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2013年 04月 29日

注目新刊:熊野純彦訳『実践理性批判』作品社、など

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◎作品社さんの新刊

イマヌエル・カント『実践理性批判』熊野純彦訳、作品社、2013年5月、本体6000円
小森健太朗『神、さもなくば残念――2000年代以降アニメ思想批評』作品社、2013年4月 本体2400円

『実践理性批判』はまもなく発売。取次搬入日は5月7日とのことですから、来週後半には店頭に並び始めるものと思います。昨年1月発売の『純粋理性批判』に続く、熊野訳三批判書の第二弾です。熊野さんは今月、岩波文庫で新訳のハイデガー『存在と時間(一)』(全四分冊予定)を上梓されたばかり。また、『実践理性批判』も今月、中山元さんによる新訳第一巻(全二巻予定)が出たばかりです。熊野訳『実践理性批判』には『倫理の形而上学の基礎づけ』の新訳も付されています(どちらも底本はアカデミー版全集を使用)。非常に興味深い試みとして、『倫理~』は『実践~』の第一部第一篇「純粋実践理性の分析論」と並べて訳出されており、24頁から259頁までは見開き右頁が『実践~』、同じく左頁が『倫理~』となっています。「訳者あとがき」の説明によれば「『実践理性批判』と『倫理の形而上学の基礎づけ』(旧来の訳では『道徳形而上学原論』あるいは『道徳形而上学の基礎づけ』)は、それぞれ独立の著作であるとはいえ、内容的には(とくに前者の「原則論」〔第一部第一篇第一章「純粋実践理性の原則について」〕を中心として)たがいに参照しあうところが多い」ため、左右見開きで対照することが可能なようにした、とのことです。乱丁ではないので早とちりしないようにしましょう。それにしてもカントとハイデガーの新訳を同時に行うというのは空前絶後ではないでしょうか。ちなみに『実践~』の新訳を手掛けている最中の中山元さんは『道徳形而上学の基礎づけ』(光文社古典新訳文庫、2012年8月)も翻訳されています。さらに付言しておくと、熊野訳カントを担当されているベテラン編集者のTさんによって、まもなく山口祐弘さんの新訳ヘーゲル大論理学第二弾『ヘーゲル論理の学 第二巻 本質論』(予価4000円税別)が発売されます。訳者先生もすごいですが、編集者の腕前もものすごいですね。

『神、さもなくば残念。』は発売済。ミステリ作家、批評家、翻訳家で近畿大学で教鞭も取っておられる小森さんの力作評論です。帯文には「敢えて言おう、本書こそが、アニメ新世紀の批評であると!《深化》した“本格”アニメ批評宣言!」、さらに「「思想としてのアニメ」の理路を指し示す」、「サブカル批評そのものの革新」と謳われています。扱われるアニメ作品は「2000年代以降の主要アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』、『涼宮ハルヒの憂鬱』、『攻殻機動隊』、ゼロ年代『機動戦士ガンダム』シリーズ、『灰羽連盟』、『僕は友達が少ない』、など数百本」とのことです。哲学系の文献では、第壱部「アニメは、哲学したか?」の第2章「萌えの現象学」においてもっぱらフッサールが参照され、続く第3章「真理〔パンツ〕の本質について/《ストライクウィッチーズ》論」ではニーチェやハイデガーが参照されています。ほかにも海外ではライプニッツ、ミル、ベンヤミン、ウスペンスキー(!)、国内では東浩紀さんや笠井潔さん、宇野常寛さんなどが論及されます。「はじめに」で書名の由来が明かされています。「タイトルの「神、さもなくば残念。」は、アニメ化された人気作品『涼宮ハルヒの憂鬱』のヒロイン、涼宮ハルヒに始まる〈残念〉キャラの系譜の考察に即してふれられる。作品世界内の設定に即せば、涼宮ハルヒは無自覚ながらも世界を思いのままに改変する力をもち、神のごとき存在である。しかし周囲には言動が意味不明であるために、容貌がいいのに〈残念〉であると目されている。涼宮ハルヒ以降の、同系列の萌えキャラたちは、多くが神の至高性と残念なガッカリぶりをあわせもつ、その振幅のダイナミズムの中にあったと言える。私たち受け手にとって、愛でられる美少女が、神のごとき崇拝の対象となるばかりでなく、残念ゆえにより愛される存在となりえる、その振幅の中に〈萌え〉の現象は起こると言えるだろう」(2頁)。

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◎河出書房新社さんの新刊

ジャン=クレ・マルタン『ドゥルーズ――経験不可能の経験』合田正人訳、河出文庫、2013年5月、本体1200円
東野芳明『虚像の時代――東野芳明美術批評選』松井茂・伊村靖子編、河出書房新社、2013年4月、本体3500円

『ドゥルーズ』はまもなく発売。原書はDeleuze, Editions de l'Eclat, 2012です。巻末には日本語版オリジナルとして、来日講演のための書き下ろし「ドゥルーズとグァタリ」が収録されています。カバー裏の紹介文には「ドゥルーズの直系にして最もドゥルーズ的な哲学者が諸概念を横断しながら、ドゥルーズ哲学のエッセンスを閃光のようにとりだして、危うく美しいその思考のラディカリズムを浮き彫りにする珠玉の名著」と書かれています。これまで河出さんでは三つのドゥルーズ論、ズーラビクヴィリ『ドゥルーズ・ひとつの出来事の哲学』(小沢秋広訳、1997年)、バディウ『ドゥルーズ――存在の喧騒』(鈴木創士訳、1998年)、宇野邦一『ドゥルーズ――群れと結晶』(2012年)と、ドゥルーズ/ガタリの評伝、ドス『ドゥルーズとガタリ 交差的評伝』(杉村昌昭訳、2009年)を刊行されてきましたが、ここにまた非常に魅力的な入門書が加わりました。序と10のパートから成るコンパクトな本で、10のパートを列記すると、「問題の意味」「批判的・危機的諸経験」「ドラマ化」「差異と反復」「出来事・事件」「諸多様体」「器官なき身体」「シネマでのイメージ」「概念」となっています。なお、マルタン(1958-)の既訳書には、以下のものがありますが、今月刊行が本書のほかにもう一冊『哲学の犯罪計画――ヘーゲル『精神現象学』を読む』(信友建志訳、法政大学出版局)が予告されています。

1997年07月『ドゥルーズ・変奏』毬藻充・加藤恵介・黒川修司訳、松籟社
2000年12月『物のまなざし――ファン・ゴッホ論』杉村昌昭・村沢真保呂訳、大村書店
2010年12月『百人の哲学者 百の哲学』杉村昌昭・信友建志監訳、河出書房新社
2011年12月『フェルメールとスピノザ――〈永遠〉の公式』杉村昌昭訳、以文社

また、訳者の合田正人先生は河出さんより6月に『幸福異論(仮)』という単行本を出版される予定だそうです。「幸福の思想史をたどり、アランらの三大幸福論を読み解きながら、この時代の幸福を考える」とのこと。三大というのはアランのほかにラッセル、ヒルティあたりでしょうか。

『虚像の時代』は発売済。副題にある通り、東野芳明(とうの・よしあき:1930-2005)さんの美術批評を再編集してまとめたものです。帯文に曰く「ネオ・ダダ、ポップ・アート、デザイン、建築、マクルーハン、そして大阪万博へ――日本の芸術(アート)シーンを大躍進させた批評家・東野芳明を再読せよ!!! 最も熱かった時代、最も熱い現場に立ち会った美術・文化批評をパッケージ」。目次詳細は書名のリンク先でご覧いただけますが、冒頭に編者のお二人、松井茂さんと伊村靖子さんによる「生中継の批評精神——一人称のビオス」が置かれ、続いて東野さんの22篇のテクスト、巻末には、磯崎新さんによる「反回想 「おれは評論家じゃなくて批評家なんだ」といった東野芳明のことを思い出してみた」と、編者のお二人それぞれの論考、最後に収録テクストの初出などを記した「解題」となります。帯文にも惹かれていますが、磯崎さんは「ぼくらは、美術界のコンセプトを全部、東野(トーノ)経由で理解した」と証言されています。ポップなブックデザインは加藤賢策さんによるもの。担当編集者はYさん。先月、三木成夫さんの『内臓とこころ』の文庫化を手掛けた編集者で、今月は森山大道さんの写真集『実験室からの眺め』(後日ご紹介)も担当されています。

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◎青土社さん『現代思想』最新号

『現代思想』2013年5月号「自殺論――対策の現場から」、青土社、2013年4月末発売、本体1238円

発売済。巻頭に柄谷行人さんの新連載「中国で読む「世界史の構造」 第1回 『世界史の構造』について」が掲載されています。特集「自殺論」では、篠原雅武「絡まり合いと自滅――ドゥルーズ=ガタリのファシズム論の現代的意義の検討」、小泉義之「モラリズムの蔓延」をはじめ、刺激的な論考や討議が並びます。詳細は書名のリンク先をご覧ください。6月号の特集は「ガタリ(仮)」とのこと。5月号にも寄稿されていた篠原さんのほか、粉川哲夫さん、鈴木泉さんらの論考、ガタリやラッツァラート、アンヌ・ケリアンらの翻訳などが予定されているようです。討議は二本で、ひとつは杉村昌昭・村澤真保呂・近藤和敬の三氏によるもの、もう一本は江川隆男さんと千葉雅也さんの対談となる様子。非常に楽しみです。なお、青土社さんでは今月、ダナ・ハラウェイ『犬と人が出会うとき――異種協働のポリティクス』(高橋さきの訳)という注目新刊を刊行され、来月下旬にはジグムント・バウマンとデイヴィッド・ライアンの共著『私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について――リキッド・サーベイランスをめぐる7章』を発売される模様です。どちらも必読ですね。


