況を終わらせろ』山形浩生訳・解説、ハヤカワ文庫、2015年2月
マイケル・イグナティエフ『火と灰――アマチュア政治家の成功と失敗』添谷育志・金田耕一訳、風行社、2015年2月
ミチオ・カク『フューチャー・オブ・マインド――心の未来を科学する』斉藤隆央訳、NHK出版、2015年2月
ジル・クレマン『動いている庭――谷の庭から惑星という庭へ』山内朋樹訳、みすず書房、2015年2月
ヴァーノン・リー『教皇ヒュアキントス――ヴァーノン・リー幻想小説集』中野善夫訳、国書刊行会、2015年2月
スチュアート・シム『ポストモダンの50人――思想家からアーティスト、建築家まで』田中裕介・本橋哲也訳、青土社、2015年2月
ゲーテ『FAUST』三木正之訳、南窓社、2015年3月
細野晴臣+星野源『地平線の相談』文藝春秋、2015年3月
荒俣宏『サイエンス異人伝――科学が残した「夢の痕跡」』講談社ブルーバックス、2015年3月
エリック・ホブズボーム『破断の時代――20世紀の文化と社会』木畑洋一・後藤春美・菅靖子・原田真見訳、慶應義塾大学出版会、2015年3月
鞆の津ミュージアム監修『シルバ~アート 老人芸術』朝日出版社、2015年4月
岩田圭一『アリストテレスの存在論――〈実体〉とは何か』早稲田大学出版部、2015年4月
ホフマン『くるみ割り人形とねずみの王さま/ブランビラ王女』大島かおり訳、光文社古典新訳文庫、2015年4月
ダニエル・C・デネット『思考の技法――直観ポンプと77の思考術』阿部文彦・木島泰三訳、青土社、2015年4月
ニクラス・ルーマン『社会の道徳』馬場靖雄訳、勁草書房、2015年4月
ロベール・カステル『社会喪失の時代――プレカリテの社会学』北垣徹訳、明石書店、2015年4月
山下純一『グロタンディーク巡礼――数学思想の未来史』現代数学社、2015年4月
倉谷滋『形態学――形づくりにみる動物進化のシナリオ』丸善出版、2015年4月
ドナルド・モグリッジ編『ケインズ全集(21)世界恐慌と英米における諸政策』東洋経済新報社、2015年5月
ハイデガー『存在と時間 新装版』上下巻、松尾啓吉訳、勁草書房、2015年5月
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by urag | 2015-05-17 18:47 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 05月 15日

ジェームズ『境界を越えて』の書評が「北海道新聞」と「日本経済新聞」に

C・L・R・ジェームズ『境界を越えて』(本橋哲也訳、月曜社、2015年3月)の書評が「北海道新聞」と「日本経済新聞」に掲載されました。

「北海道新聞」2015年5月3日(日)付12面「本の森」欄では、中島俊郎さん(甲南大教授)による書評記事「スポーツ文化史の名著」が載りました。「歴史、社会、政治などの諸ジャンルを簡単に横断し、越境し〔・・・〕本書がもたらす強靭な求心的波動ゆえ、〔・・・〕すぐれた文化史として読める。〔・・・〕清冽な精神を支柱にして生きた人間の秀逸な自伝〔・・・〕。過不足のない注釈に加えて、クリケットの競技を詳述した付録も、本書を信頼できる翻訳書にしている」と評していただきました。

「日本経済新聞」2015年5月13日(水)付夕刊「エンジョイ読書/目利きが選ぶ今週の3冊」では、藤島大さん(スポーツライター)による書評記事「黒人思想家のスポーツ愛」が載りました。「待望の邦訳〔・・・〕。あるスポーツへの愛という純粋性を軸に世界をとらえる。公平と結束と個性。政治は政治でクリケットはクリケットで、なお政治もまたクリケットなのである。/なじみ深くはないが、出版されなくてはならぬ一冊。巻末の競技概略は親切だ」と評していただきました。

