<   2012年 09月 ( 13 )   > この月の画像一覧


2012年 09月 30日

注目新刊:『世界きのこ大図鑑』東洋書林、ほか

a0018105_2112146.jpg

原色原寸 世界きのこ大図鑑
ピーター・ロバーツ+シェリー・エヴァンス著 斉藤隆央訳
東洋書林 2012年10月 本体18,000円 B5変型判上製フルカラー656頁 ISBN978-4-88721-799-7

版元紹介文より:森の小人に月下の異人が600種!「きのこ――魅惑の国に住む、摩訶不思議な生きものたち」(飯沢耕太郎)。「自然循環を支えてくれる偉大な生命体!」(福岡伸一)。「きのこは食欲、知識欲、芸術欲を刺激する!」(奥田徹)。600種を〈原色・原寸〉で紹介。索引項目、和名720・学名1550。名称・食用等の民俗的挿話多数。

原書:The Book of Fungi, The Ivy Press, 2011.

目次:
日本版序文
まえがき
はじめに
概説
 「きのこ」とは何か
 植物や動物のパートナー
 自然界のリサイクル屋
 有害生物と寄生生物
 食物、民間信仰、医薬
 分布と保護
 きのこの採取と同定
 目的のきのこを見つけるために
図鑑
 ハラタケ類
 イグチ類
 サルノコシカケ類、コウヤクタケ類、およびキクラゲ類
 ハリタケ類、アンズタケ類、およびホウキタケ類
 ホコリタケ類、ツチグリ類、チャダイゴケ類、およびスッポンタケ類
 チャワンタケ類、アミガサタケ類、トリュフ類、核菌類、および地衣類
付録
 用語解説
 参考資料
 菌類の分類
 索引(和名索引/学名索引)
 参考文献・図版出典

★まもなく発売。大判フルカラーの、見る者を圧倒させる「きのこ全書」です。英語版原書はオンライン書店で5000円以下で買えますが、やはり日本語版は必須ですし、学術専門書に比べれば、フルカラーでこの値段はむしろお得なほど。色とりどり、形も多種多様で、エイリアン図鑑でも見ているかのような迫力。視覚的に優れたレイアウトと分かりやすく簡潔な説明で、大人から子供まで一緒に楽しめます。友人、知人にも見せたくなること請け合いです。蛇足ではありますが、ジョン・ケージや南方熊楠のファンの方もぜひ手に取ってみてください。以下の写真は本書の内容見本パンフです。
a0018105_12245831.jpg

★東洋書林さんではかつて、シュルテス+ホフマン+レッチュ『図説 快楽植物大全』(鈴木立子訳)を2007年1月に刊行されています。また、来月(2012年11月)には、飯沢耕太郎さんによる『フングス・マギクス――精選きのこ文学渉猟』が発売予定だそうです。


a0018105_212053.jpg

マザリナード――言葉のフロンド
クリスチアン・ジュオー(Christian Jouhauld, 1951-)著 嶋中博章・野呂康訳
水声社 2012年10月 本体5,000円 A5判上製376頁 ISBN978-4-89176-919-2

帯文より:叫ばれ、ばら撒かれる、言葉のパフォーマンス! 17世紀に生じたフランスの内戦、その名もフロンド。この間、5,000にも及ぶ文書〈マザリナード〉が縦横無尽に飛び交う――文芸が政治行為をテクスト化し、街は劇場となり、言葉の闘争が繰り広げられる。噂の政治利用、操作、プロパガンダ、説得……。政治における〈行為〉と〈行為者〉に着目し、フロンドの乱の歴史記述に新たな地平を開く。

原書:Mazarinades: La Fronde des mots, Aubier-Flammarion, 1985/2009.

目次:
二十年後
序文
謝辞
序章
第一章 マザリナード
第二章 短い時間と長い時間――パリの噂
第三章 記述行為〔エクリチュール〕から読書行為〔レクチュール〕へ――テクストの作成と受容
第四章 プロパガンダと行為
第五章 マザリナードとフロンドの祝祭
第六章 革命志向?
第七章 楡の木党
第八章 連鎖状況
結論に代えて
原註
訳註
マザリナード関連年表
主要参考文献
マザリナード一覧
歴史用語原語訳語対照表
人名索引
事項索引
言葉の森のアリアドネ――『マザリナード 言葉のフロンド』の論点と射程(嶋中博章)

★10月03日頃発売予定。日本版独自編集の論文集『歴史とエクリチュール――過去の記述』(嶋中博章・杉浦順子・中畑寛之・野呂康訳、水声社、2011年11月)に続く、フランスの歴史学者ジュオーの著書の翻訳第二弾です。二冊目ではありますが、『マザリナード』は1985年にジュオーが上梓したデビュー作で、近年、新しいまえがき「二十年後」が付されて再刊されました。1985年版の謝辞にはロジェ・シャルチエ(1945-)らの名前があがっており、序文は歴史家ドニ・リシェ(1928-1988)が寄せています。

★17世紀フランスで勃発した内戦「フロンドの乱」の名前は世界史の授業で聞いた覚えがあっても、その時期に大量に書かれたパンフレット「マザリナード」については知らないし覚えていない、という方が多いかもしれません。リシェの序文の言葉を借りると「マザリナード」とは「1648年から1652年にかけて印刷され、ばら撒かれ、読まれ、そして小間物行商人によって街路や公共の広場で叫ばれ、フランス王国内の都市から都市へと伝えられた、およそ五千ものパンフレ」ットのこと。リシュリューの後継者として権勢を振るったイタリア出身の枢機卿ジュール・マザラン(1602-1661;ジュリオ・マッツァリーノ)への誹謗文書をはじめとする多様な資料体です。

★マザリナードにおける「噂の政治利用、操作、行為〔アクシオン〕におけるプロパガンダの役割、説得の仕方、テクストで繰り広げられる見世物〔スペクタクル〕と、見世物におけるテクストの影響力、情報のトリックと自意識へのその逆説的な効果、急進主義、集団行動、そして主観性など」といった事例における、「出来事の特異性とこの世紀の情念、エクリチュールと行為-作用〔アクシオン〕、読解のプログラミングと信仰の操作、これら全てを一望の下に置くことで、マザリナードの機能の仕方を明らかにしたい」(42頁)と、ジュオーは序章に書いています。資料から歴史の多様な綾を凝視しようとするジュオーの筆致に迫力を感じます。

★マザリナードの文書群は、日本では東京大学でもコレクションがあります。一丸禎子さんによる紹介記事「マザリナード文書の公開に先立って―その特性と東京大学コレクションを紹介する」をご参照ください。


危機の詩学――ヘルダリン、存在と言語
仲正昌樹著
作品社 2012年9月 本体6,800円 A5判上製656頁 ISBN978-4-86182-401-2

帯文より:詩は“私たち”と“世界”を変革できるのか? 〈神=絶対者〉が隠れた、この闇夜の時代。ツイッター、ブログ、SNS……、加速する高度情報化社会。ますます言葉は乏しく、存在は不在となる。「私」にとっての思考と創造の源泉、現代思想の根本問題=〈言語〉の難問を抉り、世界の主体の再創造を探求する記念碑的大作!

目次:
「危機の詩学」への前書き
まえがき(旧版)
序章 ポスト・モダンとネルダリン
I章 ヘルダリンの危機意識と近代合理主義
II章 ドイツ観念論とヘルダリンの〈根源〉の思想
III章 ヘルダリンの言語哲学
IV章 ハイデガーのヘルダリン解釈をめぐって
V章 ヘルダリンのドイツ性と祖国的転回
VI章 ヘーゲルとヘルダリン
終章 〈近代〉の限界をヘルダリン

主要・参考文献
補論 哲学にとっての母語の問題――ハイデガーのヘルダリン解釈をめぐる政治哲学的考察
後書きにかえて――ヘルダリンを読む意味
索引

★おととい28日に取次搬入され、明日10月日以降より順次店頭発売開始となる新刊です。もともとは1996年に提出された博士論文で、4年後の2000年に『〈隠れたる神〉の痕跡――ドイツ近代の成立とヘルダリン』として世界書院から刊行されていました。この旧版では注と図が省略されていましたが、今回の改題新版では、注と図を復活させ、誤記をあらため、必要最小限の訂正といくつかの加筆が施されています。新たな前書きと後書き、そして補論として2009年の論文が追加されています。12年前の初版本は税込8400円でしたが、それより今回の新版の方が断然安いことにも驚きます。