◎中央公論新社さん「中公新書」新刊

野中郁次郎編著『戦略論の名著――孫子、マキアヴェリから現代まで』中公文庫、2013年4月、本体800円

発売済。これまで中公新書では様々な「名著」シリーズを刊行していて、近年では樺山紘一『新・現代歴史学の名著――普遍から多様へ』(2010年3月)、熊野純彦『近代哲学の名著――デカルトからマルクスまでの24冊』(2011年5月)、立木康介『精神分析の名著――フロイトから土居健郎まで』(2012年5月)などが話題となりました。今回の『戦略論の名著』は、カバーソデの紹介文によれば、「古今東西の戦略思想家たちの叡智が結集された戦略論の中から、『失敗の本質』で知られる編著者が現代人必読の12冊を厳選。孫子、マキアヴェリ、クラウゼヴィッツの三大古典から20世紀の石原莞爾、リデルハート、クレフェルト、そして21世紀の最新理論まで網羅し、第一線の研究者が詳細に解説する決定版。各章末に「戦略の名言」を付す」とのこと。三大古典というのは言うまでもなく、孫武『孫子』、マキアヴェリ『君主論』1513年、クラウゼヴィッツ『戦争論』1832年。このほか、マハン『海上権力史論』1890年、毛沢東『遊撃戦論』1938年、石原莞爾『戦争史大観』1941年、リデルハート『戦略論』1954年、ルトワック『戦略』1987年、クレフェルト『戦争の変遷』1991年、グレイ『現代の戦略』1999年、ノックス&マーレー『軍事革命とRMAの戦略史』2001年、ドールマン『アストロポリティーク』2001年、です。このうち、ルトワック、グレイ、ドールマンの本は未訳。そのほかは中公文庫をはじめ、単行本が出ています。古典や基本文献に挑戦しようと思いつつも手が出なかった多くの読者にとって、本書は絶好の導き手となるに違いありません。

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◎平凡社さん新刊

西郷信綱著作集 第8巻 文学史と文学理論III 古典の影』平凡社、2013年4月、本体9000円
ヴァールミーキ『新訳ラーマーヤナ 5』中村了昭訳、東洋文庫、本体3300円

『西郷信綱著作集』第8巻は発売済。第8回配本で、残るは第9巻『初期論考・雑纂』(2013年6月刊行予定)のみ。今回の第8巻は、第6巻「詩の発生」、第7巻「日本古代文学史」に続く、「文学史と文学理論」の第3弾で、「古典の影――学問の危機について」(未來社、1979年;新版、平凡社ライブラリー、1995年)と「国学の批判――方法に関する覚えがき」(青山書院、1948年;増補版、未來社、1965年)を収録。後者は初版本での副題は「封建イデオローグの世界」でした。帯文に曰く第8巻は「〈西郷古典学〉の根本方法を示す2つの著作! 独自の経験概念に接地させて〈読む〉方法を探求する名著『古典の影』と、そこに至る道を独力で切り拓いた『国学の批判』を収録!」。解説は、『国学の批判』が大隅和雄さんのご担当で、『古典の影』が龍澤武さんのご担当。月報には今井清一「横浜市立大学と西郷信綱さん」、小馬徹「夢見る頃を過ぎても」の二篇が掲載されています。

『新訳ラーマーヤナ』第5巻は発売済。原典第5巻「優美の巻」および第6巻「戦争の巻」第36章までを収録しています。帯文には「ハヌマトは捕らわれのシーターをついに発見、ラーマに報告。ラーマは猿軍を率い海を渡り、ラーヴァナとの決戦へ向かう」とあります。変幻自在の羅刹王ラーヴァナにさらわれた王妃シーターを探しに、偉大な猿ハヌマト(ハヌマーン)巨大化して飛翔を開始します。その描写から始まり、ハヌマトが囚われの王妃を見つける様子が「優美の巻」に、それに続くシーター奪回に向けてのラーマ王子と猿たちの進軍が「戦争の巻」に描かれています。ラーマが海を渡るために弓を放つ時の凄まじさと言ったらありません。ものすごい迫力で、海原も大地もともに引き裂き、世界を漆黒の闇に陥れ、星辰すらも揺るがさずにはおかないのです。たとえそれを大げさと言っても、この偉大な叙事詩には傷一つ付きません。この物語を聴いた昔のインドの人々はどんなにか想像力を掻き立てられたことでしょう。『新訳ラーマーヤナ』は全7巻予定。完結が見えてきた気がします。

次回の東洋文庫は5月刊、ウノ・ハルヴァ『シャマニズム 2』です。また、平凡社ライブラリーの5月新刊には、村上恭一訳『へ―ゲル初期哲学論集』が予定されています。さらに来月は同社の「新版イメージの博物誌」が2点刊行されます。ジョン・シャーキー『ミステリアス・ケルト――薄明のヨーロッパ』と、スタニスラス・クロソウスキ・ド・ローラ『錬金術――精神変容の秘術』です。スタニスラス・クロソウスキ・ド・ローラはピエール・クロソウスキーの実弟バルテュスの子息。平凡社さんからはこのほかに『錬金術図像大全』(1993年)という大冊が出ていましたが、現在は残念ながら品切です。

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◎書肆山田さん「りぶるどるしおる」新刊

ロジェ・ラポルト『死ぬことで』神尾太介訳、書肆山田、2013年3月

発売済。原書はMoriendo, P.O.L, 1983です。『プルースト/バタイユ/ブランショ――十字路のエクリチュール』(山本光久訳、水声社、1999年)、『探究――思考の臨界点へ 』(山本光久訳、新宿書房、2007年)に続く、ラポルトの翻訳第三弾ですが、これまで訳されてきたのは評論(エチュード)で、今回は初めての散文作品(ビオグラフィ)です。帯文はこうです、「生きること。生きることを考えること、言葉にし書くこと。立証されることがないであろう生への問を問い続ける。続けること。意志して生き続けること。自らとそうでないものの境をたどりつつ。それは、問い詰められ、これ以上ないまでに素裸にされた生が、何かに転換されることなのか」。100頁ちょっとの小さな本ですが、静謐さと執拗さを兼ね備えた独特のエクリチュールで、読んでいると作家の存在そのものでもあるような、細く長く落ちていく内面性、異界へと繋がっているかのような管を滑っていく感覚にとらわれます。美しく、そして恐ろしいです。

最後になりますが、今月印象的だった文学作品の新刊には、ディーノ・ブッツァーティ『タタール人の砂漠』(脇功訳、岩波文庫、2013年4月)がありました。言うまでもなく、ブッツァーティ(1906-1972)による1940年の名作で、永遠に続くかに思える待機をめぐる寓話です。親本は松籟社さんの1992年刊。巻末の「訳者解説」によれば、再刊にあたって、「旧版に少しばかり手を加え、「訳者解説」は書き改めた」とのことです。ブッツァーティが文庫化されるのは『神を見た犬』(関口英子訳、光文社古典新訳文庫、200年)に続く二度目。岩波文庫では来月も『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』(脇功訳)を刊行予定。親本は1974年に河出書房新社さんから刊行され、1990年に新装版が出た短編集『七人の使者』かと思われます。ひょっとするともうひとつの短編集『待っていたのは』も脇さんの訳なので、いずれ文庫化されるのかもしれません。なお、岩波書店では今月、岩波現代文庫の新刊で横張誠編訳『ボードレール語録』が出ました。文庫オリジナル版書下ろしとのこと。版元紹介文には「「ブルジョワジー」「メランコリー」「陶酔」などをキーワードにして19の詩・散文のテクストを解説」とあります。
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by urag | 2013-04-29 03:40 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 04月 25日

書影公開:近日発売、廣瀬純『絶望論』

廣瀬純『絶望論――革命的になることについて』の書影を公開します。装幀は中島浩さん、装画は中原昌也さんによるものです。表と裏に出てくる赤いネルシャツの男性は、・・・「あとがき」に出てくるあの方。さて、本書の取次搬入日ですが、日販、トーハン、大阪屋、栗田、太洋社、各社ともに5月1日です。都内の超大型書店さんの店頭に並び始めるのが2日から。全国的にはゴールデンウィーク明けあたりから見かけていただけるようになると思われます。

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絶望論――革命的になることについて
廣瀬純著
月曜社 2013年4月 本体1,600円 46判(タテ190ミリ×ヨコ128ミリ)並製224頁 ISBN:978-4-86503-000-6

