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2013年 07月 31日

今週土曜日開催トークイベント:「ヘルメスの図書館」とカルダーノのコスモス

弊社刊『ミクロコスモス――初期近代精神史研究』(第1集、品切;第2集刊行時に重版予定)の責任編集者でいらっしゃるヒロ・ヒライさんが監修されるシリーズ「bibliotheca hermetica叢書」の第一回配本、榎本恵美子『天才カルダーノの肖像――ルネサンスの自叙伝、占星術、夢解釈』がついに発売されました。先週木曜日7月25日取次搬入済と聞きますので、そろそろ全国的に発売開始と言ってもよいはずです。

天才カルダーノの肖像――ルネサンスの自叙伝、占星術、夢解釈
榎本恵美子著 ヒロ・ヒライ編集 坂本邦暢解説
勁草書房 2013年7月 本体5,300円 A5判上製312頁 ISBN978-4-326-14826-4
帯文より:高名な医師にして占星術師、ベストセラーを書いた自然哲学者にして数学者。星辰と守護霊に導かれた万能人の新たなる肖像。ルネサンスの人間と世界を知る必携書!

本書は著者がカルダーノについてこれまで書かれてきたテクスト6篇に書き下ろしとなる論考「守護霊との対話」を加え、さらにカルダーノの『一について』(De uno, Basel, 1562)の翻訳を併載したものです。巻頭にはヒロ・ヒライさんによる叢書の刊行の辞と本書のための「まえがき」、そして巻末には著者によるあとがきと坂本邦暢さんによる解説が収められています。目次詳細や、伊藤博明さんと鏡リュウジさんの推薦文は書名のリンク先でご覧ください。なお、著者の榎本さんは2007年に勁草書房さんから共訳書、アンソニー・グラフトン『カルダーノのコスモス――ルネサンスの占星術師』を上梓されています。また、近刊の訳書として、ドナルド・R・ケリー『ルネサンス・ヒューマニズム』が東信堂さんより刊行予定とのことです。

なお現在、書店さんの店頭では同叢書のパンフレットが無料配布中です。本の巻頭に置かれているヒライさんによる叢書刊行の辞「bibliotheca hermetica 叢書の発刊によせて」が掲載され、今後の刊行ラインナップが列記されています。

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『天才カルダーノの肖像』の刊行を記念して、以下のイベントが今週末に開催される予定です。定員制なので、参加を希望される方はどうぞお早めにご予約下さい。

「ヘルメスの図書館」とカルダーノのコスモス

bibliotheca hermetica叢書『天才カルダーノの肖像』刊行記念トークイベント。哲学と歴史を架橋し、近代以前の“知のコスモス”に分野横断的に迫るインテレクチュアル・ヒストリー。その魅力を紹介する「bibliotheca hermetica(ヘルメスの図書館)」叢書、ここに誕生! 第一回配本『天才カルダーノの肖像』では、医師にして、哲学者、占星術師の顔をもつルネサンスの天才ジローラモ・カルダーノの壮大な知のコスモスを描き出します。

今回はシリーズ刊行開始を記念して、叢書監修者のヒロ・ヒライさん、『天才カルダーノの肖像』著者の榎本恵美子さん、同書の解説を書かれた坂本邦暢さんに、インテレクチュアル・ヒストリーの魅力と「bibliotheca hermetica叢書」の展開、そしてカルダーノの多岐にわたる活動について語り合っていただきます。

出演:
ヒロ・ヒライ(「bibliotheca hermetica叢書」監修者、オランダ・ナイメーヘン大学研究員)
榎本恵美子(哲学史・ルネサンス思想史研究)
坂本邦暢(科学史・思想史研究、日本学術振興会特別研究員)

日時:2013年8月3日(土)16:30~18:30
場所:西武池袋本店別館9階 池袋コミュニティ・カレッジ28番教室
定員:40名
料金:1,000円(税込)
チケット販売場所:西武池袋本店書籍館地下1階リブロリファレンスカウンター
ご予約・お問い合わせ:リブロ池袋本店 03-5949-2910
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by urag | 2013-07-31 23:33 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2013年 07月 28日

注目の新刊、既刊、近刊:『カイヨワ幻想物語集』景文館書店、ほか

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カイヨワ幻想物語集――ポンス・ピラトほか
R・カイヨワ著 金井裕訳
景文館書店 2013年5月 本体1,200円 小B6判(112×174mm)並製200頁 ISBN978-4-907105-03-7
カバーソデ紹介文より:『遊びと人間』の3年後、1961年にロジェ・カイヨワは物語「ポンス・ピラト」を発表する。無実のイエスを死刑に処してよいのか? ピラト苦悩のひと晩を通し、臆病な人間が勇気をもって正義を決断するメカニズム、宗教の本質、そして日本人にはわかりにくいキリスト教における十字架刑の意味について、カイヨワが〈物語〉という形式で考える。1962年コンバ賞受賞作。「この物語は、人のいうようにS・Fの作品ではないし、ましてや歴史哲学ではない〔後略〕」(ポンス・ピラト追記)。そのほか、大洪水のなかで神の不公平な殺戮を思う義人の物語「ノア」、ポロックの絵画を介した記憶のあいまいさに起因する小篇「怪しげな記憶」、肉体を離れた男の精神が究極の実在に達するさまを描く「宿なしの話」。カイヨワ作のフィクショナルな物語全4編。

目次:
ノア
怪しげな記憶
宿なしの話
ポンス・ピラト
訳者あとがき
再版への訳者あとがき
附録 カイヨワ自身による『ポンス・ピラト』追記

★発売済。紀伊國屋書店新宿本店3F人文書売場の、哲学思想書の平台で遅まきながら発見して驚いた一冊です。分類コードC0297から想像しても普通は外国文学に置かれる本だと思うのですが、カイヨワの既刊書はこの小説集を除いてはほとんどが評論ですから、既刊書に惹きつけられて哲学思想書の平台にも置かれたのだと思います。しかし外文に置かれていたらもっと発見が遅れたかもしれず、嬉しい誤算です。本書は『物語ポンス・ピラト』(審美社、1975年;書影左)の改訳版で、「ポンス・ピラト」以外の三作と附録は初訳です。「再版への訳者あとがき」によれば、なんでも景文館書店さんの「創業の一冊」として依頼されたものだとか。「ポンス・ピラト」はイエスがはりつけにされず、キリスト教が誕生しない世界というのを想像した特異な作品ですが、カイヨワは「追記」の中でこう書いています、「わたしにとって問題だったのは、宗教の本質、あらゆる宗教の本質について考察し、人類が宗教なしですますことができると考えられるかどうかを検討することであった」(194頁)。

★「なしですますこと」ができるかどうかは別として、たとえキリスト教が誕生しなくても似た宗教が台頭したであろうことを、カイヨワは「追記」でモンテスキューの格言を引きつつ述べています。モンテスキューの言葉はある意味で非常に不気味です。「ポルタヴァで敗北しなかったとしても、かれ〔スウェーデン国王のカール12世〕は別の場所で敗北したことだろう。運命のもたらす事件は難なく埋め合わされる。事物の本性から絶えず生まれる事件、わたしたちはこういう不測の事件に備えることはできない」。出典が明記されていませんが、これは『法の精神』第2部第10篇第13章に出てくる言葉です。例えば井上堯裕さんによる抄訳版(『世界の名著(28)モンデスキュー』、中央公論社、1972年)では439頁上段にこの文章が見えます。野田良之さんほかによる完訳版(岩波文庫、上巻、1989年)では276頁で、根岸国孝さん訳(『世界の大思想16』、河出書房、1966年)では145頁上段です。

★景文館書店さんは昨年末(2012年12月)に出版第一作として『吉田知子選集Ⅰ 脳天壊了(のうてんふぁいら)』を刊行されています。カイヨワの本は第二作です。『脳天壊了』のISBNの書名記号は00、カイヨワは03なので、01と02は何なのかということになりますが、これは版元さんのウェブサイトの「これから出る本」を見る限りで言えば、芥川賞作家の吉田知子さんの小説選集第二弾、第三弾が割り当てられているものと拝察できます。ちなみに同社ウェブサイトでは書籍連動企画として「同時代人とカイヨワ」というコーナーが設けられており、酒井健さんのエッセイ「バタイユからのカイヨワ」(2013年7月17日)を読むことができます。また、同社の発行者でいらっしゃる荻野直人さんは、「2013年4月から渋谷区・大盛堂書店の「大盛堂書店2F通信」に、『吉田知子選集』発行の経緯などを書いています(月一回)」とのことです。

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パリ大全――パリを創った人々・パリが創った人々
エリック・アザン著 杉村昌昭訳
以文社 2013年7月 本体4,500円 A5判上製432頁 ISBN978-4-7531-0315-7
帯文より:読んでから行くか、行ってから読むか。「革命と芸術の都」パリの魅力を再認識するための極上のガイドブック。
版元紹介文より:「幸せな気分になりたかったらこの本を買ってパリを散歩してみたらいい」。現地フランスの雑誌がこのように喧伝した、パリ論の傑作。まるで、歴史上の人物たちと街角で交わり、また、歴史的建造物の建設現場に出くわしているかのような、臨場感溢れる、魅惑的な「パリ案内」。

