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2013年 02月 24日

注目近刊:2013年2月~5月

★今後発売予定の新刊で注目している書目を列記します。価格は税込のものととそうでないものが混じっていることをお断りしておきます。

◆2013年2月
25日『センス入門』松浦弥太郎、筑摩書房、1,365円
26日『ユーロ消滅?』ウルリッヒ・ベック/島村賢一訳、岩波書店、1,575円
27日『生涯一編集者』小川哲生、飢餓陣営叢書(言視舎)、1,700円

◆2013年3月
01日『わたしの家――痕跡としての住まい』柏木博著、亜紀書房、2,000円
05日『日本文化の論点』宇野常寛、ちくま新書、756円
06日『政治思想論集』カール・シュミット/服部平治ほか訳、ちくま学芸文庫、1,155円
06日『人間理解からの教育』ルドルフ・シュタイナー/西川隆範訳、ちくま学芸文庫、1,260円
06日『体癖』野口晴哉、ちくま文庫、672円
06日『短篇小説日和――英国異色傑作選』西崎憲、ちくま文庫、1,050円
06日『私の「本の世界」――中井久夫コレクション5』中井久夫、ちくま学芸文庫、1,470円
06日『円谷プロ全怪獣図鑑』円谷プロダクション監修、小学館、5,250円
07日『翻訳教室』柴田元幸、朝日文庫、998円
08日『マス・イメージ論』吉本隆明、講談社文芸文庫、1,680円
08日『翻訳論とは何か――翻訳が拓く新たな世紀』早川敦子、彩流社、2,800円
10日『漂うモダニズム』槇文彦、左右社、6,500円
11日『カント「視霊者の夢」』金森誠也訳、講談社学術文庫、714円
11日『漂白される社会』開沼博、ダイヤモンド社、1,890円
12日『ご遺体』ウォー/小林章夫訳、光文社古典新訳文庫、未定
12日『亡びゆく言語を話す最後の人々』K・デイヴィッド・ハリソン/川島満重子訳、原書房、2,940円
13日『トラウマ後 成長と回復――心の傷を超えるための6つのステップ』スティーブン・ジョゼフ/北川知子訳、筑摩選書、1,890円
13日『戦争学原論』石津朋之、筑摩選書、1,890円
14日『グローバリゼーション、社会変動と大学』シリーズ大学第1回配本、広田照幸ほか編集委員、岩波書店、2,310円
15日『原発事故と農の復興――避難すれば、それですむのか?!』小出裕章ほか、コモンズ、1,000円
15日『沈黙の螺旋理論[改訂復刻版]――世論形成課程の社会心理学』E・ノエル=ノイマン/池田謙一ほか訳、北大路書房、4,700円
15日『愛されたもの』イーヴリン・ウォー/中村健二ほか訳、岩波文庫、630円
15日『上宮聖徳法王帝説』東野治之編、岩波文庫、567円
15日『新島襄自伝――手記・紀行文・日記』同志社編、岩波文庫、1,071円
15日『ケネー 経済表』平田清明ほか訳、岩波文庫、882円
15日『脱常識の社会学 第二版――社会の読み方入門』ランドル・コリンズ/井上俊ほか訳、岩波現代文庫、1,302円
15日『不動明王』渡辺照宏、岩波現代文庫、1,071円
15日『マンガ経理入門』長浜巌監修、サンマーク文庫、630円
15日『マンガ原価計算入門』長浜巌監修、サンマーク文庫、630円
19日『ソーシャルな資本主義』國領二郎、日本経済新聞出版社、1,680円
21日『世界を変えた17の方程式』イアン・スチュアート/水谷淳訳、ソフトバンククリエイティブ、2,310円
25日『図説 偽科学・珍学説読本』グレイム・ドナルド/花田知恵訳、原書房、1,890円
25日『マンキュー経済学I ミクロ編(第3版)』グレゴリー・マンキュー/足立英之ほか訳、東洋経済新報社、4,200円
25日『ジェンダーと〈自由〉――理論、リベラリズム、クィア』三浦玲一ほか編、彩流社、2,800円
25日『環大西洋の想像力(仮)――越境するアメリカン・ルネサンス文学』竹内勝徳ほか編著、彩流社、3,800円
25日『中国と琉球 人の移動を探る(仮)――明清代を中心としたデータの構築と研究』赤嶺守編著、彩流社、5,000円
25日『ヴォルガのドイツ人女性アンナ――世界大戦・革命・飢餓・国外脱出』鈴木健夫、彩流社、1,600円
25日『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険――ジュール・ヴェルヌとピエール=ジュール・エッツェル』石橋正孝、左右社、4,300円
26日『記号の海に浮かぶ〈しま〉――見えない都市』磯崎新建築論集第2巻、松田達編、岩波書店、3,780円
27日『内なる異性――アニムスとアニマ〔改版〕』エンマ・ユング/笠原嘉ほか訳、バウンダリー叢書(海鳴社)、1,200円
31日『こころのアポリア――幸福と死のあいだで』小林康夫、羽鳥書店、3,000円
31日『マックス・ウェーバーと現代〔増補版〕』中野敏男、青弓社、5,000円
中旬『ラカン』ポール=ローラン・アスン/西尾彰泰訳、文庫クセジュ、1,260円
中旬『希望の原理 第五巻』エルンスト・ブロッホ/山下肇ほか訳、白水社、4,515円
下旬『コント・コレクション ソシオロジーの起源へ』オーギュスト・コント/杉本隆司訳、白水社、2,100円
下旬『カフカと映画』ペーター=アンドレ・アルト/瀬川裕司訳、白水社、3,570円
下旬『シュレーディンガーと量子革命』ジョン・グリビン/松浦俊輔訳、青土社、2,730円
下旬『数学的経験の哲学』近藤和敬、青土社、2,940円
下旬『オープンサイエンス革命』マイケル・ニールセン/高橋洋訳、紀伊國屋書店、2,310円

◆2013年4月
10日『躍動する沖縄移民(仮)――ブラジル、ハワイを中心に』町田宗博ほか編、彩流社、3,200円
15日『2011――危うく夢見た一年』スラヴォイ・ジジェク/長原豊訳、航思社、未定
25日『放射能とナショナリズム――原発事故による不信の連鎖を断ち切るために』小菅信子、彩流社、2,000円
25日『ラインズ――線の文化史』ティム・インゴルド/工藤晋訳、左右社、2,800円
25日『九楊先生の書字学入門』石川九楊、左右社、3,500円
上旬『隣人が殺人者に変わる時――ルワンダ・ジェノサイド生存者たちの証言』ジャン・ハッツフェルド/服部欧右訳、かもがわ出版、1,995円

◆2013年5月
10日『アルチュセールの教訓(仮)』ジャック・ランシエール/市田良彦ほか訳、航思社、未定
20日『安全の原理』ウォルフガング・ソフスキー/佐藤公紀ほか訳、法政大学出版局、2,700円
20日『正義の秤(スケール)――グローバル化する世界で政治空間を再想像すること』ナンシー・フレイザー/向山恭一訳、法政大学出版局、3,300円

★来月はイーヴリン・ウォーの中篇「The Loved One」(1948年)の二種類の新訳が文庫で出るそうです。『ご遺体』(小林章夫訳、光文社古典新訳文庫)と『愛されたもの』(中村健二・出淵博訳、岩波書店)。これまでも幾度か訳されてきた人気作です。光文社古典新訳文庫の続刊予定には、リルケ『マルテの手記』(松永美穂訳)や、カント『実践理性批判(上)』(中山元訳)などの予告が出ています。後者は「純粋実践理性の原理論」の第二章までを収録とのこと。
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by urag | 2013-02-24 20:55 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 02月 24日

注目の新刊と既刊:西垣通『集合知とは何か』中公新書、ほか

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集合知とは何か――ネット時代の「知」のゆくえ
西垣通 著
中公新書 2013年2月 本体820円 新書判並製240頁 ISBN978-4-12-102203-5

カバーソデ紹介文より:インターネットの普及以来、アカデミズムの中核を成してきた専門知が凋落する中で、集合知が注目を集めている。このネット上に出現した多数のアマチュアによる知の集積は、いかなる可能性をもち、社会をどのように変えようとしているのか。基礎情報学を中軸に据え、哲学からサイバネティクス、脳科学まで脱領域的に横断しつつ、二一世紀の知のあり方を問い、情報社会の近未来をダイナミックに展望する。

目次:
まえがき
第一章 ネット集合地への期待
第二章 個人と社会が学ぶ
第三章 主観知から出発しよう
第四章 システム環境ハイブリッドSEHSとは
第五章 望ましい集合知をもとめて
第六章 人間=機械融合系のつくる知
あとがき
主要参考文献

★発売済。21世紀の情報社会における人間にとっての「知」とは何か、その可能性をさぐる書き下ろしです。「ポストヒューマン」「ネオ・サイバネティクス」「システム環境ハイブリッド」「タイプIIIコンピュータ」など色々なキーワードが出てきます。「ネオ・サイバネティクス」というのは、フォン・フェルスターの二次サイバネティクス(工学)、マトゥラーナ&ヴァレラのオートポイエーシス理論(生命科学)、ルーマンの機能的分化社会理論(社会学)」をはじめ、「フォン・グレーザーズフェルドのラディカル構成主義発達心理学(認知科学)、シュミットの文学システム論(文学)、さらに河本英夫の身体論(科学哲学)などもふくまれる」、「学際的な新潮流」(127-128頁)。著名な研究者には、メディア学者マーク・ハンセンなどがいます。文理の区別を越境していくこの潮流は書店の書棚で表現するのが一見難しいようにも思えますが、そもそも文理の縦割りはもう時代の趨勢に適していないのかもしれません。未来の書棚が垣間見えてくるような本です。


