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2013年 10月 31日

注目イベント:ワークショップ@八重洲BC本店、シンポ@人文会

注目のイベントを2件ご紹介します。1件目は、八重洲ブックセンター本店の1階に今夏オープンした文具と雑貨のセレクトショップ「style F(スタイル・エフ)」(20坪)が主催するワークショップです。同売場は雑貨店「アンジェ」を展開する京都の書店チェーン「ふたば書房」と、取次「トーハン」のグループ会社「株式会社トーハン・メディア・ウェイブ」がタッグを組んで売り出している業態パッケージで、東京では明屋書店中野ブロードウェイ店と八重洲BC本店が採用。特に八重洲BC本店の売場は、文具雑貨売場の導入を検討している書店さんが必ず一度は視察に訪れる場所として業界的にも有名です。ワークショップの講師をつとめる「にじゆら」さんは京都の注染手ぬぐい専門店。明治時代に大阪で生まれた染色技法「注染」の伝統を守りつつ、デザインに新しい感性と息吹を吹き込んだ手ぬぐいブランドとして人気です。直営店は京阪神にしかありませんから、東京でスタッフの方とお目に掛れるのはなかなか貴重な機会かと思います。

2件目は人文書を刊行する出版社20社からなる業界団体「人文会」の創立45周年記念イベントです。業界で知らぬ者はいないヴェテラン書店員である柴田信さんの講演と、これまた業界的にぐいぐい知名度をアップさせている若手カリスマ書店員の三氏によるパネルディスカッションの、二部構成。参加無料。書店員さんならどなたでもお越しいただけるとのことなので、この機会をお見逃しなく。懇親会もあります。


◎style F にじゆらワークショップ「手ぬぐいでポンポンをつくろう!

日時:2013年11月2日 (土) ①14時00分~ ②15時30分~(各回所要時間:約30分~1時間)
会場:八重洲ブックセンター本店 1F コーヒーショップ「TIFFANY」
参加費:1500円(材料費込・ドリンク付き) ※当日、会場にてお支払下さいませ(お支払いはお現金のみとさせていただきます)。
募集人員:各回15名(申し込み先着順)※定員になり次第、締め切らせていただきます。
申込方法:申し込み用紙に必要事項をご記入の上、本店1階サービスカウンターにてお申込み下さい。申し込み用紙は同カウンターにご用意してございます。また、お電話でも承ります(電話:03-3281-8201)。

内容:style Fでも大人気! 大阪・堺の注染手ぬぐいブランドにじゆらさんによるワークショップです。手ぬぐいを裂いて、ポンポンアクセサリを作ります。材料の手ぬぐいはこちらでご用意いたします。お好きな色柄の手ぬぐいを裂いて、好みの色合いのポンポンをつくってみませんか?「ビッ!」と手ぬぐいを裂く感触は、くせになるかも?! ポンポンにつけるパーツは、ヘアゴムかストラップ、お好きな方を選んでいただけます。


◎人文会45周年記念シンポジウム

内容:人文会は人文書の普及と書店店頭における人文書の棚構築を目的として1968年に創立されました。創立以来多くの書店の皆様と販売会社の皆様のご協力をいただきながら地道な活動をしてまいりました。今年で人文会は45周年を迎えます。今回は、柴田信氏(岩波ブックセンター会長)と書店員の御三方にパネリストとしてご参加いただきます。シンポジウム終了後ささやかですが、懇親会の場を設けさせていただいております。皆様のご参加をお待ちしております。
               
開催概要:
第一部『町と書店と人と――神保町で人文書を売る』講師:柴田信氏(岩波ブックセンター会長)
 1、経営の危機
 2、店舗運営(現場)の維持存続
 3、経営を支援する現場の喪失  
 4、有為な店員――経営に無関心
 5、目指せ取締役 そして独立
第二部『人文書をどう売り伸ばすか? 私の取り組み』
パネリスト:伊藤稔氏(紀伊國屋書店新宿本店仕入)、久禮亮太氏(あゆみBOOKS小石川店店長)、森暁子氏(ジュンク堂書店池袋本店人文書)

日時:2013年11月20日(水)
 第一部 16時開演
 第二部 17時半開演
 懇親会 19時
会費:無料(書店員ならどなたでもご参加いただけます)
定員:100名
会場:日本出版クラブ会館(東京都新宿区袋町6;電話03-3267-6111)
お問い合わせ・お申込み:人文会・奥村(晶文社)電話03-3518-4940/FAX03-3518-4944/Eメール okumura(あっとまーく)shobunsha.co.jp
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by urag | 2013-10-31 12:41 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2013年 10月 29日

注目新刊:ブランショ『カフカからカフカへ』書肆心水、ほか

弊社出版物の著訳者の皆さんの最近のご活躍や、弊社出版物に関する書評、広告についてお知らせします。

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★安原伸一朗さん(訳書:ブランショ『問われる知識人』、共訳:『ブランショ政治論集』)
20世紀フランスの作家・編集者であるジャン・ポーラン(Jean Paulhan, 1884-1968)の著書、Entretien sur des faits divers(Gallimard, 1945) の訳書を上梓されました。目次詳細は書名のリンク先をご参照ください。版元さんの内容紹介によれば「ポーランが友人と交わした対話を素材に、精神と言語の最深部にひそむ神秘を軽妙に語り合う対談仕立てのエッセー」とのこと。友人というのは、ルネ・マルタン(ルネ・マルタン=グリオ)のこと。巻末には安原さんによる懇切な解説が収められています。

百フランのための殺人犯――三面記事をめぐる対談
ジャン・ポーラン著 安原伸一朗訳
書肆心水 2013年10月30日 A5判上製160頁 ISBN978-4-906917-19-8
帯文より:仏文学の牙城『NRF』 誌を長く仕切った編集長、黒幕ジャン・ポーランの洞察。精神のパラドクス――あるいは間違った判断をする我々。その妄想的判断の避けがたさと、それに及ぼす言語の不思議な効果。


★モーリス・ブランショさん(著書:『問われる知識人』『ブランショ政治論集』『書物の不在』)
書肆心水さんから評論集『カフカからカフカへ』の訳書が刊行されました。同書は初期作『焔の文学』の掉尾を飾る著者の代表的論文「文学と死への権利」の待望の新訳を含むもので、「訳者あとがき」に粟津則雄編訳『カフカ論』(筑摩書房、1968年;増補版、1977年)との違いが特記されています。曰く、「増補版『カフカ論』に「文学と死への権利」「自足した死」「語りの声」の三篇が含まれていないのに対し、『カフカからカフカへ』には、「フィクションの言語」が収録されていない」。また、後者では「意図的に一部の評論を発表順とは異なる配置で収録」しています。目次詳細については書名のリンク先をご覧ください。

カフカからカフカへ
モーリス・ブランショ(Maurice Blanchot, 1907-2003)著 山邑久仁子訳
書肆心水 2013年10月 本体3,600円 四六判上製320頁 ISBN978-4-906917-18-1
帯文より:文学と死への権利――ブランショ自選カフカ論集成


★ショラル・ショルカルさん(著書:『エコ資本主義批判』)
今月(2013年10月)18日(金)にドイツ語の論考「Lampedusa Weiterdenken」をご自身のブログへアップされましたが、「問題のグローバルな重要性」に鑑み、今般、改訂のうえ、英訳版「The Tragedy of Lampedusa -- What to do?」を公開されました。これは今月3日に、イタリア最南端のランペドゥーサ島沖で、アフリカからの移民船が沈没し、300人以上が死亡した事故を受けて書かれたもので、その後も別の船の転覆事故で34人が死亡し、さらに25日には別の5隻が発見され、700名近くが救出されています。同島周辺では移民船の事故が頻発しており、EU首脳が3日の事故について移民問題に取り組むと声明を発表しています。

What happened on 3rd October 2013 at the coast of Lampedusa has roused sympathy and stirred the conscience of Europeans. They are of course at a loss to know what they should do. But sympathy is in any case good.

What should the Europeans do in order to avert frequent recurrence of such tragedies on their doorstep? Can something be done at all? I am very dissatisfied with what I have heard and read in the media and in my friends circle. Sympathy and rescue operations testify that we haven’t become totally cold-hearted yet. But solving the problem is a very different matter. There are two prerequisites to that – firstly, an in-depth analysis of the causes of the problem and, secondly, the will to solve it.

A deep analysis of the causes of the problem on our hands requires the knowledge that it is a global problem. In connection with the last few boat disasters in the Mediterranean See we heard of refugees from Somalia, Eretria, Syria and, generally speaking, North Africa. But such refugees come from all over the world, even from the emerging economic powers such as China and India. And their destination is not only Europe, but also North America and Australia. In case of refugees from Syria and Somalia, partly also of those from Iraq, the main cause at present is clearly the on-going civil wars there. But seen globally and generally, most of them are neither political nor civil war refugees. They would not want to go back home when the civil war is over or when the dictatorship in their country is replaced with a democracy. They are also not fleeing from dire poverty, from hunger. The really poor and their families cannot pay the price the refugee smugglers demand. In truth, they are economic refugees, young people who want to try their luck in the highly developed rich countries. In this enterprise they run high risks, they may fail, they may even die. But youth is simply like that. In their native country, they cannot bear the dreary life without any hope.

続きはエントリーのリンク先からご覧ください。


★岡本源太さん(著書:『ジョルダーノ・ブルーノの哲学――生の多様性へ』)
博士論文にしてデビュー作である『ジョルダーノ・ブルーノの哲学』が、9月21日、新プラトン主義協会の協会賞を受賞されました。なお同書に関する書評や対談等には以下のものがあります。

- 森元庸介氏による紹介、『REPRE――表象文化論学会ニューズレター』第15号、2012年5月
- 檜垣立哉氏との対談「ヴィータ・ノーヴァ――新しい生命哲学と人間の新生」、ジュンク堂書店難波店(大阪)、2012年5月27日
- (フ)氏による書評、『書標』2012年5月号
- 山口信夫氏による紹介と合評、第39回ルネサンス研究会、同志社大学(京都)、2012年12月8日
- 福島聡氏による短評、『みすず』2013年1・2月合併号「2012年読書アンケート」
- 星野太氏による書評「無限に可塑的なる生」、『表象』第7号、2013年3月、270~275頁
- 山内朋樹氏による書評、『あいだ/生成』第3号、2013年3月、109~113頁
- 「新プラトン主義協会賞」受賞、2013年9月21日


★松本俊夫さん(著書:『逸脱の影像』)
ドキュメンタリー雑誌『neoneo』の公式サイトに、映像作家/研究者の風間正さんによる、『逸脱の映像』への書評記事が掲載されました。「情報負荷社会の中でメディア操作によって飼育された人間にならないために、またそういったメディア操作を目的とした映像を機能させないためにも、本書は我々現代人にとっての必読書と言える。しかし、何よりも『逸脱の映像』は、身体的で多様な映像の原初の力を取り戻すために、30年の時を経て掘り起こされたタイムカプセルのように、我々現代人に揺さぶりをかけてくるのだ」と評していただきました。


★中平卓馬さん(写真集:『都市 風景 図鑑』)
先月21日より来年1月13日まで六本木の森美術館で開催される展覧会「六本木クロッシング2013:アウト・オブ・ダウト 来たるべき風景のために」において、中平さんの写真作品が展示されています。同展は森美術館10周年記念展であり、平凡社さんから図録が刊行されています。図録にまかれた帯の写真は、中平さんの伝説的名作『来たるべき言葉のために』(風土社、1970年;オシリス、2010年)から採られたものです。


★昼間賢さん(訳書:サンドラール『パリ南西東北』)
今月平凡社さんから刊行されたアンソロジー『写真と文学』に、ご論考「すでになくなっているそれを見送ること――ピエール・マッコルランと写真」を寄せておられます。また、同書の巻末には「写真と文学をめぐるグックガイド」が付されており、そこでご高訳書『パリ南西東北』について、紹介文をお書きになっておられます。

