ウラゲツ☆ブログ

urag.exblog.jp
ブログトップ

<   2015年 04月 ( 8 )   > この月の画像一覧


2015年 04月 26日

注目新刊:コーエン=ソラル『サルトル伝』藤原書店、ほか

a0018105_23595456.jpg

『サルトル伝――1905-1980』巻、アニー・コーエン=ソラル著、石崎晴己訳、藤原書店、2015年4月、本体各3,600円、四六上製672頁/656頁、ISBN978-4-86578-021-5/022-2
未来世代の権利――地球倫理の先覚者、クストー』服部英二編著、ジャック=イヴ・クストー著、藤原書店、2015年4月、本体3,200円、四六上製360頁、ISBN978-4-86578-024-6
石造りのように柔軟な――北イタリア山村地帯の建築技術と生活の戦略』アンドレア・ボッコ+ジャンフランコ・カヴァリア著、多木陽介編訳、鹿島出版会、2015年4月、本体2,900円、A5判並製208頁、ISBN978-4-306-04621-4
デモクラシー・プロジェクト――オキュパイ運動・直接民主主義・集合的想像力』デヴィッド・グレーバー著、木下ちがや・江上賢一郎・原民樹訳、2015年4月、本体3,400円、四六判並製368頁、ISBN978-4-906738-10-6
はたらかないで、たらふく食べたい――「生の負債」からの解放宣言』栗原康著、タバブックス、2015年4月、本体1700円、四六判変型並製224頁、ISBN978-4-907053-08-6
近代政治哲学――自然・主権・行政』國分功一郎著、ちくま新書、2015年4月、本体820円、256頁、ISBN978-4-480-06820-0

★『サルトル伝』は、Sartre 1905-1980, Gallimard, 1985の翻訳。ここ半年ほどで日本ではデリダ伝(白水社)、ブランショ伝(水声社)、セガレン伝(水声社)と、かなり読み応えのあるフランスの伝記大冊が立て続けに訳されてきたわけですが、ここでついにサルトル伝の決定版が発売されました。サルトルの思想遍歴や政治活動だけでなく、異性関係もしっかり書かれています(「多妻主義」と著者は評しています)。性に留まらず、生のあらゆる領域において貪欲な探究心を持っていたサルトルが活写されており、その生きざまから少なからぬ刺激をもらえる気がします。本書はすでに11カ国語に翻訳されているそうで、著者は「日本の読者へ」と題した序文で「サルトルのメッセージは、いまやかつてなく今日的なものとなっている」と強調しています。

★『未来世代の権利』は高名な海洋学者クストー(Jacques-Yves Cousteau, 1910-1997)による地球倫理をめぐる2本の講演「地球の将来のために」(1992年)と「文化と環境」(1995年)や、インタヴュー「人口増加と消費激増が地球資源に致命的負荷」(1992年)、さらに回想録『人、蛸そして蘭』(1997年)の抄訳に、クストーに関係するユネスコの資料などをまとめた貴重な一冊です。この星の未来に責任を持とうと呼びかけるクストーの真摯さに胸を打たれます。たとえば、大きな政治改革をもたらした一国の大統領に対してであろうと、クストーの直言は明解です。チェコのハヴェル大統領とのやりとりはクストーの面目を伝えるものではないかと感じました(74頁)。クストー再評価のきっかけを本書は提供してくれます。

★なお、藤原書店さんが来月発売の61号をもって学芸総合誌『環』の第I期を終刊されることについて特記したいと思います。「来季、新しい姿で再び読者の前に現れることを願っている」と藤原社長は投げ込みの月刊PR誌「機」277号の「出版随想」欄に記されています。

★『石造りのように柔軟な』は、Flessibile come di pietra (CELID, 2008)に、大幅な加筆と再編集を施したもので、原書以上にヴィジュアル的にも優れた訳書になっています。著者はトリノ工科大で教鞭をとる建築家。「社会の多様な発展モデルおよびそれらが地球レベルでおよぼす社会的、経済的、環境的な影響に特別な関心を寄せてきた」(14頁)という彼らは、「現代の発展モデルは、〔・・・〕このまま無制御に続けていけるものではなくなってきた」(15頁)と考え、「より小規模で身近なレベルから修正をはじめながら新しい発展のモデルを探求しなければならない」(同)と述べます。よりサステイナブルなモデルを求め、彼らはアルプスの山岳地帯の建築と文化を調査しました。その美しく啓発的な成果が本書です。

★『デモクラシー・プロジェクト』は、The Democracy Project: A History, A Crisis, A Movement (Spiegel & Grau, 2013)の翻訳です。アナキスト人類学者グレーバー(David Graeber, 1961-)の著書が訳されるのは、『アナーキスト人類学のための断章』(以文社、2006年)、『資本主義後の世界のために』(以文社、2009年)に続いて本書が3冊目。久しぶりの新刊を待ちわびていた読者もいらっしゃるのではないかと思います。ウォール・ストリートで始まったオキュパイ運動に密接に関わった著者が、この運動の経緯と民主主義の可能性について書いたのが本書です。「国家による暴力独占に基礎づけられた民主国家など矛盾なのだ」(281頁)とグレーバーは書きます。情熱あふれる記述は、日本人のもやもやした「現在」にも反射光のように痛烈に突き刺さってきます。

★『はたらかないで、たらふく食べたい』は、『大杉栄伝』(夜光社、2013年)でブレイクの兆しが著しい脱力系アナキストの星、栗原康(くりはら・やすし:1979-)の4冊目の著書です。ここ何年かのうちに発表されたエッセイ(論文というほど堅苦しくないのが栗原さんの美点)に書き下ろしを加えた1冊。今までの著書の中で一番売れる気がしてならない魅力的な新刊です。本屋さんでは人文書や社会書で置かれるだろうと想像するのですが、ともかくこれらのお堅いジャンルで近年こんなにも読者を笑わせてくれるのは、この本を措いてないと思われます。恐怖のあまり二度寝、ですとか、痛い目に遭ったのにまた合コンに行きたい、ですとか、親孝行からの親不孝、ですとか、色々とひどいです(褒め言葉です)が、ただの与太話で終わらないのが栗原さんの魅力です。初めてかと思いますが、カバーに顔写真が載っています。俳優のように端正な顔立ちと、本文でのダメっぷりのギャップにもやられます。

★『近代政治哲学』は大学での講義がもとになったという啓発的な概説書です。ボダン、ホッブズ、スピノザ、ロック、ルソー、ヒューム、カントらの著書から読み解く政治哲学の歴史を手際よく解説されています。「我々は近代政治哲学が構想した政治体制の中に生きている。そして、その中にあまりに多くの問題点があることを知っている。だが、それにもかかわらず未だ有効な改善策を打ち出せずにいる」(9-10頁)と國分さんは書きます。本書のキーワードは副題にある「自然・主権・行政」です。国民主権と行政との関係性を問い直すきっかけを与えてくれるだけでなく、現代人にはほとんどなじみがないかもしれない自然権についても注意を促してくれます。本書は一見すると西欧近代の哲学史を扱っているように思えるのですが、実際にはすべて現代の日本社会を考える上で欠かせない問題群を扱っているということに、読者の皆さんは気づかれるのではないかと思われます。
[PR]

by urag | 2015-04-26 00:00 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(2)
2015年 04月 21日