反乱する都市――資本のアーバナイゼーションと都市の再創造
デヴィッド・ハーヴェイ著 森田成也・大屋定晴・中村好孝・新井大輔訳
作品社 2013年2月 本体2,400円 46判上製 ISBN978-4-86182-420-3

帯文より:世界を震撼させている都市反乱は、21世紀資本主義をいかに変えるか? パリ・ロンドン暴動、ウォールストリート占拠、ギリシア・スペイン「怒れる者たち」……混迷する資本主義と都市の行方を問う。欧米で話題騒然。

各紙評:『ガーディアン』・・・ハーヴェイによると、資本主義は、常に、アーバナイゼーション(都市開発)を通じて発展し、金融手段の発明によってバブルに躍り、やがて不動産バブルの崩壊とともに“恐慌”に突入する。本書は、都市/資本主義の発展と危機を、パリやニューヨーク、中国などの都市開発の歴史をもとに分析し、現在の都市反乱とグローバル資本主義の行方を論じたものである。
『フィナンシャル・タイムス』・・・街頭の抗議行動はグローバルに拡大し、世界を騒然とさせている。これが新しい時代への胎動の一つであることは確かだろう。では、この世界的反乱が、資本主義のいかなる必然性から発生し、資本主義にどのような影響を与えようとしているのか? 本書は、きわめて知性的な左派からの分析である。
『パブリッシャーズ・ウィークリー』・・・著者は、資本主義の運動法則を明らかにするうえで、都市を中心的な基盤として考える。資本は、都市の「創造的破壊」によってのみ発展することができる。本書は、パリコミューンから、エルアルト(ボリビア)、ウォールストリート占拠、EUの「怒れる者たち」までを取り上げ、都市コモンズの再創造について展開する。
『サンデー・ビジネス・ポスト』・・・現在、最も世界的に影響力のある思想家による必読書。新自由主義、金融危機の分析で注目を浴びているハーヴェイ教授は、本書で、現在最も世界を揺り動かしている都市反乱と資本主義の今後について取り組んだ。

原書:Rebel Cities: From the right to the City to the Urban Revolution, Verso Books, 2012.

目次:
[序文]都市は誰のものか?──ルフェーヴルの構想
第I部 都市への権利――金融危機、都市コモンズ、独占レント
 第1章 都市への権利――資本のアーバナイゼーションへの対抗運動
 第2章 金融危機の震源地としての都市
 第3章 都市コモンズの創出
 第4章 レントの技法――文化資本とコモンズの攻防
第II部 反乱する都市――エルアルト、ロンドン、ウォールストリート
 第5章 反資本主義闘争のために都市を取り返す
 第6章 二〇一一年ロンドン──野蛮な資本主義がストリートを襲う
 第7章  ウォールストリート占拠(OWS)──「ウォールストリートの党」が復讐の女神に遭うとき
付録 都市と叛乱の現在――デヴィッド・ハーヴェイ、インタヴュー
 「都市への権利」から都市革命へ──『叛乱する都市』について
 来たる都市革命──世界各地の都市叛乱は新時代の始まりを告げるか?
訳者解題(森田成也)

★発売済。昨年刊行されたばかりのハーヴェイの最新著が早くも日本語訳されました。1979年に『地理学基礎論――地理学における説明』(松本正美訳、古今書院)が刊行されてから今回の本書に至るまで、12点13冊もの訳書が刊行されてきたことになります。「ハーヴェイにとって都市は単に人口と産業の集積した物質的な器(絶対的空間)ではない。それは同時に、資本の蓄積運動のダイナミズムを通じて絶えず生成され、つくり直されていく動的な過程でもある。資本は絶えず年を生成し再生成することによってのみ存立し発展することができる。〔…〕資本がある程度自立的に存立しうる最小単位は工場ではなく、何よりも年なのである。それゆえ資本は、既存の都市空間を自らの姿に似せてつくり変えるか(都市の資本化)、自らを都市的存在へと空間的に物質化させなければならない(資本の都市化)。この二重の過程を表現するものが、ハーヴェイの言う「資本のアーバナイゼーション」である。/この意味で、都市論は、経済学の特殊なサブ領域い追いやられるべきものでもなく、資本主義の基本的な運動法則を明らかにする経済原論の中に有機的に統合されなければならないものである。ハーヴェイが最初の頃から力説してきたのはこのことである」(304-305頁)と訳者解題で森田さんは説明されています。本書はハーヴェイがこれまで地道に積み重ねてきた都市研究の的確さを証明するもので、市民運動の高まりが都市を変え経済体制の変革への繋がっていくことを入念に跡づけています。

★「真の自由の世界が始まるのは、マルクスが主張するように、このような〔階級的支配と商品化された市場的決定の〕物質的制約が乗り越えられる場合のみである。反資本主義闘争のために都市をとり返し、それを組織することは、その偉大な出発点である」(253頁)ハーヴェイは述べます。また、「かすかな希望の光は世界中にある。スペインやギリシャにおける怒れる者たち〔インディグナドス〕の運動、ラテンアメリカにおける革命的衝撃、アジアの農民運動、これらはすべて、略奪的で野蛮なグローバル資本主義が世界を解放するという壮大な詐欺を見破る端緒である」(258頁)。さらに「運動はとりわけ、すべての疎外された人々、不平や不満を抱いている人々に働きかけねばならない。〔…〕これらの一切が民主主義的に結集して、凝集性のある対抗勢力になる必要がある。それはまた未来のアウトラインを自由に思い描かなければならない、オルタナティブな都市、オルタナティブな政治システム、そして究極的には、生産、分配、消費を人民の利益に沿って組織するオルタナティブな方法のアウトラインを。さもなければ、若者たちの未来は、雪だるま式に増大する私的債務とますます深刻化する公的緊縮化政策に塗りつぶされ、いっさいが一%の人々の利益のために存在し、そもそもいかなる未来もない状況になってしまうだろう」(264-265頁)。「真の市民としての責任を負わないまま個人としての権利を教授している企業の特権は、縮小されなければならない。教育や医療のような公共財〔パブリック・グッズ〕は、公共的に供給され、自由に利用できなければならない。メディアにおける独占権力は打破されなければならない。票を買うことは憲法違反だとされなければならない。知識と文化の私有化は禁止されなければならない。他者を搾取し略奪する自由は、厳格に抑制され、最終的には違法とされなければならない」(265-266頁)。無縁社会やSNEP(孤立無業者)がクローズアップされつつあるこんにちの日本において、ハーヴェイの力強い主張は、オルタナティブな未来を夢見る読者にとって勇気を与える契機となる気がします。

★本書の編集担当者のUさんはここ最近では以下の2点も手掛けられています。ロルドン『なぜ私たちは、喜んで“資本主義の奴隷”になるのか?』や、クリステヴァ『メラニー・クライン』はともに重版されている話題書です。

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なぜ私たちは、喜んで“資本主義の奴隷”になるのか?――新自由主義社会における欲望と隷属
フレデリック・ロルドン(Frédéric Lordon, 1962-)著 杉村昌昭訳
作品社 2012年11月 本体2,400円 46判上製276頁 ISBN978-4-86182-417-3

帯文より:「“やりがい”搾取」「“自己実現”幻想」を粉砕するために。“ポスト近代の奴隷制”と化した新自由主義社会――マルクスの“構造”分析とスピノザの“情念”の哲学を理論的に結合し、「意思的隷属」というミステリーを解明する。欧州で熱狂的支持! 最先鋭の資本主義論。

帯文(裏)より:欧米で、大きなうねりとなって拡大する「怒れる者たち」(格差社会や緊縮財政への抗議運動)が熱狂的に支持する先鋭的経済学者の話題作! かつてマルクス主義が主唱した資本家/労働者という固定的な図式は崩れ、資本主義は私たちに、労働と市場を通した“やりがい”や“自己実現”の機会を与えている。しかし、それによって私たちの欲望や生きがいは、資本の論理にそって構築され、感情や心理をも従属させられ、その結果、私たちは、喜んで“会社や金融の奴隷”となっていると言っても過言ではない。本書は、いわば“ポスト近代の奴隷制”と化した今日の新自由主義社会を、マルクスによる“構造”分析を超えて、構造を機能させている原動力としての人々の欲望・感情・心理を、スピノザの“情念”の哲学によって分析した、欧州で最も先鋭的な経済学者による話題の書である。

原書:Capitalisme, desir et sertitude: Marx et Spinoza, La Fabrique, 2010.