+++

一方、「朝日新聞」2015年5月11日(月)付夕刊1面では、T記者による記事「セゾン文化を体現、個性放つ書棚 リブロ池袋本店閉店へ」が掲載され、僭越ながら私のコメントが載っております。リブロについての話は尽きません。これまで書いたこともありますが、あらためての話は今は書かずにおこうと思います。
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by urag | 2015-05-15 15:19 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2015年 05月 13日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2015年5月27日(水)開店
JEUGIA [Basic.]:B1F=134坪(うち書籍10坪)
京都市下京区四条通東洞院長刀鉾町33番地 京都フコク生命四条烏丸ビル 1F/B1F
大阪屋帳合。弊社へのご発注は写真関連数点。京都を本拠地に楽器店などを展開する株式会社JEUGIA(ジュージヤ:旧名「十字屋」)が従来の「四条店」をリニューアルし、1Fにカフェバー「PRONTO by JEUGIA」、B1Fに音楽ソフト・書籍・雑貨のセレクトショップ「JEUGIA [Basic.]」を今月末に開店させるとのことです。取次の出品依頼書を見てもJEUGIAの2015年4月28日付ニュース・リリースを見ても店名をどう読ませるのか書いていないのですが、おそらくはジュージヤ・ベーシックと読ませたいのでしょう。ニュース・リリースによれば、概要は以下の通りです。

「昭和44年から平成27年までの46年間、多くのお客様にご愛顧いただきました「JEUGIA四条店」を改装して、新業態でオープンいたします。/当社は、飲食店の企画・運営会社、株式会社プロントコーポレーションとフランチャイズ契約を締結し、カフェ&バーを中心とした飲食事業に取り組むことといたしました。/新規事業の第1号店として、JEUGIA四条店を改装し、JEUGIA[Basic.]をオープンいたします。/1Fは、イタリアのバールのように、一日中いつでもお客様にくつろげる場所を提供する、「CAFFÈ & BAR PRONTO 四条烏丸 by JEUGIA」として、「We have 5 chances a day」をビジネスコンセプトに、モーニングからランチ、カフェ、バータイムまで、日常の時間に深くなじんだくつろぎの空間を創造して、お客様・店舗と音楽のふれあいの機会を演出してまいります。/B1F「JEUGIA Basic」は、「聴き続けられる音楽」をテーマに音楽ソフト・書籍・雑貨をセレクトし提案するフロアーとしてリニューアルいたします。ミニライブやワークショップなどのイベントもあり、音楽や文化との交流が出来る場所です」。

さらに同店の3つのポイントとして、「新規業態の「バール・飲食」を導入し、心豊かな暮らしを提案する店舗形態」、「音楽と飲食が創り出す落ち着いた空間を大切にした「新しい店舗のカタチ」、「JAZZYでシンプルな音楽に似合うライフスタイルを提案するSHOP」を掲げておられます。B1Fのセレクトショップは、「音楽や文化に関連した書籍・セレクト雑貨やCD・レコード等を販売」とも紹介されています。営業時間は10:30~20:30で無休とのこと。この業態が成功すれば恐らくは大阪をはじめ各地に店舗を展開されていくのではないかと想像できます。
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by urag | 2015-05-13 16:29 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2015年 05月 12日

注目新刊:サンデルに続き若手哲学者にもメディア・ミックスの波が

眼底痛がひどくて週末に更新できませんでした。職業病と言うべきか、寄る年波と言うべきか・・・。

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◎3冊同時発売:『哲子の部屋』河出書房新社

哲子の部屋 I 哲学って、考えるって何?』國分功一郎監修、NHK『哲子の部屋』制作班著、河出書房新社、2015年5月、本体980円、46変形判上製104頁、ISBN978-4-309-24705-2
哲子の部屋 II 人はなぜ学ばないといけないの?』國分功一郎監修、NHK『哲子の部屋』制作班著、河出書房新社、2015年5月、本体980円、46変形判上製96頁、ISBN978-4-309-24706-9
哲子の部屋 III “本当の自分”って何?』千葉雅也監修、NHK『哲子の部屋』制作班著、河出書房新社、2015年5月、本体980円、46変形判上製104頁、ISBN978-4-309-24707-6