「絶望を作り出しそれに強いられて逃走線を描出する、革命の不可能性を作り出しそれに強いられて革命的になる、人民の欠如を作り出しそれに強いられて来るべき人民に呼びかける」。創造的に生きるためになぜ《絶望》しなければならないのか? 《革命的になる》とは、どういうことなのか? 気鋭の論客が、ドゥルーズとゴダールを読解しながら、講演形式で問う、いまこの世界に必要なこと。装画=中原昌也

本書より:『絶望論』というタイトルのもとで「革命的になることについて」論じる本書は、デモの無力を産出するこのデモ、おのれの無力を自ら創出するこれらの人々を眼前にして、彼らに触発されて、彼らの無力の力に強いられて、構想され執筆されたものである。本書のすべては、彼らに導かれて次のようなドゥルーズの一節を再読することから始まった。「我々にはひとつのエチカ、ひとつの信が必要なのだ。そう聞いたら愚か者たちは笑うだろう。しかし、我々に必要なのは何か別のものを信じることではなく、この世界を信じること、つまり、愚か者たちもその一部をなしているこの世界を信じることなのだ」。

目次:

ドゥルーズ、革命的になること――不可能性の壁を屹立させ、逃走線を描出せよ
明解な世界に曖昧なフィルムを対峙させよ――ゴダール『中国女』をめぐって  
絶望が個に返されている 対談 緒方正人+廣瀬純  
あとがき  


廣瀬純(ひろせ・じゅん):1971年生まれ、龍谷大准教授。パリ第3大学博士課程中退。専門は映画論、現代思想。著書に、『美味しい料理の哲学』(河出書房新社、2005年)、『闘争の最小回路』(人文書院、2006年)、『シネキャピタル』(洛北出版、2009年)、『蜂起とともに愛がはじまる』(河出書房新社、2012年)。コレクティボ・シトゥアシオネスとの共著に『闘争のアサンブレア』(月曜社、2009年)。訳書にヴィルノ『マルチチュードの文法』(月曜社、2004年)、ネグリ『芸術とマルチチュード』(月曜社、2007年)など。
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by urag | 2013-04-25 10:36 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)
2013年 04月 21日

注目新刊その2:P・L・ウィルソン『海賊ユートピア』以文社、ほか

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海賊ユートピア――背教者と難民の17世紀マグリブ海洋世界
ピーター・ランボーン・ウィルソン(Peter Lamborn Wilson, 1945-)著 菰田真介(1985-)訳
以文社 2013年4月 本体2,600円 四六判並製280頁 ISBN978-4-7531-0311-9

帯文より:海賊たちは、いまだにわれわれと共にある。17世紀の北アフリカ、そこにはキリスト教の背教者=海賊たちが生み出した共和国があった。イスラームに魅せられ独自に進化した「裏切り者たち」のコミュニズムとアナキズム、その先駆的かつ躍動的な文化・統治・生を、「社会レジスタンス」の可能性として現代に鮮やかに蘇生させる、「危険な物狂いたち」のための反社会宗教史。伝説の書『T.A.Z.一時的自律ゾーン』のハキム・ベイが別名義で解き放つ、惜しげない「真の贅沢」に向けた「荒ぶる航海」!

原書:Pirate Utopias: Moorish Corsairs and European Renegadoes, Autonomedia, 1995/2003.

★発売済。原書第二版(2003年)の全訳です。第二版は初版に、第十章「「厄介なトルコ人」と呼ばれた、オールド・ニューヨークのムーア人海賊」(第二版への後書)を追加したもの。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。ピーター・ランボーン・ウィルソンの既訳書には『天使――神々の使者』(鼓みどり訳、平凡社、1995年)や、『T.A.Z.――一時的自律ゾーン』(箕輪裕訳、インパクト出版会、1997年)があります。前者はシリーズ「イメージの博物誌」の一冊、後者はペンネーム「ハキム・ベイ」名義の本です。今回の新刊の編集担当者Mさんのご紹介によれば、『海賊ユートピア』は、「海賊史のなかでも、近代を準備しイギリス・スペインの覇権を支えたような海賊たちではなく、17世紀モロッコの、サレー・ラバト地域を拠点とした海賊、主にキリスト教からの背教者、あるいはそこから迫害された人々に焦点をあて、またそれが著者の先駆的な歴史の掘り起こし作業(手法)とも相俟って、極めてユニークな本となっている」とのことです。本書が紹介するのは「ならず者たち」の痛快な冒険譚というよりは、海賊の歴史から見出した労働と民主主義と国家のオルタナティヴです。歴史書の異端は、歴史そのものに挑戦する、切り裂く視線を持っています。


新宿ダンボール村――迫川尚子写真集 1996-1998
迫川尚子写真
DU BOOKS 2013年5月 本体2,000円 B6変型判並製232頁 ISBN978-4-925064-76-7

帯文より:『新宿駅最後の小さなお店ベルク』の副店長として、毎日、新宿駅に通いながら、駅のど真ん中に出現したホームレス村と住人たちを撮った記録集。

★まもなく発売。今は昔、新宿駅西口地下のインフォメーションセンター前には野宿者が身を寄せ合う「ダンボール村」がありました。もともとは都庁新庁舎の建設にかりだされていた日雇労働者で、1991年の庁舎完成と、それに続くバブル経済の崩壊によって失職した人々だったと聞きます。青島都政下の1996年1月24日、都は「動く歩道」着工を口実に、西口地下の四号街路にいた野宿者たちの一斉排除を強行し、それが「ダンボール村」を誕生させました。200人近い人々がそこで生きていました。2年後の2月7日早朝、不審火による火災が発生、これによって結果的に4名の命が奪われ、ダンボール村は解体します。ベルクの副店長、迫川さんはダンボール村に日参し、雑談したり撮影したりしただけでなく、詳細な記録をつけていたそうです。その中の写真記録に当たるのが本書。生々しい貴重な記録です。退去後、人々はどこに行ったのでしょうか。ダンボール村はなくなっても、ホームレス問題は今なお存在し続けています。この写真集は「忘却は解決ではない」という真実を私たちに示しているように思います。


プライドの社会学――自己をデザインする夢
奥井智之(1958-)著
筑摩選書 2013年4月 本体1,600円 四六判並製256頁 ISBN 978-4-480-01571-6

帯文より:希望は作り出せるか。自分で自分のキャリアはデザインできるか。自分に「誇り」をもつことは、美徳か悪徳か。プライド――この厄介な生の原動力をめぐる社会学的分析。

カバーソデ紹介文より:一般に、心理学の研究対象となっている「プライド」。しかしそれに、社会学的に接近することも可能ではないか。自分に「誇り」をもつことは、まさに自他=社会関係のなかで生起する出来ごとであるから。プライドをもって生きることは、たえず「理想の自己」をデザインすることに等しい。わたしたちにとってそれは、夢か、はたまた悪夢か。プライド――この厄介な生の原動力に、10の主題を通してせまる社会学の冒険。

目次:
はじめに
第1章 自己――はじめに行動がある
第2章 家族――お前の母さんデベソ
第3章 地域――羊が人間を食い殺す
第4章 階級――どっちにしても負け
第5章 容姿――蓼食う虫も好き好き
第6章 学歴――エリートは周流する
第7章 教養――アクセスを遮断する
第8章 宗教――神のほかに神はなし
第9章 職業――初心を忘るべからず
第10章 国家――国の威光を観察する
おわりに
参考文献一覧
引用映画一覧

★発売済。2004年に『社会学』、2010年に『社会学の歴史』という2冊の概説書を東京大学出版会から上梓したあと、著者の奥井さんは「わたしたちの生と深く関わる主題を選んで、より個別的な仕事がした」くなり、「そういう私の関心に最初にひっかかってきた主題が、「プライド」であ」った、と本書の「おわりに」で明かしておられます。私たち人間の魂に牙を深く食い込ませ続ける厄介な怪物を10の主題と6つの素材(=60の「小話」)を通じて鮮やかに分析したのが本書です。当然のことながら、自分の似姿もこの本の中に出てくるため、あるいは愉快な読書とは言えない瞬間もあるかもしれません。本書の仮説は「コミュニティこそがプライドの源泉である」(15頁)というものです。社会解体と個別化が進む現代において、私たちはますますコミュニティを見出しづらくなっており、それゆえにますます理想のコミュニティを希求し、待望し、憧憬するという事態も進行している、と著者は分析します。その一端が「グローバリゼーションの時代に、ナショナリズムが勃興するという逆説」(18頁)です。この逆説については最終章で分析されています。