★新版への前書きの末尾には「本書がヘルダリン研究、ひいては、ハイデガーやアドルノ、ポール・ド・マン等の独自の「文学」論に対する、多様な関心を喚起する一つの契機になれば幸いである」とあります。弊社が訳書を今月刊行したド・マンの『盲目と洞察』も、原書で参照されています。

★なお、作品社さんの人文書続刊予定では、ヘーゲル『大論理学1 存在論』(山口祐弘訳)や、マルクス『新訳 初期マルクス』(的場昭弘訳)などが予告されています。同じく作品社さんから今月刊行された外国文学新刊2点も以下にご紹介します。

a0018105_2124228.jpg

誕生日
カルロス・フエンテス(Carlos Fuentes, 1928-2012)著 八重樫克彦・八重樫由貴子訳  
作品社 2012年9月 本体1,800円 46判上製176頁 ISBN978-4-86182-403-6

帯文より:過去でありながら、未来でもある混沌の現在=螺旋状の時間。家であり、町であり、一つの世界である場所=流転する空間。自分自身であり、同時に他の誰もである存在=互換しうる私。目眩めく迷宮の小説! 『アウラ』をも凌駕する、メキシコの文豪による神妙の傑作。


老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る
ロバート・クーヴァー(Robert Coover, 1932-)著 斎藤兆史・上岡伸雄訳  
作品社 2012年9月 本体2,800円 46判上製448頁 ISBN978-4-86182-403-6

帯文より:晴れて人間となり、学問を修めて老境を迎えたピノッキオが、故郷ヴェネツィアでまたしても巻き起こす大騒動! 原作のオールスター・キャストでポストモダン文学の巨人が放つ、諧謔と知的刺激に満ち満ちた傑作長篇パロディ小説!

訳者あとがき(434頁)より:二十世紀末のある冬の晩、一人の老人がヴェネツィアのサンタ・ルチア駅に降り立つ。カルロ・コッローディの名作童話『ピノッキオの冒険』(1883年出版)の主人公、ピノッキオである。彼は青い髪の妖精の言いつけを守り、いい子になった褒美として人間の子になってから、禁欲的に学問の道を歩んできた。そして西洋文化と思想の研究で数々の業績を上げ、二度もノーベル賞を受賞し、百歳を超えて故郷ヴェネツィアに戻ってきたのである。旅の目的は、人生の締めくくりとして自分の人生を振り返り、特に妖精との関係を見つめ直して、自伝の最後の章を書き加えること。ところが、ピノッキオは到着早々、『ピノッキオの冒険』にも登場する狐と猫に騙され、身ぐるみはがされてしまう……。

★どちらも発売済です。フエンテスは言うまでもなく、メキシコ生まれの作家で20世紀のラテンアメリカ文学界の巨人ですが、惜しくも2012年5月15日に亡くなっています。『誕生日』(原題:Cumpleaños)は1969年の小説作品で、巻末の40頁を超える「訳者解説」の冒頭には次のように紹介されています。「〔本書と〕同じく初期の作品群に属する代表作のひとつ『アウラ』と同等、もしくはそれをはるかにしのぐ傑作とまで言われながらも、難解きわまり内ことで知られ、これまでほとんど話題に挙がったことはない。スペイン語圏の文学者たちのあいだですら完全に理解するのは至難の業と敬遠され、研究テーマとして取り上げられることも他の作品に比べて極端に少ない」(123頁)。

★いっぽうクーヴァーですが、こちらも言わずと知れた、アメリカのポストモダン文学を代表する小説家として高名です。同じくポストモダン文学に分類される30年代生まれの作家にはジョン・バース(1930-)やドナルド・バーセルミ(1931-)、ドン・デリーロ(1936-)やトマス・ピンチョン(1937-)らがいます。『老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る』は1991年の作品。古典作のいわゆるパロディですが、本作におけるピノッキオの顛末と言ったら……。なるほど、木なだけに、棒がもう一本増えるのですね。

a0018105_213133.jpg

アート・ヒステリー――なんでもかんでもアートな国・ニッポン
大野左紀子(おおの・さきこ:1958-)著
河出書房新社 2012年9月 本体1,500円 46判並製272頁 ISBN978-4-309-02133-1

帯文より:「何なの? これ」「アート」「え、こんなことやっていいの?」「うん、だって、アートだから」。『アーティスト症候群』から4年、「アート」の名の下にすべてが曖昧に受容される現在を、根底から見つめ、その欲望を洗い出す。

版元紹介文より:「これマジでアートだね!」……やたらと「アート」がもてはやされる時代=「一億総アーティスト」時代。アート礼賛を疑い、ひっくり返すべく、歴史・教育・ビジネスから「アート」を問う。

目次:
はじめに――アート島から漕ぎ出して
第一章 アートがわからなくても当たり前
第二章 図工の時間は楽しかったですか
第三章 アートは底の抜けた器
おわりに
あとがき

★先週発売開始の新刊です。担当編集者のTさんによれば、本書は「こんな人に読んでほしい!」そうです。――1:互いの作品を批判せずなんとなく褒め合っているガラスのハートの美大生。2:「個性と創造性が重要」と「図工って何の役に立つの?」の間で困っている先生たち。3:「アートは希望」「今こそアートの力が必要とされている」と訴えたい業界回りの人。4:「普通」を選んでいるにもかかわらず「ちょっと謎めきたい願望」を抱く社会人。

★著者の大野さんは東京芸大の彫刻科を卒業された方で、現在大学や専門学校で非常勤講師を務めていらっしゃいます。河出書房新社さんでは大野さんの『アーティスト症候群――アートと職人、クリエイターと芸能人』(明治書院、2008年)を昨年7月に河出文庫として再刊されています。今回の新刊は、「「これこそアートだ」「いやこっちこそアートと呼ぶにふさわしい」という“神輿”の奪い合いであった近・現代のアートの歴史」すなわち「アート・ヒストリーならぬアート・ヒステリー」(9頁)を扱うものです。「この本は第一に「アートがわからなくても当たり前」ということを解き明かす本です。第二に、“アート・ヒステリー”について分析し、「アート(芸術)=普遍的に良いもの」という通念に取り憑いているものを落とす本」(10頁)とのことです。

★河出さんのアート系の来月新刊には、10月22日発売予定の『アートで見る医学の歴史』(ジュリー・アンダーソン/エマ・シャクルトン/エム・バーンズ著、矢野真千子訳)があります。「美術品から書籍、工芸品まで、膨大なコレクションから厳選された究極の医学図集。解剖学、病理学、薬学など、数千年の医学史を400点以上の図版でたどる」ものだそうで、面白そうですね。

★また、古典の新訳では、9日発売の河出文庫でニーチェ『喜ばしき知恵』(村井則夫訳)、12日発売の単行本で。ボッカッチョ『デカメロン』(平川祐弘訳)が予告されています。 平川さんはダンテの『神曲』(全三巻、河出文庫)などの訳書があるだけでなく、今春『新生』の新訳も刊行されています。


書店の棚 本の気配
佐野衛著
亜紀書房 2012年9月 本体1,680円 四六判上製200頁 ISBN978-4-7505-1223-5

帯文より:本が本を呼び、本が棚を呼び、棚が書店をつくる。理想の書店とは? 読書の醍醐味とは? 30年の書店暮らしから見えてきた本と書店をめぐる体験的エッセイ集。 

目次:
Ⅰ 本の声を聴く――書店の棚の広がり
Ⅱ 二〇〇九年から二〇一〇年の日録
Ⅲ 本をめぐる話――書店は誰のものか
Ⅳ 東京堂書店店長時代
Ⅴ 本とわたし――経験は読書
あとがき

★発売済。実に20年ぶりとなるご高著の刊行です。佐野さんの書店論、書棚論、流通論、出版論、読書論ならばぜひとも業界人は読まねばなりません。義務とか義理ではなく、長年読者から信頼されてきた「東京堂」の店頭に立ちつづけたご苦労の経験から学ぶことは文字通り山ほどあるからです。本書ではそうした議論とは別に、第II章の日録と、第IV章の店長時代という、生々しい記録も読むことができます。むろん波風の立つようなことは書かれていませんが、版元も作家もすべて実名ですから、業界人としては本を持つ手が緊張でこわばるところではございますね。

◎佐野衛(さの・まもる:1947-)さんの既刊書

1985年10月『思考理論およびその哲学的考案』インパクト出版サービス
1990年11月『装置と間隙――全体は部分を超えられない』インパクト出版会(発売=イザラ書房)
1991年08月『推理小説はなぜ人を殺すのか』北宋社;2000年11月、新装版、北宋社
1992年04月『世紀末空間のオデュッセイア』北宋社
2012年09月『書店の棚 本の気配』亜紀書房
[PR]

by urag | 2012-09-30 23:06 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 26日

ド・マン『盲目と洞察』が東京堂で週間ランキング8位

a0018105_18522061.jpg

先週発売開始のポール・ド・マン『盲目と洞察』が、東京堂書店神田神保町本店さんで週間売上総合ランキング8位に入りました。先月発売のアガンベン『到来する共同体』が8位をいただいた時よりランクインが早いようで驚いています。東京堂さん、いつもありがとうございます!

