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2013年 11月 24日

注目新刊:高田珠樹訳『存在と時間』全一巻(作品社)、ほか

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存在と時間
マルティン・ハイデガー著 高田珠樹(たかだ・たまき:1954-)訳
作品社 2013年11月 本体6,800円 A5判上製760頁 ISBN978-4-86182-454-8

帯文より:世界=内=存在の本来的な在り方――。存在の意味を問い直し、固有の可能性としての死に先駆けることで、良心と歴史に添った本来的な生を提示する西欧哲学の金字塔。傾倒40年、熟成の訳業。附:用語・訳語解説、詳細事項索引。

★発売済。ここ最近で話題になったハイデガーの新訳と言えば、熊野純彦(1958-)さんによる『存在と時間』(全四巻、岩波文庫)で、今春第一巻が刊行され、第四巻が来月(2013年12月17日)にいよいよ発売になります。そんな最中に、かねてから新訳が準備されていた高田珠樹訳『存在と時間』全一巻が作品社よりついに発売になりました。以前も書きましたが、20世紀の哲学書を代表する『存在と時間』の新訳本が一年のうちに二点も出版されるというのは、めったに起こりえないことです。かつて90年代前半に、シュレーバーの『回想録』が筑摩書房と平凡社で、また、バハオーフェンの『母権論』がみすず書房と白水社で立て続けに刊行された時、いずれも歴史的古典でありなおかつ大著で翻訳が容易ではなかったために、読書界は大いに震撼したものでした。あれからしばらく、似たような衝撃はなかなかありませんでした(以前、ホッブズの新訳本の紹介記事でもそう書きました)が、ついにその時が来たようです。

★高田さんはこれまでスローターダイクや岩波のフロイト新訳全集の翻訳に関わられているほか、90年代の講談社の輝かしい成果である「現代思想の冒険者たち」シリーズの第8巻『ハイデガー――存在の歴史』(講談社、1996年)を書き下ろされ、青土社の「現代思想ガイドブック」シリーズでは、ティモシー・クラークの『マルティン・ハイデガー』(青土社、2006年)の翻訳を担当されました。さらに、ハイデガーの訳書をこれまでに2冊上梓されています。手塚富雄さんとの会談に発する『言葉についての対話――日本人と問う人とのあいだの』(平凡社ライブラリー、2000年)や、「ナトルプ報告」として有名な『アリストテレスの現象学的解釈――『存在と時間』への道』(平凡社、2008年)です。こうした実績を見ると、高田さんがさらにもう一冊、ハイデガーの新訳を手掛けられることはまったく不思議ではないのですが、それでも『存在と時間』は難解で知られる大著ですから、この高峰に挑むことは容易ではなかったはずです。翻訳に至るいきさつや動機は今回の新訳の「訳者あとがき」に詳しく書かれています。

★今回の新訳の底本は、1967年のニーマイヤー社第11版です。1935年の同社第4版、1977年のクロスターマン全集版第1版、1979年のニーマイヤー社第15版を随時参照し、これらの諸版との異同について、巻末の「校異と訳注」にまとめておられます。訳文の下段には、ニーマイヤー社の現行版の頁数が記載されています。熊野さんの新訳との違いですが、高田さんご本人は「訳者あとがき」でこう記しておられます。「熊野氏の翻訳は、私の訳文の作成と見直しの仕事が一段落し、翻訳の原稿を出版社に渡して、初校を待っていたときに出始めたもので、さすがにこの期に及んで読み比べるわけにもいかなかったが、ほぼ同じ時期に出るとあって、全く意識しないということはない。〔・・・〕いくつかの点で自分なりの新味と考えていたものが熊野氏の訳でも行われていて多少、先を越されたという気もしたが、同じ時期に作られ、またすでに先訳がいくつもある中で、いくらか共通したところが出てくるのはむしろ当然なのかもしれない。ただ、基本的には、私のものとはかなり違った訳文のスタイルであると感じた」(683頁)。

★おそらく読者の印象というのは、初めて読んだ訳書のインパクトが往々にして一番強いものなので、もしまだ『存在と時間』を通しで読んだことがない、という方は、現在流通している訳本を一通り買い、できればドイツ語原書も入手して、読み比べてみると良いかもしれません。熊野訳『存在と時間』は第四巻刊行時にセットケース入り全四巻が発売されるようなので、まずは高田訳と熊野訳、そしてさらにお金の余裕のある方は、細谷訳(ちくま学芸文庫、全二巻)、原・渡邊訳(中公クラシックス、全三巻)、辻村訳(創文社版ハイデッガー全集、全一巻)をご購入されれば、流通している訳書は揃えたことになります。存外に重要なポイントをお伝えしておくと、老眼が始まりつつある中年層や御高齢の方には、まず高田訳をお薦めします。A5判の単行本なので、その半分の大きさである文庫本ほど文字が小さくありませんし、他の訳書と違って分冊の煩わしさがなく、この一冊で通読できます。さらに、用語解説や事項索引を完備しているため、全一巻としては申し分のないスタンダードな作りです。原書も全一巻ですから、この姿が最適とは言えます(創文社全集版も全一巻なのですが、活字が作品社版よりだいぶ小さいのでご注意)。ただしその大きさゆえ、持ち運び向きではなく、書斎での読書向きです。菊地信義さんによる美麗な装丁は、書斎でひときわ輝くだろうと思います。

★最後に、高田訳で『存在と時間』の冒頭、序論第一章第一節の最初の部分を読んでみたいと思います。「私たちの時代は「形而上学」をふたたび肯定することを進歩のひとつに数えている。それなのに、右に掲げた問いは今日では忘れられている。「存在〔ウーシア〕をめぐる巨人たちの戦い」を新たに焚きつける努力など自分たちのあずかり知らぬところと高をくくっている。だが、ここに挙げた問いは、どこにでもある類いの問いではない。プラトンとアリストテレスは、その問いをめぐる探求で息をつく暇すらなかった。もっとも、この問いは、その後、実際の考察の主題的な問いとしてはふっつり口をつくんでしまう。ふたりが得たものは、たびかさなる変移や「上塗り」を経てヘーゲルの『論理学』の中にまでついえることなく続いている。断片的で荒削りであったとはいえ、かつて研ぎ澄まされた思考の中で現象からもぎ取られたものが陳腐と化して久しい」(2頁)。


伴侶種宣言――犬と人の「重要な他者性」
ダナ・ハラウェイ(Donna Haraway, 1944-)著 永野文香訳 波戸岡景太解説
以文社 2013年11月 本体2,400円 四六判上製184頁 ISBN978-4-7531-0317-1

帯文より:関係性という物語――。セクシュアリティや種の違いのみならず、サイボーグのように生命と非生命の違いすら乗り越えて共に寄り添う〈重要な他者〉としての伴侶種。その伴侶としての犬との関係性を描いて、現代思想・科学論・フェミニズムの第一人者が、「人間主義」を超える新しい思想を凝縮したマニフェスト。

★発売済。原書は、The Companion Species Manifesto: Dogs, People, and Significant Otherness(Prickly Paradigm, 2003)です。目次詳細は、書名のリンク先をご覧ください。ハラウェイはかつて「サイボーグ宣言」(『増補版 サイボーグ・フェミニズム』水声社や『猿と女とサイボーグ』青土社に所収)を通じて、人間と非人間(異種)との共棲や共進化について考察してきました。その延長線上に本書『伴侶種宣言(コンパニオン・スピーシーズ・マニフェスト』があります。ハラウェイによれば本書は「私的文書であり、あまりに多くの未知領域への学術的侵略であり、グローバル戦争の瀬戸際に立たされた世界で希望をつなぐ政治的行為であり、原理上、永久に進行中の作品」(7頁)です。「犬嫌いのかたであっても、わたしたちが暮らしていく諸世界にとって問題=物質〔matter〕となる議論や物語をきっと見出してくれることだろう」(同)と彼女は述べています。今春訳書が出た『犬と人が出会うとき――異種協働のポリティクス』(高橋さきの訳、青土社、2013年4月;When Species Meet, University of Minnesota Press, 2008)は、本書の5年後に刊行されたもので、本書の議論を引き継ぐものです。なお、1989年の著書『霊長類的ヴィジョン Primate Visions』の日本語訳が以文社より刊行予定とのことです。


彗星的思考――アンダーグラウンド群衆史
平井玄著
平凡社 2013年11月 本体2,400円 四六判並製269頁 ISBN978-4-582-70298-9

帯文より:もやもやを生き抜くための思想と、死なない技術。「惑星の引力圏で罠に落ちなかったものだけが、生き延びるのだ」(オーギュスト・ブランキ)。
推薦文:「本書の書き手である路上の身体は、つねに触診し、想起しつつ思考する。〈未来〉というモンスターにおのれを開き、未聞の集団性を夢見ながら」(鵜飼哲)。「敬愛する玄さん、こんな面倒くさいオヤジがぶつぶつ言っているうちはまだ間に合う。2011年の割れ目から、いいも悪いもひっくるめた蜂起(スーダラ)を呼びかける絶望と希望の書。ココロして読み飛ばしまくれ!」(大友良英)。

目次:
序 「半径一キロ」からの「惑星蜂起」
群衆科学――彗星のクロニクル
野次馬と「ええじゃないか」
竹内好と谷川雁、そして平岡正明
群衆の惑星
彗星的思考
後書 愚か者から愚か者へ

★まもなく発売。2009年から2013年にかけて各紙誌やアンソロジーに書かれたものをまとめなおして加筆した一冊です。予告では『「愚か者」の政治学』と題されていましたが、いみじくもアイソン彗星が夜明けにかすかにたなびくこの季節に『彗星的思考』という美しい書名を得て書棚を飾ることになります。かつてコスタス・アクセロス『遊星的思考へ』(高橋允昭訳、白水社、1975年;新装版、白水社、2002年)という本があって、マルクスとハイデガーの思考を交差させたユニークな成果でした。本書ではマルクスの先行者やマルクスを継ぐ者たちの思想と、311以後の現代日本の路上から見た様々な光景が交差しています。いや、実際のところマルクスの名が教条主義的に召喚されることはなく、錦の御旗でもなく、ただ相変わらず百年以上も資本主義社会の奴隷であり続ける現代人の愚かさを過去から照射する光源として、様々な思想家や活動家、作家、アーティストの言葉が路上にともされます。言葉ありきの思想ではなく、路上ありきの思索です。「愚か者から愚か者への贈りもの」――平井さんは本書をそう表現しています。