先週から再放送開始となったNHKのEテレ特番『哲子の部屋』の、國分功一郎さん御出演の2回と千葉雅也さん御出演の1回が書籍化されました。『哲子の部屋』は女優の清水富美加さんとマルチタレントのマキタスポーツさんと、気鋭の哲学者の國分功一郎さん(3回目は千葉雅也さん)が哲学をめぐって鼎談する番組で、書籍版ではテレビではカットされていた会話も収録されていてより分かりやすく、さらに「こんなことも話していたのか」と楽しめます。第1回ではドゥルーズ、第2回ではユクスキュル、第3回では再びドゥルーズが援用され、映画や音楽などの「教材」を参考にしつつ、哲学することとはどういうことなのかが実践的に示されます。今までの哲学の入門書や新書は専門家が執筆するため、どうしてもある程度の「理解の下地」を求められる部分がありがちでしたが、今回の3冊の本はそうした下地やら素養やら予備知識は必要ありませんし、非常に入り込みやすく、短時間で苦もなく最後まで読み通せると思います。

その分、物足りなく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうした方や、本書を読んでさらに学んでみたくなった方は、例えば國分さんでしたら『暇と退屈の倫理学 増補新版』(太田出版、2015年3月)、千葉さんでしたら『別のしかたで――ツイッター哲学』(河出書房新社、2014年7月)をお読みになってみてください。3回の講義で紹介されていたドゥルーズ+ガタリの『哲学とは何か』や『千のプラトー』(どちらも河出文庫)、もしくはユクスキュルの『生物から見た世界』(岩波文庫)にいきなり行くのもいいですが、通読するには若干ハードルが高いかもしれません。拾い読みや飛ばし読みから初めても良いと思います。あるいは古書店でドゥルーズ+ガタリ『リゾーム』(豊崎光一訳、朝日出版社)を見かけられたら購入しておくことをお薦めします。豊崎さんの巻頭言では予備知識や教養が必要とされていないことが大胆に説かれています。『リゾーム』は『千のプラトー』の序文なのですが、日本語訳版では内容的にも造本的にも豊かにその魅力が拡張されていて、複数冊持っている私にとっても個人的には今なお再刊されてほしい一冊です。

『リゾーム』の1987年の復刻版で編集を担当されていた赤井茂樹さんはほかならぬ國分さんの『暇と退屈の倫理学』も手掛けられているヴェテラン編集者でいらっしゃいます。赤井さんは朝日出版社から太田出版に移籍され、同書の増補新版を担当されました。増補新版では新しい「まえがき」と付録の論考「傷と運命──『暇と退屈の倫理学』新版によせて」が収録されています。國分さんの次回作は『欲望と快楽の倫理学』となるようです。

さらに國分さんや千葉さんつながりで読書したいという方には、お二人が高く評価されている新人さんの卓抜な書籍をお薦めします。石岡良治(いしおか・よしはる:1972-)さんの第2作『「超」批評 視覚文化×マンガ』(青土社、2015年3月)や、松本卓也(まつもと・たくや:1983-)さんのデビュー作『人はみな妄想する――ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』(青土社、2015年4月)です。少し大げさに言えば、人文書ご担当の書店員さんでこのお二人のご活躍が視野に入っていなかったら、環境的にやや情報不足かもしれません。特に石岡さんはほかならぬ『哲子の部屋』で國分さん、千葉さんに続いて今月登場されますから、要チェックです。