★印象的だったのは第7章の末尾のこんな言葉です。「本当に重要なことは、時として「アクセスを遮断する」ことであろう。そして教養=自分らしい生の技法に磨きをかけるべく、深く思索することであろう。それによってわたしたちは、わずかながら知的なプライドを回復することができるかもしれない。そう言いながらわたし自身、日々くだらない事柄について「ググり」続けている。疑いなくわたしたちは、目下反教養=無秩序の時代を生きている」(160頁)。半世紀以上前に美術史家のエドガー・ウィントは講演録『芸術と無秩序』(邦訳は高階秀爾訳『芸術と狂気』岩波書店、1965年)で、大衆に広く浅く流通していく「芸術」の変容とその功罪について分析しました。彼は機械化や自動化といった進歩的潮流について警鐘を鳴らしつつも全否定はしませんでした。ウィントがもしインターネット誕生後も生きていたら、奥井さんと同じように、時としてアクセスを遮断せよ、と言ったかもしれないな、と想像が膨らみました。そしてウィント流にこう続けることもあるいは可能でしょうか、「私たちはいずれこの厄介な時代にも強い免疫性を持つようになる」と。

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行って見て聞いた精神科病院の保護室
三宅薫著
医学書院 2013年4月 本体2,800円 A4判並製152頁 ISBN978-4-260-01743-5

カバー紹介文より:「こんなにきめ細かな保護室の記録は世界に例がないんじゃないか?」(中井久夫)――歩きに歩いた35の精神科病院。おもわずうなる圧倒的な数とリアリティ。「最も閉ざされてきた部屋」の風通しをよくしたいと願う著者による、現場系調査書。

★発売済。目次詳細は書名御リンク先をご覧ください。版元さんのプレスリリースの言葉を借りると、保護室というのは「隔離という目的に特化した精神科の病室」で、「症状のために、患者さん本人あるいは周囲に危険が及ぶ可能性が非常に高く、隔離以外の方法ではその危険を避けることが出来ない場合に使用される部屋」です。この「最も閉ざされてきた部屋」は多くの一般市民にとって未知の世界であるだけでなく、病院間でも情報交換されることがほとんどないものだそうです。著者は精神科の看護師さんで、福島から佐賀までの35の病院にある40の保護室を実地訪問し調査しました。本書では多数のカラー写真と図面を添え、1病棟を見開き2頁で紹介しています。「おそらく日本初の記録ではないか」と営業担当のMさんから伺いました。明るい紙面からは一見伝わりにくいですが、読む者がひしひし感じる緊張感から察するに、著者も相当な苦労をなさったに違いありません。ただし、三宅さん自身のコメントはそうした暗さを感じさせません。むしろ、看護に役立てたいという必死の気持ちが伝わってきます。今後さらに全国を訪問したいとの抱負もお持ちです。

★なお、編集担当者のIさんは昨秋、『【現代語訳】呉秀三・樫田五郎「精神病者私宅監置の実況」』(金川英雄訳・解説)という本も手掛けられています。明治大正時代のいわゆる「座敷牢」を調査した写真付き報告書の現代語訳です。版元紹介文によれば、著者の呉秀三は、明治・大正の時代に精神病者監護法で定められていた精神病者の私宅監置義務を廃し、患者が精神病院において医療を受けられるための、新しい法制度を作ろうとした人物、だそうです。ある意味別の(下世話な)関心からこの本を求める方もいらっしゃるでしょうが、本書と上記の三宅さんの報告書に通底するのはきっちりした資料をまとめるという誠実さで、Iさんの本づくりの一貫した文脈になるほどと納得しました。
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by urag | 2013-04-21 23:48 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 04月 21日

注目新刊その1:F・シュレーゲル唯一の大学講義『超越論的哲学』が完訳、ほか

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イェーナ大学講義『超越論的哲学』
フリードリヒ・シュレーゲル(Friedrich Schlegel, 1772-1829)著 酒田健一(1934-)訳・註解
御茶の水書房 2013年3月刊 本体8,400円 A5判上製382頁 ISBN978-4-275-01023-0

帯文より:ドイツ観念論哲学の担い手たちと並走・競合しつつその特異な書法と論法――「私の哲学は諸断章の体系、諸構想の進展である――によって独自の思想世界を切り拓いていった初期ロマン主義の旗手フリードリヒ・シュレーゲルの“幻”の大学講義、本邦初訳、稠密な註解・解説付き。

目次:
序論
 体系詳論
第一部 世界の理論
第二部 人間の理論
第三部 哲学の自己自身への回帰、あるいは哲学の哲学
訳註
訳者解説
年譜 
訳者後記
事項索引
人名索引

★発売済。奥付は3月刊ですが、発売は今月になってから。大学での唯一の講義「Transcendentalphilosophie」(1800-1801)の全訳です。底本は新校訂全集版である『フリードリヒ・シュレーゲル原典批判的全集版』第12巻(1964年刊)に収録されたテクスト。「訳者解説」では本書の思想圏を以下のように要約されています。「自然を「生成する神性」と捉え、この「神性の顕現」としての自然の探究をもって哲学の根源的課題であるとした独自の自然汎神論的視界の中で「宗教の構成」のためには「信仰、奇蹟、啓示の概念は不要である」と明言し、また「宗教的位階制度」と「家族制度」とを政治カテゴリーの両構成要素としながらも、依然としてカントの『永遠平和のために』に対抗して1776年に発表した『共和制の概念についての試論』の理念を捨てず、民衆の反乱の権利をも是認する「民主主義的共和国」を理想の国家体制と見ることに執着し続けた思想圏」(323-324頁)。『共和制の概念についての試論』には山本定祐訳「共和制概念試論」(『ドイツ・ロマン派全集(20)-太古の夢 革命の夢』国書刊行会、1992年)があります。シュレーゲルの思想はその後さらに進化し、新たな雑誌の創刊や私講義、公開講義などを積み重ねていきます。作家や批評家としては著名でも、思想家としての全体像はまだ日本ではよく知られていないため、本書はその理解のための貴重な、偉大な里程標となるに違いありません。


心情研究者としてのゲーテ
ルートヴィッヒ・クラーゲス(Ludwig Klages, 1872-1956)著 田島正行(1949-)訳
うぶすな書院 2013年4月 本体1,800円 46判上製160頁 ISBN978-4-90047-028-6

目次:
第一章 ゲーテの精神史的位置
第二章 現象研究者としてのゲーテ
第三章 無意識の発見者としてのゲーテ
第四章 造形の思想家としてのゲーテ
第五章 性格学者としてのゲーテ
原註
付録『ゲーテ的人間の限界についての覚書』(1917年)
訳註
訳者あとがき

★発売済。「Goethe als Seelenforscher」の全訳に、付録として「Bemerkungen ueber die Schranken des Goetheschen Menschen」の翻訳を付したものです。前者の底本は1932年にライプツィヒで出版された刊本です。後者は、『人間と大地』(1920年)に収録されている論考で、既訳には、「ゲーテ的人間の限界」(『意識と生命』所収、小立稔訳、畝傍書房、1943年)と、「ゲーテ的人間の柵について」(千谷七郎・小谷幸雄訳、『人間と大地』所収、うぶすな書院、1986年)があります。「訳者あとがき」によれば本書は「クラーゲス自身が学問的に基礎づけ、体系化した性格学の成果に基づいて、「ゲーテの心情学(心理学)からそれが秘めている普遍的拘束力のある地を取り出そうとする」試み」(143頁)であるとのことです。「小著ながら、クラーゲスの著作の中でも大変わかりやすく、魅力的な書で〔…〕クラーゲスの性格学、それどころか彼の深遠な哲学の格好の入門書」(同頁)でもある、と。田島さんによるクラーゲスの翻訳は『宇宙生成的エロース』(うぶすな書院、2000年)に続く2冊目。


アントロポゾフィー医学の本質
ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner, 1861-1925)+イタ・ヴェーグマン(Ita Wegman, 1876-1943)著 浅田豊(1952-)+中谷三恵子(1955-)訳
水声社 2012年4月 本体2,500円 46判上製 ISBN978-4-89176-968-0

カバー裏紹介文より:今日承認されている人間についての科学的な知識に新たな認識(アントロポゾフィー=人智学)を付け加え、医学的な知識と技術のための新しい可能性を見出す。1935年、ルドルフ・シュタイナーが、迫りくる死の三日前まで、最後の力を振りしぼって推敲をつづけた最後の著書であり、また唯一の共同執筆による著書の待望の完訳。

目次:
序文(ミヒャエラ・グレックラー)
第一章 医術の基礎としての、真の人間本性の認識
第二章 なぜ人は病気になるのか
第三章 生命の現れ
第四章 感受する有機体の本質
第五章 植物、動物、人間
第六章 血液と神経
第七章 治癒作用の本質
第八章 人間の有機体内の諸活動、糖尿病
第九章 人体における蛋白質の役割とアルブミン尿
第十章 人間の有機体における脂肪の役割と見せかけの局所症候群
第十一章 人体の造形と痛風
第十二章 人間の有機体の構築と分離
第十三章 病気と治癒の本質
第十四章 治療的な考え方について
第十五章 治療方法
第十六章 薬剤の認識
第十七章 薬剤認識の基礎としての素材認識
第十八章 オイリュトミー療法
第十九章 特徴的な症例
第二十章 典型的な薬剤
初版(1925年)の前書き(イタ・ヴェーグマン)
初版(1925年)の後書き
日本におけるアントロポゾフィー医学の発展(安達晴己)
訳者後書き