★平凡社さんでは今月も実に多彩な出版物を刊行されています。奥山明日香『生きられた家をつむぐ』は、多木浩二さんの名著『生きられた家』(田畑書店、1976年;改訂版『生きられた家――経験と象徴』、青土社、1984年;新版、青土社、1993年;新装版、青土社、2000年;岩波現代文庫、2001年;オンデマンド版、青土社、2012年)からの引用と、奥山さんがかつて住んでいたシェアハウス、通称「外人ハウス」を撮影した写真と奥山さんのコメントによって構成されています。言葉も写真もすべて味わい深く、読んでいる自分もまた、自身の住まいについて改めて観察し記録したくなる衝動に駆られます。とても素敵な本です。

★100%ORANGE『SUNAO SUNAO 3』は、平凡社さんのウェブコンテンツ「ウェブ平凡」での連載(2011年6月~2013年9月までの23回分)をまとめたもの。現実とも夢とも知れぬ世界に暮らすスナオ君の日常をシンプルに描いています。自由なイマジネーションとユーモアに溢れた筆致の中にもそこはかとなく「怖い」空気が漂い、物語は行き場を求めることなくほどけていきます。周知の通り、100%ORANGEは、及川賢治さんと竹内繭子さんによるユニット。『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』(岩崎書店、2007年)で第13回日本絵本大賞を受賞されています。なお、『SUNAO SUNAO 3』の刊行を記念して、青山BC本店では11月19日から12月27日まで「SUNAO SUNAO大原画展」が開催されており、12月7日(土)には、100%ORANGEと辛酸なめ子さんによるトークイベント&サイン会が予定されています。

★このほかにも、昭和30年代から50年代にかけてのレトロフューチャーを満喫できる、大橋博之編著『少年少女昭和SF美術館――表紙でみるジュヴナイルSFの世界』や、ヴィデオアーティストのナムジュン・パイク(1932-2006)のパートナーである久保田成子さんによる希少な証言ドキュメント『私の愛、ナムジュン・パイク』などがありますが、中でも特記しておきたいのは、まもなく発売となる『インターメディアテク――東京大学学術標本コレクション』です。東京駅前のKITTEに隣接するJPタワー(旧東京中央郵便局)内に今春開館し、好評を博している「インターメディアテク」(入場無料)の図録本で、展示されている学術標本数百点をオールカラーで掲載した、たいへん魅力的な本です。一点ずつをじっくり眺めているだけで、色んなインスピレーションが湧いてきます。標本すべてを現地で鑑賞し堪能するにはそれなりの時間がかかるので、訪問した方は必ずもう一度訪れたいと思うものですが、本書を購入すれば「インターメディアテク」がいっそう恋しくなることは間違いありません。早くも版元一時品切だそうで、これだけお買い得な値段であれば、発売早々の品薄も納得できます。マストバイの図録です。

インターメディアテク――東京大学学術標本コレクション
西野嘉章編
平凡社 2013年11月 本体1,800円 A5変型判並製400頁 ISBN978-4-582-28446-1

帯文より:驚異の部屋(ヴンダーカンマー)へようこそ――明治10年の創学以来、東京大学が蒐集してきた膨大な学術標本。時空を超え、東京丸の内に蘇った美しくも奇怪なモノたち。

★なお、インターメディアテクの企画展示スペース「モデュール」では、来春にかけて「驚異の部屋――京都大学ヴァージョン」東京展が開催されています。これは京都大学総合博物館の所蔵する学術標本コレクションのなかから、旧制第三高等学校の遺産を中心とする歴史的な標本約50点を選び出して公開するもの。見逃せません。


武士道の名著――日本人の精神史
山本博文著
中公新書 2013年11月 本体760円 新書判並製216頁 ISBN978-4-12-102243-1

帯文より:現代のサムライたちへ。宮本武蔵、山本常朝から吉田松陰、新渡戸稲造まで。12冊の名著でたどるサムライの精神史。

カバーソデ紹介文より:武士道とは何か。武士はいかに生き、死すべきなのか――。戦乱の世が生み出した軍学書『甲陽軍鑑』『五輪書』から、泰平の時代の倫理書『山鹿語類』『葉隠』へ。そして、幕末維新期の吉田松陰、西郷隆盛へと連なるサムライの思想水脈を経て、武士道を世界に知らしめた新渡戸稲造まで。日本人必読の名著12冊で知る、高潔にして強靭な武士の倫理と美学。章末には、各書から選りすぐった人生指南の「名言」を付す。

目次:
総論 武士道、その精神と系譜
著作解説
(1)小幡景憲『甲陽軍鑑』江戸時代初期――軍学第一の書
(2)柳生宗矩『兵法家伝書』寛永九年(1632)――柳生新陰流の奥義
(3)宮本武蔵『五輪書』寛永二十年(1643)――必勝の思想
(4)山鹿素行『山鹿語録』寛文五年(1665)――武士の職分とは何か
(5)堀部武庸『堀部武庸筆記』元禄十五年(1702)――武士の一分を貫く
(6)山本常朝『葉隠』宝永七年~享保元年(1710-16)――「死狂い」の美学
(7)新井白石『折りたく柴の記』享保元年(1716)――古武士の風格
(8)恩田木工『日暮硯』宝暦十一年(1761)――為政者の理想の姿
(9)佐藤一斎『言志四録』文政七年~嘉永六年(1824-53)――朱子学と陽明学の合体
(10)吉田松陰『留魂録』安政六年(1859)――至誠にして動かざる者なし
(11)西郷隆盛『西郷南洲遺訓』明治二十三年(1890)――義に生きる
(12)新渡戸稲造『武士道』明治三十三年(1900)――理想の日本人像
参考文献

★発売済。中公新書では今春、野中郁次郎編著『戦略論の名著――孫子、マキアヴェリから現代まで』が発売されて話題になりましたが、先の見通し難い現代において、やみくもに突進するのではなくどういうスタンスを取るのか、ということが仕事においても生活においてもますます重要になっています。世間にはそうしたハウツー系自己啓発本が溢れかえっているわけで、そうした中から本物の智慧と呼ぶにふさわしい本を見つけるのは至難の業です。そういう時こそ、歴史の荒波にたえてきた古典に立ち戻ることが重要なわけで、その意味で『戦略論の名著』が有益なガイドブックの役割を果たしたのでした。今回刊行された『武士道の名著』は日本人のメンタリティに即した歴史的名著を取り上げており、『戦略論~』よりいっそう親しみやすいかもしれません。本書が紹介する12冊すべてを現代語訳や注釈書などですでに読み込んでいる、という読者は実際そう多くないでしょうから、この一冊でビジネスマン必読の名著のとっかかりを得ることができるというのは実に有益です。生きざま、死にざまを学ぶことができます。


ビジュアル版 自然の楽園――美しい世界の国立公園大図鑑
アンジェラ・S・イルドス/ジョルジオ・G・バルデッリ編 藤原多伽夫訳
東洋書林 2013年11月 本体12,000円 A4判上製320頁 ISBN978-4-88721-815-4

版元紹介文より:世界6地域、52の国立公園をフルカラー写真650点で巡る。息を呑む地球の魅惑を余すことなく伝える一冊。公園の来歴や生態系等、基礎情報も充実。

★発売済。原書は、The Great National Parks of the World(2001/2009, White Star)です。ヨーロッパ、アフリカ、アジア・中東、オセアニア、北アメリカ、中央・南アメリカといった六つのエリアに分けて代表的な国立公園をカラー写真で紹介する図鑑です。雄大な自然とともに公園内の動植物も数多く紹介されています。詳細目次はこちらをご覧ください。日本からは、上信越国立公園がエントリー。主に雪山に遊ぶニホンザルが大きくフィーチャーされています。イルドスもバルデッリもともに日経の「ナショナルジオグラフィック・キューブブック」で『動物の親子』や『野生動物』をこれまでに手掛けていますから、動物好きの方は著者たちの名前に見覚えがあるかもしれません。

★作家と学者のおふた方が推薦文を寄せられています。池澤夏樹さん曰く「大富豪になってこの本にある52個所の国立公園をすべて訪れることを夢想する。1個所に1か月ずつ滞在するとして、ぜんぶで4年以上。目のくらむような贅沢だ。贅沢の手始めにまずはこの本を1ページ1ページ精読する。それだけでもすばらしい贅沢。世界は驚異に満ちているし、今それは我々の手の届くところにある」。奥本大三郎さん曰く「われわれ人間さえいなければ、この世界はまさにエデンの園である。アダムとイヴのいないエデンの園――そこで昆虫採集をしたらどんなに楽しいだろう、と考えるのは矛盾しているけれど、私は眠りにつく前にしばしばそんな空想をする。本書は楽園の断片の大集成である」。


抵抗と亡命のスペイン語作家たち
寺尾隆吉編著
洛北出版 2013年11月 本体3,200円 四六判上製294頁 ISBN978-4-903127-20-0

帯文より:スペインのフランコ体制、ラテンアメリカの軍事独裁政権、キューバのカストロ体制など、スペイン語圏では繰り返し、権威主義的政治体制が台頭している。この体制の専横に苦しんだ彼らは、その経験をどのように表現し、権力への抵抗につなげていったのか。苦境のただ中で創作をつづける作家たちの活動を紹介する。