目次:
[日本語版序文]ポスト近代の“奴隷制”としての新自由主義――資本による「実質的包摂」は、いかに機能しているのか?
[はじめに]なぜ私たちは、喜んで“資本主義の奴隷”になるのか?――「やりがい搾取」や「自己実現幻想」を超えて
第1章 “何かをしたい/させたい”という欲望
第2章 人を“喜んで”労働させる方法
第3章 “労働による支配”からの脱却をめざして
訳者あとがき

★著者はフランスの経済学者であり、その著書が翻訳出版されるのは今回が初めてになります。訳者の杉村昌昭さんはロルドンについて「ここ数年の世界的金融危機の恒常化にともなって、現行の世界金融体制をラディカルに批判する数少ない左派の金融経済学者として彗星のごとく登場した人物」と紹介されています。今回訳された著書(原題「資本主義、欲望、隷属――マルクスとスピノザ」)は日本語題が示す通り「なぜ現代人は喜んで“資本主義の奴隷”になるのか」を分析したものです。「今日の資本主義企業が体現しているのは、ついに完遂された「実質的包摂」である。すなわち、資本の蓄積の論理のために、人間の全生活を従属させること。こうした賃金労働者の精神の完全な植民地化、労働者の感情や行動的潜勢力のすべてを動員しようという企てである。この生そのものの組み込みの全面化について思考するための概念手段を、われわれは手にしなければならない。この欲望と感情からなるマチエール(原素材)をもっともよく取り扱うことができるのは、おそらくスピノザ主義であろう」(日本語版序文より、11-12頁)と著者は書きます。また、「もし進歩という思想に意味があるなら、それは生を喜びの感情で満たし豊富化すること以外にない。われわれの力によって現実化することができる可能性の領域を拡大し、それを“真の善=利益=財産”に向けて方向づけるということである。スピノザとともに“私は人間の人間らしい生活をそう理解する”と言おうではないか」(250頁)。

★白石嘉治さんは「週刊金曜日」2012年11月30日号(第922号)に寄稿された記事「国家と資本の奴隷から脱却せよ」の中で、本書と村澤和多里『ポストモラトリアム時代の若者たち――社会的排除を超えて』(世界思想社、2012年10月)とを取り上げています。また、橋本努さんは「週刊東洋経済」2012年12月23日号に本書の書評「支配の本質をえぐり出す大胆かつ刺激的な試み」を寄せておられます。


メラニー・クライン――苦痛と創造性の母親殺し
ジュリア・クリステヴァ著 松葉祥一・井形美代子・植本雅治訳
作品社 2012年12月 本体2,800円 46判上製360頁 ISBN978-4-86182-421-0

帯文より:いかにして、メラニー・クラインは、精神分析家となったのか? クラインの人生を記すことは、精神分析の歴史を記すことである。そして、その理論は、彼女の数奇な人生と密接に結びついている……。クリステヴァによる本格評伝。

帯文裏より(訳者あとがきより要約):クラインの理論の核心は「母殺し」である――。母親殺しの場を作り出すことが人間の精神的発達の基盤である、というクラインの理論こそが、精神分析が人間理解にもたらした最も重要な視点の一つである。〔……〕クリステヴァは、三つの視点からクラインを読み解いていく。第一に、厳格な母、不幸な夫婦関係、離反する娘といった個人史。第二に、医師免許も学位もなく、40歳で分析家となり学派を形成し、アンナ・フロイトらと激しい論争を展開した公的活動。第三に、対象関係論の創始者として精神病と自閉症の理論化と臨床に大きな貢献を果たした、その実践と理論である……。

原書:Le genie femin: Melanie Klein, Fayard, 2000.

目次:
序章 精神分析の世紀
第1章 ユダヤの家系、ヨーロッパの歴史──うつ病とその後遺症
第2章 子どもたちを分析する──スキャンダルから遊びの技術へ
第3章 他者と結びつきの優先性と内在性──赤ん坊は対象とともに生まれる
第4章 不安か欲望か──はじめに死の欲動があった
第5章 早熟で横暴な超自我
第6章 母親崇拝か母親殺し礼賛か? 両親
第7章 具体化した隠喩としての幻想
第8章 象徴性の内在と度合い
第9章 外国語から支持者と不支持者のネットワークへ
第10章 クライン主義の政治
訳者あとがき(松葉祥一)
著者略歴/メラニー・クライン略歴/訳者略歴

◎ジュリア・クリステヴァ(Julia Kristeva, 1941-)既訳書一覧
1981年10月『中国の女たち』丸山静ほか訳、せりか書房
1983年01月『ことば、この未知なるもの――記号論への招待』谷口勇ほか訳、国文社
1983年10月『セメイオチケ(1)記号の解体学』原田邦夫訳、せりか書房
1984年08月『セメイオチケ(2)記号の生成論』中沢新一ほか訳、せりか書房
1984年07月『恐怖の権力――「アブジェクシオン」試論』枝川昌雄訳、法政大学出版局
1985年10月『テクストとしての小説』谷口勇訳、国文社
1986年05月『ポリローグ』赤羽研三ほか訳、白水社
1987年09月『初めに愛があった――精神分析と信仰』枝川昌雄訳、法政大学出版局
1987年11月『記号の横断』クリステヴァ編著、フランソワ・チェンほか共著、中沢新一訳、せりか書房
1990年10月『外国人――我らの内なるもの』池田和子訳、法政大学出版局
1991年07月『女の時間』棚沢直子ほか編訳、勁草書房
1991年10月『詩的言語の革命(1)理論的前提』原田邦夫訳、勁草書房
1992年11月『サムライたち』西川直子訳、筑摩書房
1994年03月『黒い太陽――抑鬱とメランコリー』西川直子訳、せりか書房
1994年10月『彼方をめざして――ネーションとは何か』支倉寿子ほか訳、せりか書房
1998年05月『プルースト――感じられる時』中野知律訳、筑摩書房
2000年09月『詩的言語の革命(3)国家と秘儀』枝川昌雄ほか訳、勁草書房
2001年03月『母の根源を求めて――女性と聖なるもの』カトリーヌ・クレマン共著、永田共子訳、光芒社
2005年01月『斬首の光景』星埜守之訳、みすず書房
2006年08月『ハンナ・アーレント――〈生〉は一つのナラティヴである』松葉祥一ほか訳、作品社
2012年12月『メラニー・クライン――苦痛と創造性の母親殺し』松葉祥一ほか訳、作品社
続刊予定『詩的言語の革命(2)19世紀末の前衛:ロートレアモンとマラルメ』勁草書房

★付言しておきますと、編集担当者のUさんはさいきん、「週刊ポスト」2013年2月15日発売号に掲載された16頁にわたるフルカラー総力特集記事「SEXの文化史 名著講義」でも登場されています。『ヴァギナの文化史』『ペニスの文化史』『お尻とその穴の文化史』『オルガスムの歴史』『ヴァージン――処女の文化史』『体位の文化史』『乱交の文化史』など、Uさんが手掛けられた数々の訳書が紹介され、最後のページではインタビューにも応じられています。Uさんはほかにも『おなら大全』『うんち大全』『でぶ大全』などを世に送り出されていますが、同時に、クロード・ランズマン『ショアー』、ジャック・アタリ『21世紀の歴史』などのロングセラーも担当されています。『野生のアノマリー』『マルクスを超えるマルクス』をはじめとするアントニオ・ネグリの訳書5点もUさんのご担当。エロスから政治哲学まで幅広いご活躍は人文業界では知らぬ者はいません。
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by urag | 2013-02-24 20:54 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 02月 22日

本日取次搬入:ブランショ『他処からやって来た声』以文社

弊社出版物の著者でもあるモーリス・ブランショさん(著書『問われる知識人』『ブランショ政治論集』『書物の不在』)の、最新訳書が以文社さんより刊行されました。本日21日取次搬入ですので、早ければ明日以降より書店さんの店頭発売開始となります。

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他処からやって来た声 デ・フォレ、シャール、ツェラン、フーコー
モーリス・ブランショ著 守中高明訳
以文社 2013年2月 本体2,800円 四六判上製216頁 ISBN978-4-7531-0310-2

帯文より:人文科学と未知なるもの。20世紀を代表する四人の知性=語り手の声に耳を澄まし、現代思想における〈未知なるもの〉の領域を切り拓く。人文科学変革の震源となった現代フランス最大の作家・思想家がその営為を凝縮した最後の書物。

原書:Une voix venue d'ailleurs, Gallimard, 2002.