★発売済。原題は直訳すると「霊学的認識による医術拡張の基礎」。底本は「Grundlegendes fuer eine Erweiterung der Heilkunst nach geisteswissenschatflichen Erkenntnissen」の第7版(1991年刊)。第一章の末尾には本書の内容の端的な紹介があります。「人間は、体、エーテル体、魂(アストラル体)、そして自我(霊)から成り立っている時、人間である。健康な人間はこれらの構成要素から観察され、病気の人間はこれらの構成要素のバランスが崩れているところが知覚されなければならない。そして健康になるためには、この崩れたバランスを再び取り戻す治療薬を見つけ出さなければならない。/以上のような原則にもとづく医学的見方が、本書の示すところである」(30-31頁)。「初版の後書き」によれば、「本書の続きとして、金、銀、鉛、鉄、銅、水銀、錫といった金属の中に、地上的宇宙的な諸力として働いているものを取り上げ、どのようにこれらを医術の中で用いれば良いかを取り上げることが、私たちの計画であった。そして古代の秘儀の本質の中に、金属と惑星の関係について、また金属と人間の有機体のさまざまな機関との関係について、どのような深い理解があったかについても、叙述されるはずだった」とのことです。シュタイナーの医学関連書、治療論、健康論、栄養学、アントロポゾフィー身体論などの既訳には、『オカルト生理学』(高橋巖訳、ちくま学芸文庫、2004年)や『治療教育講義』(高橋巌訳、ちくま学芸文庫、2005年)をはじめ、以下のものがあります。

『病気と治療』西川隆範訳、イザラ書房、1992年
『健康と食事』西川隆範訳、イザラ書房、1992年
『あたまを育てるからだを育てる』(西川隆範訳、風濤社、2002年;新装版、2011年)
『人智学から見た家庭の医学』西川隆範訳、風濤社、2003年
『健康と病気について――精神科学的感覚教育の基礎』由井寅子監修、熊坂春樹訳、ホメオパシー出版、2004年;新装改訂版、2007年
『身体と心が求める栄養学』西川隆範訳、風濤社、2005年
『医学は霊学から何を得ることができるか』中村正明訳、水声社、2006年
『シュタイナー〈からだの不思議〉を語る』中谷三恵子監修、西川隆範訳、イザラ書房、2010年
『私たちの中の目に見えない人間――治療の根底にある病理』(石川公子+小林國力訳、涼風書林、2011年)

また、序文を寄せているミヒャエラ・グレックラーには『医療と教育を結ぶシュタイナー教育』(石川公子+塚田幸三訳、群青社、2006年)や『才能と障がい――子どもがもたらす運命の問いかけ』(村上祐子訳、涼風書林、2009年)などの訳書があります。

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存在と時間(一)
ハイデガー(Martin Heidegger, 1889-1976)著 熊野純彦(1958-)訳
岩波文庫 2013年4月 本体1,260円 文庫判並製532頁 ISBN978-4-00-336514-4

カバーソデ紹介文より:「存在すること」の意味はなにか。――1927年、マルティン・ハイデガーは『存在と時間』を発表、鮮烈な問いで哲学界の地形を一変させた。生まれでる思考の彩りをも伝える正確な訳文に、注解・訳注、全体を見通す梗概を付す、画期的新訳。(全四冊)

★発売済。底本はニーマイヤー社の第17版(1993年)です。岩波文庫では、桑野務訳全三巻(1960, 1961, 1963年)に続く、新訳になります。桑野版での底本は第4版(1935年)でした。同三巻本は今回の新訳の発売のために版元では品切重版未定になり、書店さんの店頭在庫が新本入手の最後のチャンスになります。三巻本は熊野訳でも参照されていますから、お持ちでない方は急いでお買い求めになることをお薦めします。なお、店頭の現物を見て調べた限りでは、上巻は63刷(2011年11月)、中巻は48刷(2011年5月)、下巻は49刷(2012年1月)を確認できました。文庫で読める『存在と時間』には細谷貞雄訳(ちくま学芸文庫、上下巻、1994年)があります。これは理想社版『ハイデッガー全集』第16・17巻(1963-1964)を文庫化したもので、底本は1927年の初版本ですが、1960年の第9版までのすべての版を参照し、約120箇所にも及ぶ異動について訳者注記でひとつひとつ特記されています。ちくま学芸文庫版では上巻が19刷(2012年5月)、下巻が16刷(2012年4月)に達しています。ところで今回の新訳の訳者でいらっしゃる熊野さんは作品社で目下カントの三批判書を上梓されている最中で、昨年1月に『純粋理性批判』を、そして遠からず『実践理性批判』も刊行されるはずです。後者は4月17日の作品社さんのtweetでは、今月末発売とのことでしたが、公式ウェブサイトの新刊近刊欄からは書名が消えています。発売が近いためにいったんデータが隙間に落ちたのかもしれません。


ニーチェを知る事典 ─その深淵と多面的世界
渡邊二郎+西尾幹二編
ちくま学芸文庫 2013年4月 本体2,000円 文庫判並製784頁 ISBN978-4-480-09528-2

カバー紹介文より:哲学史の巨人ニーチェ。魅力的だが断片的な言葉の表層からは、なかなかその思想にたどりつくことはできない。ニーチェがその著者・箴言で言おうとしたことの本質とはいったい何なのだろうか。本書は、生い立ち、交友、影響を受けた思想、キー概念から掘り下げるその哲学の根本問題、さまざまなニーチェ解釈、フーコー、ドゥルーズに至る現代思想への影響などを、各分野の第一人者が解説。ニーチェの思想の深淵と多面的世界を、50人以上の錚々たる執筆陣が描き出した、いわば「読む事典」である。文庫化にあたり、新しい視点からのユニークな読書案内(清水真木)を増補。

主要目次:
まえがき
I ニーチェの生涯と思想形成の軌跡
 A 生涯の歩み(1~6)
 B 対人関係(7~14)
 C 著作活動の展望(15~21)
II ニーチェの精神史的系譜
 A 総論(22~25)
 B 精神的親縁者(26~35)
 C 歴史上の問題的人物(36~40)
III ニーチェ哲学の根本問題
 A 中心的思想(41~56)
 B 諸学の中におけるニーチェ(57~63)
 C 芸術と文化をめぐる諸思想(64~73)
IV ニーチェの影響
 A ニーチェ評価の変遷――受容と批判の間で(74~76)
 B さまざまなニーチェ解釈と影響(77~94)
文献案内――ニーチェをさらに知るために
ニーチェ年譜

★発売済。親本は『ニーチェ物語――その深淵と多面的世界』(有斐閣ブックス、1980年12月)。A5判388頁の本で、当時本体2,700円でした。今回の文庫化にあたり、「ニーチェの主要著作のタイトルと、ニーチェに近しくかかわる主な人名・地名について、読者の便宜のため表記を統一」したほかは、「各論文筆者の表記を尊重し、人名、論文名、用語に見られる不統一」はあえてそのまま残したとのことです。また、巻頭の旧版まえがきに続いて、西尾さんによる「文庫化に当たって」が追加されており、旧版巻末で三段組11頁にわたり戦後35年分のニーチェ関連文献の書誌情報を網羅した高松敏男さんによる「文献案内」は割愛されています。1980年以降のさらなる30数年分の関連文献を増補するのは難しかったでしょうし、専門家向けということで、掲載されなかった模様です。ともあれ、新しい文献案内を加えて合計95本もの論文が掲載されているので、読みごたえは充分すぎるくらいですし、哲学系とゲルマニスト系の両方の研究者が揃っている事典というのは、今ではなかなか実現しにくいかもしれません。その意味で今回の文庫化は英断だと思います。
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by urag | 2013-04-21 20:03 | Trackback | Comments(0)
2013年 04月 19日

中山訳カント第4弾『実践理性批判』全2巻刊行開始

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弊社出版物の著者、訳者の方々の最近のご活躍をご紹介します。

★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在 第二版』)
『永遠平和のために/啓蒙とは何か』(2006年)、『道徳的形而上学の基礎づけ』(2012年)、『純粋理性批判』全7巻(2010-2012年)に続き、中山さんによる新訳カント第4弾『実践理性批判』全2巻が刊行開始になりました。第1巻が今月発売、第2巻は7月刊行予定です。今回の新訳のほかに文庫で現在入手可能な『実践理性批判』は岩波文庫のみ(波多野精一・宮本和吉・篠田英雄訳、1979年)でしたから(過去には角川文庫でも豊川昇訳が出ていました)、文庫版新刊は実に34年ぶりになります。

★森山大道さん(写真集:『新宿』『NOVEMBRE』『新宿+』『大阪+』『ハワイ』『にっぽん劇場』『何かへの旅』『カラー』『モノクローム』)
月刊誌『現代思想』2013年5月臨時増刊号「総特集=東松照明――戦後日本マンダラ」に、伊藤俊治さんとの対談「写真が語り続ける――東松照明と「新しく」出会うために」(24-43頁)が掲載されています。森山さんは東松さんについてこう仰っています。「東松さんがおられなかったら、僕も中平も荒木もその後の写真家たちも存在しなかったでしょうね。つまり、東松さんの写真家としての生き方や展望、そして新しい写真表現の開示はまちがいなくさまざまな後につづく写真家たちにバリエートされています」(42頁)。
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by urag | 2013-04-19 19:22 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 04月 19日