★発売済。執筆陣は、寺尾隆吉(てらお・りゅうきち:1971-:フェリス女学院大学国際交流学部准教授)、大西亮(おおにし・まこと:1969-:法政大学国際文化学部准教授)、山辺弦(やまべ・げん:1980-:日本学術振興会特別研究員)、浜田和範(はまだ・かずのり:1980-:東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍)の四氏。目次詳細と内容の一部は、書名のリンク先でご覧になれます。水声社で目下刊行中の新シリーズ「フィクションのエル・ドラード」で中心的な役割を果たしておられる寺田さんが編者をおつとめになっています。寺田さんの言葉を借りれば、「スペイン・ラテンアメリカ文学の現状を照射する」意図(286頁)のもとに執筆編纂されており、「抵抗」と「亡命」という二つのキーワードのもと、スペイン語圏から様々な作家を取り上げ、具体的に作品を分析しながらその特質を検証」(15頁)しているとのことです。「権威主義的政治体制の成立と作家たち」と「自由を求める作家たち」の二部構成で、7つの論文が収録されています。巻末には主要人名索引があります。

★なお洛北出版さんの今後の刊行予定には、フィリップ・テイラー『応用演劇――コミュニティを変える出会いの創造(仮)』や、エドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロ『食人の形而上学(仮)』などの書目が挙がっています。
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by urag | 2013-11-24 23:42 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 11月 20日

発売開始:立木康介『露出せよ、と現代文明は言う』河出書房新社より

弊社出版物の著訳者の皆様の最近のご高著やイベント、書評などをご紹介します。

★立木康介さん(共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
季刊誌「文藝」での連載がついに単行本化されました。版元さんの公式情報では明日21日が発売日ですが、今日の時点ですでに店頭に並び始めている書店さんもあるようです。「《露出》の強制、それこそは、21世紀グローバル化時代の〈人間学〉が立ち向かう究極のテーマだ。人間は、すでに新しい歴史ステージにある」(亀山郁夫)。「80年代ニューアカを愛したひとに。90年代に育ったひとに。そして00年代にもの足りなかったひとに——つまりこれは僕たちのための本だ」(市川真人)といった声が本書に寄せられています。

露出せよ、と現代文明は言う――「心の闇」の喪失と精神分析
立木康介(ついき・こうすけ:1968-)著
河出書房新社 2013年11月 本体2,400円 46変形判304頁 ISBN978-4-309-24637-6

帯文より:「心の闇」は社会の敵なのか? ラカン派の俊英が問う衝撃の評論。凶悪犯罪のたびにメディアで語られてきた「心の闇」。しかし現代の犯罪者は、ほんとうに「心の闇」をもっているのだろうか。むしろ彼らの心に「闇」がないことが問題なのではないか。私たちの心から「闇」が失われつつある。それこそが、現代の危機、心の危機をもたらしているとしたら?

目次:
第一章 「心の時代」とはどういう時代か
第二章 他者は近く、そして遠く
第三章 子どもの国のヰタ・セクスアリス
第四章 コンテンツなき身体、思考なき無意識
第五章 フォン・ハーゲンスのアートと「二つの死のあいだ」
第六章 精神分析の詩学――メタファーと心的空間
第七章 症状なき主体は彷徨う
第八章 エビデンスの光のなかで
エピローグ
あとがき

立木さんはエピローグでこう書かれています。「多くの人が気づいているように、私が「エビデンスの光」と読んだ、単一の尺度ですべてを計測しようとする薄っぺらな科学主義――これは今日の世界を蹂躙するネオリベラルな資本主義が知的生産のフィールドを従属かするためにふりかざす道具にほかならない――は、結局のことろ、光を当てることができるものだけに光を当て、カウントすることができるものだけをカウントするしそうだ。そこからはみ出る対象には、同じエビデンスの論理をむりやり当てはめるか、さもなければ、無視を決め込むかの、いずれかしかない。前者の場合には、対象はおうおうにして元の姿をとどめないほど変質してしまうだろうし、後者の場合には、単純に視界から消えてしまうだろう」(272頁)。こうした見かけ上の「科学」万能の時代は、立木さんが「デビリテ débilité の時代」と呼ぶものと表裏一体をなしているように思えます。本書は「デビリテの氾濫と同時代的であると思われる現象」として、「「心の闇」の不在、若者の規範化、セクシュアリティの衰退、表象の没落、精神療法への刺激-反応図式の侵入」等々の現象からロジックを抽出して、それらを徹底させてみる思考実験(296頁)を試みておられます。

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★竹田賢一さん(著書『地表に蠢く音楽ども』)
来週金曜日に東京堂書店神田神保町店6階の「東京堂ホール」にて行われるトークイベントに参加されます。

竹田賢一×吉田隆一×須川善行トークイベント

日時:2013年11月29日(金)19時~(開場18時30分)
場所:神田神保町店6階東京堂ホール
参加方法:参加費800円(要予約 ドリンク付き) 店頭または電話・メール(shoten@tokyodo-web.co.jp)にて、「阿部薫写真集刊行記念イベント参加希望」とお申し出いただき、名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。イベント当日と前日は、お電話にてお問い合わせ下さい。 電話 03-3291-5181 ※当日17:00より1階総合カウンターにて受付を行います。

内容:近年、関係者の書籍が次々に刊行され、再評価の気運が高まる日本のフリーミュージック・シーン。その関心が本物であることを示すように、今年も間章著作集(全三巻、月曜社、第I巻2013年1月、第II巻2013年11月)、竹田賢一『地表に蠢く音楽ども』(月曜社、2013年7月)、そして『阿部薫写真集 OUT TO LUNCH』(五海ゆうじ写真、K&Bパブリッシャーズ、2013年10月)が立て続けに刊行されました。没後30年以上が経過した今、なぜ再び阿部薫や日本のフリーミュージック・シーン全体にスポットが当てられるのか。同時代を生き、世界的なネットワークの中で活動を続けてきた竹田賢一さん、残された音源に耳をすませ、演奏者の立場から阿部薫の核心に迫る吉田隆一さん、阿部薫写真集・間章著作集の編者である須川善行さん、世代の異なったお三方をお招きして、それぞれの視点からの阿部薫像とシーン再評価の意義を語っていただきます。『阿部薫写真集 OUT TO LUNCH!』刊行記念。


★松本俊夫さん(著書『逸脱の映像』)
今年9月に弊社より出版させていただいたご高著『逸脱の映像――拡張・変容・実験精神』が、月刊誌「美術手帖」2013年12月号の「INFORMATION」コーナーの「BOOK」欄で取り上げられました。評者は近藤亮介さんです。「本書の中核にある「実験精神」は、「自由な映像を自由に見る逸脱の悦楽」へ読者を誘うと同時に、今なお多様化を続ける視覚芸術に重要な課題を突きつける」と評していただきました。


★清水知子さん(著書『文化と暴力』)
今年5月に弊社より出版させていただいたご高著『文化と暴力――揺曳するユニオンジャック』の書評「平明な文体による精緻な分析――サッチャリズム以降のイギリスの文化と政治の変容を描く」が、「週刊読書人」2013年11月15日号に掲載されました。評者は毛利嘉孝さんです。「これまで日本では知られていたがきちんと論じられてこなかった現代英国文化に焦点があてられており、学ぶところが多い。とりわけ、マルコム・マクラーレンとともにセックス・ピストルズを生み出し、その後英国を代表するファッション・デザイナー、ヴィヴィアン・ウェストウッドをサッチャリズムのもう一つの顔として描き出すその視差(パララックス)を孕んだ議論は、本書を貫く独特のスリリングな魅力を醸し出している」と評していただきました。
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by urag | 2013-11-20 17:51 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 11月 17日

注目の近刊と既刊:古典的名著の新訳や復刊

今月から年末にかけて、古典ものの魅力的な訳書の刊行が続きます。

11月22日『存在と時間』マルティン・ハイデガー/高田珠樹訳/作品社/本体6,800円
11月25日『新天文学――楕円軌道の発見』ヨハネス・ケプラー/岸本良彦訳/工作舎/本体10,000円
11月28日『増補新版 愛の新世界』シャルル・フーリエ/福島知己訳/作品社/本体8,200円
12月05日『アリストテレス全集(5)天界について/生成と消滅について』岩波書店/本体5,600円
12月10日『ノイマン・コレクション(1)数理物理学の方法』J・フォン・ノイマン/伊東恵一編訳/ちくま学芸文庫Math&Science/本体1,500円
12月17日『存在と時間(四)』ハイデガー/熊野純彦訳/岩波文庫/本体1,200円
12月予定『ヘーゲル論理の学 第三巻 概念論』ヘーゲル/山口祐弘訳/作品社/予価6,800円

高田訳『存在と時間』は全一巻。原書が全一巻なので、訳書の方も分冊の煩わしさがない方が便利です。用語・訳語解説、詳細事項索引を完備。12月には熊野訳『存在と時間』も第四巻が出て全四巻完結。美装ケースセットも同時発売でセット本体4,980円。20世紀哲学を代表する難解な書の新完訳が連続で出るというのは本当に驚きです。

ケプラー『新天文学』は『宇宙の神秘』『宇宙の調和』に続く天文三部作の第三弾です。副題にある通り、惑星の楕円軌道の発見に至るケプラーの研究を示した歴史的古典です。ラテン語原典より本邦初完訳。訳注・解説・索引 を完備。第一弾『宇宙の神秘』が刊行されたのが1982年ですから30年越しの完結になります。感激、ただただ感動です。

なお、ケプラー関連の近刊には、ドイツの科学ジャーナリストによるベストセラー評伝、トーマス・デ・パドヴァ『ケプラーとガリレイ――書簡が明かす天才たちの素顔』(藤川芳朗訳、白水社)が12月に刊行予定と聞きます。

フーリエ『増補新版 愛の新世界』は、2006年に800部限定で刊行され、一時期はアマゾン・マーケットプレイスで古書価が数十万円もの異常な高騰を示していた幻の書の、待望の再刊です。旧版を増補し、草稿ノートと照合して厳密に校訂したとのことで、初版を持っている読者も絶対に買っておきたい一冊。発行部数が劇的に増えるということではないでしょうから、買っておかないとまた品切になるだろうと思います。7年前の旧版が本体7,800円で今回わずか400円の値上がりに過ぎないというのは良心的です。