写真と文学――何がイメージの価値を決めるのか
塚本昌則編
平凡社 2013年10月 本体3,200円 A5判並製382頁 ISBN978-4-582-23125-0
帯文より:写真論の新地平をひらく十余篇。バルトのそのさきへ。「イメージは逃げ去る。ことばはそれを追いかける。文学はその運動全体を把握しようとする努力である」(畠山直哉氏推薦)。
版元紹介文より:ヴァナキュラーな側面を含め、写真のもつ様々な機能を、主にテクストとの関係性において分析した13の珠篇。バルト、ベンヤミン、ソンタグら定番を超えたイメージ論の新地平。
寄稿者:林道郎(序)、森元庸介、塚本昌則、坂本浩也、内藤真奈、野崎歓、港千尋(随筆)、鈴木雅雄、齊藤哲也、星埜守之、永井敦子、倉石信乃(随筆)、桑田光平、昼間賢、佐々木悠介、澤田直、滝沢明子、管啓次郎(跋)。

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なお、弊社では月刊誌『現代思想』2013年11月号「ハラスメント社会」特集号の表3上段に広告を出稿しました。皆様のお目に留まれば幸いです。
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by urag | 2013-10-29 16:42 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 10月 28日

注目新刊:新版『アリストテレス全集』岩波書店、ほか

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新版 アリストテレス全集(1)カテゴリー論 命題論
内山勝利・神崎繁・中畑正志編
岩波書店 2013年10月 本体5,600円 A5判上製函入464頁 ISBN978-4-00-092771-0

帯文より:約半世紀振りの新版全集。ここには驚きがある、智慧がある。現代に未だ大きな知的刺激を与え続ける「万学の祖」の原像を浮かび上がらせる。

版元紹介文より:言語に表現される存在の基本的区分を論じ、古来アリストテレス入門に使用された『カテゴリー論』、言明の意味論と言明相互の論理関係を分析する『命題論』。「オルガノン」(学問の道具)の第一として後世の哲学に比類なき影響を及ぼした二著作に加え、古代の代表的な伝記、全集全体の道案内となる編者総説を収録する。

目次:
カテゴリー論(中畑正志訳)
命題論(早瀬篤訳)
アリストテレス諸伝
 ディオゲネス・ラエルティオス(近藤智彦訳)
 ヘシュキオス(近藤智彦訳)
 サン・マルコ図書館所蔵写本(近藤智彦訳)
 プトレマイオス(高橋英海訳)
解説(カテゴリー論/命題論/アリストテレス諸伝)
編者総説
 アリストテレスの生涯と著作(内山勝利)
 アリストテレス哲学案内(神崎繁)
 歴史のなかのアリストテレス――テキストと思想の冒険(中畑正志)
年表・地図
索引(カテゴリー論/命題論)

★発売済。岩波書店100周年記念出版のひとつです。全20巻+別巻の構成はこちら。第1回配本(第1巻)の12頁分の立ち読みPDFはこちら。付属の月報1は全8頁で、飯田隆「アリストテレスに出会った頃」と、坂口ふみ「横目で見たアリストテレス」を所収。出隆監修・山本光雄編の旧版全集では「カテゴリー論」と「命題論」は「分析論前書」「分析論後書」とともに第一巻(1976年)に所収。二作とも山本光雄さんの訳でした。二作の別訳には、「世界古典文学全集(16)アリストテレス」(筑摩書房、1966年)および「古典世界文学(16)アリストテレス」(筑摩書房、1976年)に収録された、松永雄二訳「カテゴリアイ(範疇論)」、水野有庸訳「命題論 (言葉によるものごとの明示について)」があります。さらに古い訳には、安藤孝行訳『範疇論・命題論』(増進堂、1949年)があります。旧訳版全集全17冊は、刊行年を気にしなければ、揃いで古書価2万円前後から買えます。旧訳版の最終重版は1993~1995年の4刷(第4次刊行)でした。この版で揃えようとすると正価が8万円強なので、半額程度にしかなりません(半額でも充分安いですが)。ともあれ、岩波書店さんには旧訳版も絶版扱いではなく、何かしらの形で入手可能なままにしてほしいです。なお、新版の第2回配本は12月5日、第5巻「天界について/生成と消滅について」とのことです。


無限の始まり――ひとはなぜ限りない可能性をもつのか
デイヴィッド・ドイッチュ著 熊谷玲美・田沢恭子・松井信彦訳
インターシフト 2013年11月 本体3,700円 46判上製616頁 ISBN978-4-7726-9537-4

帯文より:限りない知の宇宙へ出よ! 年間ベスト科学本(「ニューサイエンティスト」誌)、年間最重要作(「ニューヨーク・タイムズ」紙)。全米ベストセラー! 『世界の究極理論は存在するか』で〈知〉の衝撃をもたらしたドイッチュ、超弩級の新展開。宇宙において人間とはなにか? 人間はなぜ限りない可能性をもつのか? 多宇宙と量子物理学の核心とは? 生命が遺伝暗号DNAへ飛躍した謎とは? 文化と創造力はいかに進化するか? 望ましい政治の選択とは? 花はなぜ美しいのか? 持続可能性は良いことか? 物理学、天文学、生物学、数学、コンピューターサイエンス、政治学、心理学、哲学・倫理、美学を統合する「万物の理論」へ!

★まもなく発売。原書は、The Beginning of Infinity: Explanations that Transform the World(Allen Lane / Viking Press, 2011)です。目次詳細は書名のリンク先をご参照ください。著者のデイヴィッド・ドイッチュ(David Deutsch、1953-)はイスラエル・ハイファ生まれ、イギリス在住の物理学者で、オックスフォード大学量子計算研究センターに所属しています。本書の著者略歴では「量子計算理論のパイオニアにして、並行宇宙論の権威、多世界解釈の主唱者として知られる」と紹介されています。既訳書に『世界の究極理論は存在するか――多宇宙理論から見た生命、進化、時間』(林一訳、朝日新聞社、1999年)があります。この既訳書に続く、ドイッチュによる一般読者向けの読みもの第2弾が本書『無限の始まり』です。

★帯文にある通り、本書が展望する知の領域は広大ですが、つい最近、ポパー『歴史主義の貧困』の新訳(日経BPクラシックス、2013年9月)を読んだ方は、本書の次のような主張に目を留めるかもしれません。「本書で私が主張するのは、あらゆる進歩は、理論上と実際上のどちらの進歩であっても、それはある一つの人間活動、つまり私が「良い説明」と呼ぶものの探求によって生じたということである。良い説明の探求というのは、他に類を見ないほど人間的な行為だが、そこからは、最も非個人的な、宇宙レベルでの実在に関する基本的事実が得られる、それは、実在は、真に良い説明である普遍的な自然法則に従うという事実だ。宇宙レベルと人間レベルのあいだに存在する、このシンプルな関係性は、物事の宇宙レベルの構造において人々が果たす中心的な役割を暗示している」(10-11頁)。実際に本書の参考文献でもっとも多い著書が上がっているのはポパーなのです。

★著者はこう続けます。「進歩は、破局のなかで、あるいはある種の完了という形で、かならず終わりを迎えるものなのだろうか? それとも終わりのないものなのだろうか? 答えは後者だ。それがまさに、この本のタイトルで言う「無限」である。〔・・・〕進歩には必然的な終わりはないが、必然的な始まり、つまり「原因」や「進歩の始まりと同時に起こる一つの事象」、「進歩が始まり、広がっていくための必要条件」はある〔・・・〕。こうした始まりの一つずつが、その分野にとっての「無限の始まり」ということになる」(11頁)。主要な各章の末尾には、その章が扱う分野やトピックにおける「無限の始まり」が何であるかが箇条書きで列記され、さらに「まとめ」が付されています。

★「未来の知識の内容を予測できないことが、未来の知識が限りなく成長することの必要条件である」(270頁)と著者は書きます。著者は科学的探究の姿勢においても政治的選択の姿勢においてもポペリアンであり、ウィトゲンシュタインや言語哲学、ポストモダン思想を拒むものです。また、マルクスやジャレド・ダイアモンドにも痛烈な批判を向けています。中でもはっとさせられたのは、第17章「持続不可能性」で著者が示した次の要点です。「願望としての、あるいは計画に対する制約としての、持続可能性(の見せかけ)を拒否すること」(587頁)。ドイッチュの問題提起といかに向き合うかが現代の知に問われている気がします。


国境 完全版
黒川創(くろかわ・そう:1961-)著
河出書房新社 2013年10月 本体3,600円 46変形判432頁 ISBN978-4-309-02217-8

帯文より:名著新生。文学の歴史の「失われた環(ミッシングリンク)」が、そこに残っている。漱石が、植民地「満州」で果たしていた、知られざる使命。鴎外が、「うた」に隠した戦場での真実と良心の疼き。異国語としての「日本語」を生き、抗った、数多くの作家たち。あくなき資料検証と、深い思索がひらいた、未踏の日本語文学史。

あとがきより:「1998年初めに旧版『国境』を上梓したとき、自分にとって、このテーマはきりのない仕事になるのだろうな、と実感した。日本の旧植民地を背景として書かれた、たくさんの(そして、いまは大半が忘れられている)「日本語文学」と、そこに流れた精神史のかかわりを明らかにしたいと考え、手探りでこの作業に取り組みはじめたのは、まだ、1990年代の前半だった。(中略)『国境』の仕事を今度こそ本当に完結させるためには、さらに自分はここから何を書くべきか。足かけ20年ごしで、やっと、それが見えてきた。これを実行したのが本書『国境[完全版]』である」。

目次:
漱石・満州・安重根――序論にかえて
漱石が見た東京
居心地の悪い旅のなかから
漱石の幸福感
それでも、人生の船は行く
国境
月に近い街にて――植民地朝鮮と日本の文学についての覚え書き
輪郭譚
洪水の記憶
風の影
漂流する国境――しぐさと歌のために
98年版『国境』のための「あとがき」
視野と方法――[完全版]のためのやや長いあとがき
初出一覧

★発売済。親本は1998年、メタローグ刊。当時の帯文はこうでした。「国境にとどまって、ことばを生きなおす。旧植民地という領域を越えて、日本語文学の想像力のゆくえをたどる思考の軌跡。作家と作品に秘められたミステリーに迫る最新評論集」。今回の完全版は、奥付前の特記によれば「大幅改訂の上、増補したもの」とのことです。巻末の完全版用あとがきにはこう書いてあります。「本書『国境[完全版]』は、今年(2013年に入って新しく書いたものと、旧版『国境』に収めた主要論考で構成することにした。巻頭の「漱石・満州・安重根」から「それでも、人生の船は行く」までが、今年の新しい論考。それより後ろのものが、旧版『国境』に収めていたものである。これらにも、執筆当時の時制を前提としながら、必要と思える加筆・改稿を行なった」(424頁)。「初出一覧」によれば巻頭の50頁を超える「漱石・満州・安重根」が書き下ろしで、それに続く4篇は今年、雑誌等に発表されたものです。なお、旧版では「風の影」と「漂流する国境」の間に「この赤ん坊のような宇宙――ヤドランカ・ストヤコヴィッチ」というテクストがありましたが、完全版では収録から外れたようです。


白川静を読むときの辞典 
立命館大学白川静記念東洋文字文化研究所=編
平凡社 2013年10月 本体1,800円 四六判並製256頁 ISBN978-4-582-40336-7

帯文より:白川静に親しむために、知りたい言葉がある。亦声・擬制・興的発想・ことだま・祭事詩・載書・自己詛盟・呪禁・説文解字・大盂鼎・巫祝・文身・卜辞・文字系列などを平易に解説した白川説への手引きの書。

★発売済。執筆者65名、「安騎野の冬猟歌」から「和名類聚抄」まで50音順に約600項目。巻末には白川さんの主要著作紹介と索引。辞典好きや雑学好きにはたまらない一冊で、どこを開いて読んでもためになります。古代世界がそこかしこに口をあけて待っていて、ときどき禍々しい語句の説明をごく淡々と読者に与えてくれるのも、刺激があっていいです。こういう本こそ通勤通学の短時間読書に向いているのかも。