昨夏開催の二宮隆洋さんフェア@ブックファースト青葉台店

昨年の夏にブックファースト青葉台店で行われた二宮隆洋さんの追悼フェアの概要を写真で振り返っておきます。【ご注意ください。このブックフェアは終了しています。】

親密なる秘義 ―編集者二宮隆洋の仕事 1977-2012―
期間:2012年8月20日~9月30日【終了済】
展開場所:ブックファースト青葉台店 4Fカフェ横コーナー
展開内容:二宮隆洋(1951-2012)さんが編集・企画した書籍、ならびに蔵書を400点余りを展開。
特典:フェア書目を税込で合計6,000円以上お買い上げの方に、当フェア企画の元となった特製カラー冊子を贈呈(先着20部)。

当時、ご担当のHさん(現在は新宿店に異動されています)のご尽力で開催にこぎつけました。パネル設置・案内POP・冊子サンプル・商品のディスプレイなど、本当に丁寧にやっていただきました。イェイツ『記憶術』(水声社)が初日に売れたり、『フランシス・イェイツとヘルメス的伝統』(工作舎)をコレクトでお買い上げくださるお客様がいたり、「イェイツの訴求力をあらためて認識しました」とのことでした。冊子の在庫を訊ねられた後、『パラドクシア・エピデミカ』(白水社)をお買い上げいただいたお客様もいらっしゃったそうで、色々なエピソードが生まれました。

Hさんが当時仕入れた書目は500点を優に超えており、展開場所の制限のため、会期中には幾度か商品の入れ替えなども行っておられました。カラー小冊子は会期中にすべてはけました。20人ものお客様が6000円以上お買い上げになっていたわけです。この小冊子はもともと、2012年7月に都内某所で行われた「偲ぶ会」で配布されたもので、二宮さんが手掛けられた書籍がカラー写真で紹介され、二宮さん自身がお書きになった文章も収録されています(私がかつて「[本]のメルマガ」の編集同人だったころ二宮さんにご寄稿いただいた二篇のエッセイなど)。フリー編集者で詩人の中村鐡太郎さんが編集構成を担当された貴重な資料です。

以下はフェアの写真です。

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by urag | 2013-04-19 12:20 | 雑談 | Trackback | Comments(0)
2013年 04月 18日

好評開催中:二宮隆洋さん追悼フェア@ジュンク堂京都店

◎二宮隆洋さん追悼フェア(編集に携わった書籍と蔵書)

会期:2013年4月9日~5月下旬頃
会場:ジュンク堂書店京都店 1F入口左手フェアコーナー

※カラー冊子は税込6,000円以上お買い上げの方に差し上げます。備え付けの配布券をレジまでお持ち下さい。無くなり次第終了とさせていただきます。

去年2012年4月15日に、享年60歳でお亡くなりになったフリー編集者二宮隆洋さんの追悼フェアです。二宮さんがこれまでに手掛けられた書籍(で現在まだ在庫があるもの)や、ご本人の蔵書にあった本などを集めて展開しています。二宮さんは平凡社で『西洋思想大事典』(叢書「ヒストリー・オヴ・アイデアズ」)や、「エラノス叢書」、「ヴァールブルク・コレクション」、『中世思想原典集成』などを手掛けた編集者であり、人文書業界で知らぬ者はいません。近年では中央公論新社の『哲学の歴史』の編集にも協力されました。最近、慶應義塾大学出版会より発売されたエヴァンズ『バロックの帝国』も、二宮さんの置き土産の一つで、今後も版元各社から「二宮本」が当分の間刊行され続けることでしょう。

昨年8月から9月にかけて、ブックファースト青葉台店で追悼フェア「親密なる秘義――編集者二宮隆洋の仕事 1977-2012」が開催され、好評を博しました。そして、一周忌を迎えるこの時期に、ジュンク堂書店京都店で追悼フェアがスタートしました。昨夏に催された「偲ぶ会」で特別に配布された、二宮さんの業績や発言をまとめたカラー小冊子「親密なる秘儀」(二宮さんと親しい編集者で詩人の、中村鐵太郎さんが作成されたもの)が、昨年のフェアに続いて今回も配布されます。おそらくこのフェアが、貴重なカラー小冊子の実物を入手する最後の機会になるかもしれません。どうかたくさんの読者の方々との出会いがありますように。

1F入口から入ると右手にフェア棚があります。
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by urag | 2013-04-18 16:22 | イベント告知 | Trackback | Comments(2)
2013年 04月 14日

注目新刊:エヴァンズ『バロックの王国』慶應義塾大学出版会、ほか

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バロックの王国――ハプスブルグ朝の文化社会史1550-1700年
R・J・W・エヴァンズ著 新井皓士訳
慶應義塾大学出版会 2013年4月 本体9,500円 A5判上製598頁 ISBN978-4-7664-2025-8

帯文より:ハプスブルク王朝の17世紀。ルネサンスとプロテスタンティズムの支配からバロックとカトリシズム興隆の時代へ。ハプスブルク家繁栄の礎と、キリスト協会との密接な関係とは。その構造とダイナミズムを、中欧歴史研究の碩学、R・J・W・エヴァンズが精緻に描く。待望の邦訳。

原書:The Making of the Habsburg Monarchy 1550-1500: An Interpretation, Oxford University Press, 1979.

★発売済。目次詳細は書名のリンク先をご覧ください。『魔術の帝国――ルドルフ二世とその世界』(Rudolf II and his World: A Study in Intellectual History 1576-1612, Oxford University Press, 1973;中野春夫訳、平凡社、1988年;ちくま学芸文庫、上下巻、2006年)に続く、待望の邦訳第二弾です。著者のエヴァンズ(Robert John Weston Evans, 1943-)は歴史家で、長らくオックスフォード大学で教鞭を執ってきました。専門は近世から近代の中欧史および東欧史。中でもハプスブルク家の研究で知られ、本書はかの有名なウルフソン文芸賞(歴史部門)を1980年に受賞した名著です。ちなみに似た名前の歴史家にリチャード・J・エヴァンズ(Sir Richard John Evans, 1947-)がいて、邦訳も二冊ほどありますが別人です。こちらはナチス第三帝国の研究で有名。

★『バロックの王国』の装丁は『魔術の帝国』親本および文庫版と同じ、戸田ツトムさんによるもの。カバー絵はアルチンボルド。『魔術の帝国』文庫版下巻もそうでしたね。ひょっとして、と思い「訳者あとがき」を覗いてみると、二宮隆洋(1951-2012)さんのお名前がありました。晩年(と言ってもお亡くなりになったのは60歳という若さでしたが)に慶應義塾大学出版会さんで校閲や編集の仕事などをなさっていたので、おそらく本書は二宮さんの置き土産のひとつと受け止めてよさそうです。二宮さんの置き土産は他社さんにもあると聞きますから、今後しばらくは星界から書物が届くものと思います。なお、文庫版『魔術の帝国』の解説は弊社刊『ミクロコスモス』の編者である平井浩さんがお書きになっています。現在この文庫版上下巻は品切。なんとかこの機会に重版されないものでしょうか(『ミクロコスモス』第1巻は第2巻刊行時に重版する予定です)。

★昨年4月15日にお亡くなりになった二宮さんは言うまでもなく『西洋思想大事典』(叢書「ヒストリー・オヴ・アイデアズ」)や、「エラノス叢書」、「ヴァールブルク・コレクション」、『中世思想原典集成』(すべて平凡社)などを手掛けた編集者であり、人文書業界で知らぬ者はいません。昨年8月から9月にかけて、ブックファースト青葉台店で追悼フェア「親密なる秘儀――編集者二宮隆洋の仕事 1977-2012」が開催され、好評を博しました。そして、一周忌を迎えるこの時期に、以下の通り、ジュンク堂書店京都店で追悼フェアがスタートしました。昨夏に催された「偲ぶ会」で特別に配布された、二宮さんの業績を偲ぶカラー小冊子「親密なる秘儀」(二宮さんと親しい編集者で詩人の、中村鐵太郎さんが作成されたもの)が、昨年のフェアに続いて今回も配布されます。おそらくこのフェアが、貴重なカラー小冊子の実物を入手する最後の機会になるかもしれません。

◎二宮隆洋さん追悼フェア(編集に携わった書籍と蔵書)

会期:2013年4月9日~5月下旬頃
会場:ジュンク堂書店京都店 1F入口左手フェアコーナー

※カラー冊子は税込6,000円以上お買い上げの方に差し上げます。備え付けの配布券をレジまでお持ち下さい。無くなり次第終了とさせていただきます。

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建築はどうあるべきか――デモクラシーのアポロン
ヴァルター・グロピウス著 桐敷真次郎訳
ちくま学芸文庫 2013年4月 本体1,400円 文庫判並製352頁 ISBN978-4-480-09530-5