★発売済。原書は。目次詳細は書名のリンク先をご参照ください。原書はL'invention de Paris: Il n'y a pas de pas perdus(Seuil, 2002)で、直訳すると「パリの発明――失われた足跡はない」。本作がデビュー作となる著者のエリック・アザン(Eric Hazan, 1936-)は、外科医や出版人としての経歴を持つ異色の作家で、既訳書には『占領ノート――一ユダヤ人が見たパレスチナの生活』(益岡賢訳、現代企画室、2008年;原著は2006年刊)があります。エジプト系ユダヤ人の父とパレスチナ生まれの母を持ち、父が経営していた芸術書専門の出版社Hazanを継承し、編集者として活躍。大手出版グループに買収され、辞任後、1998年には自ら出版社La Fabriqueを設立。エドワード・サイードの仏訳をはじめとする本を刊行している、とのことです。

★『パリ大全』はA5判で本文が2段組350頁以上ある大冊で、巻末には手描きの地図のほか、原注もがっつりついています。「訳者あとがき」の言葉を借りると、本書は「三部構成からなっていて、各部がそれぞれ独自の主題と色合いを持ちながら、全体としてパリの歴史と文化、とりわけその「革命と芸術の都」としての魅力をあますところなく描き出している」本です。「巡視路(パリを経巡る)」と題された第一部では「パリの街区を「古いパリ」と「新しいパリ」とに分けて、それぞれの主要な街路や建築物の成り立ちを、中世から現代にまで至る歴史的俯瞰のもとに多彩なエピソードを交えて詳説」しています。第二部「赤いパリ」は、「主に18世紀末から20世紀末にいたるまでのパリを舞台にした革命的出来事や歴史的事件と街路や建築物との絡み合いを生き生きと描き出」しています。第三部「雑踏のパリを行く」は、「さまざまな作家・詩人・芸術家とパリの街との関係を背景に、パリを“知的に散策する”ことの魅力を縦横無尽に語る」ものです。

★三部構成のどこから読むかはまったく読者の自由ですが、個人的には第二部「赤いパリ」が興味深かったです。弊社より『パリ日記』を刊行しているエルンスト・ユンガーも、第二部の235頁下段に登場しますし、同頁上段には同じく弊社より近刊の『論理学と学知の理論について』の著者ジャン・カヴァイエスも出てくるのです。パリという街の魅力はそこに往き来していた人々の輝きにも起因している気がします。群像の息吹がパリに生命を吹き込んでいることを、著者のアザンさんは知悉しているに違いありません。訳者の杉村昌昭さんは愛情をこめて本書を「翻訳のライフワーク」と位置づけておられるご様子です。行間に溢れる熱気と活気は文字を追うだけでも映像的に伝わってくる気がします。そんな臨場感に満ちた本書は、パリに行ったことがある方にとっても、ない方にとっても、きっと楽しく読めると思います。文化と歴史の積み重ねを味わうためのユニークな読書の旅へと案内してくれる本です。


思想課題としての現代中国――革命・帝国・党
丸川哲史著
平凡社 2013年7月 本体2,800円 四六判上製320頁 ISBN978-4-582-45445-1
版元紹介文より:現代中国にとって、領土や軍事力や党支配とはいかなる意味をもつのか、なぜ欧米のタンダードと衝突するのか。中国現代史の中に中国固有の「歴史的自意識」を探る。
推薦文:中国は、世界の変動の中心にいる。この変動は、ある逆説を伴っている。今まさに起きていることを認識するためにこそ、歴史的総体として中国を理解しなくてはならないのだ。とするならば、日々の情勢の観察にふりまわされる前に、まずは本書を繙こう。千年単位の帝国の歴史的な厚みと、世紀単位の近代化の変動の中で中国の現在を捉える本書を、である。〈過去への洞察〉が〈未来への想像力〉を解き放つ。(大澤真幸)

目次(◆は書き下ろし):
序章 思想課題としての現代中国――革命・帝国・党 ◆
I 「帝国」の再編成
 第1章 「中国の台頭」と帝国の再編成
 第2章 海から見た東アジアの再構成
 付章 中国における反日デモの世界性と固有性――2012年の転換点として
II 「党」による指導
 第3章 「核」開発と冷戦の組み換え
 第4章 政治/経済のギャップとジレンマ ◆
III 「革命」による近代
 第5章 文革とは何であったのか ◆
 対談 「文革」から「民間」を問う(丸川哲史×土屋昌明)
 第6章 文化統合と政治言語 ◆
 付論 中華圏映画比較論
結びに代えて ◆
参考文献
あとがき

★まもなく発売。2011年から2012年に発表された6つの論文に加筆訂正を施し、5つの書き下ろしを加えたもの。念のために書いておくと、帯文に推薦文を寄せている大澤さんは『おどろきの中国』の共著者、との肩書が記載されていますが、共著とは言っても丸川さんとの共著ではなく、『おどろきの中国』は、大澤さんと橋爪大三郎さん、宮台真司さんの討論本(講談社現代新書、2013年2月)です。ただ、『おどろきの中国』を読んだ読者が次に本書『思想課題としての現代中国』へと進むならば、いっそう認識が深まるのではないかと思います。認識というのはしかしこの場合、中国に対する認識という以上に、日本に対する認識であり、現代世界に対する認識のことです。

★丸川さんは本書の冒頭で「現代中国をどう認識するかという入口にこそ日本社会のあり様を問う大きな問題がある」(4頁)と指摘します。なるほど中国に対する日本国内の認識は様々で、どれが本当の意味で客観的と言えるかどうか、なかなか怪しいところがあります。「現代中国を論じる難しさに関して、他の地域からの眼差しと対照した場合に、その困難の根というものがむしろ日本社会の内部にあるようにも感じられる」(306頁)。本書は反日デモを扱うにせよ、原発や「文革以後」を論じるにせよ、「日本社会にある中国認識にかかわる特有の問題」(306頁)との対峙の中で慎重に分析を進めていて、好感が持てます。その「特有の問題」をめぐる丸川さんの認識は本書末尾の「結びに代えて」で簡潔にまとめられており、このパートは丸川さんの次回作を想像させるものともなっています。「中国認識の深化は、また同時に近代日本全体にかかわる認識と評価の深化を伴わざるを得ない」(312頁)という丸川さんにとって、「戦後日本の主体のアポリア」を鮮明化することが次の「思想課題」となっていくような、そんな展開を予感させます。

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現代思想 2013年8月号 特集:看護のチカラ――"未来"にかかわるケアのかたち
青土社 2013年7月 本体1,238円 A5判並製230頁 ISBN978-4-7917-1266-3

★発売済。討議「看護ケアと臨床哲学」(木村敏+西村ユミ)を始め、エッセイ「《臨床》というメタファー」(鷲田清一)、「看護×現象学」を主題とした三論文「現象学者は普遍的真理の夢を見るか――メルロ=ポンティの「事実的普遍性」」(松葉祥一)、「ローカルでオルタナティブなプラットフォーム――助産師Eさんと現象学的倫理学」(村上靖彦)、「メルロ=ポンティのレンズを通して――看護研究への現象学的アプローチを進展させる」(S・P・トーマス/八重樫徹+黒田諭訳)など読み応えあり。翻訳にはガタリの盟友ジャン・ウリの「看護師の精神療法への参加」(三脇康生+山森裕毅訳)もあって、これはウリの主著のひとつ『精神医学と制度精神療法 Psychiatrie et psychothérapie institutionnelle』(Payot, 1977; Champ social, 2003)に収録されている論考。この本ではトスケルが序文を書いています。「現代思想」来月号(9月号)の特集は「婚活」とのこと。「就活」「終活」なども特集してくれたらいいなと思います。

★なお、本号の刊行を記念し、今週末に以下のイベントが開催されます。関連書のフェアも開催中とのことです。

看護×現象学――「見える身体」の交流から、「見えない身体」の交流へ」

日時:2013年08月03日(土)17:00 ~
場所:MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店(東急百貨店本店7F) 7階喫茶コーナー
定員:40名
料金:1,000円(1ドリンク付)
お問い合せ・ご予約:MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店 電話03-5456-2111(営業時間10:00~21:00)

出演:西村ユミ(首都大学東京健康福祉学部教授)+村上靖彦(大阪大学大学院人間科学研究科准教授)
内容:看護×現象学ってなんだろう?看護と現象学って関係あるの?? 現在、看護ケアやリハビリテーション、精神医療などの臨床の現場で、治療ケアの妥当性を担保するために、医療者や患者から、現象学という理論的根拠が強く求められています。この度、『現代思想』では看護の現場を特集し、患者との交流を日常の営みとする看護ケアの実践を取り上げ、その知と技法から私たちが学ぶべきものを提示しました。今回のイベントでは、看護学者の西村ユミさんと現象学者の村上靖彦さんが、看護の現場で具体的にどのように現象学が展開され、どのような可能性があるのか、またそうした現場で揉まれ、発展しつつある現象学のこれからについてお話いただきます。