リアル書店では、大型店を中心に追加のご発注もいただいていますが、弊社の在庫はまだ余裕があるので、冊数調整なく納品させていただいています。いっぽう、利用されるお客様の多いネット書店の件ですが、アマゾン・ジャパンさんの在庫状況は改善されつつあります。発売開始以来、hontoさんの方が「24時間以内」の発送で、安定供給していらっしゃいます。

ちなみに週間ランキングの第1位は東京堂さんの前店長、佐野衛さんの『書店の棚 本の気配』(亜紀書房)です。業界人必読ですね。
[PR]

by urag | 2012-09-26 18:53 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 23日

注目新刊:『ナバテア文明』作品社など

a0018105_22524986.jpg

ナバテア文明
ウディ・レヴィ(Udi Levy, 1952-)著 持田鋼一郎訳
作品社 2012年9月 本体3,200円 A5判上製258頁 ISBN978-4-86182-400-5

帯文より:「新・世界七不思議」の一つペトラ遺跡の初の本格紹介! BC3~AD9世紀、ユダヤ王国に隣接し、砂漠に壮麗な神殿を残して消えた謎の文明。姿なき神から人格神の形成へ、インドとの交流、ギリシャ・ローマ文化の影響など歴史的・文化史的意義を解明する。図版69点収録。

原書:The Lost Civilization of Petra, Floris, 1999.

目次:
序文
第一章 忘れられた文明への接近
第二章 羊飼い、王、十字架――民族の発展の段階
第三章 ナバテアの宗教とその変容
第四章 ナバテア芸術の言語
第五章 遊牧民から農民へ
第六章 ナバテア人とユダヤ人――対照的な隣人同士
第七章 ペトラ――祭司と王の都
第八章 シブタ――教会と貯水槽の都市

解説――ペトラの失われた文明
原注
参考文献
付録
索引

★まもなく発売、24日取次搬入予定の新刊です。ナバテア文明やペトラ遺跡の名前は知らなくても、映画「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」で出てきた、岩の回廊を抜けた先にある壮麗な石造りの神殿を目にした方は多いのではないかと思います。あの建造物は宝物殿(アル・カスネー・ファルン)と言い、ヨルダンのペトラ遺跡の一部です。このペトラ遺跡こそは紀元前に交易で栄えた砂漠の要衝「ナバテア王国」の痕跡で、世界遺産に登録されており、いまなお全容が解明されていないことから「新・世界七不思議」のひとつに数えられています。

★本書はもともとドイツ語で96年に刊行され、99年に実質的な増補改訂版である英語版が刊行されます。英語版は著者自身が訳したものではありませんが、日本語訳にあたってはドイツ語版を参照しつつ、著者の要望により底本には英語版を使用しています。この失われた文明についての包括的な解説本は、日本では初めてのもので、たいへん貴重です。多数のカラー写真はナバテア文明が過酷な自然環境の中で繁栄したことの奇跡を物語っています。それは優れた灌漑技術によって実現されたものでした。「ナバテア」はなるほど「水を掘る人」を意味するアラム語(アラマイ語)だそうです。訳者が教えるように、本書の見どころは、ナバテア土着のドゥシャラ信仰と初期キリスト教との関係を探っていくところです。地中海のほぼ全域からインドまでの広域で活動したナバテア人の謎が解き明かされるのはいよいよこれからのようです。


a0018105_22524946.jpg

ベンヤミン・コレクション(6)断片の力
ヴァルター・ベンヤミン著 浅井健二郎編訳 久保哲司・岡本和子・安徳万貴子訳
ちくま学芸文庫 2012年9月 本体1,800円 文庫判並製704頁 ISBN978-4-480-09464-3

帯文より:知られざる創作世界から『パサージュ論』誕生の舞台裏まで。
カバー裏紹介文より:「叙述の輝きは思考細片の価値にかかっている」とベンヤミンは言う。〈これが青年期の思考だ〉と叫んでいる形而上学。第一次世界大戦の勃発直後に自殺した親友に捧げるソネット群。旅の途上の夢想に紡がれた小品群。夢や思い出、ふと心に浮かぶ想念から生まれ出た物語群。亡命の前年に運命の島イビサで綴られた、ベルリンでの幼年期から青年期までを回想する手記――。本書では、ベンヤミンの特異な〈断片〉概念が織り成す多様な言語表現を立体的に構成。謎に包まれた『パサージュ論』の生成過程を明かす、邦訳初公開の覚書集三篇が注目される。待望の新編・新訳アンソロジー第六弾。

目次:
〔アフォリズム集〕
〔ケンタウロス〕
〈青春〉の形而上学
ソネット集
〔〈心象〉風小品集〕
〔物語/お話集〕
ベルリン年代記
〔『パサージュ論』初期覚書集〕
解説

★発売済。晶文社版著作集のほとんどが品切になっているこんにち、ちくま学芸文庫の一連の訳書はベンヤミン再読のための重要な、欠くべからざる足がかりです。現在『ドイツ悲劇の根源』上下巻と『ドイツ・ロマン主義における芸術批評の概念』が品切になっていますが、持っていない読者は再版を待ちましょう。弊社より先月刊行したアガンベン『到来する共同体』の第13章「光背」ではベンヤミンの1932年のエッセイIn der Sonneが参照されており、これの翻訳は今まで「日を浴びて」(藤川芳朗訳、『ヴァルター・ベンヤミン著作集(11)都市の肖像』所収、晶文社、1975年、147-152頁)を数えるのみだったのですが、今回発売された第6巻では「日の照りつけるなかを」(浅井健二郎訳、234-241頁)として新訳を読めるようになりました。ハシディズムの来世観、メシアの王国をめぐる寓話について言及した一節をアガンベンは引いています。ショーレムからベンヤミン、ベンヤミンからブロッホへ、そして三者からアガンベンへ。星座は連なっていきます。


資本論――経済学批判 第1巻 IV
カール・マルクス著 中山元訳
日経BPクラシックス 2012年9月 本体2,100円 4-6変型判上製512頁 ISBN978-4-8222-4881-9

帯文より:解き明かされる資本主義発生の秘密! 資本の原初的な蓄積、相対的過剰人口、産業予備軍、資本の有機的構成。「労働者階級のこの病人層と産業予備軍が大きくなればなるほど、公的な婦女をうける貧困層も増加する。これが資本制的な蓄積の絶対的な一般法則である」(第23章「資本制的な蓄積の一般法則」。

版元紹介文より:カール・マルクス(1818-1883)が生前に出版された第1巻の最終分冊。『資本論』のなかで最も有名な「第24章いわゆる原初的な蓄積」を含む「第7篇 資本の蓄積過程」の第21章から第25章までを収録する。「第1章 商品」から展開されたマルクスの論理は、1)貨幣がいかにして資本に変容するか。2)資本によっていかにして増殖価値が生み出され、増殖価値からいかにして、さらに多くの資本が生み出されるか。――を考察してきた。ここでは、資本主義(マルクスの用語では、資本制的生産様式)の出発点となる資本の原初的な蓄積の歴史を詳述する。圧巻は「第23章資本制的な蓄積の一般的過程」。特に第5節「資本制的な蓄積の一般法則の例示」では、イギリスの資本主義を支えた産業労働者の貧困化について熱い思いをこめて叙述している。

目次:
第7篇 資本の蓄積過程
 第21章 単純再生産
 第22章 増殖価値の資本への変容
 第23章 資本制的な蓄積の一般法則
 第24章 いわゆる原初的な蓄積
 第25章 現代の植民理論