目次:
アナクルシス――ルイ=ルネ・デ・フォレの詩について
 他処からやって来た声/白黒/アナクルシス
ラスコーの獣 
最後に語る人 
ミシェル・フーコー――わが想像のうちの
 危険に晒された人/構造主義への訣別/非連続性の要請/知、権力、真理?/隷属から主体へ/内なる確信/今日、私とは誰か?/血の社会、知の社会/殺戮する人種主義/性について語ることへの執念/おお、わが友らよ
訳註
ブランショと四つの固有名――訳者あとがき

★本日2月21日取次搬入の新刊です。収録された四つの論考はそれぞれ既訳がありますが、一冊にまとまって新訳で読めるようになりました。まさに最適の訳者を得た新訳で、歓喜の一言に尽きます。

★ご参考までに4つの論文の書誌情報などを列記します。

「アナクルシス」はもともと「他処からやって来た声――ルイ= ルネ・デ・フォレの詩について」というタイトルで1992年に詩誌「ユリシーズ世紀末」の別冊として刊行されました(写真:茶色の本)。その後、2001年にヴィルジル出版社(ウェルギリウス出版社)の「ユリシーズ世紀末」叢書の1冊として再刊され(写真:白い本)、さらにその翌年の2002年にガリマールから文庫本が出版されます。この文庫本が今回の底本で、「他処からやって来た声」というタイトルは書名に採用され、論文自体は「アナクルシス」と改題されています。初訳は文芸誌「リテレール」1993年秋号(メタローグ)の70-84頁に「他処から来た声――ルイ=ルネ・デ・フォレの詩について」(小林康夫・水野雅司訳)として掲載されました。小林さんによる訳者解説が85頁に3段組で併録されています。

「ラスコーの獣」はルネ・シャールの詩「言うも汚らわしい獣」へのオマージュとして、まず文芸誌「新フランス評論」の第4号 (1953年)の684-693頁に掲載され、その後、1958年にGLM社から598部の限定出版として書籍化されました。その後1982年にファタ・モルガナから再刊されるにあたってブランショ自身が冒頭に短いコメントを寄せており、今回の訳書ではそれを確認することができます。初訳は『世界詩論体系(1)現代フランス詩論体系』(思潮社、1964年)の221-231頁に「ラスコオの獣」(篠沢秀夫訳)として掲載されました。末尾に篠沢さんによる解説が併録されています。

「最後に語る人」はパウル・ツェラン論であり、まずスイスの文芸誌「ルヴュ・ド・ベル・レットル」のツェラン追悼のための特別号(2-3号、1972年)の171-183頁に掲載され、その後、1984年にファタ・モルガナで書籍化されました。初訳は思潮社の詩誌「現代詩手帖」1978年10月臨時増刊号(第21巻第11号、ブランショ特集号)の28-47頁に「最後に語る人――パウル・ツェラン追悼(一九七二)」(飯吉光夫訳)として掲載され、のちに小沢書店の「双書・20世紀の詩人」シリーズの一冊『パウル・ツェラン詩集』(飯吉光夫編訳)の140-162頁に再録されています。

「ミシェル・フーコー――わが想像のうちの」は、1984年に亡くなったフーコーに捧げられた本で、1986年にファタ・モルガナから刊行されました。初訳は同1986年の12月に『ミシェル・フーコー――想いに映るまま』(豊崎光一訳、哲学書房)として緊急出版されています。

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by urag | 2013-02-22 13:41 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 02月 21日

新生Book Newsに弊社新刊紹介記事、紀伊國屋じんぶん大賞フェア、など

フライングラインさんの「本が好き!Bookニュース」のライター「ナガタ」さんが独立され、「出版系イベントからマニアックな新刊情報まで、「本」にまつわることはなんでも扱」う、ナガタさん個人が運営するメディア「Book News」として今月からリニューアルされました。

そして、今日公開された記事「伝説的ジャズ評論家の著作集が復刊!その闘争の軌跡を読み解く。『時代の未明から来たるべきものへ』」では弊社新刊『間章著作集I』を取り上げて下さっています。「間章の文章はわかりづらい。しかしかっこいいのだ。[…]本書の本文を読み始めてまず驚くのは、ほとんどジャズ・ミュージシャンの名前が出てこないというところだろう。/ハイデガー、メルロ=ポンティ、カフカ、ブランショといった哲学者・文学者の名前が頻出する。それに対して、言及されるミュージシャンの名前はたとえばビリー・ホリデイくらいだ。最初はそのことに面食らう。しかしジャズに親しんでいない読者には、ある意味ではむしろ読み易いかも知れない。/ちなみに本書で言及されている、間章自身のビリー・ホリデイ論のタイトルは「存在の終末としての休暇」。 これで「存在のウィークエンドとしてのホリデイ」と読ませる。厨二感がアツい。/そう、本書におさめられている文章は、間章というガチの厨二病の生き様が刻印されたものとして捉えると、格別の味わいをもったものになる。いわばヴィンテージものの厨二感」。さすがナガタさん、切り口が巧いですね。

さて、ナガタさんと言えば、空犬さん・河村書店さん・ハマザキカクさんとともに〈Twitter出版速報四天王〉として活動もされており、昨秋は紀伊國屋書店新宿南店3階の「ふらっとすぽっと」でライブトークも行われています。今年は今月8日から同書店の新宿本店3Fで展開中のブックフェア「出版業界のインフラ達「Twitter出版速報四天王」が選ぶ2012年のお勧め人文書フェア」でも選書を担当されています。

このフェアは「紀伊國屋じんぶん大賞2012──読者と選ぶ人文書ベスト30」を記念するブックフェア「読者と選んだ2012年人文書ベストブックフェア」と並行して行われています。今回の大賞は柄谷行人さんの『哲学の起源』(岩波書店、2012年11月)が受賞されており、続くベスト30冊の中には第23位に、弊社8月刊、アガンベン『到来する共同体』がランクインしています。「今年いちばん心にのこり、ふとしたときに何度も読み返した本。造本も素晴らしく、おそらくこれからも、何度も立ち戻ることになるような、広い射程をもった概念の数々」との選評をTさんから頂きました。Tさんありがとうございます。同フェアは、紀伊國屋書店さんの35店舗で展開。店頭で無料配布中の記念小冊子(写真)には柄谷さんの受賞コメントのほか、仲正昌樹さん(金沢大学教授)と與那覇潤さん(愛知県立大学准教授)の特別対談「2012年は"政治"の年だった!? 書棚の民主主義論――西洋思想と日本史の視座から」が3段組計8頁のヴォリュームで収録されています。ここで取り上げられている本は、上記のベストブックフェアや四天王フェアと同時開催で新宿本店3Fで展開中です。これら3つのブックフェアは3月9日(土)まで行われます。

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by urag | 2013-02-21 11:35 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2013年 02月 17日

注目新刊と近刊:難波功士『社会学ウシジマくん』人文書院、ほか

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社会学ウシジマくん
難波功士(なんば・こうじ:1961-)著
人文書院 2013年2月 本体2,200円 4-6判並製300頁 ISBN978-4-409-24095-3

帯文より:社会学から逃げられると思ってんの? あの人気コミックに学ぶ、現代社会学の最前線! 読書案内付で社会学入門にも最適。

目次:
はじめに
プロローグ――リスク社会論ウシジマくん
第1章 都市社会学ウシジマくん
第2章 家族社会学ウシジマくん
第3章 教育社会学ウシジマくん
第4章 メディア論ウシジマくん
第5章 ジェンダー論ウシジマくん
第6章 感情社会学ウシジマくん
第7章 労働社会学ウシジマくん
第8章 社会病理学ウシジマくん
第9章 福祉社会学ウシジマくん
エピローグ――社会階層論ウシジマくん
おわりに

読書案内
人名索引

★20日(水)取次搬入予定。これまで数々のユニークな研究を上梓されてきた著者による初めての社会学入門です。非常に軽妙な語り口で、「闇金ウシジマくん」を枕に社会学の諸領域が解説されます。このかつてない親しみやすさはひょっとすると難波さんがかつて広告代理店にお勤めだったというユニークな経歴に由来するのかもしれません。内向きな学者先生にはけっして期待できない読みやすさで、楽しみながら社会学の最前線がじんわり見えてきます。これは決して大げさでも、著者や読者を馬鹿にしているわけでもなく、才能だと思うのです。本書以上にキャッチーな社会学入門を書くというのはハードルが高い作業になると思いますが、はたしてまねできるかどうかは別として「こんなふうに書いてもいいんだ」という意味で解放される書き手が現れてもいいのではないかと思います。

◎難波功士さん単独著既刊書
1998年12月『「撃ちてし止まむ」――太平洋戦争と広告の技術者たち』講談社選書メチエ
2000年04月『「広告」への社会学』世界思想社(SEKAISHISO SEMINAR)
2007年06月『族の系譜学――ユース・サブカルチャーズの戦後史』青弓社
2009年01月『創刊の社会史』ちくま新書
2009年04月『ヤンキー進化論――不良文化はなぜ強い』光文社新書
2010年01月『広告のクロノロジー――マスメディアの世紀を超えて』世界思想社
2011年08月『メディア論』人文書院(ブックガイドシリーズ基本の30冊)
2012年01月『人はなぜ〈上京〉するのか』日経プレミアシリーズ
2013年02月『社会学ウシジマくん』人文書院


「坂本龍馬」の誕生――船中八策と坂崎紫瀾
知野文哉(ちの・ふみや:1967-)著
人文書院 2013年2月 本体2,600円 4-6判上製354頁 ISBN978-4-409-52058-1

帯文より:船中八策は後世に作られたフィクションである! 龍馬研究に画期をなす精緻を極めた実証的研究にして、一級の歴史エンタテイメント。

帯文(表4)より:本書のポイント:3つの「初めて」。1、「船中八策」は龍馬の手によるものではないことを実証。2、龍馬像の形成に最大の貢献をした人物・坂崎紫瀾の業績を詳細に解明。3、幻の未公刊史料、瑞山会編「坂本龍馬傳艸稿」を発掘紹介。

