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2013年 12月 29日

注目新刊と既刊:ヴィクトル・セルジュ『勝ち取った街』現代企画室、ほか

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勝ち取った街――一九一九年ペトログラード
ヴィクトル・セルジュ(Victor Serge, 1890-1947)著 角山元保訳
現代企画室 2013年11月刊行 本体2,500円 4-6判上製320頁 ISBN978-4-7738-1315-9

帯文より:革命二年目のロシアを襲った最大の危機。声なき群衆が語るもうひとつの物語・歴史(イストワール)。ヴィクトル・セルジュ――激動の二〇世紀、全存在を賭して抑圧と闘った絶対自由主義者。攻囲された街の民衆一人ひとりが織りなす、権力の「正当な」歴史が語り得なかったロシア革命の真実。

★発売済。原書は、Ville conquise(Société coopérative Éditions Rencontre, 1932)です。巻末の著者略歴によれば、セルジュは「近年、フランスや米国でその評論集や小説が相次いで再刊され、再評価の動きが高まっている」とのことで、本書に続き、別の小説の訳書(『仮借なき時代』上下巻、角山元保訳、現代企画室)もまもなく刊行される予定です。確かに1970年から1971年にかけて立て続けに訳書が刊行されていたものの、その後40年以上途絶えていました。『革命元年』の共訳者だった角山さんはその後、今回刊行された『勝ち取った街』と近刊の『仮借なき時代』を地道に訳されていて、「二つの訳稿は、墓場への同行者になるかもしれなかった」と『勝ち取った街』の訳者あとがきで振り返っておられます。版元さんとの思いがけない出会いが本書の誕生につながったそうで、運命的な出版ではないでしょうか。

◎ヴィクトル・セルジュ(Victor Serge, 1890-1947)既訳書

1938年02月『ソ聯の現實を暴く(國際文化協會會報 第23號別刷)』宮本彪訳、國際文化協會;レイモンド・ビューエル「アメリカと太平洋問題」佐野壽一郎訳を併録
1970年10月『一革命家の回想(上)母なるロシアを求めて』山路昭訳、現代思潮社
1970年10月『一革命家の回想(下)母なるロシアを追われて』浜田泰三訳、現代思潮社
1971年04月『スターリンの肖像』吉田八重子訳、新人物往来社
1971年**月『革命元年――ロシア革命第一年』高坂和彦・角山元保訳、二見書房
2013年11月『勝ち取った街――一九一九年ペトログラード』角山元保訳、現代企画室


ペルソナ・ノン・グラータ――カストロにキューバを追われたチリ人作家
ホルヘ・エドワーズ(Jorge Edwards, 1931-)著 松本健二訳
現代企画室 2013年9月 本体3,200円 4-6判上製468頁 ISBN978-4-7738-1313-5

帯文より:1967年10月、ボリビアでチェ・ゲバラが殺された。1968年8月、ソ連軍のチェコ侵攻をフィデル・カストロは支持した。初期キューバ革命の〈光〉を、暗雲が覆い尽くそうとする1970年12

月、著者は、新生チリ・アジェンデ社会主義政権によって公使としてキューバに派遣された。彼を待ち受けていた運命とは? フィデル・カストロと著者の間で交わされる、息詰まるような最後の会話!

★3か月前の既刊書ですが前掲書と同じ現代企画室さんの注目書。シリーズ「セルバンテス賞コレクション」の第12弾。底本は、Persona non grata(Alfaguara, 2006)です。同書は1973年に刊行後、82年と91年にその都度新たなエピローグを追加された改訂版が刊行されており、本書の底本となった2006年版では旧版のエピローグが削除され、「二重の検閲」と題された新しいエピローグが付されています。巻末の訳者解説によれば、「本書は、チリの作家ホルヘ・エドワーズが、外交官として約三カ月半に及ぶハバナ赴任を終えた直後の1971年4月からほぼ1年をかけて書き上げたノンフィクション作品である。題名のペルソナ・ノン・グラータとは、外交上好ましくない人物、という意味で、エドワーズ自身がキューバでおかれた情況を表している」とのことです。エドワードは1970年12月から71年3月まで、アジェンデ政権の代理公使としてキューバに赴任します。本書はその3ヶ月間の滞在記録であるとともに、詩人エルベルト・パディージャへの弾圧など、カストロ体制の暗部に迫ったドキュメントです。パディージャは詩集『退場』が反革命的であるとして政府によって逮捕されるのですが、訳者解説では参考として冒頭作「難局に当たって」と表題作「退場」の日本語訳を読むことができます。

★エドワーズの作品の翻訳にはこれまでに、「痩せるための規定食」(高見英一訳、『集英社ギャラリー「世界の文学」19』、集英社、1990年)があります。


シベリア抑留者たちの戦後――冷戦下の世論と運動 1945‐56年
富田武(とみた・たけし:1945-)著
人文書院 2013年12月 本体3,000円 4-6判上製278頁 ISBN978-4-409-52059-8

帯文より:冷戦下で抑留問題はどう報じられ、論じられたか。新資料をもとに再構成し、歴史の真実に迫る。抑留問題は実態解明がまだまだ不十分である。本書は、従来手つかずだった抑留者及び遺家族の戦後初期(1945-56年)の運動を、帰国前の「民主運動」の実態や送還の実情も含めてトータルに描く。帰還者団体の機関紙、日本共産党文書、ロシア公文書館資料、関係者へのインタヴューをもとに実証的に分析したものである。シベリア抑留史のみならず戦後史としても貴重な研究であり、待望の一冊といえる。

★発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。著者の富田武さんは成蹊大学法学部教授。御専門はソ連経済史、日ソ関係史で、近年の著書に『スターリニズムの統治構造――1930年代ソ連の政策決定と国民統合』(岩波書店、1996年)や『戦間期の日ソ関係――1917-1937』(岩波書店、2010年)などがあります。本書は「シベリア抑留概観」「抑留報道と帰還者運動」「共産党と帰還者運動」「シベリア抑留者群像」の4章構成で、巻末に「ソ連抑留・引揚関連年表と抑留者名索引が付されています。回想記の多さに比して学術的研究が少ない、と著者はまえがきに書いています。ロシア側の資料公開がまだまだ乏しいとのことですが、今後公文書の実証的分析が進めば、抑留研究はいずれ新しい時代に入っていくに違いありません。


胸さわぎの鷗外
西成彦(にし・まさひこ:1955-)著
人文書院 2013年12月 本体2,000円 4-6判上製220頁 ISBN978-4-409-16095-4

帯文より:心を、体をざわつかせる圧殺された恥を掘り起したい。古今東西の文学を縦横無尽に論じる、比較文学者西成彦による満を持しての鷗外論。戦時性暴力を静かに断罪する『鼠坂』、性欲処理に悩める男を描いた『舞姫』、民衆の語りを政治の語りに変えてみせた『山椒大夫』など、人間の身勝手さ、残酷さ、恥ずべき側面を、鷗外は見逃さない。魅力的な素材であったのだ。近代の申し子ともいうべき鷗外の冷徹なまなざしが明らかになる。その視線の下で恥じ入るべきは、レイプされた植民地の女や徴兵逃れの罪をおそれる移民の老婆ではなく、植民地帝国の男たち、そして恥を直視できない「腰砕け」のわれわれなのだ。

★発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。1984年から2011年にかけて発表された鷗外論8篇をまとめたものです。あとがきにかえて、巻末には「「雑種的思考」に向けて、あるいは「複数の胸騒ぎ」」が置かれ、参考資料として森鴎外の短篇作品「鼠坂」と芥川龍之介の「藪の中」の後半が収められています。著者はこう書いています、「日本人は日中戦争、第二次世界大戦のなかで、加害者としての胸騒ぎと、被害者としての胸騒ぎを、それぞれに胸に宿しながら時代を生きたはずである。その胸騒ぎは、〔・・・〕相反するものではあるが、決して、相殺されて帳消しになるようなものではない。それぞれの胸騒ぎとして、世代を越えて継承していくべきものだと思うのである。同じことは戦争ばかりではなく、植民地支配についても言えるはずで、日本文学は植民地統治を生きた内地人の胸騒ぎと、支配を受けた台湾なら台湾、朝鮮なら朝鮮のひとびとの覚えた胸騒ぎを、いずれにも均等に目配りしつつ語ろうと思えば語ることができたはずなのである」(219-220頁)。

★「ぶつかりあうひととひとのあいだの「胸騒ぎ」の交錯を描くのが文学であり、それこそが文学の効用なのである。〔・・・〕ひとびとの和合や衝突には、「単数形の胸騒ぎ」の多数による「共有」ではなく、それぞれの立場に即した「複数の胸騒ぎ」の「分有」がともなうものである。そのときに、特定の人物や、特定のポジションに固有な胸騒ぎにだけ心をあずける「同質性への依存」は断じて退けるべきだ。われわれは胸がはじけとぶまで、多様な当事者の心にひとつひとつ思いを馳せ、いつだって「雑種」的に「複数の胸騒ぎ」を抱えこむべきなのだ」(223-224頁)。比学文学研究者としての著者の面目がくっきりと際立つ論文集です。


ペトロダラー戦争――イラク戦争の秘密、そしてドルとエネルギーの未来
ウィリアム・R・クラーク著 高澤洋志訳
作品社 2013年12月 本体2,800円 四六判上製448頁 ISBN978-4-86182-465-4

帯文より:なぜアメリカは、無謀な戦争を仕掛け、味方を盗聴してまで世界を“支配”しようとするのか? その鍵は、「Petrodollar ペトロダラー」にある。膨大な資料と証言を綿密に調査し、超大国の闇とそのカラクリを暴き出した、全米ベストセラー! もう一つのピュリッツァー賞「プロジェクト・センサード」を受賞。

目次:
序文 イラク戦争以後――新世紀を方向づける最も危険な10年間(ジェフ・ライト)
序章 なぜ、ブッシュはイラク侵攻に踏み切ったのか?
第一章 アメリカの世紀――第二次大戦後
第二章 アメリカの地政戦略とペルシア湾――1945年から2005年まで
第三章 世界ピークオイル――新千年紀最大の挑戦
第四章 嘘とプロパガンダ――隠蔽されたマクロ経済および地政戦略上の戦争目的
第五章 ドルのジレンマ――なぜペトロダラーの覇権は維持できないのか
第六章 崩れゆく「アメリカ」という試み――メディア、民主主義の堕落と失われる建国の理念
第七章 新たな世紀、新たな世界――21世紀の改革構想
エピローグ なぜ、私は“内部告発”したのか?(カレン・クワイアトコウスキ空軍中佐〔退役〕)
訳者あとがき イラク戦争開戦10年後に読む
原註