ららぽーと富士見店のブックカフェBOWLとヤオコーの書籍売場

今月(2015年4月)10日にオープンしたららぽーと富士見ですが、その1Fに、かのリーディングスタイルが手掛ける5つ目の店舗「BOWL(ボウル)」が開店しました。運営するリーディングポートJPによるプレスリリースはこちら。書籍雑誌や雑貨を扱うほか、カフェを併設しています。担当者の選書担当のKさん曰く、「丸の内(マルノウチリーディングスタイル)、町田(ソリッドアンドリキッド)、天神(ソリッドアンドリキッド)と立ちあげてきましたが、今回が一番の出来」だそうです。弊社本も置いていただいています。Kさんからご提供いただいた店内の写真は以下の通り。

a0018105_1705344.jpg

a0018105_1733236.jpg

a0018105_1741262.jpg

現在「BOWL」では、「BRANCHART(ブランチャート)」というブックフェアを展開中です。リーディングスタイル、サニー・ボーイ・ブックス、ヌマブックス、ペーパーウォールといった個性派書店が協力して選書したフェアで、「チャートに沿って質問項目にYES/NOで答えていくと番号の本にたどりつく」というもの。人生編、恋愛編、仕事編、ぼんやり編の4種類があって、それぞれ32冊が選ばれています。写真を見ていただければ分かると思いますが、本は数字が書いてあるカバーでくるまれています。
a0018105_1714340.jpg

チャートとブックリストは印刷されて、本を1冊お買上の方に配布されています。4種類のチャートから各1冊ずつお買上の方にはコースターをプレゼント。このほかにも特製のしおりやシールなどのノベルティがあります。
a0018105_17153788.jpg


さらに、なんと今回リーディングスタイルさんは、ららぽーと富士見の同じく1Fにあるスーパーマーケットの「ヤオコー」さんの書籍売場も手掛けておられます。普通のスーパーの書籍売場と違った感じで面白いですね。ゴールデンウィークにららぽーと富士見へお出かけの折にはぜひ「BOWL」とヤオコーの書籍売場の両方をご覧になってみてください。
a0018105_17173767.jpg

a0018105_1718404.jpg

[PR]

by urag | 2015-04-21 17:20 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2015年 04月 19日

注目新刊:古典の初訳、新訳、再刊が続々と

a0018105_2163667.jpg

◎古典の初訳、新訳、再刊が続々と

ここ数カ月、古くは紀元前のものから新しくは前世紀のものまで、古典ものの初訳、新訳、文庫化再刊などの収穫が多いです。まとめて買おうとするとそれなりの出費になるのでご注意ください。

パンパイデイア――生涯にわたる教育の改善』J・A・コメニウス著、太田光一訳、東信堂、2015年2月、本体5,800円、A5判上製456頁、ISBN978-4-7989-1282-0
フランス・ルネサンス文学集(1)学問と信仰と』宮下志朗・伊藤進・平野隆文編訳、江口修・小島久和・菅波和子・高橋薫・二宮敬訳、白水社、2015年3月、本体6,800円、四六判上製574頁、ISBN978-4-560-08431-1
『痴愚神の勝利――『痴愚神礼讃』(エラスムス)原典』ファウスティーノ・ペリザウリ著、谷口伊兵衛訳、而立書房、2015年3月、本体2,500円、A5判上製112頁、ISBN978-4-88059-386-9

まずはルネサンス、近世ものです。『パンパイデイア』はシリーズ「コメニウス・セレクション」の9年ぶりの第2回配本です。コメニウスの遺稿『人間についての熟議』7部作の中の、教育論である第4部の訳書。巻末には『人間についての熟議』全体の序文が併載されています。訳者の太田さんはシリーズ継続への決意をあとがきで述べておられます。コメニウスの汎知学は教育や学習、学問のあり方が問われているこんにち、いよいよ再評価されていくように思えてなりません。ヤン・パトチカ『ヤン・パトチカのコメニウス研究――世界を教育の相のもとに』(相馬伸一編訳、九州大学出版会、2014年8月)、北詰裕子『コメニウスの世界観と教育思想――17世紀における事物・言葉・書物』(勁草書房、2015年1月)と、このところ研究書の刊行が続いていることにも注目したいです。

『フランス・ルネサンス文学集』は『フランス中世文学集』(全4巻、白水社、1990-1996年)や『フランス中世文学名作選』(白水社、2013年)に続くシリーズで、第1巻「学問と信仰と」は思想・宗教・科学・芸術に関する貴重な作品が収録されている感動的な大冊です。目次は書名のリンク先をご覧ください。抄訳とはいえ、ジャン・ボダンの国家論と魔女論が収録されていることに眼をみはります。田中雅志編訳『魔女の誕生と衰退――原典資料で読む西洋悪魔学の歴史』(三交社、2008年)でボダンの魔女論をすでに読まれた方にもお薦めします。『フランス・ルネサンス文学集』は今後、第2巻「笑いと涙と」、第3感「旅と日常と」の刊行が予定されています。

『痴愚神の勝利』は帯文に曰く「名作『痴愚神礼讃』は二番煎じか?! ルネサンスの天才作家エラスムスが『痴愚神礼讃』の執筆にあたり底本にしながら、極秘にしてきた原典の本邦初訳。イタリア以外では、世界初の"秘書"公開である。(詳しくは訳者解説を参照)」と。ペリザウリ(1450c-1523)はイタリアのほぼ無名の神父。エラスムスの変名ではありません。『痴愚神の勝利』は1524年刊、『痴愚神礼讃』は1511年刊です。なぜ前者が後者の種本だと推理されうるのかについては訳者解説にごく簡潔に書かれています(ネタバレは避けたいので、どうぞ本書をご覧ください)。それをどう評価するかは読者によって賛否があるかもしれません。

これらのほかに、以下の新刊も見逃せません。アリストテレスとロセッティは新訳、『法華経』はかの梵漢和対照版(上下巻、岩波書店、2008年)の改訳で、そのほかは文庫化です。『法華経』改訳版は、梵漢和対照版から現代語訳のみを抜き出し「日本語として読みやすいように大幅に手を入れた」(はしがき)とのことで訳者の献身に深い感銘を覚えます。対照版をお持ちの方にもお薦めします。『スッタニパータ』は講談社版『原始仏典』第7巻「ブッダの詩I」から「スッタニパータ」を独立させたもの。訂正は最小限に留めたと文庫版あとがきにあります。ロック『知性の正しい導き方』は御茶の水書房の親本に訳者が適宜修正を加えたとのことなので、文庫版を決定版と見るべきかと思います。ヤスパース『われわれの戦争責任について』は平凡社ライブラリー版『戦争の罪を問う』(1998年)からの再文庫化です。初訳時は創元文庫(『戦争の罪』1952年)でしたから、再々文庫化と言うべきでしょうか。