目次:
はじめに
第一章 「船中八策」の物語
第二章 土佐勤王党の物語――坂崎紫瀾「汗血千里の駒」
第三章 瑞山会の物語――瑞山会編「坂本龍馬傳艸稿」
おわりに

参考文献一覧
巻末表
人名索引

★発売済。著者はTBSテレビに勤務するかたわら、社会人大学院生として研究を続けておられる異色の方で、本書がデビュー作になります。「はじめに」と第1章冒頭のPDFが、人文書院さんの書籍単品ページ(書名のリンク先)で無料にて閲覧可能です。昨年来「大阪維新の会」の政策をめぐる報道から再びよく目にするようになった「船中八策」ですが、龍馬の「船中八策」はそのものずばりの原本や写本が見つかっていないため、創作説が以前からありました。本書は様々な歴史資料を丹念に調べ上げ、その謎に肉薄しています。また、「船中八策」にあって、龍馬自筆の「新政府綱領八策」にはない重大な項目「大政奉還の建言」をめぐる疑問、すなわち龍馬が本当に大政奉還派なのかどうかについても考察されています。さらに明治期のジャーナリスト、坂崎紫瀾(さかざき・しらん:1853-1913)の龍馬伝『汗血千里の駒』における英雄化の分析や、瑞山会編「坂本龍馬傳艸稿」の発掘紹介によって、龍馬伝説の形成を跡づけています。本書の「おわりに」は著者の龍馬への愛情を感じさせ、感動的ですらあります。

★上記2書『社会学ウシジマくん』『「坂本龍馬」の誕生』の編集担当者はいずれもMさん。当ブログではMさんの新刊はほぼ毎回取り上げています。ブックガイドシリーズ「基本の30冊」を手掛けているのもMさん。追っかけて損はありません。

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赤き死の假面
エドガー・アラン・ポー著 江戸川亂步譯 オディロン・ルドン口繪
蘭峯舎 2012年12月 350部限定(記番入り) 定価税込10,000円 A5判変型122頁函入 

版元紹介文より:「夜の宝石のやうに怪しくもきらびやかなりし」とポーの天才を称えた亂步が、自ら筆を執った唯一の翻訳、初の書籍化! 白眉の評論「探偵作家としてのE・A・ポー」をはじめ、亂步がポーを論じた全12編の「ポー論集成」を合わせて収録した豪華愛蔵版。

目次:
赤き死の假面
ポー論集成
 探偵作家としてのE・A・ポー
 ディケンズの先鞭
 ポーとディケンズ
 エドガー・ポーの生と死
 文学史上のラジウム
 ポオと通俗的興味
 病める貝
 ポーとオリジナリティー
 ポーの百年忌に
 ポーとドイル
 アモン酒の樽
 わたしの古典
解説「ポーと乱歩 奇譚の水脈」(中相作)

★昨年12月に発売されましたが既に完売。2012年6月20日に創業された「猟奇耽異の文藝専門出版社」、蘭峯舎(らんぽうしゃ)さんの新刊第一弾です。2013年1月28日付「読売新聞」の夕刊記事「乱歩訳ポー作品、初の書籍化…「赤き死の假面」」で紹介され、すぐに注文しましたが、ほどなく完売した様子です。記事によれば「この本を出したのは、豪華本の文化を守ろうと昨年、一人で限定版専門の出版社、藍峯舎を設立した新潮社OBの深江英賢(ひでたか)さん(64)」。藍峯舎さんのウェブサイトにはこう書かれています。

「電子書籍へと向かう時代の流れにあえて抗して、藍峯舎の出版物は用紙の選定から印刷、装幀、造本まで、時間と手間をかけて磨き上げた「紙の本」ならではの美しさを追い求めて参ります。少部数の限定本となるため、一般の書店を通じての販売が難しく、お求めは小社のホームページ及び一部のネット古書店からとなります。ご面倒をおかけしてまことに申し訳ございませんが、量産本の氾濫のなかで忘れられつつある「美しい本」の手触りをお楽しみいただければ幸いです」。

★こうした方針に一出版人として非常に共感します。というのも、出版社を設立したあとの一番の難関は何と言っても「取次口座の開設」だからです。むろん、取次口座を持っていなくても新刊書店との直取引は可能ですが、出荷から返品、精算までの労力は存外に大きなもので、取次なしに数百部、数千部単位を流通させるのはしっかりした営業体制がない限り難しいです。藍峯舎さんのやり方は「限りある資金をどこに投入するか」という点で徹底しています。ISBNは書店流通上では必須ですが、読者への直販のみならば、ISBN取得にお金をかける必要もでてきません。つまり読者とダイレクトに繋がるという方式によって、いくつもの既存の「中間フィルター」を省き、造本に資金を投入できるわけです。こうした生き残り策は既成の図体の大きな出版社は選択しづらいですが、少人数の出版社を立ち上げる上では有効だと思います。

★第二弾は2013年春刊行予定、『屋根裏の散歩者』(江戸川亂步著、池田満寿夫挿畫、300部限定、A5判変型、予価12,000円)で、近日予約開始だそうです。「巨人亂步と池田満寿夫のただ一度のコラボレーション!「幻の豆本」が新編集で甦る!」とのこと。

★読者との直接的な繋がりを第一に考える版元というのはこれまでも数々存在しています。たとえば当ブログで何度かご紹介したことのある文芸書版元の森開社さん。あるいはロバート・フランクの写真集で有名な邑元舎(ゆうげんしゃ)さん。どちらもいまなお営業を続けておられます。また、田原桂一さんの大作写真集『OPERA de PARIS』で有名な文献社さん。こちらは株式会社マップルさんのウェブサイト内にある「オフィシャル・ホームページ」内に掲示されている連絡先から推察して、すいしょう社さんが窓口になられたこともあったご様子ですが、現在は活動されているのかどうか、存じ上げません。日本におけるプライヴェート・プレスの歴史というのは非常に興味深いものがあります。たとえば日本推理作家協会さんの「会報」2005年12月号の記事「七十年代のプライヴェート・プレス」で紹介されている渡邊一考さんのご活躍をご覧ください。この記事にある「人生が輝くのはむきになるときだけ」だ、という言葉、素敵です。
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by urag | 2013-02-17 18:17 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 02月 14日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2013年3月23日(土)オープン
丸善四日市店:500坪
三重県四日市市諏訪栄町7-34 近鉄百貨店四日市店 B1F
帳合は大阪屋。弊社へのご発注は人文書、芸術書、文芸書の主力商品で合計約30点。近鉄四日市駅の駅ビル「近鉄百貨店四日市店」の1Fおよび2Fに2009年9月より展開中の、(株)ビッグウィルが運営する「近鉄ブックセンター」(大阪屋帳合)が来月3月22日(金)に閉店し、新たに地下1階で「丸善四日市店」として生まれ変わります。周知の通り、ビッグウィルはかつて近鉄百貨店の100%子会社でしたが、昨春ジュンク堂が株式の86%を取得し、CHIグループ傘下となっています。代表取締役はジュンク堂(丸善書店)から岡充孝さんが就任されています。その岡社長のお名前が書かれた挨拶状によれば、「今回は同じCHIグループで140余年の歴史を持つ丸善のノウハウを活用し読者目線に立った書店を創るために、書店名を「丸善四日市店」としました」とのことです。「既存店舗同様、専門書をはじめとした商品の充実を計り、地域一番店の品揃えを目指」す、と書かれています。選書を担当しているのは、ジュンク堂書店池袋本店と丸善丸の内本店のスタッフの皆さんです。

近鉄四日市駅周辺には、宮脇書店四日市本店(大阪屋帳合)や、地元の古参である白揚四日市書籍館(シェトワ白揚書籍館、日販帳合)などがありますが、県下で弊社の書籍をまとまった数で扱っていただくことになるのは丸善さんが初めてで、とても嬉しいです。ただ、同じ大阪屋帳合の宮脇書店さんとのバッティングが気になるところではあります。

+++

一方、閉店情報です。小田急町田駅西口の「町田モディ」8階に約450坪で展開していた、あおい書店町田店さん(トーハン帳合)が今週末の2月17日(日)で閉店され、6年の営業に終止符を打たれます。あおい書店さんは近年閉店が続いていて、少し心配です。
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by urag | 2013-02-14 18:56 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2013年 02月 13日

ニコラス・ロイル教授来日講演会

弊社出版物の訳者の方々の最近のご活躍をご紹介します。

★宮崎裕助さん(共訳書:ポール・ド・マン『盲目と洞察』)
★西山雄二さん(訳書:ジャック・デリダ『条件なき大学』、共訳書:『ブランショ政治論集』)
★鵜飼哲さん(共訳書:ジャン・ジュネ『公然たる敵』)
『ジャック・デリダ』(田崎英明訳、青土社、シリーズ「現代思想ガイドブック」、2006年12月) をはじめとする数々の高名なデリダ論で知られる、サセックス大学のニコラス・ロイル教授の来日講演会が下記の通り行われ、お三方が司会やコメンテーターとして参加されます。

◎ニコラス・ロイル(Nicholas Royle, 1957-)来日講演会

"Poetry, Animality, Derrida"
日時:2013年2月28日(木)16:00-18:00
場所:早稲田大学・政経学部1号館401教室
コメント:藤本一勇(早稲田大学)、宮崎裕助(新潟大学)
司会:西山雄二(首都大学東京)
主催:早稲田大学文学学術院 表象・メディア論系、共催:脱構築研究会
※入場無料、事前登録不要、日本語翻訳配布、質疑応答のみ通訳あり