★岩波書店さんは今年が創業100周年、平凡社さんは来年創業100周年ということで、平凡社さんでは100周年記念出版として『竹田津実写真集 アフリカ――いのちの旅の物語』(本体10,000円、B5横判上製304頁、ISBN978-4-582-52973-9)を出版されました。竹田津実(たけたづ・みのる:1937-)さんは北海道在住の獣医さんで、数々の動物写真集を出しておられます。今回の新刊は、アフリカのサバンナを35年にわたって撮り続けてきた写真の中から精選して構成。写真とともに竹田津さんのコメントも添えられています。序文は河合雅雄さん。色彩豊かな大自然とそこに生きる動物たちが活写されています。本書の刊行記念に以下の通り写真展が行われています。

◎キヤノンギャラリー「アフリカ いのちの旅の物語」展(銀座:10月24日~30日、梅田:11月7日~13日、福岡:11月21日~12月3日、札幌:12月19日~2014年1月14日 ※いずれも日曜・祝日は休館)
◎栃木県のツインリンクもてぎ・森の自然体験ミュージアム〈ハローウッズ〉野外展示「アフリカ 竹田津実 写真展『いのちの旅の物語』」(10月20日~12月1日)
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by urag | 2013-10-28 02:42 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 10月 27日

注目新刊:バディウ『コミュニズムの仮説』水声社、ほか

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コミュニズムの仮説
アラン・バディウ著 市川崇訳
水声社 2013年10月 本体3,000円 四六判上製267頁 ISBN978-4-89176-989-5

帯文より:21世紀の〈共産主義〉を闘え! パリ・コミューン、文化大革命、五月革命……それらは果たして「敗北」だったのか? コミュニズムの「理念」の復権を試み、解放の政治の可能性を問う〈論争的〉状況論。

目次:
序章 人は何を敗北と呼ぶのか?
第一章 われわれはいまだに、六八年五月革命と同じ時代を生きている
 1 六八年五月再考、四十年後
 2 ある始まりについての草稿
 3 この危機はどのような現実にまつわる見せ物なのか?
第二章 最後の革命?
第三章 パリ・コミューン――政治に関する政治宣言
第四章 コミュニズムの理念
原註
訳註
訳者あとがき

★発売済。原書は、L'hyopothèse communiste(Nouvelles Éditions Lignes, 2009)です。水声社さんではこれまでバディウの著書や共著を3冊刊行されています。単著『サルコジとは誰か?――移民国家フランスの臨界』(榊原達哉訳、2009年6月)、N・トリュオングとの共著『愛の世紀』(市川崇訳、2012年7月)、そして論文「共産主義の“理念”」が収録された、C・ドゥズィーナス+S・ジジェク編『共産主義の理念』(長原豊監訳、2012年6月)です。3点目の論文は長原豊さんの翻訳で、今回の単著では第4章として再録され、市川さんによって新訳されています。『コミュニズムの仮説』はバディウの政治的時評集「状況 circonstances」の第5集です。第1集は2003年刊『コソボ、9月11日、シラク/ルペン』、第2集は2004年刊『イラク、スカーフ、ドイツ/フランス』、第3集は2005年刊『「ユダヤ人」という言葉の射程」』、第4集は2007年刊『サルコジとは誰か?』で、この第4集のみ上述の通り訳書があります。現在までのところフランス語原書では第6集『歴史の覚醒〔=再開〕Le réveil de l'histoire』(2011年)まで刊行されています。

★今回の新刊も時評シリーズの一冊ではあるのですが、「訳者あとがき」で市川さんが指摘しておられるように、「かなり息のがないバディウ自身の政治思想の形成を辿りながら、六八年五月革命、中国文化大革命、パリ・コミューンという十九世紀後半以降の三つの革命を記述し、分析し、そこから「コミュニズムの仮説」を取り出し、さらには有効であると信じられたその理念について論じながら、それを実際に作動させようという極めて政治性の高い意図によって書かれている」本です。市川さんのご説明に従って本書の初出を辿ると、序章は書き下ろしながら、1979年に出版されたバディウの戯曲集『赤いスカーフ L'Echarpe rouge』(Maspéro, 1979)からの長い引用を含んでいます。第一章の第1論文は2008年の講演、第2論文は1968年当時に執筆・発表されたものの再録で、第3論文は「ル・モンド」紙への寄稿(2008年)の完全版です。なお、1968年という政治の季節をめぐるバディウの発言は、『1968年の世界史』(藤原書店、2009年)に収録された藤本一勇さんによるインタヴュー「68年とフランス現代思想」でも読むことができます。第二章は2002年の単著『文化革命――最後の革命? La révolution culturelle: La dernière révolution?』(Les Conférences du Rouge-Gorge, 2002)が初出で、第三章は2003年の単著『パリ・コミューン――政治に関する政治宣言 La Commune de Paris: Une déclaration politique sur la politique』(Les Conférences du Rouge-Gorge, 2003)が初出。第四章は2009年の講演の再録です。

★本書はコミュニズムの再起動へ向けた力強い言挙げです。第一章の第3論文の末尾にはこんな言葉があります。「人類の解放というテーマは、その実効力をなんら失ってはいない。かつてこの力を名指していた「コミュニズム」という言葉は、確かに貶められ、頽廃してしまった。しかし今日その言葉の消滅は、既成秩序の保護者、破局を描く影像の熱心な役者たちにとってだけ役に立つのである。われわれはこの言葉をその新たな明晰さのうちに蘇らせよう。それはかつて、マルクスがコミュニズムについて、「それは伝統的な諸観念と最もラディカルなかたちで袂を分かち」、「各々の自由な発展が全員の発展の条件であるような協同組織を」出現させると語ったときに、この言葉が持っていた美徳である。/資本主義的議会主義との完全な決別、民衆の現実に即して発案される政治、理念の至高性。われわれを危機の映像から遠ざけ、われわれの覚醒へと連れ戻すすべてがそこにあるのだ」(90頁)。希望への強烈な希求。これをたとえ冷めた眼で傍観しえようとも、それを圧殺することはできないでしょう。なぜならそれはずっと前から私たちの胸の内にあるのですから。

★水声社さんの9月末から今月にかけての新刊には以下の書目があります。

安岡真『中上健次の「ジャズ」――1965年新宿から古層へ』水声社、2013年10月、本体2,800円、四六判上製256頁、ISBN978-4-89176-993-2
宮川絹代『ブーニンの「眼」――イメージの文学』水声社、2013年10月、本体6,000円、A5判上製432頁、ISBNISBN978-4-89176-984-0
ダヴィッド・セルヴァン=シュレベール『さよならは何度でも――ガンと向き合った医師の遺言』二瓶恵訳、水声社、2013年10月、本体1,500円、四六判並製190頁、ISBN978-4-89176-985-7
フアン・カルロス・オネッティ『別れ』寺尾隆吉訳、水声社、2013年10月、本体2,000円、四六判上製168頁 ISBN978-4-89176-953-6 
クロード・トレスモンタン『ヘブライ人キリスト――福音書はいかにして成立したか』道躰章弘訳、水声社、2013年10月、本体5,000円、A5判上製364頁 ISBN978-4-89176-994-9
デイヴィッド・マークソン『これは小説ではない』木原善彦訳、水声社、2013年9月、本体2,800円、四六判上製320頁、ISBN978-4-89176-986-4
黒木朋興『マラルメと音楽――絶対音楽から象徴主義へ』水声社、2013年9月、本体7,000円、A5判上製504頁、ISBN978-4-89176-981-9

いずれも読みごたえのあるものばかりですが、一昨年にガンで亡くなった精神科医の遺著『さよならは何度でも』と、福音書の起源に迫る『ヘブライ人キリスト』、そして実験的小説『これは小説ではない』の3冊は特に第一印象が強いです。『さよならは何度でも』の著者の既訳書には、『フランス式「うつ」「ストレス」完全撃退法』(山本知子訳、アーティストハウスパブリッシャーズ、2003年)や『がんに効く生活――克服した医師の自分でできる「統合医療』(渡邊昌監訳、山本知子訳、NHK出版、2009年)があります。最後の著書となる『さよならは何度でも』では、脳腫瘍の再発と闘った日々が静かな筆致で書かれており、涙なしには読めません。号泣必至ですから通勤通学中の読書には向いていませんけれど、家族思いの素晴らしい本ですから、広くお薦めしたいです。

『ヘブライ人キリスト』の著書トレスモンタン(Claude Tresmontant, 1925-1997)はフランスの哲学者(科学哲学・中世哲学)で、トレモンタンとも表記されます。既訳書には『ヘブル思想の特質』(西村俊昭訳、創文社、1963年)、『テイヤール・ド・シャルダン』(美田稔訳、新潮社、1966年)、『パウロス――キリストの秘義の解説者』(岳野慶作訳、中央出版社、1978年) 、『哲学の方法――経験科学と形而上学』(豊田仁美訳、レグルス文庫、1985年)、『現代科学にもとづく形而上学――今日、神の実在の問題はいかに提出されるか』(道躰章弘訳、水声社、2003年)があります。『ヘブライ人キリスト』は道躰さんによる訳書第2作になります。1983年にフランスで刊行された本書で著者は、新約聖書の四福音書はギリシア語ではなくヘブライ語で書かれたものだと分析します。「ヘブライ語からギリシア語、ギリシア語からラテン語、ラテン語からフランス語に、表現が改変され、歪曲され、終いにはわけの解らぬものになる。情報の本意が伝わらぬ。ギリシア語やラテン語の翻訳を放棄してこれを単に転写するだけの仏訳者等の悪癖ゆえに、情報は重大な改変を被る。もしくは遮断される」(32頁)と嘆じる著者の綿密なテクスト読解に圧倒されます。

『これは小説ではない』は版元ブログではこう紹介されています。「作家、芸術家を襲う病気、狂気、不遇、死因……トリビアルな伝記的記述が積み重ねられていく、未曾有の〈死の類別目録〉小説。ジョイス、ベケットに比せられる実験的な米国小説家デイヴィッド・マークソンの「まったく物語のない小説」」。本書の冒頭はこうです。「〈作者〉は文章を書くのを本気でやめたがっている。/〈作者〉は物語をでっち上げることに死ぬほどうんざりしている」(11頁)。ここから、バイロンに始まりディジー・ディーンに至る無数の作者や様々な肩書の人物たちの死が簡潔に列記されています。ただ列記してあるだけではなくて、引用やコメントが挟まれる時もあります。特にラストが印象的。著者自身はがんを患っており、2010年に自宅アパートメントで82歳の生涯を閉じました。アメリカのポストモダン文学を語る上で欠かせない一人ですが、本書が初訳本になります。


超訳マルクス――ブラック企業と闘った大先輩の言葉
紙屋高雪訳
かもがわ出版 2013年10月 本体1,200円 A5判並製112頁 ISBN978-4-7803-0645-3

帯文およびカバーソデ紹介文より:マルクスがぼくたちの言葉で革命論を語っている。いま、時代の選択肢は、「左翼」へ。死ぬほど働いているやりがい搾取な社畜どもとワープア&非正規なおまえらへ捧げる。100年の時を超えてマルクスが贈る、働きかたとつながりかたと反撃のしかた。

版元紹介文より:一億層ブラック化する現代ニッポンへ贈る。ブラック企業が焦点になる現在、マルクスの数ある著作から、関連する重要5文献を精選し、現代の若者のネット世界の言葉遣いで、マルクスが身近になり、理解できるので力にもなる。また、日本のブラック化を取り上げ、マルクスと現在をつなぐイラスト、マンガを豊富に掲載しました。