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★話は変わりますが、京都大学学術出版会さんの一大シリーズ「西洋古典叢書」が今年5月刊行のヘシオドス『全作品集』をもって累計出版100点に達したことは先日も書きました。このたび、その記念に「西洋古典叢書 100冊刊行記念目録」が作成され、配布開始になっています。この目録冊子には1997年から2013年に至る100点の既刊書が紹介されているほか、巻末に「マンガ西洋古典叢書――市民とテルマエを愛したハドリアヌス帝」と「懸賞付 西洋古典叢書クイズ」が掲載されています。前者のマンガは京都精華大学国際マンガ研究センターのオガワツヨシさんによるもの。わずか4頁の短篇ですが、ハドリアヌス帝の人間的魅力に迫ろうとする作品です。後者のクイズは全20問で、難易度1の四択から、難易度3の問題まであって、いずれも既刊書にきちんと当たらないと答えが分からないかもしれません。来年3月5日が締切で、誰でも応募できますが、10問以上の回答が必要です。当選総数は100名という大盤振る舞いで、100冊の中から読んでみたい1冊がそれぞれ78名にプレゼントされるほか、京都Nitro特製のオリジナルブックカバー(革製)が20名に当たるとのことです。さらにそれぞれ1名様ずつに当たる商品もありますが、黙っておきます。一番上のA賞は他社製品じゃない方が良かったような気がしますが、まあ価値観は人それぞれということで。なお、シリーズの次回配本は9月10日発売予定、エウリピデス『悲劇全集2』丹下和彦訳、だそうです。
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by urag | 2013-07-28 23:56 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 07月 26日

8月5日まで:ブックフェア「JINBUN FANCLUB」vol.1@紀伊國屋書店新宿本店

紀伊國屋書店新宿本店3Fの人文書売場フェア台にてただいま「JINBUN FANCLUB」フェアの第1弾「まなざしの暴力/イメージの政治」 が好評開催中です。JINBUN FANCLUBというのは、「紀伊國屋書店新宿本店の、人文書が好きでたまらないスタッフによる新しいブックフェアのシリーズ」で、「「人文書は楽しい」「人文書は面白い」「人文書はかっこいい」というメッセージを広く伝えるべく、自分が心から見たいと思うフェアを、3階人文書売場フェア台にてまずは5ヶ月連続で開催」する、とのことです。

この「JINBUN FANCLUB」はルールを掲げていて、「全ての選書に関して、実際に読んだ上で書かれたPOPを付けて陳列します」。「人文書という枠にとらわれず、ジャンル横断的に選書します」とのことです。今後、8月には「記憶」をテーマにした選書、9月は「アメリカ」、10月は「フィクションとノンフィクション」、11月は「少年少女」を、それぞれテーマにした選書を行うそうです。JINBUN FANCLUBのスタッフは、新宿本店第2課の藤本・大畠・伊藤・川島、の各氏と営業企画部店営連携課の岩田さんです。

当初は今月いっぱいの予定でしたが、好評につき会期延長で8月5日まで開催されます。店頭では選書リストも無料配布されています。弊社刊『文化と暴力』も選んでいただいており、光栄です。


JINBUN FANCLUB VOL.1 まなざしの暴力/イメージの政治

期間:2013年7月1日~8月5日
会場:紀伊國屋書店新宿本店3階 人文書売場フェア台

内容:僕らが何かを「美しい」とか「かっこいい」とか思う時、そこにはどんな力が働いているのか? そこには何か、危険が潜んでいることもあるのではないか? 19世紀から本格的に始まった「近代」は、写真や映画の発明によって僕らのものの見方をがらりと変えました。そして人類の進歩と思われた「近代」の中からは、やがて20世紀の悪夢となったファシズムが生み出されました。ファシズムの出現と、僕らの「まなざし」とはどんな関係があるのか? 僕らが感じる美しさやかっこよさは、どんな「政治」を生み出すのか? このようなテーマについて考えるのが、JINBUN FANCLUB第一弾「まなざしの暴力/イメージの政治」です。 ぜひ店頭で手書きPOPとあわせてごらん下さい。(新宿本店 第2課 藤本浩介 with JINBUN FANCLUBスタッフ)

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by urag | 2013-07-26 18:51 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2013年 07月 22日

注目新刊:カッチャーリ『死後に生きる者たち』みすず書房、ほか

弊社出版物の著訳者の皆さんのご活躍をご紹介します。

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★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、編訳:パーチ『関係主義的現象学への道』、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』、共訳:アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』『瀆神』、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』)
『必要なる天使』に続く、マッシモ・カッチャーリの待望の訳書第二弾が刊行されました。原書は、Dallo Steinhof: Prospettive viennesi del primo Novecento(Adelphi, 1980; 2 ed, 2005)です。『批評空間』第二期で途中まで連載されたものの完訳版です。

死後に生きる者たち――〈オーストリアの終焉〉前後のウィーン展望
マッシモ・カッチャーリ著 上村忠男訳 田中純解説
みすず書房 2013年7月 本体4,000円 四六判上製360頁 ISBN 978-4-622-07779-4
帯文より:帝国の没落、故郷からの離別。かれら“死後に生きる者たち”をめぐる連作歌曲ふうの哀悼劇。「驚くべきアナロジーの高速な展開。アレゴリー的構築物」(田中純)

目次:
新版(2005年)への序言
まえおき(1980年)
シュタインホーフから
死後に生きる者たち
言語的なもの
安んじることのないわたしたちの心
哀悼劇の新たな空間
近代的なものの批判
悲劇的なものの不可能性
さあ、さあ、おはいり、動物たちの見せ物小屋へ!
音楽、声、歌詞
不可思議な驚嘆すべき出来事
むずかしい男
アケロンを動かしてみせよう
内密のアードルフ・ロース
ルーのボタン
ガラスの連鎖
死ぬことに障害を負った者
ふたたび神秘的なものについて
夕べの国
断崖と沼について
ケンタウロスたち
女性的なもの
永遠の子供
離別した者の歌
弓術
旧い町の暗い道
物語の星
クラウスの表意文字
原注
解説 哀悼劇の天使的音楽に寄せて(田中純)
訳者あとがき
主要人名事典


★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
カント『実践理性批判』のご高訳書全二巻が完結しました。

実践理性批判 2
カント著 中山元訳
光文社古典新訳文庫 2013年7月 本体1,124円 文庫判並製392頁 ISBN978-4-334-75273-6
帯文より:カント道徳哲学の総決算! 「徳」と「幸福」を両立させるには?
帯文(裏)より:人間の自由を「理性の事実」として明確に提示し、道徳性の原理を確立したのち、カントは人間にそなわる人格という理念から自由と倫理性について考察を進める。カント道徳哲学の総決算! 全2巻完結。
カバー紹介文より:「わたしたちが頻繁に、そして長く熟考すればするほどに、ますます新たな賛嘆と畏敬の念が心を満たす二つのものがある。それはわが頭上の星辰をちりばめた天空と、わが内なる道徳法則である。」人間の自由な意志と倫理を深く洞察し、道徳原理を確立させた近代道徳哲学の原典。


★清水知子さん(著書:『文化と暴力』、共訳:バトラー『自分自身を説明すること』『権力の心的な生』
「北海道新聞」2013年7月14日(日)付朝刊12面に『文化と暴力』の書評「サッチャー時代の功罪」が掲載されました。評者は北大大学院准教授の浜井祐三子さんです。「イギリス人にとってサッチャー時代とは果たして何だったのか。/本書は、そんな疑問を抱いた人たちに何らかの答えを用意してくれるであろう。サッチャーが政権を握った1980年代以降、かつての手厚い福祉国家体制が解体された後に残った「社会なき社会」の姿を、「文化」と「暴力」というプリズムで切り取る、意欲的な著作である。〔・・・〕そこに浮かび上がるテーマは、日本に暮らす私たちにも実は無縁ではない」と評していただきました。浜井先生、ありがとうございました。


★鵜飼哲さん(共訳:ジュネ『公然たる敵』)
★宮崎裕助さん(共訳:ド・マン『盲目と洞察』)
★西山雄二さん(訳書:デリダ『条件なき大学』、共訳:『ブランショ政治論集』)
鵜飼哲、藤本一勇、宮崎裕助、西山雄二、亀井大輔の各氏を発起人とし、「デリダが主唱し拡散した脱構築を複数形で継承していく」ことを目的とした「脱構築研究会」が正式発足します。すでに2回の準備会を終え、来月に下記の通り設立記念の第一回イベントが開催されます。

◎脱構築研究会第1回設立記念イベント「ポール・ド・マンと脱構築」

日時:2013年8月3日(土)14:00-17:30
場所: 一橋大学東キャンパス 国際研究館4F大教室
アクセス: JR中央線国立駅下車、徒歩7分
入場無料

登壇者:
宮崎裕助「ジャック・デリダとポール・ド・マン」
土田知則「文学理論家としてのポール・ド・マン」

内容:かつてデリダは、脱構築(ディコンストラクション)を「plus d'une langue(ひとつならずの言語/もはやひとつの言語はない)」と定義した。脱構築は、主唱者デリダにさえも中心化されることなく、いまなお多方向に展開しつつある複数形の出来事の名である。このたび設立された「脱構築研究会」第1回目の研究会では「脱構築批評」の領袖ポール・ド・マン(1919-1983年)をとりあげる。デリダと共闘しつつも、しばしばデリダと拮抗するかたちで脱構築の多様な可能性を押し広げた存在こそド・マンであった。第1回目は、ド・マン没後30年を迎えるにあたり、『盲目と洞察』および『読むことのアレゴリー』という二つの主著の日本語訳がようやく出そろったいま、両著の訳者によるド・マンの著作の検討を出発として、脱構築の新たな諸可能性を模索することを試みる。