★発売済。全四分冊完結のはずですが、帯の背に「圧巻の第1巻「エピローグ」」とあるほかは特に謳い文句はありません。訳者あとがきも、第一分冊と第二分冊にはありましたが、第三分冊と今回の第四分冊はなし。短いあとがきでは説き尽くせないというのが本当のところでしょうか。周知の通り、マルクス自身が仕上げを終えた『資本論』は第一巻(1867年)のみで、第二巻と第三巻は未完成の遺稿をエンゲルスが編集したものです。今回の新訳の底本は1890年の第四版。「労働力の販売条件が、労働者にとって有利なものであろうと不利なものであろうと、そこには労働力をたえず販売し直す必然性と、たえず拡大する資本という富を再生産する必然性が含まれている」(141-142頁)。資本主義の終わらない連鎖の彼方に、ロシアや中国とは違う形式のコミュニズムは本当に到来するでしょうか。マルクスは人間が「自分の手で作りだしたものに支配される」(146頁)ことを指摘しつつ、そうした歴史を人間自身の手で作り変えていけるのだということを信じていたように思えます。私たちもまた、信じて行動するほかはないのでしょう。


a0018105_22535084.jpg

通過儀礼
ファン・ヘネップ著 綾部恒雄・綾部裕子訳
岩波文庫 2012年8月 本体940円 文庫判並製374頁 ISBN978-4-00-342191-8

カバー紹介文より:ファン・ヘネップ(1873-1959)は、儀礼を初めて体系的に論じた。誕生から死までの折々の儀礼、入会の儀礼などを、分離・過渡・統合の過程をたどる通過儀礼の視点で捉えた。特に過渡期という境界状況の考察は、コミュニタス理論など後の人類学の理論的展開の基盤となった。儀礼研究の出発点にある人類学の古典。(解説=綾部真雄)

目次:
序言
第一章 儀礼の分類
第二章 実質的通過
第三章 個人と集団
第四章 妊娠と出産
第五章 出生と幼年期
第六章 加入礼
第七章 婚約と結婚
第八章 葬式
第九章 その他の通過儀礼
第十章 結論
原注
民族=部族名訳注

訳者あとがき
〔解説〕儀礼研究受難の時代――「通過」概念の汎用性をめぐって(綾部真雄)
人名索引/事項索引

★発売済。原書は1909年に刊行されたLes rites de passageで、親本は弘文堂から1977年6月に「人類学ゼミナール」の一冊として刊行され、その後、1995年3月に「Kobundo Renaissance」の一冊として再刊されています。巻末の編集付記によれば、「文庫化にあたって、訳者による解説を割愛し、新たな解説を加えた。また、適宜、小見出しを付した。〔 〕は訳者による注である」と特記されています。新たに付された綾部真雄さんによる解説「儀礼研究受難の時代――「通過」概念の汎用性をめぐって」には、「本書の翻訳をおこなったのは解説者の良心であるが、父親は既に他界している。岩波文庫への再録にあたって、儀礼研究の現状を踏まえて新たな解説を書き下ろすことになり、同じく人類学の途を歩むこととなった息子に襷が渡された。翻訳者の意図を正しく組めていることを願う」(352頁)とあります。

★同書は弘文堂版と前後して思索社版が1977年7月に刊行されました。A・V・ジェネップ『通過儀礼』(秋山さと子・彌永信美訳、思索社、1977年)です。こちらは1999年2月に「新思索社」から再装版(第2版)が刊行されており、現在も版元ウェブサイトでは扱いがあるようですが、ネット書店や店頭で見なくなっていることから想像すると、版元在庫僅少ないし品切なのかもしれません。岩波文庫版だけでなく、この新思索社版も併せて読むと、いっそう理解が進むと思います。訳語の違いなど、色々学ぶところがありました。
[PR]

by urag | 2012-09-23 22:53 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 21日

来月新刊(2012年10月):森山大道写真集『モノクローム』

2012年10月16日取次搬入予定 *芸術・写真

モノクローム
森山大道写真集
月曜社 2012年10月刊 本体4,600円 B5判(タテ257ミリ×ヨコ183ミリ)、ソフトカバー装312頁(ダブルトーン:190点)、ISBN978-4-901477-99-4

円熟という境地から遠く離れた、ストレートにして自在なフレーミング。4年にわたって撮り続けた東京を、白と黒=光と影に結晶させた最新作。[装幀:大竹伸朗+小関学]

森山大道(もりやま・だいどう)1938年生まれ。最近の作品集に『Bye Bye Photograph』(講談社、2012年9月)、『カラー』(月曜社、2012年4月)などがある。来月2012年10月よりロンドンのテート・モダンで『カラー』を含む大規模な展覧会が予定されている(ウィリアム・クラインとの二人展)。

◎森山大道写真集*既刊書
『ハワイ』07年7月刊、本体6,000円
『にっぽん劇場』09年9月刊、本体3,200円
『何かへの旅』09年9月刊、本体3,600円
『オン・ザ・ロード』11年7月刊、本体2,800円
『カラー』12年4月刊、本体4,600円

品切書目
『新宿』02年8月刊
『NOVEMBRE』04年6月刊、フォトボックス限定1500部
『新宿+』06年11月刊
『大阪+』07年6月刊
[PR]

by urag | 2012-09-21 11:07 | 近刊情報 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 20日

弊社出版物の著者や訳者の方々の最近の御活躍

★森山大道さん(写真集:『新宿』『NOVEMBRE』『新宿+』『大阪+』『ハワイ』『にっぽん劇場』『何かへの旅』『オン・ザ・ロード』『カラー』)
講談社から写真集『Bye Bye Photography』が刊行されました。名作『写真よさようなら』(写真評論社、1972年)の改題新装版です。また、同社では、『にっぽん劇場写真帖』『狩人』『写真よさようなら』の完全復刻版『DAIDO BOX 森山大道完全復刻限定200セット』を11月20日に発売予定とのことで、この限定版の発刊に先駆けて、今週末に千駄ヶ谷のBibliothequeでトークイベントが行われます。

Bye Bye Photography
森山大道写真
講談社 2012年8月 本体3,000円 新書判並製367頁 ISBN978-4-06-217943-0
版元紹介文より:日本の写真集史上のメルクマール。写真とは何かをラディカルに突き進めた写真集。初版本に収められていた中平卓馬との対談も掲載。

◎『DAIDO BOX 森山大道完全復刻限定200セット』
1)『にっぽん劇場写真帖』室町書房、1968年・・・・森山大道デビュー写真集。言わずとしれた日本写真史上に燦然と輝く金字塔的存在。寺山修司の文章と森山大道の写真が溶け合い、ぶつかり合い、相乗的な効果を生んでいる。発表まもなく伝説となった幻の写真集。文・寺山修司。

2)『狩人』中央公論社、1972年・・・・『にっぽん劇場写真帖』以降、71年までに雑誌等で発表された作品を収めた写真集。名作"三沢の犬"を収録。写真という枠組みを超えて芸術分野においても特別な意味合いのある一冊。今日の写真文化、モダンアートを語る上でも必見。解説・横尾忠則。

3)『写真よさようなら』写真評論社、1972年・・・・「写真とは何か」という概念を極度にまで追い求め、結果として写真を解体し、写真と決別せざるを得なくなった森山大道の代表的写真集。この発表以降、しばらく写真が撮れなくなっていく。盟友・中平卓馬との対談を収録。

発行:講談社、2012年11月20日発売予定、定価126,000円(税込)
仕様:特製ボックス入、著者直筆サイン、エディションナンバー付。
特典:オリジナル六つ切プリント

ご予約締切:2012年9月28日
ご予約:電話受付:フリーダイヤル0120-29-9625(全日9:00~18:00)
    fax受付:0120-299-635(24時間受付)
    ホームページ:http://www.bookservice.jp/
お問合せ:講談社HUgE(ヒュージ)編集部 Tel:03-5395-4041 Fax:03-5395-3940

伝説の三作品が完全復刻で甦る! 『にっぽん劇場写真帖』『狩人』『写真よさようなら』の完全復刻版の限定製作・販売を企画。初版本に徹底的にこだわり、掲載作品、構成は勿論のこと、判型、装幀そして初版本が作製された当時の紙質、印刷まで可能な限り忠実に再現します。限定200セット。
※ご予約が限定数に満たない場合は刊行を取り止めさせていただくことがございます。あらかじめご了解のほどお願い申し上げます。


◎トークショー「今、"伝説"を語る

出演:写真家・森山大道×アートディレクター・町口覚×『HUgE』編集長・恩田良夫
日時:2012年9月22日(土)15:00~17:00(14:30開場)
場所:Bibliotheque(ビブリオテック:渋谷区千駄ヶ谷3-54-2)
参加費:1,800円(当日精算)
予約制:メール(biblio@superedition.co.jp)または電話(Tel.03-3408-9482)にて受付。
 ※メール受付:件名「森山×町口×恩田トーク」にてお名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。おって返信メールで予約完了をお知らせいたします。
 ※電話予約受付:火~土曜 12:00~20:00/日、祝日 12:00~19:00
 ※定員80名様
 ※お席確保ため、イベント1週間前から当日(9/15~9/22)のキャンセルは、キャンセル料(1,800円)が発生します。予めご了承ください。また定員に達し次第、キャンセル待ち番号のご案内となります。お席をご案内できる場合のみ、イベント前日午後5時まで随時ご連絡させていただきます。