★発売済。原書は、Petrodollar Warfare: Oil, Iraq and the Future of the Dollar(New Society Publishers, 2005)です。ペトロダラーとは、「世界準備通貨(基軸通貨)としてのドルの地位を維持するために、あらゆる国が必要とする石油をドルのみで取引する体制」における、いわゆるオイルマネーの異名です。本書の著者クラークはジョンズ・ホプキンズ大学医学部で、情報セキュリティ専門の業務改善マネージャーを務めるかたわら、アメリカの地政戦略や石油問題を研究しており、本書では10年前のイラク戦争がペトロダラーによるアメリカの覇権の維持のために必要だったことを暴き、ピークオイルや経済的な諸要因によってもはや持続不能な状態の「覇権維持」からどうやって脱却すべきかを論じています。アメリカが自分の進路をどう自己修正したいのか、その希望と欲望の一面がよく見えてくる本です。

★細かいことを言うと、第四章「嘘とプロパガンダ」でレオ・シュトラウスが批判されるのですが、シュトラウス本人の著作を一切使用していないため、この点については少し注意が必要です。本書にとっては寄り道的な部分なので、あくまでもシュトラウスに学んだ当時の学生たちの中から出てきた象徴的な亜流としてのネオコンへの批判として読んでおくのが妥当かと思われます。シュトラウス本人の政治哲学を学ぶためにはさいきん文庫化された素晴らしい名著『自然権と歴史』(ちくま学芸文庫)をお読みください。


アジア映画で〈世界〉を見る――越境する映画、グローバルな文化
夏目深雪・石坂健治・野崎歓編
作品社 2013年12月 本体2,800円 A5判並製308頁 ISBN978-4-86182-461-6

帯文より:われわれは映画に、映画はわれわれに、何をできるのか――。グローバリズムの中、越境し変容するアジア各国と日本の映画。「今、アジア映画を見ること」の意味を問いながら、歴史/政治/社会状況を読み解きつつ、映画/映像の可能性を探り、批評の文脈を刷新する。地図上の〈世界〉とわれわれの生きる現実(リアル)な〈世界〉を、14の論考と7つの対談・座談で切り取る、画期的評論集!

★発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。3・11以後の日本を視野に入れたアジア映画論のアンソロジーです。本書の刊行を記念して、来月とさ来月に同名のイベントが行われます。

◎特集「アジア映画で〈世界〉を見る

日時:2014年1月26日(日)・2月2日(日)
場所:映画美学校試写室(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS地下1階;渋谷・文化村前交差点左折・ユーロスペース下)
料金:1500円

1月26日(日)
13:00-上映「メコンホテル」(61分)
 +トーク「アピチャッポンの亡霊(ファントム)」:福間健二、渡邉大輔
15:30-講義「徹底・即解 イスラエル映画史」:四方田犬彦
18:30-シンポジウム「エドワード・ヤン以前/以後」:筒井武文、森山直人、舩橋淳

2月2日(日)
13:00-上映「メコン・ホテル」(61分)
14:30-上映「石の賛美歌」(105分)
 +トーク「パレスチナの映画と現在」:土井敏邦、金子遊
17:45-上映「THE DEPTHS」(121分)
 +トーク「アジア映画の境界線」:石坂健治、野崎歓、夏目深雪

内容:『アジア映画で〈世界〉を見る』(作品社刊)は、「映画」と現実の「世界」の関係性を問題にしている。ここでは、それをさらに発展させ、アジアで最も先鋭的な監督、アピチャッポン・ウィーラセタクンに関して、本書の執筆者二人が異なる視点からトークを行う。また本書のキーワードの一つである「政治性」という観点から、イスラエル映画史についての講義と、パレスチナ映画に関するトークを行い、対立する国家の映画表象から何が炙り出されるのかを探る。エドワード・ヤンのシンポジウムでは「過去の映画を読み直す」こと、また演劇批評家と映画監督という異種混合のセッションによる多角的な検討が、その全体像を豊かに照らし出すだろう。それらを統べる編者三人でのトークは、本書で行った様々な試みを検証する。それぞれが、アジア映画を通して「世界」を捉え直し切り拓く試みとなるはずだ。(夏目深雪:批評家)


ガーロコイレ――ニジェール西部農村社会をめぐるモラルと叛乱の民族誌
佐久間寛(さくま・ゆたか:1976-)著
平凡社 2013年12月 本体5,600円 A5判上製446頁 ISBN978-4-582-47622-4

帯文より:その行政村はふたつに分裂した。叛乱者たちは誰から、何を、どのように守ろうとしたのか。人びとの声をひたすら拾い、叛乱の情動に内在する社会的葛藤とモラルを明らかにする。西欧近代的思考の前提までを問いなおす、俊英による人類学の新たな成果。

★発売済。東京外国語大学に著者が本年提出した博士論文「21世紀転換期ニジェール西部農村地帯ソンガイ系社会における行政村の分裂・創設過程をめぐる民族誌的研究」を改稿したものです。ニジェール西部の農村ガーロコイレにおける、「居住単位としてはひとつの村でありながら、行政単位としてはふたつの村」(19頁)である特異な状況を研究したものです。ガーロコイレは「国家と社会の葛藤が社会の内なる葛藤を連動的に引き起こした末に分裂した行政村であり、しかもこの二重の葛藤の過程には、植民地化から独立をへて冷戦崩壊後の現在へといたる一連の指摘過程が複雑に折り重なっている」(同)と著者は指摘します。「ガーロコイレとは、土地を不条理に奪う者への叛乱の末に分裂した行政村の名であり、そこに住む人びとを名もなき叛乱者にしたのは、他者に負うことなくしては土地は得られないというモラルである。個の内にありながら、個人の心理をこえてひろがるこのモラルこそ、本書で記そうと試みたものである」(417頁)。その試みによって、本書は「他者を排することで他者に負うことなく財を収奪する世界」(381頁)の内に生きる現代人への示唆に富んだ内容となっていると思われます。
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by urag | 2013-12-29 23:43 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 12月 25日

BH叢書第2弾:菊地原洋平『パラケルススと魔術的ルネサンス』ついに刊行!

弊社出版物の著訳者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

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★ヒロ・ヒライさん(編著:『ミクロコスモス』第一集)
★菊地原洋平さん(寄稿:『ミクロコスモス』第一集)
ヒライさんが監修されている「bibliotheca hermetica叢書」の第二弾『パラケルススと魔術的ルネサンス』がついに刊行されました。弊社刊『ミクロコスモス』第一集に寄稿されていた菊地原洋平さんによる第一作となるパラケルスス論です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。さる21日(土)には紀伊國屋書店新宿本店で刊行記念トークイベント「賢者の石・ホムンクルスからアロマテラピーまで――パラケルススの魔術的世界」(菊地原洋平×ヒロ・ヒライ×長谷川弘江)が行われ、盛況裡に終わったと聞きます。なお現在、同店人文書売場では刊行記念ブックフェア「近代医学の父か?魔術師・錬金術師か?――パラケルススの世界」が開催中です(1月初旬まで)。ヒライさんがパラケルススの著作やパラケルススをモデルにした小説など15点を選書。主な書目にはヒライさんのコメントPOPが付されています。店頭の様子が、フェア名のリンク先でご覧になれます。

そもそも日本人の書き手による、丸ごと一冊がパラケルススを扱った本というのは、大橋博司『パラケルススの生涯と思想』(思索社、1976年) 、種村季弘『パラケルススの世界』(青土社、1977年) に続く、本当に久しぶりの成果で、画期的なことです。パラケルススの訳書も少しずつ増えてきた昨今、パラケルススへの注目が必然的に高まってくる気がします。なお、同書の編著者略歴によれば、中央公論新社さんからの近刊で、ヒロ・ヒライ&小澤実編『知のミクロコスモス――西欧中世ルネサンス精神史研究』という本が出版されるようです。菊地原さんも「ルネサンスにおける架空種族と怪物――ハルトマン・シェーデルの『年代記』から」と題したご論考を寄せられるようです。

パラケルススと魔術的ルネサンス
菊地原洋平著 ヒロ・ヒライ編集
勁草書房 2013年12月 本体5,300円 A5判上製336頁 ISBN978-4-326-14827-1
帯文より:近代医学の創始者か、賢者の石を手にいれた錬金術の達人か? 魔術・占星術とキリスト教の融合をめざして放浪するホーエンハイム。パラケルスス研究の最前線をここに!


★中山元さん(ブランショ『書物の不在』)
光文社古典新訳文庫でカント『純粋理性批判』(全7巻、2010-2012年)や『実践理性批判』(全2巻、2013年)、そして『永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編』(2006年)や『道徳形而上学の基礎づけ』(2012年)などの新訳を手掛けられてきた中山さんが2011年1月から8月にかけて東京ドイツ文化センターで行った全6回の連続講義が、一冊の本にまとまりました。第1回の講義の様子は、同センターの公式ブログでレポートされています。約90分の講義と質疑応答があり、盛況な会だったそうで、古典新訳文庫のカフェブログにも写真とともに詳しいレポートが載っています。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。

自由の哲学者カント――カント哲学入門「連続講義」
中山元著
光文社 2013年12月 本体2,000円 四六並製363頁 ISBN 978-4-334-97758-0
帯文より:入門を超えた入門書! 今を生きるためにカントを読む!


★リピット水田堯さん(著書:『原子の光(影の光学)』
「図書新聞」2013年12月21日号(3139号)に掲載された「2013年下半期読書アンケート」において、49名の回答者のうち、四方田犬彦さんと三浦哲哉さんが『原子の光』を取り上げてくださいました。四方田さんの選評は「アメリカの映画研究に類書のない、現代思想との連携書として」。三浦さんの選評は「映画とX線と精神分析との、1895年の出合いによって画された「没視覚性 avisuality」をめぐる思索の記録。そもそも人類がそれについて語る言葉を持たなかった領域へ、融通無碍に言葉を変形させながら分け入ってゆく」。四方田さん、三浦さん、ありがとうございました。
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by urag | 2013-12-25 19:27 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 12月 23日

注目新刊:バイイ『思考する動物たち』出版館ブック・クラブ、ほか

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思考する動物たち――人間と動物の共生をもとめて
ジャン=クリストフ・バイイ(Jean-Christophe Bailly, 1949-)著 石田和男/山口俊洋訳
出版館ブック・クラブ 2013年12月 本体2,200円 46判上製178頁 ISBN978-4-915884-69-6

帯文より:動物の側の哲学――ユクスキュル、デリダ、リルケ、ハイデガー、メルロ=ポンティ、バタイユ、ドゥルーズ、アガンベンらの動物論から絵画、映画、文学に描かれた動物たちまであまねく検証し、西欧人間中心主義を脱構築する。

原書:Le versant animal, Bayard, 2007.