カバー紹介文より:モダンデザインを語る上で欠かすことのできないバウハウス運動。その先頭に立ったのが建築家ヴァルター・グロピウスである。空間の使いやすさ、心地よさ、そして美しさを同時に実現させるにはどうしたらよいのか? 街にはどぎついネオンや標識が溢れ、新旧の建築物が無秩序に並ぶ。一歩建物に入れば使い勝手を無視したデザインの数々が……。1954年に世界一周のフィールドワークを行ったグロピウスは、自分たちの伝統的な美意識を共有することの重要性を説き、近代的な工法によっても意識しだいで調和のとれた美しい建築・街づくりが可能であると訴える。20世紀デザイン論の名著。解説:深澤直人「つり合う美、関係の美」

★発売済。親本は彰国社より1972年に刊行された『デモクラシーのアポロン――建築家の文化的責任』。原書は
Apollo in the Democracy: The Cultural Obligation of the Architect, McGraw-Hill, 1968で、言わずと知れた近代建築の巨匠にしてバウハウス創設者グロピウス(Walter Gropius, 1883-1969)の、最後の講演・評論集です。ドイツに生まれ育ち、優秀な建築家として美術学校バウハウス創設に携わり、ナチスによるその閉鎖の翌年1934年にイギリスに亡命して、その後はアメリカで活躍しました。彰国社ウェブサイトの商品ページにある「自らが中心となってもたらした建築革命の結果に満足できず、絶望と再検討をくりかえす巨匠。芸術家グロピウスと合理主義者グロピウスの相克を赤裸々に語っている」という紹介文が本書の性質を端的に物語っています。

◎ヴァルター・グロピウス(Walter Gropius, 1883-1969)単独著既訳書
1958年12月『生活空間の創造』蔵田周忠・戸川敬一共訳、彰国社
1972年01月『デモクラシーのアポロン――建築家の文化的責任』桐敷眞次郎訳、彰国社;改題『建築はどうあるべきか――デモクラシーのアポロン』、ちくま学芸文庫、2013年4月
1991年02月『国際建築』貞包博幸訳、中央公論美術出版
1991年07月『バウハウス工房の新製品』宮島久雄訳、中央公論美術出版
1995年06月『デッサウのバウハウス建築』利光功訳、中央公論美術出版

★ちくま学芸文庫では、これまでフランク・ロイド・ライトや、ル・コルビュジエ、コールハースや隈研吾といった建築家たちの著作を刊行しています。そして今回はグロピウス。今後も新旧織り交ぜた建築系もしくはデザイン系の新刊が刊行され続けますように。なお、今月の学芸文庫では、『ニーチェ物語』(有斐閣、1980年)の改題版で、巻末に読書案内(清水真木)を増補した大冊『ニーチェを知る事典――その深淵と多面的世界』(渡邊二郎・西尾幹二編)が出ています。学芸文庫ではニーチェ系は色々と出ているのですが、全集の別巻の一括重版をそろそろ期待したいところですね。なお、来月の学芸文庫ではアーサー・O・ラヴジョイのゆるぎなき名著『存在の大いなる連鎖』(内藤健二訳、656頁、税込1,785円)の予告が出ています。晶文社本の文庫化ですね。


思考と動き
アンリ・ベルクソン著 原章二訳
平凡社ライブラリー 2013年4月 本体1,600円 HL判並製436頁 ISBN978-4-582-76784-1

カバー紹介文より:「今回の論集は研究方法に関するものであり、前著(『精神のエネルギー』)を補うものである(まえがき)。直観と持続、変化の知覚、科学と哲学、形而上学・・・について、あるいはW・ジェームズやラヴェッソンなど、他の精神にことよせながら、書き・語ったベルクソン哲学の方法に関する諸論考を、さらに方法序説というべき「序論」二篇を書き下ろして、哲学者が自ら編んだ絶好の入門書! 的確な新訳で!

★発売済。昨年2月に刊行された『精神のエネルギー』に続く、原章二さんによる新訳ベルクソン第二弾です。従来『思想と動くもの』と訳されることの多かった本書を『思考と動き』としたわけは「訳者あとがき」に記されています。同書の既訳は四種あります。吉岡修一郎訳(第一書房、1938年)、河野与一訳(岩波文庫、三分冊版、1952-1955年;合本版、1998年)、矢内原伊作訳(白水社版『ベルグソン全集』第7巻、1965年)、宇波彰訳(『思考と運動』上下巻、レグルス文庫/第三文明社、2000年)。「訳者あとがき」に書かれている「今回の翻訳に際して、難渋するたびにそのうちの三つを参考にして大いに助けられた。伏して先輩諸氏にお礼を言いたい」というくだりにある既訳三点というのは恐らく河野・矢内原・宇波の三氏の訳書かと思われます。ただし、既訳に対する原さんの眼は厳しく、『精神のエネルギー』の「訳者あとがき」では「ベルクソンは翻訳に恵まれていない」(319頁)とお書きになっておられましたし、今回は「改版し文庫になっているものも含めて、おびただしい誤訳には驚かされた」(421頁)と告白しておられます。これは悪口というよりは翻訳の難しさを指摘されたものかと思います。後段で「翻訳の完成度には果てがない。モデルを見て彫刻しているようなものであり、気がついたら彫りすぎて何もなくなっている」(同)と。なお、原さんは初心者のためにこうアドバイスも書かれています。「ベルクソン哲学に不慣れな読者、ベルクソンをはじめて読む人は、「ウィリアム・ジェームズのプラグマティズムについて」と「変化の知覚」から読むのがよいかもしれない」(423頁)。

★なお、アマゾンではすでに5月のライブラリー新刊、『へーゲル初期哲学論集』(村上 恭一訳)の予約受付が始まっていますね。平凡社ライブラリーでのヘーゲルの訳書は、『精神現象学』(上下巻、樫山 欽四郎訳、1997年)、『キリスト教の精神とその運命』(伴博訳、1997年)に続く3点目。

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20世紀のシンフォニー 
大崎滋生(おおさき・しげみ:1948-)著
平凡社 2013年4月 本体7,600円 A5判上製728頁 ISBN978-4-582-21966-1

帯文より:20世紀に作曲された世界の3000曲ほどのシンフォニーを調べ聴き尽くし、無限の資料から終わりのない歴史を描く。交響する大河は今まさに音の海に還る。

★まもなく発売。『文化としてのシンフォニー I 18世紀から19世紀中頃まで』(平凡社、2005年)、『文化としてのシンフォニー II 19世紀中頃から世紀末まで』(平凡社、2008年)に続く、三部作完結篇です。帯文(裏)には「5つのアポリアを問う音楽史」として本書の特徴が列記されています。5つの問いとその答えは以下の通り。「20世紀に創作されたシンフォニーをすべて知りうるのか――伝承された作品は創作のすべてではなく、すべての地域の作品を知ることはできない」。「日々新たに発掘され増大する資料を歴史として記述できるのか――ある時点でその流れを凍結させて行われた終着点のない中間報告にすぎない」。「過去の時間と空間をどのように区切って歴史を叙述するのか――世代別にした上で地域(活躍した国民国家文化圏)に分けて論述した」。「20世紀においてシンフォニーとは何だったのか――西欧音楽至高のジャンルの地位は失ったが、多様な地域の音楽文化の中で再生産された」。「「20世紀シンフォニー」の特徴を見出しうるか――「社会の鏡」として20世紀に「オラトリオ型シンフォニー」を大きく展開した」。著者は「あとがき」で、「「シンフォニーの時代」は総じて終わったことはやはり確かである」と述懐しておられます。


【増補決定版】若松孝二 反権力の肖像
四方田犬彦・平沢剛編
作品社 2013年4月 本体2,800円 46判上製336頁 ISBN978-4-86182-435-7

帯文より:「俺は国家権力を打倒するために映画を撮ってきたんだ――」性とテロルをラディカルに問い続けた稀代の映画人・若松孝二。初期ピンク映画から『実録・連合赤軍』、『11・25自決の日』、『千年の愉楽』まで、半世紀に及ぶ監督作品を総覧する、決定版評論集!