写真家・森山大道氏の初期の三作品『にっぽん劇場写真帖』『狩人』『写真よさようなら』。今やほとんど市場に出ることなく伝説となったこれらの希少本が、この秋、完全復刻限定版となって登場予定! そこで森山大道氏、装幀を手掛ける町口覚氏、編集長・恩田良夫氏をお招きして、初版本製作当時の秘話や、完全復刻版の製作構想などについてお話を伺いながら、改めて三作品の魅力に迫ります。"伝説"が一足早く言葉になって甦るトークショー、ぜひご参加ください! 『DAIDO BOX 森山大道完全復刻限定200セット』(講談社)ライブ企画。Bibliotheque店頭、当イベントでも限定セットのご予約を受付いたします。


a0018105_20371133.jpg

★上村忠男さん(訳書:アガンベン『到来する共同体』、『アウシュヴィッツの残りのもの』共訳、同『涜神』共訳、スピヴァク『ポストコロニアル理性批判』共訳、パーチ『関係主義的現象学への道』編訳、スパヴェンタほか『ヘーゲル弁証法とイタリア哲学』編訳)
92年に平凡社から単行本が刊行された共訳書が文庫化されました。原著2006年の新版で追加された「まえがき」と「あとがき」が新たに訳出されています。

裁判官と歴史家
カルロ・ギンズブルグ著 上村忠男・堤康徳訳
ちくま学芸文庫 2012年9月 本体1,300円 文庫判並製288頁 ISBN978-4-480-09466-7

帯文より:闇に包まれた難事件を前に歴史家には何ができるのか。

カバー裏紹介文より:1972年、イタリア新左翼運動のさなかにミラーノでひとりの警視が殺害された。事件の黒幕として、16年後に告発されたのは著者の友人、アドリアーノ・ソフリであった。友人の無実を証明すべく立ち上がったギンズブルグが、裁判記録を丹念に読み解きながら、事件の経緯を臨場感あふれる筆致で描きだす。証言、証拠、記録―ともにこれらに向き合いながら、裁判官は、歴史家はそれぞれどういう態度をとるべきなのか。単なる実証主義でも、「歴史=物語」とする相対主義でもない、歴史学の「第三の道」を探りつづけるギンズブルグの方法論が、事件の検証を通して鮮やかに示される。

原書:Il guidice e lo storico, Feltrinelli, 2006.

目次:
新版へのまえがき
序文
1 窓から舞い落ちた死体――十六年後の告発
2 裁判官と歴史家
3 予審判事ロンバルディの報告
4 裁判長ミナーレの追及
5 殺害指示
6 歴史学的実験としての裁判
7 謎の十七日間
8 憲兵たちの証言
9 闇に包まれた夜の面談
10 ヴィンチェンツィ司祭の証言
11 いつ始まったのか
12 記録からもれた面談
13 マリーノの動揺
14 陰謀はあったのか
15 目撃証言
16 第三の説明
17 ミナーレ裁判長と異端裁判官
18 ふたたび裁判官と歴史家について
19 結論
後記
新版へのあとがき
年譜
訳者あとがき
ちくま学芸文庫版への訳者あとがき
原注


★ジャン=ジャック・ルソー(著書:ウェブ連載「化学教程」)
★中山元さん(訳書:ブランショ『書物の不在』)
これまで幾度となく翻訳されてきたルソー晩年の名著『孤独な散歩者の夢想』の新訳が刊行されました。巻末には80頁強におよぶ、中山元さんによる解説が付されています。同書は現在でも、今野一雄訳岩波文庫版、青柳瑞穂訳新潮文庫版などが入手可能です。また、白水社のシリーズ「白水iクラシックス」の「ルソー・コレクション」で、今月、最終巻となる佐々木康之訳『孤独』が刊行される予定です。

孤独な散歩者の夢想
ルソー著 永田千奈訳
光文社古典新訳文庫 2012年9月 本体990円 文庫判並製328頁 ISBN978-4-334-75257-6

帯文より:精神の自由な戯れ、理性と感性の狭間で浮かんでくるさまざまな想い。ここにはあの“偉人ルソー”はいない。迫害妄想に悩まされたのち訪れた平穏のなかで書かれた、ルソー最後の省察。

カバー裏紹介文より:晩年、孤独を強いられたルソーが、日々の散歩のなかで浮かび上がる想念や印象をもとに、自らの生涯を省みながら自己との対話を綴った10の“哲学エッセイ”。「思索」ではなく、「夢想」に身をゆだねたその真意は? 他作品との繋がりにも言及した中山元氏による詳細な解説が付く。
[PR]

by urag | 2012-09-20 20:26 | イベント告知 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 19日

「週刊読書人」「本が好き!Bookニュース」に書評

a0018105_1513543.jpg

「週刊読書人」2012年9月7日号に弊社6月刊、ジュディス・バトラー『権力の心的な生』の書評「権力理論の進化――フーコーの問題設定を一歩進める」が掲載されました。評者は武蔵大学教授の千田有紀さんです。「名探偵がパズルのピースをはめ込んでいくかのようなバトラーの手さばきにはやはり舌を巻かされた。そしてバトラーによる権力理論の深化を改めて感じさせられた」。「翻訳も読みやすく、素晴らしかった」と評していただきました。千田先生、ありがとうございました!

いっぽう、読書コミュニティサイト「本が好き!」のニュース欄では、弊社刊「叢書・エクリチュールの冒険」と、ジョルジョ・アガンベン『到来する共同体』(8月刊)の紹介記事「中身も装丁も超カッコいい哲学書シリーズ。エクリチュールの冒険」(前篇・後篇、2012年9月13日付)が掲載されました。評者は以前、ロドルフ・ガシェ『いまだない世界を求めて』(1月刊)の紹介記事「芸術作品の根源とは何なのか」(2012年2月16日付)を書いてくださったナガタさんです。

前篇「シリーズ「エクリチュールの冒険」を紹介」では、既刊書の造本について詳しくご紹介くださり、「この「エクリチュールの冒険」というシリーズは、つまるところ「超カッコいい」哲学書なのだ。もちろん、装いだけ着飾って中身が空疎というわけではない。書かれている内容も、極めてハードコアなものになっている。専門家はもちろん、背伸びをして「難しい本読んでるんだぜ」というポーズをしたい中高生にも自信を持ってオススメできる」と評していただきました。

後篇「『到来する共同体』の内容について紹介」では、アガンベンの共同体論を懇切に読み解き、現代思想の系譜だけでなく、樺山三英さんのSF作品『ゴースト・オブ・ユートピア』(早川書房、2012年6月)や、幾原邦彦さん(第一部、小説版)と中村明日美子さん(第二部、コミック版)の共作『ノケモノと花嫁』(インデックス・コミュニケーションズ、2009年~)との間のテーマの交差にも論及されています。ナガタさん、刺激的なご紹介をありがとうございました!
[PR]

by urag | 2012-09-19 14:15 | 広告・書評 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 18日

『盲目と洞察』取次搬入日決定と、10月以降の刊行予定

ポール・ド・マン『盲目と洞察』の取次搬入日は、日販、トーハン、大阪屋、栗田、太洋社、すべて明日19日となりました。書店店頭に並び始めるのは、最速で20日以降となります。本書は北海道から沖縄まで、全国の大型店舗を中心に、137店舗で販売されます。明細は、地域を指定してお尋ねいただければ、公開可能です。当エントリーのコメント欄やEメール等にて問い合わせをお待ちしております。

◎月曜社の今後の刊行予定

10月:森山大道写真集『モノクローム』
11月:人文書新刊
12月:音楽書「著作集」企画・・・今月末発売、月刊誌『ユリイカ』2012年10月号の弊社広告にて情報公開
[PR]

by urag | 2012-09-18 13:34 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 17日

注目の近刊・新刊:澤田哲生『メルロ=ポンティと病理の現象学』など

a0018105_3262410.jpg

メルロ=ポンティと病理の現象学
澤田哲生(さわだ・てつお:1979-)著
人文書院 2012年9月 本体3,800円 4-6判上製336頁 ISBN978-4-409-04103-1

帯文より:高次脳機能障害、幻影肢、ヒステリー、統合失調症、文学・政治の病的形象――メルロ=ポンティが論じた〈病〉の包括的検討を通し、思想の新たな地平を切り拓く、新鋭による豊潤な達成。