目次:
はじめに
[一億総ブラック化社会のリアル1]ある外食産業の現実
1 働いているお前らに聞いてほしい(国際労働者協会創立宣言、1864年)
  お前らは誰かと手をとりあえないってことはないの?(訳者コメント)
  [一億総ブラック化社会のリアル2]表は華やかに見えても・・・
2 金持ちの相続権なくせば世の中変わるのかよ(相続権についての総評議会の報告、1869年)
  「橋下徹」の気持ちで考えてみる(訳者コメント)
  [一億総ブラック化社会のリアル3]政府が進める驚きの「労働規制改革」
3 奴隷解放の父、リンカーンへマルクスからメール(アメリカ大統領エーブラハム・リンカーンへ、1864年)
  「人ごとじゃない」ってニュースみて思える?(訳者コメント)
  [一億総ブラック化社会のリアル4]アルバイトも同じ権利を持つ・・・牛丼「すき家」店員の闘いから
4 マルクス流起業のススメ、消費税がダメなワケ、ほか(個々の問題についての暫定中央評議会大議員への指示、1868年)
  起業すれば社畜からぬけだせるか(訳者コメント)
  [一億総ブラック化社会のリアル5]労働時間の制限の背後にあった労働者の闘い
5 スクープ!マルクスにインタビュー!(『ザ・ワールド』紙通信員とのインタビュー、1871年)
  “生放送”のマルクス(訳者コメント)
  [一億総ブラック化社会のリアル6]グローバリズムにはインターナショナリズムで反撃しよう

★発売済。「今あなたの横で息をして、しゃべって、2ちゃんねるを見つつコーヒーと「うまい棒」でもかじりながらブログに書き込んでる――そんなマルクスをお届けしたい」(「はじめに」より)との訳者の思いから生まれた本です。もともと訳者がブログで公開したところこれが好評を得て書籍化。いまだかつてこれ以上ないというくらいにくだけまくった文章になっています。書名のリンク先で「立ち読み」できるのでぜひお試しください(吹き出してしまう可能性があるので、飲みながらの読書に注意)。「ぼくたちの言葉」にここまでおもねらなくても、という声もひょっとしたらあがるのかもしれませんが、分かりやすい現代語になった意義というのは小さくないように思います。リンカーンの言葉を「ドレイ制、死ね!」と超訳したくだりで私はついにお茶を吹きました。ここまで思いきると実に清々しいです。

★最後のインタビューもこんな感じです。「インタナショナルについて何か調べてこいって言われて、おれはがんばってきた。(中略)で、マルクス先生の部屋で会った。ソクラテスの胸像みたい、とか思った。(中略)おれはすぐ用件に入った。/「世の中の人は、インタナショナルのことをよく知りもしないのに、『とにかくヤバい、なんでヤバいのかよくわからんけど、まあとりあえずヤバい組織だ』そう思いこんでるみたいッスね」とおれは言った」(87頁)。「わかるように説明してこらいたいッス、とこっちが言うと、マルクス先生は爆笑した。/こっちがビビってるとわかって、先生は、ちょっとうれしそうだった。「そんな。お前。謎の組織とか。そんなわけないだろ」 マルクス先生は、すごくうまいドイツなまりの英語でしゃべりだした。/マルクス先生:うちらの組織はオープンにされてんだよ? ぜんぶレポートにしてる。それを印刷して出版してる。そういうのを全部ムシしてる本格的な馬鹿は、まあ、あれだ。放っとけ」(88頁)。二色刷の見やすいレイアウトや、随所に散りばめられたイラストも軽妙で味があります。とにかく一読の価値ありです。


21世紀エネルギー革命の全貌
ジャン=マリー・シュバリエ/パトリス・ジョフロン/ミッシェル・デルデヴェ著 増田達夫監訳・解説 林昌宏訳
作品社 2013年10月 本体2,200円 46判上製248頁 ISBN978-4-86182-452-4

帯文より:シェール革命、福島原発事故、中国や中東産油国の行方、新エネルギー開発戦争……エネルギー大転換期の未来を見通す。欧州を代表するエコノミストが戦略と政策をまとめあげたベストセラー。

目次:
[日本語版への序文]福島事故後の日本が、科学的で冷静な分析をもとにした、シュヴァリエさん等の提言から学ぶ点は多い(田中伸男:国際エネルギー機関IEA前事務局長)
[日本語版への序文]われわれは、エネルギー史の大転換点にいる
[はじめに]エネルギー問題は、ふたたび政治課題になる
第1章 エネルギー政策と気候変動対策の再考
 1 エネルギー・システムにおけるウィルス的存在の地球温暖化
 2 エネルギーをめぐる経済と地政学に関する見通し
 3 エネルギー政策を立てる際の条件を概観する
第2章 叡智を集め、最も確実なエネルギーを確保する
 1 エネルギーにまつわるリスクを概観する
 2 安全にはコストがかかる
 3 安全のガバナンスとは?
 4 リスクの受け止め方と情報に関するパラドックス
第3章 本当の価格で、最も安いエネルギーの利用を促進する
 1 今後のエネルギー・コスト動向
 2 「政策的な価格」の正統性と限界
 3 ヨーロッパの税制を通じてエネルギー料金を誘導する
 4 価格シグナルによる省エネの推進
第4章 節度ある再生可能なエネルギー・システムの創造
 1 エネルギーの「新たなフロンティア」を目指す
 2 道筋は前途多難
 3 エネルギーの未来の見取り図
 4 現在利用できるものの組み合わせで、低炭素エネルギーをつくり出す
 5 経済危機に見舞われても方針は変えない
第5章 エネルギーをめぐるヨーロッパの行方
 1 ヨーロッパのエネルギーはモザイク状態
 2 ヨーロッパに共通の大きな課題
 3 電力ネットワークの構造的役割とヨーロッパ内の電力取引
 4 都市と地域のイニシアティブを支援する
第6章 エネルギー革命の新たなヒーローを盛り立てよう
 1 エネルギーの表舞台における役割の再配分
 2 エネルギー変革者の新たな自由度
 3 消費者は主役になりうるか
 4 シリコンバレーからソーラーバレーに変身するカリフォルニア州
結論 市民に責任感を植え付ける
 1 ヨーロッパがもつ見通し(あるいは政策)
 2 不確実性と複雑性が渦巻くなかでの勇気ある政治
 3 効率性、多様性、柔軟性
 4 情報、透明性、民主的プロセス
 5 中央集権vs参加型の地方分権
 6 エネルギーの将来について討論しなければならない
[日本語版解説]日本を新たなエネルギー・フロンティアの先駆者に(増田達夫)
 1 はじめに
 2 日本のエネルギー政策の足取り
 3 欧州の経験からの示唆
 4 日本の直面するエネルギー分野の課題
 5 日本の新しいエネルギー・システムに不可欠の要素
訳者あとがき(林昌宏)

★発売済。原書は、L'avenir énergétique: Cartes sur table(Gallimard, 2012)です。好評の既訳書『世界エネルギー市場――石油・天然ガス・電気・原子力・新エネルギー・地球環境をめぐる21世紀の経済戦争』(増田達夫監訳、林昌宏訳、作品社、2007年)に続く、作品社さんでのシュヴァリエの訳書第2弾。こんにちのエネルギー問題を考える上で必読書となる一冊です。既訳書にはほかに、『石油危機時代――産油国・消費国・メージャー』(青山保・友田錫訳、サイマル出版会、1975年)や『100語でわかるエネルギー』(斉藤かぐみ訳、文庫クセジュ、2010年)があります。シュヴァリエはフランスを代表するエネルギー専門のエコノミスト、テレビをはじめ各種メディアへの露出も多数。将来的に到来するエネルギー革命の時代を展望するための情報を総括した本書も、堅苦しい専門研究書に終わらない、読者の眼を惹く内容になっています。

★たとえばこんなくだりがあります。「消費者は、自家用車のガソリンを満タンにしたり、ガス代や電気代を支払ったりする際に、「それらの価値は適正だろうか」という疑問を感じるのではないか。さらには複雑で不明瞭なシステムで弄ばれる囚人のような気分に消費者は陥るかもしれない・・・。そのような複雑性を解明するためには、エネルギーの長いサプライ・チェーンを、学術的にコスト分析してみる必要がある」(84頁)。確かに私たち利用者はまったく仕組みが分かっていないだけでなく、課金が正当であるかどうかもよく知りません。しかし著者たちが日本語版への序文で述べるような「エネルギー史の大転換」にいる私たちは、「エネルギーの生産から消費の段階にいたるまで、これまでにない避けることのできない問題に直面している」がゆえに、「今こそ、エネルギーの未来について、すべてを包み隠さず語り合うとき」(3頁)なのでしょう。日本では今後さらに様々な自然災害が警戒されていますから、エネルギーの未来について考えることは、日本の未来そのものを考えることに直結します。監訳者解説も含め、本書は多くのことを私たちに教えてくれます。

★なお現在、紀伊國屋書店さんではチェーンの17店舗で、「作品社創業35周年×青土社『現代思想』40周年記念"ビジネス人文書"フェア」を開催中です。

10年先を見通し、生き抜くためのビジネス人文書!――ワンランク上を目指し、闘うあなたへ

フェア開催店舗(開催日程): 
【80点展開】新宿本店(開催中~11/30)・札幌本店(11/2~12/上旬)
【30点展開】梅田本店(10/28~11/中旬)・グランフロント大阪店(10/28~11/30)・本町店(10/末~11/30)・福岡本店(11/1~11/30)・ゆめタウン博多店(10/末~11/30)・長崎店(開催中~11/30)・前橋店(10/末~11/30)
【10点展開】新宿南店(開催中~11/30)・久留米店(10/下旬~11/30)・佐賀店(10/31~11/30)・熊本光の森店(開催中~11/30)・熊本はません店(開催中~11/30)・大分店(開催中~11/30)・鹿児島店(11/10~12/10)・さいたま新都心店(10/下旬~11/30)
※それぞれ開催日程が異なるので、詳細は各店舗にお問い合わせください。

内容:作品社創業35周年×青土社『現代思想』40周年記念コラボフェア。世界経済の不安、終わりなきテロと戦争、アベノミクスの行方、そして、私たちの職場と人生――目まぐるしく世界が変わり、先の全く読めないこの時代。ネットで安易に引き出せる情報や、小手先の自己啓発本・ノウハウ本ではもはや太刀打ちできない社会を私たちはいま、生きています。このような社会を"生き抜く"ためには、積極的に情報を集め、分析し、己の脳で未来のヴィジョンと戦略を描き――そして自らの力で選択、決断を行うことが必要になるのです。当フェアでは、そんな闘うあなたの"一助"となりうる本たちを集めました。その名も「ビジネス人文書」。人文書の奥深い理論とビジネス書の実践を融合させた、新たな「知」の提唱です。この新しい「ビジネス人文書」が、混迷した社会を乗り切るための《光》となりうることを願ってやみません。 また、今回特別に「早稲田政治経済攻究会」の学生メンバーにもご選書頂きました。ビジネス・人文界へ著名人を数多く輩出している、言わずと知れた大学名門サークルです。現代の若者は一体何を読んでいるのか?――優れた選書・推薦コメントをぜひご堪能ください。
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by urag | 2013-10-27 16:45 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 10月 25日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

新規開店情報を三連投するのは当ブログでは初めてな気がします。

2013年8月29日(木)開店済
文教堂鎌倉とうきゅう店:90坪
神奈川県鎌倉市小町1-2-11 鎌倉とうきゅう6F
日販帳合。JR横須賀線「鎌倉駅」駅前の「鎌倉とうきゅう」の6階に開店済のお店ですが、弊社写真集の既刊書のご発注をいただきました。90坪という数字は「空犬通信」さんから。今月の弊社新刊『パリ+』発売を受けてのご発注かと想像しています。鎌倉市内での文教堂さんの既存店には「鎌倉店」(神奈川県鎌倉市津670-3;湘南モノレール「西鎌倉駅」から徒歩10分)や、「鎌倉台店」(神奈川県鎌倉市台5-8-29;湘南モノレール「富士見町駅」から徒歩15分)などがあります。