"Reading Joseph Conrad: Episodes from the Coast"
日時:2013年3月3日(日)14:30-18:00
場所:佐野書院(一橋大学、西キャンパス南側)
コメント:鵜飼哲、中井亜佐子
司会:中井亜佐子
主催:科学研究費・基盤B「モダニズムの越境性/地域性」
※入場無料、事前登録不要、質疑応答のみ通訳あり
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by urag | 2013-02-13 19:08 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2013年 02月 11日

注目新刊:『死と神秘と夢のボーダーランド』インターシフト、ほか

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死と神秘と夢のボーダーランド――死ぬとき、脳はなにを感じるか
ケヴィン・ネルソン著 小松淳子訳
インターシフト発行 合同出版発売 2013年2月 本体2,300円 46判上製360頁 ISBN978-4-7726-9534-3

帯文より:死ぬとき、脳はなにを感じるか? 臨死脳研究の第一人者が、スピリチュアル体験の謎に挑む。最期に、脳はボーダーランドに入り込む。だれもが最後に体験する死――その間際に、脳はいかに働き、なにを感じるのか? 脳は死に瀕しても活動し、私たちを覚醒-夢-無意識の混在した〈ボーダーランド〉へと誘う。臨死体験と、レム睡眠、脳の原始的な領域とのかかわりを、最新の脳科学が解き明かす。

推薦文:「本書の考察は、際立っており、挑戦的で、しかも面白く読める」(V・S・ラマチャンドラン)。「ネルソンの脳は、夢と信と、そして死(まだ未体験だが)を知っている」(アラン・ホブソン)。

原書:The Spiritual Doorway in the Brain, Dutton(Penguin), 2011.

目次:
プロローグ 自分のベッドの足元で
第I部 脳と意識の変容
 第1章 霊的(スピリチュアル)体験とは何か?――恐怖からピンボール、お花畑まで
 第2章 三つの意識状態――霊的覚醒の場
 第3章 断片化した自己――私たちが自己の偽証者となる時
第II部 死の入り口で
 第4章 さまざまな臨死体験――物語を紡ぐ
 第5章 脳が死の入り口に立った時――光と血
 第6章 古代のメトロノーム――恐怖から霊的至福に至るテンポ
 第7章 夢と死のボーダーランド――レム睡眠の侵入
第III部 向こうの世界
 第8章 合一の美と恐怖――神秘の脳の奥深く
エピローグ 英知の新生
謝辞

参考文献
解説


★発売済。著者ケヴィン・ネルソンはケンタッキー大学・神経学教授。同大学で医療部門の所長も務めています。本書は人間のスピリチュアルな体験が脳内の現象によって実現していることを明らかにしています。「臨死体験と、臨死体験に関連していると思われる霊的事象、つまり体外離脱体験、恍惚感や解脱の境地、“合一”の神秘体験、聖人や死者の幻視について、現在私が進めている研究を紹介しよう。原始的な脳幹が、脳の中で進化上最も新しい大脳皮質のうち最も古く誕生した大脳辺縁系と連動して活動し、多種多様な霊的体験につながることを説明するつもり」(18頁)とあり、「霊性の神経学的基盤を解明する」(19頁)ことが目指されています。レム睡眠と臨死体験(体外離脱)との関係をはじめとして、さまざまな霊的体験が脳神経科学で鮮やかに説明されていきますが、かと言って霊的体験が無意味な幻想なのだと決めつける傲慢さはなく、むしろ非常に説得的に人間の脳の「神秘」への興味を掻き立てられます。気が早いですが、個人的には2013年上半期のベスト本の一冊に数えたい本です。


ルネサンスの聖史劇
杉山博昭(すぎやま・ひろあき:1975-)著
中央公論新社 2013年2月 本体4,200円 A5判上製448頁 ISBN978-4-12-004467-0

帯文より:ルネサンスが宗教劇に刻み込んだ断裂。聖史劇は、活版印刷技術と出版ブームが到来する以前、世界最大のマスメディアであった。最も盛んに催された15世紀フィレンツェに焦点を当て、台本、上演、受容の実態を精緻に探る。さらに、同時代の絵画作品とのあいだに存在する照応関係をも検証した本格的論考。本邦初訳の聖史劇台本14本を収録、図版64点、内27点をカラーで掲載。

目次:
I 序論
II 台本
III 室内
IV 野外
V 脇役
VI 図像
VII 結論
VIII 翻訳
謝辞

文献
索引

★発売済。本書は著者が京大に昨年提出した博士論文に加筆修正したもの。聖史劇とは聖書を題材につくられた宗教劇のことで、中世末期のヨーロッパで流行したと一般的に言われています。本書は15世紀のフィレンツェで上演された聖史劇を、台本、制作、上演の三点から考察し、「当時の社会で果たした役割と機能をあきらかにすること」(7頁)を目的としています。類書が少ない中、165頁にわたって台本原典の翻訳を掲載しているところも貴重です。

★第VIII章「翻訳」に収録されている聖史劇14本の詳細は次の通り。『神が世界と人間、そして万物をお造りになったときの聖史劇』『放蕩息子の帰還の聖史劇』『栄光に満ちた聖人、聖バルトロメウスの殉教の聖史劇』『皇帝オクタヴィアヌスのフェスタのスタンツェ』『聖母マリアのお清めの聖史劇』『洗礼者ヨハネの斬首の聖史劇』『スザンナのフェスタ』『モーセとエジプト王ファラオの聖史劇』『マギのフェスタの聖史劇』『イエスがラザロを蘇らせたときの聖史劇』『聖霊降臨祭の聖史劇』『最後の晩餐と受難の聖史劇』『キリストの復活の聖史劇』『聖霊の奇跡のフェスタ』。

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同化と他者化――戦後沖縄の本土就職者たち
岸政彦(きし・まさひこ:1967-)著
ナカニシヤ出版 2013年2月 本体3,600円 四六判並製450頁 ISBN978-4-7795-0723-6

帯文より:復帰前、「祖国」へのあこがれと希望を胸に、本土へ渡った膨大な数の沖縄の若者たち。しかしそれは壮大な「沖縄への帰還」の旅でもあった──。

版元紹介文より:「もうひとつの復帰運動」としての戦後の大規模な本土移動。なぜ彼らのほとんどは、結局は沖縄に帰ることとなったのか。詳細な聞き取りと資料をもとに、「沖縄的アイデンティティ」、さらにはマイノリティのアイデンティティのあり方を探る。

目次:
序章 オキナワから来た少年
第一章 戦後沖縄の経済成長と労働力流出
 一 沖縄の戦後
 二 戦後の人口移動と都市集中
 三 沖縄の高度経済成長
 四 本土就職の概要
第二章 本土就職者たちの生活史
 一 調査の概要
 二 本土就職者たちの生活史
第三章 ノスタルジックな語り
 一 ノスタルジックな語り
 二 「繋留点」としての定型的な語り
第四章 本土就職とはなにか
 一 過剰移動――戦後沖縄の労働力移動における政治的要因
 二 自己言及と他者化――本土就職者のための「合宿訓練」
 三 過剰移動その後
結論 同化と他者化
 一 沖縄的同郷性
 二 アイデンティティとはなにか
 三 マジョリティとマイノリティ
 四 同化と他者化
参考文献
あとがき
関連年表

★近日発売。著者の岸政彦さんは龍谷大学社会学部准教授。ジョック・ヤング『排除型社会』(洛北出版、2007年)の共訳などの実績をお持ちですが、単独著は本書が初めてかと思います。副題にある通り「戦後沖縄の本土就職者」の方々への聞き取り調査や、当時の行政資料の統計的検証、メディア報道の分析などを通じて、「本土に対する他者性の感覚」(13頁)とも言える沖縄的アイデンティティを研究し、特に「同化を通じた他者化」(9頁)、「島ぐるみでの日本への同化運動」(15頁)としての戦後の復帰運動について描写を試みています。何と言っても本土就職者の肉声はそのひとつひとつが生々しく、胸を打ちます。

★「沖縄の特殊性や固有性、あるいは独特のアイデンティティは、おそらくはこのような沖縄と日本との関係のなかでつくられてきた。それはこれまで考えられたよりはるかに「同化主義的」なものだったのだが、実はこのきわめて同課的な移動を通じた出会いが、そのまま逆転して沖縄の固有性や他者性をつくりだしていったのではないか。これが本書における仮説である」(17頁)。「沖縄を、社会変化と移動という観点から考えてみること。特殊な伝統文化や不変の民俗性という神話からではなく、戦後の経済成長と近代化、産業構造と労働市場の変化、多様な生活史と語りという、一見すると沖縄的ではないようなものから沖縄を語り直してみること。これが本書の課題である」(33頁)。

★そうした手法によるものでしょうか、本書は沖縄の特殊性を殊更に強調する本ではなく、〈ひととしての共感〉を自然と呼び起こす、心揺さぶる本となっていると思います。本書の編集担当者はSさん。先般ご紹介した『社会的なもののために』『ポスト3・11の科学と政治』もSさんのご担当です。昨年大いに話題を呼んだ下記のロベール・カステル『社会問題の変容』もSさんの担当書籍。専門書の場合、気になる著者というより気になる編集者の手掛けた本を追いかける方がしばしば楽しい経験になります。


社会問題の変容――賃金労働の年代記
ロベール・カステル(Robert Castel, 1933-)著 前川真行(まえがわ・まさゆき:1967-)訳
ナカニシヤ出版 2012年3月 本体6,500円 A5判上製632頁 ISBN978-4-7795-0637-6

帯文より:福祉国家「以後」の危機に迫る! 失業と労働条件の不安定化がもたらす今日の社会的危機の根源は何か。賃金労働の軌跡を14世紀から捉え返し、賃金労働社会と「社会的なもの」の成立の過程とその危機を明らかにするロベール・カステルの主著、待望の完訳。

「結論 負の個人主義」より(541頁):現在の個人主義化のプロセスを通じてみられる矛盾は、このように深刻なものである。この矛盾が社会に突きつけているのは、みずからを統治不可能なものとしかねない分断化の恐れである。すなわち、社会的地位の安定ゆえに個人主義と自律を結びつけることのできる者を一方の極に、そして個人として存在することが手がかりの不在と保障の欠落とを意味してしまうがために、それを十字架として背負わなければならない者をもうひとつの極へと置く、社会の二極化の恐れである。

原書:Les métamorphoses de la question sociale: Une chronique du salariat, Fayard, 1995.