★門林岳史さん(訳書:リピット水田堯『原子の光(影の光学)』)
せんだいメディアテークで来月初旬に開催される映画上映イベント「対話の可能性 世界夢/霧」にてトークイベントに出演されます。

◎ポストメディア時代の映像

日時:2013年8月10日(土)19時より(開場18時30分)
会場:せんだいメディアテーク 1F クレプスキュールカフェ
料金:1000円(1ドリンクアルコール類またはソフトドリンク+お菓子付き)
席数:30席(定数になり次第締め切り)
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by urag | 2013-07-22 17:03 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 07月 21日

注目新刊と近刊:カラー図版満載『ユートピアの歴史』東洋書林、ほか

ユートピアの歴史
グレゴリー・クレイズ著 巽孝之監訳 小畑拓也訳
東洋書林 2013年7月 本体4,500円 A5判上製334頁 ISBN978-4-88721-808-6
帯文より:モアのテクストを結節点に、古典古代の神話的原型、大航海時代の数多の空想旅行記、植民地・共産主義政権下での共同体、そして20世紀以降のポップカルチャーや、陰画としてのディストピアも射程に入れた、フルカラー・図版206点、人物コラム42本の「理想郷」総展!

★まもなく発売。原書はSearching for Utopia: The History of an Idea(Thames and Hudson, 2011)です。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。現実社会に対する批判(もしくは改良や転覆)の力としてのユートピア的想像力の歴史的系譜を美麗なカラー図版とともに紹介。どこでもない場所をどこにもない場所に留めておくのではなく現実へと引き寄せようとする、人間の飽くなき探求が興味深いです。想像力の反転(あるいは負の斥力)であるディストピアについても一章を割いています(第13章)。類書は様々ありますが、カラー図版満載というのはなかなかありません。巻末の、巽孝之さんによる解説「もうひとつの空間、もうひとつの時間」では、本書を「いわゆるアーサー・ラヴジョイ流の観念史に基づき、類書ではあり得ないほぼふんだんに総天然色の図版を取り入れた、現時点における最も学際的にして包括的なユートピア史である」と紹介されています。本書を開くと分かりますが、天地に白い雲たゆたう青空が印刷されています。つまり、活字が雲に浮かんでいる様が演出されているわけで、なかなか洒落ていると思います。


社会心理学講義――〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉
小坂井敏晶(1956-)著
筑摩選書 2013年7月 本体1,900円 四六判並製416頁 ISBN978-4-480-01576-1
帯文より:真理なき世界の光景。普遍的価値の罠を明らかにし、〈開かれた社会〉の真相に迫る!
カバーソデ紹介文より:生物と同様に、社会システムは「同一性」と「変化」に支えられている。だが、この二つの相は本来両立しない。社会心理学はこの矛盾に対し、どのような解決を試みてきたのか。影響理論を中心に進められる考察は、我々の常識を覆し、普遍的価値の不在を明らかにするだろう。本講義は、社会心理学の発想を強靭な論理ととともに伝え、「人間とは何か」という問いを読む者に深く刻み込む。

目次:
はじめに
序 社会心理学とは何か
第1部 社会心理学の認識論
 第1講 科学の考え方
 第2講 人格論の誤謬
 第3講 主体再考
 第4講 心理現象の社会性
第2部 社会システム維持のパラドクス
 第5講 心理学のジレンマ
 第6講 認知不協和理論の人間像
 第7講 認知不協和理論の射程
 第8講 自由と支配
第3部 変化の謎
 第9講 影響理論の歴史
 第10講 少数派の力
 第11講 変化の認識論
第4部 社会心理学と時間
 第12講 同一性と変化の矛盾
 第13講 日本の西洋化
 第14講 時間と社会
あとがき
引用文献

★発売済。著者はパリ第八大学心理学部准教授で、日本語の著書も多数あります。本書はパリ第八大学で修士課程の学生を対象に行った講義を元に構成したものとのことです。もともとは『社会心理学の敗北』という書名を考えておられたそうで、概説や入門書というよりは、社会心理学の考え方自体について批判的に検討する本になっています。議論の縦糸に「同一性と変化」を、横糸に「〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉」を配して、二人の社会心理学者、レオン・フェスティンガーとセルジュ・モスコヴィッシを中心に論じています。なお横糸となる概念はベルクソンとポパーから借りたものですが、この二人の哲学そのものが論じられているわけではありません。書店における社会心理学の本籍は心理学ですが、本書の場合は、社会学や哲学思想に置いてもおかしくないです。「あとがき」はある種、研究者を志す人への痛烈なメッセージになっていて人生論として感じるものがあります。本論でも第13講の最後で著者はこう書いています。「慣れ親しんだ思考枠から脱するためには、研究対象だけを見ていても駄目です。対象を見つめる人間の世界観や生き方が変わる必要がある。研究の対象が外部にあって、それを主体が眺めるという受動的な関係ではない。研究が進むにつれて自己変革がなされ、それがひるがえって対象の解釈を変化させる相互作用として研究活動はあるべきでしょう」(350頁)。


傷と出来事
ジョー・ブスケ(Joë Bousquet, 1897-1950)著 谷口清彦・右崎有希訳
河出書房新社 2013年7月 本体2,800円 46判上製288頁 ISBN978-4-309-20627-1
帯文より:第一次大戦で負傷、後半生をベッドで過ごし、ただ「傷」と「運命」を見つめつづけた伝説の詩人ブスケ。ヴァレリー、ヴェイユたちが愛し、ブランショ、ドゥルーズらに深い霊感を与えた奇蹟の言葉、初の日本語訳。「傷が私の肉にうえつけたのは、私が傷を負った五月の夜に咲くバラである」。

★発売済。原書は、Mystique(Gallimard, 1973)です。巻末の谷口清彦「傷と運命――訳者あとがきにかえて」によれば、原題は『神秘的なるもの』で「ブスケが日々の詩想をつづった「白色ノート」を死後出版したもの」とのことです。1920年代から数々の著作がフランスで刊行されてきたブスケですが、単独著の翻訳は実に初めてです。かつてシモーヌ・ヴェイユとの往復書簡が大木健さんの『カルカソンヌの一夜――ヴェイユとブスケ』(朝日出版社、1989年)に収録されています。

★著者は本書について「この白色ノートには概論がまとめられる」(14頁)と書き、また別の箇所では「この白色ノート、神秘なるもの。スヴェーデンボリ、アウグスティヌス、ベーメ、ノヴァーリス」(77頁)と書きます。この四者は直接的に論じられるというよりかは、ブスケの詩作と思索の糧になっているようです。「ひとのさまざまな気質にはそれぞれの詩的な絶頂がある。そうした絶頂において、ひとは人間的経験や神秘的野心の極限を見出す」(131頁)ともブスケは書きます。「神秘主義研究のなかから取りだされた詩的観念」について書こうとする箇所には「ラモン・リュイによる研究に私が負うものを意識しつつ」(144頁)という前置きも読めます。あるいは「エリュアールの作品を手がかりに、スコット・エリウゲナとプロティノスに取り組んでいた」(260-261頁)と書いた箇所もあります。ルルスやスコトゥス・エリウゲナをはじめとする神秘思想家に学び、また詩や詩人とは何かについて繰り返し思索を重ねたブスケ。中でも印象に残ったのは次の言葉です。「詩人は非物質的なものを物質化する。〔・・・〕人間が労働するのは、みずからの状態以上の高みへと向上するためではなく、みずからの状態にふさわしい者となるためである」(154-155頁)。


マグナ・グラエキア――ギリシア的南部イタリア遍歴
グスタフ・ルネ・ホッケ(1908-1985)著 種村季弘訳
平凡社ライブラリー 2013年7月 本体1,500円 HL判並製372頁 ISBN978-4-582-76790-2

帯文より:ヨーロッパ精神の古層を遍歴! 長靴の靴底、かつて古代ギリシアの植民市がおかれ、異文化が混淆し堆積するこの地の、精神史的相貌を描き出す、特異な旅行-思想小説。解説=田中純
カバー裏紹介文より:イタリア南部、長靴の靴底地域は、かつて古代ギリシアの植民市が開かれた地、エレア派やピュタゴラス学派の活動拠点、ヨーロッパのはじまりの精神史的地層を蔵し、永く異文化の異種交配が繰り返された現場である。その地から「ヨーロッパの発生と生成と、(中略)没落と再生を再吟味すること」(訳者あとがき)をめざすホッケの錬金術-旅行小説を、種村季弘の翻訳で読む。