2013年11月下旬開店
TSUTAYA BOOK STOREさせぼ五番街店:??坪
長崎県佐世保市新港町2-7、3-6ほか させぼ五番街
日販帳合。弊社へのご発注は写真集既刊書主力商品。JR佐世保線「佐世保駅」みなと口より徒歩1分、県道11号線沿いにオープン予定の大型複合商業施設「させぼ五番街」内に出店するようです。短冊でのご発注のみなので、概要や規模はよくわかりません。「させぼ五番街」の店舗一覧を含む2013年9月2日付プレスリリース「施設概要 vol.1」によれば、書籍、文具、CD・DVDの販売を行う店舗であるようです。また、同20日付プレスリリース「施設概要 vol.2」では、ヴィレッジヴァンガードも出店することが発表されています。
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by urag | 2013-10-25 13:21 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2013年 10月 23日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2013年12月20日(金)オープン
蔦屋書店イオンモール幕張新都心店:図書440坪、レンタル140坪、セル50坪、ステーショナリー70坪、カフェ65坪
千葉県千葉市美浜区豊砂1-1 イオンモール幕張新都心 グランドモール1F
日販帳合。弊社へのご発注は写真集の主力商品を中心に、外国文学と人文書を少々。経営主体は株式会社MeLTS(メルツ)。池袋・台東区・江戸川区・津田沼・稲毛・小岩にてTSUTAYAやブックオフを運営している会社です。沿革によれば、今から20年前の秋(1993年9月)、日販とCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の合弁会社「日本メディアリンク株式会社」(CD・ビデオレンタル店向けの加工・卸代行業務)の直営店部門として発足し、TSUYATAレンタル店を事業展開、その後、日販の完全子会社となり、レンタル+図書販売の複合店や、飲食店、ブックオフなど、フランチャンズ店の運営を主体にやっておられるご様子です。社名には、Media Live Total Stationという意味が込められているようです。

MeLTSの代表取締役・石田耕二さんのお名前でいただいている挨拶状によれば、今回の幕張新都心店は、図書販売が主力の店舗としては、TSUTAYA津田沼店、BooksMeLTS越谷店に続く3店舗目で、「「代官山蔦屋書店」スタイルをベースに、他企業との融合、ジャンルMIXによる新しい書店のカタチを提案し、プレミアエイジのお客様のニーズにも答えられるお店づくりを目指します」とのことです。同店については先月の記事に詳しく書きましたが、同モールではグランモール3Fにヴィレッジヴァンガード、ファミリーモール1Fには未来屋書店が出店します。この2店舗からは弊社にはまだご発注は来ていません。いただくとしても来月あたりではないかと思います。
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by urag | 2013-10-23 19:21 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2013年 10月 22日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2013年11月中旬開店
宮脇書店ゆめモール下関店:200坪
山口県下関市新椋野1-1017
大阪屋帳合。弊社へのご発注は外国文学1点。立地はJR山陽本線「幡生駅」下車徒歩25分、中国自動車道「下関IC」至近、矢風呂池の向かい側に位置する、今春より株式会社イズミが建設中の「ゆめ(youme)モール下関」内に出店。同モールでオープン予定の専門店約20店舗のひとつです。「宇部・関門地域の建設、経済、自治、交通など様々な話題を扱う」というニュースサイト「宇部ジャーナル」2012年9月9日付記事「イズミ、下関市の新椋野に「ゆめマート」を計画」によれば、2009年にはすでに出店計画があったそうですが、諸事情があるようです。そのためか、ゆめタウン→ゆめマート→ゆめモールと業態が変更になっています。

着工前の更地状態の写真は、「山口新聞」2012年9月8日付記事「イズミが下関に「ゆめマート」 新椋野に来週出店」に掲載されています。株式会社イズミの2013年4月30日付プレスリリース「『youme モール下関(仮称)』新築工事起工のご案内」によれば、ゆめモールというのは「小商圏型フォーマット「youme マート」を核に、複数のテナントさまを一箇所に集約したオープンモール形式の新業態」とのこと。下関店が「youme モール型店舗」の第一号店となる、と発表されています。ちなみに先の「山口新聞」記事によれば、ゆめマートというのは「食品スーパーにドラッグストアを併設する近隣型ショッピングセンター(NSC)」という業態なのだそうです。

イズミはこの下関店から車で10分ほどの場所に2009年12月、140の専門店を擁する「ゆめシティ」(下関市伊倉新町3-1-1)をオープンさせています。ここの2Fにも宮脇書店が入っています。
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by urag | 2013-10-22 15:28 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2013年 10月 21日

本日取次搬入:千葉雅也『動きすぎてはいけない』河出書房新社

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動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学
千葉雅也(ちば・まさや:1978-)著
河出書房新社 2013年10月 本体2,500円 46変形判上製372頁 ISBN978-4-309-24635-2

帯文より:接続過剰(つながりすぎ)の世界から「切断の哲学」へ。思想界の超新星、衝撃のデビュー作。“もっと動けばもっとよくなる”“もっともっとつながりたい”……動きすぎ、関係しすぎて、ついには身動きがとれなくなった世界でいかに生きるか。待望のドゥルーズ入門。

推薦文:「ドゥルーズ哲学の正しい解説? そんなことは退屈な優等生どもに任せておけ。ドゥルーズ哲学を変奏し、自らもそれに従って変身しつつ、「その場にいるままでも速くある」ための、これは素敵にワイルドな導きの書だ」(浅田彰)。

推薦文:「超越論的でも経験的でもなく、父でもなく母でもない「中途半端」な哲学。本書は『存在論的、郵便的』の、15年後に産まれた存在論的継承者だ」(東浩紀)。

目次:
序――切断論
 0-1 『アンチ・オイディプス』と『千のプラトー』
 0-2 非意味的切断の原理
 0-3 接続的/切断的ドゥルーズ
 0-4 CsO、LSD、H2O
 0-5 生成変化を乱したくなければ、動きすぎてはいけない
 0-6 方法――ドゥルーズ哲学の幼年期へ
 0-7 セルフエンジョイメント
第1章 生成変化の原理
 1-1 物化と生成変化――万物斉同に抗する区別
 1-2 生成変化論のレトリック(1)――区別のある匿名性
 1-3 生成変化論のレトリック(2)――微粒子の関係
 1-4 出来事と身体をパフォームする
 1-5 心身並行論と薬毒分析
 1-6 スピノザ主義から関係の外在性へ
第2章 関係の外在性――ドゥルーズのヒューム主義
 2-1 『経験論と主体性』によるカント批判
 2-2 差異=分離の原理
 2-3 空間と恩寵
 2-4 メイヤスーとハーマン
 2-5 事情、因果性の部分化
 2-6 結果=効果の存在論
 2-7 原子論に対する思弁的解決
 2-8 汎-観想論――時間の第一の総合
第3章 存在論的ファシズム
 3-1 生気論的ホーリズム――《宇宙》
 3-2 潜在性の逆超越化
 3-3 代理-表象不可能性――時間の第二・第三の総合
 3-4 構造主義的ホーリズム――《欠如》
 3-5 ガタリとラカン
 3-6 否定神学批判、複数的な外部性、変態する個体化
第4章 『ニーチェと哲学』における〈結婚存在論〉の脱構築
 4-1 肯定を肯定する
 4-2 ニーチェの多元論=経験論
 4-3 ディオニュソスとアリアドネの結婚
 4-4 ニヒリズムの徹底
第5章 個体化の要請――『差異と反復』における分離の問題
 5-0 後半への序――関係主義から無関係の哲学へ
 5-1 やる気のない他者と超越論的愚かさ
 5-2 イロニーからユーモアへの折り返し
 5-3 二つの現働性
 5-4 強度=内包性の倫理
第6章 表面、深層、尿道――『意味の論理学』における器官なき身体の位置
 6-1 表面の無-意味――《裂け目》
 6-2 深層の下-意味――多孔性・多傷性
 6-3 肛門的、尿道的、性器的
第7章 ルイス・ウルフソンの半端さ
 7-1 ドント・トリップ・オーバー・ザ・ワイヤー
 7-2 成功したメランコリー
第8章 形態と否認――『感覚の論理』から『マゾッホ紹介』へ
 8-1 純粋形式と非形態vs歪曲された形象
 8-2 純粋否定と死の本能
 8-3 否認、一次マゾヒズム
 8-4 快原理の二つの彼岸
第9章 動物への生成変化
 9-1 中間の動物
 9-2 ユクスキュルのダニ
 9-3 エチカ=エソロジーの陰
 9-4 ノマドの暗い底
 9-5 死を知る動物
エピローグ――海辺の弁護士
あとがき

★本日10月21日取次搬入の新刊です。まもなく書店店頭でも順次発売開始となります。千葉さんのデビュー作です。昨年東大に提出された博士論文「ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学」を大幅改稿したものです。ちなみに博士論文の主査は小林康夫さん、副査は小泉義之さん、高橋哲哉さん、中島隆博さん、松浦寿輝さんです。小泉さんは本書の書評を『文藝』2013年冬号にすでにお寄せになっています。本書に関わった編集者はお二人で、単行本化の提案をされたのが阿部晴政さん。編集実務を担当されたのが吉田久恭さんです。どちらも『文藝』の編集長を以前おつとめでした。阿部さんが先々代で、吉田さんが先代。お二人ともたくさんの実績をお持ちですが、佐々木中さんを精力的にバックアップされたのが阿部さん、綿矢りささんのデビューをサポートされたのが吉田さんです。

★帯の背には「浅田彰氏・東浩紀氏絶賛」とあり、表1にはお二人の推薦文が載っています。お二人の推薦文の内容は上記に転記した通りです。お二人について歴史を遡っておくと、浅田彰さんは1957年生まれ、1983年9月に勁草書房からデビュー作『構造と力――記号論を超えて』を上梓されます。弱冠26歳。帯文はこうでした。「構造主義/ポスト構造主義の思想を一貫したパースペクティヴのもとに再構成。〈知〉のフロンティアを明晰に位置づける」。周知の通りこの本は中沢新一さんの『チベットのモーツァルト』(せりか書房、1983年11月)などとともに、ニューアカデミズムを代表する1冊としてベストセラーになりました。担当編集者は富岡勝さん。橋爪大三郎さん、宮台真司さん、大澤真幸さんといった日本の社会学者や、英米分析哲学の紹介で大きな役割を果たされた方です。かの『フレーゲ著作集』を手掛けたのも富岡さん。すでに定年退職されていますが、人文業界で知らぬ者はいない編集者です。

★その15年後、1998年10月に、東浩紀さんが新潮社より『存在論的、郵便的』でデビュー。東さんは1971年生まれで当時27歳でした。帯文はこうです。「超デリダ論(のちに「第21回サントリー学芸賞受賞!」に差替)。否定神学システムを超えて複数的な超越論性へ」。帯文にはさらに浅田彰さんの推薦文が掲載されていました。曰く、「東浩紀との出会いは新鮮な驚きだった。(・・・)その驚きとともに私は『構造と力』がとうとう完全に過去のものとなったことを認めたのである」。東さんは当時、太田出版の「批評空間」と「クイック・ジャパン」という毛色のまったく異なる両誌に登場できた唯一の若手で、デリダのような難解な哲学者を論じると同時に「新世紀エヴァンゲリオン」についても熱く語ることのできる、いわばオタク文化と現代思想の架け橋となった特異点的存在でした。担当編集者は矢野優さん。柳美里さんや阿部和重さん、平野啓一郎さんをはじめ、たくさんの文芸書を手掛けていらっしゃいます。現在、月刊「新潮」の編集長。

★さらにその15年後、2013年10月に、千葉雅也さんが河出書房新社より『動きすぎてはいけない』でデビューされるわけです。千葉さんは1978年生まれ。30代半ばでのデビューなので、浅田さんと東さんからは少し遅めになります。14歳離れている浅田さんと東さんに比べ、東さんと千葉さんとの間はその半分の7歳。浅田さんや東さんはデビュー以後、思想界や論壇を牽引する情報発信者の役割を果たされてきました。浅田さんは『GS』『InterCommunication』『批評空間』など、数々の先端的思想誌の創刊に関わり、ニューアカ以後の文化に貢献されてきました。東さんは「波状言論」や『思想地図』『genron』などの媒体を積極的に展開してこられ、『批評空間』以後の論壇の先頭を走っておられます。浅田さんは出版社と組む仕事が多い一方、東さんは自前の媒体での発信を重視してこられたのが特徴だと思います。そうした歴史を経た上での、千葉さんのデビューであり「これから」なわけです。