◎コールハース『S, M, L, XL+』は伝説の『S, M, L, XL』の本文プラス最新エッセイ集

S, M, L, XL+――現代都市をめぐるエッセイ』レム・コールハース著、渡辺佐智江・太田佳代子訳、ちくま学芸文庫、2015年5月、本体1,400円、386頁、ISBN978-4-480-09667-8
表現と介入――科学哲学入門』イアン・ハッキング著、渡辺博訳、ちくま学芸文庫、2015年5月、本体1,500円、576頁、ISBN978-4-480-09655-5
幻獣辞典』ホルヘ・ルイス・ボルヘス著、柳瀬尚紀訳、河出文庫、2015年5月、本体1,100円、336頁、ISBN978-4-309-46408-4
不思議の国のアリス』ルイス・キャロル著、高山宏訳、佐々木マキ画、亜紀書房、2015年4月、本体1,600円、四六判上製224頁、ISBN978-4-7505-1428-4
ソラリス』スタニスワフ・レム著、沼野充義訳、ハヤカワ文庫、2015年4月、本体1,000円、420頁、ISBN978-4-15-012000-9
レジナルド』サキ著、井伊順彦・今村楯夫・ほか訳、池田俊彦挿絵、風濤社、2015年4月、本体2,400円、四六変判上製192頁、ISBN978-4-89219-395-8

まず『S, M, L, XL+』ですが、原書『S, M, L, XL』(1995年)のような図版たっぷりの分厚い本がそのままお手頃な文庫本になるのか!と期待していた読者には残念だったかもしれないものの、同業者として推察すれば、あの膨大な図版すべての版権をクリアするのは不可能です。原書は原書で買う、というのが正解なので、洋書も扱える本屋さんは訳書と一緒に原書を販売して下さると素敵だと思います。『S, M, L, XL+』は末尾に+(プラス)と付いている通り、『S, M, L, XL』のテキストにその後の重要エッセイを増補した特別版となっています。増補されたエッセイを列記しますと「クロノカオス」2010年、「スマートな景観」2015年、「ヨーロッパ+アメリカの前衛」1996年、「ユートピアの駅」2004年、「ベルリン――建築家のノート」2006年、「汚れを背にした白いブリーフ――ニューヨークの凋落」2004年、「二つの新しい東京」1996年、「ピクセル東京」2007年、「最前線」2007年、「ジャンクスペース」2001年、の10篇です。

ちくま学芸文庫の今月新刊では、イアン・ハッキング(Ian Hacking, 1936-)の初の文庫化となる『表現と介入』にも注目したいです。親本は産業図書より1986年に刊行、副題は「ボルヘス的幻想と新ベーコン主義」でした。奥付手前の頁の特記によれば、文庫化にあたり、千葉大学の吉沢文武さんの全面的な協力を得て「文意を損なわない範囲で底本の訳語を改訂し」「著者名の表記や副題を変更した」とのことです。文庫版の解説として、戸田山和久さんが「『表現と介入』のどこがスゴいのか」を寄稿されています。ハッキングの既訳書で現在品切になっている『記憶を書きかえる――多重人格と心のメカニズム』(北沢格訳、早川書房、1998年)も文庫化されるといいなと思います。

『幻獣辞典』は晶文社さんで幾度となく再刊されてきたロングセラーの文庫化です。わずか2年前(2013年10月)に晶文社さんでは本文を新組にし、スズキコージさんの挿画12点を新たに加えた「新版」を発売されたのですが、これはすでに昨年(!)の時点で版元品切になっていたとのことで、スズキコージさんの人気のすごさを感じます。ちなみにこの新版でのスズキさんの絵はカヴァーではカラーですが、本文中では白黒で、これがオールカラーだったらなあと少しもったいない感じがしますけれど、なにぶん短期間で売り切れた版なので、今後は古書価が上がる可能性があるかもしれません。今回の文庫化では、カヴァーの装画は山本容子さんが担当されています。こちらも素敵です。挿画はありませんが、本文で言及されている古典籍からの図版が転載されており、古さがかえって正統な雰囲気を醸し出しています。巻末の「文庫版へのあとがき」によれば、「河出文庫に収められるにあたって、またしても迷路をさまようという幸せな作業に集中することとなった。その作業の結果を新たにできるだけ反映したのがこの文庫版である」とのことです。つまり74年の初版刊行以来初めて、訳文に改めて手を入れたということなのだろうと拝察します。