★発売済。1996年に同版元から刊行された単行本の文庫化です。本書の再刊によって、ホッケの品切本はすべて復刊されたことになり、たいへん喜ばしいことです。原書は1960年にErdmannから刊行されたMagna Graecia: Wanderungen durch das griechische Unteritalienです。本書の成立や位置付けについては「訳者あとがき」や田中純さんの解説「レヴィヤタンとグラリエリたち――『マグナ・グラエキア』の「消えうせた顔」」に詳しいです。この旅行小説は実際にホッケ自身が行った旅行の体験を元にしているそうですが、私が個人的に忘れがたいのは、本書で主人公が神殿都市ポセイドニア(パエストゥム)について考察を進め、「ポセイドン神殿はピュタゴラスの天球の音楽〔ハルモニア〕とエレア学派の存在=確信を反映しているのだ」と気づき、その後、画家のH・M氏からハンス・カイザーの音楽=建築論を学ぶくだりです。カイザーは画家が紹介する通り「これまで学界がどちらかといえばないがしろにしていた」スイスの学者であり、「何十年来というもの、数と音の関係を研究」してきた人物で、日本には訳書は一冊もありません。しかし、ジョスリン・ゴドウィン『星界の音楽』やヨアヒム・ベーレント『世界は音』をお読みになった読者なら名前に聞き覚えがあるでしょう。かれこれ20年以上見ている夢ですが、いつの日かハンス・カイザー著作集を日本でも作ってみたいものです。


かつて描かれたことのない境地 傑作短篇集
残雪(1953-)著 近藤直子・鷲巣益美ほか訳
平凡社 2013年7月 本体2,600円 四六判上製302頁 ISBN978-4-582-83628-8
帯文より:現代中国の最重要作家が1988年から2009年までに発表した短編小説から精選、年代順に編む、日本オリジナル傑作集。ある上申書を書き直し続ける母と、夢と本によって母に現実を示す娘を語る「瓦の継ぎ目の雨だれ」から、地下に向かって成長する不思議な植物をめぐり変化する人々を描く「アメジストローズ」まで、夢の論理に細部まで貫かれた14篇を収める。

★まもなく発売。「訳者あとがき」によれば本書は「基本的には残雪短篇小説全集『かつて描かれたことのない夢の境地』(原題『残雪短篇小説全集 従未描述過的夢境』上下巻、作家出版社、2004年)に収録された作品のうち、日本で出版された残雪作品集にすでに収録されているものを除外し、『残雪研究』などの研究誌や雑誌等に発表された邦訳作品から選定したもの」(291頁)とのことです。残雪さんの近年の訳書には小説では『暗夜』(近藤直子訳、『世界文学全集』第1集06巻所収、河出書房新社、2008年)、評論では『魂の城 カフカ解読』(近藤直子訳、平凡社、2005年)があります。カフカやボルヘスを論じているだけあって、自身の書きものも幻想的な作風で知られ、本書でもその魅力的で不可思議な短篇を堪能できます。表題作の「かつて描かれたことのない境地」は道行く人々の見た夢を書き取る「記述者」の話ですが、その「いまだかつてない何かを待つ」具合はブッツァーティの『タタール人の砂漠』を思わせ、末尾の一行はカフカ『判決』の最後の光景を連想させます。14篇ともいずれも異様な物語なので、飽きさせません。

★なお、本書と同様にまもなく発売となる平凡社さんの新刊には、木村紀子『古事記 声語りの記〔しるし〕――王朝公家の封印したかった古事〔ふるごと〕』があります。版元紹介文に曰く「古事記はなぜ長らくなおざりにされてきたのか? それはこの書が日本書紀とは違い、声による語りを記すものだったことにある。その意味を深く解き明かし、古事記論の基本視座を示す」とあります。木村さんは周知の通り、日本語の成り立ちについて長年研究されてきたヴェテランで、本書では日本書紀が残せなかった伝承を古事記が残しえたのはなぜか、そしてなぜ古事記はその昔ないがしろにされてきたのか、について探究されています。日本史や古文の知識を要求される本ですが、非常に刺激的な考察だと思います。

★また、平凡社さんの新刊では、先月刊行された山岡淳一郎さんによる評伝『気骨――経営者 土光敏夫の闘い』が話題を呼んでいると聞いています。平成生まれの若い世代にとってはよく知らない人物かもしれませんが、土光敏夫(どこう・としお:1896-1988)さんは一エンジニアから出発して経営者となり、経団連の会長や、政府の諮問機関のまとめ役として、80年代の中曽根政権下での三公社民営化に尽力した人物でした。増税なき財政再建へとつき進むその馬力に魅力を感じます。本書を読んで「今の経済界にこんな人がいたらなあ」と嘆息したくなる読者がいたとしても仕方のないことです。宮崎駿監督の最新作『風立ちぬ』で描かれているエンジニアの世界とはまた別の次元で、土光さんの生きざまが「いまこそ」顧みられようとしているのは、まさに時代の要請であると感じます。


境界なき土地
ホセ・ドノソ(1924-1996)著 寺尾隆吉訳
水声社 2013年7月 本体2,000円 四六判上製176頁 ISBN978-4-89176-952-9
帯文より:大農園主ドン・アレホに支配され、文明から取り残され消えゆく小村を舞台に、性的「異常者」たちの繰り広げる奇行を猟奇的に描き出す唯一無二の〈グロテスク・リアリズム〉。バルガス・ジョサに「最も完成度の高い作品」といわしめたチリの知られざる傑作。

★発売済。シリーズ〈フィクションのエル・ドラード〉の第3回配本です。チリの巨匠、原書は、El lugar sin límites(Joaquín Mortiz, 1966)で、必要に応じて第三版(1985年)や批評版(1990年)を参照したとのことです。帯文にはマリオ・バルガス・ジョサの「錯綜した神経症的世界と豊かな文学的想像力」という文言が踊ります。女装の踊り子マヌエラの遍歴を中心に描かれた作品で、切ない、もの悲しい物語です。「彼女」が踊る時、そして男たちが彼女に乱暴を働く時、救いのない狂気が閃きます。また、金持ちが貧乏人を支配する腐敗しきった政治の中にも救いはありません。本作は映画化もされているので、予告編の動画を貼っておきます。



★「訳者あとがき」ではドノソの伝記『分厚いヴェールの向こう』(2009年)を書いた養女のピラール・ドノソが2011年に44歳の若さで服毒自殺したこと、ドノソの創作ノートに「作家である父親の死後、その秘密の日記を読んで自殺を決意する娘を主人公にした小説の構想」があったことなどが紹介されていて、戦慄を禁じえません。〈フィクションのエル・ドラード〉シリーズでは、ドノソ『夜のみだらな鳥』(鼓直訳、集英社『世界の文学』第31巻、1976年;集英社『ラテンアメリカの文学』第11巻、1984年)が今後復刊されるとのことです。古書では比較的に高値でしたから朗報です。また、大作『別荘』も他社から翻訳予定だそうです。

★また、水声社さんで今月発売された新刊の山崎剛太郎詩集『薔薇の柩 付・異国拾遺』が小著ながら注目されているようです。版元紹介文に曰く「マチネ・ポエティク最後の詩人・山崎剛太郎。95歳、研ぎ澄まされた瞳が見据える過去と現在、生と死、そして愛、あるいは永遠……。寂寥の現実と甘美な幻想とを巧みに交錯させながら、静かに過ぎゆく日常の時間を豊かに、そして壮絶にうたいあげた新作11篇にくわえ、敗戦直後に執筆された幻の未発表詩篇5篇を収録」。フランス文学の訳書は多数ありますが、ご自身の本はさほど多くなく、詩集としては『夏の遺言』が水声社から2008年に刊行されています。

★さらに、水声社さんでは「レーモン・クノー・コレクション」全巻予約者のみに配布された非売品(300部限定)の『100兆の詩篇』を再版で一般発売されたとのことです。わずか31頁の本で本体2500円というのは高いと言えば高いですが、頁にハサミを入れなければ楽しめない本なので、非売品を持っている方ももう一冊、持っていない方は読書用と保存用とで二冊、ついつい書いたくなると思います。


撮影術――映画キャメラマン大津幸四郎の全仕事
大津幸四郎(1934-)著
以文社 2013年7月 本体3,400円 A5判上製カバー装288頁 ISBN978-4-7531-0316-4
帯文より:学生反乱、三里塚、水俣から原発まで、戦後社会運動の現場や世界各地へ赴き、土本典昭、小川紳介、牛山純一、佐藤真らと共闘するキャメラマンとして日本ドキュメンタリーの「眼」を担ってきた著者が、その全軌跡を振り返りつつ自作を詳細に分析。独立で映画を志す者に「人間の撮り方」を指南する。事件の現場で何をどう撮ったか。