新版 アリストテレス全集(6)気象論/宇宙について』三浦要/金澤修訳、岩波書店、2015年3月、本体5,600円、A5判上製函入402頁、ISBN978-4-00-092776-5
サンスクリット原典現代語訳 法華経』上下巻、植木雅俊訳、岩波書店、2015年3月、本体各2,300円、四六判上製302頁/310頁、ISBN978-4-00-024787-0/024788-7
スッタニパータ[釈尊のことば]全現代語訳』荒牧典俊・本庄良文・榎本文雄訳、講談社学術文庫、2015年4月、 本体1,080円、336頁、ISBN978-4-06-292289-0
知性の正しい導き方』ジョン・ロック著、下川潔訳、ちくま学芸文庫、2015年3月、本体1,300円、336頁、ISBN978-4-480-09658-6
D.G.ロセッティ作品集』南條竹則・松村伸一編訳、岩波文庫、2015年3月、本体900円、380頁、ISBN978-4-00-372051-6
われわれの戦争責任について』カール・ヤスパース著、橋本文夫訳、ちくま学芸文庫、2015年3月、本体1,100円、256頁、ISBN978-4-480-09669-2

続いて、20世紀の古典の新訳や初訳本、伝記の注目新刊です。

メルロ=ポンティ『眼と精神』を読む』モーリス・メルロ=ポンティ著、富松保文訳注、武蔵野美術大学出版局、2015年3月、本体1,700円、四六判並製264頁、ISBN978-4-86463-020-7
政治と歴史――エコール・ノルマル講義 1955-1972』ルイ・アルチュセール著、市田良彦・王寺賢太訳、平凡社、2015年4月、本体7,200円、A5判上製560頁、ISBN978-4-582-70339-9
ヒロシマの人々の物語』ジョルジュ・バタイユ著、酒井健訳、景文館書店、2015年3月、本体520円、四六判ペーパーバック64頁、ISBN978-4-907105-04-4
映画とは何か』上下巻、アンドレ・バザン著、野崎歓・大原宣久・谷本道昭訳、岩波文庫、2015年2月、本体1,020円/840円、370頁/284+21頁、ISBN978-4-00-335781-1/335782-8
『ヴィクトル・セガレン伝』ジル・マンスロン著、木下誠訳、水声社、2015年3月、本体10,000円、A5判上製688+8頁、ISBN978-4-8010-0087-2

『メルロ=ポンティ『眼と精神』を読む』はメルロ=ポンティ生前最後の公刊となる『眼と精神』の新訳です。既訳には『眼と精神』所収の滝浦静雄・木田元の両先生による共訳(みすず書房、1966年、251-301頁)があります。今回の新訳では既訳になかったクロード・ルフォールの序文が読めるほか、ジャコメッティ、セザンヌ、マティス、クレーなど、没後の原書単行本版に掲載されている図版のほかにも、芸術家たちの作品が採録されており、非常に嬉しい一冊となっています。訳者による丁寧で啓発的な補注の数々も、本書の背景を知る上で有益です。訳者あとがきでは、翻訳独占権を持っているみすず書房さんが、新訳の刊行を許可されたことに触れられています。とても良い話ですね。なにせ『眼と精神』は難解で冒頭の一文「科学は物を操作するのであって、物に住みつくことは諦めている(La science manipule les choses et renonce à les habiter)」からして読者を絶句させるには充分ですから、複数の翻訳を読めるということは本当にありがたいことです。

『政治と歴史』はまもなく発売となるアルチュセールの講義録で、同名の訳書(『政治と歴史――モンテスキュー・ルソー・ヘーゲルとマルクス』西川長夫・阪上孝訳、紀伊國屋書店、1974年;新訂版『政治と歴史――モンテスキュー・ヘーゲルとマルクス』西川長夫・阪上孝訳、紀伊國屋書店、2004年)とは別物です。平凡社版は2006年にSeuilから刊行されたものの翻訳に、2012年にTemps des Cerisesから刊行されたルソー講義の訳を付け加えたものです。巻頭にはフランソワ・マトゥロンによる編者解題が置かれ、続いて「歴史哲学の諸問題(1955-1956)」「マキァヴェッリ(1962)」「ルソーとその先行者たち――17-18世紀における政治哲学(1965-1966)」「ホッブズ(1971-1972)」「ルソー講義(1972)」が収められています。ちなみに紀伊國屋書店初版本に収められていたルソー講義「ルソーの「社会契約」について」(143-209頁)は1965-1966年のエコール・ノルマル講義の再録でした(新訂版には版権の都合で収録から外されています)。平凡社版では331~367頁に当たり、趣旨は同じですが、平凡社版は聴講ノートとタイプ原稿からテクストが確定されているため、紀伊國屋書店版の再録論文とは互いに別ヴァージョンの関係にあると言っていいと思われます。

『ヒロシマの人々の物語』は1947年の「クリティーク」誌1-2月合併号で発表された「ヒロシマの人々の物語について」の新訳です。既訳には「広島のひとたちの物語」(山本功訳、『バタイユ著作集(14)戦争/政治/実存――社会科学論集1』所収、二見書房、1972年、10-37頁)があります。新訳を手掛けられた酒井さんにはバタイユの訳書・共訳書だけでなく、バタイユ論を多数上梓されていることは周知の通りです。今回の新訳はエッセイ1本ではあるものの、再読に値する内容であると同時に文庫本以上に廉価であるため、バタイユの読者層を広げてくれるのではないかと思います。同書の奥付裏の近刊予告によれば、「魔法使いの弟子」が酒井さんの新訳で同版元から刊行予定だそうです。バタイユによる〈恋人の共同体〉論として知られる同エッセイの既訳には入沢康夫訳(『バタイユ・ブランショ研究』竹内書店や『バタイユの世界』青土社に所収)や、西谷修訳(『聖社会学』工作舎所収)があります。

『映画とは何か』は周知の通りバザンの評論集ですが、とりわけ巻頭論文の「写真映像の存在論」(上巻、9-24頁)における「ミイラ・コンプレックス」という死に抵抗する人間の保存願望をうまく言い表した言葉で有名かもしれません。既訳には小海永二訳(『映画とは何か』全4巻、美術出版社、1967-1977年;『小海永二翻訳撰集(4)映画とは何か』丸善、2008年)があります。映画研究における有名な基本的文献なので、新訳はある意味当然ではあります。しかしそれは訳者と版元の努力の賜物なわけで、先述の『眼と精神』と同様にありがたいことです。欲を言えば分厚く高価になってもいいから全1巻にしてもらった方が使い勝手がよかった気もしますけれど、紙媒体での分冊はやむをえないでしょうか。