★『構造と力』『存在論的、郵便的』『動きすぎてはいけない』の関係性を時代背景の遷移とともにどう読むか。これは前二者の関係までは佐々木敦さんが『ニッポンの思想』(講談社現代新書、2009年)がまとめておられます。そこに千葉さんの本が加わるとどうなるか。千葉さんご自身の位置取りは『動きすぎてはいけない』の中でも説明されています。一方で読む側の印象はどうか。この先、多くの評論家や研究者、読者の方々がそれぞれに論じられていくことでしょう。『動きすぎてはいけない』の出現によって、『構造と力』『存在論的、郵便的』を再読する(あるいは初めて読む)機運も生まれるわけで、業界としては実に楽しみな展開ですし、書店さんの「日本現代思想」の棚をいっそう活性化させる良いタイミングだと思います。今はまだ明確な測量地図が存在していないので、書店員さんの自由な読解と発想と工夫次第で、日本現代思想をめぐる複数のカルトグラフィ(地図製作)が書棚のグリッド上に生成展開されていく可能性があるに違いありません。

【以下、本書のネタバレを含みます】

★ここでは小泉義之さんの書評を参照しつつ、千葉さんのデビュー作の魅力的な論点について、いくつか記そうと思います。小泉さんはこう書いていらっしゃいます。「接続と切断の間の「と」に、ドゥルーズ(&ガタリ)の哲学は住まっている。千葉雅也は、この観点から、ドゥルーズとガタリの主著を読み抜いていく。その手捌きは、読んでいて気持ちがよい。しかし、かすかに不穏だ。その読解は確かだが、それを表に出して書きすぎてもいない。そこを含めて、かすかに不穏(当)なのだ」。千葉さんはこう書いています。「つながりと分かれ――のあいだの「と et」に、ドゥルーズ(&ガタリ)の哲学は住っている」(23頁)。「ドゥルーズ(&ガタリ)の住まいは、接続と切断のあいだの「と」に位置するのだ。〔改行〕その住まいはしばしば、接続の極端へ/切断の極端へと引き裂かれて見えもする。そこで本稿は、テクストの端々において〈接続的ドゥルーズ〉と〈切断的ドゥルーズ〉を分極させるという構図を採用しながら、その途中でしだいに両者の並立を問題化していくことにしよう。そして、接続的/切断的の各面は、ドゥルーズのベルクソン主義/ヒューム主義に対応する、という仮説を、ドゥルーズの哲学史的背景に関する、本稿において最大の仮説として採用することになる」(27頁)。

★続いて小泉さんはこう紹介します。「千葉によるならば、ドゥルーズには、接続しすぎと切断しすぎの分極がある。それは、ベルクソン主義とヒューム主義の二極に対応する。そして、千葉は、「その途中」で、「両者の並立」を問題化する。このポジションはこう言いかえられている。非ファシストの群れには分極がある。一方に異種混淆的非ファシストたち。クィアやLGBTを理念とする者たちと介してよいだろう。一方に、比較的に不徹底な非ファシストたち。そこそこの異種混淆を現に生きる者たちと解してよいだろう。ここでも千葉は、「その途中」で「両者の並立」を問題化しようというのだ」。千葉さんはこう書いています、「「異種混交〔ママ〕的」な非ファシストたちは、実現しえない(いや、してはならない)究極の望ましい共同化を「理念」として抱き、それへの献身という一点を媒介にコミュニケーションを必然化する。その理念は無限に細やかな異種混交性への配慮である。けれども現実の=経験的な非ファシストは、関心が様々に偏っているしかなく(有限性)、どれだけ努力しても「無限」の多様性は抱けない。すると非ファシストの群れにおいて、(a)無限の異種混交性に献身していると自認する者たち、(b)比較的に不徹底な者たち、のあいだに「排他的」な対立が生じる」(30頁)。

★さらに小泉さんの言及。「千葉は、切断されつつの(再)接続を、非ファシスト的「個体化」として、個体の新たな仮の状態を作り出すこととして、書き出そうとする。あるいは、生きようとする。それが起こるはずのゾーンは、「中間地帯」「中間痴態」とも言われる」。千葉さんに戻ると、「情報のオーバーフローに翻弄される私たちの不随意な痴態は、哲学的な示唆に富んでいる。〔・・・〕情報のオーバーフローにおける生老病死は、〔・・・〕事物を他でもないそれとして成立させる――個体化する――非意味的切断が、日常の毎瞬間であることを露呈させるのである。〔・・・〕或る会合への参加を選択できなかったことで、別の行動が可能になること。意志的な選択でもなく、周到な「マス・コントロール」でもなく、私たちの有限性による非意味的切断が、新しい出来事のトリガーになる。ポジティブに行って、私たちは、偶然的な情報の有限化を、意志的な選択(の硬直化)と管理社会の双方から私たちを逃走させてくれる原理として「善用」するしかない。モダンでハードな主体性からも、ポストモダンでソフトな管理からも逃れる中間地帯、いや、中間痴態を肯定するのである」(37-38頁)。

★小泉さんの書評はこのあと実に印象的に千葉さんの立ち位置の妙味を言い当てておられるのですが、すでに長々と引用してしまったので、あとは『文藝』の当該号をご覧いただければと思います。『動きすぎてはいけない』において私たちは思考の様々な閃きを観ることができますが、いくつかの言葉を引いておきます。「ポスト構造主義以後の、2000年代中頃から活性化している「思弁的」な「自然哲学」の復権〔・・・〕。「思弁的的実在論」また「思弁的転回」と呼ばれる運動〔・・・〕。こうした動向を仮に〈ポストポスト構造主義〉と呼ぶ〔・・・〕。私の考えでは、ポストポスト構造主義の要は、半面では、接続よりも切断、差異よりも無関心=無差別、関係よりも無関係、である。このように言うと、まるで寒々とした思潮のように思われるだろうか。しかし、根本的にバラバラな世界にあって、再接続を、差異の再肯定を、再関係づけを模索することが、ポストポスト構造主義のもう半面なのである」(32頁)。

★「オーバードーズの彼方、熱死とは、あらゆる事物への接続過剰のことに他ならない。オーバードーズの回避とは、生成変化を次に展開させるために、接続過剰を控え、切断を行使することだ――非意味的に、或るいい加/減で。〔改行〕リゾーム的な接続は、どこかで切断され、有限化されなければ、私たちは、かえって巨大なパラノイアのなかに閉じ込められる。あらゆる事物が関係しているという妄想である。〔改行〕生成変化は、接続過剰のどんづまりからの解放でなければならない。それは、「節約」の勧めである。酒にもう一杯、あと一杯と溺れていき、どこで最後の一杯にするか」(50頁)。「生成変化を乱したくなければ、動きすぎてはいけない。〔改行〕この箴言から私は、もうひとつのメッセージを聴く。これは自己破壊としての生成変化の加速しすぎ、オーバードーズないしバッド・トリップへの警戒でもあるのではないか。自意識の暴走(知識人の動きすぎ)と、無意識の暴走(ジャンキーの動きすぎ)を、どちらも節約すること」(52頁)。

★「「強度=内包性の倫理には、二つの原理しかない――最低のものすら肯定するということ、折り解かれ=説明され(すぎ)ないということ」(ドゥルーズ『差異と反復』河出文庫、下巻201頁)。第一の原理「最低のものすら肯定する」というのは、〔・・・〕差異の複層的なカップルを、あらゆるレベルで肯定せよ=実在的であると考えよ、ということである。他方では、常識・良識に照らして「最低」の評価を受けるものごとであっても、必ずやそこに潜在している差異の交響、諸関係=比のネットワークを尊重するべきである、ということだ。〔・・・〕第二の原理は、「折り解かれ=説明され(すぎ)ないということ」である。〔・・・〕これまた、節約、程度の問題なのである。〔・・・〕「折り解かれ=説明されすぎる」というのは、〔・・・〕すべての関係=比の互いの折り込み(関係主義)から、世界の或るゾーン=モナドが、シャープに分離されてしまうことを意味するだろう。ものごとに関する説明を、有限なファクターによって尽くしてしまうのである。説明に「余り」を残さないこと。或るものごとに関しシャープに断言をすることで、他のあらゆるものごとへと延びうる矢印を切断することである」(254-255頁)。

★千葉さんは「〈複数的な差異の哲学〉と〈変態する個体化の哲学〉の兼ねそなえこそが、ドゥルーズ(&ガタリ)において核心的であった」(192頁)と仰っています。ガタリの『アンチ・オイディプス草稿』(みすず書房、2010年)を千葉さんとともに訳した國分功一郎さんも今年6月に『ドゥルーズの哲学原理』(岩波書店、2013年)を上梓されており、千葉さんと國分さんのドゥルーズ観がどう交差するのかというのも興味深いところです。このお二人で来月、トークイベントを行うそうなので、興味のある方はご参加をお薦めします。

千葉雅也さん&國分功一郎さんトークイベント

日時:2013年11月8日(金)午後7時~
会場:西武池袋本店別館9階 池袋コミュニティ・カレッジ28番教室
参加チケット:1000円(税込)
チケット販売場所:西武池袋本店書籍館地下1階リブロリファレンスカウンター
お問合せ:リブロ池袋本店 03-5949-2910

内容:思想界の超新星・千葉雅也さんの初の単行本『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出書房新社)が待望の刊行となります。その刊行を記念してトークイベントを開催いたします。対談のお相手は、『暇と退屈の倫理学』(朝日出版社、2011年)など、國分功一郎さん。いま、もっとも注目を集める若き哲学者のお二人に、「哲学」そのものについて、そして複雑にからまりあう現代社会の抱える問題についてまで、「哲学」という視点から語っていただきます。イベント参加チケットご希望の方はリブロ池袋本店書籍館地下1階リファレンスカウンターにてお求め下さい。
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by urag | 2013-10-21 02:21 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 10月 20日

東洋文庫倶楽部の入会特典と、平凡社さんの最新刊

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東洋文庫(1963年10月創刊)が今秋創刊50周年を迎え、平凡社さんでは読者と著者、出版社をむすぶ交流の場としてファンクラブ「東洋文庫読者倶楽部」を設立されました。入会無料。先日当ブログに書いた通り、私も早速入会しました。すでに会員は300名を超えたそうで、すごいなと思います。つい最近、入会特典の「東洋文庫マイブック」と「東洋文庫通信」、「東洋文庫解説目録 2013年創刊50周年」が届きました。

まず「東洋文庫マイブック」というのは、東洋文庫と同じ緑のクロス装に金文字の箔押しを施した上製本で、もちろん函入、ページには縦の罫線と東洋文庫のマークが入っています。こんな豪華なノート、本当にタダでもらっていいんでしょうか、と思うくらいしっかりした造本です。入会先着300名の特典で、すでに配布終了。これはちょっとしたお宝かも。

会報誌「東洋文庫通信」は、平凡社さんの紹介文をそのままお借りすると、さまざまな専門家が選ぶ「東洋文庫 私の1冊」や、東洋文庫に関連するニュースなど、東洋文庫が身近になる記事を満載した会報誌」で、年2回程度発行とのこと。記念すべき第1号は、B4サイズ2つ折りで合計4頁。東洋文庫の編集長・関正則さんによる挨拶文「複数のアジアのために――東洋文庫創刊50周年にあたって」が3頁にわたって掲載されています。2~3頁には「私のオススメの一冊」として中島岳志さんが『ガーンディー自叙伝』についてお書きになっています。4頁目は「東洋文庫ニュース」と、「近刊案内」。12月の新刊まで予告が出ていて、目をみはるラインナップです。同会報誌の次号は2014年春頃の予定だそうです。魅力的な紙面なので、毎月読みたいくらいです。紙媒体の会報誌とは別に、同倶楽部では、Eメールで新刊・近刊案内や、復刊のお知らせ、イベント情報などを会員に知らせて下さるそうです。

「東洋文庫解説目録 2013年創刊50周年」は、昨年末に発行されたもので、829巻『新訳 ラーマーヤナ4』までの既刊書の目録になっています。巻末には2011年1月現在の東洋文庫の常備店一覧と、書名索引、著訳者校訂者名索引を完備。今回の特典一式に添えられていた挨拶状では、「会員の皆様からのリスエストを募って、長期品切れ書目を復刊する予定」もあるそうで、期待感が高まります。