高山訳『不思議の国のアリス』は原著刊行150周年記念出版とのことで、高山さんは『新注 不思議の国のアリス』(東京図書、1994年)以来の改訳で、挿画は佐々木マキさん、装丁はcozfishの祖父江慎さんと鯉沼恵一さんが手掛けられ、なんとオール2色刷の美しい本となっています。買っておいて絶対に損はない一冊です。高山さんはあとがきで『鏡の国のアリス』のご自身三度目となる改訳の機会が将来的にあるかな、と匂わせておられます。いっぽう沼野訳『ソラリス』は、早川書房さんの創立70周年記念作品で、親本は国書刊行会より2004年に刊行された、ポーランド語原典からの完全翻訳版です。ハヤカワ文庫では従来の『ソラリスの陽のもとに』(飯田規和訳、1977年)も継続販売されており、絶版にしないという当面のご判断は高く評価されるべきではないかと思います。

最後に『レジナルド』は〈サキ・コレクション〉の第一弾だそうで、サキの第1短篇集『レジナルド』全15作に第2短篇集『ロシアのレジナルド』から表題作1作を足した「レジナルド」ものすべてを一冊にまとめた本となっています。既訳があるのは16作品中1作だけなので、ほぼ初訳です。グレーの本文用紙に墨で刷られており、池田俊彦さんによる幻想的でちょっと怖い銅版画と挿絵を19点収録し、たいへんそそる造本となっています。なおサキの第3短篇集『クローヴィス物語』の新訳も奇遇ですがほぼ同時期に和爾桃子さんによる初完訳で白水uブックスから先月(2015年4月)刊行されています。こちらはA・A・ミルンの序文と、エドワード・ゴーリーの挿絵16点を収録。サキ・ブームが再来しつつあると言えるのかもしれません。白水uブックスでは3月にアルフレート・クビーン『裏面――ある幻想的な物語』を再刊しており、クビーンによる自筆挿絵とともにおどろおどろしい物語世界を再び楽しめるようになりました。ちょうど1年前の3月には、クビーンの親本と同じく河出書房新社さんの70年代の素晴らしいシリーズ「モダン・クラシックス」から出ていたグスタフ・マイリンクの『ゴーレム』も白水uブックスで再刊されています。新しい読者との出会いがすでに生まれ初めているに違いありません。幻想文学が復活しつつあるのでしょうか。
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by urag | 2015-05-12 01:26 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 05月 11日

注目新刊:バトラーなど6人の論客による論集『人民とはなにか?』以文社、など

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★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、共訳:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『涜神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』、編訳書:スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、パーチ『関係主義的現象学への道』)
60年代を振り返る回想録、その名もずばり『回想の1960年代』をぷねうま舎さんから上梓されました。60年代というのは1942年生まれの上村先生にとって18歳から20代にあたる青年時代で、60年代論としても出色の書き下ろしです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

回想の1960年代
上村忠男著
ぷねうま舎、2015年4月、本体2,600円、四六判上製260頁、ISBN978-4-906791-44-6
帯文より:60年安保闘争から「学生叛乱」前夜の68年へ、革命の夢と挫折、知のあり方をめぐる深い疑念と紆余曲折、「歴史」になろうとする時代への愛惜をつづる。


★ジュディス・バトラーさん(著書:『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)
バトラーさんの論考「われわれ人民――集会の自由についての考察」を含むアンソロジー『人民とはなにか?』が以文社さんより刊行されました。ほかにはバディウ、ブルデュー、ディディ=ユベルマン、サドリ・キアリ、ランシエールらの論文が収録されています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

人民とはなにか?
アラン・バディウほか著、市川崇訳
以文社、2015年5月、本体2,400円、四六判上製228頁、ISBN978-4-7531-0325-6
帯文より:「シャルリー・エブド」事件などの国際テロリズムは、アメリカの拡張的な世界戦略の帰結である。本書は、この新自由主義的グローバリズムに抗する革新的主体としての「人民」概念の再興を促す論集。


★門林岳史さん(共訳:リピット水田堯『原子の光(影の光学)』)
関西大学映像文化学会のニューズレター「EB」第6号(2015年3月発行)に巻頭言を寄稿されています。ベルリン工科大学のクリスチャン・フォン・ヘルマン(メディア・技術史研究)教授の研究室で客員研究員として過ごされた昨年の経験について綴っておられます。