『アリストテレス全集(5)天界について/生成と消滅について』は第二回配本。「天界について」「生成と消滅について」は、旧全集では第4巻(1968年刊)に収録。前者は村治能就訳、後者は戸塚七郎訳でした。今回の新訳では前者が山田道夫訳、後者は金山弥平訳です。周知の通り、近年、二作とも京都大学学術出版会の「西洋古典叢書」で池田康男さんによる新訳が刊行されてきました。前者は『天について』(1997年)、後者は『生成と消滅について』(2012年)です。

『ノイマン・コレクション』は全三巻予定でまず第一巻が「数理物理学の方法」です。ちくま学芸文庫ではこれまでに『計算機と脳』(柴田裕之訳、2011年)や、モルゲンシュテルンとの共著『ゲームの理論と経済行動』(全三巻、銀林浩ほか完訳、2009年)など、ノイマンの名著の新訳や復刊を手掛けてきましたが、今回はすべて新訳ということになるものと思われます。

『ヘーゲル論理の学 第三巻 概念論』は第一巻「存在論」(2012年12月)、第二巻「本質論」(2013年5月)に続く「大論理学」新訳全三巻の最終巻です。まだ発売日が確定していないようですが、もし年内の刊行となると、編集担当が高田訳『存在と時間』と同じ方(ヴェテランのTさん)なので、大作を二点続けて手掛けられることになり、今年は熊野訳『実践理性批判』も担当されておられますので、そのご活躍たるや、2013年の哲学書編集者賞を差し上げるべきなくらいです。

これらのほかにも、注目新刊はまだあります。たとえば、昨春から昨秋にかけて縮刷版全6巻という形で復刻された雄山閣さんの『プリニウスの博物誌』が、その後別巻を刊行していて、9月の別巻1『古代へのいざない』(H・N・ウェザーレッド著、中野里美訳;1990年『古代へのいざない――プリニウスの博物誌』の復刊)に続いて、まもなく別巻2である中野里美『ローマのプリニウス(仮)』が刊行予定と聞いています。

また、京都大学学術出版会の「西洋古典叢書」や「近代社会思想コレクション」の近刊も見逃せません。「西洋古典叢書」では今年、通算100点目となるヘシオドス『全作品』(中務哲郎訳、2013年5月)を刊行したほか、先月はプルタルコス/ヘラクレイトス『古代ホメロス論集』(内田次信訳、2013年10月)、そして来月は本邦初訳となるリバニオス『書簡集(1)』(田中創訳、2013年12月5日頃発売、全三巻予定)が刊行されます。「近代社会思想コレクション」では、これも本邦初訳でサン−ピエール『永久平和論』(本田裕志訳、全二巻)の第1巻が先月刊行、第2巻が来月刊行予定です。

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今年も一年があっという間に過ぎようとしていますが、当ブログでまだご紹介していなかった(あるいは簡単に触れただけだった)既刊書の中から、どうしても振り返っておいた方がいいと思う古典ものについて最後に列記しておきたいと思います。

2013年07月『アナキスト地人論――エリゼ・ルクリュの思想と生涯』エリゼ・ルクリュ+石川三四郎/書肆心水/本体3,600円
2013年09月『エントロピーの起源としての力学的熱理論――クラウジウス熱理論論文集』ルドルフ・クラウジウス/八木江里監訳/林春雄・依田聖・岡本里夏訳/東海大学出版会/本体4,200円
2013年09月『[増補版] 政治における合理主義』マイケル・オークショット/嶋津格ほか訳/勁草書房/本体4,500円
2013年09月『ジョルダーノ・ブルーノ著作集(5)傲れる野獣の追放』ブルーノ/加藤守通訳/東信堂/本体4,800円
2013年10月『新装版 老い』巻/シモーヌ・ド・ボーヴォワール/朝吹三吉訳/人文書院/本体上巻2,800円・下巻3,000円

まず『アナキスト地人論』は前半がルクリュ「地人論」で、後半が石川三四郎のルクリュ論です。「地人論」は、石川三四郎訳『地人論(1)人祖論』(春秋社、1930年)から、序、第2章、第3章、第6章を抜き出して収録したものです。後半のルクリュ論は、石川三四郎『エリゼ・ルクリュ――思想と生涯』(国民科学社、1948年)が底本。フランスの地理学者エリゼ・ルクリュ(Élisée Reclus, 1830-1905)の『人間と大地』全4巻はアナーキスト地理学の古典的名著で、とりわけその第一巻『人祖論』全六章は、石川三四郎(いしかわ・さんしろう:1876-1956)の訳で春秋社より昭和5年(1930年)に刊行されて以来、1943年に有光社より『世界文化地史大系・第一巻』として再刊され、さらに1978年には黒色戦線社版「石川三四郎選集」第6巻として再々刊されてきました。それぞれ紙型再利用版と縮小写真版でしたが、今回の『アナキスト地人論』では新組のため、抄録版とはいえ、読者にとってより接しやすくなっていると思います。なお、石川のルクリュ論は黒色戦線社版選集では第5巻(1983年)に収められています。石川選集第6巻の解題で大沢正道さんはこう書かれていました。「『地人論』の翻訳は石川の悲願にもかかわらず、未完成のままに終っている。この復刻を機会として、石川の悲願を継承する篤学の士は現れぬものだろうか」。この言葉からはや35年、ルクリュは近年再評価の機運が高まりつつあります。

『エントロピーの起源としての力学的熱理論』は、ドイツの物理学者クラウジウス(Rudolf Julius Emmanuel Clausius, 1822-1888)の著書『力学的熱理論論文集』(全二巻、1864/1867年)の抄訳で、1850~65年に発表された、熱力学、蒸気機関、輻射理論、電気理論などの熱理論論文7篇が選ばれ、翻訳され解説されています。詳細目次は版元サイトをご覧ください。これまでクラウジウスの原典の翻訳は論文単位でしか存在しませんでした。初の単著単行本であり、たいへん貴重な成果です。造本は函、カバー、表紙、花切、スピン、すべてが爽やかな緑色でまとめられていて、とても美しいです。

『[増補版] 政治における合理主義』は、こんにち「保守主義」とは何かを考える上で絶対欠かせない古典です。原書初版は1962年で、10篇の論文が収められていました。この初版本の全訳が1988年に刊行、2008年になってようやく2刷を数えましたが、原書は著者の死去の翌年(1991年)に6篇の論文を加え、初版の2倍近い分量となった増補新版が刊行されました。本書はその増補新版から5篇を訳して刊行されたものです。もう1篇はどうしたのかというと、それは「Introduction to Leviathan」という論文で、原書では70頁以上を占めるかなりの長篇であり、なおかつ別の著書『リヴァイアサン序説』(中金聡訳、法政大学出版局、2007年)にすでに収録されています。新しく追加された5篇は、「新しいベンサム」「代表民主主義における大衆」「ロゴスとテロス」「政治を語る」「政治的言説」です。これらを含め、論文の並び順は原書とは異なります。原書では後半に配置されている論文「保守的であるということ On being conservative」は保守主義の特徴を詳しく説明したもので、この論文を読む人は自分自身の内にも保守主義が厳然として存在することを思い知るだろうと思います。どこかで小林秀雄が似たようなことを言っていたと記憶するのですが、それは田中美知太郎との対談「教養と言うこと」においてでした(最近では『読書について』中央公論新社、2013年9月刊に所収)。文明が変化していく「速度」について語っているのですが、田中さんの指摘を受けて彼は卒然と自身が「保守主義である」ことを宣言します。右か左かという浅い議論ではなく、誰しもが保守と革新の二面性を持っているのではないかと私は思います。

なお、勁草書房さんでは今月、ポール・グライス(Herbert Paul Grice, 1913-1988)の『理性と価値――後期グライス形而上学論集』(岡部勉編訳)を刊行されます。版元紹介文によれば「『理性の諸相』(2001年)の全訳に行為論と価値論の論文を加え、晩年の思索の全体像が見渡せる形で翻訳する」とのことで、『論理と会話』(清塚邦彦訳、勁草書房、1998年)以来、久しぶりの訳書になります。

『傲れる野獣の追放』は東信堂版『ジョルダーノ・ブルーノ著作集』(全10巻、別巻2)の7年ぶりの第4回配本で、今回もまた加藤守通さんがお訳しになっています。本邦初訳です。1584年にロンドンで公刊された本作は、ジェンティーレの分類に従えば、『天馬のカバラ』(未訳、当著作集第6巻)や『英雄的狂気』(加藤守通訳、著作集第7巻、2006年)と並ぶ道徳哲学的対話篇のひとつです。帯文には「闊達・躍動的に描き出す人間精神浄化の物語」と書かれ、「ギリシア神話を題材に、ユピテルの道徳的改悛と悪徳を象徴する諸星座追放の物語を通じ、人間の自己改革と新たな自己形成の相をカラフルに描き出した雄編」とも紹介されています。「天の浄化」をめぐる三つの対話から成る本作は、キリスト教的世界観とは異なるブルーノの思想が自在に展開されており、たいへん読み応えがあります。

『新装版 老い』上下巻は、ボーヴォワールの名著の再刊で、日野原重明さんが愛読していることを明かされてから注文が殺到しているそうです。超高齢化社会に突入しつつある現代日本に生きる私たちの人生にとって、「老い」は絶対に避けて通ることのできないとても大きな問題です。原著『La Vieillesse』は、1970年にガリマールより全1巻で刊行され、その後2巻に分かたれた普及版が出ています。訳書でも本文2段組で上下合わせて約650頁ほどにもなる大著ですから分冊はやむを得ません。