目次:
1 ノロジカの出現
2 接近
3 獣たちの場所
4 失われた内奥性
5 寓話からの解放
6 開かれた世界
7 目を瞠る能力
8 形成をめぐって(リルケとハイデガー)
9 考える人
10 思考不可能なもの(アントン・ライザーと子牛)
11 動物たちの視覚
12 植物の形態
13 動物の形態
14 カラヴァッジョのロバのまなざし
15 ピエロ・ディ・コジモの犬のまなざし
16 小説の中の動物(カフカの犬)
17 人間の手もとで
18 鳥が飛ぶ
19 動物たちの多様性
20 環世界
21 コウモリの飛行
22 求愛行動
23 動物たちの思考
24 素晴らしき動物の名前
25 牧畜
26 アフリカ旅行
27 動物のいない世界
28 イタリアの海辺の猫
訳者あとがき

★発売済。バイイはどちらかと言えばこれまで、単独著の『西洋絵画の流れ――名画100選』(小勝禮子/高野禎子訳、岩波書店、1994年)によってというよりは、ナンシーとの共著『共出現』(大西雅一郎/松下彩子訳、松籟社、2002年)や『遠くの都市』(小倉正史訳、青弓社、2007年)によって日本の読者にも親しまれてきたと思います。その意味で、遅まきの日本再デビュー作となりうるのが本書です。28篇の短いエッセイを積み重ねたコンパクトな本のため、同じく動物論を扱った大著、エリザベート・ド・フォントネ『動物たちの沈黙――《動物性》をめぐる哲学試論』(石田和男/小幡谷友二/早川文敏訳、彩流社、2008年)に比べると、とっつきやすい印象があります。

★周知の通り、動物論は欧米の現代思想において近年注目されてきた分野です。バイイは本書でこう書きます。「私の関心は、人々が動物に思考能力を認めるかどうかにあるのではない。人間中心主義から抜け出してほしいのだ。人間が想像の頂点にあり、未来は人間だけのものだなどという、相も変わらぬ繰り言のような信条を捨ててほしいのだ。棒筒たちの思考性――少なくとも私がそう名付け、たどり着こうとしているものは、気晴らしや好奇心のことではない。この思考性によって明らかになるのは、私たちの生きている世界が他の生物たちから見られているということだ。可視の世界は生き物たちの間で共有されている。そして、そこから政治が生まれるかもしれない――手遅れでなければ」(38頁)。そしてここでバイイは原注を付して、デリダの動物論(L'animal que je suis)を参照しています。バイイの訳書では『ゆえに動物である私』と訳されています。『動物ゆえに我あり』とも訳せるこの有名な動物論は遠からず日本語でも読めるようになると仄聞しています。

★なお、版元さんのウェブサイトはまだコンテンツが埋まっていないようですが、同社のフェイスブックには、既刊書が何点か紹介されています。


こころは体につられて――日記とノート 1964-1980(上)
スーザン・ソンタグ著 デイヴィッド・リーフ編 木幡和枝訳
河出書房新社 2013年12月 本体3,000円 46変形判並製400頁 ISBN978-4-309-20638-7

帯文より:独りっきりだ――愛されていないし、愛する相手もいない。世界中で私がいちばん怖れてきたことだ。でも、まだ生きている。ソンタグ31歳から35歳までの日記。広がる好奇心は『反解釈』に結実。そしてパリ、モロッコ、ロンドン、ヴェトナムへ――旅する知識人が生まれた。日本語版オリジナル・カヴァー写真=アンディ・ウォーホル

原書:As Consciousness Is Harnessed to Flesh: Diaries 1964-1980, Farrar, Straus and Giroux, 2012.

目次:
編者まえがき(デイヴィッド・リーフ)
こころは体につられて(1964-1968)

★まもなく発売。『私は生まれなおしている――日記とノート 1947-1963』(デイヴィッド・リーフ編、木幡和枝訳、河出書房新社、2010年)の実質的な続編です。上巻は1964年から68年までの日記と覚書、メモ等を収録しています。断片的なものをまとめたものなので、時系列を追う以外はこれと言って読む流儀も存在しないものの、ソンタグの独り言には普段の彼女からは想像しにくいような「素の」部分も見え隠れしていて、はっとします。「期待をなるべく最小にしておけば、傷つかずに済む」(156頁)なんて、しおらしい溜息のような文章もあります。「もっと自分自身になるための条件。1、他者の本音を今ほど理解しすぎない。2、他者が生産するものの消費を減らす。3、微笑みを減らす、話し言葉からは、最上級の形容詞と不必要な副詞+形容詞を排除する」(314頁)。これの後段には「もっと鎧を固めれば、より多くを吸収することができる。オープンになればなるほど、1、2のことで満杯になってしまう――吸収したことについては、もっと深いところで対峙しよう」(同)。孤独と向き合おうとするソンタグの自画像が、本書の内奥に沈んでいます。


新版 アリストテレス全集(5)天界について/生成と消滅について
山田道夫/金山弥平訳
岩波書店 2013年12月 本体5,600円 A5判上製函入408頁 ISBN978-4-00-092775-8

版元紹介文より:アリストテレスの宇宙観・自然観の骨格を示す著作。天上世界の永遠的円運動と四基本要素からなる月下世界の運動変化とを論じる『天界について』。月下世界での自然過程の基本原理を考察する『生成と消滅について』。プラトン、デモクリトス、エレア派、ミレトス派、エンペドクレスらを批判する中から独自の自然哲学が浮かび上がる。

★発売済。新版全集の第2回配本です。山田道夫訳「天界について」と、金山弥平訳「生成と消滅について」を収録し、巻末にはそれぞれの解説と索引が付されています。月報は、熊野純彦さんによる「デュナミスという存在の次元」と、野家啓一さんによる「「悪役〔ヒール〕」としてのアリストテレス」の二篇のエッセイを収録。ちなみに旧全集では上記二作は1968年刊の第4巻に収録。村治能就訳「天体論」、 戸塚七郎訳「生成消滅論」です。また、この二作に関して現在入手可能な他の訳書には、いずれも京都大学学術出版会の西洋古典叢書での池田康男さんによる翻訳で『天について』(1997年)と『生成と消滅について』(2012年)があります。新版全集の次回配本は2014年2月、第7巻「魂について/自然学小論集」です。

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★水声社さんの12月新刊をまとめてご紹介します。いずれも発売済です。

フランソワ・トリュフォーの映画』アネット・インスドーフ著、和泉涼一/二瓶恵訳、四六判上製504頁、本体4,800円、ISBN978-4-89176-975-8
ヘンリー・ミラー・コレクション(11)母』小林美智代訳、四六判上製312頁、本体3,000円、ISBN978-4-8010-0000-1
『ヘンリー・ミラーの八人目の妻』ホキ徳田著、四六判上製416頁、本体3,200円、ISBN978-4-8010-0006-3
サーカスと革命――道化師ラザレンコの生涯』大島幹雄著、四六判上製272頁、本体2,800円、ISBN978-4-89176-976-5
キアロスクーロ』織江耕太郎著、四六判上製339頁、本体2,800円、ISBN978-4-89176-999-4

まず『フランソワ・トリュフォーの映画』は、トリュフォー(1932-1984)が信頼を寄せていたという映画研究家アネット・インスドーフ(Annette Insdorf, 1950-)による『François Truffaut』(増補改訂版、ケンブリッジ大学出版、1994年)の全訳です。インスドーフは現在コロンビア大学映画学科の主任教授。本書の原著初版が刊行されたのはトリュフォーの生前の1978年。初版刊行後からトリュフォーの逝去までに発表された5作品を論じた最終章(第7章「逃げ去るイメージ」)を追加したのが今回訳された増補改訂版です。訳書刊行にあたり、インスドーフは「日本語版へのまえがき――フランソワ・トリュフォーを愛する日本の読者へ」と題した文章を寄稿しています。彼女はこう書いています。「近年のヨーロッパ映画はエリート主義や自己満足を特徴とすることが多かったが、これに対してトリュフォーの映画は、さまざまな国や時代や階級の人々に感動を与えるために撮られたのである。そして彼の映画は今もなお、感動を与え続けている」(8頁)。

次に『ヘンリー・ミラー・コレクション(11)母』は、「ヘンリー・ミラー・コレクション」第2期の第1回配本です。帯文には「ミラーの30代以降、40年間の、揺れて流れた作家生活の中から生み出された不動の中・短篇小説を収録」とあります。収録されているのは5作で、「エヴァグレースへ」(1928年)と「ニューヨーク往復」(1935年)が本邦初訳、「楽園の悪魔」(1956年)、「母」(1976年)、「中国」(1976年)が新訳です。第2期は全6巻構成で、本書の次は『冷暖房完備の悪夢』『わが生涯の読書』『友だちの本』『三島由紀夫の死について』『対話/インタヴュー集成』と続きます。

ホキ徳田さんの『ヘンリー・ミラーの八人目の妻』は、ミラー最後の伴侶によるかなり自由なエッセイ集です。そのご交友は広く、たとえば元首相の中曽根さんもごくフツーに出てきてシャンソンを歌ったりします。あとがきによれば「1980年代の終りころ、まだアメリカLA市に在住中、『週刊読売』に「ヘンリー・ミラー周辺の人々」というタイトルで一年間連載。それはその後、『文豪夫人の悪夢』と題名を変えて一冊の本――私の処女作――として日本で出版された。その本と、その後すぐ季刊の『別冊婦人公論』に6回にわたり連載された「浮草参番館」とをあわせて今回出版して頂けることとなり、何十年ぶりに色メキ立っている今日この頃です」と。初出一覧で補足しておきますと、『週刊読売』の連載は1985年から翌年にかけてで、単行本は主婦の友社から1986年に刊行。『別冊婦人公論』は1984年から1986年にかけて。さらに本書では『婦人公論』に掲載された「私自身のゼイタク史」(1991年)と、「目覚めたのは40代だった」(1995年)も収録しています。これらすべてに加筆訂正が施され、今回の一冊となったとのことです。ホキさんは現在、六本木のバー「北回帰線」を経営し、日本最高齢のピアノ弾き語りを夜毎披露されているそうです。