目次:
前書き
比較のための覚え書き
第一部 後見から契約へ
 第一章 近接性に基づく保護
 第二章 土地に縛られた社会
 第三章 名もなき賃金労働者
 第四章 自由主義的近代
第二部 契約から身分規定へ
 第五章 国家なき政治
 第六章 社会的所有
 第七章 賃金労働社会
 第八章 新たな社会問題
結論 負の個人主義
訳者解説
索引〔人名/事項〕

◎ロベール・カステル(Robert Castel, 1933-)既訳書
2009年04月『社会の安全と不安全』庭田茂吉+アンヌ・ゴノン+岩﨑陽子訳、萌書房
2012年03月『社会問題の変容――賃金労働の年代記』前川真行訳、ナカニシヤ出版

★カステルというと、人文業界で有名なのは、マヌエル・カステル(Manuel Castells, 1942-)と上記のロベール・カステルです。前者はスペイン生まれの社会学者で、マヌエルはマニュエルとも表記されることがあります。現在はアメリカの大学で教鞭を執っています。専門は都市社会学で日本では80年代から翻訳が刊行されています。ロベール・カステル(Robert Castel, 1933-)はフランスの社会学者で、社会科学高等研究院(EHESS)教授。70年代は精神分析や精神医学を研究対象にしていましたが、90年代以降は賃金労働をめぐる社会史の検証で有名です。著書の翻訳が出始めたのはここ数年のこと。今後ますます注目されるだろう学者です。

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批判的想像力のために――グローバル化時代の日本
テッサ・モーリス=スズキ(Tessa Morris-Suzuki, 1951-)著
平凡社ライブラリー 2013年2月 本体1,500円 HL判並製356頁 ISBN978-4-582-76781-0

帯文より:この「ナショナリズム」は放置してよいのか?「歴史教科書問題」や「在特会」、「領土問題」、加熱するネトウヨ、批判的想像力の危機にむけた問題提起と考察は、いま、さらに切迫する! 解説=岩崎稔

カバー紹介文より:「歴史教科書論争」と「歴史主体論争」に介入し、この問題が、グローバリゼーションのなかで世界的に現出している状況の一類型にほかならないことを、鮮やかに示した現状診断。危機に瀕した批判的想像力を活性化させ、歴史を修正し、閉じた「われわれ」を立ち上げる欲望――虚無的ナショナリズムに抗すべく、粘り強くかさねられた思考。その思考と認識がいま、切実性を増して呼びかける!

★発売済。親本は2002年、平凡社刊。ライブラリー化にあたって、著者による「平凡社ライブラリー版へのあとがき」と、岩崎稔さんによる「停滞と循環の一〇年を超えるために――平凡社ライブラリー版の解説に代えて」が加わっています。著者はこの新しいあとがきで「人びとの国境を越える移動への恐怖が激しい外国人恐怖症(ゼノフォビア)に力をあたえている」(337頁)と書いています。先進国であるか否かにかかわらずこうしたゼノフォビアや排外主義は世界各地で猛威を増しつつあり、日本を含む東アジアでもその様相は変わりません。著者が住むオーストラリアも然り。帯文やカバー紹介文にある通り、本書で論じられたグローバル化時代の日本の諸問題はますます切迫しつつあります。「読み返してみて驚くのは、その批判の的確さや目配りの良さもさることながら、それがまさにいま現在進行していることを言い当てているということである」(343-344頁)と岩崎さんは述懐されています。

◎テッサ・モーリス=スズキ(Tessa Morris-Suzuki, 1951-)単独著既訳書
1991年11月『日本の経済思想――江戸期から現代まで』藤井隆至訳、岩波書店;2010年07月、岩波モダンクラシックス
2000年07月『辺境から眺める――アイヌが経験する近代』大川正彦訳、みすず書房
2002年05月『批判的想像力のために――グローバル化時代の日本』平凡社;2013年02月、平凡社ライブラリー
2004年08月『過去は死なない――メディア・記憶・歴史』田代泰子訳、岩波書店
2004年10月『自由を耐え忍ぶ』辛島理人訳、岩波書店
2007年05月『北朝鮮へのエクソダス――「帰国事業」の影をたどる』田代泰子訳、朝日新聞社
2007年09月『愛国心を考える』伊藤茂訳、岩波ブックレット

※このほか、とりわけ親書で出た2点の共著は特筆すべきかもしれません。『デモクラシーの冒険』(姜尚中共著、集英社新書、2004年11月)、『天皇とアメリカ』(吉見俊哉共著、集英社新書、2010年2月)。


共同研究 転向5 戦後篇 上
思想の科学研究会編
東洋文庫 2013年2月 本体3,400円 全書判上製528頁 ISBN978-4-582-80831-5

帯文より:戦後の民主化そのものが「転向」だったのか? それとも戦後左翼は民主主義革命から「転向」したのか? 厳しく問われる戦後思想(全6巻の5)。

版元紹介文より:『共同研究 転向』「戦後篇」は、1945年の敗戦以後の国家主義者から保守主義者・自由主義者まで、日本社会全体を覆う恥辱も罪意識も感じられない「自由な転向」をあぶり出す。

★発売済。戦後篇の上巻では、津久井龍雄、穂積五一、石川準十郎、東井義雄、石原莞爾、浅原健三、今村均、吉田満、柳田国男、白鳥義千代、蝋山政道、といった人々が取り上げられています。巻頭の論考「昭和二十年、二十七年を中心とする転向の状況」で藤田省三さんがいみじくも書いておられる通り、「戦後転向の研究は特殊なむずかしさを持っている。そのむずかしさの一つは、それが一定の上申書でもって国家権力に対して誓約するといった戦前の典型的な「獄内転向」のごときだれの目にも確かな客観的規格性をもていないということろから来ている」(17頁)。転向の問題はじっさいのところ、かたちを変えて今なお現実に進行しているように思います。政治的危機が深まれば深まるほど、知識人は転向していきます。転向がもはや問われていないように思える現代の状況は、知的誠実さという言葉が死語となって久しいこんにちの混乱期を象徴しているように思えます。

★最終配本となる『共同研究 転向』第6巻は来月(2013年3月)刊行予定とのことです。同時に、イザベラ・バードの『完訳 日本奥地紀行』第4巻も発売予定でこちらも全巻完結になります。
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by urag | 2013-02-11 23:17 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 02月 08日

本日搬入:江川隆男『超人の倫理』河出ブックス、など

弊社出版物の著者の皆さんの最近のご活躍をご紹介します。
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★江川隆男さん(訳著書:ブレイエ『初期ストア哲学における非物体的なものの理論』)
本日取次搬入の新刊『超人の倫理』を河出ブックスより上梓されました。江川さんの単独著は『死の哲学』(河出書房新社、シリーズ「道徳の系譜」、2005年)以来の久しぶりのものです。また、今回の新刊の論旨を簡潔に再説した論文「〈超人の倫理〉への前哨――非意志主義のために」を先月末発売の月刊誌『現代思想』2013年1月号(特集=ニーチェはこう言った)に寄稿されています(104-113頁)。

超人の倫理――〈哲学すること〉入門
江川隆男(1958-)著
河出書房新社 2012年2月 本体1,500円 B6判並製232頁 ISBN978-4-309-62453-2

カバー紹介文より:「人間一般」は存在しない。存在するのは個だけだ。その個のうちにしかない力から考え始めた時、あなたは超人になろうとしている。そして、哲学することは、道徳的ではなく、まさに倫理的であることであり、人間を拒絶して超人になることだ。スピノザ、ニーチェ、ドゥルーズの彼方にまったく新たな思考と身体をつくりだす、いままでの哲学入門書を裏切る新哲学入門。

目次:
はじめに
序論 超人への倫理
第一章 道徳〔モラル〕と倫理〔エチカ〕の差異
第二章 超人の身体
第三章 超人の認識
第四章 超人の原理
結論に代えて(実験としての超人)
あとがき

※『超人の倫理』と同じく本日取次搬入の河出ブックスの新刊には以下のものがあります。こちらの新刊でもニーチェが取り上げられており、ぜひ併読をお薦めしたいです。

ニーチェ――ニヒリズムを生きる
中島義道(1946-)著
河出書房新社 2013年2月 本体1,300円 B6判並製208頁 ISBN978-4-309-62452-5