以上の既刊書の他にも、最後に2点だけ、白水iクラシックスの「コント・コレクション」や、水崎博明訳『プラトーン著作集』については特記したいと思います。「コント・コレクション」は今年3月に『ソシオロジーの起源へ』、そして9月に『科学=宗教という地平』がいずれも杉本隆司さんの訳で刊行されています。ハーバート・スペンサーと並んで社会学の祖と仰がれるオーギュスト・コント(Isidore Auguste Marie François Xavier Comte, 1798-1857)の訳書は、戦後日本ではけっして多いとは言えず、入手可能な訳書は限られていただけに、このコレクションはたいへん有意義な企画となっています。ちなみに先述したルクリュの訳者、石川三四郎はコントの訳書も手掛けています。『實證哲學』(上下巻、春秋社、1928-1931年:『世界大思想全集』第25-26巻)がそれです。

水崎博明さんによる個人全訳と見ていいはずの櫂歌書房版『プラトーン著作集』は一昨年春から刊行開始され、今月は3点も新刊が出ています。櫂歌書房(とうかしょぼう)さんは福岡の版元で、星雲社発売です。大型書店に出向かないとなかなかお目に掛らないかもしれませんが、岩波書店が『アリストテレス全集』の新訳を刊行開始した昨今、地方の版元さんがこうして古典の翻訳出版に地道に取り組んでいることは後進の私たちにとって本当に励みになります。

◎水崎博明訳/櫂歌書房版『プラトーン著作集』既刊書

2013年11月第5巻「言葉とイデア」第2分冊「ヒッピアース(大)」
2013年11月第5巻「言葉とイデア」第1分冊「クラテュロス」
2013年11月第4巻「「ある」ことと「知る」こと」第4分冊「ポリティコス」
2013年07月第4巻「「ある」ことと「知る」こと」第3分冊「ソピステース」
2013年06月第4巻「「ある」ことと「知る」こと」第2分冊「テアイテートス」
2013年04月第4巻「「ある」ことと「知る」こと」第1分冊「メノーン」
2012年10月第3巻「プラトーンと言論」第3分冊「ゴルギアース」
2012年07月第3巻「プラトーンと言論」第2分冊「パイドロス」
2012年03月第3巻「プラトーンと言論」第1分冊「恋がたきたち/メネクセノス/イオーン/ヒッピアース(小)」
2011年11月第2巻「「徳」を問う」第2分冊「ラケース/リュシス/エウテュデーモス」
2011年08月第2巻「「徳」を問う」第1分冊「エウテュプローン/テアゲース/カルミデース」
2011年05月第1巻「ソークラテースの四福音書」第3分冊「饗宴―恋について―」
2011年04月第1巻「ソークラテースの四福音書」第2分冊「パイドン―魂について―」
2011年02月第1巻「ソークラテースの四福音書」第1分冊「ソークラテースの弁明/クリトーン」
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by urag | 2013-11-17 23:52 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 11月 10日

注目新刊:バンヴェニスト「一般言語学の諸問題」第2巻、ほか

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言葉と主体――一般言語学の諸問題
エミール・バンヴェニスト著 阿部宏監訳 前島和也・川島浩一郎訳
岩波書店 2013年10月 本体7,000円 A5判上製函入318頁 ISBN978-4-00-022930-2

帯文より:『一般言語学の諸問題』第II巻、待望の邦訳。幾多の思想家を触発してきた稀代の言語学者エミール・バンヴェニスト(1902-76年)。『一般言語学の諸問題』第I巻の邦訳(みすず書房)から30年の時を経て、待望の第二論文集、完訳なる。

目次:
凡例
監訳者まえがき
まえがき
第I部 言語学の変遷
 第1章 構造主義と言語学
 第2章 歴史を作る言語
第II部 コミュニケーション
 第3章 言語の記号学
 第4章 言葉と人間の経験
 第5章 発話行為の携帯的装置
第III部 構造と分析
 第6章 言語の構造と社会の構造
 第7章 類型論的一致
 第8章 品詞転換のメカニズム
 第9章 言語範疇の変形
 第10章 ドイツ語前置詞vorの意味分析に向けて
第IV部 統語的機能
 第11章 名詞複合の統語的基盤
 第12章 名詞複合の新形式
 第13章 助動詞的関係の構造
第V部 言語の中の人間
 第14章 現代フランス語における代理名詞と代名詞
 第15章 言葉における形態と意味
第VI部 語彙と文化
 第16章 教会用語のたどった道――ラテン語orarium
 第17章 術語scientifiqueの成立過程
 第18章 暴言的発話と婉曲的発話
 第19章 フランス語における語彙的分化
 第20章 都市国家の二つの言語的モデル
解題
索引

★発売済。待望の、本当に文字通り待ち望まれた翻訳です。原書は、Problèmes de linguistique générale II(Gallimard, 1974)。1965-72年にかけて発表された論考、インタヴュー、講演など、20篇を収めています。1966年に刊行された原書第I巻は、岸本通夫監訳『一般言語学の諸問題』としてみすず書房より1983年に抄訳が刊行されています。周知の通りバンヴェニストは晩年に失語症を患い、彼の研究は途絶しました。本書では言語能力を失うその目前までの論考を収めています。巻頭の「監訳者のまえがき」はバンヴェニストの業績と翻訳の分担について紹介し、巻末の「解題」は「一般言語学関連の概説的な内容以外の章について、訳者による簡略な解説」を付したものです。索引は「事項」「語」「人名」別に立てられています。


マヌ法典 
渡瀬信之訳注
東洋文庫(平凡社) 2013年11月 本体3,300円 全書判上製函入528頁 ISBN978-4-582-80842-1

帯文より:『マヌ法典』は世界創造から社会と人生の理法を説き、インド社会の原型を規定したヒンドゥー教の古代法典であり、インド古典文学の至宝でもある。サンスクリット原典からの全訳。

★まもなく発売。「東洋文庫」第842巻。中公文庫版(1991年)の再刊です。巻末の訳者による「東洋文庫版での再刊にあたって」によれば、「再刊に際しては、訳文および訳注の一部改訂を行った」とのことです。中公文庫版は本体757円だったので、それに比べると高額になった感は否めませんが、ともあれ再刊によって品切状態が解消されたことは喜ばしいことです。苛烈さと寛容さを兼ね備えた実践的な道徳哲学の書でもあるマヌ法典は現代人にとっても今なお興味深い世界観を示しています。この古えの法典はなによりまず世界の創造を語るところから始まります。現代の法律が宇宙の起源の記述から始まることなどありえませんが、ある意味では起源の問いを欠いたまま法が語られるのですから、それはそれで奇妙なものではありますね。


世説新語1 
劉義慶撰 井波律子訳注
東洋文庫(平凡社) 2013年11月 本体2,900円 全書判函入362頁 ISBN978-4-582-80843-8

帯文より:乱世が生んだ機智縦横の中国的レトリックの精華。後漢末から東晋末(2世紀末~5世紀初)、「清談」が流行し、竹林の七賢が現れる。エピソードの集積による、魏晋の貴族・名士たちの逸話集。

★まもなく発売。「東洋文庫」第843巻。全5巻予定で、第1巻では上巻の徳行第一、言語第二、政事第三までが収録されています。巻頭に訳者による概説である「はじめに」が置かれ、巻末には「官職表」と「関連略年表」が付されています。「官職表」というのは、官僚の職名と仕事内容を簡潔に説明した一覧です。本文は、原文、訓読、注釈、口語訳、解説で構成されています。随所に氏族の家系図を補足。名士たちの様々なエピソードは卓抜な人生訓として読むことができます。簡潔な原文に込められた含蓄は時に口語訳を読んでもよく分からない箇所があるのですが、続く解説で井波先生が謎ときをしてくださいます。解説を読む前に自分でその含蓄を想像してみる楽しみも本書にはあります。

★「東洋文庫」次回配本は12月、ガザーリー『中庸の神学』中村廣治郎訳注、版元紹介文によれば「ガザーリーは11世紀にイスラームの神学・哲学・神秘主義を深めたイスラーム最大の思想家の一人。思想遍歴を代表する三編を収録」と。


わたしの好きなクリスマスの絵 
フェデリコ・ゼーリ著 柱本元彦訳
平凡社 2013年11月 本体1,500円 A5変型判上製56頁 ISBN978-4-582-65207-9

カバー紹介文より:聖夜にひらく小さな宝石箱。西ローマ帝国末期のモザイクから、ジョット、ジェンティーレ、ボッティチェッリ、コッレッジョ、ティントレット、ベラスケス、ティエポロまで、すべてを知り尽くした老美術史家が静かに語る、珠玉のキリスト降誕図12点。

★まもなく発売。原書は、Le mie natività(Interlinea, 2000)です。収録されている聖画はいずれもフルカラー印刷で美しいです。聖画の一部を利用して挟み込まれた紙の栞も素敵ですし、ですます調で訳されたゼーリの柔らかい聖画解説も印象的です。訳者あとがきによれば、著者のフェデリコ・ゼーリ(Federico Zeri, 1921-1998)は、トエスカ、ロンギ、ベレンソンの高弟であり、「イタリア美術史界のいわば異端的正統の流れを受けつぎ、超人的な博識と鑑識眼を武器にして頑固なアカデミズムに反抗し続けた」(54頁)人物でした。既訳書には2点あります。『イメージの裏側――絵画の修復・鑑定・解釈』(大橋喜之訳、八坂書房、2000年)と、『ローマの遺産――「コンスタンティヌス凱旋門」を読む』(大橋喜之訳、八坂書房、2010年)。ちなみに今回の新刊の翻訳を手掛けられた柱元さんはまもなく発売のトルナトーレ『鑑定士と顔のない依頼人』の訳者でもあります。


バタイユ――呪われた思想家
江澤健一郎(えざわ・けんいちろう:1967-)著
河出ブックス 2013年11月 本体1,500円 B6判並製256頁 ISBN978-4-309-62465-5

帯文より:人間は裂け目から生まれたのであり、われわれとは開かれた傷口なのだ。裂傷という主題から思想家の全体を透視し、不定形なるものとして人間と芸術の根源にせまりながら、バタイユ像を根底から変える決定版入門。