★発売済。2007年11月に刊行された初版本に、四方田犬彦さんの三つの論考「若松孝二、足立正生とパレスチナ問題」「連合赤軍の映像」「若松孝二における晩年のスタイル」を加え、フィルモグラフィーを改訂したものです。若松さんが昨年10月に新宿でタクシーにはねられ、5日後に亡くなったことは御承知の通り。遺作となった映画「千年の愉楽」は先月(2013年3月)より公開されています。都下では「ユナイテッドシネマズ豊洲」で今週金曜日、4月19日まで上映。

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蘇生した魂をのせて
石牟礼道子著
河出書房新社 2013年4月 本体1,800円 46判上製224頁 ISBN978-4-309-02177-5

帯文より:水俣からの言魂。破壊し尽くされた自然や人間の悲劇と、その闇の奥底に立ち上がる新しき叡智。受難の時代に響く、珠玉の対談・講演集。

★まもなく発売。対談2篇:「深遠な「自給自足」の暮らし――田上義春さんとの対話」「加害・被害の枠組みをどう超えるか――緒方正人さんとの対話」、講演5篇:「蘇生した魂をのせて」「来水前に話しておきたいこと」「水俣・水天荘にて」「日月の舟」「私たちは何処へ行くのか」、インタヴュー1篇:「魂が揺れる場所」。おおかたは94年から96年に発表されたもので、あとは、緒方氏との対談が2006年、インタヴューが2007年。同時発売で「KAWADE道の手帖」の『石牟礼道子――魂の言葉、いのちの海』もまもなく刊行。全集未収録エッセイ2篇:「水俣からの蘇りのための標しを」(1996年9月)、「原田先生のご遺言」(未発表)のほか、過去の座談や討議を再録し、渡辺京二、緒方正人、のお二人の談話、そして、最首悟、町田康、季村敏夫、上野朱、高山文彦、姜信子、小池昌代、石井光太、鹿島田真希、湯浅学、佐野眞一、若松英輔、五所純子、友常勉、池田雄一、東琢磨、森元斎、らの各氏が寄稿しておられます。池澤夏樹、伊藤比呂美、の両氏のエッセイは過去作の再録。
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by urag | 2013-04-14 23:32 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 04月 11日

ハーマッハー「エクス・テンポレ」が『知のトポス』第8号に

弊社出版物の著者や訳者の皆様の最近のご活躍をご紹介します。

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★ヴェルナー・ハーマッハーさん(著書:『他自律』)
★宮崎裕助さん(共訳書:ド・マン『盲目と洞察』)
★清水一浩さん(共訳書:ガルシア・デュットマン『友愛と敵対』)
新潟大学大学院の現代社会文化研究科と、同大学人文学部「哲学・人間学研究会」が毎年一回発行している翻訳学術誌「知のトポス」第8号(2013年3月発行)に、ハーマッハーさんの論考「エクス・テンポレ――カントにおける表象としての時間(上)」が、宮崎さんと清水さんとの共訳で掲載されました。分量の都合で、今回の第8号に前半部(91-216頁)が、次号字後半部が掲載されます。PDFが無料で配布されています。

また、宮崎さんは同8号に掲載された以下の論考の共訳者もつとめていらっしゃいます。エッカート・フェルスター「カント以後の哲学の展開にとっての『判断力批判』第七六~七七節の意義[第一部]」(大熊洋行共訳、155-190頁)。PDFはこちら。次号に第二部が掲載予定とのことです。ちなみに第8号の目次詳細はこちら。上記二篇のほか、J・F・フラット、ヘーゲル、ハイデガーの翻訳などが掲載されています。

さらに宮崎さんは、「知のトポス」の発行責任者である栗原隆教授が編者を務めておいでの新刊『感情と表象の生まれるところ』(ナカニシヤ出版、2013年3月)でも、「学問の起源とミメーシスの快」(70-90頁)という論考を寄せておられます。


★花代さん(写真集:『ベルリン』)
現在好評発売中の写真集『ベルリン』の写真展が以下の通り行われています。ナディッフでは『ベルリン』の月曜社通常版のほか、adidas Originals版や、プリント付きスペシャルエディション、額装ユニークエディションなどが販売されています。数に限りがありますので、お早めにご利用ください。

花代“ベルリン hanayos saugeile kumpels”(NADiff Window Gallery vol.31)
会期:2013年4月5日[金] – 5月6日[月]
場所:NADiff a/p/a/r/t(渋谷区恵比寿1丁目18-4 1F)

※関連イベント:Talk&Book Signing(花代 with 須山悠里)+Little Concert(花代&点子&Steve Lemercier)
日時:2013年5月6日[月] 18:00~
場所:NADiff a/p/a/r/t(渋谷区恵比寿1丁目18-4 1F)

花代「Berlin」展
会期:2013年3月16日(土)~4月20日(土)
会場:タカ・イシイギャラリー京都(京都市下京区西側町483番地)

※関連イベント(クロージング・イベント):Little Concert 花代&点子&Steve Lemercier
日時:2013年4月20日(土)18:00~
会場:タカ・イシイギャラリー京都(京都市下京区西側町483番地)


★大竹伸朗さん(著書:『UK77』『権三郎月夜』『ネオンと絵具箱』)
以下の展覧会が好評開催中です。なお、大竹さんは、4月10日に発売されたEGO-WRAPPIN'の最新アルバム『steal a person's heart』の7曲目「女根の月」の作詞を手掛けておられます。

「焼憶」展 SHINRO OHTAKE "YAKIOKU"
会期:2013年2月9日(土)~6月9日(日)
会場:「世界のタイル博物館」企画展示室(愛知県常滑市奥栄町1-130「INAXライブミュージアム」内)
料金:INAXライブミュージアム共通入館券が必要

EGO-WRAPPIN'×大竹伸朗対談(『steal a person's heart』発売記念)
日時:2013年4月13日(土)12:00~
会場:スタンダードブックストア心斎橋 BF カフェ(大阪市中央区西心斎橋2-2-12  クリスタグランドビル)
料金:1,000円(1ドリンク付き)、要予約


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by urag | 2013-04-11 18:46 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2013年 04月 10日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2013年4月26日(金)開店
ザ・リブレット マルイ静岡店:165坪(図書50坪、その他雑貨・文具)
静岡県静岡市葵区御幸町6-10 丸井静岡店 B館4F
大阪屋帳合。弊社へのご発注は芸術書主力商品と人文書1点。丸井静岡店の、現在改装中であるB館4Fに入居します。かつては女性用の大きいサイズの服や子供服のショップのほか、フォトスタジオがあったフロアのようですね。ザ・リブレットは愛知県岩倉市に本部を置く大和書店(だいわしょてん)が愛知県を中心に14店舗を展開。同書店ウェブサイトに掲載された紹介文によれば、「書籍を中心に、文具、雑貨、インテリア、カフェを複合した店舗「BOOKS THE LIBRETTO」を運営しています。店舗ごとに商品構成、店舗デザインなどが違います」とのことです。弊社へのご発注は初めてだと思います。同サイトに掲載されたザ・リブレットのコンセプトは以下の通り。「まるでオペラの舞台をみるように……。お客様と本の出会いを演出・編集していく。時代に合わせた売場作りを想像する書店を目指しています。明るく温かみがあり、活気を感じる。木とガラスとステンレス、温と冷の素材間の違いによるコンビネーション。ロングライフデザイン(新定番)が溢れる楽しさとの出会い」。商品構成から想像すると、書籍、雑貨、文具のほか、カフェを併設されるものと推測できます。

+++

最近の注文短冊や電注などで気づいたことを二点ほど。大阪屋帳合の「HOME COMING イオンモール春日部店」さんから芸術書のご発注がありましたが、この「ホームカミング」というのはヴィレッジヴァンガードさんが展開する新しい店舗形態なのですね。イオンモール春日部店のウェブサイト内にある店舗紹介によれば「ヴィレッジヴァンガードが提案する新しい空間、 大人も遊べる本屋の『HOMECOMING』です。『HOME COMING』は“帰郷”という意味です。 何度でも来たくなるような、大人が楽しめる空間を 様々な書籍や雑貨などで演出。 今までにない新しい発見ができるお店です」とのこと。VVの公式サイトの新着情報によれば、同店舗は先月3月5日にオープン。VVサイトでの店舗紹介文では「HOME COMINGって言います。結構広いです。相撲の商品とかあります。ドスコイ。版画も売ってます。ハンガー。実は日本中のヴィレッジヴァンガードの中では一番食品が充実してます。「美味しそうなもやしのタレ」「ヘンテコなレトルトカレー」「うまそうな飲み物」「選りすぐりのお菓子」揃ってます。店長の名前は勿論しんのすけです」とのこと。

いまのところ、「ホームカミング」はイオンモール春日部店のほか、福岡県福津市の「HOME COMING イオンモール福津」があります。こちらのオープンが先で、昨年2012年4月26日開店。VVサイトでの店舗紹介文にはこうあります。「65歳以上の人口が総人口の19%を占め、どしどしと高齢者が増え続ける日本に、ヴィレッジヴァンガードが提案する新しい空間、大人も遊べる本屋の『HOME COMING』誕生です。『HOME COMING』は“帰郷”という意味です。何度でも来たくなるような、大人が楽しめる空間を様々な書籍や雑貨などで演出。今までにない新しい発見ができるお店です。人生の中で、もっとも輝かしい時【グランド・ジェネレーション】、『HOME COMING』はグラジェネの為のお店です」。

もうひとつの話題は、「無印良品グランフロント大阪店」さん。日販帳合で、書籍も扱われるようですね。リブロ卸売の方からお電話をいただいて、芸術書を出荷しました。どうも書籍売場を併設するのではなくて、色んな商品と一緒に本も並べるということのようです。今月4月26日にオープンするグランフロント大阪の北館4Fに出店、「無印良品の全てが詰まった西日本最大級の旗艦店」と謳われています。一方、ご承知の通り、紀伊國屋書店さんがスタバと伊東屋とのコラボ店舗を南館6Fに出店します。競合する感じではないようですが、無印さんによる書籍併売の試みが気になりますね。なお、書籍併売は、無印良品ロフト有楽町店さんでもすでに試みられています。
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by urag | 2013-04-10 17:30 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)