★まもなく発売(2013年7月24日発売予定)です。「あとがき」に付された編集担当Mさんによる付記によれば「本書は、2011年6月にオーディトリウム渋谷で行われた特集上映「反権力のポジション キャメラマン大津幸四郎」のトークショーに、既出の講演・対話、および語り下ろしを加えて編集」したとのことです。目次詳細は版元ドットコムさんの個別商品頁をご覧ください。近年ではユンカーマン監督「チョムスキー 9.11」や、佐藤真監督「エドワード・サイード OUT OF PLACE」に協力されており、2005年には、自ら撮影と構成を担当した『大野一雄 ひとりごとのように』を発表。現在は、三里塚で農業を続けるかつての闘士たちを四十余年ぶりに訪ねる長編ドキュメンタリー『三里塚』(仮題)を撮影中とのことです。本書ではどの頁からも著者による舞台裏の肉声と関係者による時代の証言とが収められ、資料として貴重なだけでなく、キャメラマンとしての倫理と矜持を教える実地の啓蒙書ともなっていると思います。映画と社会運動の交差するあわいを縫い続けた職人の姿は、厳しくも魅力的です。

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by urag | 2013-07-21 23:06 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 07月 17日

8月上旬刊行予定:ユンガー『労働者』

2013年8月7日取次搬入予定 *文芸[ドイツ文学]・人文[ドイツ思想]

労働者―― 支配と形態
エルンスト・ユンガー著 川合全弘訳
本体2,800円 46判並製456頁 ISBN978-4-86503-005-1

激しく変化する世界の中で、卓越した技術をたずさえた新しい人間たちが、来たるべき社会の担い手として登場する。見よ、利害の応酬の彼方から、市民的個人に代わって類型人が、市民的憲法に代わって労働計画が全地球を動員する時代がやってくる。震撼すべき未来の書として八十有余年もの時を越えて、本書は私たちの眼前にその巨大な翼の影を伴いつつ立ちはだかる。開け、この書物を。あなたの行く手を拓くように。【叢書エクリチュールの冒険、第五回配本】

原書:Der Arbeiter: Herrschaft und Gestalt, Hanseatische Verlagsanstalt, 1932.

本書の造本について:薄桜色の紙にえんじ色のインクで本文を刷りました。それを紅い見返しと表紙でくるみ、手触りの良いきなりの白いカバーで包みました。カバーの書名は銀色の箔押しです。

エルンスト・ユンガー(Ernst Jünger, 1895-1998)。ドイツの作家。二度の大戦に従軍し、体験記や日記を上梓。本書『労働者』(1932年)は、戦間期に書かれた『総動員』(1930年)に続くエッセイであり、その世界像は同時代に戦慄をもって迎えられた。無類の古書好きであり、昆虫好きでもある。著書の日本語訳に以下のものがある。『ヘリオーポリス』(全二巻、田尻三千夫訳、国書刊行会、1985-1986年)、『追悼の政治――忘れえぬ人々/総動員/平和』(川合全弘編訳、月曜社、2005年)、『ユンガー=シュミット往復書簡 1930-1983』(ヘルムート・キーゼル編、山本尤訳、法政大学出版局、2005年)、『パリ日記』(山本尤訳、月曜社、2011年)。

川合全弘(かわい・まさひろ:1953-):京都産業大学法学部教授。ドイツ政治思想史専攻。著書に『再統一ドイツのナショナリズム――西側結合と過去の克服をめぐって』(ミネルヴァ書房、2003年)、訳書にエルンスト・ユンガー『追悼の政治』(月曜社、2005年)がある。
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by urag | 2013-07-17 00:00 | 近刊情報 | Trackback | Comments(2)
2013年 07月 16日

本日より開催:ブックフェア「初期近代精神史研究」@紀伊國屋書店新宿本店

初期近代精神史研究フェア

場所:紀伊國屋書店新宿本店3F哲学フェア台
会期:2013年7月16日~9月中旬(予定)
お問合せ:紀伊國屋書店新宿本店3F TEL:03-3354-5703(3F直通)

内容:2013年7月、キルヒャーの『普遍音樂』(工作舎)と、ヒロ・ヒライさんが監修されるbibliotheca hermetica叢書の『天才カルダーノの肖像』(勁草書房)が相次いで出版されます。これらの出版を記念し、新宿本店では、「初期近代精神史研究」と題したフェアを開催いたします。本フェアではヒロ・ヒライさんの選書(フェアタイトルのリンク先をご参照ください)を中心に、関連書籍を集めております。各出版社、品薄の在庫銘柄もございますので、この機会にぜひご覧ください!

※『普遍音樂』は発売済です。また、『天才カルダーノの肖像』は7月下旬発売予定です。ご注文・ご予約を承ることができますので、お気軽にお問い合わせください。

ヒロ・ヒライさんコメント:各方面から大きな注目を集めているルネサンス・初期近代の精神史研究。それは、歴史学者の時間にたいする感性と哲学者のテクストのなかに入りこむ浸透力で、思想・文学・芸術作品の背景にある〈知のコスモス〉を描き出す壮大な試み。天才カルダーノや放浪の医師パラケルスス、最後の万能人キルヒャーといった、あらゆる領域で優れた業績を残した人物やその知的世界を読み解くのは、分野横断的な精神史の独壇場です!

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以下はフェアご担当のOさんからいただいたフェア台の写真です。
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by urag | 2013-07-16 20:18 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2013年 07月 15日

注目新刊と既刊:パラケルスス『アルキドクセン』ホメオパシー出版、ほか

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アルキドクセン――パラケルスス錬金術による製薬術の原論
パラケルスス著 澤元亙訳 由井寅子日本語版監修
ホメオパシー出版 2013年5月 本体2,800円 A5判上製288頁 ISBN978-4-86347-074-3

版元紹介文より:「賢者の石」など伝説のアイテム群の作り方を一挙公開! 西洋錬金術の歴史において最も有名な、パラケルスス著『アルキドクセン』の邦訳です。大ヒットアニメ『鋼の錬金術師』や大ヒット映画『ハリーポッター』にも登場する「賢者の石」の名前を一度は聞いたことがある人も多いことでしょう。本書には、パラケルスス自身によって実際に使用された医薬、すなわち、秘薬(アルカナ)と呼ばれる第一物質・賢者の石・生命の水銀・チンキ剤、そして、さまざまな種類の第五精髄(クインタエッセンティア)・霊薬(エリクシール)・変成物(マグナリウム)・特効薬などのつくり方が説かれており、錬金術による製薬術を語る上で欠かすことのできない歴史的な書です。

目次:
監修者まえがき(由井寅子)
第一巻 人体の神秘
第二巻 (欠)
第三巻 元素の分離
第四巻 第五精髄の神秘
第五巻 秘薬の神秘
第六巻 変成物の神秘
第七巻 特効薬の神秘
第八巻 霊薬の神秘
第九巻 外用薬の神秘
訳注
訳者あとがき

★発売済。全国に5店舗ある直営店では5月26日発売、全国書店では6月10日以降発売となった新刊です。2010年5月刊『医師の迷宮』、2012年9月刊『目に見えない病気』に続く、ホメオパシー出版さんの「ホメオパシー古典シリーズ」の澤元亙訳パラケルスス第3弾です。前二作は函入の本でしたが、今回はカバー装になっています。個性的なデザインで、本屋さんの書棚で異彩を放っていました。澤元さんは工作舎さんから2004年11月に刊行されたパラケルススの『奇蹟の医の糧――医学の四つの基礎〈哲学・天文学・錬金術・医師倫理〉の構想』(大槻真一郎共訳)も手掛けておられるほか、ホメオパシー出版さんから数々の訳書を上梓されておられます。『プリニウス博物誌 植物薬剤編』(八坂書房、1994年;新装版2009年)の共訳者でもいらっしゃいます。

★『アルキドクセン』もしくは『アルキドクシス』、すなわち『魔術原論 Archidoxis Magica』は、日本語版監修者由井さんの「監修者まえがき」によれば、『奇蹟の医書』(工作舎)と相前後して1526年ごろ書かれ、ラテン語版が1569年、ドイツ語版が1570年に出版。本訳書の底本はヴィル=エーリヒ・ポイカート(Will-Erich Peuckert, 1895-1969. 本書での表記はポイケルト)による『テオフラストゥス・パラケルスス著作集』第二巻(1965年)とのことです。上記著作集では第一巻(『奇蹟の医書』や『奇蹟の医の糧』などを所収)と第二巻(『医師の迷宮』や『目に見えない病気』などを所収)はともに「医学文書」としてまとめられているテクスト群であり、その一つが『アルキドクセン』です。パラケルススの著書の中でも最大の錬金術文書であり、「賢者の石」の作り方も本書で明かされています。お値段も手頃で良心的です。錬金術の古典的名著なので、魔術史に関心がある方だけでなく、化学史を研究している方にも広く読まれていくのではないかと思われます。

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現代思想 2013年8月臨時増刊号 総特集:フォン・ノイマン――ゲーム理論・量子力学・コンピュータ科学
青土社 2013年7月 本体1,429円 A5判並製246頁 ISBN978-4-7917-1265-6

★発売済。シリーズ「現代思想の数学者たち」の第2弾です。第1弾はチューリング生誕100年を記念して2012年10月に刊行された『現代思想 2012年11月臨時増刊号 総特集:チューリング』でした。今回はフォン・ノイマンの生誕110年になるということで企画されたものかと思います。フォン・ノイマンの未邦訳テクストが二篇収録されています。1946年のシカゴ大学講演「数学者」(高橋昌一郎訳・解題)と、1930年から1956年のあいだにフォン・ノイマンとクルト・ゲーデルとのあいだで交わされた「往復書簡」(田中一之訳・解題)21篇です。国内の研究者による13篇の論考に加え、巻末には「JvN/PostJvN」と題して、フォン・ノイマンの個人史、フォン・ノイマン以外の科学者たちの業績史、世界の情勢史の三層からなる年表が掲載されています。目次詳細は書名のリンク先をご参照下さい。下記のデデキントの新訳を上梓された渕野昌さんも「フォン・ノイマンと公理的集合論」という論考を寄稿されています。


数とは何かそして何であるべきか
リヒャルト・デデキント著 渕野昌訳・解説
ちくま学芸文庫 2013年7月 本体1,400円 文庫判336頁 ISBN978-4-480-09547-3

帯文より:待望の新訳。訳者による充実の解説付き!
カバー裏紹介文より:「切断」の概念により実数の厳密な基礎付けを試みた『連続性と無理数』、そして数学的論理のみから自然数論を展開した『数とは何かそして何であるべきか?』の、デデキントの業績を代表する2篇のモノグラフを収録。付録としてエミー・ネーターとエルンスト・ツェルメロの論考に加え、デデキントの議論を補いつつ不完全性定理や連続体仮説までをも射程に入れた、訳者による「現代の視点からの数学の基礎付け」を収録。長く読み継がれてきた数学論の古典、待望の新訳!