目次:
序論
序章 若きメルロ=ポンティと病的現象の発見
第一部 高次脳機能障害
第一章 『行動の構造』における病的現象の位相
第二章 症例シュナイダーと経験の平板化――失認とアナロジー障害
第三章 症例ベルクマンと色名健忘症
第二部 幻影肢
第一章 幻影肢現象――シャルコー・レルミット・メルロ=ポンティ
第二章 政治の病理学――サルトル情緒理論の受容
第三部 精神分析・精神病理学・文学
第一章 性・失声・身体――症例シュナイダーから失声現象へ
第二章 精神分裂病
第三章 ヒステリー――『受動性講義』における症例ドーラ
第四章 文学表現における病的現象――メルロ=ポンティとクロード・シモン
おわりに
あとがき
初出一覧/参照文献と略号/索引

★9月24日取次搬入となる新刊です。書店店頭に並び始めるのは25日以降かと思われます。著者の澤田さんは、『身体――内面性についての試論』(和田渡ほか訳、ナカニシヤ出版、2001年)などの著書があるフランスの現象学者マルク・リシール(Marc Richir, 1943-)のもとで博士論文「現象学と現象学的人間学における情動性の問題系」を提出した新鋭で、現在は日本学術振興会特別研究員、静岡大学非常勤講師でいらっしゃいます。本書は各学会誌に発表されてきた論考や各学会での発表原稿に大幅な加筆修正を施し、書き下ろしの序論と序章を加えて一冊としたものです。

★帯文にも使用されていますが、本書の末尾にはこう書かれています。「メルロ=ポンティの現象学は、哲学と医学領域という異なる学問形式が、ともに新たな展望を開く可能性を示唆している。彼は、病的な諸現象の分析を現象学の概念と図式の枠に無理に嵌めこむのでもなければ、これらの概念を放棄し医学領域の用語に傾倒したのでもない。彼の病的現象へのアプローチは、異なる研究領域が、互いに新たな展望と地平を開くことの重要性を私たちに教えてくれるのである」(299-300頁)。また、こうも書かれています。「病的現象の分析の裏には、身体、意識、時間、空間、等々の哲学的な知見を再考し、更新する可能性がつねに介在しているのである。これこそ、ビンスヴァンガー――そして今日では、マルク・リシールが〈現象学的人間学〉と呼ぶ企てに他ならない」(299頁)。

★澤田さんが言及されている日本での「現象学的人間学」の成果のひとつに、村上靖彦さんの『治癒の現象学』(講談社選書メチエ、2011年)があります。あるいは、松葉祥一『哲学的なものと政治的なもの――開かれた現象学のために』(青土社、2010年)や、木村敏さんの著作集(弘文社)なども貴重な論点を私たちにもたらしてくれるでしょう。

★フッサールやビンスワンガーの主要著作、メルロ=ポンティの著作の多くはみすず書房さんから刊行されています。特に同版元ではビンスワンガー『現象学的人間学』(みすず書房、1967年)や、同『うつ病と躁病――現象学的試論』(みすず書房、1972年;2001年新装版)、タトシアン『精神病の現象学』(みすず書房、1998年)、ドゥ・ヴァーレン『精神病』(みすず書房、1994年)、ブランケンブルク『自明性の喪失――分裂病の現象学』(みすず書房、1978年)、ハイデッガー『ツォリコーン・ゼミナール』(みすず書房、1997年)、ボイテンディク『人間と動物――比較心理学の視点から』(みすず書房、1970年)など、基本的文献が数多くあります。

★現象学の応用範囲は広く、その根幹にフッサールの一連の著作があるわけですが、特にフランスでのその展開は、リチャード・カーニーによる、リクール、レヴィナス、マルクーゼ、スタニスラス・ブルトン、デリダらとの対話本『現象学のデフォルマシオン』(現代企画室、1988年)や、ドミニク・ジャニコー『現代フランス現象学』(文化書房博文社、1994年)、ベルンハルト・ヴァルデンフェルス『フランスの現象学』(法政大学出版局、2009年)といった訳書が概観を与え、ディディエ・フランク『現象学を超えて』(萌書房、2003年)や、ミシェル・アンリ『現出の本質』(上下巻、法政大学出版局、2005年)が、成果の一端を教えてくれると思います。


ビジュアル版 中世ヨーロッパの戦い
フィリス・G・ジェスティス著 川野美也子訳
東洋書林 2012年9月 本体4,500円 四六倍判上製232頁 ISBN978-4-88721-804-8

版元紹介文より:王位継承、領地拡大、血塗られた戦い、聖戦……中世にはそのすべてがあった。本書では774年から1492年までヴァイキングや十字軍から、オスマントルコやヨーロッパ各国の王を扱うほか、特に関心の高い十字軍、百年戦争、ばら戦争、ヘイスティングの戦いなどは多く逸話を付した。さらに、同時代における世界の動向や出来事、戦争なども併記し、読者の複合的理解を図った。また、当時の武器や戦闘方法(石弓・騎馬隊・鉄砲・火薬・戦鑑・艦隊)についても詳述し、それらが歴史を開く上でどのような役割を担ったかについても述べている。 300点の図版によって戦闘の熱気と軍事的指導者たちの視覚化、巻末には陸・海・政治・戦争の4項からなる詳細年表を付した。

原書:The Timeline of medieval Warfare: the Ultimate Guide to Battle in the Middle Age, Amber Books, 2008.

目次:
第1章 中世初期の軍事
第2章 11世紀――拡大するヨーロッパ
第3章 12世紀――城砦と十字軍
第4章 13世紀――戦争の世紀
第5章 14世紀――歩兵の革命?
第6章 15世紀――変革の時代
エピローグ 中世の戦争の限界と遺産
訳者あとがき
索引
年表

★9月21日取次搬入となる新刊です。書店店頭に並び始めるのはおおよそ24日以降かと思われます。悲しいことですが、帯文にある「10世紀にわたって戦争文化は劇的な発展を遂げ、西洋社会を牽引していた」という教訓は、21世紀の今もなお生きているように思います。ヴィリリオはかつて、戦争や事故から「テクノロジーの歴史」を見なおすことによって必然的にその現在と未来における「結果」をも見通せることを私たちに教えてくれました。西欧中世においてほとんど絶え間なく、戦地を拡げつつ継起した様々な戦いが、こんにち歴史的領土問題として全世界で繰り返され、人間性と道徳の後退に反比例して最先端の技術革新と創造性が戦争につぎ込まれていくさまを、千年後に人類はどのように記述するでしょうか。人間と「文明」の野蛮な一面を本書は教えてくれます。


a0018105_327174.jpg

ソクラテスの弁明
プラトン著 納富信留訳
光文社古典新訳文庫 2012年9月 本体895円 文庫判並製224頁 ISBN978-4-334-75256-9

カバー裏紹介文より:ソクラテスの裁判とは何だったのか、ソクラテスの生と死は何だったのか。その真実を、プラトンは「哲学」として後世に伝える。私たち一人ひとりに、自分のあり方、生き方を問うているのである。

訳者あとがき(214頁)より:ソクラテスの生と死は、今でも強烈な個性をもって私たちに迫ってくる。しかし、彼は特別な人間ではない。ただ、真に人間であった。彼が示したのは、「知を愛し求める」あり方、つまり哲学者〔フィロソフォス〕であることが、人間として生きることだ、ということであった。私たち一人ひとりも、そんなソクラテスの言葉を聞きながら――プラトンが書き記した言葉を読みながら――人間として生きることを、学んでいくのであろう。

★発売済。中澤務訳『プロタゴラス』(2010年12月、立ち読みPDF)、渡辺邦夫訳『メノン』(2012年2月)に続く、光文社古典新訳文庫のプラトン新訳シリーズの第三弾です。ソクラテスは70歳の折に神々への「不敬」を問われ、若者を堕落させたとして裁判で死刑宣告をうけます。二千数百年も昔、当時もっとも先進的都市のひとつであったはずのアテナイで、ソクラテスは毒杯をあおって自死します。『ソクラテスの弁明』はソクラテスの弟子であるプラトンが、この「民主的裁判」と対峙した師を描いたものですが、裁判でのやりとりを列記した実録ではなく、師から受け継いだ哲学の出発点を描いたプラトンの創作であるとこんにちではみなされています。ただし過去には、「内容がどれだけ歴史的事実に即したものであるかは厳密には答えがたい問題である」が、「実際に行ったであろう弁明の趣旨をできるだけ忠実に記述したものであろう」(池田美恵「解説」301頁、新潮文庫版『ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン』2005年改版)と見る向きもありました。