大島幹雄さんの『サーカスと革命』は、平凡社より1990年に上梓されたものの復刊です。帯文はこうです。「革命に生き、革命に死んだ道化師の肖像。ロシア革命の旗手として民衆の絶大な支持を集めた「赤い道化師」、ヴィターリイ・ラザレンコの波乱に満ちた生涯を追うとともに、彼の盟友として同時代のアヴァンギャルド芸術を力強く牽引したメイエルホリド、マヤコフスキイ、エイゼンシュテインらの足跡もたどる、臨場感あふれるドキュメント。革命期のロシアを再現する貴重な図版約120点を収録」。復刊にあたってあとがきに新しく付け加えられた文章で、大島さんはこう書いておられます。「ここで書いた「革命」はイデオロギーでも、政治理念でもなく、よりよきものをめざす、生き方を変える力だった。それは精神の革命まで求め、全力疾走で時代に立ち向かった若き芸術家の青春でもあった。読み返してみて、この『サーカスと革命』が青春の書でもあったとあらためて思った。私にとっても処女作であり、自分の青春でもあった」(265-266頁)。

織江耕太郎さんの『キアロスクーロ』は「原発利権」をめぐる書き下ろし長編小説です。水声社さんでは一作年秋に、井上光晴、野坂昭如、豊田有恒、清水義範、平石貴樹の5氏の作品を編んだ『日本原発小説集』を刊行されています。

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by urag | 2013-12-23 23:27 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 12月 22日

注目文庫10月~12月:平凡社ライブラリー、岩波文庫、ほか

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10月から12月のここ3ヶ月間で発売された注目の文庫新刊について版元別にチェックします。取り上げる点数の多い順番にご紹介しますが、分量が多いため、二回に分けてアップします。先週はちくま学芸文庫と講談社学術文庫について書きした。今回は平凡社ライブラリー、岩波文庫、角川ソフィア文庫、文春学藝ライブラリー、文春ジブリ文庫、河出文庫について取り上げます。

◎平凡社ライブラリー:5点5冊

2013年10月『ボルヘス・エッセイ集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス著、木村榮一編訳、本体1,200円 
2013年11月『向こう岸から』アレクサンドル・ゲルツェン著、長縄光男訳、本体1,400円 
2013年11月『技術への問い』マルティン・ハイデッガー著、関口浩訳、本体1,500円 
2013年12月『美学イデオロギー』ポール・ド・マン著、上野成利訳、本体1,900円 
2013年12月『中国奥地紀行1』イザベラ・バード著、金坂清則訳、本体1,600円 

『ボルヘス・エッセイ集』は、2005年の『エル・アレフ』に続く、木村榮一さん訳の新訳ボルヘス本です。今回は3つのエッセイ集から20篇を選んだオリジナル版となっています。『論議』(1932年)全20篇から4篇、「現実の措定」「物語の技法と魔術」「ホメロスの翻訳」「フロベールと模範的な運命」。『永遠の歴史』(1936年)から序文を除く全10篇のうち1篇、「永遠の歴史」。『続・審問』(1952年)からエピローグを除く全38篇のうち15篇「城壁と書物」「パスカルの球体」「コールリッジの花」「『キホーテ』の部分的魔術」「オスカー・ワイルドについて」「ジョン・ウィルキンズの分析原語」「カフカとその先駆者たち」「書物の信仰について」「キーツの小夜啼き鳥」「ある人から誰でもない人へ」「アレゴリーから小説へ」「バーナード・ショーに関する(に向けての)ノート」「歴史を通してこだまする名前」「時間に関する新たな反駁」「古典について」。なお、『論議』の全訳には牛島信明訳(国書刊行会、2000年)が、『永遠の歴史』は土岐恒二訳(筑摩叢書、1986年;ちくま学芸文庫、2001年)が、『続審問』は中村健二訳(『異端審問』晶文社、1982年;改題、岩波文庫、2009年)があります。ボルヘスは何度新訳が出ても嬉しい作家の一人です。

ゲルツェン『向こう岸から』はライブラリー・オリジナルの新訳。訳者の長縄光男さんはかつてゲルツェンの大著『過去と思索』の改訳ならびに完訳を達成され(全3巻、筑摩書房、1998-1999年)、日本翻訳出版文化賞を受賞されており、昨年のゲルツェン生誕200周年の折には『評伝ゲルツェン』(成文社、2012年)を上梓されています。回想録である『過去と思索』に対し、『向こう岸から』は、トクヴィル『フランス二月革命の日々』(喜安朗訳、岩波文庫、1988年)やマルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』(伊藤新一・北条元一訳、岩波文庫、1954年;植村邦彦訳、太田出版、1996年/平凡社ライブラリー、2008年)と並ぶ、1848年革命論の古典的名著のひとつです。これまでの既訳に、外川継男訳(『向う岸から』、現代思潮新社、1970年;オンデマンド復刊、2008年)や、森宏一訳(「向う岸から」、『ゲルツェン著作選集(2)』所収、同時代社、1985年)があります。

今回の新訳の巻末に付された訳者による「解説」で、長縄さんは「〔トクヴィルの本は〕勝利したブルジョアジー、とりわけ中産的ブルジョアジーの視点から書かれた著作であり、〔マルクスの本は〕敗北したパリの市民・労働者の視点から書かれた著作であるとすれば、ゲルツェンの著作もまた、明確に、敗者の視点から書かれている」と説明されておられます。現代の日本において、とりわけ「3・11」以後の複雑な状況下で『向こう岸から』を読むことは、ある種の戦慄を伴わずにはいられません。革命ではなく、地震と津波、原発事故の複合災害を経験してきた私たちにとって、なぜ『向こう岸から』が胸にこうも刺さるのか。「一見したところ、まだ多くのものがしっかりと立ち、物事は捗っているように見える。判事は裁き、教会は開かれ、取引所は活況を呈している。軍隊は演習を行い、宮中には明かりが煌々と灯っている。――だが、命の息吹は消え、誰の心にも不安がある。死は背後に忍び寄り、そして、本質的には何一つとして捗っていない。本質において、教会もなく、軍隊もなく、政府もなく、裁判所もない。すべてが警察に変わってしまったのだ」(209-210頁)。

ハイデッガー『技術への問い』の親本は2009年刊。ライブラリー化にあたって、科学哲学者の村田純一さんによる解説「技術との自由な関係とは?――福島原子力発電所事故とハイデッガーの技術論」が加えられています。帯文には國分功一郎さんの推薦文が掲げられています。曰く「本書から見えてくるのは、我々がいま直面している危機に他ならない。ハイデッガーを読むとは、すなわち、危機について思考することである」。ハイデッガーはこう書きます。「教養の時代は終わりつつあるが、それは無教養な者が支配権を握ったからではない。問うに値するものがはじめてあらゆる事物と命運とにおける本質的なものへの門をふたたび開く、そのような時代の兆しが明らかになったからなのである」(110頁)。

ド・マン『美学イデオロギー』の親本は2005年刊。先日もご紹介した通り、本年2013年は、ド・マンの没後30年にあたり、岩波の月刊誌「思想」7月号では特集号「ポール・ド・マン――没後三〇年を迎えて」が組まれました。来年は盟友のデリダの没後10年であり、まもなく『エクリチュールと差異』の新訳が法政大学出版局より刊行されます。バード『中国奥地紀行1』の親本は2002年刊の東洋文庫。同文庫と同様に全2巻で刊行されます。同紀行は『日本奥地紀行』『朝鮮奥地紀行』に続く、バードのアジア紀行第3弾にして、彼女の最後の旅行記です。19世紀末の揚子江流域を奥へ奥へと遡行する旅程が、貴重な写真とともに綴られています。読めば分かる通り、大都会である上海はともかく、上流へと遡るほどに旅行というよりは探検並みの苦労をしています。とても60代後半を迎えた老婦人の旅路とは思えません。


◎岩波文庫:2点2冊

2013年11月『ブレイク詩集』寿岳文章訳、本体1,020円
2013年12月『存在と時間(四)』ハイデガー著、熊野純彦訳、本体1,200円

『ブレイク詩集』は弥生書房版『ブレイク詩集』(1968年)や、西村書店版『エルサレムへの道――ブレイク詩文選』(1947年)、酣燈社版『ブレイク詩集』(1950年)、さらに私家版2点とその再刊(『複製 向日庵私版「無染の歌」「無明の歌」』集英社、1990年)などを底本に編まれた一書です。詳しくは文庫編集部による例外的に長い「編集付記」(319頁)をご覧ください。要するにこれまで別々に刊行されてきた本が一冊にまとまり、旧仮名旧字体が新仮名新字体に改まって(一部文語調のものは旧仮名のまま)、読みやすく入手しやすくなった決定版が生まれたと言っていいと思います。

岩波文庫ではこれまで同訳者による『ブレイク抒情詩抄』(1931年)、『改訳 ブレイク抒情詩抄』(1940年)を刊行し、さらに近年では対訳版の「イギリス詩人選」第4巻として、松村正一編『対訳 ブレイク詩集』(2004年)を出版してきました。また、現在も入手可能な文庫版詩集には、土居光知訳『ブレイク詩集』(平凡社ライブラリー、1995年)があります。何と言っても惜しいのは、角川文庫版の寿岳文章訳『無心の歌、有心の歌』(1999年)が長期品切のままなことです。同書はブレイクの原書のオリジナル図版がカラーで収録されており、巻末には中沢新一さんによる解説「はちきれそうな無垢」が置かれています。小さいサイズとはいえ、ブレイクの豊かな色彩感覚を堪能できる貴重な文庫だっただけに、たいへんもったいないです。アマゾン・ジャパンでは同書のなか見!検索で、いくつかの図版を見ることができます。当時で1000円というのは角川文庫では例外的に高い部類だったろうと思いますが、再刊される場合はさらに値段が高くなるのもやむをえないとして、ぜひ紙質を上げて、切らさずに重版し続けてほしいです。

ハイデガー『存在と時間(四)』は、熊野純彦さんによる新訳の完結編です。巻末に訳者あとがきの類いはなく、今まで通り巻頭に「梗概」があるのみ。一見、そっけないように感じるこうしたシンプルさにかえって好感を覚えます。熊野さんは今年は『存在と時間』新訳の完結だけでなく、昨年に続いてカント三批判書の新訳第二弾『実践理性批判』(作品社)を春に上梓されましたし、さらには大著『マルクス資本論の思考』(せりか書房)を秋に出版されました。今年の哲学書売場では、著書に訳書にと熊野さんのご活躍は強く印象付けられました。また、『存在と時間』は今年、熊野さん訳だけでなく高田珠樹訳(作品社)が先月刊行されており、二種類の新訳の出現には本当に驚きました。