★発売済。「連続性と無理数 Stetigkeit und irrationale Zahlen」(1872年)と「数とは何かそして何であるべきか? Was sind und was sollen die Zahlen?」(1888年)の二論文の新訳に加え、付録として、デデキント著作集に付されたエミー・ネーターによる注記「前掲のモノグラフ〔数とは何かそして何であるべきか?〕に対する説明」、エルンスト・ツェルメロによる論考「集合論の基礎に関する研究I」(1908年)、訳者による論考「現代の視点からの数学の基礎付け」を収録。巻末には「訳者による解説とあとがき」「参考文献」「事項索引」「人名索引」を配しています。デデキントの上記2論文のこれまで良く知られた訳書には、河野伊三郎訳『数について――連続性と数の本質』(岩波文庫、1961年)があり、昨春(2012年3月)までに33刷を数えています。岩波文庫版では著者名は「デーデキント」と表記され、書名の「数」は「すう」と読みます。今回の新訳では「数」は「かず」です。岩波文庫版に比べて3倍近い値段にはなっていますが、実に半世紀ぶりの新訳であり、付録も充実していますから、ぜひとも購入しておきたいですね。

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荘子 内篇
荘子著 福永光司・興膳宏訳
ちくま学芸文庫 2013年7月 本体1,300円 文庫判352頁 ISBN978-4-480-09540-4

帯文より:あらゆる束縛から自由になる。古代中国が生んだ解脱の哲学。
カバー裏紹介文より:現代人の疲れた心に沁みわたる、古代中国が生んだ最高の解脱の哲学。人間の醜さ、愚かさ、社会の息苦しさから自由になりたいと願った荘子は、彼一流の人を喰った諧謔を武器に、世俗的な価値観一切をちゃかし、切り捨てていく。しかし、常識の世界と決別しただけでは絶対的な精神の自由を手にすることはできない。すべての苦悩は己の物差しでものごとを捉えることからはじまると考えた荘子は、自我を放棄し、大自然と合一する道を究めていく。「内篇」「外篇」「雑篇」全三篇のうち、荘子の思想をもっともよく伝えるとされるのが本巻の「内篇」。碩学二人の手による『荘子』訳注の決定版!

★発売済。福永訳の中国古典本は今年1月刊の『老子』に続くものです。本書では荘子は人名の場合「そうし」、書名の場合は「そうじ」とルビが振ってあります。内篇は「ないへん」です。「外篇」も来月刊行される予定です。『荘子』の完訳、抄訳、解説本は各種ありますが、文庫など入手しやすい形態で比べ読みするならば、金谷治訳注岩波文庫版全4巻や、 森三樹三郎訳中公クラシックス版全2巻などと一緒にこのちくま学芸文庫版をお買い求めになるのが良いと思います。

★福永光司さんの「荘子」本には講談社学術文庫から2011年7月に発売された本書と同名の『荘子 内篇』があり、混同しそうになりますが、基本的に別のものです。そもそもの経緯を追ってみると、福永版「内篇」の原本は、1956年に朝日新聞社の「中国古典選」の一冊として刊行されたものです。基本的に原文、読み下し文(訓読文)、訳解、から成っています。その後、「新訂中国古典選」で「内篇」補訂版が1966年に刊行(「外篇」および「雑篇」も66~67年に全二巻で刊行)。約十年後の1978年にこれら内外雑の三篇が朝日文庫版「中国古典選」シリーズでさらに細かく6分冊に分かれて再刊。講談社学術文庫版は78年の朝日文庫版と同じく、66年の補訂版を親本としています。

★さらにその後、筑摩書房「世界古典文学全集」第17巻『老子・荘子』(2004年5月刊)に収められるにあたって、原文、読み下し文、現代語訳、訳注という構成に改まりました。この時に、福永版の解釈をもとにしつつ、読み下し、現代語訳、訳注を新たに書き下ろしたのが興膳さんです。このいわば全面改訂版が今回のちくま学芸文庫版の親本になります。そんなわけで、思い切りかぶっているようでいて、実は別物なのです。ですから、両方を購入しても損はしません。福永版(66年補訂版)に基づくとはいえ、興膳版(2004年改訂版)は読み下しの段階から異なりますから、どちらも新鮮に読めると思います。

★読み下し文や訳解について、福永版では福永さんご自身がこう説明されています。「原文に並べて掲げた訳文は、一おう伝統的な訓読法に従ったが、理解を容易にするためと、語釈の煩わしさをはぶくために、必ずしもこれに拘泥せず、自由に訓み改めた」(「解説」附記、396頁)。「私は訳解の学問的(語学的)な厳密さよりも私の身を以て理解した『荘子』を私なりの興味で自由に解釈することを志した。訓み下し文を思い切って自由な訓み方にしたのも、訓み下し文だけで大意のとれる部分の忠実な訳解を省略したのも、このためである」(「新訂本はしがき」、6頁)。つまり、読み下し文はいわば文語訳であり、続く訳解は現代語部分訳、自由訳、注釈、訳注を織り交ぜたものです。一方、興膳版はこの構成を、忠実な読み下し文、現代語訳、訳注(用語解説)へと判然と立て分けるために新たに書き下ろされたものなので、当然ながら印象が異なります。どちらの版も推薦したい理由はそこにあります。

★講談社学術文庫版(福永版)とちくま学芸文庫版(興膳版)で内容が重複しているのは、福永さんによる巻末の「解説」だけです。前者ではさらにその解説に凡例的な「附記」が付き、さらにそのあとに「あとがき」が、そして冒頭には「新訂本はしがき」がついています。後者は「附記」のない「解説」のほかは、興膳さんの「文庫版あとがき」があるのみです。同じ書名のこの二つの文庫本の違いは、二冊とも参照しないと分からない、といううらみが残るものの、それは別々の本なので仕方ないかもしれません。なお、二冊とも巻末に索引がありますが、ちくま版では「語句索引」「人名索引」「地名索引」と分かれている一方、講談社版では一本にまとめられています。

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柄谷行人蓮實重彦全対話
柄谷行人(1941-)+蓮實重彦(1936-)著
講談社文芸文庫 2013年7月 本体2,200円 A6判並製542頁 ISBN978-4-06-290200-7

カバー紹介文より:今なお世界へ向けて発信しつづける批評家・思想家が、1977年から約20年にわたって繰りひろげ、時に物議を醸したすべての対話を収録した、一時代の記録。文学、批評、映画、現代思想から言語、物語、歴史まで、ふたりの知性が縦横無尽に語り合う。匿名性に守られたネット社会とは対極をなす、“諸刃の剣”の言論空間がここにある。

目次:
文学・言語・制度
マルクスと漱石
現代日本の言説空間
闘争のエチカ
 はじめに
 1 ポスト・モダンという神話
 2 情報・コミュニケーション空間の政治学
 3 終焉とエクソダス
 おわりに
文学と思想

★発売済。版元紹介文に曰く「1977年から約20年にわたって行われた日本を代表する知性による全対話であり、今なお世界に発信し続ける二人の原点。完全保存版」。『ダイアローグ』(冬樹社、1979年)より「文学・言語・制度」(初出は『現代思想』1977年5月号)と「マルクスと漱石」(初出は『現代思想』1979年3月号)、『ダイアローグIII』(第三文明社、1987年)より「現代日本の言説空間」(初出は『現代詩手帖』1986年6月)、『闘争のエチカ』(河出書房新社、1988年;河出文庫、1994年)より全編、『群像』1995年1月号より「文学と思想」(書籍初収録)が収められています。