「マイブック」がもらえる特典はなくなりましたが、もちろん倶楽部への入会はまだまだ受付中で、Eメールのほか、ハガキやFAXでも申請可能です。今後もさらに「様々な会員特典やサービスを鋭意企画準備中」とのことです。そのうちOFF会などがあったら楽しいですね。

+++

ちなみに平凡社さんの注目最新刊には以下のものがあります。

絵入簡訳源氏物語 一 
小林千草(こばやし・ちぐさ:1946-)・千草子(せん・そうこ:1946-)著
平凡社 2013年10月 本体2,600円 四六判上製408頁 ISBN978-4-582-35721-9

帯文より:江戸の人びとも虜にした絵入源氏物語の世界へようこそ。膨大すぎて最後まで読み通すことが難しい源氏物語を、江戸時代のベストセラー、山本春正『絵入源氏物語』の貴重な挿絵をすべて収録し、簡訳というリズミカルな現代語訳によって誰にでも手軽に楽しめる本に仕上げた著者入魂の全三巻。第一巻は光源氏、その誕生から35歳までの物語。

★まもなく発売。全三巻予定です。第一巻は「桐壺」から第22帖「少女(おとめ)」までを収録。巻頭に「はじめに」を置き、巻末に「第一巻 関連系図」「『源氏物語』関連地図」「あとがき」を配しています。「はじめに」によれば、本書は「江戸時代にベストセラーとなった山本春正の『絵入源氏物語』の挿絵(東海大学付属図書館桃園文庫蔵本に拠る)を全て入れ込みつつ、本文は私の慣れ親しんだ三条西実隆筆青表紙証本(岩波日本古典文学大系『源氏物語』全五巻)をもとに、新たに現代語訳したもの」(1頁)とのこと。「簡訳」というのは辞書にない言葉ですが、次のような意図が紹介されています。「逐語訳で、ともすれば起こりがちな冗長さや集中力の拡散を防ぐために、すでに山本春正が絵画化している要所要所は全訳、従なる描写部分は“簡約に訳す”というリズムで進むことにしました」(2頁)。

★著者は「源氏物語」をこう紹介して下さいます。「従来、“色好み”の書、恋愛の書のような受け取り方をされることが多かったのですが、実は、人間の生・老・病・死を、当時の信仰形態であった仏教への救いに求めつつ、静かに描こうとしたものなのです」(3頁)。著者は本書を中学生や高校生にも読んでもらいたいと告白され、「いつか、全編を原文で読破されることを」と結んでおられます。これまで現代語訳は何種類も出てきましたが、大長篇なだけに全編読破は確かに容易ではありません。まずは今回の簡訳本全三巻に挑戦してみるのもいいかもしれません。


千本組始末記――アナキストやくざ笹井末三郎の映画渡世
柏木隆法(かしわぎ・りゅうほう:1949-)著
平凡社 2013年10月 本体3,800円 A5判上製536頁 ISBN978-4-582-28258-0

帯文より:これはやくざ映画の解説ではない。やくざとアナキストが奇妙に同居した映画界の草創期の群像である。

版元紹介文より:ギロチン社、大杉栄らとともにアナキズムと深く関わりながら“かたぎやくざ”として生き、日本映画史の揺籃期から全盛期を駆け抜けた侠客・笹井末三郎の生涯を描くノンフィクション。

目次:
序章 「天久」爽春譜
第一章 千本組誕生
第二章 明治から大正へ
第三章 川崎・三菱両造船所大争議
第四章 末三郎出奔
第五章 大杉栄と「血桜団」
第六章 ギロチン社事件
第七章 大堰川の決闘
第八章 日活撮影所時代
第九章 宮嶋資夫出家の波紋
第十章 マキノトーキーの興亡
第十一章 長二郎遭難
第十二章 千本組分解
第十三章 岡本潤追放
第十四章 松本常保との再会
第十五章 「琴姫七変化」前後
終章 故郷へ
再版追記
あとがき
解説 千本組と笹井末三郎 (礫川全次)
人名索引

★発売済。『千本組始末記』刊行会発行、平凡社発売と奥付に記載されています。本書の初版は、海燕書房より1992年2月に刊行。今では古書価が1万5千円以上になっており、人気の度合いが伺えます。今回の再版にあたっては、再版追記、あとがき、解説などが新規原稿です。「再版追記」で著者はこう書いています。「本書で述べたかったのは、教科書に載るような偉人の伝記ではない。近代を“負”の領域で生きた人々の歴史である。索引を見て、あまりにもその項目数が多いことに驚いたが、これでも最小限にしたつもりでいる」(505頁)。10頁に渡り3列でびっしりと人名が並ぶ本ですから、確かに驚くべき群像劇です。礫川さんは解説で次のように記されています。「この本が扱っているのは、これまで、いかなる学者、いかなる作家も論じてこなかった時空間である。その時空間とはすなわち、アナキスト、やくざ、映画界、大正昭和期、京都、日本と満州、これらが交錯する時空間である。この本は、そうした時空間を描いたたぐい稀なるドキュメントである」(511頁)。

★文章は小説のように軽快で、とにかく無類に面白いです。これだけ面白い本が絶版だったのですから、古書価が高いのもうなづけます。20年ぶりの再刊にも関わらず、値段は初版当時より500円も下がっていて、古書価よりもさらに随分安いこの価格でこの大著を味わえるというのは嬉しいことです。この本に深く魅了された方は多いようで、映画化の話すらあったようですが、著者ご自身は言下に不可能だと断じておられます。なぜ不可能なのか。随所で語られる映画界への著者の思いに触れるとその理由も分かる気がします。著者は本書を上梓したあと、近代仏教史を研究されているとのことです。
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by urag | 2013-10-20 18:37 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 10月 20日

注目新刊:クドゥナリス『死の帝国』創元社、ほか

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死の帝国――写真図説・奇想の納骨堂
ポール・クドゥナリス(Paul Koudounaris)著 千葉喜久枝訳
創元社 2013年10月 本体4,200円 A4変形判上製224頁(カラー112頁) ISBN978-4-422-14385-9

帯文より:人がよく生きるためにも、死はもっと身近にあったほうがよい。見つめるだけで心が落ちつく、不思議なヒーリング・パワーも秘めた、異色のヴィジュアル・ブック。

目次:
序 死との対話
第一章 往生術(アルス・モリエンディ)――初期の納骨堂
第二章 黄金時代――対抗宗教改革期のマカーブル
第三章 死の勝利――19世紀の骨の幻影
第四章 天国の魂――骨の山にまつわる神話と心霊術
第五章 我を忘れることなかれ――記憶の場としての納骨堂
第六章 死者をよみがえらせる――保存と修復
納骨堂のリスト
原注
索引
謝辞

★発売済。奥付は10月ですが、発売は9月でした。原書は、The Empire of Death(Thames & Hudson, 2011)です。日本語版の特設サイト(書名のリンク先)でも写真が公開されていますが、著者のサイトでは最新作「Heavenly Bodies」の紹介や、納骨堂のサンプル写真を見ることができます。『死の帝国』ではイタリアをはじめヨーロッパの納骨堂や聖堂、礼拝堂、墓地など、70箇所以上を4年以上かけて取材した成果を見ることができます。訪問した国は20カ国以上で、エジプト、エクアドル、ペルー、カンボジアにも出向いています。骸骨の山や壁、数々の装飾に圧倒されます。スカル好きにはたまらない写真集です。時折ミイラも出てくるので、背筋が寒くなることもあるかもしれません。著者は美術史家で、研究者の立場から納骨堂の発展の歴史について概説してくださるので、建築史や美術史を学んでおられる方にとっても興味深いだろうと思います。カバー写真を飾っている、金銀の甲冑をまとった骸骨は、スイスのヴィールに所在する聖ニコラウス教会にある、聖パンクラティウスの骸骨とのことです。


HELLO WORLD――「デザイン」が私たちに必要な理由
アリス・ローソーン(Alice Rawsthorn)著 石原薫訳
フィルムアート社 2013年10月 本体2,600円 四六判並製464頁 ISBN 978-4-8459-1309-1

版元紹介文より:デザインとは何か。良いデザインと悪いデザインの違いとは何か。それぞれが生活に与える影響とは何か。科学の発達が進む中これからのデザインはどのように進化するのか。本書では、デザインの起源にさかのぼって、著者独自の膨大な事例に基づいたデザイン史を総括しながら、考察を深めていきます。現代の私たちの生活にデザインがいかに入り込んでいるか。どのように企業の戦略として使われているのか。アートとの違いは何か。誰のためにあるものなのか。いまデザインにおいて何を考えるべきかを、さまざまな具体例を挙げながら解明する一冊です。

推薦文:「アリス・ローソーンはデザイナーから最も尊敬されるデザイン評論家で、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙にデザインについてのコラムを書いていた。インタビューのとき私は不思議な感覚をおぼえた。彼女は質問に対する私の答えを既に知っている気がしたのだ。同時にこの膨大なデザインの知の集大成を読みながら既知感覚ともいえる共感の喜びを感じている自分がいることにも気付いた。/この本は「デザインの事実」だし、論理ではなく「デザインの定義」の多義性を何一つ漏らさず詰め込んでいる。デザインという危うい美的な印象を持ちかねない言葉に疑いをも持つ、誰もの矛盾する本音にはっきりと触ってもいる。/「デザインとは何か」。デザインはこの一冊で理解し尽くせると確信している」(深澤直人[デザイナー])。

目次:
プロローグ
第1章 デザインとは何か
第2章 デザイナーとは何か
第3章 よいデザインとは?
第4章 よいデザインが大事な理由
第5章 なぜダメなデザインが多いのか
第6章 なぜ誰もが第二のアップルになりたいのか
第7章 デザインと芸術をけっして混同してはならない理由
第8章 サインは世につれ
第9章 百聞は一見に如かず
第10章 エコってラクじゃない
第11章 形態は機能に従わない、その理由
第12章 「私」
第13章 残りの90%の人たちを救え
エピローグ デザインをデザインし直そう
著者あとがき
訳者あとがき
参考文献
写真クレジット
謝辞

★発売済。著者のアリス・ローソーンはデザイン評論家で、『ニューヨークタイムズ』国際版や『インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ』紙に寄稿。イヴ・サンローランの伝記などの著書があります。本書の原書は、Hello World: Where Design Meets Life(Hamish Hamilton / Penguin Books, 2013)です。デザインの作業は、その一つ一つが何かを変えようとする試みだ」(10頁)と著者は書きます。「どのような種類の変化であれ、それが後ろ向きや破壊的なものではなく、前向きなプラスの変化として世の中に受け入れられるようにすることが最良のかたちであり、デザインにはそれができる」(11頁)。本書は「デザインが今後私たちの生活により深い、より意味のある貢献をすることができるかどうかを探る」(12頁)もので、デザインという人間的作業の過去と未来について雄弁に語っています。広い意味で言えば、デザインと編集とキュレーションは世界への認識を変えるとともに世界そのものを変えるためのアルス(術)ではないかと思います。他者へと、社会へと開かれた仕事を志し、天職を探している人たちすべてにとって有益な本だと思います。


小室直樹の世界――社会科学の復興をめざして
橋爪大三郎編著
ミネルヴァ書房 2013年10月 本体2,500円 4-6判上製524頁 ISBN978-4-623-06703-9

帯文より:伝説の小室ゼミの出身者たちが語るそのアカデミズムの神髄とは。小室直樹博士著作目録・略年譜に加え、2011年3月に行われた記念シンポジウムを完全採録。

版元紹介文より:多くの人々に惜しまれつつ、2010年9月に亡くなった社会科学者・小室直樹博士。政治学者、社会学者として、学際的な活躍をされた博士の業績を、小室博士の教えを受けた社会学者らが振りかえる。第Ⅰ部は、学者小室直樹の実像をまとめながら、著作からその業績を振り返る。第Ⅱ部は、2011年3月6日に東京工業大学で行なわれた、小室直樹博士記念シンポジウムを完全採録。第Ⅲ部は、小室博士の仕事をめぐる対談。宮台真司氏、副島隆彦氏、大澤真幸氏を橋爪大三郎氏がインタヴューする。併せて、小室直樹博士略年譜、小室直樹博士著作目録を付録として収める。