『ヴィクトル・セガレン伝』は、1991年にフランスで刊行された記念碑的大冊の翻訳です。A5判2段組で本論が450頁近くあり、そのあと140頁ほど原注がたっぷり続きます。文献案内(「書誌」)や人名索引を完備。巻頭には著者による「日本語版への序文」が付されています。「ヴィクトル・セガレンの伝記が日本の読者に読めるようになることをどうして喜ばないわけがあろうか」という一文がその書き出しです。その序文で著者はセガレンが1910年に日本を訪問したことについて言及しています。その当時の日記は『煉瓦と瓦』(水声社版『セガレン著作集』第8巻、未刊)で読むことができます。著者の祖父はセガレンと友人だったそうです。訳者あとがきで木下さんは本書を「その後もこれを上回る内容の伝記は出版されていないため、現在まで最も信頼できるセガレン伝としてセガレン研究者の誰もが参照する本であり続けている」と紹介しておられます。セガレンの著作の初訳は1959年(スガラン『滅びゆく島』室淳介訳、角川書店)と古いのですが、その後30年以上翻訳がなく、単行本が再び出始めたのは90年代になってからでした。そのためか、セガレンは現代の作家のように思われがちでしたが、実際にはあと数年で没後百年を迎えます。水声社さんでは2001年から『セガレン著作集』を刊行され、残る配本は第2巻「ゴーガン礼讃/異教の思考」と上記の第8巻のみです。長く続く出版不況の最中でのこの長丁場は版元さんにとっては並大抵のものではなかったのではないかと思います。

水声社さんでは周知の通りアマゾン・ジャパンへの出荷を引き続き停止し、ポイントサービスへの異議申し立てを続けておられます。アマゾンだけをもっぱら利用されている方にはなかなかお目に留まっていないかもしれませんが、2月から4月にかけて同社では以下の新刊を刊行されています。

まずは芸術書の分野で2点(展覧会の図録『高松次郎 制作の軌跡』を含めると3点):

『幽霊の真理――絶対自由に向かうために《対話集》』荒川修作+小林康夫著、水声社、2015年3月、本体3,000円、46判上製312頁、ISBN978-4-8010-0088-9
『タイムコレクション』今井祝雄著、大日方欣一構成・テキスト、水声社、2015年3月、本体3,200円、A5判上製120頁、ISBN978-4-8010-0081-0

続いて文芸書の分野で4点(上述のセガレン伝と先日ご紹介したル・クレジオ『氷山へ』、未見のモディアノ『地平線』を含めると7点):

『ガラスの国境』カルロス・フエンテス著、寺尾隆吉訳、水声社、2015年3月、本体3,000円、46判上製352頁、ISBN978-4-89176-956-7
『カフカの動物物語――〈檻〉に囚われた生』山尾涼著、水声社、2015年3月、本体4,000円、A5判上製256頁、ISBN978-4-8010-0091-9
『小島信夫短篇集成(5)眼/階段のあがりはな』水声社、2015年3月、本体6,000円、A5判上製416頁、ISBN978-4-8010-0065-0
『小島信夫短篇集成(6)ハッピネス/女たち』水声社、2015年3月、本体7,000円、A5判上製472頁、ISBN978-4-8010-0066-7

さらに人文書の分野では4点(未見のパツラフ+ザスマンスハウゼン『シュタイナー教育基本指針(II)三歳から九歳まで』を含めると5点):

『ポストメディア人類学に向けて――集合的知性』ピエール・レヴィ著、米山優・清水高志・曽我千亜紀・井上寛雄訳、水声社、2015年3月、本体4,000円、46判上製368頁、ISBN978-4-8010-0090-2
『平成ボーダー文化論』阿部嘉昭著、水声社、2015年3月、本体4,500円、46判上製440頁、ISBN978-4-8010-0089-6
『甦るレヴィナス――『全体性と無限』読解』小手川正二郎著、水声社、2015年2月、本体3,500円、46判上製352頁、ISBN978-4-8010-0085-8
『ベンヤミンにおける「純化」の思考――「アンファング」から「カール・クラウス」まで』小林哲也著、水声社、2015年4月、本体6,500円、A5判上製488頁、ISBN978-4-8010-0092-6

以上、15点が発売済であり、まもなく赤羽研三『〈冒険〉としての小説――ロマネスクをめぐって』が近刊と聞きます。

a0018105_2395132.jpg

[PR]

by urag | 2015-04-19 23:58 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 04月 16日

新潟大『世界の視点──知のトポス』第10号はグラネルのデリダ論などを掲載

a0018105_11365017.jpg

★宮崎裕助さん(共訳:ド・マン『盲目と洞察』)
新潟大学大学院現代社会文化研究科共同研究プロジェクト「世界の視点をめぐる思想史的研究」の一環として公刊されている学術誌『世界の視点──知のトポス』の第10号が発刊されました。ヘーゲル、ハイデガー、クリューガー、グラネル、ツィヒェらの論考の翻訳が掲載されています。目次詳細はこちらをご覧ください。宮崎さんはグラネルの伝説的なデリダ論「ジャック・デリダと起源の抹消」を共訳されておられます。

★猪瀬光さん(写真集:『猪瀬光全作品』)
銀座のAkio Nagawasa Galleryで行われている展覧会「THE COMPLETE WORKS」第2期"PHANTASMAGORIA"の会期がいよいよ今週末4月19日(日)までです。プリントを見る機会はめったにありませんので、どうぞお見逃しなく。なお、写真集『猪瀬光全作品』はネット書店を除くと現物はこれまで都内のギャラリーや専門店のみで販売されていましたが、5月1日(金)開店予定の梅田蔦屋書店さんでも写真集売場で販売されます。東京より西側では初めての展開となります。


+++在庫僅少、重版情報

バトラー『権力の心的な生』品切、2刷準備中
アガンベン『アイシュヴィッツの残りのもの』在庫僅少、7刷準備中
ユンガー『追悼の政治』在庫僅少
森山大道『オン・ザ・ロード』在庫僅少
『表象08:ポストメディウム映像のゆくえ』在庫僅少
[PR]

by urag | 2015-04-16 11:37 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2015年 04月 12日

注目新刊:李珍景『不穏なるものたちの存在論』、ほか

a0018105_3263879.jpg

不穏なるものたちの存在論――人間ですらないもの、卑しいもの、取るに足らないものたちの価値と意味
李珍景著 影本剛訳
インパクト出版会 2015年4月 本体2,800円 46判並製312頁 ISBN978-4-7554-0253-1

帯文より:誰かを心地悪く不安にさせる、不穏なるものたちの素晴らしい出会い。

★発売済。韓国の社会学者・李珍景(イ・ジンギョン:1963-)さんの著書の本邦初訳本です。原書は2011年刊。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。「不穏なるものたち」とは「《人間ですらないもの、生命なきもの、卑賤なもの、なんでもないもの、下等》だと貶められ非難されるものたち」だと著者は本書の冒頭に書きます(7頁)。本書では障害者(ママ)やバクテリア、サイボーグ、オンコマウス、フェティシスト、プレカリアートといった形象が取り上げられます。