目次:
序 裂傷の思想家バタイユ
第一章 開かれた傷口――内的体験の視覚的対象
第二章 裂け目から生まれる芸術、そして人間――『ラスコーあるいは芸術の誕生』をめぐって
第三章 不定形の・・・
第四章 二つの身体
第五章 傷口〔トラウマ〕としての写真
第六章 低次唯物論から変質へ
第七章 無頭の絵画――アンドレ・マッソン
第八章 絵画という開かれた傷口――『マネ』をめぐって
結 芸術と共同性
あとがき


★まもなく発売。『ジョルジュ・バタイユの《不定形》の美学』(水声社、2005年)に続く、著者の第二作です。第一作は博士論文を元にしたものですから、今回の『バタイユ』が、改めてのデビュー作だと見ることもできると思います。本書は、雑誌や紀要、論文集などに発表された論考を大幅改稿し、さらに書き下ろし(序、第一章、第二章、結)を加えたものです。本書のキーワードは「傷口」です。第一章では早々に例の「中国の百刻みの刑」の写真が出てきますから、心臓の弱い方はご注意ください。これは読者を驚かそうという意図なのではなく、バタイユが自ら「取り憑かれた」と『エロスの涙』で告白したことを受けていて、さらにバタイユがコジェーヴ宛の書簡で書いた「私の生は――あるいはその破綻、さらには私の生という開かれた傷口は――」(『有罪者』)という言葉との響き合いから必然的に参照されたものです。開かれた傷口としてのバタイユの〈非-知〉の体験を辿りつつ、江澤さんはこう問います、「そもそも人間は、芸術という傷口から生まれたのではなかったか」(33頁)。

★江澤さんはさらに、バタイユの『ラスコーあるいは芸術の誕生』、雑誌「ドキュマン」に寄稿した芸術論」、『マネ』を参照しつつ、「バタイユと共に芸術の可能性と不可能性について考察」(13頁)していきます。本書はすぐれたバタイユ論であると同時に、バタイユの「傷口」に寄り添いつつ、知の円環に生じる亀裂としての芸術作品を論じた芸術論でもあります。暗い裂け目の中での「全面的な交流〔コミュニケーション〕」(62頁)の充溢を見つめようとした本書は、人文書売場だけでなくぜひ芸術書売場でも置かれてほしい本です。


風景の死滅 増補新版
松田政男(まつだ・まさお:1933-)著 平沢剛解説 
航思社 2013年11月 本体3,200円 四六判上製344頁 ISBN978-4-906738-05-2

帯文より:風景=国家を撃て! 永山則夫、フランツ・ファノン、チェ・ゲバラ、国際義勇軍、赤軍派、『東京战争戦後秘話』、若松孝二、大杉栄……何処にでもある場所としての〈風景〉、あらゆる細部に遍在する権力装置としての〈風景〉にいかに抗い、それを超えうるか。21世紀における革命/蜂起論を予見した「風景論」が、40年の時を超えて今甦る――死滅せざる国家と資本との終わりなき闘いのために。

★発売済。シリーズ「革命のアルケオロジー」の第2弾です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。奥付の対向頁に印刷された編集部の注記によれば、本書は『風景の死滅』(田畑書店、1971年)に以下の3篇が追加されたものです。「密室・風景・権力」(『薔薇と無名者』芳賀書店、1970年)、「風景論の起点」(『デザイン』1971年1月号)、「風景」(『映画批評』1971年1~6月号)。「密室~」は「若松映画と性の「解放」――序に代えて」という副題を付されて巻頭に配され、あとの2篇は本書の末尾に置かれています。「あとがき」には、2013年10月22日付の「追記」が付されています。また、巻末に平沢剛さんによる長文解説「風景論の現在」が併録されており、本書の現在的意義が熱く論じられています。その中で、航思社さんの近刊書『私闘する革命――戦後思想の10人』も予告されています。この本は航思社さんのウェブサイトでも近刊予告が出ていて、平沢さんは「松田自身が60~70年代を主軸に自らの半生を広範に語った」本だと紹介しておられます。『風景の死滅』1971年版(初版)の付録であるリーフレットに収められていた、作家の五木寛之さんによる推薦文「《風景の死滅》のために」は、その抜粋が今回の増補新版の帯(表4・裏表紙側)に長めに引用されています。

★本書の発売を記念して、以下のトークイベントがJR御茶ノ水駅徒歩7分の「book cafe ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ)」で開催されます。エスパス・ビブリオは千駄ヶ谷のブックカフェ「ビブリオテック」が運営主体の(株)スーパースタジオの移転により、先月リニューアル・オープンしたものです。

風景=国家を撃て! 風景論の新たな地平に向けて――松田政男(評論家)×足立正生(映画監督)×平沢剛(映画研究者)トークショー+『略称連続射殺魔』上映(ブルーレイ上映)

内容:70年代に大議論を巻き起こした「風景論」。それが今、生-政治や平滑空間、装置論などを先取りし、国家/資本主義への新たな対抗軸を示したものとして読み直されようとしている。風景論の画期をなした映画の上映とともに、主要論者2人とその後継による鼎談で、21世紀の「新たな革命的地平」を探る。

日時:2013年11月23日(土)17:00より上映開始(16:30開場、18:45よりトーク開始)
会場:ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ:千代田区神田駿河台1-7-10)
料金:1,500円(当日精算)
定員:50名予約制 ※メール(biblio@superedition.co.jp)または電話(Tel.03-6821-5703)にて受付。メールの場合、件名「松田×足立×平沢トーク希望」にてお名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。おって返信メールで予約完了をお知らせいたします。

『略称連続射殺魔』(1969年製作、86分)について:永山則夫が流浪した足跡を忠実に追い、日本列島を縦断、香港にもおもむき、永山の見たであろう風景を丹念にカメラに収め、永山が生まれてから逮捕されるに至るまでの道程を写し出す。監督:足立正生、製作:足立正生・松田政男・佐々木守・岩淵進・野々村政行・山崎裕、撮影:野々村政行、音楽:相倉久人・富樫雅彦・高木元輝、ナレーション:足立正生。


海賊旗を掲げて――黄金期海賊の歴史と遺産
ガブリエル・クーン著 菰田真介訳
夜光社 2013年11月 本体2,000円 四六判並製384頁 ISBN978-4-906944-02-6

帯文より:われわれはなぜ、海賊に魅せられるのか。海賊旗〔ジョリー・ロジャー〕を掲げて生きるとは、いかなることか。現代において海賊から学ぶことはあるのか。

版元新刊案内より:本書によって試みられているのは、海賊の価値をめぐって、その是非を性急に結論づけることではなく、黄金期海賊の歴史を、その前史であるバカニーアの時代から辿り、海賊たちの生活や文化、政治、経済などさまざまな角度から考察するとともに、フーコーやドゥルーズ=ガタリ、クラストル、ゲバラ、そしてニーチェらの思想、理論との比較を通して、決して過去の時代のものだけではない、現代にも脈々と受け継がれている海賊の本質的なラディカルさを明らかにすることである。また、M・レディカー、P・アール、D・コーディングリーらの見解や引用がふんだんに示されており、世界的な海賊研究の最新の見取り図を知るための一助としても、本書は活用しうる。

★発売済。『アナキストサッカーマニュアル――スタジアムに歓声を、革命にサッカーを』(甘糟智子訳、現代企画室、2013年)に続く、ガブリエル・クーン(Gabriel Kuhn, 1972-)の訳書第2弾です。原著の順番で言えば、『アナキストサッカーマニュアル』が2011年刊で、その前年に刊行されたのが今回翻訳された『海賊旗を掲げて』です。原書は、Life Under the Jolly Roger:Reflections on Golden Age Piracy(PM Press, 2010)です。目次詳細は版元ブログをご覧ください。クーンはオーストリア生まれで現在はスウェーデン在住の作家。本書では海賊史をひもときながら、その政治的意義や組織構造、経済や倫理を分析し、こんにちのラディカルな海賊熱に政治的意義を与え、「ジョリー・ロジャー(海賊旗)を、単なる象徴儀式に堕することなくバルコニーや集会ではためかせる方法を提示」(18頁)しています。

★訳者の菰田真介(こもだ・しんすけ:1985-)さんは今春すでに一冊、ハキム・ベイことピーター・ランボーン・ウィルソンの海賊論を翻訳されたばかりです(『海賊ユートピア――背教者と難民の17世紀マグリブ海洋世界』以文社、2013年)。また、夜光社さんは9月に思想誌「HAPAX」を創刊されていて、それ続く新刊が今回の『海賊旗を掲げて』になります。しっかりした文脈が感じられるこうした書物の連鎖はきっと読者に届くことだろうと信じます。
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by urag | 2013-11-10 23:49 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 11月 07日

書影公開&搬入日決定:『間章著作集II〈なしくずしの死〉への覚書と断片』

『間章著作集II〈なしくずしの死〉への覚書と断片』の取次搬入日が決定しましたので、お知らせします。日販が11月11日搬入、トーハン、大阪屋、栗田、太洋社が12日搬入です。書店さんの店頭には14日あたりから並び始めると思われます。以下に書影を公開します。どうぞよろしくお願いいたします。

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間章著作集 II(全3巻/第2回配本)
〈なしくずしの死〉への覚書と断片
月曜社 2013年11月 税込5,880円(本体5,600円) 四六判(タテ190ミリ×ヨコ133ミリ)上製572頁 ISBN978-4-86503-008-2

即興をめぐる新しい価値観を開示し、演奏の本質を追求したジャズ論集。デレク・ベイリー、スティーヴ・レイシー、ミルフォード・グレイヴスらとの対話、ドルフィ、コルトレーン、セシル・テイラー、オーネット・コールマン論、そして未発表+単行本未収録原稿を多数収録。付:須川善行「編集ノート」。装幀:佐々木暁。

主な内容:エリック・ドルフィ論2編、スティーヴ・レイシーとの対話+スティーヴ・レイシー論5編、ミルフォード・グレイヴス論3編、デレク・ベイリーとの対話+デレク・ベイリー論7編、コルトレーン論4編、アルバート・アイラー論2編、セシル・テイラー論3編、阿部薫論3編、ほか18編、合計47編。