目次:
まえがき
第Ⅰ部 社会科学者・小室直樹博士
 第一章 小室直樹博士の学問と業績 (橋爪大三郎)
 第二章 小室直樹博士の著作 (橋爪大三郎)
第Ⅱ部 小室直樹博士記念シンポジウム――社会科学の復興をめざして
 第三章 小室博士の学問世界――シンポジウム第Ⅰ部・理論編
  司会・宮台真司
  報告者・橋爪大三郎、盛山和夫、志田基与師、今田高俊、山田昌弘、大澤真幸、伊藤真
  追加コメント
   1 小室さんの理論プロジェクトについて (盛山和夫)
   2 小室直樹と数理社会学 (今田高俊)
   3 時代とシンクロしつつそこから溢れ出る学者 (大澤真幸)
 第四章 小室博士と現実政治――シンポジウム第Ⅱ部・実践編
  司会・橋爪大三郎
  報告者・宮台真司、副島隆彦、渡部恒三
  討論者・関口慶太、村上篤直
第Ⅲ部 対論 小室直樹博士を語る
 第五章 小室直樹と吉本隆明 (副島隆彦・橋爪大三郎)
 第六章 小室直樹博士と同時代 (宮台真司・橋爪大三郎)
 第七章 小室直樹博士と社会学 (大澤真幸・橋爪大三郎)     
 第八章 対論を終えて
  1 小室先生に習ったこと 副島隆彦    
  2 小室理論の限界は小室的方法でしか越えられない (宮台真司)
  3 社会科学的な知の複数のレイヤー (大澤真幸)
あとがき 
小室直樹博士著作目録
小室直樹略年譜
人名索引・事項索引

★発売済。発行元の営業マンのMさんが「何よりもこのメンバーで本が出来ることが珍しい」と仰っていたのですが、まさにその通りだと思います。一社会学者の業績を顕彰する本という以上に、戦後日本における社会学のいくつもの発展的側面を振り返る本になっていて、2500円という値段以上の価値の情報量がぎっしり詰め込まれています。橋爪さんのまえがきによればそんな有意義な「買い」の本にもかかわらず二つの出版社で採用されなかったというのですから、驚きを禁じえません。小室直樹(こむろ・なおき:1932-2010)さんの著書を読んだことがある方も、ない方もどちらも楽しめる盛りだくさんの内容です。本書の発刊を記念して、第Ⅲ部の対論の延長戦とも言うべきトークイベントが以下の通り予定されています。いったいどんな話が飛び出すのか、興味津々です。

橋爪大三郎先生×副島隆彦先生 対談&サイン会 ~小室直樹のアカデミズム~

日時:2013年10月24日 (木) 18:30~20:30 (開場18:00)
会場:八重洲ブックセンター本店 8F ギャラリー
料金:無料
定員:80名様(申し込み先着順)
申込方法:1階サービスカウンターにてお申し込みください。お電話によるお申し込み(電話番号03-3281-8201)も承ります。

内容:膨大な知識を駆使して学際的に近代社会を論じた天才であり、多くの人に惜しまれつつ2010年9月に亡くなった社会科学者・小室直樹博士。その学問と思想の根底にあったものとは。そして現代を生きる我々は小室博士から何を引き継ぐべきなのか。多方面で活躍する伝説の小室ゼミナール出身者の2人が、ゼミ時代の思い出を振り返りながら語り合う。※対談終了後(20:00)にサイン会を実施予定です。

橋爪大三郎先生×宮台真司先生×大澤真幸先生トークイベント

日時:2013年10月30日(水) 午後7時~
会場:西武池袋本店別館8階 池袋コミュニティ・カレッジ4・5番教室
参加チケット:1000円(税込)
チケット販売場所:西武池袋本店書籍館地下1階リブロリファレンスカウンター
ご予約・お問合せ:リブロ池袋本店 03-5949-2910

内容:10月中旬発売予定『小室直樹の世界』(ミネルヴァ書房)の刊行を記念して、トークイベントを行います。トークイベントにご参加いただくのは、本書の編著者・執筆者であり、伝説の「小室ゼミ」の出身者である橋爪大三郎先生、宮台真司先生、大澤真幸先生です。2010年9月、小室直樹博士は多くの人々に惜しまれつつ逝去されました。1960年代後半から、無償で若い後進に社会科学の手ほどきをする、いわゆる「小室ゼミ」を開講し、多くの弟子を育てられました。政治学者、社会学者として学際的な活躍をされた博士の業績をどう読み継いでいくのか。小室博士の薫陶を受けた御三方に、その業績や思い出などを語っていただきます。


アメリカ西漸史――《明白なる運命》とその未来   
ブルース・カミングス著 渡辺将人訳
東洋書林 2013年10月 本体8,000円 A5判上製720頁 ISBN978-4-88721-806-2

帯文より:都市、産業、軍備、強権が氾濫する大国(マシーン)の運動律(ダイナミクス)。〈メイフラワー〉の出帆から400年――覇者の連邦による太平洋への膨張を「西部開拓=西漸運動」の延長線上に描き、論壇の主流を占める「大西洋主義(アトランティシズム)」への挑戦的な修正を試みた会心作!! コリアンスカラーという著者のパブリックイメージの刷新を迫る、スリリングな興奮に満ちた「米国観の再発見」。

版元紹介文より:朝鮮半島を中心とする東アジア政治を主題とした著書で世界的に有名なブルース・カミング教授による覇権国家アメリカの今後を占う一冊。世界的牽引力の理由が、その両端に大西洋と太平洋をもつ巨大な大陸にあるという考えのもと、アメリカと世界の歴史、国際関係論、政治経済学とを結びつけ、100年以上にわたり世界を先導してきた技術革新や急激な経済成長の経緯を見てゆく。そして今、ヨーロッパとの関係を重視する大西洋主義者により見過ごされがちになるアジア諸国や環太平洋地域との関係確立を急激に押し進めるアメリカが何を考えているのか?「帝国アメリカ」が目論む太平洋の支配構造を考える。

目次:

はじめに
第1部 裡なるフロンティア
 第1章 庭園における機械
 第2章 「比類なき遠隔」――カリフォルニアを探して
第2部 海から輝く海へ――《明白なる運命》
 第3章 ファイブ・イージー・ピーセズの大陸
 第4章 《明白なる運命》の所産――黄金、大陸横断鉄道、テキサス
 第5章 破壊すべき怪物を探して海外へ
第3部 太平洋諸州とニューイングランドの人々
 第6章 エデンの東――太平洋岸北西部
 第7章 楽園の青々と茂る緑と凍てつく寒さ
 第8章 太平洋を渡って――新しい州のアジア人
第4部 「地球の外皮」――多相の地、カリフォルニア
 第9章 豊穣の国
 第10章 「さあ、どうぞ。持っていきなさい」――水とエネルギー
 第11章 カリフォルニア南部――太平洋の島
第5部 ある臨界点
 第12章 自らを装う国家――西部の開発
 第13章 戦後カリフォルニアと西部共和党の勃興
 第14章 カリフォルニアの影のもと――戦後カリフォルニア以外の西部
 第15章 帝国の群島――グローバルな庭園のためのアメリカのグリッド
 第16章 シリコンヴァレー――太平洋の端にある新世界
 第17章 結論――アメリカの優位性
補遺
謝辞
訳者あとがき
参考文献
原注
索引

★まもなく発売。原書は、Dominion from Sea to Sea: Pacific Ascendancy and American Power(Yale University Press, 2009)です。著者は現在シカゴ大学教授。周知の通り専門は近代朝鮮史で、今まで日本語に訳されてきたのもそちらの成果が大半ですが、今回の本は違います。容易には読了できない大冊ですが、本書の意図については冒頭に置かれた日本語版への「序」で手短かに説明されています。曰く「本書はアメリカが西部、そして太平洋の向こうへと移動していく様を描いた広大な歴史の記録であり、西部におけるアメリカ人の物語、そして太平洋におけるアメリカ人の物語という、2つのまったく異なる研究の融合を試みた作品でもある」(3頁)。「また本書は、アメリカによる対東アジア・東南アジアの外交政策をめぐる政治的論争に貢献する狙いものとにも書かれている。〔・・・〕アメリカと東アジア・東南アジアとの関係が、大西洋の友邦や同盟国と結んでいるのと同じような、ある種の平等性と互恵性を獲得することが、私の願いである」(4頁)。さらにはこうもお書きになっています。「これから先の数十年は、太平洋を挟んだ米中の競争と協力関係が、均衡状態のなかで世界の平和を維持していくことになろう。そして、日本、韓国、その他の国々と共に、人類史上初めて、太平洋文明(パシフィック・シヴィライゼーション)を創造するに違いない」(同)。

★ちなみに、序につづく「まえがき」ではこんなことを書いておいでです。「本書は、西部を知ることなしにアメリカ合衆国を理解することなどできないと断言する。過去150年間、アメリカは、西部から、あるいは自身の太平洋への関与から、ほかのどの地域とも比べ物にならないほどの劇的な影響を受けた。ただひとつの州、すなわちカリフォルニア州こそが、ほかのなににも増してアメリカの国の命運を決定的に築き上げた。最終的に我々が理解しようとしている主題としての世界におけるアメリカの地位は、太平洋岸諸州の複雑な力、そして広大な大洋の向こう側にまでまたがる優位性を把握することなしには理解できないのだ」(17頁)。そして、こうも書いています。「本書は過去と現在をめぐる物語だが、予言、すなわち未来への主張だと捉える向きも多くあるだろう。それはどちらでも構わないことだ。〔・・・〕アメリカの運命は、メキシコ、中国、韓国と北朝鮮、日本、ヴェトナム、そして歴史の繰り返しではあるが、究極的にはインドと深く絡んでいる」(同)。「アメリカの歴史的な単独行動主義(ユニラテラリズム)と、アジアにおける軍事力への安易な依存を超克し、東アジア諸国を平等と相互利益の精神で関与させ、巻き込んでいく努力をしない限り、今世紀の世界は、平和に対する長く尾を引く破滅的な結果を経験することであろう」(18頁)。

★「世界史上ではじめて、太平洋が地中海や大西洋と連結しようとしている。無限の人的な交流と、今はまだぼんやりと見据えているだけの太平洋文明の膨張する景色である。〔・・・〕本書についての最良の表現はこうだろう。この本は私がずっと読みたいと思っていたのに見つからなかった本だ。だから自分で書いてしまった」(20頁)。日本や中国についての言及はこのほかにも各所にあるのですが、それは読書のお楽しみということで。著者がアジアを見る目はむろん私たち日本人がアジアやアメリカを見る目とは異なるのですが、それだけに、アメリカを代表する知性の一つがどのような視線と欲望、願望を持っているのかが垣間見えてきます。まさに今こそ読んでおきたい興味深い一冊です。

◎ブルース・カミングス(Bruce Cumings: 1943-)既訳書
1989年02月『朝鮮戦争の起源――解放と南北分断体制の出現 1945年-1947年』第1巻、鄭敬謨・林哲訳、シアレヒム社;修正合本版、2012年04月、明石書店
1991年04月『朝鮮戦争の起源――解放と南北分断体制の出現 1945年-1947年』第2巻、鄭敬謨・加地永都子訳、シアレヒム社;修正合本版、2012年04月、明石書店
2003年10月『現代朝鮮の歴史――世界のなかの朝鮮』横田安司・小林知子訳、明石書店
2004年05月『戦争とテレビ』渡辺将人訳、みすず書房
2004年07月『北朝鮮とアメリカ確執の半世紀』古谷和仁・豊田英子訳、明石書店
2012年04月『「革命的」内戦とアメリカの覇権 1947年-1950年』鄭敬謨・林哲・山岡由美訳、明石書店
2013年10月『アメリカ西漸史――《明白なる運命》とその未来』渡辺将人訳、東洋書林
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by urag | 2013-10-20 01:19 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)