★宮崎裕助さん(共訳:ド・マン『盲目と洞察』)
講談社の歴史的シリーズ「現代思想の冒険者たち」の第28巻として1998年に刊行された高橋哲哉さんの『デリダ』が『デリダ――脱構築と正義』と改題され、講談社学術文庫より今月(2015年5月)再刊されました。宮崎さんは文庫版の解題「「新たな決定の思想」を再導入する」(344-354頁)を寄せておられます。
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by urag | 2015-05-11 16:29 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 05月 03日

アダチプレスさんの出版第一弾はアラーキー写真集

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楽園は、モノクローム。
荒木経惟写真
アダチプレス 2015年5月 本体3,200円 B4変型判並製96頁 ISBN978-4-908251-00-9

シュリンクシールより:花と人形、ときどき人。エロティックで残酷で、いとをかし。誰も見たことがなかった、写狂老人アラーキーの秘密の花園。

★昨夏(2014年7月)創業されたアダチプレスさんの出版第一弾です。5月9日発売予定。扱いはトランスビューさんです。収録写真のサンプルは書名のリンク先をご覧ください。サンプルにはありませんが、何年か前に話題になったレディ・ガガさんの緊縛写真は実にかっこいいです。また、荒木さんの撮る花たちはどこまでも妖しく美しく色っぽく、空はどこまでも神々しくて、個人的にとても好きです。紀伊國屋書店グランフロント大阪店ではトランスビューさん扱いの17社のうち14社にアルテスパブリッシング、弦書房、サンライズ出版、スタイルノート、ななみ書房、羽鳥書店、ぷねうま舎、ポット出版、まむかいブックスギャラリーを合わせた23社の商品を集めた「注文出荷制23社フェア」を5月11日から開催されますが、このフェアにアダチプレスさんも参加されています。トランスビューの工藤さん、ころからの木瀬さん、グランフロント大阪店の星店長によるトークイベント「《注文出荷制》は何を目指すのか ~新しい出版流通の現状と未来~」が5月17日(日)に行われるとのことで、業界人必聴かと思われます。参加無料要予約。

★写真集繋がりでご紹介しておきますと、ほかならぬアダチプレスの足立さんの古巣である平凡社さんでも、ユニークな写真集がまもなく発売されます。林明輝[ドローン]写真集『空飛ぶ写真機――大地から見てきた風景を上空から再発見』(平凡社、2015年5月、本体3,800円、A4変型判上製112頁、ISBN978-4-582-27819-4)です。ドローンというとさいきん某所に落下したのが確認されて大きな話題となっていますけれども、この写真集は空撮ならではの〈鳥になった気分〉を味わうことができる、開放感と爽快感のある美しい作品集となっています。


ドゥルーズ・コレクション I 哲学
ジル・ドゥルーズ著 宇野邦一監修
河出文庫 2015年5月 本体1,300円 344頁 ISBN978-4-309-46409-1

カバー裏紹介文より:ドゥルーズの未収録論考などを集成した『無人島』『狂人の二つの体制』から重要テクストをテーマ別に編んだドゥルーズ没後二十年記念オリジナル・アンソロジー。Ⅰにはドゥルーズの思考の軌跡と哲学者たちをめぐるテクスト群を収録。ますます輝きをますその哲学の魅力を開示する。

目次:
【発想の軌跡】
無人島の原因と理由 (前田英樹訳)8-18
セリー・ノワールの哲学 (鈴木創士訳)19-28
ドラマ化の方法 (財津理訳)29-53
何を構造主義として認めるか (小泉義之訳)54-101
ドゥルーズ/ガタリが自著を語る (杉村昌昭訳)102-135
狂人の二つの体制 (小沢秋広訳)136-144
『意味の論理学』イタリア語版への覚え書き (宇野邦一訳)145-149
宇野への手紙――いかに複数で書いたか (宇野邦一訳)150-154
フェリックスのために (杉村昌昭訳)155-157
内在――ひとつの生…… (小沢秋広訳)158-165
【哲学者たち】
ベルクソン、1859-1941 (前田英樹訳)168-192
ベルクソンにおける差異の概念 (前田英樹訳)193-239
カフカ、セリーヌ、ポンジュの先駆者、ジャン=ジャック・ルソー (宇野邦一訳)240-248
「彼は私の師だった」 (松葉祥一訳)249-256
ジルベール・シモンドン 個体とその物理-生物的な発生 (三脇康生訳)257-264
断層と局所の火 (小泉義之訳)265-278
ヒューム (小泉義之訳)279-295
ニーチェと思考のイマージュについて (鈴木創士訳)296-312
ノマド的思考 (立川健二訳)313-337
監修者あとがき (宇野邦一訳)338-342