岩波文庫恒例の秋の一括重版についても一言触れておこうと思います。重版や復刊で買い直しておきたいのは、そろそろ重版が終わりそうだったり、重版のペースが遅かったりする書目です。デカルト『精神指導の規則』(野田又夫訳)は初版が1950年で、今回の重版書の中ではもっとも古い刊行物です。74年以降は改訳版になっているとはいえ、累計44刷を数えますので、『方法序説』のようにそろそろ新訳が出たとしてもおかしくありません。文庫の本文紙は経年劣化しやすいですから、同じ本を持っていたとしても買い直しておいた方が良いこともあります。今回の重版は同文庫で野田又夫(1910-2004)さんの『哲学の三つの伝統 他十二篇』が今月刊行されたことによるカップリングかと想像しました。1984年に刊行されたものの今回の重版でまだ3刷を数えるのみのカウティリヤ『実利論――古代インドの帝王学』(上下巻、上村勝彦訳)も念のため買っておきます。また、88年に刊行され、今回10刷となるシャンカラ『ウパデーシャ・サーハスリー』(前田専学訳)もインドの古典繋がりで押さえておきます。いずれも名著ですから今後も定期的に重版されるでしょうし、電子書籍にもなるだろうと思いますが、紙媒体ではいつ途切れるか、保証はありません。

さらに古典ものの現代語訳や解説本といった趣向では、岩波現代文庫がここ三カ月連続で注目新刊を出しています。『現代語訳 学問のすすめ』(伊藤正雄訳、本体1,080円、2013年10月)、『現代語訳 徒然草』(嵐山光三郎訳、本体740円、2013年11月)、『岡倉天心『茶の本』を読む』(若松英輔著、本体900円、2013年12月)です。こういう試みは今後も続けてほしいです。


◎角川ソフィア文庫:1点3冊

2013年11月『神曲 地獄篇』ダンテ著、三浦逸雄訳、本体880円
2013年11月『神曲 煉獄篇』ダンテ著、三浦逸雄訳、本体880円
2013年11月『神曲 天国篇』ダンテ著、三浦逸雄訳、本体880円

三浦逸雄訳『神曲』全三巻は、角川文庫より1970年(地獄篇、煉獄篇)と1972年(天国篇)に刊行されたものの再刊です。挿絵はボッティチェリの素描を使用。同作地獄篇を題材にしたダン・ブラウンの最新作『インフェルノ』の刊行に合わせての発売です。各篇巻末には作家によるエッセイが併載されています。地獄篇には島田雅彦さんによる「文字の時限爆弾」、煉獄篇には、訳者の息子である三浦朱門さんによる「父・三浦逸雄とダンテの神曲」、天国篇には中沢新一さんによる「ダンテのトポロジー」が載っています。現在も入手可能な『神曲』三部作の文庫本には、山川丙三郎訳(岩波文庫、1952/1953/1958年)、寿岳文章訳(集英社文庫、2003年)、平川祐弘訳(河出文庫、2008/2008/2009年)があります。入手困難だった三浦訳の再刊によって、四種を読み比べできることになったわけです。

先週、ちくま学芸文庫の空海『秘密曼荼羅十住心論』上下巻を取り上げましたが、文庫で読める空海の現代語訳は、角川ソフィア文庫も出しています。ここ三カ月の新刊ではありませんけれども、7月には『「即身成仏義」「声字実相義」「吽字義」』(加藤精一編)が刊行され、2年前に刊行された『般若心経秘鍵』(加藤精一編)も今年4月に第5版を数えています。また、上記2作と『秘密曼荼羅十住心論』の簡略本『秘蔵宝鑰』、そして空海の青年期の著書『三教指帰』(どちらも加藤純隆・加藤精一訳)、これら角川ソフィア文庫のすべての空海本は今年9月に電子書籍版も発売されています。


◎文春学藝ライブラリー/文春ジブリ文庫/河出文庫:各1点1冊

2013年10月『デフレ不況をいかに克服するか――ケインズ1930年代評論集』ジョン・メイナード・ケインズ著、松川周二編訳、文春学藝ライブラリー、本体1,120円
2013年11月『シネマ・コミック(4)火垂るの墓』野坂昭如原作、高畑勲脚本・監督、文春ジブリ文庫、本体1,570円
2013年10月『生命とリズム』三木成夫著、河出文庫、本体850円

以前も取り上げましたが、今年10月に創刊された文春学藝ライブラリーは、上記のケインズの訳書のほか、内藤湖南『支那論』、文藝春秋編『天才・菊池寛――逸話でつづる作家の素顔』、江藤淳『近代以前』、福田恆存『保守とは何か』浜崎洋介編、の合計5点を創刊時に同時発売し、今月はリチャード・ニクソン『指導者とは』徳岡孝夫訳、磯田道史『近世大名家臣団の社会構造』、保田與重郎『わが萬葉集』片山杜秀解説、山本七平『聖書の常識』佐藤優解説、の4点を刊行しています。ケインズ『デフレ不況をいかに克服するか』は副題の通り1930年代の評論(論文や講演録)16篇をまとめたものです。すべて初訳。失業、不況、財政危機、関税、自給(国内での生産と消費)、人口減少など、今なお続いている問題に対して分析と提言を行っています。

文春ジブリ文庫の「シネマ・コミック」待望の第4弾は『火垂るの墓』。オリジナル新編集で全セリフと全シーンを収録するシリーズで、毎回楽しみにしています。『火垂るの墓』は何回見ても胸が締め付けられる名作。以前、アメリカの著名なアニメ研究家が本作を論じているのを読んで、その薄っぺらい分析に心底失望した記憶が蘇ります。戦勝国には理解できないのだ、とまでは言いたくありませんが、言い知れぬ隔たりを感じました。同文庫では11月に宮崎駿監督のインタヴュー集『風の帰る場所――ナウシカから千尋までの軌跡』を発売し、また今月は文春文庫で大塚ひかりさんによる現代語訳『ひかりナビで読む竹取物語』が刊行されました。言うまでもなく、高畑勲監督の最新作映画「かぐや姫の物語」公開に合わせた出版で、現代語訳はほかにも川端康成訳(河出文庫)が先月、田辺聖子訳(岩波現代文庫)が来月発売。なお、「シネマ・コミック」の第5弾は来月初旬発売予定の『魔女の宅急便』です。キキがデッキブラシで飛ぶシーンは何度見ても鳥肌が立ちます。

河出文庫の今月新刊、三木成夫『生命とリズム』は、今年3月刊の『内臓とこころ』に続く文庫化。親本は『人間生命の誕生』(築地書館、1996年)で、文庫化にあたって「胎児の世界と〈いのちの波〉」(1987年)と「呼吸について」(1985年)の二篇を増補し、巻末に甲野善紀さんによる文庫版解説「生物は環境に適応する」が収録されています。帯文にある「「ツボ」や「おしゃべり」、「朝寝坊」から「イッキ飲み」までを宇宙レベルで説き起こす、「三木生命学」のエッセンス」という宣伝文句が素敵です。

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文庫についての紹介はここまでですが、先週および今週の話題と関連する今月発売の新刊2点について言及しておきたいと思います。まず、中公クラシックスのトゥキュディデス『戦史』ですが、岩波文庫全三巻と同じ久保正彰訳で予告されていたので、全訳全一巻で読めるのではとワクワクしていたところ、『世界の名著(5)ヘロドトス/トゥキュディデス』からのスイッチのため、親本通り、抄訳なのでした。岩波が全訳本の版権を押さえているのでしょうから仕方ありません(私の手元にある最新版は2005年2月の復刊ですが来年2月にも重版されます)。クラシックスでの再刊にあたり、巻頭には桜井万里子さんによる長篇解説「『戦史』の拓く地平」が置かれています。

次に、三木成夫さんの新刊『生命の形態学――地層・記憶・リズム』(うぶすな書院、2013年12月)です。この著作は、もともと現代社の季刊誌「綜合看護」に、77年から79年にかけて全6回が連載されたものです。うぶすな書院さんの既刊書『生命形態の自然誌(I)』(1989年)に全文が、また、『生命形態学序説――根原形象とメタモルフォーゼ』(1992年)に前半3回分が掲載されています。前者は高額本で、後者は全文ではないという理由から、今回の新刊の必要性が出てきたものかと拝察します。B5判上製248頁という大判本ですが、本体2,500円という驚きの安さ。巻頭には谷川俊太郎さんによる序文「変幻するかたち」が置かれ、巻末には発行者の塚本庸夫さんによる「あとがき 編集後記」が配されています。いずれも三木さんへの思いが温かい、素晴らしい文章です。ISBNは978-4-900470-29-3です。ちなみに奥付裏の自社広告には、ヴェサリウスのかの『ファブリカ 第I巻・第II巻』(島崎三郎訳、うぶすな書院、2007年、本体35,000円)が掲載されています。新刊書店での扱いは今や皆無なので削除しそびれたのだろうかと思う半面、ひょっとして、という思いもよぎります。

『生命の形態学』をご紹介する際に、ぜひとももう一冊言及しておかねばならない本があります。新刊ではなく今年9月の既刊書で、クリストファー・アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質――生命の現象』(中埜博監訳、鹿島出版会)です。『生命の形態学』と同様のB5判の大冊。本体9,500円と高額ではあるものの、この版型で490頁の上製本、図版も600点強を収録している訳本ですから、むしろ1万円以内に収まっていることに版元さんの良識を感じます。三木さんの本は生物学や生命論、解剖学の棚で扱われ、アレグザンダーの本は建築学の棚で扱われると思うのですが、ともに「生命とかたちと美」へのアプローチが根底にあって、じつに感動的です。これまでアレグザンダーの主著と言えば『パタン・ランゲージ――環境設計の手引』(平田翰那訳、鹿島出版会、1984年)で決まりでした。おそらくこれからは『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』こそがアレグザンダー理論の集大成だと呼ばねばなりません。

今回訳されたのは『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』4部作の第1巻で、原著は2002年にCenter for Environmental Structureから刊行されています。監訳者による巻末解説によれば、第2巻以降の出版も「可能にしていきたい」とのことで、期待せずにはいられません。「有機、無機にかかわらず、すべての空間やものには一定量の「生命」があり、これらのものや空間はその構造や配置により「生命」を強くすることも弱くすることもある」(4頁)とアレグザンダーは書きます。秩序の本質や本物の美といった、抽象的思考の対象でしかないと思われがちなものに向けられたアレグザンダーの飽くなき視線は、多岐の分野に渡る図版と探求心に溢れた筆致、分析と論証への物怖じしない意志を伴って、読者を未聞の旅へと誘います。本書は建築書売場だけでなく、哲学書の売場で展開しても大いに注目を浴びるのではないでしょうか。このクリスマスに自分へのプレゼントとして何か本を買おうと考えておられる方には本気で本書をお薦めしておきます。世界の見え方が変わるかもしれません。