★「この種の不穏なるものたちを通して試みる存在論とは、人間の高貴さを通して存在の意味を探し出す類のことではなく、わたしたち地震を卑賤なものたちとともに、一つの平面に位置づけ思惟することであり、これらとともに求めようとする存在の意味とは、あらゆる根本的位階さえも消え去った一つの平面において、これらと出会う様相の中で発見されるものだ。それは世の中を、卑賤なものたちでいっぱいになった巨大な存在の海の真っ只中へと、引きずりこまねばならないものだ。〔・・・〕卑賤なものたちを通して、別の生きる道を探すという点で一つの倫理学であり、この道をふさぐものたちと対決する方法を探すという点で一つの政治学でもある」(7~8頁)。

★本書の末尾で著者は「思いもよらないものと対面するときの、「あちらの人たち」が感じる心地悪く不安な感情ないしは気分を、不穏さであると定義し、この不穏性を引き起こすものたちを自分なりにいくつか選んで、存在自体を問い直す「存在論的な」層にまで、推し進めようと試みた」(301頁)とまとめています。「わたしにとって親しい世の中は、ごく一部であるのみで、むしろ一種の例外的部分としてのみ存在する。世の中の大部分は見知らぬ地であり、わたしはどこへ行っても外人(ママ)であり、よそ者であり、他者である。世の中は名も知りえない木と雑草が茂る森である。〔・・・〕敵を探すために木を切り倒し、自分が育てるもののために無用に見える「雑草」をすべて除去してしまうとき、かれは自分の好みをあらわす小さな庭園を一つ持つことになるだけだろう。〔・・・〕そのとき確実に知るだろう。自分がこれまであれほどの苦難の戦いによってつくってきたものは一つの巨大な災難であったことを、自分が除去しようとしたまさにそれであったことを」(305頁)。

★「避けたかったものが、まさしく自分の共であったことを知るとき、見知らず心地悪いもの、外部者たち、ずっと「敵」だと信じていた者たちが、自分の生を支えてくれる友であったことを知るとき、〔・・・〕わたしたちは、友すらも結局は「敵」としてやってくる果てしない戦争の平面において、野獣や災難すらも友としてやってくるような、また別の存在論的平面へと、乗りこえて行けるだろう。決して楽観できない、到来するのかわからない「未来」、未だ来ていないがゆえに、誰も閉じられたと言うことのできない、小さな出口に出会うだろう。〔・・・〕「卑しい」ものたち、とるにたりないものたち、追放され捨てられるものたちの片隅に立つとき、私たちはそこでようやく平和と平穏を発見するだろう」(306頁)。「不穏なるものたちを通して、わたしたち自身の生を別の平面へと推し進めたかったという意味で、この本はそれらと友になる方法に関するものであり、それらと友情を交わす方法に関するものだと言ってもよい」(308頁)。

★訳者の影本さんはまだ20代の若手です(1986年生)。影本さんは本書のもとになったという2011年春にスユノモNで開かれた李さんの講義を聴講されており、「それまで考えすらしなかったことを開かれる体験をした」と振り返っておられます。本書の分類コードは「社会科学総記」になっていますが、哲学思想書棚の「現代思想」コーナーに置かれてもいいかもしれません。人文書ご担当の書店員さんは本書の註をご覧になって、どんな思想家や本が言及されているかをチェックしてみてください。本書の隣には、既刊書ですが小泉義之さんの『生殖の哲学』(河出書房新社、2003年)があると良さそうです、と書こうと思っていたのですが、版元品切なのですね。文庫化を期待したいです。同じく小泉さんの『ドゥルーズと狂気』(河出ブックス、2014年)や、江川隆男さんの『アンチ・モラリア――〈器官なき身体〉の哲学』(河出書房新社、2014年)、田崎英明さんの『無能な者たちの共同体』(未來社、2007年)、などをひもとくと、不穏性についてさらなる着想を得ることができるのではないかと思われます。


◎注目新刊:クレーリー『24/7』、バスカー『弁証法』ほか

24/7――眠らない社会』ジョナサン・クレーリー著、岡田温司監訳、石谷治寛訳、NTT出版、2015年3月、本体2,500円、四六判上製208頁、ISBN978-4-7571-4331-9
弁証法――自由の脈動』ロイ・バスカー著、式部信訳、作品社、2015年4月、本体5,800円、46判上製656頁、ISBN978-4-86182-523-1
セルデンの中国地図――消えた古地図400年の謎を解く』ティモシー・ブルック著、藤井美佐子訳、太田出版、2015年4月、本体2,800円、四六判並製300頁、ISBN978-4-7783-1439-2
空飛ぶ円盤が墜落した町へ――X51.ORG THE ODYSSEY 北南米編』佐藤健寿著、河出文庫、2015年4月、本体820円、256頁、ISBN978-4-309-41362-4
ヒマラヤに雪男を探す――X51.ORG THE ODYSSEY アジア編』佐藤健寿著、河出文庫、2015年4月、本体820円、216頁、ISBN978-4-309-41363-1
世界が変わるプログラム入門』山本貴光著、ちくまプリマー新書、2015年4月、本体820円、208頁、ISBN978-4-480-68938-2
『『週刊読書人』と戦後知識人』植田康夫著、論創社、2015年4月、本体1,600円、46判並製184頁、ISBN978-4-8460-1415-5

★クレーリー『24/7』は、24/7: Late Capitalism and the Ends of Sleep (Verso, 2013)の訳書。「不眠社会の誕生」「加速するテクノロジーと消費」「24/7の管理社会」「生の物象化と共同性の夢」の4章立てで、現代人が生きる不眠社会への批判を展開しています。ジョナサン・クレーリー(Jonathan Crary, 1951-)はアメリカの美術批評家。本書はこれまでに訳されてきた著者の視覚文化論(『観察者の系譜』『知覚の宙吊り』)とは違う味わいがあります。睡眠は「資本主義が取り除くことができない唯一不朽の「自然条件」であ」り(96頁)、「道具化も外部からのコントロールも最終的には不可能になる条件でもある」(33頁)と彼は書きます。「グローバルな現在の容赦ない重荷のラディカルな中断〔・・・〕、拒絶として」(163頁)の睡眠。眠らない社会は、「プライバシーが不可能で、永遠にデータを収集され監視される場となる状態にまで個人生活を変える」(132頁)ものでもあります。「オンラインに関係しない現実生活の活動は、退化しはじめ、意味をもつのをやめる」(76頁)という著者の鋭い指摘に思わず震えました。