カバー紹介文より:「誰の訳にも立たず、ほとんどの人を絶望させ、苛立たせ、(略)あらゆる『価値あるもの』をなぎ倒し……近・現代人とまさに正反対の価値観を高らかに歌い上げる」ニーチェへ――「明るいニヒリズム」の哲学者がニヒリズムの始祖ニーチェの哲学に真っ向から立ち向かいながら、哲学のおそろしさとよろこび、生の無意味と人間の醜さの彼方に「ヤー(然り)!」を見出すニーチェ論の決定版。真に「過酷なニーチェ」がここに甦る。

目次:
はじめに
第1章 神は死んだ
第2章 ニヒリズムに徹する
第3章 出来事はただ現に起こるだけである
第4章 人生は無意味である
第5章 「人間」という醜悪な者
第6章 没落への意志
第7章 力への意志
第8章 永遠回帰
あとがき

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★近藤和敬さん(著書:『カヴァイエス研究』)
金森修さんの編著書『エピステモロジー』に寄稿されています。同じく金森さんの編著書『エピステモロジーの現在』(慶應義塾大学出版会、2008年11月)という既刊書では「カヴァイエスと数学史の哲学――〈時間の外にある真理の歴史性〉というパラドックス」という論文を寄稿されていました。今回はグランジェ論を書かれています。

エピステモロジー――20世紀のフランス科学思想史
金森修(1954-)編著
慶應義塾大学出版会 2013年1月 本体6,500円 A5判上製512頁 ISBN978-4-7664-2005-0

版元紹介文より:進化しつづける科学哲学の未来。近年紹介されるようになってきた、カヴァイエス、グランジェの記号論、ヴュイユマンの代数学の哲学からドゥルーズ、ベルクソンまで、日本における科学哲学研究の深化を力強く感じさせる、フランス現代哲学研究者必読の一冊。日本のエピステモロジー(フランス科学哲学)研究におけるトップランナーである編者が、次世代のすぐれた研究者を集め、最新の研究成果を発信。とくにエピステモロジーが急速に進化した20世紀を中心に、その展開を俯瞰できるような構成に編集。

目次:
序論 〈客観性の政治学〉(金森修)
第1部 〈沈潜〉の諸相
 第1章 グランジェの科学認識論――「操作‐対象の双対性」、「形式的内容」、「記号的宇宙」(近藤和敬)
 第2章 ヴュイユマンにおける〈代数学の哲学〉――ガロア理論から操作・作用の存在論、構造分析の方法論へ(原田雅樹)
 第3章 数学のエピステモロジーと現象学――カヴァイエス以降の一系譜(中村大介)
第2部 〈拡散〉の諸相
 第4章 交錯するエピステモロジー――ドゥルーズという一つの事例から(米虫正巳)
 第5章 生命哲学の岐路――ベルクソンとドゥルーズにおける形而上学・科学・政治(藤田尚志)
 第6章 ゾラと科学――倫理的神秘主義の視座から(林田愛)
解題(金森修)
事項索引
人名索引

+++

さて、近日発売となる『中央公論』2013年3月号では毎年恒例の「新書大賞 2013」が発表されています(152-183頁)。内容は、「新書通六九人が厳選した年間ベスト10」、「大賞受賞インタビュー『社会を変えるには』」(小熊英二)、「社会と同様、方向感を失った2012年――過渡期の新書界、読むべき本は」(対談:永江朗×宮崎哲弥)です。私、小林も例年通り投票させていただきました。毎月10日発売ということで、いちおう発売前なので大々的なネタバレはやめるとして、年間ベスト10(20位までランクが出ています)のうちのベスト3は、次の通りです。

1位『社会を変えるには』小熊英二、講談社現代新書
2位『田中角栄』早野透、中公新書
3位『日本近代史』坂野潤治、ちくま新書

私が寄稿したコメントは1位(大賞)の『社会を変えるには』と、18位の『知の逆転』(ジャレド・ダイアモンドほか、NHK出版新書)に採用していただきました。私が投票する本はだいたい毎年、絶対に1位ではない本なので、いつもは「熱き少数意見」に分類される方なのですが、今年はさすがに小熊さんの復帰書き下ろし作に注目が集まったということなのでしょうか。ちなみに参加者は一人当たり5点を推薦しており、私の場合、上記2点のほかのあと3点は、『私とは何か』(平野啓一郎、講談社現代新書)、『まんが トキワ荘物語』(手塚治虫ほか、祥伝社新書)、『お化け屋敷になぜ人は並ぶのか』(五味弘文、角川oneテーマ21)でした。
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by urag | 2013-02-08 17:18 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2013年 02月 07日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2013年4月12日(金)オープン
谷島屋マークイズ静岡店:図書250坪
静岡県静岡市葵区柚木191 MARK IS 静岡 2F
日販帳合。営業時間は10時から21時。弊社へのご発注は写真集と人文書を数点。4月12日にオープンする「MARK IS 静岡(マークイズしずおか)」の2Fに出店。マークイズ静岡は三菱地所グループの商業施設。JR東静岡駅より徒歩三分の立地で、地区最大規模のSCとなり、谷島屋をあわせて約140店舗が入居します。谷島屋は静岡県内に現在18店舗を展開。

代表取締役社長の斉藤行雄さんのお名前がある挨拶状によれば、今回の新規店は「弊社が創業140年を迎え「明治5年創業の老舗がつくる全く新しい書店〈BOOK SELECTION STORE〉」をコンセプトに新たな書店づくりを目指しております。全社のノウハウを結集して各ジャンルでの商品セレクトはもちろんのこと、雑誌・書籍の区別や版型にとらわれない編集力を駆使したVMDを実現いたします。また、店舗内には「書斎-SHOSAI」を設け、非日常の空間の中で時代を感じ・考える時間を持ち・自分を見つめる本との出会い、本と語り合える場をつくりたい」とのことです。VMDというのはヴィジュアル・マーチャンダイジングのこと。もともとはアパレル業界で熱心に研究されていた手法ですが、書店空間の設計においても外観から内装、什器や商品陳列まで、他支店と同様の金太郎飴的なつくりには「しない」ということが、出版業界でも意識されてきているということですね。

1000坪規模の「超大型店」か、VMDを駆使した「セレクトショップ」か、あるいはCD・DVDのレンタルおよびセル、ゲーム、文具雑貨、カフェやイベントスペースなどを併設した「複合店」か。このところの新規店の傾向は大まかに言ってこの三つですが、チェーン店の新規支店は「セレクトショップ」をますます志向するようになってきていると思います。

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このほかのオープン情報では、いわゆる小売店ではないのですが、ヨドバシカメラの通販サイトyodobashi.comが書籍を扱うようになるため、同社の川崎の倉庫「アッセンブリーセンター川崎」にて今月から書籍の取り扱いが始まります。帳合は大阪屋。弊社の人文書と芸術書の主力商品約40点の発注がありました。ヨドバシカメラのコンピュータ商品事業部、須崎部長のお名前のある挨拶状によれば、「弊社ではネット事業における書籍のさらなる拡売を図るべく、弊社物流センターのYAC川崎にて在庫を取り扱うこととなりました。お客様のご要望にお答え(原文ママ)すべく、一般書籍・文庫・新書・コミックスを取り揃えてまいります」とのことです。わが社にも発注があったということは一般書だけでなく、専門書も一部取り扱うということなのだろうと思います。

日経新聞2012年12月29日付記事「書籍、無料で当日配送 ヨドバシがネット通販――アマゾンに対抗」によれば、「全国の主要都市圏で注文当日の無料配送を実現。大型書店の品ぞろえに匹敵する70万タイトルを扱う。書籍を主力にネット通販最大手となった米アマゾン・ドット・コムに対し、日本での対抗勢力となることを狙う」とのことです。インターネットウォッチ2013年1月18日付記事「ヨドバシカメラがコミック通販開始、送料無料で一部当日配送も」でも取り上げられており、「同店の買い物に利用できる「ゴールドポイント」を3%還元する。/ヨドバシ・ドット・コムでは約8万5000タイトル、店頭では約7万8000タイトルを販売する。オンラインの注文は全品送料無料。配送希望日も指定できる。東京、横浜市と川崎市を中心とした神奈川県主要部、大阪、京都、神戸の周辺地域は、注文当日に無料配送する。/すでに提供中のスマートフォン用アプリやKindle用アプリ「ヨドバシ」を通じて注文したり、価格や商品レビューの参照、リアルタイムな店舗在庫検索、店舗受け取りの申し込みも行える。/店舗はマルチメディア梅田、マルチメディア吉祥寺、マルチメディア川崎ルフロンで取り扱い、3月末までにマルチメディア横浜、マルチメディア博多、マルチメディア札幌、マルチメディア仙台でも販売する予定」と報道されています。

記事にはアマゾンに対抗とありますが、品数はそれでもアマゾンの方が多いので、実質的に今回の参入で緊張が走るのは、セブンネット・ショッピングや楽天ブックス、hontoといったアマゾンに次ぐ勢力ではないかと思います。大阪屋としても、ブックファーストを失う分の売上が必要なわけで、これには大いに力を注いでいることだろうと推測できます。
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by urag | 2013-02-07 18:39 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)