鹿島出版会さんでは、本書の刊行を記念して、同じ9月にアレグザンダーの既刊書のうち、品切本の再刊がSD選書で果たされています。『オレゴン大学の実験』は4刷出来、91年の単行本『パタンランゲージによる住宅の建築』(中埜博監訳)は『パタン・ランゲージによる住宅の生産』と改題され、SD選書に編入されました。さらに驚くべきことに、古書価が異様に高くてなかなか手を出しにくかった『形の合成に関するノート』(稲葉武司訳、鹿島出版会、1978年)が今月、SD選書で再刊されました。しかも、初期アレグザンダーの有名な概念「セミラチス」の出典であり、古い雑誌でしか読むことのできなかった重要論考「都市はツリーではない」(押野見邦英訳)を併録しての再刊です。巻末の解説は中埜博さんが書かれています。アレグザンダーの新刊や再刊の刊行に合わせて、鹿島出版会さんでは9月に非売品の冊子「SD選書の本」を製作されました。これは単なる選書の目録ではなくて、識者34名によるアンケート「私のSD選書」や、過去の書評の貴重な再録などを含んだ、たいへん読み応えのある冊子です。巻頭グラビアは選書の装丁の変遷の紹介。書店店頭で見かけたらぜひ入手されてください。

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by urag | 2013-12-22 23:04 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 12月 20日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2014年1月27日(金)新規オープン
スタンダードブックストアあべの店:書籍50坪
大阪府大阪市阿倍野区阿倍野筋1‐20‐30 あべのHOOP 6F
大阪屋帳合。弊社へのご発注は芸術書等。取次さんの出品依頼書によれば、「マルノウチリーディングスタイルを運営するリーディングスタイル株式会社の2号店」で、「株式会社鉢の木に業務委託」を行うとのことで、そのために名前がスタンダードブックストアになっているそうです。店舗面積は185坪、うち図書は50坪です。マルノウチリーディングスタイルの構成を踏襲するとすれば、残りの135坪は文具雑貨とカフェで分けるはずです。ポスト「ヴィレッジヴァンガード」的存在である、大人向け複合店「マルノウチリーディングスタイル」には、各地のデベロッパーが注目を寄せているようです。立地条件は今回と異なりますが、たとえば地方の巨大SCへの入店ケースでは、系列のチェーン書店とVVという組み合わせがこれまでは多かったです。今後そうした鉄板にも変化が出てくるのかもしれません。

なお、スタンダードブックッストアは心斎橋に1軒、茶屋町に1軒あって、今度のあべの店は3店舗目になります。オーナーの中川和彦(1961‐)さんはインタヴュー記事「本屋ですがベストセラーはおいてません・・・――心斎橋のスタンダードブックストアに見るリアルなスペースとしての可能性」(「AGROSPACIA」2013年10月26日付)で、「人と人とが出会うことが大事」と仰っていて、共感を覚えます。ちなみに心斎橋店では来たる週末に、中川さんが内沼晋太郎さんとトークイベントを行うとのことです。発売されたばかりですが早くも2刷が決定したという内沼さんの新著『本の逆襲』(朝日出版社)刊行記念で、12月22日(日)12時から。お二人とも「出会わせ」の達人ですから、きっと話が盛り上がるでしょうね。


2014年2月15日(土)増床リニューアルオープン
ジュンク堂書店那覇店:図書1740坪、文具200坪
沖縄県那覇市牧志1-19-29 D-naha(ディーナハ) B1~3F
トーハン帳合。弊社へのご発注はひとまず芸術書数点の補完。株式会社ジュンク堂書店の代表取締役社長である工藤恭孝さんのお名前がある挨拶状によれば、那覇店は2009年より那覇市の複合商業施設「D-naha(ディーナハ)」の1Fから3Fの3フロア1500坪で営業。空き店舗だったB1F(440坪)もこのたび借りることになり、1月下旬から作業開始で書籍売場を240坪増床、1Fには丸善文具200坪を導入とのことです。

沖縄都市モノレール線「美栄橋駅」より徒歩1分の繁華街という立地ですが、上層階は空き店舗が4フロアもあるようで、寂しい感じもします。いっそのこと、4フロアぶちぬきのお化け屋敷にしてみるとか(うるさいか)。「テーマパーク+書店」という組み合わせがあったらな、といつも夢見ています。


一方、閉店情報。青山BC丸ビル店さんが11月24日で閉店。同チェーンの六本木店さんはコミック売場を増やして、イメージが少し変わったとの声を聞きました。

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続きまして注目のフェア情報。

取次の大阪屋さんが手掛けるブックカフェ「マルノウチリーディングスタイル」では今月2日から2014年2月23日までブックフェア「100 characters」を開催。フェアのご担当者Kさんから頂戴した御案内によれば「小説の登場人物を100人取りあげ、その人物の魅力的なセリフとともに商品を陳列」するというものです。book pick orchestraさんの「文庫本葉書」や、紀伊國屋書店新宿本店での「本のまくら」と同様に、商品を隠して販売。とても綺麗な専用カヴァーの表にセリフを印刷し、出典である本に巻いて陳列販売をするというものです。

写真左は、店頭で無料配布されているフェアの小冊子です。セリフとそのセリフを言った登場人物の人名、性別、年齢、職業が印刷されています。「登場人物との予期せぬ一期一会」を楽しんでほしい、という趣旨。写真右は今夏開催していた文庫フェア「voyages――心で旅する100冊の本」の小冊子です。小冊子はこの2点ともオールカラーで、担当のKさんの気合いを感じます。

もうひとつの写真は同店特製のブックカヴァー。上が表で下が裏ですが、お店を自己紹介する素敵なフライヤーにもなっています。

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【2013年12月28日追記】フェアの店頭での様子の写真を追加で掲載します。フェアご担当のKさんによれば、書目によって動きが異なるようで、28日時点では100点のうち2点が一時的に売り切れになっていました。一日平均30冊が売れていくそうで、プレゼントとして買われていくお客様も多いのだとか。なかなかの実績ではないでしょうか。

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by urag | 2013-12-20 17:57 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2013年 12月 16日

2014年1月中旬刊行予定:アガンベン『涜神(とくしん)新装版』

2014年1月15日取次搬入予定 *人文・哲学

涜神(とくしん)新装版
ジョルジョ・アガンベン著 上村忠男・堤康徳訳
月曜社 2014年1月 本体1,800円 B6変判上製144頁 ISBN978-4-86503-011-2

小さな名著、待望の新装復刊!――「宗教としての資本主義はそのもてる力をすべて駆使して、贖罪にではなく罪に向かい、希望にではなく絶望に向かうがゆえに、世界の変形ではなく破壊をめざす。その支配はわたしたちの時代においては全体に及んでいる」(本書より)。資本主義という宗教の土台にある〈神聖を汚すことのできないもの〉を侵犯せよ。権力の諸装置を無力化し、それらが剝奪していた空間を人々の〈共通の使用〉へと返還せよ――来たるべき世代の政治的課題としての瀆神のありようを明かす重要書。

目次:
ゲニウス
魔術と幸福
審判の日
助手たち
パロディ
欲求すること
スペキエース的な存在
身振りとしての作者
瀆神礼賛
映画史上最も美しい六分間
訳者あとがき

原書:Profanazioni, nottetempo, 2005.

本書の造本について:2005年刊の旧版と同じ、新書判より少し横幅がある小ぶりなサイズを踏襲しつつ、本文・表紙・カバーで各々に色の濃度が異なる三種類の白い紙を使用し、「白さ」のグラデーションを追求しました。刷色はシンプルに墨色のみでまとめました。

著者:ジョルジョ・アガンベン(Giorgio AGAMBEN, 1942-)イタリアの哲学者。月曜社より刊行している著書に『アウシュヴィッツの残りのもの』(上村忠男・廣石正和訳、2001年)、『バートルビー』(高桑和巳訳、2005年)、『思考の潜勢力』(高桑和巳訳、2009年)、『到来する共同体』(上村忠男訳、2012年)などがある。

訳者:上村忠男(うえむら・ただお:1941-)思想史家。月曜社より刊行している編訳書に、エンツォ・パーチ『関係主義的現象学への道』(2011年)、スパヴェンタ/クローチェ/ジェンティーレ『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』(2012年)などがある。

訳者:堤康徳(つつみ・やすのり:1958-)イタリア文学研究者。近年の訳書に、ウンベルト・エーコ『バウドリーノ』(上下巻、岩波書店、2010年)、カルロ・ギンズブルグ『裁判官と歴史家』(上村忠男との共訳、平凡社、1992年;ちくま学芸文庫、2012年)などがある。
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by urag | 2013-12-16 16:24 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)
2013年 12月 15日

注目文庫10月~12月:ちくま学芸文庫、講談社学術文庫

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10月から12月のここ3ヶ月間で発売された注目の文庫新刊について版元別にチェックします。取り上げる点数の多い順番にご紹介しますが、分量が多いため、今回はちくま学芸文庫と講談社学術文庫について書きます。次回は平凡社ライブラリー、岩波文庫、角川ソフィア文庫、文春学藝ライブラリー、文春ジブリ文庫、河出文庫について取り上げる予定です。

◎ちくま学芸文庫:8点10冊(上下巻は1点としてカウント)

2013年10月『歴史 上』トゥキュディデス著、小西晴雄訳、本体1,600円
2013年10月『歴史 下』トゥキュディデス著、小西晴雄訳、本体1,500円
2013年10月『空海コレクション3 秘密曼荼羅十住心論〈上〉』福田亮成校訂・訳、本体1,800円
2013年11月『空海コレクション4 秘密曼荼羅十住心論〈下〉』福田亮成校訂・訳、本体1,800円
2013年11月『自発的隷従論』エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ著、西谷修監修・解説、山上浩嗣訳、本体1,200円
2013年11月『幾何学』ルネ・デカルト著、原亨吉訳、本体1,100円
2013年11月『幾何学の基礎をなす仮説について』ベルンハルト・リーマン著、菅原正巳訳、本体1,000円
2013年12月『ノイマン・コレクション 数理物理学の方法』ジョン・フォン・ノイマン著、伊東恵一編訳、新井朝雄・一瀬孝・岡本久・高橋広治・山田道夫訳、本体1,500円
2013年12月『私たちはどう生きるべきか』ピーター・シンガー著、山内友三郎監訳、本体1,500円
2013年12月『自然権と歴史』レオ・シュトラウス著、塚崎智・石崎嘉彦訳、本体1,500円