★バスカーの大著『弁証法』は、Dialectic: The Pulse of Freedom (Routledge, 2008)の訳書。ロイ・バスカー(Ram Roy Bhaskar, 1944-2014)はイギリスの哲学者。訳書には『科学と実在論』『自然主義の可能性』があり、本書と同じくいずれも式部さんによるものです。本書は「予備的考察――批判的実在論・ヘーゲル弁証法・哲学の諸問題」「弁証法――不在の論理」「弁証法的批判的実在論と自由の弁証法」「メタ批判的弁証法――非実在論哲学とその帰結」の4章立てで、「「批判的実在論」の最重要書」と帯文に大書されています。「われわれがこの世に存在するというのは、何者かになりうること、すなわち事故発展の能力を有することであり、その能力は普遍的で具体的に単独化された人間の本来的な自律という原理に立脚した社会においてのみ完全に実現されるからである。弁証法とはそうした道のりであり、それこそが自由の脈動に他ならない」(588頁)。難解な本ですが、イーグルトンは本書がいずれ多くの人々に認められるであろうと評価しています。巻末には人名・事項索引と用語解説を完備。たいへんな労作です。

★ブルック『セルデンの中国地図』は、Mr. Selden's Map of China: The Spice Trade, A Lost Chart & The South China Sea (Profile Books, 2013)の訳書。ティモシー・ブルック(Timothy Brook, 1951-)はカナダの歴史家で専門は中国史。既訳書には『フェルメールの帽子――作品から読み解くグローバル化の夜明け』(本野英一訳、岩波書店、2014年)があります。「セルデン地図」とは、イングランド人法律家ジョン・セルデン(1584-1654)が1654年にオックスフォード大学ボドリアン図書館に遺贈した、中国および近海と日本を含む近隣諸国を描いた広域古地図で、印刷ではなく手描きのため、一枚だけしか存在しない地図です。セルデンが寄贈した大量の書籍に埋もれ、長らく特別扱いされなかったものの、近年「再発見」され、本書の著者はすっかり魅了されて、この地図と関わった歴史上の人物たちを追いかけます。その成果の一端が一冊にまとめられたわけです。「セルデン地図」はボドリアン図書館のウェブサイト上での閲覧が可能です。右上のツチノコのようなずんぐりむっくりした島が日本です。地図の来歴の細部に迫る学者の執念を感じさせる好著です。

★佐藤健寿『空飛ぶ円盤が墜落した町へ』『ヒマラヤに雪男を探す』は、『X51.ORG THE ODYSSEY』(夏目書房、2007年;講談社、2008年)の大幅増補改訂&改題&分冊&文庫化です。著者の佐藤さんは近年では『奇界遺産』(エクスナレッジ、2010年)や『世界の廃墟』(飛鳥新社、2015年)などで良く知られていると思われますが、「x51.org」と聞いて懐かしいと思える読者は佐藤さんの活躍を10年以上前から知っている方だろうと思います。そういう古くからの読者にも今回の分冊文庫版は新規原稿が入っているのでお薦めです。担当編集者はつい先日マクルーハンの『メディアはマッサージである』新訳文庫を担当したYさん。河出さんで刊行されているソンタグの日記や、森山大道さんの『実験室からの眺め』もYさんのご担当です。アートも人文もやれる振幅の広い編集者です。ちなみに河出文庫では今月まもなく「南方熊楠コレクション」全5巻の新装版が発売となり、さらに来月にはボルヘス『幻獣辞典』柳瀬尚紀訳、宇野邦一監修『ドゥルーズ・コレクション1』が刊行予定です。後者は『無人島』『狂人の二つの体制』から重要テクストをテーマ別に編んだアンソロジー、とのことです。

★山本貴光『世界が変わるプログラム入門』は、コンピュータや数式ぬきで、紙と鉛筆とアタマでプログラミングの手順や心得を教えるという画期的な入門書です。山本さんはこのところ『文体の科学』(新潮社、2014年11月)、『サイエンス・ブック・トラベル』(河出書房新社、2015年3月)と立て続けに新刊を上梓されており、相当に御多忙なはずなのですが、ここに来てさらに書き下ろしの出版です。書名にある「世界が変わる」という言葉の意味ですが、「あとがき」にはこうあります。「一つは、プログラムを身につけることによってほかならぬ自分のものの見方が変わり、その結果世界が変わるだろうという意味だ。もう一つは、巻頭でも述べたように、プログラムを作ることは新しいコンピュータの使い方を発明・発見することであり、引いては世界を変えることでもあるという意味だ」(193~194頁)。なるほど、本書はプログラミングのために何を考え何を準備するべきかが順を追って丁寧に解説されているので、こういう過程が必要なのかと様々な発見があるはずです。こんなプログラムを作ってみたい、という自身の隠れた欲望の発見にも繋がるでしょうね。本書は山本さんの『コンピュータのひみつ』(朝日出版社、2010年)の姉妹篇と見ていいと思います。

★植田康夫『『週刊読書人』と戦後知識人』はまもなく発売。「出版人に聞く」シリーズの第17弾です。著者の植田康夫(うえだ・やすお:1939-)さんは上智大学文学部新聞学科の名誉教授、日本出版学会の元会長、書評紙「週刊読書人」代表取締役社長でいらっしゃいます。著書は読書人の記者だった20代の頃から発表されており、こんにちまで多数出版されています。デビュー作『現代マスコミ・スター――時代に挑戦する6人の男』(文研出版、1968年;改題『ヒーローのいた時代――マス・メディアに君臨した若き6人』北辰堂出版、2010年)を高校時代に読んだ、とインタビュアーの小田光雄(おだ・みつお:1951-)さんは冒頭で発言されています。私自身は68年生まれなので、当時のことは遡及的に知ることができるだけです。その点、半世紀にわたって出版業界の出来事を体感されてきた大先輩ならではの証言と警句に本書を通じて接することができるのは、後進の私たちにとって実にありがたいことですし、研究者の先生方にとっても(何度も書いている気がしますが)貴重な史料であると思われます。「私にいわせれば、俗がわからなくて、出版のことがわかるかということになる」(152頁)という小田さんの言葉は、出版人や書店人なら共感できるのではないでしょうか。
[PR]

by urag | 2015-04-12 23:12 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 04月 09日

搬入日決定:ソレルス『ドラマ』、『表象09』

今月の新刊2点の取次搬入日が決定しましたのでお知らせいたします。

ソレルス『ドラマ』の新刊配本分の取次搬入日は、日販、トーハン、大阪屋、栗田、太洋社、すべて明日10日(金)です。書店さんの店頭に並び始めるのは来週半ば以降になるかと思われます。

『表象09:音と聴取のアルケオロジー』の新刊配本分の取次搬入日は、上記5社すべて来週火曜日14日です。書店さんの店頭に並び始めるのは、17日(金)以降になるものと思われます。

a0018105_17242258.jpg

[PR]

by urag | 2015-04-09 17:22 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)
2015年 04月 05日

注目新刊:マーク・C・テイラー『神の後で』ぷねうま舎、ほか

a0018105_21473298.jpg

◎注目新刊:テイラーの大著『神の後に』が2分冊で刊行、ほか

神の後にⅠ――〈現代〉の宗教的起源
神の後にⅡ――第三の道
マーク・C・テイラー著 須藤孝也訳
ぷねうま舎 2015年2月/3月 本体2,600円/2,800円 A5判並製226頁/236頁 ISBN978-4-906791-41-5/42-2