★「なんといっても不条理なのは、私が彼ら〔告発者〕の名前も知らないし、言うことさえできないことです。ある喜劇詩人〔アリストファネス〕がいたことを除いてね。妬みや中傷を身にまとってあなた方を説き伏せてきた人たちは――自分たちも説得されて他の人々を説得しているのですが――皆まったく扱いにくい連中なのです。また、私はその誰一人この法廷に引っぱりだすこともできず、論駁することもできないので、いわば影と戦うように弁明し、誰も答えないまま論駁しなければならないからです」(20頁)。扇動的な告発者たちのいやらしい匿名性というのは、二千年前の話に思えませんね。

★『ソクラテスの弁明』の続篇となる、死刑判決から自死までの一カ月を描いた『クリトン』(法と正義をめぐる対話)と『パイドン』(末期の様子を回想する対話)もぜひ納富先生に新訳していただきたいですね。ちなみにこの三作は、先般言及した新潮文庫で全一冊『ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン』(田中美知太郎・池田美恵訳、新潮文庫、1968年;2005年)として読むことができます。三冊を一冊にまとめた文庫本にはかつて副島民雄訳注『ソクラテスの弁明・クリトン・パイドン』(講談社文庫、1972年)というのもありました。

★光文社古典新訳文庫の続刊予定に、リルケ『マルテの手記』(松永美穂訳)があがっていました。リルケは全集が河出書房新社さんから出ていましたが、現在は品切。ぜひ河出さんには文庫でリルケ全集を再刊していただけたらなあと妄想しています。


a0018105_3273474.jpg

現代思想 2012年10月臨時増刊号 柳田國男――『遠野物語』以前/以後
青土社 2012年9月 本体1,429円 A5判並製246頁 ISBN978-4-7917-1250-2

★発売済。目次詳細は書名のリンク先でご確認いただけます。本特集号は、今年7月に開催された柳田國男没後50周年記念シンポジウム「国際化の中の柳田國男――『遠野物語』以前/以後」を契機としたものかと思われます。柳田が蒐集した魅力的な説話集『遠野物語』(1910年)は、岩波文庫、角川ソフィア文庫、集英社文庫などで現在も読むことができます(写真は現在品切の新潮文庫版)。一番廉価なのは角川です。特集号巻頭に置かれた川村湊さんのテクスト「“平地人を戦慄せしめよ”――柳田國男の「野蛮の思考」」では『遠野物語』はこう評価されています。「文明と野蛮、文化と野生の対立や葛藤、抗争という二項対立的な思考の枠組み(…)。『遠野物語』は、そうした対立の図式のなかにおいて、野蛮であり、野生的であることに軸足をかけ、いわば“野蛮の思考”を「平地人」の平常な思想と常識のなかに投げ込み、衝撃と戦慄をもたらそうとした」(13頁)と。あるいは、川村さんのテクストに続く、詩人の日和聡子さんの「見守り続ける厳しい書」では、『遠野物語』を読む吉本隆明の『共同幻想論』の一節が引かれ、それへの戦慄が語られています。「せまくそしてつよい村落共同体のなかでの関係意識の問題(…)。共同性の意識といいかえてもよい。(…)個々の村民の〈幻想〉は共同性としてしか疎外されない。個々の幻想は共同性の幻想に〈憑く〉のである」(「憑人論」、『共同幻想論』、角川ソフィア文庫、1982年、76頁)。『共同幻想論』(1968年)は言うまでもなく全共闘世代のバイブルのひとつですが、『遠野物語』の影響力の息の長さを感じさせますね。特集号では『遠野物語』の英訳者ロナルド・A・ドーアさんの論考やシンポジウムでの発言を読むことができますが、日本人の感性とは異なる視点が表れていて、非常に興味深いです。
[PR]

by urag | 2012-09-17 23:27 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 11日

新規開店情報:月曜社の本を置いてくださる予定の本屋さん

2012年10月4日(木)プレオープン、5日(金)グランドオープン(増床リニューアル)
本の学校今井ブックセンター:600坪
鳥取県米子市新開2-3-11
帳合はT。弊社へのご発注は人文書と芸術書の主力商品。1995年1月、売場面積300坪で「本の学校」の実習店舗を兼ねてオープンして以来17年。このたび500坪に増床しリニューアルオープンとなります。今年三月にNPO法人となった「本の学校」の実習店舗としての役割は引き続き担うとのことです。取次の依頼書によれば「近年は読者ニーズが多様化しており、その傾向に対応するためには、新規店舗は開店当初から様々な銘柄の品揃えと冊数の拡充を図らねばならず、従来にも増して初期在庫の販売に時間を要する状況となっております」と。ただ、その問題は版元から取次への請求期日を平常よりずっと先延ばしにすれば解決できるものではないわけで、なんとも切ないです。
[PR]

by urag | 2012-09-11 15:02 | 販売情報 | Trackback | Comments(0)
2012年 09月 09日

注目新刊と近刊:『高校生でも読める「共産党宣言」』ほか

a0018105_1393291.jpg

高校生でも読める「共産党宣言」
カール・マルクス+フリードリヒ・エンゲルス著 北口裕康(きたぐち・ひろやす:1965-)訳
PARCO出版 2012年8月 本体1,200円 小B6変型判(172×112mm)並製192頁 ISBN978-4-89194-974-7

序文より:古今東西、名著と呼ばれるものは数多くある――だが、これほど世界を動かし、歴史の動向を左右した書物は他にないのではないか。(齋藤孝)

★発売済。訳者の北口さんは2009年にPARCO出版からプラトンの『ソクラテスの弁明 関西弁訳』を上梓された方で、システムデザイナーとして「株式会社一八八」を経営する実業家でもあります。共産党宣言は1991年のソ連解体以後、新訳や旧訳の再刊などが盛んで、93年に刊行され最近文庫化された金塚貞文訳『共産主義者宣言』をはじめ、直近の5年間には以下の通り刊行ラッシュが続いています。

2008年03月「コミュニスト宣言」三島憲一・鈴木直訳、『マルクス・コレクションII』所収、筑摩書房
2008年11月『彰考書院版 共産党宣言』幸徳秋水・堺利彦訳、アルファベータ
2008年12月『共産党宣言・共産主義の諸原理』水田洋訳、講談社学術文庫
2009年07月『共産党宣言(マルクス・フォー・ビギナー1)』村田陽一訳、大月書店
2009年09月『共産党宣言(まんがで読破シリーズ)』イースト・プレス
2010年07月『新訳 共産党宣言――初版ブルクハルト版(1848年)』的場昭弘訳、作品社
2012年07月『共産主義者宣言』金塚貞文訳、平凡社ライブラリー

「まんがで読破」は別格として、このほかにも『資本論』第一巻が、「マルクス・コレクション」や中山元訳(日経BPクラシックス)で刊行されていたり、マルクスを読み直すネグリのような思想家が注目を浴びたり、資本主義社会の歪みが大きくなればなるほど、マルクスは再召喚され続けるわけです。

★今回刊行された『高校生でも読める「共産党宣言」』は、これまでの新訳と違って、かなり大胆に意訳することによって、見事に宣言を現代に甦らせています。カヴァーにはドイツ語書名が刷られていますが、底本は1888年刊の英語版です。翻訳協力に名田丈夫さんのお名前があります。巻末の訳者あとがきで、本書の翻訳方針が以下のように明らかにされています。少し長くなりますが、大事な箇所なのでそのまま引用します。

「The bourgeoisie cannot exist without constantly revolutionizing the instruments of production, and thereby the relations of production, and with them the whole relations of society.という原文を直訳すれば、「ブルジョアジーは、生産の道具に、それによって生産関係に、それらとともに社会の関係全体に革命的な変化を与え続けていかない限り、存在することはできません。」というような文章になるかと思います。これはこれで普通の文章ですが、マルクスの思想を勉強・研究している人ならば、ここに出てくる〈生産関係〉という言葉は「生産過程において生産手段と労働力とがいやおうなしに結合される仕組み」をさす歴史的社会現象を説明するための中枢概念の一つであるということを理解した上で読むし、書き手の常識レベルもそこら辺にあると思います。しかし、一般の高校生が読むとなると、〈生産〉も〈関係〉も慣れ親しんだ普通の言葉なのに、それがくっついた〈生産関係〉という言葉の裏に、そんな深い概念があるとは思いもよらないことでしょう。なので〈生産関係〉は普通の日本語ではないと判断し、この本では〈「金持ち組」は自分たちが生き残るために、より効率的に、より大量に物をつくる方法を開発し、つねに新しいものにかえていかなければなりません。けれども、そのたびに、それにたずさわっている人々の上下関係や役割、ひいては世の中全体の枠組みは、猫の目のように代わらざるをえません。〉という訳をあてています。これは「正確な」訳ではありませんが「伝わる」訳になっていると思います。〈生産関係〉を〈それにたずさわっている人々の上下関係や役割〉と置き換えるのは全くもって不十分なのは分かっていますし、間違っているというご指摘を受けることも覚悟の上で、だいたい同じことを言っているのであれば読みやすくて理解しやすい文章の方がいいと思っています。「正確」を期するが故に読み難いのであれば、読者に大きなストレスがかかり、読み進めるのが辛くなったり、途中で読むのを諦めたりするような結果になるかもしれません」(185-187頁)。