チェックした点数が最も多かったのはちくま学芸文庫でした。だいたい毎月「これはぜひ」と思う新刊が複数あって、この3ヶ月でも、空海『秘密曼荼羅十住心論』上下巻、トゥキュディデス『歴史』上下巻、そして『ノイマン・コレクション』の開始と、重量級が続きました。『秘密曼荼羅十住心論』は文庫オリジナル。全十巻を、各巻概要、訓み下し文、語釈、現代語訳という構成で読者に提示しています。新たな校訂版が単行本を飛ばしてただちに文庫で読めるというこの贅沢。

『歴史』は、筑摩書房版『世界古典文学全集11』(1971年)の文庫化。「文庫版訳者あとがき」から推察するに、文庫化に際して訳文に手を入れた御様子なので、これが小西さん訳の決定版ということになるのだと思われます。下巻のカバー裏紹介文には「いまなお国際政治学の教科書として参照されている」とありますが、それは特に欧米では大げさではなく本当のことです。一方の訳書である久保正彰訳『戦史』岩波文庫全三巻はたまにしか復刊されない現状でしたが、ありがたいことに今月、中公クラシックスの新刊として全一冊本がまもなく発売となるようです。

『ノイマン・コレクション』は全三巻予定のはずですが、今般の新刊『数理物理学の方法』には、特に巻数はついていませんし、訳者解説でも言及されていませんが、原典となるノイマンの論文全集全6巻から精選されている本なので、やはり続刊はあるものと思います。まあ過去にもフッサール『間主観性の現象学』第一弾には巻数はついていなかったですし。『数理物理学の方法』では量子力学や統計力学など物理学の重要論文四篇(「量子力学の数学的基礎づけ」「量子力学におけるエルゴード定理とH‐定理の証明」「星のランダムな分布から生じる重力場の統計」「最近の乱流理論」)を収めており、すべて本邦初訳です。

上記以外の書目についてざっと見ておきますと、デカルト『幾何学』は白水社の『増補版 デカルト著作集1』所収のものの文庫化で、長文の文庫版解説「デカルト『幾何学』の数学史的意義」(190-225頁)を佐々木力さんがお書きになっておられます。リーマン『幾何学の基礎をなす仮説について』は、良く知られたリーマンの講演録で、ヘルマン・ワイルが序文・解説を寄せています。訳書ではミンコフスキーの講演論文「空間と時間」を併録し、1942年に弘文堂書房の「科学古典叢書」の一冊として刊行されました。のちに版元は清水弘文堂書房と名を変え、1970年に再刊。この版が文庫化の親本となっています。この再刊時の「重版序」によれば改訳は行っていないようです。

シンガー『私たちはどう生きるべきか』は、1999年刊の法律文化社の単行本が親本。文庫化にあたって監訳者の山内さんが「文庫版あとがき」をお書きになっており、その文面から推察する限りでは、校正はされたものの改訳まではされていない御様子です。シュトラウス『自然権と歴史』の親本は1988年に昭和堂より刊行。文庫化にあたって共訳者の石崎さんが新たに解説「レオ・シュトラウスの政治哲学――文庫版訳者あとがきに代えて」をお書きになっておられ、「改めて原文に目を通して、旧版にある程度手を加えた」と明かされています。シンガーもシュトラウスも文庫化は今回初めてで、それぞれ80年代から訳書が出てきた歴史を思うと非常に感慨深いものがあります。

最後に本邦初訳初の単独訳書※となるラ・ボエシ(Étienne de La Boétie, 1530-1563)のDiscours de la servitude volontaireは、著者がわずか16歳もしくは18歳の折に書きあげた論文で、著者はその後、法官となり、またモンテーニュの友としても知られていますが若くして亡くなります。訳者の山上さんはこの論文でまず読書会を行い、その後関西学院大学言語教育研究センターの紀要「言語と文化」に訳・注・解説を連載。今回文庫新刊として世に問うにあたって再度綿密に改訳され、付論としてシモーヌ・ヴェイユ「服従と自由についての省察」、ピエール・クラストル「自由、災難、名づけえぬ存在」(いずれも山上訳)を併載し、さらに監修者の西谷修さんによる解説「不易の書『自発的隷従論』について」を付して出版されました。【※12月16日追記:『自発的隷従』の既訳には以下の二つがあります。ラ・ボエシ「奴隷根性について」関根秀雄訳、『モンテーニュ全集(9)モンテーニュ書簡集』所収、白水社、1983年、257-300頁;ラ・ボエシー「自発的隷従を排す」荒木昭太郎訳、『世界文学大系(74)ルネサンス文学集』所収、筑摩書房、1964年、312-334頁】

なお、東京外国語大学では来たる週末に以下のシンポジウムが行われます。

◎ラウンドテーブル「自発的隷従を撃つ

日時:12月21日(土) 13:30-17:30
場所:東京外国語大学・研究講義棟115教室
※入場無料・予約不要

第Ⅰ部:エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ『自発的隷従論』を読む
 報告と討議=西谷修/真島一郎/土佐弘之(神戸大学)/中山智香子
第Ⅱ部:自発的隷従と日本の現在
 報告と討議=小森陽一(東京大学)/七沢潔(NHK放送文化研究所)/仲里効(批評家)
 司会・進行=西谷修/中山智香子
総合討論
特別企画:「エッジの水底から」朗読=川満信一(詩人)


◎講談社学術文庫:6点6冊

2013年10月『記号論II』ウンベルト・エーコ著、池上嘉彦訳、本体1,350円
2013年10月『ウィトゲンシュタインの講義――ケンブリッジ1932-1935年』アリス・アンブローズ編、野矢茂樹訳、本体1,500円
2013年11月『吉田松陰著作選――留魂録・幽囚録・回顧録』奈良本辰也著、本体1,300円
2013年11月『役人の生理学』オノレ・ド・バルザック著、鹿島茂訳、840円
2013年12月『斜線――方法としての対角線の科学』ロジェ・カイヨワ著、中原好文訳、本体880円
2013年12月『岩波茂雄と出版文化――近代日本の教養主義』村上一郎著、竹内洋解説、本体720円

エーコ『記号論』は岩波書店の親本通り2分冊で、第I巻は9月、第II巻は10月に刊行。「「学術文庫」版のためのあとがき」によれば、「訂正、補筆をその妥当性が間違いないと判断できる限りにおいて、翻訳者の責任において取り込」んだとのことです。『ウィトゲンシュタインの講義――ケンブリッジ1932-1935年』の親本は、1991年に勁草書房より刊行。「文庫版あとがき」によれば、「誤訳を含め、いくつもの間違いを訂正」したとのことです。ちなみに親本は『ウィトゲンシュタインの講義II』としてまだ在庫があります。『ウィトゲンシュタインの講義I――ケンブリッジ1930-1932年』(D・リー編、山田友幸・千葉恵訳、勁草書房、1996年)は第II巻のあとに刊行され、訳者も異なるので、文庫化されるかどうかは不明です。なお、光文社古典新訳文庫の丘沢静也訳『論理哲学論考』はいよいよ来月(2014年1月)刊行となるようです。

『吉田松陰著作選――留魂録・幽囚録・回顧録』の親本は、1969年に刊行された筑摩書房版『日本の思想(19)吉田松陰集』です。ただし文庫化にあたり「講孟余話(抄)」は割愛されています。巻頭に解説「松陰の人と思想」を置き、松陰の著作は、原文と現代語訳で構成され、適宜「語釈」を挟みます。収録作品は「留魂録」「要駕策主意」「幽囚録」「対策一道・愚論・続愚論」「回顧録」「急務四条」「書簡」です。「書簡」は17通で、語釈のみ。なお、講談社学術文庫では既刊書に、古川薫全訳注『吉田松陰 留魂録』、近藤啓吾全訳注『講孟箚記』巻があります。『講孟余話』(『講孟箚記』を後年改題)は周知の通り、獄中の松陰が囚人を相手に孟子を講義したものが元になっています。

バルザック『役人の生理学』は、新評論版単行本(1987年)、ちくま文庫(1997年)を経ての再文庫化です。巻頭に訳者による「学術文庫版まえがき」が置かれており、続いて『役人の生理学』、そして付録として「役人文学アンソロジー」と題した三篇、バルザック『役人』(概要と抜粋)、フロベール『博物学の一講義・書記属』、モーパッサン『役人』が収録されています。『役人の生理学』の刊行は1841年で、170年以上前の話なのですが、描写されるメンタリティたるや、恐ろしいまでに「現代的」です。つまり、科学や技術がどんなに発展発達しようと、人間の中身は変わっていないということなのですね。先ほど言及したトゥキュディデス『歴史』で描かれる激しい争いの渦中にある人々を思う時、200年どころか、2000年経っても、人間のさがは相変わらず進歩していないとすら言えそうです。

付録のバルザックの『役人』は、ラブルダンという真面目な役人に仮託して行政改革プランを披露した作品だそうで、長篇小説のため今回は概要と抜粋を収めています。フロベールの作品は彼が若干15歳の折に書いた戯文とのこと。帯文にある「役人とは生きるために俸給を必要とし、自分の職場を離れる自由を持たず、書類作り以外になんの能力もない人間」という一文は、『役人の生理学』冒頭の第一章「定義」に出てくる言葉です。時として爆笑を誘いつつもまったく笑えないという恐ろしい本です。

カイヨワ『斜線』は、1978年に思索社より刊行され単行本の文庫化。訳者はすでに8年前にお亡くなりになっているため、奥付前の注記には「編集部で注を追加した」と書かれています。講談社学術文庫ではかつてカイヨワの『遊びと人間』(多田道太郎・塚崎幹夫訳、1990年)を刊行しているとはいえ、約四半世紀ぶりの文庫新刊で驚きを禁じえません。思索社(現在は新思索社)さんではかつて『斜線』のほかに『反対称』『イメージと人間』『メドゥーサと仲間たち』『本能』などのカイヨワ作品を刊行されていましたが、現在はいずれも版元品切のようです。カイヨワ独特の「対角線の科学」は『斜線』のほかに『反対称』『イメージと人間』などが数えられ、そのものずばりの「対角線の科学」という題名をもつエッセイも『メドゥーサと仲間たち』に収録されてきましたから、一連のシリーズとしてこの先も文庫化が続くことを願ってやみません。