間章(あいだ・あきら、1946年8月18日~1978年12月12日)新潟県生まれ。音楽批評家。立教大学中退。在学中より批評・コンサートプロデュース活動を開始。音楽雑誌、新聞、ライナーノートなどに、幅広い教養と独自のレトリックを駆使した文章を発表、音楽批評にとどまらず多方面に大きな影響を与えた。72年、現代音楽祭「自由空間」開催、阿部薫、高柳昌行、土取利行、近藤等則らとの共同作業、スティーヴ・レイシー、ミルフォード・グレイヴス、デレク・ベイリーを招聘するなど、フリー・ジャズ・ミュージシャン、インプロヴァイザーとの実践的なかかわりを深めていった。1978年12月12日、脳出血により死去。享年32。没後に刊行された著書に、本書(イザラ書房版、1982年)、『非時と廃墟そして鏡』(深夜叢書社、1988年)、『この旅には終りはない』(柏書房、1992年)、『僕はランチに出かける』(同、1992年)。2006年には青山真治監督による間章についての7時間余にわたるドキュメンタリー映画「AA」が上映された。

既刊■第1巻『時代の未明から来たるべきものへ』2013年1月刊行
まったく新しい音楽批評の文体=スタイルを編み出し、同時代に圧倒的なインパクトを与え、音楽・文学・哲学・批評の枠を超え、「制度」との闘争=アナーキズムを宣言した主著。

続刊■第3巻『さらに冬へ旅立つために』2014年夏刊行予定[頁数など変更になる場合があります]
ジャズ、シャンソン、ロック、現代音楽、瞽女うた……講演、初期文集など、未発表原稿多数収載! 720頁。
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by urag | 2013-11-07 14:17 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)
2013年 11月 06日

注目イベント:アート古書フェア@八重洲BC本店8F、ほか

★森山大道さん(写真集:『ハワイ』『にっぽん劇場』『何かへの旅』『カラー』『モノクローム』『パリ+』)
今週より八重洲BC本店8階にて好評開催中の芸術系和洋古書のフェアに、『森山大道全作品集 Daido Moriyama The Complete Works』(全4巻、大和ラヂヱーター製作所〔現・大和プレス〕、2003-2004年;第4巻にサイン入、オリジナル・カラープリント付)や、オリジナルプリント「狩人」が出品されています。ご興味のある方はぜひどうぞ。

アート古書フェア

期間:2013年11月5日(火)~12月7日(土)予定
開催場所:八重洲ブックセンター 本店8階 芸術書売場(8階直通電話番号:03-3281-3606)

概要:美術書専門店ART BOOK Arteriaとの初コラボ! 海外の美術古書市場で入手した美術古書や、 一般の流通経路に乗らない欧米の美術館・ギャラリーの展覧会目録など、洋書・和書の古書、稀覯書をお求めやすい価格で提供いたします。500円・1000円・2000円・3000円・5000円均一の特価本から、限定版アートブックまで、1,000タイトル以上の品揃えです。この機会に、是非お立ち寄りくださいませ。

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★廣瀬純さん(著書:『絶望論』、共著:『闘争のアサンブレア』、訳書:ヴィルノ『マルチチュードの文法』、共訳:ネグリ『芸術とマルチチュード』)
★佐藤嘉幸さん(共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』)

◎公開研究会「闘争、抵抗、絶望、真理――後期フーコーをめぐって

報告者:
・廣瀬 純(龍谷大学、映画論・現代思想)
・佐藤嘉幸(筑波大学、哲学・思想史)
・箱田 徹(立命館大学、社会思想史)

日時:2013年11月23日 15:10~17:30
場所:元町映画館 2F(神戸市中央区元町通4-1-12;最寄駅:JR・阪神「元町」、阪急神戸高速「花隈」、地下鉄海岸線「みなと元町」歩5分)
※事前申込不要・入場無料

内容:ミシェル・フーコー(1926-1984)の思想の今日性とは?1970年代半ばから1980年代にかけての10年あまりのあいだに、彼の思想が遂げた独自の展開を、どう捉えるべきだろうか。本研究会では、『フーコーの闘争:〈統治する主体〉の誕生』(慶應義塾大学出版会)を、この9月に上梓した箱田が、同書の内容を踏まえ、フーコー統治論を「真理ゲーム」の観点で考察する。 『新自由主義と権力:フーコーから現在性の哲学へ』(人文書院)で、ネオリベラルな「環境介入型権力」の批判を行った佐藤は、後期フーコーの主題のひとつ、自己統治と抵抗の問いとの関わりを論じる。映画論でも知られる廣瀬は、近著『絶望論:革命的になることについて』(月曜社)のタイトルにも用いられた「絶望」と「革命的になること」の問いからフーコーを捉える。

主催:文部科学省科学研究費(若手研究B)「真理の争いとアーカイヴ:ミシェル・フーコーの歴史研究に関する思想史的考察」(研究代表者:箱田徹)
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by urag | 2013-11-06 16:12 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2013年 11月 04日

注目新刊:『コデックス・セラフィニアヌス』新版、ほか

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Codex Seraphinianus
Luigi Serafini
Rizzoli October-29-2013 $125.00 Hardcover 9x13-3/8 ISBN:978-0-8478-4213-1

★現代の奇書として有名な『コデックス・セラフィニアヌス』の新版(New and updated edition)がついに発売されました。イタリアの芸術家で、建築家・デザイナーでもあるルイジ・セラフィニ(Luigi Serafini, 1949-)が著した本で、1981年に2巻本がフランコ・マリア・リッチ社から刊行されました。本書についてはwikipedia日本語版でも立項されているのでなるべく簡潔に説明すると、1983年に合本版がアメリカなどで出版され、その十年後の1993年にイタロ・カルヴィーノによる序文を付した増補版がフランスとスペインで刊行、さらに2006年にイタリアで改訂版がリッツォーリから発売されます。この改訂版には著者による序文が付されていたそうですが、同じくリッツォーリから発売された今回の新版でも日付が新しくなった序文(2013年7月3日付、ローマにて)が別刷冊子「Decodex」に伊・英・仏・独・西・葡・露の各国語で収められています。初版から数えて32年目のこの新版では、表紙にテントウムシがあしらわれています。

★カフカやエンデの本の挿絵を担当したこともあるセラフィニですが、本書は人工文字に超現実主義風の挿絵で飾られた百科事典の体裁を取っています。B4サイズより一回り小さいとはいえ、めったにない大判です。文字もノンブルも、フルカラーの鮮やかな挿絵も、全頁すべてが手描きです。動植物や鉱物、機械や乗り物、学問と歴史、文化風俗など、異世界に遊ぶ奔放で自由な想像力と、それらを分類し秩序づけて描き続けた驚くべき労力の結晶です。地上に存在しない文字ですし、挿絵もおそらく人によって好き嫌いがあると思うので万民向けではありませんが、たとえばシュトゥンプケの『鼻行類』(平凡社ライブラリー、1999年)やレオーニの『平行植物』(工作舎、新装版2011年)、あるいは「ヴォイニッチ写本」などがお好きな方は、話のネタとして蔵書しておいても良いのではないかと思います。サイン入り特装版も600部限定(英語版300部、伊語版300部)で刊行されたそうです。


鑑定士と顔のない依頼人
ジュゼッペ・トルナトーレ著 柱本元彦訳
人文書院 2013年11月 本体1,500円 4-6判上製96頁 ISBN978-4-409-13035-3

帯文より:厳格さで知られる初老の美術鑑定士と決して姿を見せない謎の女。美術と骨董とオークションの世界に彩られた鮮やかなミステリー。『ニュー・シネマ・パラダイス』の監督による初めての原作小説。

★11月11日取次搬入予定の新刊です。ジュゼッペ・トルナトーレ(Giuseppe Tornatore, 1956-)監督にとって初めての小説作品で、自ら監督した映画『鑑定士と顔のない依頼人』(日本では2013年12月13日より全国順次公開)に先立って書き下ろされたものです。映画の台本でもノベライズでもなく、監督自身の序文での言葉を借りるならば「きちんとしたシナリオの完成を待つあいだに、主要な登場人物を演じる俳優たちの関心を高め、最初の協賛金を募り、プロデューサーとの合意事項を決定し、配給会社に支払う前金を確保するため」に書かれたものです。「普通、一本の映画はこんな風な過程を経て制作されるのである」(2頁)。それが出版社の気に入るところとなり、本来であれば私たちの眼には触れるはずではなかったものが読めるようになったわけです。美術と骨董の世界に暮らす初老の鑑定士でありオークショニアの男性ヴァージルと、心に傷を負って外を歩くこともままならない極度に内向的な広場恐怖症の若い女性クレアの物語である本書は、クレアがヴァージルに家財売却のための鑑定を依頼したことから始まります。鑑定はしてほしいがどうしても面と向かっては会おうとしないクレアにヴァージルは腹を立てるのですが、ついに対面することになり、そして・・・。映画を先に見るべきか、この本を先に読むべきか。出来上がった順番から言えば本書が先ですから、本書を先に読んでみて、映画でどう映像化されているかを見る、というのが順当かもしれません。


フランス人民戦線――反ファシズム・反恐慌・文化革命
渡辺和行著
人文書院 2013年11月 本体6,800円 A5判上製432頁 ISBN978-4-409-51067-4

帯文より:危機の時代の救世主「人民の政府」はなぜ崩壊したのか。21世紀のフランス人民戦線研究へ。経済恐慌、右翼の台頭、ナチスの誕生――不安と危機、衰退(デカダンス)の1930年代、「反ファシズム」を掲げる諸政党・労働組合・市民団体による連合政権の誕生に人々の期待は高まった。本書は、フランス人民戦線 (Front populaire)前夜から、は「反ファシズム」を掲げたフランス社会党、急進党、共産党など諸政党・組合・市民団体による連合政権。当時、フランスがかかえていたさまざまな(など)がその契機となった。人民戦線前夜から、スペイン内戦への対応や経済政策をめぐる対立による解体までの詳細を、連合の鍵を握った中道政党を中心に追っていく。さらに、現在のフランスの社会を特徴づける「人民戦線の遺産」ともいうべき政治的・経済的・文化的成果を記述する。ソビエト解体後に公開された史料をもちいた新たな研究成果をもとにまとめた本格的、かつ総合的な人民戦線研究の成果。