★すでにたくさんの忠実な翻訳が出ている以上、さらに同じことを繰り返す必要はありません。むしろ、北口さんが試みられたような「こんにちの一般読者の常識」に寄り添った意訳があって然るべきで、長い歴史の中で手垢にまみれてしまって今や意味がほとんど曖昧な記号と化している言葉たちをいきいきとよみがえらせる作業はとても重要だと感じます。「金持ち組(ブルジョア)」「やとわれ組(プロレタリア)」「ひともうけ組(プチ・ブルジョア)」という思い切った訳など、学者にはできない相談でしょう。古えより翻訳が裏切りを伴うことが必然である以上、裏切り行為自体ではなく、いかに裏切るかがポイントなわけです。そんなわけで、本書はここ最近の類書の中でもっとも注目すべき挑戦だと言えるだろうと思います。


マスタースイッチ――「正しい独裁者」を模索するアメリカ
ティム・ウー(Tim Wu)著 坂村健監修・解説 斎藤栄一郎訳
飛鳥新社 2012年8月 本体2,500円 46判上製416頁 ISBN978-4-86410-186-8

版元紹介文より:なぜ日本ではネット時代の新たな「ホンダ」「ソニー」が生まれなくなったか? 米国メディア・情報産業の新陳代謝と成長の秘密。

解説より:スティーブ・ジョブズのような『正しい独裁者』を生むにはどうするべきかの制度設計。つまり「独占の良きコントロール法」で高度な議論をする段階に、米国は進んでいる。それが本書を読んで最もショックを受けた点である。(坂村健)

原書:The Master Switch: The Rise and Fall of Information Empires, Knopf, 2010.

★発売済。著者はコロンビア大学の法律学教授。坂村さんによる解説の紹介文を借りれば「本書は、情報通信・メディア産業の歴史を「独占と自由」という観点から描いた大著である。新しいメディアが誕生した時はオープンでも、品質が重視され体制が整う成熟過程で「有力者」が台頭し彼らが支配するようになる。そういう情報通信・メディア産業の歴史に繰り返し見られる「サイクル」。それが本書の主題だ。その支配力は、誰かがメディアというシステムのマスタースイッチ(主電源スイッチ)を握るようなもの――ということから、この題名が付けられた」(解説「「正しい独裁者」を生むための制度設計」373頁)。

★著者自身は「日本語版へのまえがき」で次のように紹介しています。本書では「小さな発明が、統合の進んだ巨大産業へと変わり、やがて次世代の新たな発明や政府の力で崩壊や破壊に追い込まれる様子がはっきりと描かれている。電話や映画、ケーブルテレビ、コンピュータ、インターネットの源流をたどると、どれも小さな会社が、巨大な独占やカルテルを倒して新しい時代を切り拓いている。日本のハイテク産業は「サイクル」が次の段階へと回転する時期を迎えている。次の段階は破壊的な局面だ。どうすれば創造的破壊が起こるのか。その仕組みを徹底的に理解することが、新たな未来を切り開く鍵となる。/『マスタースイッチ』をご覧になれば、その答えが発見できるはずだ」(8頁)。

★帯文には「日本衰退の原因が嫌になるほど分かる!」とあります。同じく「日本語版へのまえがき」で著者は次のように述べています。「日本は改めて自らの分権化の歴史に学ぶ必要があるのではないか。ところが、成功後の日本は巨大企業=中央集権化を全面的にお手本にし、それが行き過ぎてしまった観がある。そろそろ逆方向の発想も必要だ。もちろん、簡単なことではないが、いろいろな形で少しずつ変化の兆しも見え始めている。通信産業やメディア産業では、日本が今以上に開放的で分権化されたシステムに回帰することが大切だ。そうなれば、これまで埋もれていた発明家や起業家にもチャンスが訪れる」(8頁)。

★日本の「弱さ」については坂本さん自身も指摘しています。「法律の専門家である著者の主眼は「独占と自由」の問題なのだが、技術史の本としても、知らないエピソードもあり、結構面白く読めた〔…〕。〔中略〕本書は米国目線で書かれているので、電子式テレビジョンについては第10章のファーンズワース対RCAのツボルキンの争いのみが描かれ、1926年に電子式テレビジョンを世界で初めて実演した高柳健次郎には触れられていない。走査線40本のブラウン管にカタカナの「イ」を映し出したあの実験だ。技術史の本としては少し不満なところだが、独占と自由の議論においては日本は米国に太刀打ち出来ないのも事実。技術設計は進んでいても、それを社会に出すための法律など制度設計の議論に弱い日本――その不在において、本書は日本の問題も映しだしているのである」(378-380頁)。制度設計や諸々のアーキテクチャについての議論はこんにち日本でも盛んになっています。この国の一時代を担ってきたハイテク企業の没落のニュースが日々、私たちの未来に暗雲を投げかけている現在、本書が指摘するように「歴史に学ぶ」ことが急務である気がします。


ユースフとズライハ 
ジャーミー著 岡田恵美子訳
東洋文庫(平凡社) 2012年9月 本体2,900円 全書判上製320頁 ISBN978-4-582-80826-1

帯文より:抗いえぬ魅力をそなえた男に、絶世の美女なる人妻が激しい恋情を燃やす。拒まれてなお追いすがる恋物語の奥に、神秘主義詩人が示す美と愛の根源。ペルシア古典文学を総括する大輪の花!

版元紹介文より:旧約聖書ヨセフの物語として知られる話にイスラム神秘主義思想を織り込んだ絢爛たる恋物語。

★まもなく発売。アフマド・ジャーミー(1414-1492)は現在のアフガニスタン北西部にある古都ヘラート近郊のジャームに生まれた詩人であり、神秘主義者。訳者の岡田さんはこれまでにニザーミー『ホスローとシーリーン』東洋文庫、同『ライラとマジュヌーン』東洋文庫、フェルドウスィー『王書』岩波文庫、オマル・ハイヤーム『ルバーイヤート』平凡社ライブラリー、など、ペルシア古典文学の翻訳に大きな貢献を成されてきた著名な研究者です。巻末の訳者解説によれば、本書『ユースフとズライハ』は、ジャーミーが晩年に「毎年のように一篇ずつ書き上げ」ていった「神秘主義長編叙事詩の七部作「七つの王座」」の第五作で、ジャーミーが69歳の時の作品。旧約聖書「創世記」にあるヨセフ物語、そしてそれに基づいたコーランのユースフ物語が下敷きとなっています。「身分の高い夫をもつ夫人が秀麗な奴隷を誘惑する――一見通俗な戯れの恋物語と見える男女の話を、ジャーミーは神秘主義の観点からとりあげた」(307頁)とのことです。

★末尾近くの美しい一節をご紹介します。「「知恵は本の中にある。たとえ賢者が墓の中におろうとも」。/本とは孤独における親友、知恵の暁光。それは報酬も恩義も要求せず、いつでもお前に知識の道をひらいてくれる師。皮は隠してお前に真髄だけを馳走し、隠れた思想を無言のうちにお前に伝えてくれる腹心の友。バラの蕾のように花弁(頁)に満ちて、その一枚一枚は真珠を盛った皿。そして本は鮮やかな色のモロッコ革の駕籠のようなもの。その中にはバラ色の肌着をきて、頬に麝香の斑点(つけ黒子)をつけた美女が二百人、みな同じような顔で同じような服を着て向かいあい、互いにやさしく頬を寄せあっている。もしも誰かが彼女らの唇に指をあてれば、何千という珠玉を秘めた物語のために彼女らはやさしく口をひらく」(276-277頁)。

★東洋文庫の次回配本は10月、『新訳 ラーマーヤナ 3』です。
[PR]

by urag | 2012-09-09 13:09 | 本のコンシェルジュ | Trackback | Comments(0)