村上一郎『岩波茂雄と出版文化』は、村上一郎著『岩波茂雄――成らざりしカルテと若干の付箋』(砂子屋書房、1979年刊)の文庫化で、新たに竹内洋さんによる「学術文庫版イントロ 村上一郎と『岩波茂雄』」と「解説 岩波茂雄・岩波文化・教養主義」が追加されています。奥付前の注記によれば、「新たに編集部でルビと注を追加し、一部表記をあらためました」とのことです。村上さんの岩波茂雄論は没後に原稿が見つかったもので、未刊に終わったアンソロジー『明治大正出版社史』に寄稿するために執筆されたものだったそうです。本書がなぜ今、講談社から出るのか、という理由についてははっきり書かれてはいませんが、竹内さんが村上さんの著作の中でもっとも愛する作品だからということと、本書の中に岩波文化vs講談社文化のくだりがあるから、というあたりが理由のひとつとしてありそうです。親本がもう手に入らないということや、出版文化の変容(電子書籍やウェブ文化の発達)のさなかで旧文化の象徴(これは決して悪い意味ではなく)を振り返っておく重要性も、理由に挙がると思います。いずれにせよ作品としては非常に珍しいタイプの文庫本で、単行本にも新書にもなりにくいゆえに文庫になってくれたのかもしれません。

講談社学術文庫ではこのほかにも、10月には中村元『往生要集を読む』(旧題『往生要集』岩波文庫、1983年;同時代ライブラリー、1996年)や、パット・バー『イザベラ・バード――旅に生きた英国夫人』(小野崎晶裕訳;親本『ある女性の奇妙な人生――異色な旅行家イザベラ・バードの物語 』上下巻、赤札堂、2006-2007年)、11月には「日米安保条約」を新たに収録して再刊された学術文庫編集部編『日本国憲法 新装版』、12月には小此木啓吾さんと河合隼雄さんの対話編『フロイトとユング』(思索社、1978年;レグルス文庫、1989年)、野家啓一『科学の解釈学』(新曜社、1993年;増補版、ちくま学芸文庫、2007年)、舟田詠子『パンの文化史』(朝日新聞社、1998年)など印象的な新刊が続きました。
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by urag | 2013-12-15 23:38 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(4)
2013年 12月 13日

本日取次搬入:ヘーゲル『論理の学(III)概念論』、全三巻完結

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ヘーゲル 論理の学(3) 概念論
ヘーゲル著 山口祐弘訳
作品社 2012年12月 本体6,200円 A5判上製函入 ISBN 978-4-86182-410-4

帯文より:苦痛は生き物の特権である。思惟を思惟自体に基礎づける純粋学としての存在の形而上学。自由な自我に概念の現存を見、概念の内在的運動=弁証法により認識と実践、真と善を統一する絶対理念に導く近代哲学の最高峰。

★本日12月13日(金)取次搬入。書店店頭での発売は週明け以降順次開始となると思われます。半世紀ぶりのヘーゲル大論理学の新訳、全三巻完結です。第一巻「存在論」が昨年12月発売、第二巻「本質論」が今年5月発売ですから、一年間のうちで全巻が出そろったことになり、新訳刊行のペースとしてはたいへん順調でした。待ちわびていた読者にとっては嬉しいニュースではないでしょうか。『大論理学 Wissenschaft der Logik』は戦後、岩波版ヘーゲル全集での武市健人訳(全三巻四分冊)と、寺沢恒信訳の以文社版全三巻とがありました。ヘーゲルの主著であるものの、岩波版全集は常に在庫がある状態ではない上、一方の寺沢訳も完結まで20年以上要しましたから、書店店頭で両者がともに全巻揃っているのを見たことがある方はさほど多くないかもしれません。また、『精神現象学』とともにもっとも難解な書とされてきましたから、新訳の登場はさらに望みにくいものでした。そんなわけで新訳の完結を目の当たりにするというのはめったにない機会なのです。

★堅実な訳業に美麗な造本、そして低く抑えられた定価。この三つの魅力を兼ね備えることは簡単なことではまったくありません。山口先生と編集担当のTさん、そして作品社社長のWさんに心からの尊敬の念を抱く次第です。帯文にある「苦痛は生き物の特権である」という印象的な一節は「概念論」の第三部「理念」の第一章「生命」の中の、「生命過程」の一節です。人間は矛盾や否定性を自分のうちに抱えて生きています。それは苦痛ではありますが、同時に、自分自身を乗り越えていく力でもあるわけです。社会を取り巻く様々な問題が帯びる脆弱性や不完全性、不安定性によって人間存在の基盤が揺るがされているこんにち、ヘーゲル哲学は強くあれ、賢くあれ、と私たちを励ましてくれている気がします。
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by urag | 2013-12-13 15:46 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 12月 12日

内沼晋太郎『本の逆襲』が面白い

昨日発売になった内沼晋太郎さんの新著『本の逆襲』(朝日出版社)ですが、出版業界への示唆に満ちていて非常に興味深いです(特に第3章「これからの本のための10の考え方」)。おそらく内沼さんの提起している問題は業界人にとって既知のものではありますが、ではなぜ業界人は分かっていながら実現できないのか(あるいはなぜ実現できていないように世間には見えてしまうのか)。内沼さんは既知や周知のことを自明の前提としないで、自分の実践と実感をたよりに手探りで問い直し、「本と人」を再び出会わせる仕事を彼自身の喜びへと転換してきました。そして彼の喜びは出会う人の喜びともなりました。それは紛れもなく彼の実績です。昨日のB&Bでの内沼さんと仲俣暁生さんと私のトークイベントを終え、鼎談したお二人に送った私のメールが、『本の逆襲』特設サイト公開されています。この特設サイトに本書を読んだ皆さんの感想をどしどし寄せてもらって、活発な議論になればいいですね。それにしても『本の逆襲』は、税込987円で実にお値打ち価格。皆さんはもう読まれましたか?

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by urag | 2013-12-12 19:05 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 12月 10日

本日搬入:ド・マン未完の遺作『美学イデオロギー』平凡社ライブラリー、ほか

弊社出版物の著者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

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★ポール・ド・マンさん(著書:『盲目と洞察』)
2005年1月に平凡社さんより刊行された未完の遺作の訳書『美学イデオロギー』が、待望のライブラリー化です。本日10日(火)取次搬入。明日11日もしくは12日以降、順次店頭発売開始となると思われます。再刊にあたり、「初版に散見された若干の瑕疵を修正するとともに、註で挙げた邦訳文献のいくつかについて最新の書誌情報を補足した」と「平凡社ライブラリー版 訳者あとがき」に特記されています。ド・マンの没後30年にあたる本年(2013年)、品切だった本作がライブラリー化されることで、既訳書は一通りすべて再度入手可能になりました。

美学イデオロギー 
ポール・ド・マン著 上野成利訳
平凡社ライブラリー 2013年12月 本体1,900円 HL判並製518頁 ISBN978-4-582-76801-5

帯文より:没後30年、ド・マン再評価。脱構築批評の到達点と可能性、〈デリダ以後〉の理論的地平を拓く。

カバー裏紹介文より:〈物質的な書き込み〉で構成された〈出来事〉、すなわちテクスト。ここにレトリックによって美的・詩的な粉飾・汚損をしていくのが〈美学イデオロギー〉である。カントやヘーゲル等の哲学的著作を分析対象に、〈美的なもの〉と〈政治的なもの〉が絡みあう近代思想の起源と系譜に鋭く切り込み、テクスト分析に革新をもたらした畢生の大作。

版元紹介文より:デリダの衣鉢を継いでテクストの脱構築を徹底的に推し進めたド・マン。カントやヘーゲル等を分析対象に〈美的なもの〉と〈政治的なもの〉の起源と系譜に鋭く切り込んだ幻の主著。

原書:Aesthetic Ideology, University of Minnesota Press, 1996.

目次:
編者序論――指示作用のアレゴリー(アンジェイ・ウォーミンスキー)
メタファーの認識論
パスカルの説得的アレゴリー
カントにおける現象性と物質性
ヘーゲルの『美学』における記号と象徴
ヘーゲルの崇高論
カントの唯物論
カントとシラー
アイロニーの概念
レイモンド・ゴイスに答える

訳者あとがき
平凡社ライブラリー版 訳者あとがき
索引


★ヒロ・ヒライさん(編著書:『ミクロコスモス 第一集』)
東京大学出版会さんの月刊PR誌「UP」で9月号から連載されていた「跳躍するインテレクチュアル・ヒストリー」の最終回(全4回)を飾って、12月号に、ヒライさんのエッセイ「インテレクチュアル・ヒストリーとはなんですか?」が掲載されました。

◎「UP」連載「跳躍するインテレクチュアル・ヒストリー」全4回
1)平岡隆二「幻の「南蛮」写本を追え――科学伝来とキリシタン禁制」(「UP」2013年9月号、東京大学出版会、23-30頁;冒頭22-23頁に、連載監修者ヒロ・ヒライによる序文「リレー連載をはじめるにあたって」を掲載)
2)榎本恵美子「カルダーノ『わが人生の書』を読み解く」(「UP」2013年10月号、東京大学出版会、45-50頁)
3)菊地原洋平「パラケルススと魔術的ルネサンス」(「UP」2013年11月号、東京大学出版会、24-29頁)
4)ヒロ・ヒライ「インテレクチュアル・ヒストリーとはなんですか?」(「UP」2013年12月号、東京大学出版会、7-11頁)

連載第1回を担当された平岡隆二(1974-)さんは弊社刊『ミクロコスモス 第一集』では、ご論考「画家コペルニクスと「宇宙のシンメトリア」の概念――ルネサンスの芸術理論と宇宙論のはざまで」を寄稿されています。また今春、花書院さんのシリーズ「比較社会文化叢書」からデビュー作を刊行されています。

南蛮系宇宙論の原典的研究
平岡隆二著
花書院 2013年3月 本体2,381円 A5判並製326頁 ISBN978-4-905324-48-5

連載第2回を担当された榎本恵美子さんは今夏、勁草書房さんの新シリーズ「bibliotheca hermetica叢書」(ヒロ・ヒライ監修)から御高著『天才カルダーノの肖像――ルネサンスの自叙伝、占星術、夢解釈』を上梓されています。

天才カルダーノの肖像――ルネサンスの自叙伝、占星術、夢解釈
榎本恵美子著 ヒロ・ヒライ編集 坂本邦暢解説
勁草書房 2013年7月 本体5,300円 A5判上製312頁 ISBN978-4-326-14826-4

連載第3回を担当された菊地原洋平さんは弊社刊『ミクロコスモス 第一集』では、ご論考「記号の詩学――パラケルススの「徴」の理論」を寄稿され、第一回ミクロコスモス大賞を受賞されています。また今月まもなく、勁草書房さんの「bibliotheca hermetica叢書」第二弾として、デビュー作を刊行されます。

パラケルススと魔術的ルネサンス
菊地原洋平著 ヒロ・ヒライ編集
勁草書房 2013年12月 本体5,000円 A5判上製336頁 ISBN978-4-326-14827-1

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by urag | 2013-12-10 15:11 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)