★5月11日発売予定とのことですので、早いお店では今週末あたりから店頭に並び始めるのではないかと思われます。このコレクションは全2巻で、『無人島』『狂人の二つの体制』からテーマ別に再編集したもの。訳語の統一のために各テクストを調整した、と監訳者あとがきで宇野さんが特記されています。第Ⅰ巻の哲学者論編の中で題名に人名がないテクストにおいて誰が論じられているか特記しておくと、「「彼は私の師だった」」ではサルトルが、「断層と局所の火」ではコスタス・アクセロスが、「ノマド的思考」ではニーチェが取り上げられています。さらに監訳者あとがきによれば、続刊予定の第Ⅱ巻「権力/芸術」では、『ペリクレスとヴェルディ――フランソワ・シャトレの哲学』(『ドゥルーズ横断』所収、河出書房新社、1994年)をはじめ、「権力論、情況論といってよい同時代の政治的主題にかかわる一連の文章を、最後のパートには、ドゥルーズ独自の〈美学〉にとって、いわば試金石となった数々の作品(文学、美術、音楽、映画)についての印象深いエセー、講演」をまとめるとのことです。


現代思想 2015年5月号 特集:精神病理の時代――自閉症・うつ・普通精神病…
青土社 2015年4月 本体1,300円 A5判並製246頁 ISBN978-4-7917-1300-4

★発売済。2本の討議「自閉症スペクトラムの時代――現代思想と精神病理」(内海健+千葉雅也+松本卓也)、「精神病理と精神分析の閾」(藤山直樹+十川幸司)をはじめ、論文が充実しており、大注目です。大澤真幸「近代社会における芸術の精神的位置――動物行動学と精神病理学からの示唆」、小泉義之「自閉症のリトルネロへ向けて」、檜垣立哉「他者はどこにいるのか――ドゥルーズにおける強度と精神と自然」、千葉雅也「バロック的前提から過少の言葉へ」、斎藤環「反-強度的治療としてのオープンダイアローグ」、十川幸司「強度と個体化――その臨床的導入を巡って」など。同誌では大学特集が鉄板だと聞いていますが、今回のようないわば「imago」誌系の内容も手堅いのではないかと思われます。なお、次号(6月号)の特集は「新しい唯物論」で、千葉雅也さんが2号連続の寄稿となるほか、メイヤスーやデランダ、エリザベス・グロスらの翻訳、磯崎新さんのインタヴュー等を収録する予定だそうです。


宗教学
大田俊寛著
人文書院 2015年4月 本体1,900円 4-6判並製236頁 ISBN978-4-409-00111-0

帯文より:オウム真理教事件の蹉跌を越えて、宗教について体系的に思考するための30冊。

★発売済。「ブックガイドシリーズ 基本の30冊」の第11弾です。目次や巻頭論考「はじめに──宗教の四段階構造論」は書名のリンク先でご覧になれます。本書を含めたシリーズの既刊書を以下に列記しておきます。初学者の皆さんにだけでなく、人文社会書を扱われる書店員さんにとっても古典的基礎文献について勉強できる有益なガイドとなっています。担当編集者のMさんによればこのシリーズはまだ続刊予定があるとのことで、非常に楽しみです。

◎ブックガイドシリーズ 基本の30冊

2010年10月『東アジア論』丸川哲史著
2010年10月『倫理学』小泉義之著
2010年10月『科学哲学』中山康雄著
2011年06月『グローバル政治理論』土佐弘之編
2011年08月『メディア論』難波功士著
2011年08月『日本思想史』子安宣邦編
2011年10月『文化人類学』松村圭一郎著
2012年01月『政治哲学』伊藤恭彦著
2012年12月『環境と社会』西城戸誠・舩戸修一編
2014年07月『経済学』根井雅弘編
2015年04月『宗教学』大田俊寛著