★11月5日取次搬入予定の新刊です。著者の渡辺和行(わたなべ・かずゆき:1952-)さんは奈良女子大学教授。ご専門はフランス近現代史で、『ナチ占領下のフランス――沈黙・抵抗・協力』(講談社選書メチエ、1994年)をはじめ、数々の著書をお持ちで、ピエール・ノラ『記憶の場――フランス国民意識の文化=社会史』(全3巻、岩波書店、2002-2003年)の共訳者でもあります。著者にとってフランス人民戦線は学生時代より関心を持ってきた対象です。「はじめに」によると、「日本人の手になるバランスのとれた人民戦線史は、1974年に出版された平田好成『フランス人民戦線』(近藤出版社)以来、40年近く出ていない。それゆえ、この間の研究をフォローした本書は、40年の空白を埋めて後学に託すという研究史上の意義がまずあるだろう」と著者は述べます(15頁)。そして続けて、「ソ連圏の自壊による冷戦構造の買いたいという歴史と左翼運動史研究の盛衰をふまえたうえで、人民戦線運動の現代的な意味をも考察しようと思う。つまり、過労死や過労自殺をよぎなくされる働きすぎの社会から、「ワークライフバランス社会へ」の移行や「ワークライフシナジー」(大沢真知子)が求められている現在、本書は「労働と余暇」の問題を初めて実践的に提起し、よりよく生きるための政策を実行したフランス人民戦線の意義を再考しようという試みでもある」(同頁)。

★本書の内容についてもう少し「まえがき」での著者自身の紹介を引きます。「本書では、フランス人民戦線の誕生から解体までの歴史を、急進党に比重を置きつつ、政党の枠を超えた社会運動の側面や社会史的手法にも目配りして描こう。反ファシズム(政治史)・反恐慌(経済史)・文化革命(文化史)の三幅対としての人民戦線を呈示しよう。その過程で、反ファシズムの論理(民主主義の防衛)と反恐慌の論理(反デフレーション、リフレーション政策)とが必ずしも整合的でなく、前者の論理が後者の論理を制約したこと、さらに、反ファシズムの論理(戦闘ないし戦争の論理)と平和の論理とが二律背反関係にあったことも明らかになるだろう」(同頁)。1930年代のフランスにおける左派連合政権の成功と失敗を丹念に追った本書は、現代人がなおも抱える理想と矛盾の相克を見つめる上でたくさんのヒントを与えてくれそうです。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。


〈法と自由〉講義――憲法の基本を理解するために
仲正昌樹著
作品社 2013年11月 本体1,800円 46判並製368頁 ISBN978-4-86182-455-5

帯文より:改憲の前に、必読! そもそも《法》とは何か? 法学という学問の枠を超えて、私たちの法意識と日本国憲法に多大な影響を与え続けているルソー、ベッカーリア、カントらの古典を熟読する、著者が専門とする「法思想」待望の“初”講義! 「憲法」という装置を生み出した思想・哲学をしっかり掘り下げて、しっかり学ぶ! 高校の政経や大学の法学概論で習う「近代法」の理念的骨格を作った、ルソーの「一般意志論」、ベッカリーアの「人民の合意に基づく罪刑法定主義論」、カントの「公民的秩序論」という原点に遡りながら学ぶ、私たちの社会の根底から規定する《法》の原点。

★発売済。2012年4月から10月にかけて、連合設計社市谷建築事務所で行われた全6回の連続講義に大幅加筆した講義録です。近年、仲正さんは作品社から2012年2月『現代ドイツ思想講義』、2012年8月『《日本の思想》講義』、2013年2月『カール・シュミット入門講義』と立て続けに講義録を上梓されています。本職の大学での教鞭のほかにも一般人向けの講義を続ける一方で多数の著書や訳書を毎年書きあげている仲正さんの生産力には目を瞠るばかりです。本書では岩波文庫のルソー『社会契約論』、ベッカリーア『犯罪と刑罰』、カント『啓蒙とは何か 他四篇』を原書とともに読み解きつつ、憲法とは何なのかを根本的に捉えなおそうとこころみています。憲法改正の政治的機運が高まりつつある現在こそ、雰囲気に流されずにじっくりと古典をひもときたいものです。


茶の精神(こころ)をたずねて――時を追い、地を駆けて
小川後楽著
平凡社 2013年11月 本体2,800円 四六判上製436頁 ISBN978-4-582-62306-2

帯文より:茶の文化の源へと膨大な時間の隔たりをこえて、中国各地、インド、ビルマ・・・広大な空間をへめぐり、茶祖・陸羽(りくう)、茶聖・盧仝(ろどう)の足跡を、また名茶をもとめて、漢詩をたずさえながら。煎茶40年、小川流家元の旅の記録。

★11月8日取次搬入予定の新刊です。小川後楽(おがわ・こうらく:1940-)さんは小川流煎茶6代目家元で、中国喫茶史に造詣が深い煎茶家です。また、京都造形芸術大学の教授をお勤めです。煎茶に関する数多くの著書があり、楢林忠男名義でも書かれています。本書はこれまで各紙誌に80年代から近年に至るまで発表されてきた随筆に加筆したもので、中国への語学留学での苦労や、茶の文化の源流をもとめて中国各地を旅した話が折々の写真とともに綴られており、非常に興味深いです。たまに怖い写真やエピソード(歓待のしるしとして皿に飾られたジャコウジカの生首や、搭乗していた飛行機の片方のプロペラが飛行中に完全に止まった様子や、渋滞というより停車状態に陥っている苦難続きのバス旅行など)があって、なぜここまでして茶の史跡を辿ろうとするのか、著者の旺盛な探求心に驚きまじりの半笑いを抑えきれないのですが、必ず行く手には絶景やら感動が待っていて、清々しい気分になります。紙上とはいえ、読者は苦労なしに追体験できるのですから、ありがたいことです。

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ご存知の方も多いかもしれませんが、晶文社版『吉本隆明全集』全36巻・別巻1の内容見本の冊子(B5判16頁)が配布開始になりました。紙媒体のほか、晶文社ウェブサイトより電子ブックで閲覧可能です。第1回配本は2014年3月発売予定の第6巻『[1959-1961]戦後世代の政治思想 擬制の終焉』で予価は6500円。A5変型判上製カバー装、各巻平均590頁とのことで、全巻を揃えると相当な物量になりますね。初年度は3カ月に1巻ずつ刊行、次年度以降は隔月で刊行予定とのことです。完結まで7年、2020年いっぱいまでの大事業です。

内容見本は最初に版元の「刊行にあたって」と、ハルノ宵子さんによる「ご挨拶」が印刷されています。真面目さの中にもユーモアがあるハルノさんの挨拶文が素敵です。続くのは著名人各氏の推薦文。鶴見俊輔「才覚と機転」、上野千鶴子「空前節語の思想家」、福島泰樹「「よせやい」 東京ッ子の矜持」、糸井重里「こころうれしく待つ」、鷲田清一「二十五時間目のひと」、中沢新一「嘘とほんとうを見分ける確かな方法」、見城徹「人間的な、あまりに人間的な」、よしもとばなな「父と全集」。そして、38巻の内容紹介が年譜とともに記載され、本文組見本もお披露目されています。

ところで同社の元編集長の中川六平(なかがわ・ろっぺい:1950-2013)さんが9月に食道がんでお亡くなりになったことは皆さんご存知かと思います。中川さんの蔵書の一部は、今日まで開催されていた神保町ブックフェスティバルの晶文社ワゴンで出品されていたそうです。形見分けですね。63歳、まだ「若い」と言うべきでしょうか。編集者の日常は平坦ではなく、しばしば、刺し違えるまで闘うか、罵声を浴びようとも撤退するか、両方の覚悟が求められます。出版は命を賭けるに値する事業だと信じますが、それは苛酷な人生です。その苛酷さの中にしか自由は存在しないように思います。
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by urag | 2013-11-04 23:58 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 11月 01日

ウェブ連載:ルソー『化学教程』第七回、本日公開

弊社ウェブサイトでの連載、ルソー『化学教程』の翻訳第七回を公開します。

『化学教程』第1部
第1編 物体の諸要素とそれらの構成について
第1章 物質の原質について(続き)

10 それゆえ、物体のこの諸原質や要素の観念についての人々の意見はだいたい一致している。しかし、どのような原質ないし要素があるのか、またそれらは何種類あるのか? この問いこそが、数世紀以来、自然学者と化学者たちを悩ませてきた大問題の核をなしてきたのである。[C:65]タレスは一つの原質しか認めなかった。それは水である。デモクリトスもまた一つの原質しか認めなかった。それは土ないしアトムである。アリストテレスは四つの原質を思いついた。それは土と火という乾いたもの二種、そして水と空気という湿ったもの二種の四つである。アナクサゴラスは、例えば金の原質が金の性質を持つ小さな粒子であると主張することによって、ありうる限りの様々な物体が存在すると主張した。デカルトは大きさと形象〔形態〕によって区別される三つの原質があると認めた。

・・・続きはこちら

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ルソー『化学教程』連載概要

第1回:緒論・総目次・凡例
第2回:1-1-1-1~6(第1部第1編第1章第1~6段落)。
第3回:1-2-1-1~4(第1部第2編第1章第1~4段落)+訳者解説。
第4回:1-2-1-5~10(第1部第2編第1章第5~10段落)+訳者解説解説。第1章終。
第5回:1-1-2-1~9(第1部第1編第2章第1~9段落)。第2章終。
第6回:1-1-1-7~9(第1部第1編第1章第7~9段落)。
第7回:1-1-1-10~13(第1部第1編第1章第10~13段落)。
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by urag | 2013-11-01 12:23 | ウェブ限定コンテンツ | Trackback | Comments(0)