★互いの方法論や認識論がぶつかり合う、刺激的な対談です。お二人とも現在70代ですから、特に今の20代のような若い世代にとってはもはや同時代とは呼べないほどの年長でしょうけれども、お二人が時代とどう格闘してきたか、その苦悩の告白を眺めてみるのは無駄ではないと思います。共感や反撥を越えて、なおも学びうる興味深い航跡が本書には生々しく記されています。ちなみに講談社文芸文庫では、2011年4月に『柄谷行人中上健次全対話』が刊行されています。このほか、対談ものでは、2005年2月『吉本隆明対談選』、同年9月『小林秀雄対話集』。なお講談社学術文庫の方ですが、来月(2013年8月)、テツオ・ナジタ『明治維新の遺産』坂野潤治訳、立川武蔵『ヨーガの哲学』が発売予定とのことです。


「職場うつ」からの再生
春日武彦・埜崎健治編
金剛出版 2013年7月 本体2,600円 四六判並製272頁 ISBN978-4-7724-1323-7

帯文より:「うつ」をきっかけとして新しい自分に生まれ変わること目指す逆転の発想。「職場うつ」を生きのびるための戦略をまなぶ。過去を求めず新しい自分の発見からはじめよう!
版元紹介文より:経済状況と労働環境の変動によって生まれた難治化・長期化する「うつ」、いわゆる「現代型うつ」が席巻する時代。この時代に求められる医学的アプローチ、社会資源、家族サポート、そして当事者リハビリテーションはどのようなものだろう。実践的に解説されるのは、数々のワークを通じてステップを踏みながら、復職・再就職を達成するためのスキルとヒントを紹介する。「職場うつ」のリハビリテーションは過去の自分に戻ることを求めない。ただ、新しい自分を発見して豊かな人生を送るための「再生」を目指す――「職場うつ」を生きのびる逆転の戦略をまなぶ実践ガイド。

★発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。働く当事者にとっても中間管理職にとっても経営者にとっても「職場うつ」の問題はもはや避けて通ることのできない「社会問題」かもしれません。そういう時代になりつつある現在、「うつ」についてもっと良く知ろうというニーズはますます高まってきていると言えそうです。本書は当事者やその家族の証言をもとにした、現代型うつの実態とリハビリのリポートになっています。投薬やカウンセリングの「副作用」について書いているコラムなどもあり、職場や家族、知人友人に当事者が「いない」読者にとっても参考になると思います。当事者やその家族にとっては実に深刻な問題で、落ち込んでいるときは本を開くことすらしんどいはずです。私個人は、悲しく淡々とした記述の中にも温かな思いがふと感じられるくだりがあったことに好感を覚えました。
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by urag | 2013-07-15 22:47 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 07月 12日

本日取次搬入:キルヒャー『普遍音樂』工作舎、これはすごい!

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普遍音樂――調和と不調和の大いなる術
アタナシウス・キルヒャー(Athanasius Kircher, 1601-1680)著 菊池賞(きくち・ほまれ:1965-)訳
工作舎 2013年7月 本体4,800円 A5変型上製448頁 ISBN978-4-87502-450-7

帯文より:バッハ、ヘンデルの先駆となったバロック論と珍説奇聞の混淆。ウンベルト・エーコ絶賛! 驚異に満ちたキルヒャーの伝説的代表作、ついに本邦初登場!

同書チラシより:『普遍音樂』は、17世紀に記された最も重要な論考のひとつであり、バッハやヘンデルら後代の作曲家たちに多大な影響を与えた。しかし、好奇心のかたまりであり、奇事異聞のこよなき愛好者であるキルヒャーの想像力は、音楽史の枠にとどまることがない。彼は彼の時代までに行われていたほとんどの作品形式について、ていねいに論を進める一方、ひとたび古代音楽を訴状にあげると、その空想力と妄想力は全開となる。ナマケモノの歌、歌う魚、猫オルガン、拡声器、盗聴装置、会話する彫像、イオリア竪琴、自動作曲機械などの不可思議な事物が次々に登場。さらに実験的音響論は、「音は光をまねる猿である」という主題のもとに語られ、宇宙の神秘と真理はパイプオルガンの音と構造の中に見出される。驚異に満ちたキルヒャーの伝説的代表作、本邦初紹介! 

★本日7月12日取次搬入。書店店頭に並び始めるのは都内超大型店が明日以降、たいていのお店では三連休明け以降から順次かと思われます。キルヒャーの単著が刊行されるのは日本では初めての快挙。1650年のラテン語の著作Musurgia universalisの、1662年に刊行されたアンドレアス・ヒルシュによるドイツ語抄訳が底本です。Olms Verlagより1970年に発行されたラテン語版原著リプリント版を随時参照し、ヒルシュ抄訳書に不審な点がある場合は原著から訳出した、と凡例にあります。また同抄訳で割愛された部分については「概要の解説を作成し、巻末に補説として掲載」しており、さらに同抄訳で採録されなかった図版も原著から補った、とのことです。目次詳細はこちらをご覧ください。チラシ紹介文にもある通り、非常にユニークな内容で、科学と魔術の混沌とした奇想の玉手箱です。圧倒的なその博識ぶり、情報収集力と編集力、想像力にはただただ脱帽するばかりです。

★版型はA5判より天地が長く、左右が少し短いため、縦長のスマートな印象で、本文組版と造本はさすが工作舎さん、中身も外まわりもともにとても美しい本に仕上がっています。かつて工作舎さんではジョスリン・ゴドウィンの魅力あふれる研究書『キルヒャーの世界図鑑』(1984年)を刊行されていますが、同じA5変型判でも『普遍音樂』はさらに天地が長く、左右も若干広いです。『キルヒャーの世界図鑑』から約30年、キルヒャーの死後から数えると333年後にこの極東の国で、彼の奇才ぶりにいよいよ近づける訳書『普遍音樂』が刊行されたことに感動を禁じえません。しかも本体価格4,800円と非常に良心的。平成の日本の書棚に飾るにふさわしい美麗な奇書として、全国の愛書家にお薦めします。

★同書の奥付裏広告やパンフレットの裏には2013年12月刊行予定として、ヨハネス・ケプラーの『新天文学』(1609年)が予告されています。ラテン語原典から本邦初訳されるとのことです。A5判上製668頁、本体予価10,000円。『宇宙の神秘』(1596年/1982年初版;2009年新装版)、『宇宙の調和』(1619年/2009年初版)に続く、天文三部作の完結となります。実に楽しみです。

★なお、紀伊國屋書店新宿本店の3F人文書売場では、同書刊行と、月内に発刊開始となる勁草書房さんの「Bibliotheca Hermetica叢書」を記念するブックフェア「初期近代精神史研究」が三連休明け16日から開始されます。弊社刊『ミクロコスモス――初期近代精神史研究 第1集』も2冊だけかろうじて残っていた分を出荷しましたので、ぜひ店頭までお越しください。フェアの詳細は追って当ブログでもご紹介します。
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by urag | 2013-07-12 17:14 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 07月 10日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2013年7月3日(水)開店済
ジュンク堂書店松戸伊勢丹店:600坪
千葉県松戸市松戸1307-1 伊勢丹松戸店 本館8F
大阪屋帳合。6月30日で閉店した紀伊國屋書店松戸伊勢丹店(新館6F)に代わって本館8Fにワンフロアで開店。紀伊國屋書店の倍以上の大きさになり、常磐線エリア最大級の50万冊を扱うと聞いています。弊社へのご発注は、注文書を確認できた限りで芸術書1点のみなのですが、その他の銘柄の在庫もヒットするので、全体でどれくらいのご発注があったかは不明です。ところでリニューアルされたMARUZEN&ジュンク堂書店さんのウェブサイトですが、リニューアルされたのち、店舗情報からFAX番号が消えています。これは版元や聴覚障害をお持ちのお客様にとっては不便な話で、なんでこんな仕様になってしまったのか、残念です。

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MARUZEN&ジュンク堂書店さんと言えば、大阪屋帳合で埼玉県戸田市美女木の京葉流通倉庫内に「丸善書店・ジュンク堂書店書籍流通センター」(通称SRC)を2011年11月からスタートさせておられます。これは「店頭に配本される新刊の一部を自社在庫として保管、必要に応じて各店に配送する試み」(「文化通信」2012年1月20日付)です。今月増床されるとのことで、写真集1点2冊のご発注がありました。松戸伊勢丹店さんと同じなのですが、弊社の本を全体で何点扱っていただいているのかは不明です。大阪屋さん自体の流通倉庫には、上福岡のiBC(ネット書店用在庫)と、東大阪のKBC(関西ブックシティ、リアル書店用在庫)があるのですが、M&J側としては取次さんに頼らない自社倉庫も担保するということなのかなと思います。

一方閉店情報です。リブロ町田店さん(6月30日閉店)と、啓文堂書店吉祥寺店さん(7月15日)で、どちらも日販帳合。やけにまとまった点数の返品依頼があるなと思ってネットで調べてみたら閉店でした。依頼書には閉店の「へ」の字もなく、慌ただしい中、通常の依頼書のフォーマットで版元にFAXされていることが窺え、寂しい気持ちがします。なお、啓文堂さんは2014年春開店予定の吉祥寺駅南口の新しい駅ビル(京王吉祥寺駅ビル)に出店されるとのことです。反対側の北口(JR吉祥寺駅側)のアトレ吉祥寺東館2階のブックファースト吉祥寺店さん(約450坪)とのいっそう激しい競合になるのでしょうか。
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by urag | 2013-07-10 12:32 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)