★ガイドと言えば、東京外国語大学出版会および同大付属図書館が刊行しているPR誌「ピエリア」2015年春号では「愛の書物、書物への愛」と題した特集が組まれており、各先生方が新入生にそれぞれ個性的な名著を推薦されています。楽しいガイドブック(しかも無料)ですが、学外ではなかなか見かけないかもしれませんので、気になる読者や書店員さんは出版会さんにお問い合わせになってください。
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このほかにもここ数週間で様々な新刊との出会いがありました。

マイ・フレンド――高田渡青春日記 1966-1969』高田渡著、高田漣編、河出書房新社、2015年4月、本体2,500円、46変形判並製368頁、ISBN:978-4-309-27590-1
紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』武田砂鉄著、朝日出版社、2015年4月、本体1,700円、四六判並製288頁、ISBN978-4-255-00834-9
世界偉人変人博物館 ~77のよりすぐりの人生~』神山修一著、ほりのぶゆき挿画、エンターブレイン、2015年4月、本体1,300円、四六判並製272頁、ISBN978-4-04-730524-3
2023年の中国――習近平政権後、中国と世界はどうなっているか?』徐静波著、作品社、2015年4月、本体2,400円、46判並製332頁、ISBN978-4-86182-466-1
川村湊自撰集 2 近代文学編』川村湊著、作品社、2015年4月、本体2,800円、46判上製420頁、ISBN978-4-86182-515-6
甲骨文の誕生 原論』高島敏夫著、人文書院、2015年4月、本体2,500円、4-6判上製178頁、ISBN978-4-409-51070-4
あなたの自己回復力を育てる――認知行動療法とレジリエンス』マイケル・ニーナン著、石垣琢麿監訳、柳沢圭子訳、金剛出版、2015年4月、本体3,400円、A5判並製272頁、ISBN978-4-7724-1418-0
アディクション臨床入門――家族支援は終わらない』信田さよ子著、金剛出版、2015年4月、本体2,800円、四六判上製240頁、ISBN978-4-7724-1409-8
宗教の社会貢献を問い直す――ホームレス支援の現場から』白波瀬達也著、ナカニシヤ出版、2015年4月、本体3,500円、4-6判上製272頁、ISBN978-4-7795-0960-5
フランスの生命倫理法――生殖医療の用いられ方』小門穂著、ナカニシヤ出版、2015年4月、本体3,800円、4-6判上製228頁、ISBN978-4-7795-0961-2
偶然と運命――九鬼周造の倫理学』古川雄嗣著、ナカニシヤ出版、2015年4月、本体5,200円、A5判上製356頁、ISBN978-4-7795-0962-9

★特記したいのは武田砂鉄さんのデビュー作『紋切型社会』です。武田さんは河出書房新社さんの元編集者で、昨年ライターとして独立されました。言葉を吟味する職業に就いておられただけに、世間に流通している様々な言葉を鋭い批評眼で分析されています。・・・という紹介ではそれこそ本書で批判されている紋切型であるように思えるので、もう少し感じたままを言いますと、内容的にかなり辛辣で毒舌な一冊で、読者を敵に回したくないですとか味方を増やしたいですとか、そうした媚びを感じさせません。「カルチャーの現場は、常に整わない環境を常態化しなければいけない。出る杭があれば育てなければいけない。出てこないで横目で既存の杭を見てそこに背丈を合わせてくるような杭にばかり餌を与えてはいけない。そんな杭は絶対にオリジナルな言葉を持たない。そんなコピペが続くと、文化はのっぺりと揃って、多くの可能性を無自覚にぶっ壊してしまうはずだ」(207-208頁)。これは出版社にも編集者にもずばり言えることですね。紋切型社会に生きる調整型の心臓をドキドキさせる言葉です。
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by urag | 2015-05-03 17:47 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)