帯文(上巻)より:世界同時的な右傾化と保守化とは、いったい何なのか。すべての蓄積を傾けた、思想の新たな挑戦。
帯文(下巻)より:対決する二つの原理主義。破局の予感をはらんで高速に回転する世界の現在の外に出る、不可能な挑戦へ! 未来の世代に、〈希望〉をたぐり寄せる道を突破の可能性を残すために。

★発売済。原書は、After God (University of Chicago Press, 2007)で全1巻ですが、訳書では2分冊。A5判で2段組、合計400頁を軽く超える大冊なので、全1巻だと重すぎるという判断があったのかもしれないと拝察します。テイラーの著書の翻訳は、『さまよう――ポストモダンの非/神学』(井筒豊子訳、岩波書店、1991年)、『ノッツ(nOts)――デリダ・荒川修作・マドンナ・免疫学』(浅野敏夫訳、法政大学出版局、1996年)に続く待望の3冊目。『宗教学必須用語22』(奥山倫明監訳、刀水書房、2008年)というのもありますが、こちらは編書です。

★マーク・C・テイラー(Mark C. Taylor, 1945-)はコロンビア大学宗教学部教授。初訳本だった『さまよう』は原文の複数のニュアンスを示すために記号を多用した超絶的な訳文となっており、個人的には今なお中毒性の強い印象があります(絶版のままなのが残念)。原著は多数あるものの、その後があまり続いていません。近年の著書には、Crisis on Campus: A Bold Plan for Reforming Our Colleges and Universities (Knopf, 2010)や、Speed Limits: Where Time Went and Why We Have So Little Left (Yale University Press, 2014)などがあります。今回訳された『神の後に』は近年のテイラーの代表作と見ていいと思われます。目次は書名のリンク先をご覧ください。「宗教のことがわからなかったら、今日の世界を理解することはできない。宗教がこれほどまでに大きな勢力を得、危険であったことは、今だかつてなかった」(7頁)とテイラーは序文の冒頭に記しています。

★「きちんと学べば、宗教がしばしば最も見えにくいところで最も大きな影響を及ぼしていることがわかる。何年もの間、私は頭を悩ませてきたこの困難な問題の痕跡を辿り、宗教がよく隠れている場所に行き着いた。〔・・・〕以下では、どのようにして私たちが21世紀の初めにこの装丁が居の局面に到達することになったのかを分析し、もし未来を恐ろしいものにしたくないのなら、引き受けざるをえない喫緊の挑戦に取りかかるのにより適したオルタナティブなビジョンについて詳しく述べるつもりである」(8頁)。テイラーの言うオルタナティブなビジョンは第七章「神のない宗教」と第八章「絶対性のない倫理」で示されています。序文では次のように非常に端的に紹介されています。

★「私たちが現在直面している最も差し迫った危険は、全く調停することができない対立へと世界を分断するような、競合する絶対主義同士の争いから発する。最後の二つの章で、異なる価値観を包含するオルタナティブな解釈枠組み(より正確に言えば図式)について論じようと思う。これは、現代の生活の複雑性により適応した政策や構想を促進するものである。存在することが接続することを意味するような世界においては、絶対主義は関係主義に道を譲らなければならない。関係主義の中では、すべてが互いに依存し合い共に進化する。神の後では、神的なものはどこか他の場所に存在するのではなく、それは発生的な想像力なのであり、これが生命という無限の織物を形状化し、反形状化し、再形状化するのである。神のない宗教は、地球上で生命が創造的に発生することを促進し支えるような、絶対性のない倫理のうちに発現する」(12頁)。イスラム国による日本人誘拐殺害事件以後を生きる私たちにとって、テイラーが提示する問題圏は切実なものとなりつつあります。彼自身の術語ではありませんが《より高度な無神論》とでも言うべきものを模索されたい読者にとって本書は多くの示唆を与えてくれるのではないでしょうか。


次の大量絶滅を人類はどう超えるか――離散し、適応し、記憶せよ』アナリー・ニューイッツ著、熊井ひろ美訳、インターシフト発行(合同出版発売)、2015年4月、本体2,200円、46判並製368頁、ISBN978-4-7726-9544-2
常磐線中心主義(ジョーバンセントリズム)』五十嵐泰正・開沼博責任編集、河出書房新社、2015年3月、本体2,000円、46判並製296頁、ISBN978-4-309-24694-9

★『次の大量絶滅を人類はどう超えるか』と『常磐線中心主義(ジョーバンセントリズム)』は発売済。まず『次の大量絶滅を人類はどう超えるか』の原書は、Scatter, Adapt, and Remember: How Humans Will Survive a Mass Extinction (Doubleday, 2013)です。目次は書名のリンク先をご覧ください。「はじめに」と「解説」の立ち読みもできます。版元紹介文によれば著者は気鋭のサイエンス・ジャーナリスト。本書の内容はこう案内されています。「世界の100人を超える最先端科学者らに取材。大災害・大量絶滅の地球史・生命史・人類史を探究し、その要因と対策を徹底考察。都市を変え、地球環境を変え、ついには人類みずからを変えることによって、宇宙へ広がる。――滅亡する前に「離散し、適応し、記憶せよ!」」。アマゾン・コムではサイエンス部門で2013年の年間ベストブックスに輝いたのだとか。各紙誌でも高く評価されており、『ワイアード』誌では「私たちの未来はSF映画も想像できないような奇妙なものかも知れない」と感嘆されています。

★「私たちが祖先の中の生存者たちから学んだ教訓があるとすれば、死にたくないなら、同じ場所にとどまって変化に抵抗するのは賢い戦術ではないということだ。生き延びる者は広大な地域を歩き回る。ある環境で敵に出会ったら、逃げ出して新たな環境に適応しようとする。戦う勇気よりも、探検する勇気を選ぶのだ」(333-334頁)という著者の言葉は、ある意味で出版人の心にも響いてくるものです。なお、人類が引き起こした動物たちの絶滅の深刻さについて書かれたエリザベス・コルバート『6度目の大絶滅』(鍛原多惠子訳、NHK出版、2015年3月)が先月刊行されています。類書は今後も増えていくと思われます。

★『常磐線中心主義(ジョーバンセントリズム)』は常磐線の駅々――上野駅、柏駅、水戸駅、泉駅、内郷駅、富岡駅といった諸地域における人と町と産業を観察し記述することを通じて、首都と地方との関係性を新たな視点で見直すべく編まれた本です。「新たな商圏を模索する下町(上野)から、市民のあり方を問いかける郊外(柏)へ。衰退する中心市街地に新たな地域文化が芽吹き始めた県都(水戸)から、風評被害の向こう側を見つめる港町(泉=小名浜)へ。そして、閉山された炭鉱の記憶が息づく町(内郷)と、原子力の夢を見た町(富岡)へ。そしてその間の車窓には、再開発が進むインナーシティ(南千住)や茨城県の農業地帯、空洞化の進む企業城下町(日立)や常磐自動車道を行き来するラッパーたちの風景が差し挟まれる」(19-20頁)と共編者の五十嵐さんは序章で書かれています。本書のクレジットに「編集 柳瀬徹」という記載を発見して驚きました。柳瀬さんのことは青山BCにお勤めの頃から存じ上げており、その後編集者として活躍されているのを目の当たりにしてきました。相変わらずご活躍のようでなによりです。


◎人文書院さんの2015年3~4月新刊より

東京ブギウギと鈴木大拙』山田奨治著、人文書院、2015年4月、本体2,300円、4-6判並製250頁、ISBN978-4-409-41081-3
戦艦大和講義――私たちにとって太平洋戦争とは何か』一ノ瀬俊也著、人文書院、2015年4月、本体2,000円、4-6判並製332頁、ISBN978-4-409-52061-1
紛争という日常――北アイルランドにおける記憶と語りの民族誌』酒井朋子著、人文書院、2015年3月、本体6,000円、A5判上製308頁、ISBN978-4-409-53048-1
ハイパー・インフレの人類学――ジンバブエ「危機」下の多元的貨幣経済』早川真悠著、人文書院、2015年3月、本体5,400円、A5判上製390頁、ISBN978-4-409-53049-8

★『東京ブギウギと鈴木大拙』と『戦艦大和講義』はまもなく発売(4月8日取次搬入予定)。まず『東京ブギウギと鈴木大拙』は大拙の養子(戸籍上は実子)の鈴木アラン勝(まさる:c1916-1971)の知られざる生涯と、子育てに苦悩する大拙の実像に迫った貴重なノンフィクション作品です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。アランさんの子供時代は相当やんちゃで大拙は相当手を焼いたそうで、長じてからも「不肖の息子」として大拙の周囲から煙たがられたようですが、一方では「東京ブギウギ」の作詞者として活躍しています。第5章「大拙とビート世代」では米国における大拙の活動や交友に触れ、晩年の秘書・岡村美穂子さんとの出会いについても紹介されています。内田樹さんは本書に「鈴木大拙という武士的風貌の思想家の弱く、やわらかい部分に触れていて、大拙への親近感が一層深まりました」との推薦文を寄せておられます。

★次に『戦艦大和講義』は埼玉大学教養学部准教授で日本近現代史が御専門の一ノ瀬俊也(いちのせ・としや:1971-)さんが大学で行った講義「近現代日本の政治と社会」(2011年/2014年)の内容を大幅に改変し追加して書籍化したものとのことです。目次は書名のリンク先でご覧いただけます。「近代日本はなぜ大和を作り、失ったか――大和から日本の近代史を知る」、「大和はなぜ敗戦後の日本で人気が出たのか――日本人の欲望の反映としての大和」、「現在の私たちにとって太平洋戦争とは何なのだろうか――大和から考える」の三部構成で、特に第九講「1974年、なぜ宇宙戦艦ヤマトはイスカンダルを目指して飛び立ったのか」と第十講「そのとき、なぜ青少年はヤマトに熱狂したのか」は子供の頃にヤマトに熱狂した私のような世代にとって興味深い内容です。第一部では吉田満『戦艦大和ノ最期』、第三部では『艦これ』なども取り上げられているので、前後の世代の目も惹くのではないかと思われます。第三部第十四講「もう一方の日本海軍の雄・零戦はなぜ人気があるのか」では戦闘機ゼロ戦がどう語られてきたかについても取り上げられています。

★『紛争という日常』と『ハイパー・インフレの人類学』は発売済。目次についてはそれぞれの書名のリンク先をご覧ください。『紛争という日常』は20世紀後半の北アイルランドで約30年間にわたって続いた政治紛争の記憶をめぐる民族誌です。2010年にイギリス・ブリストル大学に提出されたPh.D論文を著者自ら翻訳し、大幅な修正を施したものとのこと。著者の酒井朋子(さかい・ともこ:1978-)さんは現在、東北学院大学教養学部准教授でいらっしゃいます。いっぽう『ハイパー・インフレの人類学』は南部アフリカの内陸部に位置するジンバブエ共和国でゼロ年代後半起こったハイパー・インフレーションの人類学的理解を目指した民族誌です。2012年度に大阪大学へ提出された博士論文に大幅な加筆修正を施したもの。著者の早川真悠(はやかわ・まゆ:1976-)さんは久米田看護専門学校で非常勤講師をつとめておられます。どちらも意欲的な研究書で、それぞれ紛争と経済危機に見舞われた日常の困難を生きる人々に直接取材した労作です。


◎平凡社さんの2015年4月新刊より

東北の震災復興と今和次郎――ものづくり・くらしづくりの知恵』黒石いずみ著、平凡社、2015年4月、本体3,000円、A5判並製308頁、ISBN978-4-582-54453-4
保存修復の技法と思想――古代芸術・ルネサンス絵画から現代アートまで』田口かおり著、平凡社、2015年4月、A5判上製344頁、ISBN978-458-220643-2

★『東北の震災復興と今和次郎』と『保存修復の技法と思想』はまもなく発売。まず『東北の震災復興と今和次郎』は帯文に曰く「80年前の住宅改善事業に学ぶ。1933年の昭和三陸地震の被災地・東北で住民に寄り添いながら行われた社会基盤作りのさまざまな試み」。「震災復興の観点から」と「先人の努力を掘り起こす」の2部構成で、2000年以降に公刊されてきた諸論文に加え、青学での共同研究や東日本大震災以後のワークショップの成果が示されています。いっぽう『保存修復の技法と思想』は、「現在までほぼ未整理のままであった保存修復の技法と思想の変遷を分析するとともに、両者の相関性を明らかにし、その全体像を再構築する」試み(13頁、序章「診断」より)とのことです。2014年に京都大学に提出された博士論文を加筆修正したもの。チェーザレ・ブランディの『修復の理論』(小佐野重利監訳、大竹秀実・池上英洋訳、三元社、2005年)での議論が随時参照されており、同書とともに書店さんに扱っていただきたい力作です。巻末には保存修復学関連の用語集とともに、参考文献や人名索引が付されています。
[PR]

by urag | 2015-04-05 21:48 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2015年 04月 01日

4月1日ですね

新年度にあたり、弊社の今後の事業方針について発表させていただきます。弊社は業務の一部を火星に移転することを決定いたしました。2020年をめどに、火星への完全移転を目指しております。「火星から人文書を」とのモットーのもと、今後さらなる精進に励む所存です。なお、火星では、惑星開発史の研究シリーズ「インターステラー叢書」などを手掛ける出版業のほか、移住を希望される方々のための不動産業や保険業「マルスプラン」、さらには「ブックカフェ火星人」の経営も行います。火星にお越しの際はぜひお立ち寄りください。事業拡大につき、様々な人材を目下探しております。弊社とのパートナーシップを結んで下さる個人事業者様や企業様を近日中に募る予定です。どうぞよろしくお願いいたします。
[PR]

by urag | 2015-04-01 10:48 | ご挨拶 | Trackback | Comments(0)